第1回 職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会 議事録

労働基準局安全衛生部化学物質対策課

日時

令和元年9月2日(月) 14:00~16:00

場所

中央合同庁舎5号館 共用第6会議室
(東京都千代田区霞が関1-2-2)

議題

(1)事業場における化学物質等管理を巡る状況について
(2)今後の進め方について
(3)その他

議事

 ○課長補佐 本日は大変お忙しい中、御参集いただきまして誠にありがとうございます。定刻になりましたので、ただいまより第1回職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会を開催させていただきたいと思います。本日は初回となりますので、まず初めに委員の皆様を御紹介させていただきたいと思います。明石委員です。漆原委員です。大前委員です。城内委員です。高橋委員です。中澤委員です。永松委員です。名古屋委員です。三柴委員です。宮腰委員です。
 続いて、事務局側のほうも御紹介させていただきたいと思います。まず安全衛生部長の村山です。塚本化学物質対策課長です。小沼産業保健支援室長です。安井環境改善室長です。私は中村と申します。よろしくお願いします。まず、開会にあたりまして、村山部長より御挨拶をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
○安全衛生部長 改めまして、皆様には大変お忙しい中、本検討会の委員として御参集いただきましてありがとうございます。皆様、御案内のとおり現在、日本では数万種類の化学物質が様々な用途で製造、輸入、使用されております。また毎年、新たに千種類に上る新規の化学物質が製造、輸入され、新たに市場に流通しているということです。こうした中には、人に対する危険性や有害性がまだよく分かっていないものも少なくなく、こうした物質による労働災害が起こっているという状況にあります。最近の事例で申し上げれば、印刷業で集団発生しました胆管がんの事例ですとか、あるいは染料等に使用されていた化学物質によって集団発生した膀胱がん等が挙げられるかと存じます。また毎年、化学物質によって発生する急性中毒などの健康障害のうち、原因となる物質が不明なものも含めまして、法令の規制の対象となっていない物質による災害が半数以上を占めているという現状にあります。
 一方、国際的には、化学物質による人の健康への影響を最小化するという目標が掲げられており、世界共通のルールで化学物質を管理するという議論も進められているところです。こうした状況を踏まえまして、本検討会においては、化学物質による労働災害をどのようにして防ぐことができるか、中小企業様も含めました様々な業種、業態の事業場の化学物質の管理のあり方はどうあるべきかなどについて、専門的な見知、また経営やあるいは管理される立場からの観点、また働く現場のほうの観点などから活発に御議論いただければと考えているところです。私どもといたしましては、頂く御議論を踏まえまして、今後の化学物質管理のあるべき方向性について、おまとめいただければと考えているところですので、どうぞよろしくお願い申し上げる次第です。冒頭、御挨拶申し上げます。
○課長補佐 続いて、座長の選出を行いたいと思いますが、事務局としては、城内先生にお願いしたいと思いますが、いかがでしょうか。
 それでは城内先生、どうぞよろしくお願いいたします。座長席のほうに御移動いただければと思います。
 それでは今後の議事進行は、城内座長のほうにお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
○城内座長 それでは御指名いただきましたので、座長を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。今、村山部長からも御発言がありましたとおり、化学物質の労働災害等重篤なものも最近起きているように思います。国際的に見ると日本はまだ遅れている部分もあるのかなと個人的にも感じていまして、そういう中で、この検討会が開催されたものと思っています。専門家の皆さんの御意見を頂きながら成果ある権討会にしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 早速ですが、それでは議事の御説明をしていただけますか。
○課長補佐 事務的な御説明を初めにさせていただきたいと思いますが、本日はペーパーレス開催になっておりますので、委員の皆様方におかれましては、手元のタブレットのほうを御覧いただきながら御議論いただければと思います。お手元のタブレットに本日の資料を付けておりまして、00から番号をふっておりますが、議事次第、資料一覧、それから01が座席表、10が資料1の開催要綱です。中身の資料としては、2-1からになりますが、2-1が国際的な動向、資料2-2が諸外国の動向、資料2-3が日本の管理の仕組み、資料2-4が労働災害の状況というメインの資料を付けております。議論の参考として、参考資料1に第13次労働災害防止計画(化学物質関係抜粋)、及び参考資料2に関係条文の抜粋を付けております。
○城内座長 ありがとうございます。それでは初めに、本検討会の開催趣旨、本日の議論の進め方について、事務局より説明をお願いいたします。
○化学物質対策課長 私から、本検討会の要綱について御説明いたします。資料1を御覧ください。まず1の趣旨・目的です。輸入、製造、使用されております化学物質は数万種類に上る中、化学物質による労働災害は、年間450件程度で推移、また規制されていない化学物質による労働災害も頻発、またオルト-トルイジンやMOCAによる膀胱がん事案などの化学物質による重大な職業性疾病も後を絶たない状況です。
 一方、国際的には、GHSによる全ての危険・有害な化学物質について、ラベル表示やSDS交付が国際的なルールとなり、欧州では、REACH制度により製造量、用途、有害性などのリスクに基づく管理が行われている状況です。こうしたことから本検討会を開催し、今後の職場における化学物質などの管理のあり方について検討するとしております。
 次に、2の検討事項としては、(1)国によるリスク評価のあり方、(2)事業場における化学物質等による労働災害防止対策のあり方、(3)危険有害性情報の伝達のあり方、(4)人材育成のあり方など、化学物質等の管理のあり方、全般を対象としております。以上です。
○課長補佐 本日の議論の進め方ですが、今回は初回となりますので、まず事務局のほうから化学物質管理をめぐる基本的な状況などについて説明させていただいた上で、自由な御議論という形で進めさせていただければと考えております。よろしくお願いします。
○城内座長 どうもありがとうございます。それでは本日の議事に移りたいと思います。(1)事業場における化学物質管理を巡る状況についてです。まず議論に入る前に事務局から、御用意いただいた資料に基づき、議論の参考となる情報について説明をお願いいたします。
○課長補佐 それでは、資料2-1から順番に御説明いたします。本日、資料の分量が若干多いものですから、少し時間を頂いて説明させていただければと思います。非常に基本的な情報も含めて、初めに議論の基本ということで御紹介いたしますので、既に御承知の情報などもあるかと思いますが、共通の認識をまず持った上で議論をするという形にしたいと思いますので、それも含めて御紹介させていただければと思います。
 まず、資料2-1を御覧ください。一番初めに記載しているのは、国際的な条約や枠組みがどのようになっているのかということです。一番初めに、持続可能な開発に関するサミットは2002年に開かれたものですが、この中で世界共通の目標が定められており、下線を引いております。化学物質が人の健康と環境にもたらす著しい悪影響を最小化する方法で使用、生産されることを2020年までに達成することが、このサミットで設けられた目標になっております。
 2つ目の○ですが、この目標に基づいた対策を進めるということで、戦略的アプローチ「SAICM」というものが作られておりますが、この中で特に幾つか、化学物質の関係では目標が設けられており、下の目的のリスク低減の所にありますけれども、2020年までに、不当な又は制御不可能なリスクをもたらす物質の製造・使用を中止し、排出を最小化すること。その際に優先的に検討する物質として、残留性蓄積性のあるものや発がん性のあるものなどが目標として掲げられているということです。
 その下の「知識と情報」の所にありますが、化学物質のライフサイクルを通じた管理を可能とする知識と情報が、全ての利害関係者にとって入手可能となることと、化学物質管理のための包括的、効果的、透明な適切な国際的・国内的メカニズムを確立することが目標として定められています。
 その下の○は、いわゆるSDGsと呼ばれておりますが、この中にも具体的な目標が掲げられております。次の2ページ目を御覧ください。この「2030アジェンダ」にいろいろな目標が掲げられている中で、化学品に関する目標として、2030年までに有害化学物質並びに大気、水質及び土壌の汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させるという目標が掲げられているということで、我々もこのような国際的な目標、枠組みを意識しながら対策を進めていく必要があるということです。
 3ページ目を御覧ください。御存じの方も多いと思いますが、GHSについて基本的な事柄をまとめたものです。これは化学物質の危険有害性の情報伝達の国際ルールを作るということで作られた国連文書になっております。特に職場、労働環境で留意すべき所を中心に下線を引いております。このGHSの中には、まずは化学品の分類をするための判定基準、それからラベルといわれている表示、それからSDS(安全データシート)が中心的な内容になっています。このルールは全ての危険有害な化学品に適用されることになっております。
 その下の「ラベル表示」です。労働安全衛生法の中にラベル表示が取り入られておりますけれども、注意喚起、危険有害性情報、注意書き及び絵表示などを容器に表示することになっております。特に下の2つの○に書かれていることは、特に作業場において留意すべきこととしてGHSに書かれているものですが、作業場に供給される時点でGHSのラベルが付いているわけですけれども、その後、その作業場の中でも、その容器に付けておくべきであるということ、それから作業場の中で別の容器に移した場合などについても表示をしていく必要があるという考え方が、このGHSの中で示されているということです。
 その下の「SDS」に移ります。このSDSというのは、正に化学物質の危険有害情報について化学品を管理するための最も基本的な情報源ということです。考え方の基本としては一番下の○にありますが、GHSに基づく物理化学的な危険性や、ヒトの健康又は環境に対する有害性の判定基準を満たす全ての物質及び混合物について作成されるべきだというのが、まず基本的な考え方としてあるということです。
 次のページは参考として添付しておりますが、今、GHSの中でSDSにどのような情報を盛り込むべきかということで規定されているものです。今回、あり方を検討するに当たって、こういったGHSで盛り込むべきとされているものが、今の日本の仕組みで全てカバーされているかということも含めて、もう一度点検をする必要があるかと考えております。以上が資料2-1の説明になります。
 続いて諸外国の状況を御説明いたします。資料2-2を御覧ください。まず初めに、表の形式で整理しておりますが、非常にざっくりした整理ですので、もう少し正確な情報は、また今後の議論の中でということで考えております。日本とアメリカとEUの化学物質の規制が、大まかにどのような枠組みになっているかということを整理した表になっております。
 真ん中の基本的な考え方という所を御覧ください。初めに記載している有害原因の除去、抑制、それから管理的対策、保護具、こういった対策の優先順位の考え方というのは、いずれも国際的に共通の考え方が取られていますが、リスクアセスメントについては、日本は一部の化学物質について義務となっており、一方、アメリカは法令で具体的に規定されている状況ではなく、EUでは、リスクアセスメントは義務という扱いになっているという違いがあります。
 この欄で、特にアメリカについて特徴的と言えるのが、後ほど御紹介いたしますが、インダストリアル・ハイジニストという専門家が、化学物質だけではないのですけれども、かなり職場の化学物質管理の管理に関与して、その専門家の判断によって現場の管理がされている仕組みになっているという特徴があると言えると思います。
 下の個別規制ですが、皆様も御承知のように、日本の場合は特定化学物質障害予防規則や有機則など個別の規則を設けて、かなり具体的な措置も、この中で規定されているということですが、アメリカやEUでは、特に一番下の欄を御覧いただくと、許容濃度未満の管理を義務付けるという仕組みがかなり広く設けられております。
 特定の、例えばアメリカであれば700で、イギリスであれば430という数字を記載しておりますが、この物質に関しては、一定以下の許容濃度に管理することが義務となっています。他方で、日本の個別の規則のように、こういう措置を取りなさいということが具体的に決まっているわけではないというところに、化学物質管理のやり方の考え方の違いが表れていると考えております。
 次の2ページ目を御覧ください。これは特にEUで導入されている「REACH」という仕組みについて簡単に御紹介したものです。この「REACH」が導入される前は、基本的には化学物質のリスクの評価を行政がやるという考え方に、EUでもなっていたわけですが、この「REACH」の導入によって、既存の化学物質や新規の化学物質の扱いを、ほぼ同等の扱いにする、それから、リスクの評価を行政ではなくて事業者の義務に変えた所が大きい見直しになっていると思います。それから、サプライチェーンを通じて、化学物質の安全性の情報の共有管理をしていくという考え方が取られております。
 この「REACH」の基本的な枠組みとしては、下の登録の所ですが、年間の製造・輸入量が1tを超えている化学物質を基本的に登録の対象にするということです。何を登録するかというと、この物質の製造量、用途、分類・表示、有害性情報などを管理庁に登録するという仕組みになっております。特に取扱量の多い10t以上となると、使うときのリスク評価を具体的にメーカーが調べたもの、これらの文書も登録しなければならない仕組みになっております。
 これらの登録を基に、右側になりますが、行政庁で登録情報の評価をして、高懸念物質などを優先的に評価し、その結果、高懸念物質ということになれば認可が必要になり、あとは上市、流通させる際の制限が掛かります。こういう仕組みになっているということです。日本の労働安全衛生の中では、こういった仕組みは今のところはないという状況になっております。
 続いて3ページ、先ほど米国の御紹介をしたときに、特徴的だと御紹介したインダストリアル・ハイジニストについてです。例えば法定の義務になっているものではないのですが、米国では、このインダストリアル・ハイジニストが職場の労働衛生を管理する中ではプロフェッショナルな資格となっております。「資格・認定」の所に記載しておりますが、工学、化学、物理学、それから生物学など、かなり広範な分野について専門性を持った方、そして実務経験を持った方などが、米国では、ここに「ABIH」と書いておりますが、この認定機関の認定を受けた方が、企業の労働衛生管理を専門的に担う仕組みになっているということです。その「役割」の所に、その方がどういうことをされているかということが列挙されておりますが、ハザードや潜在的な危険の調査、リスクアセスメントのようなもの、それから企業に対する提言や調査研究を行うといったことをアメリカでは、この専門家が支えて、職場の労働衛生管理をやっているということです。
 次の4ページです。実はこの仕組みはアメリカの仕組みだけということではなく、国際的には「オキュペイショナル・ハイジニスト」ということで、欧州でも内容的には同じような仕事をされる資格というのは、国際的には既に広がりつつあります。欧州、例えばイギリスなどでも、これらの資格を持った方が現場の労働衛生管理をする仕組みが広まりつつあるということです。以上が資料2-2の説明になります。
 こういった国際的な状況を踏まえつつ、今、日本の仕組みがどうなっているかということを、資料2-3のほうで御説明したいと思います。まず、一番初めに示されている三角形の図ですが、これは今の労働安全衛生法の中で、化学物質に対する規制がどういう枠組みになっているかを概念的に示したものです。一番上にあるのは、石綿などの基本的には国内に輸入も製造も使用もできない物質というものが、8物質指定されています。それ以下の所で具体的に法令の規制に基づく管理がされることになっており、2つ目の枠にある自主管理が困難で有害性が高い物質、これが一番右を見ていただくと特別規則122物質、製造許可が7物質とありますが、特に自主管理が難しいということで、この規則の中で具体的にどういうことをしなければいけないか、何をやったらいけないかということが詳細に決まっている物質ということになります。
 その下に「600~700物質」と書かれておりますが、許容濃度又はばく露限界値が示されている危険有害な物質ということで、ここは先ほどの個別具体的な規制は掛からないわけですが、ラベル表示、SDSの交付、リスクアセスメントの実施が義務ということで掛かっております。
 右側を見ていただくと、衛生基準というものが書かれておりますが、このリスクアセスメントを実施した結果、どういう措置を講じなければいけないかということで、個別の規則のような義務は掛かっていないわけですけれども、この衛生基準は、労働安全衛生規則になりますが、この中で特に有害なものなどについては発散抑制しなければならないとか、濃度を下げなければいけないとか、保護具を備えなければいけないといった一般的な義務が掛かっているということです。これは後ほど簡単に御紹介したいと思いますが、リスクアセスメントは実施だけが義務で、措置は努力義務だということではなくて、衛生基準という一般的な義務は掛かっているということです。
 その次の2ページ目、3ページ目になります。今、御説明した仕組みの中で、労働安全衛生の中ではどういうリスク評価が行われているかということですが、現状の仕組みとしては、特に国際的な有害性の情報の中でも発がん性というものに着目して、規制すべき物質はないかどうかということをリスク評価の中で見ていくということです。その対象物質を選んだ後に、実際にそれが国内でどのように使われているか、この有害物ばく露作業報告で使い方や現場の濃度などを調べて、その後、専門家の検討会の中で有害性情報を集めたり、ばく露作業報告の結果を評価したりして規制するべきかどうかという検討を行ってきております。基本的にこの検討会の中で規制すべきとなった場合に、特別規則の対象に加える仕組みを今まで運用してきているということですが、3ページ目にありますが、これまでこのような流れの中で、28物質が特定化学物質障害予防規則の対象に加えられてきているということです。
 その次の4ページ目は参考ですが、今、御説明したように、いろいろ労働安全衛生法に基づいて5つの特別規則が規定されており、具体的な物質、作業を特定して、実際にどのようなことをやらなければいけないかということで、個別具体的に、この中で規定しているという仕組みです。
 5ページ目を御覧ください。これが先ほど特別規則の対象ではないけれどもリスクアセスメントの義務対象になっているものに対して適用される一般的な基準ということになりますが、特に多くの物質に関係してくる4つの条文をここで抜粋しております。
 576条は、発散源の対策ということで、有害物を取り扱ったりガスが出たりというものについては、これは基本的なことですけれども、代替物を使ったり作業の方法を改善したりといった義務が掛かっていると。それから577条は、今後の議論になってくるかと思いますが、こういった有害な物質を使ってガス・粉塵などが発散する作業場においては、空気中のそれらの物質の濃度が有害な程度にならないようにするために発散抑制措置として密閉設備や局所排気装置などを設置する等の措置を講じなければならないという義務が掛かっています。
 それから593条、594条、この辺は保護具の備え付けということで、吸入などをする場合の保護具、それから皮膚に接触して皮膚刺激性があるもの、それから皮膚から吸収されるようなものについても保護具の備え付けの義務が、物質の限定ということではなくて有害な物質については、一般的な規定が設けられているということです。
 次の6ページは振り返りのような資料になっておりますが、これまで労働安全衛生法で化学物質に関する規制がどのように変わってきているかということを、主なものだけを抜き出したものです。昭和47年に労働安全衛生法が制定された当時から、この特別規則(有機則、特化則、鉛則、四アルキル鉛則)というのはありました。その後、1999年に新たにSDSというものが安衛法の中に取り入れられたというこです。その6年後の2005年には、これは努力義務ではありますが、リスクアセスメントという考え方が新たに労働安全衛生法の中に取り入れられ、2014年には化学物質については、このリスクアセスメントの考え方が義務となったということです。少し戻りますが2012年には、これも後ほど御紹介しますけれども、作業環境測定の結果が第1管理区分の場合に、署長の許可を受ければ局排等以外の発散抑制防止措置を取ることができるという若干柔軟な規定が、有機則・特化則・鉛則に入っているということで、法律が発足した当初の特別規則による規定から徐々に、そのリスクに応じて自主的に各部署が管理するという考え方が取り入れられつつあるという歴史の御紹介として添付いたしました。
 次に、冒頭に御紹介したGHSの考え方と今の運用が若干ずれているということもあって、7ページに御紹介を付けております。今、労働安全衛生法でSDSの交付対象にする物質をどのように選んでいるかということについての考え方をまとめた資料になります。4行目ぐらいに、特別規則に規制する化学物質のほか、日本産業衛生学会、米国労働衛生専門家会議(ACGIH)が許容濃度を勧告する化学物質、国連危険物輸送勧告の危険物などをSDSの交付対象にしましょうということになっております。例えば、許容濃度の場合は経気道ばく露が中心になると思いますが、このような一部のものに着目してSDSの対象にするという考え方になっていますので、全ての危険・有害な物質にSDSを作っていくというGHSの考え方と比べると、若干限定的な運用に現状はなっているということです。
 それから9ページ目以降の資料について御説明いたします。9ページ目から表が続いておりますが、これは過去30年間に労働安全衛生法に基づいて義務付けになっている管理濃度がどのように見直されているかということを表にまとめたものです。11ページの一番下の「管理濃度の変遷のまとめ」という表が、一番よく分かるかと思いますが、この30年間、特に15年間に、かなり管理濃度が引き下げられている物質が多いということが、この表を見ていただくと分かると思います。2003年から2018年の間には、35物質の引下げが行われており、特に28物質については、半分よりも更に下がっているということです。10分の1以下になっているのは7物質ということで、この変化によって、例えば過去の作業のやり方や設備のままでは対応できないような引下げが、ここのところ行われているという事実関係として御紹介いたしました。
 次の12ページを御覧ください。先ほど簡単に労働安全衛生法の改正の履歴の所で御紹介いたしましたが、2012年(平成24年)に導入された仕組みということで、基本的にそれまでは特別規則の対象の物質については局排などを付けなさいということになっていたわけですけれども、この制度発足後、作業環境の濃度が第1管理区分に良好に保たれているということを前提として、署長の許可を受ければ局排など法令で決まっているやり方以外の方法で対応してもよいという仕組みが設けられたということです。
 ここで少し書いてあるのは、その仕組みができて以降、署長だけではなく、その後に専門家の検討会を経ての許可という運用をしてきたということですが、かなり知見もたまってきたということで、あえて専門家の審査を経なくても署長が許可できるというものを設けて以降、かなり柔軟な発散抑制措置の仕組みを利用する事業者が増えてきているということで御紹介いたします。
 次の13ページ、14ページになりますが、これは今の仕組みというよりは、今後の新たな仕組みとして検討が進められているものとして御紹介したいと思います。御承知の方もいらっしゃると思いますが、今は労働安全衛生法の中で、作業環境が良いか悪いかということを確認するために作業環境測定というものが行われているわけですけれども、日本での作業環境測定のやり方が、いわゆる定点測定といわれているもので、部屋の中で測定地点を決めて測るというものです。これに対して、ここに書いてある個人サンプラーを活用した方法というのが、労働者個々人の呼吸域にサンプラーを付けて個々人のばく露の濃度を測っていくといった方法もあるということです。今、義務化されている化学物質のリスクアセスメントの中では、この個人サンプラーによる方法も使えることになっております。こういった状況も踏まえて、この個人サンプラーを作業環境測定の中にもっと活用していけないかということで検討会で検討されて、その報告書の概要が、13ページ、14ページの2枚になっております。
 報告書の結論としては、A・B測定と同じように、労働安全衛生法令で作業環境測定を義務付けられた作業場に個人サンプラーによる測定を導入していくことが望ましいという方向性を示していただいております。
 それに基づいて14ページ目になりますが、実際にその導入を進めていきましょうということで、先行導入作業については、例えば溶接のように発散源と作業者が動いてしまうので定点測定がやりにくいというようなものであるとか、作業者の動きによって、かなり濃度が変わってしまうようなものを先行して導入していこうということになっております。今までの作業環境測定から個人に着目した作業におけるばく露の状況を把握するという考え方の変更が、今後の化学物質の管理のやり方にも恐らく影響していくだろうということで、今回の紹介として資料に入れております。
 15ページから17ページは参考として添付したものですが、15ページと16ページは、化審法に基づく化学物質の管理がどのようにされているかということです。労働安全衛生法は労働現場でのばく露防止ということですけれども、化審法はその環境への蓄積性といった環境汚染を防ぐために化学物質管理をやるということで、この絵に示されている新規化学物質を生産・輸入をしたときの届出や事前審査の仕組み、それから右側になりますが、既存の化学物質に対する届出や監視の仕組みなどがあるということです。
 特に右側の既存の化学物質の所を御覧いただくと、製造・輸入の数量や用途など、これら一定の量以上の物質については法令の届出の義務になっているということです。一番初めの頃に御紹介した欧州の「REACH」と同様に、その1t以上のものは製造量や用途などを届け出ることになっておりますが、同様の仕組みは化審法の中でも義務付けになっているということです。
 16ページに、どういったものが届出の対象になっているかというのを簡単にまとめた資料を添付しております。1事業者当たり1t以上の製造量があるものが基本的には届出の対象になっていて、製造の数量や用途などが法令に基づく届出義務になっているということです。
 今後、労働安全衛生法に基づく化学物質管理のあり方を検討していくに当たっては、こういった環境放出をどのように防ぐかという化学物質管理の仕組みとの整合性など、同じ事業者が行う化学物質管理の中で、ちぐはぐな仕組みを作ることはよくないと思いますので、こういった環境対策の制度というものを意識しながら議論していく必要があるのではないかということで添付しております。
 17ページに、PRTR制度の簡単な資料を添付しております。これは環境への化学物質の排出量をどうやって把握するか、それを社会とどのように共有していくかという仕組みです。こちらも対象となる化学物質として、人や生態系への有害性があって、かつ環境中に広く存在するものを対象に、企業に対して取扱量や排出量などの提出を義務付けて、それを国が集計して公表するといった仕組みになっております。こちらも先ほど申し上げたように、PRTR制度や化審法の制度などを意識しながら、労働安全衛生法の制度をどうしていくかという議論をしていく必要があるということで添付しております。
 最後に、資料2-4について簡単に御説明させていただきます。こちらは、今まで御説明したように日本のいろいろな化学物質管理の仕組みがあるわけですけれども、その中で実際に化学物質による災害とか事故が、どういうふうに起こっているかということで統計関係をまとめて付けています。一番初めに付けているのは、毎年、ホームページで公表させていただいている業務上疾病の発生状況です。化学物質による疾病の欄を見ていただくと、平成30年は263となっていますけれども、これは基本的に法令による規制がある物質を中心に集計したデータとなっています。2ページは年ごとの推移を載せているものです。化学物質の中でも危険物、有害物による労働災害の件数がどのぐらい起きているかを示すものです。3ページは、それによる死亡災害がどのぐらい起きているかというグラフになっています。
 4ページにあえて付けていますけれども、実はこれまで使ってきたこれらの統計データは何を集計したものかと申し上げますと、ここにありますように爆発性の物、引火性の物、可燃性のガス、有害物ということです。基本的には、いわゆる特別規則、若しくは安衛則で規制の対象になっているものを集計したものであるということですが、実はこの後に出てくる統計データを見るに当たって、このことは念頭に置いていただければと思います。
 次の5ページを見ていただくと、これは、今、申し上げた法令による規制のあるものに限定しない形で、化学設備、危険物、有害物、金属材料など、恐らく化学物質によるものと思われるものを原因とする災害がどのぐらい起きているかで見ると、年間1,000件を超える形で発生している状況が分かってくるということです。ただ、この大まかなデータだけ見ていても何を検討すべきかが見えてこないということもあり、飛びますが8ページを御覧いただくと、今、御説明した中でも特に「有害物との接触」という事故の型として報告されているもので、かつ、その原因が化学物質であるものを行政のほうで分析して、何が原因になっているのか、どういう災害なのかを集計し直したものが8ページの図になります。ここを見ていただくとお分かりだと思いますが、実は法令で厳しい規制をしている物質、特別規則対象物質と書いていますけれども、これによる災害は全体の大体2割ぐらいとなっています。この特別規則の対象ではないけれども、SDSの交付義務、ということはリスクアセスメントの義務でもあるのですが、この対象になっているのが大体24%で、両方を合わせて法令で規制しているものという意味で言うと全体の45%という割合を占めている。逆に言うと、この法令の規制の対象になっていないもので起きている災害が実は半数以上という事実が見えてくるということです。
 右側の障害内容別の件数を見ていただくと、化学物質による労働災害の多くは、皮膚や眼の直接接触で起きているものが実は非常に多くて、皮膚に対する障害、これは急性中毒しか拾っていないので皮膚吸収での遅発性の疾病までは拾えていないのですが、皮膚障害が6割、眼の障害が3割弱ということですから、経気道の吸収だけを防げばいいということは実は全然なくて、この直接接触をどう防いでいくかを考えていかなければいけない。逆に言うと、こういった接触を防げば防止できた災害が多くあるということだと思いますので、いかにリスクアセスメントなりの重要性が高いかということは、こういった統計から見えてくるかと思いますし、法規制がどうあるべきかということを示唆するひとつの議論の材料にしていただける資料であると思っています。
 次の9ページ、10ページ、これは実際に特別規則の対象になっていない物質によって、どういう災害が起きているかを事例として挙げているものです。実はこういう事例はいろいろ他にもあるかと思いますが、リスクアセスメントをやっていなかったことによって措置を取らずに災害が起きてしまった事例です。2番目にありますのは、リスクアセスメントはやったけれども実は結果に基づく措置が特別規則(ここで言うと有機則)の対象になっていなかったので措置をやらなかったために起きてしまった災害です。
 3番目は、初めにGHSの所で御紹介させていただきましたが、提供されたときは容器にラベルが貼ってあったとしても事業場の中で小分けしたときに、そこに何を入れたか表示しなかったために起きてしまった労働災害です。
 4番目は、業務を請負に出すときに、例えばこれは清掃の業務ですけれども、清掃する場所にどういう危険物があるかをきちんと伝えなかった故に起きてしまった労働災害です。こういった労働災害が起きているということで、今後のあり方をどうしていくかを議論するとき、こちらもひとつの参考にしていただければということで付けています。
 11ページ、12ページになりますが、こちらは、今、実際に作業場の環境がどうなっているかということで、11ページの表を見ていただくと、これは作業環境測定実施の義務付けがある事業場に対する全国統計調査の結果をまとめたものです。上の表は、測定をやっているかどうかということですが、未だに法令に基づく測定をしていない事業場が1割、2割あるという事実はさることながら、下の表を御覧いただくと、実際に測定した結果、管理区分3で非常に環境が悪いという結果が出ている事業場が、実は年々増えている。これは粉じん作業も有機溶剤作業も特定化学物質の作業場も、全て共通して右肩上がりで増えてきている事実があるということです。これが先ほど御紹介した管理濃度の引下げとどういう関係があるかということは、当然、議論していかなければいけないと思いますけれども、実際、ばく露防止措置をきちんとしなければ健康に害が出てしまうような環境下で仕事をせざるを得ない状況になっている所が増えている事実はあるということです。
 12ページにあえて付けているのは、法令上、管理区分3になった事業場は管理2又は管理1になるようにしなければならないという規定があるわけですが、これがなされず、かつ、どんどん増えているというのが、今、現実に起こっていることだということです。
 13ページ、14ページ、こちらも参考として付けています。これは御承知の方も多いかと思いますが、ここ何年かの間に立て続けに起こった、がんの集団発生の事案ということで事例として挙げています。いずれも特別規則の対象になっていなかったというもので、1つ目の胆管がんにつきまして、この原因物質は、1,2-ジクロロプロパンが原因だろうと言われていますけれども、この災害が起こった時点では、国際的には発がん性物質だという認識はなかったということで、国際的ながんの分類をするIARCでも「分類不能」となっていたわけですが、日本の事例もあり、今は分類1の「発がん性あり」となっているわけです。
 その下の膀胱がんの事案ですが、この原因はオルト-トルイジンと言われていますけれども、この物質は皮膚からの吸収で災害が起きたのではないかと言われています。この災害を踏まえて、オルト-トルイジンは特化則に追加されたりということで、この個別事案をどうこうする議論というよりは、今後、化学物質のあり方を検討していく中で、こういった規制から漏れてしまって集団でがんが発生してしまうような事案を、どう防ぐような仕組みを作っていけるか。そういう議論の素材としてお使いいただければと考えています。
 14ページは、オルト-トルイジンの膀胱がんの後に、それ以外の物質も原因ではないかということで、MOCAというものも問題になったわけですけれども、実はMOCAについては昔から特定化学物質障害予防規則で規制対象となっていたわけです。参考資料として付けているA~Gの事業場は、実際にがんを出してしまった事業場ですけれども、作業環境測定の結果で管理3が継続している所が多かったという事実もあり、先ほどのように管理3が増えていっている状況というのは、実はリスクが高い状況なのだということだと思いますので、こういったものをどうしていくかも議論が必要なのではないかと考えています。
 15ページは、今、法令で義務となっているラベル表示、それからSDSの交付がどのぐらいされているかということで、法令の義務対象になっているものでも今は6割、7割にとどまっています。
 16ページは、リスクアセスメントについてですけれども、真ん中の四角の所を見ていただくと、一番右の化学物質(法定物質)という所が、法令の義務となっているリスクアセスメントをやっているかどうか。(52.8)と赤字で書いてある所がその実施率になりますので、大体、今、法定義務でも半数ぐらいしかリスクアセスメントがきちんと行われていないということです。その下のグラフの青色が化学物質の関係ですけれども、どうしてリスクアセスメントをやらないのかという理由としては、人材がいないとか、方法が分からないといったノウハウ面の話とともに、実際に災害が起きていないとか法令のみで十分だといったことで、考え方の理解がまだ進んでいない部分もあるということです。今後、リスクアセスメントが中心になっていくとは思いますけれども、こういったものを、どうやったら実効あるものにしていけるかという議論も必要かなと考えています。
 17ページは、今、特殊健康診断がどのぐらい行われているかということで、対象物質と受診労働者数をまとめたものです。最後の18ページを御覧いただくと、これはきちんと監督署に届出されているものの集計ということですが、大体、200万人ぐらいの労働者の方が特殊健康診断を受けていて、そういう作業に従事しているという状況ですので、こういった方々の化学物質による災害をどう防ぐかということが、1つの重要な指標になっていくのかなと思います。この規制の対象物質以外のことについても、もちろん議論していくということだと考えています。長くなりましたが、説明は以上になります。
○城内座長 ありがとうございました。議論に入る前に、ただいま御説明いただいた資料について御質問等があればお伺いしたいと思います。いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
○名古屋委員 1点、いいですか。
○城内座長 名古屋委員、どうぞ。
○名古屋委員 今の資料2-4の8ページの所に、化学物質による健康障害という統計の数値が出ていますね。多分、78は85でないといけないし、64は71でないと数値が合わないです。計算が違っていると思います。横を足すと78でなくて85にならないといけないし、64は71にしないと380にならない。
○課長補佐 すみません。説明が足りなかったのですが、実は障害の内容が複数あるものがございまして、例えば眼と皮膚の両方障害が出ているものとかあるので、単純集計にはならないということです。
○名古屋委員 そうすると、ダブっているから85あるのが78になったということ。
○課長補佐 そういうことです。
○名古屋委員 分かりました。では大丈夫です。
○城内座長 そのほか、ございますか。よろしいでしょうか。ありがとうございます。それでは議論に移りたいと思います。議論のテーマはかなり化学物質関連の全般にわたっていますが、まずは俯瞰的な観点から、事業場の化学物質関連について事務局から提示いただいた資料を参考にしながら、普段、皆さんがお考えの課題、論点について自由に御意見を頂ければと思います。かなり踏み込んだ解釈で資料を作っていただいたかなと思うのですが、いかがでしょうか。
○中澤委員 質問でもよろしいですか。
○城内座長 中澤委員、どうぞ。
○中澤委員 先ほどの説明の中に化審法との兼ね合いという御説明がございましたけれども、今現在、化審法と安全衛生法の中での規制、ダブルの規制といったようなものの状況というのが、もし分かったら教えていただきたいのですが。
○課長補佐 かなり、どちらの法律も幅広い内容を含んでいますので、それと法律の目的が違うということもありますけれども、今、同じような仕組みが設けられているという意味では、例えば新規化学物質の届出というものは安衛法でも規制対象になっていますし、化審法の対象にもなっていますので、そこが一番、ある意味、被るところかなとは思いますけれども、今後、既存の化学物質の規制をどうしていくかということについても、そこら辺は当然、整合性を見ながらということかなと思っています。
○中澤委員 事業者の感覚からいくと、安全衛生に対応しなければいけないのは当然の話ですけれども、一方で環境面において、その後、事業そのものについて規制が掛かってくるというのは、例えば土壌の関係ですと環境省の関係などでいろいろな議論がされるというお話も聞いていますので、最終的に安全衛生法というのは、いわゆる事業場の中で、どれだけ有害物質を労働者が吸収しないかということがメインなわけですが、一度、例えば外に排出されることによって結果的に大気なり土壌の問題につながってくるわけですから、その辺の整合性を取っていかないと二重の負担になってくるのではないかと思います。
○城内座長 そのほか、御意見、質問等ございますか。漆原委員、お願いします。
○漆原委員 今の中澤委員の発言に近いですが、例えば、経産省や環境省のVOC排出規制制度は、法律的には大防法です。法律にプラスして、各業界団体による自主的な取組で発散を抑制するという形の取組になっています。ただ、そこで対象になっている物質は、多分、安衛法上の規則でも規制の対象になっている物質と、かなり被っている部分がございます。大防法のVOC発散抑制は、局所排気ができずに、発散させないような、環境に出ないような対策が必要です。そうした違いはあるものの、発散しなければ結果的に労働者のばく露はないということになると思います。両者の関係は、先ほどの御発言もそうですけれども省庁間でできるだけ連携して、そこがうまく、こっちの法律を守ると、こっちの法律も守ったことになるという総合的に、より高みを目指せるような取組をできればやっていただきたいというのが1点です。また、法律上の違いはいろいろあるにしても、法律にもとづき、対策を実施する事業場は同じです。
VOC規制の目的は、光化学オキシダントの発生につながる揮発性有機化合物の環境中への発散抑制ですので、目的は違うにしても、結果的に事業場に求めている手段は同じということであれば手段に応じて規制を共通化していくことも必要ではないでしょうか。ただ、VOCの規制は業界団体の自主的な規制ですから、業界団体に属さない企業はその対象にならずに、VOC対策をやっていないところもあるので、省庁がお互いに協力しながら、そういった所への周知広報にも努めていくことで対応していただければと思うところです。
○城内座長 ありがとうございました。そのほか、いかがでしょうか。大前委員、お願いします。
○大前委員 化学物質のリスク評価の所ですが、今、厚労省でもリスク評価書を作っていますし環境省でも作っている。食品安全委員会でも作っていますので、国の中で重複した機関がリスク評価書を作っています。リスク評価書というのは、もともとのデータは同じなわけなので、結局、1個の機関がそれをやって、その結果をどういうふうに使うかというのは、例えば食品関連だったら食品の部分だけ、あるいは経口の部分だけですね。労働の部分だったら経気道がメインですし、あるいは経皮の部分だけというふうに使い方はそれぞれの省庁間でやり方があると思いますけれども、リスク評価書を作ること自体は、まとめてどこか1か所でしっかりやればいいというところがあると思います。そういう意味で重複していることをやっているので、それは是非、将来的には統一するような形の機関みたいなものができるといいなと思っています。そのほかの点でもいいですか。
○城内座長 はい。
○大前委員 そのほかの点で、先ほど第1管理区分だとどうこうという議論がありましたけれども、作業環境測定法で作業環境を測定しなければいけないことが決まっていながら、その報告の義務がないのです。だから、第1管理区分、第2管理区分、第3管理区分がどのように分布しているか等々に関しては誰も分からない。集約している所がないということは非常に問題で、そこのところは是非、報告義務になるような形でやっていただきたいと思います。先ほど第3管理区分が5%うんぬんとありましたけれども、あれは多分、そのときに特別に調べて分かったことであって、それが全体を反映しているということでもないと思うので、そこら辺の集計と言いますか、それは制度を変えると言いますか、そういう形でやっていただきたいと思っています。
 それから、今回、ここの中にはなかったかもしれませんが健康診断の件です。今、特別則では原則として年2回、6か月以内にやらなければいけないとなっていますが、現実としてはやらなくてもいい所もやっている。例えば第1管理区分がずっと続いていて、ほとんどばく露がないにもかかわらず健康診断を、それこそ事業者側のほうから見るとやらされている。労働者側のほうから見ても、これはやる必要があるのかというところがあると思います。したがって、そういう健康診断に関しても何らかの基準を決めて、半年に1回やらなければいけないということでなく、例えば年に1回でいいとか、ある意味、緩める方向のルールというのも、これから考えていかないといけないのではないかと思います。
○城内座長 ありがとうございます。そのほか、どなたでも。永松委員、お願いします。
○永松委員 これは質問にもなるかと思いますが、今、御説明がありました例えば労働災害の状況とか作業環境の状況、それからSDSの交付状況とかありました。化学物質を取り扱う事業者というのは非常に多くありますし、その業界もかなり広いことを考えますとご説明の労働災害、作業環境やSDSの交付のそれぞれの状況について特徴や課題はどのような事業所に多いとか、何か絞り込みをすることがひとつ重要かなと思います。例えば各事業所の規模だとか、あるいは業界の特徴ある所があるのかないのか。そういうところでリスクの高い所から政策を打つことは、ひとつ重要かなと思います。
○城内座長 そのほか、ございませんか。高橋委員、お願いします。
○高橋委員 今まで出てきた意見とは、全く別の視点ということになってしまうと思いますが、私、産業別の労働組合のほうからこちらに来させていただいていますけれども、化学物質を一番取り扱う最前戦にいるのは労働者イコール組合員ということですから、その組合員の安全確保をいかにするかということで、産業別労働組合としては取り組んでいます。当然、労使協調の上で一緒になって安全を確保していくことにしているのですが、残念ながら、加盟組合の中でも過去10年間の中で3件ほど、化学物質が原因と思われる死亡災害も発生していて、これについては、なくしていかなければならないと思っているところです。
 直近ではないのですが、加盟組合に化学物質に関するヒアリングを行ったことがありますので、そちらの意見を御紹介させていただきたいと思います。化学物質の管理が重要だということは認識しているのですが、だんだん管理の範囲が増大してきて、管理のほうもかなり煩雑と言いますか、ボリュームがかなり大きくなってきているといった運用に関する意見とか、局排などの設備を設けて接触を減らしていくということになると、設備に対する投資も必要になってくるという事業運営に関する意見などもございました。中でも一番多かったのは人がいないという意見です。かつて、この化学物質に関して中心的に作業してきたベテランの方が抜けていき、後から入って来る若手がいるかというと、なかなかそれも今現在はままならないという状況の中で、かつてと同じだけの管理をしようと思っても、果たしてそれができるかどうか。それから、入って来る新入社員についても、以前に比べるとレベルが落ちたなということを漏らしている組合の代表者の方もいらっしゃいましたので、そういった人材の育成についてもどうしていくかを、しっかりと考えていかなければいけないのではないかと思っています。
○城内座長 ありがとうございました。そのほか、ございませんか。名古屋先生、測定の、環境のほうから何か。
○名古屋委員 今、人材の育成というお話がありましたが、今労働衛生関連の資格を持っている人たちをどのようにうまく活用して、インダストリアル・ハイジニストという形に近づけていけるか。そういうシステムを作ることが大切だと思います。今、アメリカの様に、大学からインダストリアル・ハイジニストという資格を持つ人を養成できるかといったら、現状では資格を与えるのに必要な教員数や授業数等を確保することが困難なため、なかなかそういうカリキュラムにはなっていないと思います。また、学生が就職で作業環境や労働衛生等の分野を希望して企業を受けたときに、企業は面接してくれますが、多分、その時点で不合格になるのではないかと思います。それは、企業が常に作業環境や労働衛生の分野の学生を必要としているかと言ったらそうではなくて、必要に応じて企業内の人で対応するのが現実だと思うので、学生がそうした分野に行きたいと思ったときに、受入れ側の企業のほうで、そうした分野の学生を常に受け入れてくれる様なそうした状況にはなっていないのではないかと思います。そうすると教育する場としては、教育・研究と併せて学生の就職を考えたとき、企業にとって大切な分野であっても、企業の受け入れが難しいことやカリキュラムが組めない現状を考慮すると、インダストリアル・ハイジニストの様な高度な専門性を持った学生を育成することは現状では難しいのかなと思う部分があります。また、就職環境を見ていると、例えば自分たちの学科を志望してくれる学生向けのパンフレットの中に、作業環境管理や労働衛生工学等の分野を志望するとこういう企業等に就職できますよと明確にパンフレットには、なかなか書きづらいところがあると思います。その辺のところもきちっとした送り出す側と受け入れる側とが連携できるシステムを作っていただけると、そういう所を志望する学生が育ってくるのかなと思います。現状を考えると、企業内で資格を持っている人たちをなるべくうまく使っていただいて、例えば衛生管理士の資格を持っている人をただ衛生管理士という形で置いておくのではなくて、なるべくうまく資格者を使い、化学物質を熟知して現場に反映できる専門家に育てる仕組みを作っていただくというシステムができると有り難いと思っています。
○城内座長 ありがとうございます。そのほか、何かございますか。大前委員、お願いします。
○大前委員 今の人材の件ですが、化学物質管理の規制の比較というところで、先ほど日本、アメリカ、EUの比較をされましたけれども、日本は個別規制ですし、アメリカやEUは許容濃度未満の管理ということで、そこは個別規制になっていないと。恐らくこういうふうになっている理由は、日本は管理濃度でずっとやってきたので、結局は許容濃度以下のもの、あるいは管理濃度がないものに関しては、ある意味、放置状態になってしまっているということだと思います。今のインダストリアル・ハイジニストのようなルールができ、そういう方々が各企業で責任を持って、例えば許容濃度を管理する仕事をメインでやるようなスタイルにならないと、いつまで経っても今と同じ状態が継続するのだろうと思います。もしそういうふうになれば、情報がない物質の発がんを予測するのは無理ですけれども、情報のある発がん物質あるいは生殖毒性のある物質に関しては、企業内で責任を持ってそういう方々がしっかり管理するスタイルになると、相当、発生は防げるのではないか。この場合、企業と言いましても、大企業を想定しているので中小零細はきついかなと思いますが、そういうことも将来的に入れていかないといけないのではないかと思います。
○城内座長 そのほか、ございませんか。三柴委員、お願いします。
○三柴委員 平成28年に行った社会調査で、勤務先に化学物質を取り扱う作業があると答えた所に対し、どこにリスクに関する相談をするか聞いたところ、社内の専門家、産業医が3割、社内の専門家の労働衛生コンサルタント(衛コン)が15.5%、同じく社内の専門家で衛生管理者や衛生推進者が34.5%、あと社内の専門部署で専門資格を持つ方で構成されているとは限らない所が26.5%だったのに対し、社外の専門家、専門機関を頼るという回答は実は少なくて、災防団体については10%、産保センターは4.5%でした。行政機関という回答も16%あったのですが、社内ほど多くない。この対比をどう見るかという評価が難しいなと思っていて、先ほど大前先生は社内の専門家を育てるべきとおっしゃった。確かに横断的な専門知識を持ちながら、その事業場について詳しい、個別性も分かるという人がいれば理想的ですが、実際問題として、そこを育てていくことができるのか。また、それが望ましいとしたときにどうするか。インダストリアルハイジニストなりを養成するという方向が最も近道なのかについては考えていく必要があると思っています。
○城内座長 ありがとうございました。そのほか、何かございますか。宮腰委員、何かございますか。
○宮腰委員 申し訳ありません。私はちょっと勉強不足の部分があるので、これからもうちょっと勉強していかなければいけないと思っていますが、特に最近、会社の働く人たちからの意見で出てくるのが、ナノ物質の取扱いで非常に心配だと言われている部分がございます。吸収管を付けても、それが吸収されるかどうかがなかなか見えてこない部分がありまして、これからの課題なのかもしれませんが、世界レベルの部分も含めて、いろいろと研究機関のほうでしっかりとしていただきたいということがございますので、意見として言わせていただきたいと思います。
○城内座長 ありがとうございます。そのほか、ございますか。明石委員、何かございますか。
○明石委員 厚労省がやられているリスクアセスメントとか、ラベルとかSDSの検討会などに行くと、最近、川上の化学物質を製造している所だけでなく、川下のそれを使っていらっしゃる所の企業も来ていることが多く、最近では川下の方が半分以上ということもお聞きしています。そういう意味で川上から川下まで、できるだけ分かりやすく簡潔なルール付けを、できればやっていただいたほうが事業所にはすごく分かりやすいですし、人手不足はどこでも人手不足なので、そういうふうなことで進めていただければと思っています。
○城内座長 ありがとうございます。そのほか、1つ1つの課題で深くでもいいですし、包括的なことでもいいと思いますが、何かございますか。永松委員、お願いします。
○永松委員 GHSの推進、SDSやラベルによる有害性の伝達についてですが、日化協としても、これをしっかりやっていこうということで取り組んでいて、川上の事業所の皆さんはSDSの交付やラベルを付けることに努めていますが、御存じのように化学物質というのは、最初の化学製品が2次、3次、4次と加工されて最終的な製品になっていく場合が多くあります。したがって、どうしても川上の事業者の取り組みや努力では行き渡らないところがありますので、そこについても是非、例えば国の支援か何か仕組みを考えていく必要があろうかなと思っています。
○城内座長 ありがとうございます。そのほかにありますか。
○三柴委員 先ほどの発言の続き、兼、事務局へのお尋ねです。安全の専門家については、これまで現場の生産工程等に詳しい方のほうがなじむということで、特段資格化をしないできた。しかし、衛生系はそれなりの専門知識が必要なので、衛コンなり衛生管理者なりを資格化していったという経緯を伺っています。では、化学物質対策については、その事業場で使用している化学物質に詳しいだけでは、やはり不足だというようにお考えでしょうか。
○課長補佐 化学物質の有害性や危険性をどういうように捉え、それに対して現場でどういうように対策を取るかというのは、多分、事業場固有のものもあるかもしれないのですけれども、恐らく共通のものが多いのではないかと、我々としては考えているところです。
○三柴委員 そうしたらもう1点。既存の資格との関係で、インダストリアル・ハイジニストなりを重ねる意義について教えていただけますか。
○課長補佐 御説明の中で若干触れさせていただきましたように、例えばアメリカやヨーロッパなどのインダストリアル・ハイジニストというのは、要件としては非常に厳しく、広範な分野について、かなり専門性の高い知識なり実践力を要求されるというところでは、別に今の安衛法の水準が低いということではないのですけれども、今あるものでそれができるかどうかというのは、議論のあるところかと思います。
○化学物質対策課長 今の件ですが、化学物質の管理を扱う担当として、衛生管理者又は衛生工学衛生管理者もいらっしゃると思います。最近よく耳にするのは、衛生分野が非常に広範であり産業保健関係も含めて担当しなくてはいけないという中で、衛生工学衛生管理者又は衛生管理者で、化学物質に特化した専門的な知見を持った方がなかなか入っていない、そういった方を確保していないというところも、今の状況としてあるのではないかと考えております。
○三柴委員 以前、厚労科研で調査をさせていただいたときに、韓国や中国などでは、こういう化学物質管理に専門性のある方というのは、大学で専門教育を受けてきて、そのキャリアを全うしていけて、結構な収入であるという情報が出てきて、なるほどなと思って、日本もそれに近づいていったらいいなと思ったのです。インダストリアル・ハイジニストの制度化が、その方向に一歩でも近づけばいいなと思っております。
○改善室長 お伺いしたいことがあります。インダストリアル・ハイジニストというのは、アメリカが主にやっています。そこで彼らが腕を発揮できる理由として、細かいことが規制で余り決まっておらず、事業場の裁量が大きいということがあります。あと、例えばACGIHにしても別に義務ではないですし、OSHAの規定とはまた違う規制ですので、そういった自主性と言いましょうか、ある意味、逆に個別企業の責任が重い制度なのです。ですから、そういうものを日本に導入するのがなじむのかどうかというところを、企業の方にお伺いしたいのです。何かありますか。
○永松委員 1つは、やはり企業の規模によるということが、必ずあろうかと思います。例えば労働安全衛生あるいは化学工場の保安防災も含めて、規模が大きくなれば、それを専門とする人材もおりますし、その人材を育成していくことも社内でやっております。ただ、やはり規模が小さくなってくると、なかなか厳しいかと思います。中小の事業所で、よくある事例ですけれども、労働安全衛生とか保安防災に加え、環境保全、品質管理というのが、大体1か所の部署でやっているケースがあります。これは、化学品管理に詳しい人材が限られるということになるわけです。先ほどの議論にもありましたように、そういう事業所の実態の中で、こういう化学品管理の人材の育成や活用を多面的に考えていくことが必要と感じております。
○城内座長 今の点に関して、いかがでしょうか。御意見はありますか。では、私からも1つ質問というか、意見を言いたいと思います。資料2-2で化学物質管理規制の比較ということで日本、アメリカ、EUという表が作られています。こういうように一覧にすると、非常に危険な有害性の高いものについての管理の方法は、日本と欧米とで、そんなに違わないというのが私の印象です。ただ1点違うのは、危険有害性の情報の伝達というところで、全く状況が違います。先ほど御説明いただいたように、日本では労働安全衛生法と規則が改正されて、一応ラベルもSDSも義務と努力義務とに分かれて走っているわけですけれども、GHSがアメリカやEUではそのまま導入されました。つまり危険・有害なものについては、全部一応義務になっているということです。特にEUでは、ここに書いてあるCLP規則というのは流通の法律なので、消費者製品であろうが、工業製品であろうが、市場に出すときはその法律が義務として掛かりますから、そこが全く違うのではないかと思っています。
 つまり、そのことは自主的な管理にもつながるし、法律をどう運用していくかというところにも、一番関わってくることではないかと私自身は思っているのです。それが全ての物質に義務が掛かっているという化学物質管理の最初のところだと思うのです。しかし日本はそうなっておらず、厳しい規則がある物質にはうんと掛かるけれども、全く何の法律も掛かってないというところが、欧米とのすごく大きな違いです。そこが管理の出発点だと思うので、そこをどうやって埋めてくださるかというのが、私としては非常に興味があるというか、大切なところだと思っているのです。それは今、御回答いただけることだとは思わないのですけれども、御考慮いただければと思っています。
 ただ、1点注意しなければいけないのは、欧米では情報伝達の義務は掛かっていますけれども、情報伝達の義務が掛かってないからといって、すぐに罰則は適用されないのです。それはどういうことか。情報伝達がなされていなくて事故が起きたといったときにどうするかというと、事故に対する全体の災害の費用に対し、情報伝達がどれだけ寄与していたかということで評価するそうです。なので情報伝達が義務にはなっているけれども、即、罰則があるということではないのです。そういうことも考えながらも、どこかの段階では化学物質全てに義務が掛かっているということが大事かと思っていますので、御考慮いただければと思っています。そのほかに何か御意見等はありますか。
○大前委員 発がん性のある物質を扱っている場合は、30年間の記録保存というのが義務として掛かっていると思うのです。もちろん、それは重要なことですが、30年が終わったらどうなるのか、30年間保存しておいて、それをちゃんと追いかけているのかという追跡までは求められていないのです。本当に当該物質が原因となった可能性がある発がんの実態を調べるとしたら、30年では短いというのもあるでしょうし、追いかけるのだったら、もうちょっとしっかり追いかけられるような仕組みができないかと思います。それができてくると、本当に職業発がんの実態というのが、よりクリアに分かってくると思うので、そのようなシステムができればいいのではないかと私は思います。
○城内座長 そのほかにありませんか。
○漆原委員 今の保存期間もそうですし、この検討会の対象外かもしれませんが、特殊検診をした場合に手帳が交付されて、離職したとしても労働者のばく露した履歴が分かるという形になっていると思います。しかし、最近話題のデータヘルスとかPHRに、果たしてそのデータが載ってくるかどうかがよく分からないのです。生涯を通じて本人の健康状況を把握できるという中で、特別検診を受けた方は多分、ハイリスクとされるグループに入る方も多いと思います。そういった方のデータも、ちゃんとPHRなどに保存できるようにすべきだと思っております。
○中澤委員 川上から川下というお話がありましたが、中小企業というのは圧倒的に川下のほうで使わせていただいている例が多いと思います。メーカー側のほうでは、例えばこの化学物質を含む溶剤は、こういう場面で使われているというような把握はされているものなのでしょうか。
○永松委員 個別の企業の状況については日化協として有害性の高いものなど一部を除き把握していませんが、そういうこともあり得るということは我々も聞いております。十分な把握をすることは難しいと考えます。その理由として、非常に多くのお客様がいるということもありますが、またお客様の中でどういう処方で製品を作っているのかはお客様の技術情報ですので、お客様がそれを開示するのも難しいと言われております。例えば、溶剤であればお客様のほうでもその情報がさらに川下のお客様へ行くのでしょうけれども、そのほかの化学品になりますと、加工を経ますのでなかなか難しいという点があります。日化協は、いろいろな研修やシステムを持っており、化学品を扱う事業者の皆さんが混合物のリスクなども評価できることに努めておりますけれども、各企業がお客様で加工された製品の情報を得るのは、なかなか難しい状況かと思っております。
○中澤委員 恐らく、知らないうちに使っているというケースがあるのではないかと思います。それをいわゆる企業側の責任だと言い切れるかどうかという課題も、物質によっては出てくるのではないかと思います。その辺の伝達の方法としてどのような方策が考えられるかということも検討すべきかと思います。
 もう1つは、本当に素人の考え方ですけれども、作業場で有害物質を使用する場合、その安全衛生のための方策はマスクをするか、ゴーグルをするか、あるいは窓を開けて局排をするかしかないのですけれども、それ以外の方法的なもの、抜本的に物質横断的に検討した経緯はこれまでにあるのでしょうか。
○改善室長 一義的に一番効果があると言われているのが密閉です。密閉してしまえば、外には出ないということです。あと、もう1段本質的な安全ということになると、そもそも原材料に有害性の少ないものを使うということになるわけです。しかし化学物質の組成を変えるというのは、製品の組成を変えることになるので、そこはかなり個別具体的な業務になってしまうと難しいのです。工学的対策としては、まずは密閉というのが一番先にきて、密閉できないものは局排という順番になってきます。
○大前委員 今の川上川下の話は、SDSに関わるのです。ある物質に問題があってSDSを取り寄せたら、許容濃度等の所に「情報がない」とあったのです。実際にはその情報があるのですけれども、SDSの中に情報がないという根拠の文献が書いてあります。それは産業衛生学会の許容濃度の勧告の10年ぐらい前のものです。そういうことがありました。SDSの情報は、最新情報でなくてはいけないのは当然です。そこに最新情報を書きなさいという一文があるかどうか、私は知らないのですけれども、是非、最新情報でなくてはいけないという一文をSDSのルールの中に入れていただきたいと思います。
○城内座長 では、私からあと1点。せっかく化審法やPRTR法の話が出たので、今後の展開についてお伺いしたいのです。御存じのように労働安全衛生法は、環境有害性は除いています。しかし労働安全衛生法と規則で、全ての危険・有害なものについては義務か努力義務かは別として、情報伝達することになったのです。ところが今のままだと、環境有害性だけ抜けていいことになるのです。つまり、PRTR法でカバーしている500物質については環境有害性を書かなければならないのですが、それ以外は書けということをどの法律も担保していないので、実は法令上、書かなくてもいいというままで、抜けています。せっかく化審法やPRTR法とジョイントするのであれば、そういう情報もちゃんと埋められるような手段を講じてほしいと思っています。そうすると、初めて日本の法律が世界標準になるのですけれども、今のままだとちょっと欠けているものですから、よろしくお願いしたいと思います。そのほかに御意見等はありませんか。
○永松委員 従業員の方へのばく露防止対策として、最後の手段は保護具などになろうかと思うのですけれども、今、私どもの業界で一つ大きな問題となっているのが手袋です。手袋は御存じのように、材質も様々です。それは逆に言いますと、いろいろな化学物質に対してどの材質が適当かということが判断しづらく、また万能なものはありません。ものによっては当然浸透もしてきます。暴露を防止するためには浸透しているかどうかは分からないけれども、速やかに新しいものに交換し使っていかなくてはいけないということもあります。しかし、実際の事業所では対応できない現状があると聞いています。今回の議論の中にあるかないかは分かりませんが、業界団体としても、その辺の知見の共有に努めておりますので、国としても是非いろいろと施策を御検討いただければ有り難いと思っております。
○名古屋委員 お願いというのは、前からお願いしていることです。今は最後の砦として呼吸保護具がありますよね。呼吸用保護具がその性能通りの能力を発揮するためには、主に作業者の呼吸用保護具の顔面への密着度の確認であるフィットチェックと使用方法の十分な教育が必要です。諸外国ではフィットテストを義務付け、記録、管理することによる高いレベルで作業者の安全性を確保しているのに、日本では以前に比べてフィットチェックは実施しているけれども、フィットテストは義務付けられてないのです。諸外国の規格では、呼吸保護計画、呼吸用保護具の選定、指定防護係数、最高使用濃度、フィットテスト、呼吸用保護具の保守などについて具体的に記述されています。事業主に対して作業者の呼吸用保護具が作業現場にちゃんと合っているかどうかを確認し、最後まできちんとするという義務が掛かっているのです。しかし日本の場合、最近はフィットチェックを実施しているけれどもフィットテストは義務付けていないので、やはりここをきちんとしないと最後の砦が守れないのではないかと思います。是非、法制化してほしいということをお願いしたのですが、なかなか進んでこないので、この場でお願いしておきます。
○改善室長 1点目の手袋については、今年度から厚生労働科学研究費を使って、どれぐらい長い間耐えられるかを調べる方法のプロトコルを開発しようということが始まっております。事業場で何らかの形で調べられるような方法を開発したいと考えております。マスクについては、マスクテストとおっしゃいましたが、フィットチェッカーではなくて多分、定量的なフィットテストみたいなことをおっしゃっているのではないかと思います。違いますか。
○名古屋委員 要するに、現状のマスクのフィットチェックではなくて、諸外国が事業主に義務付けているフィットテストで、自分の作業者に対して適切なものをどう選択したか、それがちゃんと有効かどうかを確認するといったシステムを日本にも導入して欲しいとの希望です。マスクのフィットチェックではなく、フィットテストの義務化という形です。
○改善室長 マスクの選択基準ということですか。
○名古屋委員 それもあるし、諸外国では、選んであげたマスクが、ちゃんと有効に使われているかどうかという確認まで全部入っているシステムが構築されているはずなのです。
○改善室長 フィットテストのプログラムというのがありますけれども。
○名古屋委員 それもあるのですが、それが事業主にちゃんと義務化されていて、きちんと実施することに義務が掛かっているということです。
○改善室長 分かりました。マスクについては、いろいろと議論の変遷がありました。昔はフィットチェックをして、静的な状態で中にどれぐらいの漏れ率があるかというのを測ろうという時代があって、今でもそういうことをやっている所が多いのですけれども、実際に体を動かしてしまうと、マスクと面体の間から漏れがあるのです。フィットテストでちゃんとできていても、実際に体を動かしたら漏れてしまうということが、だんだん分かってきました。むしろ最近は指定保護係数という基準を使っております。アメリカのOSHAやイギリスでは、すごくたくさんのマスクをテストして、それを統計的に分析し、最低限これぐらいは大丈夫だろうというものを示すようになってきております。日本も今はそういった検討をJISのほうで行っておりますので、諸外国の動向を踏まえながら選択の基準を検討しているところです。
○三柴委員 これは文系の制度論者としての意見です。恐らくこの検討会の議論は、均衡と集中という方向に持っていくことが大事かと思います。均衡というのは、イギリスだと「プロポーショネート」と言います。要するに、現実に実行できる方法かどうかということです。これはビジネスへの考慮というのもあるし、実際に労働者が現場でそれを実施できるかということもあります。その意味で、プロボーショネートかどうかということが1つです。技術的に幾ら完璧な方法でも、その点が欠けていると現場には浸透しないからです。
 もう1つの集中というのは、選択と集中ということです。要するにリスクベースということと大体同じ意味で、その効率を考えるということです。のべつ幕なしにあれもこれもと言ってもできないので、規制にしても過不足をきちんと修正していくことが多分、重要なのだろうと思います。これが制度論者として、議論に当たって申し上げたいことです。
 それから、先ほど環境改善室長から、韓国や中国で衛生管理の専門家、特に化学物質管理の専門家がなぜ尊重されているかという趣旨のお尋ねを頂いたと思うのです。最初、私は災害が多いからではないかという、やや刺激的な質問を研究会でしたところ、実はそうでもないと。では、規制との関係はどうかということですが、私の認識の限りだと、確かに欧米諸国ほど充実した規制、精密な規制が発達しているということではないけれども、日本を含めて他国に倣って、それなりの規制の整備が進んできているということは伺えました。ただ、実際の法規制というのは運用が重要です。規制は立派でも守られているかという問題があります。そういう意味では、人治主義的な文化もあって、人の専門性に頼るという格好になっている可能性はあると思います。いずれにせよ、日本でリスクベースに持っていくとすると、最終的には量的な判断より人による質的な判断が求められるようになるはずだから、人材育成をもう一度大事にしないといけないと思っております。
○高橋委員 今の御意見は、私も率直にそのとおりだと思います。最初にお話したように、加盟組合の中で死亡災害が起こったうちの幾つかについては、保護具が決まっていたのに、それを付けなかったために起こったものです。化学物質は危険だということが分かっていても、やはり現場でそれを繁雑だと思われてしまうと、どうしても近道行為になってしまって、それが災害に結び付く。このプロセスは、昔から全く変わってないと思うのです。法律の中で規制しなければいけないというのは、当然重要なことだと思うのですが、最終的に職場へ落とし込んだときに、それが労働者、実際に作業者が守られるような制度に落ち着くのかどうかというところまで見ていかないと実効性は担保できないと思うのです。
 先ほどの資料紹介の中で、リスクアセスメントできるところが半分ぐらいというお話がありましたが、これも正にそのとおりだと思うのです。法律の中でやらないといけないことは分かっているけれども、特に中小の企業においては人がいない、あるいは専門的な知識がないのでできないというのが実態ではないかと。しないのではなく、できないというのが実態だと思いますので、その辺の実効性が担保できるような制度を、この会で御検討いただければと思います。
○城内座長 非常に重要な御発言だと思います。
○改善室長 今のお話に非常に絡むのですけれども、インダストリアル・ハイジニストなどが活躍できるような形にしようと思うと、規制が非常に緩和されてリスクベースでやるというのは、裏を返すと非常に複雑な仕組みで分かりにくいのです。専門知識のある人がいないと分からないという規制になってしまう。あと、城内先生もおっしゃいましたけれども、例えば事故が起きたときの責任問題についても、かなり難しい議論が発生して、相当な専門家がお金を掛けて、自らの無罪を立証しなければいけないということになって、分かりにくいか分かり易いかというと、非常に分かりにくい規制になると思うのです。先ほど明石委員も、複雑になって難しくなるとおっしゃいましたし、高橋委員からも、中小企業にできるのかという御指摘があったということで、そこには裏腹があると思います。そういったところも是非、今日でなくてもヒアリングなどでお聞かせいただきたいと思っております。
○城内座長 そろそろ時間になりましたが。今日是非、御発言したいということがあれば大丈夫ですけれども、よろしいでしょうか。いろいろな御意見をありがとうございました。では、本日の議論はここまでとさせていただきたいと思います。事務局は次回までに本日、各委員からあった御意見を整理していただければと思います。続いて議事2、今後の進め方についてです。事務局から御説明をお願いいたします。
○課長補佐 次回以降の進め方です。本日もいろいろな御意見があったように、少し時間を取りながら、ゆっくり議論を進めていきたいと思っております。事務局からの提案ですが、議論の幅もかなり広く、かつ、仕組みをどうするかという議論でもありますので、専門家や企業の方など、いろいろな方を一度この検討会にお呼びして、ヒアリングをやってはどうかと考えております。次回とか次々回とか、2回ぐらいヒアリングをさせていただいて、そのヒアリングを踏まえながら、また委員の皆様方に議論を深めていただくと。それを踏まえて論点を明確にしながら検討を進めていくといった形で進めてはどうかという御提案です。全体のスケジュールとして今のところ考えているのは、来年の夏ぐらいまでにまとめられればという感じで考えております。
○城内座長 事務局から御提案のあった進め方について、何か御意見はありませんか。よろしいでしょうか。ありがとうございます。ヒアリングはどのような方をお呼びするかについては、事務局から御提案はありますか。
○課長補佐 この場で決めるというより、いろいろな方面に詳しい専門家や企業の方などを考えております。座長ともいろいろ御相談をして決めさせていただければと思いますが、いかがでしょうか。
○城内座長 皆さんから御異存がないようでしたら、そのように進めさせていただきたいと思います。ありがとうございます。あと、事務局から連絡事項はありますか。
○課長補佐 本日、いろいろと貴重な御意見を頂きましてありがとうございました。本日の議事録については、各委員に御確認いただいた上で公開したいと考えております。次回は今のところ、10月18日を予定しておりますけれども、改めて正式に御連絡させていただければと考えております。
○城内座長 以上で、第1回職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会を閉会いたします。どうもありがとうございました。