第15回 厚生労働省国立研究開発法人審議会高度専門医療研究評価部会 議事録

日時

令和元年8月8日(木) 13:30~18:45

場所

中央合同庁舎4号館共用1208特別会議室

出席者

委員

議題

 
1 開会
2 議事
   (1)国立研究開発法人国立長寿医療研究センターの平成30年度業務実績評価について
   (2)国立研究開発法人国立国際医療研究センターの平成30年度業務実績評価について
   (3)国立研究開発法人国立成育医療研究センターの平成30年度業務実績評価について
   (4)その他
3 閉会
 

配布資料

【国立研究開発法人国立長寿医療研究センター】

資料1-1 平成30事業年度 業務実績評価書(案)
資料1-2 平成30事業年度 業務実績評価説明資料
資料1-3 平成30事業年度 財務諸表等
資料1-4 平成30年度 監査報告書

【国立研究開発法人国立国際医療研究センター】

資料2-1 平成30事業年度 業務実績評価書(案)
資料2-2 平成30事業年度 業務実績評価説明資料
資料2-3 平成30事業年度 財務諸表等
資料2-4 平成30年度 監査報告書

【国立研究開発法人国立成育医療研究センター】

資料3-1 平成30事業年度 業務実績評価書(案)
資料3-2 平成30事業年度 業務実績評価説明資料
資料3-3 平成30事業年度 財務諸表等
資料3-4 平成30年度 監査報告書

議事

第15回 厚生労働省国立研究開発法人審議会高度専門医療研究評価部会
○医政局研究開発振興課国立高度専門医療研究センター支援室太田室長補佐
 定刻を過ぎましたので、ただいまから第15回厚生労働省国立研究開発法人審議会高度専門医療研究評価部会を開催いたします。委員の皆様には、大変お忙しい中、そして猛暑の中お集まりいただき、誠にありがとうございます。本日は庄子委員、前村委員から御欠席の御連絡をいただいております。また、花井委員が16時30分頃途中退席される予定ですので、どうかよろしくお願いいたします。出席委員は8名ということで委員の過半数を超えておりますので会議が成立することを御報告いたします。
 続きまして、本日の会議の資料の確認をお願いします。本部会におきましては、ペーパーレス推進の一環として、資料の一部を紙面ではなくタブレットに入れておりますので、そちらで資料閲覧のほうをお願いいたします。委員の皆様のお手元に議事次第と座席表、その他紙媒体として、資料1-2、1-4、2-2、2-4、3-2、3-4、それぞれ各センターの業務実績の評価説明資料と監査報告書を配布しています。1-1、1-3、2-1、2-3、3-1、3-3、業務実績評価指標(案)と財務諸表につきましてはタブレットに収納しております。
 また、参考資料として各センターの中長期目標や中長期計画などをファイルにつづったものを机上に配付しております。それ以外に、各センターの個別データを委員限りの非公開資料として、タブレットに収納しております。その他、委員の皆様のお手元には、評価を記入いただく用紙として、センターごとに平成30事業年度評価評定記入用紙を配付しておりますので、8月21日水曜日までに事務局に御提出いただきたいと思います。資料の不足、乱丁等ありましたら、事務局まで御連絡ください。
 続いて、タブレットの使用方法について御説明させていただきます。フォルダーから資料をクリックすると、その資料が開きます。資料をめくる場合は、指で画面を上下になぞったり、下部にツールバーが出ますので矢印を押していただければと思います。御不明な点がありましたらこちらも、事務局までお願いいたします。以降の進行につきましては祖父江部会長にお願いいたします。

○祖父江部会長
 大変暑いところありがとうございます。それではただいまから、国立研究開発法人国立長寿医療研究センターの平成30年度業務実績評価について議論をしたいと思います。
 まず最初に、理事長から一言御挨拶をお願いできたらと思います。よろしくお願いします。

○国立長寿医療研究センター荒井理事長
 4月から理事長を拝命しました荒井です。本日は平成30年度の長寿医療研究センターの業務実績について御説明をさせていただきたいと思います。資料1-2、3ページを御覧ください。当センターは、センターの理念として「高齢者の心と体の自立を促進し、健康長寿社会の構築に貢献します」とあります。その目的にしたがって、研究開発を行ってまいりました。組織としましては職員数が576名で運営病床数が301床となっております。財務につきましては後ほど詳しく御説明がありますけれども、経常収益が116億円であります。
 今回は中長期計画の4年目ということで、研究開発を加速しておりますけども、その1つの要因としましては、4ページにお示しさせていただいておりますように、今回高齢者の自立阻外の2大要因として、認知症、フレイルにターゲットを絞りまして、その他、課題達成の最大化を志向した組織運営を行っております。すなわち、センターの中に、センター内センターを作りまして、認知症先進医療開発センター、メディカルゲノムセンター、もの忘れセンターを中心に、認知症についての研究開発を行ってまいりました。同時に、当センターの特徴としましては、今日お話しする業務実績のほかに、例えば、老化研究の基盤づくりとしてエージングファームと申しまして、例えば高齢のマウスの提供をこれから行っていくということ、同時に、ナショナルセンターの中で唯一介護についての様々な研究、業務も行っているというのが特徴です。本日は、長丁場になりますが、よろしくお願いしたいと思います。 

○祖父江部会長
 それでは、早速議論に入りたいと思いますが、まず、評価項目の1-1、1-2ですが、「研究開発の成果の最大化に関する事項」に関する業務実績及び自己評価について議論したいと思います。まず。法人のほうから御説明いただきたいと思います。時間が15分ですので、ポイントを絞ってお願いします。

○国立長寿医療研究センター柳澤研究所長
 研究所長の柳澤です。よろしくお願いいたします。それでは、業務実績概要説明資料の5ページを御覧ください。評価項目1-1、担当領域の特性を踏まえた戦略的かつ重点的な研究・開発の推進について説明いたします。まず1、中長期目標の内容は記載のとおりです。2、目標と実績の比較では平成30年度の成果のうち、特に顕著なものとして以下の3点を挙げました。
 第1点、世界初のアルツハイマー病血液バイオマーカーの実用化に向けた取組を鋭意推進し、世界標準のアルツハイマー病早期診断バイオマーカーにするための道筋を付けました。第2点、アルツハイマー病先制治療薬を推進し、企業導出協議を継続いたしました。第3点、若年期から高齢期までを一本でつなぐ世界初となる老年病コホート研究を開始し、認知症をはじめとした老年期疾患の発症予防に向けた研究開発基盤を構築いたしました。以上を踏まえて、評価項目1-1の自己評価はSとさせていただきました。主要な成果につきましてポンチ絵で説明いたします。
 7ページを御覧ください。アルツハイマー病変を正確に予測しうる血液バイオマーカーの開発に世界で初めて成功し、昨年2月に『Nature』誌に発表いたしました。平成30年度におきましては、この日本発、世界初の血液バイオマーカーの実用化に向けた取組を推進いたしました。
 具体的には第1に、アルツハイマー病の世界3大コホートであるオーストラリアのAIBL、米国のA4、そしてスウェーデンのBioFINDERと連携し、世界標準のバイオマーカーへの展開について詳細な議論を開始し、3月には京都に関係者一同が会し、国際会議を開催いたしました。第2に早期の社会実装に向け、臨床現場での実地使用に必要な承認を得るための申請手続並びに保険収載に向けた提案書の作成に着手いたしました。第3に、解析の制度に影響を与えうる様々な問題点を洗い出すことを目的に、国内外より収集した2,000を超える検体を対象に、大規模な検証試験を実施いたしました。
 以上のように疾患バイオマーカーの開発がアカデミア主導でなされ、実用化に向けた作業が世界規模で具体的に進められたことは、国内はもちろんのこと、世界的にも希なことであり、御評価いただければ大変有り難く存じます。
 8ページを御覧ください。平成30年度のアルツハイマー病基礎研究の主な成果を紹介させていただきます。まず、2型糖尿病がアルツハイマー病の発症危険因子として働く分子機構について、ヒトに近いサルを用いて研究し、2型糖尿病では神経細胞のコレステロール代謝が変化し、ライソゾームと呼ばれる細胞内分解系の機能が低下し、Aβ、アミロイドβタンパクの蓄積が加速することを明らかにいたしました。
 次に、最近注目を集めておりますアルツハイマー病における神経炎症の発現機構について共同研究を実施し、アルツハイマー病の中核病理である老人斑の形成と、それに引き続くアストロサイトの異常な活性化を伴う神経炎症が認知機能に大きく影響を与えることを確認いたしました。
 9ページを御覧ください。アルツハイマー病先制治療薬開発の進捗状況を御紹介いたします。Aβ重合阻外薬については引き続き企業同士で協議を継続する一方、平成30年度におきましては、アミロイド病理とともに重要なタウ病理を標的とする疾患修飾薬開発に注力いたしました。私どもが独自に発見いたしました神経細胞膜上の分子タウオリゴマーが結合して、シナプス毒性が発揮される現象を抑制しうる低分子化合物抗体並びに環状ペプチドを用いた多用なモダリティ創薬を開始いたしました。
 10ページを御覧ください。認知症コホート研究として、若年の一般成人を対象とする東北大学メディカルメガバンクと、中高齢者を対象とする私どものオレンジレジストリコホートを一本につなぎ、右下枠内に示しました認知症をはじめとした高齢期疾患の一次並びに二次予防の開発に資する研究を平成30年度に開始いたしました。
 11ページを御覧ください。健康長寿の実現には、食事、栄養の取り方が極めて大切ですが、私どもは、老齢のマウス並びにショウジョウバエを用いて基礎研究を続け、平成30年度におきましては、ある種の乳酸菌株をマウスに接種させることにより、加齢に伴う腸の炎症や網膜の神経細胞脱落が抑制されることを確認し、これが小腸粘膜固有層から分泌される抗炎症性サイトカインとして注目を集めておりますIL-10の作用であることを確認いたしました。また、ショウショウバエモデルでは食事制限により、老化に伴う腸管のバリア機能が改善され、様々な感染症に対する抵抗性が増大し、寿命が延伸することを確認いたしました。
 最後に、評価項目1-1の自己評価をSとさせていただいた根拠となる3つの研究の進捗を、12ページで改めて説明させていただきます。世界初のアルツハイマー病血液バイオマーカーを、世界標準のバイオマーカーに発展させるために、必要な作業を進めました。世界の3大コホートと国際連携を構築するとともに、臨床現場の実地使用の承認を得るための申請手続を開始いたしました。加えて、平成30年度におきましては、総数2,000を超える資料を国内外から集め、大規模な実証試験を実施いたしました。
 次に先制治療薬開発については独自の研究成果を基に作業を続け、平成30年度におきましては、これまでのAβ重合阻外薬開発に加えて、新たに、タウオリゴマー標的薬、ミクログリア機能調節薬の開発を進めました。最後に、認知症コホートレジストリ研究に関しましては、平成30年度において、若年期から高齢期までを一本につなぐ世界初となる老年医学のためのコホート研究基盤を構築いたしました。以上です。

○祖父江部会長
 それでは、1-2の説明をお願いいたします。

○国立長寿医療研究センター鷲見理事・病院長
 それでは、評価項目1-2、実用化を目指した研究開発の推進及び基盤整備を病院長の鷲見が説明させていただきます。お手元の資料14ページを御覧ください。ここに示した4つのポイント、健康長寿支援ロボットセンターの取組、メディカルゲノムセンターの機能整備とバイオバンクの充実、治験及び臨床研究の推進、4番目に効果的な治療・介護手法等、支える医療の確立、ここでは特に認知症予防に関する成果を報告させていただきます。
 資料15ページを御覧ください。現在、21本のプロジェクトが進行しております。中でも、右のコラムに示した夜間の排泄行動支援システム、ロボスネイルと言うのですが、これの開発はベッド、トイレ間移動の無人走行テストを済ませて、実際に人を伴っての移動走行にも成功しています。尿失禁は患者さんの尊厳を非常に傷付けますし、夜間のトイレ移動は転倒のリスクを高めるということもありますので、このような機械の開発が期待されていました。これは介護機器として、来年の市場導入を予定しております。
 また、これらのロボット研究全てに関連する研究として、下のコラムにあるロボットと接触する際の人への負荷を調べる研究を行っています。これは多数の協力者の心電図や呼吸数をモニターしてクラウド上に集積し、ロボットが接近したり接触した際にどのような生理変化が起こるかを解析するものです。人に優しい、これは安全という面でも心理的な面でも優しいロボットを目指す基盤となる研究というふうに考えております。
 資料16ページを御覧ください。既に2012年からバイオバンク事業を、2016年からはメディカルゲノムセンター事業を行ってきましたが、ようやく軌道に乗ってまいりました。これは平成30年度の登録実績なのですが、ここにあるように1,109名、累積登録数は8,247名に達しています。当センターの特徴でもある認知症に関するサンプルも5,000件に達しています。特記すべきことは、ようやく分譲実績が上がったことで平成30年度は31件、1万4,149例で、前年の2倍に当たる数字になっています。累積の分譲実績もこの時点で3万2,026例ですが、現在は3万5,000例に達しています。我々のバンクは疾患のデータですが、正常人のデータを集積している東北メディカルメガバンクとの連携も進めています。これは先ほど柳澤所長から説明のあったとおりです。
 資料17ページです。バイオバンクの資料を活用した東アジア最大規模の認知症ゲノム解析を行い、特筆すべき成果がありました。アルツハイマー病患者の全エクソン解析で同定されたSHARPIN遺伝子変異が、日本人特有の発症リスクになるという結果です。このSHARPIN遺伝子変異が起こると、ちょっと分かりにくい図ですが、不均一な変異タンパクを形成すると。これは最終的に、神経系の免疫機能に関連したNF-kBの機能を低下させて、神経系の免疫機能低下を起こすことを突き止めています。近年、この神経系の免疫機能低下がアルツハイマー病発症に関与しているという報告が相次いでいて、これは非常に重要な結果というふうに考えています。
 中段に示したのは、アルツハイマー病におけるSNP、1塩基多形の解析から得られた結果で、既に1万5,000人分が終了しています。ここにあるポリジェニックリスクスコアというのは、認知症発症に影響を与える遺伝子情報をどのぐらい持っているかを示す指標で、このスコアの値でアルツハイマー病群と正常群を分けることができると考えています。1万5,000人でもまだ足りないので、今後更に集積が必要で、集積することによってより精度が向上すると思います。
 一番下の段に示したのは、認知症患者さんの血中microRNAプロファイルをAIに機械学習させることによって、軽度認知障害の人が認知症に移行するのか、それとも軽度認知障害にとどまるのかを予測できるかどうかという、そういう研究です。実は、現時点では100%予測可能というデータが出ており、この結果は今年度、『COMMUNICATIONS BIOLOGY』に発表いたしました。それから、2019年2月28日にプレスリリースもさせていただきました。
 資料18ページを御覧ください。試験臨床研究推進センターの成果です。ARO、アカデミック臨床研究機関として臨床研究推進のための基本的な機能の向上と、研究相談機能の向上が求められているのですが、図に示したように相談件数が非常に増加してきています。それから、モニタリングの機能も非常に上がってきているということです。認知症の登録システムであるオレンジレジストリの登録が進んでいますが、その中で治験が9件、介入ある臨床研究が1件、観察研究が2件、当センターが分担で参加している観察研究が2件行われました。また、これは1-3でも説明いたしますが、医師主導治験も2件進行中です。
 資料19ページです。6月に公表された認知症大綱でも1つの柱になっているのが認知症の予防です。ただ、認知症予防のエビデンスは、エビデンス自体を作ることが非常に重要で、ここでは3つの成果を報告したいと思います。1番目は、左の上にある地域の在宅高齢者のデータベース、地域在住高齢者のデータベースの構築で、データベース作りは順調に進捗していますが、その中で認知症予防に関連して、認知的フレイルがある高齢者は、ない高齢者に比べて認知症になる危険性が3.4倍高いというデータが示されました。
 2番目は、先ほども少し触れたオレンジレジストリにおける地域コホートの構築です。地域コホートからの登録は、平成30年度末までに8,215名となりました。地域として新たに秋田と鹿児島のコホートが加わりました。これによって、ようやく北から南まで全国的なコホートが完成して、更にこれから登録数を増やしていく予定です。
 資料20ページです。認知症予防の成果の3番目として、認知症の人では腸内細菌層の組成が異なるということを見いだしました。便から細菌由来のDNAを抽出して、腸内細菌層を網羅的に解析することをやりました。その結果、右側に円グラフがあるのですが、認知症でない方にはバクテロイデス群が半数を占める、この濃い青がそうです。これは、認知症の人ではバクテロイデス群が著明に減少して、非常に多様な雑菌が増えるということが明らかになりました。つまり、こういう腸内細菌層の変化を見ることで、認知症の有無を予測する指標になる可能性があることが分かってきました。
 この項目をSとさせていただいた理由をまとめます。1番目に、介護ロボットの市販のめどが立ちました。2番目に、東アジア最大規模の認知症ゲノム解析を行って、日本人特有の発症リスク遺伝子を初めて見いだしました。3番目に、認知症予防に向けたコホート研究、レジストリ研究が着実に進んでおります。4番目として、その成果として危険因子としての腸内細菌層の変化を見いだしています。以上です。

○祖父江部会長
 それでは、ただいまの説明に対して、御意見あるいは御質問等はございませんでしょうか。

○深見委員
 ちょっと細かいのですが、7ページの血液中からのバイオマーカーの同定です。既にメジャーに論文発表されていますが、これは、Nakamuraさんというのは長寿研の方でしょうか。その7ページにA、Bということでマスデータがあるのですが、これが実際にアルツハイマーのマーカーとして、どのぐらい機能しているかという点が第1点です。
 次の9ページに、血液マーカーではなくて髄液中のマーカーとしてタウオリゴマーというのが出てきているのですが、これは血液マーカーとは違うものだと思いますので、血液マーカーと髄液マーカーの違いというか、血液のほうが簡単なので、どういう診断に対してどういうアプローチを想定しているかというところをお願いいたします。

○国立長寿医療研究センター柳澤研究所長
 まず最初の御質問、7ページのAとBのピークについて説明させていただきます。時間の関係で説明を省略させていただきました。血中には、様々な老人斑の元になるアミロイドベータ蛋白と、それに近似したペプチドが何種類かあります。今までのELISAという方法では、それが正確には同定できなかったのですが、今回、質量分析すると、それが少なくとも20種類、ほぼ正確に定量も可能で同定できることがわかりました。AとBに御注目いただくと、Aというペプチドは脳の中で蓄積するアミロイドベータ蛋白そのものです。老人斑になるものです。そのダイナミックな動きを評価する必要がありましたが、様々な個人に特有の要因、例えば血中での分解のされやすさや、脳から血液への漏れにくさなどで、Aの単独の値だけでは不十分の評価しかできませんでした。そこでBと比較することによってAの真の動態が議論できるということが今回分かったのです。
 なぜかというと、BというのはAと分子量にして僅か1個分のアミノ酸しか大きさが違わず、アミノ酸の配列はほぼ同じだということです。ですから、AとBの比率で議論する新しいマーカーを見付けたということです。
 9ページのタウオリゴマーの話です。今回私どもは、タウオリゴマーに対する非常に強力な、結合特異性の高い抗体を手に入れましたので、その抗体を使ってバイオマーカーの開発を行っているわけです。最終的には血液で議論したいのですが、まだ相当ハードルが高いです。今回は髄液で、何とかオリゴマーの検出が可能だということが分かりました。将来的には我々の持っているELISAではなく、例えばシモアという更に感度の高い方法を使うことによって、血液で、髄液ではない議論ができるようになるかなと期待しております。以上です。

○深見委員
 そうしますと血液のバイオマーカーは、アミロイドベータ蛋白の分解物。

○国立長寿医療研究センター柳澤研究所長
 アミロイドベータ蛋白そのものです。

○深見委員
 そのものですか。

○国立長寿医療研究センター柳澤研究所長
 今まで髄液でしか議論できなかったのを、世界で初めて血液でも十分できるということを去年の春に発表いたしました。

○大西委員
 興味深い御報告をありがとうございます。ちょっと興味を持ったので御質問させていただければと思ったのですが、血液マーカーの発見というものは、将来的にはどういう治療若しくは診断、治療の流れに影響していくことになるのでしょうか。もし、大変多数の方が血液マーカーでもって検知されてしまうと、全員がその疾病を持っていると判断されてしまうのか。また、どういう治療のパスを経ていくことになるのか、影響が大きいのではないかなと思います。

○国立長寿医療研究センター柳澤研究所長
 アルツハイマー病というのは、アミロイドベータ蛋白の蓄積から大体20、30年後に発症します。今までは、アミロイドの蓄積を見るためには脳脊髄液というちょっと痛い検査をしなければいけなかったですし、PETという1回数十万円掛かる検査をしなければできなかったと。今回は技術的に、血液だけで相当の感度、我々は95%以上と思っていますが、できるということが分かったわけです。でも、委員が御懸念されているように、現在はアミロイドがたまっているということは分かっても、それを止める、確実に止める方法が実はないのです。ですから、まず私どものバイオマーカーの活用方法としては、製薬企業の方たちが今まで新しいお薬を作ることに必ずしも成功していなかった、ほとんど失敗してしまった。そこをお助けするというか、そういった形で活用いただきたいと思います。
 具体的には、治験のための適正な参加者を、リクルートする際にご活用いただきたいと考えております。将来的には、ずっと先の将来ですが、お薬ができた暁には、個人的には是非健康診断にこの項目を入れていただいて、50歳、60歳で蓄積が始まっている方にはそのお薬を飲んでいただくということをしていただければなと思っています。

○大西委員
 当分の間はプロが使うというか、医薬品の開発メーカーが治験の際にそういう患者さんのスクリーニングに使うということですか。

○国立長寿医療研究センター柳澤研究所長
 まずそれです。正直に申し上げると、それは既に始まっております。さらに少し進んで、例えばPMDAのご承認が得られた暁には、認知症と言っても原因が全てアルツハイマー病ではないということが分っておりますので、第一線の臨床の現場で、認知症の鑑別診断に使っていただければ、認知症の原因別に、その方にもっとも適した介護の方法を決める際に活用いただけると考えます。

○国立長寿医療研究センター荒井理事長
 1点補足をよろしいでしょうか。今の点は非常に大事で、実は今年からなのですが、AMEDから研究費を頂いて、認知症のハイリスクの方を対象として運動、栄養、認知トレーニングと、多因子の介入を行うことによって認知症の発症を予防する介入研究が始まりました。その研究ではバイオマーカーを取りますので、バイオマーカーの高い人がそういった多因子の介入によって、ちゃんと認知機能の改善があるかどうかということを、しっかりとこちらから示すということで、多少バイオマーカーが高くても、お薬はもちろん必要ですが、そういった生活習慣病の介入とか運動、栄養介入が効果的であるということをしっかりとお伝えして、できるだけ予防に取り組んでいただくということをその方に説明していくことは、非常に大事だと思っています。

○祖父江部会長
 よろしいですか。では中野委員、お願いいたします。

○中野委員
 項目番号1-2の介護ロボット、夜間排泄行動支援システムについてお教えください。大変興味深く拝聴させていただきました。お伺いしたい点は、この介護支援システムを在宅でお使いになることを想定されているのか、医療機関でなのか、両方なのかということをお教えください。

○国立長寿医療研究センター鷲見理事・病院長
 両方で使えると思っています。

○中野委員
 では、それでもう1つお伺いしたいのですが、例えば医療安全管理上の問題というのがないかということと、あるいはそれを担保する何か手立てを既に考えておられるのかとか、それもお教えください。

○国立長寿医療研究センター鷲見理事・病院長
 企業は、安全性に関しては、こういうものを開発するときは非常にハードルが高くて、我々が思っている以上に医療安全の基準を超えるぐらい厳しく、接触の危険性とかそういうことに関してはハードルを設けていて、それをクリアしないと市販できないということをやっています。もちろんこれは使ってみないと分からないところではあると思うのですが、現在やられている限りではかなりクリアできていると考えています。

○中野委員
 ありがとうございます。現在、人が人を医療機関で見ていても、結構排泄のところっていろいろなことが起こっているような気がしておりますので、そこをちょっと確認したくてお尋ねいたしました。

○国立長寿医療研究センター荒井理事長
 今の点も非常に大事でして、もちろん在宅、医療機関も使われると思いますが、恐らく介護現場が人材難で非常に困っておりますので、まずは介護現場、老健とかそういった施設に導入していただくことが現実的かなと思っています。急性期の病院は、医療安全のハードルが非常に高いですので、そこをクリアするのはかなり、もちろんエビデンスも必要だと思っておりますので、まず現実的にはその辺りかなと思っています。

○祖父江部会長
 よろしいですか。ほかにいかがですか。

○花井委員
 今のロボットの開発の件です。以前に確か自然言語の会話持続の検討をされていて、最終的には何年先になるか分かりませんが、全て自然言語のインターフェイスに変わっていくのだろうと。ただし、今AIでも一番遅れているのは自然言語の理解と対応で、それがちょっと発表が途切れているのですが、あれは、始めたもののいまいち、終わってしまったのか継続してやられているのか、どうでしょうか。研究ロボットですかね。

○国立長寿医療研究センター荒井理事長
 研究自身は進んでいると思いますが、今回は明確なプログレスがなかったということかと思います。研究は続けていますので、次年度以降に報告させていただきたいと思います。

○花井委員
 いわゆるゲノムマーカー、複数のプロジェニックスコアって私は素人で分からないのですが、結局、疫学とゲノムを組み合わせて、がんの領域では一部成功しているのですけれども、こういうスコアを開発してしまうと、機序的に明らかではないいわゆる疫学的遺伝子がどんどん増えて、それが1つのスコア化されることによって機序の問題と、単純に疫学的にこの集団、この集団という話とちょっと距離があると思うのです。このPRSというものについてはどういうイメージでスクリーニングにお使いになるのでしょうか。それとも、もうちょっと踏み込んだ使用法を考えておられるのか、いかがでしょうか。

○国立長寿医療研究センター鷲見理事・病院長
 恐らく最初に使えるのは、スクリーニングだと思います。おっしゃるとおり、やはり臨床的な、例えば診断とかそういう問題とはちょっと距離があるので、こういったものでスクリーニングをかけたものに対して、更にいろいろな臨床的な検討を加えていくという形になっていくと思います。

○花井委員
 血液マーカーと併用するようなことも考えられるということですね。

○福井部会長代理
 着実に成果を上げられていると思います。1点だけ。評価項目1-2の所で、平成29年度は評価をAとして、今回はSにされていますが、その違い、特に顕著という評価をされたポイントについて、簡単でいいですので説明していただければと思います。

○国立長寿医療研究センター鷲見理事・病院長
 繰り返しになりますが、1つは、やはり介護ロボットは今まで実際に世間に出ていくというところまではなかなか行けなかったのですけれども、先ほどのロボスネイルはどうやら来年度ぐらいに行けそうということが1点です。それから、ゲノム解析を行って日本人特有の発症因子を見いだしたと、これは昨年には全然なかったことです。リスクファクターとしての腸内細菌を見付けたのも今年初めて出させていただいたので、この3つを特に挙げております。

○祖父江部会長
 では、ちょっと小さい問題と、もう少し先の問題も含めて議論したいのですが、1つは今、日本人特有とおっしゃったのですけれども、これはアジア全体で見て日本人だけにあって、アジアのほかの国にもないということでしょうか。そうですか。非常に珍しいというか、そうすると、もっと細かく見るとサブグループで特徴的だとか、将来的にそこら辺まで攻め込む可能性もあるのですね。

○国立長寿医療研究センター鷲見理事・病院長
 今のところはまだできていませんが、日本人の中でもということですよね。

○祖父江部会長
 そう、例えば。

○国立長寿医療研究センター鷲見理事・病院長
 それは、まだやれていないと思います。

○祖父江部会長
 分かりました。もう1つ、これは毎回お聞きしているのですが、例の認知症の法制化の問題です。この前国会に提出されたと思いますが、議員立法でうまくいくかどうか、ちょっと様子を見ないといけないと思うのですけれども、がんセンターと国循の疾患については法制化が済んでいて、がんセンターは今それを使って、全国の悉皆性を持った前向きスタディーを、がんゲノムを含めてですがやっています。今、大体100万例ぐらいをフォローできているというところまで来ていて、定期的に日本全体の動向を、ついこの間も新聞資料に出ましたが、どういう状況かというがんの全体状況を出していると思います。非常に成果が上がっていると思います。
 国循も法制化に伴って、そういう方策を着々と進めているところなのですが、オールジャパンの悉皆性を持ったシステム作りというのは、やはり疾患オリエンテッドのナショナルセンターでは非常に重要なミッションになってくると思うのです。もちろんオレンジプランは非常に有効に活用されていると思うのですが、将来計画として法制化を含めてどのようなプランをお持ちなのかというのを、まだ少し先のことなので、クリアには言いにくいところかもしれませんけれども、ちょっと教えていただけると有り難いなと思います。もうちょっと中長期的なプランニングも、今後聞いていくことが重要だという方向に評価のほうも動いていますので、ちょっとお願いできると有り難いなと思います。

○国立長寿医療研究センター荒井理事長
 なかなか難しい点で、まだ基本法は提出中で、秋に成立するという噂ですが、まだ確定的なものではないということで、現時点で確定的なことを申し上げるのは難しいかもしれません。認知症に関しては、認知症疾患医療センターが全国的にあります。その施設を利用して、理想的にはがんのような登録制というものは必要かなと思っております。ただ、がんになれば、通常は病院に来られて診断を受けて治療されるのですが、認知症の場合は家の中にずっとおられるという形で、医療施設に来ていただけない認知症の方もおられるので、そういう方をどうするかということは、今後課題かなと思っております。

○祖父江部会長
 恐らくがんより相当難しいのではないかと思いますし、数も多いと思いますので、どういうシステムが必要か。オレンジプランの移行でそういうことが可能かどうか、まだ分からないところがあると思うのですが、それも是非、今後お考えいただけると有り難いなと。

○国立長寿医療研究センター荒井理事長
 認知症疾患医療センターとも連携をしていますので、コホートベースでの調査に加えて、認知症疾患医療センターといった医療機関ベースでの調査と両方でやっていくことによって、正確なインシデンスというのは難しいかもしれませんが、インシデンスに近いもの、あるいはプレバレンスに近いものをできるだけモニタリングしていって、現在、イギリスとかアメリカでは認知症の頻度が減ってきていますので、そういったデータが出ればと思っております。

○祖父江部会長
 そういうデータが出る可能性もありますよね。

○国立長寿医療研究センター荒井理事長
と思います。

○祖父江部会長
 それではいいですか。どうもありがとうございました。次は評価項目の1-3から1-5の、医療の提供等その他の業務の質の向上に関する事項ということです。これも説明時間は15分ということで、よろしくお願いいたします。

○国立長寿医療研究センター鷲見理事・病院長
 それでは評価項目1-3、医療の提供に関する事項を説明させていただきます。資料の22ページを御覧ください。当センターの医療の特長は、センター内センターを作ることによって、診療研究が縦割りではなくて、複数の診療科が参入して協働することができるという点です。本日紹介するもの忘れセンターでは、神経内科、老年科、精神科、脳神経外科といった認知症と直接関連の深い科だけではなくて、リハビリテーション科であるとか、放射線科、循環器科、消化器科の先生も参加していますし、ロコモフレイルセンターでは、整形外科、代謝内科、老年科、リハビリテーション科が協働しています。
 また、右側のコラムに示したように、多彩な多職種チームの活動を推進しています。急性期病院での認知症の人の入院の質を向上させる目的で、認知症専門サポートチーム、それからエンド・オブ・ライフを支援するエンド・オブ・ライフケアチーム、退院後の自宅療養を退院時から切れ目なく円滑に、かつ安心できるように支援するというトランジショナルケア・チームなど、長寿医療研究センターならではのチームが活動しています。
 認知症専門サポートチームは、全国の病院に同様のチームを作ることを支援しておりまして、例えば地元の愛知県ではほかの病院とも協力して、48の病院にこのチームを立ち上げています。それからエンド・オブ・ライフケアチームは、117件の相談に関わり、半数以上の61件が、がんではなくて、非がんの患者さんの医療に関わる倫理相談を行いました。それから、トランジショナルケア・チームは、自宅での看取りを6割まで増やしています。
 資料の23ページを御覧ください。もの忘れセンターの活動です。初診は1,100名、再診は6,490名で国内最大規模の外来を維持しております。また今年度から、遠方から検査を希望して受診される方を支援するために、オレンジパス入院と名付けた短期入院のセットを作り提供しております。是非、御利用いただければと思います。本人、家族、知己からの相談業務が順調に行われております。今年度、特に御紹介したいのは2つでして、1つはこの認知リハビリテーション、それからもう1つは、もの忘れセンターで収集したデータの活用です。これまで認知症の人は学習能力がないとか、リハビリをしても無駄と言われて、なかなかリハビリテーションがやりにくい疾患と言われてきましたが、本センターの認知リハビリテーションのプログラムは幾つかの特長をもって行っております。
 具体的には本人、家族を対象として、週1回1時間行います。本人の許可があれば、ほかの家族やケアマネさんも参加可能です。それによって例えばグループのいろいろなセッションもできるということです。それから、実際にどういう手法で行うかというと、これは回想法や作業療法、運動療法、日常生活機能訓練というように、ものすごくいろいろなものを準備しまして、これは一人一人に合わせた多彩な手法でやるということです。
 それから、あくまで代償機能の獲得が目的で、残存機能の向上を目指すという点もポイントで、いわゆる認知機能の直接的な改善を求めないということです。認知機能の直接的な改善を求めるというのは、非常に本人に過剰な負担を強要することになりますので、これは避けていると。
 それから、こういうリハビリの効果をしっかり行うために、評価をしっかり行うということです。これは我々にとってももちろん大事なのですが、御本人・家族にとっても成果が目に見えるというのは、非常に効果が大きいものですから、これをしっかりやると。
 それから、御家族への家族教育をしっかり行う。それから、身体機能を高める訓練をもう少し一緒に行って、これも認知機能への効果を見るということをやっております。今は週4回やっていまして、実際、累計106名の方で実施を行っています。それから、もの忘れセンターのデータベースですが、これも既に1万件を超えました。この中から先ほど説明いたしました腸内細菌の研究も生まれてきました。それから、このもの忘れセンターでは、受診者の大体10%から15%が軽度の認知障害なのです。その認知症の患者登録システムであるオレンジレジストリの中でも、特にこの軽度認知障害を登録する「MCIオレンジレジストリ」を進めていまして、これも現在、1,471件から同意取得を得ているということです。この方たちは経年的に追い掛けていくということをやります。
 資料の24ページを御覧ください。感覚器センターを立ち上げました。感覚器センターというもの自体は、既に日本で実は2番目なのですが、高齢者に特化した感覚器センターとしては国内で初めてです。高齢者の方にとっては視覚障害や聴覚障害などの低下は、日常生活動作を著しく低下させるだけではなくて、認知機能の低下にも関わる非常に大きな問題なのです。しかし、それにもかかわらず、これまで必ずしも大きく取り上げられてきませんでした。何となく年のせいと思われやすいということがあるわけです。感覚器センターでは、感覚器の難治性疾患への先進的な医療をまず行っていまして、1つは水疱性角膜症に対する培養角膜内皮細胞注入療法です。これを医師主導型治験として開始しました。これは既に始まっております。
 それから、難治性角結膜疾患に対する培養自家口腔粘膜上皮シート移植、これに関してはIRBを通しまして、こちらも医師主導治験として、現在、治験届を提出している段階です。今のような先進医療に加えて、もう1つの柱が、高齢者の包括的な感覚機能ケアで、視覚・聴覚だけではなくて、味覚・嗅覚、平衡感覚も併せて評価して、認知症やフレイル、サルコペニアの予防につなげていく仕組みを構築します。視覚障害や聴覚障害というのは比較的自覚しやすいのですが、嗅覚障害や味覚障害は意外に自覚されておらず、食欲低下につながっているとか、あるいはこういった嗅覚低下などが認知症や変性疾患の初期症状としても非常に注目されているということもありまして、これらを総合的にスクリーニングしていくことは、今後重要と考えております。
 資料の25ページを御覧ください。3本目の柱であるロコモフレイルセンターでは、これは世界初のロコモに対する包括的診療を行っています。平成30年度は205名、累計500名の患者数に達しました。この1年間で205名ですので、随分増えていることがお分かりいただけると思います。今年度のトピックスとしては、栄養指導による介入や運動指導による介入を本格的に始めたということです。今まではどうしても患者さんをまず集めるということだけをやっていたものですから、なかなか介入まで入れなかったのですが、今年はいよいよ介入に着手したということです。
 資料の26ページを御覧ください。地域包括ケアシステムに対応した医療モデルの充実という点では、日本老年医学会、日本在宅医学会と共同して、高齢者在宅医療・介護サービスガイドラインを作成いたしました。これは在宅医療や在宅ケアが、地域包括ケアの中で非常に重要であるということは確かなのですが、エビデンスの少ない中で、現時点での在宅医療・介護サービスの位置付けや、診療上何が明確で何が分かっていないかということを明らかにするということが、今回のガイドラインの目的です。これからは、ガイドラインに足りないものをどんどん補っていくという作業が必要になってくるだろうと思います。
 それから、一番下にあります自己決定の支援と人生の最終段階におけるモデル医療の確立です。これは次の1-4でお話する人材育成とも関連するのですが、アドバンス・ケア・プランニングを支えるリーダーやファシリテーターの養成を行いました。平成30年度は779名を養成しまして、人生の最終段階をどう迎えるかについて、本人自らが希望する過ごし方を決定するということです。これは非常に重要なのですが、この重要な意思決定を支援するために介入するのが、このアドバンス・ケア・プランニングといわれるものです。以前は何となく事前指示ということが非常に重視されて、その事前指示を書面化するということが表に出ていたのですが、これはそういうことではなくて経過の中で、当然長い経過で、いつ悪くなるか分からない病気が多いので、経過の中でお互いに理解し合いながら、今その人にとって何が必要かということを考えていくということなのです。ですから逆に、介入する側にも非常に高い技術が求められ、今後非常に必要となる人材と考えております。以上、1-3に関して説明させていただきました。
 続いて評価項目1-4、人材育成に関する事項の説明をさせていただきます。資料の28ページを御覧ください。人材育成に関する項目では、3点を特に強調させていただきたいと思います。まず第1点は、認知症サポート医研修です。2005年から育ててきました、この認知症サポート医は、平成30年度に9,950名に到達しました。そして先月末に東京で行った研修で、ついに1万名を超えました。新オレンジプランの到達目標として掲げられた、平成31年度までに1万名の目標はクリアしたことになります。地域における認知症医療の旗振り役ということで、次に述べます認知症初期集中支援チームのチーム員医師としての役割ですとか、あるいは、先ほどもちょっと出てきましたけれども、病院における認知症対応多職種チームの中心としての役割など、非常に医療・介護の連携の中心として、次第にその役割が明確になってきているところです。
 この6月に出ました認知症大綱でも、ここでは今まで1万人の養成ということだったのですが、1万6,000人の養成ということを求められています。これはあくまで数値目標で、数だけではなくて、やはり内容が問題ということになりますが、先ほどお話したようないろいろな機能が付け加わってきて、また、これに対して保険診療点数なども付けていただいたということもあるので、今後も充実させていただきたいと思います。今年度はテキストの改訂も予定しているところです。
 2点目は、認知症初期集中支援チームのチーム員研修です。この認知症初期集中支援チームは、認知症の人や家族が認知症だと気付いても、なかなか医療や介護につながらないと。あるいはつながっても、すぐに途切れてしまうということが課題として挙げられているわけなのですが、これに応えるために、専門家のチームがこちらから本人・家族を訪問して相談に乗ると。そして本来つながるべき医療や介護につなげていくというのが、このチームの役割です。そしてまたつないだ後も、ちゃんと継続してつながっているかどうかをモニターするという役割を担っています。初期というと何となく病気の初期というイメージにつながりやすいのですが、これはむしろ初動とかファーストタッチという意味合いも含んでいるということです。これは認知症ケアパスの起点に当たるという意味で、新オレンジプラン、それから今度の認知症大綱、いずれにおいても非常に重要な位置付けになっている多職種チームです。
 平成27年度から、このチーム員研修を開始いたしました。昨年3月までに、ほぼ全市町村にチームが立ち上がったということもあり、今年度は実は受講生が減るのではないかと予想していたのですが、実際にはチーム員の方で結構勤務交代があったり、まだ受講できていなかったチーム員を受講させたいという希望が結構ありまして、想定の2倍、1,966名の方に受講していただくことになりました。平成29年度にはテキストの改正を行って、平成30年度からは、この改正したものを資料にしまして、若年性認知症の知識であるとか、あるいは認知症と鑑別すべき精神疾患、これは実際に訪問してみると結構多いということで、こういう項目を増やして研修を行っております。この項目も継続して研修を続けていきたいと思います。
 3番目は、これも認知症大綱で1つの大きな柱となった予防に関する研修で、コグニサイズの指導者・実践者研修です。コグニサイズはコグニッションとエクササイズを合体させた造語で、名前のとおり運動と脳を使う作業を同時に行わせるリアルタスクエクササイズの先駆けとなった認知症予防の運動プラグラムです。これは今年度の成果ではないのですが、軽度認知障害の人の認知機能の低下を抑制することを示して注目されています。
 コグニサイズを中心とした地域における予防活動全体を経過する指導者養成研修、それからコグニサイズを現場で実際にどうやるかということを指導する実践者研修をともに行っております。平成30年度は指導者研修が66名、実践者研修が164名で、この指導研修のほうは、過去に指導者研修を受けた指導者に対するフォローアップ研修も行いました。今後、認知症予防に関するエビデンスを構築していくというのは非常に重要なのですが、正しいきれいなエビデンスをちゃんと出していくためには一定の方法、確実な方法を、あるいは確実に評価をするという、非常に安定した介入をしていかないといけないと。そのためにもこのような人材育成は非常に重要と考えております。
 以上、紹介させていただいた試みは、いずれも日本ではもちろん世界でも類例のない研修でして、評価をSとさせていただきました。

○祖父江部会長
 引き続きどうぞ。

○国立長寿医療研究センター小森企画戦略局長
 引き続きまして、医療政策の推進等に関する事項について御説明いたします。企画戦略局長の小森です。まず31ページ、左上を御覧ください。国への政策提言に関する事項ですが、認知症施策に関しましては、内閣官房に昨年12月に設置されました「認知症施策推進のための有識者会議」の座長として鳥羽理事長、昨年度の理事長ですが提言を行い、その内容は今年度に入ってからですが、認知症施策推進関係閣僚会議において、「共生」と「予防」を両輪とした「認知症施策推進大綱」として、取りまとめられました。
 その他、右上にありますように、全国在宅医療会議の座長を大島名誉総長が務めるなど、国の諮問機関などにおいて、当センターの役職医が要職を務め、様々な会議の取りまとめなどを通じて、国への政策提言を行い、政策立案に深く関与しているところです。
 32ページを御覧ください。当センターは、自らの研究成果に基づく知見にとどまらず、数多くの関係団体と意見の交換を行い、その成果を取りまとめ、国に提言、報告しているところです。
 33ページは、地方自治体との協力例です。34ページ左側には、国内外の研究機関との連携状況を記載させていただいております。同ページ右側には、民間企業との協力例を挙げています。社会経済上のニーズについて、企業側の視点もいかしつつ、民間企業の保有するビッグデータを活用し、政策提言や社会実証につなげるべく、高齢ドライバーの認知機能と自動車事故との相関分析を実施する共同研究など、様々な研究を進めております。この項目の自己評価はAとしているところです。以上です。

○祖父江部会長
 それでは、今の御説明について、御意見、御質問等ございますでしょうか。

○花井委員
 毎年そうなのですけれども、いわゆる長寿モデルが全国でどれだけ利用されているかという均てん化の問題というのは、常に議論になると思います。今回、研修などはかなりすごい実績で達成して、人材がどんどん育成されているようにも思うのですが、実際に初期認知症でもそうですが、普通は診療所が医療提供を担っていて、全国を調査したわけではないのですが、やはりサ高住や老健施設に、診療所の専門家医師が訪問で来ているわけです。しかし、そういった医療の認知症のケアに対する専門性というのは、必ずしも十分ではないという感じも結構見受けられて、こういう診療所から研修に来ている方というのは、どのぐらいのパーセンテージかというのと、やはり日本の土台を支えているのが診療所というところがあるので、その診療所の地域で医療を支えてくる開業の先生方が、認知症のケアについて、もっとレベルを上げるというところについては、どのような問題意識をお持ちなのでしょうか。

○国立長寿医療研究センター鷲見理事・病院長
 ありがとうございます。これは非常に重要な御質問だと思いますが、大体6割がかかりつけ医の先生という感じです。残り4割は、病院の先生がやる医療ということになります。このサポートへの先生たちは、本当に認知症に関するいろいろな相談を受ける、このサポートは誰をサポートするかというと、先生が言われたように、かかりつけ医の一般の先生たちをサポートするという役割なものですから、できれば特に医師会の中でも重要な役割といいますか、例えば、この認知症に関連する部門にいる先生などに、できるだけなっていただいて、その地域でかかりつけ医の先生の教育にも関わっていただくという、そういう役割を担っていただくということになっています。なかなか熱心な先生は熱心で、そういう研修会にも熱心に来ていただいて、どんどんレベルが上がるのですが、なかなかそういう所に来られない方に対して、どのように更に研修を広めていくかというのは、やはり大きな課題として残っております。

○花井委員
 ありがとうございます。これは1-5にも関わると思うのですが、結局のところ、地域包括ケアとかいろいろ言っても、急性期医療機関の仕事が楽になっているかと言ったら、むしろ増えているけれども、そこにはお金が落ちてこないというのは、恐らく全国にそうだということで、政策提言のところで、やはり地域の開業医の先生方を、こういう急性期の専門的な所が、十分にバックアップすることで成り立つのだということをもっと言っていただいて、その部分にそれなりの報酬は付くという方向を、むしろ打ち出していただけたらと思いました。以上です。

○福井部会長代理
 私から1点だけ。医療の提供に関する事項ですが、こういうセンターを作って何人ぐらい患者さんの診療をしたという、ストラクチャーとかプロセスについてのデータを示していただきましたけれども、アウトカムについての何かデータはあるのでしょうか。患者さんのヘルスアウトカムがこれぐらい良くなったといった、指標はありませんでしょうか。

○国立長寿医療研究センター鷲見理事・病院長
 例えば先ほどのロコモフレイルの運動介入や栄養介入に関しては、まだ結果は出ておりません。これは始めたところですから、そういう意味では、まだちょっと結果が出ていない部分もあります。それから、認知症に関しては、なかなかアウトカムとして何を出すかというのは本当に難しいところで、改善したというアウトカムがなかなか出しにくいところなものですから、そういう点では難しいのですが、特に教育面、家族相談に関しては、これはやはり家族相談をすると、例えば行動心理症状が減るなど、そういうデータは得ております。

○国立長寿医療研究センター荒井理事長
 先ほどの認知症のリハビリテーションについては、ワンアームでありますけれども、一般の集団と比べて変化はどうかということについて、今、分析中だと思いますので、論文はまだ出ていないと思いますけれども、そういった解析をしています。先ほどお話があったように、ロコモフレイルセンターは毎年アウトカムを見ていますので、このワンアームの介入でありますけれども、その介入の程度がきちんとやっておられる方と、ドロップアウトした方で、一応2群間で分けられると思いますので、介入が効果があったかどうかは、いずれ結果が出るかなと思っております。

○祖父江部会長
 私もそのアウトカムがどうなっているのかというのは、先生の所のセンターの中のいろいろなセンターがあって、そこでいろいろ介入も含めてやっておられる。そのアウトカムメジャーがどう動いているのかというのは、いつもここでも話題になるのですが、是非また出していただけると有り難いなということです。
 それから、先ほどの前の質問と関係するのですが、これだけコグニサイズから集中支援チームからサポート医へ、これは全国に散っていますよね。そういう人たちが全国で、先ほどの話だとかかりつけ医と連携しながら、いろいろやっていただいているということなのですが、そこでもやはり何かの資料が取れてくると、非常に更に活気付くのではないかなという感じがしております。これは前に日本地図か何かがあって、ここではこういう良いことが出たとか、こういう良いことが出たというような、そういうサイエンティフィックに、非常にストリクトではないにしても、感触として何かそういうものが出てくるという状況をちょっと作っていただけると、皆さん非常に理解が進むのではないかという感じがしました。

○国立長寿医療研究センター鷲見理事・病院長
 ありがとうございます。サポート医に対しては、なかなか確かに多様なので難しいのですが、この初期集中支援チームに関しては、かなり出てきています。例えば、このチームが介入することによって、介護負担尺度が明らかに減少します。それから実は、今年も老健事業で資金を頂いて、この初期集中支援チームのアウトカム指標、一体このチームは何人がどこで役立っているかという指標を作っているところで、例えば早く患者さんの所に行けているチームは、先ほどのような介護負担尺度が減りやすいとか、行動心理症状の評価尺度がよくなりやすいというデータを得ています。

○祖父江部会長
 先ほどの議論で、がんなどでは5年生存とか、そういう簡単な手法で、非常にどれだけのアウトカムが出たか、すぐ見えるような格好で出せるのです。だからがんセンターで毎年出していますよね。だけど、これは何かオールジャパンで、非常にピンポイント的でもいいし延べでもいいのですが、何かあるといいかなと、いつも思いますので、是非またよろしくお願いします。

○中野委員
 項目1-3について教えてください。退院直後の患者90名に対して、延べ220回のアウトリーチを行った結果、約60%の自宅看取りを実現ということですけれども、もしアウトリーチがなかったら、自宅看取りのパーセンテージというのはどれぐらいになるのでしょうか。

○国立長寿医療研究センター鷲見理事・病院長
 つまりこれは、このチームが関わらなかったときにどのぐらいかということだと思うのですが、10%行かないぐらいだと思います。

○中野委員
 このチームというのは、もともと自宅看取りというのを第一の目標として関わってアウトリーチをされたということでしょうか。

○国立長寿医療研究センター鷲見理事・病院長
 それも1つの目標でした。一番は、やはり患者さん方は病院から、いきなりおうちへ帰るというと、意外と不安に感じられる方も多くて、そのために入院日数が延びたり、あるいはおうちに行けなくて、施設へというようなことも少なくなかったのですが、やはりこういうチームが退院した後も「ちょっと行きますよ」ということで、かなり安心度が高まるし、それからもう1つのポイントは、再入院を減らすということがあるのです。これも実は減ってはいるのですが、再入院を減らす、そして最終的には、そのためにおうちで亡くなるケースが増えると。おうちでの看取りが増えたのは、これはどちらかというと結果です。

○国立長寿医療研究センター荒井理事長
 介入ではないので、今、病院長が申し上げたように、明らかな差があるかどうかというのは分からないですが、我々の病院がある地域の在宅看取りの割合が1割から3割ということなので、60%は明らかに高いだろうと判断しています。

○中野委員
 ありがとうございます。

○深見委員
 もの忘れセンター、ロコモフレイルセンター、感覚器センターということで、主なセンターの活躍というものをお示しいただいたのですが、1人の患者さんはいろいろな複数の、こういったセンターでいろいろ関わらなくてはいけない状況に多分あると思うのです。その1つだけではなく、多分こういういろいろな所に関わる必要があるのではないかと思うのですが、そういった中でこれだけのセンター、そのほかにもいろいろなセンターをお持ちなので、たくさんのセンターの中で1人の患者さんの情報というのがどういうふうに共有化され、そういった連携が作られていくのかというところをお話しいただけますか。

○国立長寿医療研究センター鷲見理事・病院長
 ありがとうございます。非常に重要な御指摘だと思います。そうすると、センターごとに検査をやられてしまって、患者さんにとってすごく負担が増すということが起きかねませんよね。そうならないように、かなり共通したところはもう共通したものを使う。例えば、高齢者総合機能評価というのをやるのですが、それに関しては全部の所で見られる。だから、共有して使えるという形になっています。あるいは、採血した血液に関してまた別の所で採血されるというようなことはないように、そういうことはならないようになっています。ただ、例えば感覚器に関するものはあくまで特化したものですので、ここで調べてもらうということにもなります。骨粗鬆症のバイオマーカーなどは、やはりロコモフレイルセンターに行ったときに取っていただく。もの忘れセンターでは、それは必ずしも取ってないのでというようなことになります。

○深見委員
 そういった、例えば感覚器で、ここがおかしい、耳はこんなふうだ、眼はこうだ。また、今回嗅覚とかちょっと面白いところもお話していただきましたけれども、そういった情報のデータというのは、例えばもの忘れのセンターの方が、この人はこういうところがおかしいというところはカルテなり、何かそういった共通の情報から閲覧することはできるのですか。

○国立長寿医療研究センター鷲見理事・病院長
 はい、できます。電子カルテで共有されているので、それは簡単に見ることができます。

○国立長寿医療研究センター荒井理事長
 補足しますけれども、大病院とかで起こっているのはいろいろな診療科に、あるいは糖尿病とか、循環器等たくさん掛かるという現象が起こっています、高齢者の場合ですね。当センターの場合はそういったセンターごとに患者さんが行くことはあるのですが、その疾患についてはできるだけ1か所で包括的に診ようということですので、感覚器の問題があると、情報は共有する。ロコモフレイル、関節あるいは筋肉の問題などはそこで評価しまして、会議も行う。もの忘れの問題があればもの忘れセンターでということで、トータルに見るという姿勢は全ての医師が持っているということなので、急性期病院とそういった点が違うかなというふうには考えております。

○藤川委員
 これまで御説明いただいたことは、例えば認知症のメカニズムについて調べるとか、その予防・診断・治療といったことの高度な研究をされている。あるいは、認知症のサポートですとか、ドクターの養成というようなことを教えていただいたわけですが、必ず皆さんいつかは死ぬので。1-3のアドバンス・ケア・プランニングに関しては、これは人であれば必ず誰もが直面する可能性のある、直視するべき問題かというふうに思っているのですが、取り組まれている内容からすると、まだ愛知県内の中でやっていてというようなことですが、この仕組に関してはどうしても難しい部分もありますし、これから具体的な治療等の画面で組み込まれるというようなことにはまだ時間が掛かると思うのです。このアドバンス・ケア・プランニングはなるべく早めに取り組んで、超高齢化が更に進んでいく中では、相当日本人のマインドを変えていかなければいけない話かと思います。医療の現場も相当混乱している部分もあるし、そういったことに関しての取組はもうちょっと加速化していかなければいけないのではないかと思うのですが、どのような感じなのか教えてください。

○国立長寿医療研究センター鷲見理事・病院長
 ありがとうございます。おっしゃるとおりだと思います。実は、今年度うちが主催して、アドバンス・ケア・プランニングの学会、全国学会をやるのですが、確かに全国的に広げていくことは非常に重要だろうと思います。ただ、やはり今までどうしてもがんを中心にやられてきたということがあって、こういうがんではない疾患に対する終末期は非常に方法論的に難しいようでして、担当している医師たちもなかなか苦労しているところです。でも、別に愛知県だけでというつもりは全然ないので、これは全国規模でやっていく予定でおります。

○福井部会長代理
 今のお話に関連して、アドバンス・ケア・プランニングを厚生労働省の委員会では「人生会議」と翻訳したそうですが、受け入れられそうですか。

○国立長寿医療研究センター鷲見理事・病院長
 ちょっとそれに関しては何とも言えないのですが、依然としてアドバンス・ケア・プランニングという、何となく、でもその言葉自体は分かりにくいので、もう少し国民の一般に分かりやすい言葉というのは本当に大事だろうとは思います。ただ、今のところまだ簡単に変わることはないのかなとは思いますけど。

○祖父江部会長
 ほかにはいいですか。

○大西委員
 今もちょっと出たお話なのですが、いろいろな先進的な取組をされているというのが愛知県を中心にとか、そのまま長寿センターに特化している傾向があると思うのですが、それをどのように全国に広げていくかということについて、今後の戦略的なお考えみたいなものは、もしあればお聞かせいただけますか。人材のところは伺ったわけですが。

○国立長寿医療研究センター荒井理事長
 ありがとうございます。人材育成についてはもう全国規模でやっているというふうに思っておりますし、今のACPについては本来は今御指摘のあったように、全国レベルでやらなければいけないというふうに思っておりますけれども、これはがんと非がんと分かれています。がんはがんのエンドライフケアというのはある程度ほかの施設がやっている。当センターは非がんのエンドライフケア、ACPをやるのだということです。現時点では愛知県の中にとどまってはいるのですが、今後是非とも全国規模でやっていきたいと思っております。ちょっとその辺に関しましてはスタッフの増員とかもやらないと、なかなか今の現状のスタッフでは難しいかなと考えております。

○祖父江部会長
 今のことに関してですが、先ほど来、先生のところを中心とした愛知県と、それから全国の均てん化という話が出ていると思うのです。全国の均てん化をやるときに、やはりそれぞれの地域によっていろいろな仕組みとか、システムは違うわけですね。それをどうやって克服しながら広げていくのかというようなことが、前にも質問したことあると思うのですけれど、先生のところに、老年学・社会科学研究センターというのがありますね。ですから、例えばここでシステム的にどうそれをアプライできるのか。地域ごとに研究していくというような、そういうような均てん化のエンジンに使えないのかなというふうに、前御質問したことあるのですが、その辺はいかがですか。余り茫洋としていて答えがしにくいかもしれませんが、いろいろなこういうものを活用して、人材が、ではどうやって地域に密着しながら威力を発揮できるかというようなシステム作りも、同時に考えていただけるといいのかなというふうに、私は思っておりますので。

○国立長寿医療研究センター荒井理事長
 はい、分かりました。御指摘は前から頂いている点かと思いますので、その辺についてはなかなかすぐにというのができない状況ではありますけれども、均てん化については非常に大事な我々のミッションだと思っておりますので、是非とも、現在の言い訳にはなりますが、予算規模がなかなかスタッフが増やせないという状況が続いておりまして、できるだけ新しい人に来ていただくような、また我々自身の研究費も取っていければというふうに思っております。

○祖父江部会長
 まだいいですか、もう時間ですか。では、先へ進めさせていただきます。次は項目2-1から4-1までの業務運営の効率化、財務内容の改善及びその他の業務運営に関する事項ということで、これは説明5分ですので、よろしくお願いいたします。

○国立長寿医療研究センター小森企画戦略局長
 それでは、残りの事項について私から説明させていただきます。まず、業務運営の効率化に関して、36ページをお開きください。経常収支率ですが、ページ上にありますように、平成30年度実績は97.4%です。効率的な業務運営に関する事項についてですが、経常収益については65億9,800万円、前年度に比べて約6億円、およそ9.5%の増となっております。新外来棟開設に伴う減価償却費の伸びに備え、法人全体で増収策を検討し、診療報酬の上位基準への移行、患者数の確保、手術室の整備などによる手術件数の増加など、昨年度実施できるものから実施してきたことが大幅な収益増につながったものと考えております。
 ページ右上2ですが、病床稼動率も病床管理委員会立ち上げによる状況の共有化などにより、一昨年度の80%から大きく伸び、90%を超えております。また、医療費未収金比率についても督促マニュアルに基づき、電話及び文書など、定期的な支払い案内を着実に実施した結果0.003%と、一昨年度の0.006%に比べ、半減させております。ページ左中ほどですが、経常費用についても診療事業の保守契約の見直しにより3,200万円削減、ガス料の減額で500万円ほどの減と、節減に努めております。また、後発医薬品シェアも80%と、前年度より8%の増となっております。ページ右下、一般管理費についてはエネルギー棟の整備による管理業務の増などにより、平成30年度実績で8,374万円、平成29年対比236万円の増加となっております。
 運営状況については、37ページに基づいて説明したいと思います。まず医業収支ですが、収益は対前年度比5億7,500万円の増、9.5%の増となっております。入院収益が44億5,500万円、一昨年度と比べ3億6,800万円の増となっております。外来収益は19億4,100万円で、一昨年度と比べ2億400万円の増となっております。医業費用ですが64億6,800万円と、一昨年度に比べ5億7,400万円の増となっておりますが、費用が増大したのは新外来棟開設により、減価償却費の伸びが一昨年度と比べ3億8,500万円増となったことなどによることです。収支差は1億3,100万円のプラスとなっています。医業外収支ですが、収益のほうが対前年度比5億6,800万円の増、費用が対前年度比6億3,400万円の増ということで、収支差はマイナス4億3,700万円となっております。収益増は主に研究収益の増、費用の増は昨年度退職者の増や研究収益の増に伴い、研究費用も増加したものによるものです。総収支差は3億600万円のマイナスです。この項目の自己評価はBとしております。
 次に、財務内容の改善に関する事項について御説明いたします。38ページを御覧ください。外部資金の獲得状況ですが、平成30年度は17億5,000万円、前年度比で56%の増となっております。寄附金の受入れは2,767万円で、43%の増です。
 39ページを御覧ください。ページ右側にあるように、こうした外部資金獲得の努力の結果、経常収益のうち運営交付金の占める割合は24.4%まで下がっております。研究資金に占める外部獲得資金の割合も42%と、一昨年度と比べ、1年間で10%伸びております。この項目の自己評価はBとしております。
 最後に、その他業務運営に関する重要事項ということで、一番最後の40ページをお開きください。2、1の内部統制の適切な構築として多数回監査を実施しています。次に2ですが、数多くの機関から人材を受け入れ、また幅広い分野に人材を輩出しております。更にハラスメントの規程の整備や、それに基づく委員会、相談窓口の設置など、働きやすい職場環境の整備のための取組を着実に行っております。この項目は自己評価はBとしております。説明は以上です。

○祖父江部会長
 では、議論をよろしくお願いします。何かございませんか。

○斎藤委員
 ロボスネイルとかいろいろお伺いしていたときにも思ったのですが、いろいろな機関、大学、企業等、上手に協力して、他者の力をうまく使ってらっしゃるなと思っております。それが今のところの御説明にも表われているので、それを大変高く評価したいと思います。ただ、1つ気になりましたのが退職者が非常に多いということでした。これはどういう理由なのか。今年だけの何か特別な理由なのか。それとも、働き方改革というのが最近の流行り言葉ですが、それがどうもまだ余りうまく回ってないのか。何か常にあるような要因であるとしたら、それに対してどういう対策を考えていらっしゃるのか。その辺りを教えてください。

○国立長寿医療研究センター小森企画戦略局長
 御心配いただきまして、ありがとうございます。ただ、先ほど退職者が昨年度多かった点は、年齢構成がもともと59歳の人が多かったということですので、それによるものが大きいということです。

○祖父江部会長
 たまたまその年次の人がたくさんいたと、そうですか。ほかにいかがですか。

○福井部会長代理
 確認ですが、39ページの研究資金の割合のところで、運営費交付金が平成30年度は23億7,600万円となっています。その上のグラフの棒グラフプラス折れ線グラフでは平成30年度28億2,400万円とのこと。これは別個の数字なのですか。運営費交付金という名目で、これは医業のほうだけなのでしょうか。こちらは研究資金と別個なのか、一部なのか。よく分からなかったものですから。

○国立長寿医療研究センター小森企画戦略局長
 この下の、ちょっと紛らわしい表記で申し訳なかったのですが、研究資金の割合の運営費交付金は、運営費交付金もいろいろな用途に出ています。これは研究に当ててくださいと言って、頂いている分が、この23億7,600万円ということで。その他にもいろいろ保育所の運営費とか、そういったものが一部運営費交付金から出ておりますので、そういったものを含めた数字が上の数字ということです。

○福井部会長代理
 では、トータルだと51億円くらい入っているということですか。

○国立長寿医療研究センター小森企画戦略局長
 これは28億2,000万円が総数の数字でして、その内数が23億ということです。

○祖父江部会長
 いいですか。ほかにはいかがですか。これ、外部資金は今17億5,000万円で、この4年間で見ても非常にアップしているので、非常に良いと思います。先ほどちょっと議論が出ました企業からの、今後やはり各センターとも企業連携とか、共同研究を盛んにしようという方向が非常にはっきり出ているのですが、その前のページでしたか、企業からのが書いてあったと思うのですが、そんなには前年度比、これ共同研究というのは企業と考えていいですか。その辺の内容をどれぐらいの金額で、どういうふう、この企業連携、企業からのインカムはどれくらいなのか、教えていただけるといいなと思います。共同研究というのは、大体これ普通企業がお金を出す、もらうということになると、企業が多いのかなと思ったのですけど。これ1億1,000万円ですかね。これは企業からの収入と考えていいですか。

○国立長寿医療研究センター小森企画戦略局長
 はい。

○祖父江部会長
 なるほど。前年度から比べれば増えているが、先ほどのロボットなどのあれを見ると、もうちょっと入ってもいいようなというふうに思ったのですけれどね、あれだけやっているから。

○国立長寿医療研究センター小森企画戦略局長
 あれはアカデミアとやっているのも結構多いので。

○深見委員
 研究資金でAMED予算がとても増えているのですが、これは今年度、何か理由が、AMEDのプロジェクトと何かすごい合致するものがあって、ばっと増えたのか。それとも複数の研究者の方が取るように人数というのか、少数の人の貢献によるものなのか。それとも、広い研究者による増加なのかというのは、どうですか。

○国立長寿医療研究センター荒井理事長
 全体も頑張っていると思うのですが、実は昨年度に関してはAMEDの調整費でこれが増えているというふうに御理解いただければと思います。

○藤川委員
 もともと新しい病棟が出来て、その分の減価償却が増えるからということもあり、いろいろ頑張られたところは見受けられるわけですが、これだけ収入も増えて、稼動率も10%も上がると、並大抵ではないというか、相当ないろいろな御努力があったのかなと思います。とは言え、ちょうど赤字の金額で3億ぐらい、正に減価償却分ぐらいが足りないということで、これ以上頑張るところがあるのか、こういった高稼動率を継続するということも非常に大変であり、赤字の金額としては広がっているわけですから、これをどのように持っていくつもりなのか。何らかのビジョンのようなものがおありなのかどうかを教えていただけますか。

○国立長寿医療研究センター荒井理事長 
 昨年度は私病院長をしていますが、1つ病棟を減らしました。20床という、不採算部門を閉鎖したということで、稼動率が結果的に90%になったということがあります。1つ閉鎖しましたので、収入が減るかなと思っていたのですが、逆に増えたということで、トータルとしては病院収入としては経営改善をしたというような状況です。今後どうするかということについては現在も、今年も90%維持していますので、90%の稼動率は確実に維持したい。95%の稼動率にしたいと思っていますが、90~95%、病棟はかなり疲弊をしていますので、それもちょっと注意しなければいけないのですが。
 それと同時に、入退院に関するいろいろな仕組みをもう1回見直して、同時にその診療情報に関する専門家を2人新しく加えて、徹底的に診療報酬を見直すということをやっています。それで更にアップすると思っていますし、現在の新棟を建築予定になっておりますので。そこで、今80床ぐらい休床がありますので、少し稼動させることによってトータルで300数十床にして、更に収益をアップしたいというふうに考えております。新棟の稼動の予定が2年後の4月くらいと思っております。もちろんその後に何年かすると減価償却がまたどんと来ますが、それをちゃんと返せるだけの収入は得られると考えています。

○祖父江部会長
 大体今このセッションは終わりにしたいと思いますが、何か全体を通じて、前のセクションの内容でもいいのですが、御意見ございますか。

○医政局研究開発振興課国立高度専門医療研究センター支援室太田室長補佐 
 先ほど積み残し的になった認知症基本法のデータの話のやり取りをしていただければと。

○祖父江部会長
 では1つだけ、非常に重要な問題ですので、やはりナショナルセンターは、悉皆性のある全国の動向を常時国民に向けて発信できるという体制作りは今後非常に大事だと思っておりますので、それが1つ。もう1つはゲノムのところで質問しようかと思ったのですが、ナショナルセンターごとにゲノムを集めて、それをゲノム解析をやっていくという作業をずっと、最近独立しておやりになっている状況なのですが、例えばがんなんかではホールゲノムをかなり大規模にやろうという話もあって、前の在り方委員会のときには、横糸でこういうものは別枠センター化というものも非常に効率的ではないかという議論があったのですが、その辺はどうですか。今後もちろんGWASでやっていくのは非常に効率的だと思うのですが、ノンコーディングのところの構造遺伝子なんかのアナリーゼをやっていこうとすると、通常の次世代なんかだけでは足りないところもある。その辺は全体的にやろうと思うと、ちょっと1つのナショナルセンターの規模を超えてくるという感じがしているのですが、その辺の将来の見通しは、将来見通しばかりになってしまったのですが、何かお考えはありますか。

○国立長寿医療研究センター荒井理事長 
 ゲノム研究についてはナショナルセンター6つがある程度協力してやるという方向で、今検討をしておりますので、近い将来そういうふうになっていくだろうと思っています。ゲノム解析も、GWASも、ホールゲノムもかなりスピードもアップしてきていますし、コストも下がってきていますので、これからのナショナルセンターを中心に、認知症についてもいろいろなことができるようになると思っております。

○祖父江部会長
 それでは、大体これで終わりですね。あとは法人の監事から、最後に理事長からのまとめを頂きたいのですが、まず法人の監事から、監査報告書について御説明いただけますか。

○国立長寿医療研究センター橋本監事 
 監事の橋本です。提出いたしました監査報告のとおりでございますが、総括しますと法人のガバナンスが機能しておりまして、法令遵守等の内部統制の適切な構築もなされていると考えております。以上です。

○祖父江部会長
 何かいいですか、監査報告御覧になって御意見ございませんか。ではないようですので、最後、理事長からよろしくお願いします。

○国立長寿医療研究センター荒井理事長 
 本日は貴重なお時間頂きまして、当センターの業務実績についての評価を頂きまして、ありがとうございました。当センターは認知症を中心に老化研究をやっていくということで、そういったミッションを担っておりますので、非常に幅広い範囲にわたっております。我々の現在のマンパワーでどこまで行けるかということもありますが、できるだけその現状のマンパワーを駆使して、先生方の、国民の御期待に応えていきたいというふうに思っていますので、引き続き御指導のほうよろしくお願いしたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

○祖父江部会長
 どうもありがとうございました。では、これで終了いたします。ここで5分、休憩を取りたいと思います。よろしくお願いします。

(国立長寿医療研究センター退室)
(国立国際医療研究センター入室)

○祖父江部会長
 それでは国立国際医療研究センターの平成30年度の業務実績評価について議論を始めたいと思います。今日はどうも暑い中お集まりになりましてどうもありがとうございます。よろしくお願いいたします。初めに理事長から一言御挨拶をお願いいたします。

○国立国際医療研究センター國土理事長
 国立国際医療研究センターの理事長の國土です。本日はこのような機会を頂きまして本当にありがとうございます。私から簡単に概要と最近の動きについて御説明します。概要の1ページ、私どものセンターは感染症その他の疾患に関わる医療に関して調査研究を行うこと、医療に関する国際医療協力、高度専門医療研究センターの職員の養成、看護に関わる教授を行っております。その下に「理念」とありますが、最近私どもは“3つのG”ということでまとめております。1つは“Global Health Contribution”ということで、国際医療協力、人材育成と地球規模人間の安全保障への貢献。2つ目のGは、“Grand General Hospital”ということで、全ての病態、感染症に対応できる総合病院、誰一人取り残さない医療を掲げております。最後のGは、“Gateway to Precision Medicine”ということで、ゲノム医療に代表される個別化医療や高度先進医療を研究拠点としてなると。そういうようなものを掲げてやっております。
 その後の数字については御覧ください。最後に、財務の話があると思いますが、私どもの所は大変大きな累積欠損金を抱えておりますが、昨年度は少し赤字の幅を圧縮することができて、それでも9.9億円の経常収支赤字となっております。
 その次が、組織概要です。私どもはセンター病院、新宿区戸山にある763床の総合病院と335床の国府台病院の2つからなっております。そして研究所と国際医療協力局、清瀬市に国立看護大学校があります。各部門のことについては、これから担当が御報告いたします。
 5ページ、中長期計画は昨年度は6年計画の4年目でしたが、このようなことで重点分野は新興・再興感染症及びエイズ等の感染症、糖尿病・代謝性疾患、肝炎・免疫疾患並びに国際医療保健協力局を重点分野として行っておりました。
 6ページ、昨年度のトピックスとしては、陸軍病院まで遡りますと150周年になりましたので昨年は150周年記念事業を行いました。特に、昨年12月3日に秋篠宮殿下、同妃殿下をお招きして、記念式典とノーベル賞を受賞された大村智先生などの記念講演会を行いました。もう1つ、国際医療協力に関しては、ベトナム労働勲章をベトナムから頂きまして、勲一等をセンターとしていただき、数名の職員も勲二等と三等勲章を頂いております。また、授賞は今年度になりますが、昨年の1月にWHOのUAEアワードという賞がセンターの長年にわたる国際医療協力全体の事業に対するアワードということで受章しました。以上です。本日は、よろしくお願いいたします。

○祖父江部会長
 それでは各論に入ります。まず評価項目1-1及び1-2の「研究開発の成果の最大化に関する事項」について議論したいと思います。まず法人から御説明を15分頂きまして、その後質疑応答とさせていただきます。それでは、よろしくお願いいたします。

○国立国際医療研究センター満屋研究所長
 研究所長の満屋です。11ページ、評価項目1-1、自己評定はSとしております。11ページに挟んであるデータがより完全なもので、ヒト肝キメラマウスのデータが12週までのものを提示しております。これは新規のB型肝炎治療薬候補のCFCPの開発に我々NCGMにてデザイン・合成・同定に成功して、その前臨床試験を大きく進めた結果です。このヒト肝キメラマウスは、今、ヒト以外で最良の抗ウイルス効果を確認する手段とされております。エンテカビルは現在世界で最も汎用されている核酸系逆転写酵素阻害剤ですが、残念ながらこのエンテカビルに対する耐性が出ておりまして、これが大きな問題となっております。
 そのエンテカビルとCFCPを比較した図をご覧に入れておりますが、最近は特に今ロングアクティング、長期間にわたって効果を発揮するものが製薬業界では大きな注目を浴びております。このQ3Dというのは、3日に一度、QWは1週に一度、ヒトの肝細胞を移植した免疫不全マウス、これをヒト肝キメラマウスと申しますが、このようなマウスにB型肝炎ウイルスを接種してからの血清中のB型肝炎ウイルスのDNAの数を縦軸にプロットしてございます。御覧のように、エンテカビルは2週間の1日1回投与で、DNAの数をおよそ3logぐらい減少させます。つまり、1,000分の1前後になる。しかし、CFCPは更に1万分の1以下になっているのがお分かりかと存じます。
 投与頻度を1日1回から1日3回に転じますと、エンテカビルはその下降傾向が頭打ちになりますが、CFCPではなおも下がり続けて、いわば4log以下になっているのがお分かりかと存じます。更に、1週間に一度、QWに転じても、CFCPはその効果を失うことがないということで、このような長期間持続型の薬剤は恐らく慢性B型肝炎の患者さんのQOLあるいはコンプライアンス、アドヒアランスとも言いますが、ちゃんと飲めるようになるということで、大きな特長を有すると思います。このCFCPは先ほど申し上げたように、NCGMの研究グループが独自でデザイン・合成したものです。このCFCPのデザイン合成・同定は、次に述べるEFdAの研究開発の経験に基づいて進められていることは特筆されて良いと思います。
 12ページ、新規エイズ治療薬候補、EFdAの開発で、中段の右に少し複雑な図があります。EFdAというのは、現存する全ての患者さん由来の耐性変異株に対して強力な活性を発揮する。これまでの3TC、AZT、TAFというのは、よく使われてきたものですが、これよりも更に10倍から100倍、あるいはそれ以上非常に強い抗ウイルス効果を発揮するということで注目されているところです。
 このEFdAは、ヤマサ醤油との共同でデザイン・合成・開発したものです。これを米国メルク社に導出しておりまして、EFdAは私が名付けた名前ですが、MK-8591がメルクのコード番号で、つい数週間前に米国FDAがジェネリックネームを付けて、英語で書いてある「islatravir」というのがジェネリックネームで、これからはislatravirという名前でEFdAについての説明が行われることになるだろうと思います。このislatravirは、既に合計264人の健常者及びHIV1に感染している方々計264名に投与されて、これもロングアクティング、長期間作用することが確認されております。副作用が重度なものは全くなく、非常に強い抗ウイルス効果が発揮されることがフェーズ1及びフェーズ2で確認されたところです。このislatravirは本年の12月に我々NCGMのIRBで審査されることになっておりまして、来年1月からislatravirの国際共同第3相の臨床試験を開始します。NCGMはその治験で、日本の中核拠点としての役割を果たします。
 次に[3]を御覧ください。12ページの一番下にある新規エイズ治療候補薬GRL-142の開発です。ダルナビルというのは、プロテアーゼ阻害剤というクラスの一員で、今世界と日本で最も使われているプロテアーゼ阻害剤です。ダイナビルも我々が米国のチームと共同でデザイン・合成・同定したものです。GRL-142はこのダルナビルをリード化合物として13年に亘って数百種の新規化合物を合成して最終的に臨床応用候補として同定したものでございます。
 13ページ、一番下の表を御覧ください。現在汎用されている一番新しいクラスの治療薬であるインテグラーゼ阻害剤dolutegravirというのがあります。これに対する高度耐性変異株が今問題になりつつありますが、GRL-142はこのdolutegravirに対する高度耐性変異株に対しても極めて強力な活性を有することを確認しております。表を御覧いただきますと、DTGがdolutegravirです。高度DTG等耐性株ではIC50値が340 nM。IC50はウイルスの増殖を50%抑制する濃度ですので、数字が大きければ大きいほど効かなくなるということになります。そうしますと、野生株に対してはDTGは3.8 nMで良かったのが、高度DTG等耐性株、HIV-KGDに対してはIC50値が340 nMですから、ほとんど効かなくなります。しかし、GRL-142では、0.00013 nMと非常に強い抗ウイルス活性を発揮することを初めて示したところです。これも今導出を進めているところです。
 14ページ、今の3つの項目についてまとめております。CFCPの開発の継続と進捗、EFdA、GRL-142についての記載をしております。第4番目で今回特に注目していただければと思っているのが、実際にNCGMでの診療、臨床で何がなしえたかということで、15ページのトップを見ていただくと、先進的自家・同種膵島移植の推進と次世代型膵島移植確立の推進について具体的な成果が上がったことを御報告したいと思います。
 まず、1)は「疼痛制御不能の慢性膵炎に対する膵切除術」、膵を切除しますと当然1型糖尿病が発生します。そこで、膵島だけを取り出して、これを自家移植します。これまでに4例実施しております。上段に書いておりますが、日本では1979年から報告がありますが、高度の技術と体制を要するために、実施数は激減しておりまして、現在ではNCGMが日本における効果的な自家膵島移植実施の中心実施施設となっております。簡単に申し上げますと、ペインスコアの改善度を見ますと、4例全てでほぼ無痛となっております。また良好な血糖コントロール、中段の右にありますが、カーブが目標範囲に達していることがお分かりかと思います。
 2)は「1型糖尿病に対する脳死/心停止ドナーからの同種膵島移植」です。1例既に実施して患者さんは血糖コントロールが改善して、危険な低血糖発作から解放されたのが下段の真ん中に示しております。無自覚低血糖は全く起こらなくなり、移植後良好な血糖コントロールを達成されたということがお分かりと存じます。
 また16ページ3) をご覧ください。「iPS細胞を基盤とする次世代型膵島移植療法の開発」も進めておりまして、iPS細胞から作成しました細胞群を用いた次世代型膵島移植を行いますと、下段にマーモセットの絵をご覧いただきますと、随時血糖値が非常に良好になっているのが分かります。このような取組は17ページにまとめております。
 疾病に着目した研究で、18ページを見ていただきますと、HIV関連で「ツルバダ」継続使用による腎障害を未然に防ぐという成果について報告をしております。また21ページを見ていただくと、HIVの感染に対する対応で、Sexual Health外来を恐らく日本で初めてNCGMのような中核病院で開始しているところです。
 23ページ、月1回の注射でHIV感染者をコントロールできる新規エイズ治療薬のランダム化国際臨床治験を進めているところで、これはGS、グラクソ・スミスクラインとシオノギとの共同で当たっているところです。均てん化と国際保健医療協力に関する研究を取り上げます。
 27ページをご覧ください。これはラオスでのアクティビティです。特に温度管理が不良なためにワクチンの効果が落ちて、そのために感染症が流行しているということを報告しております。ワクチンの温度監視を徹底するようにラオス政府に提言したところ、麻しん患者報告数が2014年は112例であったのが、2017年では僅か3例と顕著な改善をもたらしたということを御紹介します。
 32ページ、評価項目1-2、研究・開発に関する事項(実用化を目指した研究・開発の推進及び基盤整備)で、これも自己評定を先ほど述べたものに関連して、Sとしております。バイオバンクの充実、それから特に研究所、病院、国際医療協力局などのセンター内での連携強化で、これもEFdA、先ほどのislatravirの臨床試験開始まで至った我々のアクティビティについて強調させていただきたいと思います。
 33ページの中段にあるACC(エイズ・クリニカル・センター)及び肝炎・免疫センターが共同でモンゴル男性同性愛者のコホートを形成・維持して、肝炎とHIVに関する研究を実施しております。33ページの中段に示してあります医工連携も進めているところです。
 34ページ、産学官が連携した共同研究は米国メルク社、ヤマサ醤油との共同開発等を挙げたいと思います。
 35ページにそうした外部機関との共同研究数が2017年、2018年に著しく上昇、増加していることが分かります。
 36ページ、特に糖尿病については日本糖尿病学会と共同でJ-DREAMSと呼んでいるデータベースの組織事業をNCGMが先頭に立って運営しております。36ページの下段にありますようにこれは51施設から5万2,000名の登録を終了、既に大きなコホートを組織してデータが出てきております。以上です。ありがとうございました。

○祖父江部会長
 今の御説明に対して、御質問等ありましたらよろしくお願いします。

○深見委員
 新しいエイズ耐性の薬の開発ということで、とても注目すべきことだと思います。逆転写酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤ということで、作用機序の違うものを開発されているのですが、これは患者さんの適応はどのように使い分けをするのか、少しマニアックの質問ですが。

○国立国際医療研究センター満屋研究所長
 決してマニアックではありません。当然の御質問だと思います。1剤では完全に服用していただいてもどうしても耐性が出ます。ですから、さらに強力にウイルスの増殖をブロックするということで、複数のクラスの治療が行われてきております。これは結核やがんに対する治療と全く同じで多剤併用療法が使われております。しかし、多剤併用療法でもやはりエイズやがん、またそのほかの感染症でもよく耐性が起きてしまいますので、それぞれのクラスで耐性が非常に起こりにくくて、これまでの既存の薬剤よりも極めて強力なものを組み合わせると、エイズのウイルスの増殖をほぼ完全にブロックすることができるような時代となっております。ですから、1剤だけでは足りないので、2剤、詳しく申し上げますと、今までは3剤の投与が必要でしたが、これからは2剤になるという時代に入っております。また副作用の点でもそれぞれのクラスに特有な副作用がありますので、違ったクラスではそれぞれ半分ずつを使うことによって副作用が減殺されます。そういう意味ではがんや結核で用いられるのと同じ多剤併用療法がベストだと考えられます。

○深見委員
 その多剤の併用というのは、今までの既存薬との併用という意味ですか。それとも今回開発された耐性が起きた後に、新しいもの同士を併用するということですか。

○国立国際医療研究センター満屋研究所長
 効かなくなってしまった既存薬は使うべきではないとされています。それは投与しないのと同じで、新しいもの同士を使っても耐性を起こしにくい組み合わせで併用するというのがベストとされております。

○花井委員
 新薬が次々出てくるので、非常に期待しております。最近、実は患者コミュニティで衝撃が走ったのは、脳内のDNAの論文で、結構物議を醸し出しているのですが、いわゆる脳関門を通過する薬品と、HIV関連の中枢神経疾患の関係性の論文は今までなかったのですが、この新薬については、患者はもうウイルスが減って死なないことでは満足しなくなっていて、結局、それによって中枢神経系の長期毒性について非常に神経質になっている中で、結構発表があったので、騒然としているムードがあるのですが、その辺について新薬というのはどういう感じなのか教えてもらえますか。

○国立国際医療研究センター満屋研究所長
 その点は私どももずっと前から着目しておりまして、私たちは特にフッ素化学に注目して参りました。フッ素を付けますと化学的に非常に安定で、しかも、疎水性を与えることができる。つまり、細胞膜を通過しやすくなる。このEFdA、今やislatravirと言われるものはフッ素が1個、先ほどのプロテアーゼ阻害剤GRL-142はフッ素を2個意図的に付けております。このGRL-142は、少なくともラットでは脳内に非常に効率良く透過することを確認しております。これまで現在汎用されておりますダルナビルと比較しますと、ラットで見る限りGRL-142は100倍から1,000倍くらい高い濃度が脳内に到達します。GRL-142はまだ人体には投与されていませんので分かりませんが、少なくともEFdA、islatravirについても細胞膜の通過はかなり良好であることを確認しておりますので、脳内への移行についてはまだメルク社も検討したデータは開示しておりませんが期待しているところです。やはりこれからは脳内のウイルスの増殖を抑制するのが非常に重要であろうと私たちも考えて参ってきておりまして、islatravirとGRL-142の両剤ともそのような特性を与えるために目的的にデザイン・合成をしたところです。

○福井部会長代理
 素晴らしいアウトカムだと思います。1点だけ。これだけの新しい薬をどんどん開発されていますが、そこの知的財産の管理体制は十分なのでしょうか。

○国立国際医療研究センター満屋研究所長
 十分とは言えないと思いますが、日本の公的機関はどこでも同様だと思いますが、最初のPCT出願までは、全てNCGMでデザイン・合成・開発まで進めましたので、全てNCGMの費用で維持することとしております。
 ヤマサ醤油についてはいつも御質問を受けるのですが、これはメルクにそのパテントライトは全て譲渡されております。しかし、今でもヤマサ醤油にはマイルストーンが入っておりまして、そのマイルストーンの総額は最終的には100億を超えると思われます。つまり、ヤマサ醤油というよりも日本に知的財産の権利が還流していると考えたいところで、NCGMにもそうしたことから、醤油会社ですので全くコンフリクト・オブ・インタレストはない会社ですから、研究助成をいただいたりもしているところです。そういった点では知的所有権の管理について、本日述べたものでは大きな問題は感じていないところですが、まだ不足するところは当然たくさんあります。

○福井部会長代理
 そういう管理の専任のスタッフはいるのですか。

○国立国際医療研究センター満屋研究所長
 専任のスタッフはおります。

○福井部会長代理
 分かりました。

○祖父江部会長
 今のことに関連していつも同じことを聞いているのですが、結局、これだけ素晴らしいシーズが見えてきているということですが、この中で人への社会実装にいっているのは、メルク・ヤマサのラインが1つありますが、それ以外の実装化のパイプラインとしてはまだ十分いけていない感じはするのですが、今のお話を聞いていますと、知財をしっかりしておいて、ヤマサを絡めてメルクからでもいいと思いますが、そういう1つの流れが見えるのかなという感じもしたのですが、今後、どういう展開になりますか。

○国立国際医療研究センター満屋研究所長
 具体的に申し上げますと、CFCPはまだ公表しておりません。余り公表しますと、競争性がありますから類似品を作る、他社がすぐにいろいろな化合物を作って、ここにフッ素が付いているのを別の位置に付けたりして、オリジナリティを奪われてしまって困ることがあります。CFCPもGRL-142も既に特許申請して、CFCPはPCT出願終了、GRL-142は特許が交付されております。CFCPのデータは今年中に投稿して、その投稿した論文を持って直接学会あるいはシンポジウムで、いわばヘッドハンティングを私からしまして導出を試みます。EF dA・Islatravirの場合でもそう同じでしたが、そのような形でないと日本で開催されるバイオフォーラムなどではなかなか導出の機会は得られないと思います。と言いますのは、数千億円の開発費がかかりますから、ディシジョンメーカーは日本にはおられないということが往々ですので、申し上げましたような方向で是非ともCFCP及びGRL-142については導出に努めたいと思っているところです。

○祖父江部会長
 ほかにありますか。

○大西委員
 いろいろありがとうございます。先進的な自家・同種膵島移植の所で、これは患者さんにとって大変朗報だと思います。この効果と言うか、25か月まで同種の移植のケースで血糖コントロールがうまくいったというデータが表示されておりますが、大体期間としては何年ぐらいもつのですか。もうずっと。

○国立国際医療研究センター満屋研究所長
 効果は同種の場合ですと、他者からの細胞ということで、心臓移植や腎移植と同じで、拒絶反応が往々にして起きて参りますので、その効果は完全ではなくインスリンの投与が必要となっているようです。同種移植の5年後には80%程度に一定の効果が見られたというデータがあります。自家移植の場合は自分自身のステムセル(幹細胞)、膵島を作るもとになる細胞が体内に埋め込まれると思われますから、一生効果が持続すると期待されますが、まだそのような長期観察のデータはありません。異種になりますと細胞の脱落がありますし、膵島も人工膵島になりますと、例えば異種のブタとか、他者からのiPS由来の細胞になりますと、効果の持続はずっと短くなると思われます。しかし、そうした効果がそれがどれくらい長く存在するかというデータはありません。また、ブタ由来の細胞などはカプセルの中に入れ込むことにしているのですが、このカプセルの外側にフィブリンとか、そういったものがくっ付いて、インシュリンが折角カプセルの中で産生されても外に出てこなくなるということで、データはありませんが、更に短くなる可能性があります。

○大西委員
 そうしますと、同種の場合というのは、免疫抑制剤を使うわけですか。

○国立国際医療研究センター満屋研究所長
 使うことになります。その点は死亡者からの腎の移植では、そういったことはほかの移植と同じような状況がありますが、特に低血糖ショックは死に至る症状になりますので、それは十分に避けうる可能性が出てくると思います。

○大西委員
 ありがとうございます。

○斎藤委員
 簡単な質問ばかりで恐縮ですが、評点でSとして、その隣に○が付いているのは、S+ということで、S以上にもっとすごいということを強調しているのかどうか。

○国立国際医療研究センター満屋研究所長
 私は存じませんが。どなたかお答えできますか。

○医政局研究開発振興課国立高度専門医療研究センター支援室太田室長補佐
 目標、計画設定の時点で、センターのほうで重点化させていただいている所に○が付いております。なので、+という意味ではないです。

○斎藤委員
 はい、分かりました。

○国立国際医療研究センター満屋研究所長
 すみません、お答えできなくて。

○斎藤委員
 先ほどラオスの話を伺いましたが、これは2017年のことですが、それが今年業績として出ているのはなぜか教えてください。
 それともう1つは、35ページ、外部機関との共同研究数の推移という所で、今年、18年にジャンプしているのですが、これは何が原因か、この2つを教えてください。

○国立国際医療研究センター満屋研究所長
 ラオスは私どものNCGMからずっと研究者を派遣しておりまして、このアクティビティは今も続いております。疫学のデータというのは大体2年くらい遅れて、つまり、去年のデータが今頃から出てくることになりますから、1年から2年ずれてしまいます。そうしたことで、我々の去年のアクティビティとは少し後ろ倒しになってしまいます。
 35ページの共同研究数の推移については課長がお答えします。

○国立国際医療研究センター新谷研究医療課長
 産学連携体制は重要ということで、近年、人材なども置いて強化をしていることが実を結んできているのと、契約数で評価しておりますので、契約を迅速に結べる体制を構築したことが件数の増加につながっていると思います。
 先ほどの昨年度の成果ではないという点に関しては、論文発表が昨年度でしたので掲載させていただいております。

○中野委員
 B型肝炎ウイルス、HIV、糖尿病というのはこれから世界全体で見ますと、これまで以上にきっと大きな疾病負担になってくると思います。先ほどお示しいただいた研究開発項目のCFCPやEFdA、糖尿病を含めた膵疾患の素晴らしい御研究の成果はきっと知財の問題があって難しい点もあると思いますが、国立国際医療研究センター様が1つ掲げている国際保健とか国際協力の中で何か展開を考えておられるのか。あるいはビジョンがあられるのか、もしあれば教えていただきたいと思います。

○国立国際医療研究センター満屋研究所長
 今回申し上げましたCFCPやEFdAの成果をいわば開発途上国の健康政策にすぐに反映させる手立ては、今のところは私自身は持ち合わせておりません。まず我々のプライマリーの、一番の重要な目的は、これを市場に出すことです。そうしますと、どうしてもこれはNCGMの手から離れます。しかし、うまくいけばこうしたものを、例えばダルナビルの場合は世界で初めて特許料を全くゼロにして、つまり、WHO にダルナビルの特許・販売権を無償譲渡して1日数ドルという極端な低価格で低所得国・地域で供与されるようになりました。ダルナビルは世界で最初の特許料なしで極端な低価格で供与された治療薬となりました。そうした方向は私も今後大きく期待しているところですが、直接我々の手に及ぶところではないので、まず我々の努力は我々が有する化合物を実薬とすることに集中しているところです。

○深見委員
 ゲノムの収集とバイオバンクですが、ゲノムの情報の収集というのは疾患は何か紙でやっているのか、それとも網羅的な形でやっているのか、網羅的にやっているとしたら、今はいろいろな機関との連携というのは、そういったデータベースの利用が重要だと思いますが、そういったところがどうなっているのかということと、バイオバンクに関しても、HIVのような特徴のある疾患、強みとなっている疾患に限らず、網羅的なバイオバンクの検体の収集はやっているのか、その辺りはどうですか。

○国立国際医療研究センター満屋研究所長
 その点は非常に重要ですが、極めて困難な課題だと思います。今、特にゲノム解析を網羅的にやろうとしますと、いろいろな疾患がありますし、疾患の中にもサブタイプというものもありますのでなかなか難しい。しかも、その検体と患者さん、あるいは健常者の身体的な歴史、病歴あるいは詳しい臨床データが連結していないと役に立たないということがあります。今、NCGM研究所ではメディカルゲノムセンターというのを配置しておりまして、特定の遺伝子疾患に重点を置いて、具体的なデータを出しながら進めていこうという立場を取っているところです。一方で、エイズに係る診療・研究はかなり長い歴史がありますから、1990年代後半から現在まで継時的にいわば1か月ごと、2か月ごと、3か月ごとに患者さんから取ったエイズウイルスのサンプルがありまして、それらはカルテとリンクされております。このようなサンプルの収集の在り方が一番理想的なわけです。ですから、一般的、網羅的にどのような疾患でも、ということになりますと、データが一部欠損したりして、例えば喫煙のあるなしで大きく疾患の様相が変わりますので、そういったことも勘案しますと、これからは疾患をベースにして検体に関わる臨床像をよく連結させたものを集めるべきだと私どもは考えているところです。

○深見委員
 HIVだけにしても他機関との連携というのはどういうふうに考えているのですか。情報の利用ですね。HIVはバイオバンクですよね。

○国立国際医療研究センター満屋研究所長
 HIVの場合はNCGMのバイオバンクの一部ですが、これを使う場合はACC、NCGMでの研究に使うものと共同研究ですから、これは無償供与になります。これをある製薬企業が求める場合は有償でということになりまして、一部、日本でのバイオバンクの組織でも有償での供給を進めているところです。私の個人的な観察からは、なかなかそれは進まないし、儲けるものではないと思いますので、両方を進めるのは非常に重要ですが、そういった意味では、これからはますます制約が掛かってくるのではないかと思います。基本的には科学的な共同研究に使うのが我々ACCとNCGMの態度としたいと思っております。

○祖父江部会長
 よろしいですか。今のゲノムのセンターの活動は、実はナショナルセンター6つがゲノムセンターをどちらかと言うと独立に持っていまして、一番大々的にやっているのは、がん研と結んでいるがんセンターです。今後の方向として、例えばゲノムの次世代だけでは十分ではないという、例えば、ノンコーディングの構造遺伝子とか、そういうものをきちんと見ていこうと思うと、横のつながりというか、ゲノムの解析を含めて今後必要になってくるのではないかと思いますが、その辺は何かお考えはお持ちですか。

○国立国際医療研究センター満屋研究所長
 我々のもう1つの大きな任務は肝疾患で、肝炎免疫センターというのが国府台にあります。そこでもゲノムワイド関連解析 (GWAS)というかなり網羅的なゲノムプロジェクトを展開しているところです。

○国立国際医療研究センター新谷研究医療課長
 そうですね、大学中心の10施設をコアとして連携していることと、当センターに新たに着任された徳永先生などが6NCと連携してのゲノム解析情報の統合の重要性を主張されて、今、6NCで協議を行っているところです。

○祖父江部会長
 6NCの統合ゲノムをやるというのはかなり議論があるのですが、今まではうまくいっていなかったのですが、是非、これはそちらのほうに進めていただけると有り難いと思います。先ほど先生がおっしゃった臨床データや個別の付随するデータは非常に貴重ですので、それは各センターでお持ちでもいいと思いますが、ゲノムの所は全く共通のコモンセンスになりますので、そこは何とか共同してやるというのがかなり煮詰まってきたのではないかと思ったのですが、なかなか実際には難しそうですが。

○国立国際医療研究センター満屋研究所長
 NCGMに今度着任された徳永プロジェクト長が、6CNの取りまとめをすることになっておりますので、私もサイドからサポートさせていただきます。ありがとうございました。

○祖父江部会長
 どうもありがとうございました。それでは時間も迫っておりますので次の評価項目、1-3から1-7「医療の提供等、その他の業務の質の向上に関する事項」です。これは25分の御説明を頂いて、その後、質疑応答となります。よろしくお願いいたします。

○国立国際医療研究センター杉山病院長
 センター病院の病院長、杉山が御説明いたします。医療の提供に関する事項は、自己評定をAといたしております。HIV/エイズに対する診療ですが、我々の所にあるエイズ治療・研究開発センターでは国内最多のHIV/エイズ患者診療実績を有しております。平成30年度のエイズ患者の治療成功率は年間平均で95%になりまして、WHOの目標の90%を超える成功率となっております。さらに、先ほど触れられましたSexual Health外来を実施しまして、特定臨床研究として抗HIV薬の暴露前予防(PrEP)を実施しております。
 輸入感染症に関してですが、全国に4施設ある特定感染症指定医療機関の中で最多の4床の特定感染症病床を運営しておりまして、新感染症やエボラ出血熱、SARSなどの新興感染症、麻疹、デングなどの再興感染症にも対応できる受入体制を整備しております。最近では、8月4日の未明にエボラ疑似症例をさいたま市の要請にて受け入れました。
 先進1型糖尿病に関してですが、先進1型糖尿病外来を設置しておりまして、スマートガード搭載インスリンポンプ療法を積極的に導入しております。さらに、膵島移植にも対応しております。高度肥満を背景とした糖尿病・高血圧・脂質異常合併症の肥満症に対する胃スリーブ状切除術の臨床試験も行っております。
 45ページです。ほかに特徴的なものを述べますと、副腎疾患の病態解明・診療の質の向上を目的とした多施設共同疾患データベースを構築しております。それから、体外受精・胚移植などの高度生殖医療を実施しておりまして、平成30年度の実施は247例と右肩上がりに増えております。形成外科では、超微小血管吻合技術を用いたリンパ管細静脈吻合術などのリンパ浮腫外科治療を年間300例くらい行っております。難治性喘息に対する非薬物治療の気管支サーモプラスティも実施しておりますが、全国9都県から37人の患者が集まって日本一の治療実績を誇っております。そのほかに術中蛍光ナビゲーションを用いた肝胆膵外科手術やがんゲノム医療の実施を行っております。
 46ページです。救急医療の提供ですが、センター病院は東京都内の救急搬送件数は全国トップレベルを維持しておりまして、厚生労働省の全国救命救急センター充実度評価でS評価を獲得しております。ちなみに、昨年度の救急車搬送患者数は1万1,271名、救急搬送依頼応需率は96.1%、三次救急搬送件数は1,108件でして、三次救急の応需率は97.3%と高く保っております。重症感染症患者に対する集学的集中治療も行っておりまして、年間の救命率は96.6%と、計画を上回っております。身体合併症を伴った精神科救急の対応につきましては、国府台病院において、精神科救急病棟新入院患者のうち重症身体合併症の割合は15.2%です。千葉県の精神科救急医療システムの基幹病院になっていること及び身体合併症を伴った精神科救急患者を診療できる千葉県西部地区唯一の病院として地域医療に多大な貢献をしたと思っております。
 47ページです。国際化に伴い必要となる医療の提供です。外国人患者が年々増加しておりまして、現在、70か国以上の国籍の患者に対応しております。右に御覧のように、初診患者は、昨年度は全初診患者のうちの12.4%になりますし、入院患者に至りましても、全入院患者の5.7%になっております。JMIPだけではなくて、「ジャパン・インターナショナル・ホスピタルズ」の推奨病院に選ばれております。トラベルクリニックに関しましては、渡航前健診とワクチン接種などの渡航相談、帰国後疾患治療を実施しております。右の表にありますように初診患者数は年々増加しておりまして、平成30年度は5,371人、ワクチンの接種件数に関しましては、1万6,026と増えております。平成30年度には黄熱ワクチン供給不足の問題から11月より特定臨床研究を主施設として実施しておりまして、全国20か所の研究機関で約1万人に対する予防接種を実施しております。
 48ページです。医療の質・評価(QI)の収集・公開についてですが、過去3年分のデータを収集し、ホームページに公開しております。臨床検査室に関しては、国際規格であるISO15189を取得しております。患者支援に立った良質かつ安心な治療の提供ですが、昨年度の宿題でした外来待ち時間の短縮に関しては今年度は結構良くなりまして、30分未満が62%、30分から1時間の21%を入れましても83%になります。全国の特定機能病院の平均を見ますと1時間未満が66%なので、我々のほうが17ポイント良いということです。高い患者満足度についてですが、患者満足度調査について、センター病院は入院が98.3%、外来が96.2%、国府台病院は評価方法が違いますが、入院が4.45点、外来が4.02点と高い評価を頂いております。
 49ページです。チーム医療の推進ですが、多職種協働によるチーム医療を両病院において推進しておりまして、チーム医療介入件数は右のグラフにありますように、年々増加しております。専門・認定看護師も、現在、両病院を合わせて45名在籍しております。これも、今後も増やしていく予定です。地域の医療機関との連携に関しましては、センター病院においては、昨年度は138の医療機関等の訪問を実施しておりますし、国府台病院においては、連携医が参加する「国府台医療連携フォーラム」を年2回開催しております。こういった地域医療機関との連携を含めまして画像機器の共同利用件数は、右下には国府台病院を示しておりますけれども増加しております。
 最後に50ページです。医療安全管理体制の充実です。感染に対する体制に関しては、多職種によるチームで感染対策に取り組んでおります。手指衛生使用量、消毒回数なども、月々、定期的にモニターしております。医療安全、院内感染に関する研修は非常に大切でして、漏れのないようにするために、センター病院、国府台病院ともに、各年2回、eラーニングを用いて実行しております。抗菌薬の適正使用におきましては、センター病院においては前から導入しておりますが、国府台病院でも、昨年度にそれを導入いたしました。インシデントレポートに関する意識の向上ですけれども、センター病院においては、インシデントレポートといって意識向上に関する取組が進んでおりまして、右の表にありますようにインシデントレポート数は、これは医師によるインシデントレポート数ですが、年々増加しております。以上です。

○国立国際医療研究センター梅田国際医療協力局長
 続きまして、1-4から1-6まで、国際医療協力局の梅田から御説明申し上げます。まず、52ページを御覧ください。評価項目1-4、人材育成に関する事項のリーダーとして活躍できる人材の育成です。国際協力を目指す若手の日本人を育成するために、医師向け、看護師向け、あるいは職種を問わないコースなど、様々なコースを実施しております。特に平成30年度からは、国際協力に関しての中級向けの研修を課題別に実施することを行いました。これは、その前年からアドバンスコースとして1コース実施していたものを拡大して課題別に4コース設け、より実践的なスキルを身に付けてもらうための5コースを実施しております。
 また、[2]ですが、国際保健政策人材の養成を戦略的に推進して国際機関に日本人が派遣され活躍ができるようにするために、グローバルヘルス人材戦略センターが当センター内に置かれております。この右横に絵を描いておりますが、平成30年度から新たに国際機関の空席情報を、プログラミングによって自動的に収集しまして、あらかじめ関心のある方、人材登録をしていただいた方とマッチングをする仕組み、人材登録検索システムの稼働を開始いたしました。これにより、これまでも関心のある人の個別相談やワークショップなどのきめ細かな支援を行っておりましたが、国際機関へのより大規模かつ効率的な人材あっせんの仕組みが可能となっております。
 また、[3]ですが、国際共同臨床研究の担い手となる人材を育成するために、コンゴ民主共和国やインドネシア等、5か国からの研修生に対して国際共同治験能力開発プログラムを実施しております。このほか、感染症、HIV/エイズ、児童精神などの専門家の育成、そして7では、私どものセンターの中に設置されております長崎大学のサテライトキャンパスに、平成30年度、新たにSDGs研究センターが設置されましたので、そこと共催で「よくわかるSDGs講座」を開催しております。
 次に、53ページ、モデル的研修・講習の実施です。HIV/エイズ、薬剤耐性、糖尿病、肝炎、いずれも全国から数多くの医療従事者が研修に参加しております。右のグラフを御覧ください。この中長期計画期間中の定量的指標として、センター外からの医療従事者向けの研修会の目標を年間30回としておりますが、平成30年度は、これを大幅に上回る80回の開催の実績がございます。
 54ページを御覧ください。医療通訳に関する研修です。これは臨地実習を含むコースも提供しておりまして、医療通訳の質の担保に貢献しております。また、このほか、ひきこもりなどの心の問題に関する専門家の養成を目的とした研修を開催しております。
 以上のとおり、幅広い分野で国内外のリーダーとして活躍できる人材を育て、かつ、センターの有する高度かつ専門的な技術に関しモデルとなる研修を企画、実施したことに加え、定量的指標についても、センター外の医療従事者向け各種研修会等の開催回数が目標基準の倍以上となるなど初期の目標を上回る成果を上げているため、自己評価をAとさせていただいております。
 続きまして、1-5です。57ページを御覧ください。国等への政策提言です。これは、途上国の保健省のアドバイザー(技術顧問)としてセネガル、コンゴ民主共和国、ラオス、ミャンマーなどに職員を派遣しておりまして、保健医療政策立案に参画しております。例えば、平成30年5月にはコンゴ民主共和国西部でエボラ出血熱が発生いたしましたが、これに対する日本の支援を検討するために、現地に長期派遣されている職員が情報収集等を実施し、日本のJDR(国際緊急援助隊)の感染症対策チームの派遣や活動に貢献しております。また、二国間のみならず、多国間の政策提言活動としては、[2]ですが、WHO総会、WHO執行理事会、グローバルファンドなどの議題に関して、これまでの私どもの経験と途上国の現場を反映した技術的助言を行っております。このような技術的助言を厚生労働省を介して提出するとともに、日本政府代表団の一員としてこれらの会議に参加しております。WHO総会の決議文書等は日本語訳をしてホームページ上に公開し、情報共有を促進しております。また、WHO西太平洋地域事務局などのコンサルテーション会議に参加したり、平成30年度は、新たにWHOの体外診断に関するアドバイザリーグループの委員に任命されたほか、WHO本部のNCD部門に職員を派遣し、世界の子宮がん対策の推進に取り組んでおります。
 58ページを御覧ください。医療の均てん化並びに情報の収集及び発信に関する事項です。HIV/エイズに関しては、ACCが全国のエイズ治療拠点病院の中心として情報提供や出張研修を行っております。肝炎に関しても、肝炎情報センターが、全国71の肝疾患間診療連携拠点病院の情報共有を支援しております。[3]のWHO協力センター間の相互連携ですが、当センターはWHOの協力センター2つ、国際医療協力局が保健システムの協力センター、国際感染症センターが新興感染症対策の協力センターとして指定されております。国際医療協力局では、国内のWHO協力センターのネットワーク事務局を担っておりまして、平成30年度は日本国内のWCC連携会議第2回目を実施しました。第1回目は前年開催したところですが、それ以降、具体的な連携状況のフォローアップをしたところ、WHO協力センター間でシンポジウムを共催したり、講師を派遣したり、共同研究などの連携が進んでおります。また、その実績をWPRO地域のWCC会議で発表して、日本の取組についてのアピールをしたところです。
 続きまして59ページですが、情報の収集・発信です。NCGMのホームページのページビュー数は、平成30年度は2,061万件です。これは中長期計画目標で1,400万件以上となっているものを大きく上回っております。このページビュー数増加の主な要因としては下記のようなものが挙げられます。
 1つは糖尿病に関する情報発信で、糖尿病情報センターのホームページに新たに「糖尿病リスク予測ツール」を公開しました。糖尿病情報センターのビュー数は、前年度に比べ3倍に増加しております。
 肝炎情報センターのホームページにつきましても、B型肝炎等の疾患情報を更新し、また、平成30年度から肝がん・重度肝硬変治療研究促進事業の指定医療機関も含めた全都道府県の肝炎に関する医療機関の情報提供を行うことで、肝炎医療ナビゲーションシステムをアップデートさせて利便性が向上しております。
 3点目ですが、平成30年度から新たにゲイツ財団の助成の下で、日本のODAの保健分野の資金の流れや貢献を初めて可視化したデータプラットフォーム「Japan Tracker」を構築して公開しております。
 60ページを御覧ください。データ収集に関しては、[2]ですが、国際連合、パレスチナ難民救済事業機関保健局と共同でヨルダンや周辺諸国の難民向けに継続的なケアマネジメントが行えるような、具体的には右に写真を載せております、スマートフォンを使った難民手帳や、そこから集まるデータを解析するといったシステムの開発に取り組んでおります。
 そして研修会等では、[3]、国際保健に関するメディアセミナーですが、平成30年度、新たに国際保健に関するトピックについてメディアを対象とするセミナーを5回開催いたしました。グローバルヘルスや国際保健、医療協力の潮流や課題についてメディアと議論を深めております。大変好評で、今年は8回開催することとなっております。
 続きまして61ページです。公衆衛生上の重大な危害への対応です。平成30年5月にコンゴ民主共和国でエボラ出血熱が発生しましたが、現地に保健省技術顧問として長期派遣されている職員が情報収集を行ったことで、日本政府の緊急援助隊チームがスムーズに活動することができました。また、国際医療協力局から医師がJDR感染症対策チームのメンバーとして派遣され、臨時検疫所を設置しました。
 これが右の写真にございますが、コンゴ川経由で1日1,000人ぐらい人の移動があるところを、全ての船を一時的に止めて患者の有無を確認し、水際対策をすることで感染の拡大を食い止めました。また、写真にあるのは防護具の着脱訓練ですが、現地の人に対して、防護具の訓練であったり、あるいは、有症者の隔離やフォローアップをどう行うかといったような訓練を行いました。このアウトブレークは7月25日にWHOが収束宣言をしております。残念ながら、今現在、またコンゴでの別の地域で流行が発生しておりまして、新たな協力が今後も求められているところです。
 [2]のオリンピック・パラリンピックに向けた備えです。織田記念・国際シンポジウムは、「2020年東京オリ・パラに向けた健康危機・医療への備え」をテーマに実施しました。感染症対策、救急医療提供体制、外国人への医療提供体制、オリ・パラ期間中にどのような対応を取るべきかということについてレビューをし、国内外から著名な講師を迎えたほか、厚労省、経産省、保健所、医師会等、約200人の医療関係者が集まりました。
 以上のとおり、政策提言、医療の均てん化と情報収集・発信、公衆衛生、危機管理のいずれにおいても平成30年度に新たな取組を実施したとともに、定量的指標であるセンターのホームページアクセス数、新感染症の訓練回数ともに目標以上であり、初期の目標を上回る成果を上げていることから、自己評価をAとさせていただいております。
 続きまして、62ページを御覧ください。62ページの中長期目標[1]、[2]の下に書いておりますが、この国際協力の項目は、重要度「高」としております。経験や人材の乏しい新興国や途上国に対し支援を実施することは、これらの国々の期待に応えるとともに、平成26年に閣議決定されました健康・医療戦略における健康・医療に関する国際展開の促進にも直結することから、重要度を高くしております。
 63ページを御覧ください。国際協力につきまして、外国人研修生の受入れですが、国内研修、国内外のセミナーを開催し、平成30年度は338名の研修生を受け入れました。平成27年からの6年間の中長期目標期間中、延べ960人が目標になっているところ、既にこれを上回る延べ1,491人の受入れとなっております。その内訳を下のグラフで御覧ください。
 左側の棒グラフですが、この棒グラフの青い部分が従来の外務省やJICA等を通じた国際協力による外国人研修生受入れです。これに加え、医療技術等国際展開推進事業でも、これは赤い部分ですが、76人の研修生を受け入れ、両者ともに途上国政府や保健医療のリーダーとなる人材育成に貢献しております。[2]の日本人専門家の派遣による協力ですが、日本人専門家は延べ473名を派遣しております。うち長期派遣が21名です。グラフは右下のとおりで、こちらも、従来の専門家派遣と医療技術等国際展開推進事業の両者ともに増加しております。また、これに加え、平成30年度からは新たにNPOのJapan Platformに協力し、難民支援などのプログラムの評価審査やモニタリングのための専門家も派遣しております。このほか、国際協力人材の養成ですとか、冒頭に理事長からも御紹介のありましたUAE保健基金賞やベトナムの勲章を受賞するなど、これまでの活動が国際的にも高く評価されております。
 64ページを御覧ください。伊勢志摩サミットにおいて提案された国際保健を推進させるための事業で公衆衛生危機への対応では、米国で行われたエボラウイルス病患者の搬送訓練、新型インフルエンザの訓練に参加して知見を獲得しております。また、このページの6番目に「WHOの機材認証のためのセミナー」とありますのは、途上国で診断、治療に必要な迅速診断検査キットをはじめとする医療機器の需要が増加している一方で、医療機器の認証、審査の法規制が不十分なところが多いということがございまして、WHOが事前認証や推奨を実施しております。これらの情報について日本国内の企業とマッチング事業として、個別面談や情報共有を行っております。
 65ページは当センターの海外拠点やネットワークです。平成30年度は、ベトナム、カンボジア、ラオスで協定を締結いたしました。
 66ページですが、外国人研修生の受入れで、これは厚生労働省が実施している医療技術等国際展開推進事業、当センターが受託機関となっておりまして、活動量としては前年同様の実績ですが、内容は進化しております。例えばこの図にありますようなミャンマーの例で言いますと、輸血と造血幹細胞移植の安全性向上事業でミャンマー医師会とミャンマーの中核病院と一緒に、血液型検査適合試験や白血球除去フィルタの活用などの技術指導を行いました。その結果、ミャンマーの国家輸血ガイドラインにこの技術が記載されたり、国家輸血委員会が設置されてガイドライン遵守を指導するという現地の活動につながっております。安全な技術の導入やシステム構築とともに日本製の機材と消耗品の調達にもつながっております。以上のとおり、日本の経験・知見の移転、保健医療に関する国際協力につきましては数値目標を大きく上回る研修受入れや派遣を行うとともに、国内外の関係諸機関や民間企業、NPOとも連携して新しいアプローチでの技術導入、国際協力を進展させたことから、初期の目標を顕著に上回る成果であるとして、自己評価をSとさせていただいております。以上です。

○国立国際医療研究センター井上看護大学校長
 それでは続きまして、1-7、医療政策の推進等に関する事項(看護に関する教育及び研究)について、国立看護大学校長の井上より御説明します。
 67ページに、中長期目標とその実績について書いています。自己評価をAとしていますが、68ページからのもので説明させていただきます。国立看護大学校は、ナショナルセンターにおける将来の幹部看護職員の育成、並びにNCの臨床看護研究研修の支援を目的として、2001年に厚生労働省により省庁大学校として開学しました。学部は1学年100人、大学院相当は前期課程1学年15名、後期課程は3名となっています。
 それでは、68ページを使って説明します。まず教育に関してですが、看護学部のほうです。国家試験の成績並びにナショナルセンターへの就職率については、右の表に3年分を記載しています。6センター8病院に関して、昨年度は86.2%で90%を目途としていますが、看護系大学の増加、それからナショナルセンターの採用人員の人数縮小などによって、昨年は86%でした。看護学部への志願者は、一貫して5倍ないし6倍の倍率を保っています。
 研究課程部、これは大学院相当のことです。省庁大学校ではこのように名乗っていますが、前期課程は15名に対して18名で、一度の入試で終わりました。また、各NCから合計11名を受け入れています。前期課程においては、専門看護師のコースを4コース持っています。昨年は修了者の中から、5名の専門看護師の合格者を出しました。また後期課程で初めての論文修了者、すなわち課程修了者を輩出しました。それから研修部の授業としては、初期の目的を大幅に上回るコース、そして受講者数を達しています。
 69ページです。教育研究の貢献ですが、まず良質な学生確保のための情報提供、情報発信としては、オープンキャンパス等、開催ごとにお断りするほど満席になるほどの参加者を得ていること。それから研究の推進については、各NCからの共同研究、あるいは研究指導の求めに応じて、現在19件が進行しています。また教員による研究費の獲得、約40名弱の総教員数で外部資金は30件を獲得しています。地域貢献としては、近隣に3大学、清瀬市には明治薬科大学と日本社会事業大学、3種の医療に関する大学があり、清瀬市と3大学が連携して清瀬アカデミアという催しものを毎年開催しています。
 国際貢献では、ベトナムのハイズオン大学と協定を結んでいまして、学生を毎年送り込んでいます。今年は43名、この先週の土曜日に無事に実習を終えました。大変有意義な実習を行うことができたようです。その他としては、開学以降19年、卒業生は1,400名を超え、本学そして他大学の大学教員、もちろん臨床の幹部職員として活動しています。今後ますますNCとの連携強化を図っていきたいと思っています。以上です。

○祖父江部会長
 どうもありがとうございました。非常に多岐に渡るお話を短時間にしていただきましたが、ただいまの御説明に対して御意見、御質問等はありますか。

○中野委員
 1-4に関して、御質問をさせていただきたいと思います。医療通訳に関して触れられたかと思いますが、これからきっと医療通訳というのは非常に大切な時代にはなってくると思います。その中で、きっとこれは研究や診療という形よりは事業化してある程度進められないと、うまくいかないので、大変御苦労が多いかとは思うのですが、研修を実施しておられるということで、大変評価できると思います。この研修なのですが、恐らく国立国際医療センターだからこそいろいろな国の患者さんに来ていただいて、いろいろな事情の病状の方に対応できると思うのです。この研修というのは、地方の方が、例えば医療センターで研修されて地方に戻られて再度活躍するというタイプがいいのか。あるいはある程度事業化して、遠隔医療の一環のような形でオンラインで通訳をやれる拠点とされるほうがいいのかなど、そのようなことを何か、今、考えておられることがあればお教えいただきたいと思うのですが。

○国立国際医療研究センター梅田国際医療協力局長
 御質問ありがとうございます。この研修は、御指摘のように実習までできるというと、なかなかほかの所ではできないので、当センターで実施している強みかと思います。一方で、これは基礎・応用コースから臨地実習コースまで段階別の4種類のコースを設けています。遠隔ということでは、電話通訳を活用する形態もありますので、これから様々な形で、通訳のニーズもあり新たな働き方がありうると思っています。その中で当センターとしては、やはり質の高い研修をきちんとやっていくということと、既に医療通訳技能認定試験の受験資格対象講座として認められていますが、新たに国際臨床医学会が医療通訳士を学会認定されるという動きもあると聞いてますので、そういったほかの関連団体や学会などの動きなども参考にしながら、ニーズに合った研修を提供していきたいと考えています。

○中野委員
 ありがとうございました。国内に入って来る外国人が増えるとともに、どんな地方でも、どうしてこの国の人がいるのだろうという状況に日本がなってきたので、とても大切なテーマかなと思ってお尋ねしました。

○藤川委員
 私も今同じようなことをお聞きしたかったのですが、47ページでは外国人患者への対応ということで、対応時間も言語数もかなり増やして、どこまでやるのですかということを前にもお聞きしたような気がするのですが、果てしない規模で広がり中といったところでしょうか。また今、先生が御質問された通訳の養成もやっておられて、こうしたサービスをどのように有機的にうまく組み合わせて、日本全体にもどのように普及させるのかということは、非常に重要であると思います。いろいろな所で外国の看護師さんを、入れているような所も増えてきているということを聞いて、なかなか難しいこともあるということでしたので、そういったことに対しては、このセンターがかなりイニシアチブを取って、やっていかなければいけないかなと思いますが、そこはさきほどの御回答が大体当てはまるということなのでしょうか。
 ところで、60ページのスマートフォンを使った難民手帳というのは、これはちょっと面白いと思ったのですが、ただ難民の方が皆さんスマホを持っているのかどうかということです。同じような話で、外国人技能実習生も手帳があるのですが、スマホは持っているわけではないということで、やはりその辺が難しいということをお聞きしたのですが、いかがなのでしょうか。

○国立国際医療研究センター明石国際協力局運営企画部長
 御質問ありがとうございます。おっしゃるように難民の方が全てが全て、スマホを持っているわけではないのですが、例えばヨルダンのこの場合は、かなりの率でスマホを持っています。実際にUNRWAという所では、電子母子手帳を始めているぐらいで、それはもともと電子カルテシステムがあって、それを難民の母親がインストールして必要なデータだけをそこにアップされる形で、今、NCD手帳、つまり非感染性の生活習慣病手帳のようなものの電子化も始めているところです。ただ、おっしゃるように難民によってはアフリカとか、必ずしも電子があるわけではない所があります。そこは本来的には紙ベースも考えているのですが、今、取りあえずはここで電子化ができそうなので、それについて取り組んでいるところです。ですから、将来的には紙のほうにも、本来的に同じような機能を。もともと日本で紙ベースの母子手帳があるぐらいですので、それを母子だけではないのでもうちょっと広げた形で作っていきたいと、その試みを始めているところです。

○祖父江部会長
 よろしいですか。

○福井部会長代理
 幅広い分野で、本当にすばらしいパフォーマンスだと思います。細かい点で、気が付いた点について伺いたいのですが、50ページの医療安全管理体制の所で、インシデントレポート数のグラフが右下にあります。これは医師からの数ということですが、全体で出てきたものの何%に当たるか分かりますか。

○国立国際医療研究センター杉山病院長 
 ベンチマークとして10%を考えていて、10%を上回るようにしています。

○福井部会長代理
 これは10%を上回っているのですか。

○国立国際医療研究センター杉山病院長
 はい。

○福井部会長代理
 そうであればいいですね。もう1点、これも細かいことで申し訳ないのですが68ページの看護教育について、一番上の行で、国家試験合格率が看護師95%なのですが、看護大学の中にはたくさん100%の所があるのですが、100%にするのは難しいのでしょうか。

○国立国際医療研究センター井上看護大学校長
 いえ、ここ数年ずっと100%を続けていました。たまたまであってほしいのですが、今年は留年生が全員、駄目だったということです。学内体制は、留年生への支援を強化して、何とか来年はと思っています。御指摘のとおりです。

○花井委員
 国の政策、1-5になるかと思うのですが、感染症予防法への対応で1類感染症は、法律上は皆知事権限で知事が回すことになっているのですが、事実上は不可能です。結局、1類当たりだと、この施設がダスティン・ホフマンよろしく、人を派遣して何か対応をする必要があると思うのですが、やはりこれは全国展開はここはできる体制なのですか。例えば、ある自治体で知事が対応するにしても、確定診断してしまうと病原体が分離したその時点で、施設基準と抵触したりいろいろ問題が起こって、事実上、各地方自治体だけでできるところとできないところが厚生局の規模もあるし、そのときに割と全国展開というのは常にできる体制なのでしょうか。

○国立国際医療研究センター井上企画戦略局長
 企画戦略局長、井上からお答えします。できる体制を取っています。現在、各都道府県全てに第1種特定感染症指定病床が配置されています。原則は、例えばエボラの疑い症例のような、先週末にもありましたが、症例があった場合には、それぞれの都道府県の中の特定感染症病床で治療することになっています。現実には、それができにくいケースが多いです。そういう場合には、2つの手立てがあります。1つは、その患者さんそのものを県境を越えて、NCGMにお受けする。具体的には、先週末に発生したエボラ疑い症例、新聞でも報道されました。あれは埼玉県で発生した事例で、県境を越えて埼玉県から私どもの所にお受けをしています。埼玉県で県内にある施設が、受入体制が整っていないという状況を鑑み、我々が要請を受けてお受けした。
 近県であれば、それができます。これが離れた地方の都道府県であった場合に、患者さんをNCGMまで搬送するということが現実的ではないケースが、十分に想定でき得ます。そうした場合には、その当該県の第1種感染症指定病床で患者さんをお受けし、私どものほうから治療チームを送るという想定を私どもでしているところです。以上です。

○花井委員
 各都道府県に受入れ施設が決まっているじゃないですか。診断しようと思って、採血して病原体を分離した瞬間にいわゆるP1やP3などの基準とは別基準ですよね。逆に言えば、受入れられたからといって、そこで病原体を分離して確定診断ができるかどうかというのは別の問題だと思うのですが。その後者については、もうスタッフが対応、どういうことなのですかね。ちょっと分からないのですが。

○国立国際医療研究センター井上企画戦略局長
 確かに患者さんの治療というものと、検体の検査というのは別です。私は今、前者のほうを申し上げました。後者のほうに関しては、これを検査する施設は国立感染症研究所ですので、検体はそれぞれの都道府県の第1種特定感染症医療施設に患者さんをお受けし、そこで採血を行い、あるいはそのほかの検体の採取を行い、それを全て東京都内にある感染症研究所のラボラトリに運んで検査をする、そういう体制を敷いています。

○祖父江部会長
 ほかにはいかがでしょうか。1つ、私から。途中で46ページでしたか、救命救急の話が出ました。救急車の受入れ数、それから三次救急の受入れパーセントや受入れ数、応需率などを見てもすばらしいと思うのですが、全国的にもほぼトップかそれぐらいだと思います。これはほかにもものすごいたくさん仕事をやっておられるので、人員がどれぐらいいて、どういうシステムでこれを動かされているのか、ちょっとなかなかこれだけのことをやれないと思っているのですが、その辺の体制はどうなっているのかという点が1つ。もう1つは、前にちょっとお聞きしたことがあるのではないかなと思っているのですが、こういう救急も実は先ほどから出ている国際協力に役立っているのだということを、ちょっとお聞きしたことがあるのですが、それはどういう連関でそこへ関連がいっているのか、もう1回お聞きできると有り難いなと、その2点です。

○国立国際医療研究センター杉山病院長
 人員に関しては、必ずしも潤沢というわけではなく、やはり限られた人員でやっていますが、救急とそれからそのバックアップをする各科の体制を非常に密にしていますので、まず最初に救急がファーストステップで受け取りますが、必ず後に各科が受け取るようにしています。それから救急で準夜の時間帯は、総合診療科がバックアップする形にしています。外国人については、一番外国人が来るのは救急です。ですから電話相談などを一番使っているのも、救急部門です。

○国立国際医療研究センター國土理事長
 追加ですが、国際医療協力については、具体的にはモンゴルに定期的に人員を派遣しています。つい先日も、モンゴルから10人ぐらいの研修の方がいらっしゃいました。そういうような救急に関する国際医療協力も行っています。

○祖父江部会長
 ありがとうございます。ほかには何かありますか。本当にたくさんの非常に幅広いお話を頂いたので、どこから質問していいのか分かりにくいというところもあるかと思うのですが、いかがでしょうか。それぞれ中身の違う話が混ざっていますが。

○大西委員
 本当に幅広い活動をされているのを伺って、心強く思ったのですが、この中に医療の均てん化という項目があるのですが、何を均てん化して、何は国際的に貢献をしていくというのは、なかなかこう全てを均てん化していくということもできませんし、国際的な所に特化していくと日本で唯一の施設のようなイメージになってしまうこともあるかと思うのですが、その辺りのめりはりというのはどうお考えになっているのか。また今後、どのようにお考えになっていこうとされているのかについてお話を伺えますか。

○国立国際医療研究センター梅田国際医療協力局長
 均てん化に関してですが、分野横断的、総合的な取り組みという考え方もあるでしょうが、より比較的強みの部分をめりはりを付けるということでは、当センターならではの領域についての日本のリーダー的な役割というか、情報の拠点的な役割を担っています。具体的には、HIV/エイズや肝炎、糖尿病、感染症あるいは薬剤耐性など、そういったようなところでほかの医療機関に対して、様々な私どもの情報や知見や経験というものを、お伝えできることがあると思っています。また、それは国際的にも展開していけるものと思っていますので、そのような考え方で実施させていただいています。

○大西委員
 例えばですが、先ほどのお話にも出ました救急の応需率や救急の体制などでも、これもほかの病院や、また施設で学ぶこともできるような部分もあるのかなと思うのですが。そういうものは、いかがでしょうか。

○国立国際医療研究センター杉山病院長
 国内からも研修を受けています。あと国外ですね、例えばカンボジアなどにも、国際協力の一環としてやっています。

○祖父江部会長
 いかがでしょうか。非常に多岐に渡っていますが、まだ時間はありますね。

○医政局研究開発振興課国立高度専門医療研究センター支援室太田室長補佐
 時間は10分程度ありますが。

○祖父江部会長
 10分程度ある。

○医政局研究開発振興課国立高度専門医療研究センター支援室太田室長補佐
 ありますが、なければ。

○祖父江部会長
 せっかく時間がありますので、何か御質問はありませんか。ちょっと時間があるということですので、私から。

○医政局研究開発振興課国立高度専門医療研究センター支援室太田室長補佐
 すみません、全体の時間自体は押していますので、申し訳ありません。

○祖父江部会長
 そうですか、では1つだけ。いつも同じ質問が出ているのですが、国際医療研究センターとしては、もともとが歴史的には総合病院から付加的に国際医療、感染症、糖尿病、救急、肝炎というような政策医療が付け加わってきたというような感じで発展してきているように、私はそう思っているのですが、先程来もちょっと出ている非常に多岐に渡ってどんどん拡大していくと、この間も人件費率のことをお伺いしたら60%も超えているということもおっしゃっていたのですが、それから國土先生も、今CINでも御活躍いただいていると思うのです。しかもそれを非常に高いレベルで全てこなしていただいて、運用していただいているということからいうと、今後のこのセンターのめりはりという言い方は、非常に単純過ぎると思うのですが、目指す方向としては、どんどん政策医療が降ってくる可能性が今後もあるのではないかという感じはしているのです。その辺どういうポリシーというか、この議論の中では余り質問としては出さないほうがいいかなと思いましたが、何かそういうお考えがもしあれば教えていただけると有り難いなと。

○国立国際医療研究センター國土理事長
 御指摘ありがとうございます。御存じのように、ナショセンの中で唯一、特定の疾患に特化していないセンターであるがゆえに、最初に強調したようにやはりジェネラルホスピタルというのが、逆に我々のアイデンティティだと思っていますので、あらゆる御要望に応えられる、それも高いレベルで、というそういう組織を目指したいと思っています。幸いいろいろな任務を頂きますが、一応、予算がちゃんと付いている状況で依頼されていますので、何とか対応できると思いますが、栁澤局長、それでいいですか。

○国立国際医療研究センター栁澤事務局長
 不採算といいますか、いろいろなものをやらなければいけないわけですが、一部やはり不採算で運営費交付金をきちんといただいているものと、あるいは補助金でも実際の財政事情は厳しいので、本来、救命救急センターのような民間病院では補助金をもらえているような部分について、補助金をもらえていないなど、そういう必ずしも官民イコールフィッティングになっていないような財政事情もあって、経営的にも非常に厳しい部分が一部あるということはあります。

○祖父江部会長
 その中で非常にレベル高くやっておられるというのは、本当にすばらしいなと思っています。研究のレベルもすごく、満屋先生から伺いましたが、毎回、非常に感銘を受けていますが、どこまで広げるのかというのを、いつもちょっと気にしています。すみません、特殊な質問をしまして、ありがとうございました。
 ほかにはいかがでしょうか。

○医政局研究開発振興課国立高度専門医療研究センター支援太田室長補佐
 先生、すみません。最後の業務運営の効率化のほうの御説明を。

○祖父江部会長
 そこでまたもう1回、よろしくお願いします。いいですか、次のところに移って。では次のところに移ります。またもう1回、戻りますので、もし何か御質問があればそこでしていただけたらと思います。評価項目の2-1から4-1、「業務運営の効率化、財務内容の改善及びその他業務運営に関する事項」ということで、これは説明は5分となっていますが、ちょっと手短にお願いします。

○国立国際医療研究センター栁澤事務局長
 時間が押していますので、簡潔に御説明させていただきます。70ページをお開きください。業務運営の効率化です。私どもの課題は、経営改革、経営改善ですが、中期目標の内容については効率的な業務運営体制ということで、弾力的な組織再編。それから、経営の経常収支率の100%、後発医薬品の80%という形になっています。
 具体的には、73ページをお開きください。中段に経営再建計画の策定とあります。その下に昨年度の経常収支を書いていますが、平成27年度から3か年で15億円くらい毎年赤字でした。その上のグラフにありますように、30年度については5億円ほど改善をしているということです。加えて、今年度第1四半期ですが、経常収支の累計は、4月から6月までの3か月だけで、対前年度で既に6億円を改善している形になっています。
 具体的に何をやってきたかということですが、72ページをお開きください。今まで独法会計基準のセグメントで収支を行ってきましたが、やはりセンター病院、国府台病院、看護大学校、研究所がそれぞれ収支を明確にしなくてはいけないと思いまして、それぞれの収支の明確化をして、それから誰の責任でこの経営改善をするかということを明確にしています。医療需要を踏まえた病床再編ということで、やはり病床利用率の悪い病棟、これはいきなり病棟集約するわけではなく、長年、医療需要がない、必ずしも十分でないという所については、集約をして病床効率を高める。そして人員の配置の効率化を図るということで行っています。
 3ですが、平均在日数をどんどん短くするということだけではなく、やはり地域連携、新たに連携をして必要な患者さんに入院していただくというような取組が非常に進んだのかなと思います。
 4、手術件数の増による診療収益ということで、右側の表にありますが、手術件数は29年度から30年度にかなり右肩上がりで、14%ぐらい上がって約6,000件。今年度に至っては、更に急激な角度で上がっていますが、手術件数の増とそれに従う入院患者の点数の増というものになっています。
 73ページをお開きください。やはりNCGM、国際医療研究センター病院だけで見るのではなく、ほかの設置主体とよく比較検討をして、同規模、同機能の病院と比較して、人員が適切なのかどうかということを様々に検証して、必要な人員の配置を行っています。先ほど、祖父江先生からお話もありましたが、やはり官民イコールフィッティングの観点から、本来もらうべき補助金については、しっかりと補助金を頂いて財務体質を強化していかなければいけないということ。収支改善の行程の明確化ですが、いつまでにどこまで具体的に経営を、どういう手法で行っていくかということを明確化しています。
 9番ですが、経営再建計画の策定です。病院をつくってから、かなり医療機器とか更新がなかなかされていません。1回、こういったものをしっかりと更新をしていくために、どの程度の経営改善が必要なのか、そのためにどのくらいの資金が必要なのかということを明確化して、5年間の経営再建計画をつくって、今、順次実施しています。
 電子化の推進についてはここに書いてありますが、業務の効率化ということで、手術室においてはバーコードを活用した、今まで手入力していた医療材料をバーコードを活用して、そのまま電子カルテに入っていくというようなもの。それから情報セキュリティについては、不審メールブロックの設定を強化して、昨年度まで月3万件程度だったブロック数を10万件ぐらいに引き上げているということです。
 74ページ、中長期目標の内容ですが、[1]自己収入の増加、[2]資産及び負債の管理です。75ページにありますように、自己収入の増加については診療収入はもとより、寄附金、右側の表にありますが、特に競争的資金については爆発的に伸びて確保しています。受託研究、治験、いずれもしっかりと右肩上がりでやれているのかなと思っています。75ページの下段にありますが、資産及び負債の管理に関する事項です。財政投融資の長期借入金についても、27年度には207億だったものが174億円ということで、約16%ぐらい借金を減らしてきていますので、基礎的な財務体質の改善を図っているのではないかと思っています。
 最後ですが、76ページです。エイズの和解に基づく対応です。77ページにありますように、定期検診の実施、和解時の確認事項等に基づく検診を実施しています。特に2の個別支援医療の実施ということで、PMDAで収集した患者の診療データを活用して、個別支援を行っています。平成30年度は、原告患者150例のデータチェックを行って、介入が必要と思われる36例に関して、現地医療機関との連携を実施し、質の高い医療が受けられるよう努力しています。
 全体としては、駆け足でしたが、そのような取組によりまして、例えば70ページは、過去、業務運営の効率化についてはB評価でした。先ほど御説明したように、定量的には必ずしも100%にいっていませんが、昨年度5億円改善していますし、今年度の第1四半期だけで既に6億円も改善しているということは、定量的というよりも定性的に様々な取組をして、こういった意識改革や行程表を明確化したことによって顕著に改善を行っていますので、30年度にしっかりと改善すべき根本ができていると認識しています。そういった観点で、自己評価Aとさせていただいています。以上です。

○祖父江部会長
 どうもありがとうございました。それでは、いかがでしょうか。何か御質問はありますか。

○福井部会長代理
 病床稼動率は何パーセントでしょうか、ちょっと見つけられなくて。

○国立国際医療研究センター栁澤事務局長
 ここにないのですが、平成30年度は78%でした、センター病院ですが。今年度は、大体、今、90%ぐらいまで上がっています。

○福井部会長代理
 すごい上がりようですね。

○国立国際医療研究センター栁澤事務局長
 その1つは、先ほど御説明しました個室です。私ども、13階から16階まで有料個室を持っていましたが、個室の病床利用率が必ずしも高くないということで、結核病床とユニット化したり、それから毎日、今ベッドコントロールをしっかりやっています。そういった観点で、それから地域連携に力を入れていますので、そういったもので段々上がってきて、今日現在では90%ぐらいいっているということです。

○藤川委員
 前に比べると、かなりの改善が見られるということですし、今年度に入ってからは皆さん5月は連休でかなり苦戦されたというところが多い中でも、更に改善しているということで頑張っていらっしゃるのかと思うのです。しかしながら、どこの病院も苦労して同じような施策をされているということからすると、改善はあるけれどもBかなという印象はなくもないですが、皆さん頑張られたなということは評価はしたいと思います。

○祖父江部会長
 いいですか、これを拝見しますと今年に入って、手術件数が急激に伸びています。今までは、5,100から5,200前後が5,900という、この伸びは驚異的だと思うのですが、これは何か特別なことがありましたか。

○国立国際医療研究センター杉山病院長 
 以前から全麻手術も増えてはいるのですが、ここに来て増えているのが、やはり眼科手術などが増えています。

○国立国際医療研究センター國土理事長
 それとやはり外科系の診療科スタッフを強化しましたので、全体としても手術数が増えていると思います。緊急手術もかなり多いです。それから麻酔科ですね、麻酔科の人員も。全体にそういう意味で、底上げされていると思います。

○祖父江部会長
 いろいろな要因が、今年になって集約されてきたということでしょうか。

○福井部会長代理
 手術室は何室あるのですか。

○国立国際医療研究センター國土理事長
 14、15です。

○福井部会長代理
 15。病床数に比して、5,000件というのは少ないですね。

○国立国際医療研究センター國土理事長
 14です。

○福井部会長代理
 14、そうですか。一般的に病床数からいうと、手術の数はちょっと少ないのかと思われますが。

○国立国際医療研究センター國土理事長
 従来そうだったと思います。内科が強い病院と思われていた時期もあったと聞いています。今は、外科も強化しているということだと思います。

○祖父江部会長
 いいですか、どうもありがとうございました。時間が迫ってきましたので、これでこのセッションを終わりにしたいと思います。
 それでは、最後になりますが、全体を通して何か前に戻っての御質問などが、もしあればと思いますが、いいですか。
 では最後に、法人の理事長と監事からステイトメントを頂きたいと思いますが、まず法人の監事から監査報告書について御説明いただけたらと思います。よろしくお願いいたします。

○国立国際医療研究センター水嶋監事
 私ども監事の平成30年度の監査報告は、資料2-4に添付されているところです。報告書の内容全般は昨年とほぼ同じで、本年度も監査の結果においては特に重大な指摘事項等はありません。
 財務上の課題について少々付け加えさせていただきます。当法人は独法化以降、平成30年度までの9年間で、110億円を超える欠損金が累積してきています。これは冒頭に理事長からお話があったことですが、欠損金の解消が経営上の課題の1つとなっています。先ほど、業務運営の効率化のところで、今年度は経営改善の施策が一部功を奏し、当年度の欠損金は9.5億円(最終損益)と、昨年度までと比較して大幅に減少をしてきています。この改善傾向は本年度に入っても継続しています。月次の経常収支の面でも大変明るい兆しが出てきており、監事としては安心をしているところです。引き続き経営改善の諸施策の進捗状況を注視していきたいと思っています。簡単ですが、監事からの報告は以上です。

○祖父江部会長
 どうもありがとうございました。いかがでしょうか。大体、今、まとめていただいた印象かなという感じはしていますが、よろしいですか。
 それでは、最後に國土理事長から一言よろしくお願いいたします。

○国立国際医療研究センター國土理事長
 本日は、長時間に渡り私どものセンターの評価を頂きまして、大変ありがとうございました。途中でちょっと発言しましたが、私どもは感染症その他あらゆる疾患に対応できる総合病院を目指すということと、国際医療協力、それに関するいろいろな研究をやるということで、確かに幅広い活動をさせていただいています。これからも経営改善に留意しながら、できるだけNCとしてと言いますか、国として必要なあらゆる医療政策に対応できるナショナルセンターを目指したいと思っています。
 現在、オン・ゴーイングである在り方委員会からの提言に基づく、いろいろなナショセンの共通化できる部分については、バイオバンク、疾患レジストリ、あるいは電子カルテの問題、知財の問題、広報の問題、いろいろ今、検討が始まっていますので、私どももその中で中心的に頑張りたいと思っています。本日はありがとうございました。

○祖父江部会長
 ありがとうございました。それでは、これで終わりたいと思います。

○医政局研究開発振興課国立高度専門医療研究センター支援室太田室長補佐
 17時再開で。

○祖父江部会長
 7分休憩いたします。どうもありがとうございました。

(国立国際医療研究センター退室)
(国立成育医療研究センター入室)

○祖父江部会長
 今日は、大変暑い中をおいでいただきまして、どうもありがとうございます。ただいまから、国立成育医療研究センターの平成30年度業務実績評価について御議論をお願いしたいと思います。初めに、理事長のほうから一言御挨拶をお願いしたいと思います。

○国立成育医療研究センター五十嵐理事長
 座ったままで失礼いたします。今日は高度専門医療研究評価部会で説明する機会をいただきまして、誠にありがとうございます。当センターは、周産期、小児期の高度先進医療と、それに関係する研究を推進することを第一の目的とする機関でございます。
 周産期のほうは、婦人科の疾患に対しては少し弱いところがありますが、小児疾患の全てに対応できる、そういう意味では我が国唯一の医療機関であると言えると思います。研究機関では、小児がん、アレルギー疾患、希少未診断疾患の遺伝子診断、インプリンティング異常による疾患の原因究明などの再生医療の基礎的な研究、こういう点で世界的な研究成果を上げていると言えると思います。
 臨床部門では、後で説明いたしますが、胎児治療、遺伝子治療、肝臓・小腸移植、これは私どもが非常に得意とするところだと思います。それから、小児がんの患者さんの入院数は、小児がんの拠点病院の事業が始まってから日本一の数になっておりまして、入院患者は常に50~60人ぐらい、骨髄移植も年間40例以上で、成功率は非常に高く、これも日本一です。それから、小児がんの中央病理診断を私どもの施設が行っています。血液がんが1,000人、固形がんが1,000人、合計して年間約2,000人の患者さんが小児期に発症し、その全てを私どもの施設が病理診断を担当しております。
 昨年からはAIホスピタルの事業にも参画して、将来の新しい病院の在り方について、研究あるいは実証試験をやっているところです。そのほか、小児特有の問題としては、治験が非常に遅れているのが小児の領域ですが、小児治験ネットワーク事業を介して小児の治験を推進しております。子供は事故で亡くなることが多いのですが、事故に関する医療機関ネットワーク事業への、子供の事故のデータを大量に供給しています。昨年12月に成育基本法が成立しましたが、この成立にも貢献をしております。このような活動が米国の調査機関から評価されて、3年前ですが、成育医療研究センターは「世界で最も技術的に先進的な30の小児病院」の第18位に選ばれております。米国が24施設で、6医療施設が米国以外の国の医療機関です。これらの活動はほとんどバイオロジカルな研究・医療です。人間はバイオ・サイコ・ソーシャルな存在です。3つの視点から、子供あるいは若年成人、女性、妊婦さん等を支援することが足りておりません。
 それから、医療が進歩して、生命は助かったけれども、障害が残ったまま大人になっていく子供たちもたくさんおります。その患者さんの中には在宅医療をしています。在宅医療の子どものお母さんを支援するために、4年前から「もみじの家」事業も始めたところです。私どもの活動に関して、本日は十分に御批判、御指摘を頂きたく存じます。どうぞよろしくお願いいたします。

○祖父江部会長
 どうもありがとうございました。それでは、評価項目1-1及び1-2の「研究開発の成果の最大化に関する事項」に係る業務実績及び自己評価について、議論したいと思います。まずはセンターのほうから15分間御説明いただくということで、よろしくお願いいたします。

○国立成育医療研究センター松原理事
 よろしくお願いいたします。まず、評価項目1-1につきまして、私、松原のほうから御説明いたします。お手元の説明資料の5ページを御覧ください。この評価項目1-1については自己評価Sを付けました。昨年度にSの評価を頂いたのですが、私どもとしては今年もそれに匹敵する研究成果があったと考えていますので、自己評価をSとさせていただきました。
 次の6ページを御覧ください。まず、定量的指標ですが、1番の「医療に大きく貢献する研究成果」としては3つの研究を挙げさせていただきました。具体的には後で説明します。目標に比べて150%となっております。それから、原著論文発表数は、昨年度はちょうど400本ありました。これは目標と比べると達成率が100.5%ですが、上の棒グラフを見ていただくと分かるように、毎年右肩上がりでどんどん伸びてきております。主に英文論文がたくさん伸びていて、研究も発表数も順調に増えていることがお分かりいただけると思います。
 具体的な成果について、7ページ以降を説明いたします。7ページを御覧ください。まず最初は、小児急性リンパ性白血病における抗がん剤によるオーダーメード医療の手法を確立したことを挙げました。そこの下に書いてありますが、小児急性リンパ性白血病では「6-メルカプトプリン」という薬剤を多く用います。この薬に関しては、効果の出方あるいは副作用の出方に非常に大きな個人差があることは昔から知られておりました。以前はTPMTという遺伝子多型によってその差が起こると考えられていたのですが、日本人の患者さんでは、必ずしもそれだけでは説明がつかないという方がたくさんおられました。2016年になりますが、私たちのセンターも交えた国際共同研究で、NUDT15という遺伝子の多型もこの個人差に関与していることを特定しました。それを受けまして、当該年度では、このNUDT15遺伝子の多型の正確な解析法をまず確立しました。これを論文に発表しております。それとともに、遺伝子多型を指標とした適切な投与量の推定について、国際的なガイドラインにも掲載されることになりました。それを受けて、国内でもこれが保険適用になるということで、非常に早いテンポで進むことができました。薬剤の使用に当たってのオーダーメード医療を確立したということで、私たちのセンターの大きな研究成果としてまず挙げさせていただきました。
 8ページを御覧ください。2番目は、妊娠マウスへの特殊な抗体を投与する研究による根本的なアレルギー疾患の予防法を開発したことを挙げました。御存じのように、アレルギー疾患というのは非常に数が多いですし、特に小児では、近年では食物アレルギーが非常に増えていることが臨床の現場では大きな問題となってきております。これについては成育でいろいろ研究を進めておりますが、当該年度での研究として、抗IgE抗体を妊娠マウスに投与することによって、生まれてくる子供の抗IgE抗体の産生が長期間抑制されることが明らかになりました。ということで、生まれてくる子はアレルギー疾患を発症しないということになりますので、アレルギー疾患の根本的な発症予防となり得る研究ではないかと思います。この抗IgE抗体そのものは、実は重症の喘息の妊婦さんなどで既に安全に使われている薬ですので、臨床試験あるいは臨床研究については安全に行えるのではないかということで、現在、臨床研究の実施を検討しています。これが2番目の件です。
 9ページを御覧ください。3番目の特筆すべき研究として挙げたのが、エコチル調査のパイロット調査に参加している子供が家庭で使用する寝具から、鶏卵アレルゲンを100%検出したことです。この「エコチル調査」というのは、環境省が主体となって子供の健康と環境に関する全国調査を行っているもので、成育が大きな役割を担っております。当該年度、私たちのほうでは、子供の使っている寝具に卵のアレルゲンがたくさんあることを見出しました。従来、アレルギーの原因として非常に悪者扱いされてきたダニのアレルゲンよりも極めて高濃度にあることが分かりました。以前より成育では卵アレルギーのことを研究し、予防法も開発してきておりますが、皮膚から卵のアレルゲンが侵入することによって、現在の食物アレルギーをたくさん引き起こしているのではないかと推察される次第です。これを第3番目の業績として挙げさせていただきました。
 それ以外にも業績はございます。10ページを御覧ください。希少・未診断疾患イニシアチブにおいて、原因不明の神経難病の原因を解明したとあります。数年前から成育が中心的な役割を担うAMEDのプロジェクトとして、小児希少・未診断疾患イニシアチブ(IRUD-P)というものが動いております。これは全国の病院から送られて来る、全く診断のつかない症例を次世代シーケンスを使って診断をつけるという事業です。当該年度は、全国から送られて来た、あるいは成育にかかっている患者さん、948例に対して全遺伝子シーケンスを中心とした解析によって、37.1%に診断をつけることができました。逆にいえば、63%の診断がついていないのですが、今のところ予算も限りがありますので、ショートリードシーケンサーによるエクストリーム解析だけで診断を進めております。診断がつかなかった63%の中には、ロングリードシーケンスをやったり、それから、全ゲノム解析をやることで診断がつく症例が恐らくたくさん隠れていると考えております。今年度になりますが、成育でもロングリードシーケンサーを入れて、更に診断率の向上に努めていきたいと考えております。このプロジェクトの中で、今回、新しい原因不明の神経難病の原因遺伝子を発見しました。ゼブラフィッシュを使って、実際に神経軸索の発達、それから輸送に異常があることを証明しました。
 11ページを御覧ください。11ページでを示したのは、成育疾患の分子基盤解明として、新規インプリンティング疾患の発見、疾患原因遺伝子の解明、バイオマーカーの開発といったものを挙げました。そこに患者さんの写真がありますが、20番染色体母性片親性ダイソミー症候群という、新規インプリンティング疾患を成育で発見したという報告です。真ん中に雑誌の表紙が出ておりますが、これは、STX2遺伝子異常が精子の成熟停止を招くことを発見したという研究報告です。この研究がこの雑誌のカバーの図に取り上げられたということでお示ししております。それ以外にも、右下にありますが、これはステロイドですが、11ケトテストステロン測定が多嚢胞性卵巣症候群患者の診断にバイオマーカーとして使えることを発見しました。
 12ページを御覧ください。評価項目1-1の最後になります。CPT2欠損症が新生児マススクリーニングの正規対象疾患として全国での実施がスタートしましたが、これに成育センターの貢献が大きかったということで取り上げさせていただきました。左下の図を御覧ください。これは乳幼児の急死例のうち、その後の検索によって先天代謝異常症が判明した例を挙げています。これは成育のマススクリーニング研究室が中心となってまとめたものですが、御覧いただくと分かりますように、ピンク色で示したCPT2欠損症という病気が非常に多いことが分かりました。主に患者さんは風邪をひいていたり、あるいはインフルエンザにかかっていて、様子を見ているうちに急にお亡くなりになった患者さんです。このCPT2欠損症については、現在、日本で行われている新生児のマススクリーニングで、関連する代謝産物も測定しています。しかし、その判定基準が非常に難しいということで、これまではスクリーニングの対象となっておりませんでした。
 そこで、2016年に成育の研究室が中心となって、新しい指標を提唱しまして、これが有用性が高いことが分かりました。それを受けまして、昨年度は厚労省の母子保健課と一体となって、CPT2欠損症のマススクリーニングを全自治体で開始することに至りました。右下の図に棒グラフがありますが、未発症の患者さんが多く見つかってきており、突然死を未然に防ぐことができるようになりました。これに関しましては、成育のほうで診療ガイドラインに発展させたり、あるいは、患者さんが見付かった場合に、急に死亡するリスクがあることを担当のドクターに喚起するリーフレットを作成、配布することなども併せて行っております。以上、評価項目1-1について御説明させていただきました。

○国立成育医療研究センター斉藤臨床研究センター長
 続きまして、評価項目1-2、実用化を目指した研究・開発の推進及び基盤整備について、斉藤のほうから説明いたします。研究を医療へつなげる臨床研究、あるいは治験等を中心に説明いたします。13ページには、目標と、それから実績を比較した数字を載せています。こちらのほうは、前年度に比べて多少下回っているものもありますが、これまで4年間の推移、それから、後で説明します定性的指標等の具合から、自己評価を去年と同じSとしております。
 14ページに移ります。具体的な数字をお示しさせていただきます。共同・受託研究数は155件と、去年を上回っております。職務発明委員会審査の件数については9件で、昨年度よりは少なくなっておりますが、それなりの数を出しております。それから、First in Human/First in Child試験実施数のほうは、プロトコールを作成して治験を開始したということで、100%の達成率となっております。医師主導治験についても4件ありまして、その下に小さく書いてありますが、HAES移植治療、胎内ガンマグログリン治療、これは後ほど御説明させていただきますが、それから、ヘリウム・酸素混合ガスを使ったもの、ピリドキサミンを使ったものということで、実施を始めております。
 15ページを御覧ください。先進医療の承認件数は、平成30年度は残念ながら0でした。臨床研究の実施数として314件ということで、300件を超える実績となっています。右上は治験ですが、治験のほうも順調に伸びていて、55件を数えました。ガイドラインへの採用件数については高い数字を継続しております。
 16ページを御覧ください。承認を取得できた案件について説明いたします。無心体双胎に対するラジオ波焼灼術の適応拡大・保険収載ということです。ラジオ波焼灼術は、元来は抗がん剤の治療として用いられておりましたが、これを応用して、無心体双胎に使用するとのことです。無心体双胎で、未治療の場合にポンプ児の生存率が4割だったものが、これらを実施することにより9割まで伸びるという実績がありましたので、これらをもって厚生労働省、PMDAに交渉して、試験の実施を考えました。企業からは、患者数が少ない、あるいは利益が少ないということで、協力を得られませんでしたので、公知申請の資料をまとめて、昨年7月に薬機法の承認を頂き、今年3月に保険収載となっています。これはいわゆるレギュラトリーサイエンスの成果と考えられるものです。
 17ページを御覧ください。医師主導治験の治験中の例をお示しします。新生児ヘモクロマトーシスに対する胎内ガンマグロブリン大量静注療法の医師主導治験です。これまでも何となく効いていたというようなデータがありましたが、これを世界で初めて治験で証明することを開始し、有効性を検証した世界初の試験です。日本血液製剤機構から製剤を頂き、医師会の研究費で研究をしています。8例のところ、現在は2例の登録が済み、1例は無事出産をされております。1例は現在継続中でして、3施設で実施をしておりますが、現在、ほかの施設からも参加の依頼があるような状況です。
 続きまして、18ページを御覧ください。小児治験ネットワークの最近の状況を御説明いたします。加盟数は平成30年度で43施設と、平成29年度から3施設増えております。現在も6施設から加入の申込みがありまして、どんどん増えている状況です。真ん中のグラフですが、治験を実施した数についても、青い所、11件が平成30年度の新規に実施した企業主導治験、28件が継続で実施している試験、211は実施総施設数です。これは延べの数です。これらのように、加盟施設の希望、それから、試験数がどんどん伸びていることは、受託側と委託側の両者に有益と判断されている結果と考えることができます。近年、このネットワークを使いまして、日本小児科学会と連携して医薬品開発の推進を進めており、最近では周産期・新生児医学会ともコラボレーションを始めて、新しい保険適用の取得を目指しています。以上でございます。

○祖父江部会長
 どうもありがとうございました。何か御質問等ございますでしょうか。

○中野委員
 ありがとうございます。小児科領域は非常に領域が広く、総合診療の分野ですので、先ほど御説明いただいた研究活動に関してもいろいろな分野にわたっておりまして、大変興味深く拝聴させていただきました。
 中でもちょっとお伺いしたいことは、きっと成人の薬剤開発やシーズのように1つの薬剤が画期的に高い値段が付いてどうということではなくて、common diseaseに対する診療という形で小児の研究開発というのは成り立っていくべきであるし、その中で実績を挙げられているので素晴らしいと思います。例えば、小児のALLは子どもの白血病の中で一番頻度が高いわけで、6MPなどというとても安いお薬ですが、個人差が小児ではすごくあるのも事実なので、この遺伝子多型が保険収載されたのは素晴らしいと思います。
 1点、ちょっと自分の興味もあってお伺いしたいのですが、先天代謝異常のスクリーニングにCPT2欠損症が2018年度から全国的に展開されて、きっと頻度が出てくると思うのですが、お示しいただいた表を拝見しますと結構な数あるのではないかという気がしています。実際、今後、個人の病状的に問題となる子供がどれぐらいの率でスクリーニングで上がってくるか、何か見込みというのは今考えておられますでしょうか。

○国立成育医療研究センター松原理事
 これは新生児マススクリーニング学会と共同で、関係の研究者とネットワークを作って調べていくことになっているのですが、実は自治体によっては、こういった数字を個人情報ということで外に出さない、問い合わせても一切答えないというところが結構あるのでなかなか難しい状況になってきています。実際、陽性と判断されても、それがどこかの医療機関にかかって本当にCPT2だったかどうかということを誰も調べていないし、実際、病院にかかったかどうかも分からない。それを聞いても自治体は明らかにしないというところが結構あるので、なかなか難しいという現状がございます。とても残念なのですが。

○中野委員
 では、別の観点から申し上げると、この成育医療研究センターが設定した数値でスクリーニングを掛ければ、知らない間にインフルエンザとかのときに亡くなっていた患者さんが、もっと早期にスクリーニングで見付かってくる可能性があるわけですね。

○国立成育医療研究センター松原理事
 そうですね。これはレトロスペクティブに、既に亡くなった患者さんの濾紙血とか、検体が残っているので、それで全部もう一度調べてカットオフ値を設定したのです。ですから、これでまずほとんど間違いなく拾い上げられるだろうし、フォールス・ポジティブも少ないだろうというところで設定しています。

○中野委員
 どうもありがとうございました。

○深見委員
 関連質問なのですが、CPT2の欠損症でこういった患者さんが急死するリスクというものをある程度軽減できる、未然に防げるという先ほどのお話だったと思います。防ぎ得るというのは低血糖であるからということで、低血糖ということをなくすという意味でリスクが下げられるという意味ですか。

○国立成育医療研究センター松原理事
 実は、患者さんの中で起こっている代謝は低血糖だけではないのです。いわゆる普通の臨床検査では低血糖という形で拾い上げるのですが、カルニチンの代謝、それからいろいろなアシルカルニチンの細胞内の代謝が全部おかしくなっていって、エネルギー産生ができないのです。血糖以外にも脂肪とか、いろいろエネルギーのソースがあるのですが、そのどこからもエネルギーが供給できないということで、エネルギーが全く供給されず、突然亡くなるという状況です。それが普通の状況だったら起きないのですが、風邪をひいたりインフルエンザになったときに、非常に代謝が亢進したときにそれが前面に出てきてしまってということなのです。

○深見委員
 そういう患者さんに対しては、何らかのそういう補充をするという理解ですね。

○国立成育医療研究センター松原理事
 そうです。ですから、特に、感染症を起こしたときにはやはり食欲が落ちたりしますけれども、そうなったときは何らかの形で、特にグルコースを中心にしたものを補って補液をするとか、そういったことを早目早目にやっていくことで命を救えるということは、もう既に過去のいろいろな症例から明らかになってきております。

○深見委員
 もう1つですが、NUDT15の遺伝子の多型というところ、とても面白いなと思って伺いました。まず確認は、この遺伝子というのは薬物代謝酵素でしょうか。

○国立成育医療研究センター松原理事
 そうです。

○深見委員
 薬物代謝酵素だから、それの多型によって酵素の活性が落ちて、逆ですかね、減量だから、代謝して効くのかどうかちょっとよく分かりませんけれども、酵素の活性に影響を与える部位があったという、そういうことでよろしいでしょうか。

○国立成育医療研究センター松原理事
 確かそうだったと思います。この酵素の酵素活性が落ちていると薬が効き過ぎて副作用が出てしまいます。

○深見委員
 多型というのは昨年度、2018年度にやった成果としてはこの解析法を確立したということになるわけですけれども、多型があったということは2017年度、2016年度に報告しているのですけれども、昨年度の成果としては、その解析法として、例えば何箇所かあるような多型というもののそこの部分をきちんと解析することによって予測ができるようになったという理解でよろしいですか。

○国立成育医療研究センター松原理事
 そうです。その通りです。臨床的に、基礎的な研究で分かったものが実際の患者さんに使えるレベルにまで持ってきたということです。

○祖父江部会長
 ほかにはいかがでしょうか。

○福井部会長代理
 毎年、大変興味深い研究成果が出ていて素晴らしいと思います。1点だけ伺います。抗IgE抗体の研究ですが、1年ぐらい前にはもう結果が分かっていて、これを臨床研究に持っていくのに、今、検討中というのはちょっと遅いのではないかと思います。もう少し早く臨床研究に移すことはできないのでしょうか。

○国立成育医療研究センター松原理事
 これは確か倫理委員会でもいろいろと議論があったりとか、実際の患者さんのリクルートのことであるとか、そういうことを考えるとなかなかやはり。あとは研究を進めるための資金の調達であるとか、そういったところで外部の方にも助けていただいていろいろやっているところです。やるつもりではいるのですが少し延び延びになっているというところがございます。是非進めたい研究でございます。

○中野委員
 先ほど福井先生が御質問されたこと、私も大分興味があったので別の観点からお尋ね申し上げたかったのです。素晴らしい御研究だと思いますし、私が思ったのは、研究としてどう実施するかというところで時間が掛かっておられる理由は、IgEが高いなりアレルギーを有するのは妊婦だし、この薬剤投与によって効果を期待するのは胎児、これから生まれてくる子供でありますし、そこでの位置付けはすごく難しいような気がします。これを新しい適応病名を取るための新薬としての臨床治験としてやるのか、あるいは臨床研究法に基づいた特定臨床研究として実施するのか、新しい効能効果、何か結構難しい点があるのではないかなとこれを拝見しながら思っていました。今、どういうような方法でこれを進めておられるかというプランがもしあるなら、拝聴したいなと思って質問させていただきました。

○国立成育医療研究センター松原理事
 申し訳ありません。私自身、余り詳細なところまで把握し切れておりません。確かに今御指摘のあったところは非常に大きなポイントで、なかなか周りの方を説得していくのは難しいというところも一つ大きな障壁になってきています。

○中野委員
 ありがとうございます。小児科領域というところできっと付いて回る問題だと思うのですが、そこをお伺いしたくてお尋ねしました。ありがとうございます。

○祖父江部会長
 ありがとうございます。1つ、これはこの間のプレのときにお聞きして、今日、ちょっとそのお答えを頂いたような気がしたのですが、例のIRUD-Pの、次世代シーケンサーでショートリードでやっておられるということですので、ロングリードで読むと例えばnon-coding regionのエクスパンションなども今後出てくる可能性があるというのはこの間ちょっと議論させていただきました。そうすると、原因到達率がもうちょっと上がるのではないかと思いますけれども、これはどうなのでしょうか。今までのナショナルセンターのいろいろな議論を聞いていても、こういうゲノム関係のところは、現状では、それぞれのナショナルセンターがゲノムセンターをお持ちになって、そこで解析をやっているという状況が今のところは続いているのです。これは在り方委員会で大分議論した内容でもあるのですが、今後はできれば6ナショセンで何か横断的、あるいはセンター的に、ゲノムのロングリードなども含めてやれる体制を作れないかということは、いかがですか。クリニカルな情報とかほかのバイオリソースなどは個別のものとして理解できると思うのですが、ゲノムなどは非常にcommonにやれるのではないかと思うのですが、その辺の先生のお考えはいかがでしょうか。

○国立成育医療研究センター松原理事
 私の個人的意見になりますけれども、はっきり言ってナショセンだけでなく、全国の大学も全部含めて、日本に1箇所センターがあれば済むことなのです。Genomics Englandなどは全部それにしていまして、エクソームなんてまどろっこしいことをやっていなくて、全ゲノムで全てやって、1箇所でできるんですね。日本の場合は、そういう施設ごとの違いもありますし、それから、ファンディングソースが要するに厚生労働省であったり文部科学省であったり経済産業省であったり、しかも厚生労働省の中でもがんと難病が全く別々なのです。これをまとめて、試薬を買って機械を買えば、恐らく今のコストの数分の1になるのですけれども、全部細分化されているために、非常に高いコストで、使っている機械は全部アメリカの同じ機械なので、そういう非常に無駄なことを日本のゲノム研究はやっていると思います。これはナショセンだけの問題ではなくて、各大学もみんな次世代シーケンサーを買っているのですがほとんどの時間遊んでいるのです。機械ばかり買って、非常に無駄です。

○祖父江部会長
 非常に無駄ですね。それを是非、ナショセンからまずやっていただくといいかなという気はします。先生がおっしゃるように、最終的にはどこかに非常に大きなセンターを作るという形になるのが一番ベストだと思いますが。

○国立成育医療研究センター松原理事
 先生のおっしゃるとおりだと思います。

○祖父江部会長
 よろしくお願いします。ほかにはいかがでしょうか。何かございますでしょうか。大体いいですか。あと、小児の治験ネットワークを介したというような、こういう話もございましたけれども、よろしいですか。それでは、また後で戻ることもできますので、次に進ませていただきます。
 次は評価項目の1-3から1-5、「医療の提供等、その他の業務の質の向上に関する事項」です。これもセンターから15分でお話いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

○国立成育医療研究センター賀藤病院長
 賀藤から説明させていただきます。19ページからです。前もって挙げていた項目とその目標数は一応全部達成しておりますし、そのほか均てん化にも大きく貢献したということで、自己評価としてはSを今回も付けさせていただいております。
 20ページを御覧ください。ここには定量的指標として先天性免疫不全、これは慢性肉芽腫症ですが、昨年これを遺伝子治療をやっています。次は出生前遺伝学的診断(NIPT)ですが、これは昨年1,267件、内容としては、成育医療センターにはきちんと遺伝カウンセルのドクターがたくさんいますので、きちんと遺伝カウンセルをしながら、医療安全、かつ、遺伝に関してはカウンセリングをきちんとしたNIPTということになります。
 次に肝臓移植ですが、これは昨年も51件ということで、残念ながら1例を失っておりますが、ただそれでも成績は世界で1番ということになります。
 医療安全および感染対策研修会は10件ということで、今一番大きな問題は医療安全感染対策、ほとんどの病院の職員が聞くことになりましたのでちょっと会場が手一杯で、いろいろな工夫をしている最中です。
 次、21ページです。骨髄移植実施件数は、昨年度は全部で40件でした。少し増えているのがやはり免疫不全症、これは慢性肉芽腫症とかそのほかコンバインドのものもありますが、免疫不全症もやっています。あと、やはり特徴としては慢性活動性EBウイルス感染症の骨髄移植もやっているということだろうと思います。いわゆる免疫不全もそうですが、体の中に僅かながらでも感染症がある患者さんの骨髄移植をやっている、それをほぼ成功させているというところが一番の特徴だろうと思います。
 小腸移植ですが、昨年の4月から保険適用になり、小児の小腸移植2例をやりまして、2例とも生存しております。腎臓移植も少しずつですが増えており、昨年は7件、今年は昨年以上のペースで増えていっています。
 あと、消化器内視鏡検査という検査を挙げさせていただきましたが、これはなぜかと申しますと、食べているものが欧米化、白人と似てきているのかもしれませんが、小児におけるクローン病、潰瘍性大腸炎を中心とした炎症性腸疾患がものすごい勢いで子供の間で増えている。特に乳児期も増えています。そういうことで内視鏡の検査をやっておりまして、昨年度の件数は500件以上やっておりますが、国内で最多で、これはほかの各病院からの小児の内視鏡検査の研修を受け入れはじめています。
 22ページからは均てん化というところで御説明したいと思います。まず、22ページは発達性読み書き障害(ディスレクシア)、これはここに書きましたように、いわゆる、私どもは小さいときに小学校で国語の時間に立って文章を読めということがありましたが、あれが読めないという子が結構いたかと思います。それは病気だった、学習障害の1つだったということが最近分かって、その割合が今50人に1人、大変大きな割合であることが分かりました。それに対して、今、就学前からアプリを利用して、お母さんにきちんと訓練してもらうと、約9割の患者で症状が寛解して、3、4割の患者では中学校から自分の希望する高校に進学が可能になってくる、劇的な効果が出てくるということを私どものチームが行いました。ということで、大変たくさんの割合で患者さんがいるということが分かりましたので、その外来を始めたのですが、その外来に今、各地域からたくさんのドクターの方が見えて外来を見学又は勉強しに来ております。少しずつですが、各地域にこの読み書き障害という専門外来が設けられ始めております。
 あと、特記すべきは、やはり地域の教育委員会とのコラボが始まりまして、就学前健診にこれをきちんと取り入れていく。世田谷区は取り入れて、都の教育委員会も取り入れ始めたということで、そういうことをやっております。
 次に23ページです。ちょっと聞き慣れないのですけれども、形成外科がやっております頭蓋変形、特に変形性斜頸という病気がございます。これはいわゆる乳児突然死症候群の予防のため、いわゆるうつ伏せ寝は駄目で、仰向け寝をしましょうということが推奨されているのですが、その結果、これが増えてきたのではないかと言われています。この病気は、就学齢までの運動・言語・認知の遅れを高率に認めるということもあり、あとはどうしても頭蓋縫合早期の癒合症との鑑別が必要ということで、早期発見、早期治療が必要だということになっています。
 これは2013年、欧米ではヘルメットを利用して矯正していくということがあったのですが、それがなかったものですから、成育医療研究センターで2013年に一応申請して、臨床試験を行いながらやっと2018年4月に保険適用に持っていったというものです。ということで、このヘルメットを利用した頭蓋変形性斜頸の治療が保険適用になりましたので、今年度からいろいろなところの施設から形成外科、脳外科の先生が外来を見に来たりとか、いわゆるヘルメットの造り方を勉強しに来てくださいまして、今、少しずつですが各地域に広がっていっております。ですが、今後は保険適用でもう少しいわゆる医原性、医原性というのは超未熟児の子というのはどうしても頭の形が変形しやすいとか、あと胎生期からの頭の形というものの変形への保険適用を広げていきたいと思います。これも今年度、急に我々のところから各地域にヘルメット療法というものが広まっていったものです。
 次に24ページです。これは移行医療、トランジション外来というものを私どもは2015年から開設しました。これは小児期に亡くなる方は少なくなったのですが、では病気も治っているかというと、病気のほうは治っているように見えてもやはり長期に見ていけばいろいろな問題が出てくるということが分かりましたので、20歳、30歳、40歳になってもやはりフォローせざるを得ない患者さんが逆に増えてきたということです。いわゆる小児期に亡くなるとか、そういうことはないのですが、どうしても病気を持ちながら大人になっていくという患者さんが増えた。大人で言う高齢化と全く同じことが子どもで起こったということです。
 ところが、小児科医が全て大人になった患者さんを診ることができるかというと、大人特有の習慣性の病気とか、あと大人のがんとかが出てきた場合に私どもは対応できませんので、どうしても内科の先生方と協力していかなくてはいけないという状況が発生しております。ということで、年齢が来たから内科の先生に診てくださいといっても移行は絶対無理なので、移行するためには10年来のちゃんと準備期間が必要だと。あとは、やはり心理的なサポート、精神的なサポート、きちんとした就労支援というものも含めて移行外来をやっていかないと、どうしても内科のほうに移行できないということで、そのプログラムを作っていった。これは厚労省の移行支援モデルというもので応募して、それでもって御協力いただいて、ホームページも作りまして、アメリカのものを参考にしながら、このプログラムを今ホームページで開示している最中です。そのため、いろいろな活動をしながら、医療だけでなく精神的サポート、就労支援も行って移行外来をやっていますので、そのやり方というものをほかの地域の先生方から講演しに来てほしいと、あと外来見学という御希望があり、今、いろいろな所で少しずつ成育のやり方というものを広めている最中です。
 25ページです。これは先ほど理事長から御説明がございましたように、去年の秋から内閣府が公募しましたAIホスピタル事業に応募し採択されました。いわゆる小児病院、産科のある病院として、AIを用いてどういうような形で医師の業務、看護師の業務を減らして、かつ、効果的な医療をやっていくかという実証実験を今やっている最中です。特に小児において特有な問題、いわゆる痛みとか、あと小児においてどういうようにしてアセントを取る体制を整え、それをAIを使ってサポートできないか、自閉症や発達障害、先天性の症候群の診断支援とか、そういうものをやっておりますと同時に、今度は希少難病、特に小児悪性腫瘍の希少疾患の病理診断を何とかAIでやっていけないかということも、今、企業とコラボして実際にやっている最中です。
 26ページです。次は人材育成です。人材育成はAを付けさせていただきました。
 27ページ。臨床研究に関してはいろいろな臨床研究の講習会とか、いろいろなものをやっておりまして、昨年は60回を数えております。小児科の後期研修医の採用数ですが、前回14人ということで、13人から14人がうちの定員なのですが、ここにもちょっと書きましたが倍率は大抵2倍で、14人を採用しましたが、これは専門医機構のシーリングに東京都とかかっておりますので、1人減らせということになりましたので、1人お断りして13人にせざるを得ないという状況が生じております。多分、今度の採用ではもっと減らされるのだろうと思っておりますので、小児科後期研修医が成育ではなかなかしづらくなってきている状況があります。
 28ページです。リーダーとして活躍できる人材の育成です。特に、昨年度顕著なこととしては、初めて小児医療の外科医から若手を募って8名を選んで、ハンズオンのトレーニングをやったということだろうと思います。いわゆる臨床研究の仕方というものを徹底的に叩き込んで、あとは申請書の書き方まで、細々としたことを臨床研究センターの人たちと協力してトレーニングすることを始めました。そのお陰で今年度は平成30年度の文部科学研究費を取ることができたりとか、成育医療研究開発費を取れるというところまでやれることになりました。今年度も同じようなことをやって、きちんと臨床研究をやっていけるような若手の人材を育てていくということをハンズオンで、結構特訓なのですがやっています。あとは小児科学会、小児循環器学会、小児腎臓病学会等の学術集会においてはブースを出させていただいて、臨床研究のほかの先生方、ほかの施設の先生方の質問に答えるということをしております。そのほか、国際的にはいろいろな外国から見学に見えることがありますが、国際学会のほうには149演題を出して発表しております。CRC、特に小児病院のCRCはなかなかいないのですが、その育成を行っております。
 次に29ページです。最近はやはりいろいろ諸外国からの見学とか研修というもの、特にアジアからの研修が多くなってきまして、見学とかを含めると78名、臨床研修となると38名を国外から受け入れています。国内の施設からも医師の臨床研修を受け入れておりまして、どの診療科に受け入れているかをこのグラフで示しました。
 30ページですが、医療政策の推進等に係る事項というところ、ここは自己評価としてAを付けさせていただきました。
 31ページ、これも先ほど理事長の御説明にもございましたように、昨年の12月に成育基本法というものが成立しまして、その成立に至るまでの時間、大変長い期間が掛かったわけですが、理事長をはじめ、成育の先生方が一生懸命活動した結果だろうと思っております。
 32ページです。これは今に始まったことではないですが、なぜ今回挙げさせていただいたかというと、私どもの施設としては救急外来に来る事故、御存じのように小児の死亡原因の2位とか3位に入りますが、事故による死亡が大変多いことが世界的に見ても大きな日本の特徴です。救急外来における事故のデータを収集して、そのデータを消費者庁と国民生活センター、厚生労働省、あとひどい場合は日本小児科学会へ報告するということをずっと長年やってまいりました。2010年、これは2010年から消費者庁の医療機関ネットワーク事業が始まって、2年間はそのうちの大体7割ぐらい、65%が政府からの報告例で占めてしまったということがあります。その後、強調しなければいけないのは、個人情報保護法が施行されてからネットワークに加盟する病院がだんだん減ってきました。いわゆる、了解を得ないと報告できないものですから、それでも成育は頑張ってきて、何とか、今、逆に増やしている状況で、またこのパーセンテージが今増えている状況です。そのほか、ほかの事故等もやって、いろいろそういうところが消費者庁や国民生活センターに評価されて、今年度ですが内閣総理大臣賞を頂いております。今後もやはり事故防止、製品、商業的な製品が原因で小児の事故という思わぬことが起こりますので、大変重要なものと考えており、これは続けていきたいと考えております。
 33ページは緩和ケアですが、小児の緩和ケアというものを専門的にやっている所はまだございません。いわゆる、大人の緩和ケアチームが子どもを診ているのがほとんどだろうと思います。小児ではがん患者だけではなくて、がん以外の子どもたちの緩和ケアも行っていることも大きな特徴だろうと思います。2017年度に初めて緩和ケアというものを作って、昨年になりますが、実際に診療を開始して加算を取るようにしました。初めて「もみじの家」で小児の緩和ケアをやったということが今年度の特徴だろうと思っております。今後は、まだまだ小児の緩和ケアにおける質の評価尺度がきちんとありませんので、そこら辺をきちんと研究していって、小児の緩和ケアの在り方について今後きちんと、もう少し詳しくやっていかなくてはいけないと思っております。
 34ページは「もみじの家」です。「もみじの家」はお陰様を持ちまして、だいぶ日本全国から認知されるようになりました。ところが「もみじの家」と同じような機能、同じような機能というのは何かというと、御希望のある患者さんを断らない、動く重心と言われる人でも断らない、かつ、レスパイトではなく、レスパイトというのもあれなのですが、預かるだけではなくて、きちんと日中も保育活動するようなシステム、医療は余り行いませんが、家で行っていることと同じような医療をきちんと継続するという施設がまだ「もみじの家」以外にできておりません。ですので、今、新しく「もみじの家」を御利用いただく場合は申し訳ないですが3年待ちという、大変現実に合わないようなことになってきました。ということで、もう少し各地域に広めたいということが切実になってきましたので、厚生労働省の障害福祉保健部と協力しながら、いわゆる福祉と医療の狭間みたいなところになりますが、保育活動への加算とか見守り加算とかいうことも含めた、施設を建てても赤字にならないようなシステムを今何とか考えている最中でございます。ただ、この施設においてはいろいろなところで評価を受けておりますので、赤字ですが何とか頑張っていきたいと思っております。以上です。

○祖父江部会長
 どうもありがとうございました。いかがでしょうか。今の御説明に対しまして、御質問、あるいはコメント等はございますでしょうか。

○斎藤委員
 すみません、よく理解できなかったのですが、読み書きのディスレクシアですか、これは何をなさったのかがよく分からなかったのですが、アプリのコンテンツを開発したということなのでしょうか。

○国立成育医療研究センター賀藤病院長 
 これはアプリを開発して、それで一つ一つの単語をきちんと読んでいけるようにする。目の動きと読むということが連続していかない子がほとんどなものですから、それを訓練していくということになります。そうして文章を読んでいくことを訓練していくと。

○斎藤委員
 そのメソッドを開発なさったと。ありがとうございます。

○祖父江部会長
 1つ、トランジション外来というのは非常に素晴らしいなと思います。まだ、ほかではやっていないですよね、先生の所だけで。

○国立成育医療研究センター賀藤病院長
 移行外来というものは、どういう形でどういう方法でやっていくかというのは、きちんとやっているのは残念ながらまだ数箇所だけだろうと思います。というのは、医師がやっていくものではなくて、ほぼ看護師が関わっていくものだろうと思っていますことと、あとは何を悩んで、今後どうしたいのかということと、あとは親と離れなければいけない、自立ということを促さなくてはいけません。いわゆる10歳になったらば親ではなくて、親は診察室に入らないで、御本人だけ来てねとか、あとは外来の予約の取り方とか、薬は何を飲んでいて、どういう効果があるとか、そういう教育もしなければいけないということになると、やはり1人1時間ぐらいかかる外来をやることになりますので、これは全然、診療報酬が付かないものですから、それにナースをそこに付けるというのは、なかなか広まらないだろうと思います。

○祖父江部会長
 小児とか周産期、あるいはもっと早くから起こった病気というのは、先生がおっしゃったように、むしろ成人の20、30、40代、あるいはその先になっていろいろ問題を起こしてくるということが結構ありますよね。ですから、時間軸で患者をずっとフォローするという考え方が非常に今後大事かなと思っておりますが、これは実際にやろうと思うとなかなか大変だなという感じもしています。
 先ほどちょっと先生もおっしゃったし、理事長さんもお話になったのですが、この成育基本法が、どちらかというと非常に小さい頃の話に見えるのですが、書いてあることが非常に抽象的に書いてあるので、具体的にこれをどうやって利用していくのかがよく分からないのです。
 例えばがん対策基本法などですと、これはがん拠点病院を全国に張り巡らせて、それで毎年がん登録をそれぞれがん特定機能病院でやっていただいて、それをずっとフォローしていくと。それで現在は確か100万例近くになって、日本全体のがんの実態を毎年把握できるという、そういう非常に重要なもっといろいろな基盤ができると思うのですが、この基本法を読むと、必ずしもそういう感じがしないのです。例えば今のようなこの時間軸型の何かという、なかなか法律がないと出来にくいような領域もあると思うのですが、そういうものに何か使えないかなと思ったのですが、その辺はいかがでしょうか。

○国立成育医療研究センター五十嵐理事長
 私のほうから御説明いたします。正に、がん対策基本法のようなものにしたいとは思っております。この法律自体は理念法でして、理念的なことしか書いてありません。ただ、そこの中に、今年の12月8日以降に成育医療等協議会を国は作らなくてはいけない。そして、そこで年に1回、小児あるいは周産期の医療に必要なことを中心に将来何をしなければいけないかをディスカッションして、それを内閣総理大臣に提示し、国民にも示すことがうたわれています。子どもや子育ての親御さんに必要な施策を提言したり、あるいは国にやっていただきたい施策を提示することで、課題を一つ一つ解決していきたいと考えております。

○祖父江部会長
 そうすると、むしろ、この理念はあるけれども、今後、内容は作っていくという法律というふうに考えていいですか。

○国立成育医療研究センター五十嵐理事長
 はい。おっしゃるとおりです。その中には、病院以外で発生した子どもの病気や事故により病院に運ばれて24時間以内に亡くなる症例の検証しっかりやることも書かれてあります。小児医療を行うで足りないところがあります。それをこの基本法を基にして、少しずつ改善に向けていきたいと考えている次第です。

○祖父江部会長
 そうすると、先ほどちょっとお話いただいたような、時間軸でずっと見ていくというような形をどう作っていくかというのは、この法律とはちょっと離れている。

○国立成育医療研究センター賀藤病院長
 最初のほうの文言には成人への継続的な医療を行うということは書いてあります。

○祖父江部会長
 そうですか。それは非常に力強いですね。

○国立成育医療研究センター五十嵐理事長
 このトランジションを意識して作りました。

○祖父江部会長
 それは素晴らしい。どうもありがとうございます。

○深見委員
 21ページで、消化器の内視鏡の検査数が増えているということなのですが、それは実際にそういった乳児期に内視鏡の検査を必要とするような疾患が増えているというようなことをおっしゃったような気がするのですが、それはどういった原因というものに起因して、こういったものが増えているのかということが1つ。それとも、診断技術が上がってきて、割と軽症の患者でもできるようになって、こういった検査数が増えているというわけではないという理解でよろしいのですか。

○国立成育医療研究センター賀藤病院長
 1歳未満はちょっと様子が違うかもしれませんが、幼児期以降、これは明らかにクローン病とか、いわゆる大人にあると思われていた、私が学生のときは全く子どもにはなかったわけですが、クローン病とか潰瘍性大腸炎という、いわゆるそういう炎症性腸疾患と言われる大人の世界にあったものが、子どもで明らかに増えてきたということです。

○深見委員
 それは免疫系が、やはりアレルギーも増えてきたということで、免疫疾患に起因するようなものが増えてきた結果、クローン病とか潰瘍性大腸炎とか、そういったものも増えてきたという理解で。

○国立成育医療研究センター賀藤病院長
 免疫かどうかはまだちょっとよく分かりませんが、少なくとも食事の問題はあるのではないかという人がいますが、そこはなかなかなぜ子ども、増えてきているのは日本だけではないです。ただ、1歳未満の赤ちゃんの場合で同じような慢性腸疾患と思われていたものが、やはり免疫不全だったという診断はあるので、その辺は先生がおっしゃるとおり、免疫が絡んでいる可能性がないとは言えないと思います。

○深見委員
 あともう1つですが、誤飲の問題。子育てをしているときには、この誤飲というのが、注意をしていたつもりでもなってしまったという、多分、そういうことが多いと思うのですが、こういった事例集というものがどのくらい普及活動というのでしょうか、実際にはそういう防止のための何らかのアウトプットというのか、そういうこともされているのですか。

○国立成育医療研究センター賀藤病院長
 ちょっと忘れましたが、ある1つの円、輪っかがありまして、これより小さいものは周りに置くなというものは作ってあります。ただ、これは日本人特有なのかもしれませんが、すごく誤解があって、事故の原因は母親が悪いわけではないというのが一番の原則です。母親がいくら注意しても起こるときは起こるので、それは製品が悪いのであって、母親が悪いのではないと。どうしても事故が起こると母親は自分が悪かったと責めるのですが、それは違うだろうというのが一番の私たちのもので、例えば子どもが誤って誤嚥するものを作るから悪いのだということだろうと思っていますので、それはやはり企業の問題とか、物がいろいろあって、それは一応消費者庁とかと認識は一緒にして、何とかしなければと。消費者庁とか、いろいろなものを今ホームページで掲載して、注意を喚起していますし、小児科学会としてもちゃんとアラートは鳴らしていることになります。

○深見委員
 保育の現場とか、ある程度の事例集は見たことはあるのですが、そういった事例集というのがあると、我々もそれを置かないというそこの原則を、もっとやれるといいなという。

○国立成育医療研究センター五十嵐理事長
 よろしいでしょうか。小児科学会はInjury Alertを出しております。例えば火傷を起こすような製品や、子どもの首が締まるような製品による事故の事例集を出しております。安全キャップと言いまして、押してから回さないと開かないような製品をひろめたり、子どもが落ちてしまうようなおぶい紐の製品改良をするなど、病院長が説明しましたように、成育から報告された事例を基に、JIS規格が出来、安全な商品を作る動きに至ったものが数多く最近は出てきています。子どもの事故防止には誰かが注意して見ていくというようなやり方は現実的ではりません。これらの事業を通じて有効な予防策につなげていることを御理解いただければ幸いです。

○福井部会長代理
 自分でデータを調べないで質問して恐縮ですが、成育医療研究センターのミッションは、日本中の小児の死亡率を極端に下げることにあると思いますが、小児のage bracketごとの死亡率は最近下がってきているのでしょうか。

○国立成育医療研究センター賀藤病院長
 多分、そのデータが出たのは5、6年以上、もうちょっと前かもしれませんが、30年前と比べて、小児慢性特定疾病に登録された全体の死亡率が3分の1になったというデータはあります。

○国立成育医療研究センター五十嵐理事長
 乳児死亡率1歳になるまでに死亡する子どもの数は1,000人当たり1.9ですが、確かに10年前は2.3ぐらいでした。新生児死亡率、1か月までに亡くなる子どもは1,000人のうちの0.9ですが、やはり5年ぐらい前は1.1ぐらいでした。これらの死亡率自身をこれからも大きく下げることは難しいと考えておりますが、確かにこれまでは改善してきています。

○祖父江部会長
 もう1つお聞きしたいなと思います。先ほど発達性読み書き障害の話が出て、非常に素晴らしいなと思いましたが、発達障害というと、我々がいつも思うのは、アスペルガーとか、ADHDとか、自閉症とか、むしろ成人期になっていろいろマニフェストしてくるという、もっとも、早くから出ているのだと思いますが、そういうものが非常に社会的な問題になってきていると思いますが、先生方のセンターでは、その辺はどれぐらいやっておられるのかなというのがちょっと気になったのですが、いつもあまり話題に乗らないものですから。

○国立成育医療研究センター賀藤病院長
 やはり、どうしても1人の患者さんの時間が掛かるので、申し訳ないのですが、うちで今、自閉症の患者さんの紹介状をいただいても、半年以上待ってしまう。

○祖父江部会長
 そうですか。

○国立成育医療研究センター賀藤病院長
 はい。ですので、何とか地域で、少なくとも自閉症の疑いが濃いとか、そうではないとかということが分かるような前診断というか、お医者さんの研修を受け入れている最中で、どうしても外来の枠数が、ものすごい患者さんの御希望があるのですが、半年以上待たないとなかなか初診の患者はということになっているので、何人診ていますというのはなかなか今は出せないという状況です。

○祖父江部会長
 そうすると、今、ちょっとおっしゃったのですが、こういう発達障害の、メジャーかどうか分かりませんが、かなり大きな部分は、それぞれの地域で診てもらうという体制は、やはり今後も構築していかないといけないということですか。

○国立成育医療研究センター賀藤病院長
 そうです。たくさんの親御さんが悩んでいると思いますが、本当に遠くから御紹介もあるのですが、原則は。

○祖父江部会長
 先生の所でももちろん診れることは診れる。

○国立成育医療研究センター賀藤病院長
 診ていますが、その患者さんが1人来ると、ずっと診ていきますので、減ることはないので、そうすると、新しい患者を受け入れる枠がなかなか増えないという状況になっています。ですので、逆に、ある程度診断を付けて、治療法とか、外来のやり方を書いて、地元、地域に戻っていただくということをなるべくやりたい、戻していきたいのですが、なかなか戻す相手を探しているということで、なかなか。

○祖父江部会長
 なかなか難しいでしょうね。

○国立成育医療研究センター五十嵐理事長
 補足です。診断は医師がしますが、その後の生活指導などは、医師ではなく、ケースワーカーや保健師さんなどの経験の深い方が担当しています。医師がやるよりは、むしろそういう方がやったほうがうまくいくということになります。そういう方たちをもっとトレーニングして増やさなければいけないのですが、ただ、そういう方が例えば1人の患者さんを30分あるいは1時間かけて診ても、診療報酬としては不十分な状況です。

○祖父江部会長
 なるほど。

○国立成育医療研究センター賀藤病院長
 ですから、当然そうなってくると、プライベートで、何か1時間1万円で診るとか、そういうのをやる所が東京にはたくさんあるわけですが、地方はなかなかそれがないというのが実情です。御指摘のように、これは医師だけではなくて、メディカルスタッフと一緒になって、それでずっと診ていくというような、支援をしていくというような、そういう体制を作らないと、患者さんへの対応にはならないのではないかと考えています。私どもの施設の顧問会議でも、もっと発達障害のことをちゃんと勉強して、研究しろというようにいつも言われています。

○祖父江部会長
 分かりました。どうもありがとうございます。

○大西委員
 先ほどの、今の話も含めてなのですが、「もみじの家」と合わせまして、成育基本法の中でいろいろな議論をしていく対象に、今の話とか「もみじの家」の問題を研究班といろいろ議論を交わされたというように書いてありますが、そういうことについても対象にできる可能性はおありなのでしょうか。

○国立成育医療研究センター五十嵐理事長
 当然あると思います。私も先ほど申し上げましたが、今までは、まず救命という点で医療現場は一生懸命やってきたと思います。しかし、子どもを救命し、長期生存することによっていろいろな新しい問題も出て来ています。それらに対する対応が、今の日本の社会では不十分なことが多々あります。医療・保険の問題を中心に、成育基本法を介して充実することを考えているところです。

○大西委員
 是非、よろしくお願いしたいと思います。高齢者の場合には介護の部分というのがあるのですが、小児のところというのは欠けておりますよね。ありがとうございます。

○祖父江部会長
 よろしいですか。どうもありがとうございました。それでは次の最後のセッションにまいりたいと思います。「業務運営の効率化、財務内容の改善及びその業務運営に関する事項」ということで、評価項目の2-1から4-1になります。これは非常に短い時間で設定してありまして、説明が5分ということですので、手短かに、よろしくお願いいたします。

○国立成育医療研究センター桐生企画戦略局長
 ごく簡単に御説明させていただきます。35ページからです。まず、評価項目2-1ですが、自己評価としてBを付けさせていただきました。36ページに、その根拠として、定量的な指標として挙げていますが、上のほうが定量的指標、下のほうで定性的なその他特筆すべき事項を挙げています。前回、事前評価の中で御指摘いただいたように、評価の指標の数字については、再度見直しをして、新たに一部修正しています。基本的に100%クリアしている指標が多いですが、(4)専門・認定看護師数が85.8%ということで、総合的に自己評価Bとしています。
 特筆すべき事項として、右下の働き方改革について、昨年度取り組みまして、特に医師事務作業補助者とか、病棟クラーク、病棟薬剤師等の定員を確保したり、実質的な増員を図ったりしています。また、レジデントなどについては非常勤だったものを常勤化するというようなことの見直しもしているところです。
 1枚めくって38ページです。評価項目3-1です。ここの項目については定量的な指標がありませんので、関連するような指標として治験の収益と経常収支率を挙げております。自己評価についてはBとしております。特筆すべき事項として、左下のほうに「小児医薬品開発コンソーシアム研究会」を本格始動したということを挙げております。そのほかにも業務改善、経営改善の試みをしています。
 40ページに、評価項目4-1について、定量的な指標の数字から、自己評価をAとしております。内部監査の実施やPMDA等との人事交流、メディカルスタッフの人事交流ということで、いずれも120%を超える達成率になっていると評価しています。特筆すべき事項としては、下に書いてあるような内部統制委員会、また、コンプライアンスの向上などを目指して委員会を開催したり、ハラスメント対策等、そういったガバナンス、コンプライアンスの改善等を図っているところです。また、広報についても力を入れているところです。以上です。

○祖父江部会長
 どうもありがとうございました。いかがでしょうか。非常に経常収支、全体としては非常に良いほうに向いているのではないかと思います。これは治験ですか、3年連続黒字と書いてあるのは。

○国立成育医療研究センター桐生企画戦略局長
 これについては、経常収支率の38ページの上の中ほどにある3期連続黒字達成としております。

○祖父江部会長
 これはでは全体として黒字という意味ですね。

○国立成育医療研究センター桐生企画戦略局長
 はい、そうです。グラフの27年度のところで、95.1%ということで、一時、経常収支が悪かったときがありますが、その後、改善しまして、3年間黒字ということで、努力をさせていただきました。

○祖父江部会長
 これが素晴らしいなと思って、この間、ちょっとお話をさせていただいたのですが、これは全国の小児病院でなかなか黒字を計上している所は少ないなと思っているのですが、その辺はもう一回説明していただけると有り難いなと思うのですが。

○国立成育医療研究センター賀藤病院長
 1つ、基本的なところはやはり大きさだと思います。ベッドの大きさ。やはり200床前後だと、これは効率が悪いと思っています。同じ医師、看護師、スタッフだとすると、もっと診れる数がたくさんあるので、そうすると、1つは大きさだろうと思います。やはり400床弱前後ぐらいのベッド数をいつも運用できるような、いわゆるそういう供給源をバックに持った所に作るべきだろうと思います。それを各県に1つ作るとかということをやってしまったので、それが一番の間違いだと私は思っています。
 あとは補助金です。補助金に、小児医療は政策医療だという、これは私は誤解だと思っています。政策医療というものがあって、お金が掛かるから、赤字があるから補助金が出るものだという常識でいってしまっているのが一番悪い。それで経営に対してなかなか力が入らない。ある県の小児病院ですと、県庁から来た方のお役目は、補助金をいかにして確保するかということだと私は聞いたことがあります。ですので、例えば都立小児ですと、年間に67、68億円、埼玉小児ですと年間80億円くらいが県庁からどんどん来るわけですが、それを県民のためにいいとしている、そういう甘えの状況があるのが、いわゆる経営にきちんと立ち向かわない、立ち向かっていかないという根本的な問題があるのだろうと思います。みんなが一生懸命にやればできるはずです。私としては個人的には、大阪府立の大阪母子センターがものすごく一生懸命にやっています。それは民間の力を借りて、それでもって一生懸命にやっていて、あそこは多分、大阪府から10億円ぐらいしかきていませんが、経常収支率は多分99とか、そこまでいっています。努力すればできるはずなので、あそこは一生懸命にやっていて、危機感を持った所ですので、そういう根本的な問題、政策医療に甘えているということが、私は個人的にですが、そう思っています。

○祖父江部会長
 ありがとうございました。うちの愛知も200床ですので、今の先生のお話ですと、全くの赤字のケースになっていますが。ほかに何かございますか。よろしいですか。では、どうもありがとうございます。特にございませんので、これで大体終わりということにさせていただきたいと思います。それでは最後に、法人の監査のほうから監査報告書について御説明いただいて、その後で、理事長先生より一言御挨拶を頂くと、こういうふうにしたいと思います。まず、監査のほうをお願いします。

○国立成育医療研究センター西田監事
 監事の西田です。私のほうから御報告いたします。まず、監事の報告に関しては、お手元の資料3-4に、監事の「監査報告」とありますが、平成30年度において、指摘すべき重要な事項等は認められず、中長期目標の着実な達成に向けて効果的かつ効率的に実施されているものという形で認めております。平成30年度は、理事長を含め役職員の皆様の御努力の結果、3年連続で黒字を達成したと、先ほど委員の先生からもお言葉を頂きましたが、我々もその部分については率直に評価しているという状況です。
 ただ一方で、今、いろいろと議論があったとおり、小児医療領域でのいろいろな課題、それを解決するということを考えると、更なる改善というのは常に必要となってくるところではありますので、我々監事としましては、成果とのバランスを見ながら、この辺の財務的なところは見ていきたいと考えております。また、改善活動の基本となりますいわゆる組織の内部統制というものについては、もちろん規程の整備等々も重要ではございますが、やはりセンターが向かう方向に向けて、各職員の皆様方が、当事者意識を持って働けるような環境になるように、常々、意見具申をしているという状況です。以上になります。どうもありがとうございます。

○祖父江部会長
 どうもありがとうございました。今の監査報告について、よろしいですか。ありがとうございました。それでは最後に、理事長先生のほうからよろしくお願いします。

○国立成育医療研究センター五十嵐理事長
 本日は、長時間にわたりまして、私どもの説明をお聞きいただき、ありがとうございました。また、貴重な御意見を頂きました。今後の運営に役立たせていただきます。
 先ほど申し上げたように、小児の疾患構造が最近大きく変わってきており、医療・保健も変わらざるを得ません。身体的な問題だけではなくて、心理、社会的な対応が非常に重要なファクターになってきています。我が国の社会が以前と比べて人の多様性を認めにくい社会になってきたということも一因となって、発達障害の人たちが生きにくい状況になって、問題が出てきているのではないかと思います。それに対する対応がなかなか後手後手になっています。病気の原因の究明はもちろん大事ですが、どうやって彼らがこの社会で元気に生きていくために支援できるかを、成育としても当然考えなければいけないことです。これから取り組まなくてはいけない大きな課題です。
 病院経営の面で発注など、まだまだ改善すべき点がありますので、この点も改善する所存です。
 働き方改革に対応するためにはどうしても人員の増員が必要です。米国の小児病院の運営費の4割は、実は寄附金で成り立っています。地域社会からの支援を受ける努力をされています。日本はなかなかすぐにはそうはいきませんが、社会にも訴えて、御支援を頂けるための努力もしなければいけないと考えております。本日はどうもありがとうございました。

○祖父江部会長
 どうもありがとうございました。では、これで全体を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。先生方はもう結構なのですが、こちらのほうでちょっと事務的な案内がございますので。

○医政局研究開発振興課国立高度専門医療研究センター支援室太田室長補佐
 事務局のほうから、今後の流れについて御連絡いたします。本日、御議論いただきました平成30年度業務実績評価については、この後、本部会における御意見や法人の監事及び理事長のコメントなどを踏まえ、厚生労働大臣による評価を行い、評価結果については、法人に通知するとともに、公表いたします。決定した内容については、後日、委員の皆様にお送りいたします。
 委員の皆様におかれましては、評定記入用紙の御記入を終えている場合は机上に置いたまま御退席をお願いします。また後日提出いただく場合は、8月21日水曜日中に事務局宛てメールで送付いただくようにお願いいたします。
 最後に、本日、配布した資料の送付を希望される場合は、事務局より送付いたしますので、机上の封筒に資料をお入れになり御退席いただければと、お願いいたします。事務局からは以上です。

○祖父江部会長
 どうもありがとうございました。これで終わります。どうも御苦労様でした。