第3回 事務所衛生基準のあり方に関する検討会 議事録

労働基準局安全衛生部労働衛生課

日時

令和2年11月30日(月)10:00~12:00

場所

経済産業省別館 227各省庁共用会議室
(東京都千代田霞が関1-3-1)

議題

  1. (1)第2回検討会での議論の整理
  2. (2)照度基準について
  3. (3)空気環境について
  4. (4)その他

議事

○高田座長 それでは、定刻となりましたので、ただいまより、第3回事務所衛生基準のあり方に関する検討会を始めます。早速議事に入りたいと思いますので、円滑な進行に御協力くださいますよう、お願い申し上げます。また、傍聴の皆様におかれましては、カメラ撮影等をここまでとさせていただきます。御協力をお願いいたします。最初に、事務局から配布資料の確認をお願いいたします。
○矢吹有害作業環境指導係長 事務局から本日の資料の確認をさせていただきます。資料1「トイレ設備に関する第2回検討会の議論の整理(案)」、資料2「照度基準の経緯と概況」、資料3「照度基準の見直し案」、資料4「建築物衛生の概況」、資料5「事務室の作業環境測定」、参考資料1「参集者名簿」、参考資料2「事務所衛生基準規則ほか関係条文等」をご用意しております。お手元の資料に不足等ございましたら事務局までお申し付けください。
○高田座長 よろしいでしょうか。それでは、議題(1)第2回検討会での議論の整理について、事務局から説明をお願いいたします。
○搆主任中央労働専門官 それでは、資料1を御覧ください。前回、トイレ設備の基準についての議論を整理したものです。まず、(1)男女別トイレの設置に関するものとして、男女別トイレの設置の原則の重要性について指摘がありました。これまでの女性の社会進出に一定の役割を果してきたこと、今後もまた重要であるということです。2番目は、ILO条約勧告においても、男女別トイレに設置につき規定があるとして、先ほどの指摘をサポートするものと思われます。3つ目は、男女別トイレの原則を承知した上で、今後5年、10年先には、そのあり方も変わってくるかもしれないという指摘です。次回、事務所衛生基準を見直すタイミングがずっと先になるなら、そうした議論も少し考えておくべきということだと思います。4つ目は、バリアフリー法等で設置が進められている多機能トイレのうち、男女別でないものについては、事務所衛生基準規則で規定する便所に該当しないという現行法令に関する問題です。その次は、多機能トイレの多くは独立個室型となっており、プライバシーの違いも考慮すると、従来の仕切り壁型の便房とは別の考え方をしてもよいのではないかということです。6番目は、男女数人ずつの事務所において、男性用、女性用を固定することにより利用が制限される、多くの便所を必要とするなど合理的でない場合があるのではないかということです。7番目は、障害者用トイレ等に対する労働安全衛生法令の役割についてです。推進するかどうかということではなく、設置する場合の法令上の取扱いを明確にするということです。8番目は、性的マイノリティを含め、多様な労働者それぞれについてトイレは必要なものですから、法令の規定により制限されることはないようにということです。
 次に、(2)便房数についての議論に移ります。空気調和衛生工学会では、待ち行列理論を基に、事務所、学校、病院、劇場など多くの設置施設における衛生設備の設計につき、技術要綱を定めています。事務所の基準については、事務所衛生基準規則の便房数の規定と比較し、大きな乖離はないということでした。強いて違いを言うとすると、ごく小人数の部分あるいは多人数の部分でずれが生じることがあるということですが、現行事務所衛生基準規則の便房数の基準自体は、大きな問題はないということだと考えられます。2つ目は、男女別でない独立個室型の便房においては、男女別便房数を何らかの形で整理する必要があるということです。3つ目は、男性用小便器についてです。少人数の事務所においては、あえて男性用小便器を設けなくても、男性用便房をもって代替するほうが合理的な場合もあるという意見です。その他、事務局からは特に用意はありません。以上です。
○高田座長 ただいまの御説明について、御意見、御質問等ありましたら発言をお願いいたします。基本的には前回、委員の皆様からあったものをまとめている内容になっております。男女別のトイレの設置について、追加の御発言等ありますか。よろしいでしょうか。それから、常時就業する労働者数に応じた便房数について、何か追加の御発言はありますか。よろしゅうございますか。その他というところで用意されておりますけれども、(1)(2)以外で何か追加すべき内容等、御意見はありますか。よろしいでしょうか。そうしましたら、資料1は、この議論の整理の案のとおりとさせていただきたいと思います。また次回、議論があると思いますので、その際には建設的な御意見を賜りたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 それでは、次の議題に移ります。議題(2)照度基準について議論させていただきます。事務局より、資料2の説明をお願いします。
○搆主任中央労働衛生専門官 御説明します。まず、資料2の1ページを御覧ください。1ページ目は、現行の事務所衛生基準規則についてです。事務所を対象に、作業面の照度について規定があります。これは床や通路についての規定ではありません。照度以外の規定としては、窓から入る光を含めコントラストが著しくないこと、定期的な設備点検についての定めなどです。照度については事務作業を3つに区分し、資料を編綴する作業、事務所内での来客受付など、文字を読み込む必要のない粗な作業を70ルクス以上、文字を読む普通の作業を150ルクス以上、製図のような精密な作業を300ルクス以上としております。
 この基準が定められた根拠は、2ページ目にあるとおり、1958年に制定されたJIS Z9110ということが分かりました。旧事務所衛生基準規則の照度に関する規定は、当時のJISを参考に、昭和46年に制定したものです。JISでは照度段階が多く、作業がより細かく分かれていましたが、そのうちの粗作業、中作業、精密作業が該当するものであります。作業室などでは70-150ルクス、一般事務室では150-300ルクス、製図室では300-700ルクスを照度範囲として具体的に示され、法令としてはこの下限値を採用したものということです。JISが推奨する照度であるのに対し、事務所衛生基準規則では、あらゆる事務所において満たすべき基準値であるためです。
 3ページを御覧ください。こちらは事務所衛生基準規則において、明るさの確保がなぜ必要かということを示したものです。簡単に申しますと、明るさが十分でないと、眼精疲労になるほか、文字を読めず、悪い姿勢を続けることにより、首、肩、腕、場合によっては腰などに障害を起こすということです。また、よく見えない中で単調な作業を行ったり、急かされたりすることで、心因性ストレスも増加します。こういった理由で定められたものです。
 4ページを御覧ください。事務所の実態について、第1回で御紹介した事業場調査の結果を再掲したものです。事務所の照度基準に照らして、実態がどの程度かということの指標となっています。回答のあった1,200余りの事業場の半分程度は、既にLEDに切り替えているということで、切替えは10年以内ということだと思われます。照度を具体的に回答してくれた115事業場については、8割以上が300ルクス、すなわち精密な作業の基準値を上回っているということがわかります。
 これらの照度の数値はどの程度のものかということを補足します。4ページと1ページ目の現行基準を比較しながら御覧ください。照度は場所によって大きく変わります。先日、古い建物の事務所で、少し暗めと思われるところで実測したところ、作業面で600-700ルクスありました。天井の照明から2mの距離の机上、作業面を仮に600ルクスとすると、そこより1m下の床面ですと、天井からの距離は1.5倍になりますから、距離の2乗、2.25分1となりますので、300ルクスを割り込むと考えられます。また、精密な作業の基準300ルクスがどの程度かということでは、地下鉄の座席上で測定すると350ルクス、窓から光は入りませんが座って本を読める程度の明るさです。もちろん、立っている状態で本を読むと、天井照明までの距離が近くなり照度は倍ぐらいになるものと思われます。一方、粗な作業の基準70ルクスはというのは、夜街灯の下の胸の高さでの明るさとされています。水銀灯やLEDではなく裸電球です。本を読むことはおろか、顔の判別すら難しい程度の明るさであるといえます。説明は以上です。
○高田座長 御説明ありがとうございました。現行の照度基準の経緯と概況を御説明いただきましたが、今の時点で確認しておきたいことはありますか。よろしいでしょうか。
○明石委員 2ページ目に当時の照度の基準についてです。1ページ目の規則の10条には作業例がありますが、これらは、室名というか部屋でやっている仕事が、そのまま作業例として書かれているという理解でよろしいのでしょうか。
○搆主任中央労働衛生専門官 事務局から説明します。当時のJISの基準は、場所を示したものであるのに対し、事務所衛生基準規則の規定は、事務作業の種類として定めたものです。製図室で行う製図の作業、一般事務室で行われる文字を読む作業を想定し、実際には一般事務室の隅で別の作業を行うことがありますが、法令の観点からはあくまで規定した作業の作業面を対象とするということです。
 JISの推奨照度は、通常、部屋を設計するときにどのような照明を設置するかという観点で用いられるのに対し、事務所衛生基準規則の適用は、事務室で実際に行われる作業をとらえて照度を判断することとなります。
○高田座長 よろしいでしょうか。ほかにありますか。それでは御質問がないようですので、続きまして照度基準の見直し案について、芝浦工業大学デザイン工学部デザイン工学科の吉武教授より、御説明をお願いしたいと思います。お忙しいところ、よろしくお願いいたします。
○吉武委員 それでは、今日、資料3として配布いただいているものに基づいて、照度規準の検討ということで芝浦工業大学の吉武が説明させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。日本人間工学会と書いているのは、私は現在、この法人の理事長もやっており、メンバーにも内容を問合せしていることから、学会名も併記しています。目次が8項目あると思いますが、前半が基本的な考え方を示したものなので、まず1~3をお話したいと思います。
 3ページです。今回、検討に際して参考にした資料をお示ししました。今、事務局から説明があったように、1958年に制定されたJIS Z9110というものがあり、5回の改定が行われていて、2010年の改定版が最新のものです。これは、これまで5回の改定を繰り返し、集大成という形になっているので、これをもとにして検討を進めました。この改定に当たっては、ここに書かれているとおり、照明理論の発展、光源の進歩など、社会情勢が大きく変化してきているので、それに合わせて改定が行われています。単にどのくらいがよいかということだけではなく、エネルギー効率なども考慮した上で進められています。国際規格も視野に入れており、参考文献の2にあるJIS Z9125は国際基準由来の規格ですが、これも取り込んだ形で、JIS Z9110の2010年版が制定されています。2011年の追補で室内照度の範囲が示されていますので、これを含めたものが最新の規格ということになります。
 このほか参考にした関連資料としては、ISO 8995、VDTガイドラインとその改定版です。また、近年の電子機器を使ったオフィス作業に対応した諸規格ISO 9241シリーズについても、日本人間工学会のISO検討委員会において全般的にチェックしています。
 4ページです。JIS Z9110の2010年版は、これまでの照明に関わる諸規格やガイドラインを集大成したものであり、目的として、人間の諸活動が安全、容易かつ快適に行えるための照明設計の基準、照明要件の総則が規定されています。今回は照度基準がポイントになっていますが、照明設計においては照度以外の要素もあり、照度だけを定めるというのは余り適切ではありません。もちろん、種々の作業や活動ごとに異なりますから、場の照明というのは、何らかの作業を想定して、その作業が快適に円滑に行えるかということがポイントです。その上で、今回は、照度の最低基準を定めることになります。
 2番目、照明設計において周囲の環境と調和した照明を実現するためには、作業面、作業領域だけではなく、周囲の環境を含めた照明レベルを社会的合意の上で設定する必要があると書かれています。当然ですが、同じ作業面の照度でも、周りの環境によって最適なものが異なってくることもあるので、そのような考え方に基づいています。このJISの規格では、過去の規格はほとんどが照度を中心に議論されていたのですが、照度だけではなく、次のような照明の質的要件の基準も示されています。照度均斉度:均一性、作業面の照度が一番明るい所と暗い所の比。不快グレア:まぶしいものが目に入ってくると、見る物が見にくくなってしまう。演色性:物の見え方に関するもので、照明の光の波長分布が異なると見え方が異なる。
 ここでは重要なものとしてこの4つを挙げていて、特に照度が重要なのですが、パソコンやスマートフォンのような発光ディスプレイを用いた作業においては、照度だけではなく、画面上の輝度をベースに考慮して指針を考えたほうがよい場合もあります。書類などそれ自体が発光しない反射物体に関しては、基本的に照度でよいと思います。
 このJISでは、人々の活動に対する基本的な照明要件、先ほど質問があったように、どのような作業かがポイントであることから、基本的な作業を想定した上で、表にまとめられています。表は5~25というたくさんの表がありますが、この中で特に5~8に基本的な照明要件が示されていて、屋内だけではなく屋外も含め、いろいろな場所での作業に必要な設計基準が示されています。今回の検討対象は事務所ということですので、それを中心に説明します。
 照度基準の考え方という補足を追記しています。物を見るための阻害要因がない場合、照明の質が良い場合には、照度が高ければ高いほど視力が良くなる、物の見え方が、よく見えるようになる。一般に事務所照明等では、自発光でなければ、一定の範囲において照度が高いほど、作業性が改善されることが分かっています。一方で、照度を高くすれば、エネルギーはほぼ比例して増大していきます。作業性というのは、ある一定照度以上になってもそれほど改善されないので、エネルギー消費とのバランスも考慮した上で、このような基準が決められていると考えていただければと思います。ここまでがJISの概要の説明です。ここからは、具体的な照度基準がどのぐらいになっているかを、表を基に説明します。
 5ページ、表5から表25まであると申し上げましたが、ここでは表5と9以外の表はタイトルだけを挙げています。興味がある方は、JISCのページでJISは閲覧できるので、御覧いただければと思います。本日は表5と表9のみを引用しています。
 6ページ、JIS Z9110の2010年版の表5で、基本的な屋内作業の照明要件です。かなり細かく分類されていて、ごく粗い視作業から超精密な視作業まで、9段階に分かれています。赤で囲っているEmが推奨照度ですが、今回、維持照度と書かれています。維持照度というのは、経年変化によって一般に照明は暗くなっていきますが、経年変化があっても、あるいは周囲環境による汚れなどで照度が落ちる場合がありますが、そのような状況も含んだ上で維持しなければならない照度を、維持照度と言います。照度以外に、先ほど説明したムラがないかという照度均斉度、グレアの制限値、演色評価指数が挙げられていますが、本日は基本的に照度だけでよいと思います。これを参照して今回の基準に適用する場合、赤で囲った2箇所、普通の視作業と、粗い視作業:継続的に作業する部屋(最低)と書かれているので、この2つを基準にするのがよいと考え、今日はこれを御提案しますが、御議論等あれば是非言っていただければと思います。
 JIS Z9110は前回版まではすべて照度範囲で示されていました。しかし照度を範囲で示されると選択しづらいという現場の意見を踏まえ、この2010年版からは1つの数値を示すことになりました。1つの作業に1つの照度という意味ではなく、選択を容易にするという意味と御理解ください。しかし照度範囲も必要となり、2011年に追補による照度範囲が示されています。
 7ページ、表9にもう少し詳しいものがあります。こちらを見ていただくと、大体先ほどのページと似たような値が入っていると思います。大体300~750の間で、この表はもう少し続くのですが、このような形で表9の記述があると御理解ください。
 8ページ、翌年に出た追補によって、推奨照度、今回の場合は維持照度でもよいと思いますが、それと対応する照度範囲が記載されています。先ほど申し上げた200ルクスと500ルクスというのが推奨となっている所の照度範囲を見ていただくと、500の場合は300~750、200の場合には150~300と範囲が記述されていて、ここから普通の作業を500と考えるのであれば、下限は300。粗い作業の最低を200とするのであれば、下限は150とするのが妥当ではないかということで、今日の提案の値となります。
 9ページ、現在の事務所衛生基準規則では、300、150、70ルクスと示されていますが、粗な視作業に関しては、今の表をもとに150ルクス以上とするのがよいのではないか、普通の作業については、300ルクスという数値がよいのではないかという提案です。精密な作業に関しては、数値を入れること自体に懸念があり、数値の記述はこの中ではしないほうがよいのではないかというのが考えです。最低基準というよりも、精密な作業は先ほどの表でもあったように、いろいろな種類の作業があるので、より高い照度が必要であるとし、作業場に応じて検討していただくのがよいのではないかという提案としました。あくまで議論をはじめるためのたたき台としての提案ですから、検討をお願いします。
 説明は以上ですが、次のページに参考の関連資料として、情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインに書かれている文言を少し参照させていただきます。ここでも、照度は300ルクス以上を目安としという表現があり、今回の普通の作業を300ルクスとするというところと齟齬がないと思われます。JIS Z9110の2010年版を検討する段階では、国際的な流れや照明学会など様々な規格を調査しており、それらを含めて大きな齟齬はないと考えております。私からの説明は以上です。ありがとうございました。
○高田座長 御説明、ありがとうございました。JIS Z9110の2010年版をもとに、照度基準の見直し案ということで、検討結果を御提案いただいております。ただいまの御説明に関して、御質問や御意見等はありましたらお願いいたします。明石委員、お願いします。
○明石委員 吉武委員への質問です。6ページに「ごく粗い視作業」「粗い視作業」「やや粗い視作業」と書かれています。この辺は客観的にどのような作業なのかというのがあるのかどうか。もう1つは本問と離れるかもしれませんけれども、先ほどのパソコンの輝度というのは、どういうものなのでしょうか。
○吉武委員 まず「ごく粗い視作業」「作業のために連続的に使用しない所」などについて、個別具体的な作業ということですが、照明学会の屋内照明の規格ガイドラインをもとに記述されていると思います。その規格自体は廃止され手元にないのですが、もし必要でしたら、次回以降にそこをもう一度確認して、御紹介させていただきたいと思います。
 もう1点の輝度に関してです。基本的な視覚作業の場合に何が一番重要かというと、見えに関しては、こういった文書などもそうですが、文字と背景のコントラストが、視認性に一番大きく影響します。コントラストとは、書類の白地の部分と文字が書かれた黒い部分のそれぞれの輝度の比のことです。例えば、白い部分を輝度計で測って100cd/m2、黒い部分が5cd/m2であったとすると、比は20となり、十分なコントラストと言えます。一般的に視認性を確保するために必要なコントラストは、3対1以上と言われています。ただ、それは周りの照度やいろいろな条件によって変わってきます。ですので、視認性を判断する場合には、基本的にコントラストが基準となります。
 このような20対1の反射物体のコントラストは、明るい所に行っても暗い所に行っても、実はほとんど変わらないのです。屋外の1万ルクスぐらいの明るい所に行っても、50ルクスぐらいの所に行っても、コントラスト自体は余り変わりません。ただ、暗い所だと人間の視覚特性から、高いコントラストが必要になり、明るい所だと低いコントラストでも見えます。
 一方でスマートフォンなど発光体については、書類などの反射物体と異なり、明るいところでは、輝度の比が低くなってしまうのです。すごく明るい所に行くと、スマホの画面などは見にくくなることは、皆さんも多分、御経験があると思いますが、それは、明るいところでは発光体のコントラストが下がっているのです。反射物体はコントラストが下がらないので、明るい所に行っても同じ20対1で、暗い所でも20対1のコントラストです。スマホやパソコンは明るい所に行くと、急激にコントラストが下がってくるので見にくくなる。プロジェクタを見る場合は、部屋を暗くしてコントラストが下がらないようにしていますが、真っ暗な部屋では、コントラストが上がり過ぎて、まぶしく感じるということが起こります。このように、視認性というのは、本来は輝度やコントラストで議論すべきものです。
 発光ディスプレイが存在せず、反射物体を見ている時代には、ほぼ照度で良かったのですが、発光ディスプレイが普及し始めて、輝度での議論が必要となりVDTガイドラインなどでも輝度を考慮しています。照度の議論においてもそうした背景は念頭に置くほうがよいです。よろしいでしょうか。
○明石委員 もう1点だけすみません。これは吉武委員に聞くのか事務局に聞くのか分かりませんけれども、作業と視作業の違いはどういうことでしょうか。
○吉武委員 私からお答えします。作業にはいろいろな作業があり、人間工学的にも労働衛生的にも一般的な作業を指す言葉です。視作業というのは正に「視」なので、視覚を使ったある程度インテンシブな作業をする場合、視覚が重要な場合です。特にパソコンや読み物なども、視作業という形で定義されていると思います。
○搆主任中央労働衛生専門官 JISを見る限りでは、「粗い視作業」というのは、作業のうち目で見る感覚が粗いのであって、作業そのものが粗いか細かいかを言っているわけではないということだと思います。視作業、目に影響がある作業として、「粗い」、「普通」、「精密」と区分しており、作業そのものの粗い細かいを言っていないということです。今回の議論の範囲は視作業に絞っていますので、区別は要らないかと思います。
 なお、最初の御質問で、「ごく粗い視作業」の例示ということですけれども、事務作業では該当がないかもしれません。吉武委員の資料の6ページのJIS Z9110で示しているのは、屋内作業全般ですので、倉庫とか訪問など、事務所以外を想定しているようです。
○高田座長 ほかにありますか。
○住徳委員 御説明、ありがとうございました。大変分かりやすい内容で、非常に理解が深まりました。私のほうからは非常に基本的な質問かと思うのですが、今回、御説明していただいた内容の4ページの照明設計基準の2つ目の黒丸に、「照明設計において、周辺環境と調和した照明を実現する」とあります。今回お示しいただいた照度について、周辺環境と言いますか、室内の人工照明だけの照度を表されているのか。例えば、曇天であったり日没後であったり、そういうときに測定すると照度は大きく変わると思います。私も現場などで測定するときに、その影響をかなり受けてしまうというところで、どの基準で測定すればよいのかと、いつも現場のほうから尋ねられるのです。まず、この設定が人工照明だけの照度なのか。
 それから、事務局にもお尋ねしたいのですが、今までの事務所則のルクス、照度というのは、人工照明だけの照度を示しているのですか。そこは基本的なところになるのですが、教えていただけると助かります。
○吉武委員 まずJISの考え方として、人工照明あるいは自然光の区別はなく、基本的にその現場での照度という考え方です。例えば、駐車場というのもあるのです。そういった場合、昼間は明るくて夜は暗いということになりますので、そのときにどのくらいの照度が必要かということになります。考え方としては、例えばオフィスの中でも窓に近い所は非常に明るく、遠くなると暗くなるということがあります。均斉度の基準があるのも関連しています。窓側のほうが明るく照度にムラが出る場合もあります。
 色の質というのは、実は時間帯あるいは季節によっても違ってくるのです。冬場と夏場では自然光の色も変わってきますから、厳密に考えますと、そういったものを全て考慮した上で考えるべきです。今回の規格の考え方も、人工照明と自然光の区別はしていないのですが、設計としては人工照明をどう使えば最適な作業や活動がうまくできるかということが、ここの基準の基本にあると思います。ですから、自然光を考慮した上で、人工照明をどのように設計していくのがよいか、という指針だとお考えいただくのがよいのではないかと思います。
○高田座長 事務局、お願いします。
○搆主任中央労働衛生専門官 事務所衛生基準規則における照度は、人工照明に限らず、実際の作業環境がどのようになっているかによります。したがって、朝から夕方まで事務室で作業をする場合は、朝早いうちは暗いときもあるでしょうし、夕方とか、季節によっても変わりますから、そうした状況も考慮して照度を考えるということです。照度の測定は義務付けられていませんが、照度を測る上での測定の一般的な考え方は、実際の作業がどのように行われるかを考慮し、通常の時間帯で測定するということであり、最低基準ですから、暗くなる時間帯においても照度基準を満たすのか、補助照明がいるのかということになります。
 照度の測定は、実際に行ってみるとデリケートです。照明の整備状態はもちろん、壁の色を塗り替えるだけでも明るさは変わってきます。測定方法の詳細を厚生労働省として示したものはありませんが、作業面、通常は机の上での測定だということです。机上の複数の場所、4か所なり6か所なりに照度計を置いて測り、その平均値を取っていますが、測定者の服の色も影響しますから、照度の値を正確に知りたい場合には、照度計のセンサー部分のみをケーブルで1mほど伸ばして、測定者は離れてメーターを読むということをします。
○高田座長 ほかに御質問はありますか。林委員、お願いします。
○林委員 1つお伺いしたいというか、確認したほうがよいかと思ったことがあります。事務所則だと、作業面の照度を規定しています。そうすると、事務所における作業面というのはデスクの上と考えるのか、場合によっては床面で作業をすることもあるというように、幅広く考えるのか。そこら辺は結構明確にしておかないと、タスク・アンビエント・ライティングのようなものをどう評価するかというのが、はっきりしなくなるのではないかと思うのです。吉武先生のお話の学会等の基準などでは、どうなっているのですか。
 もう1点は、高齢者がだんだん増えてくるということで、その影響について、こういった基準では何か検討されているのか、教えていただけると有り難いです。
○吉武委員 先に一言、私のほうから申し上げます。作業面の話は、非常に重要な話です。今回の事務所則の中では、作業面と書かれていますので、そこをきちんと決めることになるのですが、JISの中ではどう書かれているかというと、基本的には基準面で測定しましょう、ということが書かれています。そういった意味で、作業をする場合には作業面になります。基準面が特定できない場合には一般的に、床に座った作業の場合は40cm、机上作業の場合は80cmを測定します。あるいは床面を基準面とすることもあります。
 御存じのとおり、光源から離れるに従って、距離の二乗に反比例して暗くなっていくので、床面と机の上でも全然照度が違ってくるのです。あとは作業面だと、アンビエントライトやタスクライトなどを使って規格を満たすということでも、よいということになります。作業面での照度に関しては、非常に重要になりますから、事務所則の運用においてもしっかり決めておかないといけないと思います。
○高田座長 では、事務局からお願いします。
○搆主任中央労働衛生専門官 事務局から補足します。おっしゃるとおり、作業面の照度と明示されていますので、通常は床ではありません。床面で作業をする場合は例外で床面ということです。アクティブ・アンビエント・ライティングの話がありましたが、作業面以外の規定はありません。作業面そのもの、例えば机の表面が上下するものを導入しているオフィスにおいては、下限値すなわち最も下げた場合に暗くなるとすれば、そこで事務所衛生基準規則で照度基準を満たすかどうかということになります。
 それから、高年齢労働者についてです。視力については、60-70歳代ということでなく、40代から視力の低下が始まるとされていますので、それらを含むすべての人たちに対して十分な照度、明るさの確保が必要です。ただ、視力が落ちたからといって、明るくすればよいということではなく、見やすい明るさというものがあると思います。したがって、事務所衛生基準規則で定めるべき照度というのは、様々な年齢の人たちも含めて、必要な最低限の照度を定める必要があります。
○高田座長 高年齢者について、吉武委員から何か補足はありますか。
○吉武委員 一般的に高齢になるほど高い照度が必要になるというのは、視覚機能の生理的老化のため生じる現象です。ですので、それを考慮した上で照度の設定と言いますか、条件を決めることが一般的です。一方で高齢者は、まぶしさを感じやすくなるという場合もあります。水晶体の混濁等でまぶしさを感じることがありますので、その折り合いを付ける必要があります。照度だけからすると、当然明るくしたほうが見やすくなるのですが、それ以外の要因も考慮した上で、照明環境を配慮していくことが重要かと思います。
○高田座長 ほかにはよろしいでしょうか。
○冨高委員 輝度というものが重要になってくる、というご説明がありました。特にリモートワークなども含めて、今はPCを使っていらっしゃる方、又はスマホなどを作業に使われている方も非常に多いかと思うのです。ここにも輝度を考慮するというようにと書かれているのですが、これを具体的に何かの形で規定したほうがよいのかということについて、吉武委員のお考えがあったら、教えていただきたいと思います。
○吉武委員 正に私の研究テーマのひとつでした。昔の装置は、輝度を出すことが難しく、情報機器の明るさが足りなかったため、いろいろな規格やガイドラインでは下限値が決められています。35cd/m2という基準や、規格の中ではある一定以上の輝度が要求されていたのですが、最近は技術の発展とともに、すごく明るくなっています。スマホなどは、今は明るすぎる場合がありますから、上限を考慮するという話は確かにあります。
 例えば、ゲームをやっているお子さんがすごく明るい環境でやっていても、外でゲームをしている場合には、高輝度は問題にならないのですが、周りが暗くなって、例えば夕方になって急激にまぶしさを感じはじめても子供たちは気付かずにそのままやっている場合があります。そういった場合の配慮は必要なのですが、基準という形で具体的には示されてないと思います。ただ、コントラストが基準になりますから、コントラストが低すぎない、高すぎないということがポイントになります。
 低さに関しては、先ほど申し上げた3対1があり、それをベースにいろいろな条件で若干変動します。高すぎないというところに関しては、まぶしさを感じないというのが基本で、作業性に関して上限値の規定は、ほとんどなされていないと思います。ただ、まぶしさは気付きやすいことから今のところ大きな問題は、多分出ていないように思います。現在、VR機器等に関してもISOなどでガイドライン化がはじまっているので、今後、出てくるのではないかと思います。
 一般的な視作業では、コントラストが低すぎないように気を付けて、基準もありますので必要に応じて参照いただくとよいと思います。昔、暗い所で本を読むと目が悪くなるという話がありました。コントラストは一定と申し上げましたが、暗い場所では、より高いコントラストが必要になりますので、一定以上の照度が必要になります。暗いほうに関しては指針があり、高いほうに関しては、必ずしも数値で示しているものはないと考えていただいてよいかと思います。
○高田座長 ほかに何かありませんか。住徳委員、お願いします。
○住徳委員 先ほど高齢者の対応についての話があったと思うのです。高齢になってきた場合に視力に影響が出るというのは、十分分かっています。例えば一般的な老視に関しても、発現年齢に非常に個人差があります。また、白内障や緑内障、加齢による網膜変性といった疾病的なものに全部対応していくのは、非常に難しいことだと思います。例えば、誰でも起こるというと、大体老視になると思います。次に発現率が高いのは白内障かと思います。例えば、70歳まで労働者が働くとした場合に、そういった一般的な視力や老化現象に対して、今回御推奨いただいた照度は、これだったら大丈夫でしょうというものになるのか、個人差に対応するという限界を除いて、70歳まで働く人たちが増えた場合、このぐらいの照度であれば問題ないのではないか、という部分なのかなということを確認させていただきたいと思います。
○吉武委員 視作業に関する高齢者の具体的な対応については、私自身がデータを取ってはいないので、例えば横浜国大の岡嶋先生とか、ご専門の先生がいらっしゃるので、確認できればと思います。
 高齢者に関してはおっしゃるとおりで、まずは老視が一番問題になります。調節力が低下する、これは誰にでも起こることです。一番重要なのは、きちんと矯正することです。矯正することは誰にでもできるので、適切に矯正することが重要で、ガイドすべきことです。矯正せずに作業を続けると、眼精疲労を生じます。矯正することで、今回の照度基準において、一般的な視作業はそれほど大きな支障はありません。疾病がある場合は別ですが、ある一定以上の照度があれば、高齢者でも支障なく作業ができると思います。
 JISの中でも高齢になった場合は少し照度のランクを上げたほうがよいということも書かれています。また、個人差はすごく大きいので、上げなくても作業に支障のない方もいらっしゃいますから、個別に対応していくことが大切です。全体の流れとしては、おっしゃるとおりなので、以上のようなことを理解していただくようなガイドを示すべきではないかと思います。御説明になっていますか。
○住徳委員 ありがとうございます。
○高田座長 事務局からありますか。
○搆主任中央労働衛生専門官 事務局からも補足させていただきます。これは基本的にどのような作業を行うかということと、非常に関係してくると思うのです。事務所衛生基準規則というのは49年前の基準なので、事務所の年齢構成も、平均すれば高齢化が進んでいるということだと思いますから、現在の年齢分布に対して、いかがかということで検討いただいています。実際には、法令基準としての下限値を定めたとしても、事業場ごとに具体的な作業を念頭に検討すれば、より高い下限値とすべき場合もあります。どのような環境でどのような作業を行っているのか、それを何時間繰り返すのかなどにより、衛生委員会などで適切な照度を議論する必要もあります。
 吉武委員の説明にあったとおり、事務所衛生基準規則においては、健康障害が起きないための基準を定めることが重要ですが、実際の事業場では、それ以外に作業性や生産性、効率の問題もあります。目が疲れてしまって間違いが出るとか、作業が遅くなるということに対応することも必要でしょうが、事務所衛生基準規則でこれらをカバーできるわけではありません。快適職場の指針の中に個人差への配慮という事項もあり、明るさの基準で円滑に作業ができるようにということも必要ですので、事業場ベースでは、生産性等も考慮し、作業のしやすさ、疲れにくいということも考慮したものを設定してもらうことを期待しております。
○高田座長 よろしいでしょうか。今回、事務所衛生基準規則の照度基準の最低基準ということで、吉武委員にお示ししていただいている案に、大きな反対の御意見はないようですね。御指摘いただいた高齢者の問題や輝度の問題というのは、事務所衛生基準規則以外にも快適職場指針とか、情報機器のガイドラインなどもありますので、そういったものも含めて適切に対応していただきたいというのが、皆様の御意見かと思います。そういう方向で、また事務局のほうでおまとめいただければと思います。よろしいでしょうか。それでは、照度基準については、おおむね審議を終えることができました。もし更に追加で確認すべき点や指摘事項がありましたら、12月8日までに事務局まで御連絡を頂きたいと思います。よろしくお願いいたします。
 それでは、次の議題に移ります。議題(3)空気環境について議論をさせていただきます。まず建築物の衛生の概況について、北海道大学大学院工学研究院建築都市部門空間デザイン分野環境空間デザイン学研究室の林教授より、資料4に基づいて御説明をお願いしたいと思います。
○林委員 資料4を御覧ください。事務所の空気環境の実態というタイトルが付いています。この内容は、厚生労働科学研究で行われている、事務所を中心とした特定建築物の研究の結果をお示しするものです。2ページに建築物衛生法のことが書いてありますが、こちらは皆さん御存じのとおりのことと思います。特定建築物の中で事務所は41%と、最も多い用途になっています。3ページに空気環境の基準が書いてありますが、特に見ておいていただきたいのは、二酸化炭素は1,000ppm、温度は17~28℃、相対湿度は40~70%になっています。
 4ページに建築物衛生法の仕組みが書いてあります。図の左のほうに特定建築物と書かれていますが、3,000m2以上、学校では8,000m2ですが、そういった建築物を対象にして、都道府県、保健所設置市が立入検査を行っています。その結果は、行政報告例という形でまとめられていますが、この後、いろいろと実態を御説明するために、立入検査の方法について、最初に少し御紹介したいと思います。
 立入検査そのものが行われているのですが、別の方法で、報告徴取という形で情報が集められています。これは、自治体の環境衛生監視指導員が空気環境測定のデータを用いて基準の適合状況を判断するものです。もちろん、立入検査の場合は、立入検査という形で適合を判断しています。このデータを見ますと、実態が分かってくるということです。
 そういったことを5ページにある研究で分析をしています。この実態を簡単に御説明したものが、6ページからあります。6ページの左の図は、特定建築物が日本全体で少しずつ増えていることを示しています。右側の図は、オレンジの線が日本全体の特定建築物の数ですが、日本全体でも当然増えています。茶色は立入検査の数ですが、特定建築物が増えたからといって立入りを増やすことは、実際になかなか難しいという状況です。
 こういう中ですが、7ページに不適状況について簡単に書いています。これは、真ん中の図は給水に関する不適ですが、これについては一時的に上がることはありましたが、特に不適率が変化しているという状況ではないです。雑用水については、途中からできていますが、これはむしろ不適率が減少しているという状況になっています。
 給水や雑用水がこういう状況ですが、空気環境はどうかというのが8ページです。相対湿度と温度とCO2の線が出ていますが、不適率は1999年頃から上昇をして、相対湿度は60%近くが不適になっています。CO2についても、30%近くが不適になっているのが現状です。この原因については、特定するのはなかなか難しい状況ですが、1つは省エネが進んだこととか、東日本大震災の節電、こういったことが影響しているのではないかと我々は考えています。
 ここで、最初にお話した立入検査の方法、情報収集の方法の変化も、少し気になるところですが、9ページに立入検査や報告徴取による違いが書いてあります。立入検査は、例えば実際に現場に行って、状況を判断して、これは不適であるかどうかを見るわけです。そうした場合には、左の上の図にありますように、これはアンケート調査の結果ですが、立入検査をして1回でも不適な状況があれば、不適とするのが39%です。それに対して、報告徴取は、1年間のデータを収集しますので、立入検査で行ったときの状況以外のことも見ることができることになります。
 そうすると、下の図にありますように、1年間の中で1回でも不適なデータがあれば、これは不適とすることになります。そうすると、報告徴取という方式が増えれば、当然、不適率は上がってくることになります。実際、立入検査に対する報告徴取の比率は増えてきていますので、それだけでも不適率が上がるという仕組みになっています。しかし、それだけではないと考えています。それを10ページにまとめています。
 例えば相対湿度の不適率が上がっているという原因ですが、省エネルギーのために暖房の温度が低くなっています。例えば、今まで20何度で設定していたものが、20度だったり19度だったりということになります。そうすると、最も普及している気化式加湿器は、温度が低くなると湿度が乗らなくなる状況が起きてきて、加湿がうまくできないことが起きているだろうと考えられています。冷房時には、設定温度が高くなると、冷房が動かない時間が増えてくるわけです。冷房が動かないと、除湿もできないので、そうすると湿度が高いままになってしまうことがあります。温度は先ほどのとおりです。外気温度が上昇していることも、多少影響しているかもしれないです。
 二酸化炭素は換気に関わるものですが、都市では二酸化炭素濃度は上がっています。それから、省エネルギーのために、換気量が削減されることも起きているだろうと考えられます。それから、個別空調の普及。個別空調が普及すると、中央式空調に比べると、建物全体のコントロールが少しできづらくなってきますので、そうすると建物全体として換気量が減少して、それでCO2濃度が上がっていくことも考えられます。
 11ページに、特にCO2について、いろいろな自治体でCO2の不適率が上がっています。例えば、東京はさほど上がっていないというように、自治体によって状況の違いはあります。これについては、なかなか分析が難しいのですが、全体的な傾向としては、12ページにも書いてありますが、1999年辺りからCO2の不適率は一直線上に上がってきています。この原因を明らかにして、こういうことが起きないようにすることが大きな課題になっているわけですが、それを少し分析したものを御紹介したいと思います。
 13ページが、都市のCO2濃度の上昇を示しています。左の図がそうですが、大気自体に濃度上昇は起きています。都市のほうが、更に高い所を、より速い速度で上がっているかもしれません。そのような経過があります。外気の濃度が上がれば、室内のCO2が上がるのは、当然起きることです。そういったことがどれぐらいの比率で影響しているのかを分析したものが、14ページになります。これは、手に入る情報を最大限にいかして分析をしたので、どれぐらいの精度があるかは議論があるところではありますが、これは1998年の段階からの差を取っています。一番右の所を見ていただきますと、1998年に対して外気濃度が上昇することで、3%ぐらい不適率が上がっているのではないかと推定をしました。それから、先ほどの報告徴取の増加です。情報の収集方法による違いが、これは結構大きくて、12%ぐらいあると考えています。ただ、換気量の低下も想定しないと、説明が付かないということで、それが7%ぐらいあると考えています。このように特定建築物は、自治体が監視をしている、そういう状況でも、こういうことが起きています。
 それ以外の建物がどうかということも、厚労科研で検討を行っています。その結果を簡単に御紹介します。15ページに日本の建物の全体の数が書かれていますが、一番上の事務所の一番右のオレンジとグレーの所、これが特定建築物、レベルの大きい建物です。その下に中規模の建物があり、ここは特定建築物ではないので、実際の監視等も余り行われていない、特定建築物のようには行われていないという状況です。こういった特定建築物以外は、より心配される状況が考えらますので、まず中規模建築物の調査を行っています。16ページは、昨年度まで行ってきた調査の概要です。ここにはいろいろな建物が少し入っているのですが、ほとんどは中規模建築物のデータとして見ていただければと思います。
 17ページに事務所のCO2濃度が書かれていますが、中規模の建築物でも、平均でも1,000ppmを超える所はある程度はあるという状況です。場合によっては、開放式の暖房器を使って非常に濃度が高い場合があったり、恐らく換気が常時不足している状態で、常に2,000ppm程度になっている建物があったりと、そういう状況があり、大分幅があります。きちんとコントロールできている所もあるのですが、そうでない所もあるということです。
 18ページに中規模の建物の概況を示していますが、特定建築物で見られるような問題が、中規模建築物でも見られるということと、もう1つは、特定建築物のような監視が行われていないこともあって、少しばらつきが大きいということです。少し問題の大きい場合が見られると、これまでの調査ではこのような結果です。
 これは健康にどういう影響を与えているかもこの研究で従来行われており、簡単に御紹介しますと、20ページです。シックビルディングシンドロームですが、事務所での調査の結果が右下に書いてあります。1990年代の米国での調査と比べると、低い状況ではありますが、ただ、シックビルディングシンドロームを持っている人は、ある程度いるという結果になっています。
 21ページも同じような調査ですが、この図の一番右側、これらの症状で、いずれか強、いずれか弱という所を見ていただきますと、何らかの症状を持っている人は、40~50%いるという結果になっています。ですので、室内の温度や相対湿度、特にCO2の状況が、少しずつ悪化している状況の中で、それがシックビルディング症候群にどのように関係しているかは、まだはっきりは分かっていません。ただ、この調査とは別のエビデンスでは、CO2濃度が上昇すると、シックビルディングシンドロームの比率が高くなるというエビデンスはありますので、これは注視していく必要はあると考えています。
 最後に、まとめにありますが、今、注目しているのは、一番下にありますが、個別空調です。特に個別空調は、建物全体の換気等のコントロールがなかなか難しい面があって、それがどういう影響をもたらしているかを把握して、そういった場合にどういう運用をすればよいかということを明らかにして、改善ができればと考えている状況です。以上、駆け足で申し訳ありませんでしたが、御報告します。
○高田座長 林先生、ありがとうございました。資料5を一緒に説明していただいた後に、質疑応答に移ります。資料5について、事務局より説明をお願いいたします。
○搆主任中央労働衛生専門官 空気環境の論点については、前回までに整理したもので、事務所の適切な空気環境管理の観点から、二酸化炭素濃度の管理をどのように行うべきかということでした。端的には、事務室の作業環境測定は、2か月以内ごとにということで求められており、以前から、有機溶剤や特定化学物質のような有害物の作業環境測定が6か月ごとであることとのバランスも、指摘されてきたところです。
 事務室の作業環境測定は1ページにあるとおり、中央管理方式の空気調和設備を設けている事務室を対象として、一酸化炭素・二酸化炭素の含有率、それから室温・外気温、相対湿度について行うこととされています。このうちの室温・外気温、相対湿度については、平成16年の改正で、一定条件の下、春、夏、冬など、年3回でよいこととなりました。
 次のページを御覧ください。そもそも事務所衛生基準規則で、なぜ空気調和設備等を設ける場合に、事務室供給空気の質を保つ必要があるのかということです。先ほどの林委員の説明とも関連しますが、空気調和設備は、事務室に空気を供給するものですから、供給される空気やその方式に問題があると、室内全体の汚染や不快性につながるということからきています。
 シックビル症候群の話がありましたが、こちらは10数年前に国内で問題となったシックハウスよりずっと以前から、アメリカなどでは50年近く前から問題とされてきたもので、オイルショックで換気を過度に抑制した時期と重なり、原因は正確には分かっていないけれども、事務所で働く人の不定愁訴が急増したということです。
 当時、二酸化炭素の基準値として、10,000ppmなどという州法もあったそうですが、日本でも建築物の気密化が進み、換気の状況によってはリスクがあるということで、事務所衛生基準規則においても規定されているところです。今回の検討は、二酸化炭素などの基準を変えるかどうかという議論ではなくて、作業環境測定のあり方に絞って行っています。
 3ページ目を御覧ください。作業環境測定については、先ほど申しましたとおり、中央管理方式の空気調和設備を設けている事務室が対象になりますが、測定点と時期が具体的に定められています。原則として、検知管を用いて、一酸化炭素、二酸化炭素の濃度を測定することになっています。この検知管というのは、鉛筆ぐらいの棒状のガラス管で、次の4ページに図がありますが、両端をカッターで折り取って、ガス採取器でピストンを引いて、この中に空気を通します。その目盛から濃度を読み取るという方式です。
 作業環境測定基準では、検知管又は同等以上の性能の機器ということになっていますので、4ページに示す検知管の指示精度を満たせば検知管以外でも現行でも使えます。具体的に何が使えるかということについては、作業環境測定基準では具体的な定めはありませんが、建築物衛生法では5ページのように、以前から具体的な方式の電子機器が認められているということです。この検知管による測定は、簡便で安価な方法だということですが、実験器具ですので、時折、厚生労働省にも検知管以外の方法は駄目なのかという問合せが出てきています。この作業環境測定のあり方がポイントです。
 先ほどの林委員の御説明にもありましたとおり、事務所の空気環境の維持管理の状況については、建築物衛生法の資料によると、二酸化炭素では、全体として改善されているとはいえず、悪くなってきているということで、作業環境測定による空気環境の確認が必要と思われます。また、新型コロナウイルス感染症の対策として、事務室内の換気の重要性が、一層高まっているところでもあります。
 一方、第1回目の議論でも御紹介しましたとおり、令和元年度の労働安全衛生研究所による実測調査を行いました。自動制御機能を設けた空気調和設備など、必要な換気性能を有すると考えられる建築物も増えてきているので、それらを中心に限定的に10社で実測した範囲においては、運用によっては、二酸化炭素などを適切に管理できるということが分かりました。運用次第ということですが、具体的には、在室者に応じた十分な気積、広さが常に確保できるかということと、実際に、空気調和設備を適正に濃度制御して運転しているかということです。したがって、こうした状況から、事務局としては作業環境測定頻度を減らすということではなくて、事業場の担当者が自主的に作業環境を把握、管理することができるような方策を提案することとしたいと思います。すなわち、検知管に代わり、作業環境測定に使用可能な電子機器を、作業環境測定基準の運用として、具体的に示すということです。建築物衛生法令で運用上認められている、ちょうど5ページのような一酸化炭素の定電位電解法や、二酸化炭素のNDIRすなわち非分散型赤外線吸収法など、既に使われているものがあります。こちらは問合せがあれば、現在でも検知管に代わって使えますということを答えていますが、安全衛生行政においてもこれをしっかり運用上示したほうがよいのではないかと、そのような提案です。
○高田座長 ありがとうございました。林委員の説明と事務局の説明について、御質問、御意見がありましたら、お願いいたします。林委員の調査は資料が膨大となっておりますので、確認に時間が掛かるかもしれませんけれども。林委員からは、事務局の提案について、何か追加で御意見はありますか。
○林委員 特にないのですけれども、CO2をモニターすることが、より広がっていく方向にあるのは望ましいと思います。
○高田座長 ありがとうございます。今回、御専門で柴田委員、齋藤委員にお越しいただいておりますけれども、何か御意見はありますか。柴田委員、何か追加の御発言はありますか。
○柴田委員 今の内容に関しては、大丈夫です。
○高田座長 齋藤委員はいかがですか。
○齋藤委員 大丈夫です。
○高田座長 測定機器についても、何かコメント等はありますか。よろしいですか。そのほかに御意見はありますか。そうしますと、今、林委員から貴重なデータの発表がありました。相対湿度の問題、温度の問題、それからCO2濃度の問題ということで、特にCO2濃度、換気についてモニターしていくことの重要性の御説明がありました。事務局からは、作業環境測定の現状と今後のことということで、まず作業環境測定の一酸化炭素、二酸化炭素の測定の頻度自体は、現行のまま維持をしていきたいと。そちらについては、今、新型コロナウイルス感染症等、先ほどの林委員からの調査結果等もありますので、それは維持していくとして、測定機器については検知管以外に、代替できる測定機器として、建築物の衛生管理基準で現に用いられている機器として、事務局資料の5ページに挙げられているような機器でモニターしていくようなことも、併せて示していくということですね。示し方は、事務局で検討するということだと思いますけれども、そのような方向については専門の先生方も問題ないということでよろしいでしょうか。
 それから、以前の柴田委員の調査にもありましたけれども、空気調和設備で自動調整可能な運用をしている場合の取扱いということで、柴田委員から運用状況について、何か追加はありますか。
○柴田委員 特にありません。
○高田座長 そういったところも、検討していく余地があるところです。あとは、明石委員、住徳委員、冨高委員、何か追加はありますか。よろしいでしょうか。事務局で、特に何か確認しておきたいことはありますか。
○搆主任中央労働衛生専門官 確認事項ではありませんが、説明を補足させてください。検知管以外の方式というのは決して新しいものではなくて、以前から運用されてきた実績がありますが、最近は、良い機器がたくさん出てきていると聞いています。精度も検知管と比較して決して劣りませんが、専門家や測定機器メーカーから話を聴いたところでは、経年変化で精度が落ちることがあるとのことです。5ページの下のところに、資料にあった注意事項をそのまま掲載しましたが、センサーの劣化による測定値のずれがないかどうかよく確認が必要ということです。測定機器を適切に管理しさえすれば、事務室でも正しく簡便に測定できるわけですから、2か月ごとに限らず、自主的により頻繁に測定して、事務室の空気環境の確認を推奨していきたいと思います。
○高田座長 ありがとうございます。何か補足はありますか。よろしいですか。
○住徳委員 確かに、検知管は安価だというのが利点だと思います。今のコロナ禍において、CO2センサーを用いた測定機器が普及しているようですが、較正が必要になるということだと、機器の細部基準や校正などが示される予定はあるのか、また、専門家の先生方に、今、普及している機器が作業環境測定にも対応できるようなものなのかということについて、教えていただけたらと思います。
○高田座長 柴田委員、お願いします。
○柴田委員 こちらに掲げられている測定機器の精度という意味合いでは、きちんと維持管理がされている状態では、検知管よりもはるかに高精度ですし、検知管のような取扱い方法による誤差もありません。私が10社の測定に立ち会い感じたのは、電子機器のほうがデータを自動的に取り込めるなど利便性が高く、担当者の異動による混乱も少ないように思います。ちなみに、私も20年以上前からこのNDIR方式のものや定電位電解法のものを使っていますが、最近はゼロ点のドリフトなども大分安定してきていますし、センサー自体の開発も進んでよいものが出回っています。
○高田座長 齋藤委員、追加がありましたらお願いします。
○齋藤委員 柴田先生がおっしゃったとおりです。定電位電解法もNDIR法も、かなりコンパクトになってきてはいるのですけれども、建築物衛生法で使われている測定器は、大体検知管に準拠して、CO2センサーであれば、分解能は50ppmぐらい、測定機器のばらつきも50ppm程度はあるという話です。一酸化炭素については、通常、1ppm前後までは図れますが、事務室内ではそれに満たず、定量下限以下という場合が多いです。事務局資料にもあった測定上の注意点は重要で、センサーの交換なりメンテナンスなり、測定値の前のスパン調整やゼロ調整をやらないと、何を測っているか分からないということになってしまいますので、ここが結構重要なのかなと思います。
○高田座長 ありがとうございます。事務局、お願いいたします。
○搆主任中央労働衛生専門官 事務局から較正などを基準で示すかどうかということについては、その予定はありません。校正した機器でないと使えないというものではありません。ただし、校正の重要性については、ご指摘のとおりですし、この検討会の報告でも明記すべきと思います。実際には、1つの企業で複数の測定機器をもっている場合に、定期的に持ち寄り親機と値を確認するとか、リース方式の場合は、定期的に動作確認したものを用いるなどが現実的と思います。
○高田座長 よろしいでしょうか。ほかにありますか。私から1点質問いたします。外気の二酸化炭素濃度が最近上がってきていますけれども、それによる、このようなCO2モニターの測定での影響や留意点は、何かありますか。
○柴田委員 二酸化炭素の濃度を測定する電子機器の中には、補正の仕方として、外気の濃度を基準にして、定期的に補正を掛けるような機能を持っている装置もあるのです。その機能を使う場合には、ちょっと注意を要することがあります。それに対して、ノーマルにゼロ点を補正する方法を使うことによって、その影響は排除することができるということです。
○高田座長 ありがとうございます。では、補正方法にも留意点が必要だということですね。ありがとうございました。そのほかにありますか。よろしいでしょうか。そうしましたら、おおむね審議を終えることができました。もし追加で確認すべき点や指摘事項がありましたら、先ほどの照度基準と同様に、12月8日までに事務局まで御連絡いただきますよう、お願いいたします。事務局は本日の御意見を基に、更に取りまとめていただきたいと思います。
 本日予定している議題は以上です。その他として、委員の方から御発言はありますか。よろしいでしょうか。それでは、本日の議論はここまでといたします。次回は、第2回検討会で審議をした、トイレ設備の基準について整理したものを事務局で準備していただくとともに、方向性について議論をいたします。それでは、進行を事務局にお返しいたします。
○矢吹有害作業環境指導係長 次回の第4回検討会については、改めて日時を御連絡いたします。以上をもちまして、第3回事務所衛生基準のあり方に関する検討会を終了いたします。ありがとうございました。