第9回社会保障審議会年金財政における経済前提に関する専門委員会 議事録

●日時

2019(平成31)年2月21日(木)9時59分~11時21分

●場所

航空会館 7階大ホール

●出席者

植田 和男(委員長)
小黒 一正(委員)
小野 正昭(委員)
駒村 康平(委員)
武田 洋子(委員)
玉木 伸介(委員)
野呂 順一(委員)
山田 篤裕(委員)
米澤 康博(委員)
佐藤 参事官(内閣府計量分析室)
森 審議役(年金積立金管理運用(独):GPIF)
鎌田 企画部長(年金積立金管理運用(独):GPIF)
陣場 調査数理室長(年金積立金管理運用(独):GPIF)

●議題

(1)経済前提の設定に用いる経済モデル等について
(2)その他

●議事録

○植田委員長
それでは、ちょっと早いようですが、出席予定の委員の先生方がおそろいになりましたので、第9回「年金財政における経済前提に関する専門委員会」を開催いたします。皆様、お忙しい中、ありがとうございます。
 きょうは、権丈委員、小枝委員、吉川委員が欠席との御連絡をいただいています。
 それでは、議事に入らせていただきますので、カメラの方はここで退席をお願いいたします。
                        (カメラ退室)
○植田委員長
 では、事務局から資料の確認をお願いします。
 
○佐藤数理調整管理官
 年金局数理課の数理調整管理官の佐藤でございます。数理課長の武藤は、公務のため、遅れて参る予定ですので、私から資料の確認をさせていただきます。
 タブレットの左上のマルの1「第9回資料」の文字をタップしていただくと資料の一覧が表示されます。本日準備している資料は、議事次第、委員名簿、座席図のほか、資料1「経済前提の設定に用いる経済モデル等について」、参考資料1「中長期の経済財政に関する試算」、参考資料2「労働力需給推計の概要(案)」、参考資料3「年金財政における経済前提のあり方について(専門委員会における議論の経過報告)」となります。
タッチパネルの操作についての説明書をお手元に配付しておりますが、御不明な点がありましたら、適宜事務局がサポートいたしますので、御遠慮なくお申しつけください。
 
○植田委員長
 それでは、議題に移りたいと思います。
きょうは「経済前提の設定に用いる経済モデル等について」ということで御議論いただきます。
 ことしに入りまして、内閣府から新しい中長期の経済試算、それから、雇用政策研究会から新しい労働力需給推計が公表されております。それらを踏まえまして、具体的に経済モデルに用いるパラメータをどういうふうに設定していくかについて議論を行いたいと思います。
 最初に、事務局から御説明をお願いいたします。
 
○佐藤数理調整管理官
 年金局数理課数理調整管理官の佐藤です。
 資料1「経済前提の設定に用いる経済モデル等について」を御説明いたします。
当専門委員会におきましては、年金財政における経済前提のあり方について議論の経過報告を取りまとめいただき、年金部会に報告したところであります。そこで基本的な考え方については整理されておりますが、本日は、先ほど委員長からもお話がありましたように、さらに議論を深掘りしていただくとともに、これまで経済前提の設定の基礎となるデータや推計が公表されておりますので、これらを用いて具体的なパラメータの値の設定などを御議論いただきたいと考えております。
 資料に入りまして、2ページがスケジュールとなります。経済前提の取りまとめに当たって必要となる内閣府の中長期試算、JILPTの労働力の需給推計が先月公表となっております。これらを踏まえまして経済前提の取りまとめをお願いしたいと考えております。経済前提について取りまとめいただきましたら、年金部会に報告し、財政検証の作業に入り、作業が終了次第、公表の予定となっております。
 4ページからが中長期試算の紹介となります。本年1月30日に公表となりました内閣府の中長期の経済財政に関する試算となります。本試算は、経済、財政、社会保障を一体的にモデル化した計量モデルにより、成長率、物価上昇率、金利などを推計しているものであります。
 ケースとしては、成長実現ケース、ベースラインケースの2ケースを試算しております。成長実現ケースは、デフレ脱却・経済再生という目標に向けて、政策効果が過去の実績も踏まえたペースで発現する姿を試算したものとなります。一方、ベースラインケースは、経済が足元の潜在成長率並みで将来にわたり推移する姿を試算したものとなっております。
 6ページに比較表がありますので、そちらをご覧下さい。2つのケースの前提を比較しております。パラメータの設定の基軸となりますTFP上昇率(全要素生産性上昇率)でありますが、これは、足元の実績が0.4%となっているところであります。成長実現ケースでは、足元より5年間かけて1.3%まで上昇する仮定となっており、ベースラインケースでは0.8%まで上昇する前提となっております。
 続きまして、労働力の前提についてです。こちらは、本年1月15日の雇用政策研究会で公表されました新しい労働力需給推計を踏まえまして、成長実現ケースにつきましては「経済成長と労働参加が進むケース」、ベースラインケースにつきましては「経済成長と労働参加が一定程度進むケース」により労働力が推移する前提となっております。
 これらの前提のもと、試算結果が次の7ページになります。
 成長実現ケースでは、2020年代前半には実質2%、名目3%以上の経済成長を実現する見通しとなっているところであります。また、物価上昇率は、2022年度以降、2%程度に達すると見込まれております。名目長期金利については、2021年度までは足元の金利が続いて、以降、上昇していくことが想定されているところであります。
 一方、ベースラインケースでは、成長率は中長期的に実質1%程度、名目1%台後半程度となる見通しであります。また、消費者物価上昇率は1%前後で推移すると見込まれております。
 10ページをご覧下さい。こちらが、先ほどの内閣府の中長期試算でも参照されております労働力需給推計の概要になります。この推計につきましては、雇用政策研究会の議論の基礎資料とするため、労働政策研究・研修機構、いわゆるJILPTが推計を実施したものになります。労働力需給に関する計量経済モデルによるシミュレーションにより推計しているところであります。
 推計のシナリオといたしましては、経済成長と労働参加が進む「成長実現・労働参加進展シナリオ」、経済成長と労働参加が進まない「ゼロ成長・労働参加現状シナリオ」に加えまして、参考シナリオとして中間に位置します、経済成長と労働参加が一定程度進む「ベースライン・労働参加漸進シナリオ」の合計3通りのシナリオを想定して推計しております。
 また、推計期間につきましては、2040年までの労働力需給の推計を行っております。前回の2015年の労働力需給推計では2030年までの推計でしたので、推計期間が10年程度将来に伸びているところであります。
 11ページはフローチャートとなります。説明は省略いたします。
 12ページの需給推計の主な結果をご覧下さい。左が労働力人口と労働力率の見通しとなります。労働力人口で見ますと、2017年で6720万人となっていますが、労働参加が進まなければ、2040年には5460万人まで減少する見込みとなっています。これが、労働参加が進むことにより6195万人となる見通しとなっております。また、労働力率につきましては、高齢化は年齢計の労働力率の低下要因となるわけですが、労働参加が進むケースでは、年齢計の労働力率も上昇する見通しになっています。
 13ページをご覧下さい。こちらが性・年齢階級別の労働力率、就業率の2040年の見通しとなります。労働参加が進む場合が一番上の青の線となります。例えば左下の女性の労働力率を見ていただきますと、いわゆるM字カーブが解消され、30代後半や40代といったところでは90%を超える水準まで上昇すると見込まれるところであります。
 また、高齢者の労働力率も大きく上昇しております。例えば60代後半のところを見ていただきますと、男性では7割以上、女性でも5割以上が労働力となっており、かなりの方が労働参加する見通しとなっております。
 15ページをご覧下さい。当専門委員会の経済モデルにおきましては、15ページにあるパラメータを用いて推計することになっておりますが、これらは国民経済計算を基礎として設定されることになります。また、ここにあります資本減耗率、資本分配率、総投資率については、外生変数として与えていく際、過去30年程度の国民経済計算の系列を必要とします。このため、次の16ページにありますように、現行の国民経済計算は、正式系列は1994年以降となっているところでありますが、1993年以前の系列については当専門委員会で遡及推計を行っております。
 次の17ページをご覧下さい。こちらが実際に使用する系列になります。このページにある実績をもとにパラメータを設定して将来の見通しを作成することになります。こちらの系列につきましては、新たに2017年の年次推計が公表されておりますので、2017年の年次推計に基づく系列となります。
 もう一つ留意していただきたい点があります。今般の毎月勤労統計に関する事案の影響についてでございますが、国民経済計算についても影響を受けることとなりました。こちらの計数表につきましては、毎月勤労統計の再集計の影響を補正したものとなっております。また、この後出てきますパラメータなどにつきましても、こちらの計数表を基礎として計算しておりますので、毎月勤労統計の再集計の影響については補正されたものとなっていることを御理解いただければと思います。
 補正の方法につきましては、(注)に記載してあるとおりでございますが、まず、2016年、17年、あと2004年度以降の雇用者報酬につきましては、内閣府で再集計されたものが既に公表されておりますので、そちらの集計値を使用しているところであります。
 その他の影響を受ける系列につきましては、営業余剰(総)があるわけですが、こちらにつきましては、2004年から2015年の営業余剰(総)について内閣府の雇用者報酬の再集計結果をもとに事務局で補正させていただいております。営業余剰(総)につきましても、今後、内閣府において再集計結果が示される予定と聞いておりますので、公表された場合はそちらの数値に差しかえていく所存でございます。
 続きまして、18ページから21ページは、国民経済計算の系列やパラメータの実績をお示ししております。順次ご覧いただければと思いますが、18ページが国民経済計算の系列で、固定資本減耗、雇用者報酬、営業余剰、総貯蓄となります。19ページが遡及推計値から計算されるパラメータとなりまして、資本減耗率、資本分配率。20ページが利潤率。21ページが総投資率、総貯蓄率の推移となります。
 22ページをご覧下さい。こちらが、先ほど申し上げました毎月勤労統計の再集計に伴う国民経済計算の影響をお示ししているものであります。内閣府で公表されました再集計値と再集計前を比較していただければ、まず、GDPそのものについては影響がないことがわかります。また、ストックの固定資産や固定資本減耗、総固定資本形成などにも影響はありません。影響を受けるところは、GDPの内訳となります雇用者報酬が0.3%程度増加し、その分、営業余剰等が減少することになりまして、グロスの営業余剰で見ますと0.3%程度減少しております。
 以上の系列等を用いましてパラメータを設定していくことになりますが、具体的なパラメータの設定についてが、24ページ以降となります。
 24ページには、既に当委員会で取りまとめいただきました議論の経過報告の記載があります。全要素生産性(TFP)上昇率の設定につきましては、「内閣府試算の設定を基礎により低い方向に幅広く設定する」とされているところであります。また、労働投入量の設定につきましては、内閣府試算の設定を踏まえつつ、労働力需給推計に準拠すること、労働参加が進まないケースも幅広い前提の中で設定することが望ましいとされているところであります。
 以上を踏まえまして、設定案のイメージを25ページに示しておりますので、25ページを覧下さい。
 TFP上昇率につきましては、まず、2028年度までは内閣府試算の推計期間ですので、そちらに準拠することとなります。29年度以降の設定についてとなりますが、こちらは成長実現ケースに接続するものとして、2029年度以降も1.3%で推移するものを、仮に名前をつけさせていただいてケースIといたします。2029年度以降、TFP上昇率を下に幅を持つということで、0.2%ずつ幅をとり、設定したものをそれぞれケースⅡ、ケースⅢとしてはどうかと提案させていただいております。また、ベースラインケースに接続するものといたしましては、2029年度以降も0.8%で推移するもの、内閣府試算の0.8%をそのまま維持するものをケースⅣといたしまして、2029年度以降、TFP上昇率を0.2%ずつ下に幅をとって設定したものをケースV、ケースⅥとしてはどうかという御提案であります。
 これは、5年前の財政検証と比較いたしますと、前回のTFP上昇率の設定は1.8%から0.5%の幅で8ケース設定しておりました。今回は6ケースとなっておりますが、前回の上の2ケースのTFP設定は1.8%と1.6%でしたので、前回の上の2ケースがなくなったものと理解できるのではないかと考えているところであります。
 また、前回の上の2ケースをなくしますと、TFPの範囲は1.4%から0.5%でした。今回は1.3%から0.4%という範囲となっておりますので、前回の上2つのケースを削除したものよりもさらに0.1%程度低い範囲で設定しているということとなっております。
 続きまして、労働投入量の設定についてでございます。こちらにつきましては、内閣府試算の設定を踏まえ、成長実現ケースに接続するケースIからⅢにつきましては、内閣府試算の成長実現ケースと同じ「経済成長と労働参加が進むケース」。次に、ベースラインに接続するもののうちケースⅣとVにつきましては「経済成長と労働参加が一定程度進むケース」。最も低いケースⅥについては「経済成長と労働参加が進まないケース」としてはどうかと御提案するところであります。
 26ページ、27ページが、このように設定いたしましたTFPの仮定が過去の実績と比較してどの程度の水準になるかを確認したものとなります。
26ページをご覧下さい。こちらは、過去のTFP上昇率の推移になります。バブル期以前は1.5%を超える高い水準にあったところでありますが、1990年代後半以降は0.4%から1.4%の間を推移しております。足元2017年は0.4%と最も低い水準にあるところであります。今回の設定を考えますと、おおむねバブル崩壊後の1990年代後半以降の推移の範囲で設定されていることになるかと思います。また、過去30年平均をとりますと1.1%となり、バブル崩壊後の過去20年や過去10年平均をとりますと0.8%、0.7%となっております。
 27ページは、TFP上昇率の過去30年の分布に照らしましてケースIからケースⅥの仮定がどのようなシナリオとなるのかということを確認しているものであります。例えばケースⅢで仮定した0.9%を見ていただきますと、過去30年の実績の67%、約7割をカバーしております。すなわち、ケースⅢは過去30年の実績の7割をカバーするシナリオと考えられます。同様に、ケースⅣも約7割をカバーしていますし、ケースVは約9割をカバーしています。また、ケースⅥの0.4%は過去30年間で最も低い水準となっています。
 28ページをご覧下さい。続きまして、労働投入量の設定となります。労働投入量につきましては、先ほど御紹介いたしましたJILPTの労働力需給推計をもとにマンアワーベースの労働投入量を推計して経済モデルに導入することになります。
 28ページがマンアワーベースの労働投入量の推計の概要となります。その計算の結果出てきたのが29ページの労働力人口の見通しとなりますし、マンアワーベースのものが次の30ページとなります。
 30ページをご覧下さい。30ページのマンアワーベースの労働投入量、つまり総労働時間となりますが、こちらを見ていただきますと、人口減少に伴いまして労働力人口が減り、それに伴って総労働時間も減少していくことが見通されているものであります。ただ、労働参加の進展によりまして労働投入量の減少が緩和される見通しとなっています。
 31ページがその他のパラメータ。資本分配率、資本減耗率、総投資率の設定となります。議論の経過報告では、資本分配率、資本減耗率につきましては、TFP上昇率を高目に設定する場合は過去30年平均、低目に設定する場合は過去10年平均で設定することとされています。これを踏まえ、内閣府試算の成長実現ケースに接続しますケースIからケースⅢは過去30年平均、ベースラインに接続いたしますケースⅣからケースⅥにつきましては過去10年平均を用いることとしてはどうかと考えております。
 総投資率につきましては、議論の経過報告において総投資率の過去からの減少を外挿したケースと総投資率の外挿から総貯蓄率の外挿へ30年かけて緩やかに遷移するケースの2ケースについて推計を行い、幅で示すこととされています。
 32ページ以降が具体的な数字となりますので、そちらを確認いただければと思います。
 32ページが労働分配率となっております。過去30年平均を見ますと42.7%、過去10年平均を見ますと43.4%となっています。
 33ページが資本減耗率となりまして、過去30年平均が7.3%、過去10年平均が7.0%となっています。
 34ページが投資率の設定になります。赤い点線の下のほうが総投資率の過去の傾向を外挿したケースとなりまして、赤い点線の上のほうの点線が総投資率の外挿から総貯蓄率の外挿へ遷移するケースとなっております。5年前の財政検証で申し上げますと、設定方法としては全く同じ方法で設定しておりますが、その結果は、両ケースとも低下しておりました。今回、足元の実績、特に総貯蓄率の実績が大きく上昇しておりまして、これを反映した結果、投資率のα、上のほうの点線につきましては足元から概ね横ばいで推移する前提となったところであります。
 35ページをご覧下さい。こちらが物価上昇率の設定になります。議論の経過報告では、日銀の物価安定の目標であり、内閣府の中長期試算の成長実現ケースの計算結果でもあります2.0%、ベースラインケースの試算結果であります1.1%、それから、過去30年の実績の0.5%、この3つの数字を参考に設定することとされています。
 そこで、下の欄にまとめてありますとおり、TFP上昇率の設定に応じて物価上昇率を設定いたしまして、TFP上昇率が成長実現ケースの1.3%で推移するケースIについては、成長実現ケースの物価上昇率の推計値であります2.0%を仮定します。また、同じように、ベースラインケースの0.8%で推移するケースⅣにつきましては、ベースラインケースの推計値であります1.1%と仮定します。最も低いケースⅥについては0.5%と仮定することとしてはどうかと考えております。その間のケースにつきましては、間を刻みまして、ここに記載されているような設定をしてはどうかと考えているところであります。
 36ページは物価の過去の実績を示しているものであります。
 続きまして、経済モデルの考え方につきまして御説明いたしたいと思います。
 38ページをご覧下さい。こちらはもう何度もご覧になっているかと思いますが、当専門委員会で用います経済モデルのフローチャートでございまして、こちらのフローチャートに従いまして推計を行うところであります。
 39ページの議論の経過報告をご覧下さい。こちらを見ていただきますと、「諸外国における経済前提の設定方法と比べても工夫されたものとなっていると考えられることから、今回も基本的には同様の手法を用いることとする。ただし、その後の状況変化等を踏まえ、改善が可能と考えられる点については改善を行う」とされているところであります。したがいまして、基本的には前回と同様の経済モデルを用いることとなりますが、改善できるところは改善していくということとなります。
 一方、年金部会への報告で、毎月勤労統計の事案が生じたため再検証することとされた部分でありますが、当専門委員会では実質賃金上昇率と実質経済成長率の乖離について、過去20年の実績をもとに分析しておりました。再検証については後ほどご説明いたしますが、結論には影響がないものと考えています。
 40ページをご覧下さい。こちらにこの分析結果について、経済前提の設定に当たってどのように整理して改善を図っていくべきかというものの(案)をお示しさせていただいております。上2つの○が先ほどの分析結果のまとめとなります。
 まず、実質賃金上昇率と実質経済成長率の差につきましては、過去20年間の実績を分析いたしますと、実質化するデフレーターの差と労働分配率の低下、雇主の社会負担の増加により説明できることが確認されたところであります。
 また、デフレーターの差につきましては、消費者物価指数は対象を家計消費に限定しているのに対して、GDPデフレーターは設備投資や輸出入の影響も考慮しているため交易条件の悪化の影響を受けていることの他、ラスパイレス算式とパーシェ算式といった算式の違いの影響も受けていることを確認したところであります。
 経済前提の設定に当たりましては、経過報告にも記載されたところでありますが、「おおむね100年にわたる超長期の推計であることを踏まえ、足元の一時的な変動にとらわれず、超長期の視点に立ち、妥当と考えられる範囲に設定する」必要があります。この観点から申し上げますと、労働分配率の低下、雇主の社会負担の増加、また交易条件の悪化といったものは状態の変化によるものでありまして、この状態の変化が将来にわたり続くと仮定することは必ずしも適切ではないと考えられます。
 そこで、従来の財政検証におきましては、マンアワーベースで実質賃金上昇率と実質経済成長率は一致すると仮定していたところであります。
従来の財政検証では、将来の経済動向が不確実という理由で将来のデフレーターの差について考慮していなかったわけでありますが、今回の分析で明らかになった、デフレーターの差のうち、算式の違いにより生じている部分につきましては将来にわたって続く可能性も否定できないということで、一定程度考慮することとしてはどうかと考えています。
 具体的な設定方法を下に書いております。範囲がおおむね同じとなります家計最終消費支出のデフレーターと消費者物価指数の伸びの差が、できるだけ長い期間1981年から2017年をとりますと、平均▲0.4%でありました。また、諸外国の年金財政見通しを見てみましても、アメリカやカナダにおきましては、このデフレーターの違いの差が考慮されておりまして、アメリカでは▲0.4%と見ておりますが、カナダでは0.0%でと差がないと見ているところであります。
 そういったことを勘案いたしまして、幅を持って、この差を0.0%から▲0.4%で見ることにしてはどうかと考えております。なお、この影響につきましては、実質賃金上昇率の幅が低いほうに0.4%程度広がるとい結果になります。
 41ページが推計の枠組みとなる関係式となりまして、赤字の部分が今回改善される部分になるところであります。
 42ページが、先ほど御説明いたしましたが、デフレーターの差を比較した資料になります。青の実線がGDPデフレーターとなりまして、オレンジの実線が家計最終消費支出のデフレーターとなります。この差については範囲の違いになるかと思います。一方、赤の点線が消費者物価指数上昇率となります。赤の点線とオレンジの実線の差がおおむね算式の違いではないかと考えられるところでありまして、その差が平均▲0.4%となっています。
 続きまして、43ページをご覧ください。こちらにつきましては、先ほどお話しいたしました経済成長率と賃金上昇率に関する分析の再検証となります。この分析につきましては、賃金の指標として毎月勤労統計を用いたところであります。毎月勤労統計の再集計の影響につきましては、決まって支給する給与で見まして平均0.6%程度の差があったとされていますが、この分析については20年間の平均伸び率を主に比較しているところであります。ですから、20年間の平均伸び率で見ますと、その影響は20分の1程度になるところであります。ただ、今般の事案に鑑みまして、賃金の指標として、民間給与実態調査を用いることとして見直してみてはどうかという御提案となります。
 この民間給与実態調査を用いる理由でありますが、まず、比較対照しております国民経済計算が我が国全体の経済活動を対象としていますので、できるだけ調査対象の広いものを用いるべきと考えて、民間給与実態調査を用いてはどうかというところであります。
 下に比較表がありますが、毎月勤労統計につきましては、常時5人以上を雇用する事業所の常用雇用者が対象となっておりまして、約5,000万人が調査対象となっています。一方、民間給与実態調査のほうは、源泉徴収の対象となります事業所の給与所得者全員を対象としていまして、対象範囲がより広く約5,900万人が対象となっているところであります。
 また、分析の対象期間とした1996年から2015年まで20年間の賃金の平均伸び率を比較してみますと、毎月勤労統計の調査対象計が▲0.6%となっているのに対して、民間給与実態調査も▲0.6%と同じ水準となっています。また、参考に、年金の標準報酬の伸びも見てみますと、こちらは▲0.1%となっています。標準報酬は、年金の被保険者ですので、短時間雇用者が対象から外れており、調査対象としては約4,400万人になっています。ですから、範囲といたしましては、毎月勤労統計の一般労働者に近くなっておりまして、このため伸び率も一般労働者の伸び率に近い水準になっているのではないかと考えております。全体としては、賃金統計同士、整合性のとれたものになっているのではないかと思われます。
44ページが、毎年の伸び率を比較したものです。実は、単年の伸び率を見てみますと、調査によって違いがみられますが、長期間の平均をとると、先ほどのように整合性のとれた数字となっております。
 45ページは、賃金の指標を見直した場合の分析結果のまとめであります。民間給与実態調査を賃金の指標として用いた場合でも、分析結果としては同様の結論が導き出せるものとなっています。
 以上の設定をもとに、マクロ経済に関する試算を試行したものが次ページ以降となっております。
 48ページをご覧下さい。こちらにケースIからケースⅥまでの経済成長率や利潤率の全ての試算結果をまとめています。
 49ページ以降にグラフがございます。そちらの方が分かりやすいかと思いますので、そちらをご覧いただければと思います。
 まず、2028年度までにつきましては、ここに示されております経済モデルによる結果ではなくて、内閣府の計量モデルにより試算した結果を用いることとなります。長期の経済前提の数値に用いるのは2029年度以降となりますので、2029年度以降の試算結果に注目して見ていただければと思っております。
 ここで示しておりますのは、総投資率がαのケース、すなわち投資率が横ばいとなって推移するケースの実質成長率の試算結果となっています。ケースIで見ますと、TFP上昇率が1.3%と仮定されておりますが、労働投入がマイナスとなっていることから、実質成長率は長期的には1%程度で推移する見通しであります。
 その下のケースⅡや、50ページのケースⅢでは、TFPの設定が低くなっていることと、それに伴い資本の寄与も小さくなることから、実質成長率は低くなっておりますが、まだプラス成長を維持しており、ケースⅢでは、長期的に0.5%前後で推移する見通しとなおります。
 ケースⅣでは、さらに労働投入量の仮定も低くなることから、さらに実質成長率が低くなります。
 51ページのケースVを見ていただきますと、ほぼゼロ成長になっています。
 また、ケースⅥでは、マイナス成長の見通しという試算結果となっております。
 続きまして、52ページは利潤率の見通しとなります。52ページは、投資率が横ばいとなりますαのケースの試算結果となります。投資率が横ばいとなるケースでは、長期的には利潤率は、ケースIからケースⅥのそれぞれのシナリオに応じましてレベルは異なっておりますが、一定の水準に収束することが見てとれるところであります。
 一方、53ページをご覧下さい。投資率が低下していくβのケースの試算結果となります。こちらのケースでは、投資率が低下していくため資本蓄積が小さくなりまして、資本係数が低下していく見通しとなっております。すなわち、少ない資本で利潤を分けることになりますので、結果として利潤率が上昇し続ける見通しとなっているところであります。今回、投資率が横ばいとなるケースの試算をしたことで、利潤率の上昇には投資率の低下が関係していることが確認できたところであります。
 54ページに先ほどの試算の詳細について一例をお示ししておりまして、こういった計算をやっているというものであります。
 55ページにつきましては、前回の専門委員会において委員から御意見をいただいたところでありますが、足元のTFP上昇率の設定につきまして、ケースⅥよりさらに低いケースについて参考として試算を行い、長期の経済前提へどういう影響があるかを調べたものであります。ケースⅥにつきましては、内閣府の中長期試算の推計期間につきましてはTFP上昇率が足元0.4%から0.8%に上がって、そこから2029年度以降0.4%に下がるという設定でありますが、これを足元の0.4%でずっと推移した場合、実質経済成長率や利潤率の影響を試算したところであります。その結果でございますが、長期の賃金上昇率の影響を見ますと、0.05%~0.06%と見込まれることが確認できたところであります。
 続きまして、運用利回りの設定についてとなります。運用利回りの設定につきましては、57ページ、58ページに設定方法をまとめておりますが、経過報告でもまとめていただいたとおり、GPIFの運用実績を活用するように見直すこととしたところであります。
 59ページがGPIFの実質運用利回りの実績となります。こちらの資料は前回の専門委員会でもお示ししておりましたが、そこでは移動平均につきまして単純平均で計算しておりました。そこで委員の先生から、運用利回りのような変動の大きいものは単純平均では数字が大きくなってしまうため、幾何平均で作成すべきという御指摘を受けまして、この資料につきましては、御指摘のとおり、幾何平均で計算し直しております。
 60ページの国内債券を上回る収益率、こちらは分散投資効果で活用するものになりますが、これにつきましても、同様に幾何平均で計算し直しております。御指摘のとおり、移動平均が下方修正されています。こちらの幾何平均の数値を使ってGPIFの実績を活用することとしていきたいと考えております。
 61ページは、GPIFの運用実績の活用方法についてであります。議論の経過報告で、10年移動平均の変動の幅を踏まえる方法などによりまして保守的な設定とすることが望ましい、すなわち低目に設定することが記載されています。そこで、成長実現ケースに接続するケースIからケースⅢとベースラインケースに接続するケースⅣ、ケースVに分けまして、それぞれTFP上昇率が過去の実績のどの程度をカバーするかを参考といたしましてGPIFの実績を設定するのはどうかと考えています。
 具体的には、過去30年のTFPの実績を見てみますと、下の(参考)のところに書いておりますが、成長実現ケースに接続するケースⅢにつきましてはTFP0.9%となっております。これを下回るのは約3割となっております。ですから、GPIFの運用実績につきましても、10年移動平均の30パーセンタイル値をとりまして、それによって2.3%と設定してはどうかというものであります。
 次に、ベースラインケースに接続するケースⅣにつきましては、TFP0.8%を下回るのは約3割ですし、ベースラインケースのケースVにつきましては、TFP0.6%を下回るのは約1割でありますので、その間をとりまして、運用実績につきましては10年移動平均の20パーセンタイル値によって1.8%としてはどうかとしているところであります。
 すなわち、成長実現ケースに接続するケースⅢについては、過去の実績の約7割程度をカバーするようなシナリオと考えられますし、同じく、ベースラインケースに接続するケースⅣやVにつきましては、過去の実績のおおむね8割程度をカバーするシナリオと想定できるのではないかと考えています。
 62ページは、イールドカーブを用いるケースについてです。議論の経過報告で、低金利が長期化している現状を踏まえ、極めて低い成長を仮定するシナリオについてはイールドカーブを用いるということが記載されておりますので、TFPが最も低い足元水準の0.4%で推移しますケースⅥについてイールドカーブを採用してはどうかと考えています。その際用いるイールドカーブにつきましては、経過報告におきましては、直近のイールドカーブを用いることが適当と記載しておりますので、平成31年1月31日のイールドカーブから算出される15~30年後の10年国債のフォワードレートによりまして、長期金利の範囲を1.1~1.2%と設定してはどうかとしているところであります。
 さらに、長期金利に上乗せされる内外の株式等への分散投資効果につきましては、GPIFの国内債券を上回る運用利回りの実績の10年移動平均の幅を踏まえまして設定することとなるのですが、こちらはベースラインケースでありますことから、運用実績の設定は20パーセンタイル値による設定をいたしまして、0.2%としてはどうかと考えております。
 63ページが、先ほど申しました直近の1月31日を加えたイールドカーブとなります。青の実線が直近の1月31日のものとなります。
 64ページが、イールドカーブから算出される10年国債のフォワードレートとなります。この青の実線の15年後から30年後の数値が先ほど御紹介いたしました1.1~1.2%となっています。
 65ページが、足元の経済前提の設定についてとなります。足元の経済前提は内閣府試算に準拠することとなりますが、内閣府試算では、運用利回りではなく長期金利が試算されています。ですから、長期金利に内外の株式等の分散投資効果を上乗せすることになります。この分散投資効果につきましても、GPIFの国内債券を上回る運用利回りの実績を踏まえて設定することと整理されています。
 具体的な設定方法ですが、足元長期金利が0.1%と低く設定されている間は、GPIF発足以降17年間の平均であります1.7%と設定して、長期金利が上昇するに伴い、分散投資効果は逓減して、2028年度では、成長実現ケースでは10年移動平均の30パーセンタイル値である0.3%、ベースラインケースでは20パーセンタイル値であります0.2%と設定してはどうかとしているところであります。
 続きまして、経済変動を仮定するケースの設定になります。67ページに経過報告のまとめを記載しております。この記載に従いまして設定することになります。その具体的な設定方法が68ページになりますので、そちらをご覧下さい。
 まず、変動させる場合の周期につきましては10年周期と設定いたしまして、物価の変動幅については過去30年の標準偏差から1.1%、賃金の変動幅については過去30年で最も高いバブル期とリーマンショック期の差をとりまして2.9%としてはどうかとさせていただいています。
 なお、賃金の変動幅につきましては、昨年末の専門委員会の資料で毎月勤労統計の数字により3.0%と記載しておりましたが、今般の事情を踏まえまして標準報酬の伸び率を用いまして算出し直して2.9%としているところであります。
 このように設定した変動のイメージが69ページになります。名目賃金の変動が物価より大きくなっておりまして、その結果、青の物価上昇率よりも赤のラインの名目賃金が低くなるところが今回の特徴であります。これによりまして、28年改正法の影響をはかることができると考えております。
 70ページは、先ほど述べました標準報酬で見た賃金上昇率となります。
 71ページ以降は参考資料となりますので、説明は省略させていただきます。
 私からの説明は以上であります。
 
○植田委員長
 ありがとうございました。
 それでは、次回取りまとめですので、それに向けて、今の報告に関連しまして御意見、御質問等、よろしくお願いいたします。
 小黒委員、どうぞ。
 
○小黒委員
 ありがとうございます。お疲れさまです。3点コメントと質問をさせていただきたいのです。
 13ページの労働力需給推計の部分の前提で、多分、私の理解が不十分な可能性が高いのですけれども、成長実現・労働参加進展シナリオとゼロ成長・労働参加現状シナリオがあると思うのですが、これは経済成長率の高いケースと低いケースで、労働参加の進展状況に違いがあるのか否か。ここでは、経済成長が実現して労働参加が進展しているシナリオとゼロ成長・労働参加現状シナリオというのがあるのですけれども、ゼロ成長でも労働参加している場合も考えられると思うのです。そういうケースは想定しないのか。細かい指摘ですけれども、現状では低成長で片働きの収入では不十分のため、共働きなどが増えている側面があるようにも思いますから。
 もう一つは、これも細かくて申しわけないのですが、27ページにTFPの分布がつくられていまして、これは我々が設定しようとしているケースIからVIまでのもので、TFPがどこの部分に位置づけられているのか、分布で非常にわかりやすくなっていてすばらしい資料だと思います。
 その関係で、先ほどの35ページで、物価の話についてどういう状況になっているのかというのを設定しているわけですけれども、参考資料の72ページに物価上昇率の分布をつけていただいているわけですが、27ページではケースIからケースIVというのが分布のどこに位置づけられているのかというのが記載されていますので、もし可能であれば、27ページと同じような形で、72ページの物価上昇率についてもその場所を分布上明示していただけないかなと。同様に、74ページの賃金上昇率であるとか、75、76ページとかの運用利回りのところについても明示していただけると、我々はどの辺のポジションにいるのかがわかりやすくなると思いますので、お願いしたいと思います。
 もう一つは、私がちょっとわかっていない部分で。先ほど勤労統計の修正があった場合に、GDPが変わらないという説明があったのですけれども、これがなぜ変わらないのかというのも簡単に教えていただけないでしょうか。
  
○植田委員長
 それでは、事務局、お答えできる範囲で。
 
○佐藤数理調整管理官
 初めの労働力の設定につきましてですが、詳しくは調べさせていただきたいと思いますが、把握しているところでありますと、ゼロ成長・労働参加現状シナリオというのは経済成長しない前提としておりまして、労働参加が進めば経済成長するシナリオを前提としているものであります。委員の先生がおっしゃいましたように、労働参加が進まないけれども経済成長するシナリオというのは想定していないと理解しているところであります。
 
○小黒委員
 すみません。私の理解ですと、最近、労働参加が進んでいるのは幾つかのバックグラウンドがあると思うのですけれども、今は、どちらかというと経済成長しなくなって、男性も賃金が非常に厳しくなってきているので、その中で共働きがふえてきているとかいうような文脈のストーリーもあると思うのです。そうすると、普通の経済学で考えたときに、賃金が上がって経済成長している場合に労働参加が進むというストーリーもある一方で、バックワードベンディングというか、かなり成長が進んで収入が十分増えると余暇を増やす方が得で、今度は労働力が減るというシナリオもありますし、今、日本経済で起こっているような形で、片方の賃金が下がっているから、それを補う形で労働参加が進むというシナリオもあると思うのです。どういうようなストーリーで設定してあるかということと関係していると思っていまして、可能であれば、そのストーリーを教えていただきたいというのが1点目の質問の意味です。
 
○佐藤数理調整管理官
 ストーリーについては、確認させていただきたいと思います。
 あと、資料の修正につきましては御検討させていただければと考えております。
 最後、GDPにつきましては、計算方法として付加価値をまず計算して、そこから雇用者報酬を控除することによって営業余剰等を計算するという計算スキームになっていると理解しているところであります。すなわち、雇用者報酬と営業余剰を積み上げてGDPを計算しておらず、計算方法としてまず付加価値を計算するということから、付加価値については影響がないと理解しているところであります。
 
○植田委員長
 最初の点は私も思ったのです。一部の議論では、全要素生産性上昇率とか労働参加率というものが外政的に決まる部分もあるけれども、小黒先生がおっしゃったように内政的に決まる面もあって、例えば、人口成長率が低いとかえって一生懸命頑張って技術進歩率が高まるとか、労働参加率が高まるという説は若干有力なものとしてあると思うのです。データはそれで説明ができるかどうかはまた別ですけれども。
 現状のシナリオの設定は、そういうところまでは十分考えていなくて、どちらかといえば、こちらで高いケースについてはこちらも高いケースを置くというふうに組んでいるのですけれども、バッテンみたいに組んでやってみることに意味があるかどうか、ちょっと検討してみたらいいかなとは思いました。
 それでは、駒村委員。
 
○駒村委員
 今の小黒先生、あと、委員長と似たところなのですけれども、この労働力率の議論です。結局、きょうの議論は、ほかの検討会で、あるいはほかの研究所で出てきたものを組み合わせていくという作業に入っているわけですが、その組み合わせ方が正しいかどうかというか、適切な組み合わせかどうかも見ておかなければいけない。
 それで、労働力需給推計の資料は参考資料2ですけれども、これを見て今のお話をお聞きしていると、例えば、先ほどの高齢者の労働力率が急激に上昇するケースが設定されている。13ページです。青い成長実現ケース。この推計方法は、この概要しかないので、本当はこの概要の詳細を付していただかないとわからない部分がある。例えば健康寿命が延びていくと、恐らく高齢者の労働力率が上がっていくことになっているのだと思うのですけれども、どのくらいの影響があるのか、どういうロジックでやっているのか。健康寿命と労働力率の因果関係はなかなか難しいのですけれども、ここでの想定としては、健康寿命が一定の寿命の延びに合わせて一定ペースで上がっていくと、何らかのパラメータで労働力率が一緒に上がっていくという想定をしていると思いますが、もう少し細かいデータを見せていただきたい。
 それから、労働人口が全般的に高齢者のほうにウエートが乗っかっていくと、これも先ほど指摘があったように、27ページの全要素生産性の分布ですけれども、過去30年の時期と過去20年の時期では、労働人口の高齢化が進んでいるだろうと思われている時期でTFP上昇率が全体的に左側に下がってきていることを考えると、既存研究などでは、労働人口の構成の高齢化が進むとTFPの上昇率が下がるのではないかという研究もあるので、単に組み合わせてしまっていいのかどうか。労働人口の年齢構成の変化を踏まえると、こういうTFPの想定は少し甘いのではないかという気もしますので、もうちょっと工夫の余地があるのではないかと思いました。
 以上です。
 
○植田委員長
 よろしいですか。
 
○佐藤数理調整管理官
 労働力需給推計については雇用政策研究会で公表されたものでありますが、実はまだ詳しい報告書が公表されていない段階でありまして、そちらが公表されましたら、直ちに皆様にお示ししたいと考えているところであります。まだ詳しいところまで我々も把握できていない部分がありまして、その点、おわびいたします。
 
○植田委員長
 では、山田委員。
 
○山田委員
 私も全要素生産性のところで。
 27ページを拝見すると、かなりカバーされているという説明の仕方なのですけれども、駒村委員も御指摘のように、幾つか研究も出ていまして、IMFとかが2016年の末ぐらいに出した報告書だと、高齢化が進むとデータ上はTFPも下がっていく。それを26ページで見てみると、確かに高かったのがどんどん下がっていくというのが見えています。このIMFのリポートについては、日本についても同様の指摘がなされているところでありまして、確かに内閣府試算との接合とか難しい面はあるとは思うのですけれども、25ページの0.4%でいいのか、一番ボトムがいいのかというのはもう少し考えて。要するに、上の2つがなくなったのであれば、もう2つぐらい下のほうも考えてもいいのではないかというのは、正直、既存の研究とかを見ていますと強く思うところであります。
 私からは以上です。
 
○植田委員長
 それでは、武田委員、お願いします。
 
○武田委員
 御説明いただきましてどうもありがとうございます。
 1点目は、先ほど来話題になっている13ページの労働力率等の前提についてです。既に他の委員から出た点もそうですが、このベースラインの労働参加が少しずつ進むケースと現状シナリオの線が、男性だと全く変わっていない点も気がかりです。その点をどのような前提で置かれているか一応念のため御確認いただいたほうがいいのではないかと思います。恐らく、何らかの前提をしっかり置かれていて、その結果がこういう数字になっているのだと思いますが、少なくとも、この値を使う以上は、その背景には何が効いているのか変わらない値にはこうした前提が効いていますという説明をできるようにされたほうがよいと考えます。
 あわせて労働時間の前提をどのように置かれているかということも気になっております。人数としては、おっしゃるとおり、共働きもふえていますし、シニアの就労という意味で、1人当たりが参加する率は上がっていると思います。一方で、マクロ全体で捉えると、高齢化が進んで労働時間が縮小する部分と、働き方改革ということで、そもそも働く時間が全員少なくなっていっているというトレンドがあると思いますので、その辺の前提も念のため確認いただいて、参加率の話と労働投入の話を分けて見ておく必要はあろうかと思いました。
 2点目はTFPの話です。先ほど出たような高齢化がTFPを左右するという点は様々な研究成果が出ているところで、足元のTFPも残念ながらここ数年低下基調にあることがグラフではっきり見えています。ただ、その背景として、どのようなことが影響しているのか。仮説になるかもしれませんけれども、そこはしっかりした議論がないとわからないと思います。山田先生がおっしゃったように、我々としてもう一段下を見たほうがいいのか、それとも、ここはこの数年間の何等かのファクターが影響しているということなのか。そこは判断材料がもう少しあったほうがよいと思いました。
 最後に、以前から、足元のTFP上昇率との段差の話の確認をお願いしていたのですが、その点について資料に盛り込んでいただきまして、どうもありがとうございます。こういう図を見ると、急に高いTFPから低いTFPにいくことについて疑問の声が上がると思いますから、最終報告でもそれをきちんと確認したことがわかるような形でつけたほうがいいと私は考えています。
 以上です。
 
○植田委員長
 事務局から今の御質問について何かありますか。
 
○佐藤数理調整管理官
 労働力需給推計の仮定についてですけれども、参考資料2を見ていただきますと、3ページ、4ページに「労働力供給の設定」ということで仮定がいろいろ記載されています。先ほど御質問に出ました短時間雇用者比率については5)に、多様な雇用の受け皿が整備されることにより柔軟な働き方を選択する者が増加し、短時間雇用者比率が足元の27.9%から42.7%まで上昇するという設定で労働参加が進むケースは設定されています。一方、一定程度進むケースと労働参加が進まないケースは、短時間雇用者比率が上がっていくような設定はされていないところでして、このため、先ほど武田委員が言いました男性の高齢者の部分で、参加が進まない場合と一定程度進む場合は一致して、参加が進む場合は大きく上昇するという差が出てきていると聞いているところであります。
 同様に、労働時間につきましては、次のページの7)に記載があります。これも、労働参加が進む場合のみ労働時間の減少の仮定を置いているところでありますが、年次有給休暇の取得率について、2020年に70%達成という目標と、時間外労働の上限規制が設けられることを踏まえまして、2020年に148.2時間、2030年に146.8時間というように徐々に低下していくという仮定が置かれております。
以上です。
 
○植田委員長
 ほかにいかがでしょうか。
 どうぞ。
 
○野呂委員
 2つほど感想とお願いです。
 1点目は、先ほどの武田委員と同じ話でして、55ページの内閣府試算とはちょっと違うのですけれども、TFPがずっとフラットで伸びないというシナリオを前回もお願いしたところかと思います。シナリオVIIとして入れるのは位置づけとして難しいかと思いますけれども、リスクケースでのチェックをしていますよということでこういうシナリオも入れたほうが良いと思います。これは10年経過時の段差を解消できるということもありますし、前回の2014年のときもこういうシナリオも試算したらどうかという意見があったと思いますので、私は入れたほうが国民的な理解が得られるのではないかと思います。
 もう一つは、61ページのところです。ベースラインと成長ケースで30パーセンタイル、20パーセンタイルを使い分ける点ですが、使い分けるのだと決めてしまえば、30%、20%ということになるかと思うのですけれども、本当に使い分けなくてはいけないかどうかというあたりが書いていないことから、読み方によってはパーセンタイルを使い分けることが恣意的にも見えるので、もし全体の整合性の中で使い分ける必要がないのであれば、パーセンタイルを一本にそろえるか、ほかの設定と同じようにケースごとで細かく設定するかとしたほうが誤解がないのではないかと思います。
 もし一本にするのであれば、33と13という数字が下にあるので、その間の20パーセンタイルで統一するほうが、今年度2018年度の運用環境が非常に厳しいのではないかという予想も踏まえて考えると、少し厳し目で見たほうが理解を得やすいのではないかという気もいたします。ただ、私はほかのいろいろな数字との整合性を理解せずに言っておりますので、一度ご検討いただいたらと思っています。
 
○植田委員長
 米澤委員、お願いします。
 
○米澤委員
 1点技術的なことで。
 今の御発言のところと関係あるのですけれども、65ページの足元の運用利回りの設定のところです。下に【分散投資による効果の設定】の表があります。足元ですと、御案内のように、名目の長期金利が働いていますので、それに分散投資効果を足してということになるのですけれども、この分散投資効果の足し方が極めて芸術的に足されているので。こうなったならば、名目長期金利を離れて、この足元のほうも61ページのほうで得られた2.3%、1.8%。この数字がいいかどうかという議論はあるかと思いますけれども、この2.3%、1.8%ということが合意されたならば、もう足元10年もこのパーセントでフラットでいったほうが良いのではないだろうかと思っております。
 以上です。
 
○植田委員長
 2028年までずっといってということですね。
 
○米澤委員
 ずっと100年フラットということですね。
 
○玉木委員
 分析自体というよりは、その打ち出し方、説明の仕方について1つコメントを申し上げます。
 きょうもいろいろな先生方から労働生産性、全要素生産性の置き方について、高齢化するとか、着眼点をおっしゃっていただいて、議論も豊かになっていると思うのです。加えて、例えば、典型的には、ごく最近出てきたマクロスライドの調整率が昔想定していたのより随分小さくなってございます。これは、思いのほか労働参加が進んだ結果ではないでしょうか。このように、割と安定的だろうと思ったものが意外と動いてしまうというのが我々の経験です。
 そうなると、この全要素生産性について、一生懸命、足元はこういう理由でこうなっているのだということを固めた上で、将来に向かって何か設定をしていくとなってくると、予測しているようにも見えてしまう面が出てくるのがちょっと嫌なところでございます。我々はあくまでプロジェクションをしているのであって、そもそも完全な演繹をやっているのではないわけです。目配りをしているという発信は絶対に必要だろうと思います。したがって、高齢化すると、私は今60代ですけれども、60代の人間がちゃんと勉強しないと、あるいは柔軟な発想で労働市場に参加していかないとだめだというメッセージは大変大事なところだと思うのです。ただ、それが例えば何パーセントいくのかといったところまでは今だとまだわからないと思いますので、「これはプロジェクションである」といったことをわかりやすく打ち出しながらまとめていただきたいと思うところでございます。
 以上です。
 
○植田委員長
 割とすぐ分析の資料を追加すれば済むような御指摘もあったと思いますが、難しい点としては、シナリオのつくり方のところに我々なりのストーリーとか、さまざまな方々の分析の結果、あるいは理論的な考え方をある程度反映させるかどうかということだと思うのです。考えてみますと、非常に望ましいけれども、非常に難しいです。
 例えば、人口成長率と全要素生産性の関係、高齢化と生産性についても、先ほど人口成長率が減れば、頑張って技術進歩率を上げようという動きもあるということを申し上げたわけです。ことし日本がG20の議長国ですが、1月に行われたその準備段階の会合では、やはり今の点が議論になっていまして、逆に、素直にデータを見ると、両者にプラスの相関、つまり、人口成長率も下がっていく中で技術進歩率も下がっているという相関はかなりはっきり見られるという指摘もありまして、どういうふうな組み合わせをというのは非常に難しい問題かと思います。ほかの観点についても同じだと思います。
 時間もあるようですし、何かその辺、こうすべきだとか、もう少し突っ込んだ御意見がおありでしたら。あるいは、こういうこともしてみたらとか。
 どうぞ。
 
○小黒委員
 繰り返しになるのですけれども、玉木先生がおっしゃられているように、将来を完全に予測するのは非常に難しいので、我々が持っているデータは、現在と過去TFPがどうだったかということ。先ほどのTFPの分布のグラフとか物価上昇率の分布のグラフとかも幾つかに分かれて載っていますけれども、シナリオをきちっと明示して、このケースは、このシナリオで物価上昇率はこれぐらい、賃金上昇率はこれぐらいで、利回りがこれぐらいになっていると。そういうものが過去の分布の中のどの辺に位置づけられているのかを示すことが重要に思います。
 先ほどのTFPでいえば、27ページの下側に、ケースIはこれぐらいの場所にあって、ケースIIはこれぐらいの分布の位置にあるのだというのが書いてあるので、それを国民に見ていただいて、シナリオの適正性について判断していただくというのが比較的わかりやすいのかなと。そこを踏み込んで、どのシナリオがどうなのかということについては、植田先生がおっしゃられているように、いろいろな話があって難しいと思いますので、前回はなかったような分布の資料を本体の資料に入れ込んで提示するというのも1つのやり方としてはあるのかなと考えます。
 その分布を見たときに、この辺の部分については数字が欠けていると。領域的には、例えば右側が結構カバーされているのに、左がカバーされていないということだと、山田先生がおっしゃられているような部分も多分あるのだと思うのです。なので、そういうところについてちょっと議論してみるというのはあると思います。
 
○植田委員長
 それは、1つの変数ないしパラメータの分布を見るというのでなくて、複数のパラメータの相関のところを見て、この辺に固まりがあるというような話ですか。
 
○小黒委員
 そうです。資料としては、幾つかの重要パラメータの分布があって、あと、先生がおっしゃられたような相関の場所のポイントも見ていくことになると思うのです。
 
○植田委員長
 今の点でもほかの点でも結構ですので。
 小野委員。
 
○小野委員
 私は経済理論の話はよくわからないのですけれども、この財政検証に関する私の理解としては、基本的にはプロジェクションというふうに玉木先生がおっしゃられましたとおりで、今の御議論の中で、将来というのは実際に予測しにいくことになってもなかなか難しい面があるので、これは5年に一度、過去の実績をしっかり踏まえて洗い直すことをやって、それを漸進的にやっていくことに財政検証の意義があるのだと思っております。細かい点はあるかもしれないのですけれども、全体の方針としてはこういうことなのかと思います。
 もう一点、資料1の60ページ、先ほどのパーセンタイル値の話です。国内債券を上回る収益率というのがありまして、ここで正確には先ほどの評価とはつながらないとは思うのですけれども、30パーセンタイル値のところをごらんいただくと、10年移動平均で0.34%ぐらいという形になっております。その意味では、前回とか前々回、国内債券というか長期金利を上回る分散投資効果というのは0.3とか0.4という数字だった思うので、この辺の水準感からしても、こんなところかなというふうな感じを持っております。
 
○植田委員長
 ほかによろしいですか。
 御意見等がないようでしたら、時間はちょっと早いですが、きょうはここまでとさせていただきます。できれば次回、取りまとめに進みたいと思いますが、きょう出た議論をどれくらい踏まえられるか、事務局とちょっと検討させていただきつつ、次回、資料を準備させていただければと思います。
 
○駒村委員
 委員長、1つだけ。
 
○植田委員長
 どうぞ。
 
○駒村委員
 労働需給推計の概要しか出ていなくて、詳細が後日ということなのですが、これはどのくらいのタイミングで出るのか、この作業等、どのような進捗になっているのかそこだけ確認させてください。
 
○植田委員長
 お願いします。
 
○佐藤数理調整管理官
 公表時期については未定と聞いておりまして、次回に間に合うかどうかはっきりと申し上げられないところであります。
 
○植田委員長
 間に合うといいなというところですね。
 いかがですか。よろしいですか。
 それでは、今の点はありますが、それ以外につきまして、事務局から次回の開催について御連絡をお願いします。
 
○佐藤数理調整管理官
 次回以降の日程につきましては改めて御連絡申し上げたいと思います。
 
○植田委員長
 それでは、きょうはここまでにさせていただきます。お忙しい中、どうもありがとうございました。