第9回 解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会(議事録)

日時

令和元年12月16日(月)14:00~16:00

場所

中央労働委員会 612会議室(6階)
(東京都港区芝公園1-5-32)

出席者(五十音順)

(かき)(うち)(しゅう)(すけ)     東京大学大学院法学政治学研究科教授
 
(かん)()()()()  立教大学法学部准教授

()西(にし)(やす)(ゆき)()    明治大学法学部教授
 
(なか)(くぼ)(ひろ)()    一橋大学大学院法学研究科教授

(やま)(かわ)(りゅう)(いち)      東京大学大学院法学政治学研究科教授

議題

解雇無効時の金銭救済制度の検討に関する議論の整理

議事

  

○山川座長 まだ若干定刻前ですけれども、委員の先生方、おそろいですので、ただいまから第9回「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」を開催いたします。
委員の皆様方におかれましては、本日も御多忙のところをお集まりいただきまして、大変ありがとうございます。
本日は、鹿野奈穂子委員が御欠席です。
それから、法務省から、オブザーバーとして民事局の秋田純局付に御参加いただいております。よろしくお願いいたします。
それでは、事務局から、お配りしました資料の確認をお願いします。
○坂本労働関係法課課長補佐 それでは、お配りしました資料の確認をお願いいたします。
ちょっと資料が多くなっておりますけれども、全て横置きの資料でありまして、まず、資料1が複数枚のもので、「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会におけるこれまでの主な議論(12月16日版)」というものでございます。
それから、資料1の別紙が2種類ございまして、別紙1が「権利の法的性質のイメージ」という資料でございます。それから、別紙2が1枚の紙でありまして、「労働契約解消金の性質について」。
それから、資料2が同じく1枚のものでありますけれども、「労働契約解消金の定義及び考慮要素の考え方について」というものでございます。
最後に、資料3が3枚紙になりますけれども、「不法行為の損害賠償請求に係る裁判例」ということでお配りしております。
その他、座席表等ありますので、不足がありましたら事務局までお申しつけいただければと思います。
○山川座長 ありがとうございました。
それでは、本日の議題に入ります。本日の議題は「解雇無効時の金銭救済制度の検討に関する議論の整理」ということであります。
本日の進め方ですが、事務局から提出資料を説明していただきまして、その後、資料を踏まえて議論するという流れにさせていただきたいと考えております。
それでは、事務局から資料の説明をお願いします。
○坂本労働関係法課課長補佐 それでは、資料1から順次説明したいと思います。若干順番が前後しますけれども、まず最初に資料1の別紙1をごらんいただければと思います。
前回の検討会におきまして、権利の法的性質の大きなイメージとしまして、形成権構成と形成判決構成というものについて御議論いただいたところでございます。詳しくは割愛しますけれども、別紙1の1ページ目が形成権構成のイメージということになっておりまして、ごく簡潔に申し上げますと、無効な解雇がなされたときに、形成権である金銭救済請求権が発生して、意思表示として訴えの提起等をしますと、このタイミングで形成権としての権利変動が生じる。権利変動の中身につきましては、解消金債権の発生が①でありまして、②が額が判明した解消金支払の条件付きの契約終了という効果が発生する構成でございます。判決確定等で解消金の金額が判明しますと、解消金の支払日が到来して、解消金の支払によって労働契約が終了するという構成が形成権構成でございます。
それから、1枚おめくりいただきまして、2ページ目が形成判決構成でございます。こちらは、先ほどの形成権構成との大きな違いは、権利変動の時期ということになっております。まず、無効な解雇等がなされることによって形成原因が発生しまして、その後、意思表示として訴えの提起等がなされる。先ほどの形成権構成は、このタイミングで債権等が発生しておりましたけれども、形成判決構成につきましては、判決の確定によって権利変動としての債権の発生ですとか、解消金を支払うという条件がついた労働契約の終了という効果がもたらされるという構成でございます。
以上を前提にしまして、恐縮ですが、資料1にお戻りいただければと思います。
資料1につきましては、先ほど説明申し上げました形成権構成と形成判決構成を表の形にしまして、これまで御議論いただいた各論点について、この両構成においてどういった違いが出るのか。また、それに付随する論点につきまして御議論いただくための資料という位置づけでございます。
上から順番に説明しますと、まず「権利の法的性質等」ということで、1つ目が対象となる解雇等でございます。こちらにつきましては、これまでの議論を踏まえまして、全ての解雇・雇止め。両構成において、違いはないのではないかという記載をしております。
それから、権利の発生要件・形成原因につきましても同様でありまして、解雇がなされていることと、その解雇が無効であることが、形成権構成であれば権利の発生要件でありますし、形成判決構成であれば形成原因ということで解しております。
その下の権利行使の方法ですが、こちらも両構成で違いはないのかなと考えておりまして、これまでの議論を踏まえますと、制度の創設時におきましては、訴えの提起又は労働審判の申立てに限ることが考えられるのではないかという記載をしております。
※のところでありますけれども、裁判外での権利行使の可否につきましては、制度創設後の状況等を踏まえる必要がありますけれども、仮に形成判決構成を採用した場合につきましては、こちらは判決によって債権が発生するという構成ですので、将来的に裁判外で権利行使を可能とする見直しをする場合には、権利の法的性質自体も見直しが必要になるのではないかと考えております。
それから、真ん中の債権発生の時点でございますが、こちらは先ほど御説明申し上げましたとおり、形成権構成であれば、訴えの提起等のタイミングで債権が発生する。ただ、その金額につきましては、これは観念上は判明しているわけでありますけれども、当事者にとって明らかになるのは、判決又は審判の確定のタイミングということでございます。
その結果、下の矢印のところでございますが、判決又は審判確定日に解消金の支払日が到来する。ただ、債権自体は意思表示のタイミングで発生しておりますので、判決が確定する前であっても、解消金としての訴訟内外での和解は可能ということで記載しております。
右側の形成判決構成は若干の違いがございまして、こちらは判決確定等で債権が発生する。一方で、支払日につきましては、形成権構成と同様で判決の確定日等に支払日が到来するという構成でございます。ただ、判決が確定するまでの間につきましては、まだ債権としては発生しておりませんので、判決確定前に解消金として和解を行うことは難しいのではないかと記載しております。ただ、その場合であったとしても、現行と同様に、解決金として合意解約するということが妨げられることはないという記載をしております。
それから、意思表示の撤回、こちらは論点をつけていますけれども、これまでの御議論におきましては、判決又は審判の確定時まで可能とするということで記載しております。その上で、実体法上に根拠規定を設けるべきではないかという御議論がありました。
論点の1つ目ですけれども、これまでは形成権構成を念頭に置いて、この意思表示の撤回の時期等を記載しておりましたけれども、形成判決構成の場合も、同様に実体法上の根拠規定が必要か否か。仮に実体法上の根拠規定を置かないということになれば、これは民事訴訟法の261条に訴えの取下げという規定がありますので、そちらを使うことになるのではないかと思っております。
ただ、その場合におきましては、相手方が訴訟における準備書面を用意した後等につきましては、相手方の同意がないと訴えの取下げができないという規律になっておりますので、その関係で新たな根拠規定が必要かどうかというところを1つ目の論点にしております。
続いて、権利放棄のところでございますが、こちらは使用者による解雇の意思表示の前と後で考え方を分けて記載しております。
解雇の意思表示前につきましては、例えば労働契約等であらかじめ形成権を行使することや、形成訴訟の提起をすることを放棄させることにつきましては、公序良俗に反して無効となるのではないかという考え方を記載しております。
それから、解雇の意思表示がなされた後でありますが、こちらにつきましては、例えば合意解約等で一定の和解金で契約を解消することになった場合に、それ以後の形成権の行使とか形成訴訟の提起については、放棄することは認められるのではないかという記載をしております。
続いて、相殺・差押禁止ですが、法技術的に見ますと、この相殺や差押の禁止につきまして措置することは可能であると考えられますけれども、実際、その措置をするかどうか、また措置したとして、どのような範囲までそうした規定を及ぼすかというところにつきましては、政策的な判断が必要だという記載をしております。
※のなお書きにつきましては、先ほど申し上げましたとおり、両構成で債権発生時点が異なりますので、差押えが可能となる時期については、違いが出てくるのではないかという記載をしております。
続いて、1ページの一番下の権利行使期間につきましては、これまでの議論を踏まえますと、解雇があったときという客観的起算点から、少なくとも2年程度の期間が権利行使の期間としては必要ではないかとして、具体的な期間については政策的な判断が必要という記載をしております。
続いて、2ページにいきまして、上は権利の消滅要件等ということでございます。
左側が形成権構成でありますけれども、形成権構成の場合は、権利行使後に辞職以外の事由、これは具体的には死亡とか使用者による二次的解雇というものを例に挙げていますが、そういったもので労働契約が終了した場合につきましては、権利は消滅するという考え方を記載しております。
それから、右側の形成判決構成につきましては、形成訴訟の基準時ということで、口頭弁論終結時までの間に、辞職以外の事由によって契約が終了した場合につきましては、労働契約解消金の支払は認められないという記載をしております。
ここで論点2がありまして、こちらにつきましては、恐縮ですけれども、資料3をごらんいただければと思います。資料3につきましては、前回、鹿野委員から御指摘がありまして、不法行為の損害賠償請求に係る裁判例との関係をどのように考えるかということで問題提起をいただいております。資料3に記載しております判例は、過去の最高裁判例で、不法行為の損害賠償請求に係るものを幾つかリストアップしております。
1つ目の判例の概要のところをごらんいただければと思いますけれども、このケースは、交通事故の被害者が、その事故に起因して後遺障害で労働能力の一部を喪失した場合における逸失利益の算定のケースでありますが、当該交通事故の後に別の原因によって被害者が死亡した場合に、逸失利益の算定をどのようにするかという問題でございます。
ここにつきましては、以後の記載のとおり、事故の時点で死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、当該死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきではないということで、お亡くなりになっていたとしても、逸失利益の算定に当たって、そうしたものは考慮すべきではないという記載をしております。
時間の関係で、残り、割愛しますけれども、同様の裁判例を2ページ、3ページに記載しております。
資料1にお戻りいただきまして、それとの関係で見ますと、解消金につきましては、権利行使後に死亡した場合には、権利が消滅するという構成をとってはどうかということで記載しているわけでありますけれども、不法行為の場合は、事故後に別の原因でお亡くなりになったとしても、そこは考慮しないということで、いわば逆の考え方をしていますので、その説明をどのようにすべきかというところが論点2でございます。
続いて、「2.労働契約解消金の性質等」ということで、まず定義を記載しております。①、②、前回まで御議論いただいた2つの案を記載しております。
①につきましては、無効な解雇として確認された労働者としての地位を、労働者の選択により解消することの対価という記載で、こちらは論点3を設定しておりまして、通常の辞職との違いをどのように考えるか。ここは、労働者の選択によって契約を終了しているという点は、恐らく共通かと思いますけれども、それ以外の違いの部分をどのように考えるかというところを論点にしております。
それから、真ん中の解消金の構成及び支払の効果でございますけれども、こちらも前回まで御議論いただきましたとおり、法技術的な観点から見ると、労働契約解消金の支払だけで契約が終了するというシンプルな構成のものから、バックペイの履行確保を図るという観点で、労働契約解消金だけではなくて、バックペイも。こちらにつきましては、前回の議論にありましたとおり、解消金と併合提起したバックペイに限るということでありますが、解消金とバックペイ、両方払ったときに契約が終了するという構成が考えられるのではないかという記載をしております。
※を2つ打っておりまして、まず、前提としましては、解消金債権とバックペイ、不法行為の損害賠償債権は別の債権だという位置づけで記載しております。
それから、契約の終了効が次の※でありますけれども、形成権構成の場合には、実体法上に労働契約の新たな終了事由を規定して、その規定を使うことによって、解消金ないし解消金とバックペイが払われたときに契約が終了するという構成でございます。
それから、形成判決構成の場合には、同様に実体法上の規定を設けるというやり方もありますし、または、前回御意見ありましたけれども、法律関係を明確化するために、判決の主文に条件付きの終了効を記載するという構成も考えられるところかなと思っております。
論点4が、バックペイの関係の論点でございます。仮に解消金の構成の部分のところで、解消金だけではなくて、バックペイも含めた支払によって労働契約が終了するという構成をとった場合の論点でありますけれども、通常のバックペイの請求だけしたときには、それが支払われても契約は終了しないわけでありますけれども、手続的に解消金と併合した場合に限って労働契約の終了という効果をもたらすことについて、どのような説明が必要なのかというところを記載しております。
「また」以下は、やや細かい点になりますけれども、解消金訴訟に先行してバックペイの訴訟があって、確定判決まで出ている。その後に解消金請求をしたようなケースを念頭に置いておりますけれども、既に先行する訴訟であるバックペイにつきましては、確定判決が出ていますので、仮に再訴したとしても、訴えの利益等の関係から再訴ができなくなる可能性が高いのではないか。そのように解しますと、結果的に確定判決が出ている部分につきましては、解消金と併合提起できないことになりますので、その結果、その部分のバックペイについては、契約の終了に必要な金銭には含まれてこないという問題が生じますけれども、そのことをどう考えるかというのが論点4の後段でございます。
解消金の考慮要素、算定方法につきましては、後ほど資料2で少し詳しく御説明させていただければと思いますので、続いて論点5について説明させていただきます。論点5につきましては、形成権構成を念頭に置いた論点でありまして、形成権構成の場合は、意思表示として訴えの提起等のタイミングで既に債権が発生しておりますので、判決確定前であっても解消金としての和解ができるということは、先ほど申し上げたとおりでありますけれども、その際に、解消金の算定方法を仮に定めるのであれば、それと違うやり方で解消金の額を算出するということも想定されるわけであります。
こちらにつきましては、念のため確認でありますけれども、解雇の意思表示後の労働者の権利放棄というものが認められると先ほど記載しておりますので、それとの関係からも、算定方法と異なる額で解消金として和解するということも可能であると解してよろしいかというのが論点5でございます。
続いて、3ページにいきまして、解消金の上限・下限の考え方でございます。こちらは、どのような形で考慮要素を含むかといったところにも大分影響してくるかと思いますけれども、労働者の保護や予見可能性を図る観点からは、上下限を設けたほうが適切ではないか。仮に算定式を設定するのであれば、例えば算定式の係数にそれぞれ上下限を入れることによって、解消金全体としての上下限というのも設定できるのではないかというのが1つ目のポツでございます。
2つ目のポツにつきましては、仮に解雇に係る労働者側の事情、前回の資料では労働者の帰責性と記載しておりましたけれども、あくまでこれは解雇が無効である場合なので、表現ぶりを少し修正しております。労働者側の事情に応じた減額を設けるのであれば、その減額についての限度幅、これまでの議論ですと、例えば最大で50%まで減額が可能といったものを設ける必要があるのではないかという記載をしております。
その下の労使合意による別段の定めにつきましては、そもそもこういったものを設けるかどうかというのは、政策的判断によりますけれども、仮に認める場合には、法令等に定める労働契約解消金の水準を上回る労使合意のみを認めて、その判別が容易なものとする必要があるのではないかという記載をしております。
最後、3ポツの部分が「地位確認請求、バックペイ、不法行為の損害賠償請求等との関係」でございます。
1つ目の■が地位確認請求との関係でありまして、地位確認と解消金の請求につきましては、訴訟物がそもそも異なりますので、併合提起は可能である。むしろ、紛争の一回的解決の観点からは併合提起を促していく必要があるのではないかというのが1つ目であります。
2つ目につきましては、解雇された当初は職場復帰を希望して地位確認請求を提起したという場合に、例えば裁判の途中で解消金請求を追加するとか、または訴えの変更をするということも請求の基礎に変更がないと考えられますので、一般的には可能ではないかという記載をしております。
その下2つはバックペイの関係でありまして、まず、バックペイの発生期間につきましては、実体法上は労働契約解消金の支払によって契約が終了するという効果に鑑みますと、バックペイの発生範囲につきましては、解雇から解消金の支払時までというのが原則的な考え方ではないかと考えております。括弧書きで記載しておりますけれども、ただし、例えば裁判の途中で再就職している場合につきましては、個別の事案に応じて就労の意思があるのかどうかというところが判断されることになると考えております。
その下の1回の訴訟で認められるバックペイの範囲でありますけれども、こちらにつきましては、現行の地位確認訴訟とバックペイを併合提起した場合には、解雇から判決確定時までのバックペイの請求が認められておりますので、そうした運用を変更する特段の必要性はないのではないかという記載をしております。
その下の不法行為の損害賠償請求との関係でございます。こちらにつきましては、これまでの議論を踏まえますと、仮に解消金の請求と不法行為の損害賠償請求を同時に併合提起するとした場合に、両方の金額が認められることはないというのが、おおむね議論の趨勢だったかなと考えておりますけれども、今回、論点にその説明をどのようにやっていくべきかというところを記載しております。
地の部分につきましては、前回の議論を踏まえまして、事務局のほうで便宜上記載させていただいておりますけれども、損害賠償請求における損害のうち、財産的損害につきましては、解消金とバックペイと一緒に請求したときについては、解消金とバックペイでほぼ回復しているのではないか。精神的な損害につきましても、財産的損害が補てんされることによって、原則的には慰謝されているのではないか。もしそれで足りないような特段の事情があるのであれば、そうした場合に限って別途の損害賠償請求が認められるという考え方になるのではないかという記載をしております。
さらに、そこの理論的な説明ぶりが論点6でありますけれども、このように解するとしても、両者の関係のところをどのように説明していくか。ここの部分につきましては、論点6に記載しておりますとおり、解消金の性質とか損害賠償請求における損害の種類、いろいろ中身が分かれていますので、そういったものも踏まえて両者の関係性、重なる部分があるのか、ないのかといったところも考えないといけない。
下に(1)から(3)まで記載しておりますけれども、両方が請求されたケースを場合分けしまして、このような場合に取り扱いをどのように考えるかという論点です。
(1)は、解消金の確定判決が出て、その後に損害賠償請求が提起されたケース。ここは、比較的判断が容易なのではないかと思っております。
2つ目が、解消金請求と損害賠償請求が併合提起されているか、同じ時期に同じ裁判所で係争中であるようなケース。ここも、判決がもし同時に出せるということであれば、両者の調整というか、考え方の整理はできるのかなと思っております。
それから、やや悩ましいのは(3)でありまして、先に損害賠償請求の確定判決が出た後に解消金の請求が提起されたようなケースを置いています。
こうした個別ケースも踏まえて、どのような考え方をとっていくのかというのが論点6でございます。
資料1の最後、4ページでありまして、退職手当との関係でございます。こちらも前回御議論いただきましたけれども、退職金の性質自体はさまざまなものがありますので、一意に定まるものではないのかなと考えております。そうしますと、解消金の性質にも影響しますけれども、解消金との調整というのは実務的にも難しいところがもしかしたらあるのかもしれない。そうした点も踏まえまして、少し政策的なところからも、解消金とこの退職手当の調整の必要性があるのかどうかというところも検討すべきではないかというのが、資料1の最後でございます。
長くなって恐縮ですが、最後、資料2という1枚紙だけ数分で御説明させていただきたいと思います。資料2は、解消金の定義と考慮要素の考え方でございます。中身は後ほど説明しますけれども、前回までの御議論ですと、先に解消金の定義というものを割としっかり考えた上で、そこから導き出される考慮要素とか他の請求権との関係というものを御議論いただいておりましたけれども、今回、少し発想を転換しまして、先に解消金として、どういったものを補償していくべきなのかとか、考慮要素として、どういうものが望ましいのかというものを少し純粋に御議論いただきながら、そこからまた定義に戻っていく。場合によっては、もし必要があれば定義を修正した上で、再度この中身の部分について御議論いただくこととしてはどうかと考えております。
上の四角に基本的な考え方を記載しておりますが、まず大前提としましては、解消金の算定の仕方につきましては、これは法技術的には、あらかじめ算定方法を設けずに、個別の事案ごとに算定するというやり方から、客観的かつ定量的な考慮要素のみで簡易に計算していくという仕方まで、さまざまな方法が考えられるわけですけれども、最終的にはどういったやり方がいいのかというのは、政策的な判断も必要というのが1つ目でございます。
一方で、労働者が実際にこの制度を利用することになった場合に、解消金制度を使った場合にどういうメリットがあるのかというものを十分に理解、ないし考慮した上で、制度を使うか、使わないかを判断できるようにしておくことが、本制度が本来の意味で機能していくためには必要なのではないかと考えております。
こうした観点から、基本的には、解消金の金額等については、予見可能性を高めるような仕組みが望ましいのではないかというのが上の四角でございます。
論点を下に3つほど記載しております。
まず、1つ目は、解消金で補償すべき内容の考え方ということで、時間軸で分けておりますけれども、解雇前の就労実績の評価に係る対価というのが①。これは、これまで過去分ということで御議論いただいた内容かと思います。それから、基本的にはバックペイになるかと思いますが、解雇から解消金の支払時、これは契約が終了するタイミングでありますけれども、ここまでの間の賃金等の金銭的補償の部分。それから、③が逸失利益的ではありますけれども、将来的に得べかりし賃金等の金銭的補償。このいずれを含むのが適切なのかどうかというのが、この論点でございます。
特に、③の将来分につきましては、将来の範囲を、例えば再就職までの合理的期間とするのか、またはその企業で就労が見込まれた期間とするのかというところも、御議論いただければと思っております。
真ん中のところが考慮要素のあり方でありますけれども、考慮要素自体は客観的なものと一定の評価を要するものという2種類が考えられるところでありますけれども、そうしたもので、上の論点で御議論いただいたものについて、どのように表現していくのか。また、客観的な考慮要素と一定の評価を要する考慮要素の組み合わせについても、どのように考えるかということを論点にしております。
この組み合わせにつきましては、下に2つポツを記載しておりまして、これは一つのやり方ですけれども、例えば客観的な考慮要素のみで算定式を構成して基準額みたいなものを出した上で、それに一定の考慮要素を組み合わせていく。これは、理論上は増額ないし減額する方法、両方あり得るだろうと思っております。
それから、2つ目がイギリスの制度を参照として載せておりますけれども、基礎的な部分については、客観的な考慮要素のみで算出しまして、それに加わる上乗せのような部分については、上限だけを定めておく。そしてその上限の範囲内でいろいろな考慮要素を判断して算定していくような方法。こういった方法も諸外国の例としては参考になるのではないかという記載をしております。
最後、3つ目が、具体的な考慮要素の中身をどうするかということで、これはこれまで御議論いただいた中身を例示として挙げておりますけれども、客観的な考慮要素としては、勤続年数、給与額、年齢、企業規模というものを例示しております。一定の評価が必要な考慮要素としましては、解雇の不当性とか解雇に係る労働者側の事情というものを入れております。
最後、※のところは諸外国の例でありまして、これは制度として入れているものというよりも、実際、裁判で判断するときの考慮要素の一つというものも含まれておりますけれども、例えば再就職に要する期間ですとか、配偶者とか扶養親族の有無といったものを考慮に入れているという例もありますので、日本の場合においても、そうした要素につきまして、どのように考えるのかというのを論点にしております。
説明、長くなりましたけれども、以上でございます。
○山川座長 ありがとうございました。
それでは、議論に入っていきたいと思います。中心となりますのは、資料1でありますけれども、特に事務局のほうで御論議いただきたい点として、論点1から6までが記載されています。また、そのほかにももしありましたら、御提起いただいて結構かと思いますが、それでは、とりあえずこの順序に従って御議論していただいてはどうかと思います。
資料1の1枚目の論点1、意思表示の撤回の根拠規定ということがこのページでは載っております。この論点1、あるいはほかの点でも、1ページ目について、何か御質問、コメント等がありましたら、お願いいたします。
垣内委員、お願いします。
○垣内委員 論点1については、先ほど事務局から御説明いただいたとおりの問題状況かなと考えておりまして、形成判決構成の場合には、基本的には通常の形成訴訟であれば、その撤回に相当するものについては、訴えの取下げという形で実現されるのかなと思いますが、それですと、一定の段階以降については、相手方当事者の同意が必要である。
これは、相手方当事者の本案判決において、当該紛争解決することに係る利益の一定の範囲を補償しようということかと思いますけれども、何も特則的な規律がないといたしますと、その規律がそのまま適用になるということですので、訴えが提起されまして、本案についてやりとりがなされているという状況では、もはや労働者側の一存では取下げができないことになるのかなと思います。
その場合には、したがって、そのまま請求が維持されれば、請求の理由があるかどうかを裁判所として判断し、一定の解消金の支払とか、形成判決構成ですので、それが支払われた場合の労働契約終了を主文で宣言することになるか、あるいは折り合わなければ棄却するということになるかといった処理が想定されます。
しかし、それですと、解雇は無効だと考えているのだけれども、金銭的解決ではなくて、どうしても地位はあるという前提で、復職の方向で争っていきたいという考えに至った労働者については、訴えを取り下げることができないので、そのまま本案判決になれば、一定の解決金の支払と引きかえに労働契約が終了してしまうという結果を甘受しなければならなくなるという問題があって、これが深刻な問題であると考えるのであれば、その点について何か特則を設ける必要というのは政策的にはあるということになるのかなと思いますが、それは実体法に規定を設けるのか、それとも訴えの取下げの同意を不要とするような形で、訴訟法上の特則を設けるのか。
論理的には幾つかの方法があり得るだろうと思いますけれども、訴えの取下げで同意が不要というような、本案判決が問題になる場合に例があるかというと、私の知る限りでは余り例がないような制度かなと思いますので、そういうあたりで少しハードルが高いところが出てくるのかなと思います。実体法上、何らか根拠規定を設けるということが、形成判決構成をとった場合にどういう形で可能になるのかというのは、これまた余り類例のない規律ではないかと思われますので、すぐにはいいアイデアがないのかなと感じているところです。
他方で、最低限、解消金の支払によって労働契約終了という効果が生じないとするための手だてとしては、労働者としては請求を放棄するということはできるのかなと考えておりまして、その場合は認容判決という形で、そのような効果が示される、制限されることはないということにはなりますので、一定の対応にはなり得るかもしれないと思います。ただ、請求を放棄してしまいますと、後で金銭救済でやろうと思ったような場合については、一般的な理解によれば、それは再訴が難しいのかなというようにも思われますので、そのあたりをどのように考えるのかという問題がなお残るのかなと思います。
あと、このページの記載との関係で、これは念のためというか、内容的にどうこうということではないのですけれども、論点1がついている項目の前の項目の、債権発生の時点等というところの形成権構成の説明ですけれども、形成権構成ですと、意思表示があった。この場合、意思表示の方法は訴えの提起等に限っているということなので、それによって解消金債権が発生する。
ただ、金額が裁判上確定するのは、判決とか審判の確定によるのである。そこから支払日の到来が判決又は審判確定日とあるのですけれども、実体法上、観念的に発生している請求権の金額が、裁判上確定するのは裁判の確定によるのだというのは、いかなる金銭請求権でもそうですので、この場合に特に判決等の確定日に支払日が到来すると考えるのは、この制度の特殊性として、2段階の法的効果の発生が意図されていて、解消金請求権の発生と、それからそれの支払に伴う労働契約の終了ということがあり。
労働契約終了の効果の発生をどの段階から認めていいかというと、これは金額が裁判上あるいは合意によって確定した以後でなければ認めるべきでないだろうという議論が従前あり、そのこととの関係で、支払日についてもそれ以後と考えることが整合的ではないかという議論であったかなと思いますので、この資料の性質等にもよるので、簡単な資料はこれでいいのかもしれませんけれども、詳細な詳細を作成になる場合については、そのあたりを少しわかるように記載していただくとベターなのかなという感想を持ちました。
以上です。
○山川座長 ありがとうございました。以上の点は、今後、もし詳細に書くときに御考慮いただければと思います。
今、垣内委員のおっしゃってくださった点、それ以外でも何か御質問、御意見等ありますでしょうか。よろしいですか。また戻ってきてということもあり得るかと思います
では、2ページ目に論点がたくさんあります。最初のところでは、権利消滅要件に関して、辞職以外の事由で労働契約が終了したことが消滅要件となるということに関連して、損害賠償請求に係る資料3の裁判例との関係をどう考えるかという論点が提示されています。ほかにも、3から5までありますけれども、とりあえず論点2に関しては、あるいはここの項目のところで何か御質問等ございますでしょうか。
垣内委員、お願いします。
○垣内委員 論点2についてですけれども、この点は、本来、鹿野先生に御解説いただけるのかなと期待していたところがあるのですが。基本的には、先ほど申し上げたところとも関係するかもしれませんけれども、不法行為の裁判例は、確かに幾つか重要な最高裁の判例があって、もしここで議論している制度が損害賠償請求権に関するものであると考えるとすると、これらとの関係というのは正面から問題になってくるところがあるのかなという感じがいたしますけれども、必ずしもそういう制度として考えられているわけではないということが1つありますのと。
それから、先ほど申し上げた点と重なりますけれども、この制度の場合は、まず解消金の請求権が金銭請求権として発生し、その後にそれが支払われることによって労働契約の終了という効果が最終的に生ずるということで、その間の状況というのが中間的な段階が一定期間想定されているというものであるのが、非常に特別な特殊な点かなと思います。不法行為の場合には、あくまでも不法行為が発生した時点で、損害賠償請求権というのは観念的に一律に発生しているということがベースにあるということですので、この平成8年の最判のようなことは、より一層言いやすいと申しますか、そう考えるべき必然性があるということかなと思われますけれどもね。
解雇によって生じた紛争の判決の対価、あるいは失われる労働者としての地位の対価等と考える、いずれの考え方に立つとしましても、最終的には労働契約が終了するというのが支払の時点でということになりますので、それまでの間に生じた事情をどのようにこの制度との関係で考慮するのかというのは、不法行為損害賠償の不法行為後の事情をどう考慮するのかという問題とは、異なる問題だというところがあるのかなと思います。
なので、基本的には、この制度の内在的な政策的な考慮等に基づいて、合理的な制度設計をするということで、この制度の場合についてはよいのかなと感じておりますけれども、一部、不法行為に基づく、後でも出てきますけれども、損害賠償請求権との調整の問題等が発生する場面があるとしますと、その限度では少し説明を考える必要というのは、多少出てくるのかなという気はしております。
さしあたりは以上です。
○山川座長 ありがとうございました。
論点2に関して、ほかはいかがでしょうか。
どうぞ、中窪委員。
○中窪委員 今、垣内委員がおっしゃったことは、本当にもっともでありまして、不法行為とはちょっと違う、こういう新しい制度をつくるときですから、これはこれでいいのではないかと私も思いました。
それから、前回より前に議論したのかもしれませんが、辞職の場合はどういう整理になって、その場合の権利は消滅しないという反対解釈になるのでしょうか。その点を確認させていただければと思います。
○坂本労働関係法課課長補佐 その点につきましては、今、先生から御指摘ありましたとおり、辞職の場合は、形成権構成であれば権利は消滅しないということになりますので、解雇が無効だということが認められれば、解消金の支払がなされるということでありますし、形成判決構成の場合も同様でありまして、辞職があったとしても、解消金の支払自体は、もちろんほかの要件を満たせば認められることになるということでございます。○中窪委員 理由がもしあれば。
○坂本労働関係法課課長補佐 これまでの議論を踏まえますと、この制度ができることによって、再就職について何かネガティブな影響が出ないようにしようというのがこれまでの議論でありまして、例えば、辞職した場合について、解消金の支払は一切認められないという制度にしますと、無効な解雇がなされた後に次の就職先に移っていくというところが難しくなる点も、もしかしたらあるのかなという御議論がありましたので、そういった意味で、辞職だけは、死亡とか二次的解雇とは考え方を少し分けるような形で取り扱いをしてはどうかという記載をしております。
○中窪委員 ありがとうございました。
○山川座長 ありがとうございました。以上の点は、多分論点3ともかかわって、通常の辞職との違いをどう考えるかという問題がありますので、そこが改めて議論になり得るのかなとも思います。
ほかはいかがでしょうか。論点2については、よろしいでしょうか。
私の個人的な関心では、地位確認訴訟を前提にする場合が多いと思いますが、地位確認訴訟については、平成元年の最高裁判決で、原告労働者が死亡した場合には終了宣言をするということになっていますので、むしろ不法行為責任との違いという点が一層出てくるというお話ですけれども、その辺との関係も整理しておく必要があるのかなと思います。
論点2はよろしいでしょうか。
では、既に若干関係のあるお話も出ていましたけれども、論点3あるいは論点4とも関係するのかもしれませんが、とりあえず論点3に関してはいかがでしょうか。
小西委員。
○小西委員 論点3自体ではないのですけれども、この箱の中で1つだけお伺いしたいのですけれども、①、②がありまして、②無効な解雇により生じた労働者の地位をめぐる紛争について、労働契約の終了によって解消させる対価と書かれているところですが、解消させる対象というのは、紛争の解消という理解でよろしいでしょうか。
○坂本労働関係法課課長補佐 そのような理解でおります。
○山川座長 ありがとうございます。
多分、日本語としては「紛争の解消」は余り使われないかもしれませんので、「解決」だと内容が違ってしまうのかどうかわかりませんけれども、もし改めて文書化する場合は、表現等も考える必要があるかもしれないですね。
○中窪委員 多分、最初はずっと①のほうで労働契約を解消することの対価を考えていたのですが、いろいろなバックペイの関係とか損害賠償を議論するうちに、むしろ②のような形で紛争解決のための対価と整理したほうが落ち着きがいいのではないかという議論が出てきたと思います。その際、解消金という言葉が先に決まっていたものですから「解消」を使ったのだろうと思うのですけれども、もしそこがどうしてもおさまりが悪いようであれば、名称自体も解消金ではない形にしたほうがいいのかもしれないと、ちょっと思いました。
○山川座長 どうもありがとうございます。
どうぞ、垣内委員。
○垣内委員 ②の考え方は、私自身が提案した部分もあるのかなと思っておりまして、経緯は今、中窪先生がおっしゃったようなことかなと思います。ですので、言葉遣いは若干工夫する必要があるのかもしれませんけれども、解消金の支払によって労働契約を終了させることにより解決する対価みたいなことになるのかもしれませんけれども、ちょっとよくわかりません。
論点3に関して申しますと、これは手前みその話になるかもしれませんけれども、①の説明だけですと、労働者としての地位を、選択により解消するというのは、辞職そのものではないかという疑問は当然あり得るところかな。ただ、この場合に、解消金の支払を伴って初めて契約が終了するという特別な効果がどこから出てくるのかというと、無効な解雇の意思表示によって一定の紛争が発生しているという、その経緯があるので、辞職だとしても、それは条件付きの特別な辞職が認められるのだということになるのかなと思いますので、
そう考えますと、①と②というのは実質的には接近してくるというか、同じことをどういう言葉で表現しているのかの違いに帰着するのかなという印象を持っています。
○山川座長 ありがとうございます。
今、両委員からのお話にも出てきているかと思いますが、要するに、①でも紛争の解決のための仕組みであるというのを何とかあらわすような表現があれば、両者の表現の違いが相対化してくる。①が全くの実定法上の雇用の終了だけですと、論点3のような問題が出てきますけれども、この研究会自体が、もともと紛争解決の仕組みとしてどういうものを考えるかということで出ておりますので、その表現ぶりの問題になるのかなという感じもいたします。ただ、後の論点との関係もありまして、ここをどう表現するかによって、ほかのところをどう考えるかというところが結果的に影響が出てくることもあろうかと思いますので、この点はさらに検討していただきたいと思います。
ほかは、論点3、あるいはその付近につきまして御質問、御意見等ありますでしょうか。
これは、論点3の①か②かについては、形成権構成にするか、形成判決構成にするかとは直接はつながらないという理解でよろしいでしょうか。
○坂本労働関係法課課長補佐 事務局としましては、そこはつながらないのではないかと考えておりますけれども、もし違いが出るようなことがあるようでしたら御指摘いただければと思います。
○山川座長 私も特に結論をもって聞いたわけではなくて、特に①が表現ぶりについていろいろあるとしたら、いよいよ論理的に必ずこうなるということではないかなと思ってお聞きした次第ですが、ほかの先生方、特になければよろしいでしょうか。
それでは、論点4あるいは解消金の構成、支払の効果について、この辺になるとかなり複雑といいますか、細かなお話が出てきますが、いかがでしょうか。
どうぞ、垣内委員。
○垣内委員 これは大変ややこしく、難しい問題でありまして、毎回悩ましく感じるのですけれども、2点のことを申し上げたいと思います。
1点目ですけれども、論点4の枠囲みの中の説明にもありますけれども、既に先行したバックペイの確定判決がある場合について、再訴ができない可能性が高いので併合提起ができないという話なのですが、これは可能性は確かにあるのかなと思いますけれども、もし併合提起することによって労働契約終了の要件が変わってくる、支払なければならない解消金額が変わってくるということなのだといたしますと、普通に確定判決があって再訴ができないというのは、これは訴えの利益がないからできないと考えられるところですが、この場合については、何らかの利益が残っているという解釈をする可能性はあるように思われます。
なので、それが再度の給付の訴えなのか、それとも最低限、確認の訴えを認めればいいのかというのは両論あり得るところかと思いますが、再訴が認められるという訴えの利益の解釈問題ですので、条文等で何か決め打ちするということでない限りは、解釈に委ねられることになる問題なのかなと思います。ですので、併合提起ができないことになるのかどうかというのは、一応オープンと申しますか、ここは両論あり得るところだということを前提にする必要があるのかなと思います。
2点目ですけれども、さはさりながら、どう考えるかといったときに、形成権構成をとるのか、形成判決構成をとるのかによって、若干状況が違うところがあるのかなと思います。形成権構成の場合には、幾ら支払ったときに労働契約が終了するのかということが判決主文では明示されないことになりますので、併合提起をさせるなどして、判決で給付命令がされる、幾ら払えという主文がなされる。その金額が支払われたら労働契約が終了するのだということがわかるような形になっていることが望ましいだろう。そういう意味では、併合提起したものに限って考慮するという規律を設けるべき必要性が高いのではないかと思います。
それに対して、形成判決構成をとった場合に、かつ、きょうの別紙1の2枚目にありますように、権利変動のうち、労働契約の終了部分についても主文で明らかにする。その際には、幾ら支払われたときに労働契約が終了するという形で、金額も主文で示されるということだといたしますと、要はその主文を導き出す過程において、幾ら払えばいいのかということを判断することになりますので、それが併合提起されたものであるか否かにかかわらず、基準時までに別途確定しているものがあって、それを解消金に組み込むべきだという判断ができるような場合であれば、それを組み込んだ金額を主文で示すということは、技術的には可能というか、あり得るのかなという感じもいたします。
そうしますと、こういう案が従前出てきた時期もあったかと思いますけれども、併合提起した場合に限らず、基準日までに別途合意または判決または労働審判等で確定しているものを含むという規律にするということも、形成判決構成の場合にはあり得るという考え方もあり得るのかなと思いまして、そのあたりがどちらの構成をとるのかによって状況が少し変わってくるところがあるのかなという気がしております。
以上です。
○山川座長 ありがとうございました。
今の点は、併合提起をしなくても、何らかの債務名義で金額が確定すればといった案もありうるように思いますけれども、それはともかくとしても、形成判決の中で、仮に併合提起しなくても、審理して別訴があるとして、その中で金額を確定するような形で主文に明示するというイメージでよろしいでしょうか。
○垣内委員 基本的にそのようなことかと思います。ここにあるような、既に先行するバックペイの確定判決があるという場合については、その金額を加算して主文に盛り込むということはあり得るのかなということです。
○山川座長 ありがとうございました。
確かに債務名義だけで全て含むといいますと、そもそもバックペイとなる部分の金額がどのぐらいかという点が、債務名義だけだとはっきりしない場合があるということが議論になりそうです。それで別途審理するという形でしたら、そこも特定されるということでしょうかね。
いかがでしょうか。そもそも、この論点自体が解消金の支払だけで労働契約が終了するという構成と、バックペイを支払ったときに終了するという2つの構成が考えられるという前提の上での話であるということになっているということは、前提として留意しておく必要があろうかと思います。
論点4と、それに関連するこちらの3番目の項目につきまして、何かほかに御質問、御意見等ありますでしょうか。
なければ、論点5につきまして、あるいはその前提となります資料2につきまして御質問、御意見等があればお願いいたします。論点5は、「特段問題ないと解してよいか」という点、いかがでしょうか。
垣内委員。
○垣内委員 論点5については、特段問題ないと解してよいのではないかと思います。前提として、資料2で考慮要素の整理を今回していただいているということで、整理の内容については、私自身は特に異論等はございません。幾つかの考え方があって、どれをとっていくのがいいのかということを引き続き議論していくということなのかなと思っております。
検討すべき論点というところで、まず最初の矢印の補償すべき内容の考え方として、①から③まで挙がっていまして、これはこれ自体、いずれもあり得る考慮要素かなと思われますし、一番下の矢印のところで出ている勤続年数とか給与額等と対応する部分もあるのかなと思いますけれども、恐らく②はどうするのかということが独自の論点とされているところで、①を重視するのか、それとも③を重視するのかというあたりで、これまでこの研究会でも議論があったところかなと思いますので、複数のどちらに重点を置くのかで両方を含めて考えるのかといった選択肢があり得るということを、引き続き整理して考え方としてお示ししていくことになるのかなという気がしております。
以上です。
○山川座長 ありがとうございます。
特に、例えば②などは、バックペイとの関係が問題になるという感じがいたします。海外との比較を考える場合も、例えば海外でこのような算定の要素が用いられている場合に、その国ではバックペイという発想があるかどうかとか、解雇無効の理論を採用し、しかも民法536条2項のような規定を適用することでバックペイの支払が義務づけられるという発想をとっている国か、とっていない国かによって、また違いが出てくる可能性があるかと思います。
それとの関係では、最初の矢印と一番下の矢印が、①、②、③をどういうふうに組み込んでいくかどうかという問題と、その中で要素がどう位置づけられるか、この2つが関連しているような感じがいたしますので、もしさらに詳しく検討するのでしたら、両者の関連性も検討していく必要があるかもしれません。あるいは、非訟事件的に、真ん中にあるさまざまな要素を考慮するようなことが、日本の制度の仕組みとして考えられるのか、あるいは実用にたえられるかというあたりも出てくるかもしれないですね。
どうぞ、中窪委員。
○中窪委員 今もちょっとありましたけれども、資料2の真ん中下の最初の①から③の中の②が、解消金の額を考えるときにこれが入るというのは、やや違和感があります。バックペイとの関係が、さっきの別紙2で4つのパターンがあるわけですけれども、いずれも解消金としてはバックペイとは別になっているものですから、何で賃金がまた出てくるのか。例えば、無効な解雇を受けたことに対する精神的なダメージというならわかるのですけれども、ここに賃金と入っている意味がよくわからなかったものですから、御説明いただければと思います。
○坂本労働関係法課課長補佐 この部分につきましては、今、先生がおっしゃいましたとおり、解雇から解消金の支払時までの賃金を念頭に置いた金銭的補償ということであれば、まさしくバックペイということになろうかと思いますので、解消金のほうでこれをストレートに賃金の金銭的補償をしますということになってしまうと、確かにバックペイとの重複をちょっと考えないといけないということかと思います。
理論上、考えられるものということで、ここは記載しているのですけれども、実際上、もしかすると②につきましては、併合提起しているということであれば、ほとんどこの部分についてはバックペイのほうでカバーされているということで、解消金のほうで勘案する必要はもしかするとないのではないか。そういう考え方もできるのではないかということで、理論上のものとして記載しているということでございます。
○山川座長 よろしいですか。
○中窪委員 はい。
○山川座長 ほかに何かございますか。論点6とかかわっているような気がしますが、損害賠償請求との関係で、精神的損害は別ですけれども、③については、現在の裁判例ですと、不法行為に基づく損害賠償請求で、将来の逸失利益として賃金相当額を請求しているような事例もありますので、そちらとの関係も、6でまた出てくるかもしれませんが、問題になり得るかなという気もいたします。
ただ、③については、将来の範囲を再就職までの合理的期間とするか、当該企業で就労が見込まれた期間とするかという問題提起がありますので、こちらともまた関連してくるのですが、事務局としては、この2つはどういう性格づけによるという考えでの論点になっているのでしょうか。③について、将来の範囲を再就職までの合理的期間とするか、当該企業で就労が見込まれる期間とするかという点です。
○坂本労働関係法課課長補佐 今、御指摘いただきました部分につきましては、③ということで、将来的に得べかりし賃金等の金銭的補償ということで、逸失利益のようなものを考える際に、そこの射程をどこまでとするかという論点であります。今、2つ挙げておりますけれども、必ずしもこれに限られるわけでは当然ないかと思いますので、一つの考え方として、諸外国でとっているような再就職までの期間というものを一つの例示としているのと。
あと、これもそういう制度でいいのかどうかという御議論あろうかと思いますけれども、例えば無期雇用の方とかで、残存の雇用期間というものが比較的カウントしやすいという場合であれば、その企業で就労が見込まれた期間というのも、算定上は考慮できるのではないかということで、例示として記載しているものでございます。
○山川座長 どうもありがとうございました。
いかがでしょうか。今のところ、資料2の矢印の一番上について種々御意見をいただいていますが、2番目、3番目等も含めて何かございますか。
中窪委員。
○中窪委員 例えば、一番下に書いてあります配偶者や扶養親族の有無。入れるという制度があるにしても、入れたほうがいいのかどうかは随分議論が分かれると思います。それを我々として、こうすべきですと書くべきなのか、それともこういう例もありますよという形で報告書の中に書いて、あとは労政審の本体のほうで選択していただくのか。さっきのパターン1から4にしてもそうなのですが、報告書のイメージがそろそろわかないと、議論しにくいような感じがするのですけれども、どうでしょうか。
○坂本労働関係法課課長補佐 報告書のイメージにつきましては、引き続き、先生方とも御相談させていただければと思います。
資料2につきましては、冒頭、基本的な考え方の一番上に記載しておりますとおり、法技術的にはかなり幅広い選択肢というか、算定の方法がある中で、最終的にどうするかという、考慮要素も含めて決めるのは、審議会のほうで政策的な議論が必要であると思っております。
あと、きょうはどちらかというと内容の部分から逆算して定義を議論するような形にしてしまっているので、恐縮でございますけれども、定義から逆に考慮要素を導き出すという観点からも、例えばこういう配偶者ですとか扶養親族の有無といったものを導き出すことが必要なのかどうかというところも、少し循環してしまうのですけれども、ぜひ御議論いただければと思っております。
○山川座長 ありがとうございます。
報告書の構成は、また皆様方と御相談ということになるかと思います。今、坂本課長補佐がおっしゃったように、循環的なと申しますか、定義のところや基本的な考え方のところから演繹的に決まるものと、それから具体的な論点を考えて、さっきの定義の話じゃありませんけれども、そのうえで調整していくものと、相互のプロセスが必要になるかなという感じを個人的には持っております。
もちろん、最終的には労政審で政策的決定ということですが、検討会としても政策的なものとして、こういう捉え方があり得るというものを、例えば幾つか基本的な考え方を整理するというのもあるかなと個人的には思っていますけれども、それも皆様方との御相談次第ということでございます。その意味で、この資料2の3つの矢印の点は、細かいことのようでありますが、実はかなり基本的な方向性にかかわる問題も含まれていると思います。
どうぞ。
○垣内委員 質問ですけれども、資料2の下の真ん中の矢印で2つの方法が示されていまして、1つ目は、基準額をベースとした上で、一定の評価を要する考慮要素によって増額・減額。2つ目がイギリスの制度ということのようですけれども、客観的な考慮要素で算出される部分に加えて、上限を決めるのみで、さまざまな要素を考慮して算定するということで、一見すると、いずれにしてもさまざまな要素を考慮するのかなという感じですけれどもね。
前者のほうは、比較的特定された考慮要素について評価するというものであって、後者のほうは、そうした特定を必ずしもせずに、一切の事情を考慮してという形で、裁判所の裁量を非常に広く認めるという御趣旨なのか。そのあたり、この記載だけですと趣旨が必ずしも明瞭でない部分もあるように思いますので、御確認いただければと思います。
○坂本労働関係法課課長補佐 今、御質問いただいた点でありますけれども、資料2の検討すべき論点の真ん中の矢印にポツ2つ打っていますが、1つ目のポツにつきましては、先ほど先生に申していただいたとおり、客観的なもので基準額を算定した上で、一定の評価を要する考慮要素によって、その基準額が増減するということですが、文章の記載が不十分で恐縮でありますけれども、一定の評価を要する考慮要素については、ある程度事前に定めた上で、こういう評価要素、ただ、それは客観的なものではなく、一定の評価が必要というものを設定した上で、それをもとに判断していくということを念頭に置いて記載しております。
一方で、下のポツにつきましては、これも先ほど先生からおっしゃっていただいたとおり、上限というものは決めるわけでありますけれども、その範囲内で考慮する要素というのは、もちろんできれば例示列挙のようなものをしたほうが望ましいかと思いますが、それにかかわらず、さまざまな要素が考慮できるようなものということで念頭に置いておりますので、さまざまなものが考慮できるのは両方ともそうですけれども、その範囲を限定しているのか、していないのかというところの違いということで御認識いただければと思います。
○山川座長 どうぞ。
○垣内委員 御説明は了解いたしました。
恐らく、どの程度裁量に委ねていくかというところで、なるべくここは具体的に法律等のレベルで決めておくという考え方と、広い個別事案ごとの裁量に委ねていくという考え方と、大きく2つあるということなのかなと思います。
ただ、予見可能性等の点を考えても、明確化できるものについては、しておいたほうがいいというのが一般的に考えられるところかなと思いまして、その際、考慮要素を具体的に定めるにしても、その定め方によってもかなり幅が出てくると申しますか。例えば、解雇に至る具体的経緯という考慮要素を定めたとすると、一体どういう経緯がそこに含まれるのか、いろいろあり得るということもあるかと思いますので、実際に法律等でもしこういう制度を定めるという場合には、個別の要素の書き方等によっても、かなりそのあたりの幅というのは、大きかったり、小さかったりするところもあるのかな、なかなか2つに割り切れるものではないのかな、難しい問題だなと思います。
○山川座長 ありがとうございました。
神吉委員、どうぞ。
○神吉委員 今のところで、客観的な考慮要素と評価が必要な考慮要素という2つの分け方ですが、客観的かどうかだけでなく、個別的な要素を計算するのか、定型的に見るのかもあるかと思います。恐らくイギリスの2つの分け方は、基礎的な部分は客観的というだけではなくて、かなり定型的な計算です。客観的ともいえるのですが、それを個別の事情を加味せず、年齢と勤続年数で一定部分を定型的に出して、その後、上乗せで個別の事情に応じたものを乗せる二段構えになっています。
ですので、客観的なものとそれ以外だけではなくて、どれほど個別的な事情を加味するのか、それとも40代だったら再就職のしやすさがこれくらいと定型的に見るかの問題かと思います。
一番下の行の扶養親族の有無も、個別のダメージの大きさを見る趣旨で入っているのだと思います。そういった意味で、定型的なものと個別的なものの割合を、何を入れていくかとは別に考える必要があるります。実質的にはトータルで見るとそこまで変わらないのかもしれませんが、定型的な部分と個別的な部分をイギリスのように明示的に分けて考えるのは、一つのわかりやすいやり方かと考えているところです。
○山川座長 ありがとうございました。
恐らく客観的なというのは、定型的なという意味もある種含める趣旨があったかと思いますが、もし今後、表現するときは、そういう趣旨もわかるような形がよろしいかと思います。
いずれにしても、非定型的なものとか、あるいは主観的なものを入れると、先ほど垣内先生もおっしゃられたように、非常に裁量性が強くなって、手続の性格自体に影響を与えるというか、ある種非訟事件のような形になってしまって、それはもともとの位置づけにかかわってくるのかなという気がします。特に、形成権構成の場合ですと、本来は権利としては決まっているけれども、判決で初めて判明するということだったのですが、非訟事件手続的に考えると、それとは別にさまざまな考慮をした上で、そこで発生するといった形に親和性が強くなりますけれども、そういうものとしてそもそも設計するのが妥当かという議論になってくるかなと思います。
いかがでしょうか。特に資料2について種々御議論いただいております。
どうぞ。
○小西委員 下の四角の1つ目の矢印のところで、労働契約解消金で補償すべき内容の考え方として①、②、③というのが、いずれを含むものとするかということが書かれていますが、次の論点6とも少し関係がもしかしたらあるのかもしれないですけれども、②がもしバックペイということを想定されることであれば、これは比較的理解しやすいというか、わかりやすいところかなと思いますが、①と③についてですけれども、ここで補償すべき内容というのは、①+②+③ということを意味しているのか、性質を問題にしているのかということがどこかで明確になるといいのかなと思いました。
バックペイは置いておきますと、そのほかの狭義の解消金というものを考えるときは、①と③というのが混ざり合うような形で出てくる、計算されることもあるということになると、①+②+③とは必ずしもきれいにはいかないのかなと、私の個人的な感想ですけれども、申し上げたいと思います。
○山川座長 ありがとうございました。
この①と③は、単純に足すだけじゃなくて、両者が重なるという場合もあり得るという話でしょうか。足していくようなものとして考えるのかどうか、その点は事務局はいかがですか。
○坂本労働関係法課課長補佐 その部分、まさに御議論いただきたい点でありまして、①から③まで記載しておりますけれども、全部含むのか、一部含むのか。一部ないしは全部含むとしても、①から③までのカウントの仕方も重複するところがあれば、そこは調整が必要かなと思っておりますので、そうした点も踏まえて御議論いただければと思っております。
○山川座長 小西先生、よろしいでしょうか。
これは考え方としてということですので、単純に足すというものでもありませんし、また重なる場合に、その重なり方をどう算定するか、そこまで細かく考えるということでもないという理解でよろしいですか。
○坂本労働関係法課課長補佐 可能であれば、もし重なるとすればですけれども、その場合に算定の方法でそれを表現すべきなのか、性質から見たときに両者の重なる部分をどのように調整するのかという話かもしれませんが、いずれにしても、含むものと重複した場合も、もし可能であれば、その処理についても御議論いただければと思っております。
○山川座長 具体的に考えていかないとなかなか難しいかなという感じもしますが、小西先生、先ほどの重なる例とか、①と③の関係で何かありますか。
○小西委員 具体的なイメージを持っていないのですけれども、どういうものをどういう形で算定式に放り込んでいくのかということと関連してくると思いますし、あとは、論点6というところで損害賠償請求との関係を考えていくときに、この辺が少し問題になってくるのかなと思った次第です。
○山川座長 ありがとうございました。
どうぞ、垣内委員。
○垣内委員 ①、③を眺めていても、なかなかイメージがわきにくいというのは、確かにそうなのかなと思っておりまして、一番下の矢印のところで客観的な考慮要素の例が幾つか挙がっているのですけれども、素人的に算定式として一番思いつきやすいものとしては、給与の額をベースとして、それに一定の、例えば1年分ぐらい掛けて、それをベースの金額にするということが1つ、ベースの基礎としては考えられるのかなと思います。
そういった算定式を考えたときに、これは給与ということですので、それは就労実績の評価を反映していると見ることもできますし、他方、得べかりし賃金も反映していると見ることもできるので、そういう意味では①から③からも説明が一応つくのかなという感じがするのですけれども、そこで例えば勤続年数を掛け合わせて、勤続年数が長ければ長いほど係数が上がるということが出てきたときには、恐らく③の観点からは説明しにくいということになるのかなと考えますと、これまで勤続年数が長いというのは、過去の就労実績等を加味して評価するからであるという説明になってきやすいのかなという感じもいたします。
そういった具体的な考慮要素をどういう形で組み合わせるのかとの関係で、これもフィードバックというか、鶏が先か卵が先かみたいな話がいろいろなところで出てまいりますけれども、考えていくことになるのかなという気がしております。
○山川座長 ありがとうございます。
中窪委員。
○中窪委員 本当に循環していて議論しにくいですが、私はもともとの解消金のイメージというのは、本来であれば無効で、もとに戻れるはずのところの契約を切ってしまうことに対する対価だと思っています。したがって、得べかりし賃金かどうかよくわかりませんけれども、③の将来的な金銭的補償というのが、本来一番ぴったり来るのかなと思うのですね。ただ、そうは言っても、実際就労しなくて済むわけですから、その分の給料とはちょっと違う。
しかし、それとは別に、もうもとに戻れないという点がある。それをどういうふうに計算するかということで、そのときのプロキシとして、こんなに長い期間働いていたのだ、こんな大きな企業に勤めていたと、計算するときには解雇の前を見ざるを得ないと思いますが、性質としては後ろのほうじゃないかなと私自身は思っています。
ですから、まずは共通する解消金の定義について検討する必要があり、その上で、では、具体的にどういうふうに合理的に要素を計算するか、という話になる。私はそっちの方向かなと思っております。
○山川座長 ありがとうございます。
先ほどの小西委員のお話とも関係するかもしれません。①、②、③には、例えば基本的な定義から導き出される要素と、影響を与える要素があるか。影響の与え方も余り個別的になると、また別の問題が発生しますけれども、①から③の位置づけみたいなものともかかわってくるかと思いますし、各項目と趣旨との関係を、行ったり来たりするとしても、具体的に検討したほうがいいかもしれません。手間のかかる作業になるかもしれませんけれどもね。
○中窪委員 基本的にはそういう方向だと思うのですけれども、実際に制度として運用するときには、ある意味単純化して、わかりやすい要素に基づいて計算することも必要だと思います。本来的な趣旨がそこにあるとしても、それをどういうふうな要素で、どういうふうに計算するかというのは、当たり前のことですけれども、労政審がどう選択するかということにかかわってくるのではないかと思っています。
○山川座長 ありがとうございます。私も同感です。
ほかに何かありますか。
神吉委員、お願いします。
○神吉委員 戻りますけれども、バックペイにプラスで②を認めるのかどうか。いわゆるバックペイ的な要素は、ほぼどの国でもいわゆる解消金的な補償金の中に入っているのですけれども、ほかの国では、民法536条2項のような制度がないことは、報告書の中にははっきりと書いたほうがいいのかなと思います。重複してもらえるところはほとんどないはずで、独仏英を検討してきましたけれども、韓国もない。韓国も基本的にはバックペイにプラスアルファだけで、正味の補償金はないようです。そういったことを加味すると、日本の場合はバックペイでいいのかなと考えています。
○山川座長 ありがとうございます。
比較法的に極めて重要なところの御指摘かと思います。それぞれの国の解雇法制というものがあって、それを前提にした上での設計ということを留意する必要があるかと思います。解雇法制そのものを検討するということは、救済の問題としてあるのですけれども、その前提となるベーシックな解雇法制ということです。
ほかはいかがでしょうか。
では、この点、まだ今後議論していただくことがいろいろ出てきたということになりますが、残りの論点6はいかがでしょうか。
どうぞ。
○垣内委員 難しい問題ばかり論点として残っているのは、当然そうだから残っていると思いますけれども、これも大変悩ましい問題かなと思います。基本的には、解消金請求権と不法行為に基づく損害賠償請求権というのは、実体法上、別個の請求権として考えるということですので、特に(1)の場合などはそうかと思いますけれども、解消金請求に係る確定判決がまず出るということで、その場合には、解消金の制度が本来予定しているところに従って金額を算定する。
その後で損害賠償請求が提起される場合について、解消金請求権が認められていることに伴って、損害の回復が一定程度図られているという評価ができるのであれば、それは損害賠償請求権が減額ないしは認められないという判断が、これは不法行為の解釈の問題としてされるということはあり得るだろうと思います。
(2)のように、両方が並行して出てきている場合についても、両者、別個の請求権だとすれば、不干渉でそれぞれについて判断するということになるのかもしれないですけれども、とりわけ併合提起されている場合について、実質上、両者が重なる部分があるときに、二重に認めるということは基本的には好ましくないことだろうと思われますので、その際、どちらかに寄せて、どちらかでその点を主として考慮し、別のほうについては、補充的に議論するような形で考えるというのが合理的なのではないかと思います。
その際に、解消金請求と不法行為に基づく損害賠償請求を考えますと、解消金請求のほうは、当該金額の支払によって労働契約が終了するというもので、当該の額が大きければ大きいほど、労働者にとってはその地位がより保護されるという関係になるかと思いますので、一般的には解消金請求のほうで認められるものは最大限認めた上で、不法行為に基づく損害賠償請求については、なお、それによっては回復されない損害があるという場合について認めれば、それで足りるのではないかと思いますから、併合提起された場合についても、(1)と基本的には同様の処理をするということが実質論としては好ましいのかなという気がいたします。
また、同一裁判所に係争中というのは、併合されているということなのかどうかということがあるかと思いますけれども、基本的には併合した上で、同じような形で処理できるのであれば、それが望ましいのかなという感じはいたします。ただ、そのあたりになってまいりますと、法律で何か決めるという話なのか、それは不法行為等の解釈として、そうだという話にとどまるのかというのは、さらに整理が必要なのかなという感じがいたします。
(3)が御説明の中でもありましたけれども、一番難しい問題で、既に損害賠償請求については、確定判決が出ている。解消金請求が別途されるというときに、二重に債務名義が形成されるようなことは望ましくないということがあるとともに、他方で解消金については、先ほど申しましたように、その金額がきちんと確保されたほうが労働者の保護には厚いというところがありますので、そのいずれを重視するのかというところが、ここでは問題になるのかなと思われまして、解消金については、あくまで損害賠償請求権がどうなっているかにかかわらず、算定するという考え方もあり得るのかもしれませんし、二重に認められるのは好ましくないということであれば、既に損害賠償請求権として回復が図られている部分については、解消金の算定の中で、その点も加味した上で一定の減額をするという処理もあり得るのかなと思いまして、大変難しい問題かと思いますけれども、今のところの印象ではそういうことが考えられるかなと思っております。
○山川座長 ありがとうございます。
ここは、先ほどの論点5の①から③をどうするかという点ともかかわって、非常に難しいお話になってくるかと思います。難しいのですけれども、請求の包含関係みたいなものがあって、実質同じ請求を二度できるか、両方でできるかという問題、性格づけにかかわるのですが、例えば損害賠償請求の実質を解消金のほうに含めるとしたら、まさに同じものをどちらでも請求できるということになりますし、それがある種極端な形で出てきます。
それと、例えば解消金請求の中に一部、損害賠償的な色彩が入った場合にどうするかという問題があって、これもちょっと悩ましいですが、さらに全く別個の請求だとしても、相互の関係を考える必要がある場合もあります。例えば、地位確認の判決と不法行為に基づく損害賠償請求を認める判決、請求が2つある場合ですね。地位確認請求と損害賠償請求の2つある場合に、慰謝料としての損害賠償請求については、地位確認がなされるので、その限度で慰謝されるみたいな判決もありますので、それは両者が異なる場合でも相互に影響を与える場合なので、3通りぐらいになりうる。
ここで3通りと言い出すと、さらに話が複雑になって、それを一々マトリックス的に整理する必要もないと思いますけれども、発想として、制度の位置づけにかかわる問題と、その位置づけた制度の相互の影響にかかわる問題があるのかなと思いました。
若干補足しますと、例えば解消金に損害賠償としての性格が含まれるというのも曖昧な言い方ですけれども、そうすると、別訴で来たときにどの程度含まれていたのかと考えてくると、さらに話はややこしくなるような感じはありますね。
神吉委員、どうぞ。
○神吉委員 入り口の判断において、一定の定型的な部分は、個別の要素を加味せず、最低、こういう属性の人はこれだけもらえるというものを決めておいて、個別的な考慮を要するような部分を上乗せする形にしておくと、その後で調整が若干しやすい気はしました。
上の、客観的な要素で基準を算定した全体を個別評価で伸び縮みさせるというと、それがちょっと難しくなるのではないでしょうか。最終的には同じかもしれないですけれども、客観的な要素が増減して見込みが立ちにくいよりは、少なくともこれだけは狭義の解消金として確保され、あとは上乗せがどれだけになるかの話だとして、そこで個別的な要素を加味し、増減部分はそこだけということにすると、予測可能性と調整しやすさはある気がします。思いつきですけれども。
○山川座長 ありがとうございます。
確かに地位確認と損害賠償の関係でも、通常の場合はそうだけれども、特に解雇が悪質な場合には慰謝料は認めるとか、そういう個別的事情、解雇の事件の特質に照らした扱いというものが現行法でもなされているところがあったような感じがします。
どうぞ。
○小西委員 この調整の問題についてですけれども、例えば労働災害の場合を考えた場合、一定の解釈だったり、法規制というものがなされていて、調整されることがあるかと思いますけれども、労働災害の場合は、損害、災害の中身の性格づけが比較的明確であるので、調整も比較的しやすいという要素があると思うのですけれども、今回の労働契約の解消金というのが一体どういう性格を持っているのかというのも、これまで議論があったように必ずしも明確でないですし、損害賠償のほうでも、どういうふうな意味を持って損害賠償を決めるのかということも必ずしも明確でないような場合を考えたりすると、調整というのが論点6で書かれたような場合においても、果たしてうまくいくのかなという点は少し考えているところです。
○山川座長 ありがとうございました。
では、垣内委員。
○垣内委員 先ほど申し上げた点に1点だけ補足ですけれども、3ページの論点6の(3)のケースは、前に議論があった論点4ですか、バックペイについて既に確定判決がある場合の取り扱いと少し似た局面になっていますので、そちらの取り扱いとの整合性という観点からも少し検討する必要があるのかなと思います。
○山川座長 ありがとうございます。
では、中窪委員。
○中窪委員 頭が単純なものですから、こういう複雑なことを考えているとだんだん分からなくなってきます。むしろ、解消金というのは、計算に当たって、若干慰謝料と重なるような考慮要素はあるにしても、それは解消という目的のための特別なものであって、それは後であれ、先であれ、損害賠償請求とは重ならないと割り切ってしまって制度をつくるというのも、一つのあり方かなと思いました。
○山川座長 ありがとうございます。
調整を考えると難しい問題がいろいろ出てくるので、いずれにしても、なるべくシンプルなほうがいいかもしれないですね。計算方法の問題でもありますし、性格づけの問題でもあるかと思います。
今、論点6ですけれども、それ以外の点も含めてで結構かと思いますが、何か全体としてございますでしょうか。
あるいは、事務局から何か補足的な問いかけとかは特にありますか。よろしいでしょうか。確かに、非常に難しいところですので、考えながら座長として進行しておりますと、進行のほうで時間がうまくいかない部分が出てきましたけれども、特によろしいでしょうか。議論が尽きたというよりも、議論が非常に難しいので、いろいろ考えるべきことがさらに出てきたと言うべきかもしれませんが。
それでは、時間はまだ若干あるところですが、特によろしければ、本日の議論はここまでにさせていただきたいと思います。
では、次回の日程等について、事務局からお願いします。
○坂本労働関係法課課長補佐 本日も活発な御議論ありがとうございました。
次回の日程につきましては、現在調整中でございますので、確定次第、開催場所とあわせて御連絡をさせていただきます。
○山川座長 ありがとうございます。
それでは、これで第9回「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」を終了いたします。
お忙しい中、お集まりいただきまして、大変ありがとうございました。
 

照会先

 

労働基準局労働関係法課

(代表電話) 03(5253)1111 (内線5370)

(直通電話) 03(3502)6734