平成30年度第1回化学物質のリスク評価検討会(有害性評価小検討会)議事録

厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課化学物質評価室

日時

平成30年8月10日(金)15:00~15:53

場所

経済産業省別館238各省庁共用会議室

議題

  1. がん原性試験結果の評価について
    1. メタクリル酸ブチル
  2. その他

議事

 
○増岡化学物質評価室長補佐 定刻となりましたので、ただ今より平成30年度第1回有害性評価小検討会を開催いたします。本日は、大変お忙しい中、御参集いただきまして誠にありがとうございます。
まず、委員の異動につきまして御報告いたします。西川委員に代わりまして、国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センターの平林先生が就任されましたので、御報告申し上げます。西川先生には特別参集者として引き続き当検討会に参画していただけることになりましたので、よろしくお願いいたします。
本日の委員の出席状況ですが、津田委員と吉成委員は所用により御欠席となってございます。
また、このたび事務局にも異動がありましたところ、出席者について紹介をさせていただきます。
化学物質対策課長の塚本でございます。
〇塚本化学物質対策課長 7月31日付けで化学物質対策課に異動になりました塚本です。よろしくお願いいたします。
○増岡化学物質評価室長補佐 化学物質評価室長の川名です。
〇川名化学物質評価室長 川名でございます。よろしくお願いいたします。
〇増岡化学物質評価室長補佐 有害性調査機関査察官の岩村です。
〇岩村有害性機関査察官 岩村でございます。よろしくお願いいたします。
〇増岡化学物質評価室長補佐 評価係長の大内です。
〇大内評価係長 大内と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
〇増岡化学物質評価室長補佐 私が室長補佐をしております増岡と申します。よろしくお願いいたします。
それでは、早速ですが座長の大前先生に、以下の議事進行をお願いいたします。
〇大前座長 それでは議事進行をいたします。どうぞ御協力のほど、よろしくお願いいたします。
それでは最初に事務局から資料の確認をよろしくお願いいたします。
○増岡化学物質評価室長補佐 それでは配布資料でございます。
まず、資料1-1-1、「メタクリル酸ブチルのラットを用いた吸入によるがん原性試験結果」、資料1-1-2としまして、「メタクリル酸ブチルのマウスを用いた吸入によるがん原性試験結果」、資料1-2-1として、「メタクリル酸ブチルのラットを用いた吸入によるがん原性試験結果報告書(抄)」、1-2-2として、「メタクリル酸ブチルのマウスを用いた吸入によるがん原性試験結果報告書(抄)」、資料1-3として、「メタクリル酸ブチルに関するがん原性指針策定の要否について」、資料2として、「今後の予定」です。また、参考資料でございますが、参考資料1として、「リスク評価検討会の開催要綱・名簿」、参考資料2として、「国が実施する発がん性試験について」、参考資料3として、「平成24年度がん原性試験(吸入試験)候補物質(案)」をそれぞれ配布いたしております。資料の漏れ等ございましたら、事務局までお申し付けください。
〇大前座長 資料はいかがですか、よろしゅうございますか。
それでは、本日の議事に入ります。
まず議題1でございますが、がん原性試験結果の評価についてです。この試験結果の評価をまず行いまして、がん原性「あり」の場合は、大臣指針の公表の要否についても検討いたします。きょうの検討会の最大のミッションは、大臣指針を公表するか否かというところでございますので、その点、どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、本研究結果につきましては、バイオアッセイの方から御説明をよろしくお願いいたします。
○増岡化学物質評価室長補佐 まず被験物質についてのみ事務局より御紹介させていただきます。
資料1-1-1を御覧いただきたいと思います。1ページ目ですが、「1-1 被験物質」、名称は、メタクリル酸ブチル、別名、n-ブチルメタクリレート。CAS番号は97-88-1。「1-2 構造式及び分子量」ですが、構造式は御覧のとおりです。また、分子量は142.20となっております。「1-3 物理化学的性状等」でございますが、無色透明の液体で、比重は摂氏20度で0.8936、沸点は160℃、また蒸気圧は摂氏25度で2.12mmHg、また、溶解性としましては、エタノール、エチルエーテルに可溶で、水に対しては摂氏25度で1リットルあたり800mg溶解となっております。「1-4 製造量等」につきましては、平成28年度の製造・輸入数量ですが、メタクリル酸アルキル(C=2~20)として20,000t以上30,000t未満、また、28年度のPRTRデータによりますと、排出・移動量は52,519kgとなっております。用途につきましては、可塑性樹脂、繊維処理剤、紙加工用、紙コーティング材、潤滑油添加剤、金属表面処理剤、塗料内部可塑剤などに使われてございます。「1-6 許容濃度等」でございますが、管理濃度は日本産業衛生学会、ACGIHいずれも未設定となっております。また、IARCの情報はなし、DFGにつきましては皮膚感作性が報告されております。
以上でございます。
〇日本バイオアッセイ研究センター 試験の結果について報告させていただきます。
今、御説明いただいた資料1-1-1の2ページ目から説明させていただきます。
メタクリル酸ブチルのがん原性を検索する目的でF344ラットを用いた吸入による2年間の試験を実施しました。
試験方法は、被験物質投与群3群、対照群1群の計4群構成で、各群雌雄とも50匹とし、合計400匹を使用しました。被験物質の投与は、メタクリル酸ブチルを1日6時間、週5日で104週間、全身ばく露により行いました。投与濃度は、雌雄とも0、30、125、500ppmと設定いたしました。検査は一般状態、体重、摂餌量、血液学的検査、血液生化学的検査、尿検査、解剖時の肉眼的観察、臓器重量測定、病理組織学的検査を行いました。結果につきましては、グラフと表を見ながら説明させていただきます。
6ページに「図1」と書いてあるグラフがあります。ここにラットの生存率を示しております。上段が雄、下段が雌になっております。生存率につきましては、雄の500ppm、グラフでは◇マークになりますが、試験終盤に低下が認められております。下の雌のグラフでは対照群との間に差を認めておりません。
体重推移については、7ページの図2となっております。上段が同じく雄、下段が雌です。雄の体重は最高用量の500ppm、◇マークですが、投与初期と終期に体重の増加抑制がみられております。雌につきましては最高用量の500ppmで投与初期と中期に増加抑制がみられております。雌雄とも、投与期間を通して低値傾向で推移しております。
次に腫瘍性病変の結果になります。5ページに表1、表2がございますが、上段表1がラット雄の結果、下段表2がラット雌の結果になっております。表の一番下に記載があります脾臓の単核球性白血病の発生が、対照群で発生率16%に対して、低用量の30ppmでは8匹(16%)、125ppm11匹(22%)、500ppm14匹(28%)に認められ、Peto検定で有意な増加傾向を示しました。このうち、単核球性白血病による死亡あるいは瀕死動物は、対照群が5匹だったのに対し500ppm群では11匹みられ、この6匹の増加による生存率の低下がPeto検討の判定に反映されたものと考えております。
脾臓の単核球性白血病はF344ラットで好発する自然発生腫瘍の1つですが、本試験における対照群の発生は、バイオアッセイにおける直近10年間、13試験のヒストリカルコントロールデータと比較しますと、その最大発生率を1例超えていました。当センターの全ヒストリカルコントロールデータ、67試験になりますが、それと比較しますと対照群の変動はほぼその範囲内にとどまっていると判定いたしました。
一方、最高濃度の500ppmですが、発生率がヒストリカルコントロールデータの最大発生率を超えており、被験物質投与の影響であると判断いたしました。
したがいまして、雄に認められた脾臓の単核球性白血病の発生増加は、ラットに対するがん原性を示唆する証拠と考えました。
そのほか、発生増加がみられた腫瘍ですが、雄の皮下組織の線維腺腫、精巣の間細胞腫の発生がPeto検定で増加傾向を示しております。しかしながら、いずれの発生もヒストリカルコントロールデータで通常みられる腫瘍でありまして、発生率はその範囲内であることから、被験物質のばく露による影響ではないと判断しております。
次の下の表2を御覧ください。雌では乳腺の線維腺腫の発生がPeto検定でのみ有意な増加を示しました。線維腺腫もヒストリカルコントロールデータで通常みられる腫瘍であり、また、その発生率の範囲内であるということから被験物質ばく露の影響ではないと判断しております。
次に、その上に記載しております甲状腺です。甲状腺でC-細胞腺腫とC-細胞癌を合わせた発生が、Fisher検定で125ppm群のみで増加を示しました。C-細胞腺腫とC-細胞癌はヒストリカルコントロールデータで通常みられる腫瘍であり、その発生率はいずれもヒストリカルコントロールデータの範囲内でした。また、それぞれ単独での発生も認められるC-細胞腺腫とC-細胞癌を合わせた発生増加は、これも被験物質のばく露による影響ではないと判断しました。
最後はラットのまとめになります。4ページの「5.まとめ」です。
F344ラットを用いて、メタクリル酸ブチルの2年間(104週間)にわたる吸入によるがん原性試験を行った結果、雄ラットに対するがん原性を示唆する証拠が得られた。また、雌ラットに対するがん原性を示す証拠は得られなかったと結論しました。
以上がラットの結果です。
マウスを続けます。
資料1-1-2を御覧ください。これも2ページから説明いたします。
メタクリル酸ブチルのがん原性を検索する目的でB6D2F1/Crlマウスを用いた吸入による2年間の試験を実施しました。
方法はラットと同様ですので省略させていただきます。
投与濃度は、雌雄とも0、8、30、125ppmに設定しました。これは今説明しましたラットよりももう一段階低い濃度設定になります。
試験結果の前に説明いたしますが、本試験では、使用したマウスと餌をこれまでずっとバイオアッセイ研究センターで使用してきたものから変更いたしました。バイオアッセイ研究センターでは、これまでB6D2F1/Crljマウスという系統を使用してきました。餌につきましてはCRF-1固形飼料を使用してまいりました。近年、この系統のマウスを使用したがん原性試験では、アミロイドーシスの発症と腎臓病変による死亡が著しく増加しており、昨年度、この会議で報告しましたアクリル酸メチル、その前年度に報告しましたアクロレインのがん原性試験で、マウスの死亡が増加しまして、本来104週間までばく露するところですが、それを途中で打ち切って終了したという経緯があります。
試験自体の成立につきましては、いちばん短いものでも93週目で中断しておりまして、ほぼ100週までばく露しているということで、前年度のこの会議では試験の成立については、問題はなかったということで御承認いただいております。
本試験では使用した系統は同じですが、マウス生産システムをIGS生産システムによるB6D2F1/Crlマウスに変更しました。
その結果ですが、アミロイドーシスの発症は全くなくなり、後で説明しますが、対照群の生存率が雄90%、雌72%と著しく増加いたしました。さらに使用した餌につきましても、長期飼育用に設計されたタンパク質の含量を低減したCR-LPF固形飼料に今回より変更して実施しております。
その結果、本試験の対照群で好発した腫瘍の種類はこれまで使用しましたマウスで蓄積しましたヒストリカルコントロールデータとほぼ変化はなく、これから説明しますメタクリル酸ブチルのがん原性試験の評価の判断には、今まで使用してきたマウスの2008年~2015年までの吸入試験8試験のヒストリカルコントロールデータを、これはあくまでも参考ですが、評価に使用しました。
それではマウスの結果について説明させていただきます。8ページに図1、生存率のグラフがございます。
生存率は雄の最低投与濃度8ppm(△印)、それから最高濃度125ppm(◇印)で生存率の低下が認められました。8ppm群では試験早期からの死亡がやや多くみられましたが、いずれも特定の病変、腫瘍による死亡の増加は認められておりません。雌につきましては対照群と比較して顕著な差は認められておりません。
9ページ、体重の推移を図2に示しております。雄の体重は最高濃度125ppm(◇印)で投与初期から投与終期にかけて有意な増加抑制がみられ、投与期間を通して対照群より低値傾向でずっと推移しております。雌につきましても最高用量の125ppm群で投与初期と中期に有意な増加抑制が認められました。
104週目の最終体重を見ていただきますと、対照群と比較しまして、各投与群とも顕著な差は認められておりませんが、125ppm群では、先ほども言いましたが、投与期間を通して増加抑制傾向がみられ、雄ではだいたい3~8%程度、雌では、少し少ないですが、3、4%程度の増加抑制がみられております。
次は、マウスの腫瘍性病変の結果です。少し戻っていただきまして、6ページの表1にマウスの雄の結果を示しております。まず雄の肝臓です。肝細胞腺腫の発生が対照群で23匹、発生率では46%に対し、8ppm群で27匹(54%)、30ppm群で30匹(60%)、125ppm群では少し下がっておりますが24匹(48%)に認められました。Peto検定では有意な増加傾向を示しております。その下の肝細胞癌の発生につきましては、発生増加は認められておりません。
さらにその下の肝細胞腺腫と肝細胞癌を合わせた発生になりますが、対照群との比較でFisher検定でのみ30ppm群で有意な増加を示しております。125ppm群につきましては増加を示しておりません。先ほど説明しましたが、雄の125ppm群では同期間をとおして継続して体重の増加抑制がみられており、動物の栄養状態不良による肝臓腫瘍発生の増加抑制と考えております。したがいまして、雄の肝細胞腺腫および肝細胞腺腫と肝細胞癌を合わせた発生につきましては、マウスに対するがん原性を示唆する証拠と考えております。
参考ですが、これまで試験で使用したマウスのヒストリカルコントロールデータと比較しますと、雄の幹細胞腺腫の発生率は対照群を含めたすべての群でその範囲を超えました。本試験における肝細胞腺腫の発生率は、ヒストリカルコントロールから逸脱しておりますが、その原因につきましては、IGSマウスへ変更したこと、あるいは低タンパク飼料への変更が考慮されますが、現時点では詳細については不明です。
次に表の下から5行目になりますが、全臓器で組織球性肉腫の発生がPeto検定で有意な増加を示しました。組織球性肉腫は肝臓、精巣上体、腹膜、皮下組織にみられておりますが、各臓器での発生増加は認められておりません。したがいまして、雄の全臓器の組織球性肉腫を合わせた発生増加は、マウスに対するがん原性を示す不確実な証拠と考えました。参考にこれまでのヒストリカルコントロールデータとの比較では、雄の全臓器の組織球性肉腫の発生率は、ヒストリカルコントロールデータで同程度でありました。
次に雌の結果になります。7ページの表2を御覧ください。まず表の上の段になりますが、下垂体の前葉腺腫の発生が、Peto検定で有意な増加を示しました。しかしながら、その発生増加はわずかでありまして、前葉腺癌の発生、前葉腺腫と腺癌を合わせた発生、また、前腫瘍性病変と考えられる前葉の過形成につきましては、発生増加は認められませんでした。したがいまして、雌の下垂体前葉腺腫の発生は、マウスに対するがん原性を示す不確実な証拠と考えました。参考までにこれまでのヒストリカルコントロールデータとの比較では、雌の下垂体の前葉腺腫の発生はヒストリカルコントロールデータと同程度でありました。
次に表の下から8行目になりますが、全臓器での血管肉腫の発生です。これがPeto検定で有意な増加を示しました。血管肉腫の発生につきましては、肝臓、子宮、骨髄、脾臓、腹膜、後腹膜、皮下組織に認められましたが、各臓器ごとでの発生増加はみられませんでした。従いまして、雌の全臓器の血管肉腫を合わせた発生は、これもマウスに対するがん原性を示す不確実な証拠と考えられました。参考に、今までのヒストリカルコントロールデータとの比較では、雌の全臓器の血管肉腫の発生はヒストリカルコントロールデータと同程度でありました。
最後に、マウスのまとめになります。5ページに戻っていただきまして、「5.まとめ」とあります。
B6D2F1/Crlマウスを用いて、メタクリル酸ブチルの2年間(104週間)にわたる吸入によるがん原性試験を行った結果、雄マウスに対するがん原性を示唆する証拠が得られた、また、雌マウスに対するがん原性を示す不確実な証拠が得られたと結論しました。
結果概要は以上です。
〇大前座長 どうもありがとうございました。
このメタクリル酸ブチルの試験結果につきましてご意見をお伺いするのですが、その前に、先ほどのマウスのデータで、図1でしたが、8ppm群の死亡は原因不明だけれどもずいぶん早期から起きているという御説明でした。これは群分けするときにすでに何らかのことが違ったということはあるのでしょうか。
〇バイオアッセイ研究センター 群分け時点では特にございません。今、死因情報を調べます。
〇バイオアッセイ研究センター 雄の8ppmの死亡の状況ですが、多いのは肝臓の腫瘍が4匹、尿閉塞が2匹、白血病、皮下の腫瘍、鼻腔の腫瘍、肺の腫瘍、骨の腫瘍、腹膜の腫瘍が各1匹です。特定のものでこの群に死亡が多かったという結果はなかったと考えております。
〇大前座長 今おっしゃった腫瘍は、一応死因と考えてよいでしょうか。
〇バイオアッセイ研究センター はい。死因としたものを申し上げました。
〇大前座長 先生方のご意見はいかがでしょうか。
それから、今回、少しマウスの系を変えたことによって、腫瘍性肝細胞がんの増加、これがいずれも以前の腫瘍よりもコントロールを含めてヒストリカルコントロールと比べると多いということですが、これは前回と今回と2回目でしたでしょうか。今回初めてでしょうか。
〇バイオアッセイ研究センター 今回初めてこのマウスに入れ替えました。前回も25%切ったということで、90数周目で雄も雌もやめたという経緯がありました。
〇江馬委員 ラットとマウス両方とも雄の方が感受性は高いようですが、その理由はありますか。それから、IGSを初めて使われたということで、ブリーダーのヒストリカルコントロールデータというのはないのでしょうか。
〇バイオアッセイ研究センター ブリーダーのデータは13週目ぐらいまではウェブサイトで公表されるのですが、がんのデータは公表されませんし、実際に持っているかどうかもわかりません。
事前にこの試験をやる前に、バイオアッセイの内部では2年間のバックグラウンドデータを取るために低タンパク飼料に変えたマウスはやっているのですが、このマウスにつきましては初めて使っております。
先ほどの感受性の問題ですが、がん原性試験はラットとマウス同濃度でやっており、本来でしたら13週間の予備試験で雌雄濃度を変えるということもあり得るのではないか思います。実際、経口投与試験ではそのような試験は多くあります。ただし、吸入チャンバーがセットなものですから、雄と雌を変えることがどうしてもできない環境でばく露しており、その結果が反映されているとは思うのですが、今回に限らずラット、マウスの雄に感受性が高いという件につきましては知見がございません。
〇西川委員 以前のマウスでは肝芽腫が多数発生していたと思いますが、この系統ではいかがでしたでしょうか。
〇バイオアッセイ研究センター 肝芽腫は今回の試験では認められませんでした。
〇西川委員 それから、アミロイドーシスが全くなく、おそらく腎臓の障害もあまりないということですね。
〇バイオアッセイ研究センター はい、アミロイドーシスと所見が取れるほどの強いものは1例もありませんでした。染色を変えるなど詳細なことをすると持っているのかもしれませんが、今回の試験の中で所見として取れるものはなかったという結果です。
腎臓の方は、特にB6D2F1マウスに関しましては、腎臓病変はもともと多くなかったものですから、今回使った系も特に違いはなかったかと思います。
〇西川委員 ということで、結構いくつかの点で前の系統とは使用される病変の発生状況が違うように思いますが、これを前の系統の背景データを用いて論じてよろしいのでしょうか。
〇バイオアッセイ研究センター 今回はあくまでも参考として比較だけで、検定結果を基に評価をしておりまして、参考の結果を述べているという形になっております。
〇大前座長 残念ながら比べられるヒストリカルデータは基本的にはないと、あくまでも今おっしゃったヒストリカルデータは参考とみてくださいということだったと思います。
そのほかの先生方は、ご意見はいかがでしょうか。
〇清水委員 ラットのことでお伺いしてよろしいでしょうか。ラットで単核球性の白血病が増えているようですが、だいたい何週ぐらいから出始めているのでしょうか。
〇バイオアッセイ研究センター 具体的に何週齢という数字は、今すぐにはお答えできないのですが、通常F344ラットの単核球性白血病は1年半以上たってから瀕死動物で出てまいります。
〇清水委員 それと関係するのですが、生存率の図1を見ますと500ppm群で88週あたりからかなり下がってきています。後半に単核球性白血病が出るということですが、この生存率から見ますと、雄の生存率は88週以後急激に下がってきています。そうすると、もっと後半で単核球性白血病の発生率が高くなってもおかしくないのではないかという気もするのですが。500ppmで単核球性白血病の発生例が14例で、Peto検定は明らかで、ですからこれがもっと18例とか20例とか、もっと高くなる可能性は考えられるのでしょうか。
〇バイオアッセイ研究センター そうですね、もっと明らかに発生匹数が増加してくれると、さらに今回の投与の影響を強く受けたと理解しやすいかと思うのですが、今回の結果は、先生がおっしゃるように、それほど明らかな発生数の増加という形ではなく、14匹と、少し悩ましいデータであるというところがあります。今回、バイオアッセイではこの評価も実はいろいろ議論もあったのですが、死亡している動物が多かったことでPeto検定が付いただろうということ、あとは先ほどから議論になっていますが、この生存率でグラフを見ても落ちていることが明らかなことを考えると、例数としてはやや物足りない感じはありますが、白血病が投与の影響で増えることが示唆されたと私どもは判断いたしました。
〇清水委員 質問がいけないのかもしれませんが、生存の後半でこの白血病が多くなるというのに対して、この高濃度群ではかなり早く生存率が下がっているということから、本来もっと高くなってもよかったのかということなのです。それはどうでしょうか。
〇バイオアッセイ研究センター 先生がおっしゃるとおりもっと高くなってもよかったのかもしれませんが、そこに関して大して匹数が増えなかったことに対しては、私どもの方でも理由はわかりません。
〇西川委員 その単核球性白血病ですが、これはフィッシャーラットに非常にたくさん発する腫瘍ですが、そういう意味からはフィッシャーラットに特異的な腫瘍ではないかという意見もあり、ヒトには外挿ができないのではないかとまでおっしゃる専門家もいます。バイオアッセイとしてはどのようにお考えですか。
〇バイオアッセイ研究センター ヒトへの外挿が難しいという点についてはバイオアッセイでも認識しております。ラットに関しては増えたという判断をいたしましたが、病理の組織像も特に今まで見てきた自然発生で出る白血病と像は特に変わっておりません。そういった意味でも、ただこの系統のラットに出る腫瘍を少し引き上げたのではないかという印象です。ヒトに当てはまるか否かといったところに関しても、片性ですし、かなり難しいのではないかと思っております。
〇大前座長 ありがとうございました。単核球性白血病に関しては、ヒトへの外挿は考えなければいけないということですね。
〇西川委員 このデータを見ますと、Fisher検定ではポジティブではなく、傾向検定のみの陽性で、出てきた腫瘍の内容を考えると、あまり強く発がん性があるという感じはしません。
〇バイオアッセイ研究センター 今の件につきまして、そこで我々も最終的な評価は「示唆する」としており、明らかな、Clear Evidenceとはしておりません。
〇大前座長 そうしますと、今までの御議論ですと、ラットについてはヒトに外挿するのはちょっと難しいのではないかということだと思いますが、マウスについてはいかがですか。このマウスの125ppmで増えていない原因が体重増加の抑制だと書いてありますが、これは一般的に言えることなのでしょうか。
〇バイオアッセイ研究センター バイオアッセイでは、今まで何本か肝臓の腫瘍が出たものがありますが、少し下がるとか、濃度が高くてもある程度平行になってしまうとか、そういうことはあります。そういった意味では、今回の例は特別な数値の表れ方なのかといったところもあると思います。
〇大前座長 マウスの根拠が今の肝臓の話だったと思いますので、これをどう解釈するかというのは1つ重要なポイントだと思いますが、先生方、いかがでしょうか。
〇西川委員 体重だけを見ますと、図2の雄ですがそれほど落ちていません。大したことはないですよね。最終的には一緒です。これをもって一番高い用量で増えなかった理由にするのは、ちょっと無理があるのではないかと思いました。したがって、これを見る限り、明らかな用量相関性はないような気がします。これをエビデンスにしているのはちょっと、高く取り過ぎているような印象がします。
〇大前座長 そのほかの先生方、いかがでしょうか。
バイオは基本的に統計学的にPeto検定、Fisher検定等を見て、SomeあるいはEquivocalのような評価ということで結論を出しているわけですが。たしかに西川先生がおっしゃるように、この体重の結果を見ていますと、動物の栄養状態の不良を原因にするのは少し難しいと思います。
肝臓以外のところで、先生方、何か御意見はいかがでしょうか。もちろん肝臓でもかまわないわけですが。
よろしゅうございますか。バイオの判定としては今の統計学的な検定等でSomeあるいはEquivocalということで評価をいただいております。我々の今の議論の中では、マウスについてもラットについてもちょっと考えなければならないのではないかという結果であったと思います。そのほか、マウス、ラットどちらでも結構ですが、何か御意見があればと思います。
一応、これから先に議論を進めるにあたって、このメタクリル酸ブチルはがん原性があるかないかということをそれなりに結論付けなければいけないのですが、今の状態ですと、「わからない」という状態といいますか、クリアに「ある」もしくは「なし」とは言えないという状態だろうということだと思います。
〇西川委員 肝臓の腫瘍になりますと、最終的にヒストリカルコントロールデータと比べてその範囲を超えていた、故に有意であるというような御説明だったと思います。そのヒストリカルコントロールデータそのものが確固たるものでなければ、あまり参考にできないのではないかという気もしますが、いかがでしょうか。
〇バイオアッセイ研究センター 今回、ヒストリカルコントロールデータは参考にしていますが、最終的な判断は対照群との検定結果ということでバイオアッセイは結論付けました。特に今回の肝臓腫瘍ですが、今までのマウスのデータと比較しますとコントロールでも多いです。このコントロールの発生匹数は、今回報告書で比較に用いた8試験の比較だけではなく、過去30年間に行った全ての試験の中で範囲を見ても、今回の試験のコントロールは多かったものですから、そういった意味で、このマウスは全体に肝臓の腫瘍が多いということは考えられると思います。
ただ、この全く同じ系の動物のヒストリカルを持っていないものですから、どのくらいの変動の範囲があるのかという点は、今回、全くわからない状態で判断せざるを得ないといったところで、統計の結果を採用しました。
〇大前座長 そういうことで統計学的には確かに、ということですが、今まで議論がありましたように「あり」とはちょっと言い切れないという結論のように思いますが、いかがでしょうか。
〇西川委員 1つ確認したかったのは、前腫瘍性病変といわれるものの発生状況はどのようであったのでしょうか。
〇バイオアッセイ研究センー 肝臓の前腫瘍性病変ですね。肝臓の前腫瘍性病変は投与による影響で増加傾向は示しておりません。
〇西川委員 通常、投与に起因する腫瘍発生であれば、その前の段階の病変も用量相関で増えることが多いと思うのですが、その傾向もないのであれば、本当に投与によって発生した肝腫瘍なのか疑わしいと思います。
〇大前座長 事務局、この結果の「あり」「なし」はクリアにしなければいけないものなのか、例えば、「がん原性があるとはいえない」くらいのレベルの表現で構わないのかいかがでしょうか。
〇増岡化学物質評価室長補佐 今回御審議いただいて、「どちらともいえない」あるいは「あるとはいえない」ということであれば、そのような結論を踏まえて、今後の対応につきましても、本日の議題をがん原性指針策定の要否ということで用意をさせていただいておりますが、例えば、リスク評価をすべきであるとか、あるいはさらなる調査が必要であるといった結論もあろうかと思います。それはそれとして、今後の対応については、どのようにするべきであるのかという点について議論をしていただければと思います。
〇大前座長 そういうことでございます。
〇清水委員 参考までに、これは遺伝毒性についてはどうでしたか。おわかりですか。
〇大前座長 情報はありますでしょうか。
〇バイオアッセイ研究センター 遺伝毒性は、おおむね陰性の評価がされていたと思います。少しお待ちください。
資料1-3ですが、エームス試験が陰性、染色体異常試験も陰性で、陽性という結果がほとんどありませんでした。
〇大前座長 遺伝毒性はないだろうと、エームスあるいは染色体異常はないと。
そうしますと、今の遺伝毒性はないということも含め、この委員会ではこのメタクリル酸ブチルに関しては発がん性については判断できないと、さらに何かこの先に情報を付け加えるとしたら、先ほど事務局からもありましたように、リスク評価にもっていくということが1つの方法としてはあります。
これはまだリスク評価はやっていないのですよね。
〇増岡化学物質評価室長補佐 まだ実施はしておりません。
〇大前座長 前にも2物質ぐらい、確かこのような結果でリスク評価にもっていった物質があったと思うので、そのスタイルでリスク評価の方にもっていって、発がん性についてはこれだけではなく、その他の情報も集めてから判断するということにしますか。
したがって、がん原性指針は、今回は作らないという方向になります。
よろしゅうございますか。
はい、では、そうしましたらがん原性指針につきましては、今回は不要であるということ、それからこの発がん実験の結果は結論がうまくつかないので、リスク評価の方にもっていっていただいて、リスク評価のプロセスでやっていくということでよろしいですね。
はい。ありがとうございました。
〇西川委員 ラットのところで言い忘れましたが、資料1-1-1の表2に雌ラットの腫瘍の発生に関するまとめがありますが、甲状腺のC-細胞腺腫とC-細胞癌、これを合わせると、これも先ほどのマウスのカウントと同じように、上から2つ目の用量群(125ppm)で有意に上がっています。これを見ると、これはPetoでは陽性ではないのでしょうか。この4(0ppm)、3(30ppm)、11(125ppm)、8(500ppm)というのは。
〇バイオアッセイ研究センター 125ppmの際、Fisher検定のp値が0.045と付いているだけで、Petoの方につきましては3種類の方法でいずれも付いておりません。
〇西川委員 ありがとうございました。
〇大前座長 ラットについては、ヒストリカルコントロールは使えるわけですから、これはヒストリカルコントロールの範囲内だというお話でしたね。
ということで、先ほどの結論は変えなくてよろしいでしょうか、西川先生。
はい、ありがとうございました。
では、繰り返しになりますけれども、このメタクリル酸ブチルの発がん性に関しては判断できないと、今後リスク評価の方で発がん性も含めてということになりますが、評価していくということでよろしゅうございますね。したがって、がん原性指針については、今回は不要であるということにします。どうもありがとうございました。
きょうはこの議題だけだと思います。
〇宮川委員 リスク評価の方に回るということで是非積極的にやっていただきたいと思うのですが、問題点は、これは許容濃度もTLVもない物質だとするので、そうするとリスク評価をするときに評価値を決めるにあたっては個別のレポートを見て、どの辺からあるかというNOAELを見ることになると思います。その際に、ここでやられたがんのデータや、その前の13週試験など一般毒性のデータがあると思うので、それがそういうところで使える形に是非整備していただきたいと思います。これは、厚生労働省に対する報告書自体でも使えると思いますし、あるいは、論文にしていただくということもあると思いますので、その辺がうまく使えるようにしていただくのがよろしいかと思います。
〇大前座長 是非、その点をよろしくお願いいたします。リスク評価の内部文書だけ作成して、他では使えないというふうになってしまいますと評価になりません。特に今回は2年間やっていていろいろなところを見ていますので、がん以外で非常に重要な情報が入っていると思いますのでよろしくお願いいたします。
その他よろしゅうございますか。
では、事務局の方からその他、ございましたらよろしくお願いいたします。
〇増岡化学物質評価室長補佐 それでは、今後の予定でございますが、資料2に記載してございます。第2回の検討会でございますが、9月10日(月)10時から、場所は未定でございますが、議題といたしましては、平成29年度ばく露実態調査物質の有害性評価について御審議いただくということで予定しております。
なお、9月26日午前10時から予備日を設けておりまして、10日で検討が終わらなかった場合につきましては、9月26日に改めて開催させていただくということで考えております。
以上でございます。
〇大前座長 この2日間、とりあえずは、確保をよろしくお願いいたします。
それでは、そのほか、事務局から何かありますか。よろしいですか。
〇増岡化学物質評価室長補佐 結構でございます。
〇大前座長 それでは、本日の有害性評価小検討会を閉会いたします。どうも御協力ありがとうございました。