平成30年度第5回化学物質のリスク評価検討会(有害性評価小検討会)議事録

厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課化学物質評価室

日時

平成30年12月17日(月)15:00~16:23

場所

中央合同庁舎第5号館 専用第13会議室(21階)

議題

  1. 平成30年度リスク評価対象物質の有害性評価について
    1. 1,4-ジオキサン
    2. スチレン
    3. テトラクロロエチレン
    4. トリクロロエチレン
    5. メチルイソブチルケトン
  2. その他

議事

 
○増岡化学物質評価室長補佐 定刻となりましたので、ただ今から第5回有害性評価小検討会を開催いたします。本日は大変お忙しい中、御参集いただきまして誠にありがとうございます。
 委員の出席状況でございます。本日は高田委員、津田委員、平林委員、吉成委員から所用により欠席との御連絡をいただいております。
 それでは、座長の大前先生に、以下の議事進行をお願いいたします。
〇大前座長 それでは、本日の第5回有害性評価小検討会の進行に御協力よろしくお願いいたします。
 まず、最初に事務局から資料の確認をお願いいたします。
○増岡化学物質評価室長補佐 それでは、議事次第、裏面が配布資料一覧となっている資料を御覧ください。
 本日は、リスク評価書(案)(有害性評価部分に限る)として、5物質を予定しております。それぞれ資料1-1が「1,4-ジオキサン」、資料1-2「スチレン」、資料1-3「テトラクロロエチレン」、資料1-4「トリクロロエチレン」、資料1-5「メチルイソブチルケトン」です。また、評価書(案)のほかに、別添1と2を各評価書(案)に添付しております。資料2は、「今後の予定について」です。なお、委員限りとしておりますが、参考資料として、各物質の許容濃度等の提案理由書を添付しております。
 以上でございます。
○大前座長 ありがとうございました。
 それでは本日の議題に入ります。本日は、リスク評価を行うことにしております。特別有機溶剤5物質につきましての審議でございますので、よろしくお願いいたします。
 最初に1,4-ジオキサンにつきまして、事務局から説明をお願いいたします。
○増岡化学物質評価室長補佐 それでは資料1-1を御覧ください。1,4-ジオキサンです。
 表紙をめくっていただき、1ページ目から、「1 物理化学的性質」の「(1)化学物質の基本情報」となります。名称1,4-ジオキサン、別名、化学式、構造式、分子量、CAS番号については記載のとおりです。また、この物質につきましては、労働安全衛生法施行令別表第9に収載の物質となっているほか、特定化学物質障害予防規則で定められた特別有機溶剤であり、また、がん原性指針の対象物質にもなっております。
 「(2)物理的化学的性状」です。外観は特徴的な臭気のある無色の液体、比重は1.03(水=1)、沸点101℃、蒸気圧は20℃で3.9kPa、蒸気密度が3.0(空気=1)、融点が12℃、嗅覚閾値が2.8~5.7 ppm、引火点が12℃、発火点180℃、溶解性については水と混和するなどとなっております。
 「(3)生産・輸入量、使用量、用途」ですが、製造・輸入数量が平成28年度の数字で2,609トン、用途は洗浄剤、合成皮革用、反応用の溶剤、医薬品用、農薬用となっており、製造業者は、25行目に記載のとおりです。
 次に、「2 有害性評価の結果」です。
 「(1)発がん性」は、「ヒトに対する発がん性が疑われる」としています。2ページ、34行目以下に記載の動物実験、雄F344ラットを用いた104週間の吸入ばく露試験において、鼻腔の扁平上皮がん、肝細胞腺腫、腹膜の中皮腫などが有意な発生頻度の増加を示したことなどを根拠に、発がん性が疑われるとしております。2ページ目、40行目以下に記載の各評価区分ですが、IARCがグループ2Bとしているほか、記載のとおり、各機関において分類がなされております。
 閾値の有無につきましては、遺伝毒性を根拠として「あり」。先ほど御紹介した動物試験の結果から、NOAELが50 ppmとされており、そこから種差等を考慮しまして、60行目の式から、評価レベルとしては0.38 ppmと求められております。
 次に、「(2)発がん性以外の有害性」です。
 急性毒性につきましては、ラットの吸入毒性、経口毒性、マウスの吸入毒性、経口毒性、ウサギの経口毒性、経皮毒性について、2ページ、65行目以下に記載のとおり半数致死量等が示されております。
 次に、皮膚刺激性/腐食性ですが、実験動物、ヒトにおいて刺激性の報告があるということから、「あり」となります。
 眼に対する重篤な損傷性/刺激性ですが、実験動物、ヒトにおいて刺激性の報告があるということから、こちらも「あり」となります。
 皮膚感作性、呼吸器感作性については、いずれも調査した範囲内で情報はなく、評価できないとしております。
 次に、反復投与毒性です。1,4-ジオキサン製造の従事者、及び、かつて従事していた方(過去従事者)等について横断的調査が行なわれており、いずれの労働者にも、病理所見、悪性腫瘍の兆候は認められず、一方、退職労働者についてもがんの報告はなく、死亡統計についても、ばく露との関係はないとされています。本調査における実測の最高濃度0.69 ppmがNOAELとされています。
 このNOAEL=0.69 ppmから、4ページ、16行目の式で求めた評価レベルが0.7 ppmとなります。
 次に、生殖毒性です。こちらは胎児毒性がみられたとの報告がありますが、軽微な変化であり、他に胎児毒性または生殖能力への影響を示す情報がないことから、「生殖毒性あり」と判断する明確な証拠はなく、「判断できない」としております。
 遺伝毒性につきましては、in vitro、 in vivoにおいて、ほとんどが陰性であるということこら、遺伝毒性は、「ない」と判断されました。
 神経毒性については、ヒトや動物実験での急性の麻酔作用等中心の神経毒性の報告があるということから、「あり」としております。
 次に「(3)許容濃度等」です。ACGIHは、TLV-TWAとして20ppmを勧告しております。ジオキサンに誘発された腫瘍が、エピジェネティック(非遺伝毒性)な作用機作以外のメカニズムにより生ずるという仮説を裏付けるデータはなく、通常の1次のプロセスで1,4-ジオキサンが除去されるようなばく露であれば、動物でもヒトでも毒性は認められなかった。対応するNOAELは、ラットで111 ppm、ヒトでは職場環境濃度として少なくとも50 ppmとされています。ACGIHは労働者に発生した肝毒性や腎毒性データからTLVを導出すべきとしており、この20ppmという値は、25 ppmからの改訂となりますが、他の国際的職業ばく露基準との調和を促進する目的で20 ppmへ改訂をしたとしています。
 次のページです。日本産業衛生学会(以下、「産衛学会」という)は、許容濃度1ppmを勧告しております。産衛学会は1984年に許容濃度10 ppmを勧告しています。これは、1,4-ジオキサン蒸気に111ppm×7時間/日×5日/週×2年間、ラットをばく露させる吸入試験において、催腫瘍性が見いだされなかったことから、111ppmの1/10である10 ppmが提案されたものです。その後の研究において、ヒトのばく露では報告がないものの、ラットの104週間の吸入ばく露実験において、鼻腔の扁平上皮がん、肝細胞腺腫、腹膜中皮腫の発生が統計的に有意に増加したことから、NOAELは50 ppmとされています。ここから、不確実係数として、種差、発がんの影響としての重大性を考慮し、これらの障害を示さないことが期待される濃度として、1 ppmが勧告されております。
 その他、DFGの MAKが10 ppmを勧告しているほか、6ページ、224行目以下に記載のとおり各機関において許容濃度等が示されております。
 以上を踏まえまして、「(4)評価値」です。発がん性が疑われ、遺伝毒性がなく、閾値がある場合に該当することから、先ほどの動物試験より導いた評価レベル、その0.38 ppmを一次評価値としております。また、産衛学会が2015年に1 ppmと改訂しておりますので、こちらを二次評価値としております。
 以上でございます。
○大前座長 ありがとうございました。
 最初に3ページ、91行目、NOAEL = 0.69mg/kg体重/日になっていますが、ここは、単位がppmの誤りです。単位を直してください。
 一次評価値、二次評価値の提案がございますが、御意見、御質問はいかがでしょうか。
○西川委員 評価値については、それで結構だと思います。
 あと、細かい点、よろしいでしょうか。
 6ページ、209行目、これは産衛学会が判断したところですが、「発がんの影響としての重大性(5)」、213行目「種差(dynamicsの差として2.5)」とありますが、2ページ、58行目に「がんの重大性に基づく不確実係数(10)」としています。この違いというのはどういうところにあるのか、もし分かれば教えてください。
○大前座長 産衛学会の場合、がんの重要性をとる場合、とらない場合といろいろあります。6ページに記載の鼻腔の扁平上皮がんなどの場合ですと、ヒトの場合はげっ歯類よりも多分リスクは小さいだろうということから、10ではなく、それを5にしたのだと思います。それから、213行目のdynamicsの差としての2.5ですが、これはよくdynamicsとkineticsを4と2.5に分けるという考え方があります。今回は、kineticsの方は4、これは鼻腔ですから考えなくてよいという理由から、2.5にしたということではないかと思います。
○西川委員 分かりました。ありがとうございます。
 それから、3ページの106行目から。「層板状上皮癌」という、聞いたことのないがんの種類が書いてあり、これはいったい何かということと、107行目に「骨髄線維症白血病」とあり、このがんと白血病の2例なのか、骨髄線維症白血病の2例なのかよく分かりませんので、これは多分、がんはよいとして、「骨髄線維症/白血病」のようなケースじゃないかと思いますので、念のため確認をお願いします。
○大前座長 ありがとうございます。確かに層板状上皮がんというのは聞いたことがないですね。これは多分、字の誤り等ではないかと思うので、確認をお願いしたいと思います。
 その他いかがでしょうか。
 今の西川先生の指摘以外で、特にないようでしたら、一次評価値、二次評価値の事務局案は、これでよろしいでしょうか。
 はい、ありがとうございました。
 では、次の物質、スチレンにつきまして、御説明をお願いいたします。
○増岡化学物質評価室長補佐 それでは、資料1-2を御覧下さい。スチレンです。
 1ページ目、「1 物理化学的性質」、「(1)化学物質の基本情報」です。名称、別名、化学式、構造式、分子量、CAS番号は、記載のとおりです。労働安全衛生法施行令別表第9に収載の物質であるほか、特化則に定める特別有機溶剤、また、女性則、がん原性指針の対象物質にもなっております。
 次に「(2)物理的化学的性状」です。外観は無色から黄色の油状液体、比重は0.91、沸点が145℃、蒸気圧が0.67kPa(20℃)、蒸気密度が3.6(空気=1)、融点が-30.6℃、嗅覚閾値が0.04~0.32 ppm、引火点31℃、発火点が490℃、溶解性は20℃の水100mLに対して0.03 gなどとなっております。
 「(3)生産・輸入量、使用量、用途」ですが、生産量が2016年の推定で、1,947,843トン、輸入量が2016年で2,087トン、また別の推計かと思いますが、製造・輸入数量が1,822,104トンとなっております。用途としては、ポリスチレン樹脂、合成ゴム、不飽和ポリエステル樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、イオン交換樹脂、合成樹脂塗料となっております。製造業者は、28行目以下に記載のとおりです。
 「2 有害性評価の結果」です。
 「(1)発がん性」は、「ヒトに対しておそらく発がん性がある」としています。根拠はIARCワーキンググループの判断ということになると思いますが、最も参考になる研究では、急性骨髄性白血病の発生率が、累積スチレンばく露の増加に伴い、潜伏期間15年間を経て大きく増加した、などとヒトへの影響に関する報告があります。こういった報告を踏まえ、全体として、IARCワーキンググループは、疫学的研究は、スチレンへのばく露がリンパ造血器悪性腫瘍を引き起こすことについての信憑性のある証拠となるが、交絡、バイアス、又は偶然性を除外することはできないと結論付けています。一方、動物試験系では、CD-1マウスの吸入ばく露試験において、雌雄で気管支肺胞がんの発生率が増加したなどの報告があります。また、雌ラットにおける悪性乳腺腫瘍の発生率の増加などの報告もあります。これらの知見からIARCワーキンググループは、ヒトにおける限定された証拠と実験動物における発がん性の十分な証拠に基づき、スチレンをグループ2Aに分類しております。
 次の3ページ、(各評価区分)ではIARCが2Bとなっておりますが、これは2Aの誤りかと思います。そのほか、各機関において、79行目以下に記載のとおり分類されております。
 また、閾値につきましては、遺伝毒性の結論から、「なし」となっておりますが、発がんの定量的リスク評価については、調査した範囲内では、報告は得られていません。
 次に「(2)の発がん性以外の有害性」です。
 急性毒性は、ラットの経口毒性、吸入毒性、マウスの経口毒性、吸入毒性、ウサギの経皮毒性について、それぞれ99行目以下に記載のとおり、端数致死量等が示されております。
 次に、皮膚刺激性/腐食性です。ウサギを用いた試験において、皮膚の変性を伴う著しい刺激が認められたこと、1,300ppmにばく露したモルモットでは、約10%が数回のばく露後死亡し、急性炎症反応を特徴とする肺の刺激を示すといった病理的変化がみられたことから、「あり」としています。
 次に、眼に対する重篤な損傷性/刺激性です。ウサギを用いた試験で、スチレン原液の適用により、中程度の結膜刺激性及び一過性の角膜障害が観察されたほか、ラットやモルモットの吸入ばく露試験において眼や鼻に軽い刺激がみられたこと、ヒトについても高濃度スチレンによるヒト眼への刺激性の報告があることなどを根拠に「あり」としております。
 次の皮膚感作性、呼吸器感作性については、調査した範囲では情報は得られませんでした。
 反復投与試験毒性です。スチレンばく露のヒトの代謝に対する影響の報告から、LOAEL=50 ppmとされており、評価レベルは、LOAELからNOAELの変換を考慮し、5ページ、156行目の式から5 ppmと算出しております。
 次は、5ページの下の方になりますが、生殖毒性です。こちらはNOAEL=50 ppmとされています。妊娠したWistarラットを用いた吸入試験において、300 ppmばく露の親動物における体重増加抑制、妊娠期間の延長、死産児の増加がみられたこと、また、そのF1群において、大脳のホモバニリン酸及び5-ヒドロキシインドール酢酸濃度の減少、空中立ち直り反射、切歯萌出、開眼の遅延が認められたことから、生殖毒性「あり」としております。また、NOAELの50 ppmから種差等を考慮して、6ページ、194行目の式から評価レベルとして5 ppmを求めております。
 6ページ、遺伝毒性です。スチレンにばく露した労働者において、リンパ球の染色体異常及び姉妹染色分体交換がみられ、小核の増加はみられなかったこと、また、in vitroでは、ネズミチフス菌あるいは大腸菌を用いた復帰突然変異試験で、代謝活性化なしで陰性、代謝活性化ありで陰性と陽性の結果が、ヒトリンパ球を用いた姉妹染色分体交換試験及び染色体異常試験で代謝活性化なしで陽性の結果が、それぞれ得られたこと、それから、in vivoでは、姉妹染色分体交換試験については、マウスで陽性、ラットで陰性又は陽性の結果が、染色体異常試験では、マウス、ラットの骨髄細胞、リンパ球でいずれも陰性の結果が、マウス骨髄細胞による小核試験では陰性又は陽性の結果がそれぞれ得られたこと、また、DNA損傷性については、マウスの骨髄及びリンパ球で陰性、腎蔵、肝蔵、精巣及び脳細胞で陽性の結果が、マウス肝細胞を用いた不定期DNA合成試験では陰性の結果が得られたことから、これらの結果を総合的に評価し、遺伝毒性は「あり」とされています。
 次に、神経毒性です。スチレンによる神経影響は、親油性であることからその影響が持続する傾向にあり、色覚の障害や高周波数帯の聴力障害は、中枢神経系における神経路の機能低下を反映していること、濃度影響としては、20~100 ppmのスチレンばく露後には末梢神経伝達速度と知覚振幅の低下が起こることなどから、神経毒性「あり」としております。
 次に「(3)許容濃度等」です。ACGIHが、TLV-TWAとして20 ppmを勧告しております。ただし、こちらは現在、2 ppmへの変更が予告されております。まず、20 ppmの理由ですが、ヒトを対象とした管理された吸入試験及び労働環境におけるばく露による中枢及び末梢神経系への影響に関する研究結果をもとに、刺激の可能性を最小限にするため、TLV-TWAとして20 ppmが勧告されております。これを2 ppmに変更することが予告されています。スチレンばく露による聴力損失を調査した複数の研究報告があり、スチレンの平均レベル3.5~22 ppmという低ばく露でも、非ばく露対象と比較して統計学的に有意な聴力損失と関連していることが示され、現在の20 ppmのレベルでは、職業ばく露に伴う聴力損失のリスクがあるとして、2 ppmを予告しているものです。
 次に、産衛学会は20 ppmを勧告しております。こちらは、職場における研究結果から、1)50 ppmまたはそれ以上のばく露では末梢神経速度の遅れがおこり得る、2)25~50 ppm以上のばく露では、神経行動テストバッテリーのうち、数字符号テストや反応時間の遅れが現れる、また、3)50 ppm以下の比較的低濃度のばく露でも後天性の色覚傷害がおこり得る、とされている。視覚や末梢神経及び中枢神経系の機能障害が、平均的なばく露濃度又は最大ピーク濃度のどちらと密接に関連しているのかは、現在までのところ必ずしも明らかでないが、以上のデータに基づいて、ばく露による神経機能障害を引き起こす可能性がないであろう濃度として20 ppmが提案されております。
 そのほかDFGのMAKが20 ppmを勧告しているほか、7ページ、270行目以下に記載のとおり、各機関から許容濃度等が示されております。
 「(4)評価値」です。発がん性が疑われ、遺伝毒性があり、閾値がない場合に該当しますが、ユニットリスクに関する情報が得られず、生涯過剰発がん1×10-4レベルに相当するばく露濃度が設定できないため、一次評価値は「なし」としております。二次評価値につきましては、産衛学会が勧告する許容濃度、ACGIHが勧告するTLV-TWAの20ppmを採用しております。この値は、スチレンの管理濃度にも該当するものですが、先ほど御説明したように、ACGIHにおいてはTLV-TWAを2 ppmへ変更することを予告しておりますので、20ppmを採用することについての是非についても御検討をお願いしたいと考えております。
 以上でございます。
○大前座長 ありがとうございました。
 参考資料2-2、2ページでなるACGIHのドキュメンテーションにスチレンのことについて書いてあります。その最後に、TLV-TWAを2ppmへ下げるという予告が書いてあります。これは、2018年にNotice of Intended Changeという形でもう表に出ているのでしょうか。まだ、決まってはいないと思いますが。
 まだ出ていないのですね。では、この文書が発表されただけという状況のようです。この2ページの文書が出て、今後下げるだろうということだけで、現段階ではまだ正式なドキュメンテーションは出ていないということだそうです。
 そういう状況ですから、ACGIHが2 ppmに決まった際、もう一度検討する可能性はあると思いますが、現段階ではまだそこには至っておらず、産衛学会、ACGIH、DFG MAKは全て20 ppmという数字が出ておりますので、二次評価値として20ppmを採用するという点については、皆さん御異存ないと思います。
 その他の点で、御意見、御質問はいかがでしょうか。
○西川委員 細かい字の誤りなどはいくつかありますが、全てについては指摘しません。ただ、2ページの51行目、55行目に「気管支肺胞腺腫」と書いてありますが、「細」が必要です。別添資料にはきちんと「細」が付いていますので、「気管支」の前に「細」を付け加えてください。
○大前座長 ありがとうございます。細気管支肺胞腺腫というように「細」が付きますので、よろしくお願いいたします。
○江馬委員 174行目から175行目にかけて、「マウスにおける……」という文章が少し分かりにくく、ここは「マウスにおけるLOAELは50 ppmと判断した」という意味ではないのでしょうか。鼻腔の影響ではNOAELが設定できないけれども、その他の指標(肝毒性及びクララ細胞の増殖亢進)のLOAELは50 ppmだろうと思いました。
○大前座長 5ページ、158行目の(参考)のところ、159行目のLOAELが50ppmとありますので、当然そういう意味だと思います。ここは文章を少し分かりやすく直していただきたいと思います。
○江馬委員 それから、これはよく分からないのですが、生殖毒性のところの引用文献が、妊娠6~20日にスチレン50 ppm、300 ppmの2ドーズで、親動物が9~14匹と、F1群も非常に低いのですが、有害性評価書(改訂)、資料1-2別添2ですが、その29ページ「オ. 生殖・発生毒性」のところを見ますと、吸入ばく露の欄、一番上、Cruzanらの文献、2005年のa、bに2世代繁殖試験と、発生毒性試験の研究結果が載っています。これもNOAELが50 ppmだと思います。こちらの方が適当ではないかと感じたのですが。
○大前座長 評価書の何行目でしょうか。
○江馬委員 別添2有害性評価書(改訂)、29ページ、220行目から229行目の研究結果です。資料1-2リスク評価書(案)に根拠として記載のある(5ページ、184行目以下)のは、一番下、29ページ、236行目から記載のあるKatakuraらの2001年の論文です。最初に載っている論文の方が新しいですし、動物数も多いし、ドーズも3ドーズとっています。結果は同じだと思うので、こちらの方がよいのではないかと思いました。
○大前座長 220行目以下に記載の試験の方が、引用するには適切ではないかという御意見です。ありがとうございます。今の江馬先生の御意見、いかがでしょうか。
 確かに、220行目は3ドーズで2005年、根拠として引用している236行目から記載のデータは、2ドーズで2001年のデータです。220行目以下に記載の3ドーズの方を引用した方がよいのではないかという御意見ですが。
 3ドーズの方で150 ppmにも少し所見がありますから、NOAEL=50ppmでよいわけです。では、こちらの方に差し替えをするということにしたいと思います。よろしくお願いいたします。
 その他、御意見いかがでしょうか。
 現在、ACGIHが変更を検討しているようですが、現段階ではそれを採用することはできないので、二次評価値は20ppmにするということでよろしいでしょうか。もし、ACGIHが2ppmに変更した場合は、また新たに検討する必要があるかもしれませんが、現段階では、20ppmという値をこの委員会では採用するということでよろしくお願いいたします。
 では、3物質目、テトラクロロエチレンをよろしくお願いいたします。
○増岡化学物質評価室長補佐 それでは、資料1-3を御覧ください。テトラクロロエチレンです。
 まず、「1 物理化学的性質」です。
 「(1)化学物質の基本情報」で、名称、別名、化学式、構造式、分子量、CAS番号等については記載のとおりです。こちらの物質は労働安全衛生法施行令別表第9に収載の物質であるほか、特化則に定める特定有機溶剤、がん原性指針の対象物質、女性則の対象物質にもなっております。
 次に「(2)物理的化学的性状」です。外観は特徴的な臭気のある無色の液体、密度は1.62 g/cm3、沸点は121℃、蒸気圧は20℃で1.9 kPa、蒸気密度が5.7(空気=1)、融点が-22℃、嗅覚閾値が5~50 ppm。引火点は情報なし。発火点は650℃より高く、溶解性については20℃の水100 mLに対し0.015 gなどとなっております。
 「(3)生産・輸入量、使用量、用途」ですが、生産量のデータは得られませんでした。製造・輸入数量は平成28年度で8,497トン。用途は、ドライクリーニング溶剤、フロンガス製造、原毛洗浄、溶剤(医薬品、香料、ゴム、塗料)、セルロースエステル及びエーテルの混合物溶剤、金属機械部品などの脱油脂洗浄です。製造者は、2ページ、32行目に記載のとおりです。
 「2 有害性評価の結果」です。
 「(1)発がん性」です。F344系ラットを用いた104週間の吸入ばく露試験において、雌雄の脾臓の単核細胞性白血病の発生の増加が認められたこと、また、マウスを用いた104週間の吸入ばく露試験において、雄で肝細胞がん、肝細胞腺腫、ハーダー腺の腺腫、雌で肝細胞がん及び肝細胞腺腫の発生の増加が認められたことから、これらを根拠に、「おそらく発がん性がある」とされております。各評価区分は、IARCが2Aとするほか、2ページ、52行目以下に記載のとおり、各機関において発がん性の分類がなされております。
 次に、閾値ですが、遺伝毒性の判断を根拠として「なし」となります。こちらは、ユニットリスクが2.6×10-7per µg/m3となっており、この値を基に労働補正を行った上で、労働補正後の発がんの過剰発生リスク(10-4)に相当するばく露濃度を求めますと、0.282 ppmとなります。
 「(2)発がん性以外の有害性」です。
 急性毒性については、ラットの吸入毒性、経口毒性、マウスの吸入毒性、経口毒性、ウサギの経皮毒性に関し、それぞれ3ページ、79行目以下に記載のとおり半数致死量等が示されております。
 次に、皮膚刺激性/腐食性ですが、テトラクロロエチレンが染み込んだ衣類を着用して意識消失した作業者で、広範囲な発赤及び水疱形成がみられたことから、「あり」としております。
 眼に対する重篤な損傷性/刺激性については、520~550 mg/m3の蒸気に数分間ばく露したボランティアの被験者において、一時的で軽度な眼の刺激が報告されたことから「あり」としております。
 次に、皮膚感作性です。パッチテストでアレルギー性皮膚炎が2例確認されております。また、モルモットを用いた試験では、皮膚感作性が観察されませんでした。また、別のモルモットを用いた試験では、弱い感作性がみられましたが、低分子に対する作用機序を考慮すると感作性物質ではないとの考察があります。以上から、「判断できない」としております。
 呼吸器感作性ですが、ドライクリーニング施設で2年間働いていた女性において、喘息を発症していたこと、また、18歳の男子学生は長期のばく露に引き続き、重度の呼吸困難、咳、胸部圧迫感を伴う急性喘息エピソードを経験したこと、0.25 mL/kg/日を2日間摂取した小児にアナフィラキシー反応がみられたことから、「判断できない」としております。
 次に、反復投与毒性です。29軒のドライクリーニング店、57人の作業者グループに対しての調査で有意な影響がみられ、その際に、ドライクリーニング作業者の生物学的モニタリングによるばく露濃度が10.3 ppmということからLOAELは10.3 ppmとされております。そこから、LOAELからNOAELへの変換等を考慮し、4ページ、130行目の式には誤りがありますが、評価レベルとしては1.03 ppmという値を求めております。
 次に、生殖毒性です。妊娠したラットを用いた吸入ばく露試験(テトラクロロエチレンの濃度、0、65、249、600ppm)において、249 ppmで母体胎盤重量の低下、また、高濃度になりますと、母動物の一時的な体重減少ならびに胎盤及び子宮重量の低下がみられ、これらが平均胎児体重の減少と相関していたこと、また、胎児については既存対称群の範囲外の不完全な胸椎骨化の発生頻度の増加が見られたことから、母毒性のNOAELは249 ppm、発生毒性のNOAELが65 ppmとされております。こちらから種差等を考慮し、5ページ、160行目の式から評価レベルとして4.9 ppmという値が求められております。
 次に、遺伝毒性です。トリクロロエチレンが微量混入したテトラクロロエチレンに職業的にばく露したヒトにおいて、リンパ球の染色体異常の頻度は高く、陽性と判断されております。一方、in vitro、in vivoの多くの試験では、陰性の結果が得られておりますが、遺伝毒性については「あり」としております。
 次は、神経毒性です。ドライクリーニング業者が入居した各々別の2つのビルのアパート住民と、ドライクリーニング業者が入居したビルのデイケア従業員で、神経学的機能を評価した結果から、LOAELは0.2 ppmと評価されております。このLOAELからNOAELの変換等を考慮しまして、6ページ、211行目の式から評価レベルは0.02 ppmと求めております。
 次に、「(3)許容濃度等」です。ACGIHがTLV-TWAとして25 ppmを勧告しております。100~200 ppmでの長期ばく露で生じる不快感や主観的な愁訴(頭痛など)を最小限にする安全マージンを確保するために、25 ppmを勧告するとしております。また、産衛学会では、現在「検討中」です。また、DFGがMAKとして10 ppmを勧告しております。こちらは、テトラクロロエチレンにばく露した労働者の肝臓及び腎臓への影響に関する研究に基づくと、平均約10~20 ppmのばく露濃度で明確な有害影響はなく、慢性職業ばく露に関するヒトの研究から、神経毒性のNOAELが20 ppmと推定されております。また、1日4時間反復ばく露したボランティアの試験において、10 ppmでは影響はみられず、影響が弱いLOAELよりも5倍の違いがあるとして、20 ppmがNOAELとされております。こちらの被験者は、4時間ばく露しましたが、職業環境においては倍の摂取が予想されるとして、その半分ということで、DFGはMAKとして10 ppmを勧告しております。
 以上から、「(4)評価値」です。発がん性が疑われ、遺伝毒性があり、閾値がない場合に該当することから、1×10-4レベルに相当するばく露濃度である0.282 ppmを一次評価値としております。また、ACGIHが勧告するTLV-TWAを二次評価値としております。これは管理濃度にもなっております。一方、ACGIHのTLV-TWAは、1993年に25 ppmが勧告されておりますが、その後、DFGが2016年にMAKとして10 ppmを勧告しておりますので、DFGの方が新しい勧告となります。この新しい値を採用すべきか否かという点についても御検討いただきたいと考えております。
 以上でございます。
○大前座長 ありがとうございました。
 テトラクロロエチレンですが、まず、2ページ、65行目のユニットリスク、これはIRISからもってきていますので、EPAのユニットリスクであるということを明示しておいてください。
 それから、4ページ、115行目の0.25 mL/kg/日を2日間摂取した小児のアナフィラキシー反応ですが、これは呼吸器感作性ではありませんので、この1行は削除してください。
 それから先ほども御指摘がありましたが、130行目のところ、数字が1.03ではなく10.3からの計算ですから、これは修正をお願いいたします。
 事務局からありましたように、DFG MAKが2016年に10ppmという値を新しく出しており、別添2有害性評価書の方を見ると結構、神経毒性の記載がたくさんあります。このMAKの値は妥当なところと思いますが、そのあたりも含めて、皆さん、御意見はいかがでしょうか。ACGIHのTLV-TWAが1993念で古いという点もございます。
○宮川委員 これは、ACGIHの勧告が1993年で古いということと、産衛学会がないことから、前回と同様に、新しいDFG MAKの値をとるのがよいような気がいたします。
○西川委員 同じ意見です。ACGIHの値は、神経と肝臓に対して設定したものですが、DFG MAKの場合も神経毒性及び肝臓について考慮しています。したがって、より新しいDFG MAKの方がよいのではないかと思いました。
○大前座長 その他、いかがでしょうか。別添2有害性評価書、31ページ、ク.神経毒性の欄には、その他の神経系の毒性が記載してありますが、この場合はDFGの方がより適切であると思います。いかがでしょうか。
 では、二次評価値はDFG MAKの値を採用するとして、その他のところで、御意見、御質問はいかがでしょうか。
 よろしいでしょうか。
 では、先ほどの若干の修正と、二次評価値としては、DFG MAKの値10ppmを採用するということで決定したいと思います。ありがとうございました。
 では、次はトリクロロエチレン、よろしくお願いいたします
○増岡化学物質評価室長補佐 では、資料1-4を御覧下さい。トリクロロエチレンです。
 まず1ページ目、「1 物理化学的性質」の「(1)化学物質の基本情報」です。名称、別名、化学式、構造式、分子量、CAS番号につきましては、記載のとおりです。労働安全衛生法施行令別表第9に収載の物質であるほか、特化則の特別有機溶剤、がん原性指針の対象物質、女性則の対象物質にもなっております。
 「(2)物理的化学的性状」です。外観は特徴的な臭気のある無色の液体、密度は1.5 g/cm3、沸点は87℃、蒸気圧は20℃で7.8kPa、蒸気密度は4.5(空気=1)、融点は-86℃、引火点は不明で、発火点が410℃、溶解性は20℃の水100 mLに対して0.1gなどとなっております。
 「(3)生産・輸入量、使用量、用途」です。製造・輸入数量は平成28年度の数値で43,071トン。用途は金属機械部品などの脱油脂洗浄、フロンガス製造、溶剤(生ゴム、塗料油脂、ピッチ)、羊毛の脱脂洗浄、皮革・膠着剤の洗剤、繊維工業、抽出剤(香料)、繊維素エーテルの混合となっております。製造業者は、30行目に記載のとおりです。
 「2 有害性評価の結果」です。
 「(1)発がん性」は、「ヒトに対する発がん性が知られている」としてります。こちらはヒト疫学調査において、トリクロロエチレン作業者に腎臓がん、肝臓がん、非ホジキンリンパ腫が増加した等の報告があり、実験動物においては、マウスに肝細胞がんや肺腫瘍、ラットに腎尿細管腺腫/腺がんが生ずることが示されております。各機関におきましては、IARCがグループ1としているほか、2ページ、42行目以下に記載のとおり、発がん性について分類がされております。
 また、遺伝毒性が「判断できない」ことから閾値の有無も「判断できない」となっております。
 「(2)発がん性以外の有害性」です。
 急性毒性については、ラットの吸入毒性、経口毒性、マウスの吸入毒性、経口毒性、ウサギの経口毒性として、それぞれ2ページ、54行目以下に記載のとおり半数致死量等が示されております。
 次に、皮膚刺激性/腐食性です。トリクロロエチレンとの反復皮膚接触は、脱脂を引き起こす他の溶媒と同様に、肌荒れ、ひび割れ、紅斑を生じ、また、手をトリクロロエチレン液に30分間浸したところ、30分近くになるにつれ、焼けつくような痛みを生じ、手甲に中等度の紅斑が認められたなどということから、刺激性「あり」となります。
 次に、眼に対する重篤な損傷性/刺激性ですが、トリクロロエチレン液が眼に入り、眼の痛みと角膜上皮の損傷を生じたが、数日後には完治したということから、「なし」としております。
 次に、皮膚感作性です。モルモットを用いたMaximization testで感作率が66%であったこと、雌モルモットによる同様のテストで皮膚アレルギーがみられたこと、ヒトについても印刷工が蒸気を吸引し、吐き気と頭痛を訴え、それ以外にも顔面の紅皮症、眼の浮腫、頭部の脱毛が生じたこと、及び、刃物製造工場で8年間勤務した女性労働者が作業中、全身に激しい強い痒みを感じる等があったことなどから、皮膚感作性「あり」としております。
 呼吸器感作性については、ヒトに対する呼吸器感作性に関する報告がなかったことから「判断できない」としております。
 反復投与毒性です。マウス、ラットを用いた発がん性試験において、ラットに104週間の吸入ばく露をして、腎臓への影響を検討したところ、雄ラットのみ腎尿細管のカリオメガリーが認められた(300ppmで20%、600ppmで78%の発生率)ことから、腎毒性に対するNOAELは100 ppmとされております。ここから種差等を考慮して、4ページ、125行目の計算式から、評価レベルを8.75 ppmと算出しております。
 次に、生殖毒性です。妊娠したラットを用い、トリクロロエチレン100 ppmを吸入ばく露させたところ、非ばく露群と比べ、胎児吸収の増加、児体重の減少及び骨格形成異常の増加が認められたということから「あり」となります。LOAELは100 ppmとされ、種差やNOAELへの変換係数を考慮して、4ページ、137行目の式から、評価レベルは0.5 ppmとなります。
 5ページ、185行目のところ、遺伝毒性です。遺伝毒性試験については、in vitroでは、復帰突然変異試験や遺伝子突然変異試験の代謝活性化なしで陰性、代謝活性化ありで陽性、陰性の両方の結果が、姉妹染色分体交換試験で弱い陽性、染色体異常試験で陰性が、また、in vivoでは、姉妹染色分体交換試験、小核試験、不定期DNA 試験などでいずれも陰性、ラット(経口投与)のコメットアッセイにおいて、一部の測定ポイントで陽性、ヒトにおいて妹染色分体交換が増加した報告はあるものの、症例数が少なく、陰性の報告あり、以上を総合的に勘案して、遺伝毒性については「判断できない」としております。
 6ページ、続きまして、神経毒性です。トリクロロエチレン脱脂槽を用いる作業所の50人の作業者を対象とした健康調査において、多くの作業者において中枢神経系関連の所見が見られ、自律神経系への影響を示唆するような障害も報告されていること、過呼吸、循環器、心拍動及び消化管の異常が含まれ、それらは40 ppm以上の濃度でばく露した場合に高い頻度で生じていたこと、また、動物実験において、誘発脳波、行動、脳組織等において影響が報告されていること、これらを踏まえて、神経毒性「あり」としております。
 次に、「(3)許容濃度等」です。ACGIHは、TLV-TWA=10ppmを勧告しております。トリクロロエチレンのヒトへのばく露において、100 ppm以上の濃度で眩暈や倦怠のような可逆性の中枢神経系の影響を引き起こしたということ、また、高濃度(数百から数千ppm)の長期間のばく露は、腎臓がんの発生頻度を増加させるということから、TLV-TWAの10 ppmは、トリクロロエチレンの中枢神経系影響及び腎毒性とがんを含む他の影響の可能性から保護するとされております。
 次に、7ページ、産衛学会は、25 ppmを許容濃度として勧告しております。こちらは、低濃度の長時間ばく露をした場合の主たる健康影響が、中枢神経あるいは自律神経系の影響であり、また、基本的な考え方として、神経影響が現れない濃度においては、神経毒性以外の毒性(発がん性、肝毒性、腎毒性など)も起こらないという考えに基づいています。根拠は、トリクロロエチレンのばく露を受けている作業者であるヒトに対するものです。
まず一つ目は、スウェーデンにおける結果です。代謝物であるトリクロロ酢酸(TCA)の排泄量が、連続して20 mg/L以下であれば当該物質の明らかな自覚的神経影響は現れないとされており、この濃度が物質としては10 ppm以上30 ppm以下のばく露に相当するところから、30 ppmが許容濃度であると結論付けられております。
 次に、二つ目、中国の工場におけるばく露した労働者についての評価結果です。頭重感、記憶低下等を訴える者が51~100 ppmの群で多かったこと、また、悪心を訴えるものは量-反応的に増加し、11~50 ppm>1~10 ppmであったことから、中枢神経に対する影響が50 ppm近辺で現れるとされております。
 次に、三つ目、印刷工31名に対する調査です。ばく露群で腓腹神経電導度の遅延と反応潜時の延長等が認められたことに基づき、長時間にわたる35 ppmのばく露で影響を受ける可能性があるとしております。
 以上のヒトに対する各種調査があり、これらの調査結果から、産衛学会は許容濃度50 ppmでは影響が現れる可能性が大きいと判断し、25 ppmに改定しております。
 そのあと、8ページ、273行目の括弧書きをご覧下さい。産衛学会は1997年に許容濃度を提案しておりますが、本物質の発がん性分類が1996年提案の2Bから2015年提案の1に変更されており、許容濃度の提案時点においては発がん性を前提にしていないこととなります。その点については留意が必要である旨を記載しております。
 この他、DFGのMAK等における許容濃度等の設定状況につきましては、8ページ、278行目以下に記載のとおりでございます。
 以上を踏まえ、「(4)評価値」です。発がん性が知られているものの、遺伝毒性が判断できず、閾値の有無が判断できないことから数値としては求められず、一次評価値は「なし」となります。また、ACGIHが勧告しているTLV-TWAを二次評価値としております。
 以上でございます。
○大前座長 ありがとうございました。
 1ページ、29行目のところ、「繊維素エーテル」とあります。これは、前のテトラクロロエチレンでは、「セルロースエーテル」と書いてありましたのでセルロースエーテルに修正してください。
 また、4ページ、120行目、「EU RARは腎毒性に対するNOAELを100 ppmとしている」の部分は削除してください。
 御提案は、産衛学会の方が1997年で、1990年代半ば頃にドイツ辺りで腎臓がんが見つかっており、この1997年の提案はがんに関してはあまり考慮していないということです。したがって、がんについて考慮しているACGIHの値を採ったらいかがかという提案です。今の二次評価値のことも含めて何か御意見、御質問はいかがでしょうか。
○西川委員 IARCにおいても2014年にグループ1になっております。したがって、ヒトに対する発がん性を考慮した、より新しいACGIHの評価の方がよろしいかと思います。
○清水委員 4ページ、146行目、ここに「表14」と入っていますが、これは削除した方がよいと思います。「毒性所見を示した」でよいと思います。
○大前座長 削除をお願いいたします。
○宮川委員 3ページ、73行目の眼に対する重篤な損傷性/刺激性で「なし」と書いてあります。ここに引用されているだけでも「眼の痛みと角膜上皮の損傷」と書いてあり、有害性評価書の方にも動物試験の結果が書いてあります。これは、GHSの基準に従って判断するとすれば、少なくとも「なし」というものではなく、刺激性があるような気がしますので、正確に判断できないのであれば「判断できない」、あるいは、「あり」という考え方でもよいのかもしれません。刺激性と損傷性を分けずに記載しているので、書き方は少し難しいと思います。
○大前座長 別添1有害性総合評価表あるいは別添2有害性評価書の方は、どのように書いてあったのでしょうか。
○宮川委員 有害性総合評価表は多分同じ、このとおりだと思います。
○大前座長 「なし」になっているということでしょうか。
○宮川委員 資料1-4別添2、24ページ、164行目以下、トリクロロエチレンの有害性評価書(改訂)の動物のところで、ウサギの眼に適用したところ、軽度から中等度の結膜炎で、7日後に上皮性角化症が認められた、とあります。その後回復しているので、少なくとも腐食性ではないと思いますが、刺激性「あり」と判断できるようにも考えられます。「判断できない」か、あるいは「あり」にして、少なくとも「なし」にしない方がよいような気がいたします。
○大前座長 そうですね。おそらく評価表の方は、ヒトのデータで治ったので「なし」にしたのかもしれませんが、動物の方の所見もあるので、では、これは眼に対する重篤な損傷性/刺激性について、「重篤な」に該当するかという点もありますが、「判断できない」がよいでしょうか。
○宮川委員 「判断できない」で結構だと思います。従前、ここは「刺激性」と「腐食性」、あるいは重篤な損傷性であるのかを分けて書いていたと思いますが、今年度は、ここを区別せず「あり」「なし」だけでやっていますので。
○大前座長 少なくとも「なし」ではないと、したがって「判断できない」ということでよろしいでしょうか。
 ありがとうございます。
 
○江馬委員 5ページ、171行目からのところ、この実験は非常に広い投与範囲でやっており、その実験結果からは、NOAELの値が2.5 ppbになると思います。ここでは、LOAELを250 ppbにしていますが、これでは投与範囲が広すぎてNOAELを判断できないという文章にはできないのでしょうか。
○宮川委員 171行目のところですね。これは、(参考)になっていますが、実は問題になった論文で、先生も御存知だと思うのですが、元の論文に全体の実験データがあるわけではなく、当初は、高い投与量の方だけでやっています。その後、部分的に追加してコントロールの値も取り、更に影響がありそうだということで投与量の低い方もやって、一つにまとめています。初めは高い投与量の実験だけで報告が出ており、その後、まとめた論文が同じグループの別の人、第一著者ですが、その人から出ていたので使えるか否かが問題になったものです。EPAもこのデータの使用については相当考えたらしく、パーソナルコミュニケーションなどを通して細かいデータも集めて評価した結果、トータルとしてある程度このデータが使えそうだと結論した論文がつい最近、去年ぐらいに出ています。
 それから、数年前に食品安全委員会がこの論文を使い、そのときはおそらく、そのままこれをLOAELやNOAELとして使うのは難しいと思ったのか、トータルが出ているデータを外挿する形でベンチマークドーズを求め、そこから基準値を作るという方法を採っています。
 この会議でベンチマークドーズを使うことにした記憶はありませんが、食品安全委員会が使っているのであれば、そうした方法をNOAELやLOAELの代わりに使うという方法もあるのではないかと思い、リスク評価書の原案を作ったときに議論になり、(参考)として記載しておくことになったという経緯がございます。
○大前座長 ここには、非常に低い濃度における心臓への影響に関する記載がありますが、従前のデータでは心臓への言及はありません。突然これが出てきて、しかも非常に低い濃度で出てくるので、データの信頼性の判断がしにくいといいますか、そのようなところがある文献です。
○江馬委員 非投与群(0 ppb)胎児の心臓異常の割合で16.4%という値が出ていますから、実験が適正か否かについても疑問が残ると思います。
○大前座長 以上のようなこともあり、このデータがあるので載せなければなりませんが、採用するのは難しいということで(参考)として掲載しています。
○宮川委員 多分、評価をしているグループは、普通の毒性試験の機関ではなく、汚染地域の存在する大学の先生、特に心臓系の先生等が中心になって調べていますので、その当時としては相当詳しく、通常は見ないようなところを見たのかもしれません。飲水投与による心臓への影響が出てきますが、結論としてはそちらを採らず、吸入ばく露によるデータの方にしたのは、この検討会では、吸入ばく露の方を優先するという原則があったからであると思います。参考情報としてはよろしいのではないかという気がいたします。
○大前座長 そういうことで(参考)として提示しております。
 その他、よろしいでしょうか。
 では、トリクロロエチレンに関しましては、ACGIHの値を二次評価値として採用し、産衛学会の値は古いので採用しない、ということでよろしいでしょうか。
 はい、ありがとうございました。
 では、最後の物質、MIBK、メチルイソブチルケトンをよろしくお願いいたします。
○増岡化学物質評価室長補佐 では、資料1-5を御覧ください。メチルイソブチルケトンです。
1ページからです。「1 物理化学的性質」の「(1)化学物質の基本情報」です。名称、別名、化学式、構造式、分子量、CAS番号につきましては記載のとおりです。また、こちらの物質は労働安全衛生法施行令別表第9に収載の物質であるほか、特化則に定める特別有機溶剤、がん原性指針の対象物質となっております。
 「(2)物理的化学的性状」です。外観は特徴的な臭気のある無色の液体、比重は0.80(水=1)、沸点は117~118℃、蒸気圧は20℃に対して2.1kPa、蒸気密度が3.45(空気=1)、融点は-84.7℃、嗅覚閾値が0.3~0.7 ppm、引火点が14℃、発火点が460℃、溶解性は20℃の水100 mLに対して1.91 gなどとなっております。
 「(3)生産・輸入量、使用量、用途」です。生産量は、2016年の推定で51,075トン、製造・輸入数量は、平成28年度の数字で56,444トンとなっております。用途は、硝酸セルロース及び合成樹脂、磁気テープ、ラッカー溶剤、石油製品の脱ロウ溶剤、脱油剤、製薬工業、電気メッキ工業、ピレトリン、ペニシリン抽出剤です。また、製造業者は、1ページ、29行目に記載のとおりです。
 「2 有害性評価の結果」です。
 「(1)発がん性」です。F344/Nラットへの104週間の全身吸入ばく露試験において、腎尿細管腺腫、及び、腎尿細管腺腫又は腎尿細管腺がんが1,800 ppmの雄で有意に増加したこと、及び、B6C3F1マウスに対する105週間の吸入ばく露試験において、肝細胞腺腫、及び、肝細胞腺腫又は肝細胞がんが1,800 ppmの雌雄で有意に増加したことから、「ヒトに対する発がん性が疑われる」としております。各機関の評価区分ですが、IARCが2Bとしているほか、2ページ、45行目以下に記載のとおりです。
 閾値については、遺伝毒性の判断を根拠として「あり」となっており、先ほど御紹介した試験の結果から、NOAEL=900 ppmを用い、種差、がんの重大性等を考慮して、63行目の式から評価レベルは6.75 ppmと算出されます。
 「(2)発がん性以外の有害性」です。
 急性毒性については、ラットの吸入毒性、経口毒性、マウスの吸入毒性、経口毒性、ウサギの経皮毒性につき、2ページ、68行目以下に記載のとおり半数致死量等が示されております。
 次に、皮膚刺激性/腐食性ですが、ウサギを用いた皮膚刺激性試験で軽度の刺激性を示し、紅斑を生じたということから「あり」としております。
 次に、眼に対する重篤な損傷性/刺激性ですが、ウサギの眼刺激性試験で中程度の刺激性が示されたこと、また、ヒトのばく露でも眼の刺激性が200 ppm以上の濃度で報告されていることから、「あり」としております。
 皮膚感作性、呼吸器感作性については調査した範囲では情報が得られておりません。
 反復投与毒性です。雌雄のラット及びマウスを用いた14週間の吸入試験において、1,000 ppmまで優位な毒性影響が見られなかったことからNOAELは1,000 ppmとされております。ここから種差等を考慮し、3ページ、101行目の式を用いて算出し、評価レベルとしては75 ppmとなります。
 次に、生殖毒性です。ラット及びマウスによる催奇形性試験の報告において、重度の母体毒性が認められた濃度(3,000 ppm)で胎児毒性がみられたが、催奇形性はみられなかったこと、一方、ラットでの二世代試験の報告では、母動物に影響がみられた濃度(2,000 ppm)で、F1及びF2世代に影響はみられなかったことから、生殖毒性は「判断できない」としております。
 次に、遺伝毒性です。まず、in vitro試験系において、細菌を用いた復帰突然変異試験で代謝活性化系の有無にかかわらず陰性であったこと、L5178Y/TK+/- マウスリンパ腫細胞を用いる遺伝子突然変異試験では、代謝活性化系添加で陰性であったが、無添加では高用量で遺伝子突然変異の発生頻度が有意に増加したものの用量相関はなかったこと、また、ラット初代培養肝臓細胞を用いた不定期DNA合成試験、及び、ラット肝臓細胞RL4を用いる染色体異常試験でも陰性であったこと、一方、in vivo試験系ではマウスを用いた小核試験で骨髄細胞に小核を誘発しなかったことから、遺伝毒性は「なし」としております。
 神経毒性です。男女6人にばく露(2時間、10mg/m3(2.4ppm)及び200mg/m3(49ppm))させたところ、10 mg/m3を比較対象として心拍数、SRT、単純計算テスト(RTadds)に影響はなかったものの、ばく露による中枢神経症状(例えば、疲労感)の発症の強さが200 mg/m3でより増加したということから、神経毒性「あり」で、NOAELは2.4 ppmとされております。ここから、4ページ、150行目の式により、評価レベルとして0.6 ppmを求めております。
 次に、「(3)許容濃度等」です。ACGIHはTLV-TWAとして20 ppmを勧告しております。ボランティアによるばく露試験で、200 mg/m3(49 ppm)の90~120分ばく露により、中枢神経症状の発生とその強さの増加がみられたことから、20 ppmが勧告されております。
 次に、産衛学会は、許容濃度50 ppmを勧告しております。こちらは、200 ppmの15分間ばく露で不快を感じる人が多数であったこと、1日8時間のうち20~30分の遠心分離作業でばく露を受けていた労働者の過半数が脱力感等を訴えたということ、ラットを用いた2週間のばく露試験において、100 ppm群で腎臓重量の絶対的及び相対的増加、200 ppmで肝臓と腎臓の絶対的及び相対的重量増加、90日ばく露でも肝臓及び腎臓の相対的重量増加が認められたことを根拠としております。
 また、DFGのMAKは20 ppmとされているほか、各機関においては、6ページ、196行目以下に記載のとおりの許容濃度等が示されております。
 「(4)評価値」です。発がん性が疑われ、遺伝毒性がなく、閾値がある場合に該当することから、動物試験から導き出された評価レベルの6.75 ppmを一次評価値としております。また、二次評価値につきましては、ACGIHが20 ppmを勧告しておりますので、こちらを採用しております。
 以上でございます。
○大前座長 ありがとうございました。
 御意見いかがでしょうか。
 1,800 ppmという随分高い濃度で発がんがあり、NOAEL=900ppmから計算すると6.75ppmになるということです。二次評価値は産衛学会のデータが相当古いので、ACGIHの値でよいと思います。
 よろしいでしょうか。
 では、どうもありがとうございました。
 それでは、本日予定しておりました5物質の検討は終了いたしました。
 その他の事項につきまして、事務局から説明をお願いいたします。
○増岡化学物質評価室長補佐 では、資料2を御覧いただきたいと思います。
 今後の予定です。第6回を1月15日火曜日の午前10時から予定しております。こちらも引き続きリスク評価対象物質の有害性評価についてお願いしたいと考えております。
 以上でございます。
○大前座長 1月15日午前10時からの本会議を予定しておいていただきたいと思います。
 その他、特に事務局ございませんか。
 では、本日の有害性評価小検討会を閉会いたします。ありがとうございました。