第1回がんに関する全ゲノムの解析等の推進に関する部会(議事録)

健康局がん・疾病対策課

日時

令和元年10月16日(水)10:00~12:00

場所

全国都市会館 3階 第1会議室

議題

(1)がんに関する全ゲノム解析等の推進に関する部会の設置について
(2)全ゲノム解析等の対象疾患と症例数について
(3)その他

議事

 

○事務局 それでは、定刻より少し早いですけれども、皆様方、おそろいでございますので、ただいまより、第1回「がんに関する全ゲノム解析等の推進に関する部会」を開催いたします。
構成員、参考人の皆様方におかれましては、お忙しい中、お集まりいただきまして、まことにありがとうございます。
健康局がん・疾病対策課の笠原です。どうぞよろしくお願いいたします。
初めに、宮嵜健康局長より、御挨拶をさせていただきます。
○健康局長 皆様、おはようございます。
会議の開催に当たりまして、一言御挨拶申し上げます。
構成員の先生方におかれましては、日ごろより、がん対策をはじめ健康行政全般にわたりまして、御支援、御指導を賜りまして、厚く御礼申し上げます。
がんに関しましては、本年6月に遺伝子パネル検査2品目が保険収載され、国民皆保険のもとでがんゲノム医療が開始されました。しかしながら、がん患者の方々に対し、さらに良質かつ適切な医療を提供するためには、日本人の遺伝学的背景等を含めた包括的な病態解明が必要とされており、全ゲノム情報の活用等が重要であると考えております。
本年6月に閣議決定されました成長戦略等では、国は、がん・難病等のゲノム医療を推進するため、これまでの取り組みと課題を整理した上で、数値目標や人材育成・体制整備を含めた具体的な実行計画を、2019年中、本年中を目途に策定するとされたところでございます。
これを受けまして、実行計画の策定に向けて専門的な観点から御意見をいただくために、このたび、がんに関する全ゲノム解析等の推進に関する部会を立ち上げることとした次第でございます。
構成員の先生方におかれましては、実行計画の策定に向け、それぞれの御専門の立場から、全ゲノム解析等の対象疾患や症例数に関する数値目標の考え方、全ゲノム解析等に必要な体制整備、全ゲノム解析等に係る人材育成などに関しまして、ぜひ忌憚のない御意見をいただければと思います。
私は他の国会用務等の関係で冒頭のみで失礼させていただきますが、本日はどうぞよろしくお願い申し上げます。
○事務局 次に、構成員の御紹介をさせていただきます。
天野慎介構成員でございます。
大津敦構成員でございます。
南谷泰仁構成員でございます。
宮野悟構成員でございます。
安川健司構成員でございます。
山口建構成員でございます。
横野恵構成員でございます。
また、本日、柴田龍弘構成員からは欠席の御連絡をいただいております。
また、本日は、参考人といたしまして、国立がん研究センター希少がんセンター国立がん研究センター中央病院骨軟部腫瘍・リハビリテーション科、川井章参考人にお越しいただいております。
名古屋大学大学院医学系研究科小児科学、村松秀城参考人でございます。
東京大学医科学研究所、古川洋一参考人でございます。
国立がん研究センター先端医療開発センター/東病院、土原一哉参考人でございます。
神戸大学大学院医学研究科、榑林陽一参考人でございます。
事務局及び関係省庁からの出席者につきましては、座席表を御参照ください。
それでは、以上をもちまして撮影を終了いただき、カメラをおさめていただきますよう御協力をお願い申し上げます。
(報道関係者退室)
○事務局 続きまして、資料の確認をさせていただきます。
事前に机上にお配りしております資料は、まず、1束になっているほうの上から、1枚紙で座席表と議事次第、右肩に「資料1」とございます1枚紙が1つ、「資料2-1」、「資料2-2」、「資料3」とそれぞれ右肩についてございます。資料4-1、資料4-2、資料4-3、資料4-4、資料4-5は、参考人からの提出資料でございまして、いずれもパワーポイント2アップの資料になってございます。続きまして、参考資料1、参考資料2と続きます。そのほか、机上資料といたしまして、机上資料1「小児がんについて」という村松参考人からの提出資料の続きのものを御用意しておるほか、机上資料2は横表の形で参考資料2を課題別に整理して課題ごとに関連する本日の提出資料について記載したものを机上に配付してございます。
資料の不足等がございましたら、お申し出いただきますようお願い申し上げます。
続きまして、議題1「がんに関する全ゲノム解析等の推進に関する部会の開催について」に移ります。
資料1をごらんください。こちらは、本部会の開催要綱でございます。
「3.その他」の(1)にございますとおり、本部会は、「がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議」の開催要綱第5条に基づき開催することとされておりまして、本部会の検討結果は「がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議」に報告することとされております。
また、(3)にございますとおり、本部会には、構成員の互選により部会長を置き、部会を統括することとされてございますので、本規定に基づきまして、構成員の互選により議長を御選任いただきたいと思いますが、どなたか御推薦はございますでしょうか。
○大津構成員 静岡がんセンターの山口先生を部会長に御推薦申し上げます。
○事務局 ただいま、山口構成員の御推薦がございましたが、そのほか、いかがでしょうか。
それでは、山口構成員、本部会の部会長をお願いしたいと思いますが、よろしいでしょうか。
○山口構成員 はい。
○事務局 それでは、山口構成員、部会長席への御移動をお願い申し上げます。
(山口構成員、部会長席へ移動)
○事務局 それでは、事務局からは以上でございます。
引き続き、山口部会長より以後の進行をよろしくお願い申し上げます。
○山口部会長 最初に、一言だけ御挨拶させていただきます。
私自身は、2000年ごろから、特に、今、使われているヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針作成の作業部会の責任者をやっておりまして、そのころからのかかわりです。今回、この席に座っている理由は、静岡がんセンターで数千例の凍結組織を用いたマルチオミクス解析をやってきたことが多分最大の理由ではないかと思っております。
それを始めた理由ですが、日本人のがんの患者さんの評価は日本人のがんのデータベースでやらないと余り意味がないのではないかという思いから、静岡がんセンターのみんなでやってきた仕事なのです。
そういう経緯がございますが、今回、この部会に関しては大変スケジュールがタイトのように伺っております。最初の2回で大体の内容を固め、3回目は同時並行で動いている難病の部会とのすり合わせ、合同の部会、12月にはその報告というスケジュールになっておりますので、1回目の会議からどんどん詰めていかなければいけない。そういうこともあって、ちょっと異例なのですが、私自身のプレゼンと、報告書の目次案というものをつくらせていただいて、そこに意見をどんどん入れていこうということを、事務局と、相談、打ち合わせをさせていただいております。
したがいまして、構成員の皆様あるいは参考人の皆様は、できるだけ具体的に報告案に盛れるような形でぜひ御発言をしていただけるとありがたいのですが、さすがにこの分野はそう簡単にはいきませんので、活発な議論が最大の眼目になるのではないかと思います。
短い期間だと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、次第に従って進めてまいりたいと思います。
まず、事務局から御説明をお願いいたします。
○事務局 皆様、資料2-1、資料2-2、参考資料1をお手元に御用意いただけますでしょうか。
まず、資料2-1から御説明申し上げます。こちらは「がんに関する全ゲノム解析等の推進に関する実行計画の策定等について」でございます。
まず、「1.背景・経緯」といたしまして、1枚おめくりいただきます。
3ページでございます。このたびの全ゲノム解析等に関する実行計画の策定につきましては、本年6月21日に閣議決定されました、成長戦略、経済財政運営と改革の基本方針2019にありますとおり、数値目標や人材育成・体制委整備を含めた具体的な実行計画を2019年中を目途に策定することとされておりまして、このたびの検討会を開いた次第でございます。
4ページにございますとおり、そもそもヒトゲノムといったものについては、いろいろな検査が行われておりますが、一番左の単一遺伝子検査、「コンパニオン診断」といわれものから、遺伝子パネル検査、全エキソン検査、全ゲノム検査と右に行くに従ってより広範囲の検査をするものでございます。今回、特に中心的に御議論いただきたいものは全ゲノム検査に関するものでございます。
まず、がんの医療の現状といたしまして、5ページでございます。がんの5年相対生存率の推移といたしましては、1993年から2008年までにかけて徐々にその生存率が上昇しているものの、2006~2008年の時点でも62.1%でございます。
また、6ページにございますとおり、部位別の5年相対生存率はかなりばらつきがございまして、膵臓、肝臓、胆嚢、肺等のがんは予後不良となっております。
続きまして、7ページ目でございます。ここからは、なぜ全ゲノム解析等が必要なのかについて整理させていただいております。まず、課題の1つ目といたしまして、がんにおいては、原因遺伝子変異の解析や対応する薬剤開発の進行状況が部位によって大きく異なりまして、また、原因となる遺伝子変異も未知な部位が存在すると承知をしております。あるがん種について、原因遺伝子変異の解析が進むことで、マル1、マル2、マル3、マル4のうち、マル4の「原因となる遺伝子変異が全く未知」とされている部分が少しずつ少なくなっていく可能性があるのではないかと考えております。
また、8ページ目、課題の2といたしまして、細胞障害性抗がん剤と分子標的薬のいずれも、全ての症例において奏功が得られているわけではないというものを挙げております。青い背景のところにございますものは、細胞障害性抗がん剤を用いた事例でございます。この事例の場合は、奏効率は30.6%となっておりまして、緑の背景のところについては、分子標的薬を用いた事例でございます。こちらの場合、全ての非小細胞肺がんを対象とすると、奏効率は27.5%にとどまっておりますが、EGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺がんに対象を限定しますと、奏効率が71.2%に上がるものの、依然としてまだそのぐらいだということで、この全ゲノム解析等によってここの部分をより上げることができるのではないかと考えております。
また、課題の3といたしまして、こちらはなぜ日本で全ゲノム解析等が必要なのかについて、遺伝子変異の発現率が人種によって異なるがん種が存在することがわかってございますが、日本人の大規模全ゲノム配列データベースは依然構築されていないという課題を掲げさせていただいております。
続きまして、「2.我が国におけるがんゲノム医療に関するこれまでの取組について」を御報告申し上げます。
まず、がんゲノムについては、これまでがんゲノム医療推進コンソーシアムという枠組みの中で取り組みを推進してまいりました。
12~14ページにありますとおり、がんゲノム医療中核拠点病院・連携病院という体制を構築してまいりました。
また、15ページにございますとおり、本年6月には、がんに対して遺伝子パネル検査が保険適用されました。
こちらの遺伝子パネル検査で集積されたゲノム情報及びその症例の臨床情報を、16ページにございますがんゲノム情報管理センターに集約するという仕組みを設けて、ただいま推進しているところでございます。
続きまして、17ページからは、これまでの研究に関する取り組みについての説明でございます。まず、ジャパン・キャンサーリサーチ・プロジェクトと申しまして、こちらは「がん研究10か年戦略」に基づいて、医薬品・医療機器開発を初めとするがん医療の実用化を加速するプロジェクトでございます。
この中でも、特にゲノムに関して、18ページ目にございます臨床ゲノム情報統合データベース整備事業というものを設けておりまして、各疾患領域における研究で得られた遺伝子変異等を国内で広く共有して、創薬や個別化医療実現のための研究を推進するという取り組みでございます。このうちの一つとしてがんが取り上げられてございます。これまでパネル検査を中心にやってございましたので、全ゲノム解析、全エクソーム解析については、下の表にあるような状況となってございます。
また、おめくりいただきまして、SCRUM-Japan(産学連携全国がんゲノムスクリーニング)という取り組みがございまして、こちらは国立がん研究センターが事業主体となって、製薬企業との共同研究や、医師主導治験、企業治験といった成果を上げているプロジェクトでございます。
続きまして、「3.実行計画の策定に向けた今後の検討の進め方」について申し上げます。
まず、検討会につきましては、本部会をこのように開催しておりますほか、先ほど山口部会長の御挨拶の中にもありましたとおり、難病でも同様に検討会を進めているところでございます。この両検討会の検討状況を行く行くは政府内の各会議及び省内の会議に御報告させていただく予定としております。
今後の検討スケジュールでございますが、本日の第1回目では、必要性・目的、対象疾患、症例数を御議論いただきながら、第2回以降で、第1回目の議論を踏まえた、対象疾病、数値目標に関する検討をしていただくとともに、運営体制や体制整備についても御議論いただきたいと考えております。
次のスライド以降は参考でございますので、必要に応じて御参照いただければと思います。
続きまして、資料2-2をごらんください。
こちらは、本日御議論いただきたいと考えております論点についてお示ししたものでございます。
まず、「1.がん領域における全ゲノム解析等の必要性・目的について」でございます。1つ目の○は、先ほど申し上げた成長戦略に書かれたことでございますが、こちらを背景としながら、2つ目の○にあるとおり、がんのゲノム医療に関するこれまでの取り組みと課題についてどのように考え、また、がん領域における全ゲノム解析等の必要性及び目的についてどのように考えるか、御議論いただければと思っております。
また、「2.数値目標について(対象疾患や症例数の考え方)」でございます。1つ目の○にございますとおり、この対象疾患や症例数に関する数値目標の設定の考え方を整理する際には、がんの中から対象疾患に優先順位をつけつつ、全ゲノム解析等を行う検体数について、これまでの研究実績や統計学的な観点も踏まえて検討していただいてはどうかと考えております。また、これらを考えるに当たりましては、これまで私ども事務局で有識者の皆様方にヒアリングを行いました。その内容を踏まえまして、がんをこちらのがんの類型(1)から(4)の4つの類型に分けて、それぞれについて、その下にあります検討事項、マル1からマル4とあるものは誤植でございまして、マル1からマル6についてそれぞれ検討いただいてはどうかと考えてございます。
また、今回御議論いただくものではございませんが、「3.人材育成・体制整備について」は、次回以降に御議論いただければと考えております。
続きまして、参考資料1でございます。
こちらは先ほど申し上げた事務局で専門家の先生方にヒアリングをする中でまとめた資料でございまして、2ページにその概要を御報告しております。
また、3ページ目のところには、最終的にはこのような数値目標が設定できるのではないかと考えたイメージをお示ししております。がんの類型ごとに、罹患数の多いがん種、希少がん、小児がん、遺伝性腫瘍、それぞれについて幾つぐらいのがん種について幾つぐらいの症例数を目標にするかというものを設定できないかと考えております。それらをあわせて、最終的には、数値目標として、何万症例、何万検体を目標にするという形になるのではないかと考えております。また、行程の考え方といたしましては、新規の検体を収集する体制が整うまでの間は、質の高い臨床情報とともに保存されている既存検体を用いて、いわゆるパイロットスタディーとして全ゲノム解析等を実施して、新規に検体を収集する際の留意点等についてさらに検討を進めていただいてはどうかと考えております。
4ページ目、5ページ目は、がん種の例や罹患数の多いがんの罹患率と5年生存率について、参考情報として掲載しているものでございます。
事務局からは、以上でございます。
○山口部会長 ありがとうございました。
今の御説明に関して、御意見等がございましたら、どうぞよろしくお願いいたします。
どうぞ。
○南谷構成員 非常にまとまった資料をありがとうございます。
全ゲノムとなりますと、お金のかかることですので、それに対してどのようなアウトカムが出てくるかという見積もりとともに考えていかなければいけないと思っています。
そうしますと、税金を使う以上、これに対する目的を明確化しないといけないと思うのですけれども、今のところ、私のもとにある資料では閣議決定されたからという形のものになっているわけなのですけれども、なぜそもそもこのタイミングで全ゲノムが必要になったか、必要と考えられるかといった経緯について、もうちょっと教えていただけましたらと思います。
○山口部会長 事務局、どうぞ。
○がん・疾病対策課長 がん・疾病対策課長の江浪でございます。
がんゲノム医療に関しましては、これまでも、この部会の上位組織でありますコンソーシアムにおいて、計画的にどういうふうに社会実装していくかということで取り組みが進められてきたところでございます。そういう取り組みを進めている中で、全ゲノム解析のコストが非常に下がってきたのではないかという御指摘は継続的にいただいておりまして、今回、パネル検査が社会実装され、保険適用になったのはことしの6月のことでございますけれども、並行して、全ゲノム解析について、これから先、どういうふうに進めていくのかということについてしっかり検討するようにということが、ことし閣議決定をいたしました骨太と成長戦略の議論の過程の中で明らかになってきたということでございます。
今回、この部会におきまして論点として示させていただいておりますとおり、今、まさに構成員から御指摘いただきましたように、全ゲノム解析について、一定の必要性や目的はそもそも一体何なのかというところから、この部会におきましては専門家の先生方からしっかりと御意見をいただきまして、実際に日本でどういうふうに取り組むべきかということについて、しっかり検討したいと考えているところでございます。
○南谷構成員 ありがとうございます。
その目的に関してもこの会議の中で議論する内容であるという認識でよろしいでしょうか。
○がん・疾病対策課長 はい。これは、今回の論点、1つ目として「がん領域における全ゲノム解析等の必要性・目的について」ということで挙げさせていただいております。先ほどの事務局の説明から、少し皆様の議論を先取りしたような形でその必要性ということについて資料を整理したものを御説明申し上げましたので、そこについて十分に整理されているのかという御指摘かと思っておりますけれども、その点を含めましてしっかり御意見をいただければと考えてございます。
○南谷構成員 承知しました。
○山口部会長 南谷構成員のお立場からいくと、今の御自身の質問に対してどうお答えになりますか。
○南谷構成員 資料2-1、7ページ目、8ページ目、9ページ目が、なぜ全ゲノムが必要なのか及びなぜ日本で全ゲノム解析が必要なのかということを示していただいた資料に当たると思います。
これは全くそのとおりで、現在のパネル検査やエクソーム検査でわからない部分があるので、それを全ゲノムによって明らかにしていこうという御説明だと思いますし、例えば、このEGFR遺伝子の有無によってゲフィチニブの奏効率が違うというものは、まさに治療の最適化という点で役立ったもの、こういった因子がさらに何か見つからないかということを示した非常にいい例だと思います。また、ゲノムの背景も日本人と外国人では違うことになってくると思います。
そうすると、次に必要になってくるのは、全ゲノムをやることによってどれぐらい新しいことが見つかるかということをエスティメートできるかという議論です。多分そういったことが今回の議論の一つの論点になってくるのではないかと思っています。
○山口部会長 ありがとうございました。
そのほか、構成員の皆様、御意見はいかがでしょうか。
参考人の方も、ございましたら、御遠慮なく。
それでは、今の御質問にも少しかかわる点がございますので、まず、私どもの経験を少しお話しさせていただこうと思います。
資料3、参考資料2をごらんいただければと思います。
右下にスライド番号がついておりますので、幾つかのスライドは飛ばしますが、スライド番号を述べながら説明を進めさせていただきます。
最初に、意義・課題・海外状況です。
3番目のスライドをごらんいただきましょうか。今の御質問にも少し関係するのですけれども、臨床応用という側面と、研究開発、さらにはイノベーションという2つの側面が多分今回のプロジェクトには期待されているのだと思います。特に臨床応用で私どもが実際にやってみると、日本人のがんのデータベースがそろっていないと臨床は進みませんので、全ゲノムに関してもそのデータベースをしっかりと整えていくことが必要なのではないかと考えました。
4番目のスライド、これを実際に推進するに当たっての課題を6点ほど挙げております。海外先行事例はしっかり活用すること。ただ、差別化が必要だと思うのですね。日本はある意味おくれてスタートをしますので、一体何がキーワードなのか。日本国民というものが多分キーワードではないかと思います。試料収集体制の構築も結構大きな問題で、Fresh Frozenでないと全ゲノムはなかなか難しいというデータが出ていますので、これをどう整理していくか。測定・解析体制の構築で、1センターなのか、サテライトをある程度つくるのか。今もお話がありましたが、がんゲノム診療技術の構築の中で、何でも全ゲノムという話では決してありませんので、1遺伝子もあり、エクソームもあり、パネルもあり、全ゲノムはどうなのかと。生命倫理的な対応は必須で、全ゲノムをやれば膨大な二次的所見が出てくるはずです。
5ページが、ことしの4月ごろに調べた海外の国家主導ゲノムプロジェクトの図ですけれども、ある論文から引用したものです。詳しくは述べませんが、Genomics Englandに関しては、本日、土原参考人からも情報提供していただきます。1点だけ、中国が1億人対象・15年間・1人1万円というプランを出しておりますので、これが多分最大の国家プロジェクトになるのではないかと思います。
その次の3枚は各国のまとめですので、飛ばします。参考にしていただければと思います。
9ページをごらんください。Genomics Englandの現況。価格は下がった。今、1回の30x程度のシーケンスが多分1,000ドル以下になって、8万円ぐらいと言っていましたかね。10万人のゲノムは成功裏に終了した。ただし、この赤で塗ってあるところがポイントで、11万人のシーケンスをやった中で、8万3000人が希少疾患だが、がんは3万人弱にとどまっている。サンプルの問題ではないかと思うのです。がんに関する全ゲノムは、Genomics Englandは、私が聞いている限りでは、最初に議論がありました。Fresh Frozenでやるか否か。技術者は、Fresh Frozenでやりたい。臨床医は、そんなことを言っていると数がたまらないからFFPEでやりたい。この対立の中で、両方一緒に始めたのだけれども、Fresh Frozenを集めることができなくて、結果的にはFFPEで終了した形になった。ところが、実際にデータが余りよくないので、今後の全ゲノム解析においてはFresh Frozenを強く推奨するというのが現況だと思います。一番下に、困難であったこと、11カ所のサテライトでの試料採取が2年間動かなかった。FFPEでさえなかなかうまくいかなかった。Fresh Frozenの試料採取システムは、結局、構築できなかった。大変難しい。ただ、今後、100万人、500万人を目指す中で、Fresh Frozenの収集体制を構築できるか否かを検討していくということで、2~3週間前の情報ですが紹介させていただきます。
その下、ここは英国として非常に解析結果を活かしている部分なのですが、その10万人の結果に基づき、今後、英国におけるゲノム医療をどう進めていくかという指針を出していて、全ゲノムの使い方をその表の中に盛っています。まず、固形がん(成人)は適用がないあるいは今は保険償還しない。一方で、小児がん、肉腫、神経腫瘍の小児の分、血液腫瘍のここに掲げたような疾患については、全ゲノムをやって保険償還はする。ただ、研究目的の要素が強いので、最終的な臨床の結果はパネル検査の結果を返却するということが現状のようです。一般の遺伝病等に比べて、今回、我々は難病の部会と一緒にやるわけですが、がんの全ゲノムは大変難しいということが彼らの結論であるようです。
11ページから、私どもの経験をお話しいたします。
「プロジェクトHOPE」と名づけておりますが、現在、6,600例余りが登録されております。5年半かけて、この数字です。全て手術標本で、がん、正常組織、血液、完全に突合できる臨床情報をくっつけてあります。次世代シーケンサーは結果的に11台を使用することになりました。このうち3台がMiSeqあるいはNextSeqですけれども、あとは、HiSeq 4000、Ion Protonという状況です。一部全ゲノム、そのほかの6,000例余りについて、全例に、エクソーム、パネル、融合遺伝子、全遺伝子発現を検討して、データベース化をしています。体細胞系列、生殖細胞系列、リキッドバイオプシーに関しては、検体を全ての症例について保存しております。リキッドバイオプシーは、一部実施しましたが、私どものコホートは大多数が原発巣の症例なので、余りいい結果は出ていません。今はもう少し感度がよくなるのを待っているところです。手術時に採取した試料であり、大量のサンプルが得られているので、新規あるいは繰り返しの分析が可能であるという点がポイントです。現時点では、全試料を保管し、データベースを構築していくという状況です。
13ページに、その概要を書いてございます。1点だけ、費用がこれだけやるのに約二十数億円がかかっております。人件費は除いています。このプロジェクトは、SRLとの共同研究であるということを申し添えておきます。
14ページ、これはプランを立ててからどれぐらいかけて現状に至っているかですが、IRBも含めて準備期間に1.5年、年間1,000症例強で、今、5年間あるいは5.6年間が現状になっております。
15番目のスライドをごらんいただきますと、これが体制ですが、ここまでやるのに専従が40名、静岡がんセンターの医療スタッフの約半数が何らかの形でこのプロジェクトにかかわっている。450名くらいです。
16番目のスライドが、先ほどから出ている症例数がどうかというところにかかわってくる実際のデータですけれども、6,654例の登録の中で、解析を終えているものが、遺伝子発現、パネル解析、エクソーム解析、融合遺伝子解析、これが大体6,000検査弱で、全ゲノム解析はごく少数ですが、パイロットスタディーが始まっているところです。
17番目のスライドに、ここで集められたがんの種類、原発巣で、一部転移巣が含まれています。
18番目のスライドで、今まで集めたものが実線、点線で書いてあるものが今後5年間集め続けたとしたらどういう数値になるか。大腸の2,200から始まって肝臓の480まで、あとは少数になりますが、下に小さな字で書いてあるようながん種が集まってくる。このプロジェクトは、最初からがん種を指定しておりませんので、ともかく手術室で得られた検体の中で、早期がんは全て病理に回さなければいけませんから採取できないのですけれども、おおよそ手術室で腫瘍摘出が行われる症例の3分の1がこの中に入ってきているのですが、それをこの形で集めていくと、こういう数値になる。手術標本でという限定をかけると、静岡がんセンターはハイボリュームセンターですので年間1,000例、一般でやると多分500例ぐらいの数字になるのではないかと思います。最終的な全体の数字を考える素地になるのではないかと思います。逆に、手術で得られる試料にはデメリットもありまして、前立腺がんはほとんど入っておりません。これはバイオプシーないしは病理組織の慎重な検討が必要ですので、これについては診療科からの要請もあってこのプロジェクトに入っておりません。含まれていないのはそれぐらいだと思います。
19ページから、結果を簡単に述べさせていただきます。
5,000例のデータは、投稿中なので、アクセプトされれば皆様に配付することができるのですが、まず、4,000例余りのデータでお話しします。4,000例の中から見つかったドライバー遺伝子は、2万種の遺伝子の中の363種になりました。ですので、これにはパネルの作成に意義があります。
次に、21番目のスライドが、ドライバーが検出された症例と、さらにその中で有効薬剤が存在した症例を2つのカラムで書いてあります。黒く塗ってある部分が、ドライバーが見つかった症例で、右側の部分はC-CATの分類でAに属するものを赤で書いております。B以下、色を分けて書いてありますけれども、これを両方眺めていただきますと、例えば、肺腺がんに関しては、先ほども御説明がありましたが、ドライバーが決まり、かつ、薬剤も決まる。GISTも同じ。ところが、大腸がんは、ドライバーはほとんど決められるのだけれども、薬はほとんどない。腎がんに至っては、ドライバーもほとんど決まらないし、もちろん薬もない。このように、がん種によってかなり異なります。したがって、がん種をしっかり想定して全ゲノム解析をやる必要があることになります。まとめると、ドライバーが検出されたものが約4,000例のうちの72%、世界で承認されがん種が一致する治療薬が存在するものが約11%という結果になりました。
22ページが、Tumor Mutation Burdenです。4,000例を順番に並べていくと、こういうシグモイドカーブが書けて、その数を縦軸で書くと2つの山になる。ちょうどこの谷間をとって20変異/MB以上のものをHypermutatorとしています。大体世界的にはそういう数値が使われていますが、そうすると全症例の5.4%がHypermutatorに相当します。この中には、POLE変異を持ったものやMSIを持ったものなどが主に入ってまいりますが、5.4%が多分免疫チェックポイント阻害剤の対象疾患になるのではないかと思います。その下に、がん種別にTMBをまとめて書いてありますが、この図の中でも日本人のがんの解析が必要だということがわかる部分がありまして、例えば、メラノーマは欧米でいうと非常に変異数が多いのですが、日本の場合は非常に少ない分類に入っています。日本のメラノーマの特性なのかもしれません。今は、一括して、例えば、20変異ぐらいを想定していますが、これはもしかしたらがん種別でその変異数を見て免疫チェックポイント阻害剤の適応を考えるという時代が来るのかもしれません。
23ページ、最近、シグネーチャーということがよく言われておりますけれども、それが大変参考になった症例です。臨床診断は胃がんで、既往に肺がんがあったので、そのシグネーチャーを見てみると、肺がんのシグネーチャーだった。それを病理に返して、結果は肺がんの胃への転移ということがわかった症例です。こういうものも参考になります。ただ、これはエクソームで十分にできると思います。
全ゲノムで最も有効なものは染色体不安定性の問題で、25ページ、エクソームでもある程度はわかります。これは肺がんにおいてどのあたりの染色体に大きな変化があるかということは大体わかるのです。
その26番目のスライドを見ていただくと、これは全ゲノムでやると非常に明確になってきます。腫瘍で染色体の番号順に並んでいますが、大きな変化が正常と比べると認められる。これは、右に書いたような染色体異常があることを大体推定できます。エクソームでもある程度わかるのですが、ドットが50倍でプロットをできますので、誰が見てもはっきりわかるようになりますし、アレイCGHでもここまでは明確に推論できません。ただ、全ゲノム解析の手法は、多分この中でも議論になると思うのですが、これをやるにはロングリードのほうが多分いいと思うのですね。ショートリードとロングリードの選択が多分課題になるのではないかと思います。
27番目からは、生殖細胞系列の解析です。
結果的に、遺伝性腫瘍症候群が1.0%、米国の臨床遺伝学会のガイドラインにのっとっています。ただ、次の8.1%が大変問題で、臨床的には診断できないのだけれども、明らかな病的な生殖細胞系列の変異が遺伝性腫瘍症候群の原因遺伝子にあるというものが8.1%で見つかっています。これの本態が何なのか、今、追求しております。非がん性の遺伝病については優性10疾患に限ると、0.3%でした。これは、今回の課題とは少し別かもしれませんが、単一遺伝子劣性遺伝病は、今、2,277疾患ぐらいあるとどうも言われているらしいのですが、例えば、遺伝性のアルツハイマー病の易罹患性、ApoE4を見ると、高リスクが1%見つかりますし、保因者が15%見つかります。遺伝性早老症は、さすがに早く発病しますから0%なのですが、保因者が0.3%ぐらい見つかります。この全ゲノムをやると、こういうデータがより広汎に出てくることになります。
29番目のスライドを見ていただくと、日本人のデータが絶対に必要だという一例なのですけれども、これは、P53の変異、リ・フラウメニ症候群という遺伝性腫瘍症候群の代表例なのですが、1,600例ほど解析を終えた時点でP53のジャームラインの変異が2つ出てまいりました。しかし、数は非常に多いのでSNPsかなと思っていたのですが、P53のデータベースの最も信頼できるIARCのデータベースで確認すると病的変異と出てくるのですね。でも、こんなにリ・フラウメニ症候群患者がいるはずがないので、さらに日本人のSNPsを見ると、HOPEのデータだと1.0%・1.7%でCommon SNPになりますが、東北のデータで片方が0.7%、京都のデータベースで0.4%・0.5%、欧米のデータベースでいうと非常に低くなって0.003%となっています。ですから、このSNPは多分日本特有なSNPで、かつ、HOPEは静岡ですので、静岡に比較的多いSNPなのではないかと思っております。IARCに報告されているこの2つの症候群の報告は、東海地方の2医療機関から報告されておりますので、そういうこともあわせて考えると、単に日本人だけではなくて日本の地域まで考えた全ゲノムのデータベースが多分必須になるのではないかと思えるデータです。ざっくりのデータですが、SNPsを欧米と日本で比較すると、85%は共通するが、15%は日本人特有のSNPだということは言われておりますので、この点は今回のプロジェクトに非常に重要なポイントになるのではないかと思います。
非がん性の遺伝病、二次的所見が、10疾患に限っても0.3%出てくる。ほとんど突然死のリスクがあるもので、これは情報を開示して診療に生かしております。
31番目のスライド、最近注目されているクローン性造血が8.1%の患者さんに見つかっております。
33番目のスライドが、これは研究の中でこういうイノベーションがあるということを示すデータなのですけれども、今回のプロジェクトの中では融合遺伝子の検出をかなり一所懸命試みております。まず、第1次、完全に既知の融合遺伝子491種類を分析すると、全症例の1.8%に検出をされました。さらに、片側に薬剤感受性がある、ALK、RET、ROS1、NTRKで、パートナーは新しいものを探すという検出方法をやってみると、最初にスクリーニングで30症例が選ばれて、その中の19症例、63%で、片側は有名な遺伝子なのですけれども、もう片側が新規であるあるいは少し場所が違うというものが見つかりました。このデータからいうと、現在のパネルでは、薬剤が有効な症例について、全がんの中で0.5%を見落としているということになるはずです。ですので、この点も全ゲノムにとっては有利な点なのかなと思います。
34番目のスライドが、これまでのまとめ。
35番目のスライドが、技術的な課題、Fresh Frozenでなければいけないのか、リキッドバイオプシーやバイオプシーなどの検討も入ってくると思いますけれども、静岡がんセンターが1,000例を集めようとすると、一般の病院では500例程度。そうすると、例えば、年間3万例というと60施設が要ることになります。クオリティーなども考えますと、これは多分現実的ではない。この辺をどう考えるか。全ゲノムになるとカバレッジが100程度が上限ですので、精度という観点からいうとパネルのほうが圧倒的にいい。労力・時間・費用の概算ですが、定価ベースでいうと、1台のNGSで800症例をやって、試薬代が10億円かかって、1人で1年間動かして、これが38組ないと3万人には到達しません。これを5年間やる。そうすると、定価ベースで総額1000億のプロジェクトになるはずですので、このあたりが先ほどの御質問とどう絡んでくるか。
36ページ以降は、先ほどちょっと申し上げた目次案を別途参考資料2でつくっておりますので、これをまとめたものが書いてあります。これは、参考までにこういうベースで議論を進めていただければと思っております。
私からの話は以上なのですが、御質問は後ほど参考人の皆様と一緒に受けていきたいと思います。
先に進めさせていただいて、「有識者ヒアリング」という形にさせていただきたいと思います。これも質問を入れずに皆様に先に8分程度でお話ししていただき、あわせて質疑応答を行っていきたいと思っております。
最初に、川井参考人からお願いいたします。
○川井参考人 よろしくお願いいたします。
私は、希少がんの全ゲノム解析に関して、前半は希少がんの紹介、後半はそのゲノム解析についてのお話をさせていただきたいと思います。
ご存じの方も多いかと思いますが、日本における希少がんの定義として、2015年の希少がん医療・支援のあり方に関する検討会で、2つの定義が定められました。一つは、罹患率が人口10万人当たり6例未満という定量的な定義、もう一つは、日本独自の定義として、数が少ないがゆえに診療・受療上の課題が他のがんに比べて大きいもの、という定性的な定義です。これをイメージとしてポンチ絵にしてみたものがスライド2の左下です。2つの楕円で囲まれた小さな楕円は、希少かつ診療・受療上の課題も多い、いわゆる狭義の希少がん、そして、小さな楕円の外側で大きな楕円の内側のこの部分は、希少ではあるけれども臨床的には診療・受療上の課題が他のがんに比べてけっして大きくはないもの、ということになり、いわゆる希少サブタイプあるいは希少フラクションと言われるものも、この部分に入ってくるかもしれません。別の言葉で説明すると、狭義の希少がんとは、臨床病理学的に従来から一つの疾患として認識されており、その発生頻度がまれなもの、希少フラクションあるいは希少サブタイプとは、従来、臨床病理学的に一つの疾患、例えば、肺がんとして認識されていたがんの中から、共通した分子異常によって新たにくくられた希少な疾患群と整理できるかと思います。
もう一つ、臨床の現場から見た希少がんの分類を提示させていただきたいと思います。スライドではタイプ1、タイプ2と書かせていただきました。タイプ1は、腫瘍以外の疾患が多数を占める診療科が診療する希少がん、例えば、肉腫、目の腫瘍、悪性黒色腫など。これらの腫瘍は、治療にあたる診療科の医者の多くは腫瘍の診療に不慣れなため、患者さんが受診した際には、「これはうちでは診ることができないから専門医のところに行ってください」という対応になることが多いと考えられます。これはある意味集約化が進みやすい希少がんということもできるかと思います。タイプ2というのは、腫瘍性疾患が多数を占める診療科において治療される希少がん、例えば、GIST、小腸がん、Common cancerの希少フラクションあるいは希少サブタイプもここに入るかと思います。タイプ2の希少がんを診療する医師の多くはがんの治療に慣れておられるので、やろうと思えばがんの手術はできる、薬物療法もできる。しかし、まれな腫瘍なので、類似したもっと一般的な腫瘍に準じたサブオプティマルな治療が援用されている場面も決して少なくないのではないかと考えられます。このタイプ2希少がんの診療の向上のためにはガイドラインの整備などの対策が有効かもしれません。この先、ゲノム解析のための検体を集める、あるいは研究体制を整備するにあたっては、このような診療体制の違いも考慮すべきかと思います。
ここからは、狭義の希少がんについてお話しさせていただきます。スライド4枚目をご覧ください。横軸はさまざまながん種、縦軸はその頻度を表しています。左から右に行くに従って希少ながんになっていきます。人口10万人当たり年間発生数6例の線はここになります。ここから右側の腫瘍が希少がんということになります。どの分類を用いるかによって数は変わってきますが、欧州のRARECAREの分類に従って分けると、約190種類のがんがこの右側の希少がん、ロングテールの部分に入ってくると言われています。この部分を全部足すとがん全体の15~22%に達する。一つ一つの腫瘍は非常に希少ながんでありますけれども、それらを全部合わせるとがん全体の大体20%になると言われています。
スライド5は具体的な希少がんの疾患名を示しています。190種類をこえるさまざまな希少がんの中から代表的なものを抽出しました。緑がタイプ1、黄色がタイプ2の希少がんです。例えば、末梢神経・脳神経のグリオーマが人口10万人当たり年間0.01人、骨肉種は人口10万人当たり0.59人、軟部肉腫は人口10万人当たり3.6人、腎盂・尿管・尿道の上皮性腫瘍は3.8人、このあたりまでが希少がんの範疇に入ってまいります。希少がんの中でも非常に希少なものから比較的多いものまでさまざまなものがあることが分かります。
スライド6は、希少がんの医療上の問題を示したスライドです。「希少がん医療における不足・不適切」と書きましたが、希少がんは、ただまれであるがゆえに、医者の経験が少ない。教育・訓練が不足していて、不適切な診断・治療がなされやすい。情報が十分でなく、臨床研究あるいは基礎研究が進みづらい。このようなことがないまぜになって、個々の腫瘍のバイオロジカルなことを全て排除して、腫瘍が希少かそうでないかだけによって患者さんの生存率を分けてみても、明らかに希少がんの治療成績は、数の多い腫瘍に比べて悪いことが、日本の成績、欧米の成績から明らかにされています。ここまでが希少がんのオーバービューでございました。
スライド7をごらんください。これは、既に山口先生がお話しになったことでもありますが、がんのゲノム解析で何がわかるかを示したものです。その中で、希少がんにおいてはさらに、なぜ希少がんが希少なのか?ということももしかしたらわかるかもしれないと期待しています。非常に起こりにくいゲノム異常が原因となっている可能性、非常に数が少ない細胞が標的となっている可能性、あるいは発がん要因への暴露の差?といった希少がんそのものに関するヒントが分かれば面白いと思います。
今日は、希少がんの全ゲノム解析の例として我々が行った骨の肉腫に関する2つの実例を持ってまいりました。骨の肉腫は非常におもしろい年齢分布をしておりまして、若年者・AYAに好発する骨肉種・ユーイング肉腫と、成人・高齢者に発生する軟骨肉腫・MFHなどの2つの年齢のピークを示します。これらの腫瘍は全て、全国における発生数が年間数十例から数百例という非常にまれな希少がんです。
次のスライドをごらんください。国内の数施設で全10症例の軟骨肉腫の全ゲノム解析を行い、体細胞ゲノム異常の包括的な同定を行ったものです。これによって、軟骨肉腫の約20%の症例において軟骨細胞の分化に重要な働きをしているCOL2A1遺伝子のゲノム異常が認められることが明らかとなりました。もう一つ、軟骨肉腫における体細胞変異のパターンは、悪性黒色腫や肺がんとは異なって、全く予想していなかった前立腺がんと非常に強い相似性を示しているということもわかりました。
次のスライドは、小児・AYAに発生するユーイング肉腫の全ゲノム解析例です。これは国立がん研究センターを含む国際共同研究として行われました。非常に希少な骨の肉腫ですが、国際共同研究を行うことで50症例の全ゲノム解析が可能となりました。この研究では、40%以上のユーイング肉腫においてChromoplexyによってEWS-FLI1の融合遺伝子が形成されていること、さらに、原発巣と再発腫瘍の全ゲノム解析の結果、ユーイング肉腫における再発腫瘍は、非常に早期から、場合によっては原発巣の治療前から既に存在している可能性があることも示唆されました。
次のスライドをお願いいたします。希少がんの全ゲノム解析をどのような対象に対して行うかということでございますが、上の2つはコモンキャンサーと同じだと思いますが、臨床上の課題、生物学的な特徴、研究の実績、さらに希少がんにおいては、検体収集の可能性、フィージビリティーというところが問題になると思います。先ほどお示しいたしましたように、これまでの実績では、国内の基幹施設を集めて10症例、国際共同研究を行って50症例程度、このような状況を踏まえて具体的な症例数を考える必要があると思います。もう一つは、共同研究体制が非常に脆弱で不足している領域ですので、将来のためにも、その整備もあわせて行ってゆくことが非常に重要と思います。
最後のスライドですが、事務局から、希少がんのゲノム解析を行う場合、どのぐらいの数を実際に解析できますか、集められますかということを尋ねられましたので、非常に字が小さくなって申しわけございませんが、肉腫、成人グリオーマ、希少な頭頸部悪性腫瘍、希少な胸部悪性腫瘍、希少な腹部悪性腫瘍、希少な泌尿器悪性腫瘍、希少な皮膚悪性腫瘍、希少な血液疾患、小児がんに関して、日本全国のおおよその年間発生数、共同研究体制の有無、疫学的な特徴、標準治療の有無に関してまとめたスライドです。これらのデータは、国立がん研究センターの希少がんセンターの医師にそれぞれが専門とする領域に関する情報をいただいて取り纏めたものです。各腫瘍に関してさらに詳細なデータを提出することも可能です。全体として、希少がんに関しては、各疾患に関して数十例~数百例の全ゲノム解析というのが現実的な数ではないかと考えられます。
以上です。
○山口部会長 ありがとうございました。
謝らなければいけないのですが、さっき「ミナミタニ」先生と読んでしまって、「ナンヤ」先生ですね。大変失礼しました。
引き続き、村松参考人からプレゼンをお願いします。
○村松参考人 名古屋大学の小児科、村松秀城と申します。
小児がんについて、小児がんの概要とゲノム解析の特に症例数について、可能な部分について概算ということでしたので、特に机上配付資料として準備させていただきました。
スライド2からです。まず、ボリューム感ですけれども、全国のいわゆる成人も含めてがんは100万人がおられますけれども、我々小児の患者さんは、ここの赤枠の部分になっています。
この赤枠の地をはうようなグラフのところを拡大すると、スライド3のような形になります。我々が対象にしているものはその中でもさらに地をはう部分で、0~14歳でわずか2,100人、15~19歳が900人で、概算でおよそ3,000人、少子化が進んでおりますので、もう少し数としては少ないかもしれませんけれども、およそこういったサイズ感であります。小児がんは、言ってみれば、全てが希少がんであると言えるかと思います。
どういったがんがあるかということなのですけれども、スライド4になります。小児がんは、固形腫瘍が60%、白血病やリンパ腫といった血液腫瘍が40%を占めております。
次のページをめくっていただければと思います。小児がんでは、特に一番多いがんは小児急性リンパ性白血病なのですけれども、これはある意味がんの克服・治療開発としてはまさにモデルケースでありますが、数も比較的多くて、かつ、血液腫瘍でサンプルもとりやすくて、昔からいろいろなゲノム異常の理解がかなり進んでいたこともあって、そういったゲノム異常をもとに層別化治療を、特にターゲットセラピーがない時代から、順々に層別化治療を繰り返していくことで、多施設共同研究を繰り返していくことで治療が向上していったということは一つの成功例かと思います。ただ、ほかのがん種、特に白血病以外のがん種で同じような取り組みが十分にできているかというと、まだ十分でない部分があろうかと思いますので、ゲノム解析はぜひ進めていくべきで、特に白血病に関しても、まだわからない点、希少ということがありますので、やっていくべきであろうと思っています。
次に、6番のスライドですけれども、小児がんは、この後にも出てくるかと思いますけれども、いわゆるCancer Predisposition、がん素因、がんになりやすい家系等のもともとのジャームラインの異常が多く関係することが知られております。これは、セントジュードからの報告ではありますけれども、比較的多くのがん素因に関連する遺伝子変異が見つかる、小児に発症するというかなり特殊な状況であることを反映しているのかなと思っています。
次に、7番のスライドですけれども、私どもの施設でも、いわゆるゲノム解析、RNAシーケンスや全エクソーム解析が中心ですけれども、目の前の患者さんで解析を進めてやっていまして、非常に役に立つことを実感しております。1例は、まれな白血病で、RNAシーケンスをやってみますと全く予想不能な肺がんでみつかるALK遺伝子異常が見つかりまして、別の病院ではあったのですけれども、肺がんの治療をさせていただいたら、劇的な効果を示して治癒することができました。また、診断についても、我々は小児がんをやっておりますと、我々名古屋大学は一つのハイボリュームセンターではありますけれども、それでもこの先一生出会わないだろうなという非常にまれな腫瘍に出会うことがあります。そういった方は、病理の診断は非常に難しくてなかなか答えにたどり着かない。病理内の答えが二転三転することもしばしばなのですけれども、そういったときに非常に苦しむわけですが、この症例はRNAシーケンス解析でSMARCA4の異常、基本的にはこれは中年の男性スモーカーに出る腫瘍なのですけれども、それが若年の15歳の女性に出たということで、診断に非常に役に立つなということも実感しております。
8番のスライドは、先ほどの希少がんと同じですけれども、今、小児がんはロングテールの部分に集まってきまして、全てが希少がんかつ多種類で、我々専門医であっても二度と出会わないかな、キャリアの中でもう一回同じ患者さんに会うかなということがあります。特にまれな腫瘍について、いわゆるドライバーミューテーションは何かということが十分に理解できていないところもありますので、パネル解析だけで全てが解決する部門ではないのではないかなとは思っていますので、こういった網羅的な解析は十分に役に立つ腫瘍種類ではあろうかと思っています。
次のスライドで9番ですけれども、小児がんの患者さんとして、どういった検体を採取するのがよろしいかということで御質問がありましたので、まとめてみますと、家族性の腫瘍の可能性がありますので、もし前向きに検体がとれるようになれば、ぜひトリオの解析を進めていくとよろしいかなと思いますし、もちろん、腫瘍ですから、腫瘍と正常のペアの検体の取得の必要性、経時的な検体も、前向きであれば集めることができるかと思っています。
10番のスライドですけれども、小児がんの海外の先行事例で一番きれいにまとまっているデータベースで調べてみますと、セントジュードのクラウドが、各国のものも含めてということですが、小児がんのデータベースとしてきれいにまとめておられますけれども、まれな腫瘍の場合は十分に網羅されていない部分があるかなということと、研究ベースでよく定義された腫瘍についてこういったものであるということが報告されているということで、いわゆる分類不能がんというか、我々が実際に臨床でやっておると、このすき間に落ちてしまうような腫瘍はしばしば見受けます。そういったいわゆる分類不能がん、診断困難例については、最も役に立つ部分であろうかと思っています。やるべきことは残されているかと思っています。Unbiasedに小児がんを全例解析していくことは、シーケンスコストの低減があればということと、解析の方法論については南谷先生がおっしゃられたように検討すべき課題はあろうかと思います。症例数が相対的な少ないこと、また、小児がんでは、後で添付資料で示したいと思いますけれども、多施設共同研究のグループも存在しておりますので、みんなで協力してということができますので、実行可能ではあろうかと思っています。
続きまして、机上配付、緑色をつけさせていただきました「小児がんについて」というほうを見ていただければと思います。
2枚目のスライドのところに、小児がんにおいて、全ゲノム解析等を推進するに当たり、優先すべきがん種は何かということなのですけれども、全てが希少がんですので、できれば、特に日本でどうかというと、特にまれな腫瘍について、どのように存在するのかということが十分にわからない部分、ゲノムで見たときにどうかということはわからないですので、プロファイリングという意味では、全例を見ると非常に科学的・疫学的には興味があるかと思いますけれども、さらにその中で絞ってということであれば、日本で発症頻度が比較的高いと言われていることがわかっている腫瘍にフォーカスを当てるのは一つの作戦かと思います。例えば、胚細胞腫瘍や慢性EBウイルス感染症等は東アジアで多いことが知られています。あるいは、若年性骨髄単球性白血病等、いわゆる今までのゲノムコホートの中に十分に網羅されていない腫瘍、先ほど申しましたような診断困難例、あるいは、そういったゲノムポータル等に相対的に登録例が少ない、比較的まれな腫瘍にアタックをしていくこともよろしいかと思っています。
3枚目ですけれども、既存のバイオバンク等でどのぐらい症例があるのかということなのですけれども、新規検体は、小児がん全体が3,000例です。次のスライドに示しますように、共同研究グループの中央診断に提出されている症例が、年間で固形腫瘍が800例、血液腫瘍が800例等で、約1,600程度の検体集積があります。あるいは、小児がん拠点病院を中心にということであれば、小児がん拠点病院で診療している患者さんがおよそ年間1,000例強おります。これまでに集積していた検体という意味では、なかなか類推することは困難ですけれども、全て合わせれば1万~2万はあるのではないかと思っています。まれな腫瘍については、各研究者レベルで質の高い臨床情報と正常検体を含めた検体が保存されているコホートもあろうかと思っています。
参考に、次のスライド4番のところには、固形腫瘍の中央病理診断が年間で今は800例程度の登録があります。
さらに、5枚目のスライドは、白血病、血液腫瘍では、フローサイトメトリー等の腫瘍診断にはおよそ800例強の登録があります。
JPLSGでは、疫学研究として登録を進めておりますが、既に1万例以上の登録がありますので、こういった患者さんのコホートにもアクセス可能かとは思っています。
最後に、我々のところで解析させていただいていたまれな腫瘍のコホート例ですけれども、研究者がずっと長年ためていって蓄積していったコホートは各研究者のところにあろうかと思いますので、いろいろな先生方のお力をおかりして集約して、日本全体の小児がんのゲノム解析が進めばよろしいかなと思っております。
以上です。
○山口部会長 ありがとうございました。
引き続き、古川参考人、お願いします。
○古川参考人 東大医科学研究所の古川です。
私は、「日本における遺伝性腫瘍の遺伝学的検査の現状」ということで御説明させていただきます。
2ページ目は、本日説明する内容です。
3ページ目にありますように、日本における遺伝性腫瘍に対する遺伝学的検査の実施数は非常に少ないです。昨年報告された日本衛生検査所協会からのアンケート報告でも、年間で約1,100例でした。その中で、保険でできる検査はRBとRETの2つの遺伝子のみで、合わせても100例にも満たないという状態です。残りの遺伝学的検査は、恐らくBRCA1・BRCA2に対する遺伝学的検査だと思われますが、昨年度、BRCA1・BRCA2の遺伝学的検査は、PARP阻害剤であるオラパリブのコンパニオン診断として保険収載されておりますので、今後、コンパニオン診断として増えてくる可能性が高いと思います。
遺伝性腫瘍を診断する意義は、患者さんの治療薬選択、フォローアップあるいはサーベイランスの選択に関して非常に重要な役割を果たしますと同時に、その家族に対する医療提供あるいは予防に関して非常に重要な意義があると思っています。例えば、遺伝性腫瘍の患者さんを1人見つけますと、そのお子さんが2人いれば、2人のうち1人が遺伝子変化を持っている可能性があります。また、その患者さんの御きょうだいが3人いれば、そのうち1人ないしは2人が遺伝性腫瘍の変異を持っている可能性があるということで、同じ世代あるいは次の世代の変異保有者のサーベイランスをすることによって、早期発見できるという大きな意義があります。
次のページをご覧いただきたいと思いますが、主な遺伝性腫瘍としては、17疾患25遺伝子があります。これは、ACMGというアメリカの臨床遺伝・ゲノム学会が提唱している、結果を返却したほうがいいであろうという遺伝性腫瘍です。17疾患ありますが、このうち1疾患を除く16疾患が常染色体優性遺伝です。
一般集団における遺伝性腫瘍の患者さんの割合は、いろいろな教科書に大体推定値で報告されておりますが、HBOC、遺伝性乳がん・卵巣がんは200名に1人ぐらい、大腸がんを中心としたリンチ症候群は250名に1人ぐらいということで、比較的高い頻度で遺伝子変化を持っている人がいることがわかっています。
7ページ目は企業からの報告からですけれども、遺伝性乳がん・卵巣がんは、乳がんの患者さんの3~5%、卵巣がんの患者さんの大体10%と報告されています。
次の8ページ目を見ていただきたいのですが、これは理研のグループがバイオバンク・ジャパンに集積している乳がんの患者さんの血液のDNAを調べた解析結果です。11の遺伝性乳がんに関係している遺伝子変化を調べたところ、BRCA1・BRCA2には4.16%に病的バリアントを見つけ、それ以外の関連遺伝子に関しても調べていくと、合わせて5.7%に遺伝性腫瘍原因遺伝子の病的バリアントがありました。非常に高い割合で乳がんの中で占められていることがわかります。
実際、現在、どういう患者さんに遺伝子検査を提供したらよいのかということは、アメリカのNCCNがガイドラインを出しています。9ページ目、10ページ目を見てもわかりますように、非常に細かいクライテリアがあって、これが年間に2回・3回とバージョンアップをされていますので、専門家でもこれは覚えていません。 私たちも時々このガイドラインを参照していますが、実際にこれを適用することは非常に難しいということで、HBOCコンソーシアムでは、次に示しますような「かんたんチェック」といった、簡略化したチェック項目によって拾い上げを推奨しています。
次に、大腸がんに関しましては、リンチ症候群が4~5%、家族性大腸腺腫症を中心としたポリポーシスが1%未満と報告されています。それ以外にも遺伝的要因がかかわっていると考えられるような腫瘍が15~20%を占めていると言われています。
13ページは、リンチ症候群の拾い上げですけれども、1999年にアムステルダム基準が作成されて、これが一般的に使われている基準です。その後に、マイクロサテライトインスタビリティーを調べたほうがいいというガイドラインが2004年に報告されていますが、実際のところ、これらを使って全ての患者を網羅的に拾い上げることは難しいこともわかっています。現在では、ユニバーサルスクリーニングと言って、年齢を若年者に絞って全ての大腸がん患者を調べたほうがいいというガイドラインが欧米で出ていますので、海外では若年者の大腸がんに関して全員が調べられているという状態です。
14ページは、我々が日本の124施設との共同でHNPCCの登録と遺伝子解析プロジェクトとして行った結果の報告です。124施設が参加しましたけれども、実際に検体を送ってくれたのは50数施設でした。134症例のアムステルダム基準を満たす患者さんの検体が東大医科研に送られて、我々のところでは原因遺伝子3つについて解析をして、がんセンターに結果を報告するというプロジェクトが行われました。このプロジェクトの中でわかったことは、大腸がんの中の大体2.1%がこのクライテリアを満たすということ。クライテリアを満たした中の111例に関して解析したところ、大体60%に病的変異が見つかりました。しかしながら、見つからない症例も大体40%あることがわかりました。非常に興味深いのは、遺伝子変異のタイプですけれども、下に示されるようにLarge deletionあるいはDuplicationが27%もあって、普通のパネル解析だけではこれらの患者さんは見逃されていた可能性が高いことがわかっています。
次に、ポリポーシスの中で家族性大腸腺腫症に関しましては、ガイドラインによってこのフローチャートに従ったような拾い上げが行われていますが、実際はこの臨床的にポリープがたくさんあるというだけでは診断ができません。特にポリープが少ない場合には、ほかのポリポーシスが関係するかのうせいがあります。FAPとMUTYH関連ポリポーシスでは、MUTYH関連ポリポーシスは劣性遺伝で扱いが違いますので、遺伝学的検査が必須になります。
全ゲノム解析について言いますと、これは我々のところで解析した症例ですけれども、家族歴のない29歳のポリポーシスの患者さんの検体が、APCの原因遺伝子には異常がないということで我々のところに送られてきました。全ゲノム解析をしてみると、APCのプロモーター領域に10キロベースのLarge deletionがあることがわかりました。しかも御両親や妹さんも解析したのですけれどもないことから、これはDe novoの変異と分かり、遺伝性疾患なのですけれども、両親からは受け継いでいない。この方から発症した新しい変異であることがわかりました。
もう一つ、遺伝性腫瘍が発見されるきっかけですけれども、がんパネル検査における二次的所見があります。次のページに示しているものは、NCCオンコパネルのTOP-GEARプロジェクトとして行われた200弱症例の解析結果ですけが、その中で187症例中の6症例にSecondary findingsとして、BRCA1、P53、MSH2といった遺伝性腫瘍関連遺伝子に生殖細胞系列の変異が見つかっています。
18ページはAMEDの小杉班でまとめられたゲノム医療における情報伝達プロセスです。二次的所見に対してどうアプローチをするかということを提示したものですが、病的変異の中で有用なものは返していくべきだということが示されています。ただし、どういう遺伝子に関して返すべきかということはまだ検討課題で、今、提唱されているものは今年の1月に報告されているがん遺伝子パネル検査二次的所見開示遺伝子案として出されています。疾患のガイドラインがあって、サーベイランスのプログラム等の推奨があるものということで、以下の表のような遺伝性腫瘍に関しては結果を返していったらどうかということが提唱されています。
海外の状況ですけれども、遺伝性腫瘍に関しましては、当初、例えば、ミリアド等がBRCA1・BRCA2を個々の遺伝子について調べていたのですけれども、今はパネル解析が中心です。この原因は、アメリカでも保険でできる検査は1回だけなので、1遺伝子をやって見つからなかったらほかの遺伝子というわけにはなかなかいかないということで、パネル解析が進んでいます。しかしながら、その先を見越して、エクソーム解析や全ゲノム解析といった取り組みも始まりつつあります。
アメリカのASCOでは、これらのパネル解析あるいは全ゲノム解析の中でどのようなことに気をつけるべきかということを5つ提示しています。その中では、パネル解析の利用法あるいは二次的所見の利用法、遺伝学的検査に対する品質保証や専門医の教育、医療サービスの提供について考えるべきということを提唱しています。
これらのことから、今回、この遺伝性腫瘍に対する全ゲノム解析としては、まず、対象者をどういう人にするのか。とりあえずがんパネル解析の中で二次的所見としては見つかりますけれども、臨床情報をもとにした対象者の選別ということをやっていくのかどうか。検査体制をどうするのか。人材育成をどうするのか。医療提供あるいはデータの利活用について、今後、検討していくべきだと思います。私としては、既に集積されているBBJのサンプル等を使うことが一番効率的ではないかと思います。以前に行われたリンチ症候群のゲノム解析でも、120数施設で大体5年間やっても134例ですから、集めることが非常に困難だと思います。
それ以下は参考資料として、実際にBBJではどれぐらいの検体が集められているのかということを紹介しています。至急調査をしてもらったので正確な数値ではないかもしれませんが、大体の検体数がここに示されています。 第1コホートは、そもそもSNP解析でしたので、シーケンス解析をしないということで検体が集められていますが、第2コホートではシーケンス解析をすることを了解してもらって同意を得た患者さんの検体数ですので、第2コホートの中から患者さんを選んでいくことがいいのではないかと思います。既にBBJのサンプルを使った理研のプロジェクトでは、先ほど紹介した乳がんに関して7,051例、最近、前立腺がんに関しては7,626症例の解析が行われています。これらはパネル解析で、それぞれ11遺伝子・8遺伝子のパネル解析が終了しています。遺伝性腫瘍の可能性が比較的高いがんの臓器としては、大腸がん、前立腺がん、乳がん、子宮体がん、卵巣がん、膵がん、胆嚢・胆管がんがありますが、その中で家族歴がある症例(悪性腫瘍の家族歴ですけれども)は、一親等、二親等はわかっていませんが、各腫瘍で4,000例から228例ぐらいまで広がりで検体が集まっています。
以上であります。
○山口部会長 ありがとうございました。
それでは、土原参考人からお願いします。
○土原参考人 「海外の取り組み 英国10万ゲノムプロジェクト」に関しまして、厚労科研の鈴木班で、今年度、調査をしております。7月にGenomics England、NHSに視察に参りまして、幹部の皆さんと情報交換をしたときの内容をきょうは御紹介いたします。きょうの引用で使っております部分は、ことしの8月に英国の病理学会でGenomics Englandの幹部が発表した内容のウエブ上にあるものを引用という形にしておりますが、今回視察のときにも同じ内容の説明を聞いたというものであります。
スライドの2枚目になります。Genomics Englandにつきましては、先ほど山口先生の発表の中でも既に要約がされておりますが、2012年にコンセプトが発表されまして、パイロット期間を経て、2015年から本格的な運用が開始されて、昨年12月に10万ゲノムの解析が達成したというニュースがありました。これは、シーケンスが終わったということでありまして、この後、臨床情報等のデータクリーニングがまだ進められているところであります。昨年からですが、ことしから新しく将来的に500万人の英国人のゲノム解析をするというところを、新しくNHSのプロジェクトとして発表されております。
3枚目のスライドですが、これが10万ゲノムを行ったときのサンプルとデータの流れの概略になります。「症例登録」と書いてある部分が、NHS England、いわゆる英国の公的な医療機関全てのところから症例が登録をされ、サンプルが提出されるという仕組みになります。検体がバンキングされるところ、バイオセンターというところに集約をされて、このバンキングの仕組みが、これはGenomics Englandとは別組織ということになりますけれども、充実をしていたというところであります。ゲノム解析は、1カ所のデータセンターで集約的に行われまして、右側、緑色のデータというところでありますが、この中でゲノムデータと臨床データの突合が行われます。要するに、NHSの電子カルテの情報がそのまま使われるということ、NHSが持っている経時的なデータ、ロンジテューディナルデータとも突合がされる。それから、いろいろな二次的なデータとも突合がされるということになります。まずは、この顕名の部分が患者さんあるいは担当医に返されるということで、臨床でのデータ利活用をされるということ。それから、匿名化をされた研究利用のためのデータがつくられます。これが外部のユーザーからアクセスができる。これは、いわゆるアカデミアの研究者だけではなくて、インダストリアル、産業界の開発のためにも利用ができるという仕組みがつくられていました。
4枚目に行きまして、現在、これが7月にデータリリース7という形でまとめられたもので、11月に次のリリースが予定されておりますけれども、この時点で、ゲノムデータは10万以上、臨床情報も9万以上が格納されている。ただし、がんにつきましては、先ほど山口先生のお話にもありましたけれども、ゲノムデータで2万6000強、臨床情報でも1万7000強にとどまっていることが現状でありました。理由につきましては、これも山口先生が先ほどお示しになったとおりであります。
このときの10万ゲノムの中のがんのサンプルにつきましては、いわゆる網羅的というか、実臨床の中で集まってくるサンプルがそのまま集められるということで、特にがん種の制限等が行われておりませんでした。そのため、5枚目にお示ししますとおり、英国で頻度が高いがん、乳がん、大腸がんといったところが多く登録をされたというところであります。
その中で、それぞれのグラフの中の数字が実際に違っているものは、発表あるいはまとめられた時期の違いであると思いますので、割合というところで見ていただければいいと思うのですけれども、6枚目では、そうした解析がされた中で、治療標的となり得るゲノム異常が約半数で見つかったというところをグラフにしてあります。これも当然がん種によって異なることは、先ほど山口先生が御紹介されたとおりであります。もう一つ、ここで指摘をしなければいけないのは、ここで治療標的となるゲノム異常は136個の遺伝子に限っているということでありまして、ある意味、これは全ゲノムでなくてもわかるものであるということになります。NHSでは、こうした全ゲノムの解析と並行しましてパネル解析を実診療の中では使っておりますし、現在、これがゲノムディレクトリーという形で、実診療の中で、基本的にメーンで使われるものはパネル解析になっております。
7枚目ですが、そうした中で、10万人、がんで2万例強の全ゲノム解析を行って、臨床的有用性はどこにあったのかというところを、Genomics England側で強調していた部分になります。1つは、正確な腫瘍変異負荷、Tumor Mutation Burdenが算出できること。アミノ酸をコードしない、いわゆるパネル検査やホールエクソームの解析では見つからないゲノム領域の異常が検出できること。構造異常が検出できること。変異シグネーチャーによって発がん原因の推定ができること。恐らくこの4点で、これはどの研究者に聞いてもこうしたところになるかと思います。ただし、これが臨床的に実臨床の中でどの程度有用かということを考えますと、例えば、TMBの推定に関しては、最近では多遺伝子パネル検査でもかなり正確に予測ができるようになっております。アミノ酸をコードしないゲノム領域の異常等につきまして、そういったものが非常に病的なものがわかりますと、パネルの中にむしろ入れられてくるということでありまして、なかなかパネル検査に対しての有用性をこうした面のみで示すことは、特に多くの症例を対象にするような場合には、難しいのではないかということが正直なところであります。そのほか、構造異常や変異シグネーチャー云々は、非常に有望なというか、魅力的な部分ではありますけれども、現時点ですぐに治療標的になるかあるいは予後診断のマーカーになるかという面で考えますと、まだいわゆる臨床のエビデンスが集積していないところで、いわゆる標準的な治療としてこういったものを全て活用することは、現時点では若干難しいことが現状かと思います。ただし、いわゆるディスカバリーのツールとしては非常に魅力的だと思います。膨大なゲノムのデータは、この後、掘っていけば見つかる可能性が高いと思いますが、それには必ず充実した臨床情報であったり、ほかのオミクスの解析等にも用いられるバンキングされた良質な検体がセットになって初めて効果を示すものではないかと思います。
8枚目、その実例になりますけれども、NHS、英国では1つのシステムの中に全ての国民の健康情報が集約されることになります。そこでHealth Data Research UKという、これはまた別の組織になりますけれども、ここで統合されている健康データと全ての症例のひもづけが理論的には可能である。そのグラフにありますものは、10年以上にわたります、赤いところが、実際に医療の記録上でがんに関する治療が行われた経過ですけれども、青で示してありますような、例えば、それこそ風邪一つ、糖尿病一つ、がん以外の病気の治療データも、電子カルテであれば拾うことができる。しかもそれは全ての医療機関で統合されたデータになっているのでこういうことができるということで、これはいわゆる研究目的で集めた臨床情報では到達できない部分になります。
9枚目、今度はその研究利活用のところでありますが、先ほども申し上げたとおり、産業利用ということを前提としておりますが、これを彼らは「Discovery Forum」という名前をつけまして、データシェアリングを行おうとしております。今はまだ10万人のデータを固定している最中ということですので、実際の利活用はこれから進みます。そういう状況ではありますけれども、既に100以上の民間企業が参加をしているというところであります。
10枚目が、英国における次期プロジェクト、いわゆる500万ゲノムの組み立てになりますけれども、このうち50万を疾患ゲノム、特にがんに割り振るといったことが予定されておりまして、がん領域では、希少がん、小児がん、遺伝性腫瘍、治療抵抗性症例の解析を重点的に実施することと、ゲノム以外のオミクス解析や、電子カルテ以上のライフログの収集、AIによる診断開発等のプロジェクトも、今後、推進するという枠組みを想定しております。
最後のスライドで、以上、英国での視察の事例を踏まえまして、日本で全ゲノム解析を推進するに当たって、私見をまとめております。現時点では、臨床的有用性というよりも研究リソースとしての価値が高いと思われます。研究リソースとしての価値をより高めるためには、恐らく目先の有用性だけではなくて、将来への投資であるという視点を持たなければならないと思います。その意味では、検体バンキングは充実させなければいけませんし、経時的なサンプリングも行われる、追跡が可能であるということ、臨床情報に関しては、私は「re-contact」と書きましたけれども、いつ必要な情報が何になるかということが現時点でわからなければ、後々、電子カルテ等にアプローチをして、追加の情報がとれるという体制が必要だろうと思います。また、こうしたゲノムやインフォマティクス等も含めた人材が不足しているところに関しては、当然育成も必要です。これがGenomics Englandを視察して一番感じたことなのですが、インパクト、スピード感といったところのアクセントをつけることが非常に大事だろうと思います。Genomics Englandは、企業の形態をとっております。その理由を尋ねたところ、決定判断の迅速性を担保することと、リスクをとることができることを彼らは強調していました。リスクをとるとはどういうことかというと、もし失敗すれば会社を潰せばいいと、それぐらいの覚悟を持ってやっているということだろうと思います。その中で、ターゲットにすべきところに関しましては、Genomics England等で行っているものは国際的なデータ統合が必須ですので、ある意味、日本人データであることの強みが出ますし、日本で好発するがんについても国際的な価値が高いと思います。一方で、特に産業利用等々も考えますと、世界との競合に勝てるところをどこに設定するかだと思います。そうなってまいりますと、がんゲノム医療の境界を広げるという意味で、今、特に実診療の中で取り上げている進行がんだけではなくて、早期がんや手術後、その後、再発や治療抵抗性を獲得して、最終的には亡くなるまでの長期的なフォローがしっかりできている。1人の患者さんで、例えば、10ポイントぐらいのゲノムデータがとれるという症例は非常にインパクトがあるものになるのではないかと思います。また、こうした特に開発領域にもし活用するとすれば、どんどん治療が変わっていきますので、目標は、今、決めて、10年間じっくり守るではなくて、その都度変えるぐらい、ある意味、柔軟性は必要だろうと思います。そのほか、国際的なデータシェアリングや標準化、基礎研究、TRとのタイアップは言うまでもないことだと思いますので、これは班としての見解ではありませんので、1週間視察をしたときの私の私見でありますが、まとめてみました。
以上です。
○山口部会長 ありがとうございました。
引き続き、榑林先生からお願いします。
○榑林参考人 それでは、説明差し上げます。
まず、スライドの2枚目に、「がん治療薬市場の概要」をまとめましたが、これは先生方もよく御存じの内容と思います。日本のがん治療薬市場サイズは約1.5兆円、世界では16兆円、患者数が非常に多いことを反映して、製薬産業界の中でも非常に大きな研究開発投資の対象となっています。スライドの左側に示しているとおり、がん治療薬市場では、日本の企業も善戦していますが、欧米のメガファーマが非常に強い存在感を示しています。一方、がん治療の満足度は、約50%というところで行き詰っているのが現状ですが、数多くの優れた新薬が開発された結果、がん治療における薬剤の貢献度は上がっています。資料は製薬協の資料です。
3ページ目、「主ながん治療薬と最近の開発状況」を纏めました。時間の都合で詳細は省きますが、奏効率が高く副作用が少ない分子標的薬が現在のがん治療薬の主流でございます。また、先ほども触れましたけれども、製薬企業の研究開発意欲は非常に高いものでありまして、2005年と比べると、研究開発のパイプラインの数は約3倍にふえています。
次のページをお願いいたします。とはいえ、従来のコーディング領域を対象としたエクソーム解析では、新しい治療薬の創薬の手がかりとなる創薬ターゲットが見つかっていないがんがまだ数多く残されておりまして、キナーゼ阻害薬及び免疫チェックポイント阻害薬に続く新薬開発に手詰まり感があることが現状です。こういった状況で全ゲノム配列の解析によって新たながん化のメカニズムあるいは薬剤耐性機序の解明が加速され、その結果ターゲット探索空間が大幅に広がることが期待されることから、アメリカ・ヨーロッパ・中国では政府主導による大規模な研究が進められています。これは「米」と「中」の間に「欧」が入っていたのですけれども、抜かしてしまいまして、これは書き加えておいてください。その下の図は、創薬ターゲットが解明されていないため新薬開発が進んでいないがんの例です。いわゆるPan-negativeの肺がん、これは肺がん患者さんの約30%を占めます。またTriple-negativeの乳がんは全体の15%ということで、こういったメジャーキャンサーが創薬の手がかりがなく、新薬開発が行き詰っています。
次をお願いします。「主要各国の取り組み状況」ですが、既に山口先生と土原先生が詳しく述べられているので、簡単に済ませたいと思います。主にがんを対象にした全ゲノム解析の国家プロジェクトが、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスなどで展開されておりまして、全ゲノムの情報解析拠点が各国に設置されています。非常に精力的に研究が推進されていることがわかります。
次のスライドには「ゲノム研究手法の推移」を示しました。ゲノム研究の手法が、従来のGWAS、すなわちゲノムワイド関連解析からエクソームシーケンスの解析に、そして最近では全ゲノムシーケンス解析へと推移していることがわかります。こういった研究手法の変化に合わせ、データ共有のための国際的なルールづくり・仕組みづくりが喫緊の課題となっています。
次、お願い致します。「がん全ゲノム配列解析が拓く新たながん創薬アプローチ」として、全ゲノム配列を起点とした創薬の進め方をまとめました。ここで申し上げたい点は、今日は全ゲノムの解析の意義に主眼が置かれた部会だと承知しておりますけれども、一方で、ゲノムの配列だけがわかってもそれだけでは創薬にはつながらないということです。全ゲノム解析を起点とする新たながん化メカニズムの解明や創薬ターゲットの探索には、人工知能の開発が必須の課題です。全ゲノム配列の情報は患者さん1人当たり30億塩基対という膨大なもので、また次のスライドで説明申し上げますけれども、全ゲノム配列だけではなくてエクソーム解析、エピゲノム、トランスクリプトームといったいわゆるマルチオミクス解析も、創薬研究には非常に重要なファクターになっています。そうすると、扱う情報量が膨大になってしまうため、従来の統計学的手法では、遺伝子変異にしても、立体構造にしても、解析ができないため、新しい人工知能の開発を並行して進める必要があるということです。例えば、ゲノム情報から原因遺伝子等の特徴量を抽出するAIや、異なる種類の複雑なデータから患者をクラスタリングするAIなどの開発など、課題はたくさん残っています。また、一方で、ゲノム配列の解析結果から創薬ターゲットを絞り込んでゆく場面では、解析結果の解釈や推論を支援する知識ベースも重要になってきます。この点については後ほど少し詳しくお話ししたいと思います。こういった人工知能や知識ベースを活用した解析から、革新的新薬のターゲットの発見が期待されます。また、遺伝子変異、DNAの立体構造、多因子複合などの創薬に直接結びつくもの以外に、患者さんの層別化バイオマーカーもがん全ゲノム配列の解析によって新しいものが見つかると期待されています。創薬ターゲットに目星がつけば、現在、抗体医薬、低分子創薬・中分子創薬、核酸、細胞治療など、さまざまな医薬品モダリティの開発が相当進歩してきているので、新しい薬の開発は比較的短期間で実現できるのではないかと考えています。新しいがん治療薬の開発によって、国民のがん医療の質の向上、すなわち、難治性がんあるいは既存薬剤無効や耐性がんなどといったアンメットニーズが解消されることが期待されますし、一方、新たな患者層別化バイオマーカーの発見によって、個別化医療の充実・進展も期待できます。また、医薬品産業という切り口から見てみますと、新薬探索、ドラッグリポジショニングあるいは臨床治験の効率化が期待され、産業の成長・競争力の強化もあわせて期待できると考えています。
次は、この全ゲノム配列解析から創薬を行うに当たっては、ゲノムの配列情報だけではなくて、非常に多くのその他のデータが必要になることを申し上げたいと思います。すなわち、ホールゲノム、ホールエクソームだけではなく、エピゲノム、RNAシーケンス、ChiP-seq、等の解析情報が創薬標的のあぶり出しには必要になります。また、こういったデータと一つ一つ突合できる、患者の基本情報、検査・治療内容そして転帰といった臨床データも必要です。なお、このスライドに記載したマルチオミクス解析データおよび臨床データのセットは仮想のものではなく、現在、内閣府の官民研究開発投資拡大プログラム、「PRISM」と略しますけれども、その事業において、医薬基盤研が国立がんセンターとタッグを組んで実際に行っているデータ収集の実例です。
次をお願いいたします。「電子化知識の洪水」とタイトルをつけていますけれども、現在、科学論文等の電子化知識が、到底人智・人力では処理できない膨大な量に増加しています。こういった電子化知識の洪水時代に対応するためには、今まで以上に自然言語処理技術の開発に力を入れて、膨大な科学論文や治験情報などから必要な知識を自動抽出し、データベース化するといった研究開発も重要です。例えば、Watson for Genomicsは非常に有名なAIですけれども、医薬基盤・健康・栄養研究所でも、遺伝子情報と生体分子間の相関性や相互作用の検索や推論を支援する世界トップクラスの知識ベースを構築しています。
こういった研究が全ゲノム配列解析を薬づくりにつなげるためには非常に重要なポイントであることを、繰り返しではございますけれども、強調したいと思います。
最後に、「全ゲノム配列解析時代の体制整備」ということで、私が重要と考えているポイントを4つほどまとめました。日本は、欧米に比べてゲノム解析領域での体制やシステムづくりが遅れている観は否めないと思います。この点をキャッチアップしていくために、まず、厚生労働省が取り纏めている「がんゲノム医療推進コンソーシアム計画」に沿った「がんゲノム情報管理センター」を設置するなどして、ゲノムデータの標準化・収集・管理を1カ所に集約して、国の力をまとめ上げるインフラを整備することが必要ではないかと思います。次に、ゲノムデータ、医療データの利活用の推進というところで、先ほど土原先生も少し触れておられましたけれども、これまでだとゲノムデータを獲得した先生がみずから中心になってそれを解析するというケースが多いと思うのですけれども、もっといろいろな人がデータにアクセスをして多様な切り口から解析をすることが非常に重要ではないかと思っています。がんに限らず、日本ではメディカルAIの開発が期待どおりになかなか進んでいかない原因の一つは、ゲノムを含む医療情報にデータサイエンティストがアクセスする機会が非常に限定されていることにあると思います。ゲノム情報の利活用推進のためには、このような状況を改善するための施策が必要ではないかと思っています。もう一つ、コストの問題があります。これは1,000ドルゲノムという言葉があって、実際に海外では10万円程度で全ゲノム配列の解析ができるのですが、日本では全ゲノム配列解析を国内事業者に委託すると、その3倍位はかかります。この高コストは明らかに日本の弱みと言ってもいいのではないかと思います。国の力や企業努力でできることは限られていると思いますが、全ゲノム解析にあたっては費用がボトルネックになっているということを申し上げたいと思います。4番目は、月並みですけれども、創薬に限らず、全ゲノム情報を新しい医療の創出につなげようとすると、産学官医の緊密な連携が必須です。
 
最後「主要国全ゲノム情報解析拠点の整備状況」の資料ですが、既に何人かの先生から同じ内容のお話を伺いましたので、ここでは省略させていただきます。
以上です。ありがとうございました。
○山口部会長 ありがとうございました。
このあと、構成員の先生方にまずは3分間、お一人お一人に御発言いただき、その後、全体討論の時間を少しとってございます。その3分間の中でも結構ですし、全体討論の中でも結構ですから、もし、私のプレゼン、事務局のプレゼン、参考人の皆さんのプレゼンに御質問があれば、今の機会あるいは後の残された時間でやっていただくことにさせていただいて、まず、安川構成員から御意見を賜りたいと思います。
○安川構成員 ありがとうございます。
御紹介いただきました、安川でございます。
本日は、個社の代表としてではなく、研究開発型の製薬企業の業界団体である日本製薬工業協会、以下「製薬協」といたしますけれども、その代表として参りました。
製薬協に属する製薬会社としましては、創薬や個別化医療に資する具体的な実行計画を検討し、将来的にその成果が医薬品として世の中に届けられるよう貢献したいと考えております。
その精神は、資料2-1のページ7~9にうまくまとめられていると思っておりますけれども、この観点から日本人の全ゲノム解析を実現する本計画には、基本的に賛成でございます。
以下、創薬研究の視点から、実行計画を作成する上で御検討いただきたい論点、要望を申し上げます。
まず、英国、Genomics Englandの取り組みに倣いまして、最初から産業利用を積極的にうたった取り組みとなることを宣言していただき、そのように体制を整備、実行していただきたいと思っております。既に、英国を初めとしまして、先行する同様のプログラムがあるゆえ、パイロット研究の積み重ねなど段階的な実行ではなく、時間的なことを配慮いただきまして、一挙に実行していただきたいと考えております。我々も日本人向けの薬だけをつくっているわけではございませんので、利用できるデータから利用してしまいます。もちろん消化管のがんとか、肝がんとか、アジアに頻発するがんもございましょうけれども、遅くなるほどでき上がるデータベースの価値は下がってしまうと考えております。
実行計画の策定に関しては、以下のような論点が重要と考えます。
まずは、同意の取得方法でございますけれども、複数の参考人の先生方からも御指摘がございましたとおり、将来の産業利用、今は考えられない将来の解析に耐え得るような包括的な同意を被験者の方々から得ていただきたいと思っております。将来、同意の再取得が必要という場合には、患者追跡が困難、あるいは死亡が考えられます。これらを阻止するための措置でございます。
検体の処置、保管については、当初、山口先生のお話にありましたとおり、Genomics Englandの教訓を生かしまして、Fresh Frozenがベストの手段だと思っております。実験プロトコルは厳格に定め、研究拠点、手法の差などによる結果の違いが生じないよう考慮すべきと考えております。
3つ目、これは言うまでもないことでございますけれども、臨床情報の量と質に関しても精査が必要でございます。創薬研究に役立つような情報がなるべく集まった形で収集していただきたいと考えます。
患者さんへの再コンタクトができる体制をつくっていただきたい。研究において、ゲノムや患者さんの情報は1点だけ、1時点だけということで十分ということはなく、タイムリーに再度の検体提供あるいはカルテ情報の提供をお願いする場合もございます。また、データが匿名化された後に患者さんに戻れないような仕組みは望ましくなく、必要に応じて患者さんへの再コンタクトが可能である体制を望んでおります。
これらの論点に加えて、以下3つの要望がございます。
本取り組みを通じた創薬研究の成果として、これまでに見つけられなかった新たな遺伝子変異、薬物抵抗性のがんについて新しい変異を発見することが期待されます。したがって、希少がんや小児がんなど特定の疾患に偏ることなく、頻発するがんのデータもとっていただきたいと思っております。何がんがいいかということは、個社の研究目標が異なっておりますので、業界団体として特定することは、いたしかねます。
データの開示でございますけれども、目的によっては、比較的少数のデータで解析可能なものもあると存じます。計画の終了を待って公開するのではなく、状況に応じてデータを公開していただき、タイムリーな解析ができるような体制を整備していただきたいと考えております。
最後でございますけれども、データのユーザーとなり得るであろう製薬企業だけではなく、データを取得するためのシーケンサーを製造している会社、医療機器関連企業等も入れて議論をすべきではないかと考えます。
以上でございます。
○山口部会長 ありがとうございました。
それでは、並んでいる順番で恐縮なのですけれども、宮野構成員からお願いします。
○宮野構成員 特に意見を持っているわけではございませんが、幾つか質問をさせていただきたいと思います。
山口先生に、全エクソーム解析のときのターンアラウンドタイムがどれくらいか。がん種によって違ったり、またやるとかという時間があるかと思うのですが、どれくらいでやってこられたのでしょうか。
○山口部会長 初期でしたので、かなり時間はかけました。解析そのものは早いのですけれども、例えば、500例で立ちどまって、もう一度全部データを整理し直してということをずっとやってきましたので、最終的に患者さんに返す時間は、初期のころは半年や1年かけましたが、今は大分早くなっています。
○宮野構成員 それと、そういったシステムの関係ですが、Laboratory Information Management System、LIMSと呼んでいますが、それはどういうものを導入されておられたのですか。自前でつくられているのですか。
○山口部会長 インハウスでつくったものを、本当に手作業でやってきたということが実態です。
○宮野構成員 わかりました。大変御苦労されているという様子が理解できました。
それと、外国の状況をいろいろ皆さんからお伺いしたのですが、シーケンサーはイルミナのNovaSeq 6000が出て600ドルぐらいまで下がりましたが、今、中国にMGISEQ-T7というものがことし出て、試薬代は5万1000円ちょっとというもので見積もりが上がってきたりしています。1セットで1億1000万円、1ランが24時間で、6テラベースを出すというものが出てきています。住商ファーマが代行輸入をしているということです。そういうふうになって、去年とことしは随分と変わってきている。
山口先生の資料の中にスパコンとAIが必要、先生の講演の中にもAIが必要ということが出てきましたが、全くそうだと思います。
一方で、私はヒトゲノム解析センターのスパコンの運用をしてきた人間として、スパコンは要らないということを言い始めているのですが、実際、去年ぐらいからことしにかけて変わってきたことがあります。それは、GPUを搭載した非常に安い計算機で、1500万円程度のものですけれども、全ゲノムシーケンスのデプス150のマッピングの時間が、今、1時間半でできます。これはGATKというパイプラインを使った場合です。
そういうふうに、インフラ的にも非常に安く早くできるようになってきております。
もう一つ、私が感じているのは、がんの医療はデータとの格闘技の部分が相当ふえてきて、それをどういうふうに情報システムとしてつくっていくか。その情報システムの入力・出力の部分には、医師や患者さんといった非常にデリケートなものがあり、それをうまくつないでいけるような情報システムをつくっていくことが私は重要かと思っております。
以上でございます。
○山口部会長 ありがとうございました。
参考人の方から、何か今の御質問あるいはコメントについてお言葉はありますでしょうか。
よろしいですか。
引き続き、南谷構成員、お願いします。
○南谷構成員 ありがとうございます。非常に勉強になりました。
ホールゲノムの実際の運用に関しまして、多分日本の中では今まで肝がんと胃がんですかね。私は、造血器腫瘍を約400例やってきています。このホールゲノム解析の報告が海外から上がってくる中で、これは別にホールゲノムでなくてもいいではないかという結果が多く出てきているという現状があって、その中でホールゲノムでなければいけないという結果も散見されている。現在、後者の部分にフォーカスが当たっていて、ホールゲノムの必要性がうたわれているわけです。
では、ホールゲノムでなければ出せない結果をどの程度見込めるのかという点は正しく見積もる必要があります。どういうことかといいますと、ホールゲノムを100件・200件やって、そういったパブリケーションや、新しい発見につながるものがどのぐらいあるのか。例えば、ホールゲノムの結果をいろいろ出されていた先生もいらっしゃいましたけれども、例えばこのドライバーのランドスケープはエキソームでわかることなので別にホールゲノムである必要はありません。
一番ホールゲノムである必要性をしっかりとまとめておられたのは、多分土原先生の7枚目の資料ですかね。これは非常によくまとまっているかなと思います。Tumor Mutation Burdenは、もちろんエクソームターゲットのほうがよくできます。シグネーチャー解析もエクソームで十分にできるのですね。ホールゲノムが一番効力を発揮するものが構造異常です。要するに、エクソームを読んでいては見つからないような、例えば、遺伝子がどこかで切れてしまうとか、デュプリケーションを起こしているというものがホールゲノムで見つかる。ただ、これが遺伝子がない部位に起きていても、それは意義づけをすることが難しい。これは将来AIなどによって何か意義づけがされるかもしれませんけれども、現在のところ、そういったものが低い頻度で、例えば100例をやって1つあったところで、それに意味があるのかどうかということもわからないということが現状なのですね。ですので、この貴重な資源を何に集中して選択するかということは非常に重要だと思います。
先ほど、製薬協の方から迅速にという注文がございました。これは非常に重要なことだと思うのですが、一方で、山口先生が1000億かかるかもしれないという見積もりを出されていましたけれども、AMEDの革新がんと次世代がんの予算を合わせて150億ですよね。その6倍の予算をとっていくのに、迅速であっても拙速であってはならないと非常に思います。
これは、各がんが、アンメットニーズをしっかりと把握する。海外にもいっぱいホールゲノムのデータがあります。そういったものがない領域、それはいろいろな参考人の先生方から、こういったものをやったらいいのではないかと。これは非常に参考になったなと思いました。同時に、私の意見とほぼ同じなのですが、腎がんなどは、山口先生に教えていただいて、あんなに既知のドライバーが少ないということはあまり知らなかったのですけれども、そういったものはやってもいいかもしれないと思いますし、この莫大な資源をどのように集中して選択するか。それは、しっかりと各分野の細かい専門家がアンメットニーズを把握し、海外でどれくらいのデータがあって、どういう解析をして、どこまでやられていて、何かわかっているものがあるかないかということまで把握をして、その上で各がんごとにどれぐらいやらなければいけないか、どれぐらいの成果が見込めるのかということを見積もっていく必要があると思います。
土原先生にお伺いしたいのですけれども、こういったものはパイロットスタディーが必要だと思います。Genomics Englandもされていると思うのですけれども、パイロットスタディーは2つの意味があると思います。体制とか、ワークフローなどを確認するという意味及びちょっと動かしてみて、それによって目標症例数を再設定するという意味があると思います。Genomics Englandは、最初はがんを半分と言っていたのですが、今、新しい発表では、一般的ながんの数がどんどん減ってきてしまって、希少がん、遺伝性のあるがんに重点が置かれるようになっています。これは何らかの彼らの経験がもとになってこのようになったのではないかと考えているのですが、その点についてと、どのようにパイロットスタディーの結果を症例数に反映させる手法をとられていたか。もし先生が見聞された中で何か情報がありましたら、お教えいただきたいと思います。
○土原参考人 まず、パイロットスタディーに関して、これも山口先生のお話にもありましたが、当初、ホルマリン固定のサンプルを使って全ゲノムをやるというチャレンジをして、技術的に失敗をしたということで、全体の進捗が非常に変わったとは、いろいろなところでお話があったと思います。
ただし、どの程度、いわゆる最初からニーズを考えてがん種等の設定をしたかということについては、今回の視察の中では実際に議論にはなりませんでした。ただ、結果として集まった症例の振り分けを見ると、恐らく英国でのメジャーがんがたくさん入っているということで、かなり網羅的に集めたのだと思います。
恐らくそうしてやっている中で、もう一つは、現場からの疲弊感というか、悲鳴が英国においても非常に大きかったと聞いています。つまり、これだけのサンプルを出さなければいけない、臨床情報を入れなければいけない、しかもそのインセンティブがほとんど現場の先生方にはないということで、現場の協力がかなり得られなかったと聞いています。恐らく同じことが日本でも起こり得ることだと思います。
そうなったときに、アクセントをつけなければいけない。この患者さんを読むことによって、患者さんへのリターンもあるというところで、恐らく希少がんのようなところにかなり重点が置かれているのではないかと考えます。一方で、当然産業利用ということになりますと、米国の事例等を見ておりますと、いわゆる民間がむしろ主導になって官民合同でやるというところに恐らくそうしたメジャーがんのようなところの創薬ターゲットになる症例が集積しているということが、国際的には現状かと思います。
○南谷構成員 ありがとうございます。
そうしますと、ニーズに応じて自然に需給バランスがとれてきたという感じでしょうか。
○土原参考人 英国・米国の例を見ていますとそういうふうに見えますが、そこは後発の日本で同じことをやってはもちろん勝てるはずがないので、日本はかなり戦略的にそこのところを議論する必要があるだろうと思います。
○南谷構成員 私も、そのように思います。ICGCなどが、例えば、乳がん500例のホールゲノムの結果などが出ていますが、ホールゲノムでなければいけないというものは余り出てきていないのですね。私がMyeloid tumorをやったときに出てきた主な結果は、既存のドライバー遺伝子が構造異常を起こしている例もあり、それによってそのドライバー遺伝子の変異を有している患者さんが数割多く認識することができたということが、今のところの主な構造異常に関する結果です。
コピーナンバー解析もそうですね。シグネーチャーなどはほかの方法でも、ほかの方法でできるので、これはホールゲノムである必要はないかとは思うのですが、一方、ATLなどは3’UTRの部分の切断によって非常に発現が高くなって、それが免疫チェックポイント阻害剤の標的になるという、これはすばらしい結果です。これは私たちの仲間の片岡先生が出したのですけれども、このようになるようながんもあります。
ですから、まず、これは確率、アンメットニーズもそうですし、どのような見込みがとれるかということを、現在、海外でたくさんやっても意義のある変異がないものは、日本人でやってもそんなにないかなと思われますので、そういったことも踏まえて、慎重にこの資源の投入を考えていかないといけないと思います。特に規模がこれほど大きくなっていますので。
最後、血液がんに関するゲノム解析のニーズに関して少し話をしてということを言われていまして、ちょっとお話しいたしますと、血液がんは大体白血病が8,000人ぐらいで、全部のがん種を合わせて大体年間3万人ぐらいの発症だと思います。
ただ、血液がんのパネル検査の大きな目的は使用できる標的薬を探すということよりどちらかというと、診断及び予後予測です。さらに、固形がんがリフラクトリーな状況でパネル検査ができるようになっておりますけれども、血液の場合は恐らく初診時に行うことが重要なのではないかと考えております。
ホールゲノムの必要性とパネル検査の必要性は別のものとして考えていかなければいけないと思いますが、本当にこれは日本がおくれている分、ちょっと時間がかかってもいいかなと思うのですが、土原先生がおっしゃったように、本当に戦略的にやっていかなければいけないかなと考えています。
以上です。
○山口部会長 ありがとうございました。
ゲノム構造異常が多分ターゲットなのだけれども、もう一つ、遺伝子間領域の話も多分入ってきますので、それも考えながらやっていくことが必要だと思うのですね。
それから、念のために補足しますが、1000億がひとり歩きをされると困るので、あれはあくまでも定価ベースで、全てがんで凍結組織を対象に10万症例実施したときの金額ですので、あまり高く言うと企業から叱られるし、あるいはBGIの話も出ておりましたので、そこだけはお含み置きいただきたいと思います
○南谷構成員 そうですね。
○山口部会長 大津先生。
○大津構成員 今までの議論でも出ましたが、何を目的につくるのかということの区分けをしないといけないと思います。我々はおくれてスタートをしている。スピード感を大事にしないと、特に創薬をやるのであれば、海外から遅れたらそれで終わりなわけですね。既に海外で全ゲノムのデータがたくさんあり、AIの話もたくさんやり、その中で一体我々が後発をして何を海外に優位性を出すのかということを考えてつくらないと。希少がん、小児がん、遺伝性腫瘍のところはまだ十分な全ゲノムのデータがありませんので、そこのデータベースをつくることは大賛成でございます。ただ、それ以外のがんに関しては、先ほど土原先生がおっしゃったような戦略性を持たなければならない。
それから、遺伝子パネルですけれども、我々は既にSCRUMで1万例の質の高い臨床データを集めることがいかに大変な作業かということを身をもって体験してございます。今、南谷先生がおっしゃったとおり、どれだけ質が高い臨床データをとれるかが勝負であって、数がどうこうでは私はないと思うのですね。既にSCRUMでデータシェアリングもしていますので、企業、アカデミアとオープンでオンタイムにデータが見られる形で、創薬が幾つかできています。創薬がなぜできているかというと、しっかりとしたシーケンシャルな動的な遺伝子の動きをとった臨床データがあるから創薬に結びついていますし、別のプロジェクトでも言うと、本当に10例ぐらいで、免疫などの治療法を、シングルセルであれ、リキッドバイオプシーであれ、シーケンシャルに見るなど、きっちりとした臨床データをくっつけてやったほうが、はるかに創薬に結びついている。それは、我々の経験でございます。
ですから、網羅的にやることで見つかるということであれば、既に海外で次々とその辺のターゲットが見つかりつつあるのかなと思うのですけれども、まだその辺の情報がでていない。それは海外のやり方が悪いのかもしれませんが、創薬の場合、それに対して後発の日本が何に違いを持ってそこを見つけにいくのか。
臨床での応用を考えたときには、全ゲノムで浅く見ていい部分、早期診断とか、そちらのほうはそれでいいかもしれませんが、治療効果予測とか、分子マーカー、バイオマーカー的な形でやっていくのであれば、既知のものを深く見たほうが臨床での有用性は現実的に高いと思います。既に我々のところでは2,000例以上のリキッドバイオプシーの経験がありますけれども、特にリキッドでシーケンシャルに見られるというのは、非常にいろいろ意味で、臨床と、恐らく創薬とか、バイオマーカーの発見に物すごく重要であります。ですから、そこの部分をよく考えた上でやっていただきたい。
スピードを考えると、日本人の中では嫌がられるのですけれども、私は今のゲノム中核拠点と連携という、あの形でやっていては、とてもではないけれども開発は無理だと思うのですね。開発には、それぞれ先ほどの遺伝性腫瘍のグループ、小児のグループ、川井先生のグループ、そういう研究のモチベーションを持った研究者グループが集まっている中でやらないと、先ほど土原さんがおっしゃったように、現場が疲弊するのですね。例えば、分子疫学的に見るという話であれば、ゲノム中核的な仕組みでいいのかもしれませんが、研究開発を目指すのではあれば、同じ志を持った同じ仲間で、同じ目線で見れる研究者グループの中で迅速にデータをつくっていかないと、恐らく海外には勝てないと思うのですね。
日本人の分子疫学、SNPsのデータを出すということはそれはそれで大事だと思いますけれども、そういう手法の話と、研究開発、臨床の実用化ということでは、データの見方とデータ収集のための仕組みはつくり方が違いますので、そこは十分考えた上で区分けをしていく必要があるのではないかと私は思います。
以上です。
○山口部会長 どうもありがとうございました。
天野構成員、お願いします。
○天野構成員 ありがとうございます。
御説明いただきまして、がん全ゲノム解析の推進に当たりましては、がん患者の参画と協働をぜひ取り込んでほしいと思います。
また、個々の患者さんに対しては、研究の意義と限界リスクについて十分に説明をしていただくとともに、個人情報の保護に十分に留意した上で推進していただくということが前提条件になるわけでございますが、その上で、私から3点申し述べたいと思います。
まず、1点目ですが、どういったがん種をターゲットにするのかということについて、本日も専門の先生方から貴重な知見を御教示いただいているところでございますが、本年4月に今後のがん研究のあり方に関する有識者会議による「がん研究10か年戦略」の中間報告が出されていますが、その中でいわゆる難治がんや希少がんにつきましては、膵がんを初めとする難治性がんの治療成績の向上が喫緊の課題であるとされています。希少がんについても、難治がんと同様に積極的に治療開発に取り組む必要があり、戦略的に中長期的な研究支援を行うべきであるとされています。また、日本に数例しか症例がないような希少がんにおいては、国際的な協力のもと、企業の参画も得られるように全ゲノムシーケンス検査結果も含めたレジストリー構築やサンプル収集を進めるべきであるということも指摘されていますし、希少がんや難治がん、特に日本やアジア地域に多いようなATLやスキルス胃がんといった、かつ、難治性のがん種については、その治療においては日本が世界をリードできるような研究を進めるべきであるということは中間報告の中で指摘されているところでございます。こういった観点から、特にターゲットとするがん種ということに関して申し上げますと、臨床情報と紐付けることを前提とした上で、研究を推進するに当たって見落とされがちな小児がんや希少がんの研究を推進していただくことは当然ですし、また、現在の遺伝子パネル検査で必ずしも恩恵が得られていない血液がんとか、薬剤耐性のがんや難治がんといったことについては、特出しという形でプロジェクトを組むような形で推進していただくことをぜひ御検討いただきたいと考えております。
2点目でございますが、いわゆる遺伝子関連検査の品質の確保に関してです。これは患者がデータを提供する以上はぜひしっかりやっていただきたいという思いで申し述べる点でございますが、平成28年にゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォースの取りまとめの中でも指摘されていますが、米国等においては遺伝子関連検査を含む検査施設や検査担当者を認証する法規制が存在しますし、欧州においても施設認定等があるところでございますが、国内においては必ずしもそういった方策が規定されていないという現状があると考えていますので、この部分について、法令上の措置を含め、具体的な方策を検討していただきたいと考えております。
最後、3点目になりますが、いわゆるゲノム医療を実現するに当たっての社会環境整備についてでございます。これも、ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォースの取りまとめの中で指摘されていることでございますが、米国においては、遺伝情報の保護に特化した連邦法として、御承知のとおり、遺伝情報差別禁止法、GINA法が成立していて、雇用分野における事業者における遺伝情報の取得、医療保険分野における遺伝情報に基づく加入制限や保険料の調整等は原則禁止されていますし、ほかのフランスやドイツ等においても関連する法律の中で同様の禁止が規定されていますが、国内では、現状、遺伝学的特徴に基づく差別を直接禁止する法的規制は存在していません。なので、このタスクフォースの中でも、こういったことについて十分に検討が必要だということが指摘されていますし、先ほど御紹介いただいた、いわゆる骨太の方針、経済財政運営と改革の基本方針におきましても、ゲノム医療の推進に当たっては、国民がゲノム遺伝子情報により不利益をこうむることがない社会をつくるため必要な施策を進めるという1文がしっかり盛り込まれています。これを受けまして、私たち患者団体としましても、昨年12月に全国がん患者団体連合会と日本難病・疾病団体協議会(JPA)と連名でゲノム医療の適切な推進並びに患者等の社会的不利益からの擁護を目的とする法規制を求める要望書を提出しておりまして、遺伝性疾患の患者や遺伝子変異陽性の未発症者が、雇用分野、保険分野において遺伝情報の取得やその他その不適切な取り扱いにおいて社会的不利益をこうむることがないように、米国GINA法や英国ABI協定のような強制力や実効性を有する法規制を国内においても速やかに講じてほしいということを要望しております。これにつきましては、全ゲノム解析を推進するからこそ、ということもありますし、海外では先ほど来、全ゲノム解析に関する先行事例が紹介されていますが、海外ではこういった法規制がある上で推進されているということがありますので、こういった社会的不利益の擁護の部分につきましても、今回の取りまとめもしくは報告書等において1章設けていただいて、その推進についてしっかり記載していただくことが、こういった全ゲノム解析を推進する上で車の両輪になると考えておりますので、ぜひ御検討いただきたいと思います。
以上でございます。
○山口部会長 ありがとうございました。
それでは、横野構成員、お願いします。
○横野構成員 私は、生命倫理や研究倫理ないしは医事法学を専門としておりますので、この場ではいわゆるELSI、すなわち、倫理的・法的・社会的観点からどういったところに御配慮いただきたいかということについて、意見を述べさせていただきたいと思います。
4点ほどございます。
まず、1つ目は、多様性ということに十分配慮していただきたいということです。今回、この席に着きまして周りを見たときに、ちょっと多様性という点では余り多様性が見られないなという印象を受けておりまして、もちろん専門の先生方が限られる、お忙しい時間にお集まりになっているというわけで、多様性があれば専門性が十分になくてもよいのかという観点はあると思います。お聞き及びの方も多いかと思いますが、NIHのトップのフランシス・コリンズは、今年に入りまして、全員が男性で構成される会議には出ないと宣言しておりまして、そのことも含め、会議体のバックグラウンドの多様性について配慮するということを極めて重視する姿勢をとっています。それに対して多くの研究者も賛同しておりますし、また、アメリカの、ここでも出てきましたAll of US等のプロジェクトにおきましても、研究そのものが非常にインクルーシブで、多様性を重視するといった方針を打ち出すものになっていると受けとめております。それは社会的な意味でも重要ですし、戦略としても極めて重要で、今後、研究の評価にもかかわってくるものかと考えています。
それと関連しますが、もう一つは、先ほど天野構成員からも御指摘がありましたが、PPI、すなわち患者・市民参画の仕組みをきちんと取り入れていただきたいということです。これに関しては、既にAMEDでも基本的な考え方が示されていますし、各プロセス、各フェーズにおいてそういった取り組みにどういうふうに役割を与えていくか、位置づけていくかということを明確に仕組みとして組み込んでいく必要があるだろうということです。これは時間がかかるようにも思えるのですが、研究がどんどん新しく展開していく、二次的なものや派生的なものが新たに必要とされてくるといった変化が、一旦プロジェクトとしてスタートをした後も、多く起こってくると思います。そうした変化への対応としても、そうした体制を最初からつくっておく。きちんと機能するような形にしておくことは非常に重要だと考えております。
3点目が、先ほど天野構成員からもありましたが、社会環境の整備です。数年前に開催されておりましたタスクフォースでも指摘をしていた点ではあるのですが、まだその点について具体的な動きがそれほど出てきていないと考えております。先ほどもありましたが、ゲノム情報が個人の不利益にならないような体制を整備しておく必要があるということで、法整備の必要性もいろいろと言われてきていますが、海外の状況を見てみますと、最近、また、新たな動きが出てきているように思われます。特に100万人規模のゲノム解析のイニシアチブがスタートすることに伴って、アメリカであればGINA法の体制が不十分だという議論も出てきていますし、国によっては新たに法整備やそれに準ずる規制を導入するといったケースもふえてきています。また、ここ数年、実証的な研究によって、雇用や保険での不利益を懸念する、そういった事象が社会の中に実際にあるということ、そのような懸念や危惧が存在することが、ゲノム研究に参加するあるいは臨床上必要な検査を受ける場合に、患者さんや研究参加者の方がちゅうちょする大きな要因の一つになっていることも明らかになってきています。ですので、そのあたりはぜひこのプロジェクトの中でも一つのテーマとして取り組んでいただく必要があるのではないかと考えています。
もう一つは、倫理審査あるいは倫理指針等の体制の面です。今、ゲノム指針の見直しも進められていますが、このプロジェクトが実際に動き出すことになりますと、倫理指針に応じた倫理審査の体制をどうしていくのかということが一つ大きな課題になると思われます。ゲノム指針の見直しにおいても、このプロジェクトを含め、今後、新たな全ゲノム解析のプロジェクトが多く行われるだろうということを予測した体制が組めるような形でゲノム指針そのもののあり方も検討していく。その上で、倫理審査を、質を担保した形で効率よく行うことができる体制を整備しておく必要があるだろうと考えています。
4つ目として、このプロジェクトの保健医療政策上の位置づけをどう考えるのかということを意識する必要があるだろうと思います。ここでたびたび出てきたイギリスのGenomics Englandは単に医療においてゲノム情報を活用するというだけではなく、あのプロジェクト自体が、今後、NHSにおいて本格的にゲノム医療を実装する上で大きな意味を持つもので、ヘルスケアそのもののあり方や国民とNHSの関係性そのものの見直しを迫るような大きなインパクトを持つものだと、政策上、位置づけられています。すなわち、Genomics Englandは、ゲノム医療の導入は医療そのもののグランドデザインを変革するような意味合いを持つものであり、ヘルスケアについての国民の意識とか、ヘルスケアの体制、実践のあり方について、これまでにないような大きな変化が求められるという政策的な意識のもとで行われています。特にヘルスケア、診療と医学研究がより一体化していき、研究と診療がエコシステムとして行われていくということが、今後、前提になるだろうという想定のもとで行われていますので、今回のがんに関する全ゲノム解析が、難病も含め、保健医療政策の全体像の中でどういった役割を果たすのかということについても議論を深めていく必要があると考えています。
以上です。
○山口部会長 ありがとうございました。
きょう欠席の柴田構成員からの意見を伺っているそうなので、御紹介願います。
○事務局 柴田構成員からは、事前に国際的な視点からの必要性について記述した文書をいただいておりますので、御紹介させていただきます。
アジア地域における特徴的ながん、胃がん、肝臓がん、胆道がんなど、あるいは今後増加することが見込まれるがん、乳がん、肺がんなどについて、高品質で大規模ながん全ゲノム解読データベースを整備することは、今後、人口増加と高齢化によるがん罹患率急増が見込まれるアジア地域における臨床開発、治療並びに予防の競争力、特に対中国・韓国・シンガポールや、この分野における成長力を確保していくために、戦略的に極めて重要な情報リソースであり、成長戦略の視点からもこうした解析は重要であるとのことでございました。
○山口部会長 ありがとうございました。
大変申しわけないのですが、会場の関係でこのあたりで終了せねばならず全体討論の時間が取れなくなってしまいました。構成員の皆様には、また次回、しっかり議論をしていただくことになると思うのですけれども、事務局におかれては、一つは、多様性の問題を、構成員はもう変えられないので、参考人のほうで少し考えていただく。それから、皆さんが疲弊しないように、10万人で疲弊するとこれは大変だなと思うのですけれども、そのあたりを注意しながら次回にまた臨みたいと思います。
発言が残っていた方がございましたら大変申しわけないのですが、事務局にお返しします。
○事務局 本日は、まことにありがとうございました。
次回の開催につきましては、事務局より追って御連絡いたしますので、構成員の皆様方におかれましては、どうぞよろしくお願い申し上げます。
○山口部会長 それでは、これで終了させていただきます。
本日は、どうもありがとうございました。
 

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