平成30年度第6回化学物質のリスク評価検討会(有害性評価小検討会)議事録

厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課化学物質評価室

日時

平成31年1月15日(火)10:00~10:50

場所

中央合同庁舎第5号館 共用第8会議室(11階)

議題

  1. 平成30年度リスク評価対象物質の有害性評価について
    1. 1,2-ジクロロエタン
  2. その他

議事

 
○増岡化学物質評価室長補佐 定刻となりましたので、ただ今から平成30年度第6回有害性評価小検討会を開催いたします。本日は大変お忙しい中、御参集いただきまして誠にありがとうございます。
 まず、委員の出席状況でございますが、清水委員、高田委員、津田委員、宮川委員、吉成委員より、本日は御欠席との御連絡をいただいております。また、特別参集者として西川委員に御出席いただいております。
 それでは、座長の大前先生に、以下の議事進行をお願いいたします。
〇大前座長 本日は、御協力よろしくお願いいたします。
 まず、事務局から資料の確認をお願いいたします。
○増岡化学物質評価室長補佐 資料につきましては、議事次第の裏面に配布資料一覧を記載しております。委員の皆様におかれましては、タブレット端末の方で御確認いただきたいと思います。
 本日の資料として、まず資料1は、「1,2-ジクロロエタンのリスク評価書(案)(有害性評価部分)」です。また、資料1の別添資料として、別添1「有害性総合評価表」と別添2「有害性評価書(改訂)」を添付しております。また、本年度の有害性評価小検討会において、委員の先生方からいただいた有害性評価の方法などに関する指摘事項について、資料2「平成30年度有害性評価小検討会における指摘事項」を添付しております。
 また、本日御審議いただく「1,2-ジクロロエタンについての許容濃度等の提案理由書」を参考資料1として添付しております。なお、参考資料は非公開となりますので、委員のみの配布とさせていただきます。参考資料2の方は、本日御審議いただきます1,2-ジクロロエタンと同様の特別有機溶剤につきまして、前回及び前々回において二次評価値等の検討をした、その検討の概要につきまして、実績ということでとりまとめたものです。
 以上でございます。
○大前座長 ありがとうございました。
 それでは本日の議題に入ります。本日は、特別有機溶剤である1,2-ジクロロエタンの有害性評価を行うこととなっておりますのでよろしくお願いいたします。
 事務局から説明をお願いいたします。
○増岡化学物質評価室長補佐 それでは資料1を御覧ください。リスク評価書(案)(有害性評価部分)1,2-ジクロロエタンです。
 1ページ、「1 物理化学的性質」です。
 「(1)化学物質の基本情報」の名称、別名、化学式、構造式、分子量、CAS番号につきしては記載のとおりです。また、本物質は労働安全衛生法施行令別表第9に収載の物質です。また、特定化学物質第2類であるほか、特別管理物質であり、また、特別有機溶剤としても指定されているものです。このほか、労働安全衛生法に基づくがん原性に係る指針の対象物質にもなっております。
 「(2)物理的化学的性状」です。外観は、特徴的な臭気のある無色の粘稠性液体で、空気、水分及び光にばく露すると暗色になります。比重は1.2(水=1)、沸点は83.5℃、蒸気圧は20℃で8.7kPa、蒸気密度が2.9(空気=1)、融点が-35.7℃、引火点は13℃、発火点440℃、溶解性は20℃の水100 mLに対して0.87 gなどとなっております。
 「(3)生産・輸入量、使用量、用途」ですが、製造・輸入数量は平成28年度の統計で47万5,199トンです。用途は、塩ビモノマー原料、エチレンジアミン、合成樹脂原料(ポリアミノ酸樹脂)、フィルム洗浄剤、有機溶剤、混合溶剤、殺虫剤、医薬品(ビタミン抽出)、くん蒸剤、イオン交換樹脂となっております。製造業者は、27行目以下に記載のとおりです。
 次に、「2 有害性評価の結果」です。
 「(1)発がん性」は、「ヒトに対しておそらく発がん性がある」としています。バイオアッセイ研究センターで実施したラット及びマウスを用いた吸入によるがん原性試験において発がん性が認められたことを根拠としております。試験につきましては、38行目以下に記載があります。F344ラットを対象にした2年間の吸入ばく露試験において、雄に乳腺の線維腺腫、皮下組織の線維腫、腹膜の中皮腫、雌に皮下組織の線維腫、乳腺の腺がん、腺腫、線維腺腫の発生の増加傾向が認められ、160 ppm群の雄の乳腺の線維腺腫、雌の乳腺の腺腫、線維腺腫と皮下組織の線維腫の発生頻度増加が対照群と比較して有意でありました。また、試験施設の背景データと比較すると、雄の40、160 ppm群にみられた皮下組織の線維腫、及び160 ppm群にみられた腹膜の中皮腫の発生頻度、ならびに雌の40 ppm群の乳腺腺腫と線維腺腫の合計、及び乳腺がんの発生頻度は背景データの最大値を超えております。
 BDF1マウスについての2年間(104週間)の吸入ばく露試験においても、雌に乳腺の腺がん、肺の細気管支-肺胞上皮がんと腺腫、肝臓の肝細胞腺腫及び子宮の内膜間質性ポリープの発生の増加傾向が認められています。雌の90 ppm群における肺の細気管支-肺胞上皮の腺腫の発生頻度、及びがんと腺腫の合計の発生頻度、子宮の内膜間質性ポリープ、乳腺の腺がん、肝細胞腺腫の発生頻度は、背景データの最大値を超えております。
こうしたことを根拠として、「おそらく発がん性がある」としております。
 また、IARCは、発がん性の評価を2Bとしているほか、2ページ、58行目以下に記載のとおり、各機関において発がん性の評価がなされております。
 閾値の有無ですが、こちらは、遺伝子障害性を示す十分な証拠があるということから、「なし」としております。しかしながら、発がんの定量的リスク評価は、調査した範囲内での報告は得られておりませんので、過剰発がんリスク等についての数量的な評価はできておりません。
 次に、「(2)発がん性以外の有害性」です。
 急性毒性については、ラットの吸入毒性、経口毒性、マウスの吸入毒性、経口毒性、ウサギの経口毒性、経皮毒性について、3ページ、74行目以下に記載のとおり半数致死量等が示されております。
健康影響につきましては、ラットに蒸気20,000 ppmを12分間、又は3,000 ppmを1時間、もしくは300 ppmを7時間、単回吸入ばく露したところ、中枢神経系、肝臓、腎臓、副腎及び肺への影響が認められ、自発運動の低下、歩行失調、チアノーゼ、体温低下、昏睡、無呼吸などがみられています。また、ラットに、615又は850 mg/kg体重の経口単回ばく露した試験においては、肝臓に混濁腫脹及び脂肪変性を伴う鬱血、心筋層に冠血管壁の浮腫及び出血と血管内の鬱血及び血栓が認められ、血清中ALT及びASTの上昇とニコチン酸アミド補酵素の組織内濃度の低下、赤血球数の減少、ヘマトクリット値の減少などの血液学的変化、及び、肝ミクロソームCYP値の低下などが報告されております。
 次に、皮膚刺激性/腐食性ですが、ウサギを用いた試験において、中程度の刺激性が示され、また、ヒトについても皮膚への継続的・長期的なばく露により、皮膚の脱脂、乾燥、ひび割れなどがみられたことから、「あり」としております。
 眼に対する重篤な損傷性/刺激性ですが、ウサギを用いた試験において、中程度の流涙、角膜上皮の擦過傷、軽度から中等度のカタル性結膜炎が観察されたこと、別のウサギを用いた試験では、その中でわずかな充血や環状結膜腫脹が観察されたこと、また、眼に当該物質が接触すると、通常、痛み、刺激、流涙が起こるが、刺激症状の重篤な症状例は、洗眼によって直ちに本物質を除去しなかった場合にのみ認められたことから、眼に対する重篤な損傷性/刺激性については「あり」となります。
 続いて皮膚感作性ですが、雌CBAマウスを用いた局所リンパ節試験で、死亡、臨床的徴候、耳介における皮膚反応、及び、耳介厚みの顕著な増加はいずれもみられず、また、遅延型接触過敏症の誘導や局所刺激作用を示さなかったことから、皮膚感作性を有さないことが示唆されています。
 呼吸器感作性につきましては、調査した範囲内で報告はありませんでした。
 次に、反復投与毒性です。溶媒として当該物質を含む接着剤を取り扱うロシアの飛行機工場で、作業者の健康調査が1951~55年に行われており、こちらを踏まえたものになります。NIOSHは、原著者が示している濃度データと作業実施状況から、塗布作業中の平均濃度は28 ppm、乾燥時は16 ppm、塗布以外の作業時は11 ppmであり、1日の作業におけるTWAは約15 ppmであると推定しております。調査した作業者83名のち、19人に肝臓及び胆管の疾患、13人に神経症状、11人に自律神経失調症、10人に甲状腺機能亢進症または甲状腺腫、5人に無力症の症状などがみられており、推定TWA 15 ppmで肝臓及び胆管の疾患がみられていることを踏まえ、LOAELは15 ppmとされております。
 このLOAEL 15 ppmから不確実係数などを考慮し、評価レベルは、4ページ、149行目の式から1.5 ppm(6.1 mg/m3)としております。
 次に、生殖毒性です。ヒトでの疫学データは少なく、本物質の汚染地域における調査で得られたオッズ比に、統計学的な有意性は認められなかったこと、また、動物試験で催奇形性があるとした証拠がなく、吸入ばく露及び経口投与のいずれでも母動物及び胎児への明らかな生殖毒性は認められていないこと、しかしながら、全胚吸収と胎児死亡の報告もあることから、生殖毒性については「判断できない」としております。
 次に、遺伝毒性です。in vitro試験系では復帰突然変異試験、遺伝子突然変異試験、不定期DNA合成試験、DNA結合性試験等で陽性、in vivo試験系でも小核試験を除き、染色体異常試験、姉妹染色体分体交換試験(SCE)、コメットアッセイ、DNA損傷試験(一本鎖切断)及びDNA結合試験のいずれにおいても陽性を示していることから、遺伝子障害性「有り」としております。
 神経毒性です。先ほど、反復投与毒性で御紹介しましたロシアの飛行機工場における作業者を対象とした健康調査の結果を踏まえたものとなっております。6ページ、228行目から付記した部分になりますが、ばく露群17人及び対照群10人の労働者に対して、週明け及び週末に視覚運動反応の検査を実施したところ、単純な反応試験では両群に実質的な差異はなかったが、複雑な反応試験ではエラーを示す人数が対照群の0人に対してばく露群では大多数であり、さらに複雑な反応試験では対照群では4人が週末にのみエラー示したのに対し、ばく露群では15人が週末および週明けともにエラーを示しました。推定TWA 15 ppmで神経症状の発症や視覚運動反応検査でのエラー多発がみられていることから、この濃度がLOAELとされました。評価レベルは、7ページ、241行目の式によって1.5 ppm(6.1 mg/m3)と求められております。
 次に、「(3)許容濃度等」です。ACGIHは、TWA=10 ppmを1980年に設定しております。ヒトにおいて誤飲や自殺目的等による経口摂取での中毒例や、産業現場等で高濃度のガスにばく露した場合に強い急性毒性を示し、死に至る場合があることから、ヒトの肝毒性や催眠影響を最小限に見積もる許容濃度として、10 ppmを推奨するとしております。
 日本産業衛生学会(以下、「産衛学会」という)は10 ppmを1984年に提案しております。ラット及びマウスの69~78週反復経口投与試験において、ラットでは前胃・乳腺の癌と各種臓器の血管肉腫が認められ、マウスでは肺・リンパ腫の悪性腫瘍、肝細胞癌、子宮癌、乳癌の発生がみられたこと、また、マウス・ラットへの吸入ばく露試験では、150 ppmを日に7時間、週5日間、計78週反復ばく露しても、催腫瘍性は認められなかったが、人では肝毒性、腎毒性が報告されていることを考慮して、暫定許容濃度を10 ppmとしております。
 また、このACGIH及び産衛学会の10 ppmよりも低い許容濃度を提案しているものとしましては、NIOSHがTWA=1 ppmを1978年に設定しております。1978年当時、発がん性物質についての安全なばく露レベルを設定することは不可能であったため、NIOSHは、ばく露を職場で確実に測定できる非常に低いレベルに制限することを推奨し、推奨されるサンプリングと分析方法の検出下限が1 ppmであったことから、TWA=1 ppmを提案するというものです。
 また、イギリスのHSEは、WELとして5 ppmを2005年に設定しておりますが、調査した範囲では、提案理由は非公開でした。
 次に、「(4)評価値」です。発がん性が疑われ、遺伝毒性があり、閾値がない場合に該当するが、ユニットリスクに関する情報がないことから、生涯過剰発がん1×10-4レベルに相当するばく露濃度を算定することができなかったため、一次評価値は「なし」としております。
ACGIH及び産衛学会が勧告する許容濃度を、二次評価値として提案しております。
 なお、先ほど御説明しましたように、こちらのACGIH、産衛学会の10 ppmよりも低い値としてNIOSHの1 ppm、また、提案理由は分かりませんが、HSEが5 ppmを提案しており、これらの値の採用の是非について、御検討いただきたいと考えております。
 以上でございます。
○大前座長 ありがとうございました。
 この物質は、50万トンぐらい使われていますが、ヒトのデータが非常に少ないということで、少しデータ不足の面がございます。ロシアのデータはヒトから持ってきていますが、これは1951年から55年に行われた調査ということもあり、測定値の真偽も不確かな古いデータしかなく、やむを得ずこれをもってきているということです。動物実験から計算した値も大体同じなので、そういう意味で結果的には悪くはないと思いますが、残念ながらそのようなデータしかないということです。
 それからもう一つは、ACGIHあるいは産衛学会の許容濃度が提案された時期が、結構古く、発がん実験の前です。ですから、発がんに関してあまり考慮されていない提案値であるということも問題があるというところです。ルール上は、ACGIH若しくは産衛学会を第一優先にして、ヒトのデータを第一優先にしてということですので、それに則って提案されております。これに対し、先生方の御意見はいかがでしょうか。
 発がん実験の後に出てきた許容値が、先ほどのUK HSEの5 ppmですが、これは提案理由が分かりませんので、これも困ったというところではあります。
○西川委員 まず、反復投与毒性のところからいきますと、リスク評価書(案)の4ページ、ヒトのデータはよいとして、その次、説明は省略されましたが、5ページ、152行目以下のラットの試験でNOAELが20 ppmとあります。また、別添2、21ページ、215行目からのラットの3ヶ月、6ヶ月、18ヶ月の吸入ばく露試験で、例えば222行目に50 ppmの群で血清ALTとγ-GTPの上昇があったということですので、この結果からいくと、NOAELはその下の10 ppmになる可能性があるということです。
 それから、同様に、同じページの231行目、ラットの2年間の吸入ばく露試験ですが、ここでも241行目に、精巣の萎縮が40 ppm以上の群の雄でみられたと、それからその下の242行目に、同じ群で精巣の絶対及び相対重量の低値がみられたということ、これらから、やはりその下の容量、10 ppmがNOAELになる可能性があると思います。
 それから、さらに同じ資料の275行目、マウスの2年間の吸入ばく露試験ですが、例えば277行目からですが、雌では30 ppm 群で生存率の有意な低下、それから282行目以降に雄の30 ppm群等で尿蛋白の増加が見られたとあって、ここから考えられるのはやはりその下の用量で、10 ppmがNOAELになる可能性はないかということです。
 それから、反復投与毒性については以下の3試験について10 ppmがNOAELである可能性がありますから、その辺についてまず御議論いただければと思います。
○大前座長 ありがとうございます。
 最初のラットの3~18ヶ月試験、21ページ、222行目ですが、全群で血清ASTの変化(5、10ppm群では上昇、50、150ppm群では低下)というのがあるので、これはよく分かりません。これを採用するのは止めようと決めた記憶がございます。一定になっていない、むしろ濃度が高いと活性が下がるというのはあまり整合性がないという感じがします。
○西川委員 222行目のところですか。
○大前座長 222行目のところです。全群で血清ASTの変化とあって、5、10ppm群では上昇するけれども、50、150ppm群では逆に低下しています。
○西川委員 ASTとALTは別ものですから、ASTに一定の変化がないからALTの変化を無視してもよいということにはならないと思います。
○大前座長 むしろASTの方がALTよりも肝臓に特異性が近いのではなかったでしょうか。
○西川委員 したがって、ALTの変化は肝臓以外に何か影響がある可能性があるということです。
○大前座長 分かりました。
 いかがでしょうか。今の3つのデータから、NOAELは10ppmではないかということです。先ほどは、NOAELは20ppmから出発していますから、単純にいうと半分になるということになります。
 では、その点はよろしいでしょうか。そうしますと、4ページの反復投与毒性のところ、5ページ、152行目以下の(参考)のところで、NOAELは20ppmではなく、10ppmからスタートした方がよいだろうということですね。根拠も変えなければならないということになります。
 その他いかがでしょうか。
 遺伝毒性のところで、6ページ、211行目ですが、コメットアッセイ、DNA損傷試験(一本鎖切断)と並んでいますが、多分これは同じことだと思うので、コメットアッセイを消した方がよいと思います。有害性評価書の方にも両方の記載(28ページ表中)がありますが、同じような濃度でやっていますので、多分同一試験だと思います。DNA損傷試験(一本鎖切断)の方だけを残してコメットアッセイを削除してよいのではないかと思います。
 その他、御意見いかがでしょうか。
○西川委員 先ほどの反復投与毒性のところ、F344ラットの試験は(参考)とあるのですが、これを単純に計算すると、評価レベルがその半分になってしまって、ヒトのデータから導かれた評価レベルよりも小さくなる可能性があるということですね。
 それから次に、発がん性のところですが、これも別添2、29ページ、473行目からの吸入ばく露の試験で、これは78週間のラットの試験ですが、雌の低用量群から乳腺線維腫等がわずかだが有意に増加しているということから、厳密にいえばこれはLOAELが5 ppmで、しかも発がんがエンドポイントになる可能性があるので、これはぜひ御議論をお願いしたいと思います。
 それから、487行目以下のF344ラットの2年間(104週間)の吸入ばく露試験ですが、ここにおいても、例えば493行目に雄の40 ppm以上の群で皮下組織の線維腫がみられたと、そして494行目では雌の40 ppm群において乳腺における腫瘍の発生頻度が背景データの最大値を超えていたとあって、まとめの表は次の30ページにありますが、40 ppm群で腫瘍の有意な発生増加、あるいは背景データを超えた増加がありますので、このラットの試験においてもおそらくNOAELは10 ppm、しかもそのエンドポイントが発がん性になるのではないかという可能性があるので、この点についても御議論をお願いしたいと思います。
 さらに、その資料の31ページ、520行目以下、マウスの2年間の吸入ばく露試験ですが、この526行目で雄の30 ppm以上の群で肝臓の血管肉腫の発生頻度が有意に上昇していたと、そして530行目にその考察部分があって、リンパ腫は用量相関性がないのでよいとして、血管肉腫についてはばく露によって引き起こされたと結論しているということですので、これも30ppmよりも下の用量、10 ppmがNOAELになって、しかもそのエンドポイントが発がんに関するものであるという可能性があるので、以上について御議論をお願いいたします。
○大前座長 ありがとうございます。
 最初の吸入ばく露試験は78週間のラットですが、479行目に「わずかだが有意な増加が認められたが、これは偶発的なものと考えられた。」とあり、SIDSがそのような判断をしているということから、考察を採用しなかったのだと思います。
○西川委員 この評価書ではそうだと思いますが、他の試験を見ると、乳腺というのはどうもターゲットのような気がします。したがって、考察に問題があるのではないかという気がします。
○大前座長 御意見いかがでしょうか。
 発がんに関しましては、この物質は遺伝毒性ありの物質なので、NOAEL、LOAELを基にして計算はしていないのではないかと思います。閾値がなしということなので、そういう計算はしていたでしょうか。確認をします。
 先生がおっしゃるとおり、NOAELが10ppmというのはそのとおりだと思うのですが、発がんに関してはそれを使って計算はしていません。
○西川委員 そのとおりだと思いますが、二次評価値を決める際には参考にはなると思います。
○大前座長 その点はまさにそのとおりで、発がんの実験が終わる前にACGIHあるいは産衛学会が二次評価値を出していますので、そこをどう考えるかという点については、議論をお願いしたいと思います。
 今、西川先生がおっしゃったとおりのことです。
 その他、いかがでしょうか。
 では、二次評価値の今の議論にいきたいと思います。先ほど申し上げましたように2機関とも発がん実験の前に勧告値を作っています。UK HSEは、発がん実験の後に作って5 ppmという値を出していますが、残念ながらその根拠は非公開ということで、どう判断するべきかということになります。先生方、いかがでしょうか。
(平林委員) やはり新しい実験のデータが出ていますので、それを基に検討をし直す必要があると思います。西川先生が御指摘になられたとおり、かなり低いところまで、特に乳腺の場合にはターゲットのように感じるという点は、私もそのように思いましたから、そこを採用した方がよいのではないかと思います。
○大前座長 先生の御意見としては、提案理由は分かりませんが、UK HSEの5ppmを採用してはいかがかという、そういう御意見ですね。
○平林委員 そうです。
○大前座長 NIOSHの1ppmというのは検出限界の話から決めていますので、この値を採用することはできないと思うのですが、UK HSEのデータを二次評価値にしてはいかがかという平林先生の御意見ですが、どうでしょうか。
 特に御意見がなければ、UK HSEの5 ppmを二次評価値として採用するということでいかがでしょうか。
○西川委員 より低いというところからはNIOSHの1 ppmがありますが、座長が御指摘のとおり、これは検出限界に絡む値であるので、やむを得ないかと思います。UK HSEの提案理由が少しでも分かればよいと思いました。
○大前座長 NIOSH自体は、1978年で発がん実験の前ということもありますし、書いてありますとおり、検出限界だけのことで決めていますので、採用しにくいと思います。UKの5ppmでも発がんという観点から見ると少し高過ぎる気はしますが、やむを得ないという感じです。また、この物質は蒸気圧が高いので、あっという間に濃度が高くなると思います。ですから、現実的には5ppmでも10ppmでもほとんど変わらないという感じになると思います。先ほどから議論が出ておりますように、発がん実験の前に出た数字よりも、根拠は今一つ分かりませんが、2005年の設定ですが、その後に出た数字の方がベターであろうと。
 では、一次評価値はなしで、二次評価値はACGIHや産衛学会ではなく、UK HSEの5ppmを採用するということでよろしいでしょうか。
 ありがとうございました。
 では、次の議題です。今回の議事次第では「その他」になっておりますが、本年度の本有害性評価小検討会の中で、いわゆるルールブックに関する御指摘がございましたので、それをまとめたということです。事務局からご説明をお願いいたします。
○増岡化学物質評価室長補佐 資料2を御覧ください。
 これまで有害性評価小検討会の中で、様々な物質を検討いただく中にあって、有害性評価の方法、ものによってはガイドライン等の見直しも含め、いろいろと御指摘のあった点をまとめております。
 1点目です。動物試験の結果、NOAELとLOAELのいずれか一方しか得られない場合にはそこからスタートして評価レベルを定めていくわけですが、NOAEL、LOAELの両方が得られ、かつ、その差が10倍に満たない場合、これは不確実係数をいくつにするかということもありますが、通常1/10としており、LOAELから求めたNOAELの方が試験から直接得られたNOAELよりも小さくなります。このような場合、試験結果から得られたNOAELとLOAELのいずれをスタートに用いるのかという点について疑義が生じますが、この点について、現在のルールブックの中では十分に考慮しておりません。この点について御指摘があったものです。
 2点目です。現在、一次評価値の求め方については、やや幅があるといいますか、不明確な点があります。まず、発がん性を考慮して求めるものについては、閾値のあり/なしに応じ、それぞれ、評価レベル、あるいは10-4の過剰発がんに相当する濃度を求めております。しかし、物質によっては発がん性以外の有害性から求めた評価レベルが、これらの値よりも低くなるもあります。発がんに着目、選定してリスク評価を行っている物質であっても、発がん性以外の有害性から求めた評価レベルを採用すべきか否かという点については、現状のガイドライン等では必ずしも明確ではありません。発がんに着目した物質については、発がん性を考慮して求めるという状況がある一方、それ以外の有害性も考慮する必要があるのではないかという御指摘をいただいております。
 本日は、こういった御指摘のあった点につきまして、委員の皆様から御意見を賜りまして、それを踏まえて事務局の方でも検討し、ガイドラインの見直し等必要があれば、その辺りもとりまとめた上でお諮りしたいと考えているところでございます。
 よろしくお願いいたします。
○大前座長 これまで2点ほど御指摘がありまして、これをどのような形でガイドラインに反映していくかということでございます。
 まず1番です。LOAEL、NOAELが得られまして、その差が10倍に満たない場合、これは実験で十分にあり得る話ですが、この場合はLOAELの不確実係数を10でとっていますので、それから計算すると、試験結果よりも小さくなる可能性があり、これをどのように考えようかということです。
 前提としては、当然同じ影響を見ている場合というのが大前提だと思いますが、同じ影響を見て、LOAEL、NOAELが同じ影響で逆転する可能性があり、実際にそういうものがあります。それをどうしようかということです。影響が違えばまた話は別ですが、ここに「重篤度」と書いてありますが、例えば発がんという影響と肝臓毒性のような影響では重篤度が違いますから、そこで逆転した場合は、LOAELから求めたより低い値がベターだという可能性は当然あると思います。
 まず、同じ影響の場合で、実験によって逆転した場合にどのように考えるかですが、これに関しまして御意見はいかがでしょうか。
○江馬委員 多分、総合的な判断ということになると思います。試験のクオリティやドーズの設定の仕方などを考えて、総合的な判断をせざるを得ないのではないかと思います。
○西川委員 まったく同じで、できればあまり近接したような場合は、両方から計算してより低い値を採るというやり方もあるのではないかと思います。
○平林委員 御二方がおっしゃるとおりだと思います。重篤度も踏まえ、濃度の設定の仕方、試験のクオリティ、そうしたことを総合的に判断して決めるべきだと思います。
○大前座長 そうしましたら、ここのNOAEL、LOAELの逆転現象に関しては、今おっしゃった総合的な判断の余地をもたせておくと、そういう書き方をするということで、常にNOAELからスタートするということではなく、重篤度なり試験の精度などを総合的に判断してLOAELから計算して判断することもあり得るという書き方にしておくということでよろしいでしょうか。
 今、動物実験においては、交差を10にとることはないですね。3とか5とかが多いと思います。
○江馬委員 10までとってしまうと、何かを設定する場合にあまりよくないと思います。
○大前座長 そうですね。2つの実験で、最近の実験でしたら3とか5とかしか交差がないので、LOAELやNOAELは近い値をとる可能性はいくらでもあると思います。
○西川委員 NOAELはよいとして、LOAELの場合、実際にNOAELがずっと下の場合もあるわけで、その辺りも専門家の判断が必要だと思います。
○大前座長 ドーズレスポンスがあまりはっきりしないなだらかなところは、LOAELといっても本当にLOAELか分からないです。そういう意味も含めて総合的な判断が必要だと思いますので、そのような書き方に変更するということでよろしいでしょうか。
 ありがとうございます。
 では、2番目は、一次評価値についてです。発がん性以外の有害性から求められた評価レベルが、発がん性から求められた評価レベル又は過剰発生率10-4に対応する濃度より低くなる場合がありますが、この辺りについてはいかがでしょうか。
○西川委員 これは、他の国際評価機関でもやっているように、発がんのエンドポイントと非発がんのエンドポイントを分けて計算して、それを比較することが大事ではないかと思います。
○大前座長 そうしますと、場合によっては発がん以外の一次評価値が低くなればそれは記載すべきだという、そういう御意見ですね。
 それでよろしいでしょうか。
 では、今までは発がんの過剰発生率10-4のみを重視しておりましたが、今後は、発がん以外で10-4に相当する値よりも小さな値が出た場合は、それを一次評価値として考慮するということでよろしいでしょうか。
 ありがとうございました。
 それでは、そのような方向で、事務局で案を作っていただければと思います。
○増岡化学物質評価室長補佐 分かりました。
○大前座長 本日の議題は以上でございますが、事務局の方からその他何かあればよろしくお願いいたします。
○増岡化学物質評価室長補佐 本年度に予定しております有害性評価小検討会につきましては、一応、本日が最終回でございます。本日、事務局の方で整理をするためにいただいたガイドラインに対するご意見や、また、有害性評価を予定しており今後に先延ばしした物質等につきましては、追って御連絡を差し上げた上で、必要があれば調整をさせていただきたいと考えております。
○大前座長 ありがとうございました。
 今年度、追加開催されるかもしれないというお話だと思います。
 以上で有害性評価小検討会を閉会いたします。ありがとうございました。