第88回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会議事録

 

 
第88回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会(議事録)
 
1.日時 令和2年7月31日(金) 15:30~17:08
 
2.場所 労働基準局第一会議室(オンライン会議)
           (東京都千代田区霞ヶ関1-2-2  中央合同庁舎5号館16階)
 
3.出席委員
(公益代表委員)
○東京大学大学院法学政治学研究科教授 荒木 尚志
○慶應義塾大学名誉教授     大前 和幸
○名古屋大学大学院法学研究科教授  中野 妙子
○大阪大学大学院高等司法研究科教授  水島 郁子
○慶應義塾大学大学院法務研究科教授   森戸 英幸


(労働者代表委員)
○全日本海員組合奨学金制度運営管理部長代理 楠 博志
○全国建設労働組合総連合労働対策部長  田久 悟
○UAゼンセン政策・労働条件局部長  髙橋 義和
○日本労働組合総連合会総合政策推進局長 仁平 章
  
(使用者代表委員)
○日本通運株式会社 人財戦略部専任部長 北 隆司
○セコム株式会社人事部主務 久保田 祥子
○一般社団法人 日本経済団体連合会労働法制本部長 鈴木 重也
○東京海上ホールディングス株式会社人事部ウエルネス推進チーム専門部長 砂原 和仁
○鹿島建設株式会社安全環境部部長 本多 敦郎
○日本製鉄株式会社人事労政部部長  山内 幸治


4.議題
(1)特別加入制度の見直しに係る関係団体からのヒアリング
(2)その他

 
5.議 事

○荒木部会長 それでは定刻ですので、ただいまから第88回労災保険部会を開催します。本日の部会は会場からの参加、そしてオンラインでの参加ということで実施します。なお、委員の出欠状況ですが、宮智委員、安原委員、黒島委員が御欠席と承っています。出席者は15名となる予定で、若干、今、アクセス中の方がいらっしゃいますが、15名の予定です。そうしますと、公益代表、労働者代表、使用者代表、それぞれ3分の1以上の出席ということになりますので、定足数は満たされていることになります。それでは、カメラ撮りはここまでということでお願いいたします。
第1の議題は、「特別加入制度の見直しに係る関係団体からのヒアリング」です。それでは、まず最初に日本俳優連合の森崎部長にお出でいただいています。森崎部長、お忙しいところありがとうございます。どうぞよろしく御説明をお願いいたします。
○森崎部長 ありがとうございます。ただいま御紹介にあずかりました、日本俳優連合の権利処理法制委員及び国際事業部長を務めさせていただいています森崎と申します。よろしくお願いいたします。
私ども日本俳優連合は、1963年に設立された事業協同組合です。約2,600人の俳優がおり、映画、テレビ、舞台などに出演する俳優、声優、アクション俳優で構成されています。本部は東京都新宿区に、また大阪、名古屋、北海道に支部があり、組合員は全国におりますが、主に首都圏におります。
弊組合の主な事業としては、団体協約に従ってアニメーションや外国映画の吹替えやナレーションの音声の二次利用料の分配業務をしています。
今般、多様な働き方に対応するように、現代に見合った新しい業種への対象拡大の動きをされていらっしゃいますが、私ども俳優は決して新しい業種ではなく、古くから存在する特殊技能を持った専門業者です。しかしながらこの仕事は、非常に事故の発生率が多く、常にケガと背中合わせにもかかわらず法的保護がないこと、契約書がないことが多いことなどで非常にトラブルが多く、しかもそれを隠しがちな業界体質のため、長い間、多くの被災者が泣き寝入りをしてきました。最新の国税調査によると、芸能に従事する人の数は写真家、映像、撮影、6万3,970名。音楽家、舞台芸術家、7万7,140名。音楽家、2万3,180名。舞踊家、俳優、演出家、演芸家、5万3,960名。
○荒木部会長 すみません、ちょっと今、音声が入っていないということですので、少々お待ちください。オンラインの方、音声はまだ入っていないでしょうか。聞こえるようになりましたら、御連絡ください。「今、少し聞こえましたが、ノイズになって内容が聞き取れません」ということですね。先ほど、ちょっとマイクが混線していましたので、1つのマイクだけにしていただいて、皆さんに聞いていただいていますが、まだ音声はよく聞こえない状況でしょうか。オンラインの方は、全てミュートでお聞きいただければということです。
今、チャットに書き込みますが、音声が聞こえているかどうか、状況をお知らせいただければ幸いです。中野先生からメッセージで「途切れ、途切れに聞こえますが内容を把握するのは難しい。」どうしましょうか。状況は直ちに改善できるのではあれば、少し待ちますが、すぐに改善できないようであれば、時間もありますので実施をして、その書き起こしをお送りするということもあり得ますが、そういう形で進めましょうか。
それでは、時間もありますので恐縮ですが、ヒアリングのほうはこのまま続行させていただきたいと存じます。ヒアリングの内容については後ほど、テープを起こしたものなどで各委員にはお知らせするということにさせていただきたいと存じます。
森崎部長、大変失礼しました。どうぞ、続けてお願いします。
○森崎部長 続きからでよろしいでしょうか。
○荒木部会長 はい、大丈夫です。
○森崎部長 最新の国税調査によると、芸能に従事する人の数は、写真家、映像撮影、6万3,970名。音楽家、舞台芸術家、7万7,140名。音楽家、2万3,180名。舞踊家、俳優、演出家、演芸家、5万3,960名。合計で、21万8,250名います。
このうち表現をする仕事をしている人は、芸能実演家と呼ばれますが、体を使って表現するためケガが多く、例えば骨折やじん帯損傷が非常に多いバレリーナやダンサー、いわゆる舞踊家。現代でも和服の衣装で伝統を守り続ける古典芸能の能や狂言は、約1,300年前から日本で始められていますが、能を演じるときに用いる木製の能面と呼ばれる顔に付けるお面は、両目の所に1cm足らずの小さな穴しかなく、大変視野が狭いので危険です。同じ和服の衣装で、長時間正座をする和楽器の演奏家、落語家、派手な仕掛けで瞬間移動や宙吊りや、突然現れるように見える仕掛けのセリやスッポンなど、昔ながらの装置を400年以上使い続けている歌舞伎などがあります。
また、それを支えるスタッフも危ない作業や、仕事の場所による危険が多く、大きく分けて3種類の仕事場がありますが、1つは劇場で、天井が非常に高く、14、15m以上、深さ3m以上ある奈落やスッポン、セリの底には暗い暗所があり、転落事故では重症のケガを負います。
2つ目に、撮影や収録をするスタジオは雑音を遮るため、10cm以上の金属製の重い扉があり、舞台と同様に天井に最大10kgある照明器具の設置は舞台と同じであり、その下で演じる俳優やバラエティ番組のお笑い芸人なども、テレビ画面ではただしゃべっているように見えても、頭上に落下したら死の危険もある照明設備のライトが数10個吊るされていたり、背後には3m以上の木製の電飾などで彩られた美術装飾、またそれらは既に特別加入に認められている建築業者の大道具製作者によって、木材やくぎなどを使用して作られており、背後から倒れて下敷きになったスタッフが全身打撲になった例もあります。
また、3つ目は屋外でイベント会場や映画やテレビのロケ撮影をする場所は、海や川、山、高原、砂丘など多岐にわたり、多くの事故が起こっています。
このように舞台、スタジオ、屋外で働く全ての芸能に携わる芸能従事者が、危険にさらされながらテレビ局や映画の製作指示の下で、厳格に定められた放送日時や劇場公開の開幕日時、また映画公開時は原則変更不可能で、これに合わせていわゆる一般に納期と言われる期日を厳守し、映画会社、テレビ局の定める企画の趣旨に沿った脚本に忠実に従い配役され、都度、作品の趣旨に合った特殊技能を持つスタッフが選ばれて発注され、その脚本が能や歌舞伎のように1,300、400年以上前に書かれたものであっても、衣装、セリフの文言、奏でる音楽の音符や休符全てがときには伝統に従い、ときには監督やプロデューサーに従い、大元の発注者のスポンサーや広告代理店の意に沿う作品を製作する仕事の従事者であります。
また、この特殊な働き方のガバナンスがなかなか近代化されないことで、法的保護も得られにくく、労働者としての当事者意識が年々世代を重ねるごとに薄くなっており、自ら危険を感じても民間保険に入らないほどの無謀さに陥ったのではないかと存じています。
それでは具体的に資料に沿って御説明をしたいと思います。横字の資料1、表紙に「芸能従事者資料」と書いてあるものを御覧ください。2ページ目です。ご提案としては、私どもの業種を総称で「芸能従事者」と呼び、定義案として芸能界において働く人々全般を「芸能従事者」と定義する。そのうち1、表現の仕事をする人を「芸能実演家」と称し、2、屋外での映像撮影及びイベントや、高所や深層部の装置がある舞台やスタジオでの芸能制作作業をする人を、「芸能製作作業従事者」と称すると提案させていただきます。
左側1番目、「芸能実演家」には、このような種類があります。舞台俳優、映画TV等映像メディア俳優、舞台の演出監督、映像の演出監督。この演出業の方に関しては、スタッフと区分けする考え方もありますが、著作権法上は実演家となっていますので、今回は法的分類が適切と考え、1番の「芸能実演家」の枠に入れました。
次に声優、舞踊家・ダンサー・バレリーナ。これには日本舞踊と洋舞と言われるクラシックバレエ、モダンバレエ、ジャズダンス、ベリーダンスなどなど、多種多様な舞踊が含まれます。
歌手、謡い手。謡い手は主に、古典芸能の歌手に当たる方を指しています。演奏家、こちらもクラシック音楽や現代音楽などの洋楽と日本の楽器、例えば和太鼓、笙、尺八、琴、三味線や沖縄の三線など、あらゆる楽器を扱う音楽家及び演奏家を含んでいます。
そして、演芸・落語・漫才師、奇術師。奇術師は、手品やマジシャンのことです。スタントマン、これには3種類あります。火だるまなどの危険なスタントをボディスタント、車両を運転したり、車にひかれたりするシーンを演じる方をカースタントマンと言います。そして、近年増えています大道芸人がいます。
右側2番目は、スタッフ「芸能製作作業従事者」の種類です。撮影従事者、いわゆるカメラマンで映像のフィルムキャメラからデジタルカメラ及び写真のスチールカメラマンも含んでいます。照明従事者は、映像製作現場ではカメラマンの撮影するそばで、被写体に適切な照度を計測し、照明器具を用いて監督の指示に従い、明かりの照度を調節する仕事をする方です。また、舞台では天井の照明器具やスポットライトを含む、様々な照明機材で舞台上の人物や装置を照らす仕事をする方です。両者とも照明機材は多彩で重量が多く、撮影現場では2トントラックで持ち運びをするのが常です。
音響作業従事者は、舞台上では劇場内の音響設備の設置や調整及び劇中の音楽や効果音を、演出の指示に従って、そのタイミングで音出しをする仕事の方です。映像の現場では、演出家の指示に従い、撮影後に挿入歌や音楽を作ったり、録音や収録をしたりして、効果音や音楽を入れる仕事をする方です。こちらも機材の問題があり、性能がよい機材が必要なため、かなり高額で重量も多く、運搬時の事故が多いです。
録音作業従事者は、映像製作の現場で俳優の声やその場の自然の音を収録する仕事をする方です。必要以上の雑音の排除や映画館でお客様に聞こえる音に、撮影現場の音を忠実に再現するために必ず現場の中核にいなければならない仕事です。また、俳優の声を正確に収録するため、マイクの種類を選び、ときには俳優の衣装にワイヤレスマイクを付けて遠隔で操作したり、ときには40cmほどある大きいマイクで3mぐらいの棒に付けたかなり重量のあるブームと呼ばれる機材を、俳優の頭上に両手で支え持ち、収録する重労働をします。なおかつ、屋外のロケ現場で終始ヘッドホンを装着していますので、危険があったときに即座に対応できないこともあります。
大道具製作従事者は、先ほど申し上げたとおり大掛かりな作業の業務で、舞台やスタジオセットの中に、例えば家の中のシーンがあれば家屋の一部を作ります。それが演出や脚本で様々な店舗や施設の場合があり、その指示に従い製作します。建築業同等の作業ですので、同等の危険があります。
美術装飾従事者は、舞台やスタジオのセットの中で視覚的影響のある全てに関して指示を受け、デザインして製作します。家屋であれば、壁紙や家具、テーブルに至るまで、屋外であれば植木、落ち葉、店舗の看板に至るまで全てをデザインし、製作し運搬し設置します。そのほかにも多岐にわたる労働があり、お芝居の中に出てくる料理の製作、俳優が持つもの全て、例えば、かばんやバッグ、刀などの持ち道具と呼ばれるもの全てを演出の指示で製作し、また舞台上では俳優が登場する場所、例えばお客様から見て右側の幕の奥、左側の幕の奥、それぞれに配置する仕事もします。こちらも暗い場所で迅速に設置する必要があり危険が生じます。
メイク美粧・結髪作業従事者は、俳優のメイクアップを脚本にある時代設定に合わせて、カツラやヘアスタイルの色や形をデザインし製作し、配役された俳優に合わせて撮影の2時間前から仕事を始めます。ケガの痕を作ったり、殺人のシーンの血しぶきや顔色のよさ悪さも脚本と演出の指示に従って、撮影や舞台の都度、作業を繰り返します。時代劇のカツラは中に鉄板があり、俳優それぞれの頭の形に合わせてトンカチでたたいて、作製します。また屋外のロケ撮影では、風や天気に左右されないよう脚本や演出にある季節や状況に合うように、例え逆の季節であっても、画面上自然に見えるよう作為的に作り上げます。長時間で立ち仕事が多い作業です。
衣装製作従事者は、衣装を着る俳優の採寸から始まり、衣装の作成やリフォームを演出家やデザイナーの指示に従い、またなおかつ衣装を着る俳優の指示、お芝居の設定上のTPOに沿って複数の衣装を製作し、本番のスタジオやロケ、舞台にも付き添い、着替えを手伝ったり、手直しもします。また衣装は、全ての年代、全ての季節、性別、多様なサイズのものが必要なので、衣装用の衣服のストックと管理のためにかなりのスペースの確保と維持に手間と費用が掛かります。舞台作品で、早替えという舞台の見せ場を脚本又は演出家から指示された場合は、数分から数秒で別の衣装に着替える俳優の介助もしますが、走りながら暗い舞台で和服から別の和服に着替えるときなどは、かなりの危険も生じます。
映像記録従事者は、スクリプターと呼ばれている職業で、ほとんどの方が女性です。映像製作には欠かせない仕事で、撮影したコマ切れのシーンの何分何秒コンマ00秒まで、詳細に記録し、その映画フィルムやデータを編集する際に立会い、成果物に決められた時間の分数に編集したドラマや映画全体の分数が合致するように厳格に調整する仕事です。撮影現場にも立ち会い、編集現場にも立ち会い、監督の次に一番長く製作に携わる仕事です。ドラマの中には1年単位のものもあり、仕事の緻密さから1人の人が担当する必要があり、非常に長期間、なおかつ、毎日の撮影現場でも長時間立ちっ放しで作業を拘束される仕事です。屋外にトイレなど完備されていないため、膀胱炎になる方が非常に多いです。
ラインプロデュース従事者は、プロデューサーの一つで、発注主の意向や作品の脚本の指示に従い、スタッフを選び、雇用条件を調整し、なおかつ、映像製作現場の最初から最後まで立ち会う仕事です。ロケ撮影で地方の場合、移動の手配や車の運転も担当することがあり、予算削減のため製作日数が削られる場合は、かなりタイトなスケジュールで翌朝までに他府県に移動せざるを得ない場合も多々あり、夜中、運転をしたり、かなり危険で事故が多い仕事です。ロケ撮影で映像上に道路が写る場合、当該地区の警察の許可を得て、車の往来を止めたり、通行人の往来を止めたりする作業もします。
芸能アシスタントマネージメント従事者は、いわゆる付き人と言われる仕事で、俳優若しくはプロダクションに従事し、現場で衣装やメイクアップを施し、自由に身動きできない俳優の指揮命令の下、代わりに身の回りの介助をしたり、視野の届かない危険を守ったり、常時緊張感を伴う仕事です。にもかかわらず、立ちっ放しで控室や居場所がなく、悪天候や危険な場所にもかかわらず現場で俳優のそばにいなければならない過酷な仕事です。以上のような多岐にわたる業種が、芸能従事者に含まれます。
3ページ目を御覧ください。今回のヒアリングで、民間保険の加入状況、安全基準の有無、災害防止措置を担える団体があるかを御質問いただいていましたので、要望団体に伺って一覧表にしました。
まず1番、弊組合の協同組合日本俳優連合ですが、組合で団体保険に加入していますが、任意で20名弱しか加入していません。5ページに詳細を記載しましたが、生命保険、所得補償保険を中心に月額2,090円以下のコースに加入している状況です。
2番、日本音楽家ユニオンでは、全労済を採用しており240名が加入しているそうです。3番、一般社団法人日本ベリーダンス連盟。4番、公益社団法人落語芸術協会。5番、公益社団法人日本奇術協会。6番、一般社団法人日本演芸家連合。それぞれ民間保険はほぼ入っていないとおっしゃっています。7番、公益社団法人日本照明家協会は、先ほど申し上げた14、15mの高所での作業が多く危険が多いですが、団体加入は77名と少なめです。
4ページ目をご覧ください。8番、公益社団法人日本劇団協議会。こちらは演劇をする団体が集まった協議会51団体が集まった協議会ですが、雇用保険は約5%加入しているが、その他はほぼ無しです。9番の特定非営利活動法人芸術家のくすり箱は、実演家のためのケアや講習をしていらっしゃるNPOです。独自の保険はありませんが、バレリーナやダンサーに3,000円~10,000円程度の傷害保険を勧めており、一部の団体では共済をしているところもあるそうです。10番、一般社団法人沖縄県芸能関連協議会は、沖縄の那覇市に事務局があります。実演家とスタッフが両方会員でいらっしゃる大変珍しい協議会です。沖縄は文化、芸能が盛んで国立劇場もあり、古くから沖縄民謡や組踊りという伝統芸能もあります。しかしながら、地下鉄などの交通整備がなく、車の移動がほとんどなので、1日に1件以上の交通事故が絶えないそうです。
11番、特定非営利活動法人えがおのまちづくりステッキは、大道芸人のNPOです。大道芸人はブームで若手の成り手が増えていますが、はしごの上から落ちて顔面を打ち前歯を折ったり、火を吹く芸で火の粉に当たったりケガが絶えないそうです。対応策としてこの団体では、賠償補償保険を義務化し、出演前に加入の確認を徹底しているそうですが、傷害保険の推奨には3割程度しか応じられていないということです。12番、スタントマンですが、重篤な死傷事故も多いので、会社で雇用し労災保険に入っているケースが多いですが、フリーも恐らく2割程度います。また各地方にスーツアクターと言われる、戦隊レンジャーなどのショーに出演する方がいらっしゃり、その人数は正確には把握し切れない状況ですが約2,000名と推測されています。
5ページ目ご覧ください。13番、公益社団法人日本舞踊協会。14番、一般社団法人日本演出者協会。両者ともに、民間保険の加入状況は不明でほぼ入っていないのではないかとおっしゃっていました。これまでの団体は全て安全基準は概ねあり、独自で無くても参加している協議会では安全基準があり、災害防止措置に関しても「担える」と御回答を頂いています。
6ページ目をご覧ください。同じく御質問いただいていた、事故例を一覧にしました。私たちの業界では、事故が起きると技量を責められ賠償してもらえず、泣き寝入りさせられるので隠蔽する慣例があり、ほとんど資料がありませんでした。唯一の安全対策に関する基発117号、平成3年3月13日、「テレビ番組などの制作の作業における労働災害などの事例の防止について」の資料の事例や、日本俳優連合で30年ほど前から続けている芸能労災連絡会で残されている資料、また先ほどの特別加入を要望されている団体からヒアリングして作成しました。
昭和38年、57年前から今年までの多業種にわたる事故例を54例集めましたが、このほかに守秘義務や御遺族、関係者の意向で公表できないものが多数あります。あくまでほんの一例と御承知おきください。また、この中で訴訟になったものは4例しかありませんが、その理由は訴訟しにくい業界の特徴があり、仕事を続けていくならば提訴できないのが私たちの業界の通例です。
主だったものを御紹介します。1番、1963年、俳優O氏が戦争映画の撮影中に爆薬に直撃し、両足が飛んだ。2番、1964年、俳優と女優が川に入って映画のロケ撮影中、手錠をつながれたまま川を渡っていくシーンの撮影中に行方不明になり、2人とも溺死。「手錠水死事件」と呼ばれています。5番、1986年、ドキュメンタリー映画「K」の東北ロケ撮影中にカメラマンが脳梗塞で倒れ死亡。こちらは東京高裁判決で勝訴しており、「新宿労基署長事件」と呼ばれています。7番、1988年、テレビドラマ「K」の軽井沢でロケ撮影中に自動車事故が起こり、ライトバンの荷台に撮影スタッフ3名、乗車席に俳優4名が乗り、走行しながら撮影中で並木に激突し横転したため、荷台のスタッフ1名がライトバンの下敷きになり死亡した。
そのほか、8番、映画「Z」、殺陣のリハーサル中に真剣を小道具の刀と間違え使用し死亡。9番、1989年、東京S劇場でフライング作業に従事していたスタッフが過労の末、現場で心臓発作を起こして死亡。12番、1991年、テレビのバラエティ番組「W」でタレントH氏とスタッフが火傷事故。そのほか、スタッフや歌手の劇場や寄席、スタジオのセットで高所からの転落事故、14番、17番、25番、26番、45番、48番、49番、うち6名が死亡しています。
海や滝、山でのロケ撮影中の事故、11番、19番、22番、38番。骨折、脳内出血など、うち3名が溺死です。機械、劇場設備による事故、30番クレーン、31番美術装飾、32番舞台のセリ、うち死亡が4名います。火事・火傷、10番、12番、うち1名が死亡。じん帯断裂、骨折、アキレス腱を切る、打撲、蜂に10か所以上刺される、交通事故、51番、うち死亡2名。感電事故、4番。
この中に通勤災害はほとんど含めていません。また病気に関しては、因果関係の実証が難しいため、あえて入れていませんが、膀胱炎や腎盂炎、重度の腰痛、衣装が和服の仕事の方の膝関節水腫などが非常に多くあります。
10ページ目ご覧ください。今回のためにアンケートを実施しました。質問の1番「芸能実演家の方で、仕事の現場で事故に遭い、ケガをしたことはありますか?」。「ある」と答えた方が28.9%。「自分はないが、見聞きしたことはある」と答えた方が40.4%。ですので、自分か身近な方の経験が69.3%あることになります。
また、2番「芸能実演家の方で、仕事の現場で事故に遭い、ケガをしたことはありますか?」。15.1%の方が「ある」と答えています。すみません、こちらは誤字があります。正しくは「芸能実演家の方で、仕事の行き来の間に事故に遭い、通勤災害のケガをしたことがありますかと聞いたところ、15.1%が「ある」42.2%が「自分はないが、見聞きしたことがある」。つまり、57.3%の方が自分か身近な方で通勤災害の経験があるということになります。
11ページを御覧ください。「スタッフの方で、仕事の現場で事故に遭い、ケガをしたことはありますか?」。25%の方がある。41.4%の方が自分はないが見聞きしたことがある。つまり、66.4%の方が自分か身近な方が見聞きしたことがあることになります。
質問の4番、「スタッフの方で、仕事現場への行き来の間に事故に遭い、ケガをしたことはありますか?」。13.7%の方が「ある」。43.2%の方が「自分はないが、見聞きしたことがある」。つまり、56.9%の方が自分か身近な方が見聞きしたことがあると答えています。総じて、かなり多くの方が仕事の現場で事故に遭い、通勤災害もほぼ同等に多いことが分かります。
次の12ページを御覧ください。「治療費は誰が払いましたか?」。一番多かったのが、①「自分で払った」、46.8%。次に②「所属事務所が払った」、③「制作会社が払った」ですが、④「保険会社が払った」のは12.1%しかありません。先ほどの民間保険の加入状況でもお示ししたように、保険に加入している方自体が非常に少ないことが分かります。また、⑤「わからない」が38.9%もいますが、この理由は例えばマネージャーが処理する場合や、スタッフの方が現場の責任者であるラインプロデューサーに払ってもらった場合、最終的にプロデューサーが払ったのか、発注主が払ったのか、スポンサーが払ったのか、若しくは広告代理店が払ったのか分からない場合が多いです。最終的な責任の所在が、ケガをした方にとって明確ではないことがこの結果で明らかになっていると思われます。
13ページを御覧ください。6番、厚生労働省の特別加入の認知度の調査です。「厚生労働省の「労災保険の特別加入制度」は、一人親方等が加入でき、民間よりも手厚い制度です。御存知でしたか」の問いに、僅か10.4%が「知っていた」と答えています。
次の資料、芸能実演家とスタッフの「ケガや事故」に関する実態調査アンケート(主な回答)を御覧ください。これまでお話していた原因が見て取れる当事者の声が多々ありますので、御参考にしていただければと思います。
質問の7番、「芸能の仕事で事故の原因は、何だと思いますか」。自由記述の形式になっています。主な回答を、おおまかな趣旨ごとに申し上げます。製作費の削減、それによる製作日数の減少と人手不足、安全衛生の不備が原因と見て取れる回答。4番、「疲労、無茶なスタッフワーク」。10番、「原因は分かりませんが、行ったことのない場所での撮影や毎回違うチームで行われているため、安全に関しては「組」による対策になる。安全対策をする部署が制作部任せになっている、人手が少ないのに」。12番、「疲れからくる注意散漫」。20番、「撮影に時間がないこと」。21番、「荷物がとても多かったり、急いでいたり、休みがなく疲れていたり(代わりがいない)など」。22番、「スケジュールが詰まり過ぎるなどの特異な状況が発生した際に時間を優先し、人及び環境の準備が万全ではない状態で作業を行ってしまうことがあるため」。32番、「不自然なことをたくさんしなければいけない仕事ですし、移動も多いので」。56番、「時間に追われ過ぎていること。俳優やスタッフへのケアがないこと、スタッフさんをもっと大切にしてほしい」。69番、「人件費を削るために、人手を削るのが当たり前になっている」。111番、「疲労、時間の不足」。113番、「低予算、国全体の無関心」。125番、「製作現場費用の少なさ。撮影日数の異常な短縮化」。
次に、舞台の構造が原因と思われるもの、2番、「石綿や塗料での健康被害、安全面での不備が多いのではないでしょうか」。15番、「高座が崩れる、照明が落ちる」。高座とは、落語家さんが座る舞台から120cmほど高い所を高座と呼びます。16番も「高座が高いので、長時間の正座の後、かなり危ない」。28番、「照明が暗かった」。70番、「暗転中にこれ以上明るくできない状況下での実務など、最大限に安全策を取ったとしても発生してしまう、過失ではない事故」。暗転とは、舞台上の演劇などの公演の幕と幕との間の幕間で、一瞬暗くなり舞台のスタッフが場面転換をすることです。真っ暗な舞台の上で、大道具や小道具やセットを移動します。このときの事故も非常に多いです。72番、「公演中又は稽古中の転落・転倒や、大道具製作中の使用する刃物などでケガをする」。83番、「ケガなどは、装置や劇場の機構(スッポンなどへの転落)が原因のことが多いのではないか」。100番、「セットからの落下」。110番、「大道具の階段の段差、暗転中の移動」。
次に、機材が原因と思われるものは、3番、「機械や道具、機材によるものが多いように思います」。34番、「舞台の音響機材、照明機材、舞台の場面転換装置の不具合」。
次に、通勤災害を思わせるものは、7番、「通勤時の車の事故」。13番、「通勤又は現場移動中の交通事故」。15番、「移動中の交通事故」。128番、「通勤においては毎回行く場所が違うので、慣れた道ではないこと」。
次に、仕事の特殊性が原因と思われるものは、1番、「会場がいつも違うので注意すべき点が毎回違う」。37番、「5時間オンリーで叫ぶセリフの収録で喉を痛めたことなどは、労災に当たらないのでしょうか。仕事柄、喉を痛めるという話であれば全員が経験しており、職業ゆえだと思います」。67番、「その日初めて行く場所で、慣れない動線の中で転倒したりすること」。71番、「常に危険と隣り合わせで仕事をしていること。ハードワークが多いこと」。81番、「体で表現する仕事なので舞台での事故やケガをするリスクは大きい」。
右側の質問8番を御覧ください。「現場の状況をよくするために思うことがあれば、自由に書いてください」。70番、「労災保険があれば、かなり安心です」。76番、「主催者側は労災に入ってほしい。ケガで休んだときの保証をしてほしい」。96番、「事故やケガ、病気によって出演不可能になったときの金銭及び今後への不安」。120番、「年金、災害時、事故のときの保障制度」。128番、「労災が必要」。133番、「制作会社や所属事務所も労災を出してくれるといいかな」。134番、「「特別加入労災」というものが芸能界に適用されるのであれば、非常に有り難い。是非そうなってほしい。現状困っている人がたくさんいると思う」。
このような事態のため、芸能界のどの業種からも人が減っているという声が上がっています。この業界に憧れて時間とお金を掛けて勉強した後に現場に入ってきたのに、初仕事の後、すぐに辞めてしまう人が後を絶ちません。後継者問題が課題になっていることと同時に、フリーランスの法的保護が整いつつある現状で、テレビ局の一部や公立文化施設などの組織で労災保険に入っていない俳優やスタッフを、今後雇わない方向を示しています。この意味でも、特別加入労災の整備が急務と考えています。
最後に要望書の資料の御説明をします。要望書は、昨年2通提出しています。2019年5月、雇用類似の働き方に係る論点整理などに関する検討会で、放送業界の事故やケガや保険についての議論があったときに提出したものと、同じく2019年9月、均等法改正について検討されたときに私どもが加盟していますFIA国際俳優連合へ支持声明文を送り、その返答として厚生労働大臣宛に文書が届きました。当初は、俳優の中でも重篤な事故の多いアクション俳優の要望のみでしたが、調査を進めていくうちにダンサーや古典芸能の方のケガが多いことから、芸能実演家全体としての特定作業への要望に変更し、更にスタッフの方も過酷で長時間の労働になるため、併せて芸能従事者として要望を出した次第です。
9月1日の弊組合からFIA国際俳優連合声明文の、その中の下にある3に示しているように、保険料の支払を発注主、事業主にも負担していただく必要があると考えています。私たちの仕事の形態は、建築業界と非常に似ており、「建築物」に当たる「作品」を、都度形成された「組」と呼ばれるチームの人々とともに、個人が参加して演じることで「建築」ならぬ「製作」をしており、建築業界の「ゼネコン」に当たるような広告代理店やテレビ局も存在しています。保険料の支払を含む、包括的な保護の仕組みづくりの検討が必要と思っています。
また、4番にお示ししているとおり、私たちは労基法の労働者と認められず、甚だしい時間的、場所的拘束の中でかなり雇用に近い働き方をしていても、裁判上ですらほとんど労働者と認められたことがありません。FIA国際俳優連合の要望書にもあるとおり、諸外国から見た客観的な私たちの働き方は、下から11行目、「日本の『労働者』の定義は不当に狭いように見受けられます。その結果、日本の芸能人の多くは、保険料を支払う余裕がある人は少ないにもかかわらず、自身で保険に加入しなければなりません。仕事に関連する事故は、私たちの業界では一般的であり、多くの場合、永久的な後遺障害や死に至ります。」と言われています。長い年月、特殊な技術を継承し、懸命に働き、豊富なコンテンツ産業にも多大な貢献をしている芸能従事者は、労働者に準じて特別加入労災保険制度の保護をしていただくのにふさわしいと考えておりますので、是非、前向きに御検討ください。
本日は、貴重な機会を頂きましてありがとうございました。
○荒木部会長 ありがとうございました。大変貴重な御意見をありがとうございます。それでは、ただいまの御説明について、御質問、御意見があればお願いいたします。オンラインからの出席の方は、チャットに発言希望と入力していただき、会場におられる方は通常どおり挙手をしていただければと思います。よろしくお願いいたします。
○仁平委員 連合の仁平です。ご説明ありがとうございました。実際にお話を伺い改めて事故が多い現場なのだなという印象を受けました。実際に事故が起きた後、どのようにされているのか、もう少し詳しく聞かせていただきたいのが1点と、雇用契約がなくても働き方の実態が労働者だと明確な場合は、事業主が労災保険に加入していなくても、労災認定してもらえたという話も聞いたことがありますが、例えば現場で事故が起きたとき、制作会社なりテレビ会社の社員の方は雇用保険に入っていると思いますが、そうした方々と同じ仕事をしていて、労働保険に入っていないフリーの方には、何の保証もなかったなどという差が出ている実態などはあるのか、この2点についてお聞かせいただけないでしょうか。
○森崎部長 ありがとうございます。事故のその後ですが、ほぼほぼ示談で終わっていることが多く、例えば直近の死亡事故でも遺族にとっては不本意と思われる些少な金額だったと聞いています。労基署などに駆け込むことも多いのですが、ほぼほぼ労働者と認められることがありません。そこで時間を費やして、労働局の再審査までいくのですが、ほぼほぼ泣き寝入りという状況です。
次の質問ですが、おっしゃるとおり、私たち、労働者と認められないものだけが、何の補償も得られないということがほとんどです。例えば顕著なのは、昭和63年7月30日に起きた、この事故例にもありますが、テレビの番組の撮影中にスタッフと俳優が一緒の車に乗っていて事故に遭ったものがあります。これで1名死亡しています。そのほか6名ほどが、負傷して休業しているのですが、スタッフの方は労働者であったので、普通に補償はしてもらえているのですが、俳優は一切なしでした。これは基発117条の事故例にも載っています。ほぼ泣き寝入り状況です。
○仁平委員 厳しいですね。ありがとうございました。
○荒木部会長 ありがとうございました。ほかにはいかがですか。
○森戸委員 貴重な御報告ありがとうございました。2点、質問をしたいのですが、1点目は民間保険も今一応あるといえばあるわけですが、ただそれだと不十分、国の保険制度であるべきだという場合に、民間保険があるが余り入っていないという実態の報告がありました。国の保険なら保険料を負担し得るというのは、前提として民間よりも安くというか、得な形で入れるという前提でお考えだから、国の保険であればもう少し普及するのではないかとそう考えていらっしゃるのかという、逆に言うと民間だとなぜ入らないのかという質問なのかもしれませんが、それが1点目です。
もう1点は、御提案では日本俳優連合として今日の資料では、芸能従事者ということで特別加入制度にすべきだという御提案だったと思うのですが、日本俳優連合として、舞台俳優の方以外にかなり広く実演家、製作作業従事者と範囲を広げた御提案ですが、私の理解では俳優連合は俳優さんの集まりかと思っています。それに限定せず、いわばほかの業界もまとめてと言いますか、こういう制度として御提案されたのはどういう趣旨かを2点目でお伺いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
○森崎部長 ありがとうございます。なぜ保険に入らないのかというところですが、聞いてみると、自分たちの働き方に合っていない、あとは年金がない、ケガをしたらその仕事は続けられないので、そこで諦めている、そういった声が多かったです。やはり、特別加入が安いからというわけでは全然ないのですが、私たちの働き方に合った保険がふさわしいのではないかということで、恐らく30年来、求めているのではないかと。後はやはり危険なことが多いということだと思います。
実は、かつて芸能人年金というものが、短期間ですが、ありました。リーマンショックでそれがなくなってしまいました。そちらのほうは、例えばケガをして休んでいる間の休業補償や、年金も付いていました。そういったものを我々でつくるのは大変なので、それからはできていませんが、やはりケガをした場合の休業や年金が付いているほうが、私たちには合っているのかなと思っています。
2つ目の御質問の、なぜ俳優がというところですが、そもそもアクションはもう御存じのとおりというか、分かりやすく大変危険なのですが、アクション俳優というのは、実際、人数がかなり少ないので、それだけのために制度を変えるというのは、やはり無理なのではないかなと、私がいろいろ学んで思ったことです。でも、例えばアンケートの声にありましたように、声優さんでも非常に過酷な喉の使い方、それで仕事ができないほどになっていたり、私が現場にいても女性がかつてとても少なくて、今はだんだん増えているのですが、例えば女性の膀胱炎などは、私も含め衣装さん、スクリプターさんなど、俳優に限らず性別的な条件などがあることが、とても多いです。そういった意味で、危険が私たち俳優にだけあるのではないことは、十分わかっていたので、せっかくのチャンスに私たち俳優だけが加入するのはちょっとおかしいのではないかなと思い、それで全体の芸能従事者とした次第です。
○森戸委員 ありがとうございます。
○荒木部会長 ほかにはいかがでしょうか。ネット参加の方からは、特に御質問、御意見等はよろしいでしょうか。会場からは、ほかに御質問、御意見はありませんか。
○田久委員 すみません、貴重ないろいろな資料を出していただきまして、ありがとうございました。先ほどもありましたように、やはり見た目で言いますと輝しい世界の中でも、これだけの事故、若しくはケガや死亡も含めてというと、かなりの危険度の高い業種ということも感じます。それによって保証もされていないという現状も含めますと、やはり今後、今は目立ってはいませんが、そういった方々を救済していく方向がないと、そこの現場に入ってくるそういった人たちも減ってくるのではないかなと思います。
現時点で、建設で言いますと、そういうことで若手がなかなか入らない危険な産業と言われながらきています。それで今、業界を挙げてそういった部分では、社会保険に加入しよう、雇用保険に入ろう、そういったような取組をして、今どうにか20代が若干上向くというようなことも起こってきています。今まで、それがやはりなかなか業界全体で押し上げていくことができなかった状況でもありますから、こういったことであれば芸能分野であっても、同じような取組をするということが必要ではないかと改めて報告でも感じたところです。やはり、全てのところで人手不足ということが感じられて、建設と同様に大変な所だなという認識をしたところです。
是非、そういったところではこの中で少しいろいろな部分で構築をしていく際には、議論があると思いますが、そういったところでは前向きに検討するべきではないかなと感じたところです。ちょっと感想も含めてでございます。
○荒木部会長 ありがとうございました。ほかにはいかがですか。よろしいですか。それでは、森崎部長におかれましては、本日はお忙しい中、大変貴重なお話をどうもありがとうございました。
○森崎部長 こちらこそありがとうございました。
○荒木部会長 それでは、引き続きましてフリーランス協会の平田理事にお越しいただいています。平田理事は、オンラインでの参加ということですが、これから平田理事にお話を伺おうと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
○平田理事 よろしくお願いいたします。フリーランス協会の平田です。本日はオンラインでの参加とさせていただきますが、お手元の資料に沿ってお話できればと思います。
○平田理事 ありがとうございます。「フリーランスの取引実態と課題」ということで、お話させていただきます。1ページに簡単に自己紹介が入っており、いろいろ書いてあります。私自身、フリーランスとして10年以上複数の名刺を持って個人事業主として、主に広報を生業として活動してきております。
2ページに、簡単にフリーランス協会の概要を入れております。「誰もが自律的なキャリアを築ける世の中へ」をビジョンに掲げて、独立しているフリーランスの方、法人登記されている方、個人事業主、白色申告の範囲内で開業届を出さずにお仕事をしているすきまワーカーの方まで、今、3万7,000人ぐらいの無料の会員がいらっしゃいます。また、保険や福利厚生を提供している有料の会員が4,700人を超えたところです。また、法人の会員様もいらして会費で運営している非営利の団体です。事務局も全員フリーランスの当事者で構成している協会です。
3ページです。主な活動内容をいろいろ書いてあります。福利厚生や保険を提供したり、このような形で政策提言をさせていただいたり、実態調査を行ったり様々な活動をしております。
4ページ以降は、まず、フリーランスの定義についてお話させていただきたいと思います。5ページです。広義のフリーランスとして「特定の企業や団体、組織に専従しない独立した形態で、自身の専門知識やスキルを提供して対価を得る人」と定義しております。一言で言うと、雇用ではなく、業務委託若しくは自営でお仕事をされている。そして、会社の看板ではなく自分の名前でお仕事をしている方ということになります。大きく分けて、独立系のフリーランス、副業系のフリーランス、両方合わせてフリーランスと呼んでおりますが、法人経営者として個人事務所とか1人会社としてやっている方もいれば、個人事業主の方やすきまワーカーの方もいらっしゃいます。小規模事業者として統計に表れてくるのは経営者と個人事業主なのですが、統計に表れてこないすきまワーカーが、今、すごく増えていると言われています。いずれにしても、皆さん主に業務委託でお仕事をされている方ということになります。
6ページです。皆さんも御承知のとおりだと思いますが、複合的な要因からフリーランスへの注目が高まって、今、いろいろと政策の中でもフリーランス関連の動きを進めていただいて大変感謝しております。なぜ、これほどフリーランスが増えているのかというと、まず機会として、スマートフォン1台でどこでもお仕事ができるようになり、昔であれば実績や人脈がないとお仕事が得られなかったのが、今は様々なマッチングプラットフォームがあるので、特に人脈などがなくてもすぐにお仕事を始められるようになりました。
また、初期費用なども要らずに事務所を開設したり電話線を引いたりパソコンを買ったりという投資がほとんどなく、すぐにお仕事を開始できます。一方、企業側のニーズとしても、労働人材不足の中で1つの会社で終身人材を囲い込むのではなく、複数の会社で業務委託を通じて優秀な人材をシェアする流れがあります。今年は70歳までの就労機会確保の法案が通りましたが、あれは雇用延長の代わりにフリーランス化支援をしてもいいと認められたということになりますので、来年以降、ぐっとミドルシニアのフリーランスが増えるということも考えられ、この辺りのルール整備は本当に必要だと思っております。
7ページです。こちらについては釈迦に説法かと存じますが、今、内閣官房の調査で「広義のフリーランス」は462万人と試算されており、推移でのデータはまだありませんが、様々な現象から増えていることは間違いないと考えられます。
8ページです。こちらも御承知のとおりだと思いますが、今、いろいろとフリーランスの環境整備を政府で推進いただいています。この図は、2018年3月の雇用類似の働き方に関する検討会報告書の中で、今後の論点整理として挙げられた18項目を私が勝手に3分類したものです。大きく分けて、右から、ライフリスクの対策、真ん中の業務トラブルの対策、左の事業リスクの対策に分けられるかと思います。本日のテーマである労災保険はライフリスクの対策になります。働き方を問わず、健康、子育て、介護のリスクは誰もが背負うリスクですので、そこに対するセーフティネットも働き方に中立であってほしいというのが、私たちが設立以来ずっとお伝えしてきていることです。また、真ん中の業務トラブル対策に関しても、同じく中立なルールが必要だろうということで、今、公取さんのほうで動いていただいております。
9ページです。こちらも釈迦に説法ですが、改めて確認させていただきますと、フリーランスは事業者です。雇用類似の検討会でも共通認識としてそのようにまとまっていたと認識しております。基本的に私たちは、事業リスクを負う責任と覚悟を持った「自律的な働き方」だと自分たちでも思っています。一部、業務委託で働いていても、業務実態が労働者に近く、事業者として本来あるべき経済的自律、場所、時間、業務の裁量を持っていない方々がいらっしゃいますので、その方々に対しては、別途、労働政策上の保護の検討が必要だと考えており、そういう人たちは偽装フリーランスとして取り締まって、きちんと雇用制度で吸収して保護して頂きたいと思っております。ただ、本日のお話の対象になっているのは、「自律的な働き方」をしているピラミッドのピンクの点線より上の方々、基本的には競争法の中でお仕事をしている、自己裁量を持っている方と認識しております。そういう前提で、本日はあくまで独立した事業者の話をさせていただきますのでご承知おきください。
10ページです。フリーランス協会の白書の調査です。「こういう働き方を日本で選択しやすくするために何が必要だと思いますか」という設問で、やはり、ライフリスクの項目が上位に来ております。労災保険は、ほかの健康保険や年金に比べると少し下で、囲みで言うと上から5つ目ですけれども、45.9%の方が労災保険が欲しいと答えております。ただ、この回答は、あくまで特別加入、つまり保険料は自己負担という前提では聞いていないので、支払い保険料を増やしてまで加入は望まないという人がいるということは留意しなければいけないと思います。
11ページです。これも御参考ですが、今年のゴールデンウィークに調査したコロナ禍の調査で、フリーランスや会社員ともにテレワークの利用が進んだということもあり、12ページにあるように、今後はアフターコロナに向けて、時間、空間の制約から解放されるのではないかとか、副業、兼業が一般化するのではないかということも予測している方が多いので、こういう新しい働き方に備えて制度設計をしていくということは非常に歓迎されることかと思います。
13ページです。これも少し前提の補足ですが、テレワークが進み、場所にとらわれずに人々が働くようになると、そもそもの会社員というか、労働者性の判断基準の1つである場所や時間の制約が当てはまらなくなってくるということもありますので、事業者と労働者が、ますます明確な差分を失ってグラデーション化していくと考えられるわけです。なので、こうした流れの中で、どういう形で誰もが安心して働けるセーフティネットにしていくのか、今回の特別加入枠の拡大の話とは別に、どこかで抜本的な議論が必要なのかなと考えたりしております。
14ページ以降は、労災保険についてです。15ページです。まず、職種をいろいろ載せていただいております。先ほど、全体で言うと45%の方が労災がある方がいいと考えているというデータがありました。しかし、保険料が自己負担となる特別加入制度に限って考えますと、職種によってかなりニーズは異なりそうだということは、いろいろな定性コメントを見ていて感じるところです。
そもそも労災は業務中の事故や病気など、業務に起因する傷病の判定が必要になりますが、フリーランスの場合、職種によっては、ワークスタイルの特徴からして、いつが業務中なのかということが判定困難な職種もあります。私自身もそうですが、広報やビジネス系のフリーランスの方々は、御自宅、カフェ、ワーキングスペース、クライアント先などいろいろな場所でお仕事をしていて、その中にシームレスにプライベートな事象も入ってきていたりするので、何時から何時までが業務中だという判定が難しかったりします。

赤枠で囲った職種は、比較的、業務中かどうかがはっきり分かりやすい職種だと思います。先ほど、ご発表のありました芸能従事者の方々やクリエイティブフリーランス、職人フリーランスの領域には労災のニーズも大きいはずだと思っております。そうしたニーズにつきましては、先ほどの詳しいご発表からも明らかですので、ここでは重複を避けるため、あえてビジネス系フリーランスに絞ってお話させていただきたいと思います。
16ページです。ビジネス系フリーランスの業務スタイルです。先ほど申し上げたとおり、定期又は不定期で出社や打合せを伴うケースもありますが、基本的には、リモートワークで就労時間とプライベート時間がシームレスであるという方がほとんどかと思います。タスクベースでバナーやロゴのデザインやデータ入力をやっている方もあれば、名刺を頂いて、会社員と同じような形でいろいろなミッションに基づいてお仕事をされている方まで様々です。何時から何時までこの仕事をしていましたということは、なかなか言いづらい方も多いのではないかと思います。
17ページです。クリエイティブ系フリーランスの声は、先ほど御報告があったかと思いますので、こちらではビジネス系フリーランスの声を聞いてきました。少しでも入りたいという方がいないかと思い結構ヒアリングをしてみたのですが、特別加入、つまり、自己負担での保険という話になると、ビジネス領域のフリーランスでは入りたいという人を見付けることができませんでした。
私たちの協会でも、今回の労災のパブリックコメント募集について、告知はさせて頂いておりますので、もしかすると、直接、そちらに声を届けていただいている方もいるのではないかと思いますが、我々が自由回答で得た限りでは、保険料が自己負担という前提においては、わざわざ労災に加入するというよりは民間の保険の方がカバー範囲が広いし事足りている、労務中の労災事案がなかなか思い付かないという声が目立ちました。
ただ、特別加入制度ではない労災保険があり得るのかということでいえば、ビジネス系フリーランスは、常時チャットで複数、時には10社ぐらいのクライアントとやり取りをしていたりして、その時間の自分の取引先は誰なのかというのはなかなか判定が難しいというところがありますので、どうしても、会社員の方のように使用者が保険料を負担する形は難しい職種もございます。そのような状況で特別加入制度にせざるを得ない事情も重々承知してはいるのですが、自己負担でどこまで加入ニーズがあるのかは、私たちも何とも確実とは申し上げにくいのが率直なところです。
18ページは御参考ですけれども、私たちの働き方の特性として、業務中に起因する傷病なのかどうか判定しづらいという前提もあり、フリーランス協会では「収入・ケガ・介護の保険」という、所得補償制度を提供しています。これは全国中央会様の保険を団体保険として、44%オフで御提供しているものです。実はこれが非常に好評でして、中央会様がいろいろな業界団体に同じ保険を提供されている中でも、一番いい割引率を御提供いただいているという実態があります。
つまり、それだけ不安に感じている方、万が一、病気やケガになってしまったときに収入が止まってしまうということを、リスクに感じている方が多いということに間違いはありません。ただ、この所得補償制度は、業務中に起因する病気や事故に限る必要はない、どのような病気や事故でも補償されるというものです。業務中でないと保険が降りないといったときに、職種によってはどこまで判定されるのか不安だという考えもあるように思っています。以上、実際に保険料の設計をしていただくにあたって、加入者数の見込みをなるべく正確に予測する必要があると伺っておりましたので、あえて忌憚ない、実際の感触をお伝えいたしました。
19ページは、どういう職種別に保険料を設定するのかというお話で、職種別のリスクの御参考になればということで、我々が提供している所得補償制度の職種級別をどのように分けているかをご紹介しております。
4段階に分かれております。1級は、いわゆるビジネス系の事務職、営業職、管理職、小売・卸店主などは、一番保険料が安い方々です。2級は、調理師、美容師、理容師、電気工の方など、いろいろ火や道具を使う方々です。3級は、自動車の運転者、整備工、配管工の方々、特殊な機械、自動車、クレーンなどを使う方です。4級は、害虫駆除事業者、潜水作業者など、一番リスクが高い方々です。
大体、どのくらいの保険料を設定しているかというと、例えば、今、私は38歳なのですが、1級なので月1口当たり77円です。1口掛けると1万円補償されますので、例えば、月30万円の補償が欲しいという場合は30口掛けることになります。77円×30口で月間2,310円、年間で言うと2万7,720円をこの所得補償の保険にお支払することになります。
なので、この辺りの費用感であれば、実際、所得補償の保険に入っていただいている方はたくさんいらっしゃいますので、入りたいという方もいらっしゃるのではないかと思います。ただ、繰り返しになりますが、業務中の事故、病気が判定しやすい職種とそうでない職種で少し加入の人数は変わってくるかと思います。私からは、以上です。御清聴ありがとうございました。
○荒木部会長 大変ありがとうございました。それでは、ただいまの御説明について、御質問、御意見があればお願いいたします。仁平委員、どうぞ。
○仁平委員 平田理事、ありがとうございました。
○平田理事 ありがとうございました。
○仁平委員 一度、前にも御一緒させていただきました。2つ質問があります。1つは、任意保険の紹介がありましたが、全体として実際どれくらいの方が入られているのか。職種というか、ビジネス系とクリエイティブ系などによって実態は違うのかもしれませんが、感覚的で結構ですので、民間の保険に入っている割合を教えて下さい。それと、民間の保険に入っていない方の場合、本人がリスクを負う責任と覚悟を持っているがゆえに別に入る必要はないのだと考えている、と受けとっていいのかどうか。その辺りが気になっているところです。よろしくお願いいたします。
○平田理事 まず、加入率に関しては、我々の一般会員の5%が加入している状況です。資料請求は会員の25%がしていますが、申込み書類の様式が難しく、記入で止まってしまう方が結構多いようで、資料請求された方のうちの加入率は20%です。
もう1つの御質問は、音声がクリアでなかったので、もし違っていたら教えていただきたいのですが、ビジネス系フリーランスはニーズがないということでいいのかという御質問でしょうか
○仁平委員 はい、端的に言えばニーズがないということなのでしょうが、「基本的には、フリーランスは事業のリスクを自分で負う責任と覚悟を持っている働き方だ」とお書きになっていたと思いますが、保険に入る入らないも含めて、自分で責任を負うから5%しか加入ニーズがないということなのかどうか。我々、雇用労働者からすると、自分では予測できない様々なリスクがあるから、そのときのために、ということもあるのですが、そこまでいろいろ考えた上で、フリーランスの方は自分でリスクを背負われているのか、感覚的な話になってしまうかもしれませんが、気になったところです。
○平田理事 はい、ありがとうございます。まず、フリーランスの認識ということで言うと、9ページの「基本的には事業リスクを負う責任と覚悟を持った」というくだりですが、ここで言っているのは、あくまで事業リスクです。具体的には8ページでお示しした表の一番左の部分の、例えば、最低報酬、労働時間規制、失業の対策、キャリアアップなど、いわゆる収入の安定に関するリスクは、自分たちで負っているという責任と覚悟があると思います。一方で、真ん中の事業トラブルは働き方問わず防いでいく必要がありますし、一番右の健康や出産・介護などのライフリスクも働き方に関係なく誰もが抱えているリスクであって、幾らフリーランスであっても働き方に中立なセーフティネットが必要だろうと思っておりますので、基本的には、労災保険も必要だと考えています。
ただ、労災保険という仕組みの中にも幾つかあると思うのですが、フリーランスが一番気にしているのは、病気やケガで働けなくなったときの収入の補填です。通院費に関しては民間の医療保険で既にカバーされている方もいると思うのですけれども、所得補償の部分で非常に困っている方が多くて、我々の所得補償制度にも加入いただいている方が多いと。
先ほど申し上げたビジネス系フリーランスも、覚悟があるから保険ニーズがないというわけではないのですが、労災保険の特別加入枠の拡大という形だと2つ問題があると思っています。1つ目は、そもそも業務に起因する傷病かどうかの判定が難しい働き方の人たちがいるということです。2つ目は、自己負担であるというところです。
傷病の要因となるクライアントが特定できない限り、自己負担にならざるを得ないという今の仕組みは理解しているのですが、もし本当に働き方に中立な、働いている全ての人が安心して働ける保険にするのであれば、そもそもの話になってしまうのですが、今は労働者と事業者は曖昧になっていますので、会社員なのかフリーランスなのかを問わず就労者皆保険という議論も必要ではないかと思います。全ての働く人から一律に保険料を取り、かつ、企業の中にも雇用人材と業務委託人材の両方を活用するケースが増えておりますので、企業からも一律に保険料を取り、同じプールの中で、傷病時の所得補償の手当をしていくという考え方もあるのではないかという議論は結構フリーランスの中では出ています。お答えになっておりますでしょうか。
○荒木部会長 ありがとうございました。田久委員、どうぞ。
○田久委員 報告ありがとうございます。幾つかあります。1つは、ビジネス系でいくと就労をしている時間がはっきりしないということだったのですが、もう少し具体的な事例も含めて教えていただきたいです。
先ほどの仁平委員からの御質問にも関連してきますが、フリーランスの方々は労災の特別加入の関係でも、私は特に建設が分野なので、そういうところでは一人親方と言われている人も含めれば、相手に請求をするということも可能ではないかと思うのです。今そのような取組をしているということであれば、現時点でビジネス系の方も含めて、恐らく、請負の形であると思うのですが、そういうものは請負の契約の中に入れて補償してもらうということができないものなのかというのが、できないから要らない、そういう部分、できればビジネス系の方々も入るのかどうかというアンケートを、取ったことや声などを聞いたことはあるのかということを聞きたいと思っています。
○平田理事 今、御質問いただいたのは、クライアントに請求することはできるかということでしたが、その分を上乗せすることに対して理解を得るのはかなり難しいのではないかと思います。そういう費目をあえて付けずに単に値上げするということはあり得るのかもしれないのですが、現実的には結構難しいかと思います。
もう1つの問題は、例えば、先ほどの芸能従事者の方のように、1つの映画やドラマを撮っているということであれば、割とその現場が明確で、特に舞台関係者の方などは数ヶ月その小屋にいるということで、その期間のクライアントが誰かというのが割と明確です。ビジネス系フリーランスの場合は、実際に私もそうですが、例えば、ChatworkやSlackというチャットツールの中で、複数のクライアントのスレッドがあり、こちらのA社に返信したらB社に返信して、C社の作業をしながら、またD社に返信してということを日々やっているので、労災保険料をどのクライアントにどういう按分で請求するのかは悩ましいです。取引先が1社に依存している方も中にはいらっしゃるのですが、多い方は5、6社とか10社以上とやり取りされていたり、ライターなどは基本的に単発のやり取りと言うか、記事を1本ずつ受けて納品するという形になりますので、一定期間、1つのお客さんに対してコミットしているわけではないというところから、少し難しいのかと思います。
○荒木部会長 よろしいでしょうか。
○田久委員 ありがとうございます。実際、今言われた内容は、実は現場がばらばらですから建設の一人親方も同じです。そういう意味では、ビジネス系の方は、仕事上、安全、ケガが少ないのかと思うのですが、ただ、業種としては安全対策という部分では様々あると思いますので、実は厚労省、国交省も合わせて建設で言うと、一人親方というところの特別加入は安全経費というようなチラシも出していただいている状況があるのです。ですから、そういう意味では、そういう位置付けをきちんとして安全対策をフリーランスであってもやると、これは重要ではないかと思うので、そういう位置付けで請求するというのはすごく重要かと、今、聞いていて思いました。
○平田理事 そうですね。政府からクライアントに対して働き掛けをしていただけるのであればとても心強いと思いますし、それであれば加入しようかと思う方は増えるのではないかと思います。もちろん、安全性のリスクの部分が一人親方とビジネス系の方では随分違いますので、その必要性の感じ方は少し違うかもしれませんが、そういう働き掛けも併せてお願いできるのであれば非常に有り難いです。
○田久委員 そういう部分も含めると特別、先ほど申し上げた広くということで、働く人全てがそういうところで救済されるということは考えていかなくてはいけないのではないかと思います。
○荒木部会長 ありがとうございました。中野委員から、御質問があるとチャットで入っております。中野委員、お願いいたします。
○中野委員 貴重なお話をありがとうございました。資料の10ページで少し音声が途切れてしまったので確認をいたします。このアンケートでは回答者の45%が労災保険が必要だと考えているという回答が出ております。これは自己負担での特別加入を前提とした質問ではないから、これだけ高い数字が出ているということなのかというのが、まず、1点です。
もう1点は、今日お話いただいたビジネス系のフリーランスの方では、先ほどの建築業の例とは異なり物理的な事故の可能性は低いというリスクの差もあるかと思うのですけれども、経済的なニーズの違いもあるのでしょうか。つまり、必要があれば自分たちで民間保険に入る経済的な余裕があるということになるのでしょうか。
○平田理事 ありがとうございます。1つ目の御質問はおっしゃるとおりで、この質問をしたときは特別加入ということではなく、欲しいと答えた方は企業勤め時代の感覚で答えている方も多いのではないかということは、日々会話をしていて感じるところです。先ほどの日俳連さんの報告の中でも、自由回答の中で、あくまで発注者が負担する前提で欲しいと回答されている方も散見されるように思いました。やはり、自己負担という前提が付いた途端、多分、皆さん感覚がガラッと変わるというのは非常に感じているところです。
2つ目の経済的な部分で言うと、もちろん、ビジネス系フリーランスでも収入は様々ですので、保険料が負担になるという方はたくさんいらっしゃると思います。多分、芸能関係者に比べると、労災保険だと業務中の事故や病気と認定されにくいということで、わざわざ入らなくてもいいかという、むしろ、お金がないから僅かなリスクのために入る必要はないという回答だったのかと考えています。
○中野委員 そうすると、芸能関係の人たちはリスクも高い。
○平田理事 そうですね。リスクが高いですよね。
○中野委員 ビジネス系の人たちは、リスクの低さ、また、業務上の災害かどうかは判定されにくいということで、保険料を払ってまで入るメリットを見いだしにくい。
○平田理事 おっしゃるとおりだと思います。
○中野委員 分かりました。ありがとうございます。
○荒木部会長 ほかにはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。それでは、平田理事には大変お忙しい中、貴重なお話を頂きました。どうもありがとうございました。
○平田理事 ありがとうございました。
○荒木部会長 本日は、森崎部長と平田理事に大変貴重なお話を頂いたところです。委員の皆様におかれましては、本日のヒアリングの内容を、是非、今後の議論にも参考にしていただければと存じます。
それでは、議題(2)その他に移ります。事務局より、説明をお願いします。
○労災管理課長 労災管理課長でございます。どうぞよろしくお願いいたします。資料3-1と資料3-2について、簡単に報告を申し上げます。
資料3-1は、特別加入制度の対象範囲の拡大について、国民の皆様から提案・意見を募集するということです。6月29日(月)~8月14日(金)までということで、今、募集をしているところです。現段階で把握している提案や意見の件数は80件ほどありますが、まだ8月14日(金)まで2週間ほどありますので増えると思います。同じような職種に対する御意見もありますので、80件全部違っているというわけではないという状況です。また、これがまとまりましたら、労災保険部会で報告を申し上げたいと思っております。
資料3-2は、労災保険制度に係る政府の閣議決定文書等に特別加入制度などの記述があるということで、紹介いたします。3つほど掲げております。1つ目は、全世代型社会保障検討会議第2次中間報告(令和2年6月25日全世代型社会保障検討会議)です。この中でフリーランスの関係の記述の中に、「フリーランスとして働く人の保護のため、労働者災害補償保険の更なる活用を図るための特別加入制度の対象拡大等について検討する」ということが盛り込まれております。
それから、成長戦略実行計画(令和2年7月17日閣議決定)です。これもフリーランス関係のところで、下線の所ですが、先ほどとほぼ同じなのですけれども、「フリーランスとして働く人の保護のため、特別加入制度の対象拡大等について検討する」ということが盛り込まれております。あと、骨太の方針の中では、ほかのものも引っくるめてということですが、フリーランスの適正な拡大を図るため、保護ルールの整備を行うということが盛り込まれております。簡単ですが、資料3-1と資料3-2の紹介です。よろしくお願いいたします。
○荒木部会長 ただいまの説明について、何か御質問、御意見等はございますか。よろしいでしょうか。それでは、今日はヒアリングもありましたが、この際、何か御意見等があれば伺いますが、いかがでしょうか。今日のところは、よろしいでしょうか。本日予定した議題は以上です。
それでは、次回の日程については、事務局より追って連絡ということにさせていただきます。本日の議事録の署名委員は、労働者代表の髙橋委員、使用者代表の鈴木委員にお願いいたします。第88回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会を終了いたします。どうもお忙しい中、ありがとうございました。