第1回人生100年時代に向けた高年齢労働者の安全と健康に関する有識者会議 議事録

労働基準局 安全衛生部 安全課

日時

令和元年8月5日(月) 13:30~15:30

場所

中央合同庁舎5号館 専用第21会議室

議題

(1)有識者会議開催の趣旨
(2)高年齢労働者の安全と健康に関する現状
(3)事例紹介等
(4)その他

議事

 
〇吉岡中央産業安全専門官 会議の開催に先立ちまして、御案内がございます。今回の検討会はペーパーレスで行う会議となっております。皆様におかれましては、お手元のタブレットで資料を御覧いただきながら御議論いただくよう、お願い申し上げます。傍聴の方におかれましては、御自身のタブレットなどで厚生労働省ホームページに掲載の資料を御確認いただくなどにより、御対応ください。タブレットの操作方法について簡単に御説明いたします。まず、お手元のタブレットの画面が、議事次第が表示された状態になっているでしょうか。別の資料に切り替える際には、画面左上の検討会の名前が表示されている場所を押していただくと、資料の一覧が表示されますので、読みたい資料の資料名をタッチしてください。ページを移動される際には上下にスクロールするか、画面下部の任意のサムネイルを選択してください。基本操作は以上となります。なお、画面の下にあります丸いボタンや、本体側面の電源ボタンを押さないように御注意をお願いいたします。誤って丸いボタンを押してしまうと、違う画面が呼び出されてしまいますので、その際は事務局担当者をお呼びいただければと思います。
 それでは、定刻となりましたので、ただいまより、第1回人生100年時代に向けた高年齢労働者の安全と健康に関する有識者会議を開催いたします。私は厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課の吉岡でございます。座長選任までの間、議事進行を務めさせていただきます。それでは、本有識者会議の開催に当たりまして、村山安全衛生部長から御挨拶を申し上げます。
〇村山安全衛生部長 安全衛生部長の村山でございます。どうかよろしくお願い申し上げます。本日は、ただいま事務局からもありましたように、第1回の人生100年時代に向けた高年齢労働者の安全と健康に関する有識者会議に御参集いただきまして、誠に先生方には御多忙な中ありがとうございます。
 我が国におきましては、人口減少の中で意欲ある高齢者の方々の職場での活躍が、一層強く求められる状況になっていることは言をまたないところかと思います。また、高年齢者雇用安定法の高齢者雇用確保措置が着実に進展していること、また、近年の人手不足感の強まりなどもございまして、多くの職場で働く高齢者の方々が増加している状況にあるということです。こうした中において、労働災害による休業が4日以上の死傷者数を見ると、60歳以上の方々が占める割合が年々増加傾向にありまして、平成30年度においては、死傷者の4人に1人が60歳以上という状況になっております。
 また、法律上少なくとも年に1回やっていただくことになっております、一般健康診断の結果を見てみますと、有所見率は年々上昇しており、約56%ぐらいになっておりますし、その内訳を見ても、血圧、血糖、脂質など、脳・心臓疾患につながるような所見の増加が顕著になっている状況にあります。こうした中で、本年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2019」いわゆる骨太の方針において、全世代型社会保障に向けた改革の一丁目一番地といたしまして、70歳までの就業機会の確保が大きなテーマとして、政府全体で掲げられるとともに、その中において同時に、サービス業で増加している高齢者の労働災害を防止するための取組を推進するといったことなどが盛り込まれております。高齢者の方々が、これまでに培われてきた知識や経験などをいかして御活躍いただけますように、安心、安全に働ける職場環境作りや、予防的観点からの労働者の方々の身体機能向上のための健康作りといったことが、これまで以上に重要な課題になっていると考えております。
 この会議においては、正に有識者会議の会議名にもありますとおり、安全と健康に関して幅広い見地から先生方に御検討いただきたいと考えております。スケジュールとしては、先ほど来申し上げていますように、労災の防止という観点からも非常に大きなテーマになっており、迅速な対応が求められていることもありますし、また、先ほど申しましたように、骨太の方針に基づいて、次の通常国会に向けた今後、高齢者の方々の雇用就業の機会の拡大に向けた議論も非常に大きな政策課題として議論されることは予定されている中にあって、高齢者の方々が雇用就業機会と相まって、健康で安心して働けるような職場作りが大きなテーマになってくるということから、できれば年度内に一定の方向性を示していただき、それを踏まえて我々としても全力を上げて、この課題に対応してまいりたいと考えているところです。
 本日は第1回目ですので、冒頭、事務局から現下の労働災害の発生状況等について簡単に御説明を差し上げた後に、委員の中から大変御多忙の中、先進的なお取組の御紹介ということで、御準備を頂いている先生もいらっしゃるということで、そちらの御紹介を頂く予定となっております。私ども事務局といたしましては、皆様方の知見を基に取りまとめいただいていく方向性を踏まえて、しっかりと政策を前に進めていきたいと考えておりますので、どうかよろしくお願い申し上げます。会の冒頭に当たりましての挨拶に代えさせていただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
〇吉岡中央産業安全専門官 それでは、続きまして、本有識者会議に御参集いただきました皆様を御紹介いたします。資料1の別添、構成員名簿の順に御紹介をいたします。まず、東京大学高齢社会総合研究機構教授飯島様、株式会社日本政策投資銀行業務企画部イノベーション推進室副調査役植村様、日本労働組合総連合会総合労働局雇用対策局長漆原様、産経新聞社客員論説委員河合様、トヨタ自動車株式会社安全健康推進部健康推進室室長木田様、日本大学理工学部特任教授城内様、日本労働安全衛生コンサルタント会副会長鈴木様、東京海上ホールディングス株式会社人事部ウェルネス推進チーム専門部長砂原様、(独)労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所安全研究領域長兼建設安全研究グループ部長高木様におかれましては、本日御都合により欠席となっております。続きまして、聖マリアンナ医科大学予防医学教室教授髙田様、あいち健康の森健康科学総合センターセンター長津下様、JFEスチール株式会社西日本製鉄所(倉敷地区)安全健康室ヘルスサポートセンター主任部員(係長)乍様、国立障害者リハビリテーションセンター研究所障害工学研究部長東様、産業医科大学医学部公衆衛生学産業保健データサイエンスセンター教授松田様におかれましては、本日御欠席となっております。中央労働災害防止協会健康快適推進部長松葉様、(公社)日本医師会常任理事松本様、日本大学法学部法律学科准教授南様、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構雇用推進・研究部長矢田様。また、オブザーバーとして、職業安定局高齢者雇用対策課日髙課長補佐、スポーツ庁健康スポーツ課安達課長に御参加をいただいております。また本日、津下先生におかれましては、他の用務の関係で、途中で退席される予定と聞いております。
 続きまして、事務局の紹介をいたします。先ほど御挨拶を申し上げた、安全衛生部長の村山、安全衛生部安全課長の毛利、安全課主任中央産業安全専門官の中所、同じく安全課副主任中央産業安全専門官の寺島、安全衛生部労働衛生課課長の井内、同じく労働衛生課主任中央労働衛生専門官の搆、同じく労働衛生課中央労働衛生専門官の綿貫です。
 本有識者会議におきましては、座長を置くこととなっております。事務局といたしましては、城内先生に座長をお願いしたいと考えておりますが、いかがでしょうか。
                             (異議なし)
〇吉岡中央産業安全専門官 それでは、以降の議事進行を城内座長にお願いをいたします。
〇城内座長 本会議は様々な幅広い専門家の方々に御参集いただいていると思います。活発な御意見をよろしくお願いいたします。それでは、議事に入りたいと思います。円滑な進行に御協力くださいますようお願いいたします。また、傍聴の皆様におかれましては、カメラ撮影等をここまでとさせていただきます。御協力お願いいたします。最初に事務局から配布資料の確認をお願いいたします。
〇吉岡中央産業安全専門官 事務局から本日の資料について確認させていただきます。お手元のタブレットを御確認ください。資料1「開催要綱」、資料2「高年齢労働者の雇用・就業と労働災害の現状」、資料3「主な論点と進め方」、参考資料1「高年齢労働者対策について(現状)」、参考資料2「エイジアクション100」です。お手元にタブレットをお配りしていますが、資料が表示されないなどの不具合がございましたら、事務局までお申し付けください。
〇城内座長 議事1「有識者会議開催の趣旨」について、事務局から説明をお願いします。
〇寺島副主任中央産業安全専門官 資料1の開催要綱を御覧ください。この会議の開催要綱について、簡単に御説明いたします。本会議の趣旨については、先ほど部長からの挨拶にもあったとおりですが、高齢化の進展を踏まえた政府の方針や労働災害の発生状況を踏まえて、今般、高年齢労働者の安全と健康に関して幅広く御議論いただくことを目的として開催することとしています。
 2番の検討事項です。(1)高年齢労働者の特性に配慮した効果的な安全衛生教育のあり方、(2)労働災害防止に向けた安全対策について、(3)健康確保対策について、(4)その他としています。
 3の構成等は省略いたしまして、4のスケジュールについては、先ほどの挨拶にもございましたが、8月5日、本日に第1回目を開催しまして、本年12月頃に第4回の開催ということで予定しております。以上です。
〇城内座長 ただいまの開催要綱について、御意見、御質問等がありましたら、発言をお願いいたします。よろしいでしょうか。それでは、次の議題に移ります。議題2「高年齢労働者の安全と健康に関する現状」について、事務局から説明をお願いいたします。
〇寺島副主任中央産業安全専門官 資料2を御覧ください。1ページ目を御覧ください。日本の人口の推移を示したものですが、少子・高齢化が進展し、15~64歳の生産年齢人口は1995年をピークにして減少を続けております。一方で65歳以上の人口は増加し続けておりまして、高齢化率は2065年には40%近くに上ると推定されているという状況について示したものです。
 次のページを御覧ください。こちらは戦後から現在に至る産業別の就業者数の構成を示したものとなっております。戦後の高度経済成長期に第1次産業から製造業などの第2次産業に移り、さらに近年は第1次、第2次とも減少しまして、就業構造のサービス化の進展が見られ、中程にあるしま模様の帯ですが、卸売・小売業、飲食業、医療・福祉等のサービス業での就業が増えております。
 3ページ目を御覧ください。年齢別の労働者数の推移ですが、60歳以上の高年齢労働者の比率を折線グラフで重ねております。60歳以上は上のオレンジ色の所ですが、比率としては平成14年の9.4%から平成30年にはおよそ2倍の17.2%となっているところです。
 4ページを御覧ください。このグラフは2ページの業種と3ページの年齢をクロスで集計しまして、2008年と2018年の10年間の変化を見たものです。全体として俯瞰しましても各グラフの右側の高年齢者側、また前方の2つのグラフがサービス業になっていますが、このサービス業のほうにシフトしているというのが分かります。特に奥側の水色の棒グラフが、製造業を指しますが、30代後半にあったピークが40代後半にシフトする、同様の傾向が建設業でも見られるところですが、黄色の棒グラフは商業を指しておりまして、青い棒グラフが医療・福祉業になっておりますが、労働者数そのものが増えているということとともに、30歳前後の層が後ろにシフトしてきているという状況が見られます。
 5ページを御覧ください。以上のように、高年齢者の就業者が増加している中、就労の意向はどうかということでの調査結果です。60歳以上を過ぎても「働きたい」と回答した人が、全体の8割を占めているという結果になっています。
〇搆主任中央労働衛生専門官 6ページを御覧ください。次に、健康診断の状況について御説明いたします。まず、下の欄外に記載がありますが、健康診断は2種類あります。一般定期健康診断については、事業者が全ての労働者を対象として受診させる必要があります。もう1つ、有害業務に従事する労働者を対象として行う必要のある特殊健康診断とありますが、本日は一般定期健康診断について述べます。
 受診は全員ですが、労働基準監督署へ報告があるのが一般的健康診断で、12万事業所、労働者で約1,300万人をカバーすることになります。こちらを集計したものが、上のほうのグラフの定期健康診断の結果です。縦軸は左を御覧ください。先ほど部長から説明があったとおり、56%程度は有所見ということで、これは健康診断で何らかの所見があるとされた人が5割を超えているということです。こちらのグラフは、年齢別に分けられませんので分けたものではありませんが、生活習慣病の影響、高齢化の影響なども考えられます。
 7ページを御覧ください。先ほどの報告を基に集計したものですが、事業場からの報告によると、健康診断の実施人数、有所見の人数、それぞれどの項目が有所見だったかというところまで把握できます。御覧いただくと分かるとおり、血中脂質、血圧、肝機能検査といった生活習慣病に関係する項目で、有所見が高い傾向にあります。
 8ページを御覧ください。こちらは定期健康診断における年齢別有所見率です。定期健康診断の結果報告では個票は受け取りませんので、事業場ごとの人数内訳しか分かりません。そのため、年齢別構成を分析した労働者健康状況調査の結果を掲載しております。対象については下にあるとおり、1万3,000事業所から1万7,500人ということで取りまとめておりますので、御留意ください。年齢別に見ると、定期健診を受ける率というのは、年齢に応じて上がっていることが分かります。そのうち、何らかの所見があると通知された労働者も、年齢に応じて多くなってきていることが分かります。
〇寺島副主任中央産業安全専門官 次のページを御覧ください。以上のような中、労働者の安全と健康を守ることを目的として制定されている労働安全衛生法について少し触れておきます。労働安全衛生法は、責任の主体、義務の履行は、原則として事業者としており、労働者を保護するための最低基準を定めた法律です。履行確保の仕組みとして、国の直轄の行政組織として、各都道府県に労働局を置き、その下に全国321か所の労働基準監督署がある一方で、法令に基づいて、各種の届出や報告義務を規定しています。先ほどの有所見率は定期健康診断結果報告書を集計したものですし、次に説明する労働災害の発生状況は、労働者死傷病報告を集計したものとなります。
 次のページを御覧ください。労働者死傷病報告について御説明いたします。労働者死傷病報告は、労働災害などにより労働者が死亡又は休業した場合に、事業者が遅滞なく提出しなければならないとされているもので、こちらに示すのはその様式です。事業場や被災者の情報のほか、業種、年齢、災害の様態を示す事故の型、被災者の業務の経験期間、休業見込期間といったものを記入していただきますので、これに基づいて災害の分析を行っているところです。事故の型としては、右側の表に示すような分類項目となっています。
 次のページを御覧ください。ここからは、労働者死傷病報告を集計した労働災害の発生状況についての資料です。上の段は年齢別・男女別の労働者の数で、単位は「万人」です。中程の表は、同じく年齢別・男女別で、休業4日以上の死傷者数、単位は「人」です。この2つの表をグラフにしたものを下に付けています。男性と女性で、災害の発生状況に差異が見られますが、就業している業種の違いが反映されている面もございます。
 次のページを御覧ください。前のページの死傷者数と労働者数から、労働災害の発生率を算出したグラフになります。このグラフのタイトルにある千人率ですが、四角囲みの中にあるように、この計算式で算出した数字です。労働者の数が多いと、当然に災害の件数は多くなってしまうという傾向がありますので、労働者1,000人当たりの被災者数で見ることで、その集団の災害の起こりやすさを見る指標として使っております。このグラフは業種の区別なく集計したものですが、災害発生率では若年と高年齢労働者の所にピークが見られまして、発生率が最小となる25~30歳の所と比べると、高年齢の70歳前後では男性で2.3倍、女性では4.9倍と、顕著に増加することが分かります。
 次の13ページを御覧ください。こちらは業種別の千人率を算出したものになります。上の灰色のグラフを御覧ください。業種別では、陸上貨物運送事業で各年齢で千人率が高い傾向が見られますが、建設業では若年層が特に高く、同様の傾向が製造業でも見られます。一方、下のほうにグラフが出ている商業や保健衛生業では、千人率は全体として低いものの、年齢による増加が大きい傾向が見られます。
 次のページを御覧ください。上のグラフは死傷災害を業種ごとの占める割合で示したものです。下のグラフは年齢別に割合を示したものです。右側が2018年、左側がその10年前の2008年となっています。業種別では、第3次産業の占める割合が7ポイント増加、年齢別では60歳以上が占める割合が8ポイント増加という状況にあります。
 15ページを御覧ください。少し切り口が変わっておりまして、労働災害を被った際に休業が見込まれる期間を集計したものです。この休業見込期間は、災害発生直後に死傷病報告を出す時点で、治療に掛かる期間を推測したものとなっています。その上で、それぞれの年齢層の災害発生件数を100として、その休業見込期間を比較すると、高年齢になるほど休業見込期間が長くなることが傾向として表れてきます。
〇搆主任中央労働衛生専門官 16ページの業務上疾病の発生状況の推移についてです。疾病も、労働災害の一部として集計しています。このうち、休業4日以上として報告があったものを取りまとめたものです。左のグラフを御覧いただきますと、平成30年で8,684件発生しています。これはやや増加傾向にあることが分かります。その内訳を見てみますと、右側のグラフの①ですが、負傷に起因する疾病が5,937件でこちらが多くを占めます。典型的なものとして、ぎっくり腰などの災害性腰痛が該当いたします。次に多いグラフの②の所ですが、物理的因子による疾病で1,437件です。これは、光や放射線による火傷、高気圧障害、温熱、騒音など、幅広く含まれておりますが、件数で見ると温熱環境として、熱中症によるものが最多となっています。平成30年で、休業4日以上の熱中症の件数は1,178件と、前年より倍に増えています。この統計上は、直接的にはこの増加分が物理的因子による疾病の増加に直結しております。本日、業務上疾病のうちで多くを占める腰痛と熱中症について、少し掘り下げてみます。
 17ページは腰痛です。これを業種別に分析したものが左のグラフです。保健衛生業が最多となっておりまして、その後に②商業等、③製造業、④運輸交通業などと続いております。このうち気になる保健衛生業について、右側に推移を記しています。御覧いただいて分かるように、やや増加しているという状況にあります。特に、保健衛生業のうちで介護関係者が多いと考えられる社会福祉施設を切り分けてみると、その増加がそのまま反映しているように御覧いただけると思います。もちろん、介護に従事する労働者が増加しているということも背景にあると思われますが、いずれにしても腰痛予防対策が、まだ効果を十分に現わしていないということでもあります。
 18ページを御覧ください。熱中症についてのデータです。熱中症については、前年の災害件数、平成30年が突出しています。記録的な猛暑といわれた年です。暑い所での作業が多い業種が中心ですが、死傷者数が右のように分かれています。このうち、休業4日以上というのは、仕事をこれだけ休まないと体が元に戻らないということですので、熱中症の中でもかなり重い症状だということになります。推測になりますが、この件数が倍増しているということは、ひどく暑かった環境により、今までは休まなくてもいいはずの軽い熱中症であったはずのものが、重篤化してしまった件数が多いという捉え方もできますし、逆に、事業場の取組により、死亡に至らず何とか命を取りとめたという場合も含まれると思います。こちらについて、熱中症の発症は個人差が大きいということもあります。体温調節とか、その症状が悪化するところに糖尿病をはじめとする基礎疾患が影響している可能性はありますが、直接年齢との相関については、一概にはいえておりません。
〇寺島副主任中央産業安全専門官 19ページを御覧ください。以上のような労働災害や業務上疾病の発生状況がある中で、事業者や労働者から求められていることについて、調査結果を少しお出ししています。19ページは、60~69歳の高齢者の方々に聞いたものですが、65歳を過ぎても勤めるため、あるいは採用されるためにどのようなことが必要かという問いに対して、「健康・体力」、それから「仕事の専門知識」というように、健康・体力が必要だというように指摘されています。
 20ページを御覧ください。対して、こちらは事業場に対しての調査結果です。65歳以上の雇用確保に向けて国に求める支援として、労働者の安全衛生に関するところでは、「個人の健康管理への支援」、また「働きやすい機械や設備の開発や導入支援」といったところが挙げられておりまして、こうした課題、ニーズに応えていくことが求められているということです。
 21ページを御覧ください。先ほどの部長からの挨拶にもありましたように、本年6月に取りまとめられた経済財政運営の改革の基本方針では、サービス業で増加している高齢者の労働災害を防止するための取組を推進するということ、また、成長戦略実行計画では、高齢者の安全・健康の確保など、高齢者が能力を発揮し、安心して活躍するための環境の整備といったことが閣議決定されているところです。資料2の説明は以上です。
 続いて、資料3の説明をさせていただきます。資料3は主な論点と進め方というものです。こちらは事務局において、現時点で想定しているものをまとめたものです。主な論点です。1.高年齢労働者の一層の活躍が期待される中で取り組むべき課題は何か。2.今後求められる対策について、例えば以下のような点で御議論いただいてはどうか。(1)例えば建物や標識などのハード面(設備、装置等)の対策。(2)例えば健康管理や作業方法、マニュアルなどのソフト面の対策。(3)健康診断等産業保健活動や健康づくりなどの健康保持増進について。(4)繰り返し教育の必要性など、望ましい安全衛生教育のあり方について。(5)その他の対策。このようにしております。
 次のページは、会議の進め方についてです。本日の第1回では、基本的なデータと主な論点をお示しするとともに、先進的事例紹介として、JFEスチールの乍様、トヨタ自動車の木田様から御発表を頂き、その後にフリーディスカッションをお願いしたいと考えています。第2回では、第1回の御質問、御議論への回答、論点の整理。第3回では、可能であればガイドライン骨子案。第4回では可能であればガイドライン素案について、御検討いただきたいと考えておりますが、こちらは現時点での事務局案ですので、議論の状況や構成員の先生方の御意見により適宜見直していきたいと考えております。説明は以上です。
〇城内座長 今の説明に対する、御意見、御質問は、次の事例紹介の後にまとめてお願いいたします。次に、議題3「事例紹介等」として、先進的取組事例として、御参集委員の2社から御発表いただきます。まずは、トヨタ自動車株式会社の木田様より、企業での取組について御紹介いただきます。
〇吉岡中央産業安全専門官 事務局より御案内をいたします。各社からの事例紹介の資料について、事前のホームページ掲載は行っておりませんが、プロジェクターでこちらのスクリーンに映写いたしますので、そちらを御覧ください。また、企業の情報を含みますので、撮影は御遠慮いただきますよう、お願いいたします。なお、一部の資料については事後にホームページに掲載する予定としておりますので、申し添えます。それでは、よろしくお願いいたします。
〇木田構成員 まず、弊社の概要です。昭和12年8月に創立し、国内には12工場の生産拠点があります。国内の従業員数は7万4,515人で、現在、自動車の製造販売を行っております。
 こちらが健康活動の振り返りということで、我々は休業による労働損失を、健康管理のKPIとして活動を進めております。会社の再編等による影響もあり、若干増加しておりますが、休務者の歯止めになかなか苦戦しているといった状況です。
 次に弊社の健康活動の変遷ですが、健康づくり、健診事後措置、メンタルヘルスという3つの大きなカテゴリーで活動を進めております。特に今回はこのピンク色の所、高齢者に関係のある取り組みを中心に、お話をさせていただきたいと思っております。
 続いて、弊社の健康経営の考え方です。今、自動車産業を取り巻く環境は100年に一度の大転換期を向かえておりますが、従業員の健康が我々の活動の源であるという考えの下で進めております。私たちとしては、健康施策を健康への投資という位置付けで、従業員の健康増進の活性化、組織の活性化、生産性の向上、更には企業業績、企業価値の向上ということで、持続的成長に向けて活動を進めております。一言で言いますと、健康施策・活動は会社の持続的成長につながる企業経営の根幹という位置付けで進めております。
 こちらが弊社、社長の健康宣言です。特に「心身の健康はより良い仕事をするための原動力であり、社員一人一人の幸せにとって、また家族にとっても大変重要である。」ということで、在職中は元より、定年後も豊かな人生を送ってもらうために、我々会社と健康保険組合が一緒になって、健康増進、疾病予防といった取組を行っております。特に一人一人のより良い生活習慣改善のチャレンジを、会社としてもバックアップしていくという考えの下で進めております。
 また、こちらが全役員の健康メッセージですが、先ほどの社長の健康宣言に基づいて、各役員に健康についての宣言をしていただいております。
 こちらが健康宣言のモニュメントです。副社長が技能系のトップということで、技能系の方に内製でデザインから鋳造、熱処理、加工、塗装といったステップを踏んでもらい、健康宣言に関する看板の設置も含め、工場現場の方の力を借りて、こういったモニュメントを造ってもらっております。そのようなステップを踏むことで、日頃なかなか伝えられない健康の重要性を伝える機会となっております。
 続いて、弊社の予防活動の取組の考え方です。我々は予防、早期発見、回復という3つのステージで活動を進めております。特にこれまでは健康診断を基軸としメタボや高血圧、糖尿病等、いろいろな病気に関する早期発見、対応、回復活動を中心に進めてきましたが、休務者を減らすためには、より予防にシフトしていこうということで、「健康チャレンジ8」という活動を進めております。特に労働損失に関係性のある8つの健康習慣を中心に、活動を進めております。
 では、この8つの健康習慣とは何か。「ブレスローの7つの習慣」というものがあるのですが、それと会社の中のデータを突き合わせてみると、同じような傾向が出てきました。適正体重、朝食、飲酒、間食、禁煙、運動、睡眠、ストレスという8つの生活習慣を1つでも多く増やしていこうという活動を、健康チャレンジ8活動ということで進めております。
 次にこの健康チャレンジ8の目標を、どのように設定したか説明します。全従業員のデータを2017年の健診結果から過去に遡り、疾患を8年間全く持ってなかった方の8つの健康習慣の平均値を確認したところ、6.54でした。この6.54を目指して、全従業員の実践数の平均を上げていこうということで、現在活動を進めております。現状は6.1ということで、かなりハードルの高い目標です。
 こちらが各個人に結果をフィードバックするフォーマットです。定期健康診断の結果に合わせ、この8つの健康習慣の実践状況を、過去3年にわたってフィードバックして、各個人の健康づくりの意識向上・実践につなげていただくということで進めております。
 また、職場単位の活動も進めていくために、年に2回、部署単位の8つの健康習慣の実施状況を、職場へフィードバックしております。全部署の平均に対し、自分たちの職場がどの辺なのかということをこちらのほうでお示しして、各項目ごとの実践数についても前回からどれだけ伸びたかということを、部員全員、40歳以上、40歳未満に分類し、他の職場との比較した結果を提供することで、職場の中での健康づくり活動にいかしてもらっております。
 そういった活動を下支えする我々の活動として、「健康出前講話」というのがあります。先ほどの8つ健康習慣に関する講話を、職場に出向いて実施したり、体操のレクチャーをしたり、あとは講話だけだとそのときだけで終わってしまうものですから、継続的に使ってもらえるような、支援ツールも提供しながら活動を展開しております。また、現在IoTを活用した運動習慣の定着ということで、活動量計やスマホを活用して、各個人、部署対抗の運動の競い合いをしてもらいながら、運動習慣を持っている方を1人でも増やしていこうといった活動も進めております。
 また、社員食堂を使った食育では、各メニューへのカロリー表示と低カロリー定食、野菜たっぷりメニュー等 ヘルシーメニュの提供、またT-VISIONといって、テレビモニターを活用して食育に関する情報を食堂で流しています。また、「ミールチェックシステム」と言って、食堂で取った喫食のデータを使って、栄養バランスやエネルギー量を自分でパソコンでチェックできるシステムも導入し、啓発を進めております。
 喫煙対策については、ソフト対策とハード対策の両面から進めております。ソフト面では各個人に禁煙を促す指導やパッチ処方をしたり、「トヨタ禁煙デー」ということで、1日喫煙をさせない日をつくって禁煙を促すきっかづくりをしたりしています。ハード面でいきますと、2005年から分煙化、社内のタバコの販売中止等々をやってきました。今年度は屋内にある喫煙所を、12月末までになくそうといったことで活動を進めております。
 続いて、「いきいき健康プログラム」ですが、こちらは従業員の高年齢化に向けた体力維持・向上活動という位置づけで、特に工場、技能系の方たちの年齢構成が、10年後には高齢化へシフトしていくということ、さらに加齢による体力の低下ということで、上腕・下肢が特に50歳以降、顕著に低下するといったバックグラウンドの下、いきいき健康プログラムを展開しております。この活動は従業員の意識、行動、行動後の継続に働き掛けて、体力の維持・向上や心身の健康改善につなげて、もっといい車造りにつなげていこうということで活動を進めております。
 次に活動の概要ですが、まずは9種目の体力測定として、柔軟性、筋力、筋持久力、バランス、俊敏性、器用さの項目で評価することで体力を見える化して、自身の身体や体力への気付きを行っております。そして測定結果を基に運動指導会を行い、体のメンテナンスや体力維持・向上のための方法を伝えています。
 加えて、日常の活動を支援するために、IoTを活用した運動習慣の支援も行っております。
次に対象者ですが、2015年に工場の50歳以上技能系の方を対象にして、2年に1回の頻度で活動を開始しましたが、2016年からは後ほど説明します36才以上の全従業員を対象に4年に1回の頻度で「健康支援センターウェルポ」で行っている節目健診に導入することで、事技系の方も含めた若い年齢層の方たちにも対象を拡大して活動を進めてきました。
 これは工場の運動指導会の参加率ですが、ウェルポは基本的に時間内で全員を対象に運動指導を行っていますが、工場では、当初時間内での開催がなかなか難しくて、参加率が30%ぐらいしかありませんでした。それが人事セミナーへの織り込みを図り、時間内のほうに少しずつシフトしてきたことで、70%ぐらいまで参加率が向上しました。
 次に、具体的なプログラムの詳細についてですが、まずは体力の見える化ついては、柔軟性として上腕チェック、肩チェック、座位体前屈、筋力としては握力、足把持力を測定しています。バランスがツーステップ、筋持久力が反復立上がり、俊敏性が座位ステッピング、器容さがミネソタということで、1人当たり15分、集団の場合は25分ぐらいで、体力の見える化を実施しております。
 こちらが体力の見える化の結果のフィードバックです。各測定項目ごとに3段階の体力の評価をして、そのグレードと過去に測った推移を見てもらうことで、各種目と総合体力の3段評価への気付きを提案しております。
 次に、こちらが工場で運動指導会をやっている風景です。基本的には私どもの運動トレーナーが事業所に出向いて、体力指導を行っておりますが、内容としては、体力の向上に関する内容だけでなく体のメンテナンスや体力維持・向上のための方法も指導しています。こちらが、いきいき健康プログラムの前後で、体力がどれだけ上がったかという結果です。運動指導会やその後の見える化で確認をしたところ、すべての項目で体力の向上が見られたという結果が得られております。
 また、9種目の体力と「いきいき」との関連では、体力と疲労感ということで、体力を低・中・高の3群に分けて、週に3日以上、強い肉体・精神疲労を感じる人の割合を問診で確認したところ、体力の高い群の方が、より強い肉体・精神疲労を感じる人の割合が低いということで、体力と疲労感には相関があることが分かりました。もう1つの質問として、「現在の業務に生きがい、やりがいを感じているか」というアンケートを行ったところ、こちらもやはり体力の高い方のほうが、いきいきとやりがいを持って働いているということが分かっております。そういうことで、この9種目の体力測定と「いきいき」働くということのの関係性が、検証されております。
 さらに技能系の方たちだけでなく、事技系の方たちも対象として拡大してきたというバックグラウンドに、体力の高い群については健康上の異常項目が少ないことが、体力と腹囲、中性脂肪、HDLc、血糖、血圧といったデータの異常値の平均値と3個以上の異常者という両方の面からも分かりました。ですので我々としては現場系の方たちだけでなく、事技系の方も含めた体力測定の意識付けをやっています。
 こちらの結果は体力と労働損失です。10日以上の休務者の割合は、体力の高い人ほど心身による休務、また糖尿病をはじめとした生活習慣病等で就業上の制限の付いている方の割合が低いということです。特に現場系で高齢の方を配置しようと思うと、やはり就業制限の付いている方の割合が高く配置が困難なケースが多いため、付いている方を減らしていくという意味で、体力向上が有効であるということが分かっております。
 これは、いきいき健康プログラムの介入前と介入後の行動変容の結果です。介入後に、無関心期の方が減ってきており、特に1年後も意識・行動が継続をしているということで、プログラムの有効性を検証しております。
 次に「健康支援センターウェルポ」についてです。ウェルポは高齢化に向けた健康施策の一環として、2008年にトヨタ自動車とトヨタ健康保険組合の共同事業として開設された施設で、36歳から4年に1度(36、40、44、48、52、56、60歳)節目健診ということで、従業員本人と配偶者を対象に、午前中は人間ドックレベルの健康診断を、その後ヘルシーランチを食べて午後は健康学習会を受けてもらい、1日掛けて健康に対する動機付けを図っております。
 ウェルポでは、奥様が御主人の食事を作っていますので、食習慣の改善もねらいに夫婦で一緒に来てもらうということをコンセプトとしており、海外へ赴任されるご夫婦も併せて、年間に約2万人の方を対象に健康支援を行っております。
また、午前中の健康診断では、がんの早期発見ということでは、低線量の胸部CT検査、胃がんリスク評価、腹部超音波、頸動脈超音波といったものを導入しております。女性の関係では、婦人科検診やマンモグラフィを、がんの早期発見をねらいに実施しております。
 また、生活習慣病の改善ということで、午前中に採血した血液検査の結果が昼一番に揃うため、その結果に基づく個別結果説明と運動、食事、睡眠といった各健康学習会を実施しています。また、特にメタボの方たちについては特定保健指導も行っております。
 最後に、健診後の保健指導ですが、先ほどのウェルポでの指導もその一部分になりますけれども、弊社では、健康診断の結果の判定区分を社内経過観察、要病院通院、要精密検査に分け、判定に基づく取組をしております。特に社内の保健指導対象については、若年者と非肥満対象者を含む経過観察として、血圧、高脂、糖、尿酸、肝機能のいずれかが継続して基準を超える方を対象にした保健指導を実施しております。また、メタボとその予備軍の方については、40歳以上の方を対象に特定保健指導を実施しております。
 加えて、冒頭で説明した休務者を低減する活動として、通院中でコントロール不良の方たちが、休務に至るケースがありますので、糖尿病を含めた疾病の重症化予防を休務者低減につなげる対策として、治療中の方も面着をして、主治医と連携を図りながら指導を行っています。特に2017年からは、休まれる方に60歳以上の方が占める割合が増えてきたため、今は60歳以上の方を含む全年齢を対象に拡大して活動を進めております。ちょっと足早の説明になりましたが、以上でございます。
〇城内座長 ありがとうございました。次にJFEスチール株式会社の乍様、よろしくお願いいたします。
〇乍構成員 JFEスチールの乍と申します。早速ですが、体力低下が原因となる労働災害対策ということで、事例紹介をさせていただきます。よろしくお願いします。まず、弊社は2003年に旧川崎製鉄と旧NKKが統合して誕生した会社になります。東西に主要製鉄所がありまして、私は倉敷のほうに所属しておりますが、粗鋼生産量は世界第8位で、今、従業員は連結で4万4,000人が働いております。
 製鉄所の主な作業ですが、非常に体力を使う作業が多くて、例えば、非常に筋出力の高い作業がたくさんあります。また、多い所では1万歩を超える職場もあり、非常に移動の多い作業、もちろん、ほとんど移動のない拘束性の高い作業も存在しまして、いろいろな作業が入り混じっているのが特徴です。先ほどもありましたが、全国の労働災害発生件数を見てみると転倒と腰痛が多く、特に転倒災害の中では50歳以上が突出していることが先ほどの御説明にありました。中でもこれらの原因の1つとして、加齢による身体機能の低下がいわれております。特に体力面で言いますと、柔軟性、脚筋力、そして平衡性といったものが加齢と共に非常に低下していくことがいわれておりますので、全従業員が低下する体力機能についても、高齢化や雇用延長が進む中で対策が必要となります。
 そこで、弊社では2004年から、体力低下に伴う労働災害対策、具体的には腰痛を中心とした筋骨格系疾患や転倒災害を予防する取り組みを始めました。まずは、筋骨格系疾患や転倒が発生しにくい体を作っていこうという目的で、2つの職場体操があります。そして、もう1つは筋骨格系疾患や転倒の発生リスクの評価と、リスクが高い場合は改善を行う「安全体力」機能テストがあります。この2つが、当社で安全で元気で長く働くための取組の中心となっており、本日はこの2つを紹介いたします。
 そもそも体力低下に伴う取組の背景ですが、統合当時、転倒災害と筋骨格系疾患が多発しておりました。転倒災害は、統合の前もですが、1999年から5年間、約半分が40歳以上で発生していました。それから、私傷病におきましては、腰痛に代表される筋骨格系疾患の休業件数率、日数率とも、これだけの長い間、ワースト1という状態が続いておりました。一方、統合時の従業員の年齢構成ですが、40歳以上が約80%を占めておりまして、今後、雇用延長を進める上で、転倒や腰痛はもっと増えるだろうという懸念がありました。そういったとき、当時、草刈り中に水路に転落するという重大災害が起きてしまいました。当然、再発防止対策として、柵の設置諸々、すぐに対策が取られたわけですが、環境、設備、規則の対策ということになります。被災者の63歳という年齢に注目しますと、例えば、バランスや筋力が低下していたかもしれないことも推定されるわけですが、当時、弊所ではまだ身体機能の対策は複雑なため、安全対策の中にこういった身体機能の対策は取られておりませんでした。こういった場所で安全に作業が行える体力があるか、事前に確認できていればこの災害は防げたかもしれないわけです。例えば、スポーツの現場では、ひとつの目安として、レベルの差はあれ、市や県とか全国大会に出場するための指標というのがあります。また、スポーツに限らず、クレーンの運転など安全を担保するような作業におきましては、こういった講習をきちっと受けた人だけが作業ができます。製鉄所の作業は先ほど紹介しましたが、スポーツ選手に匹敵するような身体負荷の高い作業もあります。それから、陸上競技場や野球場で体を動かすわけではなくて、こういった所で体を動かしますので、作業環境も非常に悪いといった所で安全に作業を行う必要があります。そこで2004年から、作業を安全に遂行するために必要な体力を「安全体力」と定義しまして、この安全体力の指標を示し、客観的に見える化するツールとして、独自の5段階評価を示した安全体力機能テストを開発しております。この安全体力機能テストの目的は、一般的な体力測定のように、上限を見るテストではなくて、安全に働くために必要最低限と言いますか、ここから上は大丈夫だろう、ここから下は例えば転倒のリスクが高いだろうといった、スクリーニングテストになります。早期に体力低下に気づき、もし低下していれば改善を行うことによって、体力低下が原因となる転倒や腰痛の労働災害を未然に防ぐことが一番大きな目的です。健康診断の中で、レントゲンや血圧、心電図検査と同じように、このテストも行っておりますので、全従業員が年1回実施しています。あとは安全衛生協力会での実施や再出勤時の産業医面談、再雇用の際にもこのテストは行っております。具体的には転倒リスクテストが3つありまして、この後に説明します。それから、腰痛リスクは柔軟性の問題と筋力の問題、それから、私たちの所では、重筋作業やハンマーを使う作業や高い所から荷物を上げ降ろす作業などもありますので、握力とか手の機能、腕の操作範囲などの確認も非常に重要で、そのテストとしてこのハンドリングリスクテストを入れています。これら3つのリスクを7つのテストで確認することになります。それぞれ5段階で評価を持っておりまして、評価3以上は問題なし、評価2と評価1を低体力域と定義しております。評価2の場合はリーフレットで指導、評価1とできなかったと中止した場合については、個別で運動指導を行います。ここまでを健康診断のときに行いまして、評価1と中止の場合は2か月後に再測定、再測定も評価1、中止の場合は産業医面談を行うという仕組みを構築しています。これは5mのバランス歩行なのですが、長さ5m、幅10㎝、高さ5㎝の平均台を何秒で渡れるかという単純なテストではあります。しかし、この社員のように落下してしまうと2回測定しますが、2回とも落下するような社員がこういった所で作業したとき、転倒につながるリスクが高いことは容易に推測されると思います。
 私たちは暗い部屋でも視覚に頼らずバランスとりながら移動して電気を付ける位置まで歩く能力があります。例えば、小さい時は、舗装されていない所でも足下を見ずに歩いて行けるわけですが、年齢とともにだんだん目で確認をしながら、足下を確認しながら歩くようになります。視覚情報は、一般的には手元での作業や目標物を見て、安全で正確に作業を行うための情報を獲得する役割が大きいのですが、例えば、電車の中で揺れに対してバランスを取っていくとき、まずは足首のバランス機能が特に重要になります。
高齢者はこういった下位に位置する足首のバランス機能が低下して、少しの外乱で鉛筆が倒れるように転倒して骨盤の骨折等につながることがあるといわれています。運動指導は、視覚だけに頼らずに、足首や股関節のバランス機能を高めるようなものを確立しております。また、2つ目のテストは2ステップテストで、これも非常に重要なテストとして位置付けています。大股2歩の距離を自分の身長で割るテストですが、いろいろなことが見えてまいります。例えば、この社員は実際に転倒災害を起こした被災者でして、1.14倍と、評価1を大きく下回る非常に高齢な方のデータになってくるのですが、足が全く上がっていませんので、ちょっとした段差でつまづきやすいことが想定されます。これは福永哲夫先生が示された1秒間のランニング中の歩数と歩幅の年齢の変化のグラフですが、ピッチのほうは20歳も60歳もほとんど変わらないのですが、ストライドは50代からかなり低下していくことが示されています。つまり、足が上がらなくなっていくことが分かっています。こちらの改善にも股関節だけに集中せずに、足関節と膝関節が一緒にまとまった運動を行うプログラムを確立しています。
 それから、3つ目のテストが片足立ちテストになります。40㎝の台から片足で立つテストですが、評価はフィギュアスケートの採点のように立ち上がり動作で評価しています。例えば、この画板を持って膝を伸ばして、そのまま立ち上がれば評価5ですが、筋力が弱ってくると、代償運動が出てきます。画板が体から離れたり伸ばしている膝を下に下げたり、あるいは軸足の位置が動いたりします。この動画は画板が離れて、足が下がって、軸足の位置が動くという、3つの代償運動が出ていますので、5点から3点を引いて評価2という採点になります。評価1は立てませんので、誰が見ても立てないことになります。こちらについては、山本利春先生らが示された立ち上がり能力による下肢筋力から見たリハビリプログラムのガイドラインがあります。WBIという指数で、0.6が一般的労働や日常生活を安全にできるレベルとありますので、それが40㎝の高さと関連しているということで、台の高さは40㎝を採用しています。社員には、自分の体重を安全に支えるためには40㎝から立てなければいけないことを伝えています。
 この転倒リスクテストの大きな特徴は、A3の画板を胸に抱えて行うことです。足下の視覚情報を制限する、上肢の動きを制御するなど、いろいろな目的があります。実際にサンプルを持って、つまずいて、指を挟んでいるとか、事務所から出た所に段差がありまして、ダンボールを持っていますので、下が見えずに捻挫をしたとか、実際にこういった災害が物を持った状態で起きております。足下の視覚情報を確認すると、足下を見ながら歩けますので、5mの平均台を比較的スムーズに渡ることができるのですが、胸にA3の画板を載せて、ペットボトルに水が入ったものを半分持っていますと足下が見えませんので、視野は次の1歩を想定して歩くという、現場に非常に近い状態での測定になります。
 これらは2004年からの取組なのですが、当初からうまくいったのかというと、決してそんなことはなく、特にベテラン社員からは非常に多くのクレームがあったのが事実です。それに対して健診時の毎日のプレゼンで、メタボやストレスとは無縁でも、身体機能は全従業員が低下することや安全体力の概念、テストの目的や評価方法など紙芝居方式での説明と実技デモを毎日行ってきました。私たちも最初にスタートしたときは、本当にこれで転倒リスクが見えてくるのかと、リスクが測れるのかというところがありましたが、実際に転倒災害を起こした社員の直近のデータを引っ張ってきますと、やはり2ステップテストや片脚立ちが低いことが分かってまいりました。これは、倉敷地区で転倒災害を起こした人とそうではない社員の、転倒リスクテストの評価2以下の割合を比較したグラフですが、3つとも、転倒災害を起こしたグループのほうが評価2以下の割合が多いことが分かりました。あと、日常生活も含めて過去1年間に転倒した経験の有無を2014年に1,700名ぐらいでアンケートを行ったところ、転んだと答えた人が約1割でした。その転んだ人と、転んでいないと答えた人の転倒リスクテストの評価2以下の割合を比較してみると、こちらも3つとも転んだと答えた人の割合が多いことも分かってまいりました。いずれにしても、当所では、この3つのテストが転倒災害を予防する上で非常に重要な位置付けとなっております。15年目ですが、10年目ぐらいから、例えば、去年はできなかったのに、できるようになったとか、あるいは、去年は楽に40㎝から立てていたのに、急に辛くなったとか、こういった気付きが年1回の健診で分かることや、対策もこの後に説明する職場体操と連動しているので、スクワットちゃんとやっているよという、社員からも前向きなコメントが増えました。また、各所属の上司からも、安全体力機能テストの結果について問い合わせを含め、前向きなコメントが来ております。
 一方、この安全体力機能テストは当所の産業医が中心となっている復職時の取組にも重要な役割をしております。復職の際に、傷病名や手術の有無、休業期間、休業者の年齢等々で、一律にすべてを推測することができないことを産業医から聞いております。つまり、これだけの情報ですぐこの作業に戻れるのか判断が難しい場面も多々あるということです。そのため復職時の体力を客観的に評価するために2010年から、再出勤対象者全員に面談と同時にこのテストを行うことが義務付けられております。例えば、これは左足親指の関節脱臼した社員の事例ですが、復職時のアンケートを取ってみると、持久力も筋力も柔軟性もほとんど不安がないという結果でした。一方こちらは転移性の肝がんの社員のアンケートですが、全てとても不安という結果です。初めに全く不安はないと言っていた親指を脱臼骨折した社員ですが、実際にテストを行ってみると怪我の前より相当低下していることがわかりました。この場合はすぐに現場作業に戻ると危険であるため産業医により就業制限の対象となりました。一方、こちらは、とても不安だと言っていた肝がんの社員ですが、実際にテストをしてみると、全く問題はなくて、すぐに現場に戻ることができました。就業制限の対象となった社員は、産業医の指示のもと当センターで回復支援を実施します。親指の脱臼骨折の社員は3週間後にもう1回測定して、合格となり産業医の指示により早期に元の現場に戻ることができました。復職時には主治医の先生からは再出勤許可が出ており、医療機関による治療も終了しているケースも多いのですが、この社員は早期胃がんです。こういった体力低下した状態で現場で働くのはとても危険であることは一目瞭然です。しかし、回復支援として運動開始から2週間ぐらいしますと、先ほどの立ち座りも改善、歩行動作も1か月以上掛かっておりますが、このようにスタスタと歩けるようになります。現在も職場で元気に働いています。つまり、安全体力機能テストを、医療機関から現場作業の間で実施することで、客観的指標に基づく体力の見える化ができ、安全に職場復帰することができます。早期に元の職場に復帰することは本人はもちろん、職場、人事、産業医など多くの関係者に大きなメリットがあり、この取組は非常に重要なものとなっています。
 一方で、予防とセットになっているのがこの職場体操です。体操は2つありますが、1つは、当時、私傷病における休業病因のワーストワンであった筋骨格系疾患を予防するために開発しています。製鉄所の作業を分類して、身体部位のどういったところに問題が生じやすいかを検討して開発しています。また、当センターでの運動指導で効果があったものも参考にしています。作業がほとんど体の前や肩より下で行われますので、肩甲骨が脊柱の外側で固定されやすくなり動きが制限されます。ですので、体操の前半のほうでは肩こりとか腰痛を防ぐために、こういった体操。これだけ肩甲骨の動く社員は余りいないのですけれども、本来、肩甲骨はこれぐらい動くのだと。胸郭からこれぐらい離れて自由に動く関節ですが、固まってしまっています。こういったことが筋骨格系疾患のが大きな原因になりますので、この辺りを改善する体操。それから全国の腰痛の半分が中腰で重たい物を持ったときに発生しているというデータがありますが、弊社でも作業改善は一生懸命やっているのですが、中腰の作業も幾つか残っています。一方で例えば、Aという体の硬い社員とBという柔軟性の高い社員がこの中腰作業を2時間したときに、どちらが腰痛の発生率が高いかを社員に問うと、全員がAと言います。当然Aは体が硬いので、一般的には中腰作業に不利な状態です。例えば、この社員は若いのですが、ぎっくり腰で動けなくなって、救急車で運ばれています。体前屈を測定してみると-18㎝で、とても硬い状態でしたが、実際に、当センターで改善することによって、1週間で21㎝も改善しました。腰痛の原因は、作業だけのせいではなくて、実は自分の柔軟性や体の使い方にあることを社員に教育をして、体操での改善につなげていくことが一番の大きな狙いです。実際に持ち上げ方も、例えば、弊社では大型クレーンがありますが、直下型クレーンの持ち上げ方、スクワット動作のように持つことと、一方、膝を伸ばして上体を屈める、これでは鉛筆一本を拾うのでも腰を痛める可能性も高いので、こういったのも体操の中で動作を教育していくという目的を持っております。ですので、太腿の裏側を伸ばしたり、前を伸ばしたり、腰痛や膝痛などの改善が目的というものを後半のほうにセットしています。前半は肩甲骨の運動など上肢中心で全体では、全身を使う運動になっています。
 2つ目は転倒災害の予防に特化したものです。これは高齢者に多いのですが、転倒しやすい姿勢、いわゆる背中が丸くなって、股関節が固くて、骨盤が後傾して、膝が曲がって足が固いという姿勢ですが、こういう姿勢にならないように、一つ一つの体操でこれを改善していく目的と、もう1つは、こういった股関節や足首の問題は非常に大きいので、和式のトイレ等がなくなってまいりましたので、四股や股割りのような、股関節をしっかり開くというのは基本中の基本ですが、日常生活ではほとんどなくなったので、1日1回、股関節を広げて動かしていく運動を体操の中で取り入れています。バランスのほうは、工場の中を動きながらバランスを獲得するわけにはいきませんので、その場で重心を変化させながら、きちっとバランスを保つような運動を取り入れています。女性はスカートの場合はできませんので、そういったものはスカートバージョンというのを作っています。このパート2につきましては、この体操をきちっとやれば3つの転倒リスクテストが改善するという結果を、モデル職場、3職場で効果検証していますので、体操と安全体力機能テストの転倒リスクテストはつながっていることになります。
 製鉄所の中の社員の体力もバラバラですので、2つの体操によって体力のレベルの底上げを行って、年に1回、健康診断で安全体力の指標を元に自分の体力を見える化し確認します。そうすると、指標に届かない社員が出て来るわけで、その場合は再測定や回復支援でレベルを上に上げていくことを目標にしております。これらの取り組みにより実際に、倉敷地区の50歳以上の転倒災害が減ってきたり、筋骨格系疾患の休業損失金額ですが、統合が2003年で、休業損失金額も減少傾向にあります。また、部位別ですが、筋骨格系疾患の中でも腰痛で休む従業員が圧倒的に多かったのですが、腰痛で休む社員も、膝とか、足首とか、他の部位と同じぐらいのところまで減少してきました。
 弊社も雇用延長制度が進んでいます。こちらは実際に災害や私傷病により、回復支援を行っている社員です。5mの平均台を落ちたり、先ほどの足の親指の脱臼骨折の社員はこのように片足立ちが立てなくなっています。自分は立てると思っていました。それから、このような2ステップテスト動作の社員についても、工場の中で安全に作業ができる状態とは思えません。当初はこのような状態であることが多々あります。現場を預かる長も、雇用延長が進んでも、体力が低下した危険な状態で工場で作業を行わないような仕組みをと言っております。それから、弊所のデータなのですが、2ステップも、片脚立ちも、5mの平均台も、50歳を超えても平均値は伸びており改善しています。年齢が高くなっても改善できることも示しております。
 一方、近年他の企業や施設でも本テストや体操が採用され、指導や測定を実施する機会が増えてきました。こちらは生涯現役といわれる一次産業の皆さんですが、例えば85歳の方が40㎝のパイプ椅子から立てます。40歳で私と同じぐらいの身長の方が2ステップテストで3mも行きます。当所には1人もいません。それから、65歳の方で、2秒台で平均台を渡ってくる人が複数います。お手本のような年の取り方といいますか、こういったところを目標にしながら取り組んでいます。
 最後になります。当社では健康づくりとしてこの取組をスタートしたわけではなく、安全活動の一環としてこの取組を実施しているのが一番大きな特徴です。以上で事例発表を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。
〇城内座長 ありがとうございました。ただいまの事例紹介の取組と事務局から示された論点を踏まえ、御意見、御質問等ありましたら発言をお願いいたします。
〇津下構成員 すみません、早く出てしまいますので。あいち健康の森の津下です。今、体力や健康状況の改善に向けて、取組が大企業で先進的に行われていると。非常にいい取組なので、これを広げていこうとした場合に、できる企業はできるけれども、多くの所は取り残されてしまうことにならないか、と思います。今回の検討会の目標として、ある程度共通の指針とか、こういうものをやるべきであるというところまでしっかり示していくのか。また、先ほどのデータの紹介で、高齢者の健診受診率から未受診者が多いというデータもありました。中小企業や非正規雇用などで、格差が広がってできない所が放置されることがないような配慮が必要ということを解決していきたいのかというのが1点目です。そういうことを視野、目的に検討していくのか、ということです。
 2点目が、こうやって努力して改善できることもあれば、やはり50歳代までは何とか頑張れても、高年齢者の定義で、先ほど70歳まで働けるという話がありましたが、70歳まで働けるとなると、年齢的にどうしても落ちてしまう要素、これは体力もそうですし、聴力もそうですし、平衡感覚とか様々なものがそうです。これを例えば働き方、ラインのスピードとか、作業にどのように反映させるかとか、そういう工夫を、今、モデル的にお話いただいたところで、されているかどうか、その辺りをお伺いしたいと思いました。
〇村山安全衛生部長 1点目は事務局への投げ掛けだと思いますので、幅広く先生方の御意見をというように思いますけれども、今、津下構成員から御意見を頂きましたように、本日御紹介いただいた、まず先進的な取組をということで、大企業のしかも安全健康活動に御蓄積のある企業2社からの事例の紹介ということでした。ただいま津下先生からもお話がありましたように、なかなか全ての企業とか全ての産業分野とかあるいは全ての働き方で、これと同じことをというのは難しい面もあるのではないかということがある一方で、ただ、やはり今回の趣旨目的としては、高年齢者の雇用就業機会をいい形で拡大していくために、幅の広い回答をお願いしたいということも事実です。大きく分けて、例えば今日のいろいろプレゼンしていただいたような先進的な取組の中で、ノウハウとしてあるいはいろいろな手法として、これは好事例として横展開していくというようなことで対応していける部分もあるだろうと思います。
 他方で、その企業体力的な面とか働き方の問題とかそういったことから、やはりそれは同じくはできないけれども、そこは国の支援策でとか、公労使団体の取組でとか、あるいは専門的なノウハウを持った専門機関の協力によってとか、いろいろな形でそれを補っていくということもまた必要なのだろうと思います。この検討会ではそのどちらも自主的な横展開で、まだまだ知られていないから広がっていないではないかというところについては、大いに皆様方のお力も得ながら発信をしていくということも大きなテーマだと思います。同時に政策として、例えばノウハウ面で専門家の先生方のいろいろなことについてのアドバイスを頂くとか、資金面等々について行政で後押しをさせていただくとか、技術的その他いろいろな面について、関係の団体の方とのコラボレーションで進めていくとか、そういったことも併せて御議論いただきたいところで、その両用な観点からお願いできれば有り難いというのが率直なところです。1点目は取りあえず。
〇城内座長 よろしいでしょうか。その他御意見はありますか。
〇河合構成員 河合と申します。会議の進め方に関わることで申し上げたいのですけれども、たまたまというか、今日はメーカーの方の現場の労働災害の事例が2例挙がってきて、どうしてもそちら側に議論が集中しがちだと思いますけれども、私は人口の専門家なので、人口動態の変化を考えれば、これから先、全ての職業で就業者が足りなくなってくるということです。ホワイトカラーを含めて、どの仕事に関しても高齢者の就業が進まざるを得ない状況に多分なっていくのだろうというときに、余り労災のところに絞った議論にならないようにしていただきたいと思います。例えば、エイジアクション100というのにもありますけれども、夜勤とかホワイトカラーの人が普通の働き方をしていても、脳疾患や心臓疾患が業務中に起こる確率は、加齢にしたがって段々と増えていくということなのです。個人だとか組織としての取組によって事故を防ぐということは大事なことで、これはこれできちんと議論をしつつも、もう一方、個人の健康づくりだけで終わらない分野があるわけでして、高齢期の働き方、働かせ方のほうでのルール作りを、どれぐらい何を加味して考えていけばいいのかという観点での議論を、この場ではやはり進めるべきだと私は思いますので、進め方に注文付けさせていただきたいと思います。
〇城内座長 様々な御意見を頂きたいと思うのですが、多分事務局では全部今日は答えられないと思います。たくさん御意見を出していただいて、後ほど議論していくことになると思います。その他御意見はありますでしょうか。
〇松本構成員 日本医師会の松本です。確かに今、河合構成員のおっしゃった視点は大事なことであって、やはり基本的にはまず先ほど津下構成員も指摘されていましたけれども、健康診断における有所見率がかなり高くなって、どんどん増えていることと、これは24年のデータということでちょっと古いのですが、年齢別有所見立の所を見ても、やはり定期健康診断を受けていない方々が相当数いるということです。これはやはり注目すべきことであって、もう1つ、内容に踏み込んではちょっと今回は言えませんが、例えばトヨタさんとかJFEさん辺りは、きちんとやっていらっしゃるとは思いますけれども、ややもすると、血液検査のいわゆる一律の省略とかが安易に行われているというような実態あると伺っておりますので、この辺はしっかりとしていくことが大事です。
 これまではどうしても働いている世代の方をきちんと手当てしていくという考えが主流で、特に定年後の方とか、これはトヨタさんは定年後もきちんとやるとおっしゃって、書いてあったので安心したのですけれども。そういうことがどうしても注目されていなかったところがありますので、そういうことを考えると、やはりこの定期健康診断はきちんとしていくという観点は欠かせないことではないかと思います。まずここが基本になるのかなと思いますので、ここをしっかりやられた上で、先ほどの体力テストとかそういったことも少しずつ手を染めていくということはよろしいかと思っております。
〇城内座長 その他御意見はありますでしょうか。
〇漆原構成員 連合の漆原です。高齢の労働者の安全・健康施策は、今ほど2つのご発表もありましたが、労災の発生抑制という観点からも必要であり、また、健康管理など、それ以外の部分でも対応が必要であると思っております。これからさらに、高齢者の就労が増えていくことを考えれば、ハードとソフトの両面で対応していくことが必要であると考えています。
 一方で、政府の中で70歳までの雇用の継続についての議論がされたときに、何年間かはちょっと記憶していませんが、高齢者の歩く速度が10歳若返ったという資料の提示があったと聞いております。それを基に経済財政運営の改革の基本方針が定められておりますけれども、例えば体力が10歳若返っているので、高齢者の安全対策のためのお金が掛かるハードの対策はしなくてもいいのではないかという結論につながらないために、やはり老化などに関する基本的なデータが必要だと思います。頂いたこの参考資料の69ページに、加齢に伴う身体・精神機能の状況というのがありますが、これの作成年次は1980年となっています。多分これは、定年が55から60歳に引き上げられたときに合わせて調べたものだと思うのです。今後65歳以上の雇用を考えるときに、本当にどういう身体的・精神的な能力変化があるのかについて、今一度調査をすることが必要です。この古いデータを基に対策を検討しても、10歳若返っているので対策しなくていいと反論された場合、対応がなかなか難しいと思います。1980年の調査は労働科学研究所が調べておりますので、そういった所に依頼して、新たにこの変化を見るなり、具体的に65歳まで、あるいは65歳以降のこの変化がどのくらいの割合になっているのかを見ながら、ハード面ソフト面の対応をするべきではないかと思っています。
 いずれにしましても高齢者になっても働きやすい、健康を害さずに働けるということについて、職場での改善が必要だと思いますので、そのための議論ができることが重要だと思います。こういった調査は4回の検討会の期間中にはなかなか収まりきれない可能性もあると思いますが、是非その調査については実施していただければと思うところです。よろしくお願いいたします。
〇城内座長 その他ありますでしょうか。
〇飯島構成員 東京大学の飯島と申します。先ほど来の2つの会社からの御発表、そして今の議論のことを踏まえまして、まず、直近からはやはり最新データである程度もの事を語っていかなければならないのかと思います。その1つに、例えば先ほど筋骨格系というキーワードが何度も出てきて、それはそれでとっても重要だと思います。最終的な事前のストレッチとかそういう運動、そしてJFE様が取り組まれている安全体力機能テストみたいなのをやれれば一番最高だと思うのですが、おそらくこのスタイル(いわゆる、ロコモ的な視点をガチッと評価をして、ガチッとランク付けをした上で、結果が下回ってきた人に指導する)を実現できるというのは、企業様側に相当の体制を取っておかないと出来ないのではないかと。先進事例としてはすばらしいと思うのですが、なるべくより多くの企業に普及するという意味では、相当工夫しないといけないかと思っており、そこが重要です。
 あともう1つ、例えば熱中症、脱水というキーワードが先ほどありました。しかも定期健診を義務付けることはベーシックな話ですけれども、それによる生活習慣病がいろいろな異常値があった、それの就労中に例えば脳卒中を起こしてしまうとか、特に60歳以上の方で、そういう方が実際に今どのぐらい起こっていて、いわゆる腰が痛いとかという整形外科的なレベルの話と、一方でやや重症感の強いレベルの話(例えば、血液循環が関わるような内科系ベースの話、それがアクシデンタルに起こってしまって本当に救急搬送レベルで生死をさまよったり、麻痺を残してしまう等)とか、大きく2つに大別出来そうですが、おそらく重み付けは異なると思うのです。そこら辺が今、例えばここ数年間で特に60歳以上の世代にどのくらい起こっているのか、ないしはどういうパターンの、例えば町工場の蒸し風呂のようなとっても汗をかくような環境でより起こりやすいのかとか、そこら辺が見えてこないとちょっと難しいかなと思ったりもします。
 どちらにしましても、適切なジャッジメントの下に、本人に比較的アジャストされた適切な仕事内容が会社側から提供されるべきというところの、いわゆるマッチング的なものその辺もまた工夫としては必要になってくるかと思ったりもします。
 あとは当然高齢になればなるほどフルの雇用はなかなか難しくて、また週3日だけとか、午前中だけをスポットで働く等、そういう働き方を希望される方もご高齢の方には多いと聞いています。従って、その辺のちょっとしたマッチング的な機能というものも個々のの企業で必要になってくるのかなと思ったりしました。
〇城内座長 その他。
〇南構成員 日本大学の南です。今回先進的な事例を見せていただきまして、また他の今回の様々な資料を見せていただいたのですけれども、労働安全衛生法上、事業者に様々な健康確保措置が義務付けられているということから、事業者側の意識付けという点では、今までもきちんと行われていると思いますし、また、さらに、中小零細企業などでも、もう少し広く意識付けしていただくというのが、おそらく今後1つの課題になるのではないかとも思います。
 もう一方で、労働者側の意識というのをどのように確保していくのかということも考えなければならないかもしれません。例えば、先ほどJFEスチールさんのお話にもありましたけれども、労働者が、なぜこんなことをやらなければいけないのかとかいうような話も出てきたかと思いますけれども、そういう労働者に対する意識付けをどのようにやっていくのか、おそらく教育とかとも関わってくるのだと思いますけれども、そういったところをもう少し検討していくことも必要かと思います。
〇城内座長 その他。
〇松葉構成員 今たくさんの先生方からいろいろな視点を挙げていただきましたけれども、対策としての順番を整理してやっていく必要があるのだろうと思います。特に、先ほどJFEさんからも御紹介がありました、当初は環境、規則、設備、こういったところでの対策のみでやっていたけれども、重大災害によって身体機能の低下というものがクローズアップされてきた。そこで初めてそちら側の対策に取り組んだということが、ある意味その順番とも言えるので、我々にとっては対策を考えていく上での大事なポイントになるという気がしております。やはり設備対策、ハード対策、ソフト対策、身体機能というような点を順番に整理していく必要があると思います。
 あとこれは現場的な話ですが、私がしばらく関わっていた社会福祉施設は、法人としては従業員が1,300人いる大きな施設で、そこの定年は現在70歳です。そして本人が希望すれば、状況に応じて80歳まで延長可という仕組みで運営しています。そこから私が相談を受けたことは、80歳を超えてもまだ働きたいという人がいるけれども、この人が働けるかどうか体力テストで判断できないだろうかということです。そういう意味では80歳うんぬんは別にしても、その職場、作業に必要な最低限の体力が求められるのかなと思います。ただしこれはJFEさんのように災害に直結するような環境と、一方で介護施設は生活の延長にあるような中での状況を十分に加味しながら必要な体力というのを考えていく必要があるのだろうと思うところです。
〇城内座長 あと、ありますでしょうか。
〇東構成員 先進的な取組に関しては非常によい取組ではないかと思いました。そこでこれまでの議論のところでも出たかとは思うのですが、サービス業がこのところこ増え続けていること。中でも介護や福祉の領域が増えてきていること。この場合は相手が人で、ものだけではないということになってきますので、体力プラスメンタル面のスキルが当然問われてくるような仕事業態であると思います。この辺のところを踏まえ、体力プラス認知とか判断、操作というところの議論の整理も必要ではないかと考えました。その上で、ハード面がどうサポートしていくのか、ということも整理してはどうかと考えました。
〇鈴木構成員 日本労働安全衛生コンサルタント会の鈴木です。今構成員の皆様から安全や健康管理に関するいろいろな御意見がありましたが、もちろん安全と健康確保の両面についての検討が必要だと思います。私たち労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタントは、この両面に関わっていますが、これから議論すべき内容は非常に幅広いと思いますので、安全面、あるいは衛生・健康面について検討すべきテーマを整理してそれぞれ議論していかないと、話があちこち飛んで散漫になるおそれがあるかと思いますので、テーマを整理して一つ一つ議論したらよいかと思います。
〇城内座長 その他ありますでしょうか。
〇植村構成員 日本政策投資銀行の植村です。先進的な事例についてお話を頂き、ありがとうございました。腰痛や熱中症などで働く高齢の方々が様々な問題を抱えていらっしゃる現状が大変よく理解できました。足許では介護分野などにおいて、腰痛を予防する先進的なテクノロジーの導入が少しずつ進められているところです。人生100年時代に向けた高年齢労働者においても、この分野で使えるテクノロジーの導入、例えば熱中症であればセンサーを取り付けて活用するなどについて、先進事例としてご紹介いただければありがたいと思います。
 また、先ほどからデータのお話も出てきておりますので、60代、70代の人がどういった分野でテクノロジーを用いて改善が見られるかといったデータの蓄積など、この機会をきっかけに始められるようなことも、何かしら盛り込めたらよいと思いました。
〇城内座長 その他にいかがでしょうか。
〇砂原構成員 東京海上ホールディングスの砂原です。今日はトヨタさんとJFEさんの非常に先進的な話がお聞きできて、大変参考になりましたが、一方で、なかなかここまでのことができる会社は少ないのだろうというのも正直感じたところです。具体的に介護分野の事業場の話が出ておりましたけれども、サービス業等でどのような対策がされているのかということも確認する必要があると思います。先ほど、ご指摘がありましたけれども、本検討会では、すべての事業者が一律に守ることができるような仕組みを作るという観点を是非強く意識してもらいたいと思ったのが1点。
 それから、治療と仕事の両立などのときによく出てくる話で、両立をするために事業主の安全配慮義務をどう果たしていくのかを考える際、気が付いたら、通常勤務継続が何らかの理由で難しくなった際や、就労能力が大きく落ちて、同じ仕事ができなくなったという際でも、その労働者を雇用し続けるために、「合理的配慮をしないといけない」とか「福祉的就業の場を提供すなければならない」という話が出てきて、一体で議論されることが散見されるようになっています。ただ、そこは別のものをということを忘れないで議論をしていきたい。最近、この二つが一体で企業がやるべきこととの議論がなされることを見掛けますので、本論議においては、きちんと整理しながら対応を考えていくべきであると認識しています。企業としては、いろいろな対策をすることはコストでもあるので、そのコストを受容してでもこの熟練の高齢者を雇っていきたいと思うのかというような観点も考えて、どのような施策を打つべきか考えるべきではないかと思いますので、よろしくお願いいたします。
〇城内座長 その他にありますでしょうか。
〇高田構成員 聖マリアンナ医科大学の高田です。本日は先進的な取組を御紹介いただきましてありがとうございます。今の雇用環境を考えますと、終身雇用の形態ではなくなっていると思いますので、やはりどのような会社に行ってもある程度同じような、体力面も評価できるような体制が必要なのではないかと思います。先ほど労働者の意識についても重要な御指摘がありましたけれども、健康診断の情報に加え、こういう体力面の健康測定の情報等も、生涯にわたって現役で働き続けるという観点から集約して個人のデータとして継続して管理して支援しているような体制作りというのも重要なのではないかと思います。
〇城内座長 その他にありますでしょうか。
〇矢田構成員 高齢・障害・求職者雇用支援機構の矢田です。私どもでは企業を訪問しまして、高齢者雇用の実情についてヒアリングしております。特に最近感じるのは、介護分野においては、60歳未満の従業員が雇えないという、人手不足感が非常に強いということもあり、高齢者雇用に関しては二局化が進んでいると思います。先進的に取り組んでいる介護施設においては、高齢者の方が働ける限り働けるようにということで、支援機器の導入とか、施設を挙げての健康づくりとか、メンタル面のサポートといったものに取り組んでいる事業所が多い一方で、まだ何も手を付けていない事業所もあるということです。業種別に見ても両極端な所がありますし、産業別に見れば、さらに差が大きくなると思います。最終的なガイドラインには、そういう産業特性であるとか、先進的なところ、それからまだまだ取組の遅れている所に少し配慮していただけるといいかと思います。
〇城内座長 その他にありますでしょうか。
〇河合構成員 先進事例ということで、トヨタさんとJFEさんと先ほど御紹介があったわけですけれども、お尋ねしたいのは、体力面とか機能面で健康状態が悪くなると働けないという職場だとしてお話をお聞きしていたわけですけれども、両社には、現場での仕事ができなくなった人たちに、代わりの職場というのは選択肢としてあるのでしょうか。これから働きたいという意欲も多くの人が持つようになるし、働かざるを得ない環境の人も多くなるところで、健康を損ねたらそこで選択肢があるか、ないのかということは、多分かなり大きな問題になってくると思うのです。これについて両社はどうなのでしょうか。
〇木田構成員 トヨタ自動車の木田です。先ほどの事例紹介では、体力づくりの所がメインになってしまったのですが、当然のことながら弊社ではいきいき働いてもらうために、高年齢者が配置可能な工程づくりを中心とした環境整備も活動の柱として取り組みを行っています。先ほど紹介を行った体力づくりと合わせて弊社では2本柱で取り組みをやっております。
 また、どうしても作業につけない場合は、配置転換を含めトヨタの本体に残って働いてもらう選択肢と、後は先ほどのパートタイムとか、そうした日数を短くして、関係会社等で働いてもらうといった選択肢も、弊社としては準備しております。基本的には、社内の中では今のところはフルタイムで働くことが原則にはなっていますけれども、会社としては、社外も含めてそうした働く環境づくりにも取り組んでいるという状況です。
〇乍構成員 JFEの乍です。弊社も全く同じ取組をしています。直近のところでは産業医が、例えば回復支援の期間は就業制限が付きますので、その間はデスクワークに移ってもらう形で今仕事をしています。後遺症が残るような場合は、人事等の配置転換ということももちろんありますけれども、そうならないことが一番ですが、最後まで働けるような取組を行っております。
〇河合構成員 どうもありがとうございました。
〇城内座長 時間も押しておりますので、まだまだ御意見はたくさんおありだと思いますが、次回以降にお願いしたいと思います。本日は本当に貴重な多岐にわたる御質問、プレゼンテーションを頂きました。私としてはこれに応えるべき、事務局できっと汗を流して、次回以降すばらしいものが出てくるものと期待しています。よろしくお願いしたいと思います。本日予定している議題は以上ですが、最後にその他ということで、他に御発言等はありますでしょうか。よろしいでしょうか。それでは本日の議論はここまでとし、次回、本日の議論を踏まえ、意見に対する回答や整理された論点を事務局に準備していただき、引き続き議論をしていきたいと思います。
 それでは、進行を事務局にお返しいたします。よろしくお願いします。
〇吉岡中央産業安全専門官 事務局です。次回、第2回の有識者会議につきましては9月頃開催予定としております。後日、構成員の方々の日程を調整させていただいた上で、改めて日時を御連絡させていただきます。
 最後に、安全課長より閉会の御挨拶をいたします。
〇毛利安全課長 本日、まず、好事例のプレゼンテーションを頂きました2社の方々には大変よい提示を頂きましてありがとうございました。また、お忙しい所御参集いただきました委員の皆様方にも大変重要な御指摘、あるいは今後の方向性の示唆を頂きまして、大いに感謝を申し上げます。今後、この検討会はまだ続きますので、どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。本日はどうもありがとうございました。
〇吉岡中央産業安全専門官 これをもちまして、第1回有識者会議を終わります。ありがとうございました。