平成30年度第1回化学物質のリスク評価に係るリスクコミュニケーション議事録

厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課化学物質評価室

日時

平成31年2月22日13:30開会

場所

AP品川アネックス I会議室

議題

  1. 開会
  2. 基調講演
    1. 「平成30年度リスク評価の結果について」
    2. 「個人サンプラーを用いた作業環境測定」
    3. 「化学物質を安全に取り扱うためのラベル・SDS・リスクアセスメント制度について」
  3. 意見交換(パネルディスカッション)
  4. 閉会

議事

(開会)
○司会者(西村) ただ今より平成30年度、第1回化学物質のリスク評価に係るリスクコミュニケーションを開催したいと存じます。
 本日はお忙しい中、第1回化学物質のリスク評価に係るリスクコミュニケーションにご参加いただきまして、誠にありがとうございます。私は、三菱ケミカルリサーチの西村と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 早速ではありますが、お手元の資料を確認させていただきます。まず、議事次第が1枚ございます。次に、ステープル留めで本日予定しております3つの基調講演の資料が各1部ございます。なお、実際の講演に使わせていただきます資料は、お配りしておりますものに比べ、時間の都合もあり、組み替えあるいは圧縮等をさせていただいておりますことをあらかじめご了承いただければと思います。
 引き続きまして、A4のピンクと水色のアンケート用紙が1枚ずつございます。ピンクのアンケート用紙につきましては休憩時間に回収いたします。水色のアンケート用紙は意見交換会全体が終了した後に回収させていただく予定でございます。そのほか、A5サイズの赤と青のカードを1枚ずつお手元にお配りしております。
 以上、資料でございますが、不足等ございましたら挙手をお願いしたいと思いますが、いかがでしょうか。
 ありがとうございます。
 さて、このリスクコミュニケーションは、働く人の健康障害を防止するために厚生労働省が行っている化学物質のリスク評価にあたり、関係する事業者や化学物質の取扱いをされている方、また、事業者の団体の方との情報共有・意見交換を行うために実施しているものです。
 それでは、本日のスケジュールについて簡単に説明いたします。
 まず、「平成30年度のリスク評価の結果について」というタイトルで、厚生労働省の検討会である「化学物質のリスク評価検討会」で行われました検討内容につきまして、検討会の委員でいらっしゃいます慶應義塾大学名誉教授の大前和幸先生に約30分ご講演をいただきます。次に「個人サンプラーを用いた作業環境測定」というタイトルで、厚生労働省労働基準局安全衛生部、化学物質対策課環境改善室室長補佐の寺島友子様に30分ほどご講演をいただきます。引き続きまして、「化学物質を安全に取り扱うためのラベル・SDS・リスクアセスメント制度について」というタイトルで、厚生労働省労働基準局安全衛生部、化学物質対策課化学物質国際動向分析官の吉澤保法様に20分ほどご講演をいただきます。
 以上の基調講演が終わりましたら、20分程度の休憩を挟ませていただきます。この休憩時間にピンクのアンケート用紙を回収したいと思います。このピンクのアンケート用紙には、基調講演をお聞きになったご感想、疑問点、ご意見などについてご記入いただきまして、休憩時間中に事務局員が回りますので、会場内の事務局員にお渡しいただければと思います。
 後半の意見交換会では、会場からいただいたご意見を踏まえて進めてまいります。このため、前半の基調講演の部の際にはご質問の時間は特にとることはせず、後半の意見交換会の部でご質問・ご意見にお答えする形とさせていただきたいと思います。
 後半の意見交換会では、コーディネータを東京理科大学薬学部教授の堀口逸子先生にお願いし、パネリストとして、基調講演の大前先生、寺島様、吉澤様のほか、厚生労働省労働基準局安全衛生部、化学物質対策課化学物質評価室の川名室長および増岡室長補佐にもお入りいただき、皆様の疑問点にお答えしてまいります。
 意見交換会に関しましては、開始から1時間程度でピンクのアンケート用紙にご記入いただいたご質問について回答し、その後、時間見合いでございますが、30分程度、会場からのご質問を直接お受けする時間が取れるのではないかと考えております。
 なお、この講演会につきましては、後半の意見交換会を含めて議事録作成のため録音をさせていただきます。録音の関係上、最後に質疑応答の際はマイクをお渡ししますので、マイクを通してご質問をお願いいたします。
 全体として約3時間を予定しております。
 では、最初の基調講演であります「平成30年度リスク評価の結果について」を、慶應義塾大学名誉教授の大前先生、どうぞよろしくお願いいたします。
基調講演1「平成30年度リスク評価の結果について」(慶応義塾大学 名誉教授 大前和幸)
○大前 大前でございます。最初に「平成30年度リスク評価の結果について」ということでお話いたします。
 資料1というのがございますが、これが今回のお話の中身になります。
 資料1は分厚くて全部は話し切れません。重要なところはちゃんとお話ししますが、重要性が低いところでは少し飛ばしてお話いたしますので、よろしくお願いいたします。
 
(スライド2)
 まずリスク評価ですが、これは現在、労働現場で扱われております化学物質の現状です。皆さんよくご存知だと思いますが、大体我が国では7万種類前後の化学物質が使われているだろうと言われております。そして、毎年千物質ぐらいが新規の届出ということになっております。こういう感じで使われているというのが現状です。
 
(スライド3)
 これが新規化学物質の届出件数の推移でございます。ご覧いただけますように、毎年、千前後、最近では千を超えていることも多いですが、そのぐらいが新規として届けられているということになります。
 
(スライド4)
 これもよく見る図ですが、化学物質がどのような形で国として管理されているかということを示す、この三角形の絵はよくご覧になっていると思います。
 一応、国として明示しているのが673物質ということです。先ほど、7万種類という数を言いましたが、残りの物質は、国としては、物質として名前を挙げては管理せず、皆さん自主管理してくださいということになります。
 トータル7万のうちの673ですから、随分少なく、1%ぐらいしか管理していないということになります。
 したがって、残りの物質に関する管理の責任は、皆さんそれぞれの会社の方々が担っているということになろうかと思います。
 
(スライド5)
 今、言っておりますリスク評価の件ですが、過去はハザードべースでいろいろな規制をしておりました。実際に健康障害が発生した物質について考えていくというのが過去のハザードベースの対策でしたが、平成18年以降、今から12年ほど前ですが、それがリスクベースでいこうという考え方に国がなりました。
 リスクベースでございますから、現実にハザードが見えない、健康障害が必ずしも発生していないものも含めて、リスクという考え方からそれなりの管理をしていこうということになったわけです。
 いくつかの物質につきましては、重篤な健康障害、これは主に発がん性やあるいは生殖毒性、子どもに影響があるような毒性ですが、こういうものに関しましては、国が自ら評価をしようということで進んできました。これが平成18年度以降の体制ということです。
 
(スライド6)
 実際の制度の中身としましては、こちらに書いているようなスキームでやっております。まずリスク評価対象物質を選定いたします。先ほど申したように発がん性など優先的にこの物質に関してはリスク評価をした方がよいだろうというものをまず選定するということです。その物質が決まりましたら、有害ばく露作業報告を各企業に求めます。「あなたの会社はこれを使っていますか?」という質問を企業に出しまして、使っている・使っていないというふうにご回答いただきます。
 
(スライド7)
 その後にリスク評価が始まります。二本立てでございまして、1つは一体どういう健康障害が起きるのか、その健康障害はどれぐらいの濃度で起きるのかというのが左側の部分です。それと同時に、そういう障害があることはわかった物質ではあるけれども、実際に現場ではどれぐらいその物質に労働者がばく露しているのかというばく露調査をします。そして何が起きるかということと、実際どれぐらい労働者が吸っているかということを併せて、トータルでリスクを評価します。そしてこの物質に関してはリスクが高い、あるいは、この物質に関してはリスクが低いので、特にこれ以上は国として管理する必要はないという判断をすることになります。
 もしリスクが高いことになりましたら、その次が健康障害防止対策の決定になります。この部分まではリスクを評価する部分で、これから下は国としてリスクを管理する方向になります。
 国としてリスクを管理しますので、さらにいろいろなことをやり、その結果、この物質に関しては特化則相当等の新たな規制が始まっていきます。場合によっては努力義務かもしれませんし、義務かもしれません。それはケースバイケースでございます。
 このようなスキームになっております。これは評価スキームを再掲したものですが「何が起きるか」「どれぐらいばく露しているか」という2本立てで、「どれぐらいのリスクがあるか」ということを見ていっているということです。
 
(スライド8)
 このリスク評価は、二重のスキームになっております。「初期リスク」と「詳細リスク」と書いてありますが、二段階のリスク評価をします。
 まず、初期のリスク評価をやります。先ほど言いましたように、どれぐらいのものがどれぐらいの濃度で起きるかということが分かって、しかもばく露評価をして、そしてこの絵に描いてありますが、これは実際のばく露のレベルだとお考えいただければよいのですが、縦軸がばく露の濃度です。青と黄色と赤と3本書いてありますが、もしばく露評価をしてこの青のように評価値よりも低ければ、ばく露が低い、すなわちリスクが低いということになりますので、これ以上は特に進むことはないと判断し、ここで終了になります。
 ところが、評価値を超えるようなばく露が観察された場合は、もう少し詳細に評価することになり、詳細評価の方に移ります。前と同じようにばく露評価、有害性評価、特により新しい情報も含めて有害性評価を行い、そこでこの評価値よりも高ければ、これに関してはなぜ高いのかという要因分析を行います。
 この高い原因が特定の会社の特定の作業場だけで、他の会社は何もないということになりますと、それはその会社だけの問題ということになりますから、全体としては規制する必要はなく、その会社に対してアクセスすればよいということになります。その場合は、特定作業場の問題となり、その特定作業場に関する指導・監督を行うというスタイルになります。しかし、そうではなく、要因解析をした結果、この工程はその会社だけではなく、複数の会社あるいは全部の会社に共通しているということになりますと、これは会社だけの指導等ではなく、全体としてリスクを低減するような措置をしなければならないという、現状ではこういうスキームになっています。
 この後、平成30年度の結果をお話ししますが、各物質がどちらに分類されるかについては、後で物質を分けてお話しいたします。
 
(スライド9)
 では、実際にリスクを判定するときには、先ほど言いましたばく露の評価、すなわち、どれぐらいばく露しているかということを測定します。有害性評価の方から測定を判断する評価値としては、一次評価値と二次評価値の2種類があり、お手元の資料で一次評価値と二次評価値の意味について確認しておいていただきたいと思いますが、基本的には、ばく露の評価がこの二次評価値を超えているか否かで、リスクが高いか低いかということを判断しているということになります。
 ばく露の評価の方で、最大値がございますが、この最大値というのは実際に測定した最大値、あるいは実際のデータの分布からデータの区間分布を推定し、その分布の推定値から上位5%(95 percentile value)がこの二次評価値を超えているか否かという評価も行っています。
 後ほどまた出てきますが、データの数が多ければ多いほど標準偏差は小さくなり、データ数が少なければどうしても標準偏差は大きくなります。したがって、データの数が少なければこの95 percentile valueはどうしても大きめに出ますので、協力していただける会社が少なければ少ないほど、計算時で大きい値になりやすいということになります。今回、実際にそうではないかと思って見ている物質については、後でお話しします。
 
(スライド10)
 もう1つですが、オルトトルイジンによる膀胱がんが3年ぐらい前に出ました。なぜそのときに起きたかというと、実際にオルトトルイジンの空気中の濃度を測っても大変低く、許容濃度などと比べると10分の1もないぐらいのところで膀胱がんが起きました。そこで、なぜ膀胱がんが起きたのかということを追求していくと、どうも皮膚吸収らしいと、皮膚に付いたオルトトルイジンが経皮吸収され、それで膀胱がんが起きたのではないかということが非常に強く疑われ、まず間違いないだろうと思われます。そういうことがあるものですから、これまでは単純にばく露濃度として、周辺の空気中の濃度を測っていたのですが、それだけでは問題だということになり、皮膚吸収に関する評価は、まだよい評価方法がないことから、とりあえず定性的に皮膚吸収があるか否かを評価することで、少しリスクの判断を変えていこうということになっております。
 実は、このスライドと次のスライドは皆さんのお手元にはありません。皮膚吸収とは何だということですが、これには考え方のばらつきがありまして、これは日本産業衛生学会の「皮」というマークがあるのですが、これは「皮膚吸収があります」というマークになります。日本産業衛生学会は、「経皮的に吸収される量が、全身への健康影響または吸収量からみて無視できない程度に達することがあると考えられる物質」に対して「皮」を付けています。皮膚吸収によってからだの影響が出てくるということがわかっている、または吸収量から無視できないということで、日本産業衛生学会はどちらかというと健康影響が起きることをメインに考えて「皮」というマークを付けております。
 もう1つ、日本産業衛生学会と同じようなことをしているアメリカのACGHIという有名な機関があります。ここでは、最初に皮膚吸収によってover dose/over exposureがあるというのが先にきていて、実際にやってみたら皮膚吸収によってもシステミックな健康障害が起きたというのが後にきています。
 ですから、日本産業衛生学会とACGHIは同じですが、日本産業衛生学会の場合は健康影響を受けることが重要だと考えていて、ACGIHはたくさん吸収されることが重要だと、そこの考え方の順序に差があります。
 両方とも共通していることは、健康影響が起きるか否かということと、皮膚吸収によってover doseになるか否かの両方を言っています。したがって、この「Skin」「皮」マークが付いているものはすべて健康影響が起きるというわけではないという、そういう判断が難しいところがあります。「皮」が付いていれば絶対健康影響を受けるのかといわれますと、そういうような考え方で付けているわけではないという意味で、皮膚吸収マークというのはクリアになっていないところがあるということです。
 
(スライド11)
 では、平成30年度の初期リスク評価の結果になります。
 
(スライド12)
 実際に評価したのは、この9物質であります。上段の1,2-酸化ブチレン、中段のビフェニル等の3物質、それから下段のノルマル-オクタン等の5物質の合計9物質です。上段の1,2-酸化ブチレンに関してはリスクが高く、経皮吸収もあります。中段のビフェニル等の3物質については、リスクは低いが経皮吸収の報告があります。そして一番下の5物質に関してはリスクが低く、経皮吸収に関しては特に情報はありません。
 先ほど、ばく露レベルが低ければリスクが低いということで終わりになるとご説明しましたが、「リスクが低い」と書いてある中段の3物質、下段の5物質に関して、中段の3物質は、経皮吸収に関する評価以外については、これ以上はやらなくてもよいだろうということです。しかし、1,2-酸化ブチレンに関してはリスクが高い、すなわち二次評価値よりもばく露濃度が高かったので、これは何とかしなければならないということです。しかもこの物質は皮膚吸収のある物質ですから、これはきちんと管理していくという方向にいかなければならない物質ということになります。
 
(スライド13)
 したがって、今回具体的にきちんと話さなければならないのは、この1,2-酸化ブチレンについてです。先ほど言いましたが、現状は初期リスク評価の段階です。今後、詳細リスク評価に移りますので、今回は、二段階評価の一段階目の結果ということになります。
 この1,2-酸化ブチレンに関する二次評価値、すなわち比べるべき値は2 ppmという数字です。実際にばく露評価をしましたところ、測定した最大ばく露濃度が2.5 ppmでしたので、この2 ppmと比べると少し高いということですから、初期評価だけではなく、次の詳細評価に進むということになっております。しかも、これは経皮吸収の報告があるということです。
 したがって、今回の9物質のうち、この1物質だけが初期リスク評価でリスクが高いという判定をされた物質になります。
 
(スライド14)
 これは、1,2-酸化ブチレンの基本情報です。皆さんのお手元の資料を見ていただきたいと思います。融点、沸点等いろいろ書いてあります。製造輸入量は平成25年度で617トンですから、それほどたくさん使われている物質でもなさそうだということではあります。
 
(スライド15)
 では、これにはどのような有害性が見つかったかということですが、定性的にこの物質の発がん性の有無を判断しているIARCという国際がん研究機関が、2B「ヒトに対する発がんの可能性がある」という判定をしております。そのほかに慢性毒性・急性毒性、あるいは皮膚に対する刺激性等、いろいろあります。
 この物質には、エポキシ構造がありますから、刺激性があるだろうということはわかりますし、エポキシがあると発がん性、あるいは変異原性を考えなければならないと、そういう化学構造がある物質です。
 この炭素2個のものが酸化エチレン、炭素3個が酸化プロピレンなど、似たような物質です。いずれも発がんの可能性があります。特に酸化エチレンはグループ1で、ヒトで発がん性があることが確実だという物質になっております。その構造類似物質ですから、今言ったような影響が起きていても不思議ではないということになります。
 ここで1つ注意していただきたいのは、反復投与毒性というのがあります。動物ではありますが鼻腔に化膿性の炎症が起きているという証拠があり、これが起きている実験上の最低濃度が50 ppmぐらいですので、この50 ppmを基にしてヒトに当てはめると0.38 ppmぐらいになります。先ほど許容濃度が2 ppmと言いましたから、動物実験からの計算ではその10分の1ぐらいになります。ですから、決して2 ppmという数字は高い数字ではないということです。
 発がんに関しては、どこでがんが起きるのかということですが、これは皆さんの資料には入っておりませんが、アメリカのNTPという化学物質の発がん性を系統的にずっと順番にやっている国の機関が実際にばく露実験をやっていきますと、マウスには何も出なかったのですが、ラットに関しては、1つは鼻腔の腺腫が出ました。腺腫ですから良性腫瘍になります。濃度0、200、400の3濃度実験ですが、0/50や7/50とあるのは50匹実験に使って、そのうちの何匹にがん・腫瘍が出たのかという数字になります。0匹、0匹、7匹、これは雄です。ここに*が付いているのは、統計学的に有意に増えていると、それからここに↑があるのは、濃度に応じて率が高くなっているという傾向性の検定というのがありますが、これで有意になっています。それから肺に関しましては、ここには*は付いていませんが、肺がんと肺の腺腫、悪性腫瘍と良性腫瘍の両方を足してやりますと、いちばん濃度の高いところで49匹中5匹、50匹でないのは途中で1匹死んでしまったからですが、ということになります。ですから、ここに↑があるように、濃度が高くなるとがんが出る傾向があるということです。
 それから脳下垂体前葉のここに1個*が付いていますが、ベースラインでも50匹中25匹ぐらい出るという、そういうタイプのラットですが、それが25、26、32という、ここのところだけ高いということで、NTPはこの実験の結論として、ラットに関しては肺がん、鼻腔のがんに関しては、発がん性はあるだろうと、そして下垂体の前葉につきましては、不確かな証拠、多少弱いけれども若干の証拠はあるレベルということで判断し、トータルとしてIARCは2Bで発がんの可能性があるという評価をしたということになります。
 
(スライド16)
 今、実験結果等の話をしました。では、次は評価値としては、先ほど言いましたように2 ppmという数字を使っております。これは、その数字を設定している機関と数字ですが、ご覧のように日本産業衛生学会はまだ設定しておりませんし、アメリカのACGIHという機関も設定しておりません。DFGはドイツの機関ですが、こちらも設定しておりません。AIHAという機関は、Industrial Hygienistの方が組織しているアメリカの学術団体ですが、ここで2003年に2 ppmという数字を出しており、これが唯一数字として存在するので、この2 ppmを比較すべき値として採ったということになります。
 
(スライド17)
 では、実際にばく露を測ってみたらどうなったのかということです。今までは有害性の話で、今度はばく露の話になりますが、個人ばく露濃度を測定しますと、このように、最大値が1.1ppmとか0.08 ppmという数字が出ております。スポット測定はA・B測定のB測定に近い、実際に出ていそうなところを直接測るというやり方ですが、それですと18 ppmぐらい出ているところがありました。特定の作業の位置でということです。あとは作業環境A測定の最大値は7 ppmぐらいでした。
 
(スライド18)
 それを個人ばく露濃度のグラフにしました。残念ながら全部で9人しか測れず、もっとたくさん測ることができればよかったのですが、9人しか測れませんでした。その条件で測定すると、最大ばく露濃度が1.1 ppmですから2 ppmより低くなりました。ところがこの分布をもとにして95 percentile valueを計算してやると2.5 ppmになりますので、2 ppmを超えています。つまり二次評価値を超えているということになり、初期リスク評価から詳細リスク評価に行くということになったということです。
 皆さん、理科系の方が多いと思うので、数学のことがわかっている方が多いと思いますが、もっと測定数が多ければ、おそらく95 percentile valueで2.5ppmを超えなかった可能性があります。そのあたりはある意味微妙な数字です。しかし、残念ながら実態としてはいくつかの工場で9名しか協力していただけなかったものですから、こうなってしまったということです。もっと多く協力していただけたら、ひょっとすると95 percentile valueは2 ppmを切っていたかもしれません。
 
(スライド19)
 以上の結果から、1,2-酸化ブチレンに関しては、最大ばく露値(区間推定上側限界値/95 percentile value)が2.5 ppmであり、二次評価値の2 ppmを上回っており、詳細リスク評価に移行する必要があるということです。
 以降は皆さんのお手元の資料で読んでいただきたいと思いますが、管理しなければならない等のことが書いてあります。
 
 次に、2番目のビフェニル、ジフェニルアミン、レソルシノールの3物質です。これらの物質はリスクが低く、経皮吸収勧告があるという物質です。
 これらは、最大ばく露濃度が二次評価値を下回っており、ばく露に関するリスクは低いということはわかりました。ただし経皮吸収マークがあるので、その部分に関してはペンディングの状態だというのがこの3物質です。
 皆さんのお手元の資料には、1物質について4枚か5枚のスライドが挟まっていますが、「基本情報」等、何枚かを省略して、最初のスライドとばく露実態調査の結果のスライドで説明いたします。基本情報やその他の物性などのところは、ご自分で確認しておいてください。
 
(スライド20-25)
 ビフェニルに関しましては、二次評価値が0.2ppm、経皮吸収ばく露があります。そして実際に測定した最大ばく露濃度が0.0032 ppmですから、二次評価値0.2 ppmの100分の1ぐらいであり、ばく露に関するリスクは小さいということになりました。実際に測定するとこのような数字が出て、これをグラフにすると最大でも0.0032 ppmということです。
 
(スライド27-32)
 次がジフェニルアミンです。これも同様に二次評価値が10mg/m3という評価値で、実際に測定しますと最大ばく露濃度が0.100mg/m3、二次評価値の100分の1でリスクは低いということになりました。実際に測定すると、これは5事業場、14人(有効数12人)の方になりますが、このようなデータが出ておりまして、それを図示するとこういう分布になっております。95 percentile valueも10よりも低いということで、リスクは低いということになりました。
 
(スライド34-39)
 次は、レソルシノールです。この二次評価値は10 ppmでございまして、実際に測定しました最大濃度が0.025 ppmで、リスクは低いということです。ただし経皮吸収はあります。実際の測定値がこのようなデータになっておりまして、個人ばく露濃度のデータは4件しかなかったということです。その中で0.012 ppmが一番高いということです。4件しかありませんからバーが4つで、このような分布になっており、それほど大きな差はありませんでした。
 
(スライド26,33,40)
 以上の3物質に関しましては、二次評価値を下回っていますからリスクは低いけれども、経皮吸収があるので注意しなさいということが書いてございます。皆様のお手元の資料にはこの3物質それぞれにこの下の文章が書いてあると思います。
 
 次は、ノルマル-オクタン、酢酸イソプロピル、ジメチルアミン、ビニルトルエン、水添MDI(メチレンビス(4,1-シクロヘキシレン)=ジイソシアネート)の5物質です。これらは、リスク判定でリスク評価が低く、かつ経皮吸収のマークがないので、経皮吸収については心配することはないということから、今回でリスク評価は終了する物質になります。
 
(スライド41-46)
ノルマル-オクタンですと二次評価値が300 ppmで、我々からするとこれはナンセンスな数字で本当はよくないのですが、今はとりあえずこの数字しかありませんから300ppmで、実際の測定の最大濃度が1.6 ppmで、しかも皮膚吸収マークがありませんから皮膚吸収も心配することはなく、このノルマル-オクタンに関してはリスクが低いのでこれで終了ということです。実際の濃度としてこのような数字が出ており、分布がこのようになっています。いずれにしましても300 ppmに比べてはるかに低いということです。
 
(スライド48-53)
 酢酸イソプロピルに関しては、二次評価値が100 ppm、実測値の最大値が6 ppmということですから、この結果も全く問題ありません。実際の測定値がこのような状況で、分布がこういう感じになっています。これも初期リスク評価で終了ということです。
 
(スライド55-60)
 次がジメチルアミンです。これは二次評価値が2 ppmで、実際の測定値の最大ばく露が0.55 ppmと4分の1ぐらいですので、これもリスクは低いです。実際の測定データは全部で8データあり、最大値はこれぐらいで問題もありません。分布はこういう感じです。いずれにしましても皮膚吸収もありませんから、この物質もこれで終了ということです。
 
(スライド62-67)
 ビニルトルエンも同様に、二次評価値の20 ppmに対して最大ばく露濃度が2 ppmぐらい、しかも皮膚吸収もありませんから初期評価で終了ということになります。実際の測定値が7データあり、分布がこのようになっており、特に問題はないということになります。
 
(スライド69-74)
 水添MDI(メチレンビス(4,1-シクロヘキシレン)=ジイソシアネート)ですが、これは二次評価値が0.005 ppmと非常に低いのですが、実際のばく露濃度を測ってみますと、さらにその5分の1ぐらいの低い濃度であり、しかも皮膚吸収はないということですから、この物質に関しても初期評価で終了ということになります。ただしこの物質は水添のジイソシアネートですから、感作性はあるはずです。したがって、取扱いは気中濃度が低くても十分に注意していただきたいと思います。喘息や強い皮膚炎を起こしますので、これは注意してください。単に初期評価が終了したからよいのではなく、取扱いには十分に注意してください。これが実際のばく露濃度の結果で、分布がこのようになっています。
 
(スライド47,54,61,68,75)
 これら5物質に関しましては、今後の対応としては、リスクは低いですがリスクアセスメント等はしっかりとやってくださいということです。
 先ほどジイソシアネートのことを少し言いましたが、ああいう特殊な物質についてはそれなりの注意はきちんとしていただかないと、ばく露濃度が低くても障害を起こすことになりますから気を付けていただきたいと思います。
 ちなみに、1つ言い忘れましたが、「Skin」「皮」マークが付いているのはあくまでも皮膚吸収の問題であって、皮膚に付けるとアレルギーを起こすとか、刺激によって皮膚炎を起こすとか、そういう意味ではありません。そこのところは気を付けてください。あくまでも「吸収されるか否か」という意味で「皮」マークが付いています。
 例えば、ジイソシアネートに「皮」マークを付けたら、必ず一次性の刺激もしくはアレルギー性の皮膚炎を起こします。そういう意味での「皮」マークではありませんから、そこは気を付けておいてください。
 
(スライド76)
 以上、平成30年度のリスク評価の結果は終わりでございますが、平成31年度に関しましては、今のところ7物質を選定し、予定しております。発がん性が主たる根拠でございますが、アスファルト、1,1-ジクロロエチレン、ブチルセロソルブ、オルト-クレゾール、シクロヘキサノン、フルフラール、メチル-tert-ブチルエーテルです。メチル-tert-ブチルエーテルはガソリンの添加剤として使うか使わないかという物質でしょうか。そうですね。これらの物質に関しまして、平成31年度は初期評価をする予定になっているということでございます。
 以上、ご清聴どうもありがとうございました。
(司会)
○司会者(西村) 大前先生、どうもありがとうございました。
引き続きまして、2番目の講演に移りたいと思います。2番目の講演は、「個人サンプラーを用いた作業環境測定」につきまして、厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課環境改善室の寺島室長補佐、どうぞよろしくお願いいたします。
基調講演2「個人サンプラーを用いた作業環境測定」(厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課環境改善室 室長補佐 寺島友子)
○寺島 こんにちは。ただ今、ご紹介いただきました、厚生労働省化学物質対策課環境改善室の寺島と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 私の方からは、個人サンプラーを用いた作業環境測定ということで、去年まとまりました報告書の内容についてご紹介をさせていただきまして、最後の方で来年度に向けた予定を紹介させていただこうと思っております。
 
(スライド2)
 まず1枚目のスライドですが、第13次労働災害防止計画が今年度から始まっておりまして、その中でリスクアセスメントの結果を踏まえた作業の改善の一部分として個人サンプラーの測定方法を追加しております。ですから厚生労働省安全衛生部全体の計画の方針の中に、もうすでにサンプラーによる測定を追加するということが入っており、その路線で進めていくということになっています。
 本文には「作業態様に応じた測定・評価手法を選択できるようにする」と書かれておりまして、現在、作業環境測定方法にはA・B測定がありますが、それと同様に選択するようにしましょうということになっています。
 この13次労働災害防止計画に至るまで、また報告書のまとめに至るまでいろいろな経緯がありましたので、なぜ、このタイミングで個人サンプラーを導入することになったかという部分について紹介をしていきたいと思います。
 
(スライド3)
 作業環境測定の制度につきましては、昭和50年の労働安全衛生法改正によりまして、作業環境測定の義務が追加されております。このときには測定の基準はなく、次の年にその基準が具体的に示されました。A測定についてご存知ない方はいらっしゃらないと思いますが、このときにはA測定だけでありました。
 その後、昭和54年に「作業場における気中濃度の規制の在り方についての検討結果 第一次報告書」というものがまとめられ、B測定の導入の可否について決めた報告書なのですが、A・B測定と個人ばく露測定を比較し、個人ばく露測定は諸外国でも取り入れられており効果的なものではあるけれども、行政が運用していく中ではA・B測定の方がよいだろうということで、新たにB測定を追加し、スポット的な高濃度のところを把握しつつ、A・B測定で作業環境測定の結果を評価するという仕組みが、提案されています。
 その後、昭和59年に通達が出されております。管理濃度が最初に世に出た通達です。管理濃度というのは、工学的な管理技術の実用可能性などをもとにして、行政的な見地から設定したものだというふうに定義がなされています。実際にこの管理濃度による評価というものが導入されたのが昭和63年です。
 そこからずっとA・B測定で実施されてきたわけですが、ではなぜ個人サンプラーによる測定が入ってきたのかということです。その間にもいろいろ変遷がありまして、本日の資料にはありませんが、重要なのは平成22年7月に「職場における化学物質の今後の在り方に関する検討会」という検討会が開催されておりまして、この中で、リスクに基づく合理的な化学物質管理を促進していきましょうという方針が確認されたということです。
 それがリスクアセスメントの義務化につながったり、発散防止抑制措置の規定を作るというところにつながっているのですが、その合理的管理の方法の1つとしてA・B測定と個人ばく露測定が比較されました。A・B測定は、ご承知のように6メートル間隔で測定点を取るということでルールが決まっております。ですから恣意的な運用がなされにくいという部分がありまして、どなたがやっても同じような結果が得られ測定が容易です。それから測定点ごとの濃度が把握できますので作業場の濃度分布が把握でき、環境改善に有効です。また、主として連続作業向けという視点も指摘されています。
 一方で個人ばく露測定については、個人のばく露を把握できるということで、作業の管理に有効であるとか、広い場所で少しの人が移動しながら作業をするようなもの、屋外におけるばく露といったものの把握についても有用であるという指摘がされました。
 結果、報告書の中では現在のA・B測定ですと、低頻度、高濃度のところに短時間立ち入るような作業については過度に有害な作業場に評価されるおそれがあるということや、発散源に近づいて行うような作業の場合、A・B測定よりも個人ばく露の方がよい、A・B測定の方が過小に評価されるおそれがあるということが指摘されています。これが合理的な化学物質管理の促進ということで、そのときに流れができてきたわけです。
 その後、少し行政の方でも裏付けとなるエビデンスになるようなことについて調査をしておりましたが、この平成22年の報告を踏まえ、先ほどの13次労働災害防止計画の前の段階である第12次労働災害防止計画において、すでに「導入を検討する」という方針が示されておりまして、行政としては報告書と災害防止計画に則って「これを導入していく」という意志のもとに進めてきたという背景がございます。
 
(スライド4)
 今、申し上げました平成22年の報告に端的に表れているわけですが、それの具体的なところを検討していきましょうということで、専門家検討会を開催しております。こちらにお示しした委員の先生方にお集まりいただきまして検討会を行いました。学識経験者の先生方のほかに労使からの代表にも入っていただきまして、それから作業環境測定機関、この中では土屋先生、山室先生になりますが、そういった方々にお集まりいただきまして、6回にわたって検討を行ってまいりました。
 
(スライド5)
 その概要です。先ほどは経緯をお話しましたが、このリスクアセスメントの意義について、改めて整理しております。ここにリスクアセスメントを含めた三角形の図を出しております。今回、個人サンプラーによる測定を導入することにしました。リスクアセスメントの義務化が平成28年6月に施行されていますが、その手法として個人ばく露測定というのが示されていたわけです。要は、どんなやり方でもよいのでリスクアセスメントをしてくださいというものであります。
 一方、特定化学物質障害予防規則の方は、「この測定でなければダメだ」というように決まっています。そして、そこの間には非常に大きな乖離があるというのが我々の問題意識の1つでもあります。そういったところを踏まえていくと、上の作業環境測定(A・B測定)というところに個人サンプラーによる測定というのを導入していって、個人サンプラーによる測定というのは同じやり方をして個人ばく露測定を行うことができる、つまり1回のデータで個人サンプラーによる測定と個人ばく露測定ができます。非常に似通ったことなので理解しにくいかもしれませんが、そういうことができますので、リスクアセスメントの推進にもつながり、一括して実施するということを促進することができることから意義付けを改めて行っています。そのように、作業環境測定の1つの手法として個人サンプラー測定を導入するという方針になっています。
 右の図にありますように、作業環境測定は定点で決めて、個人ばく露測定は動き回るものなのですが、個人サンプラーによる測定はあくまでも「場の測定」の1つの方法として導入を図っていくということになっています。
 
(スライド6)
 方針については、検討会の中でもいろいろな議論があり、いきなり全面導入をするのは難しいのではないかというご意見もございましたので、先行導入作業というのを決めております。そのほかの部分については様子を見ながらということになっています。では、何が先行導入作業かといいますと、1、2と書いておりますが、発散源が作業者とともに移動し、人と発散源との間に測定点を置くことが難しい溶接、吹付け塗装などのような作業、それから有害性が高く管理濃度が低い物質で、濃度の影響を受けやすいが動きによってそれが如実に結果に反映されてしまうような作業、そういった2つのカテゴリの作業に先に導入することになりました。詳しくは次のスライドでお話ししていきたいと思います。
 
(スライド7)
 今までは、概要のスライドの説明でしたが、ここは報告書本文について改めて抜いております。これは重複しますので省略します。個人ばく露測定と個人サンプラーによる測定とはどう違うのかということでは、注釈部分で文字を大きくしているところがございますのでこちらをお読みいただければと思います。
 個人サンプラーというのは、言うまでもなく労働者の呼吸域の空気を測定する機器です。その目的は労働者の作業する環境、そこの場所の空気の把握であれば作業環境測定であって、個人ばく露濃度の把握であれば個人ばく露測定です。やっていることは同じですが目的が違います。個人サンプラーによる測定と得られるデータはどちらも基本的に同じですから、違いはその用途や評価の対象ということになります。ですから、1回測定したデータを利用して作業環境測定と個人ばく露測定の両方を行うことが可能ですから、どちらも改善に活用されるものだと整理をしております。
 個人サンプラーによる測定というのは、「人が移動点になって作業環境測定を行う」と理解していただければよいと思います。
 
(スライド8)
 次に、ここのところの部分は重複しますが、作業環境測定士の数は十分ではありませんので養成を推進していくこと、部分的に導入することを言っております。
 アンダーラインが引いてある「A・B測定と個人サンプラーによる測定のいずれかを選択可能とする」ですが、ここは肝だと思います。基本的に、どちらかを任意に選択できるようにするという方針でまとめております。その選択にあたっては、事業者さんが自らに有利な方、つまりはきちんと濃度把握できない方を恣意的に選んでしまわないように、作業環境測定士さんなどの意見を踏まえ、安全衛生委員会等での議論の末に決めてくださいと言っております。
 
(スライド9)
 先行導入はどのようなものが対象になるかということですが、この表は濃度の低い順に取ったものになりまして、管理濃度が0.5 mg/m3相当以下のものを先行導入の対象としております。結果的に金属が結構多くなりましたが、そういうものを先行導入の対象と考えております。
 
(スライド10)
 報告書の詳細部分ですが、先ほど、個人サンプラーによる測定と個人ばく露測定は基本的に同じだと申し上げましたが、ただ、議論の中ではいろいろな部分を検討する必要があるのではないかということがございました。
 まず1つ目の測定対象作業場の範囲ですが、作業者グループというものを設定し、その人たちの移動する範囲を対象とするということなのですが、2にあるように、測定対象ではない作業場、つまり屋外の作業場であるとか、法令で義務付けられていない作業場、そういったものについては影響を与えないようにする、ということが記載されています。吸引ポンプを停止するなどです。個人ばく露測定では、こういった考え方は入ってこないと思いますが、今回の作業環境測定の義務付けの範囲の中では、法定外の部分がいきなり測定結果に入ってくるのは良くないだろうということもあり、このような書き方になっております。
 対象グループの設定の部分ですが、同一ばく露グループの設定については作業環境測定士さんの間でも蓄積がなく、最初は全員が必要ではないかということになっています。もちろん、人数が例えば50人、100人いたらどうするのかという指摘もありますので、「原則として」ということでございます。
 作業者グループを調べてみますと、1人、2人のところが非常に多く、だいたい5、6人以下というところが多数を占めており、10人を超えるというところは稀です。ですから、そういう場合の絞り込みの留意点では、主たる作業の者に絞るのか、2回目以降はもちろん絞っていいとか、そういうことになっています。
 対象人数が1人、2人の場合ですが、測定結果も1点、2点しか出てきませんから、それをもとに評価をしてよいのかという問題があります。現状の作業環境測定の中でも測定点は5点以上を取ることになっていますので、そこのところは同じぐらいの人数は必要ではないかという議論がございました。この辺を「非常に多い場合」「少ない場合」で絞り込んだり、複数回測定したりということについては、この検討会では決まった方針まではまとめることができず、引き続き検討するということになっています。
 
(スライド11)
 測定基準の中の測定時間については、基本は8時間測定とします。今までであれば、作業環境測定士さんは1つの測定点10分でよいわけですから、6点採っても1時間いれば採れますし、支度時間を入れたとしてもそれほど時間がかかるわけではありませんが、個人サンプラーの場合8時間その労働者を見ていなければならないのかということが議論になります。検討会では、そこは誰かが責任を負わなければならないと、労働者がサンプラーを外して事務室に置いておくといったことをしないかどうかを見なければならないので、そこを何らか担保する必要があります。ただ、作業環境測定士さんが全部やるのではなく、事業場の責任者を設定し、その方の管理のもとに記録をしてもらうということも書いております。
 それから、測定の取り付けやスイッチをオンにする作業の部分については、きちんと着けられているか、ちゃんとスタートできているかというところですから、これは測定士さんにやってもらいます。しかし、取り外しの方は、例えばインピンジャーであれば測定士さんでなければダメですが、パッシブサンプラーのように外して、キャップをして送るだけであれば測定士さんでなくても、担当者でもよいという議論をしています。
 その他、いろいろな議論がございました。短時間測定についても、濃度が一番高い作業において行うことになっています。8時間測定をしてしまうと濃度がならされてしまって、発散源に非常に近い濃度の高いところがどこかわからなくなるという課題がありますので、この部分については、15分の短時間測定を行うことになっています。ただ、現在の作業環境測定基準に、発散源で濃度が最も高くなると推定される場所でB測定を行うとなっており、そういう場所があるか否かについては測定士さんの判断です。それと同じ考え方ですから、それを緩和したり厳しくしたりということではなく、同じということです。
 測定方法についてですが、個人サンプラーになりますと8時間ずっと着けっぱなしにしますので、破過しないか、途中で分解しないかなどの問題を検証することになっております。
 
(スライド12)
 では、評価はどうするかということですが、ここに例示したように、作業場がA、B、Cといくつかあり、その中で同一作業グループの何人かがあちらこちらへと行き来しながら同じ作業をしている場合、例えばAで袋詰めをしてCの倉庫に行って積むといったような作業があった場合、これらの作業グループの人たちに付く評価は統計的に処理して1つしか出てきません。そうした場合、この作業場はすべて同じ評価として第一管理区分が付くというのをこの(ア)で言っています。統計的に処理して、作業場の行動範囲となる単一または複数の作業場が評価されるという趣旨です。
 一方、短時間の方ですが、8時間測定の作業場の範囲とは別に、例えばBの作業場で短時間測定がポッとあったとすると、この短時間測定の作業場の評価はBにだけかかりますということを言っています。そしてその結果、第三管理区分となった場合、作業場ごとにどちらか悪い方で評価しますので、この図の場合ではAとCは第一、Bは第三というカテゴリで評価をしていきましょうというふうになります。
 その他、高濃度の作業を時間を分割して複数人で行った場合にはどうかなどという議論がありましたが、細かい部分については来年度別途検討ということになっております。また、別途検討の中で、例えば3人それぞれ測定値が出てきた場合、それをどのように統計的に評価して評価値を出すのかという部分は議論が難しく、算術平均でよいのではないか、あるいは今の評価基準にあるように、幾何平均をとって算術平均を推計するということなのかなど、まだ議論が尽くされておりませんので別途検討となっております。
 
(スライド13)
 測定を行う者の要件についてです。これは新しい仕組みですから、作業環境測定士さんでない場合も考えられるわけですが、議論の結果、個人サンプラーの測定については作業環境測定士さんにやってもらうことが適切であろうという話になっております。
 
(スライド14)
ただ、現在、作業環境測定士のカリキュラムや経験の中にこの個人サンプラーによる測定は入っておりませんので、追加的な講習が必要であり、案では18時間の講習になりますが、個人サンプラーによる考え方やグループの設定、サンプリングの具体的なやり方等について追加的な講習をするという方針になっています。
 
(スライド13)
 下の方に「スケジュール」とありますが、報告書をまとめ、2019年度から作業環境測定士養成のテキストなどを作成するということで、これが検討会の中でまとめられたスケジュールになっております。来年度その細かいところを検討し、それから法令の改正をして、作業環境測定士さんの研修をスタートして、それが整ったら法令の施行ということになりますので、数年はかかるのではないかということです。
 
(スライド15)
 来年度の予定ですが、この「個人サンプラーを用いた測定方法に係る基板整備事業」という事業を、現在入札公告を出しておりまして、どこかの事業者さんが受託してくださるのを待っている状況です。
 何をやる予定になっているかといいますと、検討会を立てていただきまして、その中で今検討会報告の中で別途検討とされた対象者の選定数と選定方法、測定結果の評価方法、算術平均などの算出方法を含め、それから測定法の部分の検証が必要な事項の洗い出しを行っていただきます。ご存知のようにACGIHのあるアメリカ、EU、その他アジアの各国では個人サンプラーによる測定の方がスタンダードで、そのやり方についてはOSHAメソッドやNIOSHメソッドが出されています。そちらは8時間が原則になっていて、捕集機材についても、分析方法についても8時間で使えるものを念頭に作られているわけですが、とはいっても日本で今測定機材を備えている測定機関の条件のもとに測定をするとすれば、8時間でちゃんとできるかというのを確認することになっています。
 
(スライド14)
 カリキュラムは18時間で提案されていますが、実際この中身でよいのかどうか、具体的にどういうテキスト内容でやるかというところを検討いただくことになっています。
 
(スライド16)
 それからその他必要な事項です。
 これが委託事業の検討会で実施していただくもので、実際に測定方法の検証ということで実験をしてもらい、確認をしてもらいたいということと、講師養成講習のカリキュラムを作りますが、それで実際に3回ぐらいやるところまでたどり着きたいと考えております。多少盛りだくさんではありますが、来年度はそのような予定で進めたいと考えております。
 私からは以上です。
(司会)
○司会者(西村)寺島様、どうもありがとうございました。
それでは、3番目の講演に移りたいと存じます。
最後は「化学物質を安全に取り扱うためのラベル・SDS・リスクアセスメント制度について」ということで、厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課、化学物質国際動向分析官の吉澤様、どうぞよろしくお願いいたします。
基調講演3「化学物質を安全に取り扱うためのラベル・SDS・リスクアセスメント制度について」(厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課 化学物質国際動向分析官 吉澤保法)
(スライド1)
○吉澤 化学物質国際動向分析官の吉澤でございます。昨年も同様に「化学物質を安全に取り扱うためのラベル・SDS・リスクアセスメント制度について」ということでお話をさせていただきました。
 
(スライド2)
化学物質につきまして、労働災害の発生状況を2ページ目に載せておりますが、毎年500件前後発生しております。年々減っておりますが、まだまだ同様の結果で発生しております。およそ6割が化学物質の有害性による災害、4割が爆発・引火などの危険性による災害でございます。
 
(スライド3)
3ページ目でございます。このページは毎年使っている化学物質管理に関する三角形です。日本においては、化学物質管理をどのように取り扱っているかということを説明するためのものでございます。今現在、化学物質について何らかの規定を設けているものが673物質でございます。昨年の7月1日からラベル表示、SDS交付、そしてリスクアセスメントの実施義務について10物質が追加されて673物質になっております。皆様から、一昨年の通達では672物質と書いてあったのに、なぜ673物質になっているのかというご質問をたびたび頂戴します。備考1に、「石綿分析用試料等」という文言があるかと思いますが、これが昨年4月に政省令改正で追加され、同年6月1日から、それまで禁止物質であった石綿の一部用途については、許可を取れば使うことができることになり別表第9に追加されました。その関係で663物質が664物質に1物質増え、そこから673物質になったということでございます。一昨年の8月の通達とはずれておりますが、今お話ししたような事情でございます。
 
(スライド4)
こちらは、10物質の追加について、厚生労働省のホームページの制度改正のところに、このパンフレットを追加させていただいております。このパンフレットにつきましても、ずっと掲載予定となっており大変お待たせいたしましたが、昨年末にようやく載せることができました。ホームページからプリントアウトしていただいてもよろしいですし、また、各労働局、厚生労働本省の方に印刷版がありますので、皆様方の団体等でもしお使いになることがありましたら、労働局もしくは厚労省の化学物質対策課の方にご要望をいただければ可能な限り対応したいと思います。
 
(スライド6)
化学物質のリスクアセスメントの実施については、流れとしてはこのような形になります。最初に製造メーカーあるいは国内輸入業者から始まるわけですが、国内での法令適用はここからあるわけです。製造メーカーあるいは輸入業者で一番最初のラベル表示、SDSを作成していただき、それを譲渡・提供の際にご提供いただきます。続きまして、中間業者さんは、ここにありますとおり、表示者・通知者のところだけは変わりますが、基本的にはそのまま流していただいて、最終的なユーザーであるところの化学物質使用事業者のところでリスクアセスメントを実施していただくということでございます。
このリスクアセスメントの実施は、義務となる物質、努力義務となっている物質とそれぞれありますが、こちらについては衛生基準というものが労働安全衛生規則の576条、577条に規定されております。決して努力義務だからやらなくても違反ではないということではありませんので、重々気を付けていただきたいと思います。
また、リスクアセスメントの実施結果につきましては、労働者への周知が労働安全衛生規則34条の2の8で義務付けられておりまして、それと併せて労働者教育も行っていただきたいと、こちらは通達の方で「雇い入れ時教育」「作業変更時教育」において少なくとも結果の周知をお願いしております。
このリスクアセスメントに関しては、こちらのユーザーのところだけではなく、メーカーそれから中間業者それぞれにもやっていただきます。メーカーは当然、製造・取扱いにあたるわけですので、リスクアセスメントの実施義務がございますが、輸入業者、中間業者は、ここに書いてございますとおり、それをただ右から左に流しているだけでは取扱いにはなりませんが、例えば袋を開けて中身を小さな容器に小分けしたり詰め替えたり等を行う場合、それは取扱いにあたりますのでリスクアセスメントの実施義務が生じます。
また、事業者に関しましては、事業場内表示を指針の第4条で書かせていただいております。事業所内で小分け、詰め替えなどを行いますと、ラベル表示による伝達が途切れてしまう危険性がありますので、指針の方で事業場内表示を行ってくださいとお願いしております。また、SDSの掲示に関しては、法律第101条第2項で義務付けております。
 
(スライド7)
リスクアセスメントとはどういうことかといいますと、ここに書いてあるとおり、危険有害性の特定、リスクの見積り、それからリスク低減措置の内容の検討でございます。それに続いて、リスク低減措置の実施とリスクアセスメントの結果の労働者への周知などがございます。それぞれについてどういうことをしていくのかということは、これまでたびたびいろいろなセミナー等でもご説明をしてきましたので、今回はそのあたりの説明はごく簡単にしたいと思っております。
 
(スライド8)
まず、ステップ1の特定に関してですが、一番最初はラベル表示で、どのような危険有害性があるかということを、ラベルを見てご判断いただきます。国際ルールでは9種類のラベル表示が規定されております。特に急性毒性ですが、区分1~3、つまり急性毒性が高いものについてはどくろマーク、区分4の急性毒性が比較的低いものについては感嘆符(!)を付けるということが国際ルールで定まっております。例えば半数致死濃度が5 mg/Lであれば区分3ということでどくろマークになります。
 
(スライド9)
最初にラベルについて説明しましたのは、厚生労働省では「ラベルでアクション」という運動をやっており、まずラベルを見て判断してくださいというキャンペーンを行っております。この「ラベルでアクション」の中では、ラベル教育を推進しており、厚生労働省のホームページに労働者教育のモデルテキストを掲載しています。これについては、また後ほどまとめてお話しさせていただきます。
 
(スライド10)
続いてリスクの見積りを行いますが、リスクの見積りは「重篤度×頻度」、あるいは「有害性の程度×ばく露の程度」ということであります。様々なやり方があり、リスクアセスメントというのは、こういうやり方が絶対ですというものはありませんので、それぞれの事業者が取捨選択をして、最も合ったやり方でやっていただきます。
 
(スライド11)
その1つの例として、ばく露限界値のような濃度基準を使うやり方がございます。ばく露限界値を上回っていたら危険、ばく露限界値を下回っていたら当面は大丈夫ということで、それについて様々な手法があります。例えば実測をする方法、あるいはリスクについて計算で求める方法があります。コントール・バンディングはこの推定法の中に入っています。
 
(スライド12)
ラベル表示とSDSの交付に関してですが、平成29年時点で大体このような状況になっております。「すべて交付している」がそれぞれ68.6%と62.6%と結構やっていただいているのですが、ただ、「一部しか交付していない」とか、「求められれば交付している」とか、そういう譲渡・提供者も非常に多いわけでございます。求められれば交付しているということであれば、積極的に交付していただきたいと思います。
 
(スライド13)
これは先ほどの続きになりますが、統計調査を取っておりまして、毎年増えてはいますが、第13次の労働災害防止計画では8割を目標としておりますので、まだまだ目標には達しておりませんので、求められる前に交付をしていただきたいと思います。
 
(スライド14)
リスクアセスメントを実施していない理由について聞いた統計調査がございます。黄色と青と2種類ございますが、黄色は全事業所についてリスクアセスメントを実施していない理由を聞いたもの、青は化学物質を使用していますかという質問と併せて分類したものになります。実は、青についてはもともとの統計調査にはなく、ここに書いてありますとおり特別集計をしております。特別集計といいますのは、本来の統計調査とは別にプラスアルファで行っているものでございまして、ある意味、正式な集計ではございません。そういうことで、これは参考とさせていただいて、これはあくまでも参考値という扱いでございます。
そういう参考値であることを踏まえて見ていただきますと、化学物質を使っていますので「危険有害性なし」という事業所はほとんどなく、その代わり「人材がいない」「方法がわからない」というところが非常に多くなっております。
 
(スライド15)
そのため、国の方ではモデルラベル、モデルSDSを作成したり、リスクアセスメント・ツールを作って公開したり、あるいは労働者がラベルの内容を知るための教育テキストを公開したりということを行っております。これらはそれぞれリスクアセスメントの段階ではステップ1、ステップ2と3、それからステップ5に相当するものでございます。
ステップ1の情報収集のやり方としては、モデルラベル、モデルSDSがありますが、これは厚生労働省が委託しております「職場のあんぜんサイト」から取ることができます。「職場のあんぜんサイト」のトップページの右側に化学物質をまとめた表がございまして、そこの「GHSモデルラベル・SDS情報」から検索画面を通じてこのようなSDSを取ることが可能となっております。
SDSというのは国際ルールに基づいて作られているものでございます。その国際ルールがどのようなものかという点については、この場では詳しく説明いたしませんが、もし、分からないので詳しく知りたいという方がおられましたら、厚生労働省のホームページに「モデルラベル・SDD提供制度について」というパンフレットがPDFファイルで載っておりますので、これをご覧いただければ分かると思います。
 
(スライド18)
ステップ2、ステップ3のツールについて、現在これだけ公開しております。ここでは特にCREATE-SIMPLEについて赤で目立たせておりますが、これは昨年3月に公開したばかりのもので、これは最新のものだということで赤くしております。
 
(スライド19)
これから宣伝のためにCREATE-SIMPLEについてご説明をしたいと思います。CREATE-SIMPLEについては、それまでのコントロール・バンディングと大きな違いがございます。コントロール・バンディングはILOが作りました開発途上国の中小企業向けのものであり、非常に大雑把なものになっております。それに対してCREATE-SIMPLEは、国内で少量しか使わないような小規模事業者がリスクアセスメントをしやすいようにするために、少量のものに着目して作っております。また、さらに細かい作業条件や頻度を入力できるようになっております。したがって、コントロール・バンディングよりも実態に合った評価ができます。
 
(スライド20)
これがCREATE-SIMPLEの最初の画面でございます。最初に説明しますと、CREATE-SIMPLEは「職場のあんぜんサイト」のツールのホームページにエクセルの形で載っており、ホームページ上でエクセルを開いて使うこともできますが、エクセルをダウンロードしてそれぞれの会社のPCで使うこともできます。そのエクセルに物質情報があらかじめ入っており、物質名で検索すると、その物質の危険有害性情報が自動的に入るようになっています。
 
(スライド21)
例えば、ばく露限界値やGHS分類情報でございまして、ここで「表示」と書いてあるところをクリックしますと、それぞれ開きまして、物質名が入力してあると、その物質名に応じたばく露限界値あるいはGHS区分が自動入力されるようになっております。もちろん、内容的にこれは違うとか、メニューがないということであれば、ここはすべて手入力で入れることが可能になっております。
 
(スライド22)
続いてそれぞれ細かい入力をしますが、この辺りの機能はコントロール・バンディングにはないものです。コントロール・バンディングよりも入力項目は多くなりますが、入力をすればするほどより実態に合った評価ができますので、地道に入れていただきたいと思います。例えばその物質の濃度はどのぐらいか、塗布する場合はその塗布面積、換気の状況等々あるわけです。
それぞれ「?」がございまして、クリックをしますとこれはどういうものかという説明が出るようになっております。スプレー作業は何か、あるいは塗布作業は何か、換気の条件はこういうものであるとか、そういった説明が出てきます。
 
(スライド24)
換気条件についてですが、CREATE-SIMPLEではここまで詳しくは載っていないのですが、詳しくいうと、こういうものであるということでございます。
最後に、取扱いの頻度、週1回以上で週に3日間というように入力すれば、どれだけばく露したかということをより正確に評価できます。
 
(スライド25)
また、マスクについて入力できるようになっておりまして、例えば「種類」は半面型ですか全面型ですか、「フィットテストの有無」はフィットテスト、フィットチェック、そういうことはしないなどが選べるようになっております。当然、これはすべてリスク低減措置に関することでございますので、入力すればするほどリスクを下げることができます。
 
(スライド26)
この「リスク判定」のボタンを押すと自動的にリスクが計算され、今までの入力内容であればリスクレベルはⅢですと、また、これはトルエンだったと思いますが、トルエンを使った場合には、目や皮膚に対して有害な影響があるための対策が必要だという評価が得られます。この隣の「実施レポートの出力」をクリックしますと、エクセルの別シートに自動的にこの評価内容が入力されます。
 
(スライド27)
2列になっておりますが、左側が現状で、これが最初に入れたものになります。こちらに措置についての画面がありまして、ここを入力し直して再度リスクの判定をしますと、こちらに「対策後」という列がありまして、リスクが変わります。もちろん最初から入力し直しても同じことができるのですが、この場で現状と対策後ということで並べて見比べることができますので、対策についての効果がわかりやすくなります。
 
(スライド28)
つまりこういうことです。最初はリスクレベルがⅢでしたが、換気レベルを高度なものに変えるとリスクレベルはⅡに下がりますとか、そういうことでございます。
 
(スライド29)
また、換気レベルが同じでも、マスクを着けない予定だったのを着けるに変えても、やはりリスクレベルは下がります。もちろん、トルエンのような法定物質については、例えばタンクの内部などマスクを着けることが前提の作業がございますが、そういうものは別として、法定上はマスクを着用しなくてもよい作業であっても、マスクを着けるとリスクレベルは下がるので対策になるということでございます。
 
(スライド30)
最後に、こちらの自由記載欄に備考的なものを書いて保存すると、これがリスク評価結果として1枚にすべて表示されます。
 
(スライド31)
CREATE-SIMPLEに関しては、昨年3月に作ったものでございますので、実は昨年度の電話相談窓口ではまだ対応していなかったのですが、平成31年度は電話相談窓口でもCREATE-SIMPLEに対応し、CREATE-SIMPLEに対する相談にも答えるということにしていますのでこちらをどんどんご活用いただきたいと思います。こちらは、今年度のものですから、また来年度4月1日から新しい事業が始まります。平成31年度事業については、厚生労働省のホームページ等でご確認いただきまして、この電話相談窓口をご活用いただければと思います。ここに書いてある内容は平成31年度も引き続き行います。電話相談窓口、メール相談、専門家による訪問支援、すべてこの4月以降も行うこととしております。
また、こちらのツールの入力支援サービスですが、これまで「コントロール・バンディング」としか記載されていませんでしたが、そのような書き方を止め、「簡易ツールの入力支援サービス」と変えております。これはコントロール・バンディングだけではなくCREATE-SIMPLEにも対応しますという意味でございます。
私からは以上になります。
(休憩)
○司会者(西村) 吉澤様、ありがとうございました。
以上で、前半の部を終了させていただきたいと思います。
時間が押している都合もございまして、3時20分より後半の部を再開したいと思います。なお、ピンクのアンケート用紙にご質問、ご意見等をご記入いただきまして、事務局員にお渡しいただけるようお願いいたします。
では、休憩時間とさせていただきます。
意見交換(【コーディネータ】東京理科大学薬学部 教授 堀口逸子)
○司会者(西村) それでは後半の部・意見交換会を始めさせていただきます。
コーディネータは、先ほどご紹介いたしました東京理科大学薬学部教授の堀口逸子先生にお願いしております。また、パネリストには、先ほど基調講演をいただきました大前先生、寺島様、吉澤様に加えまして、厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課、化学物質評価室の川名健雄室長でございます。
 
○川名 川名でございます。よろしくお願いいたします。
 
○司会者(西村) また、厚生労働省労働基準局化学物質対策課、化学物質評価室増岡宗一郎室長補佐に加わっていただきます。
 
○増岡 増岡でございます。よろしくお願いいたします。
 
○司会者(西村) 4時頃まで、あらかじめ会場からいただきましたご質問等につきまして、先生方からご回答、コメントをいただいくという方法で進めていきたいと考えております。
それでは、堀口先生、どうぞよろしくお願いいたします。
 
○堀口 皆さん、どうぞよろしくお願いいたします。
たくさんの質問をいただきました。きょうは3つのテーマがありましたので、一番最初のテーマから進めていきたいと思います。
まず1番の「平成30年度リスク評価の結果について」に関するものから始めます。
国の評価ではリスクが低いと判断されたらやめるとのことでしたが、測定についてはその考え方はできないのでしょうか。また、やめることはできなくても、測定の方法をもっと簡易にできないのでしょうか。リスク評価を行うサンプル数が少ない場合は、リスクはどのようにお考えでしょうか、というご質問です。
 
○大前 今のお話は、測定の方法ということで「作業環境測定」のことをおっしゃっているのではないかと思いますが、作業環境測定の話とリスク評価の話は別物です。健康上のリスクは小さいとなった場合、ではもう作業環境測定はやらなくてもよいのか、あるいはより簡易なものをやってもよいのかということはまた別問題です。そこのところは、厚生労働省がどういうふうに将来的に変えるかわかりませんが、現段階ではそこの間のリンクはされていません。
 
○堀口 リスク評価を行うサンプル数が少ない場合は、リスクはどのようにお考えでしょうか、という点についてはいかがでしょうか。
 
○大前 どういうふうに答えたらよくわからないのですが、先ほど申しましたサンプル数が少ないと標準偏差が大きくなるのでという話とのリンクだと思いますが、今のサンプル数が少ないというのは、1つの企業の中の話なのか、あるいは今回のように何カ所かの企業にお願いして測ってもらってという話なのかということだと思います。企業の中の話はもともと何人がその仕事をやっているのかということだけの話ですので、この場合のサンプルは個人ばく露のサンプルという意味になりますが、個々の濃度に応じてリスクを評価していただければよいということです。
それから、今回国でやったような測定に関しましては、先ほども申し上げましたが、サンプル数が少ないとどうしても95%の信頼性は下がりますので、その場合はサンプルを増やしていただいた方がよいのですが、しかし、現実的になかなか協力をいただけない、問い合わせをしてもオーケーと言っていただける会社もそれほど多くはないというふうに聞いておりますので、サンプル数が少ない場合はどうしようもないとしか答えようがなく、解決の方法はないと思います。
 
○川名 私の方からひと言コメントをさせていただきます。
先ほど大前先生からご紹介いただいた物質につきましては、それぞれまだ初期評価の段階でございます。今後詳細な評価が必要なものにつきましては、さらにサンプル数の追加を試みながら、より詳細な評価を進めていくよう取り組んでいくことにしております。なるべくサンプル数を多く確保できるように、我々としても取り組みながら、皆様のご協力を得つつ、適切な評価を進めていきたいと考えているところでございます。
 
○堀口 ありがとうございます。
統計をやっているとサンプル数が少ない場合、非常に悩ましい問題ですが、厚生労働省が一生懸命に頼んでも協力してもらえなければサンプル数が集まりません。ここに来ておられる方には多分協力していただけるとは思っていますが、同じ業界のお仲間にもお声をかけていただければと思います。よろしくお願いいたします。
では、次の質問です。1,2-酸化ブチレンの結果についてですが、反復投与毒性で得られた評価レベルの0.38 ppmを二次評価値としない理由は何でしょうか。
 
○大前 二次評価値というのは、それなりの信頼性のおける機関が採用している数値を取るというのがルールとなっております。そういう意味で今回の0.38を取らなかったのですが、例えば、日本産業衛生学会の許容濃度等委員会が許容濃度を作るとしたら、あのぐらいになる可能性はあると思います。ルール上はそのようにはなっていないので、取っていないというだけでございます。
 
○堀口 同じく1,2-酸化ブチレンの評価結果についてですが、異なる作業におけるばく露値をプールして、区間推定上限値を算出することに意味はあるのでしょうか。
 
○大前 国がやっている評価の場合は、全体としての評価でございます。特定の作業でどうかという評価をしているわけではありませんから、今回のようなスタイルになるわけです。もしそれをやって、特定の作業だけが高くてそのほかの作業は高くないということがわかれば、詳細評価の中で要因分析をやり、特定の作業だけであれば特定の事業場に対しての指導等をという分岐を先ほどお示ししましたと思いますが、そのようになります。
おっしゃりたいことはわかっておりまして、バラバラの作業のところを全部まとめてやってどうなるんだというのはそのとおりだと思いますが、国の評価というのはそういうことをやっているわけではなく、全体として把握するという形になっていますので、今のご意見に関しては、理解はできますが、現実的な対応はできていないということになります。
 
○堀口 今回の1,2-酸化ブチレンの評価結果を受けて、今後の法制化の予定はありますか。法制化された場合、毒物扱いとなるのでしょうか。それともほかに……。
 
○大前 詳細評価にいくことは決まりましたので、その詳細評価の結果によって特殊な作業だけではなく、全体の作業としてもリスクが高いという結果になれば、措置検討会というまた別の検討会があり、そこでリスクマネジメントについて議論することになります。詳細評価のところまではリスク評価で、措置検討会の方はリスク管理の立場の検討会ですから、措置検討会の方でどうなるかは、今はわかりませんが、措置検討会が最終的にどのような規制をするかということになります。
措置検討会の場合はメーカーのヒアリング等いろいろなことをやって決めますので、単純にリスク評価のところだけでは決まりません。
補足をお願いします。
 
○川名 大前先生にご説明いただいたとおりでございます。まずは詳細の評価においてどのような結果が得られるか、それが大きな1つのポイントになろうかと思います。そして詳細評価でリスクが高く、措置が必要だということになれば、措置検討会という別の検討会で措置の検討を行うということです。その措置検討会の中では、大前先生からもご説明いただきましたが、関係する業界の方からアンケートを取ったり、ヒアリングを行いながらその措置についての議論も行いつつ、措置のあり方について我々としても考えていくというステップを踏んでいくことになろうかと思います。
 
○堀口 経皮ばく露に関して2つご質問がございました。
1つは、経皮ばく露の有無のチェックについて、ACGIHや日本産業衛生学会の「Skin」や「皮」に基づき判断されていますが、必ずしも発がんをエンドポイントとしていません。また、これ以外にもイギリスHSEの勧告も参考にしていますが、どのようなエンドポイントを対象にするのかを切り分けてリスクアセスメントをするように思いますがいかがでしょうか。
 
○大前 皮膚吸収のあった後、からだの中にその物質なり代謝物が回ってどこかのところで障害を起こし、その障害ががんかもしれないし、神経への影響かもしれないし、あるいは生殖毒性かもしれませんがそれはわかりません。ですから、今おっしゃるように、皮膚吸収の「皮」マーク、「Skin」マークに関しては、ターゲットは決まっておりません。
あくまでも私が知っている範囲ではありますが、一番よく知られていて、皆さんのところでも使っている可能性はありますが、日本で一番たくさん症例が出たのはジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)で、皮膚吸収がすごくて肝障害が起きました。おそらく数としては今までで一番多いのではないかと思っています。この場合、ターゲットは肝臓だったということです。
 
○堀口 この経皮の場合、雄ががん化しやすいという結果をご紹介いただきましたが、その後の評価には反映されていないようです。性差が言及されないのはなぜかという点が気になりました。
 
○大前 実験によっては雌だけに出たり、あるいは雄だけに出たり、あるいは両方に出たりすることがございます。そしてそれを人間に当てはめるときに、ではこの物質は動物で雄だったからヒトでも雄だけにしか出ないのかというと、そういう証拠はありません。もしそういう情報があれば、極端に言うと「男性は使用禁止」とか「女性は使用禁止」というふうにできるのかもしれませんが、そういう情報はありませんので、動物実験の段階で雄だけ、あるいは雌だけといっても、それをヒトに反映することは現実的にはできないということになります。
 
○堀口 経皮吸収について定量化することを目指していただきたい。また、評価方法自体の研究不足はいたしかたないけれども、例えば次年度のCREATE-SIMPLEで用いられる経皮吸収毒性の定量評価方法は参考になるのではないでしょうか。また、作業時の接触状況を何段階かに類型化すれば、おおまかではありますが簡単な定量評価になるように思います。研究者が足りないようであれば協力します、ということです。
 
○吉澤 CREATE-SIMPLEについて、今検討中の見直し作業のことを言っているのかと思いますが、あれはまだ途中段階で、当然ここでご説明できるようなものではありません。あれはそもそも簡易リスクアセスメント・ツールとしての見積りですから、あれをこの国のリスク評価として使うのは、私はどうかと思います。
 
○大前 追加ですが、今ありましたように、皮膚吸収の評価の仕方はまだなかなかうまくいっていません。いくつか手法はありまして、例えば皮膚吸収されたものそのもの、あるいは代謝物を尿中あるいは血中で測るということでどれぐらい皮膚吸収があるかというようなやり方は1つあります。これは動物でもヒトでも両方使ってやることができます。
それから、今はやっていませんが、ヌードマウスという毛のないマウスがいるのですが、そのヌードマウスに、液体だったと思いますが、液体をばく露後しばらくして、それを液体窒素の中に入れ凍らせて、それを全部砕いてホモジネートして、どれぐらい残っていたかというやり方も昔はやっていました。
それから比較的最近あるところでやられている方法は、人工的な皮膚をつくって、その皮膚の上に液体状のもの、あるいは気体もあったかもしれませんが、それを載せて、どれぐらい下に透過してくるかということで皮膚吸収を評価しようという方法をやっております。
このように様々な方法をやっておりますが、決定的なものはまだないというのが現状です。皮膚吸収に関しての研究は非常に遅れております。
 
○川名 経皮吸収に関しましては、暫定的なバージョンではありますが、ばく露評価方法の方針のようなものも作らせていただきまして、現状、それに基づいてとりあえず、まずはやってみようという段階でございます。それをやりつつ、いろいろな治験も進めながら、さらにより良い方法を目指して考えていこうと臨んでいるところでございます。
この経皮吸収につきましては、皆様の方からいろいろなアイデアがございましたら、我々の方にもお寄せいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
 
○大前 追加です。皮膚吸収を考える場合、多くの方は液体を考えているのではないかと思います。液体に直接付く、あるいはなかなかよい手袋がないということもありますので、手袋を透過して付くというイメージがあると思いますが、蒸気でも十分に吸収されます。その点、気を付けていただきたいと思います。
これはうちの教室が90年代の半ばにやった実験ですが、私自身がモルモットになり、呼吸器だけのばく露と皮膚だけのばく露というシステムをつくり、DMFとDMACの評価をしました。蒸気でやりますと、呼吸器のばく露と皮膚のばく露とではほとんど同じでした。ものによっては蒸気でもそのぐらい吸収します。特に夏の暑いときには汗に溶けますので、蒸気が液体になって入ってくるということもあり、そこは十分に留意していただきたいと思います。蒸気だからといって油断しないでくださいと、そういう意味でお願いしたいと思います。
 
○堀口 それから、評価そのもののお話かと思いますが、二次評価値起源の信頼性についてはいかがでしょうか。
 
○大前 先ほど言いました二次評価値というのは、それなりの機関が提案している数字でございます。したがってそれ以上評価のしようがありません。いろいろな文献なり何なりを集めて、そこからもってきた数字でございますので、それをさらに評価するということになりますと、例えば新しいデータが出てきて評価しなければいけないというような場合を除き、それ以上はやりようがありません。
 
○堀口 ベーシックなところですが、今回のリスク評価の結果は、SDSに記載されている内容とほぼ同じように思います。平成30年度リスク評価として、特にリスク評価を実施された意図がわかりませんでした。12枚目のスライドにこの辺が記載されていますが、なぜ平成30年に行われたのか、行う必要があったのか、今更なぜでしょうか。リスク評価のツールは何を使ったのでしょうか。厚労省の依頼で大学が毎年サンプリング評価をしているのでしょうか。背景がわかりませんでした。
 
○大前 物質の選択については、1年間にたくさんできるわけではありませんから、それなりに優先順位を付けて選択しているということだと思いますので、平成30年度にこの物質になったというのは偶然で、それだけの理由だと思います。
リスク評価のやり方ですが、論文というのはもともと原著というものがありまして、例えば日本産業衛生学会の許容濃度委員会ではそれを一生懸命に集めてきまして、それで許容濃度の勧告の文書を作ります。それが原著を用いた二次文献です。ここのリスク評価では、日本だけではなく、いろいろなところから同じような二次文献を集めてきてやっています。ですから、基本的には原著には戻らないのですが、最終的なキーの影響については一次論文、原著も読みましょうということでやっております。必ずしも二次文献が正しいという保証が実はないことが結構ありますので、原著を見たら違っているということもありますから、そういう意味で、少なくとも最終的なキーに関しては原著まで一回戻ろうということにはなっております。
 
○堀口 別に大学がサンプリング調査をしているわけではないのですね。
 
○大前 そうではありません。
 
○堀口 そうですね。そして、リスク評価もツールではなく、この会議でやっているわけですね。
 
○大前 そうです。ツールを使っているわけではありません。先ほどのコントロール・バンディングのようなものを使っているわけではなく、先ほども申し上げましたが、一次文献を評価した二次文献を使っているということです。
 
○堀口 きょうのスライドには書いていなかったと思いますが、ばく露評価の検討会があったり、リスク評価の検討会があったり、また、その物質を選定する検討会があるなど別々に検討しています。私は検討会に入っていますが、そこで毎年候補の物質を何物質か決めてやっています。
リスク評価をするには、それぞれお金も必要ですから、毎年20も30もできません。ですから使用量が多いとか、輸入量が多いとか、IARCのランクが高いとか、そういうようなことを参考にして、合議のもとに物質を選定しています。
その検討会は年に2、3回、公開でやっており、検討会の様子はホームページにも出ていますので、それを見ていただくと自分の会社が扱っている物質が検討会で評価にあがっているか否は分かるようになっています。
それでは、1番は終わったようですので、2番の「個人サンプラーを用いた作業環境測定」に移りたいと思います。こちらについては、割とたくさんいただきました。
個人サンプラーによる測定は、あくまでも個人ばく露量を測定するもので、作業場の環境を測定するものではなく、個人サンプラーによるばく露のばらつきは個人の作業と手ぎわの差が加算され、作業環境測定値のばらつきは環境のばらつきのみで、異なるものと思われるのですが、同一で取り扱ってよろしいのでしょうか。
 
○寺島 ご指摘の内容はよくわかります。先ほどは説明しなかったのですが、個人サンプラーを用いた「個人ばく露測定」をそもそも導入すべきではないのかというご指摘に通じるものではないかと思います。労働安全衛生法の作業環境測定の義務規定が、「作業環境測定を行わなければならない」となっていて、作業環境測定の定義のところに、「空気環境中の有害物の濃度を測る」という書きぶりになっています。それを前提にしますと、「個人ばく露測定」というのは何を測っているかというと、個人のばく露を測っているのであって、「個人ばく露」という言葉からしますと、そこが安衛法の現在の規定からはそれているといいますか、横に飛び出ているということがあり、法律を見直さなければ「個人ばく露測定」と言うのは難しいと考えられるという部分があります。
実際、労働安全衛生法第22条に有害物の健康障害を防ぐための措置義務があり、電離放射線障害防止規則でフィルムバッチというのを付け、個人の外部被ばく線量を測らなければならないとなっているのですが、これは作業環境の測定ではなく、法律の第22条に基づく健康障害防止措置の義務規定に基づいて規定されています。
ですから、法律の枠組みが現状そういう形になっている中で、先ほど背景を申し上げましたように、合理的な作業環境の管理の部分で個人サンプラーによる測定を導入していくためには、どのような形で整理するのがよいだろうかということがあり、「個人ばく露測定」とは言わず、「個人サンプラーによる環境中の濃度の測定」ということで整理したものが今回の報告書になっています。
ご指摘は、個人のばく露を測っている数値と環境中のA、B測定の値というのは意味するものが違うのではないかということだと思いますが、我々の整理の中では、個人ばく露測定をすることによって、間接的かもしれませんが、その労働者が働いている作業場の評価にもなり得るわけですので、それを使って作業の管理だけではなく、作業環境の改善を行うことにつながるわけです。そういった意味から作業環境の測定でもあると位置付けまして、そのようにまとめたものということになります。
 
○堀口 多分、今の話に通じるのですが、「個人サンプラーを用いた測定」ですと「個人ばく露測定」と紛らわしいので、別の言葉を考えて欲しいと思います。要するに、サンプラーが作業者と共に移動する測定だということですね。また、従来の測定と比較して、「このような場合はこちらの方が適切である」とより強くお勧めできる場合を案内した方が、事業者には伝わるように思います、というご指摘です。
 
○寺島 検討会でもどちらが適したものか、逆に言いますと、個人サンプラーによる測定の方が適している作業にもかかわらずA・B測定を選んでしまう事業者さんがいないかどうか、そこは何らかの強制的なものを示すべきではないかという議論もありました。ただ、そこのところをあまり縛ってしまうと、必ずしもそういう状況とは限らない、つまり、例えば溶接のような作業はすごく近づいてやりますから、個人サンプラーの方が健康影響なり作業環境の状況を測ることができるとされますが、それは事業場と作業者の状況によって異なるだろうし、B測定を適切にやればクリアできる問題でもあるだろうということで、そこは縛らずに事業者さんの方で測定士さんの意見を元に選択いただくということになっております。
 
○堀口 言葉の話ですが、「作業環境測定」は作業環境管理、「個人ばく露測定」は作業管理のように決めつける記述がいまだに多くの関係資料に見られますので、これも混乱の元なので整理をして欲しいというご指摘があります。
 
○寺島 22年の報告の中に、まさにそのように、すなわち、A・B測定は作業環境の改善、個人サンプラーによる測定は作業の改善のように書いてしまっている部分はあります。そこについては、検討会ではそれは誤解だと、諸外国で個人ばく露測定をやっていますが、その結果は作業の管理だけではなく作業環境の改善に使われているので、そこは誤解で、誤解を解いていかなければいけないというふうに指摘されています。ですから、我々がこの仕組みを周知させていく中でもそこは誤解のないように進めていきたいと思います。
 
○堀口 12枚目についてですが、評価基準値がTWAや許容濃度ではなく管理濃度としたのはなぜでしょうか。
 
○寺島 ここも議論がいろいろあり、紆余曲折がありすぎて忘れてしまうぐらいですが、もともと個人サンプラーによる測定は諸外国では個人ばく露限界値、日本でいえば許容濃度を比較するというのが妥当であると、それから、管理濃度とは別の値を作るべきではないかというご議論もありましたし、別の名前の評価基準を作ろうという話や、数字は同じでもよいけれどもなどいろいろな話がありました。
ただ、作業環境の評価とする以上は現在の管理濃度との比較がダブルスタンダードにならずによいのではないかということもありまして、管理濃度ということで決着しております。
 
○堀口 同じページですが、短時間測定の評価基準は管理濃度の1.5倍となった根拠な何でしょうか。
 
○寺島 ご承知のように、日本産業衛生学会の個人ばく露測定ガイドラインでは、この部分が「許容濃度の3倍」となっていると思います。日本産業衛生学会の方で3倍という値を出した際にも学術的に、過去のデータ等経験的なところから3倍を導いていますので、その値でよいのではないかと、管理濃度の1.5倍は厳しいのではないか等のご意見もありましたが、ここのところを議論していく中で、今のB測定と同じ1.5倍とするのが整合性からして取り組みやすいのではないかということで1.5倍になりました。ですから、根拠としてはB測定と同じにしたということになります。
 
○堀口 「作業環境測定」に該当するものを「個人サンプラー」、それ以外を「個人ばく露測定」という理解でよろしいでしょうか。
 
○寺島 はい。ただ、義務になっている部分は個人ばく露測定という言葉を使いません。しかし両面で考えて、個人の作業のリスクアセスメントとして考える場合は、個人ばく露測定としてとらえて事業場でお取り組みいただいてもよいのではないかと思います。
 
○堀口 現状のA・B測定と個人サンプラーの測定結果で差異が生じた際の取扱い方はどのようにすべきでしょうか。
 
○寺島 その点は、法令上はまだ決まっていませんので何とも言いづらいのですが、今、法令で規定する予定なのは、A・B測定と個人サンプラーによる測定のどちらかになっていますから、両方やるということは想定されていません。仮に両方やった場合に「どちらを採用したらよいですか」と問われた場合には、「評価が悪くなる方」とお答えするのだと思います。
 
○堀口 合理的にリスクアセスメントをするために二本立てのアプローチになるとのことですが、8時間サンプリングしなくてはならないので合理的とは思えないのですが、いかがでしょうか。
 
○寺島 時間が非常に長いという意味で「効率的ではない」というご指摘は理解できます。もともとこの検討が始まった22年のときの議論を持ち出せば、A・B測定よりも個人サンプラーによる測定の方が、過小評価や過大評価という問題がクリアできる場合があるだろうと、現行のA・B測定では作業場を過大に評価している場合があるのではないかと、過大に評価すると設備投資が必要だったりしますから、適切に労働者の健康障害防止のための測定を行うという意味で、「合理的」と言っています。
 
○堀口 今後、二択になった場合、モデル様式は変更されるのでしょうか。
 
○寺島 モデル様式そのものを変更するか否かということでは、現在のA・B測定のモデル様式に何らか少し付け足すということはあると思いますが、おそらく個人サンプラーによる測定のためのモデル様式を別バージョンで作ることになると思います。
 
○堀口 場の管理とリスクアセスメントを合理性から同じ土俵に乗せることに納得がいきませんが、いかがでしょうか。
 
○寺島 冒頭の法律の制約の中で進めてきているというお話に通じるのではないかと思いますが、たしかに個人ばく露測定と通常言われているものを、無理矢理、作業環境測定に入れているのではないかと、納得がいかないと思われる場合があるのは理解できます。法律改正を待つまでやらないのかというのではなく、現状に照らして現場で使えて、みんなのためになるものを導入したいという意味でやっております。
 
○堀口 パッシブサンプラーが分析メーカーなどから販売されていますが、これらサンプラーの技術基準などは策定されるのでしょうか。メーカーによって性能のばらつきなどが出ないようにする仕組みはありますでしょうか。
 
○寺島 正直なところ、現時点ではないです。普通の作業環境測定においても、捕集管の性能はそれぞれ違うと思います。一方で、パッシブサンプラーはメーカーによって信頼性のばらつきがあるという話も聞いてはいますが、その部分については、基本的に、諸外国でも使っていますので、使えるものとすることを前提に、必要があれば確認を行うという形で取り組んでいきたいと思います。
 
○堀口 2枚目です。「簡易な測定」に「検知管、パッシブサンプラーなど」と記載されていますが、パッシブサンプラーはガスクロによる分析で結果を出すので、検知管とは明らかに違います。なぜ簡易測定に入れているのでしょうか。個人サンプラーとして定義される測定器はどんなものがありますか。
 
○寺島 現在、個人サンプラーによる測定として使用可能な機器としては、胸のところに着けるものとしてパッシブサンプラーもありますし、固体捕集管にポンプを付けて捕集するものやインピンジャー、サンプラーのバッグなどがあり、一番よく使われているのがパッシブサンプラーと活性炭等が付いている固体捕集です。そういったものを念頭に確認・検証を行っていく予定でおります。
この冒頭のスライドにある検知管はリスクアセスメントの手法として13次防の中に書かれているものですから個人サンプラーのことではないのですが、検知管であっても個人サンプラーに使えるものもありまして、皆さんが普通イメージする検知管はその場で引いて、1分、2分で行うものですが、個人サンプラーで使える検知管があるように聞いています。非常にケースは少ないと思いますので見たことはありませんが、8時間少しずつ反応が進むというような検知管があるとも聞いていますので、除外するつもりは特にありませんが、確認を取ることができればそういったものも使っていけるのではないかと思っております。
 
○堀口 個人サンプラーにはアクティブ方式とパッシブ方式の2種類で使用しているのでしょうか。
 
○寺島 たぶん2種類ではないかと思います。
 
○堀口 発散源が作業者と共に移動する場合は、特定粉じん発生源でしょうか。
 
○寺島 それはイコールではないと思います。特定粉じん発生源は粉じん則の中に規定されていますが、特に粉じんが多く発生するものについて規定しています。溶接のようにずっと移動するような特定粉じん発散源ではないものもありますし、そうではなく固定のサンダーのような特定粉じん発散源も入っていたと思いますから、そこはイコールではないと思います。
 
○堀口 作業環境測定士は外注の場合が多く、実施がA・B測定よりも難しくならないでしょうか。
 
○寺島 おそらく経験がない場合には難しいものだと思いますので、そこは講習を規定することでクリアしていきたいと思っております。費用についてはまだわかりませんが、一般的なことでは非常に広い作業場に少ししか人がいなければサンプルの数が少なくなりますから、そういったところは広さと人数によって変わってくるので、一概にどちらが多いとか、お金がかかるとか、そういうようなことではないと思っております。
 
○堀口 作業環境測定士なしでの実施が許されることはないのでしょうか。
 
○寺島 ゼロというのはないと思います。
 
○堀口 対象物質を取り扱う職場ごとに作業環境測定士の育成が必要と理解したのですが、そのとおりでしょうか。
 
○寺島 今自社測定を行っている事業場にあっては、そういった測定士さんに研修を受けていただくことが必要になってくるかと思います。
 
○堀口 研究所において年に1、2回、数ミリリットル、少量の取扱いをしていますが、それも作業環境測定の対象になりますでしょうか。
 
○寺島 それは個人サンプラーであっても、環境測定であっても同じ問題なのですが、基本的には少量であっても通常使うのであれば必要となっています。
 
○堀口 いずれは場の測定から個人ばく露測定に完全移行するのでしょうか。
 
○寺島 それはわかりません。
 
○堀口 個人サンプラーを用いても用いなくてもよいということでしたが、本日の話を聞いて、個人サンプラーを用いて測定するように決めれば、測定する側も楽でよいと思います。個人サンプラーによる測定を2021年に先行導入を目指しているとのことですが、作業環境測定士の研修について詳しく聞きたいです。
 
○寺島 研修については、先ほど事業の説明をしたとおりで、これからとなります。
 
○堀口 個人サンプラーによる測定結果の普遍性を判断するには、当該作業者の位置移動の履歴の情報が紐付けられていることが有用と考えますが、これに対する施策、技術はあるのでしょうか。
 
○寺島 確かに、ずっと付いて回っていないと、どの作業をしているのか分からないというご指摘はあります。そこは検討会でも議論がありましたが、基本的には8時間で、自分であるいは担当者に作業の履歴をつけてもらうということだろうと理解されています。技術があるかという点については、中災防さんなどではウエアラブルカメラを着けて、それと測定の結果を連動させて評価するというものも出ていると聞いていますので、そうしたものもあると思います。
 
○堀口 作業環境測定のことですが、特に研究業務につき作業環境が良好な作業場について、測定頻度の低減を是非考えていただきたいと思います。製造などの作業場と一様に研究業務に当てはめている現行の作業環境測定の制度の合理性ついて、どのように考えていますでしょうか。
 
○寺島 これまで測定については、工場型で、連続で作業をしているところを対象に制度が考えられてきていますので、そういったところのご要望はよく聞くところではあります。
実は、この検討会の設置要綱のところにそうしたことが少し出ています。今日のポンチ絵4枚目の「検討会の目的」の最後の行になります。「作業環境が良好な事業場についての測定頻度の低減等」とあり、ここのところは実のところやってみないとわからないといいますか、不安な部分です。いきなり措置の緩和までするのは難しいのではないかというところがあり、今回、そこの部分までは議論できておりません。ただ、合理的な化学物質管理のあり方からして、そういった点はこれから検討しないというわけではなく、課題・ご要望として承っていきたいと思います。
 
○堀口 では、3番にいきます。3番も多いです。
ラベルの抜き打ち検査のようなものはありますか。
 
○吉澤 ラベルとは、労働安全衛生法57条に規定するラベル表示の義務のことかと思います。労働基準監督署の監督官が事業場に行った場合、使われている容器等を見て、ラベルがなければそのことについて聞くことは当然あります。また、SDSを入手しているかなどいろいろお話を聞くことになるかと思います。ただ、ラベルに関しては譲渡・提供者の義務ですから、その内容を聞き取って、ラベル表示についてきちんと譲渡・提供者に話していただくとともに、監督官が直接譲渡・提供者にお話しするケースもございます。それはその譲渡・提供者の態度によるものです。
基本的には、ラベル表示が無い場合には、無いなら無いなりのリスクアセスメントをきちんとやっていただいているか、化学物質管理をやっていただいているかということでございます。
もう1つ、先ほどありました事業内表示に関しては、これは法令ではなくお願いということになります。労働者の安全と健康を守るためには、事業所内であってもラベル表示は必要であり、これは積極的に行っていただければと思います。
 
○堀口 リスクアセスメントについていくつかございます。混合品のリスクアセスメントはどうすればよいでしょうか。屋外で一缶破損して少量を回収する際のリスクアセスメントは必要でしょうか。
 
○吉澤 最初のご質問の混合物についてどうするかという点は、基本的には化学物質リスクアセスメントは化学物質ごとに危険有害性が異なりますので、原則、それぞれ行っていただく必要があります。ただ、実際問題として、危険有害性は種類によって高い・低いがございますので、それぞれの化学物質で一番危険有害性の高いものについて対策を取っていただければ、他の化学物質については当然それよりも低い数字に保たれます。ですから、それぞれの化学物質についての一番高い対策、例えば吸入したら危ないということであれば吸入しないような排出抑制措置であるとか、マスクを着けていただくとか、そのような対策を取っていただきます。もしそれが皮膚に付いたらかぶれるとか、皮膚から吸収されて内蔵に影響が出るということであれば、浸透しない手袋を着けていただくなどそれぞれの危険有害性に合った、使っている化学物質の中でも危険有害のあるものについての対策を取っていただければ、全体的にリスク低減措置が図れると思います。
2つ目は、屋外で少量使っている場合のリスクアセスメントですね。リスクアセスメントについては、化学物質についてリスクアセスメントをやってくださいということが決まっておりますので、屋外であるとか屋内であるとか、あるいは量が多いとか少ないとか、そういうことは評価の対象にはなりますが、やるかやらないかという点で言えば、必ずやらなければなりません。ただ、やったときに量が少なければ当然その分評価値は下がります。また、屋内・屋外であれば、屋外の方が拡散してそれだけばく露のリスクは下がりますので評価値はやはり下がります。そういうことはリスク評価の内容に反映するけれども、リスクアセスメントは必要だということになります。
 
○堀口 アスファルトに関してですが、道路舗装材として施工後にその舗装材をはがし、廃棄する作業についてもリスクアセスメントを実施する必要があるのでしょうか。基本的にはヒュームなどの粒子状物質が対象と考えますので、加熱などにより粒子状のアスファルトの飛散のリスクが極めて低い場合は必要がないと判断していますが、どうでしょうか。
 
○吉澤 コンクリートもそうですが、アスファルトなどは制度上の話をしますと、譲渡・提供を受けてそれを使います。そのときにはリスクアセスメントをしなければなりません。施工後、つまりコンクリートやアスファルトを施工して後、それを第三者に引き渡しますが、引き渡した後は一般の用に供するものになりますので、その後の解体時には化学物質のリスクアセスメントの対象ではなくなります。ただ、労働安全衛生法上は、57条の3に基づく化学物質のリスクアセスメントとは別に、28条の2に基づく一般的なリスクアセスメントの努力義務もありますので、もしそのことによって何か作業者に危険有害なことがあると思っておられるのであれば、ぜひともリスクアセスメントをやっていただきたいと思います。
 
○大前 今のルールの観点ではなく別の観点からで、先ほど複合ばく露、いくつかのばく露を同時にした場合という話が出ました。許容濃度の方はこういう考え方をしています。例えば2物質、3物質同時ばく露があった場合、それぞれの物質の許容濃度を分母にして、実際の測定濃度を分子にして、分子/分母なのですが、それを全部足し合わせて1を超えているかどうか、1を超えていれば全体として許容濃度を超えていると、そういう判断をします。
ただし、この場合に注意しなければいけないのは、受ける影響が同じものの場合です。例えば、ある物質は肝臓で他の物質は神経であればそれは独立に扱ってもよいのですが、3つの物質が共通して肝臓に影響を及ぼすという場合には、今申し上げたような式で1を超えているか否かということで判断をするというのが妥当だと思います。
それから複合ばく露の場合、その影響は掛け算で効くのか足し算で効くのかということがよく議論になります。一般的には足し算と考えてよいと思います。もし、どうしても例外を挙げろというのであれば、発がんに関しては足し算よりもさらに強い影響があるかもしれないと思いますが、一般的な物質に関しては足し算で考えていただければよいと思います。
 
○堀口 ありがとうございます。
安衛法対象物質の配合量表示の10%幅の意味がよくわかりません。最大10%の幅でしょうか、代表値でもよいのではないでしょうか。
 
○吉澤 まず制度上のことを申し上げます。なぜ10%単位になっているかといいますと、製品の成分というのは企業情報的なものがあって、企業としてはあまり正確な数字は出したくないというようなお話もあります。そういうことも考慮し、正確な成分の数値ではなく10%単位、例えばそれが仮に6.2%だったとすれば閾値が1%として、1%~10%の間だという書き方でもよいことに制度上ではしております。もし、それが17%であれば10%~20%の間だということです。
この意味としては、危険有害性を厳密に計算する場合には成分の正確なパーセンテージが必要かもしれませんが、リスクの見積りをするときはそこまでの正確さがなくても、極端な話、ちょっとしか入っていないか、ある程度入っているか、あるいはたくさん入っているかという程度がわかれば十分にリスクの見積りが可能ですから、10%単位は最低限書いてくださいということです。
もちろん、これは法令上ここまで書いてくださいということであって、正確な数字を書いてはいけないという意味ではありません。ですから、6.2%とうちは書きますといえば、6.2%と書いていただいて構わないものです。
代表値という話はよくわかりません。
 
○堀口 代表値ではダメなのでしょうかと書いてありました。
 
○吉澤 製品としてこの製品は含有量が2%~8%の間のどれかという製品の仕様があります。そのように製品の仕様として2%~6%の間ということであれば、2%~6%の間だと書いていただいてもかまいません。別に、それぞれの容器を1つ1つ成分分析して、正確なパーセンテージを書けという話ではありません。その製品の仕様がそうであればそのように書いていただいて構いません。
 
○堀口 特別規則の122物質については、リスクアセスメント時に法規制が先にくることを表示すべきだと考えます。エチルベンゼン(混合キシレンに含有)のケースはどうなりますでしょうか。
 
○寺島 リスクアセスメント指針の中にも、リスクの見積りの方法として特別則のものについては特別則を確認することでよいと書かれています。それは多分ご承知の上のことだと思いますが、法令を周知していく際に、特別則の対象ですということが先にきて欲しいということなのでしょうか。
法律条文の中にリスクアセスメントをしなければならない、ただし特別則のものについては特別則を守りなさいと、そういうような明示的な仕組みになっていた方がよいというようなことでしょうか。
 
○吉澤 リスクアセスメントはそれ自身が指標ですので、リスクアセスメントが必要なものについてはリスクアセスメントをしていただきます。ただし、そのリスクアセスメントをした結果の措置については、これも法律条文で書いておりますが、法律で義務付けられていることは必ずやってください、その上で、リスクアセスメントの結果に基づく措置を上乗せするような余地があれば、上乗せするように努めてくださいということになっております。したがって、リスクアセスメントは措置よりもさらに手前でやっていただくものです。法律を守っていただくとともに、そのリスクアセスメントをした結果に基づく措置も行っていただくということになります。
 
○堀口 法28条の2および法57条の3により告示されたRA指針、施行通達は、RAの結果はALARPのリスクレベルであることを求めています。本件についてはどのように対応すればよいのでしょうか。
 
○寺島 リスクアセスメントの結果に基づき、代替化などの措置を段階を踏んで実施に移し、最終保護具ですというようなことです。
原則としてリスクは合理的に実行可能な限りできるだけ低くしなければならず、そのために最善の措置を講じることを求めています。本件については、施行通達にALARPのことが書いてあったと思います。この部分は、当然に実行可能な範囲においてリスクアセスメントの措置の努力義務と、それに対する施行通達の部分の中で、順次その事業場において採用可能な対策のところからやってくださいという趣旨で書かれているかと思います。
具体的なところについては、ご質問の趣旨に対して全て答えていないかもしれませんが、そのようなことです。
 
○堀口 別表9、別表3の1に掲げられた673物質を、消防法や毒劇法のような形で、薬品の容器を見ただけでわかるような仕組みを作れないでしょうか。同様に有機則、特化則も表示するようにしていただけると、現場はわかりやすいです。例えばメタノールもエタノールも、有機溶剤と考えるユーザーが大変多いので。
 
○吉澤 基本的には成分名にはそういうことが分かるように書いていただくというのが原則かと思いますが、一番てっとり早いのは、SDSの最後に「適用法令」というのがありますので、その適用法令にラベル表示、SDSの交付対象物質であると書いてあれば対象物質になります。
 
○堀口 資料に関連してなのですが、ラベル、SDS、RAの運用について商社の意識レベルアップが重要だと思います。化学物質専門商社であればしっかり対応していると思われますが、一般商社でたまたま商材に化学物質に相当するものがあるといった場合ではけっこう怪しいのが実態ではないでしょうか、というご指摘です。
 
○吉澤 まさにご指摘のとおりかと思っております。それで我々も制度の普及・啓発に努めているところでございます。また、先ほどの話にもありましたが、監督署の方で出向いて、ラベルがないもの、あるいはSDSが交付されていないものがありましたら、どんどん譲渡・提供元である商社にも指導したいと思っております。皆様方も監督署が来た際には、そうしたことをご相談いただきたいと思います。そうしていただければこちらも非常に助かりますし、よろしいのではないかと思います。
 
○堀口 CREATE-SIMPLEについていくつかあります。
まず、英語版を作成する予定がありますでしょうか。それから、欧米および海外での認知度を教えてください。それから、使いやすくて、中小事業者にとってとてもよいツールであり、普及を図っていますし、リスク評価の精度が向上し現場で役立つと思います。本日の説明では、本システムが比較的化学物質の取扱いが少量のケースを対象としていると言われたと思いますが、使用量の上限規制はあったのでしょうか。より広く使えるシステムとするならば、上限を広げる工夫をお願いいたします。
 
○吉澤 このCREATE-SIMPLEもそうですし、ほかのツールもそうなのですが、これは国内の事業者向けに作っているものですので、英語版を作るというのはあまり想定していません。今後、必要性が高まれば英語版を作る可能性はあります。
海外での認知度ですが、先ほど言いましたとおり、昨年の3月に作って、まだ国内での普及段階ですから、海外での認知度は私も聞いたことがありません。
少量ですが、これは大量だったらCREATE-SIMPLEが使えないということではなく、正しい評価が困難になるということです。ですから大量に使っているところがCREATE-SIMPLEを使っていただいても全く構わないと思いますが、今の入力項目の上限が確か1キログラムだったと思います。それ以上は1キログラム以上という形になっていて、細かい区分になっていません。今現在、先ほどの皮膚吸収の簡易見積りと同じように、使用量の上限の区分化を図っているところです。3月以降、使っていただいたときに、より大量の場合について区分分けができていましたら、「あ、直ったんだな」と感心していただければと思います。
 
○堀口 経皮吸収に対する定量化評価ツールが欲しいというお話と、次年度版のCREATE-SIMPLEで危険性や経皮吸収に対応するのが楽しみです、と書いてあります。
 
○吉澤 ありがとうございます。
 
○堀口 データが乏しいSDSを補完する方法が欲しいです。「分類できない」ですとラベルでアクションすらできません。「この化学品はまだ有害性の調査が不十分であり未知」などの表記はどうでしょうか、というご提案もいただいております。
 
○吉澤 「分類できない」に関して言いますと、ラベルSDSの基となっているGHSという国際ルールがそうなのですが、危険有害性情報については既存の情報を収集して危険有害性の分類をします。そのときに、もし情報がなければそれは分類ができない、区分を決められないという形でよいという、それは危険有害性分類をある意味やりやすくするためにそうなっています。ですから、「分類できない」は「分類できない」のままにせざるを得ません。ただ、分類できないことは必ずしも危険有害性がないことを意味しませんので、そこは十分に留意して取り扱ってくださいということを我々は言っております。
 
○堀口 一般消費が想定される製品のSDSは入手できない場合があり、入手できても嘘八百であったりします。安全性を担保する仕組みを検討してもらいたい。
一般消費の製品で意外と事故が起こったりしていますので、ラベル表示が必要じゃないかという話を、これは厚労省ではなく、一般消費製品ですから消費者庁が担当になります。私も言いに行きましたが、是非消費者庁に、言いに行っていただければと思います。厚労省の方ではありません。
消費者庁は認識していないわけではありませんが、今、連携できていません。事業場でも一般消費製品を使って事故が起きているのが現状ですから、是非お願いします。
 
○堀口 それから、すべての法定物質についてリスクアセスメントを実施している事業場の割合は53%と14ページに書いてありますが、実施の徹底が必要ということだけでは割合を上げることはできるのでしょうか。ご説明いただいた方策もあると思いますが、リスクアセスメントに関する本質的な課題、導入しにくくしている理由の解析も必要ではないでしょうか、というご意見がございました。もう1つ、31ページの1および2の支援について、31年度の予定はありますか。    
                              
○吉澤 説明のときにあまりはっきりと聞き取れなかったのかもしれませんが、31年度、今年の4月以降もやる予定です。ただ、まだ事業者の選定の準備中で、まだどこがやるかは決まっていませんので、この資料では今年3月までの内容しか載っていません。ただ、4月以降も委託事業として行う予定にしております。その際には、厚生労働省のホームページでご確認いただければと思います。
確かに、あまりリスクアセスメントについてご認識いただけていない事業場もございます。そういう点も含め、厚生労働省では普及・啓発、制度の徹底に努めておりますので、皆様方の団体・企業においても、こういうものがあるということをいろいろなところで積極的にお話ししていただければありがたいと思っております。
 
○堀口 時間が延長してしまいましたが、とりあえず全部読み上げ、回答いただきました。
口頭で言いたいという方が1名いらっしゃいました。追加で1つぐらいご質問はありますでしょうか。よろしいでしょうか。
それでは、これにて本日の意見交換会の部を終了させていただきます。司会・進行を三菱ケミカルリサーチ様にお返しいたします。
どうもありがとうございました。
(閉会)
○司会者(西村) 先生方、どうもありがとうございました。
それでは、以上で平成30年度第1回化学物質のリスク評価に係るリスクコミュニケーションを終了いたします。
皆様、ご参加ありがとうございました。
なお、今後のこの意見交換会の運営の参考のために、水色のアンケートのご記入をお願いいたします。
以上でございます。どうもありがとうございました。