第74回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会議事録

 

 
第74回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会(議事録)
 
1.日時 平成31年3月11日(月) 09:58~11:52
 
2.場所 厚生労働省中央合同庁舎第5号館専用第22会議室(18階)
 
3.出席委員
(公益代表委員)
○東京大学大学院法学政治学研究科教授 荒木 尚志
○東京大学大学院法学政治学研究科教授 岩村 正彦
○京都大学大学院人間・環境学研究科教授 小畑 史子
○読売新聞東京本社編集委員 宮智 泉
○大阪大学大学院高等司法研究科教授 水島 郁子
  
(労働者代表委員)
○全国建設労働組合総連合労働対策部長  田久 悟
○全日本海員組合中央執行委員政策局長 立川  博行
○日本基幹産業労働組合連合会中央執行委員 坪田 英明
○UAゼンセン日本介護クラフトユニオン特任中央執行委員 浜田 紀子
○日本労働組合総連合会総合労働局長 村上 陽子
  
(使用者代表委員)
○一般社団法人日本経済団体連合会労働法制本部統括主幹 明石 祐二
○東京海上日動メディカルサービス株式会社企画部担当部長 砂原 和仁
○鹿島建設株式会社安全環境部長 本多 敦郎
○新日鐵住金株式会社人事労政部部長 山内 幸治
  

4.議題
(1)労災保険制度について
(2)労働者災害補償保険法施行規則等の一部を改正する省令案要綱について(諮問)
(3)労働基準法施行規則の一部を改正する省令案要綱について
(4)複数就業者の労災保険給付の在り方について   
 
5.議 事
○荒木部会長 それでは、ほぼ定刻で、皆様お集まりということですので、ただいまから第74回「労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会」を開催いたします。
本日の委員の出欠状況ですが、公益代表の大前委員、労働者代表の酒向委員、使用者代表の秋田委員、二宮委員が欠席と承っております。出席者は14名でありますが、公益代表、労働者代表、使用者代表、それぞれ3分の1以上の出席がございますので、定足数を満たしていることを御報告いたします。
初めに、開催に当たりまして、事務局から何かあれば、お願いいたします。
○労働基準局長 おはようございます。労働基準局長の坂口でございます。本日は、お忙しいところをお集まりいただきまして、まことにありがとうございます。
皆様には、日ごろから労働基準行政、とりわけ労災保険行政の運営に多大な御理解をいただいておりまして、まことにありがとうございます。厚く御礼を申し上げます。
まず、毎月勤労統計調査の件につきましては、労働者の方、そして事業主の方を初めとしまして、国民の皆様に御迷惑をおかけしておることを改めて深くおわびを申し上げます。
政府といたしましては、毎月勤労統計の不適切な取り扱いにより過少給付となっていた雇用保険、労災保険等につきまして、追加給付を行うため予算案を1月18日に変更し、現在、国会で予算案の審議をしていただいておるところでございます。
また、追加給付の実施につきましては、先月2月4日に公表いたしました雇用保険、労災保険等の追加給付のスケジュールの見通しを示します工程表を公表させていただきましたが、この工程表に基づきまして、速やかな追加給付を行うことができるように現在準備を進めておるところでございます。
また、1月11日の大臣からの公表の後、国民の皆様からの問い合わせに対しましても、問い合わせの専用ダイヤルを開設するなど、国民の皆様からの御照会、御相談にきめ細かく対応するべく対応させていただいておるところでございます。今後もしっかり対応していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
本日は、お手元の議事次第にございますように、4つの議題でございます。このうち、本日諮問させていただきます「労働者災害補償保険法施行規則等の一部を改正する省令案要綱」につきましては、今、申し上げました、毎月勤労統計の不適切な取り扱いに係ります追加給付に必要な省令改正も含まれております。本日、皆様の御意見を伺いたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。私からは以上でございます。
○荒木部会長 それでは、傍聴の皆様のカメラ撮り等はここまでということでお願いします。本日の議題に入ります。第1の議題は「労災保険の追加給付の工程表等について」です。
事務局から説明をお願いします。
○労災管理課長 労災管理課長の田中でございます。恐縮ですが、座らせていただきまして御説明申し上げます。
それでは、お手元の配付資料の資料1-1を御覧いただきたいと思います。これは1月18日に公表している資料でございます。先般1月17日でございますけれども、懇談会を開催させていただきまして、そこで追加給付について御報告を申し上げた次第ですが、その追加給付につきまして予算案の変更を伴うということで、1月18日に公表したということでございます。
資料1-1をおめくりいただきまして、3ページをお願いできればと思います。3ページに、雇用保険、労災保険等の各制度に係る見直しの影響ということで掲げさせていただいております。「労災保険」というところを御覧いただきますと、合計で264億円の影響が出るということでございます。このうち、いわゆる追加給付に係るものにつきましては241億円でございます。年金給付が1人平均9万円、休業補償については1人平均月300円という推計をいたしております。
更に、これは1月17日の懇談会のときには御説明をしておりませんでしたが、この追加給付費につきましては加算額を考えております。この加算額につきましては、下の※の1番目に書いてありますけれども、過去に行われました給付と本来であれば給付されていた金額との差額分が追加給付なのですが、その追加給付が現在価値に見合う金額となるように金額をプラスしていく。こういった考え方で加算額を考えております。これが14億円でございます。それから、事務費として9億円を予定しておりますが、そのうち31年度予算案としては6億円を計上してございます。このようなことで、労災保険については合計で264億円の影響が出るということで発表させていただいております。
続きまして、資料1-2を御覧いただきたいと思います。2月4日にいわゆる工程表を公表させていただいております。雇用保険、労災保険等の追加給付につきましてはできる限り速やかに開始していくことを予定しているところでございますけれども、その2月4日時点でのスケジュールを広くお知らせしたというのがこの公表資料でございます。
3枚目に「追加給付のスケジュール」という横書きのものがございます。これに、雇用保険、労災保険、船員保険につきまして、どのタイミングでお知らせを開始するか、あるいはどのタイミングでお支払いを開始するかということを掲げさせていただいております。
追加給付につきましては、今回御議論いただきますように、まず、省令改正でありますとか告示の改正が必要になります。それに従いまして再計算をいたしまして、その数字に基づいて再計算をする必要があるのですが、そのためにはシステム改修の必要性があるということでございます。また、住所の再確認をしなければいけないといった方々もいらっしゃいます。したがいまして、お支払いのタイミングがずれている状況になっておりますが、我々といたしましては、速やかに実施をしていくという観点でこのようにまとめております。
労災保険について御覧いただきますと、まずは「お知らせ開始時期」と「お支払い開始時期」がございます。その中で「将来分」と書かせていただいておりますのは、今後、将来にわたって給付するものにつきまして、正しいといいますか、告示等を改正しまして改正後の給付額で支給していく。こういったものを「将来分」と呼んでおります。下のほうに書いておりますけれども、「今後支払われる給付について、改定した額でのお支払い」というものでございます。「過去分」というのは、いわゆる追加給付ということですけれども、過去に受けた給付について追加分をお支払いしていくといったものでございます。
労災保険につきましては、将来分につきましては4月から対応していくことを考えております。したがいまして、年金につきましては4月・5月分、2カ月分をまとめてお支払いしておりますので、将来分については6月から改定後の金額でお支払いをしていく。それから、過去分につきましては、一部、支給調整が必要な方などを除いてですけれども、これらの方につきましては、6月から支給をする、支給調整が必要な方などにつきましては10月からということで考えております。
それから、休業補償につきましては、将来分につきましては年金と一緒ですけれども、4月分から改定後の金額でお支払いをしていくということでございます。過去分につきましては7月から、一部、支給調整が必要な方については8月からということを考えております。
そして、過去に給付を受けていた方につきましては、例えば、住所の把握等はしておるのですけれども、再確認をするという作業が必要になるということもございます。こういったことから、労災保険の年金につきましては10月ごろからお支払いを開始する、休業補償については9月ごろからと。一部の方は12月ごろとなっておりますが、今、システム上でデータ管理を行っておるのですけれども、休業(補償)給付の方で古いデータの方については、今、システム外でデータを保管しておりますので、それを現システムに移す作業があるということで、少しおくれるという状況になっております。
いずれにいたしましても、今年中にはしっかりお支払いを開始したいということでスケジュールを組ませていただいておるところでございます。詳しいスケジュールにつきましては、次の4ページ、5ページで色刷りになっておりますけれども、お示しさせていただいているということでございます。参考1-1、参考1-2につきましては、1月17日の懇談会で御説明をさせていただいた資料でございます。議題の(1)につきましては、説明は以上でございます。よろしくお願いいたします。
○荒木部会長 ありがとうございました。それでは、ただいまの事務局からの説明につきまして、御意見、御質問等がありましたら、お願いいたします。坪田委員。
○坪田委員 基幹労連の坪田です。今回の毎月勤労統計システム改修について少し申し上げたいと思います。
今回の改修作業の発注については厚生労働省がされるということで、十分な配慮がされると思っておりますが、事務費を抑えつつ迅速な給付を急ぐということは理解している一方が、今回のシステム改修を受注した企業に対しまして、短い納期や低価格発注などで現場改修の作業に当たるエンジニアの方々が、長時間労働や過重労働を強いられないよう、適切な対応をお願いしたいと思います。以上です。
○荒木部会長 ありがとうございました。では、事務局からお願いします。
○労災管理課長 御指摘につきましては非常に重要なことだと思っております。そのようなことがないように我々としても十分留意したいと思っております。ありがとうございます。
○荒木部会長 ほかにはいかがでしょうか。特段よろしいでしょうか。この案件は報告事項ということですので、特段御意見がなければ、承ったということで先に進みたいと思います。
次の議題ですが、第2の議題「労働者災害補償保険法施行規則等の一部を改正する省令案要綱について」です。これは諮問案件となります。では、事務局から説明をお願いします。
○労災管理課長 労災管理課長でございます。それでは、資料2に基づきまして御説明を申し上げます。
資料2でございますが、諮問事項でございます。最初に縦書きの諮問文を資料として配らせていただいておりますけれども、内容につきましては、参考2-1に基づきまして、この改正案の概要につきまして御説明を申し上げたいと思っております。
今回諮問いたします改正事項ですが、大きく分けると3つでございます。そのうちの1つ目が追加給付に係る改正でございます。
今般の毎勤調査におきまして、全数調査するとしていたところを一部抽出調査であったことによりまして、スライド率でありますとか、我々で言えば年金のスライド率、それから最低保障額が低くなっていた場合があったということでございます。過少給付であった方につきましては、その差額に相当する分などを追加給付として支給することを考えております。
その追加給付の支給額の算定に当たりまして、今年の1月に公表いたしました再集計値、これは平成24年以降の毎月勤労統計調査の数字を統計的に復元した数値でございますが、再集計値。それから、平成16年から23年までの数値を考えておるのですけれども、給付のための推計値。これは毎月勤労統計調査の数値を基礎として計算した数値でございます。この再集計値と給付のための推計値を、スライド率を計算する根拠となるように所要の改正を行うというのが改正の趣旨でございます。
「改正の内容」というところでございますが、まず1つ目が「スライド率等の算定方法」でございます。先ほど御説明申し上げましたように、スライド率の算定に当たりまして、保険給付等の給付基礎日額の算定に用いる毎月勤労統計の平均定期給与額と同様に、再集計値であるとか、毎月勤労統計を基礎として作成をいたしました給付のための推計値を用いることができるようにする、このような改正を考えております。
2番目としまして「追加給付の支給等」でございます。毎月勤労統計の給付のための推計値、それから再集計値を用いて再計算した給付額が再計算前の給付額を上回る場合、その差額に、先ほど御説明いたしました加算額を加えた額を保険給付等として支給するというような改正を考えております。
また、追加給付の額の計算につきましては、支給すべき事由の異なる保険給付等の種類ごとに行う。例えば、休業(補償)給付をもらわれていた方と遺族年金をもらわれていた方がいらっしゃった場合には別々に計算する。こういったものを改正事項として考えております。以上が1番目の追加給付に係る改正の内容でございます。
2番目は、追加給付とは直接関係はございませんが、介護(補償)給付、介護料の額の引き上げでございます。介護(補償)給付の最高限度額と最低保障額につきましては毎年改定をしております。改定をする際は、現行額に人事院勧告に基づく国家公務員給与のベア率の変動を乗じて見直しをしているのですけれども、昨年、実態を調べましたところ、現状に少し合っていないのではないかということがございまして、今回見直しを行うということでございます。これにつきましては少し詳しくお話をいたしたいと思います。
参考2-2「平成31年度介護(補償)給付・介護料の最高限度額・最低保障額の改定について」という資料を御覧いただきたいと思います。ページをおめくりいただきまして、2ページ目「介護(補償)給付の概要」のところを御覧いただければと思います。介護(補償)給付は、平成7年に保険給付として創設したものでございます。被災労働者の方が労働災害の結果、いわゆる要介護状態になったといった場合に、介護にかかる費用を塡補するといった目的で創設しております。
<支給要件>というところですけれども、常時介護を要する方と随時介護を要する方ということで、障害の程度に応じまして常時介護、随時介護ということで月額の上限額も変わってくる、あるいは下限額も変わってくるということでございます。
それから、支給要件は、2番目、3番目、4番目とありますけれども、現に介護を受けていること、病院や診療所には入院していないこと、老人保健施設などに入所していないことでございまして、主に在宅で介護を受けていらっしゃるこういった方々に給付するという対応になっております。
ページを戻っていただきまして、1ページ目<改正の趣旨>というところでございます。※の2番目に書いてございますけれども、これまで最高限度額につきましては、もともとのベースになっておりましたのが、臨時職員を採用する際の政府統一単価を参考にしていたということでございます。また、最低保障額につきましては、当時の女子パート労働者の平均賃金を参考に算定をしていたということでございます。これらで算定した額につきまして、毎年、人事院勧告のベア率の変動に応じて見直しをしてきたというのがこれまでの状況でございます。
<改正の趣旨>の最初のところに書いておりますけれども、29年度に介護(補償)給付に関する状況調査を行いました。その中で、現在の最高限度額などでは介護費用を賄えない方が相当数存在していることが明らかになったということでございます。今回、こういったことも踏まえまして、最高限度額につきましては要介護度の高い方を介護している方をベースにということで、特別養護老人ホームの介護職員の平均基本給を参考にして計算をしたということでございます。
それから、最低保障額につきましては、最低賃金の全国加重平均を参考に計算したということでございます。これらをもとに計算しましたところ、下のほうに書かれておりますけれども、常時介護を要する方であれば、最高限度額が月額10万5000円ほどから16万5000円ほどということで伸びております。最低保障額につきましては、5万7190円といったものが7万790円ということでふえているという状況でございます。
随時介護の方については、常時介護の方の半額ということでこれまでも設定いたしておりますので、それぞれ常時介護を要する方の2分の1ということで設定いたしております。
それから、炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法に基づく介護料というのは、経過措置で残っている社会復帰促進等事業ですが、これも本体の給付にあわせて見直しを行うことを考えているところでございます。
今回の諮問事項の2番目の介護(補償)給付・介護料の見直しにつきましては、以上でございます。
ちょっと戻っていただきまして、参考資料の2-1の2ページ目「時間外労働等改善助成金の規定の整理」というところでございます。これが諮問事項の3番目でございます。「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」によりまして、労働時間等設定改善法の中でインターバルについても規定が設けられておるのですが、労災則の中にもその規定を引用するということでございます。規定ぶりの統一ということですので、内容に何か変更があるということではありません。規定の内容を明確化したという改正になっております。
以上の改正事項につきまして、ことしの4月1日施行を考えているところでございます。
諮問についての御説明は以上でございます。よろしくお願いいたします。
○荒木部会長 ありがとうございました。
それでは、ただいま諮問のありました件について、御意見、御質問等がありましたら、お願いいたします。砂原委員。
○砂原委員 御説明ありがとうございました。私、ちょっとわからないので確認なのですが、介護(補償)給付は定額で給付されるものなのでしょうか。例えば40歳を超える人であれば、まあ、もうちょっと後かな、介護保険等から、もしくは障害の給付等を受ける場合もあると思うのですけれども、それとは関係なくこの金額は定額で払われるものなのですか。
○労災管理課長 介護(補償)給付でございますけれども、先ほどの要件を満たした方については、先ほどの最高限度額までは介護費が支給されるということですが、それを超えるものにつきましては、介護保険で措置をすることになろうかと思います。定額というのは、御自宅で御家族だけで介護されているという方であれば、その方々については、最低保障額が定額として給付されるということですけれども、そうではない場合については実費が給付されるということになっております。
○砂原委員 ありがとうございます。そういうことでした。ちょっと勘違いでした。すみませんでした。
○荒木部会長 明石委員。
○明石委員 質問です。参考2-2の表の下のほうに「常時介護を要する者」とか「随時介護を要する者」、それから、右のほうに「炭鉱災害」というのがありますけれども、それぞれ人数がどれぐらいで、どれぐらい増額になるのか、概数で結構なので教えてください。
○労災管理課長 すみません。手元にそれぞれのものがなくて、本体のほうの介護(補償)給付につきましては年間約5万件でございます。それから、経過措置のほうですけれども、これは28年度で見ると17件ということでどんどん減っている状況です。
細かいところは、今、手元にないのですけれども、常時介護を要する方のほうが随時介護を要する方よりも人数的には多いという状況になっております。合計しますと、先ほど申し上げましたように年間5万件ということでございます。
○明石委員 内訳は。
○労災管理課長 すみません。また調べて御報告したいと思います。
○荒木部会長 よろしゅうございますか。それでは、後ほど調べて御回答いただきたいと思います。浜田委員。
○浜田委員 同じ介護給付についての質問と、1つ意見です。現行の給付額では介護費用が賄えない方々が相当いるという認識があるということですが、いつからこの給付額が最賃を下回っていたのか、余りにも低過ぎるということにいつ気づかれたのか。また、そういう調査はいつくらいからされていて、いつぐらいのものが低過ぎるという認識になっているのかをお聞きしたいというのが1点です。
その上で、仮にこの最賃の全国加重平均額に引き上げたとしても、例えばAランクの東京など金額の上位の地域から見れば、依然としてこの地域の最賃額を下回ることになりますので、給付額を最賃以上としたということは理解できるのですが、加重平均で本当にいいのか、これがベストなのかというのは少し疑問が残るという意見が1点です。以上です。
○荒木部会長 事務局からお願いします。
○労災管理課長 この介護給付に係る調査ですけれども、毎年やっているということではなくて、平成29年に初めて行ったということでございます。そのときに調査の結果を見て、これは少し改善しなければいけないということで、31年度の予算要求に反映させたということでございます。
それから、算定のベースとして、最低賃金の加重平均を使ったということでございます。いわゆる最低額を出すための基準をどうしようかというときにベースとして使ったということですので、必ずしもこれで最低賃金よりも下回るものを給付するとかいう意図ではないのですけれども、目安として全国加重平均を使わせていただいたということでございます。
いずれにしましても、この金額につきましては、もしここで御了承いただけましたら、今後施行してみて、どのような問題があるかということについてはまた考えていきたいと思っております。
○荒木部会長 よろしいでしょうか。砂原委員。
○砂原委員 今のに関連するのですけれども、先ほどお聞きしようかと思っていたのは、値上げをする、必要なものを上げるというのは、当然必要だからやればいいと思うのですが、一方で、余り上げてしまうと、家族介護を推奨するようなことになるのもいかがなものかと思ったりもしたものですから。外のサービスを使わなくて家族介護にしておけばいいよといって家族が疲弊していくことになるのもまた違うのかなとちょっと思ったので、先ほどの話をお聞きしようかなと思っていたというのもありました。以上です。
○荒木部会長 この点はいかがですか。
○労災管理課長 我々としては、家族介護でやってくださいというメッセージを出すということではないのです。やはり御家族だけで介護されるというのは大変なことだということ。もともとの発想が、もし御家族だけで介護することになれば、その分、就労できない。その分をどうやって塡補したらいいかというのをベースに計算をするという考え方でした。そういった意味では、今まで少しずつしか見直していなかったので、十分な引き上げがなされていなかったのではないかということで、今回見直させていただいたということでございます。家族介護を推奨するということでは特にありませんので、よろしくお願いします。
○荒木部会長 山内委員。
○山内委員 この改定自体、非常にいいことではないかと思うのですが、質問です。
相当程度存在するというところから今回見直しをかけられた結果、どれぐらいカバーできるというふうに想定されているのかというのが1つ。
2つ目は、今後のベア改定の考え方。すみません、あったのかもしれませんが、ここが理解できていませんでしたので、ここを1点教えてください。
○労災管理課長 どれぐらい影響があるかということですが、状況調査につきまして、参考資料の2-2の3ページ以降に掲げさせていただいております。
4ページを御覧いただきますと、介護に要する費用は月額どれぐらいでしょうかというのをお聞きしているものがございます。例えば常時介護の方であれば、右側になりますけれども、10万円~20万円程度以上の方につきましては今の最高限度額を上回る費用がかかっているということでございます。大体4割ぐらいいらっしゃるわけです。今回、そこを引き上げることになりますので、ざっくり言うと、4割ぐらいの方々の中の4分の1から3分の1ぐらいはカバーできるようになるのではないかと考えております。これもまた施行状況を十分見て状況を把握したいと思っております。
それから、ベア率の関係です。これは、毎年、最高限度額、それから最低保障額についてベア率を掛けてきたということになります。今回このような見直しを行って、来年どうするかということですけれども、来年どのように考えていくかということについては、やはりベア率を掛けていくというのはちょっとそぐわないのかなと思っておりますので、どのように見直していくかということを含めて31年度にしっかり考えていきたいと思っているところでございます。
○荒木部会長 よろしいですか。ほかにはいかがでしょうか。
御質問等ありましたけれども、諮問案件について、特段異論がないということであれば、当部会としては妥当と認め、労働条件分科会長宛てに報告することとしたいと考えますが、よろしいでしょうか。
(首肯する委員あり)
○荒木部会長 ありがとうございます。それでは、そのようにいたします。
事務局に報告案を用意してもらっておりますので、まず、これを配付し、読み上げてもらうことといたします。よろしくお願いします。
(報告案配付)
○労災管理課長 それでは、読み上げさせていただきます。
「労働者災害補償保険法施行規則等の一部を改正する省令案要綱」について
平成31年3月11日付け厚生労働省発基0311第2号をもって労働政策審議会に諮問のあった標記については、本部会は、審議の結果、下記のとおり結論を得たので報告する。

厚生労働省案は、妥当と認める。
以上でございます。
これは、前回、諮問事項を御説明したときに申し上げましたが、労働条件分科会運営規程第7条におきまして、労災保険部会の議決をもって労働条件分科会の議決とするということになっております。このことから、御承認をいただけましたら、この報告は実質的には労働政策審議会会長への報告となりまして、この内容で労働政策審議会会長から厚生労働大臣宛てに答申をされることになるところでございます。
以上でございます。よろしくお願いします。
○荒木部会長 ただいま配付して読み上げられた内容で労働政策審議会長宛てに報告し、この報告のとおりで厚生労働大臣宛てに答申を行うことにしたいと考えますが、よろしいでしょうか。
(首肯する委員あり)
○荒木部会長 ありがとうございました。それでは、そのように取り計らうことといたします。では、次の議題に移ります。
第3の議題ですが、「労働基準法施行規則の一部を改正する省令案要綱について」です。この議題は、前回、厚生労働大臣から労働政策審議会会長宛てに諮問された案件であります。
では、事務局から説明をお願いします。
○労災管理課長 それでは、資料3に基づいて御説明申し上げます。これは12月7日に諮問をいたしました事項でございます。ページをおめくりいただきますと、縦書きの文になっておりますけれども、内容といたしましては「労働基準法施行規則別表第1の2に掲げる業務上の疾病に、オルト-トルイジンにさらされる業務による膀胱がんを追加するものとすること」でございます。施行日は公布の日からでございます。
これにつきましては、12月に御意見をいただきまして、更に、2月4日になりますが、労働基準法第113条の規定によります公聴会におきまして御意見を承ったということでございます。
参考3-1でございます。2月4日に公述人の3人の方から御意見をいただいたということでございます。内容につきましては、2ページ目から4ページ目でございますが、いずれの公述人の方におかれましても、この改正の内容は妥当なものである、あるいは了承したという御意見を賜ったということでございます。
参考3-2以下は12月の審議会でもお示しした参考資料でございます。
議題の(3)につきましては、以上でございます。よろしくお願いいたします。
○荒木部会長 ありがとうございました。ただいまの事務局からの説明について、御意見、御質問等がありましたら、お願いいたします。特によろしいでしょうか。
それでは、特段御意見がないということですので、諮問のあった件につきまして、当分科会としましては妥当と認め、労働条件分科会長宛てに報告をすることとしたいと思いますが、よろしいでしょうか。
(首肯する委員あり)
○荒木部会長 ありがとうございます。
では、事務局に報告案を用意してもらっておりますので、まず、これを配付して、読み上げてもらうことにいたします。
(報告案配付)
○労災管理課長 それでは、読み上げさせていただきます。
「労働基準法施行規則の一部を改正する省令案要綱」について
平成30年12月7日付け厚生労働省発基1207第3号をもって労働政策審議会に諮問のあった標記については、本部会は、審議の結果、下記のとおり結論を得たので報告する。

厚生労働省案は、妥当と認める。
以上でございます。よろしくお願いいたします。
○荒木部会長 ただいま配付して読み上げられた内容で労働政策審議会長宛てに報告し、この報告のとおりで厚生労働大臣宛てに答申を行うこととしたいと考えますが、よろしいでしょうか。
(首肯する委員あり)
○荒木部会長 ありがとうございます。それでは、そのように取り計らうことといたします。
それでは、次の議題となります。第4の議題は「複数就業者の労災保険給付の在り方について」です。これについても事務局から説明をお願いします。
○労災管理課長 それでは、資料4に基づきまして御説明を申し上げます。
資料4といたしまして「複数就業者への労災保険給付について~給付額に係る論点①~」を掲げさせていただいております。
ページをおめくりいただきまして1ページ目でございます。今回、論点を整理するに当たりまして、まず前提条件として、この議題につきましては、複数就業者についてどの就業先の業務が原因で災害が発生したか明確である、そして、災害補償責任を負う主体も明確であるといった場合に、どのような論点があるかというのをまずは整理しようということで掲げさせていただいております。
なお、下の※に書いておりますけれども、業務上の負荷の合算に係る論点、その場合の給付額に係る論点も含めてですけれども、それにつきましてはまた次回以降に御議論をいただきたいと考えております。今回の論点としては、まず前提条件として、どの就業先の業務が原因かがはっきりしている場合について御議論をいただきたいと思っております。
「現行制度」というところに書かせていただいておりますが、現行制度につきましては、実際に災害が発生した事業場での賃金をもとに給付額を算定している、こういった取り扱いとなっているところでございます。
2ページ目でございますが、「賃金額を合算して給付することについて」ということで論点を掲げております。先ほど申し上げましたように、<現行制度>としては、就業先Bというのは実際に労災が発生した事業場ですけれども、就業先Bでの賃金のみを基本に算定をする給付基礎日額等により給付額を決定してございます。
保険料につきましては、それぞれの使用者が労働者に支払う賃金総額に基づき払っている。このような状況になっているところでございます。
論点として2つ掲げさせていただいておりますが、1つ目が給付の水準でございます。下の具体例を御覧いただきますと、例えば、複数就業者の方が月に20万円という収入を得ていると。就業先Aでは15万円、就業先Bでは5万円。これはこれまでも具体例として掲げさせていただいておりますけれども、就業先Bで事故に遭った場合には、就業先Bのこの月5万円を算定基礎として休業補償等が計算されるという状況になっております。
このような状況でございますけれども、労災保険の目的である稼得能力あるいは被扶養者利益の喪失の塡補。これはお亡くなりになった場合を想定していますが、稼得能力や被扶養者利益の喪失の塡補を十分果たしているのかというところが論点になろうかと思います。
一方で、保険料の負担という観点から見ますと、被災労働者の立場から見ますと、就業先Aでも就業先Bにおきましても、この被災労働者の保険料が支払われているという状況になっております。就業先Aというのは、今回、災害が発生しなかった事業場ですけれども、就業先Bで業務災害が発生して、これにより就業先Aでも休業せざるを得なくなった、あるいはお亡くなりになった場合に、就業先Aから支払われている保険料に基づいた保険給付が行われていないことについてどう考えるかということを2つ目の論点として掲げさせていただいております。
3ページ目からですけれども、算定する際に平均賃金を合算した場合にどういうことになるかということを書かせていただいております。合算する場合、その保険料負担のあり方についてどう考えるかということでございます。現行制度におきましては業種ごとに災害率等に応じて保険率は下がる。それから、メリット制というものがございますので、個別事業場の災害の多寡に応じて保険料率が増減されるという状況になっております。
論点といたしましては3つほど掲げておりますけれども、上2つが個別事業場についての保険料負担のあり方でございます。
まず1つ目としましては、災害が実際に発生していない就業先Aについてでございます。ここで就業先Aの保険料率の算定に当たりまして、就業先Aでの賃金を基礎とした保険給付分を、業種ごとの保険料負担でありますとか、メリット収支率の算定の基礎とするということは、災害が発生していないことが明確であるということから考えると、やはり不適当ではないかということで論点として掲げさせていただいております。
一方で、災害が発生した就業先Bの保険率の算定に当たってです。この場合は、実際に災害が発生しているという観点から、就業先Bでの賃金を基礎とした保険給付分を業種ごとの保険料負担あるいはメリット収支率の算定の基礎とする、現在このように取り扱っておるわけですけれども、就業先Aでの賃金を基礎とした保険給付分までを算定の基礎に入れるかということを考えますと、ここまで行くと責任を超えている分ではないかということから、不適当ではないかということで掲げさせていただいております。
そうなりましたら、就業先Aでの賃金を基礎とした保険給付についてマクロ的にどういうふうに負担をしていくかということになるわけですけれども、これについては、例えば、非業務災害分として全業種一律の負担とするといったことも考えられるのではないかということで、論点の3つ目として掲げさせていただいております。
次のページでございます。3つ目の大きな論点は「合算する場合の労働基準法に基づく災害補償責任について」でございます。
現行では、休業3日目までの補償につきましては、労災保険法ではなくて、労働基準法に基づいて使用者の災害補償責任の一環として給付を行っていただいているということでございます。これは休業給付についてということでございます。
この論点といたしましては、災害が発生していない就業先Aにつきまして、労働基準法に基づく災害補償責任を負わせるのかどうかというところですけれども、やはりここは負っていないのではないかと。休業3日目までにつきましても、現行制度から変更する必要はないのではないかというのを論点として掲げさせていただいております。
5ページ目になりますが、合算する場合に現実問題としてどうやって賃金額を把握するかということでございます。災害が起こった就業先Bにつきましては、当然、いろいろ証明を求めることになります。就業先Aの賃金額につきましては、まずは自己申告をしていただくことになろうかと思いますけれども、それを証明するものを就業先Aからもいただくようになるのかということが論点の2番目でございます。事業主さんからの何らかの証明等を求めないと、自己申告だけだとさすがにチェックできないかなということで掲げさせていただいております。今回の論点につきましては以上のとおりでございます。
繰り返しになりますけれども、業務上の負荷の合算に係る論点などにつきましてはまた次回以降ということで御提示させていただければと思っております。事務方からの説明は以上でございます。よろしくお願いいたします。
○荒木部会長 ありがとうございました。それでは、ただいまの説明につきまして、何か御意見、御質問等があれば、お願いします。砂原委員。
○砂原委員 御説明ありがとうございました。説明いただいた内容はよくわかったのですけれども、前段というか、ちょっと意見を申し上げたいと思います。
政府の進める働き方改革に反対するものではありませんが、労災保険は労働者が労働災害を被ったことで発生する損害で事業主が負担するべきものを補償することが基本だとすると、今後ちょっと逸脱するような形になっていくのかなと思いました。そういう意味で、この資料の最後のほうにドイツの話も書いてありましたけれども、事業者の賠償責任とリンクしない方向にするのかとか、そういうものも含めて制度をどのように改正していくのかというのを根本的に見直すことが必要なのだと思います。
例示いただいたようなA、Bという2つの会社でという話になると、事業者の災害補償責任という話と不整合が起こるので、きちんと整理して、議論を深めたいと思った次第です。過去いろいろな論議がされています。今回の資料では大量になるため省略されている部分もあると思いますけれど、今日的に振り返って、もう一回課題を洗い直して議論することが必要なのではないかと感じましたので、そういう部分をきちんと進めていただければと思いました。意見として申し上げます。以上です。
○荒木部会長 ありがとうございました。それでは、明石委員。
○明石委員 議論をする前に1点懸念があるのです。新聞報道等で、たしか今、司法裁判でこの例が挙がっていると思うのですが、我々、司法に対して何らチャレンジができるわけではないので、ここの公開の場で、我々、名前も発言もさらしたままでそういうことを認めるとちょっと不安を覚えるというか、そういうところがあるのですけれども、何か担保していただくような方法を考えていただけないでしょうか。
○荒木部会長 御趣旨をもう少し説明していただけますでしょうか。
○明石委員 今、同じような内容で、たしか大阪地裁ですか、この副業・兼業の件が裁判になっている。我々、司法に何も言うことはできない話で、逆に、司法からここの議論が使われる可能性があるのではないかと思っているのです。その場合に、我々、名前も発言もさらされるわけなので、その裁判をやっている方に対して何らか意味を持たせるのは我々としては避けるべきではないかと考えるのですが。
○荒木部会長 ということですが、事務局からいかがですか。
○労災管理課長 すみません。これは一般論ですけれども、審議会の議論が司法の場で引用されるということは余り考えにくいところです。結論が出てしまうとまた話は別だと思うのですけれども、議論自体が引用されるということは余り考えられないかなと思います。これはあくまでも議論の場でありますので、これでクローズにするとかというのはなかなか難しいのかなとは思ってはいるのです。
○岩村委員 ちょっとよろしいですか。
○荒木部会長 岩村委員。
○岩村委員 私も明石委員のおっしゃっていることの趣旨がいまひとつ理解できていないのです。今、大阪のほうで訴訟が起きているということ自体、私は承知していませんけれども、それはあくまでも現行法上で起きた問題だろうと思います。今ここで我々が議論しようとしているのは、現行法の問題ではなくて、今後、複数就業者の業務災害の場合の制度設計をどうしましょうかというお話だと理解しています。ですので、法律事項になるのか、政省令事項になるのか、あるいは実務上の通達等による運用になるのか、その辺はよくわかりません。これからの議論だと思います。いずれにしても、現行法上どこまでが認められるかという話をここの場でしようというのではなくて、今後の法改正その他も全部含めてどうしましょうかという話なのです。
したがいまして、明石委員が御懸念されるような使側の先生方の御発言が裁判上どういう影響を及ぼすかということは余りお考えいただかなくてもよろしいのではないかと思います。あくまでもそれはこれからどうしますかという話であって、現行法上、使側としてはどう考えるというお話ではないという前提だと思います。そこはきちっとはっきりとさせた形でこの部会の場で御発言をいただければよろしいのではないかと思うところではございます。
○荒木部会長 明石委員、どうぞ。
○明石委員 先生が言われた件はよくわかりますけれども、多少なりとも影響を与えることについてはどうしても不安が拭えないところがあるのです。今の課長の発言でも「余り考えられない」とおっしゃいましたけれども、「余り」では困るのではないかと思っています。
○荒木部会長 村上委員。
○村上委員 ありがとうございます。私も一般論しか述べられないのですが、訴訟は山ほど起こっておりまして、それはこのような問題だけではなくて、残業代の未払いの問題であるとか、労働契約法の20条をめぐる裁判であるとか、さまざま問題が起こっています。一方で、並行して、問題をどう解決していくのかということで、裁判とは別に、立法府で議論していただくための議論を労働政策審議会で行っているということであって、そこは切り分けて一般論として考えていくのが普通ではないかと思っております。この案件だけ特段取り出して何か措置が必要だという話では必ずしもないのではないかという印象を持っております。
○荒木部会長 ほかにはいかがでしょうか。立川委員。
○立川委員 今の論議からちょっと変わってしまいますけれども、なかなか結論が出ない話で、私がこう言ったから、ということではないと思いますが、論議を進める観点から少し別の話をしていきたいと思います。
この複数就業者の扱いについては、昨年から、稼得能力の問題を含めて、複数就業者の保護のあり方についての目安ができているわけですが、今回、具体的な、1つ前提として話が出たものについて論議がされたということが言えるのではないかと思うのです。ただ、1つ示されたということだけであって、これから労働者としては、ここにも書かれておりますが、業務上の負荷の論点も出てくるわけですから、この辺もしっかり論議していただいて、意見交換を進めていただければと思っています。そのためには、今後どういう形で会議が進められるか、審議が進められるかわかりませんが、時間をしっかりとっていただいて、実のある論議をしていくことが、今、明石委員から出た1つの回答になっていくのかならないのかわかりませんが、そういった論議をしていくことが必要だと思っているところです。
また一方で、複数就業者に関する検討というのはこの部会以外にもされているのではないかと思いますが、そこでそのような論議が出ているのか出ていないのか、また、どのように議論が進められているのか、あわせて、方向性をどのように持っているのかということも、ここで事務局から御報告いただけると、また別の論議が出てくるということも考えられると思います。それらの動向も含めて、今、もし報告ができることがあれば報告していただくと、今後、実のある会議が進められるのではないかと思います。よろしくお願いします。以上です。
○荒木部会長 ほかにはいかがでしょうか。本多委員。
○本多委員 本件に関しましては71回の部会でも数点ほど問題提起をさせていただきました。それらも踏まえて、今日論点整理いただいたことについては、まず感謝申し上げたいと思います。
この4つの論点については、後ほどか後日か、それぞれ議論が進むと思いますけれども、その前提として若干意見を申し述べたいと思います。
複数就業先で働く労働者の方々の保護について議論していくこと自体には異論はございませんけれども、本日配付されました資料4に記されている論点を初めとして、さまざまな問題が生じることが危惧されますので、本件に関しては十分な議論とか検討が必要ではないかと考えております。特に、被災労働者の稼得能力を給付に的確に反映させるという観点のみが強調される傾向にあるのではないかと懸念しております。労災保険制度の基本理念とか本旨を逸脱するような事態は避けなければなりませんので、性急な意見の集約は行わないで、先ほど立川委員からもお話がありましたように、委員相互のコンセンサスが得られるような慎重な対応をぜひお願いしたいと思っております。
なお、資料4の中に参考資料として書かれておりまして、先ほどの砂原委員のお話の若干の補足になりますけれども、「労災保険制度の在り方に関する研究会中間とりまとめ(平成16年7月)」の抜粋と「労働者災害補償保険制度の改善について(建議)(平成16年12月労働政策審議会)」が含まれております。この「研究会中間とりまとめ」のうち、二重就業者に係る給付基礎日額等に係る部分に関しては、過去の労災保険部会の議論においても使用者側委員からさまざまな問題が指摘されておりまして、結果として、労働政策審議会の建議においても「労災保険制度の在り方に関する研究会中間とりまとめ」に示された考え方を参照としつつ、専門的な検討の場において引き続き検討することが適当であるとして、結果が先送りされた経緯がございます。
つまり「参照」でありまして、「踏まえて」とか「沿って」ではないことから、労災保険部会における議論の方向性はまだ定まっておりませんので、労災保険からの給付額に複数就業先の賃金額を合算して反映させることを前提とした議論ではなく、合算させること自体の是非から議論していくべきであると認識しております。以上でございます。
○荒木部会長 御意見承りました。ほかにはいかがでしょうか。立川委員。
○立川委員 他の分科会の論議というのはどのようなな感じか。何かあるのか、ないのか、中身がわかるように教えていただけますか。
○荒木部会長 事務局からお願いします。
○労災管理課長 複数就業者につきましては、まず、労働基準局ということでいきますと、労働時間の関係で、今、有識者による検討会を開催していまして、まだ議論中ということでございます。諸外国の状況でありますとか、そういったものも含めて、今、検討していると聞いております。それから、同じ保険制度で、雇用保険制度につきましては、昨年の12月に中間的な取りまとめを行っていると聞いているところでございます。
詳しい内容につきましては、次回になるかもしれませんけれども、またお示しをしたいと思っております。
○荒木部会長 よろしいですか。
○立川委員 はい。
○荒木部会長 ほかにはいかがでしょうか。岩村委員。
○岩村委員 若干意見を申し上げておきたいと思います。先ほど本多委員から、平成16年の研究会の「中間とりまとめ」と、その当時の労災保険部会の議論についてのお話がありました。私自身はこの研究会には入ってはいなかったのですけれども、当時既にこの労災保険部会のほうは委員をさせていただきまして、このときの議論にも参加させていただいたという記憶がございます。おっしゃるとおり、当時は、この「中間とりまとめ」で提案された複数就業者の労災の場合の補償をどうするかということをめぐりましては、使側の委員の皆様からかなり強い反発があり、その結果として、「建議」の中には取り上げられなかったという経緯があります。
当時、私の記憶では、私自身が印象づけられたと言ったほうがいいと思うのですが、使側の先生方の御議論で一番強調されておられたのは、企業は就業規則などで兼業を禁止している、企業が就業規則で禁止している以上、そもそも複数就業というものはあってはならないものである。そして、その副業先で事故に遭ったときに、本来の勤務先の企業が就業規則で副業を禁止しているにもかかわらず、なぜそのもとの企業についての給与、賃金をベースとして給付を支払うのか、そこの点の反発が私の印象では一番強かったと思っております。
もう一つは、平成16年というと今から14年ぐらい前の話になりますので、当時の労働市場の構造と今の労働市場の構造がこの16年間でかなり大きく変わったと思っています。平成16年当時も、既に、フルタイムの正規従業員に対してパートタイム労働者などの非正規の労働者の人たちがふえ始めていたという状況はありますが、今ほどではなかったという時代のことだと思います。
ところが、現在では、もちろん使側の委員の皆様にはいろいろ御意見はあろうかと思いますが、少なくとも政府レベルでは兼業・副業については制限しないという方向へと政策のかじが大きくとられている。もともと労働法の研究者の間では、職業選択の自由との関係から副業・兼業を企業が就業規則で禁止できる場合はかなり限定されているのではないかという議論があったところでありますけれども、政府全体としての政策は、副業・兼業を認める方向に実はかなり大きくかじが変わって、厚生労働省がつくっているモデル就業規則でも、今、その方向に変わっている。
それから、この間、非正規の労働者の数がふえ、とりわけパート労働者の数がふえているということ。この場合、特に所得水準というか給与水準の低いパート労働者ほど複数の事業所をかけ持ちで仕事をするケースがふえているというのが大きな変化だろうと思います。
歴史をさかのぼると、労災補償の制度、あるいは労災保険の制度の主たる目的は何であったかというと、労働災害の被災者に対して迅速に補償を行い、仕事に戻れる人についてはできるだけ早く仕事に戻っていただく。しかし、後遺障害などが残ったり、不幸にしてお亡くなりになった場合については、迅速に適切な補償を行うことによって、ここが重要なのですが、貧困の状態に陥らないようにするというのが労災補償、労災保険の制度のもともとの目的なのです。
ところが、今、一番深刻な問題は、一番立場の弱い労働者、ごめんなさい、うまい表現が即座に見つからないのですが、主たる働き手が世帯内にほかにいない方たちが複数パートをかけ持ちして働いていて、それで1つの事業場で労災に遭ったときには、もともと低い賃金だから2つで働く、あるいは3つのところで就業することによって世帯を支えていたところが、労災に遭って、その部分で休業せざるを得なかったり、場合によっては障害によって労働能力が減退するといったときに、複数の事業所から得ていた賃金を合算してベースにしないという現行の扱いであると、非常に低い補償しかもらえないことになってしまう。それで現代の状況の中で労災保険としての目的を達成することができるのかというのがこの問題のそもそもの始まりだと私は思っております。
フルタイムの大企業の方が更にお金が欲しくてとか、もっと自分のためにというのも1つの副業・兼業のあり方としてあるのですけれども、実は一番深刻な問題はそちらではない。大企業の方の場合も、副業先で事故が起きたときにどうなってしまうのか、これはこれでまた大変な問題なのですが、そうではなくて、今、申し上げたように、一番弱い立場にある労働者の人たちで、世帯を支える上でかけ持ちをして稼がなくてはいけないという人たちが、合算をしないと非常に低い補償しか受けられず、結局、他の公的な保障制度などに頼らざるを得なくなってしまう。そこがどうなのかということだと私は理解しています。そういう意味では、今日においては、なぜこの議論をするのかということ自体は、その必要性はかなりはっきりしている。これは私の個人的な意見でありますけれども、そういうふうに考えているところであります。ありがとうございました。
○荒木部会長 ありがとうございました。村上委員。
○村上委員 ありがとうございます。労働側としては、従前より複数就業者の給付の合算であるとか、労災の原因についても合算して考えていくべきだと考えております。繰り返しては申し上げませんけれども、本日の参考資料に出ているような意見を述べておりますので、あわせて申し上げておきたいと思います。
また、以前の「労災保険制度の在り方に関する研究会中間とりまとめ」の際には、給付額の合算などについて方向性は出されてましたが、本日、論点として出されている保険料負担のあり方とか、メリット制とか、そういったことまでは詳細な検討は余りなされていなかったのではないかと思っております。それらの点もあわせて見送られた経緯もあったかと思いますが、今回検討するのであれば、そのあたりも使用者側の皆さん方が不安のないようにきっちり議論していくことが必要だと思っております。
もう一点です。今回は、どの就業先の業務が原因で災害が発生したかが明確であるケースでいろいろ整理がされているのですけれども、事故がBで起きたからといって、例えばAの過重労働によってBで事故が起きるということもありうるわけです、全部切り分けられるかというと、それぞれ横通しで考えなくてはいけないこともあるかと思います。そのあたりも詳細に整理していただいて検討することが必要ではないかと思っております。
以上です。
○荒木部会長 小畑委員。
○小畑委員 ありがとうございます。先ほど本多委員から合算の是非について、そもそもそのことについてどう考えるかという根本的な議論が重要だという御発言がございまして、岩村先生から、どういうような変化が起きているかということを踏まえて議論の必要性の御発言があったわけでございます。
その際に、今日事務方から問題を整理していただいたいわゆる前提として、どちらで事故が起きたかがはっきりしているケースについてのことでございますが、2ページ目の表でいきますと、Bのほうで事故が起きたと。そして、Bのほうを算定基礎として補償がなされると。それでは足りないと思った被災者や被災者の御遺族が損害賠償請求をBに対して起こした場合には、被災労働者が不幸にして亡くならなければ、本来だったらAで得ていた給料ももらえていたはずだったのにもらえなくなってしまったということを込みで損害賠償を請求することが考えられます。そして、就業先のBのほうの資力が乏しかった場合にそこまでの賠償をし切れないで、被災労働者やその御遺族が困窮してしまうことが考えられる。そういうことともに、就業先Bとしては、就業先Aで得ていた賃金までもその損害賠償の中に入ってくることについての用意がないことが考え得ると思うのです。そうなってくると、どの会社が就業先Bになるか、どこで災害が起こるのかというのはなかなかわからないけれども、その労災保険給付分を引くということを考えた場合に、その労災保険給付分がAの分も引くのか、Aの分は引かれていないのかによって、損害賠償の場面においては就業先の支払う額が大きく変わってくる。この部分がもし労災保険給付でAの部分もカバーされていたのであれば、そこがないということをどう考えるかということもあわせて、その合算の是非についてはいろいろな選択肢を考えていくことは意義深いのではないかと考えております。以上でございます。
○荒木部会長 ほかにはいかがでしょうか。本多委員。
○本多委員 ただいま平成16年の議論であるとか、現状を踏まえての高い次元でお話をいただきまして、どうもありがとうございます。
私が申し上げたいのは、真っ向から反対しているわけではなくて、「合算する場合は」というのが前提で資料の中が全部構成されておりますので、そういう意味で、しっかりした議論をもう少しして集約することが必要ではないかと思っております。それぞれのお立場でそれぞれの意見があると思います。更には、論点が4つ、あるいはもっとほかにあると思いますけれども、この論点一つ一つについて、できましたら次回以降、意見を交わしながら集約するということが大事なのかなと思っております。
1つだけ就業規則の話で申し上げれば、72回の労災保険部会の資料だったと思うのですけれども、副業・兼業を認めていない企業が35%に達しているということがあります。使用者側の立場から言いますと、これだけのパーセンテージの中で事業者が了解せずに副業していた先で労働災害に遭ったことについて、労働災害と無関係の事業者に一定の負担とか義務を負わせることについては基本的にいかがなものかと思っております。労災保険自体が、労働者の負傷等に対して迅速かつ公正な保護をするため必要な保険給付を行うことを目的とするというふうに第1条にはっきり書いてございますけれども、私の認識でいきますと、当初は、この「保険給付」という言葉ではなくて「災害補償」という文言になっていたと認識しております。そういう意味では、そもそも労災保険制度自体についてしっかりとした議論が必要なのではないかと思います。もともとの労災保険制度自体が事業者の災害補償責任を基礎としたものであったのではないかと認識しているものですから、そういう発言をさせていただきました。
○荒木部会長 岩村委員。
○岩村委員 ありがとうございます。おっしゃるように、現在の労災保険法というのは、もともと労働基準法の災害補償責任をカバーするための責任保険ということで出発し、当初は危険度の高い工場とか炭鉱とか、そういったところのみが適用範囲となっていて、そこから出発したということもありますし、また、当時の保険給付というのはまさに労働基準法が定めている災害補償と同じであったというのはおっしゃるとおりだと思います。
しかしながら、その後、依然として労働基準法上の災害補償に基礎を置きつつ、これは条文上、少なくとも業務上災害についてはそういう構成になっていますが、労働基準法上の災害補償に基礎を置きつつも、給付については現在は労基法上の災害補償からはかなり大きくずれている。「ずれる」と言うと適切な表現ではありませんが、充実度をかなり増しているということが言えます。更に、保険事故そのものについても、「労働基準法上の災害補償」という事由に限らず、通勤災害も加わっていますし、更に、実は二次健康診断給付だとかもあり、それも1つの保険事項を別途構成して、そして給付を行うという形で展開しているということになります。
ですので、労働基準法上の災害補償から出発していて、業務上の災害、あるいは職業病の概念との間に両者のつながりがあるとしても、給付についてどう考えるか、あるいは保険料についてどう考えるかということは、現在においては、必ずしも労働基準法上の災害補償責任に縛られるものではないだろうと私は思っています。
どのようにするかというのは、まさに立法政策の問題であって、そこはどういうものが最も適切かということで考えることになっていくでしょう。それは、達成すべき政策・目的がそもそも何であるかということと、その目的を達成するためにどのような政策手段、あるいは法的な規程を設定するのかという形での議論として行っていくべきものだろうなと思っております。
給付の合算ということとの関係で、保険料負担の問題もありますけれども、企業が就業規則などで兼業・副業を禁止していることとはどう関係するかという問題もあるのですが、はっきりはしませんけれども、これらも平成16年当時の審議会で私も議論した記憶がないわけではないです。しかしながら、労災保険、あるいは労働者災害基準法上の災害補償というのは法律で定められた仕組みでございます。したがって、企業が就業規則で副業・兼業を禁止していることをもって、災害補償の問題であるとか労災保険の給付の問題が影響を受けるのはおかしいだろうと私は思っています。強調しておきますが、私自身は労基法上の災害補償責任についてまで合算しろという気は全くありません。これはあくまでも使用者個人に係る責任ですので。「使用者個人」というと変ですが。災害が発生していない場所の企業が労基法上の災害補償責任を負うということはさすがにあり得ないだろうと思っていますけれども、保険給付としてやるといったときには、先ほど申し上げたように、従来、いろいろな形で労災保険というのが発展してきたということもあるとすると、それは企業様のほうで副業・兼業を一定の理由に基づいて禁止する、就業規制を行うことはありますけれども、その禁止に違反した労働者が副業先・兼業先で災害に遭って負傷なり何なりをしたときに、そこで合算した給付をやってはいけない、だから、そこで公的な政策をとるということが妨げられるということにはならないだろうと私は考えています。
○荒木部会長 ありがとうございました。水島委員。
○水島委員 ありがとうございます。岩村先生の御発言とも関係するのですが、今回の議論は「労災保険給付の在り方について」と議題にありますように、労災保険法の給付の拡充の議論であると私は理解していますが、それだけでなく、労基法の災害補償の見直しを含む議論になるのかは確認した上で議論を進めていくべきと思います。
今回、4つの議題を御用意いただきまして、1つ目、2つ目が労災保険そのものであるのに対して、3つ目は、労基法に基づく災害補償責任と関連させて、結論的には現行制度から変更する必要がないということですけれども、労災で給付を行うべきと考えての論点提起なのか、あるいは労基法の災害補償責任を拡大するべきという話か、どちらにも捉えられるように思いますが、それは大きく意味が違います。
今回、労災保険の拡充ということで進めていくのであれば、確かに、岩村先生もおっしゃったように、労災保険というのは、労基法上の災害補償に基礎を置くものではありますが、かねてから労災保険のひとり歩きと言われていますように、給付は拡大し、社会保障化しているということです。その方向で議論を進めるということでよいのか、あるいは労基法の災害補償の見直しも考えるのかを明らかにした上で、今後、議論を進めさせていただければと思います。以上です。
○荒木部会長 ありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。村上委員。
○村上委員 今の水島委員の御指摘に関連して、今回、論点の3つ目、合算する場合の労基法上に基づく災害補償責任について、という部分ですが、前回、この議題で議論した際に、リスクの合算をした給付がなされる場合の休業3日目までの補償ついてどうなるかということを整理しておく必要があるのではないか、ということを申し上げたことを踏まえて御提示いただいたのではないかと思っております。
先ほども少々申し上げたのですが、本日の前提としているケースは、Aには瑕疵は全くなくて、例えばBで火災が起こったとかいうようなケースが想定されているのかと思いますが、Aで徹夜明けで、Bで転倒したとか落下したとかいうことも考えられなくはなく、そういった場合のことも後々混乱しないように考え方を整理しておく必要があるのではないか、多分、すっきり割り切れない部分も出て、結局は実態で判断するしかなく、ここまでだったらどちらが負うとか負わないという結論がこの場ですっきり出されるわけではないかもしれませんが、考え方、道筋は整理しておく必要があるのではないかと思っております。本日のケースというよりは次回以降に出てくるケースで考えておく必要があるのではないかと思っております。以上です。
○荒木部会長 今回、資料4の1ページでは「どの就業先の業務が原因で災害が発生したか明確であり」ということで、今、村上委員がおっしゃったような、Aでの過労がBでの事故の発生に影響しているというのは、恐らく、この次、負荷の合算に類する事例であろうと思います。その問題はまた別途残っているということだろうと思います。
今回、提示されているこのペーパーは、労災保険法上の給付基礎額の合算の問題を考えるにあたって、労基法上の災害補償責任、すなわち使用者の個人責任としての災害補償責任と、いわば社会保険化された労災保険法上の給付の問題を区別して議論しようという御提案だと思います。そこで一番問題となるのは、3ページのメリット制をどう考えるかという点だと思いますので、もしこの点について委員の皆様から何かお考えがあれば、伺えればと思います。岩村委員。
○岩村委員 今の村上委員のコメントと荒木部会長のコメントについて、まず一言申し上げさせていただきたいと思います。
一番簡単なケースを取り上げて、その上での基本型を考えて、ある程度、部会でのコンセンサスをいただくというのが、より複雑な問題を考えていく上での出発点になるのではないかと思っています。村上委員もおっしゃるように、兼業することの結果として長時間労働になって、先ほど申し上げたようなパートの方が仕事を重ねるというケースでも場合によっては起こり得る問題でありますし、大きな規模の企業さんの正規従業員のフルタイムの方が、その後更にどこかの企業で自分の持っているスキルを生かして何かやりたいといったときにも、同じような問題が発生することにはなるのですが、実はそれは、そもそも業務上の認定をどうやってやるのかという問題です。
更に、それとの関連性で、保険料、特にメリット制にどういうはね返りがあるのかとかは、かなり複雑な問題となります。ですので、それを考える上では、まず、今日御提示いただいている比較的古典的な、ある意味考えやすい例をとって御議論いただくというのがよいように思います。その上で、一定のコンセンサスが得られるのであれば、それをベースとしてより複雑なケースについて考えていくほうが、思考を進める上で、検討を進めていく上でも効率的だろうと考えています。
もう一つつけ加えておきたいのは、今日のペーパーで事務局で御提案という形で出していただいているのは、給付の合算だけではなくて、先ほど水島委員の基準法上の問題もありましたが、保険料負担のあり方についても御提案をいただいています。ここでは、かなりいろいろなことを考えた上での御提案を出していただいていると思います。
とりわけ、メリット制の適用をどうするかというところが一番頭が痛いのですが、今日の御提案では、事故が起きたBの事業場についてはメリット収支率を反映させる。しかし、関係のない就業先のAの賃金までを入れてメリット収支率を計算することはしないという提案になっているということです。ここから先は、むしろ使側の皆様の間でのコンセンサスがとれるかということですが、そうなると、出す給付との関係で、保険料とのバランスを失することになりますので、そこのところをどうするかという問題があり、それは今日の御提案では、通勤災害と同じような扱いで、全産業のいわば連帯ということで保険料をとるというのではいかがでしょうかというのが事務局の御提案だろうと思います。
これはこれで、私自身の見方としては、かなりいろいろなことを考えた上でのバランスのとれた御提案かなと思っています。いずれにしても、給付の合算だけではなくて、保険料のところも含めて、全体として均衡のとれた制度になっているかどうかという視点でお考えいただければ大変ありがたいと思います。もちろん、そもそも合算ありきということ自体どうなのだという御議論がある、使側としてはそうおっしゃっているということは理解していますけれども、そういうことも考え合わせた上で全体をどうまとめるなのかなと思います。そういう意味では、今日御提案いただいているこの事務局のペーパーというのは、全体としてのパッケージという観点から見ていただいて御検討いただくのが適切だろうなと思うところでございます。すみません。ありがとうございます。
○荒木部会長 ありがとうございました。ほかには。本多委員。
○本多委員 岩村先生には御丁寧な御説明をいただきまして、ありがとうございます。お話の中にありました、全産業での連帯ということについてコンセンサスを得られれば、それはそれで1つの方向だとは思っております。私の認識では、平成17年ぐらいだったと思いますけれども、「労災保険率の設定に関する基本方針」が厚労省さんから出されていまして、労災保険率は業種別に設定するとされ、労災保険の業種区分は労働災害防止インセンティブを有効に機能させるという観点から、作業態様や災害の種類の類似性のあるグループ等に着目して、当該グループごとの災害率を勘案して分類することとされているということも発信されておりますので、この辺もあわせて議論する必要があるのかなとは思っております。それから、各論でまことに恐縮ですけれども、労災保険を合算することになった場合、若干心配な点が2点ございます。
1つは、休業3日と休業4日以上の場合ですが、被災された方からしますと、休業3日目までと4日以上で補償のベースが違ってくるということについてなかなか理解が得られない部分もあるのではないか。
もう一つは、複数就業を申し出られた方と申し出られなかった方が必ずいらっしゃいます。そういう場合に、そもそも労災保険は、誰でも、どのような状況でも、同一の取り扱いが行われ、公平な制度でならないといけないのではないかと思いますので、各論としてはそういうところの議論も必要ではないかと思います。以上でございます。
○荒木部会長 ありがとうございました。岩村委員。
○岩村委員 今の本多委員の御発言の前半部分についてです。確かにおっしゃるとおり、平成17年だったかもしれませんが、私もそれにかかわっていた気もしますが、当時の議論のコンテクストの中で、それぞれの産業の災害発生率に応じた形での保険料率の設定ということで報告などもあり、したところではあります。しかしながら、注意をしなければいけないのは、そのときも、産業ごとにいろいろな事情があり、激変緩和であるとか、さまざまな、そんなにたくさんはありませんけれども、二、三の要素を考慮して、必ずしもある1つの業種だけにはとどまらない全産業での連帯という形で支えるという考え方も、実はその時に入っていましたので、現在の制度が業種別の料率で貫徹しているというわけではないということは申し上げておきたいと思います。また、個別の企業の労働災害発生防止努力によっては災害発生率を変えることのできない通勤災害についても、先ほどの繰り返しですけれども、全産業一律という形で対応している。したがって、仮にこの合算をするとした場合、事故が発生していない事業場についてそれが算定基礎に入ってくる場合、その部分をどうするかというときには、それは事故発生率とはかかわりのないものということになって、全産業で一律で御負担をいただくという論理なり考え方というのは、今の労災保険の保険料の仕組みからいっても可能なものだろうと個人的には思っております。
○荒木部会長 ほかにはいかがでしょうか。先ほど本多委員から、直接労災に関係していない、本件でいうと就業先Aにさまざまな負担が課されることをどう考えるかということがありました。そのさまざまな負担としては具体的にはどういうことを想定しておられたのでしょうか。
○本多委員 就業先Aですか。
○荒木部会長 就業先Aにさまざまな負担を課すとすれば、それはいろいろと慎重に考えなければいけないという発言があったと思いましたけれども、具体的にはどういうことを設定されているか、もう少しお話しいただければと思いました。
○本多委員 私も勉強不足でありますので、明確にお答えできる部分は余りないのですけれども、例えば、被災された方々の就労状況が本当に把握できるのかどうか。建設業の場合は重層化がなされておりますので、そういうところの確認が、それぞれ事業主が違いますので、そういうところが把握できるのかどうかというところも1つの懸念材料でございます。
○荒木部会長 今回のペーパーですと、労基法上の使用者としての責任というものと切り離して労災保険法の中での処理を考えていると思うのですが、その中で、具体的に就業先Aの負担としてまず考えられるのは、先ほど議論しましたメリット制などにはね返ると大変なことになるという懸念がありますので、それが一番大きいかなと思いました。それを想定した御発言かと思って、ちょっと確認させていただきました。
○本多委員 労災保険料率の算定であるとか、あるいは、メリット制は当然でございますけれども、それ以外にいろいろな特殊なものが出てくるのかなとは思っております。
○荒木部会長 そうすると、今回は、就業先Aについてはメリット制には反映させないという考え方かとは思いますけれども、この点については、今日の段階で御意見があれば伺いますけれども、まだよろしゅうございますか。村上委員。
○村上委員 本多委員が先ほどおっしゃった2点目で、被災労働者から見て、副業していたことを申請した人と申請していない人で差が出るのはどうかというお話があったときに、そういうことにならないためにも、本日御提示いただいた5ページにもありますように、そもそも労災保険の給付自体は申請・請求に基づいて行われるものですので、請求時点で、実はAでも働いていましたということがわかったときに、Aについても資料をいただければ一番いいのですが、その資料を労働者にいただけないときには、監督署がAについても証明などを求めていくことが必要ではないかと思っております。そういった措置をしていただくことで適正に給付されると思っておりますので、その点はこの御提案に賛同いたしたいと思います。以上です。
○荒木部会長 ほかにはいかがでしょうか。岩村委員。
○岩村委員 先ほどの本多委員のお話の2点目に、個別の労働者が兼業・副業をどこで何をやっているかということの把握の話がありました。これは、問題の整理としては、恐らくこちらの労災の給付をどうするかという話よりは、むしろ、今、基準局の別のところでやっている事業所を異にする場合の労働時間の合算がどうなるのか、そちらのほうの問題なのかなという気がしています。こちらのほうはむしろ単純で、先ほど言ったAの企業が事務手続上の問題も含めてどういう負担が出てきてしまうかという問題はありますけれども、他方で、Aの企業としては、表現が適切でないのですが、自分のところの企業で働いた後どこかへ行って働いているかもしれないとなったとしても、そこで事故が起こってしまえば、かつ、今日の前提のもとでは、Bのところだけにメリット制が適用される。ただ、合算がかぶってくるけれども、それはAの企業のメリットには全然はね返らないということなので、企業さん側としては、少なくとも労災の給付との関係では、手続の問題はあるにしても、負担の問題というのは余り気にしなくていいのかなと思っています。手続は負担がかかるので、それはもちろん議論の対象だと思いますが、それよりも、どこへ行ってしまっているかわからないで、兼業をして長時間働いていて、そうしたら、突然労基署がやってきて、おたくが長時間労働の元凶なのでという話になると、それは困るでしょうという問題かなと思います。
あとは、健康診断の義務を一体どちらが負うのかとかは、労災保険そのものというよりは、別のところの問題として、A企業としてはどこに行っているか把握していないと困るよねということかなという気がちょっとしています。問題状況全部を捉えているかどうかよくわかっていないのですけれども、恐らくそういうことかなとは思います。
○荒木部会長 ありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。今回、資料4については、非常にシンプルな例をもとにどう考えるべきかを議論しました。まだまだ議論すべき点もあると思いますし、今後、より複雑な事例もあわせて考えるとどうかということもあろうかと思いますので、本日いただいた御意見を踏まえつつ、引き続き、この労災保険部会で議論を進めていきたいと考えております。最後に、事務局より何かあれば、お願いいたします。
○審議官(労災、建設・自動車運送分野担当) 労災の担当審議官の松本でございます。
本日は、限られた時間の中、2つの諮問事項、また兼業・副業の論点につきまして熱心な御議論をいただきまして、厚く御礼を申し上げます。諮問事項のうちの毎勤統計の不適切な取り扱いによる労災保険の追加給付につきましては、本日答申いただきましたものに基づきまして、関係省令等法制面の準備を急ぎますとともに、実態面といたしまして、コンピュータシステムのほうも改修しなければいけないものでございまして、そちらの改修も急ぎます。いずれにいたしましても、先月2月4日に公表いたしました工程表に沿いまして追加給付をしっかり実施させていただくよう取り組んでまいりたいと思っております。
また、介護の関係につきましても多数御議論をいただいたところでございます。御議論を踏まえまして、31年度はこのような省令に基づきまして対応させていただきますが、引き続き、よりよいものになるようにローリングをしながら取り組んでいきたいと考えているところでございます。
また、兼業・副業の話につきましては、非常に多面的な御議論をいただいたところでございます。本日は、プロトタイプというか、非常に単純なモデルでお示しをしましたので、まだ至らない点が多数あったかと思いますけれども、引き続き、事務局としても整理を進めまして、また次回御議論いただけるようにしていきたいと思っているところでございます。
最後になりますけれども、岩村委員におかれましては今月末で労災部会の委員を御退任と伺っているところでございます。先ほどの御発言にもございましたけれども、岩村先生におかれましては、平成13年1月から19年3月まで6年余り委員を務めていただいた上、再度、平成21年4月から29年4月まで部会長として8年間お務めをいただいたところでございます。合わせて15年余り、労災部会の議論をリードしていただいたということでございまして、事務局から厚く御礼を申し上げたいと思います。また、今後も大所高所から御指導を賜れれば幸いだと考えております。本日の審議、どうもありがとうございました。
○荒木部会長 それでは、特段御意見がなければ、以上といたしますが、よろしゅうございますか。それでは、以上をもちまして本日の部会は終了といたします。
本日の議事録の署名委員ですが、労働者代表の村上委員、使用者代表の本多委員にお願いをいたします。
本日はどうもありがとうございました。