第20回労働政策審議会安全衛生分科会じん肺部会 議事録

日時

平成31年年3月18日(月) 14:00~

場所

労働基準局第1会議室(16階)

出席者

公益代表(敬称略)
   大藪 貴子、近藤 光子、土橋 律、山口 直人

労働者代表(敬称略)
   石橋 学、漆原 哉、加藤 芳基、田久 悟、古谷 彰、諸見 力

使用者代表(敬称略)
   明石 祐二、佐藤 恭二、寺門 雅史、永良 哉、安川 修一

事務局
   椎葉 茂樹(安全衛生部長) 神ノ田 昌博(労働衛生課長) 高山 研(主任中央じん肺診査医)
 

議題

(1)働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後のじん肺法について(報告)
(2)じん肺健康管理実施状況について(報告)
(3)呼吸用保護具に関する研究について(報告)

議事

  

○主任中央じん肺診査医 時間になりましたので、ただいまから第20回労働政策審議会安全衛生分科会じん肺部会を開催いたします。皆様におかれましては大変お忙しい中、当部会に御出席いただきまして、誠にありがとうございます。
議事に入ります前に、本日初めて部会に御出席になりました委員を御紹介させていただきます。永良委員でございます。
○永良委員 永良でございます。よろしくお願いいたします。
○主任中央じん肺診査医 なお、参考に本部会の座席表及び名簿を資料として御用意しております。座席表については机上に配布させていただいておりまして、名簿については、皆様の目の前にございますタブレット端末に資料を入れてございます。
本日の委員の出席状況ですが、永野委員、保利委員、江藤委員は所用のため御欠席、寺門委員におかれましては、遅れての御出席という連絡を頂いております。本日の出席者数ですが、公益代表委員が4名、労働者代表委員が6名、使用者代表委員が5名、合計15名の御出席を頂いているということで、労働政策審議会令により定数を満たしていることを御報告申し上げます。また、本日は参考人として産業医科大学の大神先生に御出席いただいております。
○大神参考人 大神でございます。よろしくお願いいたします。
○主任中央じん肺診査医 また、前回の本部会以降、事務局にも異動がございましたので、御紹介させていただきます。まず安全衛生部長の椎葉ですが、もうすぐ参りますので、その際にまた改めて御紹介させていただきます。そして私、主任中央じん肺診査医の高山でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
なお、傍聴の皆様にお願いです。カメラの撮影に関してはここまでとさせていただきますので、御協力をお願いいたします。それでは、以降の議事進行につきまして土橋部会長にお願いいたします。
○土橋部会長 本日はよろしくお願いいたします。まず、議題に入る前に事務局から本日の資料の確認をお願いいたします。
○主任中央じん肺診査医 本日の資料です。本日は先生方の目の前にタブレット端末がございますが、このようにペーパーレスの開催とさせていただいております。その使い方について御説明させていただきます。
本日はお一人の委員につきまして1台、このタブレット端末をタブレット準備させていただいております。まず現在の画面を御覧いただきまして、今の画面が資料のタイトルが並んでいる画面であるかどうかを御確認ください。それぞれの資料のタイトルの一番左に0~11番まで通し番号が付けられていますが、その番号の次に日本語でタイトルが書かれています。このファイルが1列に並んでいる、そのような状況であることを御確認ください。もしそのような画面でなければ、挙手いただけましたらば係の者が参りますので、よろしくお願いいたします。よろしいでしょうか。
続いて操作方法ですが、委員の皆様方のお手元に黒いペンがあるかと思います。このペンでタッチいただければ、ファイルを開いたり閉じたりすることができるようになっております。また、指でも同じくタッチいただければ、開いたり閉じたりすることができます。試しに幾つかの資料を開けていただくなど、御確認いただければと思います。一度資料を開けていただいて、それを閉じて最初の一覧の画面に戻すやり方ですけれども、画面の左上に青色で矢印若しくは「じん肺部会」という文字が書かれているかと思います。青矢印の所をタッチいただけますと、最初の資料のタイトルが並んだ画面に戻りますので、これも御確認ください。
なお、この資料について、ページが複数にまたがっている資料もありますが、先生方がお持ちのスマホと同様に指やペンでなぞって、下の方にスクロールいただければ、資料のページが進むものとなっております。この後、資料を一つ一つ御説明いたしますが、その際に、やり方など、不明な点がありましたらば、そのときにまた挙手いただければ係の者が参りますので、お呼びいただければと思います。
それでは資料の確認をさせていただきます。まず議事次第、一番左の資料番号が0と書いてあるものです、本日の議事次第です。そして、一番左の資料番号1番が委員名簿となっております。資料番号2番が資料1-1、働き方改革関連法による改正後のじん肺法の概要です。通しの資料番号が3、資料番号1-2ですが、労働者の心身の状態に関する情報の適切な取扱いの指針です。通し番号が4番で、資料番号で言うと2番になりますが、じん肺の健康管理実施状況の資料です。そして、通し番号が5番で資料番号が3になります、電動ファン付き呼吸用保護具の有用性に関する検討ということで、大神先生に作成いただきました資料になります。それ以降は参考資料です。通し番号の6番から11番まで、参考資料の1番から6番までが参考資料になります。
資料の不足、この資料が画面に表示されていないということなどがございましたらば、事務局までお知らせいただければと思います。資料の確認は以上になります。
○土橋部会長 よろしいでしょうか。それでは議事に入りたいと思います。本日は報告案件が3件です。議題1「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後のじん肺法について」、まずは事務局から説明をお願いします。
○主任中央じん肺診査医 資料の御説明の前に申し訳ございません、新たに着任しました事務局の御紹介をさせていただきたいと思います。安全衛生部長の椎葉でございます。
○安全衛生部長 椎葉でございます。よろしくお願いします。
○主任中央じん肺診査医 それでは議題1の資料の御説明をさせていただきます。資料1-1、通し番号で2番になりますが、「働き方改革関連法による改正後のじん肺法の概要」とタイトルの付きました資料を開いていただければと思います。よろしいでしょうか。もし開けない委員がいらっしゃいましたらば、挙手いただければと思います。それでは資料の御説明をさせていただきます。今回、議題1として働き方改革に伴うじん肺法の改正の議題となっておりますが、資料1-1、それから後ほど御説明しますが、資料1-2が該当する資料になります。資料1-1及び資料1-2を通して御説明させていただきます。
まず、資料1-1です。こちらはじん肺法改正の具体的な、どこの条文をどのように変えたのかの資料になります。今回、働き方関連法の成立に伴い、じん肺法も一部改正になったのですが、その改正の内容としては、健康情報の取扱いのルールを明確化、適正化したというものです。これは、働き方関連法の成立に伴って労働安全衛生法の改正が行われたのですが、その改正の内容をじん肺法にも適用させたというものです。
健康情報の取扱いとは、具体的に申し上げますと、健康診断を労働安全衛生法に基づいて行っていただいているところですが、じん肺法におきましても、粉じんにさらされる事業の労働者においては、定期的なじん肺の健康診断をじん肺法にて定めているところです。そのじん肺の健康診断の情報に関しても、取扱いを今回の労働安全衛生法の改正と同じように改正する必要があったため、改正したというものです。今、御覧いただいています資料1-1では、じん肺法第35条の3、第1項から第4項まで、それぞれ、このような内容で改正をしたことが表示されています。これは従来の条文を修正したというよりも、今、御覧いただいている4つの項目を新たに追加したものです。
それでは、資料1-2をご覧ください。これは今回のじん肺法の改正の具体的な内容です。じん肺法の改正と申しましても、先ほど申し上げたとおり、働き方関連法の改正に伴って健康情報の取扱いのルールを明確化したという内容ですが、その内容を、今、御覧いただいている資料で再度、御説明させていただきます。資料1-2の1ページ目です。「指針」とありますが、健康情報の取扱い方の指針を昨年の9月に発表させていただいたところですが、今回はその指針の内容を資料1-2で御説明させていただきます。
指針の目的は2点ほどありまして、労働者が不利益な取扱いを受けることがないように、安心して産業医などに健康相談が受けられるようにするということが1点目。2点目として、労働者の健康確保の措置を十分に事業者に行っていただくことを可能にするというものです。この指針のポイントは、真ん中の大きな矢印の中にマル1マル2と書いてあるものになります。事前に、労働者などに健康情報の取扱いや確保の方法などを周知いただいた上で行っていただくということ、そのほかの健康情報については、本人の同意を得ていただく必要があることが、この指針のポイントになっております。
それでは、スクロールしていただいて2ページ目を御覧ください。具体的に、どのような情報を、どのように扱っていただくかということを表形式にしたものです。大きく3点ほど健康情報の分類を分けておりまして、それぞれの取扱い方を右側の列に記載しております。
1点目として労働安全衛生法に基づいて事業者が直接取り扱うこととされている健康情報、例えば健康診断を受けたのか受けていないのかといったような情報、そういった情報については、取り扱う目的、取得方法について労働者に事前に周知いただいた上で収集するというものです。2点目として、労働安全衛生法に基づいて事業者が労働者本人の同意を得ずに収集することが可能である健康情報、例えば健康診断の結果の内容です。そういった情報については、事前に、取り扱う目的、方法を労働者の十分な理解を得ることが望ましいというものです。また、事業場の状況に応じて、情報を取り扱う者を制限したり、情報を加工したりすることが必要とされています。3点目として労働安全衛生法において事業者が直接取り扱うことが規定されていない健康情報、例えば法定外の健康診断の項目、そういった情報については、個人情報保護法に基づきまして、労働者本人の同意を得なければいけないこととしています。
このような健康情報の取扱いのルールということで指針を発表させていただきましたが、じん肺法でも、昨年、それに伴う改正を行わせていただいたという状況です。以上、御報告でした。
○土橋部会長 それでは、ただいまの説明を踏まえまして皆様から御質問、御意見などがございましたらお願いいたします。いかがでしょうか。
私から。資料1-2の指針のポイントで「必要に応じて健康情報を加工」となっていますが、具体的な加工をどうするかという辺りは、指針本体には説明があるのでしょうか。
○主任中央じん肺診査医 現行の指針においては特に医療業種、医療職種のことですが、そういった部門を有している事業場や外部委託などで取り扱う機会のある医療業種においては、健康情報を加工することが想定されるという内容が指針にございます。しかし、具体的にこのように加工するということまでは、指針には記載しておりません。なお、今後、指針の取扱い方、更に具体的なやり方などについて、現場からの質問などを踏まえた上で、更に詳しいものを発表するかどうかということを現在、検討している状況です。
○土橋部会長 ほかはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。それでは議題2に移りたいと思います。議題2「じん肺健康管理実施状況について」、まずは事務局から説明をお願いいたします。
○主任中央じん肺診査医 それでは資料2を御覧ください。よろしいでしょうか。資料2、「じん肺健康管理実施状況について」とタイトルのある資料です。じん肺健康管理実施状況の報告は、毎年、年度末の本部会において、その1年間のデータを御報告させていただいているものでして、今回も例年と同様に、平成29年の1年間のデータが新たに出ましたので、それを御報告させていただくものです。
資料2の1ページ目を御覧ください。1番、「在職者におけるじん肺健康診断結果」というタイトルの表があります。平成19年~29年まで、適用事業場数、従事している労働者、健康診断を実施した事業場の数、受診した労働者の数、一番右側の列に新規の有所見者数が表で掲載されているものです。平成29年が新しいデータになります。平成29年のデータを御覧いただきますと、適用事業場数は昨年に比べてほとんど変わっていませんが、過去10年で最も多いという状況でした。それに対して、粉じんの作業従事労働者数は、昨年に比べて7,000~8,000人程度減っているという状況でした。じん肺の健康診断の実施をいたしました事業場の数も、ほとんど昨年と同様の数字となっております。じん肺の健康診断受診労働者数は約26万人ということで、これも昨年と大きく変化ありませんが、昨年よりも7,000~8,000人の減少というところでした。
一番右側の列の新規の有所見者数は125名ということで、平成29年1年間で新たにじん肺の診断がなされた数が125名という状況でした。これは、昨年に比べると3人ほど増えてはおりますが、10年前の平成19年などに比べますと、数は減少傾向ということは言えるかと思います。新規有所見者数も若干上下はありますが、全体的な傾向としては減少傾向が続いていると考えております。
続きまして、下のほうにスクロールいただきまして2ページ目を御覧ください。2番目として、在職者におけるじん肺健康管理区分の決定状況を載せております。これは、1年間にじん肺の管理区分で申請のあったものの総数、そして、重症度に応じて管理区分を1~4まで分けておりますが、それぞれの決定された内訳を数値でお示ししたものです。平成29年が新しい数字になりますが、それを御覧いただきますと、平成29年の1年間で管理区分が決定された数は1,839でした。それぞれの管理区分1~4までの内訳ですが、管理区分1が155、管理区分2が1,456、管理区分3が合計219、管理区分4が9ということで、いずれの区分も昨年より減少しております。管理区分の決定件数自体が昨年よりも減っているので、各区分の数も減っていると思われますが、管理区分3だけは、昨年に比べて2件ほどの減少ということで、あまり変化がありませんでした。
続きまして、同じ2ページ目の下段のほうですが、3、在職者における合併症ありの患者数です。これは、在職者におけるじん肺の健康管理区分の決定の際に、どのような合併症が何件あったのかということの分布です。平成29年を御覧いただきますと、合計4件の合併症があったということです。内容としては、第3号の続発性気管支炎と第5号の続発性気胸の2件ずつの、合計4件という状況でした。合併症ありの患者さんの数については10年前から1桁の状況が続いていて、数値が減ったり、または増えたりという状況です。
3ページ目を御覧ください。4番として、随時申請に係るじん肺の健康管理区分の決定状況です。2番と3番が在職者の定期的なじん肺の健康診断での申請でしたが、4番、5番は随時申請です。これは在職者も含みますが、退職された方が御自身で医療機関などで健康診断などを受けたり治療を受けたりして、じん肺の重症度の状況が以前から変わったと判断され、その都度、申請されることを想定したものです。平成29年を御覧いただきますと882件という数で、今までで一番少ない数でした。それぞれの区分の内訳を御覧いただきますと、管理区分1が292、管理区分2が332、管理区分3が159、管理区分4が99ということで、管理区分1と4は昨年に比べて減っているのですが、管理区分2と管理区分3の合計に関しては、昨年よりも若干増えている状況です。
さらに3ページ目の下段を御覧いただいて、5、随時申請に係る合併症ありの患者さんの数です。合併症の患者さんの数は、平成29年は合計79名ということで、これも過去最少の数となっております。在職者に比べて合併症がある患者さんが多いのですが、この随時申請は主に退職された方が該当すると思われますので、その分、御高齢の方が多いことが予想され、合併症も多めなのではないかと考えております。この合併症の内訳の傾向ですが、一番多いのは第3号の続発性気管支炎ですが、第6号の原発性肺がんが、在職者に比べると多いと思われます。しかしながら、減少傾向であることは、いずれの合併症も同様であると考えております。以上がじん肺健康管理の実施状況の平成29年の御報告でした。
○土橋部会長 ただいまの説明を踏まえまして、皆様から御質問、御意見などがございましたらお願いいたします。よろしいでしょうか。それでは御報告を受けたということで、議題の3番目に移らせていただきます。議題3「呼吸用保護具に関する研究について」、まずは説明をお願いいたします。
○主任中央じん肺診査医 事務局です。議題3番ですが、まずその前に、この背景について簡単に御説明いたします。平成30年度から開始させていただいております第9次の粉じん障害防止総合対策において、呼吸用保護具の使用の徹底、適正な使用の推進を重点事項として設定しております。それに伴い、現在、労働疾病臨床研究事業において、呼吸用保護具に関しての研究を行っていただいています。その研究の代表者が産業医科大学の大神先生です。大神先生に本日お越しいただいておりまして、現在、先生に研究いただいている進捗状況及び今まで分かったこと等について、資料を用いてこの場で発表いただきます。それでは大神先生、どうぞよろしくお願いいたします。
○大神参考人 産業医科大学の大神です。本日は、お招きいただきまして、このような機会を頂きありがとうございます。私どもの教室では、電動ファン付き呼吸用保護具の有用性について検討を開始しております。早速ですが、資料3を御覧いただきながら話を進めていきたいと思います。最初のほうは現況でして、この部会の皆さん方は御承知のことが多いと思います。現在分かっている知見ということで、じん肺の有所見者の数は減少傾向ではあるのですが、近年でもまだある一定の数が発生しているということで、今ありましたように、残念ながらまだまだ出ているということです。
ずっと行っていただくと、Personal protective equipment(PPE)と書いた写真入りのスライドがあると思いますが、現在、現場で使われている呼吸保護具というのは、このように密閉式の濾過式の保護具が使われているわけです。例えば、トンネル、隧道の工事等では、PAPRが推奨されていて使われている所もございます。ただ、ともすると右側の下に写真がありますけれども、やはり予算的にPAPRは買えないという事情があります。タオルを巻いて粉じんの防護をするなどということが起こり得ているわけです。
現在、いろいろな形の保護具が使われてはいるのですが、今回この研究で、現況も含めて調査をして、併せて電動ファン付き呼吸用保護具の重要性を調べました。現在の現場の状況を調べてみますと、マスクはきちんと着けていますと答える所はかなりの高率であるのですが、それを正しく着けているかというと、実態はそうでもないというのが分かりました。なぜ着けていないかという理由の多くは、やはり苦しいとか汗をかくとか、意思伝達ができない、会話ができないということで、外しがちになるという実態が分かりました。
第9次粉じん障害防止総合対策の中で、電動ファン付き呼吸用保護具、PAPRと略させていただきますが、PAPRを活用するようにということで、PAPRがどのように有用性があるのかということを中心に調べる必要があるということです。PAPR自体は各社からいろいろなタイプが出ているのですけれども、要するに自動ファンを内蔵したマスクというふうに御理解いただければと思います。呼吸の空気の出入りによってスイッチが入りますので、息を吸い込むとファンが同期して動いて、新鮮な空気を中に、濾過された空気を送ってくれるということです。実際に着けていただいたら分かると思うのですけれども、これはとても呼吸が容易であります。一番の問題はコストです。現在使われている呼吸用保護具の10倍のコストが掛かります。ゆえに、これが必ずしも普及していない実態はあります。
1つ上に上がっていただいて、このPAPRなのですけれども、面体内は常に陽圧に保たれますので、漏れ率とかという面では有用性がかなり高いことが私どもの研究で分かりましたので、それを御説明いたします。まず、PAPRを着けることによって、例えば血圧とか呼吸数とか、そういうものにどのように影響するかを実験室的に調べた研究がございます。
目的、対象ということですが、健常な男性をある特定の温度、湿度管理のできる部屋にてエルゴメーターというのを漕いでいただいて、保護具を装着しない状態、PAPRを装着した状態、従来の防じんマスクを装着した状態の3つを測り、血圧、心拍数、マスク内外の二酸化炭素の濃度とか、疲労度等も測りました。
この実験をした写真はこのようになっていて、主にうちの学生も含めてなのですけれども、若い健常人に協力していただき、マスクを着けていただいてこの自転車を漕いでいただきました。大体30分ぐらいの運動をしていただいて、その間の生体情報を測ったということです。スクロールしていただいて、測定項目は具体的に、血圧、心拍数、血圧と心拍数を掛けたDouble Product、呼吸数、二酸化炭素の内外の濃度、疲労度を測りました。
まず最初の図4と書いてあるのが呼吸数です。見ていただくと分かるのですけれども、△○□の3つとも余り大きな差はなかったというのがこの時点での結果でした。1つ上に上がっていただくと、Double Productといって血圧と心拍数を掛けたものと、腕で血圧の変化を見ています。PAPRは緑の線でして、着けていないのとほとんど一緒だったということです。これはちょっと予想に反して、従来の保護具を着けていたほうがDouble Productが下がったということで、少し良い結果にはなったのですが、統計学的に有意差はありませんので、大体同じような動きだったと御解釈いただければと思います。
1つ上に上がっていただくと、今度は呼吸数があります。呼吸数は若干、PAPRを着けたほうが着けないのと同じぐらいの動きだったかなという感じでした。またスクロールしていただくと、今度は従来の呼吸器を着けたのとPAPRを着けたのとで、マスクの内外の二酸化炭素の濃度を出しました。余り大差はなかったという感じですが、運動している間は、やはり二酸化炭素の濃度は、PAPRだろうが従来のマスクだろうが余り変わりなかったということです。休んでいるときは、やはり陰圧、陽圧で入ってきますので、PAPRを着けていたほうがほとんど良かったという感じです。
一番差が見えたのは、疲労感です。これは御自分でどのぐらい疲れているかを運動している最中に点数で付けていくのですけれども、やはりPAPRを着けたほうが楽だというのは如実に出ていました。ということで、この研究に関してはやはりPAPRを着けているほうが楽に感じる方が多かったのではないかということが、実験室の中の研究で分かりました。
昨年、1年間掛けて最初に行ったのは、現場でどのような装着状態でやっているかということを調査して、その調査された装着状態に応じてPAPRを着けて、漏れ率がどのように変わってくるのかということに主眼を置いて研究しました。これが本日、一番お伝えしたい所です。対象者ですが、10事業場から御協力いただいて、実際に呼吸保護具を使っている方にご協力頂いて、質問紙により現在の状況とどのように使っているかを調べました。質問紙は、業種、作業歴、どのような使い方をしているか、着け方をしているかというところをお伺いしました。結果ですが、まず業種は鉄鉱業、金属製品製造業、化学工業、コークス製造業、骨材・石工品等製造業となっていまして、200名以上の方に答えていただきました。
使用頻度では、現況ではやはり取替え式防じんマスクが半数以上、使い捨て防じんマスクというのは紙マスクで普通の花粉症とかで使うマスクではなくて、密着性がよい、ただ一回一回使い捨てするような使い捨て防じんマスクのことですが、この2種で大体3/4ぐらいです。中には防毒マスクだけという方がいましたが、防毒マスクは防じん機能も多少はありますので、防毒マスクを使われている方もいるのもうなずけます。ところが、PAPRに関しては、今回の調査の200人の中では1人もいなかったという状況でした。
次に装着状態の話です。ヘルメットの下の頭頂部にヘッドバンドをきちんと着けるのが正しい装着なのですが、正しく装着されている方は大体半分弱で、あとはヘルメットの上から着けていたり、あるいは後頭部にヘッドバンドをずらしていたり、あるいは、タオルや頭巾とかで代用していたりとか、そういう方がおられることがわかりました。当然、ヘルメットの上の固定、後頭部にヘッドバンドを固定、タオルや頭巾の上からなす区を付けるという方は隙間が生じますので、装着していても漏れが生じて、本人は防護しているように見えるのですけれども、粉じんに曝露されているということで、これでは防護になっていません。このような方が実際には作業者の大体半分ぐらいいるのだなということが分かりました。
次は、接顔面と顔面の隙間に入り込むものについて質問したのですが、密着させることがこのマスクでは必要ですので、隙間に入り込むものが何もないのが望ましいのですが、やはりメリヤスを着ける、タオルを巻く、市販のマスクの上に防護マスクを着けるといった方が大体1/3強ぐらい認められました。やはりこの辺りも実態としてはそういうものかなということです。装着理由についてですが、メリヤスを着ける方というのは、どうしても接着面がゴムだと顔がかぶれるので、それを予防するためにメリヤスを着けているという理由や、不快感があるので着けているということで、この辺りは痛しかゆしのところがあるかなと思いました。高熱の媒体の前で作業をする防じんマスクを着けている方は、輻射熱から顔面を保護するためにタオルをしないと熱くてしようがないという方もおられました。この辺りは従来型の固定マスクを着けている限りは、多分ゼロにならない要因ではないかなと思います。ゼロにならないということは、不完全な装着方法なので、じん肺の予防とすれば、患者数がゼロにならない要因とも考えられます。
そのことをまとめたのが次です。実際の作業現場では、必ずしも推奨される装着方法が遵守されていないことと、いろいろな理由があるということで、やむなくいろいろな装着方法が実施されている場合があることが分かりました。
次の研究は、現場での現在の装着方法を基にして、装着の仕方によって漏れ率がどのぐらい変わるかということを、これもまた実験室内でいろいろな作業をして、粉じんを発生させながら漏れ率を測りました。実施手順は次のスライドです。今回、用意したのは取替え式の防じんマスクと、BS-PAPRの割と簡易型のタイプです。装着方法は、標準的方法と、メリヤス装着した方法、ヘルメットの上から装着する方法、タオルを中に入れ装着した方法、ということで実施しました。それに加えて動作の違い、これは国際的プロトコルがあるのですが、普通の呼吸、深呼吸、首を左右に振る、上下に振る、会話を行う、こういう動作を混じえながら、それぞれの動作によってどのぐらい漏れ率が違ったかを調べました。調査、測定風景は、次の写真のような感じです。
漏れ率は、実験室内に粉じん、線香の煙ですがを発生させ、マスク内にチューブを通して、マスク内と外で粉じん量を機械を使って測り、漏れ率を測定しております。漏れ率の許容範囲を5%未満とさせていただきました。漏れ率の定義は、このような式で表しています。実際に使用した呼吸保護具は、取替え式の防じんマスクとBS-PAPRと2種類を使用しました。装着方法はこの写真の次のとおりでして、推奨方法とメリヤスと、ヘルメットの上から固定とタオルを使用した固定という4つのやり方でやりました。
次からは結果ですが、まず、従来のマスクとPAPRでどのぐらい漏れ率の違いがあるかということを示したのが次のグラフです。装着方法に関わらず、標準の着け方では従来のマスクでも1%以下なので、きちんと着けていれば従来のマスクでも漏れ率は基準値以内です。ところが、先ほど御説明したように、現場ではメリヤスを着ける、ヘルメットの上から着ける、タオルを巻くということがありますので、そのような状態では軽く10%を超える結果となりました。これは研究室の中でのデータですけれども、今回の共同分担研究者の岡山の岸本先生のデータでは、現場で同じような状態で漏れ率を測ったところ、30%とか40%の漏れ率を記録したというデータを先日の班会議で、ご報告いただきました。ですから、従来のマスクでも着けているように見えても装着状態によっては、かなり粉じんを吸い込む可能性があることが分かると思います。
一方、PAPRはどのような装着状態でも、御覧いただいたように1%未満の数値をはじき出しており、つまり、何を意味するかというと、邪険に着けていても漏れないという結果を示しています。ですから、これはかなり有用性としては訴えるべきではないかなということです。
次の結果は、動作と漏れ率との関係ですが、左側の4つが従来のマスクでして、従来のマスクでどのように動作を変えても余り漏れ率は変わらないと、きちんと着けていれば大丈夫だということが分かります。メリヤス装着では10%ぐらい、タオルを着けていても漏れるということが解ります。ヘルメットの上から着けると多少漏れ率はは良かったのですが、一方でBS-PAPRを着けたものは、動作に関わらず先ほどと同じように1%未満の漏れ率を示したということで、これは実験室の中のデータですけれども、BS-PAPRを装着している限りは、どのような装着方法、動作を加えてもかなり防御効能というか、効率は良くなるのではないかということが改めて示されました。
ということで、結果をマル1マル2にサマリーで書いてあります。ここでマル1マル2マル3があって結語ですが、呼吸用保護具の選択や漏れ率を考慮した適切な装着方法が、じん肺をはじめとする健康障害予防の一助となると考えるということが書いてあります。参考までですが、例えば今使われている取替え式防じんマスクから、仮にBS-PAPRに全部変更になったとします。そうすると、漏れ率の差が大体1/6ぐらいあるわけですから、粉じんばく露量を1/6以下に軽減できる可能性があるということでして、となると新規の発生数等の数値が劇的に変わってくる可能性があるのではないかなということが示されました。私の話は以上です。
○土橋部会長 どうもありがとうございました。それでは、ただいまの御説明を踏まえ、皆様から御質問、御意見等がございましたらお願いいたします。これはヘルメットでも悪いということですが、やはりちょっと広がってしまうということですか。
○大神参考人 そうですね、保護具の着け方の教育は、学生にも講義するのですが、やはりヘルメットの上から着けるとどうしても隙間というか、フィットテストを実施するときに息が漏れる可能性がちょっとだけ高くなる感じがしています。現場ではやはり外したり、着脱をよく行う所では、ヘルメットの上からかぶったりということをよく見るので、それが気になっていたのですけれども、今回こういう結果が出たということです。
○土橋部会長 ほかはいかがでしょうか。
○大藪委員 メリヤスのほうがタオルよりも漏れ率が高い感じのデータが出ていましたけれども、これはどういった理由なのでしょうか。メリヤスが薄いからですか。
○大神参考人 メリヤスは、やはり結構。
○大藪委員 穴があいている感じですかね。
○大神参考人 穴があいている感じだと思います。
○大藪委員 かえってタオルのほうが厚みがあるから、押し付けるような感じで漏れを防ぐと。
○大神参考人 そうですね、そのように考えられると思います。
○大藪委員 もう1つです。PAPRがとても良いだろうということはよく分かったのですが、これを使うのに当たって、何か気を付けないといけないメンテとか、どうなのでしょうか。
○大神参考人 一番軽いタイプで、板状のリチウム電池があります。これはある間隔で充電をしなければいけないとのことです。電池の重さに関しては、今回お出しいたしませんが、アンケート結果はやはり重いという感想がありました。どうしても首が重たくなるという意見もあったので、軽量化というのが今後の課題だと思いますし、軽量化と同時にやはりメンテナンスですね。従来のマスクですと、フィルターを外して洗濯機で洗って、何回も使うことが可能なのですが、PAPRはどうしてもセンシティブな部分があると思いますので、そんなにジャブジャブとは洗えないかもしれないと思います。一応メーカーからは、ある程度シールをして、洗えるようなものは使っているという説明はあったのですけれども、今後メンテナンスの点で、どこまで性能を保てるかというのは、1つの鍵になるのではないかと思っています。
○土橋部会長 ほかにいかがでしょうか。
○漆原委員 PAPRが効果的であるということは分かったのですが、今回の調査では、たまたま全員がPAPRを付けていない職場だったということで、実は現場には結構普及しているのか、あるいは市場にはそれほど出回っていないのかというところが、もし分かれば教えていただければと思います。
○大神参考人 私は嘱託の産業医先でコークス業を担当しているのですが、従業員が大体300人いる中で、コークスのメンテの作業の方も関連会社でおられまして、その方々はほとんど皆さん持たれているのです。ですから、たまたま今回200人の調査の中には入っていなかったという残念な結果だったのですが、使用されている所はやはりあると考えています。ですから、もし次年度以降の研究の機会がありましたら、もう少しPAPRを実際に使っている現場で、漏れ率が本当にこのぐらいの値が出るのかどうかというのは、調べる価値があると思っています。
○漆原委員 分かりました。
○土橋部会長 ほかにいかがでしょうか。
○田久委員 所属事業場は、基本的にはここでいうと、鉄鉱業とかを含めてですけれども、建設も今マスクというのがあると思います。今回、入っていないというところも含めて、やはり今後はそこも含めて研究はしていただきたいと。今後、どうしても解体が増えていく関係では、やはりそういったところが厚労省の中でも建設の重点分野になっているはずなので、そういったところの状況、恐らくこれよりひどい数字だと思うのですが、ほぼ使われていないというのもありますので、こういったことも少し研究していただきたいなというのが1つです。
もう1つは、その際に、製造現場ですと工場内ですので、工場のルールだということになりますが、建設ですと外の住民に対する見た目ですね。予防のためにしていても、あれをしていると相当そこの現場はひどいのかと。予防のためにやっているのに、ひどいのかと言われて外したことがある組合員さんもいて、予防しているのに外せと言われて、インフルエンザが流行ってきてマスクしているのにお前外せと言われているのと一緒で、そういう状況が生まれてくるので、国全体もやはりそこも含めて研究して、周知を広げるというか、予防でやっているということもきちんと啓発するようなことは、ちょっと今の研究とは違うのですけれども、必要ではないのかなと思っています。是非ここはお願いしたいというので、研究は建設も入っているので、建設の立場ですので代表してお願いしたいなと思います。
○土橋部会長 ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。それでは、議題としては以上ですが、その他の事項について事務局から何かありますでしょうか。
○主任中央じん肺診査医 事務局からは、今のところは特にございません。
○土橋部会長 それでは本日、全体を通して何かほかにございますか。よろしいでしょうか。それでは本日の部会は、以上をもって終了といたします。なお、議事録についてですが、労働政策審議会運営規程第6条第1項により、議事録には部会長の私と、私の指名する委員の2人が署名することとなっております。署名は、労使代表1名ずつとしたいと思います。本日の議事録の署名は、労働者代表の漆原委員と、使用者代表の佐藤委員にお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。それでは皆様、お忙しいところありがとうございました。以上をもちまして、閉会といたします。