2019年7月22日 第1回厚生労働省統計改革ビジョン2019(仮称)有識者懇談会 議事録

日時

令和元年7月22日(月)17:00~19:00

場所

厚生労働省 共用第7会議室

出席者

<構成員(五十音順、敬称略)>


<オブザーバー(敬称略)>


<説明者(敬称略)>

議題

1 統計の重要性について
2 今回の統計問題について
3 再発防止及び統計行政のフロントランナーとなるための取組に向けた意見交換等
4 その他

議事

 
○武藤政策統括官付参事官 それでは、定刻になりましたので、ただいまから第1回「厚生労働省統計改革ビジョン2019(仮称)有識者懇談会」を開会させていただきます。
委員の皆様方におかれましては、お忙しい中、御出席いただきまして、誠にありがとうございます。
私は、政策統括官付参事官(企画調整担当)の武藤でございます。
本日が第1回目の開催となりますことから、座長が選出されるまでの間、司会を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。
最初に、開会に当たりまして、根本厚生労働大臣から一言御挨拶を頂戴したいと思います。
よろしくお願いいたします。
○根本厚生労働大臣 厚生労働大臣の根本匠です。
委員の皆様には、御多忙のところ、厚生労働省統計改革ビジョン2019(仮称)有識者懇談会に御参集いただき、感謝を申し上げます。
今般、厚生労働省が所管する毎月勤労統計で長年にわたり不適切な取り扱いをしたことが原因となり、雇用保険等における給付の支払いが不足し、国民の皆様に多大な御迷惑をおかけすることとなりました。これによって、公的統計への信頼を初め、厚生労働行政に対して国民の皆様の不信感が高まり、統計の重要性に対する認識とともに、組織のガバナンスが問われております。
このため、組織全体として、今回の不適切事案を真摯に反省し、二度と同様の事案を起こさないようにすることはもとより、国民の目線を忘れず国民に寄り添える組織として再生しなければなりません。
統計は、過去を振り返り、今を知り、将来を見通すとともに、諸外国との比較を可能とする重要な指標であります。政府の政策決定はもとより、事業者や国民の意思決定に幅広く利用され、まさに社会の発展を支える基盤であり、国民の公共財であります。厚生労働省においても、政策立案や学術研究、経営判断の基盤やその進むべき方向性を示す「羅針盤」としての公的統計の重要性を再認識し、信頼できる正確な公的統計を適時適切に作成・公表していくことが必要だと考えています。
このため、厚生労働省の全ての統計を、社会の変化を適切に反映し、統計ユーザーや国民の視点に立つ統計とし、また、そのような統計を作成できる組織に生まれ変わり、政府全体の公的統計を牽引する統計行政のフロントランナーとなることを目指します。
私が先頭に立って厚生労働省改革と統計改革を力強く進めていきたいと考えておりますので、委員の皆様におかれましては、ぜひお力添えいただきますようにお願いいたします。
ありがとうございました。
○武藤政策統括官付参事官 次に、審議に入る前に、本懇談会の委員の御就任について報告いたします。
資料の参考1「厚生労働統計改革ビジョン2019(仮称)有識者懇談会開催要綱」の別紙、構成員名簿にございます皆様となります。
本日は、第1回目の開催となりますので、各委員、オブザーバーの皆様方の御紹介をさせていただきます。
フレイ法律事務所の弁護士、梶木委員です。
東京大学大学院経済学研究科教授、川口委員です。
一橋大学経済研究所教授、神林委員です。
大正大学地域創生学部教授、小峰委員です。
慶應義塾大学総合政策学部教授、中室委員です。
立正大学学長、吉川委員です。
青山学院大学経営学部プロジェクト教授、美添先生です。美添先生には、オブザーバーとして御参加いただくことになっております。
なお、懇談会の座長は「構成員のうちから厚生労働大臣が指名する」とされており、既に小峰委員に座長の就任を依頼し、御了解を得ております。
厚生労働大臣は、公務が重なっておりまして、ここで退席をさせていただきます。
(根本厚生労働大臣退室)
○武藤政策統括官付参事官 また、カメラ撮りはここまでとさせていただきます。
(カメラ退室)
○武藤政策統括官付参事官 続きまして、事務局メンバーについて御紹介いたします。
厚生労働審議官の土屋でございます。
政策統括官(統計・情報政策、政策評価担当)の鈴木でございます。
政策立案総括審議官の山田でございます。
大臣官房参事官(総括調整、障害者雇用担当)の蒔苗でございます。
大臣官房参事官(情報化担当)の三浦でございます。
大臣官房人事課調整官・政策統括官(統計・情報政策担当、政策評価担当併任)付企画官併任の菱谷でございます。
それでは、以後の進行につきましては、小峰座長にお願いいたします。
○小峰座長 それでは、御指名でございますので、座長を務めさせていただきます。皆さん、どうぞよろしくお願いいたします。
今回、厚生労働省の統計をめぐっていろいろ残念な出来事があったわけですけれども、ぜひこれを奇貨として、体勢を立て直して、将来に向けた統計の整備・活用という点でしっかりしたビジョンを打ち立てていただければと思います。統計という面でぜひほかの省庁のお手本になるような存在になってほしいということで、私もできるだけ力を尽くしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
それでは、議事の1「統計の重要性について」とありますので、事務局から御説明をお願いいたします。
○菱谷大臣官房人事課調整官 調整官の菱谷でございます。
本懇談会につきましては、参考1の有識者懇談会開催要綱の「1 開催の趣旨等」にありますとおり、厚生労働省が真に統計ユーザーや国民の視点に立った公的統計を作成できる組織へと生まれ変わり、「統計行政のフロントランナー」となることを目指すため、広く有識者の皆様から御意見をいただいた上で、「厚生労働省統計改革ビジョン2019(仮称)」の策定に向けた提言をいただくこととしております。
まず最初に、議論の前提といたしまして、政策立案や学術研究、経営判断の礎として常に正確性が求められる公的統計の重要性に対する基本認識を明確にするため、資料1「統計の重要性」について御説明させていただきます。
1ページ目でございますが、こちらは、平成17年6月10日に、骨太2004を踏まえまして、内閣府経済社会統計整備推進委員会で取りまとめられた「政府統計の構造改革に向けて」の取りまとめから抜粋したものでございます。ちなみに、この委員会の座長は吉川先生がなされていたところでございます。1点目、「統計の整備は、日本再建の基礎事業中の基礎事業である」。これは、昭和24年に吉田茂内閣総理大臣の命を受けて初代統計委員会の委員長についた大内兵衛の揺るぎない信念ということで紹介されているものでございます。また、19世紀フランスの統計学者モーリス・ブロックの言葉でございますけれども、「国家の存するところ統計あり」という言葉がございます。こうしたことを踏まえまして、統計とは、先ほど大臣からも御発言がありましたとおり、過去を振り返り、今を知り、未来を見通すための指標として、政府の政策立案、政策決定はもとより、事業者や国民の意思決定に幅広く利用され、まさに社会の発展を支える基礎である。こうしたものは、全ての国民にとっての共有財産である。また、統計は、国や社会の姿を映し出す「鏡」となり、進むべき方向を示す「羅針盤」で、それは経済や社会の内部構造に迫り、そのメカニズムを解明する「内視鏡」としての役割を果たしていくことを期待されております。
次のページに移ります。こちらは、世界の全ての国々の政府統計部局が公的統計を作成する際に遵守すべき国際的な基準として、1999年、国連統計委員会において定められました「国連の公的統計の基本原則」でございます。この原則は10ございますけれども、その中では、統計の重要性につきまして、原則1といたしまして、公的統計は、経済・人口・社会・環境の状態についてのデータを政府、経済界及び公衆に提供することによって、民主的な社会の情報システムにおける不可欠な要素を構成しているということが記載されております。原則2におきましては、公的統計への信頼を保持するため、統計データの収集、処理、蓄積及び公表の方法及び手続を決定する必要がある。原則3といたしまして、データの正しい解釈を促進するため、統計の情報源、方法・手続に関する情報を科学的基準に従って提示しなければならないとされております。また、原則5といたしまして、統計機関は、品質、適時性、費用及び報告者負担の観点からデータ源を選定すべきといったことが定められております。
こうした平成17年の内閣府の経済社会統計整備推進委員会の提言なども踏まえまして、平成19年に統計法が改正されております。その統計法の基本理念が3ページに記載されております。統計法の第3条に記載されていることでございますけれども、公的統計は、適切かつ合理的な方法により、かつ、中立性及び信頼性が確保されるように作成されなければならない。公的統計は、広く国民が容易に入手し、効果的に利用できるものとして提供されなければならない。公的統計の作成に用いられた個人または法人その他の団体に関する秘密は、保護されなければならない。
以上のようなことが、統計の重要性として現在までに示されているものでございます。
私からの説明は、以上でございます。
○小峰座長 ありがとうございました。
それでは、ただいまの厚生労働省の説明につきまして、委員の皆様からもし何か御意見とか御質問があれば、どうぞ。何かありますか。
これは余り議論するまでもないという感じがしますね。
次の議事の2に入りたいと思います。議事の2は「今回の統計問題について」です。
(荒井弁護士入室)
○小峰座長 それでは、議題の2に入りたいと思いますけれども、本日は、毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会の委員長代理として御尽力いただきました、荒井弁護士に本懇談会に御出席いただいております。お忙しい中、誠にありがとうございます。
改めて御紹介させていただきます。荒井弁護士です。よろしくお願いいたします。
初めに、事務局から一連の統計問題を簡潔に御説明していただき、続いて、荒井弁護士から今回の統計問題の中でも極めて社会的に大きな問題を引き起こした毎月勤労統計をめぐる不適切な取り扱いについて、特別監察委員会で明らかになった主な事実関係等につきまして、御説明をお願いいたします。
よろしくお願いします。
○菱谷大臣官房人事課調整官 資料2-1「今回の統計問題」の2ページ目でございますが、毎月勤労統計につきましては、常用労働者5人以上を雇用する事業所の雇用、給与及び労働時間について毎月の変動を把握するために実施しているものでございます。全国調査といたしましては、約3万3000の事業所に対して調査票を投げることになってございます。こちらの利活用例といたしましては、雇用保険の基本手当日額の算定に用いる賃金日額の範囲等の算定資料として、毎月決まって支給する給与を利用しているところです。
毎月勤労時計調査に係る今般の事案の概要といたしましては、3ページ目でございます。500人以上規模の事業所について全数調査をするとしていたところ、平成16年以降、一部抽出調査で行っていた、ということになってございます。その際、統計的処理として復元処理すべきところを復元処理していなかったという問題がございました。この結果、統計上の賃金額が低目になっているという影響がございました。
今般の事案への対応といたしましては、4ページ目でございます。公表値において行うべき復元を行っていなかった平成16年から平成29年までの期間のうち復元に必要なデータ等が存在する平成24年以降につきまして改めて集計した結果を再集計値として公表、決まって支給する給与の再集計値と公表値の乖離は、金額ベースでは平均0.6%となってございました。この結果といたしまして、雇用保険、労災保険等におきまして追加給付が生じることとなりまして、総数で延べ2015万人、総額で795億円の費用が必要という事態を生じさせることとなってしまいました。こうした対応といたしまして、追加給付の対応をしていくということもございますが、毎月勤労統計調査の実施につきましては、正確性・継続性に配慮しつつ、500人以上規模の事業者の全数調査を6月から実施しているところでございます。
8ページ目をごらんください。賃金構造基本統計でございます。こちらにつきましては、賃金センサスとも言われておりますけれども、毎年7月に年1回だけ調査するものでございます。まず、その賃金の実態を労働者の雇用形態、就業形態、職種、性、年齢、学歴、勤続年数、経験年数別に把握することとなっております。
9ページ目です。賃金構造基本統計調査につきましては、調査員により実施するとしている配布・回収ともに郵送調査により実施していたことが本年1月下旬に明らかとなっております。また、報告を求める期間として7月31日までに提出するとしていたところ、一部の労働局におきましてこれよりも早い提出期限を定めて報告者である事業所に報告している事例がありました。また、調査対象の範囲につきまして、バー、キャバレー、ナイトクラブにつきまして抽出の母集団から除外し、調査対象としていなかったといったことが確認されております。
こうした対応につきましては、10ページ目でございますけれども、郵送調査を基本としつつ、統計調査員による督促・回収などを計画の中でもちゃんと位置づけること、調査票は本省から事業所に直接送付、労働局等を介さないようにすること、提出期限につついては統一化すること、調査対象範囲につきましては、バー、キャバレー、ナイトクラブを含めて調査をすることとしております。
12ページ目です。こうした一連の不適切事案につきまして、毎月勤労統計調査につきましては特別監察委員会を設けまして、そこで事実関係を解明しております。こちらにつきましては、後ほど荒井代理から御説明いただくこととしております。
16ページ目です。賃金構造基本統計調査につきましては、平成31年1月の基幹統計の一斉点検におきまして、厚生労働省がおくれて公表した事案となりました。当初、厚生労働省は一斉点検の回答期限では問題ないと回答していたのですけれども、その点検結果が公表された後で誤りが発見され、報告すべき3つの事実について確認されたとして、おくれて報告・公表したといった事態が生じました。こうしたことから、正確を旨とする政府の公表で、このような事態の発生は異例かつ問題で、関係閣僚の協議の結果、行政機関の業務の評価・監視を実施している総務省行政評価局が調査をするという事態になりました。
この結果につきましては、17ページ目をごらんいただきますと、3つの問題点として、遵法意識の欠如、事なかれ主義の蔓延という問題が指摘されるとともに、厚生労働省政策統括官の統計担当部門は、組織内のコミュニケーションが欠落、幹部への情報集約と担当への指示が機能不全、組織と運営を見直し、ガバナンスを高めるべきといった指摘をいただいているところでございます。
こうした点を踏まえまして、再発防止に向けてさまざまな機関等から指摘を受けているところでございます。まず、特別監察委員会からの再発防止策につきましては、後ほど荒井代理から御説明いただくこととしております。
20ページ目でございます。統計委員会の5委員から追加報告書に対する意見書としていただいた意見といたしましては、学術の世界でこのようなデータの不正や捏造、盗作などがあれば、間違いなく学界から追放される。それほど重要な事案であって、再発防止策も、本事案が学術的側面を多く含むことを勘案してなされるべきだといった御意見をいただきました。また、これを踏まえた統計委員会担当室からの情報提供の要望といたしましては、個票及び集計関連情報など統計作成に必要となるデータの長期保存、学界を初めとする統計利用者の要望やニーズを把握し、迅速かつ適切に統計に反映する仕組みづくり、新しいニーズに迅速に対応できる統計システムの整備等に対する意見をいただいているところでございます。
その他、日本統計学会、経済統計学会等から御意見をいただいているところでございます。
また、22ページ目でございます。統計委員会におきましては、今回の不適切事案等を踏まえまして、点検検証部会を設けて再発防止に向けた議論をしております。その第1次再発防止策として取りまとめられたものが「公的統計の総合的品質管理を目指して(建議)」の概要でございます。内容といたしましては、統計作成プロセスの適正化、誤り発生への対応、統計作成の基盤整備を3本柱といたしまして、統計作成プロセスの適正化につきましては、PDCAによるガバナンスの確率、分析的審査機能の強化、謝り発生への対応といたしましては、外部指摘や誤り発見時の対応ルールの策定、行政利用の把握、統計作成の基盤整備といたしましては、ICTや行政記録の活用による調査内容・方法の見直し等の改革機能強化、人材の計画的育成、毎勤につきましてはCOBOLを使った旧式システムからの脱却などが指摘されているところでございます。
私からの説明は、以上でございます。
○小峰座長 続きまして、荒井弁護士、お願いいたします。
○荒井弁護士 御紹介いただきました、荒井でございます。
毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会の調査の経過あるいはその結果につきましては、1月と2月に2度にわたりまして報告書を作成・提出しておりまして、必要に応じてこの懇談会の席でもごらんいただければ幸いと思いますが、きょうは限られた時間のようでございますので、その報告書の中で取り扱った問題点のうち、極めて重いといいますか、大事と思われる4つの項目に限って報告をさせていただきます。同時に、特別監察委員会としてこの問題をどう評価したかの概略、さらには再発防止についての委員会としての指摘した問題点を御紹介させていただきたいと思います。
まず、主な4つの項目でございます。
最初に、入り口のところで、このメモに従って説明をお聞き取りいただければと思いますが、平成16年1月の調査から抽出調査を導入したことにつきまして、御承知のように、500人以上のいわゆる大規模事業所につきましては、全数調査、抽出率1分の1という処理で行うべきところを、継続して毎月調査対象となっている事業所から都道府県に対してその作業が大変だという意味での苦情が寄せられる、継続指定を避けてもらうことができないだろうかという都道府県の要望が確認できたわけですけれども、それに厚労省の担当者として配慮すると同時に、大規模事業所が集中している東京都の場合には全数調査にしなくても統計の精度は確保できるだろうと考えまして、東京都について抽出調査に切りかえていったという経過でございます。問題は、こうした調査方法の変更につきまして、平成15年当時の担当課限りの決定で進められたことでございまして、統計部門の上司の決裁、あるいはそこから先は総務省との調整をしていなかった、担当課限りの処理として行ったというところの問題がございます。これは、資料の確認として、事務取扱要領とか担当者のヒアリングによって事実関係の確認をしております。
2番目でございますが、平成16年1月調査からの抽出調査に関して適切な復元処理がなされなかったことにつきまして、これが実質的にかなり大きな問題、より大きな問題であろうと思われますが、当然ながら、つまり、全数調査でやるところをシステム抽出でやろうとすれば、システム改修をしなければなりません。その場合に、必要が出てくれば、企画担当の係とシステム担当の係が打ち合わせをしながら必要な作業を進めていくというのが手順でございます。ところが、その場合の手続を係長以下のみによって対応している。しかも必ずしも書面で依頼はしていなくて口頭ベースで依頼していることもあったということでございまして、そもそも事務処理の誤りが生じやすい体制であったのみならず、その復元をしなかったことについて、事前・事後のチェック体制が備わっていなかった、あるいは、サンプリングに変えていったときにそういうやり方に変えたのかどうかということの事後の確認もできていなかったということで、全体としてのチェックのシステムがすこぶるできていなかったというところの問題が大きいと判断しております。これにつきましても、システムの改修関係の業務の処理が全て係長以下で行われていたと。その係長以下の処理に対してのダブルチェック、相互チェックなり、あるいは事後のチェックができていなかったことの問題でございます。
3番目ですが、不適切な取り扱いを知りながら長年放置していたということの問題でございます。これが平成16年から平成30年まで続いたということにつきまして、なぜこういうことになったかということですが、長い期間、問題が放置されましたのは、これは年報でございますけれども、公表資料は全数調査、1分の1というのは原則を記載したものなのだと、言外に例外があってもいいという考え方でございますが、それを理由に独自に自分なりの正当化の理由を見つけて、ずるずるとそのまま放置された。あるいは、問題のある取り扱いではあるけれども、長年こういう抽出の方法でやってきたのだから、それなりの合理性といいますか、理由があるのだろうという理由づけで納得させた。あるいは、誤りを改めることになると、業務量がふえる、あるいは煩雑さを伴うということでそのままにしたということもございます。業務がほかの仕事で多忙であったとか、あるいは、復元処理による影響が小さい、復元をしなくてもその結果の影響はそれほど大きいものではないという独自の判断をしたということで、そういう理由でもってそのまま放置してきたという経過でございます。一方で、全国の都道府県に抽出の場合には抽出率逆数表というものを送るようでございますが、東京都の大規模事業所で抽出調査が行われていることが確認できる記載がある。つまり、逆数表に1/1以外の数値が記載されているということになると、これは全数ではない、抽出なのだということが、見る人が見れば、担当者が見ればわかるはずだということでありまして、言ってみればその場しのぎの事務処理で進めてきたと。根本的には、決められたルールに従って事を進めるべきだ、事務処理を進めるべきだという意味での規範意識が極めて欠如している、あるいは、事の重大性に対する認識の甘さが根底にあったのではないかという見方でございます。
4番目でございますが、平成30年1月の調査から、おくればせながらといいますか、復元処理を始めた、これはなぜかということでありまして、ちょうどこの時期に中規模事業所においてのローテーション・サンプリングの方式を採用することになりまして、そのときに、中規模事業所に関しては少なくともシステム改修が必要になりました。その際に、当時の担当室長としては、抽出調査をしながら適切な復元処理がシステムに組み込まれていないことを承知していたわけでありまして、この中規模事業所についてのローテーション・サンプリング方式導入に伴ってのシステム改修に、いわばタイミングとしては合わせて、大規模事業所関係の統計についても、統計として本来あるべき適切な復元処理をして、正確な統計を提供するのがあるべき姿だろうという考え方でもって、この中規模事業所のシステム改修の際に東京都の大規模事業所に関する復元処理も行うことができるようにシステム改修を行ったという経過でございます。これが、別の問題として、こういうタイミングであわせて復元処理をやってのけたということについては、事柄が公になることを隠そうとしたのではないかという問題につながるおそれのある仕事の仕方をしたということでございます。このときに、担当室長としては、システム改修の前後で集計結果に段差が生じることもあるということを予想はしていたわけですけれども、ある程度、数値の検討はしたわけですが、復元処理による影響、0.2とか何とかという数字を自分なりに確認をしたにもかかわらず、それは影響は少ないのだと、いわば誤差の範囲内にすぎないという判断をして、抽出に伴っての復元をしていない。これまでの調査方法の問題とか、あるいは復元による影響について、上司に報告や相談をしないままで対応してしまったということでございます。
以上の4点は、報告書でも触れました問題点は数々にあるわけでありますが、一番中心になる4つという考え方で申し上げました。
これらの問題点についての事実関係に対しての特別監察委員会としての評価でございます。
ごく概略的に申し上げますと、何よりも公的統計の意義あるいはその重要性に対する意識が余りにも低いということが際立っているということを指摘したい。厚生労働省の統計事務の職務遂行に対する安易な姿勢は、甚だしい職務怠慢であって、定められたルールに従って誠実に事務を遂行すべき公務員として到底許されるものではないということがございます。3つ目でありますが、厚生労働省の幹部職員の多くには統計に対する無関心がうかがわれ、統計に関する知識や統計業務担当の経験がない者も多かったということでございまして、問題はむしろ部下のほうに任せきりにしてしまうという傾向が委員会としても問題として認識されました。今般の不適切な取り扱いは、毎月勤労統計という重要な基幹統計をつかさどる厚生労働省の組織としての問題に帰着する部分が多いということでありまして、組織としてのマネジメントの機能不全、ガバナンスの欠如など、委員会として強くその点を非難するという記載をしております。厚生労働省には猛省を促すという強い言葉を報告書の締めくくりにしております。
こういう調査結果を踏まえての再発防止策の提言でございます。総務省あるいは政府全体として統計問題に対してどういうふうに対応していくかという検討が一方では進められておる中でございますが、少なくとも厚生労働省のいわば自浄能力といいますか、自治回復能力に期待して、厚生労働省として検討できるはずであり、してもらいたいという項目を8つばかり、項目だけでございますが、並べてございます。
2ページにごらんいただけますように、この中でウエートづけということは特にしておりませんが、一番上に書いてあります、統計に関しての統計設計とか推計方法についての調査方法、調査内容の正確・迅速な公開、統計情報を公開することが統計の信頼性確保の上でかなり大事なことだという認識に立っておりまして、これが指摘の最初に出てまいります。それから、問題が起こったときの報告あるいは迅速対応のための体制が十分ではない。これは下のほうに出てまいります、国民生活に直結する行政を担う者としての責任の自覚とガバナンスの強化を求めなければならない、とりわけ管理職を含めた研修を強化していくべきだろうということにつながります。下のほうに参りますと、一番下でございますが、他府省や民間の統計専門家などの人事交流、あるいは相互研さんの機会の拡充などを通じて、「開かれた組織」への変革を目指す、外部チェックの機会を導入するということについても検討されるべきだという提言でございます。
とりあえず、報告は以上でございます。
○小峰座長 荒井弁護士、ありがとうございました。
それでは、ただいまの事務局及び荒井弁護士からの御説明内容につきまして、委員の皆様の御質問、御意見など、何かございましたらどうぞお願いいたします。
○美添教授
御指摘のとおり、4つの項目は、重大な統計に関する誤りとか、不適切処理なのですが、そもそも、厚生労働省の統計は厚生労働省だけで守ればいいという意識が強くて、統計の世界はもっと広いのだから、専門家に普段から相談すればいいという意識がかなり欠けていたと思います。
旧厚生省はそんなことはなくて、現在でも立派な方も大勢いるし、数理系の方が統計を担当すると、実際に彼らは大変優秀です。私が大学院生のころから教わってきたような人たちが今でも若干います。問題は旧労働省のほうで、私が大学院生のころは立派な方がいて、随分教わったのですが、そういう方たちが1990年代の前に引退された後、熱心な方が来てもすぐ交代するということで、過去の経験、知識が継承されていない。外から見ていても、そういう心配がありました。今回の不適切事例が発見されたのは、統計改革推進会議において、私もそこの委員を務めておりますけれども、統計全体を見直している中で不自然な動きが発見されたものですが、この経緯については、統計委員会側でも厚生労働省側でも正確な表現をしていないと思います。
統計委員会に対しては言いにくいのですが、厚生労働省として統計の専門家にどこまで意見を聞いてこういう操作をしてきたのか、よくわかりません。資料はいろいろ拝見しました。そもそも最初の問題は、1分の1抽出を3分の1抽出にしても精度を確保できると考えた。当時の担当者から聞きましたが、本当にそう考えたようです。統計理論的に考えて、私もそれは100%間違いだとは思わない。でも、誰がそれを保証したのかはわからないのです。専門家がこういう手法でいいというのを厚生労働省でも納得してやったのなら、それはそれでいい。そうしたら、堂々と反論できたでしょう。1分の1でないからおかしいという批判のほうがよほどおかしい。
厚生労働省が公表した資料を、私は読みましたが、教科書にあるような単純な推計手法ではありません。いわゆる比推定という技術的な問題ですが、抽出率の変更にも十分耐えられるような手法を昔から使っていたのです。だから、復元処理をする、しないというのは、そもそも言葉の使い方が間違っている。厚労としては、これは反論のしようがなかったというのは同情できます。一方的に批判されて、その非を認めてしまったと思います。
ところが、そこから後がわからないのです。システム改修の話でも専門家のアドバイスは受けていないと思うのです。改修した結果、私の今までの入手している情報では、統計手法の本当の改善はなされていない。下手な復元処理はしないほうがよかった。この点は正確な情報はまだ入っていませんが、多分そういう結論になるおそれが強い。この段階でも、専門家との接触が足りないと思います。
これは厚生労働省が解決すべき大きな問題ですね。組織としての問題だといえばそうだと思います。長年放置していたこともそうでしょう。公表資料では抽出について1分の1が原則としているから3分の1抽出も正当化できるという点も、私が仮に相談されていたら、合理性があるという判断も示せると思うのですが、結果を見る限りでは、専門家に相談していないと思います。
そういうわけで、復元処理という用語は全く適当ではないにもかかわらず、多くの関係する方たちが使っている。これも、厚生労働省が統計の専門家と十分な意見交流をしてこなかったことを示すもので、ここに問題があると思います。
4番目の問題も、ローテーション・サンプリングを始めたときに、そこで復元処理を修正したというのですけれども、まず、ローテーション・サンプリングをすれば正確になるというのは多分勘違いです。統計委員会の指摘に応じて、この機会に推定法を修正しようとした。このときも専門家の意見を聞いていないと思います。ローテーション・サンプリングで段差が解消されるわけはない。むしろ誤差が大きくなった、それだけの話だろうと思います。
とりあえずは、この報告書と、これをめぐる厚生労働省の動き、統計委員会の動きに関して、私はそういう感触を持っています。
○小峰座長 ありがとうございました。
どうぞ、荒井弁護士。
○荒井弁護士 ただいまの御指摘でございますけれども、今回、私ども特別監察委員会としての検討対象は、そもそもこの不適切処理あるいは統計法違反の処理だということですので、それを是正するときに専門家の意見を聞くべきだという議論につながりにくかったわけでございまして、再発防止策のところでは、外部の意見を十分聴取して厚生労働省の適切な統計体制を整備すべきだろうと考えたわけでございますけれども、間違った統計処理について、それを是正するところで外部の方々の御意見を聞くかどうかということには、なかなか結びつきにくかったという経過でございます。
○小峰座長 ありがとうございます。
ほかはいかがですか。
○川口委員 2点、質問させていただきたいのですけれども、まず、1点目が、今回の事案で、統計作成が政治等からの独立性を保てなかったのではないかという疑念が一部にあるかと思います。2018年1月の改訂が賃金上昇をもたらすような形での操作だったのではないかという議論が一部にあるかと思いますけれども、そんなことはないということであればしっかりとここで説明をしていただきたいということが1点目です。
もう1点は、荒井先生の資料でも触れられていることなのですけれども、過小評価の問題で、この室長Fという方がキーパーソンかなと私は個人的には思っているのですけれども、荒井先生の資料の8ページを見ますと、数字まで入っておりまして、復元処理、正しく東京都の大規模事業所のウエートを3倍にするということだと思いますけれども、こうすると大体0.2%ぐらいのずれになるだろうと予想されておられたようなのですけれども、事務局から配付していただいた資料2-1の6ページ目の資料を拝見すると、2018年より前のところの乖離の幅が大体0.6%とか0.7%という形になっていて、計算したものから3倍の大きさになってしまっているのですね。ウエートをかけ直して計算し直しているだけだと思うので、なぜここまで大きな誤差が発生してしまったのかということに関して、何かこの後に検証されていることがあればお答えいただきたいと思います。これは厚生労働省がこの後に改革を自分で進めていくキャパシティーがあるかどうかということにも関係する話だと思うので、お答えいただければと思います。
○山田政策立案総括審議官 1点目は、私からお答えします。今、御指摘いただいた話というのは、恐らく4つの問題点、(1)ローテーション・サンプリング方式の導入、(2)ウエイトづけの更新に当たって過去のデータを改訂しなかったこと、それから、(3)常用労働者の定義の変更、さらに、すでに荒井先生からお答えいただいていますけれども、(4)抽出調査の復元処理、があると思います。
それぞれ事情が違うので、4つの問題点のうちの最初の3点だけ私から御説明します。
(1)ローテーション・サンプリングをなぜ導入したのかということについては、もともと毎月勤労統計調査が2~3年ごとに調査対象事業所を総入れ替えする結果、新旧データにギャップが生じて、それが過去にさかのぼって数値が補正されてきましたが、そのことが統計利用者にとって非常にわかりづらく、混乱を招くという御意見がありました。平成26年3月の閣議決定で総務省の統計委員会に諮問されていない基幹統計についての確認作業を行うことが決定されて、毎月勤労統計についてもその確認作業の対象になりました。平成28年6月に新旧データ接続検討ワーキンググループが統計委員会のもとに設けられて、そうした議論も踏まえて、最終的に、厚生労働省として、調査対象事業者の入れ替え方法の見直しということを、統計委員会を初めとした専門家の方の検討を経て、統計的な観点から行ったものでありまして、その目的は、あくまでも調査対象事業所を一度に全部ではなくて部分的に入れかえる、そのことによって段差を縮小させる。それから、遡及改訂をしないことで統計利用者のニーズに対応するためということが、このローテーション・サンプリング方式の導入の目的であります。
(2)事業所規模とか産業別の労働者構成割合に基づくウエイトづけの更新に際して、過去にさかのぼって賃金指数等を改訂しない取り扱いとしたことがなぜかという点。これについては、毎月勤労統計調査が、先ほど申し上げたとおり、2~3年ごとに対象事業所を総入れ替えするとともに、その時点で総務省の経済センサスが更新されている場合には、最新の経済構造の変化を反映させるためにウエイトづけも更新してきたと。このウエイトの更新によって調査結果にギャップが生じることから、さかのぼって増減率の改訂も行ってきたが、これも先ほど申し上げた1点目と同様、統計利用者にとって非常にわかりづらい、混乱を招く等の御意見がありました。ウエイト更新に伴う遡及改訂を行わないということを判断したものは、統計委員会における見直し議論も踏まえて、ギャップへの対応として、利用者のニーズ、過去の増減率が事後に変わることは望ましくないとか、わかりやすさ、納得性などに沿ったものとして、こうした見直しを厚生労働省が決めて、平成30年8月の統計委員会でも、標準的な対応であるということで確認されたということです。ちなみに、ウエイトづけの更新の影響は、その時々の産業経済構造の反映によってプラスにもマイナスにもなるものなので、一方的に上振れさせる目的にはならないということはデータ的にも明らかだと思います。
(3)毎月勤労統計調査における常用労働者の定義を平成30年1月から変更していますが、これについては、統計調査のあり方について、総務省において、平成26年3月に、公的統計の整備に関する基本的な計画ということで、国際基準の見直しへの対応とか、より直接的な話ですけれども、非正規雇用の実態等を適確に捉えるための労働者区分の整理・見直し、そういったものの取り組みを推進することとされたところであります。毎月勤労統計調査の常用労働者の定義変更は、統計相互の整合性の確保・向上、国際比較の可能性の確保といった観点からなされたものであって、これは、総務省の経済センサス、経済産業省の工業統計調査等でも同じ、そういった他省庁の統計調査でも既に同じような定義変更を行っているところであります。これも、データ的に見ると、今回の定義見直しによる影響は、常用労働者数では+0.7%の押し上げ効果があり、一方で、賃金については、定義変更で、事業所規模別では-1.3%から+0.5%と、規模によってかなり試算結果のばらつきがあって、上振れ、下振れといった方向性はばらけているという状況であります。
少し長くなりましたが、以上です。
○菱谷大臣官房人事課調整官 続きまして、0.2%と0.6%の差異でございます。こちらは、そもそも「誤差」という言葉が不適切だと思いますけれども、この0.2%につきましては、確認したところ、その時点の東京都の賃金を、3倍に直したときに、それで出てくる差が大体0.2ぐらいだろうと想定していたということだそうです。ただ、毎月勤労統計につきましては、過去の数値を属性として引きずり続ける特性がございまして、今回の事案につきましては平成16年から数値を再集計する必要が生じたわけでございます。
実際には、データの保存が十分でない平成16年から平成23年を除きまして、平成24年から再集計をしているわけでございますが、平成24年の再集計を行ったところの数値から1時点でも誤差が生じた場合、そのショックが後々にも影響が及ぶことになるのですけれども、そうした影響を加味した結果として、その差が0.6%ぐらいになっていたということでございます。
わかりにくい説明で済みません。
○川口委員 済みません。全然よくわからなかったのですけれども、振り返ってやってみて、F室長の計算を再現できたのかということと、どこが間違っていてこれだけのずれが生まれてしまったのかということに関してどこまでわかっているのかということをお知らせいただけるとありがたいのですけれども。
○菱谷大臣官房人事課調整官 そういう意味で申しますと、F室長は、ワンショットで、その時点の賃金だけを、例えば、東京都の分を3倍にすればこれぐらい差が出るだろうと考えていたけれども、実際には、毎勤は誤りがあった最初の時点から全部再集計をしなければならなかったということです。
○川口委員 事後的に振り返ってみて、ワンショットでやり直したら、そのずれは0.2しかなかったということでよろしいのですか。
○菱谷大臣官房人事課調整官 大体0.3ぐらいだと思います。
○川口委員 それでも50%ずれているのですけれども、何でそんなずれが出るのですか。
○菱谷大臣官房人事課調整官 そもそも軽く考えていたのだと思いますし、検証も十分でなかったのだろうと思います。
○小峰座長 どうぞ、吉川先生。
○吉川委員 今後のことにつきましては、後ほど我々は後半に時間を少しいただいて、改善策や何かのディスカッションがあると思うのですが、一つ、荒井先生に伺いたい。質問の前に、荒井先生を初め、特別監察委員会の先生方の御尽力に対しては敬意を表したいと思うのですが、その上でということなのですが、今日の資料2-2でいただいている2ページですかね。先ほど御説明があったかと思うのですが、5.の上の「これらの事実関係に対する評価」、最後のチェックのところで、厚生労働省の組織としての問題に帰着する部分も多いと結論づけられているということですよね。
巷間、新聞等の報道でも、厚生労働省は嘘をついたけれども隠蔽はなかったという、そんなことも言われて、そちらの委員会の結論で、国会等でも大変な問題になったことは御存じのとおりなのですが、組織的な隠蔽はなかったとおっしゃる、あるいは結論づけられたときの、そうなりますと、組織的な隠蔽の定義というのですかね。なかったと結論づけられた定義はどういうことかということを、改めて簡単に御説明いただければと思います。
○荒井弁護士 1月報告の段階でも、この不正あるいは統計法違反の問題に関して、厚生労働省が組織としてそういう不正に何らかの形でかかわったかどうかという問題意識は持った上で調査に臨みまして、1月報告書の中にも組織的隠蔽があったとは認められないと触れた部分がございました。その後、マスコミあるいは国会でかなり大きい問題意識として寄せられたものが、厚生労働省の組織的隠蔽問題ということをどう考えるかという点にかなり批判的な御意見が集中した経過がございました。
この「組織的隠蔽」という言葉にどういう意味を込めてお使いになるか。それは、論者によってイメージがそれぞれ違うところがある。しかも組織的隠蔽とはどういう場合を指すのかということについての何らかの明確な定義が一義的にあるわけでもないということで、私どもとしては、今回の不正問題についての厚生労働省のかかわり方、これはかかわらない・かかわる、積極・消極、両方あり得るわけですけれども、どういうことを指すのかということを一応私どもとして定義づけをした上で検討をすべきだと、まず、そこからスタートをしまして、2月の追加報告の段階では、そこをかなり丁寧に説明すべきだという委員会の考え方に基づいて検討を進めました。
そこで、いろいろな見方、意見があるわけですけれども、私どもの委員会としては、隠蔽行為というのは、そもそも法律違反または極めて不適切な行為について、その事実を認識しながら意図的にこれを隠そうとする行為、いわゆる故意にやったのだということ、故意行為だということを前提にして、それが、言ってみれば大臣・次官クラスのレベルでの組織的な対応という問題、課とか室レベルでの組織的な対応という、言ってみればいろいろな段階があり得るわけですけれども、それを前提として検討した上で、今回の案件につきましては、意図的に隠したというところまでは認められないということで、隠蔽行為があったということは認められないという判断、認定に至ったわけでございます。
これにつきましては、そういう結論を出したのは、もちろん委員が議論した上での定義づけであったわけですけれども、委員の頭の中だけからひねり出したというものではございません。関係する裁判例もかなり丁寧に調べました。行政事件とか国家賠償事件などで組織的隠蔽ありやなしやということが問題になったケースは、かなり規模の大きな事件で意外にたくさんございました。それを参考にすることはもちろんございましたし、関連する法律も若干あるわけでございます。
それから、法律関係のいわゆる有識者の意見を確かめるほうがいいだろうということで、一定の時間をかけて考え方をまとめて、しかも、委員会で報告、説明をしていただくという作業を経た上で、委員会の中での議論を経て、ただいま申し上げたような隠蔽行為というのはこういう場合を言うのだと、故意の行為を指すのだという定義づけで、そういう枠組みの中で、今回、関係者が意図的にやったのかどうかという検討、事実の認定、事実関係の確認を進めたわけでございます。
結論的には、組織的隠蔽ということには当たらない、そういう疑いのあるいろいろな事象は散見されるわけですけれども、それでもって意図的に故意で隠したのだと認定するのは無理があるという結果になったわけでございます。ただし、報告書にもかなりの字数を割いて書いてありますけれども、先ほど申し上げた復元処理を平成30年段階に至って手をつけたと。これは、これまで復元処理もしていなかった、そもそも抽出でやっていたということを隠すために、適切な処理に近づけようとしたのではないかという疑いを持たれてもやむを得ないではないかと。疑いを持たれるようなことをやるのは極めて不適当であるということで、反省を促すということをかなりきつく指摘してございます。そういう意味で、黒という認定はできないけれども、それでは、白かと、隠蔽はなかったという断定は到底できるものではないというのが委員会の判断でございます。一方で、その疑われるようなことをやったのはまずいということの指摘はしてございます。
もう一つ、同時に、この報告書の中では、虚偽の申述、嘘を言っているということをかなり大きな問題として捉えまして、それは指摘しておるわけでありますが、これは、総務省の統計委員会の公の場で、全数でやっているのだということを平成30年の段階でいまだに口頭で報告した経過がある。これは明らかに公の場で事実と異なることをそれと認識しながら嘘を言ったということで捉えて、そこはかなり大きい問題ですよということを指摘しているわけでございます。
ちなみにですが、商法とか、あるいは一般社団法人及び一般財団法人に関する法律という法律がございますけれども、その中で、理事とか取締役が官庁に対してあるいは総会に対して虚偽の事実を述べたということに対して、罰則つきの規定がございます。これはかなり重いいわば不正行為という位置づけでございます。
○吉川委員 ありがとうございます。私の質問には十分お答えいただいたと思います。ただ、今回の場合、意図的とか、そういう場合には、積極的な行為に以外の不作為とか放置という場合に意図的というのはどれぐらい考慮すべきなのかというのは、素人ながらにややクエスチョンマークがつくというのと、先ほどのお答えの中で、隠蔽がなかったとは結論づけられていないという理解が正しいのですか。嘘はついたけれども、よく世の中で隠蔽はなかったと私どもは聞くことがあるのですが、隠蔽があったとまでは結論づけられないというのが正しい結論という理解でよろしいのでしょうか。
○荒井弁護士 そのとおりでございまして、隠蔽があったとは認められないというのと、隠蔽がなかったという認定との間には相当のギャップがあるわけでございます。そういう認定の仕方でございます。
○吉川委員 わかりました。
どうもありがとうございました。
○小峰座長 ありがとうございました。
ほかはいかがですか。
○神林委員 ちょっと話題が変わるのですけれども、報告書につきまして荒井先生に1つお聞きしたいことがございます。先ほどの美添さんのコメントと非常にかかわるのですけれども、例えば、「1.平成16年1月調査から抽出調査を導入したことについて」というところで、ずらずらと書いてあって、確保できると考えたこと、あるいは判断したという、具体的にある人がある意思決定をしたというポイントが幾つか出てきます。平成30年の変化に関しては、先ほどのF室長が具体的に計算をした結果、0.2%のずれしかないということで、影響が過小だろうとその方が判断したというのはわかるのですけれども、例えば、平成16年1月調査に抽出調査を導入したときに、何か具体的にこういう計算をして、このぐらいしかずれがないのでちゃんと復元処理をすれば大丈夫だろうと、誰かがちゃんと計算したのでしょうか。
○荒井弁護士 そこまでは確認できておりません。平成16年段階で抽出調査に踏み切ったということにつきましては、その当時の各都道府県に流した事務取扱要領とか、あるいはその当時の担当者のヒアリングによって抽出に切りかえたと。おっしゃるとおり、その影響は少ないとか、そういうことを理由づけとして、あるいは、都道府県ではなくて調査対象の企業からこれは大変だということで、もう少し毎回ではなくてという要望があったことは確認できるのですけれども、それほど大きな影響ではないということの確認ですね。それを担当職員が検討したかどうか、あるいは踏み切る理由にどの程度客観性があったのかどうかということの確認はできなかったということでございます。
○神林委員 その点につきましては、何か問題にはならなかったですか。つまり、統計的な処理を変えるというプロセス、意思決定したときに、その根拠となる判断材料がないわけですよね。
○荒井弁護士 そもそもこれがいわば係レベル、課長限りでということで、課長はもちろん認識して対応しているわけですけれども、その判断の根拠について検討する以前に、そもそもそれは手続的におかしいのだと、あるいは、総務省の統計委員会の手続を踏まないでやっているということで問題は明らかにおかしいのだという判断だったものですから、そこの合理的な根拠がどの程度あったのか、客観性があったかどうかということを担当者が確認したかどうかについて自体、委員会として検討に頭が向かなかったということでございます。
○小峰座長 ありがとうございます。
ほかはいかがでしょうか。
よろしいでしょうか。
それでは、荒井弁護士におかれましては、お時間の関係もあり、ここで御退席されます。
本日は、お時間をいただきまして、誠にありがとうございました。
(荒井弁護士退室)
○小峰座長 続きまして、議事の3「再発防止及び統計行政のフロントランナーとなるための取組に向けた意見交換等」に移らせていただきます。
ここまでの資料説明や意見を踏まえて、統計改革に向けた御提案、御意見等を中心に御議論いただきたいと思います。
そこで、名簿の順に、各委員から、ちょっと短くて恐縮ですが、3分程度ずつで御意見をいただきまして、その後、全体で議論をするということで進めたいと思います。資料を御提出いただいている委員もおられますので、そういった委員におかれましては、その資料も使いながら御説明をお願いしたいと思います。
それでは、梶木委員からお願いいたします。
○梶木委員 弁護士の梶木でございます。
長年、司法官僚といいますか、あるいは法務省の行政官僚をやってきた経験から、今回の報告書等を読ませていただきました。
改革に向けて大事な点は、大きく言うと2つだろうと思いました。
一つは、決裁というか、その組織のガバナンスの改革をきちんとやる必要があるということです。今、細かいいろいろな議論が出ていましたが、いずれにしても、さまざまな段階で、部下である方々が適切な報告とか相談をしていない。あるいは、上司は、そういった部下をちゃんと把握していない、掌握していない。あるいは、上司として、さらにその上に報告をしたり相談をしたりというようなことをしていないということで、誠に基本的な意識改革をすべきなのだろう。これがこの統計部門の固有の問題なのか、あるいは、特定の局の問題なのか、省の問題なのかということを、一番内部の方はおわかりですから、レベルを分けて研修のようなことをされるのが一番確実なのだろうと。そのときに、今回のこの非常に血を流した事案というのは、教材として皆さんが物を考えるときに最適なのだろうということが一つでございます。
もう一つは、使っておられたシステムが古いということもあって、こういった多数を相手にしていろいろな係数をとっていく統計業務で、しかるべき最新のシステムを導入するために、研究をしたり、予算をとったりということは必須だろうと思っております。国民から見ると、結局、税金を効率的に使うということですから、本当を言うと、国に一つの統計部門を集中させて、そこでやるのが一番いいのだろうと思いますし、そうすることによって、統計にかかわる技術官僚をうまく処遇していくことができる。小さい組織で技術官僚を抱えたりしていくと処遇が非常に難しいということで、そういう意味では、そんなにこの技術システムに対する理解とか、統計の専門家でなくても、要するに、説明を聞いて、ガバナンスができる人を育てればいい。むしろ、組織の外にそういったコンサルティングをしたり、あるいはシステムをつくってくれる会社を見つけて契約をして、そのつくられたシステムを使いこなす職員を育てていけばいいと思った次第です。
いろいろな議論の中で、具体的にどんなことを今後やっていくか。もう一点だけ言うと、外部の方に入っていただくという案がどこかにありました。多分言われた人は躊躇するかもしれない。ブラックボックスの中に手を突っ込んで責任をとれと言われるのは困るということが一つ。それから、やはりその方は戻ってしまうわけですね。処遇の問題が必ずあるということで、委員会でも何でもいいのですけれども、コンサルティングをして意見を聞いたり内部チェックをしてくれる外部組織と契約をするというのが一番効率的な感じがいたしました。
以上でございます。
○小峰座長 ありがとうございます。
それでは、川口委員、お願いします。
○川口委員 私からは資料を提出させていただきましたので、それに基づいて説明させていただきたいと思います。
取り扱いに関してなのですけれども、この※がついているところはウエブで公開されない、あとは公開されるという理解で説明をさせていただきます。
1ページ目、今回の件に関しての再発防止策なのですけれども、今日の資料でも配付されていますけれども、統計委員会のほうで建議が出されておりまして、私自身も統計委員会の点検検証部会の専門委員を務めておりまして、かなりの時間を使ってつくったものですので、ぜひこの建議に着実に従って再発防止を図っていただきたいと思っております。
8ページ目に指摘されているのですけれども、2004年から2011年の復元ができていないことが問題になっていまして、例えば、日本経済学会の機関誌で『The Japanese Economic Review』という雑誌がございますが、こちらの編集委員会では、2004年から2011年の毎勤を使った論文が投稿されてきたらどう取り扱うかということも問題になっていて、経済学の研究を進める上でも非常に影響が出ておりますので、統計委員会の技術的なアドバイスに従って、早急に2004年から2011年の復元集計をしていただきたいと思います。
それと、今回の事案で深刻だと思われるのは、統計をつくるのに政策的な配慮があるのではないかという疑念を抱かせたことではないかと思いますけれども、2018年1月の件に関しましては、先ほど詳細に御説明いただきました。今回、例えば「賃金引き上げ等の実態に関する調査」、最低賃金の審議に使われる資料ですけれども、これの調査設計には、労使という利害関係者の方々がかかわって調査設計されているということもわかりました。統計の調査設計というのは技術的な観点から独立した立場で行うべきと思っておりますので、そういったことについて疑念が抱かれないような制度設計を考えていただきたいと思います。
また、今回の事例で、統計を集計しているプロセスで何か不正があった、あるいは統計法違反があったということは、外から見ていてもなかなかわかりません。実際に個票データからくみ上げていって、これはおかしいと。例えば東京都の大規模事業所のサンプルサイズが突然3分の1になれば個票データを使っている研究者は気づきますので、今回は個票が余り使われていなかったことが一つの大きな原因だと考えておりまして、研究者が個票データを使いやすい環境を整えるというのが、非常に重要なポイントではないかと思っております。
2ページ目の今後のビジョンに関して、今回「『統計行政のフロントランナー』となることを目指し」ということで、この懇談会が開かれているわけですけれども、今回の事案、あるいは数年前から始まっていますEBPMへの取り組み状況を拝見すると、厚生労働省の取り組みは他の省庁を追いかける立場にあると認識しております。
このおくれを挽回してフロントランナーになるためにどういうことをやればいいのかを私なりに考えてみたのですけれども、私は厚生労働省は既に資源をお持ちだと考えておりまして、一つはデータです。もう一つは、内部に留学等を経て実際に統計分析の資質を持っていらっしゃる方がいらっしゃることを認識しておりまして、そういった人々を使って、内部にしっかりとしたチームをつくって、そこで対応していくことが一つの方法なのではないかと思っています。
そのチームで何を目指すべきかということなのですけれども、まずは基幹統計の調査票情報に関して、統計法33条のもとでデータをしっかりと整備するということと、過去にさかのぼってデータが使えるように、33条のもとで研究者が使えるような環境を整えていただきたいというのが1点目で、2点目は、雇用保険、年金、職業安定業務を遂行するために集められている大量のデータが、厚生労働省にはございます。これを研究目的に使えるような仕組みをぜひ整えていただきたいと思います。
そのためにはたくさん技術的な困難があると思いますので、まずそういう技術的な困難を識別するような作業を行って、その作業の経過を公開していただきたい。これらのデータを使って、基幹統計あるいは業務データを使って、実際にEBPMを実践していただいて、その結果を政策形成に生かしていただければいいのではないかと思います。
どういう人材が望ましいかということに関しては、いろいろ議論があるかと思うのですけれども、リーダーにはしっかりと統計を使って論文を書いた経験がある、かつ、博士号を持っている学識経験者です。これは誰が引き受けてくれるかという問題は当然あると思うのですけれども、リーダーを擁して、そのもとにこれまで統計分析の経験があるような職員の方に集まっていただいてチームをつくって、この3つの目標を時間が限られた中で外にも目に見えるような形で成果を出すというのが、私の提案です。
以上です。済みません。長くなりました。
○小峰座長 ありがとうございました。
神林先生、お願いします。
○神林委員 3分ということで、少し短目にお話をいたします。
私から提出したのは、ビジョン2019の構成案というものが最初についておりまして、その後に幾つかの提言があって、最後に日経新聞の記事が載っています。日経新聞の記事が短目に自分の考え方をあらわしたものですので、もしお時間があれば、これを参考にお願いしたいと思います。
自分からこの時点で提案したいことは、このビジョンの報告案というのでしょうか。構成案ですけれども、恐らくこれは2部構成になって、一つは、今、荒井弁護士から御説明がありました毎勤等々の統計スキャンダルの再発防止策をどのようにまとめるかという部分と、あとは未来の部分だと思います。
前者に関しては、既に幾つか報告書が出ているのと同時に、参考資料としてつけました学会等からの声明等もありますので、これらの問題点をまとめ、それに対応した再発防止策を具体的に記述するのがオーソドックスなやり方だと思いますが、先ほどの荒井弁護士の説明を聞いたところ、直接手を出して何かもうちょっときちんと考えないといけないのかと。任せられると思っていたのですけれども、そうはならないのかなと、今、疑念が湧いてきています。
2番目の将来に向けての話なのですけれども、これは後々時間があるときに御説明したいと思うのですが、いろいろな御意見が委員の方からあると思いますので、恐らく私独自の視点といたしまして、基幹統計と一般統計と行政情報という3つをきちんと区別して、誰が、どのような目的で、どういうふうに管理するのかという点について、今の行政のあり方と対応するようにきちんと整理したほうがいいだろうというのが私の意見です。
その極端なあり方の一つのオプションとしてそこに示したのは、もう基幹統計は手放してよいのではないか、統計局に全部預けてしまったほうがよいのではないかという考え方も恐らく一つあるだろうと。少し極端な考え方だと思います。
原局を持っている厚生労働省は、中立であるべき基幹統計というものに手を煩わすことなく、自分たちの業務に非常に近いところにあるデータを管轄する格好で分業体制を構築していくのも一つの案かと思います。これはこれで一つの極端な案ですので、たたき台としてお考えになっていただければいいとは思いますけれども、こういう考え方もあるのだろうということで提案をしておきたいと思います。
以上です。
○小峰座長 ありがとうございました。
中室委員、お願いします。
○中室委員 ありがとうございます。
私は資料を2部用意させていただきました。A4の1枚紙と、後ろについてありますパワーポイントの資料は、行政データのことについて、先日、自民党の行革本部のほうで御説明をさせていただきましたときの資料を転用してございます。こちらは参考資料としてつけておりますので、後ほどごらんいただければと思いますが、私のほうは将来に向けての御提案ということで、1枚紙に6つのポイントを書いてまいりました。
1つ目は、先ほどの神林先生の御意見とは逆になってしまうのですが、私は基幹統計、一般統計に関しては、省内における統計作成部署に集約して、省内の統計局のようなものをつくるというのは一つの案ではないかと考えておりまして、統計作成・調査研究・研修機能などを全て持っている新しい局を立ち上げることはどうかと考えております。
2つ目には、今日も複数回話が出ました人材育成と人材確保の件でございますが、省内で統計学または経済学の修士号あるいは博士号を保有している統計技官という者が必要ではないかと考えております。そして、統計にかかわる方たちを正当に正しく評価していただくことが必要かと思いますので、最終到達ランクは事務次官級となるようにしていただきたいということと、人数的には10年以内に統計作成部局の5分の1以上をそうした専門的な知識を有する方にしていただきたいと考えております。
また、統計学や経済学の人材のみならず、エンジニアの採用を強化して、エクセル等でのデータの管理をするなどという前時代的なやり方を改めていただきたいと考えております。
3つ目には、今日、荒井弁護士から御説明があった際、決裁者が誰であるかとうことについて、業務については実は係長級でやっていたというお話があったわけなのですけれども、決裁者をもう少しレベルアップしていただく必要があるのかなと考えており、定期的な統計公表の最終決裁者は局長として、統計の変更に関する最終決裁者は大臣であるとしていただくことがよいのではないかと思っております。
4つ目に、経済学者としましては、統計の再現性と利便性が極めて重要であると考えております。川口先生からもお話がありましたが、マイナンバー等を利用して、異なる統計や行政データ、業務データの照合ができるようにしていただきたいということがまずあります。このように異なる統計を照合しますと、その時点で、例えば数字に極端な外れ値があったり、平均値が違うということがあれば、気づく人も出てくるだろうと考えますので、他の統計と照合していただくということ。
それから、過去のデータが失われているということが著しい問題かのように思われますので、電子データ化することを基本として、5年間でデータを廃棄するという保存期限に関しては、ぜひとも基幹統計、一般統計に関連するものに関しては見直しをしていただきたいと思います。
また、統計情報の附属情報の保存と提供についても、ぜひ今後お考えをいただきたいと考えております。
さらには、海外の事例を考えますと、統計に関しては、もう少しユーザーフレンドリーである必要があって、個人のプライバシーに配慮した上で、オープン化を前提とした議論が進むということを経済学者としては非常に強く希望いたします。
同時に、雇用保険であるとか年金記録などの行政データを最大限活用する必要がありまして、この点に関しては、2019年の6月に公開された政府の骨太の方針でも、政府としてこういう方向で進んでいくということが明記されておりますので、こうした行政データも利用しながら、統計の質を上げて、そして、コストも削減していくという方向で議論をしていただけたらと思います。
EBPMに関しては、先生方も既に御意見がありますので、私からはここまでとさせていただきます。
以上です。
○小峰座長 ありがとうございました。
吉川委員、お願いします。
○吉川委員 私はマクロの経済学者として、統計のユーザー、特にマクロの統計のユーザーであるわけですけれども、今日、事務局が資料1で配ってくださった「統計の重要性」の資料の一番下にありますとおり、平成17年の6月、内閣府の経済社会統計整備推進委員会、この委員会の座長を務めたということで、統計にかかわりました。
それは当時、私が経済財政諮問会議の民間議員をやっていたということで、いろいろな理由から、当時ですら日本の統計には大きな問題があると。ここでは時間もありますから申しませんが、世界全体、EU、アメリカ、記憶ではオーストラリア、カナダも含めて統計整備が進む中で、日本の統計に大きな問題ありと。これまた繰り返しませんが、旧統計法というのは、いろいろな意味で大きな問題があるという関係者の認識のもとで、統計法の60年ぶりの改正も必要であるということで、1年余りこの検討委員会、ここにいらっしゃる方では美添先生とも御一緒して、とにかく進めました。
今日、関係資料として事務局に探していただいて、ホチキスどめの43ページ、古文書のようですが、平成18年5月18日付で私が諮問会議に提出した説明資料の3枚紙ですが、まずは統計法改正に向けて、統計の重要性の認識を総理大臣に持っていただく必要があるということでつくった資料であります。
46ページ、これが奏効したと私は思っているのですが、統計というのは国の志のようなところがあって、統計の重要性は改めて言うまでもないのですが、どこの国でも、いつの時代でも、統計の認識が深まる時代は、ある意味ではそれだけ行政全体に緊張感もあり、国家の志のようなところがあるということで、明治以降の歴史を振り返って、ここにあるとおり、伊藤博文、大隈重信、吉田茂、そして言うまでもなく小泉純一郎と、こういうことで、統計法の改正ということの意義を説いて、当時、総理にも認識していただいたということです。
それで、統計法も改正されて、初めは内閣府に統計委員会もつくられたということからすると、今般の問題は大変残念であり、ある種、私としては、なぜこういうことがと腑に落ちないところすらあるのです。つまり、重要な基幹統計の調査方法を変更するということであれば、一本道で統計委員会の場にそれが報告されて、そこで専門家による議論がなされる。むしろそういうものとして統計委員会は当時位置づけられていた。したがって、係長の方などがまあいいかとか、そういうことは、それ自体、アンシンカブルという感じがあって、一体どうなってしまっているのかなというところがあります。
今後のことですが、現在、総務省にある統計委員会が、まさに法律的に、あるいはそこにおける実際のあり方がどうなっているのかというのは、私は残念ながら必ずしもフォローしていないのですが、ただ、いずれにしても統計というのは専門性があって、先ほど、今日のこの会議でも美添先生が最初に御発言になったこと、ある種の専門家としての知見を踏まえた御発言であったと理解しているのですが、専門家との協力が欠かせないと思います。具体的には統計学者、あるいは統計を十分に利用している経済学者でしょうか。とにかく、そうした専門家の方々との協力は欠かせないと思うのです。ですから、よく問題があると外部の声もという意見も出るのですが、外部というのが素人だったら意味をなさないのです。
繰り返しですが、統計の問題に関する限り、必要な統計を公共財としてきちんと国が責任を持って整備していくというのは統計法のスピリットであって、それを担保するための組織として、統計委員会はつくられたはずなのです。当時、よくチーフスタティスティシャンという言葉が十何年前に議論されて、多くの国、とりわけイギリスではチーフスタティスティシャンという者が1人任命されているということなのだけれども、日本ではどうなのだろうかと。統計委員会の委員長がそれに当たるのかなと、そんな議論もしていた記憶がありますが、いずれにしても、組織としては統計委員会が司令塔として位置づけられたと。当時、よく司令塔という言葉も使っていたと記憶します。私は統計委員会にそうした役割を期待したいと思うのですが、いずれにしても、各省庁が統計委員会と十分に連絡をとるというのが、統計法、そして、当時つくられた統計委員会のスピリットだと。
ただし、統計委員会においては、委員だけで十分かというと、必ずしもそうではない。そこは統計学者あるいは経済学者との協力は常に必要だと思いますので、改革の方向としては、そういうところを生かしていただければと思います。
少し長くなりました。
○小峰座長 ありがとうございました。
美添教授、お願いします。
○美添教授 最後に資料をつけさせていただきました。1枚紙ということで「統計改革の視点」というものを書きました。
そこに書きましたけれども、3月に日本統計学会の春季集会が開催されて、そこで公的統計に関する特別セッションがつくられて、私も報告しました。それに引き続いて「公的統計に関する臨時委員会」が設置されて、その報告書の取りまとめには3カ月かけました。これはかなりの数の関係者が総力を挙げてつくったつもりです。
そこに、なぜこういう問題が起きたのかという背景も確認して記しました。第一部は比較的易しい解説ですが、第二部はもう少し広く、改革に向けた見解と提言、比較的先鋭的な意見も収録しています。今、委員の皆さんの御発言を伺っていて、私たちも同意するところもあれば、ちょっと無理だなというところもありました。私は保守的だといつも叱られるのですが、以下、1から7まで書いてあるうちの1から6までは、この報告書の第二部の提言の部分と同じです。第7の「統計学、経済学などの専門家と日常的に意見交換ができる仕組みを作ること」、これが特に厚生労働省に向けて書いたことです。
残り1分ぐらいでざっと説明しますが、第一部にいろいろなことを書きました。そもそも3倍すればいいということはないとか、世の中で復元処理すればいいと言っているのは誤解だろうということも書いてあります。第一部のほうは比較的易しいと思います。
第二部の要約を見ると、厚生労働省単独でできることは限られています。私たちの、日本統計学会に設置された委員会では、統計審議会、統計委員会などの経験者や役所の方も含めて議論して、できるだけ客観的な証拠に基づいて検討しました。したがって、以下の提言は、単なる意見ではないということを申し上げておきます。
まず1番目、統計機構の改革と必要な統計の作成。これは先ほどの御説明にあったとおりなので省略します。
2番目の提言は、統計改革推進会議でもそろそろ本気で考えていただけそうな雰囲気になっていますが、人材と予算をここまで削ってきて、いい統計ができるわけはないということが認識されたと思います。厚生労働省だけで統計人材を要求してもそれは無理な話ですので、省内の人材を適正に配分することが必要になるでしょう。
提言3は、厚生労働省、特に旧労働省絡みで不適切統計がなぜ発生してきたのかを考えると、これは今の統計制度が悪いという側面もあって、旧統計法にあったような届け出統計調査があれば、厚生労働省としてももっと統計審議会や統計委員会と相談する体制が組めたのではないか。これは残念なことで、さらに統計法の改正をしてほしい。この点は厚生労働省としても賛成してほしい。
提言4の行政資料の活用は、厚生労働省では大分進めていますが、具体的な資料をつけて、具体的には税務データと固定資産課税台帳の利活用を明記しました。
提言5は、厚生労働省に本当にお願いしたい、統計作成プロセスの透明性確保。
提言6は、統計専門職の系統的育成ですが、これとあわせて、専門家の集団である経済学者、統計学者とはふだんから密接な関係を持って、率直な意見交換ができる体制を作る。中には厳しい意見もあると思うのですが、それを受けとめて、反論すべきところはきちんと反論できる、そんなすばらしい人たちの集団。少なくとも昔はそうでした。それをまた復活してほしいと思っています。
○小峰座長 ありがとうございました。
それでは、私からも、私はペーパーはないのですけれども、簡単に考えを申し述べさせていただきます。
今回の検討テーマは、過去を反省して再発を防止するといういわば後ろ向きのテーマと、将来を展望して統計の作成、利用について、より充実したものにしていくという前向きのテーマと、2つあるのだと思います。過去の反省で再発防止というのは、いわばこれはマイナスをゼロにするようなもので、しっかりやって当たり前ということなので、これをちゃんとやったからといって余り自慢にはならない部分だと思います。これは今回の経験を踏まえて、どんな手続でそれぞれの統計を整備していくのか、また、それを改める場合には対内的、対外的にどういうプロシージャーをとっていくのかを明確にして、それに各構成員がしっかり従っていくということしかないのではないかと思います。
将来を考えたとき、より前向きに何が必要かということですが、私は利用者の立場として、統計の利用を通じて統計の質を高めていくという点をぜひ重視してほしいと思います。これは既に委員の皆様からも御意見が出ていますけれども、対外的な利用としては、個票データを広く活用していただいて、経済の分析に使ってもらう。それをなるべくオープンにしていくことが重要かと思います。
対内的、内部では、これも指摘がありましたが、EBPMで証拠に基づく議論をしっかりやっていただいて、そういった中で統計を自分たちで実際に使っていくということをぜひ習慣づけてほしいと思います。
これも皆様から議論がありましたが、人材の育成というのは大変重要だと思います。これは統計の専門家というか、統計の利用、経済的な見地から利用する専門家、そういった人材が出てきて、省内でそういった人材がうまくキャリアアップしていけるような環境を整備していって、そうした人たちが省内からリスペクトされるような、そういった人材をぜひ育てていってほしいと思います。要は、こういう問題についても、この人に聞けばよくわかるとか、そういった人材が出てくればいいのではないかと思います。
最後に、これは当然ですけれども、予算とか定員という面で、これはしっかり対応していただいて、今後その充実に向けて進めていただければと思います。
以上が私の考えです。
それでは、残された時間は少ないのですけれども、以上の皆様の御意見を踏まえて、あとは自由にそれぞれ御意見があればお願いしたいと思います。
何かあれば、どうぞ。
○梶木委員 事務方に御質問なのですけれども、厚生労働省でやっている統計の資料ですね。公表している、その下にバックデータがたくさんあるわけですけれども、これはどの国の方に見ていただいても差し支えのないものですか。公表というのはそういうことが前提になりますから、大丈夫なものですか。
○菱谷大臣官房人事課調整官 統計法に基づきまして、個票データについては申請していただくことになりますけれども、どこの国の方であっても、匿名性などは担保した形で公表させていただくことになります。
○小峰座長 ほかはいかがですか。
川口さんの2ページ目の最後に出てきている「素養のある中堅・若手職員をメンバーとするフルタイム職員によるチームを編成し」という、このチームはどういうイメージなのですか。独立した組織としてそういうものをつくるのか、それともプロジェクトチーム的なものでアドホックにやっていくのか、その辺のイメージはどうなのでしょうか。
○川口委員 組織として恒久化できれば一番いいと思うのですけれども、リーダーの方も内部の方が務めていただけるような形になっていけば一番いいと思いますけれども、ここでとりあえず想定しているのはプロジェクトチームみたいなものです。いろいろな人材を想定することは可能だと思うのですけれども、私が個人的に思うのは、厚生労働省の中にも原局で政策を担当されている方の中に統計を利用する素養がある方がおられて、そういうユーザー視点で統計に触れたことがある方が、こういうEBPMみたいなことを推進していく上では大切なのではないかと思っております。そういった方を集めたチーム、プロジェクトチームなのですけれども、片手間でできるような仕事ではないと思うので、そこに専従していただくようなチームを省内につくっていただいて、外部の方でとりあえずはそのチームをリードしていただくというようなイメージを持っておりました。
○小峰座長 ありがとうございました。
ほかはいかがですか。
どうぞ。
○吉川委員 既存の統計をつくる仕事はもちろん一つ大切な仕事としてあるわけですが、大きな新しい統計をつくるというのとはまた別でも、進化させていく、そういうことは常に必要だと思うのです。先ほど、私は統計の整備が進む、あるいは統計の整備というのは、ある意味では国の志だという表現を使わせていただいたと思うのですが、それはそれぞれの役所が、そのときに国としてどういう課題を抱えているかを常に考えていただく。それが行政ですね。
それを真剣に考えれば、今ある統計は必ずしも十分でないということも出てくると思うのです。そういうことを統計作成のほうに投げかけていただく。それは明治以降の歴史の中でも各省がいろいろなことを考えながら、国づくりの中で統計をつくっていったという歴史でもあるわけで、実は厚生労働省の所管の中でも、あるいは労働統計の中でも、御存じのとおり、ここ20年ぐらい、いろいろなことが問題になってきている。いわゆる非正規に関わる課題や実態把握の必要性が求められた場合、そのような調査は既存統計の中でも調査項目として新たにつけ加えられてきたこととか、厚生労働省の統計調査の中でもそういう歴史もあると思うのです。
ですから、繰り返しになりますが、統計というのは統計をつくる特別な部署でということではなくて、積極的にほかの部署の人、あるいは上の方というのですか。表現はよくわからないのですが、統計に余り関心がないということではなくて、むしろその時々の行政の課題とか政策立案、そういうことから統計を進化させなくてはという問題意識を常に持っていただく。そういうことが必要なのではないかと、このように期待として申し上げたいと思います。
○小峰座長 ありがとうございました。
ほかはいかがですか。
先ほど美添先生が、かつてはこういう経済分析とか統計について非常に詳しい職員が存在したけれども、今、それが余り見られなくなったという話がありましたが、これは事務的に考えて、何かこういう組織の変化があったのでとか、人事上の扱いの変化があったとか、そういう構造的な要因で思い当たることがあるのか、それとも、それはもう意思次第でやろうと思えばできるのだということなのか、その辺はどうなのでしょうか。
○美添教授 厚生労働省だけの問題ではありません。報告書の本文は第一部16ページ、第二部34ページです。ぜひ皆さんに読んでいただきたいと思います。資料編を合わせると全部で170ページあって、資料編には海外の事例などが多く記載されています。
今、御指摘のところは、御存じのとおり、代々の行政改革とともに組織が削られ、予算が削られ、ついこの間の統計改革推進会議で初めて歯どめがかかった。でも、全体としてはまだ減少傾向にある。これは各省で守れといっても無理です。厚生労働省はまだ組織がしっかりしているほうです。
○小峰座長 何かありますか。
○山田政策立案総括審議官 恐らく特定の人事上の制度変革がそうした状況を招いたということはないと思います。私は前々職が人事課長で、今回の問題が起きる数年前の話ですけれども、シンクタンクだとか、留学だとか、大学教員などへの厚労省職員の出向枠を増やして(それは必ずしも経済学分野だけではないですけれども)、そういう学術的な感覚をきちんと持った人材を厚労省として育てるような手だてはしたつもりです。裏返せば、これまできちんとそういう人材を育てていく姿勢がなおざりになってきたことはあったかと思います。いずれにしても、今回の案件を奇貨として、そうしたところを再構築していく必要があり、そういったところにお知恵を拝借させていただければと思います。
○小峰座長 ありがとうございます。
ほかにはいかがでしょうか。
それでは、どうも御議論をいただきまして、大変ありがとうございました。本日の議論を踏まえて、また事務方のほうで論点を整備していただいて、次回の議論につなげていただきたいと思います。
予定しておりました議事は全て終了いたしましたが、特にこの懇談会全般等について、何か御発言があれば。
ないようでしたら、最後に事務局から連絡事項等、お願いします。
○武藤政策統括官付参事官 皆様、本日はお忙しい中御出席いただき、ありがとうございました。
次回の日程につきましては、現在調整中となっております。決まり次第、御連絡をさせていただく予定ですので、よろしくお願いいたします。
○小峰座長 それでは、本日の議論はこれで終了したいと思います。本日は大変ありがとうございました。
 
 
(了)

照会先

政策統括官付参事官付統計・情報総務室 菱谷・益田

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