第14回厚生科学審議会がん登録部会(議事録)

健康局がん・疾病対策課

日時

令和2年6月26日(金)13:00~15:00

方法

オンライン会議による

議題

(1)がん登録データベースの利活用とその課題【公開】
   山本 隆一 一般財団法人医療情報システム開発センター 理事長
(2)がん登録法による匿名化がなされているかの判断が困難な申出について【非公開】
   東 尚弘 国立がん研究センターがん登録センター長
(3)新規申出の全国がん登録情報の提供について【非公開】
  (3-1)審議事項1(申出番号 X2020-0001)
  (3-2)審議事項2(申出番号 X2020-0002)
  (3-3)審議事項3(申出番号 X2020-0003)
  (3-4)審議事項4(申出番号 X2020-0004)

議事

 
○事務局(長島) それでは、皆様、定刻となりましたので、ただいまより第14回「厚生科学審議会がん登録部会」を開催いたします。
委員の皆様方におかれましては、お忙しい中、御参加いただきまして、誠にありがとうございます。健康局がん・疾病対策課の長島でございます。
今回は、新型コロナウイルス感染症の社会的状況を踏まえ、ウェブでの開催とさせていただきます。委員の皆様方におかれましては、参加中は基本的にマイクをミュートにしていただきまして、発言の際にミュートを切って、初めにお名前をいただいてから御意見、御発言をいただくようにお願いいたします。ウェブでの開催というところで、不慣れなところもございますが、どうぞよろしくお願いいたします。
初めに、委員の交代がございましたので、御報告させていただきます。山中委員に代わり、白井千香委員でございます。前任の山中委員の退職に伴い、全国保健所長会から副会長で、健康危機管理に関する委員会委員長でいらっしゃる白井委員を御推薦いただき、このたび御着任いただきました。よろしくお願いいたします。
白井委員、一言御挨拶をいただいてもよろしいでしょうか。
○白井委員 失礼します。白井です。
このたびは、全国保健所長会から参加させていただいています。山中委員の後任として、よろしくお願いいたします。
○事務局(長島) よろしくお願いいたします。
委員の出欠状況でございますが、本日は渡邊委員、本田委員、小俣委員、黒田委員及び荒木委員より御欠席の連絡をいただいております。
本日のがん登録部会の委員定数23名に対しまして、現在出席委員は18名でございますので、議事運営に必要な定足数12名に達していることを御報告申し上げます。
本日は1名の参考人に御出席いただいております。国立がん研究センターがん対策情報センターがん登録センターのセンター長、東尚弘参考人です。
また、オブザーバーとして、国立がん研究センターから5名の方の参加が事前に委員長より認められております。
それでは、以後の進行は、辻部会長にお願いいたします。よろしくお願いいたします。
○辻部会長 それでは皆様、本日もどうぞよろしくお願いいたします。
では最初に、事務局から資料の確認をお願いいたします。
○事務局(長島) それでは、資料の確認をさせていただきます。
事前にメールで送付させていただいております議事次第
資料1 がん登録データベースと他の公的データベースの突合とその課題
資料2 院内がん登録情報の精度検討:全国がん登録情報との比較研究
資料3 全国がん登録情報(顕名)提供に関する申出一覧
資料4-1 申出書類(申出番号X2020-0001)から資料4-4 申出書類(申出番号X2020-0004)まで
参考資料としまして、参考資料1 諮問書・付議書
参考資料2 厚生科学審議会がん登録部会委員名簿
参考資料3 全国がん登録における「匿名化」の考え方と情報提供に係る審査の流れ
以上でございます。
資料の不足、落丁等がございましたら、事務局までお申し出ください。
以上をもちまして、マスコミの方のカメラの頭撮り、撮影は終了とさせていただきます。カメラを納めていただきますよう、御協力をお願いいたします。
○辻部会長 それでは、皆様、資料等に問題はございませんでしょうか。よろしいでしょうか。
それでは、議事に入りたいと思います。
まず、議題1「がん登録データベースの利活用とその課題」に入りたいと思います。
最初に、山本委員から資料1の御説明をお願いいたします。
○山本隆一委員 お時間をいただいてありがとうございます。医療情報システム開発センターの山本でございます。
私は、「がん登録データベースと他の公的データベースの突合とその課題」ということで、少しお時間をいただいてこのお話をさせていただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
公的データベースの、日本で最初に医療分野で整備されたのは、レセプト情報・特定健診情報等データベースで、NDBと呼んでおりも、既に10年運用がされています。
格納されているデータは、電算化されたレセプ情報で、これは約17億件/年でございます。それから、制度開始以来の特定健診・特定保健指導のデータが入っております。特定健診・特定保健指導は、制度開始時から全ての情報を電子化して収集するということになっておりますので、行われた特定健診・特定保健指導は全部入っております。残念ながら、特定健診の実施率はそれほど高くはありませんが、レセプトのほうは今、電算化されたレセプトは、レセプト件数で言うと99%を超えております。日本で行われる保険診療のほぼ全てのデータが入っていると申し上げてよいかと思います。
これは保険者からは健診情報、医療機関からはレセプト情報が出ています。支払基金や国保連合中央会に流れています。そこから厚生労働省が運用しているNDBに送られてまいります。
法律に基づいて整備されたデータベースと言う意味ではがん登録も同じです。高齢者の医療の確保に関する法律に基づいてつくられたデータベースでありまして、当然ながら、法律の中で利用目的が明確に定められています。それは医療費適正化計画の作成とそのための調査及び分析でありまして、したがって、この目的で利用するのは国または都道府県ということになります。
これは法律で決められた利用ですので、粛々と行われているわけですけれども、さすがにこの規模のデータベースというのは世界にも類を見ない、明らかにに世界で一番大きなヘルスケアデータベースですし、レセプトに関していうと、ほぼ網羅的であるという意味では、非常に分析の価値のあるデータベースで、これを法律で定められた目的だけで利用するのはあまりにももったいないということで、このデータベースが動く前から、この目的外利用というと何かよこしまな感じがしますけれども、そうではなくて、法律で決められている目的以外に利用できないかということで検討会が設置されまして、その答申の中で、やはり活用していくべきだということで、このスライドの右側のほうに、本来目的以外の利用というスキーマが作られました。
これは法律で書かれている利用ではありませんので、それなりにきちんとした手続で利用することが必要だろうということで、このNDBの利活用に関する有識者会議が組織されまして、10年前につくられた会議ですけれども、最初の4、5回を使って、そこで利活用のガイドラインを作成いたしまして、その中でどういった方が利用できるのか、どういう目的であれば利用できるのかということをかなり厳格に決められました。なおかつ、このデータベースはがん登録のデータベースと違いまして、一応支払基金あるいは国保連合中央会からデータが来るときに、患者さんを直接指定するようなデータは外されているのです。保険者番号であるとか、氏名であるとか、生年月日は一定の処理が行われています。
ただ、そうは言うものの、同じ人のデータはある程度の正確性をもって結びつけることができるようになっているというデータベースでありまして、一応完全な匿名とは言えないですけれども、顕名ではないデータベースでございます。
この右側にありますように、公益的な利活用で、なおかつその利用に関してある程度信頼できる組織に限定して提供していくということで、今までずっと提供してきたわけで、現在も200以上の研究プロジェクトに提供されていまして、査読つきの論文もかなり多数出ているところであります。
現状はどれぐらい規模のデータベースかといいますと、これは少し前なの数字で、今はこれより多いですけれども、レセプトデータ150億件です。レセプトデータといっても、データベースにはほとんど電算化されたレセプトの形式のまま格納されていて、実は1件のレセプトが幾つかのファイルに分かれて格納されていますので、実際に入っているレコード数でいうと、600億以上のレコード数が入っています。特定健診・特定保健指導は御承知のように、それほど網羅的とは言い難い実施率ですけれども、それでも3億件程度のデータが入っている。
特別抽出というのは、研究者の求めに応じて項目を選択して、新たにデータセットを抽出して、それを提供するというスタイルの提供を行っております。これはそれなりにリスクがあります。最初に申し上げたように、患者さんの個人が特定できないようには注意しているとはいえ、レセプトデータも例えば1人の人のデータの何年か分のレセプトを結びつけたりしますと、相当複雑なデータ構造になりますし、例えばお医者さんに通った日付けを詳細に分かっている家族からすると、これはあの人のデータだということが分かる可能性もゼロではありません。それから、非常に特殊な診療を行っているとか、非常に特殊な薬を飲んでいるとかという場合でも、かなりの確率で本人が特定できてしまいますので、個人が特定されるリスクがあるデータということになり、提供するときの条件がかなり厳しくなっています。具体的にはセキュリティー要件がかなり厳しい条件になります。
さすがにこの厳しい条件でなくても、データは多少制限されても利用したいという要望も強いものですから、サンプリングデータセットを作成いたしました。これは外来患者さんの1%、入院患者さんの10%のレセプトをサンプリングして、しかも1か月分のデータを1月、4月、8月、10月と年4回作成しています。これは季節要因をできるだけ配慮した月にしております。
ただ、1か月なのですけれども、ある月の月末に医療機関に行って、その次の日に薬局に行くという患者さんがいらっしゃいますので、医科と薬科の連結データだけは薬科の翌月分が含まれています。これで一応その月に受診した患者さんの薬科のレセプトデータも全て含まれるということになっています。
さらに、出現頻度0.1%以下の病名や医療行為はダミーに置き換えているので、出現頻度0.1%よりも少ない病名とか医療行為は名前が出てこないようになっています。
これでどれぐらい病名などが減るかというと、今、病名マスターに登録されているのは病名は1万以上あるのですけれども、0.1%より少ない出現頻度で9割以上がそこに入ります。したがって、レセプトの病名マスターに載っている病名の9割以上は、実は出現頻度が0.1%以下だということになります。
したがって、主な疾患はこれに全て含まれるということで、目的によっては比較的うまく調査ができるようなデータセットになっています。
次のベーシックデータセットは提供はしているのですが、あまり利用者がいないのです。これは台湾でつくられているデータセットとほぼ同じもので、患者ベースで5%にサンプリングをして、その患者のレセプトを連結した状態でのデータセットをつくっております。
それから、2016年からNDBオープンデータを公開しています。これは全レセプトデータを一つは、性年齢階層別で、この年齢階層は5歳刻みですけれども、性年齢階層別に全てのレセプト項目の出現頻度というか出現実数を表にしたものでありまして、もう一つは、都道府県別に全てのレセプト項目の出現数を表にしたものであります。これは2016年から毎年提供しておりまして、毎年希望をお聞きして、希望があったら、できるだけ拡張できるような形で提供しています。
非常に希望が多かったのは、都道府県別ではなくて、二次医療圏別のデータが見たいという方が多くて、何しろもともとの件数が多くて、都道府県だけでも相当なコンピューターの処理量になるので、二次医療圏になると、1年たっても計算が終わらない状況だったのですけれども、最近、NDBのシステムがかなり強化されまして、何とか二次医療圏で提供できるようになってきたということで、今年に出されるNDBオープンデータからは相当広範に二次医療圏別のデータが出ております。このように進めてまいりました。
それ以外に介護総合データベースがあります。医療と介護は途中で保険が分かれたものですから、今は別々に集計されているわけですけれども、実際は連続したものでありますし、そういう意味では、地域包括ケア等で、あるいは例えばがんの患者さんでも、本当に末期になったときに介護のお世話になるわけですけれども、そういったものをきちんと分析しようとすると、医療と介護を結びつけて分析する必要があるわけです。その相手の介護総合データベースが介護レセプトと介護認定のデータベースからなります。
介護レセプトは介護で行われた介護行為の請求情報で、認定情報は基本調査74項目とか、意見書のうちの幾つかの項目とか、判定結果等が全て含まれています。これはなかなかリッチなデータベースですけれども、介護総合データベースもNDBと同じように、個人が特定できないような処理をしているのですけれども、同じ介護保険の方はつながるようになっています。
したがって、引っ越して介護保険が変わったということがなければ、1人の人の介護レセプト、介護認定はずっと追うことができるわけですけれども、問題は、医療と介護をつなげるにはどうしたらいいかということで、実は医療保険と介護保険は全く別の体系になっていて、共通性がないのです。したがって、同じ患者さん、同じ利用者さんが片方で医療を受けていて、片方で介護サービスを利用しているときに、その情報を両方見ることができないという欠点がございました。
それで本当に地域包括ケアが評価できるのかという問題があります。国保に入られた方は、自治体が持っている国保のデータと介護のデータを結びつけることによって、ある程度可能なのですけれども、全ての患者さんが国保に入るわけではありませんし、そういった場合には結びつけられないということになり、それで本当に地域包括ケアが評価できるのかという問題は常にあるわけです。
これをきちんと評価をして、地域によって介護が強いところ、あるいは介護が弱いところは医療がそれをカバーしているところがあるわけですけれども、片方だけから見ていると、非常に差がついて見えるのですけれども、実際に全てのサービスを統合すると、実はそれほど差がないということもあり得るわけで、これを結合して分析するということは、絶対に必要だということで、これは平成30年の未来投資会議の資料ですけれども、真ん中辺にある4つの緑色の枠の2番で、健康・医療・介護のビッグデータの連結・活用というものがございまして、これで医療レセプト、特定健診、介護レセプト、要介護認定を個人で結びつけた状態で分析できるようにしようという検討が厚生労働省でも始まりました。ではどうやって結びつけようかということが問題になるわけです。これを結びつけるための有識者会議がつくられて、検討してまいりました。
どういうことが検討されたかはここに書いておりますけれども、あまり細かいことをここで言ってもしようがありませんので、お時間があれば、資料のほうで見ていただければと思います。
令和元年の法律改正で、幾つかの一括した法律改正だったのですけれども、その概要の中の3番目に、NDB、介護DBの連結解析というものがあります。これは高確法や介護保険法、健康保険法の改正によって、これができるようになったということなのですが、どうやって結びつけたのかというと、少し言い方が悪いですけれども、やや姑息な手段を用いて連結をしております。
これは平成30年度の診療報酬改定の説明書なのですけれども、医療のレセプトで、2番のところに、診療報酬請求明細書の患者氏名の表記の片仮名併記を求めるということになっています。
それまで医療保険は、日本人の場合は漢字氏名で、介護保険は介護保険発足当初から片仮名氏名だったのです。医療保険を片仮名氏名併記にすることによって、医療保険も介護保険も氏名は同じになります。氏名と性別、生年月日が一致した場合には、同じ人のデータとみなすということを方法としては採用されたのです。もちろん、直接比較するわけではなくて、ハッシュ関数という数学的に処理をする関数を用いまして、元には戻らないですけれども、近似的に1次変換できる関数ですけれども、それによって同じハッシュ値を持つレコードは同じ人のデータだとみなすとしたわけなのです。これでできるのかというと、大体できるのです。
ただし、同姓同名、同生年月日、同姓同名だと性別が一致する率が高いので、性別と。この3つでどれぐらい誤って一致するかといいますと、正確なデータがありません。ただ、住民基本台帳法が改正されて、住基ネットが導入されたときに調査が行われているのですけれども、住基4情報というのは漢字の氏名、生年月日、性別、住所なのです。この4つが一致する人が実はそのときに日本に1組あったのです。東京だったのですけれども、下宿にお住まいになっている何人かの方のうちに、同姓同名、同生年月日の人がいたのです。
漢字氏名で住所を加えても、ぶつかってしまうといいますか、異なった人が1人に判定される場合があるわけですから、漢字ではなくて片仮名の氏名で生年月日と性別だと、恐らくそれよりははるかに多い数で全く違う人が同じ人と判断されてしまう可能性はあるだろうと思います。
ただ、地域包括ケアの評価でありますとか、そういったことをやっていくときに、仮に例えば0.5%ぐらいの人が間違ったとしても、全体としての傾向はこれで大きな間違いはなく見られるのではないだろうかということで、当面はこれで進もうということになっております。
このスライドでは国が保有しているデータベースと民間データベースの代表で次世代医療基盤法の認定事業者というのが出ていますけれども、こういったデータベース以外にも民間のデータベースはたくさんございますけれども、こういったものが今は既に整備されているのです。
この中のNDB、医療レセプトと介護はその方法で何とか使えるだろうと。ただ、これ以外のデータベースもやはりつなぎ合わせることによって、非常に大きな価値が出てくるということがあります。
例えばがん登録ですけれども、がん登録は初期診断、初期治療に関しては、非常に充実した項目が含まれています。全国がん登録は1年に1回全死亡と突合(照合)しています。その患者さんが生きていらっしゃるか、亡くなっていらっしゃるかというデータも正確に把握できるのです。けれども、例えば初期診断、初期治療が終わって、近医に逆紹介されて、そこでフォローアップがされていて、残念ながら、例えば3年後に再発をして、それで5年後に亡くなったというような患者さんの場合、担がん状態で初期診断、初期治療の後にそうされる方が多いわけですが、そういった患者さんは、最初は登録されますけれども、その後のフォローデータが常にあるとは限らないわけです。亡くなったのは分かるのですけれども、その途中の経過が十分には把握できない。そうすると、担がん状態の患者さんのADLでありますとか、あるいは最適な治療でありますとかを評価することは、データベース上は難しくなってくるということになります。
ただ、医療機関にかかっている以上、レセプトは出ます。レセプトが出たら、検査結果はレセプトには入っていませんけれども、使ったお薬あるいは行った検査等は、結果がありませんけれども、実施された医療行為や投薬は情報としては入ってきます。もしそのデータが突合できれば、いつ頃からこの患者さんはこういうお薬を使い始められて、いつ頃から例えば麻薬を使い始めたとかがある程度は理解できるわけです。それから、介護のサービスをいつ利用したかということも突合することによって分かる。そういう意味では、突合する意味は結構大きいのだろうと思います。
この分科会のテーマではありませんけれども、難病データベースや小児慢性疾患データベースも同じで、難病もやはり医療だけではなくて、介護が大きな役割を占めていることがありますので、こういったデータベースも他のデータベースと突合することによって、その疾患の患者さんの人生といいますか、一生の間の評価ができるということが上げられます。
では、NDBと介護DBをつないだ方法で、これらをつないでいいかというと、やはりそうは言えないのです。がんの患者さんとか難病の患者さんが、間違うかもしれないけれどもつないでみましょうというのは。やはりちょっと難しいということで、もう少しきちんと1人の患者さんを特定できるような仕組みをつくるべきではないのかというのが、先ほどの有識者会議で指摘をされています。
では、何が必要かというと、医療分野で使うIDです。マイナンバーを使えばいいという議論はあるのですけれども、マイナンバーは、実はマイナンバーに関する法律があって、その法律によって利用用途が厳密に決められています。
残念ながら、医療の実際の医療行為でありますとか、検査結果でありますとか、いわゆる現物支給ベースの医療にはマイナンバーが今のところは使えないことになっていますし、一方で、例えば収入とか、そういったものは意図的に結びつけられているわけです。そうすることによって、例えば医療に関わることと、その人の収入でありますとか、そういったこととが安易に結びつけられるとしたら、これは決してあまり気持ちのいいものではないということで、マイナンバーとどこかでつながってもいいのだけれども、マイナンバーとは別の医療・介護分野で使えるアイデンティファイヤー、番号をつくるべきだというのは、随分前から議論されていて、そこに関してはおおむね合意が得られていると考えられます。
随分長い間検討が重ねられてきました。医療等IDを使う用途というのはいろいろあるのですけれども、今回問題になっているのは、スライドの3つ目の、法令で定められたデータベースの結合というところです。これを、データベース等を結合するための検討会が開かれておりまして、ここで一応の結論が出ております。
どうやって実現するかという話なのですけれども、前提として、来年から医療保険の被保険者番号が変わります。被保険者番号は今までは世帯単位だったのですけれども、個人単位に変わります。つまり個人番号化されます。医療保険者は、マイナンバーと突合することができますので、そういう意味では、マイナンバーと同じ精度で個人を識別する識別子として被保険者番号が使えるようになります。ただし、被保険者番号ですから、保険者が変わったら変わる番号になるわけですけれども、保険者が変わらない限りは、確実に日本中で1人の人を特定できる番号になります。
これをうまく利用しようということにして、では保険者が変わったら変わるという問題をどのように解決したらいいのかということで、被保険者番号が変わると、変更の履歴が蓄積されるようになっています。つまり被保険者番号の履歴データベースができるのです。この履歴データベースをたどって、例えば一番簡単な方法として、来年から始まる個人番号化された被保険者番号の最初の番号に遡れば、確実に個人を一意に識別できるわけです。それを使ってデータベースを結びつけるということにしてはどうかというのが、この検討会の結論になっています。
具体的には、この辺はちょっとややこしいですけれども、それぞれのデータベースが被保険者番号を持ったときに、その被保険者番号を提供することで、同じ人かどうかという判定を履歴データベースを調べて返します。そのときに、被保険者番号ではなく、1人1番号の紐付け番号をを返します。この紐付け番号が一緒だったら実は同じ人のレコードだということが分かるようになるということで、これだと、がん登録に登録されている患者さんとNDBに登録されているレセプトを、理論上は結びつけることができるということになります。紐付け番号は問い合わせの度に変わりますので、本来の目的以外に使うこともできません。
この仕組みを使って突合していけばいいのではないかというのが、この検討会の結論なのです。履歴照会システムを使って、国民を一意に識別して、そのデータを突合できるようにしようということです。ただし、これはある意味危険なことでして、履歴をたどれるということは、本当に国民を一意に特定できますから、マイナンバーと同じ意味なのです。
マイナンバーと同じ意味のものを誰でも使えるとなると、これはプライバシーに大きな問題を起こしかねないということで、使われ方はかなり限定されるべきで、スライドのの2つ目の項目にマル1、マル2、マル3とございますけれども、これらが満たされる場合に限定すべきとしています。つまり、法律で収集根拠や利用目的が明記されているデータベースで、法律でデータの性質に応じて講ずべき安全措置等が確保されていること、および、第三者提供が行われる場合は、第三者提供を行う仕組みが法律で規定されていて、そこでルールが定められていることという、この3つの条件を満たすデータベースに関しては、この被保険者番号履歴回答システムを使って、患者さんを一意に識別することができることになります。
では、その条件を満たすのは何かという話なのですけれども、この表に出ていないものは全て民間のデータベースですから条件は満たさないわけですけれども、この表に出ているもので満たすのはNDB、介護DB、DPCのデータベース、それから、これは民間の事業者ですけれども、次世代医療法基盤法という法律に基づいて設置される認定事業者の設置するデータベースがあります。それから、全国がん登録データベースは、先ほどの3つの要件は満たしています。
したがってがん登録データベースは、履歴照会システム側からは利用は認められるのですけれども、例えば全国がん登録の場合は、がん登録に関する法律の中でかなり利用が詳細に規定されていて、他のデータベースと結合して利用するというのは、今のところ法律に書いていません。 法律に書いてあることができるというポジティブリストの形になっていますし、ほかのデータベースと結合するというのは、法律に書かれていない以上、今のところはできないと思われます。
つまりがん登録データベースの情報をNDBや介護総合データベースなどと突合させて分析しようと思う場合、ある特定の患者さんを一意に識別して結びつけることは、理論的には今可能になっているというのが現状であります。しかし実際に実施するためには使うためにはがん登録に関する法律の改正が必要かも知れません。したがってこれを実現するためには、この会か、あるいは別の会かもしれませんけれども、そこで十分御検討していただいて決めていただければとは思うところでございます。
どうも御清聴ありがとうございました。
 
 
○辻部会長 山本先生、御説明ありがとうございました。
ただいまの御説明に対しまして、委員の皆様から御意見、御質問をいただきたいと思います。どうぞ、どなたからでも結構ですので、よろしくお願いします。
祖父江先生、お願いします。
○祖父江委員 公的なデータベースのリンケージという話で、非常に魅力的なお話を聞けました。
特にがん登録が法的な根拠に基づいて集められている疾患データベースとしては非常にユニークなものであり、また有効な活用ができると。それに対して、またレセプトのデータが利用可能になっているということなので、ぜひともこのリンケージを進めてほしいのですけれども、諸外国でもSEER-Medicare data linkageとか、レセプトと病名を結びつけるというようなリンケージは既にあるわけです。レセプトのほうで情報として非常に欠落しているのが傷病名でない確かな病名というのがあると思うので、ぜひそのがん登録とレセプトのデータをリンケージすることで、レセプトのデータの有効活用をさらに進めてほしいと思います。
以上です。
○山本隆一委員 ありがとうございます。
それはぜひ進めていきたいと思いますけれども、ある意味、がん登録側の制度整備もありますので、先生方も御協力をよろしくお願いいたします。
○辻部会長 ありがとうございました。
ほかにどなたか御質問、御意見はございますか。
丸山先生、お願いします。
○丸山委員 今、山本先生のお話の最後のところがちょっと聞こえない部分があったのですけれども、結局、がん登録のデータベースとこの赤で囲んである4つのデータベースの結びつけを可能にするためには、がん登録推進法の法改正が必要ということでよろしいのでしょうか。
○山本隆一委員 法改正が要るかどうかは私には判断できないのですけれども、現状の法律及びその下の規則を読むと、法律に書かれている利用以外は多分できないと考えていいと思いますので、そういう意味では、例えばNDBと結合してさらに分析をするというのは、それが一定の状況を満たせば可能であるというところがやはりどこかにあったほうがいいのではないかと、個人的には考えています。
登録法の作成に関与したわけでもありませんし、そこは私が断言すべきことではないと思いますけれども、個人的にはそう思います。
○丸山委員 ありがとうございました。
○辻部会長 ほかにどなたかいらっしゃいますか。
羽鳥先生、どうぞ。
○羽鳥委員 日本医師会の羽鳥です。
山本先生、どうもありがとうございました。
最後のページの民間データベース、次世代医療基盤法の認定事業者というところがありますが、今日の説明ではあまり詳しくはなかったのですけれども、京大の千年カルテが認められ、東大、日本医師会も申請しています。これが認められると、がん登録のデータベースの応用とかにはどのように使えるようになるでしょうか。もし御示唆があれば教えていただきたいのです。
○山本隆一委員 次世代医療基盤法に基づいて収集されたデータベースは、主に臨床情報ですけれども、アウトカム情報を含む臨床情報で、なおかつ複数の施設にかかっている患者さんは、全部名寄せした上で結合されていますので、ある意味、がん登録のデータベースとちょっと似ているところがあるのです。だから、がん登録のデータベースとがんだけではないデータベースという違いは多分あって、がん登録の場合は制度でがんである患者さんの網羅性は保証されていますけれども、次世代医療基盤法は網羅性は全く保証されていないというか、認定事業者の努力によるわけです。
ただ、例えばがんも、がん以外の疾患との関連は相当大きなテーマだろうと思うのですけれども、そういったときの相手方のデータベースとしては相当、多分役に立つのだろうと思っております。
これが突合できるかどうかは、次世代医療基盤法のほうは多分問題なく突合できるのですけれども、がん登録の場合は、がん登録で定められた利用法の中にそういう利用目的が入ってくるということが、多分条件としてあったほうがいいと思いますから、その辺は本当に役に立つようになってから考えたほうがいいと思うのですけれども、まだ1事業者しか出ていませんし、その1事業者はまだリンケージ事業は始めていませんので、そういう意味では、もう少しお待ちいただいて、実際にこの法律に基づくデータ利用がどのぐらいの価値があるものかということを見定めた上で、必要であれば、これを利活用していくという検討をしていただくのがいいのではないかと思います。
○辻部会長 羽鳥先生、いかがでしょうか。よろしいですか。
それでは、ほかの委員の方から何か御質問、御意見はございますでしょうか。
坂元委員、どうぞ。
○坂元委員 川崎市の坂元です。
お聞きしたいのですけれども、このがん登録情報と、例えばNDBを結びつけるときに、結びつける段階だと、やはり個人識別が必要な情報をリンクさせるということで、そうするとがん登録情報で個人情報を扱うときには、このがん登録部会で審議するという建前になっているのですが、この場合は、提供というのは、例えば国レベルでやる場合は、この審議会の審議事項にはならないという解釈でよろしいのでしょうか。
○山本隆一委員 これは、こちらの審議会でお決めになることだと思いますけれども、例を申し上げますと、NDBと介護総合データベースは別の審議会で検討するのですけれども、それを結びつけて提供する場合は、両方の審議会の合同開催で審査をするという形になっています。恐らくそういうスタイルになるのではないかと思っております。
○坂元委員 ありがとうございます。
○辻部会長 ほかにどなたか御質問、御意見はございますか。
友岡先生、よろしくお願いします。
○友岡委員 日本大学の友岡です。1点だけ質問をさせていただきます。
現在、制度的には、登録をされたがん情報に関しては、申請をもって利活用するという形を一応前提としていると思うのですが、突合という形式だと制度的には常に2つのものが1つの目的を持って、情報として利活用すると。
それはいいのだけれども、他方で、例えば民間のデータベースを持っている等の事業者が、この全国がん登録に係る情報について逐一申請をして、その分に関しての情報が欲しいというのは、現在の制度設計ということでよろしいですかというのが、まず事務局に対する確認です。
そうなった場合に、突合という仕組みを考えた際に、私はこれを法律の条文に入れるべきだと思うのですけれども、これは自治体でも、突合に関しては、実は制度設計としては審議会に逐一意見を聴くという制度設計をやっている場合もあるので、そう考えたら、そういった非効率的なことはやらせなくて、常に突合という制度をつくって、常に情報を流動化させるという趣旨で制度をつくったらいいのだろうかということをおっしゃっていると理解してよろしいでしょうか。そうであればこそ、より制度化するために法律改正すべきだという意見に結びつくのではないかと思ったのですが、その2点を確認させてください。
以上です。
○山本隆一委員 私のほうからお答えしてよろしいですか。
○友岡委員 よろしくお願いします。
○山本隆一委員 やはりこれを結びつけるというのは、それなりにプライバシーリスクが高いものですので、あらかじめ結びつけておくということは、よほど慎重ではなくてはならないと思うのです。したがって、例えば本当に公衆衛生上の理由で、この2つのファクターはきちんと結びつけて常に分析すべきだということが、相当の信頼性をもって確定した場合はやっていいと思いますけれども、通常はやはり利用目的が明確になった上で、しかも使う範囲が明確になった上で、初めて突合するべきものだと考えています。
そういう意味では、今度始まるNDBと介護データベースも初めから結びつけるのではなくて、ちゃんとリサーチクエスチョンがあって、そのためにこの突合が必要だということが認められた場合に初めて突合するというスタイルになっていますので、まずは多分そういうことになるのだろうと思います。
ただ、それにしても、2つのデータベースを結びつけることによって、個人の特定性が上がりますので、それなりに制度的な担保があったほうがいいと思いますし、特にがん登録に関して言うと、どちらかというと法律でポジティブリストになっていますので、そこは明確に規定したほうがいいのではないかと思います。
○友岡委員 ありがとうございました。
1点だけ追加しておくと、突合という制度自体、まさに目的外利用そのものだから、本来、個人情報としては、保護すべき観点からすると例外的なのです。
そう考えた場合に、結果的には例えば患者さんの治療の促進のためと、究極的にはそういう目的はあるのだけれども、先生がおっしゃったように、個別で制度として目的がそれぞれある以上は、やはりこれはどこかの形で明確化しておくと。だから、実運用ではやることは控えられたほうがいい。そういった意味で、利便性を確認しながら今後制度化するかという意味で、ちょっと長いスパンで見られたほうがいいかと思いました。
以上です。
○辻部会長 ありがとうございました。
今まで、割とどちらかというと、大学の先生とか行政関係の方、専門の先生から御意見をいただいていたのですけれども、もちろん患者さんの立場の方とか、一般市民を代表しているような方々から何か御意見をいただければと思うのですけれども。
松本さん、お願いします。
○松本委員 ありがとうございます。患者の立場から発言をさせてください。松本陽子と申します。
山本先生、ありがとうございました。
先ほどの御説明の中で、フォローデータが完全に把握できているとは限らないといった点で、NDBで補えるのではないかという御説明を伺いまして、患者としては、そういった点は非常に意味があることだと思いました。
法的な難しさであるとか、リスクの点については、専門家ではないのであまり分からないのですが、一つ大事なのは、こういうメリットがあるのだということをいかに国民に知らせることができるかということが、これを運用していく段階では必要になってくると思います。がん登録法が出来上がって、実際に運用が始まるときにも、どうやって患者家族を含む国民に分かりやすく伝えるかというのは、非常に大きな課題でした。
もしこれを結びつけるとするならば、それをどのように情報提供を一般の国民にしていけばいいのかということについて、何かお考えがおありでしたら教えていただけますか。
○山本隆一委員 御意見ありがとうございます。
おっしゃるとおりで、最終的には国民の皆様に分かってもらわないと、これはどうしても進まないことなのです。ただ、例えばNDBは多分世界で日本にしかないデータベースで、私は10年間有識者会議の座長をしているのですけれども、これを使った研究も最初の2、3年なんて本当に成果が出なかったのです。
そんな大きなデータベースを使って研究するというのは、非常に難しいことで、研究者もきちんとした成果をなかなか出せないでいたのですけれども、最近は随分、本当にすばらしい成果が出るようになってきて、それを今、厚労省も一生懸命ホームページで公表したり公告したりしているのですけれども、例えばがん登録と何かを結びつける場合も同じで、最初からそんなにすばらしい目的がやれば分かるという状態でやることはまずないと思うのです。
そうではなくて、ある程度は十分な公益性の前提の下にやってみないとしようがないというところはあると思うのです。それによって、研究者、あるいは研究者ではなくてもいいですけれども、そういったことを調べる人が慣れてくることによって、どんどんがんの臨床、あるいはがんの臨床だけではなくて、がんのフォローアップも含めて、それに関する有益な知見が出てくることを期待したいと思っています。それが出てくればどんどんと、患者さんあるいは国民の皆様にお知らせして御理解をいただくという努力をすべきだろうと思いますけれども、なかなかそこまではまだ予測がついていないというのが現状だろうと思います。
○辻部会長 ありがとうございます。
ほかにどなたかいらっしゃいますか。
天野さん、どうぞ。
○天野委員 山本先生、御説明ありがとうございました。
今、山本先生の御説明並びにほかの委員の方々の御意見を拝聴していまして、がん医療向上並びにがん対策の向上という観点から考えた場合、方向性としては、公的データベースのリンケージは進めるべきだと、私も患者の一人として考えます。
ただ、一方で、先ほどから御指摘があるように、個人情報保護の観点からは、がん登録法がポジティブリストになっているという観点から考えれば、当然これは法律で担保すべき点だろうということは言えるかと思いますので、がん登録法は皆さん御承知のとおり、附則第4条で施行後5年を目途として必要な措置を講ずるということで、改正を検討するということは言われていますので、この改正を視野に入れつつ、この論点はぜひ入れていただきたいというのが一点目であります。
もう一つは、本日、山本先生に御説明いただいたこの論点、いわゆる公的なデータベースの突合について、恐らく事務局としてもこういった論点の検討が必要であろうということで本日御説明いただいたとは思うのですが、もし今後、がん登録法の改正を視野に入れた場合、恐らく私たち患者団体の立場からがん登録法にさらなる期待をしている点があるでしょうし、また、特に日本がん登録協議会などの専門家集団の方々も、実務に関わられている方々からも、恐らくがん登録法の改正に向けた論点があるかと思いますので、次回以降の検討会でぜひそういった患者団体、もしくはアカデミアの団体から意見を聞く場を設けていただきたいと希望いたします。
私からは以上でございます。
○辻部会長 ありがとうございました。
この議題に関しまして、大体予定された時間を若干超えてしまったので、これに関する議論はこれぐらいにしたいと思います。
まとめといたしましては、今、天野委員がおっしゃってくださったとおり、このがん登録データベースと公的データベースをリンクするということは、医学研究の発展あるいはがん対策の向上、そして基本的には国民の利益に寄与することだということで、恐らく今日、委員の皆様方はポジティブに取っていただいたと思うのです。その上で、実際にそれを行う上では、法制度の改革でありますとか、様々な手続、また、国民への周知といったことも必要になってくると思いますので、これらにつきまして、今後事務局ともまた協議いたしまして、論点を明示して、次回以降、また皆さんから御意見をいただいて、いい方向に進めていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
ということで、議題1については、ここまでにさせていただきます。
次に、議題2「がん登録法による匿名化がなされているかの判断が困難な申出について」に入りたいと思います。
これより、非公開の内容となりますので、マスコミの方は御退室をお願いいたします。
○事務局(長島) 事務局でございます。
ただいま御退室いただいておりますので、少々お待ちください。
(報道関係者退室)
 

照会先

健康局がん・疾病対策課

代表03-5253-1111(内線3826)