第8回 職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会 議事録

労働基準局安全衛生部化学物質対策課

日時

令和2年8月26日(水) 14:00~16:00

場所

労働委員会会館7階講堂
(東京都港区芝公園1-5-32)

議題

  1. (1)職場における化学物質等の管理のあり方について
  2. (2)その他

議事

○化学物質対策課長補佐 本日はお忙しいところ、お集まりいただきありがとうございます。定刻より少し早いのですが、皆様お集まりということなので、ただいまから、第8回職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会を開催いたします。本日、急遽、名古屋委員が欠席ということになっております。
はじめに事務局に異動がありましたので、簡単に紹介いたします。田中安全衛生部長です。成毛環境改善室長です。それでは、以降の議事進行は、城内座長、よろしくお願いいたします。
○城内座長 お暑い中、お集まりいただきありがとうございます。まず、事務局から、資料の確認と本日の議事の進め方について説明をお願いします。
○化学物質対策課長補佐 まず、はじめにお詫びいたします。今回、資料の完成が直前になってしまい、委員の皆様方に事前に資料を十分に御覧いただく時間が取れなかったことをお詫び申し上げます。
本日は、議事を3つ予定しております。議事次第に書いておりますが、まず1つ目は、前回、方向性として取りまとめていただいた情報伝達のあり方の中で、もう少し整理が必要ではないかという御指摘をいただいた一般消費者向けの製品の扱いについてです。2つ目は、前回からの続きの議論として事業場における化学物質等の管理・対策、3つ目は、今後の化学物質管理のあり方についてです。全体の議論の位置付けを整理するために資料1を用意しております。
資料1を御覧ください。左側にあるのは、もともとこの検討会を立ち上げたときに検討すべきということで整理したテーマです。情報伝達、事業場における対策、これは中小での対策も含めてということです。それから、国によるリスク評価、人材育成というテーマを設定して議論を進めようということになっていたかと思います。
1つ目の情報伝達については、前回までの御議論を踏まえ、方向性はまとめていただいたということですが、1つ残る課題として、本日、一般消費者向けの扱いについて御議論して整理いただければということです。
2つ目の事業場における対策については、前回御議論いただき、本日も中心的に御議論いただくテーマかと思っております。個別規制がなかなか遵守できていない中小への対策をどのようにするか、リスクアセスメントの実効性をどのように確保していくかという前回も御議論いただいたテーマ、それから、健康診断や作業環境管理を組み合わせた形での管理はどういうものが考えられるかということについて、前回、大分御議論いただきましたが、本日も御議論を深めていただければと思っております。それから、前回、提示した健診結果の長期的な保存をどのようにするのか、遅発性の疾病の把握をどのようにするのかという議論もテーマとしてありますが、こちらは本日ではなく、次回以降に御議論いただければと考えております。
それから、3つ目の個別規制と自主的な管理は、本日、中心として御議論いただきたいテーマの1つだと考えております。前回、委員の皆様方に御了解いただいたワーキンググループを設置して整理していくということになっておりますが、そこへの議論につながる形で、この検討会では大きな方向性について御議論いただければと考えております。それから、国によるリスク評価のあり方は、ワーキングで議論するという整理をいただいていると思います。最後の人材の確保等は、今、紹介した様々なテーマの中で、恐らく、関連して出てくるものだと考えておりますので、その議論を進める中で整理していくことができればいいのではないかと考えております。以上です。
○城内座長 時間が限られる中で、今日のテーマとしてこういうことを議論したいという提案が事務局からありました。皆様、これでよろしいでしょうか。
(異議なし)
○城内座長 ありがとうございました。それでは、そのように進めていきます。まず、マル1「化学物質等の危険有害性等の情報伝達について(一般消費者向けの製品の取扱いについて)」、事務局から資料の説明をお願いします。
○化学物質対策課長補佐 資料2を御覧ください。まず、1枚めくっていただき、1、2ページ続けてですが、今、労働安全衛生法において義務付けられている、ラベル表示・SDS交付の規定や解釈がどのようになっているかということを簡単にまとめております。労働安全衛生法第57条、労働安全衛生法第57条の2においては、一般消費者の製品について、ラベルは容器や包装の規制なので、「主として一般消費者の生活の用に供するための」容器や包装は対象にはなっていないということです。
「主として一般消費者の生活の用に供するための」とは何なのかということが、解釈として下の通達に書かれております。具体的には、医薬品、医薬部外品、化粧品、農薬、2つ飛びますけれども、食品が外れており、ウやエのように固体以外の状態にならず粉状にもならない、密閉された状態で外に出てくることのないような形で取り扱われる、ばく露する可能性がないものも外しているというのが、今の解釈です。
2ページです。SDSです。こちらも同様になっており、一般消費者の生活用の製品として外しているものが、医薬品類、農薬、ばく露する可能性のないものということで、今、規制の対象から外れているということです。
3ページです。今、説明したものを整理して論点化したものです。前回、まとめていただいた一般消費者向けの製品のラベル表示・SDS交付の方向性としては、一般消費者向けであっても、事業者が業務用として使うということで、ラベル表示・SDS交付を求められればしなければいけないということにしてはどうかということで、方向性としてまとめていただいております。
今、紹介したように一般消費者向け製品の解釈が部分的にしか出ておらず、下の表を御覧いただくと分かるかと思うのですが、業務用のみにしか使われないような原材料、B to Bしかないようなものは、明確に表示・通知義務にもなっているということははっきりすると思います。先ほど、対象から外している医薬品類、農薬、食品以外で、業務用でも一般用でも使われるようなもの、例えば、塗料、洗剤、剥離剤、消毒液、殺虫剤については、表示や通知の義務があるのかないのかということは、これまで通知などでも明確には示していない状況です。
販売方法として、直接販売もあるとは思いますが、店舗での販売、インターネットでの販売も行われております。それから、一番右で、こちらは完全に家庭用と思われるような、例えば、家庭用洗剤、消毒液についても業務用にはあまり用いられないとはいえ、一般消費者向けと業務用との線引きははっきり示しているものもないということで、今、この右の2つは取扱いが明確に示されていないのが現状です。
4ページです。こちらは御検討いただくに当たっての参考情報です。今、取り上げているような業務用の洗剤や業務用の消毒液で、実際にサービス業が中心になるとは思いますが、現場で危険有害性などを十分に承知しないまま使用して労働災害が起きている事例も、毎年、多々見られる状況ですので、こういう意味でも表示・通知をどういう範囲にしていくかという検討の材料にしていただければと思っております。
5ページです。以上を踏まえて、事務局から論点の案を示しております。方法としては大きく2つ、具体的には3つぐらい考えられます。1つ目は、前回、この検討会の場でまとめていただいた方針で、求めがあれば表示・SDS交付をすると義務付けてはどうか。ただ、課題として書いておりますが、まず、1つ目として、例えば、インターネット販売されているような製品は、ユーザーが購入したときに誰にSDSやラベルの表示をお願いすればいいのか、いろいろな所を経由して売っているようなもので、インターネット販売業者にそういう知見が全くないような場合は、なかなかうまく情報伝達がされないのではないかということが考えられるかと思います。2つ目として、ラベル表示が付いていないものを買った後にラベル表示を付けるのはなかなか難しいのではないかという、実効性の観点での課題があるのではないかということです。
2つ目の論点として示しているのは、先ほど、表で整理したように一般消費者が使うのか業務に使うのか。一般消費者向けとして売っていたとしても、業務に絶対使わないということが確実であるという線引きは、なかなか難しいのではないかということもあるので、表示・通知義務対象物質、危険有害性がある物質ということですが、その下限値を超えて含有する製品を販売するときは、それが一般消費者向けかどうかにかかわらず、ラベル表示・SDS交付を義務付けるという方法もあるのではないかということです。ただ、1つの課題としては、一般消費者が買うときもSDSが付いているというのは余りに過剰ではないかという御議論もあるかと思いますので、第3案として括弧内に書いておりますが、義務付けはラベル表示までにして、SDS交付は求めがあればやっていただくというやり方もあるのではないかということで選択肢として示しております。課題としては、一般消費者のものもカバーするのは、安衛法の範疇として広すぎるのではないかという御議論もあるかと思いますので、課題として書いております。
一番最後ですが、この方針がどうなるかにかかわらず、一般消費者向けの対策ということになると、一般消費者対応をしている消費者庁や経産省ということになると思いますが、そういう所と連携をうまく取っていくことも、線引きがきちんとできない以上必要なのではないかということで、論点として書いております。説明は以上です。
○城内座長 論点の整理をしていただきました。これについて、皆様から御意見をお伺いしたいと思います。いかがでしょうか。では、私から申し上げます。今、まとめていただいたことに対する補足です。実は以前にも申し上げたかもしれないのですが、例えば、欧州ではSDSはB to Bで交付することが決まっていますけれども、ラベルは流通で枠が掛かっているので、安全衛生法であろうが何であろうが関係ないというのが、欧州の枠組み法制度になっています。それは素晴らしいと思っていますが、残念ながら日本ではそういう立て付けではなくて、労働安全衛生法で言えば、一般消費者の所は除いて良いとなっているわけです。日本の一般消費者向けの法律については、GHSのラベルを導入するという法律はないので、一般消費者向けは抜けているのが現状です。
実は以前、一般消費者向けはといっても、例えば、日常生活用品を売っている所では店員が働いているので、それは労働者が扱うはずだから表示があるべきではないかという議論を少ししたことがあるのですが、それは駄目だということです。その理由は、今、御説明のあった資料2の1ページのエ「表示対象物が密閉された状態で取り扱われる」、つまり、工場の中で製品として密閉されると消費者製品なのだというお話だったです。
それは分からなくはないのですが、どこでそれを、それをと言うのは境界と言うか、どこで誰がそれを決めるのか。あと、例えば、引火性のものについては、消防法などもあり表示が付いているわけですが、毒物については付いていないなど、いろいろなことがあり、安衛法上は、一般消費者向けの製品はどうしても付かないのだという説明を受けたことがあります。
このままでは余り良くないだろうということで、事務局から提案が出されているのだと思います。どちらかというと、これも要求があったら付けるということなので、個人的にはそれで本当にいいのかなという気がするのですが、委員の皆さんから御意見をたくさん伺えればと思っております。よろしくお願いいたします。
○永松委員 日化協の永松です。まず、情報を事業者の方に提供するという視点です。1点、認識をしっかり確認する必要があると思うのは、一般消費財は、基本的に一般の方が取り扱っても、十分かどうかは別にして必要な注意事項は表示されていると思うのです。そういう状況の中で、業務用に使ったときに、なぜ、それが労災に行っているのか。そこのところはよく現場の状況を確認しないと、情報だけをどんどん与えても結局は、今、SDSやラベルの理解そのものもまだまだだという御意見がある中で、その点を踏まえていかないといけないということが1つです。
もう1つは、一般消費財を提供されている事業者から見たら、どこまでどうなのかということが全く想定が付かないと言うか、実際に自分の店舗で売られた後にどこで使われているかというのは分からないわけです。実際の業務上、現実的に対応が可能なもの、これが必要なものもあろうかと思いますが、それはどういう範囲だろうかということを議論していくことが重要かと思いました。以上、2点です。
○城内座長 ほかに何かございますか。
○中澤委員 分からないので、教えていただきたいことがあります。資料2のラベル表示、あるいは、次のSDSでも結構なのですが、一般消費者の生活の用に供するものについてはこの限りでないということで、それぞれ告示で示されています。例えば、1ページの平成27年8月3日基発0803第2号の所に医薬品と農薬と書かれています。これが定められた経緯は分かりますか。何が言いたいかというと、農薬取締法の農薬も一般的な感覚からいくと劇薬であるわけですし、そういう観点と、アの医薬品、医薬部外品及び化粧品は全く違った観点での除外の仕方になっているのではないかと思います。
それから、一般消費者向けのラベルやSDSという議論に水をさしてしまうかもしれませんが、どうしても一般的に考えたときに、例えば、資料2の4ページに、一般消費者向けの取扱いについての論点ということで、サービス業等の末端ユーザーにおいて発生している労働災害の例ということで、飲食店などが書かれています。右側に年間数十件と書いてありますが、そもそも数十件は問題視するような件数なのかどうか感覚的に分からないところがあります。何を申し上げたいかというと、もちろん安全衛生法は労働者を保護するための法律なので、一般消費者向けでラベル表示がないにしても、それを業務用として使うときには当然ということはよく分かるのですが、一般に、いわゆる消費者がそのままの形でラベル表示やSDSもない状況の中で、そもそも事故が起きていないものまでも、業務で使うときにはSDSやラベル表示が必要になってくるのだというところまで踏み込んでいくのがいいのかどうか、疑問に思っているところです。
もちろん、逆のケースとして、業務用に使われているものがホームセンターやインターネットで手軽に一般消費者が手に入る状況にある中で、SDSやラベル表示を広めていくことを否定するものではありません。日常生活の中で消費者が使うものまで、業務用として使う場合には義務を強化していくのは方向的に反対を向いているのではないかと思います。
○城内座長 ありがとうございました。事務局から、回答をお願いします。
○化学物質対策課長補佐 御質問がありましたので、事務局からお答えいたします。医薬品、農薬を除外したのは、実はこの制度が出来た当初からです。古くは昭和40何年というところなので、正確にそのときの議論を承知しているわけではありません。考え方としては、医薬品も農薬も別の法律で使うときのルールが決まっているということがあり、労働安全衛生法の中で、それに更に上乗せしてカバーすることはしないという整理をしたのではないかと考えています。
今、永松委員と中澤委員からございましたように、一般消費者向けの議論を進めるに当たって、余り誤解がある形で進まないようにしたほうがいいかと思いましたので、1点補足いたします。恐らく、今、普通に家庭で使う洗剤や消毒液について、安衛法のラベルやSDSの表示義務が掛かるような濃度で入っているものは、すごく限られるのではないかと思っており、線引きがないのでこういう書き方をしております。我々も統計的に調べたわけではなく、仮にラベルやSDSの表示義務に制限を掛けなかったとしても、今、日常で家で使っているものについて、義務が全部掛かってくる危険有害性のあるものが出回っているとは、我々としても考えにくいかと思っております。主として業務用の洗剤などは、大体、高い濃度で入っているということで、恐らく、引っ掛かってくるのだと思います。そういう理解の下で御議論いただいたほうが、議論が変な方向に向かないのかと考えております。
○城内座長 表示に関してはGHSに基づきましょうとなっているので、GHSからもお話をさせていただきます。事務局が言ったこととも重なるのですが、例えば、医薬品や農薬は別の法律がありGHSではやらないということになっておりますので、それは外れていくと思います。
今、事務局からの話がありましたが、ここの数十件は、上に書いてあるように労働災害の例なので、多分、これは休業4日以上を集めたものなのでしょうか。消費者製品の事故を報告しているサイトを見ると毎年とんでもない数が報告されておりますので、それが安衛法の毒物と重なるかどうかは別として、消費者製品についてもかなり事故があるというのは客観的なデータとしてあるようです。
あと、永松委員からあった注意書きがたくさん書いてあるのではないかということについて、実際そうで、消費者製品の注意書きはPL法施行以降もたくさん書いています。ただ、GHSをやってきた側からして、GHSで整理するともっと簡単に分かりやすくなるのではないかという意見です。もちろん、業界で開発してきた分かりやすい文言などもありますので、そういう整合性を見てやっていけばいいかと思っております。
あと、繰り返しになりますが、消費者製品にどれだけ危ないものがあるのかについて、実は少し調査したことがあります。事務局から話があったように、それほどないのです。例えば、急性毒性や発がん性についてGHSのラベルが付くことはほとんどありません。それは日本の製造メーカーや事業所が、長い年月を掛けて危なくないものを使うということで製品開発をしてきたお陰だと思います。それほどはないです。あるとすると、漂白剤、塩素が入っている環境有害性、あと、手荒れなど、そういうものが主になるかと思っています。そういうことも踏まえて御議論いただければと思っております。よろしくお願いいたします。
○永松委員 先ほど、業務用洗剤のお話が出ましたが、私どもでも確認したところ、業務用の洗浄剤の団体である食洗協では、既に自主的に取り組まれておられて、ラベル表示とSDSの開示をしているということです。その取組については、既に食洗協のホームページにも記載がなされております。関係する会社の中では、全製品について公開している会社もあります。いわゆる、業務用洗剤ということで、用途がはっきり見えているものについては自主的に取り組まれていると感じております。
○城内座長 ありがとうございました。ほかに何かございますか。
○明石委員 事業者として、ここに書かれている御提案は、どうしても全体的に課題のような気がします。先ほど御説明があったように、まず、誰に責任があるのかをはっきりしてもらわないと、川上から川下まで全事業者に責任があると言われると、とてもお受けすることができないことになります。
それから、ここに書かれている労働災害の例は、不安全行動と言うか、使用を間違ったものがほとんどのような気がします。労災は事業者にとって無過失責任なので、それは事業者が全て責任を負うものではないと思いますので、ここにこういう例を挙げられて全て表示をしないといけないというのはちょっと限界があるような気がします。
3ページに、「前回とりまとめた方向性」ということで、販売元に交付を求めるということが書かれています。とても販売元では無理なのではないかと思いますし、下に分かれている3段のうちの一番左は我々も通常から付き合いがあるのでできると思うのですが、一般用を業務用に転用しても何の問題もないのではないかと思っており、ここまで必要なのかという疑問を少し持っております。
○城内座長 ありがとうございました。ほかに何かございますか。
○高橋委員 理想の話になるので、作った企業にどれだけの責任があるということではありません。化学薬品を消費者が使って化学やけどなり、薬傷なりのけがを負うということが実際にあるとすれば、例えば、SDSを発行するまではないとしても、ラベルが表示してあれば、ラベルの一般消費者への普及にもつながるのではないかという気がします。それが化学薬品に対する国民の知識のベースの1つにもなるのではないかと思いますので、理想的にはそういうものを付けたほうがいいのではないかとおもいます。
○城内座長 ありがとうございました。そのほかに何かございますか。よろしいでしょうか。事務局から、補足はありますか。
○化学物質対策課長補佐 ございません。
○城内座長 分かりました。では、今、御意見をいただきましたので、次回までに更に整理をお願いしたいと思います。
続いて、マル2事業場における化学物質等の管理・対策について(作業環境管理、作業管理及び健康管理の関係について)の議論に進みます。事務局から、資料の説明をお願いします。
○化学物質対策課長補佐 資料3を御覧いただければと思います。前回の議論の中で、作業環境管理が良好に行われている場合の健康診断を、もう少し軽減するような仕組みを検討してはどうかといった議論をさせていただいたところですが、もう少しその議論を深めるために、少し基本的なところから含めて資料を作らせていただいております。まず1ページです。これはもう皆様、御承知のことかと思いますが、労働者の健康障害防止ということで「作業環境管理」「作業管理」「健康管理」の3つの管理を組み合わせて取組を進めるというのが基本となっており、「作業環境管理」としては、作業を行う場所を良好に保つということですし、作業管理そのものは、ばく露の軽減をする作業方法とか、保護具の使用も含めての対策で、最終的に健康に影響が出ていないかということで、健康管理をするという形で対策が進められているということです。
2ページは、2つ議論を分けさせていただいておりますが、まずこの3管理の中で、「作業管理」と「作業環境管理」の中で生じている課題について、御議論いただければということです。作業環境管理の原則としては、作業場の有害物の濃度を健康に影響が生じないレベルで維持するということだと思いますが、「一方で」という所に書かせていただいているように、例えば発散源の密閉化等の発散抑制措置というのが難しい場合、空気中に有害物が存在する濃度を低く保つことが難しいということで、第三管理区分が続いている場合です。これが技術的に難しいということになれば、ばく露を防ぐためには保護具を使わざるを得ないということだと思いますが、その厳格な管理とか使用、若しくはばく露を減らすのであれば、作業時間を短縮するとか、こういった対策を取らないとばく露が防げないのではないかというのが1つです。
もう1つは、皮膚とか眼から障害が出る、吸収して健康に影響が出るといった物質もたくさんありますが、こういったものは気中濃度とは関係なく、かつ発散源からの隔離が難しい場合は、やはり、きちんと保護具を使うということが大事になってくるだろうということがありますので、単純に作業環境管理だけで防げない場合の対策ということで、論点として4つほど示させていただいております。実態として、第三管理区分が続くのを克服できないものというのは、具体的にどういうものがあるのかということを踏まえて議論を進めていただく必要があるかなというのが1つ目です。2つ目ですが、こういった作業環境管理の原則が守れないという場合、代わりにどういったばく露防止措置を求めていく必要があるのかというのが2つ目です。
3つ目は先ほどのとかぶりますが、直接接触による有害性がある物質、皮膚から吸収するとかというものですけれども、こういった場合の適切な保護具の選択、管理、使用をきちんと担保していく必要があるということです。その場合どういう仕組みが必要なのかということで、こういった管理を支える専門家について、どういった専門家の方々が必要なのかといったことを議論いただいてはどうかというのが1つ目の御提案です。
3ページからは、もう1つのテーマである作業環境管理と健康管理の関係についてということです。まず大前提として、今申し上げたように作業環境管理の基本は、そこの場所で作業をしても健康への影響が生じないという程度の環境に保つということですので、理論的に言うと第一管理区分がずっと続いている事業所で、皮膚からの吸収とかで健康障害が起きないような物質であれば、基本的にはほとんど全ての労働者で健康障害は発生しないのではないか。これは理論的にということです。一方で、今の規制ということでは第一管理区分が幾ら続いていたとしても、常時化学物質を扱う場合は健康診断の実施が義務付けられているということですので、直接接触の影響があるものを除いては、言わばダブルチェックのような意味合いがあるのではないかということです。
下に書かせていただいているのは、御議論の参考として、今、有機溶剤中毒予防規則においては、健診について緩和措置があり、過去3年間で新たな有所見者がいないという場合は、所長の許可を受けて健診を行わないということが制度として認められているというものがあります。これは御参考にしていただければと思います。
4ページです。こういったことを踏まえて、前回も少し御議論いただきましたが、作業環境管理と健康管理の連携で、そのリスクに応じて対策を取るというリスクアセスメントの考え方も踏まえながら、こういうことについて検討してはどうかという御提案です。まず、管理1が続いている場合も健康診断を求めるという今の仕組みについて、メリットとデメリットはどういうものがあるのだろうかということですが、メリットとしては当然、セーフティネットとしての確実性が上がりますし、例えば測定が不適切に行われていたという場合の健康への影響を見ることができるという効果もあると思いますし、今は扱っていなくても過去に高濃度でばく露した影響というのも見られるだろうと。
一方デメリットとしては、化学的に言えばばく露するリスクがないものについても、健康診断を求めていくというものについては、場合によっては必要以上の措置を求めるということにもなるのではないかと。欧州とか米国の健康診断の仕組みを見ても、リスクに応じた健康診断ということになっておりますので、国際的に見ても過剰な措置となっている面があるのではないかということです。
2つ目の論点として具体的に書かせていただいておりますが、直接接触の影響がある物質以外についての話ですけれども、作業環境管理が適切に行われていて管理濃度以下に維持されているという場合は、健康診断の実施を免除したり頻度を少なくするということが考えられるのではないか。具体的には、もしこういった仕組みを考えていくということであれば、有機則のようなものも踏まえながらどういった条件を導入の条件とするのか。それから、健診を緩和するとすればどこまで緩和できるのか、具体的に緩和した場合、どういうことが問題になるのか。それから、こういった仕組みというのは作業環境を良好に保とうというインセンティブにもなるのではないかといったことが論点として考えられるのかなと。
次に、4ページに行きますが、実際にこういう仕組みを導入するとなったときの担保措置として、例えば行政による許可制にするとか、高度な専門知識を持つ方が判断するとか、何らかの担保措置が要るのではないかということです。その中で、例えば産業医の位置付けをどうするのかとか、衛生委員会の位置付けをどうするのかなど、こういったことも議論の必要があるかなということで、論点として書かせていただいております。その下ですが、仮に緩和の仕組みを入れるということになると、一旦認めてあとは放置というわけにもいかないと思いますので、定期的な確認とかモニタリングというものも必要なのではないかということで、論点として挙げさせていただいております。
最後に、5ページの(2)に書かせていただいておりますが、これは前回の検討会で御意見が出ておりましたけれども、作業環境管理と健康管理の連携という意味では、健康診断において異常所見の有無というのを適切に判断することができるように、健診の実施機関が作業環境測定結果を把握した上で、判断するということが必要なのではないかということです。一応、下に例として挙げられている通達にもあるように、今のいわゆる特別規則に基づく健診については、作業条件の簡易な調査というものが項目として挙がっており、その中で有害物質の濃度に関する情報についても医師が聴取するということになっておりますので、これも議論の参考にしていただければと思います。御説明は以上です。
○城内座長 大きく2つのテーマを提示していただきましたので、1つずつ、最初のテーマから議論していただきたいと思います。資料3の3ページ、作業管理と作業環境管理についてということで、特に保護具についての御説明がありましたが、ここに何か御意見を頂ければと思います。よろしくお願いいたします。永松委員、お願いいたします。
○永松委員 保護具というのが技術的な、設備的な対応が難しい場合に必要であるということ、それはそのとおりかと思うのですが、一方で適切な保護具を使うためには、保護具の開発の進捗、あるいは商品化されたものが適切に使えるかどうかという情報は、まだまだ不足している部分が多いと思うのです。ガスについては吸収缶とか、かなり特定された技術がありますし、ある意味有害性のあるガスを取り扱うという点においてはリスクも高いので、保護具を使うという点や排気をするという点は、事業者としても意識が高いと思うのですが、これまでオルト-トルイジンの例を見ましても、やはり溶剤を取り扱う上での適切な保護具は何なのかという点において、1つは手袋については不足の点があると思うのです。
ちょっと話が先ほどの1番目に戻りますが、一般的に化学物質を取り扱う事業所において、日化協の会員の事業所では保護のために、作業服は着ておりますし、手袋は当然やるわけです。あるいは保護眼鏡とか、今、市中でもフェイスマスクをやっておりますが、ああいうものをもって化学物質を取り扱うというのは、常識的な対策なのです。それを踏まえて、先ほどの議論の所に関連するのですが、通常使える保護具を取り扱えていれば眼に入るとか、皮膚に付くとかということはゼロとは申しませんが、かなり防げるはずなのです。まずそういう保護具をきちんと取り扱うという意識なり、しっかり使用することが安全のための大前提かなと思っております。
あと、保護具の中で手袋です。これは厚労省からも通達が出ており、保護着用管理者の責任者の指名とか、あるいは手袋の取扱い等について通達が出ているわけですが、実際には化学物質は、いろいろな化学的あるいは物理的な特徴がありますので、一般的には樹脂による手袋が多いわけですけれども、万能な完全な手袋は1つもないわけです。必ず浸透していきます。例えば、これまでの経験上あるいはメーカーからのデータ上、安全のためにこの材質の手袋を使って、使用条件はこのようにやろうということをやっている所は多いと思うのですが、実はそこら辺りの技術情報もまだまだ十分ではありません。したがって、これを進めていく上では、化学防護手袋についての技術的なデータの蓄積と、それに基づく適切な使用方法の何らかのガイダンス的なもの等を充実させていくことを進めていくところがないと、大変なポイントになろうかと思うのです。これは私どもの会員さんでは、どこの方も悩んでおられるところですし、ここは是非この施策を進める上では重要なことではないかなと思っております。以上です。
○城内座長 そのほか、御意見等はございますか。漆原委員、お願いいたします。
○漆原委員 正に今の意見に近いのですが、労使共に、化学物質を扱っている作業という意識がどの程度持っているかにも関係するのだと思います。防護眼鏡などの防護具をきちんとつけておけば、眼に入るとかというのは防げるわけです。ただ、そういう環境が整っていない企業も当然あろうかと思います。化学物質を扱うという認識を持つこと、またそうした情報の伝達や周知、あるいは教育がまずあった上で、防護具の使用の話になってくると思います。また、手袋を二重にしている現場もありますし、今後、行政として保護具の開発を支援していくのだとは思いますが、複数の対策をセットで進めていく必要があると思っています。
この第一管理区分の健康診断についての提起ですが、適正な管理が十分にできている事業場では、健康診断を緩和する枠組みの検討も必要になってくる場合もあると思います。一方で、緩和した後のことについても検討は必要です。例えば、緩和するということは、有所見者あるいは異常所見が出たかどうかのチェックを延ばしてしまうことになり、異常があったとしてもその事実を知りうるタイミングも延びてしまうわけなので、その兼ね合いをどう考えるのか。さらに、仮に有所見者が出たときには、緩和を元に戻すのか、ということについても併せて検討する必要があるのではないかなと思っています。
○城内座長 そのほか、御意見等はございますか。宮腰委員、お願いいたします。
○宮腰委員 私も現場で作業をしていた経験がありますので、その経験からちょっとお話させていただくと、先ほど言われていた手袋というのは、やはりかなり不安視していました。そもそも新しい製品を作るときというのは、その薬剤を使ったときの手袋の状態が分からないので、必ずテストをしながら、そのテストとは手を入れてみてどれだけ浸透するかみるというテストですが、そうやって使える手袋かどうかの判断をしていました。なので、やはりそういう部分は、どこまで使えるのかどうか、きちんとした情報、実験のデータに基づく情報というのをきちんと知らせていただけるのが理想です。前回も言わせてもらったナノ物質の防護マスクについては、ナノ物質もきちんと吸収されるという話を伺いましたが、そうした情報は全体的にまだ浸透されていないと感じますので、きちんと挙げていただきたいというのが私からの考えです。
○城内座長 大前委員、お願いいたします。
○大前委員 手袋の件があったので、それなりの情報は既にあると思います。この物質に関してはこの手袋を使ったほうがいい、あるいは駄目だという、そういう情報はある程度はあるので、それをSDSに書くということで、情報はある程度伝わるのではないかと思います。防じんマスクについても、先ほどおっしゃったナノのほうは、今使っている防じん性能があれば大丈夫だということは分かっているので、保護具に関してはそれなりの情報はあると思います。だから、それをどうやって伝えるかということが、例えばSDSに載せるとか、そういうことをやっていただければある程度いけるのではないかと思います。
それから、分からない物質、これから扱う物質に関してどの手袋がいいかは、当然ですが分からないので、これはやはり新しい物質を扱う所で実験する必要があるのですけれども、今はそれに関してもどのように簡易的にチェックするかというような方法も開発されつつあると思うので、しばらくすればレポートが出てくるのではないかと思います。
それから、この中で作業管理区分一にするのに困難な理由というテーマがありますが、1つは、蒸気圧が高いのは非常に難しいと思います。有気溶剤等で蒸気圧が高いのは、ほとんど無理に近いですよね。粉体に関しては、粉体そのものを作業環境管理でコントロールするのは非常に難しいと思います。だから、これは管理濃度が高くても低くても、やはりどうしても保護具に頼らざるを得ないのではないかと思います。
○城内座長 そのほか、御意見等はございますか。事務局からの説明で、2ページの一番最後にある新たな管理の仕組みを支える専門家の確保・育成というこの専門家はつまり、作業管理に関わる専門家という意味での専門家ですか。例えば、手袋とかマスクとか。
○化学物質対策課長補佐 恐らくこの新しい仕組みを入れていくということになると、ばく露の状況がどういう状況になっているのか、単に作業環境測定の結果がどうだとかではなくて、その場の環境全体を評価することが必要になってくるのだと思いますので、そういうことができる専門家というイメージです。
○城内座長 それは、現状の専門家の延長線上ではないだろうと、新しく必要だろうという意味でしょうか。
○化学物質対策課長補佐 今いる専門家にどういう能力を付けさせていくかという議論もあると思いますし、はじめの頃から出ているハイジニストのような方も海外ではいらっしゃいますが、そういう人を育てていくべきかというどちらの議論もあり得ると思います。
○城内座長 この点については、委員の皆さんは御意見はございますか。
○永松委員 特に化学品を取り扱うための保護具、マスクにしても手袋にしても、その選定というのは非常に重要です。そういうものの知識を持った組織なり、人は重要だと思います。例えば、日本保安品協会があるのですが、そこのホームページを見ますと、ヘルメットなどが出て選択ができます。手袋で言えば、化学防護手袋を含めて6種が紹介されていますが、化学防護手袋の詳細な情報は出ていないのです。これは化学防護手袋に技術情報が不足しているためで、やはりメーカーさんにも引き続き是非協力もいただきたい。化学品の取扱うための安全の専門家が化学防護手袋の全てを知ることはできないので、ガイダンス、すなわちこういうものについてはこういうところで調べて、これを基準にしてこうしなさいという専門の方が必要ではないかと思います。手袋についても、マスクについても、全ての専門家というのはなかなか難しいと思いますので、それぞれの専門家と、それぞれの保護具に関わる、より深くて規格化できるような技術を作っていくような、組織なりプラットホームなりの仕組みの、2つのものが必要ではないかと思います。
○城内座長 ありがとうございました。そのほか作業管理と作業環境管理というテーマで、御意見はありますか。
○三柴委員 法制度が専門なので、そうした観点からの発言になるのですが、産業に関わる化学の専門家の先生方のお話を伺っていて思うのは、やはり理想的にはきちんと3ステップアプローチを徹底するということ。化学物質というのは、リスクがよく分からないものも多いわけですから、また万全な対策というものもあるようでないようなので、手順を踏んで多チャンネルで対応する、どれかが引っ掛かるようにするためには、3ステップアプローチなり、今の予防原則をまず試していくということを進めないといけない。それは企業規模を問わずなのだろうと思いますが、ちょっとラジカルなことを言うと、それを法制度を使って徹底するとすると、今のように危ない所にバランスの取れた対策を求めるというやり方ではなく、極論、思い切り規制を強化して、ヨーロッパあるいはそれ以上に、基本的な対策は、まず課してしまう。リスクに応じてでもいいと思いますが、全部課してしまう。そこを免除されたければ、やらなくていいよということであれば、むしろ事業場の側が危なくないのだということを証明する。その証明のツールとして専門家を使う。ですから、専門家の使い方というのは規制が掛かっていないところ、あるいは規制が緩いところで危ないところを探すためではなく、逆に規制が掛かっているところを緩めるために専門家を使うというような、そういう発想を取らないと恐らくドライブがかからないのではないかと思うのです。ですが、それが労使で簡単に合意できるとは思えないので、であれば現状の今600何物質でしたか、そこは基本的対策が掛かっているので、これを少しずつ増やしていくということで、いつかそういうスタイルに近付けていくということでしかないのかなと思いました。それができると、作業環境管理から健康管理に関わる問題にも通じてくるかなと思いました。すみません、長くなりました。
○城内座長 ありがとうございました。そのほか御意見はありませんか。私から質問をさせていただきたいのですが、先ほどの情報の伝達にも関わりますが、日本では義務が掛かっている物質が今673です。それは、この作業環境管理、作業管理、情報伝達のみんなに関わってくると思います。その物質の決め方というのは、行政としてはどんどん義務が掛かるものが増えていく方向だろうということなのか、リスクの所で議論しなくてはいけないテーマかもしれませんが、自主的な方向でいってもいけるということなのか。今後の課題だとは思いますが、いかがでしょうか。
○化学物質対策課長補佐 情報伝達という意味では、前回までここで御議論いただいたように、情報伝達する対象物質を増やしていこうというのは、GHSそのものの精神でもあると思いますので、そういうことだろうと思います。
もう1つの御質問は、正に3つ目のテーマでもあるわけですが、そういったものを全て個別に何か対策を求めていくというのは、難しいだろうというのが基本的な立場なので、自主的な管理をどうやって、きちんとやっていっていただくかということなのではないかなと思っています。
○城内座長 ありがとうございます。
○大前委員 労働現場というのは、保護具が一切なしで仕事ができるというものが最も理想的な現場なのですが、そのような考え方でずっと今までやってきていると思うのです。できるだけ保護具を使わなくてもよくしようと、そのためには作業環境をよくすればいいだろうという発想でずっとやってきていると思うのです。その辺りの呪縛を少し逃れて、作業環境管理と作業管理、作業管理というのはばく露管理だと思います。そのばく露管理をメインにして、作業環境管理が少し比重を低くして、そういう考え方でやらないと、これから管理濃度がどんどん低くなったり、そういうことに対応できなくなってくると思うのです。その辺りの考え方の転換を、やはり考えたほうがいいのではないか。あくまでもばく露管理が重要、要するに作業管理のほうがメインだというような考え方にしたほうがいいのではないかと私は思っています。
○城内座長 今の論点で、ほかに御意見はありませんか。
○永松委員 ちょっと繰り返しになってしまうかもしれませんが、いわゆるばく露管理という上で、例えば容器から蒸発して濃度が上がることを防ぐ、粉じんを外に出すなどがありますが、やはり一番ばく露として高いのは直接それに触れるところだと思います。先ほど申し上げた手袋、あるいは保護具、作業服などで、経皮や目に入るなど、今、労働災害が起こっているので、まだまだそこのところの対応ができていないのが多いのではないかと。逆に言いますと、これは技術的にもコスト的にも多少は掛かりますが、防護上大変大きなことではないと思います。そこのところは、行政的にも是非徹底するような政策を図っていただければいいかなと思います。
○城内座長 ありがとうございました。
○化学物質対策課長補佐 今、永松委員がおっしゃったように、第1回から最近起こっている災害の特徴などをお示しさせていただいているとおり、保護具があれば防げる災害が実はすごく多いというのはおっしゃるとおりです。ただ、はじめの情報伝達の話にもありましたが、そういう保護具を付けなければいけない物質なのかどうかという情報が、まず正確に伝わるかどうか。これは労働者に対してもということだと思いますが、そこがまず基本にあると思います。それから何度もお話いただいているように、保護具、特に手袋などの性能評価をどうしていくか、どのように選ぶか、どういうものがどういう物質に合っているか、こういう情報はまだまだ蓄積が足りないと思います。我々の研究所でも進めていただいていますが、単に皮ふに触れたら影響があるというだけではなく、どういう程度の影響があるのかといった知見も今後ためていく必要があるかなと思っています。そういったことを組み合わせて進めていくことで、大分防げる災害は多いのではないかと考えています。
○永松委員 是非、進めていただきたいと思います。1点、例えば大きな化学工場では、取り扱っている物質はいろいろあります。ですが、そこで与えている保護具というのは、基本的なものは全て一緒なわけです。例えばメタノールしか扱っていない所と、トルエンしか扱っていない所で、作業服が違うかといったら、そういうことはないわけです。またさらに、そこでのリスクに応じたものを用意するということは非常に重要です。いわゆる食品業界で何かを洗浄中にかかってしまうなど、そういうところにおいてもやはり保護眼鏡などをするということを、常識化すると言いますか、そういうことが一般的に最低限のレベルを維持するということが、非常に重要かなと思いました。たくさん申し上げて申し訳ありません。
○城内座長 そのほかに御意見はよろしいでしょうか。基本的なコンセンサスは、できてきたかなと思いますが、あとはバランスを最終的にどうとるかという問題だと思います。どうもありがとうございました。
それでは、次の作業環境管理と健康管理、先ほど漆原委員からも少しお話がありましたが、このテーマについて皆さんから御意見を頂ければと思いますが、いかがでしょうか。
○漆原委員 5ページに、ここではハイジニスト等となっていますが、外部の専門家の確認を義務付けた場合の、専門家の責任なり責務のあり方を、どの程度に設定するのかということも、考える必要があります。産業医のように中立性を保つということも当然出てくると思いますし、また、何か問題が発生したときに、事業主への勧告権はあるのか。当然、そうした責任の重さによって専門家を活用する費用も高くなってくる。そして、費用が高くなれば、中小零細企業では活用することが難しくなるということも起こり得るので、どのようなレベルの専門家にどのような業務をお願いし、その責任はどの程度かというところが、今後検討する上でも、重要な内容になってくると思います。以上です。
○城内座長 どうもありがとうございます。
○永松委員 これは質問になるかもしれないのですが、いわゆる作業管理として、第1、第2、第3とリスクの上で分かれていますが、例えばこれまで第3区分で10年ぐらいやってこられた方がいて、次に第1に移っていったときに、緩和措置という作業員の作業環境の履歴に応じてということは何か必要ではないかと思いますが、その辺りはどのようにお考えなのかと思います。
○化学物質対策課長補佐 そこは、場合があるかなと思っています。急性の影響しかないような物質というのは、過去のところまでは見なくていいかなと思います。後で影響が出てくるようなものは、過去のばく露歴というのはおっしゃるように非常に大事な情報になると思いますので、そこも含めての判断は必要になるかと思います。例えば、始めてからずっと管理1であれば問題ないですが、昨年までやっていた仕事は管理3だったということであれば、そこは緩和はするべきではないという判断もあり得ると思います。
○明石委員 すみません、2点申し上げたいと思います。まず、5ページで2つあるのですが、最後の所で「特殊健康診断の実施機関に作業環境測定結果を提供する」ということですが、自発的に提供することがいいと思いますが、この特殊健康の実施機関、お医者さんですが、現場を知りません。現場を知らない人に、測定結果を提供しても余り意味がない。やはり、これは産業医さんがやる仕事だと思いますので、自発的に提供することは悪いとは思いませんが、義務等は御勘弁を頂きたいと思います。
それから、特殊健診の緩和の問題ですが、我々事業者としては普段から特殊健診を含めて、健康診断の項目等も含めて見直しを行ってほしいということは行政にお願いをしているところです。今回、この緩和ということですが、3ページの2つ目のマルにある「ダブルチェック」です。事業者としては、この意味合いが一番大きくて、前回も申し上げましたが、管理区分と健康管理、それから健康確保措置をリンクさせて取り扱っている事業場がほとんどだと私は理解をしていますし、そのように聞いています。
次のページにメリット、デメリットがあるので一応検討することは結構だと思いますが、5ページ目に付いている要件は、これは規制強化にしかならないので止めていただきたいと思っています。
○城内座長 そのほか御意見等はありませんか。
○大前委員 もうリスク評価という考え方を、この労働環境の場に持ってきた限りは、リスクの大きさに応じて行動の大小と言いますか、それが決まるのは当たり前だと思います。したがって健康管理に関しても、例えば環境管理区分、先ほど第1管理区分等々ということでしたが、リスクが小さいところでは基本的に健康診断をやる必要はない。ただ、ある程度リスクがあるところは、きちんとやらなくてはいけないのは当然ですが、そのように持っていくべきだと思います。
先ほど、前に結構重篤な危ない物質を使っていて、配転をという話がありました。これは配転禁止が普通にあるので、そういう方々は当然配転を、頻度と内容は別にしてやることになっていると思っています。
それから、健康診断の委員会は別個にあります。今週か、先週に今みたいな話が出ました。そのときに、例えば発がんなりというような重篤な影響が考えられる物質をばく露して、その後、ほかの物質を吸った場合に配転を禁止のときに何をやるのか。発がんと言いましても、グループ1の物質に関しては、これはどこで発がんするか分かっていますので、これはある程度ターゲットが分かるのですが、2Aや2Bの物質に関しては動物と人では、発がんする部位が違うことは幾らでもあるのです。ですから、どこをターゲットに健診をするのかということに関しても、非常に難しい問題になります。したがって、これは意見なのですが、これも一般健康診断で診ていくしかないのではないか。一般健康診断は、血圧と脂質とがんとは全然関係のないことをやっているわけですが、でもそれでドクターがきちんと話を聞いて、その時々の体調なり何なりを聞いてやっていくしかないのではないかと、そのときのほとんどの先生方の御意見で、これは結論ではありませんが。
○明石委員 すみません、先回りしたようなことを聞いて恐縮ですが、ちょっと聞きたいので教えてください。もし、この特殊健診を緩和した場合にここでも問題になっているように、遅発性疾患が出た場合に誰が責任を取るのですか。
○化学物質対策課長補佐 ちょっとまだこの仕組みを入れるかどうかの議論なので、お答えしにくいところもあるのですが。そういった遅発性の影響が出るものについても緩和するのかどうかということも含めて、よく議論をする必要があるかなと思っています。
○高橋委員 特殊健康診断の省略あるいは緩和の話ですが、労働者の立場でいきますと、今現在、化合物を使った作業を行っていて、自分が健康だということを自分で確実に証明できる手段が健康診断だと思っています。それがなくなるということであれば、先ほど三柴先生がおっしゃいましたが、健康診断をやらなくても大丈夫だという証明と言いますか、作業者の理解、納得もやはり必要ではないかと思います。作業環境測定の結果が開示されるということは当然のことですが、エリアでの測定結果と個人のばく露というのはリンクしているかというと、必ずしもそういうことばかりではないと思いますので、そういったことも含めて、作業者がきちんと理解、納得できるような仕組みも考えていただきたいと思います。
○城内座長 そのほか御意見はありませんか。
○大前委員 健康診断の省略というのは、今、議論されていますが、健康診断の省略があっても、作業環境の測定の省略はあり得ないと思います。これは半年に1回という義務付けですが、それは省略してはいけない話です。それでもちろん結果がよければ、健康診断の省略はあり得ると思いますが、作業環境の測定の省略はない。先ほどもおっしゃったように、本当はばく露測定でないとまずいのです。今は日本のルール上、作業環境測定になっているので、なかなか簡単には方向転換できないということがあります。ようやく最近、ばく露濃度を測っても、作業環境測定相当という形でちょっといびつな形で個人ばく露測定もOKになりました。本来は、個人ばく露測定、あるいはもし代謝物が測れれば体内に入った物質、若しくはそれを代謝させた物質がきちんと測れれば、それが一番いいです。ですから、今、おっしゃったように本当に作業環境測定だけで労働者の方の不安がぬぐえるかというと、これはなかなか難しいかもしれません。でも先ほど言いましたように、リスクという考え方に転換したので、リスクという考え方に転換した限りはリスクが低いところは低いところなりのやり方、高いところは高いところなりのやり方をやらないと、また昔のようにゼロ・イチの世界に戻ってしまうことになると思うのです。それは戻したくないと私は思っています。
○城内座長 そのほかに御意見はありませんか。
○永松委員 今の先生のお話に関連して、個人サンプラーの拡大ということが議論されています。お話にありましたように、従業員の方から見たときに1つ健康であるという担保が診断だと思います。もう1つが、実際にばく露されていないという2つかと思いますので、個人サンプラーの充実、拡大というものも併せて考えながら、やっていくことも重要かと思いました。
○城内座長 そのほかに御意見はありませんか。多分、個人サンプラーと健診がきちんと結び付く、将来的に出た障害が本当に関係あったかどうかというのは、本来は個人サンプリングも個人で継続していないと分からないことなのです。ですが、作業環境測定は場の測定と言って、個人とは関係なくやっている。では、アメリカでは個人ばく露をやっているから、個人を追っかけて取っているかというと、そうではなくて個人サンプリングなのだけれども、担当するハイジニストが、あの人が高そうだからあの人をやってという方向でやっているので、ではそれは個人の病気と結び付いてるかというと、それはそうでもないわけです。ですから、個人ばく露を導入するときに、どういう意味があるのかというのは、きちんと説明する必要があると思います。個人ばく露測定をやっていると個人の病気と必ずリンクすると考える人もいるかもしれませんが、それは全く別の話なので、そこは注意して始める必要があるかなと思います。ですから、個人サンプリングをする専門家、高度な知識を持った専門家がやはり必要なのだろうと思っています。そのほかに御意見はありませんか。よろしいでしょうか。では、作業環境と健康管理は一応ここで打ち切ります。
次に最後の少し大きな議題になりますが、先ほどからも少しお話が出ていましたが、「今後の化学物質の管理のあり方」について議論したいと思います。御説明よろしくお願いします。
○化学物質対策課長補佐 資料4を御覧ください。1枚目は、我々行政から説明に使わせていただいている化学物質管理の仕組みを表す三角形の図を示しております。法的にこういう呼び方をしているということではないのですけれども、便宜上議論しやすいように、「個別管理物質」と「自主管理物質」に分けさせていただいております。個別管理物質は御承知のように、製造許可のものは別として、特化則、有機則、鉛則といったもので、個別具体的に物質の名前を指定して、それをどういう作業をするときには、どういう措置をとらなければいけないかということが個別具体的に決まっているという意味で、「個別管理物質」とこの場では呼ばせていただいております。
それ以外の「自主管理物質」というのは、ラベルの表示、SDSの交付、今、義務のものは673ですけれども、その他は努力義務になっています。こういう物質については情報伝達があって、その上でリスクアセスメントを行って、どういう措置をとるかということは、事業者のほうで自主的に決める。そういう意味で「自主管理物質」と呼ばせていただいております。それらを決める仕組みになっています。
一番右にあるように、衛生基準というものがあり、この自主管理物質についても後ほど御紹介させていただきますけれども、とらなければいけない措置が労働安全衛生規則で決まっているという仕組みになっています。
2ページです。この仕組みを運用する中で、何が課題になっているかということです。今申し上げたように、個別管理物質というのは、個別具体的に何をやるかということが決まっていて、健康診断もあるわけです。自主管理物質というのは、一般的な措置ということで、個別具体的に何をやらなければいけないということは決まっていないということです。
2つ目は、実態ということでの御紹介です。今、国のリスク評価で何をやっているかというと、この個別管理物質に加えるべき物質があるかどうかを調べて、必要があれば個別管理物質を増やすということをやっています。いろいろな方から聞くお話、実際の労働災害の実例を見ていると、個別管理物質に追加されましたということになると、かなりいろいろな義務が係るということで、その使用をやめるということが流れとしてあります。その結果、自主管理物質のほうを使うことになります。結果的にきちんと対策を、この自主管理物質についてとらないで労働災害が起きる事例が、ここのところずっと繰り返されているという状況が起きています。
その結果、個別管理物質と自主管理物質というところにすごく大きな溝ができているのが今の実態です。実際に今どういう物質で労働災害が起きているかというと、自主管理物質によって起きているものが多いということだと思います。自主管理物質の管理をどうしていくかということが、正に労働災害をどう減らしていくかということに直結していくのだろうと考えています。
下にあるように、特に危険有害性が高い物質・作業について厳格な措置を求める。これはこれで大事だと思いますけれども、現状今は年間1,000物質の新規化学物質がどんどん開発されています。危険有害性がよく分かっていないものも含めてになりますが、万単位の化学物質が使われています。多くが自主管理物質での労働災害になってしまっています。今後、個別管理物質を増やし続けるというのは実質的に難しい局面になってきています。「自主管理」というところを「自律管理」と言い直させていただいておりますけれども、今後は自律的な管理を基軸に置いていって、その管理の実効性を高めていくという方向にもっと向いていくべきではないのだろうかというのがまず1つ目の論点です。
自律管理物質はそれぞれ独自に管理をしてくださいと言うだけではなくて、ここの実効性をより上げていくという意味で、個別管理のようなことをやったのでは、結局同じことになってしまうので、それとは違う方法で、もう少しこの実効性を高める方法はないだろうかということを、考える必要があるのではと思っております。
3ページです。今までは、全体の仕組みの課題ということでお話させていただきました。それぞれ分けて、個別管理物質にはどういう課題があるか。これまでもずっと御議論いただいてきたように、中小企業を中心に、今の個別管理の規制というのは守られていないので、そこでどのように徹底していくか。それには、当然支援ということも入ってこようかと思います。そういうことを検討していく必要があるということです。
それから自主管理物質ですが、これは先ほどの全体の仕組みの話とも重なってきます。今は、リスクアセスメントで管理をするのが原則になっていますので、その実効性を高めるための人材であるとか、次のページに出てくる、この自主管理物質については守るべきとされている衛生基準についての整理も必要なのではないかということです。
こういう課題を踏まえて、具体的な論点を4ページ以降に示しております。今は大きく2つに分かれている個別管理物質と自律管理物質の線引きをどうするかという議論が必要なのではないか。これまで、発がん性が高いなどの危険有害性が高い物質については、リスクが高い作業に限定して、個別管理物質として追加してきたということです。今後は自律管理をまず基本に置いていこうということにするのであれば、それでもなお個別管理として、厳格な規制を求めなければいけないものにはどういうものが生じ得るのかという整理が必要なのではないか。この整理をしたときに、基本的な個別管理と自律管理との線引きをするときの考え方というのはどういうものなのか。そういうことの整理が必要なのではないかというのがまず1つです。
もう1つは、自律管理を基軸に置いていくとして、その実効性を高めるための方法として具体的にどういうものがあるかということです。先ほど御紹介したように、今も労働安全衛生規則に定められている衛生基準というものがあります。表が3つほど書いてあります。1つは、気中濃度ということでの規制が係っていて、ガスとか粉じんといったものの濃度が有害な程度にならないように、発散源の密閉措置とか排気装置を付けるというのが今も義務になっています。
ただ、課題としてあるのは、どういう物質がこの対象になっていくかということの考え方は明確に示されていないこと。この有害な程度にならないようにするという、そもそも有害な程度とは何なのかという判断基準がないということ。こういうことで、なかなかその実効性のあるような措置にはなっていないのが現状です。
その下の2つは保護具に関するものです。同じように有害なものが出るときには保護衣、保護眼鏡、呼吸用保護具といったものを備え付ける。皮膚からの吸収などがある場合には、保護手袋などを備え付けることになっています。これも対象の考え方は、はっきり示されているわけではありません。それから、備え付けまでになっていて、法令上使用は求められていないという課題があります。
先ほど来課題になっている、適切な保護具の選択、使用管理を担保する仕組みがないということで、一般的にこういうことをしなさい、ということが決まっているわけですけれども、その実効性を担保するための仕組みがないのではないかという問題意識です。
最後のページです。自律管理の実効性を高める仕組みとして、先ほど御紹介いたしました、今やっている国のリスク評価というのが、個別管理物質を追加していくことを主な目的としています。今後、自律管理を基軸とする仕組みに変えていくのだということにした場合、この国がやっているリスク評価をどういう位置付けにしていくべきなのか。また、そのリスク評価というのは一体誰がやるべきなのかということについても、整理が必要なのではないかと思っています。自律管理ということになると、それを担保するための仕組み、それを支える人材、若しくは自律管理と言われてもなかなか難しい中小企業への支援なり、中小企業での実施の担保の仕組み、こういったことも併せて議論をしていく必要があるのではないかということです。
最後は、個別管理物質についての取組です。特にこれまでも課題になっているように、中小企業に対する対応をどうするかということで、整理をしていく必要があるかと思います。資料4の一番最後に付けておりますけれども、今、国のほうでやっている委託事業の中で、海外での中小企業支援というのはどういう形で行われているのかということについて調べていただいて、それをまとめたものがこちらの表になっています。今後、日本の中小企業支援を考えていく上でも、諸外国の取組好事例は参考になっていくのだと思います。そのときの議論の材料として用意させていただきました。私からの説明は以上です。
○城内座長 労働安全衛生法施行以来避けてきたというか、議論してこなかった点を、やっとここで議論できるということだと私は理解しています。自主的な管理も含めて自律管理物質という言葉が出ましたけれども、こういう物質の管理をどうすれば良いかというお話でしたが、委員の皆さんの御意見を伺えればと思います。三柴委員お願いいたします。
○三柴委員 ちょっと立ち戻ると、今直面している課題というのは、1つには特別規則外で結構多くの被災が起きているということ。それから、中小企業では基本的な基準のコンプライアンス自体がおぼつかないということ。そもそも意識が低いということです。監督官で、こういう問題に詳しい方に聞いても、扇風機だか掃除機で局排代わりにしている、という実態まであるようなので、どうするのかということです。
まず、法政策を実効あらしめようとなったときに、事務局の方に申し上げなければいけないのは、どうしても最終的に内閣法制局で、法制度としての体裁というか体系性を保とうというときに、罪刑法定主義ということが言われます。法違反の内容をしっかり特定できない以上は、強制力のある法制度にはできないということが障害になる。実は、判例をちゃんと見ると、罪刑法定主義というのは余り厳しく守られていなくて、安全衛生については刑事罰になる例も含めて緩やかな解釈がされています。要するに、これを放っておいたら危ないだろうというのを、放ったらかしておいたら刑罰ですという判例が結構あります。そういうことを踏まえ、今ある抽象的な法規を運用するということも、今すぐにできる対策としてあるということです。
労災に関する政策は、補償にせよ、予防にせよ、基本は業務内在リスクを対象にします。そして、業務内在リスクというと、仕事のせいで起きるというのが基本です。より正確に言えば、仕事のせいプラス救うに値するかで、決まります。では、仕事のせいでとは何かというと、基本的には疫学の話になってきます。先ほどの例の、一般消費者向けの規制をどうするかということにも関わります。仕事をしていたからこそ起きた被害かということが、問われます。それは、一般消費者のデータと、仕事に就いている人とのデータを比較して、どっちが多いかということを、基本的な判断の枠組みにするのだけれども、それだけではなくて、実はデータ上はどちらも余り変わらないのだけれども、これは仕事をしていたという理由で救うべきであるという救うに値するという価値判断も問われてくる。
ただ、予防ということになると、仕事のせいでというところにより強い予測を掛けていかなければいけないということになります。だから、予防の場合は少し強化した規制が適当だということになります。規制ではやや厳しいことを掛けておいて、それを緩めるときには、うちの会社は大丈夫だから、うちの事業場は大丈夫だからということで、ちゃんと専門家を立てて、監督署なりの行政を説得する。そういう仕組みにすべきなのだろうと。
そのときにデフォルトになる基準というのは、そのときにかけるやや厳しめの基準は確かにメリハリが利いていたほうがいい。大前先生がおっしゃるように、ばく露管理が重要ということだったら、そのための少し厳しい規制を掛けるようなスタイル。でもそれを、うちの会社では緩められるというのだったら、ちゃんと専門家を立てて説得する。規制を監督する側も硬い頭で迫らないで、ちゃんと現場を見て規制を考えるということになってくるのだろうと思います。
話は変わるような変わらないですが、最近、リスクという概念について、外国と比較してみました。日本の場合は、国がリスクを定義することが結構重要です。ヨーロッパの場合は、業界団体とか、研究所とか労使といったところがリスクの定義に関わります。日本の場合は、国が言っているからというので統一が図られる。国のお墨付というか、そういうのが結構重視されているから、そこはなかなか手綱は外せないところがあるのかという感じがするのです。
ただし、国が何でも限られた資源でできるわけではないので、国にきちんと情報が集まるような仕組みを設計していかないといけない。結論として一言でまとめれば、やや厳しめの規制、今出ている提案であれば、規制提案についてはなるべく丸を付けていって、外すときにはちゃんと専門家を絡ませるという方向性がいいのかなと思います。
だから自主規制についても、PDCAは最低限なるべく掛けていく。結局、化学物質についても、専門家が育たないというのはニーズがないからだと。規制も1つのニーズの背景になるから、そういう対策が必要だということです。ずいぶん長くなって申し訳ありませんでした。
○城内座長 その他に御意見はありますか。中澤委員お願いいたします。
○中澤委員 今の資料の中で質問です。2ページの2つ目の○で、現行の「個別管理物質への追加が決まると、当該物質の使用をやめて、危険有害性を十分に加味せずに自主管理物質に変更し、その結果十分な対策がとられずに労働災害が発生するといった“いたちごっこ”のような状況が生じている」と書いてあります。これだけを読むと、化学物質に対する認識というのは、ある程度各使用者が認識しているように見て取れるのではないかと思っています。
もう一点は、いわゆる個別管理物質へ追加が仮に決まったとしても、現実としては使用が禁止されていないわけですので、その辺のメッセージはどの程度なされているのか、という疑問があります。
それから、これは言葉の問題なのですけれども、この中で書かれている「自主管理物質」から「自律管理物質」という言葉に変更されています。ここで言っている自律管理という意味合いというのは、どのようなことを構想されているのかを教えていただければと思います。
○城内座長 事務局からお願いいたします。
○化学物質対策課長補佐 はじめの2つの御質問で、例えば特化物に指定されると使用量が減るという現象をどのように理解するのかということがあります。これは別に統計データに基づくものではないので、そういう前提でお聞きいただければと思います。販売側が特別管理物質が入っているものを売らなくなるということが、1つ大きな理由になっています。結局それを売るということは、ユーザーにもコストがかかることになりますので、今、特に売られているものを見ると、これは法令の規制の対象になっていないものですというような売り方をしているものが非常に多い、そういうところも1つ要因としてはあるのかと思っています。
もう1つは、自律管理をどのように考えているのかということです。これは、一応事務局としてこういう言葉を使ったときのイメージということでお聞きいただければと思います。これは、言葉のイメージに近いかもしれません。自主管理物質という使い方をすると、先ほど三柴先生のお話にもありましたように、基本的には全部任せましたというイメージの言葉として、捉えられる可能性はあるのかと思いました。むしろ、国がいちいち全部を細かく決めるのではなくて、使うルールは事業所の中で検討して決めていただく。それで、自分で自律的に管理をしていくという思いを込めてこの言葉を選ばせていただきました。
○城内座長 よろしいでしょうか。
○中澤委員 はい。
○城内座長 その他にありますか。宮腰委員どうぞ。
○宮腰委員 中小企業の部分に関しての支援ということではないのですけれども、今、安全衛生委員会というのは50人という枠があります。それ以下については安全衛生委員会を立ち上げる必要はないわけです。そういう企業や働く人たちから話を聞くと、安全に関する話をする機会がなかなかないということです。しかし、そうしたところで災害は比較的多いのではないかという実感も私にはあります。今更その人数部分の規制を変えて安全衛生委員会を立ち上げようと言っても、50人クラスの企業ではなかなか委員を出すのは大変だという認識はしています。ただ、その中でも、そういう会議や、そういう意見を聞ける場を作るような案ができたらいいと思います。
○城内座長 永松委員お願いいたします。
○永松委員 ちょっと横道に外れるかもしれません。他の安全に関わる法、例えば高圧ガス法とか、圧力容器に関わる法等では、自主的に管理をすることで、例えば検査期間が長くできたりします。それは、先ほど三柴先生からもありましたように、高圧ガス法とか圧力容器というのは、細かく法が決まっていますが、自主管理ができる場合は何を緩和してもよいという手順になっています。実際にそれを見ると、できる所がそれを自主的にやれるのです。
化学管理物質はそれとは全く違った世界になっています。自主的にやれる所は、自主的にやっている所が多いと思うのです。何を言いたいかというと、自主的な仕組みを醸成すると言いますか、広げていくことがまずスタートだと思うのです。そういう点では先ほどもありましたけれども、自主的な仕組みを広げるためには中小企業に対してどれぐらい支援できるかが非常に大きなポイントかと思いました。
○城内座長 その他にありますか。漆原委員お願いいたします。
○漆原委員 胆管がんや膀胱がんの事例を考えてみても、被災後にその物質が個別管理物質として規制されたからといって、すでに被災された労働者の健康は戻らないということからすれば、発災前に予防していくことが大切だというのは正にそのとおりだと思っています。今、お話があったとおり、中小・零細企業では、人材育成だけではなくて、具体的にどのような地域で支援をし、その環境を変えていくのかということも重要だと思っています。まず、今回の提案を実行するに当たってのタイムスケジュールはどのぐらいで見ているのか。例えば10年なのか、もっと先なのかというところについてもお伺いできればと思います。
ここで提起されている自主管理物質について、ある程度の情報伝達を高めていくことはもちろん必要です。個別管理物質から、代替した物質の有害性、あるいは、代替えした物質の有害性が未解明のもの。いまだに多くあるのではないでしょうか。次の検討になるとは思いますが、新たな規制の枠組みについては、遅発性の健康障害の予防にも資するような仕組みも必要です。さらに、ILOの「職場における化学物質の使用における安全に関する条約」、第170号条約ですが、日本は未批准になっていたと思います。制度を動かしていくと、先ほど海外のお話もありましたが、いずれは日本の未批准の化学物質の条約も批准できるような世界を目指しているというか、その批准も視野に入れた検討なのかどうかについてもお伺いします。
○城内座長 事務局からお願いいたします。
○化学物質対策課長補佐 まだ、この場でどういうタイムスケジュールで進めていくかということはお答えする段階ではないかと思います。一番初めに検討事項に入れていたように、大事なのは危険有害性の情報伝達をしていくということが、まず大前提にあるのかと思っています。今、個別規制をしていない物質であっても、発がん性がある物質というのは当然あるわけです。それ以外の有害性がある物質もあるわけです。それによる災害を防ごうと思うと、そういうものだという情報を伝えていくことがまず大前提にあるのかと思います。それは、恐らく10年というようなことではなくて、なるべくスピード感をもって、その情報伝達の充実を図っていくということはやっていく必要があるかと思います。
今回提案させていただいている、いわゆる特化則の対象をどんどん増やしていくのか、それとも今後はそういうことはやらずに自律管理ということでいくのかということについては、方向性が決まった上で、仮にその方向性が決まるとすると、今国がやっているリスク評価のやり方そのものを変えるという意味では、それほど長い時間をかけずに、多分やり方を変えていくことになります。ただ、この効果をどう出していくのか。それは、中小企業支援も含めてですが、そういうことについてはおっしゃるように、数年で変わるようなものではないので、長い時間を掛けて人も育て、中小企業の助成もしていくという取組は当然長いスパンで考えていかなければいけないのかと思っています。すみません、2番目のことは私には答える知見がないので、持ち帰らせていただきます。
○城内座長 その他にいかがでしょうか。高橋委員お願いいたします。
○高橋委員 UAゼンセンに加盟いただいている中小の組合の方のお話を聞くと、これ以上管理する化学物質が増えたらもう対応できません、という話も出てきていますので、自律管理のほうにシフトしていく時期なのだろうと思います。ただ、一方でリスクアセスメントをやっていますかと聞くと、なかなか進んでいないですという回答が返ってくる。これが中小企業の実態だと思います。自律管理のほうに向かうにしても、やはりステップを踏んで進めていっていただきたい。それから、支援をする仕組みも是非整えていただきたいと思います。
この次の議論になるかもしれませんが、その仕組みを作るだけではなくて、最終的にはその仕組みの中に中小企業が入ってこないと、実効性は担保されないと思います。そこに入って来られるような働きかけと言いますか、仕組みと言いますか、そういうものも併せて考えていただければと思います。それから、安全・安心を担保する最終の砦である行政にチェックしていただくと、安心だという声も一部であります。行政だけではなかなか難しいのかもしれませんが、行政も含めた支援の体制、中災防とか、産保センターもあると思います。そういう所も含めた体制なども併せて考えていただけると有り難いと思います。
○城内座長 その他にありますか。私から1つ質問をさせていただきます。4ページに書いてある衛生基準です。これが、自律管理の中でうまく使えていければというお話でした。率直に、現在はうまく使われているのか、余り役に立っていないのかという観点から、その辺の見解はいかがですか。
○化学物質対策課長補佐 この施行状況調査というのはしたことがないので、統計的にこれがどのぐらい役に立っているかというお答えはできません。様々な事業者とお話をしていると、これを意識して取り組んでいる所はほとんどないのではないかという感覚は持っています。それぞれの事業場の状況はあると思いますが、恐らく皆さんが重視しているのは、特化則であったり、有機則であったりというのは間違いないと思っています。
○城内座長 例えば、監督署の監督官から見ても、このような書き方だと指導するときに使いにくいということもあるわけですか。
○化学物質対策課長補佐 先ほど三柴先生から、罪刑法定主義というお話がありましたけれども、結局どこまでやればこの法律を守ったことになるのかという判断基準を示していないものですから、なかなか執行がしにくい規定であることは間違いないと思います。
○城内座長 他の委員の皆様方から御意見はありますか。永松委員お願いいたします。
○永松委員 城内先生の御質問に関連するのですけれども、化学業界の工場の方は、ある程度こういうものを意識したり、読んだりしていることが多いと思うのです。一方で化学製品に関わる労災は化学産業だけではないわけです。他の業界に、例えば大量の有害物質を取り扱う業務というようになっていないから、うちは関係ないみたいな意識の方も多いかと思うのです。
したがって、そういう化学品を取り扱う皆さんに、これに相当するようなことを進めていくことも、化学品に関わる労災を抑え込むためには大変重要かと思いました。
○城内座長 その他に御意見はありますか。中澤委員お願いいたします。
○中澤委員 中小企業が化学物質の管理を進めていく上でのネックというのは、どうしても資金的な問題が大きな壁になってくるのではないかと思っています。そういうところの配慮が必要なのではないか。同時に、ネットだとかホームページだとかで、例えばリスクアセスメントにしても、いろいろなホームページが用意されています。身近なところでの窓口を是非とも整備していただけないかと思っています。
一方で本日、リスクアセスメントの事例集をお配りいただいています。当然のことながら、指定物質については義務付けがなされているという前提ですが、その上でリスクアセスメントを実施するのは分かるのですけれども、この事例集の中で1つ足りないのは、法令上決まっているからということではなくて、個々の会社の中でどのような動機でこれに取り組んだのか、極論すると事故があったというのが一番の動機の例なのでしょうけれども、個別の企業の中で、どのようなインセンティブが働いてこれに取り組んだというようなことが、この事例集の中から抜けているのではないかと思います。事例的なものを広範に示していただく場合に、そのような観点を踏まえた上で対応していただければ有り難いと思います。
○城内座長 その他にありますか。よろしいでしょうか。そろそろ時間も迫ってまいりました。本日頂いた意見を踏まえて、次回以降も御議論をお願いいたします。本日の議論はこれで終了したいと思います。事務局から連絡事項をお願いいたします。
○化学物質対策課長補佐 事務局からの連絡事項は日程になります。今のところ次回は9月30日(水)の10時からを予定しております。また改めて正式には御連絡させていただきます。
○城内座長 以上で、第8回職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会を閉会いたします。どうもありがとうございました。