第75回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会議事録

 

 
第75回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会(議事録)
 
1.日時 令和元年5月16日(木) 17:00~19:00
 
2.場所 厚生労働省労働基準局第一会議室(中央合同庁舎5号館16階)
  (東京都千代田区霞が関1丁目2番2号)
 
3.出席委員
(公益代表委員)
○東京大学大学院法学政治学研究科教授 荒木 尚志
○慶應義塾大学名誉教授 大前 和幸
○名古屋大学大学院法学研究科教授 中野 妙子
○読売新聞東京本社編集委員 宮智 泉
  
(労働者代表委員)
○全日本海員組合奨学金制度運営管理部長代理 楠 博志
○全国建設労働組合総連合労働対策部長  田久 悟
○UAゼンセン 政策・労働条件局長 松井 健(代理出席者)
(欠席:浜田 紀子 UAゼンセン政策・労働条件局部長)
○日本労働組合総連合会総合労働局長 村上 陽子
  
(使用者代表委員)
○日本通運株式会社 総務・労働部専任部長 北 隆司
○鹿島建設株式会社安全環境部長 本多 敦郎
○日本製鉄株式会社人事労政部長 山内 幸治
○一般社団法人 日本経済団体連合会労働法制本部長 輪島 忍  

4.議題
(1)複数就業者への労災保険給付の在り方について 
(2)「労災保険の業種区分に係る検討会」報告書について(報告)
 
5.議 事
○荒木部会長 定刻になりましたので、ただいまから第75回労災保険部会を開催いたします。始めに、委員改選後の初めての部会ですので、事務局から新しく就任された委員の御紹介をお願いいたします。
○労災管理課長 労災管理課長の田中でございます。よろしくお願いします。座らせていただきまして御説明申し上げます。お手元に労働条件分科会労災保険部会の委員名簿を配布しております。こちらを御覧いただきながらお聞きいただければと思います。
 今回、新しく御就任いただいた委員は5名です。まず、公益代表として中野妙子委員、森戸英幸委員に御就任いただいています。そして、労働者代表として楠博志委員に御就任いただいております。それから、使用者代表として、北隆司委員、輪島忍委員に御就任いただいております。どうぞよろしくお願いいたします。
 なお、当部会の部会長ですが、労働政策審議会令第7条第4項の規定に基づきまして、公益を代表する労働政策審議会の本審の委員の中から選挙するということとされておりますが、本部会においては公益を代表する本審議会委員は荒木委員のみということですので、引き続いて荒木委員に部会長をお願いできればと思っております。よろしくお願いいたします。
 なお、事務局にも人事異動がありましたので、紹介させていただきます。補償課長の西村です。なお、労災保険業務課長の園田も4月1日付けで着任しておりますが、本日は業務の都合により欠席ということです。よろしくお願いいたします。私からは以上です。
○荒木部会長 本日の委員の出欠状況について、公益代表の水島委員、森戸委員、労働者代表の酒向委員、坪田委員、浜田委員、使用者代表の二宮委員が御欠席です。また、使用者代表の砂原委員は遅れての出席というように伺っています。なお、浜田委員の代理として、USゼンセンの政策・労働条件局局長の松井健様が出席されています。
 これにより出席者は12名ということになりますが、公益代表、労働者代表、使用者代表、それぞれ3分の1以上の出席がございますので、定足数は満たされていることを御報告いたします。
 それでは、まず部会長代理の指名をさせていただきます。労働政策審議会令第7条第6項に基づきまして、部会長代理は当該部会に所属する公益を代表する委員又は臨時委員のうちから部会長が指名することとされておりますので、私から指名させていただきます。部会長代理は大前委員にお願いしたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。カメラ撮り等はここまでということでお願いします。
 本日の議題に入ります。第1の議題は複数就業者への労災保険給付の在り方についてです。本日は内容が多岐にわたるため項目ごとに説明をお願いし、質疑応答したいと考えています。まず資料1-1「給付額に係る論点」について、事務局から説明をお願いします。
○労災管理課長 資料1-1に基づいて御説明いたします。併せて、資料1-4の後ろに「参考1」というものがございます。この中で、7ページから9ページに、これまでの委員の皆様方からの御意見を記載しておりますので、こちらも参照いただきながら、資料1-1の御説明をお聞きいただければと思います。
 資料1-1の1ページを御覧ください。今回の論点ですが、前回お示しした論点について、変更があったところについて赤字で修正しております。まず前提と現行制度の部分ですが、ここは変更していないので省略させていただきます。
 2ページは「賃金額を合算して給付することについて」です。現行制度について、少し詳しく説明しております。まず、労災保険制度の目的についてです。制度発足当初については災害補償という目的があったわけですが、昭和48年に通勤災害補償制度が労災保険制度中に設けられたといったことに伴い、目的としては保険給付を行うということに改められたということです。2つ目の○の所に目的規定を書いています。3つ目、4つ目については特に内容的には変わっていません。
 5番目については、現行制度の中で、労災事故が起こった場合に保険給付がいつも満額出ているわけではないということを、念のためということで書いております。現行制度においては、労働者が故意の犯罪行為又は重大な過失により負傷等若しくは原因となった災害を生じさせる、あるいは負傷等の程度を増進させた場合といった場合については、保険給付の全部又は一部を行うことができるということになっています。例えば故意の犯罪行為又は重大な過失というところですが、飲酒運転をして事故を起こす、あるいはスピード違反が基で事故を起こすといったことが挙げられると思います。また、負傷の程度を増進させた場合ということですが、療養の指示があったのに従わなかった結果、より疾病の程度が悪くなったといったことが挙げられるということです。以上のようなことを念のためということで書いております。
 それから、これは他制度ということなのですが、社会保険制度で賃金額の合算をどうしているかということなのですが、厚生年金保険法の老齢厚生年金、あるいは健康保険ですと、同時に複数の適用事業場から報酬を受けるといった場合には、複数の適用事業所の報酬の合算額を基礎として給付がなされているという取扱いをしております。
 次のページ「検討の必要性」を記載しております。
 次に4ページの「論点」を御覧ください。これも1番目と2番目については特段変えておりません。1番目については、額を合算することについて現行制度では、労災保険制度の目的である稼得能力や被扶養利益の喪失の填補を十分に果たしていないのではないかということを論点1として掲げています。保険料の観点からいくと、就業先Aでも就業先Bでも、保険料が支払われているということを書いております。さらに3点目として、これは前回御議論があったところなのですが、現行の制度の下では被災労働者から非災害発生事業場での賃金分について、災害発生事業場に対して損害賠償請求がなされるといったような可能性もあるのではないかということを、論点の3つ目として書いております。
 5ページの「保険料負担の在り方について」です。これも、現行制度を詳しく説明しているということです。労災保険率ですが、業種ごとの災害率等に応じて定めているということですが、全て業種ごとに異なっているということではなくて、業務災害分以外については、これは事業主の管理下において生じる災害ではない、あるいは有効な災害防止措置を講じる手立てもないというようなものについては、全業種一律ということで料率を決めさせていただいているということです。詳しくは、左下の「平成30年度の労災保険率を構成する要素」という所に書いております。このうち業務災害分については、基本的に業種ごとにということなのですが、これも下のほうに赤字で書いていますが、短期給付のうち、災害発生より3年を経ている給付分や、年金等の長期給付のうち、災害発生から7年を超えて支給開始されるようなものについては、全業種一律で賦課をしていく。こういう考え方で設定しているということです。非業務災害分、社会復帰促進等事業などの料率については、全業種一律ということで決めさせていただいているということです。
 さらに個別の事業場についての保険料率ということですが、2つ目の○の所も、少し詳しく説明しております。メリット制についてです。メリット収支率の算定においても、事業主の災害防止努力の及ばないところについてはメリットに反映しないと。あるいは労働基準法の災害補償責任の範囲を大きく超えないように、メリットにその点は考慮しているということです。
 メリット収支率のイメージについては、右下のほうに書いております。ここは余り前回から変わっておりませんので、省略させていただきます。
 6ページ目です。「保険料率の負担の在り方について」の、論点ということです。仮に、賃金額の合算を行う場合には、どのような論点があるかということで掲げています。論点の1番目と2番目については少し言葉を補って書いておりますが、前回から内容的には特に変わっておりません。
 1番目ですが、合算する場合に、災害が発生していない就業先の事業場の保険料負担については、その就業先Aの属する業種の保険料率や個別の事業場のメリット収支率の算定の基礎とすることは不適当ではないか。これが論点1です。
 論点の2番目は、災害が発生した就業先の保険料負担ということです。これは、就業先Bの賃金を基礎とした保険給付分は、その業種の保険料率あるいはメリット収支率の算定の基礎ということで、これは現行でもそうなっていますが、就業先A、つまり別の事業場での賃金を基礎とした保険給付分までを算定の基礎とすることは不適当ではないかということで掲げています。
 3番目も、前回掲げていた論点を少し補っているということですが、就業先Aでの賃金を基礎とした保険給付については、非業務災害分料率と同じように、全使用者の負担とすることも考えられるのではないかということを論点として掲げています。
 7ページ目ですが、「労働基準法に基づく災害補償責任について」ということです。これも現行制度について詳しく書いているということです。労働者の業務災害については、使用者が労働基準法に基づく災害補償責任を負っているということですが、災害補償に相当する保険給付が行われるといった場合には、この責任が免除されるといった規定があります。すなわち、労災保険が実質的に事業主の災害補償責任を担保する役割を果たしているということです。ただし、災害補償責任と必ずしもリンクしていないということを書いておりまして、通勤災害に関する保険給付、介護補償給付、二次健診給付のように、労災保険法で独自に給付しているものもありますし、年金や特別支給金のように、言わば上乗せとして行っているものもあるということです。
 これを図示したものが8ページの色刷りになっている所です。これは前回、その前の資料にも入っておりましたが、このような形になるのではないかと。オレンジ色の所が、労働基準法上の災害補償の責任の範囲で、紫で囲っている所が労災保険法の支給範囲ということです。重なりはありますが重なっていない部分もあり、上乗せありといった部分があるということです。
 論点として、これも仮に賃金額の合算を行う場合はというように留保を付けております。1番目の論点については、いわゆる複数就業者の労災保険給付について災害補償の範囲と必ずしも一致しなくても整理できるのではないかということを書いております。2番目については特に前回から変わっておりませんが、災害が発生していない就業先については、災害補償責任を負っていないということですから、休業3日目までについて現行から変更する必要性はないのではないかということを論点として掲げています。
 9ページ目です。今度は、「適切な賃金額の把握について」ということで、これは給付をする場合にどうやって賃金額を把握するかということです。1番目については特に変えておりませんが、基本的には請求者が事業主から証明を受けて請求していただくということになっているわけです。その証明がない場合は、監督署が就業先に赴いて必要な報告などを求めながら、支給又は不支給の決定を行っているという形を取っています。これも全く念のためなのですが、業務災害だけではなくて通勤災害でも同じような取扱いをしているということを書いています。
 10ページです。論点として2つ掲げております。前回から内容的には変わっていないのですが、1番目は、災害が発生していない就業先の賃金額をどうやって把握するのが適当かということは、今までこういうことを行っておりませんので、どのようにやるかということを考えなければいけないということが論点です。少なくとも自己申告をしていただく必要があるというのが2番目ですが、その際に現行でも通勤災害など、いわゆる災害補償責任を負っていない就業先からも証明を求めているということもあるのですが、災害補償責任を負っていない就業先から証明等を求めることが適当なのかどうか、こういったことを考えていくべきではないかということで掲げています。
 11ページ、12ページと、参考として事務方として提示させていただいている資料があります。まず、11ページです。「副業・兼業以外で複数の事業場で労働者が就労しているケース」はどうなっているかを掲げています。まず、ケース1というのが、派遣会社からA社とB社に派遣社員として派遣されている方を例として挙げています。この方は、派遣会社から月に30万円支払われているという状況なのですが、B社に派遣されているときに負傷したというようなケースです。このケースの場合は、給付日額については、この派遣会社から支払われている月額30万円がベースになっているということです。そして、派遣会社のメリット収支率の算定基礎になっているというような現状になっています。
 ケース2です。これは建設労働者なのですが、b工務店と労働契約を締結しているYさんというのを例に挙げています。元請会社であるA社とB社のそれぞれの現場で建設業に従事しているといった方です。これも先ほどの方と同じように、月額30万円支払われているという想定にしております。B社の現場で勤務中に事故に遭ってけがをしたといった場合に、どうやって給付日額を算定しているかということなのですが、これはb工務店の給与が30万円ということですので、この30万円全額に基づいて算定されているといったことです。この保険給付については、元請会社B社での業務中の事故ということですので、B社のメリット収支率の算定基礎になっているという取扱いをしているということです。副業・兼業以外で複数の事業場で働く場合として、こういうケースがあるということを御紹介させていただいています。
 12ページです。仮に賃金額の合算をした場合に、どれぐらいの財政影響があるかというのを、少しイメージを持っていただくために試算をしたものです。これは現行の料率の状況ということと、料率改定において賃金額の合算を措置していた場合について試算したということですし、平成29年度に副業をしている方が2.2%いたということを前提として考えております。
 影響額については、約120億円ということです。これが保険料率にどう影響するかということなのですが、労災保険の保険料の保険料率ですが、1,000分の1で約1,800億円ということですので、これで割り戻しますと、変動率が1,000分の0.07ということで、これはあくまでも粗いイメージということですが、推定しているということです。資料1-1については以上です。よろしくお願いいたします。
○荒木部会長 それでは、ただいまの資料1-1の説明について、何か御質問、御意見があればお願いいたします。
○輪島委員 新任の委員で、途中から参加して、いきなりすごく専門的な資料の御説明を頂いたので、そもそものところでお伺いしたい点が幾つかあります。
 まず、兼業・副業についてですが、イノベーションの促進とか人材育成の観点から、有効な手段というように思っているのですが、現在の労働法制において言うと、資料にあったように労働災害が起きた場合の対応が不明確だというようなこと、それから労働時間の通算が求められていること、そういうようなことから、解決されるべき課題は山積と言いますか、様々な課題があるのではないかと認識しているところです。そのため、十分に時間を取って議論していただきたいというように思っているところです。
 その点で、まず事務局にお伺いしたいのは、昨日、未来投資会議が開催されて、兼業・副業の点についても議論がされたと認識しております。そもそもは働き方改革実行計画に書かれているところから来ているのだとは思いますが、6月にまとめられるであろう政府の大きな方針と、その前の方針とのベクトルと言いますか、現在地と言いますか、どういうような位置付けになっているのかということを、現時点で御説明が難しいということであれば、次回以降に資料等で提出をして御説明を頂ければと思っているところです。
 また、個別には資料1-1でお伺いしたい点はたくさんあります。そもそも1ページ目にある前提については、今の事務局の御説明ですと、赤字ではないので余り変わってはいないということですが、特に一番最初の○の「発生したかは明確であり」という所なのです。本当に明確なのかというような、そもそもの前提がこのようになっているのかというところから、疑問があるので、特にこの所と、資料1-2にも前提が書いてあるのですが、その点で言うと、そういうところの一つ一つ、私どもとしてはじっくり議論をしていきたいと思っているということだけ、まず申し上げておきたいと思います。
○荒木部会長 事務局へのお尋ねがありましたが、事務局からはいかがでしょうか。
○労災管理課長 1番目の御質問ですが、未来投資会議の関係です。政府としての方針は、昨年の閣議決定した未来投資戦略については、今回の資料の3ページ目にありますが、昨年6月に閣議決定していますし、この閣議決定を受けて、今回部会で御議論いただいていると我々としては認識しています。
 「副業・兼業の促進に向けて」という所から始まっているのですが、働き方の変化等を踏まえた実効性のある労働時間管理や労災補償の在り方等について、労働者の健康確保や企業の予見可能性にも配慮しつつ、労働政策審議会等において検討を進め、速やかに結論を得るということで書かれています。閣議決定しておりますので、我々は政府方針にのっとって、今御議論いただいているということです。
 今年も、この未来投資戦略は改定されるということになるかと思いますけれども、まだ議論中ということです。したがって、まだこういう記述がどうなるかということについては、もうしばらくお時間を頂ければ明らかになると思うのですが、ものすごくベクトルが変わるということには当然ならないと思います。それほど大きくは変わらないとは思うのですが、具体的にこれがどうなるのかということについては、これから政府部内での検討ということになろうかと思います。また、改定がなされたということになれば御紹介していきたいと思います。
 2番目の「前提」という所で、賃金額の合算の前提として書かせていただいているのですが、確かに災害が発生したかが明確かどうかということそのものが、なかなか何が原因かというのがよく分からないのではないかということで御指摘を頂いております。私たちは、まず議論を頂く前提と言うか、場合分けをして考えていこうと考えております。今回、資料1-2で提示させていただくものがあるのですが、要するに今の基準であれば労災認定できない場合というのが、今回の資料1-2です。それに対して資料1-1の前提というのは、今の基準でも労災認定されるというものについて、まずは御議論いただくということで、そういう趣旨で書かせていただいております。確かに、どの業務が原因で発生したかというのは厳密なところは分かりづらいところはあるかもしれませんが、我々が前提とした趣旨としては、今の取扱いでも認定はされるけれども、然はさりながら複数就業しているために給付の日額等についていろいろと課題があるのではないかということで、課題として掲げさせていただいたということです。そういう趣旨で書かせていただいておりますので、もう少し趣旨が分かりやすくなるように前提の書き方を工夫させていただければと思います。
○荒木部会長 資料1-2の前提と同じように、「このような場合について検討する」と書かれていれば誤解がないと思います。そういう趣旨でよろしいかと思います。
○輪島委員 後段の御説明はそのとおりかなと、今、部会長から御指摘いただいた点はそうだろうなと思いました。
 前段の所で、私どもとして少し違和感を感じているのは、3ページで御説明いただいたわけですが、速やかに結論を得るということについては私どもも理解しているつもりですし、また重く受け止めなくてはならないとは思っていますけれども、先ほど申しましたように、労働時間管理とか雇用保険とか、3ページ目の4つ目の○にもありますように、様々な課題があるだろうと思っております。その点で言うと、労災保険の関係の議論だけが突出して早いのではないかというように思っているところです。
 もう1つ、一番上の○ですが、平成16年の指摘ですが、専門的な検討の場において引き続き検討ということなので、ほかの労働時間や雇用保険等は別途専門家の検討に委ねている部分もあろうというように思いますので、その点で言うと、労災保険だけが労災保険部会で議論というようなところも、全体のバランスという意味でどうなのかなということだけ申し上げておきたいと思います。以上です。
○荒木部会長 御意見として承りたいと思います。ほかにはいかがでしょうか。
○本多委員 私もこれまでの議論の中で、複数就業者の方が労働災害に被災した場合の労災保険給付については、よりよい方向性を導き出していくということ自体に異論はないという前提で、労災保険の在り方を見直す場合には想定される様々な問題点の解消に努め、事業者に過度な負担を負わせることなく、かつ労災保険制度の本旨に沿った取扱いを維持すべきである旨を発言させていただきました。
 今日の部会の開催時間というのは限られておりますので、これまでの発言を繰り返すつもりはありませんけれども、後ほどで結構ですので、いろいろな説明が終わった後で結構ですので、私が重要と認識しているポイント3点に絞って、改めて簡単に説明の上、基本的には前向きな提案をさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
○荒木部会長 ほかにはいかがでしょうか。
○村上委員 今年の4月から労政審の委員改選ということで、公労使とも新任の方がいらっしゃいますが、一方で複数就業者の労災保険給付あるいはその認定の在り方については、昨年から議論しているということがございます。確かに輪島委員がおっしゃったように、ほかのテーマについては有識者による専門的な検討会があるけれども、こちらについては検討会などはなくて、既に労災保険部会、審議会の議論になっていますが、これまでに十分な時間、議論はある程度積み重ねてきていると思っておりますし、また専門的な検討と言うか、精査の部分については事務局におかれてもかなりされているという前提で、私どもとしては議論に参加をしているところです。
 兼業・副業自体は、適切なルールの中で働きすぎにならないように、個々の労使で十分に話し合いながら、また労働者の職業選択の自由ということもありますので、それ自体は別に止めるものではないけれども、政府はそんなに旗振るものではないのではないかというのが基本的な認識ではあります。しかし、それを促進する、促進しないということにかかわらず、現実に複数の事業所で就労されている方々がいらっしゃいますので、そういった方々が労災に遭われたときの給付の在り方の議論については、ほかのテーマが進んでいないから議論しなくてもいいという話ではなくて、早く議論しておくべき課題ではないかと考えております。それはこれまでの発言でも申し上げてきましたし、参考資料の中でも労働者代表委員の意見として記載いただいているところでありますので、繰り返しは申し上げません。
 総論的には申し上げた通りですが、本日の資料の中で申し上げますと、8ページの赤字で追加していただいている部分でありまして、「仮に賃金額の合算を行う場合、以下のような論点がある」ということで、1つ目の○の論点が追加されているところです。ここで、複数就業者への労災保険給付について、労基法上の災害補償と切り離して整理できるのではないかという論点を提示いただいているところです。
 この点について、確かに労災保険の給付が労基法上の災害補償の範囲を超えている部分がある、年金化していっているということなどがあるということについては、以前も私どもとして指摘したところです。その観点から切り離して整理できるということはあるかもしれないとは思っています。ただ、それが妥当なのかどうかということについては、もう少し検討していくことが必要ではないかと思っておりますので、意見として申し上げておきたいと思います。以上です。
○荒木部会長 ほかにはいかがでしょうか。
○輪島委員 村上委員の御指摘を重く受け止めて、キャッチアップするようにしたいとは思います。その点で1点お伺いしたいと思っているのは、財政の所です。一番最後のページ、参考で財政影響について120億という、多分出せるとしたらこういう数字というような理解だろうとは思うのですが、しかしながら、この出た分をそのまま6ページの論点の3つ目ですが、何となく、「出た分は全部で負担ね」というように読めるので、そこは安易すぎるのではないかとは思います。
 基本的には、保険給付で集めたものをしっかりと無駄は省いていただいて、それから社会復帰等促進事業の中身もよく精査をして、それでやむを得ない分というような意味合いで数字が出てくるというのが自然な流れではないかなと思います。ここの資料の意味合いは分かりますけれども、財政の件についても、そのまま乗っかって皆で負担しましょうというところについては、やはり前提があるのではないかということだけ申し上げておきたいと思います。
○荒木部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。資料1-1につきまして、今、議論されている点は他の資料と関係する点もありますし、後で帰ってくることもあるということで先に行ってもよろしいでしょうか。それでは、資料1-1は以上としまして、次に資料1-2、業務上の負荷に係る論点について事務局から説明をお願いします。
○労災管理課長 資料1-2に基づきまして御説明申し上げます。今回、新しい論点としまして、複数就業者の業務上の負荷に係る論点ということで掲げています。1ページをお願いします。前提という所で、先ほどのいわゆる額の合算の論点と対になっているわけですけれども、今回の前提というのは複数就業者の方が疾病に罹った場合について、一方の就業先での業務上の負荷だけでは労災認定されない。今の取扱いというのは、就業先ごとに負荷がどれぐらいあるかということで労災認定しているわけですが、一方の就業先の負荷だけでは認定できない。複数の就業先での業務上の負荷を、今は合算するような取扱いをしていませんが、仮に合算すると今の労災認定基準に合致するといった場合について、どういうふうに考えるかということを前提にしています。
 例えばということで、具体的に想定されているものとして掲げているのは、就業先Aという所で週に40時間働く。就業先Bで週25時間勤務している。これは、1つの事業場であれば週に25時間の時間外勤務をしているのと時間的には一緒ですが、こういったとき労働者の方が脳・心臓疾患を発症した場合にどうなるのか。こういう前提について考えていきたいということで掲げています。
 現行制度ですが、先ほど少し申し上げましたように、災害が発生した事業場ごとに業務起因性の判断を行っているということですので、事業場が2つであれば2つそれぞれで、3つの事業場で働いていれば、3つそれぞれでどうなっているかを見ていくということです。複数の事業場における業務上の負荷を合わせて評価する。このような取扱いはしていないということです。
 関係する判例を2ページ目に掲げています。これは今までもごく簡単にですが、裁判例として掲げさせていただいていた大阪高裁27年の判決です。この判決を御覧いただくと、判決の下線を引いている一番下の所ですが、両事業場での就労を合わせて評価して業務起因性を認めて労災保険給付を行うことは、労基法に規定する災害補償の事由が生じた場合に保険給付を行うと定めた、労災保険法12条の8の明文の規定に反すると言うほかないということです。労災保険法12条の8の規定を正しく運用するということになれば2つの負荷を合算することはできない。こういったことが書かれているということです。
 少し立法政策との関係ということで、我々としての考え方を書いていますが、今回の判決ですけれども、確かに明文上の規定に反するということですので、負荷の合算というのは恐らく解釈上もできない。つまり、運用上何とかやるということは無理だろうと思っていますが、これが立法論としてどうなのかということであれば、そこまでは裁判所に否定されてはいないのではないかということですので、今回、こういう前提で検討する意味はあるのではないかと考えています。
 1ページに戻って現行制度の2番目○ですが、これも御案内のところかと思いますけれども、労災認定の基準ということで代表的なものを掲げています。脳・心臓疾患、精神障害につきましては、有識者による検討会の医学専門的な検討に基づいて基準を定める。例えば脳・心臓疾患におきましては、発症前1か月間に休日労働を含む時間外労働が主におおむね100時間超、あるいは発症前2か月~6か月間に休日労働を含む月平均時間外労働がおおむね80時間超、こういった場合には業務と発症との関連性が強いということで、これは医学的な見地から評価をされているということです。
 3つ目の○ですが、これは例えば事業場をいろいろ変わっているといった方々で、じん肺等の遅発性疾病に罹患された方々については、どういうふうに労災認定しているかですけれども、どこの事業場が原因で疾病を発症したか必ずしも特定できない。こういった場合も労災認定の中にはあるということです。その場合には、最終事業場を離職した日以前の3か月間に支払われた賃金を基礎として保険給付を行うことで、労災認定をしているということです。その際に、こういう疾病についてはメリット収支率の算定の基礎に入れていないことで対応していることを紹介していることがあり、今回の複数就業での負荷の合算と直接リンクするということではありませんけれども、参考ということで紹介しています。
 論点ですが、3ページ目を御覧ください。現行制度につきましては先ほど御説明したものと同趣旨ですので省略しますが、論点として2つ掲げています。1つは、多様な働き方を選択する者やパート労働者等で複数就業している者が増加しているのが現状ですが、1つの事業であれば労災認定される。そういった負荷であった場合でも、複数の事業で就業している場合であれば事業ごとに負荷を判断する。こういう基準に今はなっていますが、それで労災認定が全くなされないことについてどう考えるかを、1つの論点として掲げています。
 2つ目の論点ですが、これは複数の就業先での負荷を仮に合算した場合に労災の認定基準に達するとき、個々の就業先でどちらに業務起因性があるかを考えてもなかなか明確にならないのではないかということを、2つ目の論点として掲げています。例の所は今回の前提としたものについて図示したものですので、御覧いただければと思います。資料1-2については以上です。よろしくお願いいたします。
○荒木部会長 ただいまの資料1-2の説明につきまして、御質問、御意見があればお願いいたします。
○本多委員 業務上の負荷に関しての御説明を頂きました。給付額の合算について、これまでいろいろな議論を重ねている段階ですけれども、そういう中で今回、負荷の合算の話が出たことについて戸惑っている状況です。皆様御承知のとおり、負荷の合算については非常にデリケートな課題でありまして、今回、給付額の合算と負荷分の合算について、この部会で並行して議論していくのか。それとも給付額の合算を先行し、負荷の合算については他の部会等の進行と合わせて議論していくのか。そちらはどういうような進行になっていくのでしょうか。
○荒木部会長 議論の進行についてですが、事務局から何かお答えはありますか。
○労災管理課長 これは、額の合算についても負荷の合算についても、いずれも同じく副業・兼業の課題の二本柱と我々は思っていますけれども、先ほどお話がありましたように他の検討会、あるいは資料には入っていますが、労働時間であるとか雇用保険制度など兼業・副業にまつわる検討会が行われています。そういった他の検討会の状況も見ながらではあるのですが、この2つの大きな課題について御議論いただきたいと我々としては考えています。分けて、先に額の合算をやって、それが終わったら負荷の合算をやるという進め方もあるのかもしれませんが、少し並行してお願いできればと思っています。ただ、検討のスピードが双方で少し違うとか、そういうことは出てくるかもしれませんけれども、一応、2つの柱があるということで、今回、負荷の合算について考えているということです。
 なお、負荷の合算の論点ですけれども、今回は本当に導入の所、そもそもどうしましょうかという所だけ論点として掲げているということですので、額の合算のように保険料負担をどうするかなど諸々のことはあろうかと思いますが、その論点については、また次回以降に出させていただければと思っているところです。御理解を頂ければと思います。
○荒木部会長 今の点について何か御意見はありますか。
○松井委員代理 代理で恐縮です。浜田もそうですが、UAゼンセンはパートタイマーの組合が非常に多くて、実際、生活のために副業・兼業している組合員が大勢いるという状況です。先ほど、副業・兼業を日本の社会全体でどう見ていくのかという論議もありましたが、我々の認識する実態としては、生活上、必要だからやっているという方が非常に多いというふうに思っています。その観点から言いますと、生活上必要で副業・兼業しているのに、労災事故に遭ってその補償を考える場合には、適切な十全たる補償をすべきではないかと思っています。
 その観点から今回の負荷に係る論点ということですが、前提で示されているように複数の就業先で業務上の負荷を合算したら、労災認定できる場合というのは、正に働いている者の立場から言えば労災以外の何物でもないので、これについて現状の法制度上、その補償が十全にされないというのであれば法制度上の欠陥だと思いますので、立法論として何らかの対応をする必要があるのではないかというのが率直な意見です。
 その上で、今回、御説明いただいた1ページの現行制度でも、振動障害等の遅発性の疾病については、どの事業場が原因であったか特定できなくても補償しているということと、最後の3ページにある論点の2つ目で、複数の就業先で業務上の負荷を合算して認定する場合に、原因がうまく特定できないのではないかということは相反しているように読めて、要するに1か0かでなく、現状でもそういう認定ができる場合があるということであれば、そこから議論を整理していくべきではないかと思います。
○荒木部会長 輪島委員。
○輪島委員 資料1-2の最後の3ページ目の例と冒頭の前提の所で、事務局に質問です。前提の所を読むと3ページ目の例と同じように読めて、週40時間でプラス25時間のケースと、あまりないのかもしれませんが、月曜日から金曜日までが40時間で、土日で25時間というケースも、前提の中では両方とも読み取れるわけですけれども、それは変な話、違いはないのか。前提であると2つのように読めますけれども、それは3ページで言うと1週の中で、同じなのか。
○労災管理課長 同じです。
○輪島委員 失礼しました。2つ目の質問ですが、資料1-13ページにもありますけれども、松井さんにもお伺いしたいのは、実態が実はよく分からない。参考2で、副業をしている者を本業の所得階層別にみると、本業の所得が229万円以下の階層で全体の約3分の2を占めている。その次に、本業の所得が199万円以下の階層と1000万円以上の階層で副業をしている者の割合が比較的高い。これは図ではよく分かるのですが、就労の実態としてどういうふうな足し算になっているのかという統計は見たことがなくて、主に欠けているところで実際には資料1-2の3ページの論点の1つ目、「多様な働き方を選択する者や」という所で入っていますけれども、実際に欠けているのは、その「や」の後の「パート労働者等で複数就業している者」です。そこのところの実態というのは実際にはよく分からないので、それを示すものは何かないのかといつも思うのです。統計とか実態などが分かるようなものがあれば、また別途、お示しいただければと思います。これはお願いです。
○荒木部会長 今の点は御要望ですけれども、事務局、よろしいですか。
○労災管理課長 はい、また。
○荒木部会長 ほかに、御意見、御質問はございますか。北委員。
○北委員 少し、そもそも論の話になるのかもしれませんが、特に業務上の負荷の合算というところについては、これは使用者が一番気にしているところで、ここは一番しんどいところのように感じています。副業・兼業の総論自体を否定するつもりはないのですが、業務上の負荷、これは労災認定をするか否かにかかわらず、当然のことながら企業側としては安全配慮義務というものがございますし、そもそもの議論の中で労働時間の通算をする、しないのところも、当然、まだ話が煮詰まっていない中で、業務上の負荷を合算という論議だけが少し先走りするのは、非常に危険なのではないかというふうに感じているところです。
 これは、先ほど松井委員代理のほうからもありましたとおり、労働者の副業・兼業というパターンでイノベーションというところはあるのでしょうけれども、当然、生活をするためにという方が、私の感覚でも大半なのだろうなということを鑑みると、ややもすると乱暴な議論として、労災認定されるのだからいいでしょうというようなことに陥るのではないか。企業側も労働者の安全配慮をする場合、当然、そういう働き方で労働負荷させる、副業だから、他社だからいいでしょう、働いてくださいというようなことは言えないわけです。そういうことからすると、少し話が飛躍しているのではないかと感じていますので、ここは慎重に検討していただきたいというのが要望です。以上です。
○荒木部会長 ありがとうございました。村上委員。
○村上委員 今、北委員がおっしゃったような論点で言うと、労災保険での給付の合算であるとか、あるいは負荷の合算がされるから副業・兼業してもいいでしょうという話にはならないというところは同様の意見です。ただ、そうは言っても負荷を合算してほしいというのが私どもの考え方であります。
 この連休明けの5月9日には、輪島委員も御一緒していますけれども、過労死等防止対策推進協議会もございました。その中で過労死事案を多数扱ってこられた弁護士の先生方からも、労災認定に当たっての要望の1つの柱として複数就業の部分が出ていました。そういったことに対しても、きちんと応えていく必要があるのではないかと思っていますので、是非、前向きに検討いただきたいと思っています。以上です。
○荒木部会長 ありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。資料1-2の3ページの論点の2番目で、「複数の就業先での業務上の負荷を合算して初めて労災認定基準に達する場合には、個々の就業先との関係では、災害と業務の間に、業務に内在する危険性が現実化して労働災害が起きたという因果関係が必ずしも明確にならないのではないか」。こういう論点の提示がありますけれども、これは事務局としてはどういう趣旨の問題提起でしょうか。
○労災管理課長 これは、いわゆる災害補償責任の問題は、労災保険制度を考える上では必ずセットで考えなければいけないのですが、その災害補償責任を考える上で例えば足し上げて認定できますよといった場合に、AとBのどちらに、どれだけ責任があるかというのを、あらかじめ法律上、明確にセットするのはちょっと難しいのではないかということを、一応、ニュートラルな形で書かせていただいたということです。だから負荷の合算をして給付するのは難しいとか、あるいは、そうであるけれども負荷の合算をやっても大丈夫なんだとか、そこまでの話ではなく、災害補償責任をどうしましょうかという観点からいくと、ちょっと難しいのではないかということをニュートラルに書かせていただいたということです。
○荒木部会長 現行の制度を基にすると、ということですね。
○労災管理課長 もし制度を何か見直すとしても、あらかじめインプットするのは難しいのではないかということを書かせていただいています。
○荒木部会長 それでは、ほかにはいかがでしょうか。
○大前委員 今の議論を聞いていまして、ちょっと分からなかったのですが、先ほど企業のほうでは安全配慮義務があると。これは当然だと思いますが、そうしますとAとBという会社のそれぞれに安全配慮義務があるわけですけれども、それで何か起きた場合に、Aの会社がBの業務、あるいは逆にBの会社がAの業務について、ある程度情報を共有しておかないと安全配慮義務が果たせないと思います。そこのところは非常に重要な論点ではないかという気がします。要するに、この社員が副業をやっているかどうか分からない状態というのは結構あると思います。そこのところの情報の共有化をどうするか。逆に言いますと、社員のほうは、私はこの仕事とこの仕事をやっていますと会社に言わなくてはいけないのか。そういうことにならないとなかなか安全配慮義務に到達しないという感じがしました。
○荒木部会長 労働時間の合算でも同様の論点が出ているところではありますね。ほかに御意見はありますか。田久委員。
○田久委員 今、大前委員が言われたように、その観点というのはあるなと思います。要するに使用者側としての安全配慮義務をきちっとやっていく際には、きちっと労働者の把握も含めてするのもそうですし、そういった意味では合算の議論をしていかなければ、そういったことを心掛けるという注意喚起にならないと思っていますから、同時にしていくべき問題ではあるかなと。もちろん、多少のずれは含めてあると思いますが、そういった議論で先にこっち、あっちということでなく、総論的に話をしていかなくてはならない問題ではないかと思っています。私なんか特に建設ですから特殊な業態でもありますので、そういった意味では、もともと副業・兼業ではないというところの例も先ほど出ていたと思いますが、同じように現時点でも、元請さんの所で働いている分だけではない金額が労災保険も含めて支給されているわけです。下請での賃金がベースになっているということであれば、現時点でそういった派遣や建設業の中では進められている。そういったところを少し検討というか分析しながら、こういったものの議論も含めてしていく必要はあるのかなと、改めて今は感じているところです。
 特に建設は、今後、時間という概念を入れていくということになると、今、時間の概念がない産業ですので、今後、そういった問題が広がっていく可能性があるところでは、労使を含めてきちっと対策を進めていかなくてはならないし、それは全産業にも言えることだと思います。そういった観点で話を進めていくことが必要かなと思っています。
○荒木部会長 ありがとうございました。中野委員。
○中野委員 事務局に教えていただきたいのですが、先ほど荒木部会長からの御指摘に対する御説明の中で、3ページの論点の2つ目の所で示しているのは、同時進行で兼業をしているために、個別の就業先との間で災害と業務の因果関係が明確にできない場合には、労働基準法上の災害補償責任を考えることが難しくなるのではないかという趣旨だと、そういう御説明がありました。そうしますと、お伺いしたいのは1ページ目の現行制度の最後の所で、時系列で転職をしているため積み重なって労働災害が発生しているけれども、個別の事業主との因果関係が明確にならないような場合は、現在、労基法上の災害補償責任はどのように処理されているのでしょうか。
○労災管理課長 これは、いわゆる遅発性疾病と呼ばれるものですので、事業場を離れてだいぶたっているという状況で、形式的に言うと最終事業場に災害補償責任があるとみなしている取扱いになっていると思いますが、実際のところ事業場を離職してから、例えば5年とか10年たってからということですから、現実問題として災害補償責任がどうだという問題はまず起こらない。
○中野委員 3日分の休業補償金の支払いが問題にならないということでしょうか。
○労災管理課長 そういうことです。問題にならないです。
○中野委員 なるほど。個別の事業主の災害補償責任が問われるような場面にならないと。
○労災管理課長 にはなっていないということです。
○中野委員 なるほど、分かりました。ありがとうございます。
○荒木部会長 ほかには、いかがですか。村上委員。
○村上委員 先ほどの輪島委員の御質問に絡むのですが、今回、前提の所の2つ目の○で、具体的に想定されるのは例えば以下のようなケースということで例示がございます。これは労働時間の問題だけを書いていますけれども、別に労働時間の負荷の合算の話だけをしているということではなく、ストレス要因の合算ももちろん考えているということで、たまたま裁判例なども労働時間の問題だったので、そういうことになっているけれども、労働時間に限っているわけではないということの確認をしたいと思います。
○労災管理課長 含んでおります。
○荒木部会長 負荷の合算ですので、労働時間のみならずストレスの合算も、当然、視野に入れて議論しているということですね。
○大前委員 先ほどの1か月間の超過時間100時間、あるいは2~6か月で80時間、この決めたときというのは、多分、兼業・副業の話でないと思います。1社でやっていたというときに決まっていることなので、それを今回の兼業・副業で、この例にあるようなA社、B社で足して100、あるいは足して80というのは何かちょっと質が違うかなという気が本当はします。恐らくA社、B社で全く同じ負荷の仕事をやるということはない。業態として非常に稀だと思います。そうすると、単純に今までの80あるいは100というのは、副業・兼業に当てはめられるのかというところが非常に疑問に思いました。とはいっても、そういう情報がないので使わざるを得ないということは理解します。
○荒木部会長 100とか80というのは、どういう議論に基づいて設定されたかについては少し事務局で御説明いただくといいかと思いますが、いかがですか。
○審議官(労災、建設・自動車運送分野担当) 非常に医学的な見地から、睡眠時間の確保という観点から生活時間を計算し、超過勤務時間がそれだけになりますと睡眠時間が減ってくるということで、逆算をして計算していったとき、オーバーワークのところが80なり100になりますと睡眠時間が減るものですから、そうすると脳・心臓疾患の発症が起きる可能性が増えてくるということで、業務起因性が高くなってくる。そういうことで医学的見地から基準を作っているということです。ですから、兼業・副業というような観点あるいは単一ということでなく、労働者の生活のほうから出させていただいているという考え方です。
○荒木部会長 他にはいかがでしょうか。特になければ、次に資料1-3、「フランス、ドイツ、オランダへの聴取結果」及び資料1-4、「他の検討会での検討状況について」事務局から説明をお願いします。
○労災管理課長 資料1-3と資料1-4をまとめて御説明いたします。資料1-3は、複数就業者への労災保険の給付ということで、これが諸外国ではどうなっているかを、労働時間の在り方の調査をしたときに一緒に調べたものです。
 1ページは、「副業・兼業の労働時間管理の在り方に関する検討会」において、複数就業の場合の労働時間管理の在り方の調査をやったときに、一緒に労災保険制度についても、部会長をはじめ、先生方に聴取をしていただいたものです。質問項目としては2つあります。1つ目は、給付額を合算しているかどうかということ。2つ目は、負荷の合算ということで、精神障害の場合についてはどうしているのですか、ということでお聞きいただきました。
 それぞれをまとめた結果が2ページから4ページです。2ページはフランスの状況です。端的に申しますと、給付額については、全就業先での賃金を合算した額を給付額の日額算定基礎としているということです。4つ目の○は、災害が発生した事業場のメリット制についてはどうなっているかということでは、一定規模以上の企業に適用されているということです。当該事業場に生じた災害にかかる具体的な費用ではなく、産業ごとに算出される同種の災害にかかる費用の平均値が、メリット制の適用の基礎ということです。日本とは少し違うメリット制になっています。
 負荷の合算というところですが、複数就業先でのリスクの曝露等により疾病を発症し、どの使用者が責任を負うのかよく分からない遅発生疾病を発症した場合、じん肺であるとか、アスベストであるとか、そういうものについてどうなのかということです。これは、全使用者の連帯に基づいて課される保険料を財源とするものから労災補償がなされています。メリット制の適用はない。特に影響はないということです。
 ※に書いてありますが、精神障害については職業病リストには入っていない。これはドイツのほうでもそうなのですけれども、そういうことがあります。余り認められるケースは少ないということで、我が国との単純比較は難しいと思われます。
 その他の所は民事責任の関係です。労働災害に基づく使用者の民事責任が、使用者に許し難い重過失がある場合ということですが、これは裁判上の規範としてこうなっているということです。フランスについては以上です。
 3ページでドイツについてです。給付額については合算されているのですが、日本とは制度が少し違っています。当初の6週間については、災害発生事業場かどうかにかかわらず労働者の欠勤について、6週間は賃金の継続支払い義務があるとなっています。我が国とは、出だしのところがちょっと違います。
 複数就業先の賃金を合算して保険給付がなされているという状況です。これも、日本とはちょっと違っているのですが、保険者が業種別の同業組合であるとか、事業者団体で組織されているということです。個々の事業場の保険料は、各保険者の定款で定められていますので、日本とは大分制度が違っています。
 負荷の合算のところは先ほど少し申し上げましたが、精神障害については職業病リストに入っていないので、そもそも負荷の合算というような発想がないということです。※に書いてありますが、直接事故によってトラウマが発症したという場合を除くと、精神障害というのは労災として認められることはなかなかないと書いています。
 その他で民事責任のところです。これはフランスとよく似ていますけれども、使用者に故意がある場合を除いて、労災保険給付がなされた場合ですが、使用者は民事責任を免れるという取扱いになっています。
 オランダについては、労災保険は公的な制度ではなくて、民間でやっています。ほぼ全ての会社がその保険に入っています。公的な労災保険制度がないというところで、我が国とは大分違うのかと思われます。
 給付額のところですが、いわゆる使用者責任としてどこまでやっているかということです。労働災害であるか私傷病であるかを問わず、使用者側が原則最初の2年間は少なくとも7割の賃金を支払う義務があります。この辺からしても、日本とは大分違っていると言えるのかと思います。
 負荷の合算のところです。これは、いわゆる民間保険の話なのですが、負荷も合算しているという調査結果になっています。
 諸外国の状況は、我が国と似ているところもありますけれども、そうでないところもあるということで参考資料として配布させていただきました。
 資料1-4は、他の検討会で複数就業者への対応についてどう検討しているかという検討状況です。2ページは「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」です。昨年7月から開催されて、今までに6回開催されております。5回目と6回目は課題の整理ということで議論がされていますが、更に現在も議論中という状況です。
 4ページは、「複数の事業所で雇用される者に対する雇用保険の適用に関する検討会」です。この検討会については、昨年12月に報告がまとまっています。5ページです。雇用保険の場合、複数就業者はマルチジョブホルダーと従前から呼んでおりますが、同じものを指しています。マルチジョブホルダーの現状と、適用の必要性などを御検討いただいております。下の考察のところなのですが、現状、実行可能性があるのは、本人からの申出を起点に合算方式で適用する。今は、労働時間が20時間以上が適用となっておりますけれども、本人からの申出を起点に合算方式で適用するということもあり得るのではないかと書かれています。給付としては一時金方式で給付ということなのですけれども、逆選択やモラルハザードは懸念であると書かれています。
 その下のところで、今後マルチジョブホルダーへの雇用保険の適用を検討、推進していくならば、一定の対象層を抽出し、試行的に制度導入を図ることが考えられる。試行的な制度導入を図ることが考えられるということが提言されたということです。これを受けて恐らくですけれども、職業安定分科会の雇用保険部会で今後議論がなされるのだろうと思われます。いつからというのは、特に我々のほうでは把握しておりませんが、恐らくこれを基に議論されるのではないかと思います。
 社会保険制度についてどうかということです。9ページ以降に、「働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会」ということで、昨年12月から検討をされています。現在もまだ検討中です。社会保険制度については先ほど少し申し上げましたが、複数の適用事業場で適用要件を満たして適用されるというような制度になった場合には、双方の報酬月額を合算して標準報酬を決めているということで、ある意味合算している状況になっています。現在議論が行われているのは、適用範囲をどうするかというように聞いています。
 他の制度に係る検討については以上です。資料1-3と資料1-4についての説明は以上です。よろしくお願いいたします。
○荒木部会長 資料1-3と資料1-4について御質問、御意見等があればお願いいたします。輪島委員どうぞ。
○輪島委員 資料1-4で雇用保険の所でワードが分からないのですが、5ページで説明があった考察の「逆選択」というのは何なのかを教えてください。もう1つは社会保険です。今は合算されているということであれば実態を教えてください。何人ぐらいいるのかとか、どうなっているのかです。本日でなくてもいいです。普通に考えると、A社の標準報酬があって決まります。それで労使折半分が出て、B社で兼業すると合算されるわけですから、標準報酬月額は上振れすることがある。そうすると、A社で払っている標準報酬月額より、兼業しなければ払っているものが兼業したことによって分母が大きくなるので、A社分の標準報酬月額に対応する保険料が増えるのではないかと思うのです。自然にB社で働くことによってトータルが増えるわけだから上がる、というようにして本当に払っているのでしょうかという素朴な疑問です。現状のところについてはまた教えていただければと思います。
○荒木部会長 事務局からお答えください。
○労災管理課長 「逆選択」のところなのですが、恐らくモラルハザードと同義で使われているのではないかと思いますけれども、確認をしてまたお答えさせていただきます。
 社会保険のところなのですが、どれぐらいが複数の適用事業場で適用されているのか、という数についてはまた調べてということになります。保険料については、10ページの絵のところで、保険料自体は結論的に言うとそれぞれの報酬分に応じて、それぞれが保険料負担しています。絵のところでちょっと分かりづらいところがありますけれども、届出をするのは1個の事業場を管轄している年金事務所ということになっています。それぞれA社、B社に保険料の通知がなされて、それぞれ賃金分で応分の負担をしているという形になっています。保険料が、急にどっちかで増えるということではないのではないかと思います。
○荒木部会長 逆選択については、この報告書をまとめられた中野委員がおられますので補足していただけますか。
○中野委員 雇用保険の検討会に参加しておりましたので、私の覚えている限りで御説明します。雇用保険の検討会でも、先ほど労災保険について議論されたのと同様に、兼業をどうやって把握するのかということが問題になりました。結局雇用保険においても、労働時間の管理の方法がきちんと整わない限りは、労働者本人が兼業を申告せざるを得ない。そうすると、雇用保険の場合は失業という保険事故を労働者の任意で引き起こすことが可能になりますので、マルチジョブホルダーの中で失業のリスクの高い人ばかりが自己申告をしてきてしまうのではないかということを懸念しました。それが逆選択又はモラルハザードの問題です。現状としては、自己申告を起点とせざるを得ないが、その方法だと様々な問題が起こり得るということを報告書で述べさせていただいております。
○荒木部会長 ありがとうございました。輪島委員どうぞ。
○輪島委員 標準報酬のところで、例えば36万円の人で割ってみると幾らになるのか。健保が3万7,639円で、年金が6万8,880円です。その人がB社に勤めて、標準報酬が例えば56万円に上がると、手元の試算ではA社のほうの3万6,000円の保険料は3万7,639円に上がるのではないかと思うのですが、それは違うのだったらまた教えてください。
○労災管理課長 はい、分かりました。
○輪島委員 それから意見です。大前先生がおっしゃったように、本件も雇用保険も労働時間がA社というのか、どっちを本業と呼ぶのか言いませんが、申告しないと全てが始まらないというところに課題があるのではないかと素朴に思いました。その点については実態がどうなっているのかも含めてまた教えていただければと思います。以上です。
○荒木部会長 ありがとうございました。他にはいかがでしょうか。田久委員どうぞ。
○田久委員 先ほどの輪島委員のお話で、実態という部分ではこの議論を始めるときにアンケートが出されています。低賃金でダブルワークをしたり、こういった副業・兼業をやるというのは、もともと収入や賃金が少ないという人たちがやはり多かったみたいな資料が出たと思うのです。実態調査ということであれば、その人たちが賃金を一定確保できるようになればしないのかどうかというアンケートを取ってほしいということを言ったことがあります。
 要するに、この前のアンケートの結果では足りないからワークしていますというだけで終わってしまっているのです。その中で、あなた方は生活ができる賃金を頂いたときにもダブルワークをしますかとか、副業・兼業を進めますかという結果を見たことがないのです。そういうことであれば賃金を上げるとか、話がまた別の所に行きます。基本的に言うと、今は働くそういう状況にせざるを得ない状況があることが問題でもあるのかなというのを数字的に見たことがないので、そういうところもきちっと把握しながら議論をしないとなかなかできない。そういうところではしっかりした答えにはならないのではないかと少し感じています。根底がそこにあるのではないかと思っています。働き方もそうですけれども、そういうことも頭に入れながらの議論になるのかなとちょっと思ったものですから意見をさせていただきました。
○荒木部会長 ありがとうございました。他にはいかがでしょうか。資料1-3についてはよろしいでしょうか。輪島委員どうぞ。
○輪島委員 荒木先生にお伺いします。労災について言うと、フランスはもう少し勉強しなければいけないのかと思います。ドイツとオランダはちょっと違いすぎるのですが、参考になる部分がどこかあるのですか。先生にお伺いするのもなんなのですけれども。
○荒木部会長 フランスとドイツのいずれも労災保険制度がありますが、複数就業の場合の給付の合算をやっていることが分かったというのが1つです。それから、どこの事業場が労災を引き起こしたか分からないようなときにどうするかという場合には、全使用者で負担するということで、いわゆるメリット制みたいな考え方をとらない。メリット制というのは、それで労災を防止するというインセンティブを与えるという制度ですから、自分がコントロールできないような場合についてメリット制を課すというのは合理的ではありませんので、そういうものについては全使用者で負担した財源から給付をするという態度がとられているという点は参考になるという印象を持ちました。宮智委員どうぞ。
○宮智委員 ドイツもフランスも、精神障害は職業病リストに入っていない。日本では、職業病としての精神障害というのは多いと思うのですが、なぜ入っていないのでしょうか。
○荒木部会長 専門の先生が他におられますので、間違っていたら御指摘いただきたいと思います。基本的にヨーロッパの労災補償制度はアクシデントと言いますか事故を補償するというところから始まっています。ここにも出てきましたけれども、事故性のような精神障害、ものすごいショッキングな事故を目撃して、それがトラウマになるような事故性の精神障害は事故と同じに扱うというのがあります。その他は職業病リストで、一定の化学物質にばく露したら職業病になるという場合は職業病リストでカバーするというものです。
日本でも現在では精神障害に関するものがありますけれども、これも従来はいわゆる過労自殺といったようなものについては、「その他業務に起因することの明らかな疾病」であることが立証されて初めて労災の対象になるというもので、最近になってリストの中にも入ってきたということではないかと理解しています。中野先生から補足していただけますか。
○中野委員 私は、フランスやドイツのことは分からないです。
○荒木部会長 そういうことで、基本的には事故であることを問題とするとなると、精神障害を労災で救うというのは、普遍的な制度かというと非常に珍しい制度ではないかと考えております。他にはいかがでしょうか。
 それでは、議題1の複数就業の労災保険給付の在り方について議論してきました。本多委員がまとめて御発言されたいということがありますけれども、2に行く前に御発言があったほうがよろしいでしょうか。議題2は、「労災保険の業種区分に関する検討会」報告書になりますけれども、いかがでしょうか。
○本多委員 できましたら2に移る前にお願いいたします。
○荒木部会長 それでは、本多委員からお願いいたします。
○本多委員 保険給付の合算ということについてです。議論が思ったより進行が早いものですから、仮にその方向性で議論されているということであればということで、3点ほどに絞って整理してまいりましたのでお話をさせていただきます。
 1つ目は、稼得能力を補填する方策についてということです。確かに生活が苦しいといった事情により、やむを得ず兼業・副業をしている労働者も多いです。そうした労働者が労働災害で被災した場合に、労働災害が発生した就業先の賃金のみを基礎として労災保険の給付が行われている現状は、労働者の保護という観点からは見直すべきであるということについては私も理解しております。また、そのような意見をお持ちの方々は、何がなんでも災害補償という形で給付しなければ駄目だと言われているわけではなく、労災労働者の稼得能力を反映する何らかの給付が行われ、生活に支障を来さないような状況を求めているのだろうとも感じております。
 そこで御提案なのですけれども、労働災害を発生させていない就業先が支払われる賃金に対応する分については、保険給付費ではなくて、特別支給金のような社会復帰促進等事業の一環として制度設計するというのはいかがなものかということです。
 ちょっと具体的なことで恐縮ですが、労災保険法第29条では、社会復帰促進事業に関する規定があります。その第1項では、政府が労働者及びその遺族について、第1号から第3号までにかける事業を行うことができる旨明記されています。つまり、第1号は円滑な社会復帰を促進するために必要な事業、第2号は、被災労働者及びその遺族の援護を図るために必要な事業、第3号は、保険給付の適切な実施の確保に必要な事業など。このように規定されておりますけれども、災害補償としての保険給付でさえなければ、どのような形で制度設計してもよいと思いますし、余り細かなことにこだわる必要もないと私は考えております。
 また、労災保険法第29条第1項を踏まえて設けられた特別支給金支給規則のように、新たな省令を設けるとか、あるいは改正で対応するかといった技術的なことについても、基本的な方針さえ決まれば解決できるのではないかと思っております。労働災害を発生させていない就業先から支払われている賃金に対応する分を、保険給付ではなく、社会復帰促進等事業から支出することによって、労基法に基づく事業者の災害補償責任に影響を与えかねないという懸念は解消されます。しかも、被災労働者の稼得能力も十分に補填されることになるのではないかと思っています。
 さらには複数就業者について、全就業先から支払われる賃金の合算をした額を基礎として給付を行うこととした場合に想定される費用の増加分の原資に関しても、社会復帰促進等事業であれば、全業種一律の負担割合になっているため、事業者の負担感もある程度緩和されます。厚生労働省が平成17年3月25日に制定した労災保険率の設定に関する基本方針において、労災保険率は業種別に設定し、業種区分は労働災害防止インセンティブを有効に機能させる観点から、災害率を勘案して分離するとされている点にも抵触しないことになると思います。
 なお、労災保険法の施行規則第43条では、社会復帰促進等事業に要する費用に充てるべき額の限度を規定して、労働保険料の額の120分の20を超えないようにするなどとされています。社会復帰促進事業等に要する費用の総枠をどのように管理をしていくかについては重要な観点であると認識しております。厚生労働省で総額見込額を試算していただきましたけれども、この辺については別途その内容を踏まえて検討していく必要があると考えております。
 長くなって恐縮ですが2つ目です。こちらは就業規則上の規定についてです。政府が、働き方改革実現実行計画において、原則、兼業・副業を認める方向で、兼業・副業の普及促進を図るとされていることは当然ながら認識しております。また、職業選択の自由との関連で、兼業・副業を事業者がどこまで検視禁止できるか議論があることも承知しております。事業者の立場からすると、服務規律の維持や、職務専念義務の担保等の理由により、就業規則に兼業・副業に関する規定を設けることは重要な意味があります。無条件で兼業・副業を認めるというのでは、当該規定が有名無実化しかねないと懸念をしております。
 一方、厚生労働省が平成30年1月に改定したモデル就業規則では、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定は削除されたものの、会社所定の届出制を設けた上で、「労務提供上の支障がある場合等一定の要件に該当する場合には兼業・副業を禁止・制限できる」という規定が新設されております。複数就業者は今後ますます増加していくことが想定されますが、事業者が兼業・副業の事実を把握していない事例が非常に多いという状況は決して好ましいものではありません。この部会においても、業務起因性の判断に当たり、全就業先の負荷を合算して判断すべきかどうかという点について、今後検討が進められていくものと承知しておりますけれども、労務管理や健康管理を適正に行っていくためには、少なくとも厚生労働省が公表しておりますモデル就業規則のレベル、繰り返しになって恐縮ですが、会社所定の届出制を設けた上で、労務提供上の支障がある場合等一定の要件に該当する場合には兼業・副業を禁止・制限できるという線を基本にして、兼業・副業に関する届出等の普及を促進させ、かつ有効に機能していくような仕組みを労災保険制度においても構築していく必要があるようにも思っております。
 そこで提案です。複数就業者については事前に事業者に兼業・副業の届出を行っていたか等によって取扱いに差異を設けるということではいかがでしょうか。また、全就業先から支払われる賃金を踏まえて、給付額を算出する合理的な理由が認められるか否か。すなわち、事前に事業者に兼業・副業の届出を行っていた場合、又はそれに準ずるような事情が認められるか否かを、監督署が調査・判断することにしてはどうかとも思っております。労働災害を発生させていない就業先から支払われる賃金に対応する部分について、先ほども申し上げましたとおり、労災保険給付ではなく、特別支援金のような社会復帰等促進事業の一環として制度設計した場合には、このような取扱いに差異を設けていることについても一定の理解が得られるのではないかと思っております。
 なお、労災保険から給付される金額に関しては、事前に事業者に兼業・副業の届出を行っていたか等によって、取扱いに差異が生ずることになった場合には、厚生労働省が公表しているモデル就業規則のレベルでの届出制が普及していくことなども期待されます。その結果として、複数就業者の労務管理や健康管理の適正化も進んで、複数就業者にとっても働きやすい、望ましい状況が生じていくのではないかとも思っております。
 最後に3つ目は、賃金額の把握・証明についての御説明と提案です。労災保険施行規則第23条は事業者に対し、被災労働者等が自ら労災保険給付請求手続等を行うことが困難な場合の助力義務及び被災労働者等から労災保険給付を受けるために必要な証明を求められた際の証明義務を課しております。この規定をそのまま複数就業者に当てはめた場合には、労働災害が発生した先の事業者に対して、全就業先の賃金の把握・証明を求めることになりかねません。しかし、事務処理能力に限りがある企業の存在とか、あるいは労働災害を発生させていない就業先が、自社が支払っている賃金を他社に開示することを拒むことなども想定されるため、労働災害を発生した事業者に、労働災害を発生させていない就業先が支払った賃金額を把握・証明させることを原則とすることは困難であると考えます。
 また、労働災害が発生していない就業先の賃金について、被災労働者等からの自己申告だけで給付基礎日額を決定することは、事業者を通さずに提出できる既存の源泉徴収票だけでは正確性を欠く結果を招きかねないため、必ずしも適切ではないと感じております。いずれにしても制度を変更した場合には、複数就業者から多くの請求が行われることが想定されるため、事業者に過重な負担を負わせることなく、かつ実務的にも十分実施可能な方策を検討されるべきであると思います。現行の労災保険の事務手続においては、事情次第では、労働災害が発生した事業者が労災補償請求書に証明を行わないことが認められており、記載事項に疑念があったり、事実関係を把握していないなど証明することが困難な合理的な理由がある場合に、事業者はその理由を文書で労働基準監督署に提出するという扱いとなっております。
 そこでこの件に関する提案です。現行の取扱いの延長線上で考え、証明が困難な場合には証明困難であることのみ記載した文書を労働基準監督署に提出し、その後は監督署が事務的に労働災害を発生していない就業先の賃金額を調査することにしてはいかがでしょうか。なお、1つの方法論として、被災労働者が事前に事業者に兼業・副業の届出を行っていて、かつ労働災害を発生させていない就業先が協力的であるなど、労働災害が発生した就業先が労働災害を発生させていない就業先の賃金額を把握・証明することが比較的容易な場合に限り、労働災害が発生した事業者が発生させていない就業先が支払った賃金額についても併せて証明することも考えられるとは思います。
 そのような取扱いにした場合には、監督署の負担も軽減されますし、労働災害が発生した事業者に過重な負担を強制することにもならず、結果として迅速かつ適正な給付が行われやすくなるのではないかと思います。ただし、そうした場合であっても監督署が、労働災害を発生していない就業先に対して証明を強制したり、行政指導を行うことは避けるべきであり、被災労働者に対して支払っている賃金額を証明するかどうかは、労働災害を発生していない就業先の自主的な裁量に委ねる必要があるものとも考えております。
 長くなりましたけれども、先ほど申し上げましたとおり、議論がその方向で進んでいくということであれば、今の段階でお話申し上げたいと思って発言させていただきました。以上です。
○荒木部会長 ありがとうございました。御意見として承りたいと思います。村上委員どうぞ。
○村上委員 1点、今の本多委員の御提案について質問なのですが、1番目の御意見の中でおっしゃっているのは、資料1-1で出てきていたA事業場とB事業場でいえば、B事業場が事故が発生した事業場で、Aでは特段何も発生していなかったという所についてなのですが、合算するときにはB事業場で事故が起きていたのだけれども、合算して給付するときには、それは労災給付ではなくて、丸ごとAの部分だけではなくてBの部分の給付分も。
○本多委員 いえ、そうではなくて。
○村上委員 すみません、Aの分だけですか。Aの分の労災給付ですか。それともそれに対して3日分の話なのですか。
○本多委員 いえいえ、労災が発生していない事業場の分について把握できた場合に、その分は災害補償としての労災保険給付からではなくて、社会復帰促進等事業として給付したらどうかということで。
○村上委員 事業場の分だけを切り分けて、給付を認定したらどうかという話ですね。
○本多委員 そうですね。
村上委員 いずれも初めて伺ったお話ですので、また。
○本多委員 ええ、そういうことでありますので。
○村上委員 ええ、考えたいと、意見としても私どもとしても逐次考えたいと思いますが、もう1点、2点目については、労働時間管理であるとか、労働時間の、どちらが時間外手当てを出すのかというような話の場合での自己申告の話と、労災給付の場合、労災が起きた場合の給付をする場合に、自己申告を前提とするというのは、話の性質がかなり違うものだと考えておりまして、印象を受けました。被災労働者はどうするのかという話のときに、自己申告をしていたかどうかということで分けるというのは、ちょっといかがなものかという印象だけ、ちょっと申し伝えたいと思います。
○荒木部会長 はい、ありがとうございました。
○本多委員 労働時間管理のことについては認識しておりませんのではなく、あくまでも事故が起きた場合、災害、いわゆる労働災害の被災者等の稼得能力を補填していくための方策と、普通の、そういうことでの話を申し上げさせていただきました。
○荒木部会長 ほかにはいかがでしょうか。だいぶ時間も押してまいりましたので、よろしければ議題の大きな(1)は以上といたしまして、本日の議題の(2)労災保険の業種区分に関する検討会の報告書についてという議題に移りたいと思います。事務局より説明をお願いいたします。
○労災管理課長 資料2に基づきまして御説明申し上げます。昨年の7月から実施しておりました「労災保険の業種区分に係る検討会」ですが、3月末に報告がまとまったということです。これの報告ということです。「はじめに」という概要を使って御説明申し上げますが、現在の業種区分は54業種あります。それぞれの業種について保険料率を設定するという立て付けになっているわけですが、その業種の中で「その他の各種事業」という事業があります。この事業については事業所、労働者の全体の3割以上を占めているというような、非常に大きな保険集団になっているということです。保険料負担の公平性の観点であるとか、あるいは労働災害防止インセンティブを有効に機能させるといった観点から、本当にこういう大きな集団のままでいいのかということが問題になっているということです。そこで、専門家の先生方にお集まりを頂きまして、労災保険の業種区分はいかにあるべきか、ということを御検討いただいたということです。
 これまでの業種区分の役割と、見直しの状況ということですが、業種区分の見直しについては、保険料率の改定時に合わせて検討するというのが通例になっています。前回の保険料見直しのときには、実は業種区分は変えておりません。前々回のときには業種区分は変えているということがあります。考え方としてはそこに書かれていますが、作業の態様や災害の種類に類似性があるか、あるいは業界団体の組織状況がどうなっているか。保険集団としての規模はどうなっているか。さらに業界団体が災害防止活動を期待できるのかとか、あるいは災害防止インセンティブを事業主に喚起させるような保険料率になるのかどうか、こういったようなことなどをいろいろ勘案して、業種として独立させるかどうかということを考えるということになっております。
 3ページです。今回、検討会で御検討いただきました対象が、「その他の各種事業」、いろいろありますが、その中で規模が大きなものであるとか、あるいは災害率に特徴が見られるものといった、7つの細目について御検討いただいたということです。
 「その他の各種事業」以外の業種についても御検討いただいております。それは後に書いてありますが、この7つの細目について、御検討を頂いた結果ですが、3ページ目に色刷りになっている所ですが、見直しの方向性ということを御提言いただいています。これでいきますと、医療業と情報サービス業、この2つの業種については、業種の新設が可能と。つまり取り出して1つの業種として独立させることが可能であるということを御提言頂いています。なお、25年報告にも掲げる要件や適合性につき留意が必要ということで、ここの注意書きにありますが、労働災害防止インセンティブを事業主に喚起させるような保険料率かどうかということを考慮する必要があるのではないかという、こういう留保が付いているということです。
 その他の事業については、結論的に言いますと、業種として独立させるというところまでは至らなかったということです。
 4ページです。あとは「その他の各種事業」以外の業種区分に係る検討も行っていただいたということですが、現在のところ、ほかのものについて独立させて業種区分を作るというところまでには至っていないというか、そこまでの御提言はいただいていないということです。
 最後の本報告書の取扱いですが、この報告書については、労災保険部会における審議に資するよう提言したということなのですが、先ほど申し上げましたように、料率改定をするときに合わせて業種区分の検討をするということになっておりますので、その際に審議のベースにしていただきたいということです。今後、状況は変化するかもしれないので、そのときにはそれも勘案して議論されることを望むということで、報告書が締められているというような状況です。報告書の御説明ですが、簡単ではございますが以上です。よろしくお願いします。
○荒木部会長 それではただいまの御説明について、何か御質問、御意見があればお願いいたします。
○楠委員 私も初めてで、これまでどういう議論があったのか、質問に対する回答等はあったとは思うのですが、その辺が分かりませんが、この資料を見て、1つ分からなかった点をお聞きしたいと思います。できたら教えていただきたいと思うのです。報告書参考2の9ページ目にあります上のほうの表です。平成26年経済センサスという所で、民営の従業者数と雇用者数というのがあります。その中の82番のその他の所が一番大きいのですが、従業者数と雇用者数、かなり、10万人ちょっと差があるのですが、この辺の雇用者数、従業者数という内訳といいますか、その辺はどうなっているのかということでちょっとお聞きしたいのですが。
○荒木部会長 はい、事務局からいかがでしょうか。
○労災保険財政数理室長 労災保険財政数理室長の久野と申します。経済センサスの表がありまして、その民営従業者数と民営雇用者数の数字に乖離があるということで、その差は何なのかということですが、従業者数については雇用者数を含んでおりますが、そのほかにも個人業主や家族従業者の方も含んでいたと思っております。
○荒木部会長 従業者と雇用者の概念や範囲の違いということではないかということですが、もし必要があれば、詳細の資料については後ほど御説明を頂くということにいたしましょうか。よろしいですか。
○楠委員 もう1回いいですか。
○荒木部会長 はい、お願いします。
○楠委員 そういったことで、労災保険の業種区分ということなのですが、今ありましたように、その他の各種事業で、構成比で33%ですね。労働者数で36%ですね。かなり大きな数字を占めているわけなのですが、これらの区分の見直しについての方向性は妥当であると思います。作業態様の類似性とか、災害率、災害の種類、そういったものを十分分析した上で、保険集団としての規模が維持できるような安定的な業務区分になるように、引き続き検討をお願いしたいというふうに思います。以上です。
○荒木部会長 ありがとうございました。ほかに何か御意見、御質問はございましょうか。それでは、これは報告事項ということで、また法律改定の際に御議論いただくということとさせていただきます。
 それではほぼ定刻になりました。本日の議題のうちの(1)複数就業者への労災保険給付の在り方については、本日いただいた御意見を踏まえつつ、さらに議論を深めていきたいと考えております。ほかに特段御意見がなければ、本日は以上といたしますがよろいですか。使用者代表の砂原委員は急遽御欠席となりましたので、出席者としては11名ということになりましたことを御報告いたします。
 本日の議事録の署名委員ですが、労働者代表の村上委員、使用者代表の山内委員にお願いをいたします。それでは本日の部会は以上で終了といたします。どうもありがとうございました。