2019年12月17日 第1回「精神障害の労災認定基準に関する専門検討会」 議事録

日時

令和元年12月17日(火) 16:00~18:00

場所

中央合同庁舎5号館厚生労働省共用第6会議室(3階)
(東京都千代田区霞が関1-2-2)

出席者

参集者:五十音順、敬称略
阿部未央、荒井稔、黒木宣夫、小山善子、品田充儀、田中克俊
西村健一郎、丸山総一郎、三柴丈典、山口浩一郎、吉川徹


厚生労働省:事務局
松本貴久、西村斗利、西岡邦昭、栗尾保和、佐藤誠 他

議題

(1)精神障害の労災認定の基準について
(2)その他

議事

議事録


○岡久中央職業病認定調査官 それでは定刻となりましたので、第1回精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会を開催いたします。はじめに本検討会を開催する前に、傍聴されている方にお願いがあります。携帯電話などは必ず電源を切るか、マナーモードにしてください。その他、別途配布しております留意事項をよくお読みの上、検討会開催中はこれらの事項をお守りいただいて傍聴されるようお願い申し上げます。万一、留意事項に反するような行為があった場合には、この会議室から退室をお願いすることがありますので、あらかじめ御了承ください。
委員の皆様におかれましては、大変お忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。最初に本検討会に御参集を賜りました委員の先生方を五十音順に紹介をさせていただきます。山形大学人文社会科学部准教授の阿部未央委員。日本私立学校振興・共済事業団東京臨海病院健康医学センター長の荒井稔委員。東邦大学名誉教授勝田台メディカルクリニック院長の黒木宣夫委員。石川産業保健総合支援センター所長の小山善子委員。前労働保険審査会会長の品田充儀委員。北里大学大学院産業精神保健学教授の田中克俊委員。京都大学名誉教授の西村健一郎委員。神戸親和女子大学発達教育学部教授の丸山総一郎委員。近畿大学法学部教授の三柴丈典委員。上智大学名誉教授の山口浩一郎委員。独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所過労死等防止調査研究センター統括研究員の吉川徹委員。
続いて事務局の紹介をいたします。大臣官房審議官の松本です。補償課長の西村です。職業病認定対策室長の西岡です。補償課長補佐の栗尾です。職業病認定対策室長補佐の佐藤です。私は中央職業病認定調査官の岡久と申します。
それでは、精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会の開催に当たりまして、大臣官房審議官の松本より御挨拶を申し上げます。よろしくお願いします。
○松本大臣官房審議官 審議官の松本でございます。本検討会の開催に当たりまして、一言御挨拶を申し上げます。まず先生方におかれましては、労働基準行政、とりわけ労災補償行政につきまして、日頃より格段の御理解、御協力を賜わっておりますこと、この場を借りて厚く御礼を申し上げます。また、師走の大変お忙しい中、本日御参集いただきましたことにつきましては、重ねて御礼を申し上げます。
御承知のとおり、業務による心理的負荷を原因とする精神障害については、平成23年、8年前ですが、策定をいたしました、現行の精神障害の認定基準により、業務上外の判断を行っているところです。この現行の基準を策定したときには、セクシュアルハラスメントを独立の類型に整理をして、策定をしたという経緯がありますが、その際、このパワーハラスメントということについても、盛り込んだほうがいいのではないかという御議論がございました。しかし、当時の状況としては、セクシュアルハラスメントは法定をされて、定義も明確だという状況でしたが、パワーハラスメントについては、そのような状況ではなかったということで、見送られたという経緯があります。そして、認定基準にはパワーハラスメントという用語ではなくて、ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けたという中に具体例として記載をしているということによりまして、現行の運用ということを行ってきているという状況です。
今般、御案内のとおり、いわゆる労働施策総合推進法が改正をされまして、パワーハラスメントの防止に関する事業主の雇用管理上の措置というものが法定化をされ、来年の6月から施行されるという状況です。今回の検討会では、この法律によりまして、パワーハラスメントの定義が明確化されるということなどを踏まえまして、精神障害の認定基準にパワーハラスメントという用語を盛り込む方向での見直し、御検討というものをお願いできたらというふうに考えております。パワーハラスメントに関連する出来事が分かりやすく見直されるということによりまして、被災労働者にとって労災請求がしやすくなるということ。また、我々労災担当職員においても、迅速、公正な労災認定につなげていくということが期待をされるというところです。更に労災認定基準に明記することによりまして、その他のいろいろなパワハラ防止施策と合わせまして、パワーハラスメント防止に前向きな効果が生じてくれば大変有り難いと私どもも考えているところです。
今回の検討会では、パワーハラスメントの関連の見直しの後、令和2年度予算要求中であります医学的調査、これを踏まえました見直しもお願いしたいと考えております。委員の皆様方には、長期間にわたる御検討ということになると思いますが、令和の新時代にふさわしい精神障害の認定基準づくりというものに向けまして、活発な御議論を賜わりますことをお願いを申し上げまして、私からの挨拶とさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
○岡久中央職業病認定調査官 続いて、開催要綱に従い、本検討会の座長を選出していただきたいと思います。座長は参集者の互選により選出するとしておりますが、どなたか御推薦等はございませんか。
○山口委員 恐縮ですが、黒木委員にお願いをしたらどうかと思います。
○岡久中央職業病認定調査官 黒木委員に座長をという御意見がありましたが、どうでしょうか。
(異議なし)
○岡久中央職業病認定調査官 それでは黒木委員よろしくお願いいたします。お手数ですが、座長席のほうへ移動をお願いをいたします。それでは黒木委員、以後の議事の進行をよろしくお願いをいたします。
○黒木座長 それでは座長を務めさせていただきます。まず、議事に入る前に事務局から本日の資料の確認をお願いいたします。
○岡久中央職業病認定調査官 資料の確認の前に傍聴されている方にお願いがあります。写真撮影はここまでとさせていただきます。以後、写真撮影等は御遠慮ください。よろしくお願いをいたします。
それでは資料の御確認をお願いいたします。本検討会はペーパーレスでの開催とさせていただいておりますので、最初にタブレットの操作について、御説明をいたします。お手元のタブレットの画面を見てください。本日の会議の資料の一覧が画面に出ていると思います。資料の01、02のファイルが画面に表示をされていると思います。資料を御確認いただく方法ですが、御覧になりたい資料を画面上でタップをしていただくとファイルが開くようになっています。まず、資料01をタップしていただけますでしょうか。そうすると、右肩に資料1、表題が「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会開催要綱」という資料になっていると思います。その上を指で画面を上にスクロールをしていただきますと、「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会参集者名簿」というのが2ページ目に出てくると思います。このように御覧になりたい資料をタップしていただいて、開いていただいた上で、画面上で上下でページをめくっていただくような形で資料の中身を御確認いただくことになります。一旦開きましたファイルをどうやって戻すかといいますと、画面の左上にiPadという小さい文字が出ておりますが、そこの下に左の矢印があると思います。左の矢印を押していただきますと、一番最初の資料一覧の画面に戻ります。後ろに係員等が控えておりますので、操作に御不明な点等がございましたら、その都度手を挙げていただければ操作の御説明をさせていただきます。
あと、御発言は、目の前にマイクがあるのですが、お話をされているときは、トークボタンを押した上で発言をしていただき、終わったらトークボタンを押してマイクを切るという方法でお願いをしたいと思います。
それでは資料の確認をいたします。最初の資料の一覧の画面を御覧ください。本日の資料ですが、資料1「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」開催要綱、参集者名簿。資料2-1「精神障害の労災補償状況等」、資料2-2「出来事別『(ひどい)嫌がらせ、いじめ』の認定件数推移」。資料3「精神障害事案に関する審査請求・訴訟の状況」、資料4「精神障害の労災認定に関する関係法令」、資料5「平成23年12月26日付け基発1226第1号『心理的負荷による精神障害の認定基準について』」、資料6「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書(平成23年11月8日)」、資料7「平成22年11月15日第2回精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会議事録」、資料8「平成23年8月1日第8回精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会議事録」、資料9「団体からの意見要望(過労死弁護団全国連絡会議、働くもののいのちと健康を守る全国センター)」、資料10「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律の概要」、資料11「脳・心臓疾患、精神障害の認定基準について(報告)」(第80回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会資料)、資料12「第1回精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会における主要論点」となっております。資料の不足等がありましたら、挙手でお知らせいただければと思います。よろしいでしょうか。資料については以上です。
○黒木座長 はじめに、本検討会の開催要綱について、事務局から説明をお願いします。
○佐藤職業病認定対策室長補佐 それでは、本検討会の開催要綱について、資料1に基づき御説明いたします。資料1を御覧ください。1の趣旨・目的です。1パラ目にありますとおり、業務による心理的負荷を原因とする精神障害については、平成23年12月に策定されました「心理的負荷による精神障害の認定基準」、以下、本検討会では、これを単に「認定基準」と呼びますが、これに基づいて労災認定を行っております。この精神障害に係る労災請求件数については、平成25年度から平成30年度までの6年間連続で過去最多を更新しており、今後も増加が見込まれる状況にあります。
2パラ目です。この認定基準の策定以降、労働者を取り巻く職場環境が変化する中において、本年6月にパワーハラスメント対策が法制化されるなど、新たな社会情勢の変化が生じている状況にあります。このような状況を踏まえ、専門家の先生方に御参集いただき、専門的見地から、この認定基準について御検討いただくことを目的として開催するものです。
2は検討事項です。検討事項としては3項目掲げており、まず、(1)はパワーハラスメント対策の法制化を踏まえた認定基準の検討です。(2)は精神障害に関する最新の医学的知見等を踏まえた認定基準の検討です。(3)はその他です。
3は検討会の構成等です。(2)を御覧ください。本検討会には座長を置き、この検討会を統括していただくこととしております。(3)の座長選出については、参集者の互選により選出することとしており、先ほどは、この規定に基づいて黒木委員が座長として選出されております。(4)本検討会は必要に応じて、参集者以外の専門家の参集を依頼することができるとしており、また、必要に応じて分科会を開催することができるとしております。
4はその他です。(1)本検討会は原則として公開としております。しかし、検討事項に個人情報等を含み、特定の個人の権利又は利益を害するおそれがあるときには非公開といたします。この場合、(2)にありますとおり、非公開とした場合には、検討会に御参集いただきました委員の先生方におかれましては、本検討会で知ることのできた秘密については漏らさないこととしていただき、これは検討会終了後も同様としていただきます。資料1の説明は以上です。
○黒木座長 続いて、本検討会で議論を始めるに当たり、精神障害の労災認定の現状と労災認定基準に関わる今後の検討について、事務局から説明をお願いいたします。
○佐藤職業病認定対策室長補佐 引き続き、事務局から精神障害の労災認定の現状と労災認定基準に係る今後の検討として、資料2から9までをまとめて御説明いたします。
まず、資料2-1です。1は精神障害の労災補償状況を掲げております。これは、平成元年度からの請求件数と支給決定件数の推移について表にまとめた資料です。これを見ていただきますと、認定基準の前身である「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」が平成11年度に策定されておりますが、この平成11年度を境として、請求件数については増加傾向にあり、平成21年度には1,000件を超えて、平成30年度には請求件数が1,820件となっております。
併せて、請求件数の下に支給決定件数があります。支給決定件数についても平成元年度から見ていきますと、平成11年度を境に増加傾向に転じており、支給決定件数については現在の認定基準が策定された平成23年度頃を境として400件台で推移している状況です。平成30年度については465件でした。
資料の2ページ、2の業種別支給決定件数を御覧ください。業種別の支給決定件数については、この表の上から2行目にあります製造業が、業種別で見ますと、支給決定件数としては多い状況が継続しております。製造業以外の業種でいいますと、その下に続いております建設業、運輸業、郵便業、卸売・小売業、医療・福祉が多く決定されており、特に、ここ数年は、建設業、医療・福祉が増加の状況にあります。
次に、3ページ、3の職種別支給決定件数の表を御覧ください。職種別の支給決定件数を見ますと、一番上にあります専門的・技術的職業従事者が多い状況が継続しております。この専門的・技術的職業従事者とは、例えば、保健師、助産師、看護師といった職種の方がここに分類されております。
その他の職種としては、事務従事者、販売従事者、サービス職業従事者、生産工程従事者に多く認定されており、傾向としては、販売従事者とサービス職業従事者が近年増加の状況にあります。
4ページ、4の年齢別支給決定件数を御覧ください。これは年齢別に分類した件数ですが、年齢別で支給決定件数を見ますと、40代が最も多く決定されており、次いで、30代、20代となっております。傾向としては、平成25年度までは30代が最も多かったところですが、平成26年度以降は逆転して、現在まで40歳代の方が多い状況になっております。
次に、5の都道府県別の支給決定件数について御説明いたします。都道府県別の支給決定件数については、東京が最も多く決定されており、次いで、神奈川、大阪、兵庫、福岡といった大都市圏で多く決定されている状況にあります。
6ページ、6の1か月平均時間外労働時間数別の支給決定件数を御覧ください。この表については、表の下に注意書きが書いてありますとおり、この報告自体は都道府県労働局に対して厚生労働省として報告を義務付けているものではありませんので、報告のないものについては、その他に分類して計上しておりますが、そういった前提で御覧いただきますと、最も報告の多かった事案については、20時間未満が多い状況になっております。
7ページは、就業形態別の支給決定件数について御説明いたします。一番多いのは正規職員・従業員で、414件と全体の89%を占める状況にあります。
8ページは、出来事別の決定件数と支給決定件数を集計したものです。平成30年度の支給決定件数のうち、最も多く発生しております出来事については、類型でいくと「3仕事の量・質」の中にあります「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」、類型でいくと、「5対人関係」の中にあります「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」がいずれも69件と最も多い結果でした。
その他の支給決定件数については、多いものとしては、悲惨な事故や災害体験を目撃した又は1か月に80時間以上の時間外労働を行ったとなっているところです。
精神障害事案の監督署における処理期間についてです。標準的な処理期間としては、私どもは8か月と設定しておりますが、平成26年度から30年度までの5年間の平均処理期間について御紹介いたしますと、平成26年度が7.5か月、平成27年度が7.2か月、平成28年度が7.2か月、平成29年度が7.2か月、平成30年度が7.3か月と横ばいの状況で、今のところ、標準処理期間の8か月を下回っている状況にあります。
このように、精神障害の労災請求事案については、請求人の方から実際に請求を受けてから請求人に対する聴取、実地調査、関係者への聴取、会社からの資料収集等を行うこととしておりますが、特に、嫌がらせ・いじめなどの出来事については、証拠として残されている物証が少ないため、関係者への聞き取り調査を行うことがメインとなります。このような調査の結果を取りまとめるまでには一定の時間を要するところですが、取りまとまった後においても、実際どのような出来事があったのかという事実認定を行った上で、その過程で労災医員などの精神障害の専門家の先生の御意見を伺いながら、実際の認定基準に基づいた心理的負荷の強度について個別に判断することとしており、この判断にも一定の時間を要する状況になっております。資料2-1の説明については以上です。
資料一覧にお戻りいただき、資料2-2を御覧ください。これは、出来事別でいきますと、「(ひどい)嫌がらせ・いじめ」についての認定件数の推移について、平成21年度から整理した表です。平成23年度の40件から平成24年度に55件となっておりますが、その後は、ほぼ横ばいの傾向にあり、精神障害の支給決定件数全体に占める割合は、おおよそ全体の13%から15%という状況となっております。
資料3について御説明いたします。精神障害に関する審査請求と訴訟の状況についてです。まず、1ページは審査請求の状況です。現在の認定基準が策定されました平成23年度に、折れ線グラフを御覧いただきますと、平成22年度をピークとして平成23年度から減少に転じておりますが、その2年後の平成25年度以降は、再び、審査請求の件数は増加の状況となっております。平成30年度については請求件数が409件という状況です。また、取消件数については、下の三角形の点です。横ばいの傾向にあり、平成30年度は11件という状況です。
資料4を御覧ください。精神障害の労災認定に関する関係法令についてまとめた資料です。労働基準法の第75条は、この資料に書いてありますとおり、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合は、使用者に対して療養補償が義務付けられております。この場合の業務上の疾病については第2項、②の所にありますとおり、厚生労働省令で定めるとされております。実際の厚生労働省令としては、この資料下にある労働基準法施行規則というもので、第35条に基づく別表第1の2において業務上疾病が列記されております。精神障害に関しては、この別表第1の2第9号にありますとおり、人の生命に関わる事故への遭遇、その他、心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病として規定されているところです。
続いて、資料5を御覧ください。現在の認定基準について御説明いたします。2ページ以降の別添を御覧ください。まず、第1として、この認定基準の対象疾病が規定されております。この認定基準の対象疾病としては、主として、ICD-10といわれる国際疾病分類第10改訂版というものがあり、この分類の中のF2からF4に分類されております精神障害を対象疾病としております。
第2で認定要件とあります。実際の認定要件としては3つあり、まず1つ目は、今、御紹介しました対象疾病を発病していること。2つ目は、対象疾病の発病前、おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められること。3つ目は、業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。この3つが認定基準として定められております。このうち2の業務による強い心理的負荷の判断については、精神障害発病前、おおむね6か月の間に対象疾病の発病に関与したと考えられる業務による、どのような出来事があり、また、その後の状況がどのようなものであったのかについて、具体的に調査し把握した上で、12ページ以降にあります別表1の「業務による心理的負荷評価表」の中の具体例に当てはめて、実際の出来事の心理的負荷を強・中・弱の3段階で評価することとしております。
この別表1の中に、出来事類型⑤の29番という項目からですが、対人関係、別表にはページ数が打っておらず大変恐縮ですが、左側の出来事として29とされている出来事、出来事類型でいくと⑤の対人関係とされている欄を御覧ください。一番上の29の行には「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」とありますが、その下に、上司とのトラブルや同僚とのトラブル、部下とのトラブルが、それぞれ30、31、32にあります。この29の心理的負荷の総合評価の視点の中に、小さい字で(注)という注意書きに書いてあることではありますが、出来事の内容が業務指導の範囲内又は業務をめぐる方針等において対立が生じた場合など、業務の適正な範囲内の出来事と評価できる場合には、このいじめ・嫌がらせではなく、その下にあります上司とのトラブルなど、そういったもので評価することとしております。もし、出来事の内容が業務の適正な範囲内の出来事と評価できない場合には、この29番の「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」で評価する整理となっております。資料5の説明については以上です。
資料6を御覧ください。こちらは、今、御説明いたしました認定基準の策定に当たり、専門検討会で検討いただきました中身をまとめた報告書です。4枚目に開催状況があります。前回の認定基準の検討会については、平成22年10月から平成23年10月までの1年間に10回開催し、この報告書が取りまとめられたところです。
今度は、報告書の6ページを御覧ください。この6ページの下に、項目番号でいくと3の(2)として、新評価表の出来事等の見直しという項目があります。この検討会においては、厚生労働省の委託を受け、日本産業精神保健学会で平成22年度に実施していただきましたストレス評価に関する調査研究の結果に基づき、出来事の平均的な心理的負荷の強度の見直し等を、この検討会において行ったところです。
また、この検討会からの報告書の中身で、次のページの3パラグラフ目の「さらに」の所から、分かりやすさの観点から出来事類型については、類似するものは統合、セクハラについては判断指針ではもともと対人関係のトラブルという類型に、分類されていたのですが、対人関係の相互性の中でセクハラは生じるものに限らないとする分科会報告書の内容に基づき、これを独立した類型にすることという御意見を頂いており、この意見に基づいて、平成23年の認定基準の策定において、セクシュアルハラスメントを出来事類型として独立させております。資料6の説明は以上です。
資料7、8は簡単に御紹介いたします。これは、前回の検討会において、パワーハラスメントについて議論された箇所を抄録として載せたものです。第2回と第8回でそれぞれ御議論いただいております。簡単に申し上げますと、当時については、パワハラを出来事として追加することについては、公的な文書等できちんと定義されていないことから、今後の検討課題とされているところです。資料7、8の説明は以上です。
最後に、資料9の説明をいたします。団体からの意見要望ということで、過労死弁護団全国連絡会議、働くもののいのちと健康を守る全国センターから頂いている意見書について参考資料として載せております。
この中で様々御意見を頂いているところですが、主な御意見として、本日の検討会ではパワーハラスメントに関する意見について御紹介いたします。資料の16ページを御覧ください。上から3分の1ぐらいの所に、改定意見の理由ということで、認定基準の問題点等を記述していただいております。現在の心理的負荷表の具体的出来事である「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」については、どのような場合に、業務指導の範囲を逸脱しているのか、嫌がらせ・いじめと評価されるのか、そういったものの具体例が示されていないと御指摘いただいており、いわゆる、パワーハラスメントに該当するような出来事であると思われるものについても、監督署においては業務指導の範囲を逸脱していない、いじめ・嫌がらせに該当しないと判断される例が見られるという御意見です。
このため、職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書に従い、業務指導の範囲を逸脱する場合や嫌がらせ・いじめに該当する場合の要素を例示すべきと御意見を頂いており、併せて「強」と評価される具体例の内容を拡充するようにという御意見も頂いているところです。駆け足になって恐縮ですが、ここまでで、一旦、資料の説明は終わりたいと思います。
○黒木座長 それでは、今、大変膨大な資料の説明がありました。御質問がある場合は、挙手をして御発言ください。確認でも良いので、何かございますか。
○品田委員 では、1つ申し上げます。先ほどの説明の中で、審査請求と訴訟の状況については資料3に出てきたわけです。再審査請求に係る取消件数等は、ここには含まれていないのでしょうか。別立てなのか、審査請求の中にまとめられているのでしょうか。
○佐藤職業病認定対策室長補佐 この資料の中には、再審査請求の件数は含まれておりません。
○品田委員 結構です。
○黒木座長 ほかに何かございますか。
○山口委員 非常に初歩的と言いますか、この検討会の検討課題や検討事項には直接関係ないのですが、パワハラは、いろいろな検討文書にも出てきているように、いじめが中心になるのではないかと思います。そういう事件は児童虐待でもニュースになったりします。我々のような世代やもう少し上の世代から見ると、どうしてこういう現象が非常に一般的な現象になっているのか。
行為を受けた人間のメンタルの構造が弱くなっているのか、それとも、職場が、昔のような集団としての機能を失い、問題の吸収や解決の能力が落ちているのか。
それから、更に、仕事が非常に複雑になってきて、パソコンやEメールを使い、労働時間と労働時間でないもののけじめが分からない。家に帰ってきてもEメールが追い掛けてきて、そういう仕事が変わってきているのか、その辺りがよく分からないのです。この現象の根本にある要素にどういうものがあるのか、医学の先生方の感触なりお考えを最初に伺っておけば、議論が混乱しないで済むのではないかと思ってお伺いします。
○黒木座長 今、山口委員がおっしゃったのは、メンタルの能力そのものが落ちているのか、解決能力が違ってきているのか、職場の対応が全体的に違ってきているのかということです。特に精神科医の方から、何か御意見はございますか。荒井委員、いかがでしょうか。
○荒井委員 直接的に御対応することは、多分、難しいことだと思います。社会的な慣習が変わってきて、社会に許容される範囲の言動が変わってきているという状況だろうと思います。昔は、先輩と後輩の関係が相当激しいものであっても、社会で許容されていたという事実はありますし、私が若い頃に先輩から受けた指導は、今だったら大変苦痛に思うかもしれないということがあります。社会のスタンダードが変わり、何が許容されるかということが変わったということです。
これは証明できませんが、今の若者たちの特性、ストレスに対する弱さ、あるいは批判に対する弱さが、あるケースの場合は目立ってくるということだろうと思います。それから、自分の判断を友人と照らし合わせて評価し直すとか、そういう友人関係も少なくなってきていて、ソーシャルなサポートも今の子供たちは比較的減ってきているのではないかということを考えております。以上です。
○黒木座長 ほかに何かございますか。
○田中委員 前の世代の労働者も理不尽なことを言われたら、それなりの傷つきはあったと思いますし、実際に傷ついて心身の不調を来した人も以前からいらっしゃったわけです。ただ、それを訴える機会がなかったということと、周りもそうだからと無理矢理、自分で我慢していたというのが実態なのではないでしょうか。それと、荒井委員がおっしゃったように、就労環境をめぐる雰囲気も随分変わってきてしまって、心理的な支援をする職場のサポート力が低下したことは大きな要因だと思います。
○黒木座長 ほかに何かございますか。
○丸山委員 時代はどのように変わろうとも、人権に対する考え方の基本的なところは変わっていないと思います。ただ、時代によって平均値は変わってきているのだと思います。ですから、以前は通ったということが当然通らなくなっているのです。例えば、私が子供の時代は、学校は這ってでも行くのだと。普通に考えて休む人は、骨折や大きな寄生虫がいるとか、そういうことで長期間休む人はおりましたが、普通はいないのです。その頃は非常に生徒が多く、クラスは50人ほどいましたが、長く休む人はいなかったのです。
ですから、平均が変わっていく。それは、多分、すごく情報化が進んで、今は速いのです。若い人がいろいろな情報に振り回されて、ある意味のアナウンス効果というのでしょうか。そういうことも通るのだと、休んでもいいのだとか、こういうことは我慢しなくてもいいのだとか、忍耐や粘り強さがすごく乏しくなっているような気がします。そういう面では、社会、企業、組織だけの問題ではなくて、極めて教育的な問題も絡んでいるのだと思います。
○黒木座長 ほかに何かございますか。
○小山委員 既に皆さんがおっしゃったとおりですが、いじめは昔からないわけではないので、いじめはあったと思います。でも、今みたいな卑劣ないじめはどうだったのでしょうか。また、周りでいじめがあってもフォローする人がいたりとか、フォローされることで救われている面もありますし、いじめに対しても負けないという耐性みたいなものがあり、自分はそれよりも頑張るのだという気持ちもあったであろうと思います。そういうところの力も、最近見ているとだんだんと低下してきているのかと思われます。
いじめの中身が変わってきているのは、社会現象が変わってきており、それに伴いかなり変わってきているのではないかと思います。それぞれの価値観、ものの捉え方も違うので、そういう意味では時代によって変わってきて、現在の状況であろうと思います。昔はなかったとかあったとかではなくて、現時点の問題として考えていかなければいけないのではないか。その中の背景はいろいろあると思うので、もっと詳しく分析しないと、何が原因だとか何がと一言で言えるようなものではないと思います。
○黒木座長 ほかに何かございますか。
○山口委員 そこはかとない理解ですが、病因論的に何か突き詰めてこれが原因だということは難しいので、現象を捕まえて対症療法で対応して抑えていかなければいけないのではないかというのが、先生方がおっしゃった実践的な到達点ではないかと思います。そのように理解させていただきました。
○黒木座長 ほかに何かございますか。
○三柴委員 結局、価値観の問題という面も大きいのではないかというのは、ヨーロッパではハラスメント防止のための規制がかなり広まっていますが、アメリカの場合は、学校のいじめ向けの規制措置、立法は出来ているのですが、職場でのモラルハラスメント防止法は今のところないのです。セクハラに対しては、裁判所も厳しい姿勢ですが、いわゆる人間関係や組織力学に関わるようないじめの規制はないに等しい状況です。訴えられても裁判所は簡単に認容しないという状況にあります。
更に言えば、労災補償との関係では、州法で労災補償の規制をしておりますが、純粋な人事的な措置については、幾らショックを心理的に与えようと労災と見ないということが明文化されています。例えば、懲戒処分や解雇は受けたほうはショックに決まっているわけですが、それは真正な人事措置だから、それをとらえて労災だと言われては困るというわけです。要するに、受け手がショックを受けたかどうかという基準ではなくて、それを社会的にいじめと見るかどうかという問題が非常に大きいのだということは、踏まえておいていいかと思います。
そういう事情からも、先ほど山口委員が整理されたとおり、病因論的な議論はなかなか難しいのだと思います。やはり、人や組織の問題そのものであろうし、あえて予防論につなげて考えれば、成長や適応まで視野に入れて論じないと、補償の課題だからといって予防を無視していいということではないのではないかと思っております。以上です。
○黒木座長 病因論的にも単一ではないと、いろいろな社会的なものも含めて、複雑なものが背景にはあるということだと思います。
それでは、次に、労災認定基準に関わる今後の検討ということで、事務局から説明をお願いします。
○佐藤職業病認定対策室長補佐 資料11です。令和元年11月15日に開催された第80回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会において説明した資料です。この中で、特に精神障害の労災認定基準についてです。下の囲みの部分を御覧ください。最新の医学的知見を収集した上で、本検討会において認定基準全般の検討を行うことを予定しております。
なお、最新の医学的知見については、令和2年度にストレス評価に関する調査研究、これはライフイベント調査等を実施予定としており、現在、予算要求をしている状況です。したがって、認定基準の全般的な見直しの検討については、令和3年度となるものと考えております。資料11の説明は以上です。
○黒木座長 何か御質問ございますか。よろしいでしょうか。それでは、次に、パワーハラスメントの定義の明確化等を踏まえた出来事類型等の明確化について、事務局から説明をお願いします。
○佐藤職業病認定対策室長補佐 それでは、資料10を御覧ください。女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律の概要資料です。この法律については、本年5月29日に成立しており6月5日に公布されております。特に改正の概要の中の2つ目のハラスメント対策の強化の部分を御覧ください。
労働施策総合推進法の改正により、次のとおり、パワーハラスメント防止対策の法制化が図られております。(2)の中に①②があります。①として、まず、事業主に対して、パワーハラスメント防止のための雇用管理上の措置義務を新設して、併せて、措置の適切・有効な実施を図るための指針の根拠規定を整備、とされています。②として、パワーハラスメントに関する労使紛争については、都道府県労働局長による紛争解決援助、紛争調整委員会による調停の対象とするとともに、措置義務等について履行確保のための規定を整備、となっております。
具体的なパワーハラスメントの定義については、今、御覧いただいている①の下の点線の囲みの中の労働施策総合推進法の第30条の2の規定を御覧ください。パワーハラスメントについては、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ適切に対応するために、必要な体制の整備、その他、雇用管理上の必要な措置を講じなければならないとなっております。
この中のパワハラの定義は、3つあります。1つ目は、優越的な関係を背景としているということ、2つ目は、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動によること、3つ目は、就業環境を害することが法令上明記されたところです。パワーハラスメントの具体的な定義、事業主が講じる雇用管理上の措置の具体的な内容については、厚生労働大臣が指針を定めることとされており、現在、パブリックコメント中と聞いております。以上です。
○黒木座長 ただいまの説明に関して、何か御質問ございますか。よろしいでしょうか。
それでは、これまでの事務局の説明を踏まえ、資料12の主要論点に沿って検討を進めます。まず、出来事類型の追加の必要性についてです。パワーハラスメントの定義が明確化されたことを踏まえて、業務による心理的負荷表の出来事の類型にパワーハラスメントを追加する必要性を検討したいと思います。何か御意見がある場合は、挙手の上、御発言をお願いいたします。
○品田委員 私としては、多分、皆さんも同じかと思いますが、パワーハラスメントを追加することには必要性を感じております。理由は2つあります。1つは、先ほどの御説明の中で、業務指導の範囲を越えると、いじめ・嫌がらせととらえるというお話をされましたが、どう見てもそこには一段の飛躍があり、業務指導範囲といじめ・嫌がらせは似て非なるもの、つまり、いじめ・嫌がらせは、いわゆる敵対的な意図と言いましょうか、法律用語で言う主観的要因をどうしても想起させるところがあるわけです。
そういう意味において、いじめ・嫌がらせにならないと上司とのトラブルで業務の正常な指導の範囲かどうかと考えるということに、やはり中間的な、つまり行き過ぎた叱責自体をそれなりに検討すべき必要があるのではないかと。そういう意味で、今回の考え方には、一応、賛同するところがあるのです。
もう1つは、先ほどの御説明でもありましたように、いじめ・嫌がらせが、又は暴行を受けたということとパラレルに書かれているわけです。いじめ・嫌がらせと暴行を受けたというのは、同じ土俵では捉えにくいものです。つまり、1回お尻を蹴られたという場合や執拗に殴られてやられたという場合、考えてみると、それらは暴行を受けたという概念では同じになるわけですが、いじめ・嫌がらせという概念で一緒に捉えてよいのかどうかということには非常に違和感を感じるところです。
また、現実には職場で暴行を受けるという事案はさほどないので、むしろ精神的にきついのは、言ってみれば、ねちねちと嫌がらせをされるような言動、つまり、強になる例では、どうしても人格や人間性を否定する言動が執拗に行われるということを要件とされるわけです。
人格を否定するというと、例えば、「お前なんか死んでしまえ」ということになるのでしょうが、実は労働者にとっては、そういう言葉よりはもっとねちねちと行動について批判されることのほうがきついことがある。そうすると、これも少し強になる判断基準について詳細な具体例を設定していく必要があるのかと。
ただ、難しいと思うのは、例えば、皆さん、御承知かと思いますが、中部電力事件があり、その中で指輪などをはめている労働者に対して、ちゃらちゃらしたものは身に付けるなということで、それを外させたということが事実認定の中でとらえられているのです。さて、これはパワーハラスメントになるのか、いじめ・嫌がらせになるのか、そこにおいての企図を推認できるのか難しいということが生じてきます。したがって、これを入れるとしても、この区分け、メルクマールをどうするかは結構厳しいせめぎ合いが必要なのかという気はします。以上です。
○黒木座長 今、品田委員がおっしゃったように、指導の範囲をどのように具体的に線引きするのか、あるいは、いじめ、嫌がらせ、暴行という連動性の中でどのように定義付けていくかということは非常に重要だと思います。ほかに何かございますか。
○三柴委員 これは実際に項目立てに反映しなくてもいいとは存じますが、あえて申し上げますと、悪質、陰湿ないじめについては、私個人は加害者が圧倒的に問題だと思っていますが、被害者側にも理由があることは多いと思っております。
その前提で、表現がいいかどうか分かりませんが、受け手にいわゆる自業自得な面があるケース、例えば、事件で言えば光通信事件があります。電話の受付をする方が、上司の思うとおりに仕事をしてくれなくて2時間か3時間ねちねちと説教を受けたと、それで心を病んだので労災申請をしたというケースだったと思います。これは叱責の時間の長さだけを取れば過重な心理的負荷を与えるハラスメントのようですが、本人が余りにも素直ではない、言うことを聞かないという自業自得な面があったから労災には当たらないとされたケースでした。この例が好例かは分かりませんが、本人にも要因がありそうなケースをどう見るかということがあると思います。
先ほど差し上げたお話の延長になりますが、それは、実は業務上の過重性の評価の一環の問題でもあると思うのです。本人の問題と言うのですが、要するに、業務上、過重なものをどう認めるかという問題の一環なのではないかと思うのです。それは、そもそも過重性の評価自体が社会的な価値観を含んでいるからです。それだけは申し上げたかったのです。
○黒木座長 ほかに何かございますか。
○山口委員 私の考えを言わせていただきたいと思います。まず、今回、パワハラの認定基準を検討して作るということが方針になっているのだろうと思います。そこで、それを前提にして、これまでに出ているいろいろなデータを見ると、検討委員会のデータがあり、その前に円卓会議のあれもあり、パワハラの定義も引用しておりますから、基本的な文献としてはこれらを継承していかなければいけないのではないかと思います。
ところが、これらをよく見てみると、パワハラの予防を目的にして非常に広く考えているのです。私たちはパワハラの認定基準ですから、言わば、救済と言いますか、補償の範囲をどうするかということですから、まず、目的や方向は同じでも全く同じではないという認識を持つということが必要ではないかと思います。
そうすると、今、品田委員がおっしゃった業務上の問題ですが、これまでの文献は業務の範囲を逸脱したということを定義にしているのです。ここのところがミソで、業務上の指導でパワハラが起こらないということはないと思うのです。業務上の範囲を逸脱していなくても、指導の仕方によってはパワハラになるということは十分あると思います。ですから、今回、パワハラの認定基準は作るが、対人関係の所で従来の認定基準がありますけれども、これを基礎に残しておいて、業務上の指導でパワハラがあったというのは、そこで拾えるようにしておいたほうがいいと思います。
同じような例外はほかにもあります、円卓会議でやられた例の中で、仕事を与えない例を言っていますが、これは非常に一面的で、過少な業務ではいけないようになっていますが、仕事が軽くなるから本当はよくなるはずです。そちらのほうが何も見ていないで品田委員のおっしゃった点は、私は、パワハラの認定基準を作るとして、それに対人関係や仕事のやり方などを全部吸収してしまうということは無理ではないかということだと思います。
○黒木座長 ほかに何かございますか。事務局から、何かありますか。
○西岡職業病認定対策室長 現在の労災の認定基準では、業務による心理的負荷表を指標として、基準の具体化、明確化を図っているところです。
今回、パワーハラスメントの防止対策の法制化を踏まえ、パワーハラスメントの定義の明確化などによって、負荷表における類型や出来事を明確化、具体化していけるということについては、労災請求の容易性や審査の迅速化につながるという点では好ましいものではないかと考えております。
○品田委員 先ほど山口委員がおっしゃられた、いわゆる防止のための指針と我々が考える補償のためのパワハラの概念をどうするかなのですが、私もそこは疑問です。つまり、先ほどの説明では、優越的な関係を背景とした言動をどのように見るか自体が難しくて、例えば、派遣先で派遣された労働者が、当該職場の正社員からいじめを受けたことについて、正社員に優越的な地位があると本当に言えるのかどうか。
そうすると、これをパワハラの概念でやるのか、それとも山口委員がおっしゃられた関係性でくくるしかないのか、そういうことを一つ一つ考えていくと、我々も補償におけるパワハラの概念をしっかりと捉えないと。マタハラやセクハラとは違い、マタハラやセクハラはそれ自体が被害者の行為概念、どういうハラスメントを受けるかがそれで想定できるわけですが、パワハラの場合は、その関係性を述べただけですので、つまり、我々はパワーの概念をどのように考えるかから始めないといけない。
そこに難しさがあるということを、何よりも、上司には業務指導をすべき権利もあれば義務もあるわけです。例えば、安全衛生のことについては義務を果たさないといけないから、「そんな危ないことをしたらとんでもない」と言って1時間は叱ったということはあり得ることです。そうすると、それらについても、セクハラやマタハラとは違ったことで考えざるを得ない問題が山積していることを、最初の段階で理解すべきかと思います。以上です。
○黒木座長 そうすると、パワハラが対人関係の類型に位置付けられている部分も当然あるし、その補償におけるパワハラをどのように位置付けるか。つまり、パワハラの人間性を否定するような言動に起因した精神障害は、どういう形で発症していくのかという過程があると思います。そこを広く捉えて、なぜこれが出てきたのかということもあるし、これは事例によってかなり違うのではないかという気がするのです。あくまでも、このパワハラは業務に起因性があるということを、どのように補償の中で位置付けるかということが重要かという気がします。いかがでしょうか。
あと、事務局から、セクハラが新しい類型として追加されたとありましたが、これについて説明してください。
○佐藤職業病認定対策室長補佐 セクシュアルハラスメントについては、先ほど検討会報告書の説明をしたときにも簡単に触れましたが、認定基準が策定される以前の判断指針においては、職場における心理的負荷表の出来事類型の対人関係のトラブルという類型の中に、セクシュアルハラスメントを受けたというものが位置付けられておりました。
前回の検討会においては、セクシュアルハラスメント分科会が設置され検討されました。この分科会での検討の結果、被害者にとってみれば一方的な被害であるということから、これを対人関係のトラブルの類型から想定される相互性の中で生ずるものとは違うのではないかという事情を考慮した上で、独立した項目とすることも検討すべきと検討会から提言を頂き、これを独立した出来事類型とした経緯があります。以上です。
○黒木座長 あのときの検討会の中では、セクハラは非常に当事者同士しか分からないような中身もあったり、別立てにしたほうがある意味で分かりやすいということも多分あり、独立という形になったのではないかと思います。今回のパワーハラスメントに関しても、新たな出来事として類型化して追加する方向で検討するということに関しては、よろしいでしょうか。
(異議なし)
○黒木座長 それでは、今後、パワーハラスメントは新たな出来事類型として追加する方向で検討していくことにいたします。
次に、具体的な出来事の追加・修正等についてです。出来事の類型にパワーハラスメントを追加することとした場合に、具体的出来事の記載等をどうするのかについて御意見をお伺いしたいと思います。いかがでしょうか。
○山口委員 具体的な出来事の追加・修正というわけではないのですが、私なりに理解したところを申し上げますと、セクハラの場合には男女間の問題になりますから、問題が特定できます。ですから、特別の認定基準を作りやすいのですが、今度はパワハラになりますと対人関係という要素だけになりますから、そこをどう扱うかということで、品田委員の御意見などがあったと思います。そうすると、パワハラの説明も考えたほうがいいと思います。
外国ではモラルハラスメントとか、ブリーイングという言葉が使われていますが、それは非常に人格というか、人間の尊厳をおかすような要素が強い言葉です。パワハラというと、ちょっと親父さんが子供の頭を引っぱたくというような、その辺りが違う。品田委員がおっしゃったように執拗、英語ではよくパーベイシイブという言葉が使われていますが、その辺をうまく区別していかなければいけなくなるのではないでしょうか。そうでないと、認定基準としてのパワハラと、従来の対人型のものと区別できなくなるのではないかと思います。
○黒木座長 ほかにはいかがでしょうか。
○荒井委員 今、山口委員がおっしゃった点が、とても大事だと思っています。セクシュアルハラスメントのときに、6か月という持続期間を外したのです。それも今回のパワーハラスメントについても、持続期間はやはり重要な要素になってくるのだろうと思います。1回「この野郎」と怒鳴ったのと、ずっといじめ、類似行為が続いていたのとは、強度を別に考えていかなければいけないと思います。それから、個体の持っている尊厳を傷つけることが社会的に許容されない範囲だというところが、やはり1つの基準になってくるのではないかなと思います。以上です。
○品田委員 先ほど言ったことで、最後が尻切れとんぼになって誤解を受けたらまずいなと思いました。使用者には権利もあり義務もあるという言い方をしましたが、そうした中で例えば正しいことでも1時間にもわたって叱咤すると。つまり労働者からすると、上司が言っていることが正しいと、かえってそれがストレスになって、病気になることもあると。つまり、言った内容や背景が正しくても、その方法において行き過ぎていれば、これはやはりパワハラなのだと。逆に言えば、いじめ、嫌がらせ、更には上司とのトラブルと違う概念でこれを入れるとしたら、ある意味、正しくても駄目なことがあるのだということを表明するということになるのかなと。そうすると、その具体例を考えていくのは極めて難しくて、作業としてはいろいろと常識を議論していく必要があるのかなという気がします。以上です。
○黒木座長 ほかにはいかがですか。
○三柴委員 結局はハラスメントの定義自体、社会的な価値観を踏まえざるを得ないという前提では、今回の労働施策総合推進法の定義を反映させることが基本になると思うのです。それに加えて、山口委員もおっしゃったように、海外のハラスメントの規制も言ってきた要素として、人格の否定であったり、他には、品田委員も触れられた、繰り返し、継続性といった要素もあります。それから日本の裁判例が言ったもので、ハラスメントの後のフォローの人的体制がないとか、言い方が直截すぎるといった幾つかの要素があるわけです。このような判例が言ったことや、更に精神医学の知見なども反映させながら入れ込んでいくのがいいのか、それともどうせ質的な判断になるのだから余り細かく書かないほうがいいのかというところについては、悩ましいなと思っています。
もう一点だけ申し上げますと、いずれにせよ、今の労働施策総合推進法の定義を反映させるとすると、山口委員がおっしゃったように恐らく業務の範囲内かどうかという枠は取り払わないといけないのかなと。業務範囲内でも当たるものがあり、業務範囲外でも当たるものがあるということになってくるのではないかなと。かつ、今ある項目は残して、残った要素について整理し直すと。手順としては、こういうことになるのかなと思うのですが、いかがでしょうか。
○黒木座長 いかがでしょうか。業務の範囲を超えてというか、あるいは業務の範囲を逸脱、あるいは業務の範囲というものを設定しないでというと、これはなかなか難しいかなという気がしますが。
○山口委員 いや、そんなに難しい話ではないのです。私が言ったことは単純なことで、今出ている文書は予防ですよね。ですから業務に関係がなければ、使用者は予防する義務がないわけですから、放っておいていいわけです。けれども人事管理や精神衛生の管理から言いますと、従業員である以上、福利厚生の関係もあり、業務でないから放っておいていいとは言えませんですから補償の基準のほうは、業務でないものも考えなければいけないのではないかという話なのです。
○黒木座長 この辺りは、事務局はいかがでしょうか。
○西村補償課長 現在の認定基準の心理的負荷表について、念のため少し説明いたします。1つは、いじめ、嫌がらせ、暴行を受けたというものです。その下に上司とのトラブルという項目が設けられており、現在どのような運用をしているかというと、業務指導の範囲を超えてという部分については、いじめ、嫌がらせで見ましょうと。業務指導の範囲内であれば、そこは上司とのトラブルで見ましょうというようなやり方をしているところです。ですので今後のパワハラの検討についても、そのようなことが少し参考になるのかなと思っています。
○品田委員 そのとおりなのですが、しかし業務の範囲なのか、業務外なのかの判断が、個々の事案では難しいと。先ほど言いました中部電力の事件などは、正にそうだったわけです。その他の事件でも、上司自身は業務上のことと言っているのですが、労働者の側はそう受け止めないということがある中で、ここをパワハラでどのように受け止める形にするかが問題であると。
もう1つ、先ほど三柴委員が言われたことはとても重要で、どのぐらい詳細に書くのかです。最近、厚労省が体罰に対する概念で、幾つかの詳細な基準を出しました。あれはマスコミで相当批判を受けたようで、私自身も違和感を感じました。つまり、余り詳細に書くとこれは誤解を受けるし、またそれ自身において結果的に効果を持ち得ない。ある程度、誰もが分かり得ないといけないけれども、とはいえ具体的過ぎてもいけないというところを、どう考えるかということになろうかと思います。
○山口委員 それは行政にお伺いした方がいいでしょう。
○黒木座長 いかがでしょうか。
○松本審議官(労災、建設・自動車運送分野担当) 今、品田委員からも、どのぐらいの緻密さで認定基準をやっていくべきなのかというお話がありましたし、山口委員からもお話がありました。やはり被災者、あるいは業務外になる場合もあるので、全部被災者と言っていいのかどうかはありますが、そういう請求のケースは森羅万象なわけです。それらを全て基準化するというのは、当然無理なわけです。そういった意味で、我々として被災者の方々が請求しやすいということ。それから労災の現場では、法律の目的の第一に迅速、公正ということも書いてあります。そのような両者の判断の物差しとなるようなこと、エッセンスを書かなければいけないと。そういう中で、今回パワハラという法制化がされているわけですので、そのようなものを取り入れながら、ただ全部が全部どこまで詳細にというのは、おっしゃるように難しい点があります。その辺りをどの程度にするかも含めて、御議論いただけると幸いだと思っているところです。
○阿部委員 ここまであまり議論になっていなかったのですが、パワハラでは6類型が出ています。今回の表も6類型に沿って入れるべきなのかという点も検討したほうがいいのではと思いました。先ほどの分かりやすさ・迅速さという点からも、6類型に沿った形での表の外出しのパワハラというものを考えていったほうがいいのかなというのが1つです。
既存の対人関係の表の整理も必要です。品田委員をはじめとした委員の方々が、全部を整理してパワハラに一括整理することはできないとご発言していましたが、私も賛成です。他方で、上司のトラブルの中で、パワハラと被る部分がかなりあるので、被る部分を重複したまま両方の表に入れるのか、どちらかに仕分けをするのかという作業も、やはりここで検討したほうがいいのかなと思いました。以上です。
○黒木座長 ありがとうございます。6類型に関してはまだ詳細に議論していかなければいけません。取りあえず今日の時点では、パワーハラスメントを別立てにしていくという方向性に関してはよろしいでしょうか。では、これは取りあえず別立てで検討することにいたします。
最後に、平均的な心理的負荷の強度についてです。出来事の類型の見直しに合わせて、この類型の出来事の平均的な心理的負荷の強度をどのように位置付けるかを検討することとします。まずはじめに、現在の心理的負荷表において、出来事29、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の平均的な心理的負荷の強度はどのように定められているのかについて、事務局から説明をお願いいたします。
○佐藤職業病認定対策室長補佐 それでは事務局から、現在の心理的負荷評価表の出来事29、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の平均的心理的負荷強度の定められた経緯について御説明します。
資料6をお開きください。本文の6ページ目を御覧ください。3の(2)、先ほどもこの資料の御説明でこの(2)の部分は御紹介しましたが、こちらにありますとおり、平成23年に策定されました現在の認定基準においては、心理的負荷表の新しい出来事等の見直しに際して、平成22年度に厚生労働省からの委託事業として、日本産業精神保健学会に実施していただいたストレス評価に関する調査研究の結果に基づいて、出来事の平均的な心理的負荷の強度の見直しが行われたところです。
この調査の概要については、当時の研究で主任をされました夏目先生がまとめた概要の資料が45ページ以降に書いてあります。この調査については、調査規模が非常に大きく、対象業種も広範である。また、職業における心理的負荷表に掲げられた、具体的な出来事の心理的負荷の大きさを網羅的に調査した当時唯一の研究、かつ、ストレス研究の専門家等により選定された、職場の中で実際に見られる新たなストレッサーについても調査した研究であると評価されているものです。この研究においては、ストレッサー項目として63項目について、実際にストレスの点数を評価しております。その結果については資料の54ページを御覧ください。
こちらに表9として、ストレス点数のランキングが掲げられております。こちらのランキングの第1位として、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」とあります。こちらが点数で7.1ということで、ほかの項目と比べて有意に点数が高いという結果になっております。この結果に基づきまして、現在の認定基準の心理的負荷表においては、出来事の29である「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の平均的な心理的負荷の強度はⅢと位置付けているところです。以上です。
○黒木座長 どうもありがとうございます。今、説明がありましたが、何か御意見なりあれば出していただけますでしょうか。質問項目の「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」、これが第1位ということですが、これは多分、アンケートでこうされているので、イメージからいくと、この文章だけ見ると、やはりかなり強いストレスということになるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
○品田委員 これは現段階で一定決めておく必要があるのでしょうか。これから検討すべきということではなくて、すみません、強度はどの程度に考えるかですよね、パワーハラスメントについて。
○黒木座長 これは事務局に確認ですが、パワーハラスメントはこれからいろいろ検討も行われるし、今日の時点で、この強度をどう考えるかというのはどの程度、どのように決めておけばよろしいですか。
○西岡職業病認定対策室長 現時点では、確定的に結論を出していただくところまでは考えていません。今後は、パワハラの類型で独立させた後に、具体的な出来事をどのように書いていくかということで、これはパワハラの指針が固まり次第、そちらのほうは次回御議論いただくことになりますので、そういったところで、再度、平均的心理的負荷の強度についても御検討いただければと思っております。
○黒木座長 では今日の時点では、この強度に関しては、前回の調査では強度Ⅲということですが、これは、また今後指針の結果が出たり、あるいはこの調査の結果でまた検討するということでよろしいでしょうか。
○西岡職業病認定対策室長 それで結構です。
○黒木座長 いろいろパワーハラスメントの定義ということですが、「業務に関係なく、あるいは業務上、あるいは必要な業務上の範囲を超えた言動によって就業環境を害すること」と定義されていますが、これは、やはり「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」と同程度の心理的負荷ということでよろしいでしょうか。
○山口委員 それは、先ほど品田委員もおっしゃったように、パワハラの認定基準の定義はそれでいい。それで、もしそういう定義を採用するなら、それでは、業務上の指導に伴っていじめなどが生じているときは、そちらの方で、普通の対人関係のところで拾うようになっていないとバランスを失するのではないかということで。それで、それを拾えるようになっていれば、品田委員がおっしゃったように定義は十分だと思います。
○黒木座長 先ほど説明があったように、業務の範囲以外のものはこの対人関係で拾うということで。
○品田委員 例えば平均的な強度Ⅲとされていても、結局、認定するかどうかは強と判断するための例を頭に置きながら判断することになるわけですね。そうすると、やはりここの例示がとても大事だということになってくる。さて、この状況の中で、ひどい嫌がらせ・いじめがある存在を前提にしながらパワハラを入れるとすると、どこに特色があるのかというと、恐らく先ほど私が言いましたように、正しい指導であっても行き過ぎればそれは強になるよというメッセージを与えることになるかと思います。ある意味、これは一段と拡張する可能性があると思います、これを強とすることは。そのことについて、そのメルクマールをどこに置くかを慎重に検討していく必要はあるのかと思います。
○黒木座長 ありがとうございます。どうぞ。
○吉川委員 過労死センターの吉川です。それに関連して今、非常に過労死センターのほうで、過労死防止法に基づいて調査研究をさせていただいているのですが、御本人の申述している内容と、それから事実が認定されている内容にかなりギャップがあるようなケースもあります。そのときに、迅速化という点から考えると、現場の負担が非常に大きいようなケースがある。訴えている方と、それから被害を受けた側とのギャップがそれほどない場合は迅速化するわけですが、ギャップがあると、それを現場で調査をする方が非常に丹念に何か月にもわたってやって、それでもなかなか情報がそろわないということがあるので、事例の提示とともに手順について、ここまではやるべきだけれどもここまではやるべきではないということも、これは認定基準とはちょっと違うのかもしれないのですが、その辺りも少し想定した上で作っていったほうがいいのかと思います。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかには御意見いかがでしょうか。
○山口委員 行政のほうの御苦心はよく分かります。それがないと現場は動きにくいでしょう。だけれども、ここまででよろしいという基準を作ってやっても、請求者が不満だったらそれを取消訴訟に持ち込み、裁判所はそれに拘束されませんから、資料が足りないとなって簡単に負けてしまいます。ですから、私は、それは作っても意味がないと思いますがどうでしょうか
○黒木座長 いかがですか。
○吉川委員 少し言っている内容に誤解があったかもしれないのですが、ギャップがある際に、手順を作るという言い方というよりは、むしろ認知のギャップが非常に大きいケースがあるときに、それの参考となるようないい事例を作るという意味で言った文脈です。
○山口委員 例を出しますが、認定上、本人の個体要件、要素、要因がないことがあります。これを調べに行っても事故が発生していたら家族は言いません。それをいつまでもこだわっていたら結論は出ないですよ。それはできる限り調査をするというほかないのではないでしょうか。
○黒木座長 現実的には、個体側要因というのはなかなか見えないし、いろいろな認定の資料の場でもやはりなかなか出てこないというのが多分、場合によってはあるのではないかと思うのです。しかし、それがまして、いわゆる業務による負荷、これはやはりⅢ以上で強以上ということになれば、これは見えない段階でも、例えば、これによって発症している部分がある、あるいはそれによって精神障害を発症していることになれば、私は、それはやはり業務上という形になるのではないかと思います。
ですから、精神障害は、やはり臨床的には、本当に臨床の場面でもですが、例えば診断ということを考えても、本人が来てしゃべらないと中身が見えない。家族の話やいろいろな状況で、診断的にこういうものが隠れているとか、あるいは鑑別診断としてこれを考えないといけない。しかし、職場というベールが掛かると、そこで本人は絶対言わないとかとなってしまうとなかなか出てこないということもあるので、そこはある程度、調査をしながら割り切って結論を出していくことではないかという気がします。
○三柴委員 補償の認定基準作りなので、なるべく客観化することは大前提だと思うのです。つまり、客観基準に乗れば、本人にいろいろ要因があったとしても、心理的あるいは行動的に要因があったとしても、それは認定するという考え方が基本だとは思います。例えば裁判所の判断にのっとれば、やはり法律家ですから、一般刑事犯罪の周辺、一等前後賞付近と私は言っているのですが、あの辺りは確かに補償の対象にすることになるし、法律家の頭でそれは問題でしょうというゾーンはやはりあると思うのです。
ですが、微妙なのは、例えば、上司等に仕事ができないとみなされて、それでやや厳しい叱責を受けた。それから先ほど品田委員も出された、例えば安全行動が取れない人に厳しく叱ったというようなケース。あと、本人側が上司を苛立たせるような行動、言動を取ってしまうケースなど、いろいろあるわけですが、その売り言葉に買い言葉みたいなところについてどう見るか。それから、品田委員が言われたねちねち型です。一定の団体の方とかは、これもハラスメントとして問題視すべきとおっしゃるのだけれども、余りそこを補償とはいえ締め付けすぎると、何ですか、もう人間関係がそもそも取りづらくなってくるのではないかという感もある。
ですから、そのグレーゾーンですね。そこをどうするかというと、多分、行政施策としてやれるのは、おっしゃるように具体例を挙げていくということになると思うのです。具体例というのは、別に予防の面で拘束的な基準ではないのだと。だけれど、こういうのを認めた例があるから注意してくださいよという趣旨で、グレーゾーンについていろいろと示しておいて、後は個別事例に応じた判断に委ねるといった方法はあるのかと思うのです。
○黒木座長 ちょっと座長でしゃべってしまうのはあれですが、確かに認定された事案は、ずっと臨床事例などを見ていくと、やはり最初の診断と違ってくる。本人の問題が浮き彫りになって、これをどう扱っていくかという問題になってくるので、非常に暴力まで受けたケースが実際には発達障害であるとか、そういった事例もあるわけです。ですが、入口の時点ではそれは見えない。ただ、適応障害とか反応を起こしているという部分だけは出てくるので、その入口の所で過重性があれば、労災としてやはり認めるという方向は、これは最低限必要かという気がします。
○品田委員 すみません、何度も、よろしいでしょうか。先ほど、会社側と労働者側という形になった場合に、労働者がいろいろと問題を起こしているからという事例はたくさんあるわけですが、しかしながら、多くの場合、審査若しくは再審査段階、多分裁判に行っても同じだと思いますが、当初審査段階においては、弁論主義ではなくて職権証拠調べをやっていきますので、大概の場合は本人が言っていることがどの程度真実なのかというのは見えてくるのです。最近多いのは録音記録を出してという場合もありますが、本人が誘導しているというパターンもあります。そういう意味において、その段階にまで行けば何が事実かは分かってくるのですが、問題は、やはり多くの事案は監督官の段階で設定されますので、もちろん認められなければ不服に来るわけですが、その段階において、やはり監督官が判断をするために分かりやすい指針若しくは例示が必要なのです。これがやはり我々が検討すべき課題。そうなると、裁判どうのこうのはどうでもいい話になります。
もう1つは、先ほど審議官がおっしゃった、やはり労働者自身が申し立てようという動機をもたらす、これも大きな今回のポイントだと思います。つまり、先ほど私が言いましたように、上司が言っていることが正しいのだと思うと、もうそれによって自分が病気になったところで、それは自分が悪いのだと思ってしまう。いや、そういう正しいことであっても、それは行き過ぎたことは問題だし、正しいか正しくないかを労災は判断する所ではありませんので、業務によって起こったものかどうかを判断する所ですので、そういう意味においては労働者側の申し立てようという動機を引き上げる可能性はあると思うし、その必要性はあると思います。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかに、精神科医の先生方、何かございますか。田中委員いかがですか。
○田中委員 パワハラに関しては、法律で3要件が定められているため、様々な出来事を並べて、それが強に当たるかどうかという通常の判断の前に、この3要件を満たすかどうかという事実の認定作業はとても大事だと思うのです。個人的には、これは次回以降の話になるかもしれませんが、この3要件を満たした場合には強とみなすという流れになるべきだと思うし、職場においても、この労災基準というのは非常に大きなインパクトを与えますので、何がパワハラに該当するのかという混乱を避けるためにも、ある意味、強の基準と言いますか、そういったものは可能な限り具体的に分かりやすくというのはいい方向だと思います。
ただ、テクニカルに現行の認定基準で言いますと、出来事をたくさん並べた時、中が2つあったらどうするのかとか、そうなるとまたちょっと、認定作業が少し混乱するというのもあります。現行では、セクハラが独立した類型として整理されていて、ある程度具体的に、イメージが湧くような形で、しかし、余り枝葉末節にとらわれないような表現の仕方をしていますが、これは、我々は認定する過程においても意外と苦労していないと言いますか、意外とうまくいっているような気がします。ですから、パワハラについても、この3要件を満たすか、定義を満たすかということを前提にしながら、職場での事後対応を含めたセクハラのような出来事評価を参考にすると運用しやすいのではないかと個人的には考えております。
○黒木座長 ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。
○阿部委員 確認です。多分、既存の負荷の強・中・弱の仕分けで、先ほどの事務局のお話ですと、業務指導の範囲外のものについては、ひどい嫌がらせで強という判断で、業務指導の範囲内のものについては、上司とのトラブルということで中という扱いにしていると思いますが、パワハラではどちらの場合もありうると思います。そこは今日は議論しないのですか。
○黒木座長 はい、今日はそこは議論しないで、これから詰めていくということです。
○阿部委員 分かりました。
○黒木座長 あとはいかがでしょうか。何かよろしいですか。
○丸山委員 パワーハラスメントを独立させることにはすごく意義があると思います。ひどいいじめ・嫌がらせ等だけでは浮かび上がってこない問題があると思うからです。つまり、パワーハラスメントが人事労務問題だけではなくて、これは健康問題でもあることをきちんと認識してもらうことが重要だと思うのです。最近もいろいろな事案があって、多分、パワハラを行った人にとっても思いがけない結果になっている。例えば、パワハラ被害者はうつ病だけではなくて、中には自殺することもあるわけです。それはちょっとびっくりすると思うのです。ですから、パワーハラスメントには実際そういうことになっていく可能性がある。もちろん、そういうことがあっても、全てそうなるわけではありません。ですから、それはメンタルヘルス不調をすぐさま予知するわけではありませんが、結果的にそういうことが起きると結構社会問題にもなっているわけですから、これを特に新しい出来事として取り出すのは非常に意義があると思います。
というのは、うつ病などは非常に労災の精神障害で多いわけですが、うつ病は精神医学的に見れば、自己否定とか将来否定の認知が強い場合が多いのですが、パワーハラスメントというのも、ある意味で、他者から自己否定されるケースが結構多いわけです。つまり、かなり高度な強い自己否定を、自らでなくて他者から受けるということがあるわけです。もちろん、先ほどから議論になっている、それが強なのか中なのかはまた後日議論が必要かとは思いますが。パワハラを取り出すことに、先ほどから予防でないという話もありますが、1次予防的な意味合いもかなり出てくる。そういう可能性と言いますか、発病防止で減らすことができるような気がしています。
○黒木座長 ありがとうございます。もう少し時間があります。荒井委員、何かありますか。
○荒井委員 詰めなくてはいけないことはいっぱいあると思うのですが、いずれにしろ、いじめ・嫌がらせの社会の中の比率と言いましょうか、それは非常に多いということがやはり問題なのだろうと思います。これはもう皆さん御存じだと思われますが、過労死等の防止対策アクションの中にも、民事上の個別労働紛争相談件数というもので、4分の1はこのいじめ、あるいは嫌がらせについての相談。延べの件数で言うと8万件を超えているということですので、これだけ見ても深掘りしてみると言いましょうか、取り上げて、セクシュアルハラスメントのときと同じように議論を深めるということが重要だろうと思います。
○黒木座長 ありがとうございます。小山委員、いかがですか。
○小山委員 パワーハラスメントというのは、確かに、単なるいじめ・嫌がらせと違ってかなりその方の人格を否定するような条件が強く、それを基にして、ハラスメントなのか嫌がらせなのかというように今まで認定してきたと思います。確かにねちねちと繰り返し行われる場合、その方にとっての人格を否定するような行為として受け止められればハラスメントになりますし、1回でかなり強力的なショックを受けるハラスメントもあるかと思います。1回でそれをきっかけにして病気にもなっているような人もあります。ねちねちと繰り返し行われた挙げ句になっている人もあります。
1つ引っ掛かったのは、確か業務上の教育のためにやっているという出来事なのですが、例えば、こういう例があったのです。そこの会社は若い人たちには、新入社員には業務上の教育として、社長室で向かい合って、1か月間かどれだけか期間がはっきりしませんが、社長室の中で教育することをやっているのです。それが当たり前になってしまっていて、その若い人たちは、入社した人たちはそういうやり方で教育されるのだという頭を持っていたらしいのですが、それをパワハラだと訴えた人は、それ自体が自分へのいじめであり、パワハラだということで、まだしも社長と向かい合ってやるのは非常にこれは嫌なことなのだと言って、社長側に背中を向けて、社長が後ろから見ているのだったらまだ許せることだけれど、面と向かってやるのは、非常にこれは強いいじめであるからパワハラに当たるということなどで訴えてきた人もいたのです。
そうなれば、業務上の今までの慣習だという中でやっていること自体が、果たしてそれがいじめ・パワハラに当たるのか、業務上の教育としてやっていることなのかやり方で少し疑問を感じたことがありました。
今回のパワハラの定義の中にも、人格がどうのこうのという言葉は出ていなかったのですが、優越的な関係を背景とした、そして、業務上の範囲を超えた言動であるかどうかということと、就業環境を害することというのを3定義の中に入れてあります。この中に、本人の人格を否定するような一番こたえるところのものがこの3定義の中には確か入っていなかったように思うので、これは非常にパワーハラスメントというときには必要なことかと思いながら、その3定義に、それから類型・負荷の強度をときに人格を否定するような内容を頭に入れながら考えたほうがいいかと思いながら聞いていたのです。
今、パワーハラスメントと言っても今まで聞いていたいろいろな具体的な例が挙がっていたと思うのですが、その中で、皆さんが納得して、これは本当にパワーハラスメントなのか、いや、これは許される、許容範囲のものなのかというところのものは、ある程度示すことも必要だろうと思います。ですから、予防的なという意味でも、こういうことはやっては駄目ですよ、これだったら労災に認定しますよということを示すこと自体、既にもう予防的なことにもつながっているだろうと思います。そういう意味では、少し具体的な例なども載せることは必要なのですが、しかし、グレーゾーンのところをどうするかというのは、やはり個々によっても違うこともあるだろうと思いますので、それはもう少し時間を掛けて、ですから、少し具体的な例をもう少し皆さんで持ち寄った中で、グレーゾーンのところなどをどう考えるかというところからも少し考え直しても、検討してもいいのではないかという思いでした。
○黒木座長 どうもありがとうございます。これから検討しなければいけないことはたくさんあると思いますが、ちょうど時間が過ぎてしまいましたので、本日の検討会はこれで終わりにしたいと思います。ありがとうございました。それでは、次回の日程等を含めて事務局から何かありましたらよろしくお願いします。
○岡久中央職業病認定調査官 次回の検討会の日時と場所については改めてお知らせをさせていただくことを予定しております。本日は年末のお忙しい中お集まりいただきまして、誠にありがとうございました。
○黒木座長 ありがとうございました。