2020年6月4日 第6回「精神障害の労災認定基準に関する専門検討会」 議事録

日時

令和2年6月4日(木) 18:00~20:00

場所

中央合同庁舎5号館厚生労働省労働基準局第1会議室(16階)
(東京都千代田区霞が関1-2-2)

出席者

参集者:五十音順、敬称略
厚生労働省:事務局

議題

  1. (1)精神障害の労災認定の基準について
  2. (2)その他

議事

議事録
○中村職業病認定対策室室長補佐 定刻となりましたので、第6回「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」をオンラインで開催いたします。本日の司会を担当させていただきます中村です、よろしくお願いいたします。本検討会を開催する前に、事務局より御説明させていただきます。
 今回の検討会は、5月25日に新型コロナウイルス感染症対策に関する緊急事態宣言は解除されましたが、感染防止の観点から、前々回と同様にオンラインでの開催とさせていただきます。オンラインの開催になることについて御理解、御協力のほどよろしくお願いいたします。オンラインでの開催となりますので、前々回と同様に、委員の皆様方にお願いがあります。意見等を発言する際には、マイクのミュートを解除した上で、お名前と、発言がある旨を発言していただくか、又はインスタントメッセージで発言がある旨を送信していただき、更に黒木座長から誰さんお願いします、と指名させていただいた後に発言をお願いいたします。発言が終わりましたら、再度ミュートにしてください。
なお、発言が重なった場合には黒木座長が順番を決めさせていただきますので、御協力のほどよろしくお願いいたします。また、通信が不安定になったり、通信速度が遅くなったりすることで、発言内容が聞き取りにくい場合があることは御容赦願います。
 傍聴されている方にお願いがあります。携帯電話などは、必ず電源を切るか、マナーモードにしてください。その他、別途配付ております留意事項をよくお読みの上、検討会開催中はこれらの事項をお守りいただいて、傍聴されるようお願いいたします。また、傍聴されている方にも、入室する前にマスクの着用をお願いしていますので、御協力のほどよろしくお願いいたします。万一留意事項に反するような行為があった場合には、この会議室から退室をお願いすることがありますので、あらかじめ御了承ください。写真撮影等はここまでとさせていただきます。
 委員の皆様におかれましては、大変お忙しい中、オンライン会議に御出席いただきましてありがとうございます。
○黒木座長 議事に入る前に、事務局から配付資料の確認をお願いします。
○中村職業病認定対策室室長補佐 資料1、心理的負荷による精神障害の認定基準の改正についてです。資料2、ストレス評価に関する調査研究の概要です。資料3、雇用保険法等の一部を改正する法律の概要等です。資料4、第6回精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会における主要論点です。資料5、複数業務要因災害における精神障害の認定についてです。資料6、複数業務要因災害として考えられる事案の例です。参考資料1、パブリックコメントで寄せられた意見等です。参考資料2、団体からの意見要望です。
○黒木座長 議事に入ります。議題1の精神障害の労災認定基準の改定について、事務局から報告をお願いします。
○西川専門官 職業病認定対策室の西川です。よろしくお願いいたします。私から、本日の資料について御説明させていただきます。
 議題1については、資料1を御覧ください。心理的負荷による精神障害の認定基準の改正についてです。5月15日に取りまとめていただきました本検討会の報告書を基に、パブリックコメント手続を経て、5月29日付けで労働基準局長通達を発出して、検討会報告書の内容どおり、認定基準の改正をさせていただきました。パワーハラスメントに係る出来事を追加し、いじめ・嫌がらせの出来事を修正するという内容です。
 資料としては、改正そのものの通達と、それから5ページぐらい送ると、改正後の認定基準の全体版を付けております。改正通達の本文の1ページにあるとおり、発出は5月29日付けでしたけれども、改正労働施策等推進法の施行日に合わせ、本年6月1日から施行しておりますことを御報告させていただきます。
 併せて、参考資料1と参考資料2です。参考資料1は、パブリックコメント手続を行った際に9件の御意見がありましたが、こちらの参考資料をもって御紹介とさせていただきます。
 また、報告書を取りまとめていただいた日付と同じ5月15日付けで、過労死弁護団全国連絡会議からも意見書が提出されましたので、こちらを参考資料2として御紹介させていただいています。
 本改正ができましたのも、検討会の先生方の御議論のおかげでございます。誠にありがとうございました。以上、御報告を終わります。
○黒木座長 ただいまの事務局からの報告に対して、御質問等がありましたら御発言ください。よろしいでしょうか。続いて議題2のストレス評価に関する調査研究について事務局から報告をお願いします。
○西川専門官 議題2のストレス評価に関する調査研究について御報告させていただきます。資料2を御覧ください。ストレス評価に関する調査研究の概要です。令和2年度において、厚生労働省では委託事業として、ストレス評価に関する調査研究、いわゆるライフイベント調査をお願いしています。この事業の実施に当たり、概要について先生方に御報告させていただきます。
 まず目的を記載しております。今の認定基準は、平成22年に同じタイトルであるストレス評価に関する調査研究で実施していただきました、ライフイベント調査の結果に基づき、心理的負荷評価表を策定しています。前回の調査研究から約10年が経過したところです。この間、社会情勢や、職場環境の変化がみられることから、改めて現在の職場における労働者のストレスを評価する、という趣旨で今年度この調査研究を委託により実施させていただいています。
 この結果を踏まえ、令和3年度に、本検討会において認定基準全般の検討を行っていただきたいと考えております。受託いただいた委託先は、一般社団法人日本産業精神保健学会です。委託期間は、令和2年度いっぱいということになっておりますので、来年の3月に報告書が取りまとまることになっております。
 調査内容は、ライフイベント調査ということで、職場において発生する様々な出来事のストレスの強さが一般的にどのようなものであるかということについて、ライフイベント法を用いた、科学的に解析・評価するということで、精神科医、産業医、臨床心理士、公衆衛生学等の専門家、学会の専門家の皆様の検討を加えて報告書を取りまとめていただくことを予定しております。
 どういう出来事について、このライフイベント調査を行っていくのかということです。2ページにあるように、今の業務による心理的負荷評価表に書かれる項目、これは先般の改正後のものですが、この項目について調査をしていただくとともに、今の心理的負荷評価表には掲げられていないけれども、最近の研究報告、あるいは実態等から、職場において多数の人がストレスを感じるのではないかというような出来事について、追加で10項目程度、調査をしていただく予定にしております。
 有効回答数が5,000以上となるような形での調査報告をお願いしております。性別、年代、業種別など様々な分析をしていただいた上で報告書を取りまとめていただくことしております。
 先ほども申し上げましたとおり、これを踏まえて、来年度先生方に御検討を行っていただく予定となっておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。議題2については以上です。
○黒木座長 ただいまの事務局の報告に対して、御質問等がありましたら御発言ください。よろしいでしょうか。それでは、続いて議題3の、複数業務要因災害における心理的負荷の評価についてです。前々回に、事務局から令和元年12月23日、労働政策審議会労災保険部会の建議において、精神障害の認定基準については、医学等の専門家に意見を聞いて、運用を開始する旨の説明をしていますが、再度確認のため事務局から説明をお願いします。
○西川専門官 本日の議題のメインとなる、複数業務要因災害における精神障害の認定についてです。冒頭に黒木座長からもありましたけれども、資料3は、第4回でも御紹介させていただきました、今回の法改正の概要とか、労災保険部会の建議を踏まえ、本日御意見を頂きたい事項について説明させていただきます。
 資料3の1枚目は、主な今回の法改正の内容です。第4回でも御説明申し上げたところですが、再度確認をお願いいたします。中段の、主な改正内容の欄に①②とあります。今回の改正内容は大きく2点あります。①は、従来からある業務災害、通勤災害、そして今回の新しい複数業務要因災害の全てについての給付の話です。複数就業、いわゆる兼業をしている方については、賃金額を基礎とする給付の額、例えば休業補償給付の額、障害補償給付の額といった、賃金額を基礎として算定される給付の額について、災害を起こした事業場の賃金だけで計算するというのが今までだったのですけれども、全て兼業先の収入も合算した額で、給付の額を算定していくという、補償の額に関する算定が1点目です。
 ②は、新しい給付についての改正です。これら複数就業している方について、業務災害に該当する場合には、今までどおり業務災害として取り扱われます。業務災害に該当しないような場合について、複数就業先、兼業先の業務上の負荷を総合的に評価し、そして複数の事業における業務を要因として災害が生じたといえるものについて、今回、複数業務要因災害という新しい保険給付を設け、これを労災保険給付の対象とするという改正です。新しい給付に対する改正ということになります。
 次の論点のペーパー等で、本日先生方から御意見を賜りたいのは、②の部分に関するものです。御意見を頂く内容については、資料3の2枚目です。法改正に当たって、法改正前の昨年12月に労働政策審議会で頂いた建議になります。こちらは抜粋ですけれども、「複数就業者の認定の基礎となる負荷について」という項目で、新しい複数業務要因災害の認定方法について建議がされております。
 ここの「認定方法について」というところに、現行の認定基準の枠組みにおいて対応することが適当であるということ、ただし、脳・心臓疾患もそうですけれども、精神障害の認定基準については、医学等の専門家の御意見を聞いて運用を開始することにも留意することが適当である、(2)の1段落目ですけれども、そういうことが建議で示されています。
 先ほど黒木座長からもお話がありましたとおり、この点について第4回でも若干御説明させていただきましたけれども、本日はこの建議に基づき、改めて先生方の御意見を伺うということとしたものです。このため、パワーハラスメントのときに御検討いただいたように、報告書というような形で取りまとめるということは予定しておりません。先生方の御意見を伺った上で、運用を開始していくことになりますので、今回の新しい複数業務要因災害について、どのようにこの複数就業先の業務を総合的に評価していくのかという運用上の問題について御意見を賜りたいと思います。
 資料の3枚目は、第4回で労災認定の給付と精神的負荷の評価等に関して先生方から医学的な御意見を頂きました。1番下のところで、個別の事例ごとに判断する必要があるが、心理的負荷の強度としては単一事業場で受けた場合と、複数就業先で受けた場合で異なることはないという御意見を賜っています。医学の先生方からは、第4回の際に、おおむね御賛同いただいたところですけれども、これも踏まえて御意見を頂ければと思います。以上です。
○黒木座長 ただいまの、複数就業者の労災認定ということについて御意見があれば出していただけますか。
○西川専門官 資料4の論点1についても説明させていただいてよろしいでしょうか。
○黒木座長 それでは、資料4をお願いします。
○西川専門官 資料4と資料5に沿って御意見を賜れればと思います。資料4と資料5の論点1について御説明させていただきます。資料4、資料5は、全体ではなくて、項目に沿って区切って御説明させていただきますので、項目ごとに御意見を賜れればと考えております。基本的には、資料4と資料5は同じことを御説明させていただいております。資料4は文章で書いていて、資料5はこれを図解したものです。
 論点1の認定基準の適用について御説明します。資料には前提を書いておりますけれども、複数業務要因災害について今回は御意見を頂きます。複数業務要因災害に関する保険給付という法律上の規定ですが、ここからは「業務災害に関する保険給付を除く」とされています。実際の今後の労災請求事案の審査に当たっても、請求書を受け付けたら、監督署においてはまず、業務災害に該当するかどうかを判断することが先になります。業務災害に該当するものであれば、これは業務災害として給付されるので、複数業務要因災害という問題は出てこないわけです。業務災害に該当しない場合に、それでは今回の新しい給付の対象になるのか、つまり、複数業務要因災害として労災保険給付の対象となるかどうかを判断していくことになります。その際の判断のやり方について、運用上の御意見を頂ければということです。
 この前提の上で、論点1の認定基準の適用についてです。複数業務要因災害についても、心理的負荷による精神障害の認定基準に基づき、心理的負荷を評価した上で、労災保険給付の対象となるか否かを判断することでよいか、と記載しています。
 ここで、認定基準における認定要件は、四角の箱の中になりますが、3点あります。1点目は、認定基準の対象となる精神障害を発病していること。2点目は、この精神障害発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められること。3点目は、業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。この3点です。
 これについては、疫学的知見に基づいて、当時の検討会でまとめていただいたものです。これを示しているものが資料5です。資料5では、NIOSH職業性ストレスモデルを示しております。業務によるストレスと精神障害の発病との関係を議論するに当たって、このモデルに基づいて考えていくということです。職場におけるストレス要因がある。それ以外に様々な要素として、職場以外のストレス要因であるとか、個体側の要因。一方、反応を起こさせないようにこれらを緩和する要因。それらのいろいろな影響がある。ただ、それらの結論として、ストレス反応が出て発病、疾病に至るというモデルです。
 このモデルを基に、実際に精神医学における精神障害の原因の判断をします。実際の精神医学において精神疾患の原因を探るときには、患者さん本人、あるいは周りの方から、いろいろな発病の状況、あるいは原因となったと思われる具体的出来事の内容、それによって生じた精神症状や、行動の変化などを詳しくお医者さんが聞いた上で、それが医学経験則上、その出来事によるストレスが精神障害の発病に重要な役割を果たしたという確信を得た場合に、それが原因だと判断する。そういう医学的知見に基づいて今の認定基準、元々の判断指針も含めてこれを決めていました。
 実際にその出来事を評価していくに当たり、評価対象となる出来事というのは客観的に一定のストレスを引き起こすと考えられる出来事であるということ。また、評価期間については、ストレス評価において精神障害発病の6か月前からの出来事が調査されることが一般的であること。あるいは、ICD-10分類F43.1外傷後ストレス障害の診断ガイドラインに「心的外傷後、数週から数か月にわたる潜伏期間を経て発病する。ただし、6か月を超えることは希」とされていることなどを参考に、発病前6か月の出来事を調査することが妥当という考え方になっています。
 そして複数の出来事がある場合には、そういった複数の出来事が重なって認められる場合は総合的に評価されるという考え方が示されております。結論としては、複数の出来事の心理的負荷、ストレスの強さを総合的に評価するという形になっています。
 これが、単一事業場の場合は1社の中で幾つかの出来事ということです。副業をしている方、複数事業労働者と書いてありますが、1社の中で幾つか出来事があるということももちろんあるでしょうしA社とB社で出来事がある、ということもあるだろうということで、そうした場合にどうしていくかということについて、ここで御意見を頂きたいということです。
 資料5の2枚目については、その心理的負荷の強度を評価していく方法についてまとめたものです。これは、今の認定基準の内容ということになります。心理的負荷が「強」と認められる場合に、業務による強い心理的負荷があると評価するということです。例えば、特別な出来事があったとすると、それは「強」ということで判断する。この特別な出来事がない場合については、心理的負荷評価表の具体的出来事に当てはめていって、それぞれその出来事について総合評価の視点などを見ながら、出来事自体や、その後の状況などを踏まえて総合評価をして、これが「強」なのか、「中」なのか、「弱」なのかということを認定するという形です。
 この総合評価に当たって、この出来事の前や後ろに恒常的長時間労働、いわゆる月100時間を超えるような時間外労働が認められる場合には、100時間の長時間労働をやっている中で「中」の出来事が起こったということであれば、これは全体としてストレスは「強」だと。あるいは、「中」の出来事の対応をしている中で、100時間の時間外労働をやることになると、これも心理的負荷は「強」ですということなどを決めさせていただいております。
 また、出来事が複数ある場合において、これらが関連していれば全体として1つの出来事として評価して、先発の出来事の後の出来事はその後の状況という形で全体を評価して、「強」か、「中」か、「弱」かということを判断する。関連していない場合には、出来事ごとに「強」か、「中」か、「弱」かをみていきます。そして、それらが集まって、全体としてどうなのかということです。「強」の出来事が一つでもあれば、全体として「強」になります。「中」の出来事が複数あるときに、それは全体として「中」なのか、「強」なのか。これは、「中」と決まったものでも、「強」と決まったものでもありませんけれども、そういった全体を評価していきます、という形を今の認定基準では示しています。
 こういう認定基準ですけれども、複数業務要因災害においても、目の前に患者さんがいて、その方の発病の原因が、どうやら1社の業務ではなさそうだというときに、この方は2社で業務をしておられて、全体としてこれが仕事のせいと言えるかどうかということについて、この認定基準の枠組みに基づいて判断することでよいか。心理的負荷の強度としては、単一事業場で心理的負荷を受けた場合と、異なる事業場で心理的負荷を受けた場合で異なることはないと考えてよいか、ということについて御意見を頂きたいと考えております。論点1の御説明は以上です。
○黒木座長 ただいまの、事務局の説明に対して御意見はありますか。品田先生、どうぞ。
○品田委員 本日の論点については、また後で意見を言いたいと思います。医師の委員の方々に、この制度の背景と言いますか現状について、私なりの意見と言いますか感想をお聞きになってからお話を進めていただければと思います。
 今回の法改正について、厚生労働省から説明があったように、第1事業場がフルタイムで、第2事業場をパートタイムとして、それぞれ労働者としての立場で働いている人は、副業や兼業をしている人の中でも極めて少数ではないかと感じられます。
 この種の問題を考えるに当たっては、例えばお医者さんや大学教員など、ある程度の裁量をもって、また時間的拘束が緩やかな特別の仕事に就いている人がたくさんの場所で仕事をする。更には、パートタイムの労働を重ねることによって、なんとか生計を立てている人。また、昼間は働きながらも、夜は水商売等のパートタイムをする。しかし、それは労働者なのかどうか、微妙な立場の人になります。更には個別の準委任や請負契約を締結して自己責任で働く道を選ばざるを得ないフリーランスの人などが圧倒的に多いのだろうと思います。
 そうすると、災害や疾病発生時には、そうした複数就労している人たちについて、そもそも労働者であるか否かの確認が必要となります。しかしながら、形式的には給与ではなく、報酬として支払われているとか、契約時において労働者でないことが確認されているなど、労働者性の判断は現行の枠組みでは極めて難しいものとなるのかと思います。
 更に、仮にその実態から労働者であると認定しても、そもそも労災保険料は納入されていない可能性が高いわけです。労災保険料は通常、雇用保険料と一緒に徴収されるわけです。現行制度の下では、雇用保険は週20時間未満の労働者は加入できないのです。そうすると、労災保険料のみを徴収していることになります。例えば、非常勤講師等をたくさん雇用している大学などは、給与をまとめて雇用保険料を払っていると思います。小規模の所で、労災保険料だけ払っているかどうかは極めて怪しいと思います。これから、それを相当程度校合することがまず前提になるだろうと思います。
 つまり、就労の形態が急速に変貌している現状にあって、労働者概念を見直さないまま、複数就労者への労災保護をうたったときに、かえって委任や請負といった契約形態で仕事をせざるを得ない事態を招来せしめてしまうのではないかという気がしてならないわけです。仮に広く労働者性を認めることになるとしても、先ほど言いましたように、保険料を徴収されていない事業場での就労に対して補償を行うという理不尽な結果になります。
 問題はたくさんあるのですけれども、例えば、第1事業場が地方公務員であって、第2事業場が民間企業であって、第1事業場で事故若しくは精神障害になった場合に、地公災の基金は第2事業場の賃金相当分の補償を含めて払う気があるのかどうか。おそらくあの法の枠組みからして難しいのではないかと思うのです。その点、複数就労を進めている行政機関自体がそういう実態にあるということです。
 さらに、フリーランス等には特別加入を勧めるという説明がありましたけれども、どのような団体がこの事務を引き受けるのかという問題があります。また、本日も問題になると思いますが、そもそも自分で働きすぎたことが原因で精神疾患になった場合において、特別加入の場合、給付基礎日額を幾らにするかというのは事前に自分が決めます。自らが精神疾患になったという直前に、給付基礎日額を引き上げておくなどということはないと思いたいですが、他の労災ではそういう事例が見られたこともあり、そうした問題もあります。
 つまり、こうしたいろいろな背景を念頭に置いて本日の話は議論しなければならないし、そうしなければ国民に理解されるものとはならないのではないかと私は感じています。改正法の枠組みの中でどうするのだという話ですけれども、しかしそうした中においても最低限ここは必要なのではないか、というような議論をすべきなのではないかと感じている次第です。
○黒木座長 ただいま、品田先生は法的に重要なことをおっしゃったと思います。1つは労働者性の問題と、それから事業場が重なった場合。地公災等、地方公務員と民間との問題。あるいは日額の問題をおっしゃいましたけれども、これに対して事務局から説明していただけますか。
○松本大臣官房審議官 審議官の松本です。品田委員から、法改正についての御指摘をいろいろ頂きました。この法改正については、労政審で1年半かけていろいろな点を議論をしてきました。兼業している方の数字はどうなのだという議論もありました。雇用×雇用という両方とも雇用で働いている方、あるいは雇用と非雇用で働いている方のデータというのは、総務省の就業構造基本調査で取れます。
 実際にその調査をやった結果、直近2017年の調査では128万人ぐらいが雇用×雇用で働いているという副業の状況です。全体が、6,000万人強の方がいるわけなので、そう多い数字ではありませんけれども、そういう状況です。更に、希望している方ということで見ると6.5%、380万人います。要するに、本来希望している方の3分の1程度が今は実際に副業している状況です。
 そのような中で、もちろん労働時間管理の問題とかいろいろな問題があるわけです。1つは労災のセーフティネットが整備されていないというのも1つの要因であるというのは間違いないところですので、そこを手当てさせていただきました。
 それから、どういう層が副業しているのかということです。本業の所得ベースでいくと300万円以下の方々が3分の2です。品田委員がおっしゃっていたような、パート×パートというのは多いのではないかと思います。一方で、品田委員がおっしゃっていたハイエンド層の、1,000万円以上の方も比率的には結構多いです。本業が1,000万円以上の収入のある方も6%ぐらい副業しています。一方で、本業の所得が非常に少ない方々も率が高い。真ん中の層はあまり副業されていないという状況です。
 そのような中で、今回手当てをさせていただきました。労災保険については、農業など一部を除いて原則全部適用です。これは、品田委員がおっしゃるとおりです。賃金総額に掛けて当然保険料は徴収させていただいています。雇用保険の場合は週20時間以下は適用の対象ではありませんけれども、労災は全部適用ということで、賃金総額掛ける料率で徴収させていただいている状況です。
 それから、地方公務員との関係についてもいろいろ御指摘がありました。今回、副業の労災の手当てをさせていただいたのは、正に労災保険法適用の民間の方々の手当てということです。それでは、こちらのほうとの関係はどうなるのか。地公災のほうは、地方公務員の中でも、兼業されている方は、民間の兼業と比べて非常に率が低い状況が1つあります。それから、地方公務員のほうは、非常勤と常勤では制度が違っているとか、いろいろな課題があります。そういうところも含めて検討していくということです。現在、地方公務員と、民間との兼業についてこの制度はありません。合算するという制度はありません。
 国家公務員も同様です。国家公務員は原則兼業禁止ということになっています。それに兼業している人は非常に少ないです。時間外に大学の講師をやられている方はいますけれども、基本的にそういうのは今の兼業の状況等を踏まえて更に検討していくということです。
 概略ちょっと足りない点はあろうかと思いますけれども、以上が今回の改正に至った状況です。なお、この改正については、いろいろな意味で国会において合意をして、国会全体としては進めていくということで整理をさせていただきました。
○黒木座長 よろしいでしょうか。
○西村委員 品田さんが話されたように、最近の労働というのはいろいろな形態があると思います。そのとおりだろうと思うのです。今回の複数業務要因災害の法的な手当てというのは、あくまで労働というか、指揮命令関係にある労働です。請負とか、あるいは最近のデリバリーサービスみたいな形のものは多分含まれない、ということをはっきりさせる必要があるのではないかという感じがします。
 先ほどおっしゃっていたように、雇用というのが大前提です。労災保険法上の労働というのが前提で、複数業務要因災害と考える。そうでないと、今までの認定基準をこれから類推適用とするような感じですから、労働の中身が違ったら、それは適用できないのはある意味当然のことです。品田さんがおっしゃりたいことはよく分かるのですが、そこまでこの制度は広くないと。将来どうなるか分かりませんけれども、広くないということを押さえておく必要はあるのかと思います。
 それから、収入の件でも先ほどおっしゃっておられましたが、大抵はアルバイトをしていて、それほど大きくはないということです。これまでも、労災保険の給付について、給付基礎日額に係る年齢階層別の最低限度額と最高限度額というのがあります。この複数業務要因災害の場合でも、そういう制度が適用されるので、低い人については持ち上げられる。先ほども1,000万円を超えるようなうんぬんという話がありましたけれども、最高限度額の線でバンドがかかってくるので、その点についてはそんなに心配は要らないのかと思います。
○黒木座長 他に御意見はありますか。三柴先生、どうぞ。
○三柴委員 別の角度からの意見になるかもしれません。申し上げたいことは、この議論というのは公共政策の議論なのではないかということです。もちろん西村先生がおっしゃるように、範囲を限定した話ではあるのだけれども、基本的に公共政策をどうするかという話なのだろうと思います。法学者の先生には「いろは」の話ですけれども、もともと労災保険という仕組み自体が、使用者の責任をカバーするというところから入りました。そのうちに、社会連帯ということも考えて、社会保険化、社会保障化していったという経緯があります。
 今回の問題というのは、兼業を推進するという基本政策を背景に、労災補償制度のレフトとライトの間の間隙をどう埋めるかという問題なのだろうと思うのです。こういう課題も、1つの使用者の下での補償をどうするかということではなくて、社会全体として、公共政策としてどうしていくかということになるのだろうと思うのです。この話は、そもそも論を展開していくと、一人親方に対して特別加入制度を認めていることもどうなのだとか、労災保険特有の政策議論はいろいろ生じるわけです。これも、そういう議論の一環なのかなと考えます。以上は趣旨論というか、根本的な制度論の話です。
 その上で、各論について要点のみ申し上げます。その趣旨論に基づく制度設計は、基本的には、複数事業場での就労についても、1つの事業場で行われていたらどうするか。複数の事業場での就労が、1つの事業場で行われていたらどうするかという想定に基づいて設計していくのだと思うのです。ただし、やはり、複数事業場での就労となると、特殊性があると思うのです。多くはないでしょうけれども。例えば、これは西村先生も品田先生も御指摘だったと思いますけれども、出来事ごとに背景が違ってくると思うのです。やはり、そこを踏まえないといけないだろうということです。
 それから、移動の問題も出てくるだろう。非常に長距離の移動ということになると、その移動も過去の裁判例ではカウントしたものもあるから、そこも考えなければいけないのではないか。
 それから、運用面にわたりますけれども、労災保険事務を現実的に動かすための配慮もおそらく必要になってくるから、そういうことも踏まえて設計していく必要があるのかと考えます。
○黒木座長 ほかにはいかがでしょうか。山口先生、何かございますか。
○山口委員 それでは、少し意見を申し述べさせていただきたいと思います。今回の問題が雇用関係を前提にしているというのは、西村先生がおっしゃったとおりで、それは問題としては非雇用でフリーランスなども問題はあるかもしれませんが、それは今回の検討課題にはなっていないので、また残された問題だと思っています。
 それで、雇用関係を前提にして話しますと、今回の問題の背景というのは、副業・兼業をこれから推進するというような世の中になってまいりまして、我々の学生時代は、会社が終わってから副業で働いていたら懲戒処分になるかどうかというようなことがテーマでしたが、全然逆の話です。それはいいのですが、とにかく、副業・兼業を推進するということになってきて、それが進んできていると。そうすると、そういう事実関係を前提にして現代の労災補償というのはこれでいいのかという問題だろうと思います。
 そのときに考え方としては2つあって、複数、2つ、3つの事業所で働いていたときに、1つの事業所で労災が起こって、就業できなくなったら、ほかの事業所で得ていた収入もなくなると。労災補償としてはこれでいいのかと。
 それは、補償としてそれでいいのかという問題と同時に、労災保険はほかの社会保険と違っていて、よく「加入する」と言っていますが、加入というものがありません。事業が始まったら、自動的に保険関係が成立してしまって、そして保険料を払わなければいけなくなって、品田先生がおっしゃったように、適用から問題があって、払っているか払っていないかの問題はあると思います。パートのときに払っているかどうかという問題はありますけれども、それはそれで、また費用徴収とか別の制度もありますから、保険料は使用者が負担しているという前提になります。
 そうすると、3つの事業所で働いていたら、3つの事業者が保険料を払っているのに、1事業所で災害が起こって、3事業所の収入が全部なくなったときに、1事業所しか労災保険で補償しないのはおかしいではないかという。これが、今回の本来の問題だと思います。
 つまり私の理解では、労災が起こったときの所得補償をどう考えるかということがいちばんの問題だと思います。そのときには、1事業所で労災が起こって、業務上の認定が下されたならば、他事業所の場合には、労災が発生しているかどうかということは全然関係なく、給付基礎日額だけ合算して算定すればいい。それはなぜかと言うと、所得補償という観点で、なぜそういうことが可能かと言うと、労災保険は使用者の集団的な責任なので、労災を起こさない使用者も保険料は払っていますから、そういうことが可能になるのだと。こう私は考えています。
 一方、今回出てきている案は、資料3の1枚目を見たら分かりますが、A事業所が40時間で、B事業所が25時間で、これを合算するということになっています。だから、所得補償とは別に、労災の認定を容易にして、結果として労災の所得補償につながるかもしれないけれども、今回の問題は労災の認定を容易にするというところだと思うのです。そのために労働時間の合算ということをやるわけです。
労働基準法に、異なる事業場の労働時間を通算すると書いてありますが、この労働基準法でいっているのは、同一使用者の下である限りは異なっている事業場の場合にも労働時間は通算するということだと私は思うのです。厚生労働省が、異なった事業者のときにも通算すると解釈していることは承知していますが、労働基準法をそう解釈するからといって、複数事業労働者を対象とした労災保険給付の場合にも、明確な根拠なくその考え方に沿って処理することがよいのかは、疑問が残ります。
○黒木座長 荒井先生、先ほど何か御意見があったようですが、いかがでしょうか。
○荒井委員 救済として、こういう考えが出てくることはよく分かるのですが、例えば産業医が時間に対しての配慮が全くできない状態になる可能性があるので、安全配慮義務を産業医が事業者に代わって、一部でも果たすときに、情報が足りない可能性があります。ですから、私は今は産業医を本職としているので、もし兼業した場合には、他社で働いていることについて、少なくとも主たる就業場所の産業医が、もし仮にいればですが、その産業医の健康管理上の問題として、申請していただきたいと。その緩衝要因として産業医が関与できるチャンスがほしいと思います。以上です。
○松本大臣官房審議官 最初に山口先生から頂いたお話なのですが、冒頭に西川から説明したように、1つの事業場の、例えば負傷であれば、通常はその事業場で起きたというのは明白ですので、その事業場で労災認定ができるということになるわけです。
 一方、脳・心臓疾患とか、あるいは精神障害のように、遅れて発症してくるような、特に疾病ですが、それにつきましては、6か月ぐらいの潜伏期間があるとか、そういう関係もありますので、1つの事業場で、例えば脳・心臓疾患であれば100時間とか80時間で、それで病名もそういうことであるということであれば、そこで認定できるのですが、今、2つの職場で労働者で働いているという方がおられて、それが1つの職場ではそれはそういう時間までいっていないから認定できないと。でも、2つの職場を合算してみれば、これは1つの職場で仮に働いていたとしたらということを考えれば、同じ認定をできるような時間数になっているのだという場合もあろうかと思います。それが、先ほど図に載っていたものです。
 その際に、今回は精神障害の御議論の場ですが、脳・心臓疾患の場合は、御案内のように、睡眠時間から逆算してオーバーワークの時間が100時間とか80時間、要するに睡眠時間が6時間から5時間とかになったときに、脳・心臓疾患を発症する確率が疫学上非常に高くなるということをもって、認定基準に今はなっているわけですが、それに達すると。
 そうすると、1労働者から見てみれば、業務時間がそれだけに達しているということは、業務によって睡眠時間がそれだけの状況になって、脳・心臓疾患を発症しやすい状況になっていると。それは疾病の原因というのは、精神障害でも一緒ですが、業務なのかプライベートなのか、あるいは元々の個体側要因なのかということですから、それは職場は違っても業務なのではないかということで、労働基準法とは別の話として、労災補償をしていくことがふさわしいのではないかと。そのような結論に部会ではなってきたという状況です。
 翻って、この精神障害のことを御議論していただいているわけですが、やはり精神障害でも同じような出来事が幾つかあったと。1つで強が出れば、それはA事業場で認定するわけです。B事業場で強が出れば認定するわけですが。中と中だという場合に、どう評価するのか。別事業場ですから、当然今までの運用でしたらやらないと。今までの法律では一切やらないのですが、それは中と中を総合評価すべきなのではないかというのが、今回の議論の中で出てきたというところです。
 もう1つ、荒井先生から産業医の方々のという話が出て、どういうような情報提供がなされるのかというところでした。最初の品田先生のところからもお話があって、山口先生からもお話がありましたが、今、実は副業・兼業の際の労働時間管理と労働安全衛生の方策については、まだ労政審で検討をしているところです。当然、労災のほうでも副業・兼業、今回9月1日施行という方向で進めていきますので、そういうことも含めて、検討を今急いでいただいているという状況です。
 労働時間管理なり労働衛生のほうは、実際のマスの6,000万人の労働者あるいは兼業している、実際上雇用×雇用である130万人の労働者に対して広く網を掛けるので、更に制度的にやっていかないといけないのですが、労災の場合は実際に起きた話なので、しっかり調べられますので、そこのところはどのように調べて、どのように評価するかというのを、こちらでは御意見を頂きたいと思っています。時間管理や労働安全衛生は、御案内のように1社ずつしかやっていないわけです。副業・兼業は実際に多くなってきている。そのときに、どういう労働者保護をすべきなのか、あるいは労働安全衛生上の保護をすべきなのかということは別途議論しておりますので、そちらの結論を待たせていただきたいと思っています。実際上、今、副業・兼業している人が、もし精神障害になった場合あるいは脳・心臓疾患になった場合に、1社のほうだけだと駄目なのだけれども、2社やれば労災になるのではないかというときに、どのように運用していくべきかという点で御議論いただけたら有り難いと思っております。
○山口委員 お考えはよく分かります。それで、検討が進んでいるのだったら、その検討を待って、その議論に従って立法化される。それは私は何も反対ではありません。
もうひとつ、資料3を見ていただきますと、就業先A、就業先B、これは現在のものでは労災にはならないのです。これを総合して認定するから労災になるというのだったら、ここで1個の労災が発生するというように考えないとおかしいのですが、この場合には、今度の法律では給付基礎日額は2か所の賃金に基づき払うということになります。そうすると、2個の労災が発生したとして理解されるのではないか。もし総合的に認定するのだったら、AとBを併せて1個の労災が発生したということでないとおかしいと思いますが、どうでしょうか。
また、今度の複数就業者の改正の規定からは、認定の方法がどう変わるかは分かりません。条文に照らせば今までの認定を守るようにも読めます。「要因」というのはどういう意味でしょうか。因果関係という意味だったら、今までのものと変わらない。この辺の意味をはっきりさせる必要があるのではないでしょうか。
○黒木座長 ありがとうございます。山口先生の法律的な観点というのは非常に重要だと思うのですが、我々はその辺はちょっと疎いので。ただ、認定基準からいくと、今までの何例かを振り返ってみると、複数就業者というのは別な所でも仕事をしていると。時間外も非常に多くて、これは何で認定にならないのかと思う事例が、単純にそのように思う事例も今までにあったということも事実です。
 これはおかしいではないか。逆に、これは明らかに、この2つで疲弊して発症していると。だから、これは認定すべきだというように考えたことも事実なので、今回、こういったことを救うという意味もあるのではないかと思います。
 それでは、複数業務による心的負荷の評価ということで、労働時間、労働日数ということに関しての見解に関して、事務局のほうから説明していただけますでしょうか。
○西川専門官 それでは、御議論が労働時間の評価の方法といったところに入ってきているように思いますので、それについて論点2の(1)に記載していますので、そちらにつきまして、御説明いたします。なお、複数業務要因災害であっても、災害の数は1個となります。
では、資料4、資料5、資料6について御説明いたします。資料4の1ページ目の下の所からです。
 複数業務による心理的評価についてです。複数業務要因災害について、そういう災害について給付するということについては、法律が手続を踏んで改正されて、給付するということになったところですので、これに当たるか否かということを実際には判断していかなければいけないということで、次のような点について専門家の御意見を踏まえて運用していくことが必要ということで、論点を挙げているものです。
 先ほどの議論の中にも出てきましたが、2ページ目の冒頭ですが、単独の事業場において、例えば160時間であるとか、100時間が何箇月であるとか、もうそれだけで強になるというようなものについては、今までどおりその1社における業務災害として労災保険給付の対象になってきます。そういったものがなかった場合について、2社、3社で見たときにどうかということのやり方について、御議論いただきたいというものです。その(1)です。労働時間・労働日数に基づき心理的負荷を評価する場合。そういった場合は、今の認定基準においては何種類かございます。こういった労働時間や労働日数に基づき心理的負荷を評価する場合の評価方法について、異なる事業場における労働時間を通算して評価することでよいかということを、論点として掲げております。
 今の認定基準において、労働時間や労働日数に基づき心理的負荷を判断していくケースは、おおむね(1)の下にある次の3点ですので、それぞれについて、このような形で運用してはどうかという案を記載しております。1つ目が、いろいろな出来事に共通してみている総合評価における恒常的長時間労働というものの取扱いです。この恒常的長時間労働は、今の認定基準では月100時間を超える時間外労働と示していますが、これを考えるに当たって、異なる事業場における労働時間を通算して、合計として週40時間を超える労働時間数を時間外労働という形で評価した上で、これが月100時間を超えているかどうかというようなことで、総合評価における恒常的長時間労働が認められる場合か否かを判断していくということで、いかがでしょうかということです。
 2点目ですが、労働時間が主たる内容となる特別な出来事及び具体的な出来事というものがあります。1つは、特別な出来事の極度の長時間労働というものがあります。そのほか、具体的出来事の中で、1か月に80時間以上の時間外労働を行ったという出来事もございます。また、仕事内容、仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があったという具体的出来事もあるのですが、この仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があったに当たるかどうかというときに、労働時間数を比べて、前の月と何時間増えていて、結果として何時間になっているというようなことで、「強」「中」「弱」を判断していくような、今の心理的負荷評価表になっています。
 こういったことを評価するに当たりまして、異なる事業場における労働時間を通算して、週40時間を超える労働時間数を時間外労働として評価した上で、こういった出来事への当てはめを検討していくことはいかがでございましょうかということです。
 3点目は労働日数です。今度は時間ではなくて日数です。労働日数が主たる内容となる具体的出来事の取扱いです。これは、今の心理的負荷評価表には、2週間以上にわたって連続勤務を行ったという出来事があります。この連続勤務の評価に当たっても、異なる事業場における労働日を通算して、具体的出来事の2週間以上にわたって連続勤務を行ったことを評価していってはどうかという案です。
 なお、この労働日を通算するに当たって、今も1社においては同じですが、12日以上の連続勤務を行った場合には、これが平均的な心理的負荷として、「中」だということになっておりますが、1日当たりの労働時間が特に短い場合ですとか、手待ち時間が多い等の労働密度が特に低い場合は除くという形になっています。これは1社の場合でもそういった形で見ておりますので、仮にこの方法で2社以上のものを通算していくということになっても、同じ考え方ということでどうかと考えているものです。
 資料5を御覧ください。今、言葉で御説明したものを図にしたものが、資料5の3ページ目です。3ページ目は、恒常的長時間労働の評価に関するものです。「中」の出来事の辺りに、月100時間の時間外労働がある場合や、「中」の出来事の前に、月100時間の時間外労働があると。弱の出来事の前後に、月100時間の時間外労働以下が認められるか。これを通算してよければ、こういったものが強いストレスという強の評価ということになるということです。
 次のページは出来事の話です。労働時間と労働日数に関する出来事です。先ほど申し上げた極度の長時間労働であるとか、1か月に80時間以上の時間外労働といった出来事、そして、2週間以上にわたって連続勤務を行ったというような出来事、こういった形で通算して評価していってはどうかという図です。
 最後に資料6です。この考え方で認定していくこととした場合のイメージとしての事例です。これはサンプルとして作った事例です。例えばということで、食料品販売を行っているA社に勤務している店長です。A社では毎月60時間程度の残業をされていたのですが、店長ですので、店の支出と収入には責任を持つ必要はあるわけですが、店舗の仕入金額と納品書の金額が合わないということで、以前から叱責を受けていたが、再度金額が合わないということで、強い口調で叱責された。「今まで何度も注意したのに改善しない。しっかり責任をもって業務を行いなさい」ということを言われたと。併せて、この方は生活費の必要ということで、深夜にB社で工事現場の誘導員の仕事をしたということです。週に1回、夜間2時間程度行うということで、12掛ける4週ということで、もともとA社での60時間程度と、このB社での仕事を合算すると、月に大体110時間程度は働いているということになる。その後、この方は精神疾患を発病したということになりまして、請求人はAの業務が原因だと思うのだけれども、Bの業務を合わせて長時間労働になっていたことが関係していると思うというようなケースです。
 これが業務災害かどうかということを見るに当たっては、A社はA社、B社はB社のそれぞれで見ていくということになります。これは今後も変わらないことですが、A社で社長から叱責されたということ、ただ、叱責される内容は非常にもっともな内容で、その対応もそこまでおかしいものではないということで、上司とのトラブルがあったということに該当するものだろうと。強い指導・叱責であったので、心理的には強度は「中」だということです。A社の時間外労働だけを見てみると、その前やその後に、いわゆる恒常的長時間労働というのは認められませんので、中が1個だけということで、業務外になるということがあり得ると。B社のほうでは、特段の出来事はなかった。B社のほうでも業務上にはならないということです。
 これを、今回の新しい給付の対象になるかどうかという視点で見ると、A社とB社の負荷、時間を通算していいということになれば、A社の業務で上司とのトラブルがあった。ここは心理的負荷は中であると。ここはこれまでの取扱いと同様です。AとBの労働時間を通算しますと、この上司とのトラブルがあった中の出来事の後に、月100時間を超える時間外労働が認められるということになりますので、これは全体としては心理的負荷の強度が強になるというように考えられるものではないか。こういったものを複数業務要因災害として、労災給付の対象としていくことでいかがというようなサンプルです。こういった考え方につきまして、御意見を頂ければと思います。論点2の(1)については以上です。
○黒木座長 事例を交じえて、労働時間をどう考えるか。あくまでも発症過程において、労働時間が本人の発症要因としてどのように影響を与えているかということを考えながら、考えなければいけないと思います。これについて、何か御意見はございますか。
○品田委員 精神も脳・心臓疾患についても、労働時間がどれほど発病に決定的であるかということについては、医師の皆さんのほうがよく御存じだろうと思うのですが、しかし、実務上は労働時間というのは非常に客観的なものなので、労基署などでは、この点を論拠にして労災であるか否かを判断するということが多くなりがちです。したがって、労働時間をどのように認定するかという問題は極めて重要なこととなります。そこで、考えると、3つの問題があると感じています。
 まず1つには、先ほど少し言いましたように、副業をすることによって労働時間を長くして、精神疾患に至ったと主張するような不適切な請求が出てくる可能性があるということです。この場合、給付基礎日額も合算されることになりますので、労働者にとっては、一定魅力的なものになります。全体としては多くはないと信じたいと思いますが、先ほど言いましたように、自分で第2就業場所での労働時間はコントロールできるものであることを考えると、こうした請求が出てきた場合にどうするのかということは、しっかりと考えておく必要があると思います。2つ目は、ほかの労災認定のケースとのバランスです。つまり、実務上、労働時間が足りないという理由で、ぎりぎり労災と認められなかったという例は多いのですが、例えばそうした中においては、本業のために自宅で勉強をしておりながら労働時間とは認められないとされる看護師の例などがあろうかと思いますが、そのようなこととの比較で考えると、本業のために自分で学習したものは駄目であるのに、自分の利益のために外で働いていたものは労働時間とみなされるというのが、果たしてバランスとしてどうなのかということも少し気になるところです。3番目は、こうした請求を認めると、いずれの事業場においても発病に責任があるとは考えないでしょうから、そうした職場への復帰は難しくなるだろうと考える点です。現状においても、精神疾患についての復帰は難しいのですが、さらに責任が曖昧になることによって、復職が難しくなると考えられます。
 したがって、どうするかということは、じっくりこれは検討しなければいけない、法律で決まっている以上、何らかのメルクマールをもって、時間を含めて総合的に判断するということが必要なのではないかという気がしております。
 さらに、ついでに先ほどのトラブルですが、「中」の評価が2つあった場合はどうするかという話ですが、出来事は単一の事業所だけで判断されるものであると思います。以上です。
○黒木座長 今、品田先生から非常に重要なポイントと言いますか、論点をお話しされました。自ら、自分で労働時間を調整する、あるいは自宅で勉強する。これは先生、やはり業務外のことなので、これを業務要因ということは難しいかなと思います。
 西村先生、何か御意見はございますでしょうか。
○西村委員 さっき西川専門官が説明されましたが、資料4に「認定要件」という囲みがあります。今までのものですが、この認定要件を見ていると、A社、B社で、それぞれ労働であれば、素直に見れば、足し合わせるというのが通常なのではないかと私は思います。レアケースとか例外的なケースというのはあり得るかもしれませんが、素直に見れば、A社で一定時間働き、B社で一定時間働いている。それを合計すれば、今までの認定要件を満たすということであれば、業務以外の心理的負荷とか、個体側の要因がないということであれば、この認定要件を類推解釈するというか、類推して、足し合わせるということに何の不思議もないのではないかなと私は思います。
 品田先生もいろいろおっしゃっているのですが、そういうケースは分からないではないけれども、あくまで労働であるということを前提にすれば、労働時間を足し合わせるということについて、素直な解釈ではないかなと私は思っております。
 労働基準法の労働時間とは別の話として、認定基準を前提にして考えていけば、労働時間を足し合わせるということについては、余り不思議はないと言うか、素直な解釈だろうと私は思います。
○黒木座長 それでは、精神科医の先生方、御意見いかがでしょうか。丸山先生はいかがですか。
○丸山委員 足し合わせることについては、それで認定要件を満たしていればよろしいかと思いますが、労働者が例えば2つあるいは3つ、複数企業にまたがって働くときの労働時間の裁量について、例えば主たる企業が兼業を認める場合には、当然健康管理、産業医等がいるので、その企業で働いている労働時間に加えて働くわけですから、それが恒常的な長時間労働にならない範囲での兼業は認めるかもしれませんけれども、それ以上は認めないと思うのです。だから、先ほど労働者が働くのは自由になるという話がありましたが、パート×パートということであれば、それは自由かもしれませんが、通常の常勤が主たる勤務先で、それに加算される場合には、その主たる企業がかなり労働時間の管理をするだろうし、恒常的長時間にならないように考えられるのが普通だと思います。医学的には、先ほど出ていますように、労働時間が長くなると睡眠時間が短くなるので、いろいろな過労死あるいは精神疾患、あるいは翌日等の労働の業務に差し障るということになっているわけですから、その辺りの労働時間の内容については、例えば法務関係の人はどのようにお考えか知りたいのですが。
○黒木座長 丸山先生、少し精神科の先生に御意見を聞いてよろしいでしょうか。
○丸山委員 どうぞ。
○黒木座長 小山先生はいかがですか。
〇小山委員 今の丸山先生の御意見がごもっともだと思うのです。1つの事業場勤務なら、通常、労働時間管理、健康管理をしておりますが、さらに兼業だとか副業が出てきますと、労働状況もさることながら労働時間の超過も当然考えられます、果たして、主たる事業場で本人の健康管理をきちんとやれるかという問題が出てくるだろうと思います。産業医の先生は、1つの事業場の場合には、その事業場でどれだけの長時間か労働状況がどうであるかは事業主からの情報提供もありますが、副業先での健康管理ができていればいいんですが、さもないと主事業と副業先の連携がなければ副業先での労働状況がどうなっているか主事業場も産業医ほうも把握できなければ労働者の健康管理ができない。その労働者の総括的健康管理、時間管理は誰がやるのかという問題が出てくると思われますがこれを果たしてどう考えるのか。通常勤務でやっていれば、当然副業・兼業が多くなれば長時間勤務になり得る状況なので、それを長時間になるのをそのまま認めていいのか。ただ、時間を合算はわかりますが発症になるほどの副業の時間外の時間を認めていいのかというのは、ちょっと疑問だと思うのです。このような意見を持っております。
 労災の予防策として労働時間管理、健康管理、産業医の役割ということを考えれば、体制をきちんと整えてから、どれだけの時間ならば勤務してもいいとか、幾ら裁量権でと言っても、限度というのがあるだろうと思いますので、その辺をきちんと決めた中で、やっていくことも必要ではないかと思っております。
○黒木座長 発症を考えるまでに時間外は非常に重要なのですが、逆に、時間外に数字に捕らわれるということもあるので、時間外の時間数がどれくらいかということを参考にするということは、1つの認定要件として重要かと思いますが、それはよろしいでしょうか。
○小山委員 労働者の総括的な時間管理は誰がやるのかということも必要になってくるのではないかと思います。
○黒木座長 ありがとうございます。田中委員、いかがでしょうか。
○田中委員 例えば、資料6のケースについて、臨床的に、どうしてこの方が病気に至ったかといえば、A事業場で60時間も残業した上にB事業場でも50時間も働いたからだと言えます。そういう意味では、いろいろ難しい議論があると思いますが、それでも時間の合算はどうにか客観性を担保できるかと思います。
 一方、出来事を合わせるのは少し難しいかと思っております。同じ出来事でも、事業場Aの出来事と事業場Bの出来事を同じものと評価できるかは非常に難しい。今、NIOSHの職業性ストレスモデルでは、職場のストレス要因、職場外のストレス要因、個体側要因、緩衝要因と4つの要因を上げています。実際の認定業務はそのうちの3つだけで、臨床的には非常に大事な緩衝要因は積極的に評価されていないのです。まして、これが複数の事業におけるものとなると、職場の雰囲気だとか、たくさんの違った緩衝要因が存在し、出来事だけでは説明できないものがたくさんあり、更にバイアスが広がっていくというところがあります。複数事業場の出来事を合わせることについて、どれだけ客観性を担保できるかというのはとても難しい問題だと思っています。それを考えると、残業時間の合算はまだいいが、出来事の合わせ技は、もう少し慎重な議論が必要かと思っているところです。
○黒木座長 出来事に関して、複数出た場合に総合的に判断していくべきということですか。
○田中委員 そうですね。十分な情報が集まった上で、緩衝要因も含めてきちんと評価できる資料を準備していただければ、どうにか因果関係の推測は可能なのかと思います。
○黒木座長 それは当然だと思います。
○西村補償課長 補足になるかもしれませんが、今、事業主が違う複数事業場の話を御検討していただいております。派遣という形態があろうかと思います。派遣は同一事業主に雇用されて、違う事業場で就労する労働形態です。心理的負荷を見る場合は、双方の派遣先で働いた労働時間を通算していくということを補足的に申し上げたいと思います。
○黒木座長 ほかに御意見はございますか。吉川委員から何かございますか。
○吉川委員 既に精神科の先生などから出た御意見と私もほぼ同じ意見です。労働時間を通算することに関しては、結果的に精神障害を発症してしまい、その人がどういう状況に置かれていたかということを遡ってみたときに、長時間労働をしていたという事実があれば、結果的にそこの病気を発症したこととある程度関係していたと労働時間に関しては判断せざるを得ないのではないかと思います。
 ただ、法律の先生もおっしゃっているように、難しい問題がいろいろあるかもしれません。例えば、先ほど三柴委員がおっしゃったように、通勤時間が非常に長くなっている場合を労働時間にするかどうかなど、レベルの細かい問題がいろいろあるかもしれませんが、わざと労働時間を稼いで病気になろうとしたことが明らかでない場合に関して、結果的に精神障害を発症してしまった状態になっていれば、労働時間を通算する形にするのは違和感はないのではないかという印象を思っています。
 先ほど、田中委員がおっしゃっておられた労働時間以外の要因に関しては、この後、議論になるのかもしれないのですが、全く関係がない別の仕事として評価する場合と、例えば、医師では医局から派遣されて今ある仕事をやっている、言わば連続しているようないろいろな情報が絡み合って、それぞれの雇用関係は違うが発生している出来事には類似性や関連性がある場合、あるいは、一部雇用していて一部派遣になっていてそれがつながっているという、雇用者が別であったとしても総合的にそれぞれの出来事の関連性がつながることができるなど、そういう総合的な評価の中で判断ができることがあれば採用したり、あるいは、これは全く別の出来事で「中」を「強」にするのは少し蓋然性がない、と。運用上はかなり難しいかもしれないのですが、それぞれの出来事の関連性を総合的に評価するという形で、現時点ではとらえていいのではないかと思います。
○黒木座長 先ほど、丸山委員が法律家の先生に確認したいことがあるとおっしゃっていましたが、どのようなことでしょうか。
○丸山委員 雇用者が置かれている条件で、主たる勤務先、副業的な勤務先があると思います。B社で25時間、4週やれば100時間を超えるという例があったと思います。本業先では定時で帰っていると、通常、本業先が権限を認める場合には、恒常的な長時間にならない範囲で時間制限をして認めて、そして、兼業先にそのことを確認させるような何らかの承認をもらって許可を出すという形になると思います。そうであれば、健康管理上、ある程度コントロールできるかと思います。雇用関係がかなりフリーであるという場合には、なかなか難しいかと思います。ただ、結果的に長時間労働で精神障害が起きる、そのときに合算することについては特に異論はありません。
 質問としては、今の最初の部分です。通常、兼業などというときに自由に行う、あるいは、そういう制約の中で行う、いろいろなケースがありますが、そういうことで違いが出るのかどうかです。
○品田委員 品田ですが、今の件についてよろしいでしょうか。
○黒木座長 はい。
○品田委員 厚生労働省はモデル就業規則を作っており、その中で、今回の法改正を受けて基本的には副業を禁止してはならないととらえられる趣旨の規程を示しておられます。その内容については、労使で検討するという形で書かれていますが。この点、言うまでもなく、法的には、労働者が自分の自由な時間に何をしようと自由ですので、副業に規制を設けることはできないということになります。したがって、丸山委員がおっしゃるとおり労務管理は非常に難しくなるということは言えようかと思います。
 また、先ほど、吉川委員がおっしゃられた、第2就労の労働時間について「わざとやっていない限りは」ということも、判断するのはとても難しいです。田中委員がおっしゃるように、時間外労働ならばいいのですが、第2就労は時間外労働ではなくて普通の労働時間なので、第1就労場所の時間外労働と第2就労の時間を足し込むということになる話だということです。こうしたことは、しっかり確認することが必要かという気がしました。
○黒木座長 阿部委員から、御意見はございますか。
○阿部委員 私の意見は、吉川委員も同じような御趣旨だったと思うのですが、田中委員の御意見とほぼ同じです。出来事の複数合算は派遣だとあり得るというお話がありました。実際は、どちらの企業にとっても不利益になりますし、これを合わせるのは、それこそ、実際にこういう事例が相談であるのかどうか精神科の先生方にお聞きしたかったのです。私が考える限りでは、難しいのではないか、机上の空論のような形になるのではないかと思い聞いておりました。
 労働時間の合算については、まだ客観的に可能ということでは、法律が改正になったのであり得るかという気はするのですが、今後、田中委員がおっしゃっていましたけれども、2か所目の自己責任で自ら選択して働いているという、働かざるを得ない状況も当然あると思うのですが、そういう面も考慮すると通常の100時間と同列に考えていいのかという疑問が残りました。以上です。
○黒木座長 荒井委員から、御意見はございますか。
○荒井委員 数字では、今の事務局からの御提案は了承していくのだろうと思うのですが、そこのある一定のコントロールと言いましょうか、個人の健康を守るべき役割を持った人間が、どのような役割を持てるのかということが大事かと思います。さもないと、自己雇用になってしまって、ある会社に所属しているわけですが、それが相当自由にされてしまって、自分の意思で就労を含めたいろいろなことをした結果、精神障害になったのを補償するのはどうだろうかという気分に、最終的にはなるのではないかという気がいたします。以上です。
○三柴委員 よろしいでしょうか。
○黒木座長 どうぞ。
○三柴委員 では、発言いたします。まず、労災補償行政が、精神障害の労災認定に舵を切った1つのポイントに佐伯労基署長事件があったと思います。これはじん肺のケースで、今回の検討課題と質の違いはありますけれども、そうした繋がりから、じん肺のケースや電離放射線のケースと対比して見ると、やはりどちらも複数事業場で働いてきた労働者についての労災認定は総合判断と。少なくとも合わせ技的な考え方をしてきたのではないかと、これは品田委員が御案内のところだと思います。そういう経過があったのではないかということが1つです。
 それから、実は一番申し上げたいのは、補償の議論と予防の議論、健康管理の議論はつながっているが、一旦分けたほうがいいのではないかということです。それは、JILPTが兼業・副業の各国の政策について丁寧に調べて出している報告書を見ると、結局、労働時間の規制にしても、健康管理面にしても、制度がしっかりしていないか、運用がしっかりしていないかのどちらかであることが多い。
 例えば、ドイツは賃金・税カードで副業を管理するということをやっているのですが、きれいに正確なデータが取れるわけではなく、結局、自己申告に頼らざるを得ません。労働時間管理や健康管理をしていこうとすると、最終的には、使用者間の調整になってくるか、自己申告に頼ってくるかということになり、余り議論をそこに進め過ぎると、補償制度の設計について、話が進まなくなってしまいます。やはり補償の議論、特に労災補償の議論は全労働者を対象とした強制加入であるということを前提に、少しでも前に進めていく必要があるのではないかということを申し上げて終わります。
○黒木座長 様々な御意見を頂きました。御意見を踏まえた運用の在り方を、後日、事務局で取りまとめていただくということにしたいと思います。
○西村委員 三柴委員の見解を聞いて、そのとおりだと思いました。それは補償の問題と健康管理、安全衛生の問題は分けないといけないのではないかと思います。この方向で、現在の複数業務要因災害の労災認定ができたからといって、産業医の責任が問われるという話ではないですよね。安全配慮義務の問題が特定の使用者について出てくるか、今までだったら、「あなたのような形で残業させていたら、それは安全配慮義務違反になるよ」ということになるのでしょうが、A社はちゃんと守っていた、B社はちゃんと守っていたということを言ったら、安全配慮義務の問題も起こってこないというのが普通だと思います。今回の認定実務が進んだとしても、やはり問題としては残るわけで、産業医の制度をどのように考えるのかとか、労働時間を全体としてどのように管理するのかということは問題として残されたままになると思います。多少補償という観点で先に進むという点では、今回は有意義な点があると評価したいと思います。
○黒木座長 続いて、事務局から、異なる事業主の事業場における事業による出来事についての説明をお願いします。
○事務局 これまでの出来事の評価のお話が少しずつ出てきておりますが、こちらの資料では項目2の(2)で出来事の評価の論点を書いておりますので、こちらについて説明いたします。
 (2)は労働時間のような量的な話ではなく、質的なストレスの評価についての論点です。異なる事業場における業務による出来事を次のように評価することでよいかということで、具体的出来事の当てはめが認定基準に基づいてやるという場合には、具体的出来事に当てはめて評価していくことになりますので、その運用の考え方です。
 2つの場合に分けて運用を示しております。この論点を見ていただいた上で、資料5のほうがイメージしやすいかと思いますので、資料5で説明いたします。5ページです。A社でこういう出来事が起こった、B社でこういう出来事が起こった。その出来事が認定基準の心理的負荷評価表における別の具体的出来事に当たるような場合です。A社のA事業場で「達成困難なノルマが課された」という具体的出来事に当たるものがあった。B社のB事業場で「顧客や取引先からクレームを受けた」という出来事があった。
 このような場合は、まずはそれぞれについて評価します。達成困難なノルマが課されたという出来事について、「強」「中」「弱」ということをみます。いずれにしても業務災害の判断をしているわけですから、これは必ずみられているはずです。B社のB事業場での出来事についても「強」「中」「弱」ということを評価します。
 その上で、これらは違う会社での出来事ですから基本的に関連性はないものと考えられますので、関連性がない場合の複数の出来事があった場合の評価方法と同じですが、それらの出来事をそれぞれ評価した上で、これらの出来事の数、各出来事の内容、各出来事の時間的な近接の程度を基に全体的な心理的負荷を評価する方向で議論してはどうかというものです。
 「中」が2つあるから必ず「強」になるということではなく、「中」が2つあり関連性が全然ないということであれば最終的に「中」ということは十分ある話ですし、この点について、この辺りをこのように考えたほうがいいということがあれば、是非、御意見を承りたいと思います。
 もう1つは、異なる事業場における業務による出来事に類似性がある場合、同じ具体的出来事にはまってしまうような場合です。これは監督署でどのように調査復命書書を書くのがやりやすいかということも含めて、どのような運用をしていくのがいいかということで示したものです。A社のA事業場において上司とのトラブルがあり、B社のB事業場においても別の上司とのトラブルがあったという事例です。
 先ほどの労働時間の話とも少し重なるところがあるのですが、仮に労働時間の通算をする場合には、労働時間に関する出来事は全体として1つの出来事としてみて評価していきます。それに準じて考えていくと、全体として1つの具体的出来事に当てはめて具体例に合致する場合にはその出来事を評価して、合致しない場合には総合評価の視点から総合評価をしていくという形で議論してはどうかというものです。
 これも1社分では「強」になっていないというのが大前提ですので、そういう状態のものを合わせても全体として「強」となるかどうかは全く別物であると、全体として見ても「中」又は「弱」となることも十分あり得ます。そこは事案ごとの判断で関連性等いろいろな状況を含めて総合的に評価していくと考えておりますが、判断の仕方として、こういうやり方はどうかということです。この考え方についても御意見を頂ければと思います。項目2の(2)の説明は以上です。
○黒木座長 それでは、御意見を頂きたいと思いますが、いかがでしょうか。出来事をどうとらえるかということです。類似の出来事もあるし、そうではなく全く別の出来事もあるし、それは2つの事業場で別々に起こっていると、あるいは、1つの企業の中でも複数事業場で結構いろいろなことが起こるということもあるので、それを総合的に考えていくという観点から御意見を頂ければと思います。品田委員から、何か御意見はございますか。
○品田委員 結論として総合評価をすることになりますので、「中」と「中」が「強」だという単純な取扱いをしないということであれば、その都度、実質的な心理的負荷を検討して考えれば良いことなので、それはそれでいいかと思います。
 ただ、「中」があり、その後100時間の労働時間があった場合、現行制度では「強」になるとされています。この点については、一定の指標と言いましょうか、考え方みたいなことは出す必要があるのではないかと思います。
○黒木座長 先ほど、出来事のことをおっしゃっていたので、田中委員から、何か御意見はございますか。
○田中委員 難しいことだと思いますが、先ほどもありましたように事業場からの十分な情報をきちんと得られるのであれば我々も総合評価しやすいかと思っています。ただ、出来事について類似性がない場合とある場合に分けてやっているわけですが、例えば、ここでも示されているようにA社での上司とのトラブル、B社での上司とのトラブルを1つにまとめるのは、若干、乱暴かという思いがあります。
 もともとの上司との関係性が非常に大きな影響を与えるので、あえて1つにまとめなくても、A社での上司とのトラブル、B社での上司とのトラブルというまとめ方にしていただいて総合判定するということで良いかと思います。
○黒木座長 荒井委員から、何か御意見はございますか。
○荒井委員 今、田中委員がおっしゃったように、それぞれの評価をして、同じ事業場で2人の上司がいて両方ともトラブルがあるというケースもあると思うので、合わせる必要はなくて、A上司とのトラブル、B上司とのトラブルとして、それを総合評価するということでよろしいのではないかと思います。カテゴリーの違う出来事については、それぞれ独立して評価するという形でやればいいだろうと思います。それも総合判定だろうと思います。以上です。
○黒木座長 ほかの委員から、何か御意見はございますか。山口委員から、何か御意見はございますか。
○山口委員 1つは、皆さんおっしゃっておられますが、非常に厳しいと言うか、固定的な認定基準だったら少し縛り過ぎという感じがしますので、標準例と言うか、言葉が悪いかもしれませんがモデルと言いますか、そういうものとしてなら十分考えられて、こういうものがなければ動かないと思いますからよいのではないかと思います。また、現実にこの判断をされるときには、監督署の担当者だけではなくて、おそらく、局医にも意見を聞かれると思いますから、私はこれでよいと思います。
○黒木座長 それでは、異なる事業場における業務による出来事については、それぞれの業務による出来事を具体的出来事に当てはめ、心理的負荷の強度を評価した上で全体的な心理的評価を総合的に評価するということで、よろしいでしょうか。それでは、時間がちょうどになりましたので、御意見をどうもありがとうございました。これで「複数業務要因災害における精神障害の認定について」検討会における意見交換は以上とします。
 本日、委員の皆様方から出された御意見については、事務局内で書面に取りまとめ、その上で委員の皆様方の御意見を聞いて報告していただくようお願いしたいと思います。最終的な取扱いについては、事務局と私に一任させていただくということで、よろしいでしょうか。
(異議なし)
○黒木座長 ありがとうございます。それでは、本日の検討会はこれで終了ということにします。事務局から何かありますか。
○中村職業病認定対策室室長補佐 御議論ありがとうございました。今回をもちまして、令和2年度の検討会は終了です。今後は、西川から報告した議題(2)のストレス評価に関する調査研究などを踏まえた検討を来年度の令和3年度に予定しておりますので、よろしくお願いいたします。最後に松本審議官から挨拶を申し上げます。
○松本大臣官房審議官 本日は、大変熱心に御議論いただき誠にありがとうございました。また、この6月1日から施行いたしましたパワーハラスメントを心理的負荷評価表に入れた件についても、先生方の熱心な御議論の結果、改正することができたことについて御礼を申し上げます。
 本日の御議論の中で、多くの先生から、我々が労災でやっている災害が実際に起きたときの補償のお話と、労働時間管理や安全衛生の管理という予防方策のお話があり、それをやらせていただいているわけです。労災については、法律改正をして新しいステージに移っていくところで9月1日施行ということで今進めております。それに間に合うように、予防方策についても、この夏とかそういうことを含めて、今、労政審で検討を急いでおります。正に、労働時間管理、事業主間の調整はどうするか、労働者の申告の在り方などを含めてやっており、労働安全衛生については、今、個別の企業でやっているわけですが、そこをどうしていくのかということで、いずれにしても、労働者を保護していく観点からどのようなことをやっていくのか、現実的に効率的にどのようにやっていくのかということを議論しておりますので、その点についてもしっかり検討を進めさせていただきたいと考えております。
 最後になりますが、本年度は出来事調査をやらせていただきますので、その結果を取りまとめ次第、また来年度、皆様方に集まっていただき、来年度については出来事調査を踏まえた総合的な御議論ということで御検討をお願いしたいと思っておりますので、引き続きの御指導、御協力をお願いいたしまして私からの挨拶とさせていただきます。どうもありがとうございました。
○中村職業病認定対策室室長補佐 委員の皆様方におかれましては、昨年の12月より非常にお忙しい中、御参集いただき大変ありがとうございました。令和3年度における御検討をよろしくお願いいたします。
 以上をもちまして、第6回「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」を終了いたします。