2020年7月21日 第2回「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」 議事録

日時

令和2年7月21日(火) 17:00~19:00

場所

中央合同庁舎5号館厚生労働省労働基準局第1会議室(16階)
(東京都千代田区霞が関1-2-2)

出席者

参集者:五十音順、敬称略
磯博康、小山勉、杉薫、髙田礼子、高橋正也
嵩さやか、豊田一則、西村重敬、野出孝一、水島郁子

厚生労働省:事務局
松本貴久、西村斗利、西岡邦昭、中山始、中村昭彦 他

議題

  1. (1)脳・心臓疾患の労災認定の基準について
  2. (2)その他

議事

議事録


○中村職業病認定対策室長補佐 これから第2回脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会を開催いたします。本日司会を担当させていただきます中村と申します。よろしくお願いいたします。
 なお、今回は都合により小山委員、嵩委員、豊田委員、野出委員、水島委員の5名は、オンラインでの参加となります。オンラインで参加される委員の皆様方にお願いがございます。前回と同様に、意見等を発言する際にはマイクのミュートを解除した上で、お名前と発言があります旨の発言をしていただくか、または、インスタントメッセージで「発言があります」と送信していただき、さらにこの後、座長から「誰さんお願いします」と指名させていただいた後に、発言をお願いいたします。御協力をよろしくお願いいたします。
 また、大変申し訳ございませんが、通信が不安定になったり、通信速度が遅くなったりすることで、内容等聴き取りにくい場合があることに御容赦願います。
 傍聴される方にお願いがあります。携帯電話などは必ず電源を切るか、マナーモードにしてください。そのほか、別途配布しております留意事項をよくお読みの上、検討会開催中はこれらの事項をお守りいただいて、傍聴されるようお願い申し上げます。また、傍聴される方にも会議室に入室する前に、マスクの着用をお願いしておりますので、御協力をお願い申し上げます。万一、留意事項に反するような行為があった場合には、この会議室から退室をお願いすることがありますので、あらかじめ御了承ください。写真撮影はここまでとさせていただきます。以後、写真撮影等は御遠慮いただきますようお願いいたします。
 委員の皆様におかれましては、大変お忙しい中、会議に御出席いただきありがとうございます。磯座長、以後の議事の進行をよろしくお願いいたします。
○磯座長 それでは議事に入る前に、事務局から本日の資料について確認をお願いいたします。
○中村職業病認定対策室長補佐 それでは、資料の確認をさせていただきます。本検討会はペーパーレスでの開催とさせていただいておりますので、お手元のタブレットで資料の確認をお願いいたします。本日の資料は、資料1「脳・心臓疾患の労災補償状況等」、資料2「脳・心臓疾患事案に関する審査請求・訴訟の状況」、資料3「脳・心臓疾患等の現状」、資料4「脳・心臓疾患の労災認定に関する関係法令」、資料5「脳・心臓疾患の認定基準の改正の経過について」、資料6-1「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」、資料6-2「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準の運用上の留意点について」、資料7「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書」、資料8-1「平成30年度業務上疾病に関する医学的知見の収集に係る調査研究報告書」、資料8-2「令和元年度業務上疾病に関する医学的知見の収集に係る調査研究報告書」、資料9「過重負荷の考え方について」、資料10「今後の検討の進め方について」、資料11「脳・心臓疾患の認定基準・過重負荷の考え方についての最近の裁判例」となっております。
○磯座長 それでは次に、本日の検討会の進め方について事務局から説明をお願いします。
○中村職業病認定対策室長補佐 今回の検討会は全般的な検討・検証の実質的な初回となりますので、まず、脳・心臓疾患に関する現状、認定基準のこれまでの経緯、医学的知見の収集状況等について御説明させていただいた上で、認定基準の基礎となる「過重負荷の考え方」と「今後の検討の進め方」について御議論いただきたいと思っております。そこで、大きく5項目に分けさせていただきます。まず1項目として、「脳・心臓疾患をめぐる現状」、2項目として、「これまでの認定基準の改正の経緯とその考え方」、3項目として、「平成30年度、令和元年度に事務局が収集した医学的知見」の3項目につきまして、順次、事務局から御説明させていただきます。
 次に、「過重負荷の考え方について」、「今後の検討の進め方について」の2項目につきまして、順次、委員の方から御意見をいただきたいと存じます。よろしくお願いいたします。
○磯座長 それでは、ただいま事務局から説明がありました項目の順番に、議事を進めたいと思います。では、脳・心臓疾患を巡る現状について説明をお願いします。
○西川専門官 それではこれからの議論に先立ちまして、現状について委員の先生方に共通の認識をお持ちいただくために、まず資料1から資料3によりまして、脳・心臓疾患の労災認定や脳・心臓疾患の死亡率、患者数などの現在の状況について、御説明させていただきます。
 はじめに資料1「脳・心臓疾患の労災補償状況等」を御覧ください。いわゆる過労死等の労災補償状況については、毎年度6月頃に公表を行っているところですが、これを経年的に、前回の脳・心の認定基準の改正をした平成13年度以降でまとめたものとなっています。全部で、1から6まで6つの表に分けて整理しておりまして、表のページの次にグラフのページという形になっています。
 2ページ目を御覧ください。1「脳・心臓疾患の請求・支給決定状況」です。平成13年12月に認定基準が改正されていますので、平成13年度の件数については、認定基準の改正前のものと、改正後のものの両方の件数を含んでいるところです。この年は支給決定が143件でしたが、平成14年度は317件というように、平成14年度以降、大きく増加しております。また、御参考までですが、平成12年度、改正前の年度の支給決定件数は85件でした。3ページを見ていただきますと、グラフが表示されています。平成13年度に比べまして、その後、平成14年度以降が大きく増加していることがお分かりになると思います。年度によって、増えたり減ったりということはございますが、認定基準改正以後は、おおむね年300件前後という形で推移しているところです。
 4ページです。業種別の支給決定件数です。こちらは、上から4行目の運輸業・郵便業の数字が一番多いという傾向がずっと続いているところです。直近の令和元年度を見ていただきますと、次に多いのは5行目の卸売・小売業、その次が2行目の製造業という状況です。
 6ページです。3は職種に注目した表です。先ほど運輸業が多いというお話をさせていただきましたが、こちらも上から6段目ですが、輸送・機械運転従事者、いわゆるドライバーの方が非常に多いという傾向がずっと続いているところです。直近を見ていただきますと、次に多いのが1行目の専門的・技術的職業従事者、それから5行目のサービス職業従事者という状況になっております。
 8ページ目は、年齢別に支給決定件数をお示ししたものです。50代が一番多く、次に40代が多いという傾向はずっと変わっていないところですが、ここ5年ぐらいは、40代の次に多いのは60歳以上という状況です。平成13年度、平成14年度の辺りを見ていただきますと、60歳以上よりも30代のほうが多いという状況でしたので、ここは傾向に変化が見られるのかなというところです。
 10ページの5を御覧ください。こちらは時間外労働時間数別に認定事案を集計したものです。この統計は古いデータはございませんでしたので、平成19年度以降の集計という形になっております。認定基準の内容からしまして、多くは月80時間以上の時間外労働がある時間になっていますが、その他の要因を考慮するなどによりまして、80時間未満の事案も一定数あるというところが見て取れるかと思います。また、この表の合計のすぐ上に「その他」というものがありますが、こちらは、いわゆる長期間の過重業務ではなく、異常な出来事であるとか、短期間の過重業務により支給決定したものを、「その他」ということで表示しているものです。
 最後になりますが、12ページの6です。こちらは、疾病別で、脳血管疾患と虚血性心疾患の別です。こちらは13ページのグラフのほうが見やすいかと思います。青いほうの脳血管疾患のほうが一貫して多いという状況ですが、近年は脳と心臓の差が狭まってきているという状況にあります。こちらが、労災認定の現在の状況ということになります。
 続きまして、資料2を御覧ください。通しページでは14ページからになります。先ほどの資料1は、労災請求を受けた監督署長の決定、いわゆる原処分に関するものでしたが、資料2については、監督署長は不支給の決定をした場合にこれで不服であるということで、各都道府県労働局の労災保険審査官に審査請求が行われた事案の件数、また、次のページは、その後に訴訟になった件数の御紹介となります。
 こちらは平成21年度の分から御紹介させていただいておりますが、資料2の1枚目を御覧ください。審査官への審査請求は年100件前後で推移しているところです。そのうち、原処分が誤っていたとして取消しの決定をしたものが、年5件前後です。青い線が請求件数、緑の線が取消しの件数ということになります。
 審査官の決定に不服の場合には、労働保険審査会に再審査請求ができるところです。恐縮ですが、再審査請求の件数については、脳・心臓疾患だけでの分類を行っておりませんので、御紹介できないことを御容赦いただければと思います。
 次のページを御覧ください。「訴訟」とございます。再審査請求にも不服の事案などについて、監督署長の不支給決定の取消しを求める取消訴訟が提起されることがございます。通し番号の15ページです。脳・心の訴訟の新規提訴件数は、青い線ですが、長期的に見ると少し減ってきているのかなというところです。直近では、新規提訴件数が年10件前後です。判決件数は赤の線ですが、10件余りです。原処分取消の判決は年に2件前後というところです。
 この判決件数には、地裁のもの、高裁のもの、最高裁のものが全て含まれているというところです。最高裁の状況について申し上げますと、現在の認定基準で判断するようになってから、最高裁が自ら判示をしたものというのは、まだありません。全て上告不受理という形で、高裁の判決が維持されたものという形になっております。そして、国敗訴の高裁判決が上告不受理により維持されたものは、平成23年に1件ございます。こちらについては、個別の事案についての裁判所の考え方が示されたものというように行政では整理させていただいておりますが、それ以外の60件余りについては、国勝訴の高裁判決が維持されているというような状況です。
 続いて、資料3を御覧ください。労災補償を離れまして、人口動態統計であるとか、患者調査などによる脳・心臓疾患等の状況について御説明いたします。7つの表を御用意いたしました。1は死因年次別に見た死亡率で、「人口動態統計」からの資料という形になります。いわゆるがんの死亡率が右肩上がりとなっているというのが、非常に目立つ図となっていますが、高血圧性を除く心疾患も長期的に増加傾向にあるということが見えるところです。一方、脳血管疾患は灰色の実線ですが、昭和30年代から昭和50年代半ばにおいては最多の死亡率でしたが、その後、死亡率は減少傾向にあるという状況です。
 続いて、2の脳血管疾患や心疾患等の血管疾患の死亡率とそれぞれの内訳です。3つのグラフを並べていますが、一番上の脳血管疾患及び心疾患の死亡率については、先ほどの1のものと同じです。人口10万対で、昨年については心疾患で亡くなられている方が167人、脳血管疾患で亡くなられている方が86人、一番下が大動脈瘤及び解離ですが、こちらが15.2人という数字になっております。
 これの心疾患の内訳、脳血管疾患の内訳をお示ししたものが、下の2つのグラフになります。心疾患のほうを見ていただきますと、黄色の線の心不全が増えてきているという状況にあります。急性心筋梗塞は長期的に減少しまして、心不全が最多です。脳血管疾患においては、脳梗塞が長期的に減少傾向にはありますが、依然として最も多いという状況は変わらないところです。
 次のページの3を御覧ください。性別、年齢別に見た主要死因別の構成割合ということです。濃い青色の所が心疾患です。緑色の所が脳血管疾患になります。30代、40代以降、男女とも心疾患、脳血管疾患が一定の割合をずっと占めていくというような状況です。この3のほうは構成比ですが、4のほうは人口10万対の死亡率で、実数に近いものということになります。こちらは、心疾患、脳血管疾患ともに、年齢が上がるにつれ対数的に死亡者が増加していることが分かるかと思います。
 続いて5と6ですが、「患者調査」による患者数の統計です。上の表は、総患者数の推計ですが、高血圧性の疾患をお持ちの方は993万人ぐらいいらっしゃるであろうといった推計になっています。心疾患で入院や通院をされている方が約170万人、脳血管疾患の患者は約110万人いらっしゃるというところです。下のほうの6のグラフは、ある日の受診者から出した推計患者数ということで、上とは一致しないのですが、年齢別の数字になっております。こちらも、年齢が上がれば患者数が増加するというような状況が見て取れるところです。
 最後に7です。こちらは、疾病の話を離れまして、働く人の状況で、「労働力調査」による就業者数の推移です。日本の人口自体は、ここ数年、既に減少に転じているところですが、青とオレンジの合計が総就業者数で、この就業者数は微増という状況です。特に、65歳以上のオレンジの所の就業者が増加しまして、その構成比が真ん中に示している灰色の折線グラフですが、こちらも上昇しているといった状況にあります。資料1から資料3による現状の御説明は以上となります。
○磯座長 それでは、ただいまの事務局の説明に対して、何か御質問がありましたら、御発言ください。
○豊田委員 最初の資料ですが、業種として運輸・郵送業が多くて、その後、表3で、もう一度そのことを説明なさったのですが、よく分からなかったのですが。
○西川専門官 資料1の4ページの2の表ですが、業種別の支給決定件数です。4行目の運輸業・郵便業が一番多いというところで、御説明をさせていただいたのはその後、直近の令和元年度の数字では、運輸業・郵便業の68件の次に多いのは、その1つ下の卸売・小売業の32件、その次に多いのが、上から2段目の製造業の22件という形になっております。このようなことを御説明させていただいたところです。
○磯座長 よろしいでしょうか。
○豊田委員 運輸・郵送業が極めて多かったので、その特定の、その中の更に具体的な業種、例えばタクシーの運転手であるとか、シフトワーカーであるとか、より詳しい情報が分かれば教えてください。
○西川専門官 運輸業・郵便業の中ですが、これは、いわゆる産業分類の大分類ということになりますが、中分類での統計も、この場には出させていただいておりませんでしたが、集計しているところです。
 口頭で御説明させていただくことになるのですが、この運輸業の中で最も多い中分類の業種は、道路荷物運送業、いわゆるトラックの運送の事業です。こちらが令和元年度でいいますと61件ということで、多くを占めるという状況です。その次は、道路旅客運送業ということで、こちらは5名ということですので、大分差が開いて、道路荷物運送業が多いという状況です。
○豊田委員 よく分かりました。ありがとうございます。
○磯座長 ほかに御質問等はございませんか。よろしいでしょうか。特にないようでしたら、次に、これまでの認定基準の改正の経緯とその考え方について、事務局から説明をお願いします。
○西川専門官 次に、資料4から資料7までを用いまして、脳・心臓疾患の労災認定の基準に関するこれまでの経緯、その背景となる医学的知見について御説明させていただきます。第1回検討会での御説明と重複してしまう部分も一部あるかと思いますが、御了承いただければと思います。
 最初に資料4を御覧ください。こちらは関係法令です。まず、労災補償は労働基準法における使用者の災害補償責任を保険で担保するということが基礎にあるところです。このため、資料4の中段の労災保険法第12条の8にあるとおり、労災保険法の保険給付を行う場合については、労働基準法における災害補償の事由があるときに、労災保険法の業務災害の補償給付を行うということが書かれております。
 上に戻りまして、労働基準法の75条ですが、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、療養の補償をしなければならないと規定しているところです。ここで、業務上の疾病については厚生労働省令で定めるとなっておりまして、その省令が労働基準法施行規則35条ということになります。35条には、業務上の疾病は別表第1の2に掲げる疾病とするということが書かれております。別表第1の2には、様々な疾病が記載されているところですが、この別表は業務と疾病との因果関係が医学経験則上明らかとされたものが列挙されるという仕組みになっています。その中の第八号に、「長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む。)若しくは解離性大動脈瘤又はこれらの疾病に付随する疾病」が規定されているところです。この部分は、平成22年に改正、追加されたものです。
 この八号を追加したときの医学専門家による検討会の検討結果を、次のページにお示ししております。(7)過重負荷による脳・心臓疾患という見出しです。真ん中の段落で、「しかしながら」の所です。平成13年の専門検討会の報告書で発症機序が詳述され、これを踏まえ認定基準が定められ、今日に至っていること、行政判断であるとか裁判実務においても、この報告書の考え方に基づく判断がなされてきているということから、脳・心臓疾患と業務との間の因果関係が医学経験則上確立したものと認めて差し支えないという結論を、35条専と呼んでおりますが、別表1-2に何を書くかということを検討する専門検討会で、結論を得たところです。この結論を踏まえて省令が改正されまして、先ほどの第八号が具体的に記載されたというところです。これが関係法令についての、これまでの経緯です。
 続きまして、資料5を御覧ください。こちらについては、脳・心臓疾患の認定基準のこれまでの改正の経緯を取りまとめたものです。脳・心臓疾患の認定基準の最も古いものは、昭和36年に制定されたところです。このときはそういう言い方をしてはいなかったのですが、現在でいう異常な出来事に当たるものを評価する認定基準でした。その後、改正ごとに医学専門家等の検討会の報告を受けてということになりますが、4回の改正が行われているところです。
 まず、2番の昭和62年です。異常な出来事に加えて、短期間の過重な業務、「特に過重な業務」という言い方をしておりましたが、異常な出来事と特に過重な業務を評価する形に変わりました。この特に過重な業務としては、発症前1週間の業務を評価することとされまして、また対象疾病も、今と近い形で8疾病に整理されたところです。
 さらに平成7年です。このときは、異常な出来事と特に過重な業務という2つの枠組みは変更しておりませんが、特に過重な業務のところで、発症前1週間よりも前の期間も含めて総合的に判断するということで、おおむね2週間ぐらいを評価するという形としていました。また、基礎疾患を有する方にとっても、特に過重な業務であれば業務起因性を肯定するような整理がなされているところです。この平成7年のときには、不整脈の取扱いを「追って検討する」という形にしておりまして、その後の検討を受けて、平成8年には、不整脈による突然死等を対象疾病に追加することがなされたところです。
 最後、直近の改正が、平成13年のものです。この間、慢性の疲労が、脳・心臓疾患を発症させたと言えるかどうかということにつきまして、いくつかの事例が訴訟で争われまして、下級審の判断も分かれていたところですが、平成12年7月に、最高裁がそれは認めるべきだと、国の敗訴となる判決が出されたところです。この平成12年7月の最高裁の判決を受けて、専門検討会での検討を行っていただきまして、現在の異常な出来事、短期間の過重業務、長期間の過重業務、この3種類を評価する認定基準が策定されたところです。
 次に、資料6-1を御覧ください。第1回の検討会でも紹介させていただきましたが、こちらが現在の脳・心臓疾患の認定基準になります。少し御説明させていただきます。通しページの27ページ、資料6-1でいうと1ページを御覧ください。第1で基本的な考え方を示しまして、第2で対象疾病を掲げています。次のページの第3は、認定要件として先ほど申し上げた、異常な出来事、短期間の過重業務、長期間の過重業務の3つを示しているところです。
 そして、第4は運用について記載しているところですが、この第4の中の2です。過重負荷についてとなっています。ここが要件の具体的な内容を書いているところです。次のページの上から少し下がった所ですが、(1)異常な出来事、(ア)極度の緊張、興奮、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態、(イ)緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態、(ウ)急激で著しい作業環境の変化、この3つの形で異常な出来事が具体化されているところです。その次に評価期間が書かれていますが、発症直前から前日までの間に、こういった出来事への遭遇があれば、これにより自然経過を超えて著しく増悪して発病したと。つまり、業務災害として労災認定されるという枠組みになっております。
 そのページの下のほうの短期間の過重業務です。発症前おおむね1週間に日常業務に比較して、特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務に就労した場合とされています。ここで「特に過重」というのは、どういうものかということについて、次のページでいくつか説明が加えられています。まず、この特に過重の評価に当たり、(ア)ですが、同僚等にとっても特に過重と認められるかという観点から評価をする。この同僚等というのは、被災者と同程度の年齢、経験を有する健康な方はもちろん、その健康な方のほか、基礎疾患を有していたとしても、日常業務を支障なく遂行できる方にとって、やはり過重だということであれば認めていきましょうということが示されております。
 この「特に過重」というのがどういうものかということについて、同じページの下のほうですが、a労働時間という所がございます。次のページにいって、bで不規則な勤務、c拘束時間の長い勤務、d出張の多い業務、e交替制勤務・深夜勤務、f作業環境の中でも温度環境、騒音、時差、そしてg 精神的緊張を伴う業務、こういったものを負荷要因として掲げておりまして、こういったものについて検討して、特に過重であったかどうかを判断していくこととされております。
 認定基準の6ページは、長期間の過重業務についてです。長期間の過重業務の最初の所に、「疲労の蓄積の考え方」ということが書かれておりますが、恒常的な長時間労働などの負荷が長期間にわたって作用した場合には「疲労の蓄積」が生じる。これが血管病変等を自然経過を超えて著しく増悪させ、その結果、脳・心臓疾患を発症させることがあるという考え方が示されています。この長期間とは、発病前おおむね6か月をいうとしておりまして、特に過重な業務の考え方は、先ほどの短期間の過重業務の特に過重な業務の考え方と同じであるということも書かれております。負荷要因も同じなのですが、そのうちの労働時間について、次のページを御覧ください。第1回でも御説明させていただいたところですが、(イ)の真ん中の辺りに①②とあります。時間外労働が1か月45時間を超えて長くなるほど、業務と発症との関連性は徐々に強まり、発症前1か月間におおむね100時間、又は発症前2か月間ないし6か月間にわたり、1か月当たりおおむね80時間を超える場合には、業務と発症との関連性が強いと評価できるということが、認定基準で示されているところです。こちらが認定基準の内容となります。資料6-2は、この認定基準を運用するに当たっての留意点ですが、こちらの御説明は割愛させていただきます。
 資料7を御覧ください。先ほどの認定基準の基になっているのが資料7、通しページでは44ページからになります。専門検討会の報告書になります。まず、「はじめに」の所です。ここに経緯が短くまとめられております。これまで、この平成13年より前までは、発症に近接した時期における業務の過重性を見てきたところであると。しかしながら、最高裁判所で、慢性の疲労や過度なストレスを考慮すべきという考え方が示された。また新たな医学的知見も集積されてきている。こういったことから、平成12年11月から平成13年11月まで、約1年を掛けて検討をし、この検討結果を取りまとめたということが、「はじめに」の所に記載されています。検討会の先生方、西村先生もいらっしゃいますが、脳の先生、心臓の先生、疫学の先生、法律の先生に御検討いただいたという形になっております。
 この構成も詳しく御説明させていただきたいと思っていますが、まず検討の趣旨で、先ほど御説明しましたような、これまでの経緯とか、最高裁で言われていることが今の認定基準には入っていないというような課題が紹介されています。
 そして報告書の7ページ、通し番号の54ページからですが、Ⅱ現状ということで、データがまとめられているところです。いくつか現状のデータを見ていった後で、通し番号の66ページ、報告書の19ページですが、対象疾病について記載されています。今の認定基準の対象疾病が示されているところで、対象疾病についてはICD-10の疾病・障害及び死因の統計分類に基づく疾患名で、一部整理されているところです。
 そして対象疾病の後、通し番号の68ページ、報告書の21ページからになりますが、ここから疾患別の概要がかなり長く記載されております。まず、脳の解剖と生理、それから心臓の解剖と生理というものが書かれております。ずっといきまして、通し番号の87ページ、報告書の40ページですが、生理を書いた後に、今度は病気別に脳血管疾患についての概要があり、脳血管疾患のそれぞれについての記述があります。虚血性心疾患等についても、同じような形で虚血性心疾患の概要があり、そしてそれぞれの疾病について記載があるという形になっています。途中は、そういう作りになっているということだけ御説明させていただきまして、報告書の86ページを見ていただきたいと思います。全体の通し番号では133ページになります。
 報告書の86ページから、業務の過重性の評価についての記載となります。冒頭、過重負荷の考え方、こちらは後ほど資料9でも御説明させていただきますが、こういった基本的な考え方がありまして、その次に過重負荷の評価の基準となる労働者についての記載があります。それから、報告書の89ページですが、長期間にわたる過重負荷の評価ということが、かなり長く記載されているところです。この長期間にわたる過重負荷の評価の所では、NIOSHの職業性ストレスモデルを引きまして、負荷が長期間にわたって作用した場合には、ストレス反応が持続し、過大となり、ついには回復し難いものとなって、これを疲労の蓄積と言うということが書かれているところです。どういうことが疲労に影響するかということについて、労働時間と睡眠時間との関係から考えていくということがありまして、報告書の96ページ、全体の通し番号の143ページですが、1日4時間から6時間程度の睡眠が確保できない状態が継続していたかどうかという観点で検討することが妥当であるとされております。
 それで、1日6時間程度の睡眠が確保できない状態というのは、社会生活基本調査等によるということで、1日の労働時間が8時間を超えて4時間程度の時間外労働を行った場合に相当すると。これが1か月継続した状態というのは、おおむね80時間を超える時間外労働が想定されます。また、1日5時間以下の睡眠、5時間の睡眠が確保できない状況というのは、同じ調査によりますと、8時間を超えて5時間程度の時間外労働を行った場合に相当して、これが1か月継続した状態というのは、おおむね100時間を超える時間外労働が想定されるというようなことが、96ページにまとめられているところです。ほかの負荷要因についても、98ページの「不規則な勤務」から整理されており、今の認定基準にある負荷要因について、医学的な知見が示されております。さらに、報告書の105ページの表の下からですが、記3の「発症に近接した時期における異常な出来事や短期間の過重負荷の評価」ということで、異常な出来事や短期間の過重負荷についての考え方が示されています。その後、報告書の109ページの「総合評価」という所でまとめがされまして、その後ろには、リスクファクターについて整理され最終的には報告書の131ページで全体のまとめとなっているという構成です。
 構成を詳細に説明させていただきましたが、この検討会においても、特に過重性の評価について検討会で御議論いただきたいとは考えておりますが、また医学的知見も当然20年の間に変わってきているところかと思います。こういった疾患別の概要であるとか、リスクファクター等の部分については、それぞれ脳の先生、心臓の先生、御専門の先生方とも御相談をしながら、全体を取りまとめていきたいと考えております。長くなりましたが、資料4から資料7のこれまでの経緯については以上です。
○磯座長 それでは、ただいまの事務局の説明に対して、何か御質問等はございますでしょうか。
○野出委員 佐賀大学の野出ですが、循環器の観点から申しますと、御紹介いただいたように、心筋梗塞は経年的に減少していると。これはコレステロールとか血圧の管理がよくなったからということで、新規発症と死亡率も低下しています。一方で、高齢者の増加、糖尿病の増加、肥満の増加ということで心不全の発症、それから心不全の死亡率が漸増しているわけです。
 そうすると、今回、疾患別で申しますと、心筋梗塞、狭心症、心停止、解離というような疾患が減っているのですが、急性心不全というのが従来から入っていないということがあります。
 恐らく、急性心不全というのは疾患が難しいということと、除外診断も困難ということで入ってこないのですが、ただ、先ほどお話しましたように、最近、高血圧がベースにあって、ストレス過重負荷によって、高血圧性心不全になると。あるいは、もともと大動脈弁狭窄症とか、僧帽弁閉鎖不全症があって、ストレス過重負荷によって急性心不全を発症すると。あとは、糖尿病があって、もともと拡張不全があって、そこでストレス負荷によって心不全を発症すると。あるいはたこつぼ型心筋症のような急性のものをストレスによる心不全を発症するというケースが、非常に増えているわけですので、こういった労災による心不全というのが、この疾患別であるとレスキューされないのではないかと感じました。
 急性心不全を診断するのが難しいということなのですが、以前は臨床研究等でも、イベントと言うと心筋梗塞等だったのが、最近、大規模臨床研究でも、イベントの評価が心不全の発症あるいは心不全の原因という評価に変わってきていますので、もし心不全という診断が厳格にできましたら、心不全も疾患の1つに今後検討する可能性もあるかなと感じました。その辺りは、今まで検討されたのか、今後検討される予定があるのか、聞かせていただきたいと思います。
○磯座長 これについて、事務局からお願いします。
○西川専門官 実は、今、心不全については、今の認定基準では、最後のページに「疾患名ではないので、可能な限り疾患名を確認すること」という書き方がされているところです。この書き方も妥当であるのかどうかということを、また先生方とも御相談かなとも思っております。
 先生から御指摘いただきましたことも含めまして、今後、対象疾病をどういう書き方にしていくかということも含めて、また検証していただく必要があるのかなと。その結果に応じて、どういう形がいいのかということを御議論いただくことになるのかなと考えております。
○野出委員 恐らく重要なのは、心不全というのは疾患名という概念がなかったのですが、最近、1つの疾患ということで、恐らく確立されているかなと思いますけれども、その辺りは、また今後検討していただけたらと思いました。以上です。
○磯座長 今の御指摘ですが、高齢化とともに急性心不全で亡くなる方の人数が増加していますし、大動脈疾患や心筋症などがあって、そこに労働負荷が急に加わることによって、急性心不全としてに現われてくるという可能性があります。これから文献検索を通じてしっかりと議論する必要があるかと思います。その意味で、ほかの先生方の御意見も頂ければと思います。これについてコメント等はございますでしょうか。
 先生、そういう形で、そういった検討課題として、これから検討していくという形でよろしいでしょうか。
○野出委員 心不全は死亡に対する影響とQOLに対する影響、それから入院すると在院日数も多いので、勤務に対して影響を与える疾患ですので、また今後の検討、エビデンスを踏まえた検討が必要かなと思っております。以上です。
○磯座長 ほかにございませんか。
○豊田委員 今、野出先生から心疾患の具体的な分類の話がありましたので、脳卒中に関しても、私が思ったことをコメントさせていただきます。
 脳卒中は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、高血圧性脳症が対象疾患に挙げられています。20年前と今とで比べて、国民の血圧管理というのは全然違いますので、最近は高血圧性脳症という診断自体を、昔ほどは見ないように思いますし、疾患の概念自体もどんどん変わりつつありますので、高血圧性脳症というのが、より広い、基本的に可逆性の脳症の中の一形態という考えもございまして、何かほかの脳卒中の3大病型と一緒に高血圧性脳症が挙げられていることが、個人的にはすごく、取り立ててピックアップされているなという印象がございます。
 この20年間に、高血圧性脳症という診断名で実際に補償の申請がなされたり、実際にそれが承認されたりする件数が多いのでしたら残すことを考えていいと思うのですが、この高血圧性脳症という診断で、余り申請や承認が行われていなければ、この改定のときに外すということも考えていいのではないかと思って聞いておりました。以上です。
○磯座長 それについて、ほかの委員の先生方はいかがでしょうか。
○高橋委員 今の高血圧性脳症の問題ですが、私ども過労死等防止調査研究センターで調べたところ、平成22年度から平成27年度の5年間における約1,500件の事案のうち、4件でした。
○磯座長 最近5年間で4件ですか。あるのですね。私も余り聞かない診断名だと思うのですが、現在もあるわけですね。分かりました。
○豊田委員 高血圧性脳症は、脳症という診断が付いた後に、二次性にまた脳出血などを起こしてしまったら大きな機能障害を残すように思うのですが、本来の高血圧性脳症と言われている病態であれば、基本的には可逆性なのです。絶対に可逆性だとは言い切れませんが、本来は可逆性の病気が、この労災の対象病名に入っているというのは、やはり何となく違和感がありますので、今日決めることではありませんし、ゆっくり考えていけばいいのですけれども、現実に20年で4件ぐらいしかその申請がなされていないのなら、今回の改定で、この対象疾患を外すということも今後検討していっていいと思います。以上です。
○磯座長 豊田先生、5年で4件ということです。
○豊田委員 5年ですか。
○磯座長 ただ、それを診断されて来られた先生方が、脳卒中の専門家とは限らないためかもしれません。
 確かに先生がおっしゃるように、概念としては非常に分かりにくい概念で、診断も確定的にはできないと思います。ですから、これについても検討課題にしたいと思います。ありがとうございました。
 ほかにございませんか。
○西村委員 埼玉医大の西村でございます。野出先生からの心不全の扱いをどうするかという話ですが、すごく重要な問題だということで、是非この検討会で議論していただきたいと思います。
 そのことを含めて、私が関係した専門委員会の報告書ですが、資料7の19ページを開いていただけますか。そこで、「認定基準における対象疾病」というものがございます。(1)(2)で病名が出てきて、その下に「なお、このほか現行認定基準では・・・」というパラグラフがあります。
 これは、そのときにも少し議論になったのですが、以前からの病名を引き継ぎながら報告書をまとめるという観点から、「なお、このほか」という所がございまして、ここに「先天性心疾患、高血圧性心疾患、心筋症、心筋炎等を含む」という病名が入っております。これが、全体を読んだときにも違和感がある文章です。これは、かなり現実に問題になることがあります。
 その中では、心不全の発症、この疾患は突然死をするということですから、どういう経過を取ったのか。先天性あるいは慢性の進行性の疾患をどう扱うのかということ。そして、ここに大事なことが書いてありまして、「これらの心臓疾患が原因となって慢性的な経過で増悪し、又は不整脈を併発して死亡等の重篤な状態に至る」とありまして、重篤な状態に至ったということは認定基準として考えるということが、この中に意味されています。例えば心不全で、外来で薬を飲んでよくなるような心不全は該当するのかどうかということです。
 そうしますと、心不全の定義、臨床的な診断、そしてその重症度をどうするのか。基礎疾患がどうか。それが自然経過なのか、何十年とわたる疾患の治療をちゃんと受けていらっしゃるのかどうか。いろいろな問題がここには内在していまして、虚血性心疾患ほど、こういう各疾患のエビデンスがないのです。数限られたものの報告しかないので、虚血性心疾患の「血管等の自然経過うんぬん」という文章で、病態が分かってきた頃にしたということが書いてあるのですが、それと比べますと、科学的エビデンス、それから医者の経験則というのが非常に乏しいので、これをどのようにまとめていくかということを、是非議論していただきたいと思います。そういう指摘があるということを、ここで述べておきたいと思います。
 それから、慢性心不全あるいは急性心不全という言葉は、ほとんどここの検討会では、かえって排除しているような考え方で、単なる広い概念のものは使っていないということがございました。以上です。
○磯座長 いずれにせよ、これは検討課題になると思いますので、この委員会でも概念を整理していきたいと思います。ほかにいかがでしょうか。
 それでは次の議題に移らせていただきます。平成30年度、令和元年度に事務局が収集した医学的知見について、事務局から説明をお願いします。
○西川専門官 資料8の医学的知見の収集に係る調査研究について御紹介させていただきます。厚生労働省では平成30年度と令和元年度の2年度にわたり、この脳・心臓疾患の発症等に関連する負荷要因についての疫学研究等を委託事業で収集をしたところです。2年度に分かれておりますので、8-1と8-2と分かれている資料になっております。平成30年度の8-1が、労働時間以外の負荷要因と発症との関係について、令和元年度の8-2は、労働時間や睡眠時間と発症等の関係について文献を収集したところです。
 先に資料8-1から御説明いたします。こちらは平成30年度の委託事業の報告書を示したものです。先ほど申し上げましたとおり、労働時間以外の負荷要因と発症等の関係に関する報告になっております。委託事業ですので、受託者が作成した資料となりますけれども、報告書の一番最後に示されております、エム・アール・アイリサーチアソシエイツという民間の調査会社がこの事業を受託したということです。この報告書の3ページ、通しの番号193ページの上のほうに検討委員会の委員、専門家のお名前が出てまいります。この文献の検索収集に当たって、専門家による検討委員会で監修してもらうことをこの委託の仕様として求めるという形で収集をしていただいたところです。
 これにしたがいまして、その下の流れ図がございますが、事務局で検索用語を決めて検索をする、それに対して専門家が助言をすると。あるいは事務局でレビューサマリを作る、それに対して専門家が助言をするというような流れで、文献の収集レビューを行うという委託事業になっております。
 収集の方法が報告書の5ページになります。こうしたものをキーワードとして、PubMedとか医中誌Webとかで検索を行ったというところです。さらに報告書の6ページですが、国際評価機関や諸外国の報告書で引用されている文献についても目配りをするということで、CDCとかNIOSHとか、高橋先生がいらっしゃる過労死等防止調査研究センターの文献とか、そうしたもので引かれている文献もチェックをしていくということでリストアップがされ、その上でレビューが行われているところです。このレビューの内容ですが、報告書の19ページからになりますが、横表で症例報告がいくつかあります。平成30年度の報告では、症例報告は8文献9症例を拾っております。
 報告書の23ページからは疫学研究になります。疫学研究について、23ページの上に103件を選定し、27件を参考文献としたとあります。あわせて130件がレビューの対象となっているところです。例えば報告書の26ページ№6はコホート研究をレビューしました。騒音の知覚群と脳出血との間に有意な関連があったという文献でした。こういったレビューが130個並んでいるということです。この報告の文献の並び順ですが、脳血管疾患が先にきて、その次が脳と心臓両方のもの、それから心疾患との関連を調査したものというように、病気別の並び順になっております。資料の後ろの方、通し番号の279ページの右肩に(参考)と入れた所がありますが、先ほどレビューされた文献を検討されている負荷要因ごとに分けたものがこちらです。これは本日の説明用に事務局で補足的に作成したものです。中身は、不規則な勤務に関するものが4文献、出張の多い業務に関するものが1文献、交代制勤務・深夜勤務に関するものが16文献、温度環境に関するものが2文献、騒音に関するものが13文献、そして精神的緊張を伴う業務とかストレスに関するものが80文献、あとはその他という形になっております。これはそれぞれの論点を議論する際に、また先生方とも御相談しながら、もう少し分かりやすい形で資料として、検討会に提出していきたいと考えているところです。
 続きまして、資料8-2は令和元年度の報告書となります。労働時間又は睡眠時間と発症との関係に関する疫学調査を、収集していただくようにお願いをして委託したものです。受託者は前年と同じ結果になりまして、文献の検索、収集、レビューの方法も、もちろん検索語は違いますけれども、やり方自体は前年と同じになります。
 報告書の17ページに表の2.3-11があります。ここに文献数、これだけの文献を報告書に載せたということが書いてあります。睡眠時間と発症との関連を調査したものが42+21+12で合計75文献、労働時間等の関連を調査したものが合計43文献です。一部重複もあって、その他もありまして、全部で115件がレビューされていることになります。
 レビュー内容は報告書の19ページ以降になります。同じような形の横表がずっと続いている形になりますが、例えば睡眠時間と発症との関係について言いますと、報告書の22ページの文献5、こちらはシステマティックレビューをしたものですが、結果、考察の下から2つ目のポツは、「メタ回帰分析により、統計的に有意な死亡率の増加と6時間未満の睡眠時間との間に線形の関連性が見られた」というものになっております。いろいろな文献のいろいろな結果がありますので、また先生方とも御相談しながら論点を議論する際に整理した上で、資料として検討会に提出していきたいと考えているところです。資料8の医学的文献の収集に関する御説明は以上です。
○磯座長 今の説明に対して、御質問等はございますでしょうか。
○豊田委員 よろしいでしょうか。
○磯座長 はい、どうぞ。
○豊田委員 豊田ですけれども、度々すみません。検索ワードで少し気になったので一応確認しますが、脳梗塞の文献を引くときの検索ワードが「cerebral infarction」と書かれてあったのですね。それは使っている人もいますが、最近では,
脳梗塞というのは、Ischemic Strokeという言葉が圧倒的に多く使われていますので、一応確認ですけれど、そういうStrokeという基本的な用語は外さずに検索なさったのでしょうか。そうでないと出血はhemorrageで大体引けますけれど、梗塞に関してはStrokeという基本的な用語を検索から外してしまうと、大分過少評価することになりそうに思います、いかがでしょうか。
○磯座長 私が見た限りでは、資料の12ページの所の検索ワード、PubMedの検索式の所の脳血管疾患、そこに一応strokeというのはORでつないでありますね。だからそれで引っ掛かる可能性はあると思いますが。
○豊田委員 分かりました。最初の資料8-1かな、この資料ではないほうが、何かStrokeがなかったものですから気になったのですけれど、Strokeも入れているならもうそれで結構です。
○西川専門官 先生御指摘の8-1の5ページで、想定されるキーワードの所には、脳梗塞の1.(3)の中にstrokeが入ってないということですけれど、こちらの8-1のほうは先ほどの8-2の磯先生から御指摘があったページのような検索式の表示がないものですので、実際にどういった検索式で検索をしたのかが確認できるかどうかも含めて、確認をさせていただきたいと思います。
○豊田委員 そうですね、よろしくお願いします。
○磯座長 よろしくお願いします。ほかにございませんか。
○野出委員 すみません、野出ですが。
○磯座長 先生どうぞ。
○野出委員 資料8-2、トータルのページの300ページですが、表の2.-3-3がございますが、これが実際の検索式のキーワードということでよろしいのでしょうか。心血管疾患、脳血管疾患がございますが。
○磯座長 そうです。先ほどの英文のPubMedの検索式ですね。
○野出委員 これは実際に検索されたキーワードという解釈でよろしいのでしょうか。
○磯座長 そうですね、そのとおりです。
○野出委員 そうすると、ちょっと細かい所ですけれども、心血管疾患の上から3行目の、“myocardial infarct*” or “Heart infarction”とか、この辺りが、myocardial infarctで掴まってくるかどうか、確認ですけれども、当然大体拾っていると思うのですけれども。
○磯座長 先生の御懸念は何かほかのキーワードがあるかもしれないというお話でしょうか。
○野出委員 そうですね、myocardial infarctはheart infarctなので、myocardial infarctionというのがそれで引っ掛かってくれればいいですけれども。
○磯座長 infarctに*が付いているので、infarctを含む用語で検索していると思います。
○野出委員 はい、分かりました。それで結構です。ありがとうございました。
○磯座長 ほかにございませんか。よろしいでしょうか。この結果についてはまた事務局でさらに整理して提出されるということですね。
○西川専門官 はい。
○磯座長 分かりました。次に移ってよろしいでしょうか。
 次に、ここから委員の皆様方に意見を頂く項目に入ります。まず、過重負荷の考え方について事務局から説明をお願いします。
○西川専門官 本日、御議論を頂きたい事項の1点目になりますが、過重負荷の考え方について、資料9と資料11による御説明をさせていただきます。資料9を御覧ください。
 過重負荷の考え方は、現行の認定基準の基礎となるものです。この考え方が、現在の医学的知見等に照らしても適当と考えてよいかどうかについて、御検討いただいた上で、もし本日、この基本的な考え方について合意が形成されるのであれば、その考え方に基づいて次回以降の検討をお願いしたいと考えているところです。
 まず、現在の認定基準で示している基本的な考え方の所です。そちらを資料9の四角の囲みの中に引用をさせていただいているところですが、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等については、その発症の基礎となる動脈硬化等による血管病変又は動脈瘤、心筋変性等の基礎的病態(以下「血管病変等」という。)が長い年月の生活の営みの中で形成され、それが徐々に進行し、増悪するといった自然経過をたどり発症に至るものとされている」。これは労災に限らず、一般的な発症の形態についての考え方を示しているところです。「しかしながら」ですが、「業務による明らかな過重負荷が加わることによって、血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し、脳・心臓疾患が発症する場合があり、そのような経過をたどり発症した脳・心臓疾患は、その発症に当たって業務が相対的に有力な原因であると判断し、業務に起因することの明らかな疾病として取り扱うものである」という考え方です。
 このような発症に影響を及ぼす明らかな過重負荷として、「発症に近接した時期における負荷のほか、長期間にわたる疲労の蓄積も考慮することとした。また、業務の過重性の評価に当たっては、労働時間、勤務形態、作業環境、精神的緊張の状態等を具体的かつ客観的に把握、検討し、総合的に判断する必要がある」という考え方です。
 この考え方ですが、13年の検討会報告書で取りまとめられた医学的知見に基づいて、認定基準を示しているものです。
 次のページからが、報告書の該当部分を別紙として付けているところです。先ほどと同じ考え方ですが、まず脳・心臓疾患です。血管病変等の形成、進行及び増悪といった病態の自然経過をたどり発症するもので、そこには加齢等の基礎的要因が密接に関連し、労働者に限らず一般の人々にも数多く発症するものという認識を、第1段落、第2段落で示しているところです。
 「しかしながら」という所に対応するものですが、そこに業務による過重負荷が加わるということによって、発症の基礎となる血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し、発症に至る場合があるということが、医学的に広く認知されているということを、次の段落に記載をしています。
 さらに次の段落ですが、この現行の認定基準は13年以前の認定基準ですが、それまでの認定基準においては発症に近接した時期における業務量、業務負荷を中心に検討しているということですが、最近ではそのほかに長期間にわたる業務による疲労の蓄積についても考慮すべきであるということが、この報告書で示されたということになります。
 これを図にしたものですが、資料9の3ページ目になりますが、通し番号415ページの図です。時間的経過の中で発症に至るということを示した図です。イとロとハの3つのパターンを示しています。イの自然経過が点線の所になっています。表の一番上まで行くと発症に至ってしまうというところですが、イの長い矢印のように、長時間労働等に業務による負荷が長期間にわたって生体に加わることによって、疲労の蓄積が生じ、それが血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させて発症するパターン。点線よりも傾きが急になって、発症したということです。ロについては、そういった疲労の蓄積があるところに、更に発症に近接した時期に急性の負荷が引き金となって発症するようなパターン。ハについては、13年以前の認定基準を想定しているものですが、疲労の蓄積ではなく、急性の過重負荷を原因として発症するパターン。こういったパターンを念頭に置きつつ、このパターンのいずれであっても業務による明らかな過重負荷を発症前に受けたことが認められ、そのために発症したという場合には業務起因性が認められる、すなわち労災として認定されるという考え方によるものです。
 この報告書は、医学的な知見という形でまとめていただいたものですが、あわせまして法律的な評価、裁判所の判断の状況についても御紹介をさせていただきたいと思います。それについては資料11、通し番号で417ページの「最近の裁判例」という所を御覧ください。ここには、正に最近の裁判例を挙げさせていただいています。ここでピックアップしたものは、令和元年度の脳・心臓疾患に関する判決のうち、まだ上訴して争いが継続中のものは除きまして、確定したものを掲げさせていただいたものです。全部で6件あります。そのうち1件が国敗訴という状況です。
 ただ、その結論のいかんにかかわらず、例えば事例の1、令和2年の大阪高裁の判決ですが、下のほうの判旨に下線を引かせていただいていますが、「脳血管疾患の発症は、その発症の基礎となる血管病変、動脈瘤、心筋変性等が長い年月をかけて徐々に進行し、増悪して発病に至るといった自然経過をたどるものがほとんどであり、業務に特有の疾病ではない」ということを裁判所も示した上で、「複数の原因が競合し、当該業務が疾病の誘因にとどまるときには、相当因果関係を認めることができず、脳血管疾患が業務に内在する危険の現実化として発症したと認められるためには」、少し飛ばしますが、「業務による負荷が、医学的経験則に照らし、脳血管疾患の発症の基礎となる血管病変等を、自然経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷といえることが必要である」ということが書かれています。ちょっと長くなっていますが、そういった客観的な負荷があって、そして発症したときには労災として認めることができる、そうでなければ認めることができないという認定基準と同様の過重負荷の考え方が判じられているものです。事案の3、4、6についても、同じようなことが記載されているところです。
 事案の2を御覧ください。事案の2や5については、認定基準について裁判所が触れているといったものです。事案の2では、認定基準そのものについて「業務起因性の判断に当たって十分に尊重されるべきものである」ということが書かれています。
 事案の5ですが、これは個別の事案で結論としては国が敗訴した、監督署長は業務外だと言ったけれども、裁判所は業務上と認めたという事案です。こちらについても判旨の2つ目の塊の所ですが、認定基準は行政内部の通達ですので、当然、裁判所を拘束するものではありませんが、その段落の最後に「判断基準としての合理性を有するものと認められる」というようなことなどが記載されているところです。
 また、この事案5では次のページですが、業務が相対的に有力な原因となっていたということについても、判示をされているところです。この業務による負担が相対的に有力な原因となっていたので、これは業務上だという判示をこの裁判所はしているということです。この趣旨としては、たまたま業務中に発症したという、いわゆる機会原因ではない、また、業務が様々な原因のほんの一部だけを占めていた、いわゆる共働原因の僅かな一部であったということでもなく、業務によって発症する原因があった、業務が相対的に有力な原因であった、だから労災として認めるということを判示しているものです。
 この資料11の末尾ですが、通し番号の425ページの所です。ここには参考として5件の最高裁の判決を掲げているところです。ここに掲げた5件は、上にある事案の1~6のどれかで引用をされているものです。脳・心臓疾患の労災認定を議論するに当たって、基礎となる判決ですので、少し御説明をさせていただきたいと思います。
 まず一番最初の平成12年7月の判決です。これは先ほどから何度か触れさせていただいていますが、今の認定基準の策定のきっかけとなった判決です。慢性の疲労や過度のストレスの持続、その部分は下線を引いていませんが、そういったものがあった場合に上告人とあるのは被災者のことですが、被災者が「発症前に従事した業務による過重負荷が基礎疾患をその自然経過を超えて増悪させ発症に至った」というところを下線を引いていますが、そういった理由付けで業務起因性を肯定したものです。
 次の平成9年の事案は、慢性の疲労に関するものではなく、業務上に遭遇した本件事故と書いている部分がありますが、発症2日前にあわや死ぬかもしれないという事故に遭遇して、その後も勤務したというものです。これも基礎疾患が、その自然経過を超えて急激に悪化、発症に至った、だから労災という考え方を示しているものです。
 平成8年3月の事案、1月の事案ですが、これはどちらも公務災害に関するものです。それぞれ最後のほうに、「公務に内在する危険が現実化した」というような書き方がされているところです。労災保険の場合は公務ではなく業務と考えることになりますが、こういった公務、業務に内在する危険が現実化したと言えるような場合に、死亡や発症との間に相当因果関係を認める、業務上として認めるということを示したものです。
 最後、昭和51年の判決です。これも事案は公務災害に関するものですが、公務災害の補償であれ、労災補償であれ、こういったものを行うに当たってはその負傷や疾病、あるいは死亡と業務、公務との間に相当因果関係が必要という考え方を示した最高裁の判決です。
 ここまでに紹介させていただいたほかの事案にもほぼ全て、「相当因果関係」というワードが入っているように、昭和51年以降の裁判所の判断については、この昭和51年の最高裁判決に沿って判断がなされているという状況です。
 御紹介させていただいた裁判例からも分かるとおり、認定基準における業務と発症に関する基本的な考え方については、裁判所においても支持されている状況にあると私どもとしては考えているところです。これらも踏まえながら、過重負荷の基本的な考え方について、現在においても適当と言えるかどうか資料9の論点ですが、御検討を頂ければと存じます。資料9、資料11の説明は以上です。
○磯座長 過重負荷の考え方を事務局から提示いただきましたが、これについて委員の先生方から御意見をお願いします。
○豊田委員 この脳卒中や心臓病の成因として、基本的に長年にわたった病態の変化、動脈硬化を念頭に置いているのでしょうが、長年にわたって何かが進行するものであると書かれています。それは過半においては正しいと思うのですが、脳梗塞全体の3割弱は心原性の塞栓症です。心原性の塞栓症の中の最たる原因は、非弁膜症性の心房細動です。心房細動も動脈硬化によるものといってしまえば、それはそうかもしれませんが、多分、この大阪高裁の判例などに書かれている「本来、長年かかって形成されるべきもの」とは、ちょっと意味が違うと思います。あるいはもっと急性に起こる異常として、例えばトラック運転手が非常に労災が多かったのですが、長時間のトラック運転や、タクシー運転などによって、いわゆるエコノミー症候群のように下肢静脈に血栓ができて、それが心臓の右左短絡を介して脳梗塞を起こす。こういったことも職業と関連する脳梗塞としては、かなり多いと思いますが、これなどは全然長期間の病態の形成とは関係ない、短期間の病態の形成によるものですので、おおむね正しい書き方かもしれませんが、脳梗塞の中にはそれに反するものがあり、しかもそれは労災とかなり絡みそうであるということは、念頭に置いて考えていただければと思います。
 それと、このことを考えて1つ思ったのは、心臓疾患でも同じような発症形態を呈するものとして、肺血栓塞栓症、肺塞栓があるわけです。ちょっと話が飛びますが、これは心臓疾患というくくりでは考えなくていいのですか。何か労災の対象疾患としては、肺塞栓は可能性がありそうだと考えていました。以上です。
○磯座長 確かにあるのですが、例えばタクシー運転手は長期間運転しても、ブレーキやアクセルを踏みますので、ずっとそこで寝泊まりするということがないのであれば、肺塞栓の事例は本当にあるのでしょうか。それは事例から考えないといけないと思います。
○豊田委員 それはアクセル、ブレーキの操作をしたとしても、基本的にはあの座位の姿勢を長時間保っているわけですから、タクシー運転手やトラック運転手の起因性の塞栓症は決して珍しくも何ともないといいますか、むしろあり得ると思っています。
○磯座長 肺塞栓についてはレビューでは入れていませんね。
○西川専門官 今回、収集したレビューでは、肺塞栓症については触れていないところです。いわゆるエコノミー症候群で労災認定した事例は、運転手さんであったかというのは調べてみないと分かりませんが、本当に飛行機の中で全然動けなかったというような事案などで、例はあるかと思います。ただ、それはこの認定基準ではやっていません。別の分類でやらせていただいてます。一方で、この認定基準としてどうするかということは、先生にも御議論いただくべき必要があるのかなと思います。
○磯座長 ほかの先生方はいかがですか。例えば、企業の出張命令でエコノミーでずっと長い間、飛行機に乗っていて、そういった肺塞栓を起こした事例は、どう扱うのでしょうか。
○豊田委員 肺塞栓という病気がそもそも心臓、循環器疾患なのか、あるいはもしかしたら呼吸器疾患にくくられているのかもしれないと思いましたので、先ほど言わなかったのですが、心臓の先生の御見解が正しいと思います。
○野出委員 佐賀大学の野出ですが、私も豊田先生の御意見に賛成です。血栓、塞栓症という概念の中に、当然、心筋梗塞や脳梗塞はあるのですが、もう1つ全身性の血栓塞栓症が最近増えています。当然、足の壊疽や足の動脈の血栓、それから腸間膜動脈の血栓、それはいわゆる血栓、塞栓症になります。一番多いのはお話になった肺梗塞だと思いますので、少し概念としては脳・心血管塞栓に加えて、全身の血栓、塞栓。特に肺梗塞、肺塞栓が検討課題だと思っています。勤務環境、あるいは心的な姿勢の保持やタクシーの運転手、バスの運転手、長期旅行、そういう環境下での発症というのは十分あります。それと先ほどおっしゃたように慢性的な疾患ではなく、全く健康な人がそういった環境に長期間さらされるということで発症しますので、そういったところも今後検討をされる必要があるかなと思いました。
○磯座長 ありがとうございました。
○杉委員 杉です。循環器の領域で、しかもこれはどちらかというと不整脈にも関係するので、少しお話させていただきます。今、2人の先生がおっしゃったような肺血栓塞栓症、これはエコノミークラス症候群として知られていますが、肺血栓塞栓症を扱うのは循環器です。
 肺梗塞という言葉になりますとこれは気管支動脈の閉塞なので、肺梗塞ではなく肺血栓塞栓ということで循環器が扱っているというのが実状です。そういう中で、もう1つは今の豊田先生のお話に出ました心房細動があります。これもある程度、睡眠不足、疲労、ストレス、お酒も関係するのですが、そういうものが関与して発症する。ある条件が一定ではないのですが、そういった心房細動が起こっているところで、脳血栓塞栓症が起こるということがありますので、それを今まであったものとしても、今までの労災の判定には対象疾患にはないということで処理させてもらったことが何回かあります。ですから、エコノミークラス症候群も、長時間の海外への飛行機での移動ということで、飛行機から降りて歩いたらバタっと倒れてしまった。それでよくよく見たら肺血栓塞栓ですが、足に血栓塊があった。循環器でそれを治すのですが、その事例に関しては、今までの対象疾患にないということで、労災という判断ではなく、私どもの意見書はそういう形でしか書けなかったというのが実状です。でも、ある程度それは労働の一部分として入るのであれば、今後も何かそれを考えて認めていくような形で、議論していただければと思っています。
○磯座長 非常に重要な視点だと思います。豊田先生、脳梗塞の中に脳血栓と脳塞栓が今まで入っていたと思うのですが。
○豊田委員 はい。
○磯座長 余り一般的には区別が付かないのです。専門的には脳梗塞は、さらに脳塞栓と脳血栓に入って、その両方とも入っていますか。杉委員、その2つは入っていますか。
○杉委員 はい。
○豊田委員 脳梗塞を脳血栓と脳塞栓に大きく分けるのは、20世紀の終わり頃にあった厚生省の平井班の答申で、血栓と塞栓に分けることが出て、それを使っている先生も当時は多かったのですが、今はもう余り血栓、塞栓という考えよりも脳梗塞の三大病型、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、ラクナ梗塞という分け方のほうがメジャーです。あまり血栓、塞栓という分類は今の時代に合っていないように思います。
○磯座長 そうしたら先生の御意見として、脳梗塞だけでいいということですね。
○豊田委員 そうです。脳梗塞という大きな呼び方で、全部くくれます。
○磯座長 分かりました。
○杉委員 確かに脳梗塞は1つなのですが、今のエテオロジー(病因)が血栓、塞栓という心房細動に絡んで起こる場合、それから遠隔の血栓が飛んできた場合と、動脈硬化、アテロームもそうですが、動脈硬化で起こる血栓とはやはり時間的な相違があるのではないでしょうか。動脈硬化は、ある程度時間がかかりますが、私どもが古いままで脳血栓というと動脈硬化だと思って、脳塞栓というと何か血栓が飛んできたという解釈をしていましたので、今、先生のお話だともう古いというお話かもしれませんが、病型としてエテオロジーは3つで分かれて今、論じられていると思いますが、これは間違いないでしょうか。
○豊田委員 はい、要するに塞栓というのは、どこか上流からものが飛んできて起こるのがすべからく脳塞栓で、脳梗塞のかなりの部分は塞栓症でいいと思います。と申しますのは、脳梗塞の三大病型、アテローム血栓性脳梗塞と心原性脳塞栓とラクナ梗塞は、大体1対1対1の比率ですが、心原性脳塞栓症は全例が塞栓症です。アテローム血栓性脳梗塞も機序としては、動脈にできた血栓が要するに下流に飛んで起こしますので、機序で言えば塞栓症であることが多いです。脳血栓症と脳塞栓症という分け方をしたときの一番の問題点は、その脳動脈自体の原因によるアテローム血栓性脳梗塞を、アテローム血栓性脳梗塞というクリニカルカテゴリーであるが、発症機序は塞栓症や発症機序は血栓症という分け方を原理的にはしなくてはいけない。それがあまり現状に即していないと思います。以上です。
○磯座長 分かりました。最近はイメージングがよくなってきて、微小塞栓という概念も出てきています。それによって診断もさらに精密にできるようになったので、そういう概念になりつつあるのだと思います。ラクナ梗塞ももしかしたら、一部は塞栓によって起こるというものもあります。血栓によって起こることもありますので、その辺りが段々難しくなってきていると私は理解しています。
○杉委員 どうもありがとうございました。
○磯座長 ほかにはありませんか。
○高橋委員 この話は、非常に重要だと思いました。特に、もしかしたら短期でもそういう脳梗塞が起こるかもしれないということに関して、例えばトラックドライバーが長時間運転して脳梗塞を起こした、その場合、心原性かそうではないかというのは、臨床的には区別できるものでしょうか。
○豊田委員 脳梗塞は、先ほどから私が三大病型という言い方をしていますが、この3つの病型のいずれにもなかなか分類できないその他の脳梗塞という、ちょっとごみ箱診断のような第4の病型があります。大体それが脳梗塞全体の2割と言われています。要するに、メカニズムとしては、まず間違いなく塞栓症、どこかから飛んできてポンッと突然起こった脳梗塞だろうということは分かっても、ではどこから飛んできたかという塞栓源がなかなか見付からないパターンが多いです。ですから、先ほどの御質問に関して言えば、そういう塞栓症なのだろうけれども、何かはっきりしないという脳梗塞はかなりあります、2割弱ぐらいあります。
○高橋委員 ありがとうございました。先ほど、私どもが5年間調べた脳疾患の分類では、実は3分の2がいわゆる出血系です。脳内出血が最も多く、次がくも膜下出血、これで3分の2ぐらい占めて、残り3分の1が脳梗塞です。つまり、過労死の業務上認定されたケースの脳疾患というのは、大半が出血系ということです。今後、このモデルをどう理解するかというところも、今の詰まり系だけではなく、出血系をどうするかということが1つの重要な課題になるのかと思っています。
○豊田委員 疾患の頻度としては、我が国では脳卒中全体の4分の3が脳梗塞、残りの4分の1が出血性の脳卒中ですが、病気の重症度あるいは後遺症の強さという意味では、出血性疾患のほうが明らかに虚血性疾患より高いです。ですから、労災の対象になるような疾患としては、やはり出血性疾患がかなり多いだろうというのは予想できます。
○磯座長 ありがとうございました。水島先生、何か御意見はありますか。
○水島委員 法学的な観点から一言述べさせていただきます。また1つ質問があります。
 先ほど、事務局から資料11の裁判例について詳細に御紹介いただきましたが、私も考えているところは同じです。認定基準が医学的に根拠付けられているものとして、多くの裁判例が信頼できるものと評価していると理解しています。したがって、基本的な考え方としては、これまでの考え方を維持して、必要な修正を行っていくのが適当ではないかと考えます。
 そこで質問ですが、基本的な考え方として示されている第2段落の最後のほうに「業務に起因することの明らかな疾病として取り扱うもの」とあります。これは、先ほど資料4で御説明いただいた労働基準法施行規則別表第1の2と関連するのですが、この「業務に起因することの明らかな疾病」は、以前の9号、現在の11号を踏まえていると理解します。現在の8号では「業務に起因することの明らかな」がありませんが、この点についてどのように考えたらよいか、事務局に確認させていただければと思います。以上です。
○磯座長 事務局、どうですか。
○西川専門官 事務局から回答させていただきます。まず、認定基準の考え方に書いている書き方については、水島先生の御指摘のとおりです。こちらは平成13年にまとめていただいた報告書に基づくものです。平成13年当時、脳・心臓疾患は以前の別表1の2の第9号にありました、「業務に起因することの明らかな疾病」というジャンルとして労災認定を行っていたところです。それに当たるということを示している趣旨です。
 一方で、今の別表1の2にはそういった記載がないのは、どう整理しているのかという御質問かと思いますが、今の別表1の2については、11号に「業務に起因することの明らかな疾病」というものがあります。そのほかにいわゆる例示列挙、具体的に疾病名が挙げられているものについては、そこに「業務に起因することの明らかな」というような修飾は行われていないものです。これは8号に限らず行われていないものです。こういった例示列挙されている疾病については、業務に起因することが明らかであるという医学的経験則があるので、表の中に具体的に記載をしましたという整理になっています。ですので、文言で書いてはないけれども、別表1の2に具体的に掲載されたということをもって、それは業務に起因することが明らかな疾病であることが医学的に経験則上言われているものだと理解していくということになるのかなと思います。
○水島委員 よく分かりました。ありがとうございます。
○磯座長 ほかにはありませんか。そういう意味では業務に起因する病名というのは資料4に示されていますが、これまでの議論でその中にはいくつか、もしかしたら新たに加える疾病があるかもしれないということですね。先ほど議論された例ですが、肺塞栓といった病気を入れるか入れないかというのは、また検討段階という理解でよろしいですか。
 それでは、今の基本的な考え方についてほかに御意見はありますか。過重負荷の考え方ですが。
○西村委員 西村です。さっきの急性肺塞栓症、深部静脈血栓の肺塞栓症という病名が出て、これは確かに該当疾患ではないので意見書など何かがあったときには、今のところ、これは該当しないという意見を私は述べたことがあります。この検討会でもそれは議論がされて、そのときに議事録も確認したのですが、これはもともとあるねと言ったように思います。それはなぜかというと、昭和62年の先生方の資料5の所ですが、一覧表で認定の経過、基準の改正の経緯、経過についてという所で、昭和62年12月に一時性心停止の所に1週間以内や同日に急に亡くなって、解剖になって、肺塞栓症と分かったものは、認定するというようなことが前提にあって、それですうっと流してしまっていて、確かに現時点で課題になっています。この検討会でもその辺りをきちんと議論していただく。恐らく亡くなった方々の重症度は評価されていたのだと思います。
○磯座長 ありがとうございます。ほかにはありませんか。
 私からコメントがあり検討していただきたいのですが、資料9の最初の考え方と2ページ目の図についてです。点線で示されている様に、いわゆる自然経過で悪くなっていって、さらに負荷が重なってさらに悪化する。問題はこれをなかなか概念化するのは難しいという点です。その点線の傾きが人によって若い頃から血圧が高い、養生が悪い、タバコを吸っているなど、そういう人で傾きが大きい人と、非常に生活を気を付けていて傾きが平坦な人がいる。そうすると個人差が出てくる。それに何か労働の負荷が加わって発症する。そうすると同じ負荷でも、発症する人としない人が当然出てくるわけです。その辺りの個人差をどう考えていくか。ここに書いてあるように自然経過という概念の中で理解されてきたのだと思いますが、労災の先生方のほうでいろいろな事例を経験されているので、個人差をどのように事例の中で考えているのでしょうか。
○西村委員 臨床的な立場から言いますと、ものごとが見えないということは潜在的に進行して、それが分からないわけです。臨床の表現形である症状が出たら初めて診断といいます。血管病態というのは、健康な生活をしているようなときは分かりませんので、当然そこは差があるべきだと思って、そのときに平均的労働者という定義が出てきます。いろいろな仕事をなさっていた方で、普通の仕事ができていたら表現形としては普通の生活ができているので、それは個人差があるけれども一括してある平均的なものとして捉える。
 この図は最後に出てきたものなのですが、かなり議論がありました。セーフティネットとしての労災保険という立場。それからいろいろな就労者を救うなど、いろいろな社会的な背景も考えながら認識しようということで、医学的な閾値がある出来事が臨床では多いわけですが、そういうものとは相反するようなところがあると思います。血管の、心筋梗塞の発症などもそういうことが現実にあります。そうすると、トリガーなのか慢性の悪化の要因なのか、最初はトリガーも重視していたのですが、要因をいつまで考えるかというところで、エビデンスがあるものは半年かなとそのような議論をした記憶があります。
○磯座長 これは私見なのですが、この基本的な考え方の第2パラグラフの所に、「しかしながら、業務による明らかな・・・」とあります。その2行目の所に「血管病変等がその自然経過を超えて」といった所に、何か全体の平均的なものを考えていて、それを更に逸脱する。そういう意味で「その」というのが非常に重要で、第1パラグラフの自然経過と言ったのは平均的な自然経過というニュアンスを入れることはできないのでしょうか。何かその辺りが人々によって差があるので。
○西村委員 エビデンスがあればいいわけですが、当時コホート研究で日本のデータでそこまできちんとしたものがあって、例えば5年発症率だったら5年が予後ということを知っているかと言ったら、日本スタディがあるぐらいです。なかなかなかったのです。最後にリスクファクターの話が出ているのは、苦しいものがあり、リスクファクターという個人の要因もまた考えなくてはいけないという文言も最後の所に出てきます。全体としての把握で、もっと分かりやすいきちんとしたものが出せて、その根拠もちゃんとあるのであれば是非この検討会で御議論いただきたいと思います。
○磯座長 これはこれからの我々の検討課題で、「しかしながら」の2行目の所に平均的な自然経過など、そういう言葉を入れられないかどうかちょっと確認してください。先生方の御意見はどうですか。これは法律的な表現にも関わってくるので、その辺りが少しもやっとして検討課題していただければと思います。
 水島先生どうですか、平均的なという言葉は法律用語は成り立ちますか。
○水島委員 エビデンスがあるのであれば、平均的なという言葉で明確にするということは考えられると思います。
○磯座長 そのエビデンスがなかなか個人によって規定できないとなれば、難しいですね。
○水島委員 はい。
○磯座長 杉先生、これについて何かこれまでの経験を踏まえ、御意見はありますか。
○杉委員 私も先生と同じように、個人差がやはりあるというのは考慮すべきだと思いながらも、いつも「自然経過を超えて」という表現を使っています。それは書類を書くときに本当に便利な言葉になります。
○磯座長 要するに自然経過の中に、平均的なという文言が内在されていてという意味合いですか。
○杉委員 そのように解釈していました。
○磯座長 分かりました。もう1つ、この基本的な負荷の考え方について質問があるのですが、第3パラグラフの所の2行目に「発症に近接した時期における負荷のほか、長期にわたる疲労の蓄積」とありますが、工業的に橋が慢性疲労を起こして崩れるというような、疲労の広い概念を考えていると思うのですが、本当に疲労だけの蓄積なのでしょうか。その辺りの用語ですね、これは法律上の定義で長期的な疲労の蓄積という言葉を使っているのでしょうか。もしそうであればいいのですが、必ずしも疲労というのは自覚的な疲労もあれば、客観的な疲労もあり、全然疲労していなくても何かの長期的な影響の蓄積によってという解釈もできるのですが、臨床の先生方は疲労の蓄積という表現でよろしいでしょうか。
○小山委員 確かにいつも悩むのは、「疲労の蓄積」という言葉なのですが、ただこれも先ほど出ていたように5時間睡眠と6時間睡眠ですか、時間で過重労働に相当する時間が4時間と8時間でしたか。5時間以下しか寝られない人は、5時間ぐらいの過重労働している。6時間しか寝ていない人は4時間ということが、数字で決まっていて時間外80時間という数字が歩いているわけですが、ここが長年この数字で動いているものですから、結局先ほどもいろいろ意見が出ましたが、個人的要素というのはは非常に大きいと思うのです。本来のパブリック的な平均は水島先生が言われたように、なかなかエビデンスは難しいと思います。それこそ本当に個人的なものが大きな疾患という要素があると思うのですが、そうすると最終的なところでいくと、先ほどの時間で全てがある程度、第1回目でも話しましたが労災になるかならないかの1つの、今の目安になっていると理解しているのですが。
○磯座長 ありがとうございます。
○野出委員 佐賀大学の野出です。全体的に発症に至るまでの概念図は、私は非常に納得しています。これはこのとおりでいいかなと思いました。ただ、恐らくおっしゃったように疲労の蓄積という言葉ですが、疲労の定義にもよると思います。一般的には血管に対する負荷、心臓に対する負荷は疲労とは少し違う感じがします。したがって、例えば精神的な負荷、肉体的な物理的な負荷ということがイコール疲労とは臨床的には少し違うかなという感じがしますので、例えばこれは長期間にわたる負荷の蓄積という言葉では駄目なのか。やはり疲労という言葉のほうがいいのかは、少し議論が必要かなという感じがしました。以上です。
○磯座長 ありがとうございます。折衷案として、長期にわたる負荷もしくは、疲労と負荷の2つを両方併記するというのが1つの案かと思いますので、これについても時間が今はないので、事務局で検討してください。ほかにはありませんか。ありがとうございます。
 次に移りたいと思います。今後の検討の進め方について、事務局から説明をお願いいたします。
○西川専門官 それでは、「今後の検討の進め方について」、資料10を御覧ください。手短に御説明いたします。今後、先生方に認定基準全般にわたって御検証いただきたいということで、この検討会をお願いしているところです。記載しているものは、時間もありませんので読み上げは省略いたします。これから認定基準全般の検討・検証を行うに当たり、現在の認定基準は3つの要件、そういった枠組みを作って認定しているところです。それぞれについて、今の要件に沿って妥当性などの議論をしていただく進め方でよろしいでしょうか。
 また2は、現在の認定基準の要件に関して、どのような点を検討・検証することが必要か。また、どのような資料が必要と考えるか。今、箱の中に書いてあるようなことが、一応、想定されるのではないかということで書いておりますが、これについて御意見を頂ければと思います。資料11の御説明の中でも触れ、先ほど水島先生にもおっしゃっていただきましたが、現在の認定基準は裁判所においても判断基準としての合理性を有するものという評価がなされていることも含めて、こういった今の枠組みに沿って御議論いただけないかということで、事務局では考えている次第です。資料10については以上です。御検討よろしくお願いいたします。
○磯座長 それでは、これについて御意見はありますか。
○高橋委員 先ほどの疲労の話と関わりますが、働いていないときにどう休むか、あるいはどう睡眠をとるかという形で見ると、勤務間インターバルの問題というのは、今、非常に注目されていますので、今後、この枠の中で勤務間インターバルの在り方みたいなものも1つ扱ってもいいのかと考えています。
○磯座長 ありがとうございます。この検討課題の中で、この数十年の間にいろいろな兼業もありますし、A社、B社、C社の間で渡り歩く人の問題もありますし、あとはそういった企業からの負荷だけでなく、自由な時間を確保することで睡眠時間を削る人もいるので、それは個別の検討にはなるかと思いますが、確かに、勤務のインターバルというのは非常に重要な検討課題だと思います。ほかに何か、検討課題について、御意見ありますか。
○西村委員 睡眠時間というのはすごく分かりやすい指標ではありますが、最近は睡眠の質というところまで、先ほどのインターバルも関係していますが、質の問題が重要で、それが大体60歳以上になるとみんな必ず不眠だと訴えますし、睡眠薬を飲んでいますという病歴があったりしますと、また判断が難しくなったりします。そういったところに少し言及した意見書が必要ではないかと思っております。
○磯座長 確かに、なかなか寝つけない、早期覚醒するなどの問題もあるかと思いますので、重要な御指摘だと思います。ほかにありますか。嵩委員は何かありますか。
○嵩委員 1点だけ確認ですが、現在検討している基準との関係では、対象ではないことになるかもしれませんが、先ほど、資料11の裁判例として、「業務に内在する危険の現実化」の話の中で、いわゆる治療機会の喪失に関する事例が挙げられておりますが、これについて確認いたします。
 治療機会の喪失の問題は、私傷病であることが前提となっており、疾病にかかっていたけれども、業務によって治療機会を喪失してしまったことで、心臓疾患というか、もともとあったものが重篤化して死亡してしまったというケースだと思います。今回議論している基準では当該疾病が業務に起因しているかが問題になっていますので、個人的には今回のこの基準との関係では、そのような論点は特に検討しなくていいのではないかと思います。その点について、裁判例が挙げられていましたので、念のため確認させていただきたいと思います。
○磯座長 今の御意見はどうですか。基本的には、そういった無理をして業務に就かなければいけないことを強制された場合、例えば、脳梗塞の場合でも、それを早めに血栓溶解療法にいけば非常に予後が良い。若しくは、脳梗塞が非常に悪くならなくて済む。それが、救急車で病院に行くのが遅れたこともあり得ると思います。豊田委員はいかがですか。
○豊田委員 派手な脳梗塞の症状を発症しても、なお、病院に行かずに働き続けたという事態はあるのかどうか分かりませんが、どうでしょう。
○磯座長 豊田委員、例えば、小さい脳梗塞をはじめて、少し頭痛があり、少し気持ち悪いけれども、我慢しているうちにどんどん脳梗塞が広がるというケースもありますか。
○豊田委員 それは、十分にあると思います。例えば、脳梗塞に関しては、その前ぶれである一過性の虚血発作の症状が度々起こっていて、気になっていたけれども、なかなか仕事が休めなくて受診できなかったら、本物の脳梗塞を起こしたなど。あるいは、くも膜下出血も最初に動脈瘤からバンと出血するくも膜下出血もありますが、中には警告出血、バーニングといって瘤から少しずつ出血していて、軽い痛みが続いた挙句にボンとくる痛みもあるので、そのような本物の脳卒中の前ぶれサインの出現があるにもかかわらず、少し業務のスケジュールが忙しくて受診を控えていたら、1週間以内ぐらいに大きな本物の脳卒中を起こしたということは十分にあり得ると思います。
○磯座長 それは現在、フレームワークで脳梗塞・脳卒中を起こしていた人を振り返って、そういった予兆が出てきたけれども業務でなかなか、そこの受診が遅れたのであれば、労災として考えられるということで、今のフレームワークでも対応できるような気がするのですが、嵩委員いかがですか。
○嵩委員 現在の認定基準の中で、できるのかどうかということについては、私は余りこのようなケースについて認定基準が想定していないような気もしていたのですが、今のお話を伺っていて、発症といってもいろいろなレベルがあって、小さく発症することもあり、それが最終的な大きな発症を引き起こすこともあると分かりましたので、そうすると、最初の小さな予兆みたいなものは業務によるものではないとしても、最終的な大きな発症自体は業務による負荷があったという場合には、ひょっとしたら、今の認定基準でもいけるのかなという気もします。
 一方で、この点は、現在の認定基準が想定している長時間労働とはまた少し違う過重性なのかなという気もするので、この基準でそれがダイレクトに適用されるかどうかはよく分からないので、少し整理が必要だと思っております。
○磯座長 ありがとうございます。その業務自体の負荷が、更に、実際の重症化、大きなものの発症につながったかどうかという判断が重要かと思いますので、その点についても、事務局で論点を整理していただければと思います。ほかに全体を通じて何かコメント等ありますか。
○野出委員 最近、コロナウイルス感染で、感染リスクにさらされている職業があると思います。例えば、配達業などです。そのような場合の感染リスクにさらされているというストレスは、今までの評価でいくと精神的緊張を伴う業務というところに入っていくのでしょうか。今後、そういったところも少し加味した評価というのも必要かと思いましたので、今後、議論していただければと思います。
○磯座長 ありがとうございます。これについても検討課題といたします。ほかにありますか。髙田委員、何か御発言をお願いします。
○髙田委員 1つ、先ほど出てきていましたが、いわゆる健康管理がうまくいっていないとか、企業側の安全配慮義務が果たされているのかどうかというところまで、この認定基準の中に持ち込んでしまうと分かりづらくなってしまうという点がありますので、その辺は少し気を付けて議論していく必要があるのではないかと、ずっとお話を聞いていて感じた部分があります。
 それから、長期間の過重業務と、今の認定要件の3類型に分けるというのは、この分け方で維持していくことが望ましいのだとは思いますが、先ほどのいろいろな疾患の議論の中で、長期間といっても、1か月から6か月まで非常に幅が広いので、その中でも短い期間で影響するのか、それとも、6か月で区切るのが本当にいいのかというところです。その辺については、以前の議論で何か今まであったことが分かれば、少し教えていただきたいです。
○西村委員 当時、和田先生たちが中心にお考えになりました。やはり、エビデンスがあるということが一番大きなもので、時間がたてばたつほど、いろいろなノイズが入って分析が難しく、それを集積することも判断上非常に難しい。いろいろな研究が半年から1年で、それをどこでするかの議論をして、エビデンスがあるところからはじめようということで半年になったということは、そこはあくまでもそのような基準だったと思います。
○磯座長 よろしいですか。何かほかにありますか。
○髙田委員 ありがとうございます。長期間というところが、割と幅が広いということがありまして、いろいろな疾患のことを考えると、この2と3の間のようなものの必要性があるのかどうかと感じたところです。
○西村委員 エビデンスになるとほとんど虚血性心疾患、心筋梗塞が中心だったと思いますので、それぞれの疾患では、恐らく、エビデンスレベルの差があるのではないかと思います。
○髙田委員 ありがとうございます。
○磯座長 ほかに全体を通じて御意見、御質問等ありますか。Webで参加している委員の先生方はいかがでしょうか。ほかに何か、御意見や御質問等ありますか。特に、ないですね。
○杉委員 今日、参加させていただき、ありがとうございました。今日の私の印象をまとめますと、今、対象となっている疾患があります。循環器でいえば4つあります。それ以外のものも今まで苦労して意見書を書かせていただきました。そのようなものの中に、労働に起因する、過重な負荷に影響されたと思われるものもあるので、今後は、そのようなものも、この会で含めて救っていくというか、そのような考えでよろしいのでしょうか。
○磯座長 この会議の中でエビデンスに基づいて、新しい疾患も入れていくことは非常に大事なことだと思いますので、是非、杉委員、これまでの御経験を参考にさせていただきながら、新しい疾病の概念も加味しつつ、我々の委員会として提言を出していければと思っております。よろしくお願いします。ほかによろしいでしょうか。長時間労働でなく、長時間会議になって申し訳ありません。これで私は終わりにいたしますので、事務局にお渡しします。
○中村職業病認定対策室長補佐 長い間、御議論ありがとうございました。次回の検討会の日時、開催場所については、後日、改めて御連絡いたしますので、よろしくお願いいたします。本日はお忙しい中、本当にどうもありがとうございました。
○磯座長 ありがとうございました。