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第6回 解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会(議事録)
日時
平成31年3月19日(火)10:00~12:00
場所
厚生労働省共用第8会議室(11階)
(東京都千代田区霞が関1-2-2 )
(東京都千代田区霞が関1-2-2 )
出席者(五十音順)
岩村正彦 東京大学法学部教授
垣内秀介 東京大学大学院法学政治学研究科教授
鹿野菜穂子 慶應義塾大学大学院法務研究科教授
神吉知郁子 立教大学法学部准教授
小西康之 明治大学法学部教授
垣内秀介 東京大学大学院法学政治学研究科教授
鹿野菜穂子 慶應義塾大学大学院法務研究科教授
神吉知郁子 立教大学法学部准教授
小西康之 明治大学法学部教授
議題
解雇無効時の金銭救済制度の検討に関する議論の整理
議事
○岩村座長 それでは、定刻でございますので、ただいまから第6回「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」を開催いたします。
委員の皆様方におかれましては、年度末のお忙しい中をお集まりいただきまして、まことにありがとうございます。
本日の出欠状況でございますけれども、中窪裕也委員が御欠席ということでございます。
また、法務省から、オブザーバーとしまして、法務省民事局の秋田純局付にも御参加をいただいております。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、初めに、事務局から、きょう配付いただいている資料の確認をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
○坂本労働関係法課課長補佐 それでは、お配りしました資料の御確認をお願いいたします。
本日は3種類の資料をお配りしておりまして、まず、資料1でございますけれども、A3の横置きの紙でありまして「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関するこれまでの検討会における主な議論の整理」というタイトルのものでございます。
資料2はA4の横置きのものでありまして「解消金の性質について」。
資料3が同じくA4の横置きの紙で「賃金請求権について」。
以上3種類と座席表をお配りしております。不足等ございましたら、事務局までお申しつけください。
○岩村座長 ありがとうございました。
それでは、早速、本日の議題に入りたいと思います。お手元の議事次第にございますように、本日の議題は「解雇無効時の金銭救済制度の検討に関する議論の整理」ということになっております。
本日のこれからの進め方でございますけれども、まず、事務局から御提出いただいている資料の説明をいただき、その後、それらの資料を踏まえて御議論いただくという流れとさせていただきたいと考えております。
では、まず、事務局から資料の御説明をいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
○坂本労働関係法課課長補佐 それでは、資料につきまして説明させていただきます。
主にA3横置きの資料1「これまでの検討会における主な議論の整理」に基づきまして説明をさせていただきます。
資料1につきましては、引き続き御議論いただきたいところを中心にアンダーラインを引くとともに、前回の御指摘を踏まえて、記載を若干修正しているところでございます。
主に修正をしている箇所及び御議論いただきたい点につきまして、説明をさせていただきます。
前回と同じように、四角囲みの部分で論点を掲げさせていただいております。論点は計10点ございます。
まず「対象となる解雇」につきましては、特段修正はしておりません。
次に「権利の発生要件」の部分で、一番右の「これまでの検討会における主な議論」の部分ですけれども、前回、こちらは記載が少しわかりづらいのではないかという御指摘がありましたので、2文に分けて記載しております。
まず、1文目は「労働契約解消金請求権の法的性質は、形成権であると解される」としております。
次のポツのところで、労働者が権利行使の意思表示として解消金を請求しまして、使用者が解消金を支払うことで労働契約が終了するという効果が発生する仕組みとしております。
その次の文は追記をしておりますけれども、労働契約が終了する根拠としましては、今回、新たに実体法に労働契約の終了事由を規定するというものでございます。
その下にいきまして、権利行使の方法でございますが、真ん中の列のところにアンダーラインを引いておりますが、権利行使の方法については「訴えの提起及び労働審判の申立てに限る」と記載をしております。
この関係で論点①でございますけれども、以前のヒアリングの際にも御意見がございましたが、労働審判の申立てというのを権利行使の方法に含めるかどうかという部分でございます。
論点にも記載しておりますとおり、労働審判の場合ですと、原則として3回の審理で結論を出すということになりますので、そうした制度を前提にすると負担が大き過ぎるという懸念もあるのかもしれません。
一方で、訴えの提起のみに限定してしまうと、労働者にとっては本制度を利用するハードルが非常に高くなるという懸念があるのではないかと考えております。
その下の段落ですけれども、労働審判の場合でも、本制度をうまく使うことで紛争解決が促進される事案は一定程度あると考えられますので、労働審判になじまない事案ということであれば、労働審判法24条によって審判手続を終了して、訴訟に移行するということもできるかと思いますので、労働審判の申立てによる意思表示もここに含めることとしてはどうかという論点を記載しております。
次に、2ページ目でございます。
右上の部分にアンダーラインを引いておりますが、裁判上の権利行使に限った場合のデメリットへの対応方法ということで、その前の部分にも記載をしておりますけれども、権利行使の方法を裁判上に限ったとしても、金額を労使間で合意できないまま、使用者が一方的に相当だと考えられる金額を払うという弊害は排除されないわけでありますが、そうしたことへの対応方法としまして、前回までの資料では2つの選択肢を記載しておりました。
1つ目は、今回は記載しておりませんけれども、権利行使の意思表示の効果の発生を、判決等で額が固まったという停止条件にかからしめる案。
もう一つが、今回記載しておりますが、労働契約解消金の支払いの効果である労働契約の終了というのは、権利行使後の当事者間での合意の成立ですとか、判決等でその額が確定した以後に発生するというものでございまして、前回の御意見を踏まえまして、この部分につきましては、判決等で額が確定した以後に労働契約の終了の効果が発生するという記載をさせていただいております。
それから、点線の下に行きまして、意思表示の撤回の関係でございます。
こちらは論点②として掲げておりまして、まず、今回、実体法で撤回の規定を設けるという前提でございますが、意思表示の撤回を認める時点は、簡素な制度設計の観点から、訴訟法上認められております訴えの取下げが可能となる判決確定時というタイミングまででよいかというのが1つ目の論点でございます。
2つ目としましては、訴えの提起後、裁判上または裁判外の和解によりまして労働契約解消金の支払いの合意に至った場合、これは労使間で合意をするわけですが、その合意以後は意思表示の撤回はできないということでよいかという論点でございます。
この関係を少し細かく右側のほうに記載をしておりまして、具体的にいいますと、アンダーラインを引いている段落の2つ目、「意思表示の方法を裁判上の行使に限定するならば」という段落でございます。
これは前回も似たような記載をしておりますが、訴訟法上は訴えの取下げは判決確定時までできるということとの平仄も考慮し、判決確定時までとすることですとか、一方でヒアリングでも御意見がありましたけれども、本案判決の基準時である口頭弁論終結時まで可能とすることが理論上は考えられると。
先ほど論点で掲げましたとおり、今回、記載しておりますのは、訴えの取下げと同じように判決確定時までということでありますけれども、前回御意見をいただいたとおり、仮に判決確定時までとしても、口頭弁論終結時までとしても、いずれの場合でも、少しレアケースと思われますが、若干問題が生じる可能性がある。ただ、いずれにしましても、この問題の程度というのは比較的低いと考えられますので、今回は訴えの取下げが可能な判決確定時まででよいかという論点でございます。
念のため、その下のところも御紹介しますと、仮に判決確定時までとした場合の課題でございます。具体的に判決が言い渡されて、当事者に送達されて、14日間で判決が確定するわけですが、その確定をする前に労働者が意思表示の撤回を行った場合です。
これは判決確定時まで撤回が可能な場合ですので、意思表示の撤回はできますけれども、その場合に、何らかの理由で訴えの取下げを行わない状態のまま判決が確定した。そういったケースを考えますと、これは意思表示の撤回はやっていますけれども、訴えの取下げ自体はやっていませんので、判決が出てしまう。そうしますと、使用者側からは、仮に強制執行等を求められた場合には、それを許さない旨の判決を求める「請求異議の訴え」を提起しなければならないという手間が生じると思われます。
そうした口頭弁論終結時までとした場合の課題ですけれども、こちらは時期的にフェーズを2つに分けております。
まず、口頭弁論が終わって判決が言い渡される前に労働者が訴えの取下げを行った場合です。この場合は、判決確定前ですので、訴えの取り下げは行えますけれども、口頭弁論が終わっていますので、意思表示の撤回は行えない。そうしますと、実体法上、労働契約解消金の請求権自体は残っておりますし、判決前ですので、再訴ということでもう一回訴訟を提起することも可能であると。そういう状態であるにもかかわらず、意思表示の撤回ができないとする必要があるのかどうかという疑問が残るところであります。
「また」以降は、時間的にもう少し後ろですけれども、判決が言い渡されて確定される前に労働者が訴えの取下げをした場合です。この場合は同様に意思表示の撤回は行えなくなりますので、実体法上も労働契約解消金の請求権自体は残りますけれども、判決言い渡し後の取り下げですので、再訴ができない。再訴ができないので、判決が確定しませんので、労働契約の終了という効果が生じない。ただ、労働契約解消金の請求権は残っているという、若干不自然な法的状態が残る可能性がございます。
いずれにしましても、こうした問題というのは非常にまれなケースだと思いますので、問題の程度は低いのではないかと考えております。
次に、3ページの一番上の部分は、これもヒアリングで御意見がありましたけれども、使用者による解雇の意思表示の撤回の問題でございます。
右側のアンダーラインの部分に考え方を記載しております。労働契約解消金請求権の発生後、あるいは労働者が労働契約解消金の請求を行った後に、使用者が解消金の支払いを回避するために、解雇をしたのだけれども、その解雇の意思表示は撤回するといった場合ですが、まず、①の部分で、そもそも解雇の意思表示というのは形成権だと解されておりますので、それは撤回できない。これは基本的には解雇が有効な場合と思われますが、撤回ができない。
②としましては、労働契約解消金制度の対象というのは無効解雇でありまして、本来的には撤回の対象となる解雇の効果自体が発生していないという状況でありますけれども、仮に事実行為としての解雇の意思表示を撤回できたとしても、既に無効解雇がなされたという事実自体は残りますので、労働契約解消金請求権の発生後、または権利行使後の権利の帰趨には影響はないのではないかということを記載しております。
それから、点線の下は若干類似の論点でありますけれども、無効解雇をした使用者が就業命令を出せるかどうかというところであります。
こちらも右側に考え方を記載しておりまして、無効解雇の場合は、先ほど御説明したとおり、そもそも労働契約が継続しておりますので、当然、使用者は労働者に対して就業命令を出すことができますので、労働者はそれに従って就労義務を負うであろうと考えております。
ただ、なお書きで記載しておりますのは、就業命令を出す際というのは、明らかにどう考えても職場に戻れないような状況で就業命令を出したとしても、それによって就労の意思がないと解釈されるかというのはやや疑義があるところですので、基本的には労働者が適切な環境で業務を遂行することができるよう、使用者としては受け入れ環境を整備する必要があると考えております。
その下のポツは、そういったケースにおきまして、実際に労働者が就業命令に従わない場合のバックペイの取り扱いでありますが、基本的には就労の意思がないということでバックペイが発生しない場合もあると考えられますけれども、先ほど申し上げたとおり、明らかに就労が難しい状況で就業命令が出されて、それに従わない場合に、一律に就労の意思がないと解されることではないと思いますので、就業命令の具体的な内容等に応じて判断がなされるのではないかと考えております。
論点③につきましては、1つ目のくさびはそれと同様のことを記載しております。
2つ目のくさびの部分は、労働者が実際に就業命令に従わなかった場合に、就業命令違反として解雇されるのではないか。これは2回目の解雇と捉えれば「再解雇」と呼んでもよいのかもしれませんが、そうした再解雇の有効性につきましては、労働契約法の解雇権濫用法理に照らして判断されるという理解でよいかどうかというところを論点にしております。
その下の点線の部分は、こちらも前回記載ぶりについて御指摘いただきましたので、権利の放棄の可否の部分を若干加筆しております。
アンダーラインを引いているところでありますけれども、解雇の意思表示の前に、労働契約や就業規則であらかじめ解消金の請求権を放棄させるということは、公序良俗に反して無効と解されるのではないか。
一方で、解雇の意思表示によって解消金の請求権が発生した後に、合意解約等で当該請求権を放棄することは認められるという記載をしております。
その下の相殺・差押えについては、特段の修正はしておりません。
次に、4ページにつきましては「労働契約解消金の位置づけ」でありまして、こちらも前回御指摘いただいた中身を少し反映しております。この論点につきましては、資料2と3を用いまして御説明をさせていただきます。
まず、資料3でございますけれども、こちらは前回御指摘いただいた内容に対して、事務局のほうで整理をしたものであります。
前回御指摘いただきました内容としましては、資料2にありますとおり、仮に労働契約解消金の中にバックペイを含めるようなパターンをとったときに、賃金請求権という一つの債権にもかかわらず、その一部分についてのみ何か特定の効果を与えるようなことにならないのかという御指摘をいただいております。
資料3の上の部分につきましては、賃金請求権の法的性質でございまして、こちらは山川先生の本から引用させていただいておりますけれども、真ん中に記載してありますとおり「賃金請求権(具体的請求権としての支分権)」と記載しております。
米印で注意書きを書いておりますけれども、法律上の用語としまして、例えば、各期に支払うべき個々の債権を生み出す基本的な債権につきましては「基本権」という呼び方をしております。その基本権に基づきまして、その効力として具体的に各期に発生する一定額の支払いを内容とする個々の債権を「支分権」と呼んでおります。賃金請求権につきましては、基本的には賃金の締め日を起算点として発生する支分権であるという記載がこちらでなされております。
資料3の下半分につきましては、通常の賃金債権とバックペイにつきまして、請求原因が同じなのかどうかという御指摘も前回いただいております。
こちらも出典のところに書いております書籍から確認しておりますが、(1)が通常の賃金債権でありまして、(2)がバックペイでありますけれども、具体的には(1)のところであれば、④の「請求の期間における就労をしたこと」が請求原因になっております。
バックペイにつきましては、民法536条2項によりまして、さらに請求原因が追加されるような形になっておりまして、④のところで「請求に対応する期間において労務提供が不可能(履行不能)になったこと」と。その履行不能が使用者の責めに帰すべきことということで、右側のところにも記載しておりますが、同一の労働契約に基づく賃金請求権であることは同じでありますけれども、請求原因は通常の賃金債権とバックペイでは異なるということが解釈上示されております。
これを前提にしまして、資料2をごらんください。資料2は、前回お示ししたとおり、パターン1、2、3と3種類を記載しております。論点部分以外につきましては、特に修正はしておりません。
念のためもう一度申し上げますと、パターン1につきましては、解消金とバックペイと損害賠償を3つの債権ということでそれぞれ区切った分け上で、解消金の支払いのみで労働契約が終了する。
パターン2につきましては、パターン1をベースにしつつ、使用者のほうから一部しか弁済がなされなかったときには、先にバックペイに充当されて、バックペイの充当が全て終わったら解消金のほうに充当されるという案でございます。
パターン3につきましては、そもそも解消金の中に労働契約解消補償金とバックペイの2つを入れまして、この両者が払われたときに労働契約が終了するというものでございます。
論点でございますけれども、パターン2の論点4-1でございます。まず、前段の部分で、労働契約解消金より先に充当するバックペイの範囲を判決で支払いを命じられた分とすることとか、バックペイの範囲に解雇前に生じていた未払い賃金を含まないとすることは、同一の労働契約に基づく賃金請求権の一部について、特別な効力を付与することになるとも思われるが、そのような構成が可能か。これは前回御指摘いただいた内容でございます。
先ほどの資料3を前提にしますと、あくまで支分権でありますので、各期の債権ということで一定の線引きはできるのではないか。それに加えまして、バックペイと通常の賃金債権、未払い賃金債権もそうですけれども、それにつきましては請求原因が異なるということで、そういった意味での線引きも可能なのではないかと考えております。
論点4-2につきましては、具体的には最後の部分ですけれども、先に充当するバックペイには遅延損害金を含めるということでよいかどうかという確認でございます。
パターン3について記載している論点もほぼ同様でありまして、論点4-4はパターン2でいう論点4-1と同じものでございます。
論点4-5は、パターン2でいう4-2と同じでございます。
論点4-3は、前回同様、引き続き記載させていただいておりますけれども、パターン3の場合は、労働契約解消補償金だけではなくて、バックペイも払われたときに契約が終了するという形で、解消金にバックペイを含めるという形にしておりますが、このような理論的説明をどのように考えるかというところを論点にしております。
ちょっと長くなって恐縮ですが、資料1のほうにお戻りください。
資料1の4ページの点線の上まで先ほど御説明しましたので、その点線の下の部分でございます。
論点⑤の関係で、右側にアンダーラインを引いておりますとおり、これもヒアリングで御指摘があった事項ですけれども、労働契約解消金とバックペイを併合提起した場合に、そのバックペイの範囲につきまして、何か制限を加えるかどうかという点でございます。
「また」以降で記載しておりますけれども、労働契約解消金というものをバックペイなどのほかの債権と異なるものとして新設する債権と考えるのであれば、新たにこうした請求権ができることによって、既に民法536条2項に基づいて発生していますバックペイ請求権が制限される合理的理由はないのではないか。
その下のポツの部分でございますが、仮にバックペイの発生期間を短縮するという形で制度を考えるのであれば、本来的には、労働契約の終了の時期を前倒しするという意味で、労働契約解消金の請求の意思表示をした時点で労働契約が終了するという制度をつくることも理論上は考えられますけれども、そうした場合ですと、結局、裁判の訴えをした時点で労働契約が終了しますので、実際に判決も出されておりませんし、ましてや解消金の支払いもなされていない。そういう状態で労働契約が終了するということが、実際に労働者にとって選択肢となり得るのかというところは論点なのかなと考えております。
論点⑤は、そういった観点で、民法536条2項により発生するバックペイを制限するかどうかというところを記載しております。
続いて、資料の5ページは「労働契約解消金の算定方法」でございます。
こちらも上のほうは修正しておりませんが、解消金については、真ん中の列の上に書いておりますが、一定の算定式により算出された基準額をもとに、解雇の不当性、労働者の帰責性の度合いを勘案して算定する方法が考えられる。
一番右の列の真ん中あたりのアンダーラインのところに行きまして、前回、労働契約解消金の定義を2つに分けた上で、そこから解消金の考慮要素を見出していくのか、それとも一文にした上で見出していくのかというところでしたけれども、こちらも前回の御議論を踏まえまして、解消金の定義を一文として捉えた上で、客観的な考慮要素としては、勤続年数、給与額、その他調整率、それ以外の一定の評価が必要な考慮要素としては、個別の事案ごとの解雇の不当性とか労働者の帰責性を考慮することが考えられるという記載をしております。
このうち客観的な考慮要素の中の「その他調整率」につきましては、前回も御議論がありました年齢と企業規模について、点線以下で少し詳細に記載しております。
下のほうに行きまして、年齢のアンダーラインでございますが、こちらは前回の資料には年齢は入れておりませんでしたけれども、我が国の雇用慣行に照らせば、年齢は基本的には勤続年数とか給与額と重複する要素であると考えられますが、例えば非正規雇用労働者のように勤続年数と処遇の関連性が低いという実態もある中で、考慮要素に加える必要性については精査が必要ではないか。
もし仮に年齢を考慮要素に含める場合としては、例えば再就職の難易度の代替指標という形で年齢を位置づけて、再就職の難易度に照らして、現在の労働者としての地位を解消するか否かを選択することを評価する要素と位置づけることが考えられるのではないかという記載をしております。
次に、6ページは企業規模でございます。
前回までの資料では、調整率の中に企業の支払い能力という形で調整率を記載しておりましたけれども、こちらも少し考え方を整理しております。
まず、企業規模につきましては、支払い能力を考慮する要素と考えるのであれば、こちらも前回御指摘がありましたとおり、給与額と重複するということも考えられますけれども、年齢と同様に、非正規雇用労働者の方の場合ですと、企業の支払い能力と処遇の関連性が必ずしもあるとも限りませんので、そういう場合に、考慮要素に加える必要性について精査が必要ではないかという記載でございます。
仮に企業規模を考慮要素に入れるとすれば、その理由としては2つ考えられるのではないかということで、案を記載しております。
まず、①につきましては、将来における雇用の安定性は企業規模によって異なるのではないかということで、そういったものを評価していく要素。
②としましては、雇用管理能力も一般的には企業規模によって変わるのではないかということで、その代替指標として企業規模を位置づけて、雇用管理能力に照らして、無効な解雇をしてしまった場合の不当性を評価する要素ということで記載しております。
その下でございますけれども、こちらは論点⑦の関係で、事前の集団的労使合意でございます。こちらも前回から少し考え方をブラッシュアップしておりますけれども、事前の集団的労使合意によって算定方法に企業独自の定めを置くことを認めるか否かというところ、こちらは基本的には政策判断であると考えられますが、仮に認めるとした場合には、算定式の中にある調整率のような各係数についての別段の定めを認めるのか、それとも算定式自体に係る別段の定めを認めるのかで、少し分けて考えることができるのではないかと思っております。
まず、前者の各係数についての別段の定めですけれども、こちらにつきましては、①②と2つ記載しておりまして、調整率等の各係数であれば、客観的に水準を上回るか、下回るかというのは判別できますので、そういった水準を上回る変更のみ認めるか、場合によっては下回ることも含めて、一定の範囲内で認めるかという選択肢を記載しております。
それから、算定式全体に係る別段の定めですが、こちらも前回御意見がありましたとおり、そもそもまるっきり企業独自のものを認めるということになりますと、法令等における解消金の水準との関係が、個別のケースで見たときには超えるかもしれないけれども、超えないかもしれないということで、なかなか判別が難しいといったような課題があるのではないかと考えております。
左側の論点⑦でございますけれども、1つ目のくさびはそもそも的なところを記載しておりまして、事前の集団的労使合意によって別段の定めを置くということをどのように考えるか。
これを具体的に見ますと、労働契約解消金というのは、あくまで労働者としての地位を解消する対価でありまして、労働者個人の選択によって請求して、判断されるものだと。そういったものの対価を事前の集団的労使合意という形で決定していく、範囲を決めていくということについて、どのように考えるか。認める場合には、先ほど申し上げたとおり、その範囲をどうするかというところでございます。
その下の2つ目のところはやや確認的でありますけれども、もし仮に事前の集団的労使合意による別段の定めを認めるとするのであれば、そうした集団的労使合意が適法になされた場合には、法令等における調整率に優先して、裁判所ないし労働審判委員会の判断を拘束するという整理でいいかどうかの確認でございます。
その下の論点⑧は、前回と同様でありまして、労働者の帰責性に応じて減額することの必要性、合理性をどのように考えるかというものでございます。
最後に、7ページにつきましては、上下限の関係でありまして、6ページの下のほうから記載しておりますとおり、まず、算定式に基づく基準額につきましては、算定式の各係数に上下限を入れることによって、一定の上限、下限が設定できると考えております。
その下の「基準額を基に個別事案ごとの状況を考慮した算定」でありますけれども、こちらも前回までの議論を踏まえまして、一定の減額については、下限を設けることが考えられる。
「なお」以下につきましては、今回、論点⑨でお示しさせていただいたとおり、御議論いただければと思っていますけれども、本件については、解雇が無効であるということに鑑みれば、少なくとも50%以下に減額されることはないのではないかという記載をしております。
最後、一番右側の列の下2つでありますが、下から2つ目の部分は労使の主張立証責任でございます。こちらにつきましては、現行の地位確認訴訟と比較をしまして齟齬や矛盾が生じないように、制度設計のタイミング、特に条文を規定する際には十分な検討を行うことが必要と記載しております。
論点⑩につきましては、こちらは前回のヒアリングの際にも御指摘がありましたけれども、労働契約解消金と労働者自からの辞職の扱いをどうするかということでございます。具体的に想定されますのが、解消金の請求をしていて、裁判で判決が出る前にみずから辞職をするという場合に、その効果をどう考えるかというものでございます。
考え方を右側に記載しておりますが、労働者としての地位を解消する対価として労働契約解消金を請求するということと、労働契約終了の時期をいつにするか。これは具体的には、解消金の支払い時まで待つのか、それより前であっても、労働者自身が時期を決定して辞職するのかというのは、基本的に別の問題として整理ができるのではないかと思っておりますので、解消金の請求中に辞職したとしても、権利の帰趨に影響はないという記載をしております。
資料に記載し切れておりませんが、これをもう少し別の観点から考えますと、パターンとしては、解雇された後、解消金の請求をする前に辞職されるという場合も恐らくあり得ますので、そういった場合にも権利の帰趨に影響があるか、ないかという点につきましても、追加的に御議論いただければと思っております。
以上でございます。
○岩村座長 ありがとうございました。
それでは、ただいまの御説明を受けて、これから御議論いただきたいと思いますけれども、今おわかりのように、検討すべき論点が多いということもありますので、前回と同様に、資料1の6つの項目ごと、つまり「対象となる解雇」「権利の発生要件」「労働契約解消金の位置づけ」「労働契約解消金の算定方法」「権利行使の期間」「その他」という項目ごとに御議論いただければと存じます。
それでは、最初の「対象となる解雇」につきまして、何か御意見、御質問がありましたら、お出しいただければと思います。
これはもう前回までで大体コンセンサスは得られていると思いますので、よろしいでしょうか。
では、次に「権利の発生要件」のほうに参りたいと思います。こちらにつきましても、御意見あるいは御質問を頂戴できればと思います。
きょうは特に労働契約解消請求権の法的性質とその後の一種の法制度設計について、事務局のほうで整理していただいたと思いますけれども、特にこれでよろしいかどうかということかと思いますが、いかがでございましょうか。
では、垣内委員、どうぞ。
○垣内委員 まず、1ページの法的性質等についての説明を追加していただいたところに関してなのですけれども、整理の内容については私は特に異論はございません。前回までの記載に比べて、より誤解のない形の整理になっているのではないかと思います。
1点、さらに何か考えるとすればということなのですが、これは実質というよりも言葉の使い方の問題として、「労働契約解消金請求権」という言葉が使われていて、それが形成権であるという説明になっているのですけれども、ここで問題となるのは、お金を請求するかどうかの意思表示をするという話と、意思表示をすると金銭請求権が具体的に発生するという話があります。
「労働契約解消金請求権」という言葉は、請求権というところからすると、具体的な金銭請求権のことのようにも思えるし、「形成権」と呼んでいるのは、その前段階の金銭請求をするという意思表示をする権利のことを言っていると思いますので、今後、議論をさらに進めていく際には、そこは言葉を分けて両者の紛れがないような形で議論できるようにしていけるといいのかなと。今、どういう言葉にすべきだという具体案を持ち合わせているということではないのですが、今後の課題としてそういう点があるかなと思いましたので、発言させていただきました。
○岩村座長 ありがとうございました。
特にそれは民事訴訟法の先生方のほうがそういうところはあると思うのですが、実体法上、そこを使い分けている例がほかに何かありますか。
○垣内委員 金銭請求権を発生させる形成権というのは、例えば、相続法改正で遺留分減殺請求権というのが。ただ、これは「減殺請求権」という名前になっていますので、減殺請求をした後の金銭請求権はまた別だというのはわかりやすいのですが、ここは「解消金請求権」ということになっていて、他の例ですと、例えば建物買取請求権とか、これは形成権を請求権と呼んでいるわけですけれども、請求の内容が買い取りということなので、それ自体が金銭請求権、例えば建物代金請求権とは違うということは、言葉から明らかなのですが、ここは解消金請求権となっているので、そこをどう工夫するかという問題かなと思っております。
いずれにしても、これは実質より言葉遣いの話かと思います。
○岩村座長 ありがとうございました。
すぐには結論が出る問題ではないようにも思いますので、また検討していただければと思いますが、この点、ほかにはいかがでございましょうか。
では、鹿野委員、どうぞ。
○鹿野委員 今の点なのですけれども、実体法上、確かに「請求権」という言葉を使って形成権だというものはいろいろとありまして、今も例を挙げてくださいましたし、賃貸借のときにも賃料の増減額請求権等がありますし、それから、民法の改正で、今まで「瑕疵担保」と言っていたものが契約不適合という制度に組みかえられて、そのときに代金減額請求権が、従来も一部はあったのですけれども設けられまして、その代金減額請求権というのは形成権であると理解されているところです。
代金減額請求権を行使したら、結局、もう既に代金を払っているときには、それを返せというような、その意味では損害賠償請求と少し似たような機能を一部果たすような具体的な金銭的な請求権が出てくるのですが、先ほどの御指摘のように、そこでもその形成権は代金減額の請求権であって、ここで使われているように解消金といった金銭の請求権という形ではないのでです。「解消金」とここで使っているのが紛らわしいということなのだろうと思います。
ですから、「請求権」という言葉は残してもいいかもしれませんけれども、その前のところを少し工夫していただければという御趣旨だったのではないかと理解しておりますし、私もそれについては賛成です。
○岩村座長 しかし、そうなると、アイデアとしては労働契約解消請求権ぐらいしか出てこなくて、それは他方で、若干世間的には誤解を与える可能性もあって、難しいところがいろいろありますね。またこれは事務局のほうで引き取って、御検討いただければと思います。
その他、点線の下の部分、具体的には論点①で示されている点がありますが、いかがでございましょうか。
ここも前回までで大体コンセンサスはできていたと思いますけれども、それを確認するということでよろしいでしょうか。
ありがとうございます。
それでは、次のページに参りまして、一番上の右側に下線部があります。契約の終了については、権利行使後の当事者間での合意の成立や判決、労働審判でその額が確定した以後に発生すると。これはこれでよろしいと思うのですが、よろしいでしょうか。
次に、点線から下に行きまして、撤回の問題です。右側の下線部にあって、先ほど課長補佐から御説明いただいたところでありますが、レアケースのような問題が存在するのですが、論点②に示されているところで、いずれも「よいか」となっていますが、よいのではないかと思いますけれども、その辺、いかがでございましょうか。それともそこまで結論を出すには、レアケースについても一応考えて、答えを出しておいたほうがいいということになるのか。
では、垣内委員、どうぞ。
○垣内委員 結論としましては、判決確定時まで撤回できるという方向でよろしいのではないかと私は考えております。
確かに撤回がされたのに取下げがなされないとか、取下げがされたのに撤回がなされないという事例というのは論理的には考えることはできまして、その際、どう処理するのかという問題は、いずれの時点に撤回の終期を置いても何らかの形で出てくる問題はありますので、実際に出てきた場合には検討が必要な話であろうとは思いますけれども、ここでの出発点としましては、きょうの2ページの一番右の列の中ほどにありますように、一方では、例えば判決が既に確定して、使用者としても解消金を支払えば労働契約の解消という効果が得られるという地位が確定的に生じている段階では、もはや一方的に労働者の意思で撤回を認めるのは適切ではないだろうというところが出発点で、そこは大きな御異論はないのかなと理解をしております。
そうしますと、問題は、撤回を判決確定時まで許すとするのか、それよりも前倒しして口頭弁論終結時までに限るのかというのがここでお示しになっている問題ですけれども、あえて判決確定時よりもさかのぼらせて撤回を制限するという理由・必要性がそれほど見出せないということではないかと考えております。そうなりますと、冒頭に申しましたように、判決確定時までということでよろしいのではないかと私自身は考えているところです。
以上です。
○岩村座長 ありがとうございます。
ほかにはいかがでございましょうか。
基本的には、垣内委員がおっしゃるように、判決確定時までということで線を引いたときには、法的安定性という観点からしても、そこが一番高くて、それより前にするというのは余り必要性がないのかなという気は私もします。
それでは、左側で示されている論点②の上のほうは判決確定時ということにして、下のほうはいかがですか。さすがに合意した後、撤回というのは、通常の合意というのは両当事者の一種の契約でありますので、それを覆すような意思表示の撤回というのは、原則としても普通は認められないということだと思いますので、これはやはりできないということでよろしいかと思いますが、よろしゅうございましょうか。
ありがとうございます。
次に、3ページ目ですが、使用者側の解雇の意思表示の撤回をめぐる問題というのが最初にございます。これについてはいかがでしょうか。
これも前回までの議論で大体コンセンサスはいただいていたと思いますので、よろしいでしょうか。
ありがとうございます。
次に、点線の下になります。解雇無効の場合に、使用者が労働者に対して就業命令を出すことができるかという件であります。もし何かあれば、これはむしろ労働法の先生のどなたかに御発言いただくほうがいいかなと思うのですが。
では、鹿野委員、どうぞ。
○鹿野委員 労働法の専門ではないので1つ質問させていただきたいと思います。従来、解雇無効のときに地位確認という形で争うということがあったと思うのですけれども、そのときもバックペイがいつまで発生するかということは問題となっていたと思うのです。そのときに、使用者としてこれは有効な解雇だということを一方では主張してしながら、他方で、労働者のほうがそれは無効だとして争っているから、そうであれば、とりあえず暫定的に職場に来て働きなさいというようなことはあったのでしょうか。
現実的にどうなのかなというのを知りたいのです。この制度をつくるときの1つの危惧として、バックペイをとめるために使用者がこういうことを形式的にすることがあるのではないか、そのときのために何か考えておこうということだと思うのですが、従来、どうだったのかということを教えていただければと思います。
○岩村座長 では、事務局、お願いします。
○坂本労働関係法課課長補佐 大変恐縮ですが、実例は把握していないのですけれども、理論上はあり得ると思いますが、我々が今把握している限りでは、解雇しつつ、その後、使用者が争っている最中に就業命令を出すということは、ちょっと聞いたことはないところであります。
先ほど先生から御指摘ありましたとおり、そういうケースで就業命令を出して、労働者がそれに従わない場合に、必ずバックペイがとまるかというのは、これはひとえに就労の意思がそれでなくなったと言えるかどうかということだと思いますので、この点は基本的には裁判等で個別具体的に判断されるのではないかなと考えております。
○岩村座長 私も労働委員会をずっとやっていましたが、解雇無効だと言いつつ、あるいは不当労働行為ではないと言いつつ、しかし、働けという命令を出すという話は聞いたことがないです。
ただ、この前の労側のヒアリングだと、そういうことを指南している人がいるという話ではありましたが、法的には矛盾した行動なので、就労しないから就労の意思がなくなるというのは、ケース・バイ・ケースですけれども、それを認めるというのはなかなか難しいのかなと個人的には直感的に思います。
ここの点は、論点③の四角の中のような整理ということでよろしいでしょうか。
では、そういうことにしたいと思います。
次の点線部分でありますが、放棄についてであります。これももう大体コンセンサスは得ていると思いますけれども、よろしいでしょうか。
その後、相殺・差し押さえについても、既に議論済みであるので、よろしいと思います。
では、次に「労働契約解消金の位置づけ」のところでお願いしたいと思いますが、最初は論点④というのがあって、きょう資料2、資料3を使って御説明いただいたところであります。
ですから、具体的には資料2のパターン2とパターン3のところの整理、特に論点として示されているところがどうかということでございまして、これについて何か御意見、御質問があればと思いますが、いかがでございましょう。
小西委員、どうぞ。
○小西委員 資料1の4ページと、先に進んでしまうのですが、5ページのところとも関連してもう一つ確認をしたいところなのですけれども、5ページの一番上の下線が引いてあるところですが、「労働契約解消金の定義を、『無効な解雇として確認された労働者としての地位を、労働者の選択により解消する対価』」という定義で、この定義の中には、資料2のパターン3でいいますと、労働契約解消補償金とバックペイもこの定義に入るのかなと思うのですけれども、この「解消する対価」の意味合いにバックペイも含めるのかどうかという点と、あとは、資料2の論点4-3と関連することにもなってくるかなと思うのですが、その辺はどうなのかなというところです。
○岩村座長 では、事務局のお考えがあれば、お願いします。
○坂本労働関係法課課長補佐 まず、資料2のパターン3につきましては、絵に記載しておりますとおり、赤い枠で囲っていますけれども、労働契約解消金の中に労働契約解消補償金とバックペイという2つのものを入れる形にしております。
なので、先ほどの先生の御指摘ですと、解消金の定義自体は赤い枠の部分にかかりますので、解消補償金とバックペイを含めた両方についての定義ということになるのではないかと思います。
ただ、そのように解しますと、論点4-3と関連しますが、なぜ解消補償金だけではなくて、バックペイも入れなければ労働契約解消金にならないのかというところの理論的な説明をさらにしなければならないのではないかということで、お答えになっていないかもしれませんが、その2つを合わせて契約は解消すると。その理屈をどのように説明していくかというところを、ぜひ御議論いただければと思っております。
○岩村座長 どちらかというと、システム検討会の考え方はパターン3にやや近かったように思うのですが、そのときは、バックペイ相当分を乗せてしまうというのはどういう説明になっていたのですか。
○坂本労働関係法課課長補佐 まず、システム検討会のときには、解消金にバックペイを入れるか、入れないかという大枠のところはあらかた御議論されていたようですけれども、具体的にどういう考慮要素にするのかとか、解消金の定義というか、意味合いをどうするのかというところにつきましては、そこまで確たる御議論はなかったと思われますので、そういう意味では、まさにこの法技術検討会の中でそこを御議論いただいているという状況かと思います。
○岩村座長 ありがとうございます。
では、調査官、お願いします。
○五百旗頭労働関係法課調査官 今の論点なのですけれども、今、坂本のほうから申し上げたような考え方の整理と、もう一つは、解消補償金というところが「解消する対価」だという整理をした上で、ただし、法的効果が発生するためにはバックペイの支払が必要という考え方もあると思います。
これまでの検討会では、解消金というものはあくまでこの定義に厳密に関連するもので整理すべきだという議論を重ねてきておりますので、その流れから考えると、今申し上げた後者のほうの整理も十分あり得るのではないかと思っておりまして、この点についてもあわせて御議論いただきたいと思います。
○岩村座長 ありがとうございます。
小西委員、どうぞ。
○小西委員 私が思うところは、「解消する対価」というところにバックペイが入るというのは、もう一つ説明しないとなかなかわかりにくいかなという印象を持っています。狭義の労働契約解消補償金というものは、まさに対価的な意味合いを持つと思うのですけれども、バックペイの支払いを義務づけるというのは、労働契約を解消するに当たって、過去に発生したバックペイ部分についても清算するという意味合いで、対価という感じではないのかなと思っている次第です。現在、まとまっていないのですけれども、そのような感想を持っています。
○岩村座長 ありがとうございます。
今の小西委員のお話をもう少し敷衍すると、労働契約解消金を仮に導入したとして、その支払いによって労働契約を終了させるのであれば、それまでに発生している賃金、特にバックペイをめぐる解雇以降の権利義務関係というのも全部きれいに整理して終わらせましょうと、趣旨としては恐らくそういうことになるのだろうと思います。
しかし、それは恐らく理論的に当然にそうなるというものではなくて、立法政策として考えたときに、紛争の一回的解決からいうと、そうやって解雇以降の問題を清算してしまうというのが望ましいというような趣旨で考えるということなのだろうと思います。
だから、逆に言うと、パターン1で発生する、紛争が一回的に解決しないという問題の対極にあるのがパターン3の考え方で、解消金の中にバックペイまで入れてしまうことで、解雇後の係争案件はそこで全部解決してしまうという趣旨なのかなと。それで説明するぐらいしかないのかなと思います。
もう一つは、きょう提示されている論点でいうと、論点4-1とか、それから、4-4は同じですけれども、それから、論点4-2、論点4-5なのですが、こちらのほうはいかがでしょうか。
どうぞ、小西委員。
○小西委員 論点4-1の「バックペイの範囲に解雇前に生じた未払賃金を含まない」というところは、資料3を使って御説明していただいたところですけれども、解雇前について、働いたけれども、賃金が支払われていないというのではなくて、そもそも民法536条2項が問題となるような状況が解雇前に発生していた場合は、論点4-1でカバーされているのかどうかという点はいかがでしょうか。
○岩村座長 事務局、いかがでしょうか。
○坂本労働関係法課課長補佐 にわかに定見はないのですけれども、確かに理論上はそういう事態もあり得るかと思います。ただ、無効解雇がなされる前の部分ですので、まさに解消金の対象となっている無効解雇がなされた後の部分の解消の対価として、そこも含むかどうかというところにつきましては、ぜひ先生方に御意見を伺えればと思います。
○岩村座長 では、垣内委員、どうぞ。
○垣内委員 先ほど岩村座長から紛争の一回的解決という御発言がありまして、一回的解決という方向を極限まで進めていけば、およそ当該使用者と労働者の間の紛争を一挙にここで解決するために、全部まとめてやりましょうという発想はあり得るとは思います。
しかし、ここで新たに創設することを検討している制度というのは、あくまで解雇無効時の金銭救済ということで、そうしますと、当該無効と評価される解雇に起因して生じた請求権と考えれば、無効とされた解雇の意思表示以後のバックペイの問題については、そこに含めて考えるということは合理性があるものと思われますけれども、それ以前にさまざまな事情によって未払い賃金やバックペイが発生している場合でありましても、それは当該無効な解雇とはまた別個の問題と考えることも十分合理性があるように思いますので、範囲を限定しないとどこまでも広がってしまうという点もありますし、どこかで線を引くとすれば、解雇以後かどうかというところは有力な線なのではないかなと私自身は考えます。
○岩村座長 ありがとうございます。
ほかにはいかがでしょうか。
では、鹿野委員、どうぞ。
○鹿野委員 余りつけ加えることもないのですが、私も同じように考えておりまして、無効な解雇ですけれども、使用者側の解雇に起因する問題について、これで清算しましょうということで一つにまとめられるのではないかと思います。
もちろん、それ以前のものでも未払いのものがあったら、請求権自体はそちらで立つのでしょうけれども、ここで、これを払ったら労働契約が終了しますというところについてまとめるとすると、やはりそれは解雇に起因するものということになるのではないかと思います。
○岩村座長 ありがとうございます。
私も大体同じような考えで、きょう事務局のほうで資料3も出していただいて、解雇前と解雇後の場合では請求原因が微妙に違うということもありますし、少なくともこの労働契約解消金の問題というのは解雇がなされた後の話を取り扱っているので、解雇前の雇用契約が存在している期間内における未払い賃金の問題というのは、それとは別に考えるという整理でよいのではないかなと思っています。
次に、論点4-2ですが、遅延損害金はやはり入るというのが普通の考え方かなと思いますけれども、それでよろしいでしょうか。
ありがとうございます。
次に、資料1の4ページ、点線の下でありますけれども、ここは今、大体御議論をいただいたところでありますが、バックペイがどこでとまるのかという議論は一応出ていて、それが論点⑤になっています。この点はいかがでしょうか。
小西委員、どうぞ。
○小西委員 点線の下の下線が引いていない一番上の黒ポツのところを確認させていただきたいのですが、「バックペイの発生期間については、労働契約解消金の支払によって労働契約が終了するという効果に鑑みると、通常、労働者は労働契約解消金の支払があるまでは就労の意思を有していると解することが合理的であるという考え」と書いてあるところなのですけれども、これは支払いがあるまで就労の意思を有していると解するのがなぜ合理的なのか。
支払いがある時点までは意思表示の撤回が可能だから、就労の意思を有していると考えられるのか。なぜ、労働契約解消金請求をした上でなお就労の意思があると解するのかということについて、もう一つ説明が欲しいなと。私もちょっと理解できていないところではあるのですけれども、ここはなぜ合理的かということです。
○岩村座長 では、事務局のほうでお願いします。
○坂本労働関係法課課長補佐 これは個々のケースで見ますと、実際にいつまで就労の意思があったのかということは、最終的には裁判所等で御判断されることかと思いますし、ケースによりましては、撤回されてしまえばそもそも請求権自体がないということになるかと思います。
あと、例えば再就職をしていて、どう考えても就労の意思がないというケースも恐らくあるのかなと思いますが、一般的には、今回、解消金につきましては、これまでの御議論も踏まえまして、解消金の支払いによって労働契約が終了するという形で設計を考えているということと、解消金の定義も、労働者みずからの選択によって雇用関係を解消することの対価だという形で御議論いただいていますので、そういったことを踏まえますと、一般的には、労働契約解消金が支払われて、そこで労働契約が終了するということが生じるまでは、就労の意思があると解釈されるのではないかと。ただ、個別のケースによっては、それより前に就労の意思がないという判断をされるケースも当然あり得ると考えております。
○岩村座長 小西委員、いかがでしょうか。
○小西委員 ここで言うところの「合理的」というのは、どうなのですかね。
○岩村座長 合理的意思解釈だと思います。少なくとも従来の基本的な考え方から言えば、解雇無効で争っているときにほかで働いているとか、バックペイをもらうときの要件との関係で、通常は特段のことがなければ就労の意思はあると解釈しているので、それをここでそのまま使っているということかと思います。
要するに、何か積極的な行動を労働者のほうでやれというのは、少なくとも最初のころは就労の意思があるということを職場に行って示すということがあっても、おまえは解雇されたのだからもう来なくていいということであれば、その後は現実の労務の提供というのは必要なくなるけれども、就労の意思はあると解しているので、それを逆に言えば、労働契約解消金の支払いの請求をしたということの1点をもって、就労の意思がなくなるということではありませんねという理解だと思います。
○小西委員 そこは十分理解いたしました。ただ、従来の地位確認の場合とは若干違うというか、労働契約解消金を請求しているというのと、従来の地位確認の場合とは、ケース・バイ・ケースだとは思うのですけれども、就労の意思についても、改めてケース・バイ・ケースで考えていく余地はあるのかなと。ただ、合理的意思解釈ではこのような形になるかなと思います。
以上です。
○岩村座長 ありがとうございます。
恐らく多くの場合は、これは地位確認訴訟との併合で出てくると思うので、そうすると、労働契約解消金の請求をしているという1点をもって、就労の意思がなくなると解するのは結構難しいだろうと思います。
その他はいかがでしょうか。論点⑤などありますけれども、今の議論で大体尽きているということでよろしゅうございましょうか。
事務局のほうはいいですか。
次に、5ページに参りまして「労働契約解消金の算定方法」になります。
最初が上の真ん中あたりのところの考慮要素の問題で、先ほど御説明がありましたように、前回のように、分けるというのではなくて、全体として幾つかの要素をまとめてという形に整理をしましたということでありますけれども、これも前回、大体コンセンサスはいただいていたと思いますので、これでよろしいでしょうか。
次に、1つ下がって点線から下で、年齢の問題と企業規模の問題ということになります。こちらについては、いかがでございましょうか。
では、鹿野委員、どうぞ。
○鹿野委員 年齢の問題なのですが、これは質問になるのですけれども、私も再就職の難易度について、この計算式に盛り込むということは必要なのではないかと思っているのですが、それが年齢とどのように相関があるのか、そういうデータなりはあるのでしょうか。関係はありそうなのですが、正比例的に相関があるようにも思われず、今まで出てきたのかもしれませんが、何か客観的なデータがあったら教えていただければと思います。
○岩村座長 では、事務局、お願いします。
○坂本労働関係法課課長補佐 年齢と再就職の率の相関関係については追って確認したいと思いますが、例えば雇用保険の分野で見ますと、年齢と被保険者期間に応じまして給付日数を上げておりますけれども、雇用保険も再就職するための給付という位置づけで、基本的には年齢が上がるに従って給付日数も延びる。60歳を超えて60歳から65歳未満ということであると、またそこで給付日数が下がるという形の設計をされておりますので、もしかすると、この辺も参考になるのかなと考えております。
○岩村座長 あと、有効求人倍率が年齢によって結構違うと思うのですよね。年齢が上がると有効求人倍率は下がって、それだけ就職の口がなくなるというのが一般的だと思います。
では、続けて、鹿野委員、どうぞ。
○鹿野委員 これも質問なのですが、今、65歳以上の年齢の場合の話が出ましたが、一般的にどれぐらいまで賃金を得られる期待があるのかということも考える必要はないのですか。例えば69歳であるときに、不当に解雇されましたという場合。不当に解雇されたのであれば、解消金としては請求を認めるべきだと思いますが、算定式において、若い人と比べ、今から将来的にずっと働き続けるだろうという期待は逆に減るようにも思うのですが、そのあたりのことはどのように考えればいいのでしょうか。
○岩村座長 では、事務局、お願いします。
○坂本労働関係法課課長補佐 恐らく御指摘の点は、この算定式を個別のケースに応じてどこまで個別に、かつ、柔軟に定めるかという点と、詳細についてはもしかすると、この検討会というよりも審労働政策議会のほうで御議論いただくべきかと思いますけれども、まさに年齢を考慮要素に入れるとした場合であっても、新しくつくる制度ですので、既存の制度等も参考にしながら、実際にどのぐらいの年齢層の場合にどういう係数を設けるのかという点についても、ぜひ御議論いただきたいと思っております。
○岩村座長 多分、今の問題は、年齢がある一定のところを超えると、就労すること自体の可能性が減っていくという形の問題かと思います。先ほど言っていたのは、年齢が高くなって、一定の年齢まではむしろ就職すること自体が難しくなるという話だったので、むしろ今の私の理解では、鹿野先生はもう一つの年齢という問題について持ち得る捉え方をお示しいただいたのかなと思います。
よろしければ、企業規模はどのように考えるかというのがございますので、そちらはいかがでございましょうか。
私の感じでは、ここはきょう書いていただいているところかなということで、あとはもう少し精査していただいてというところなのかという気がします。
逆に言うと、企業規模を考慮要素に入れる場合の理由として、きょう①②と挙げていただいていますけれども、①だけというのもなかなか厳しいし、他方で、②というのは、確かにそういう点はあるだろうと思います。さらにほかにあるかと言われると、支払い能力とかそういうものがここに入ってくるのがいいのかどうかというのはちょっと気にかかるところでもあるので、このぐらいなのかなという気がしています。
あと、支払い能力の問題のところはもう少し精査をするという落ちつきで、きょうのところはいいのかなという気がしますが、よろしいでしょうか。
次に、事前の集団的労使合意の問題がありますが、これについてはいかがでしょうか。論点⑦であります。
何となく私の感じですと、論点⑦の1つ目のくさびのところは、結局のところ、事前の集団的労使合意というのを、いわゆる労働基準法上の基準を引き下げる方向での労使合意を考えるのか、それとも、どちらかというと労働協約で条件を引き上げるという方向に寄せて考えるのかという問題かなと思います。
労働契約が解消するかどうかの決定を個人の判断によるという出発点に立てば、これを集団的な労使合意で引き下げる方向に向けるというのはなかなか難しいという気がします。
ただ、集団的労使合意といっても、従業員代表による場合と多数組合による場合で本当に同じなのかという問題は出てきて、協約であれば、制度としてどう組むかという問題は一般よりも低くということもあり得るのかもしれないのですが。
どうぞ、小西委員。
○小西委員 この点は、法律で一定のスキームを立てるということになるわけなので、それを下回らないということが必要ではないかなと私は思っています。6ページの右のほうの柱の①が妥当なところかなと私自身は考えております。
○岩村座長 ありがとうございます。
ほか、いかがでしょうか。
私自身も、今、小西委員がおっしゃったように、ここはやはり右側の真ん中のところの①なのかなと思います。
厄介なのは算定方法自体に係る別段の定めですが、これは仮に上だけにするとしても、多分、最終的に金額が上だったらいいという以外のものがないということになってしまって、逆に言うと、それはだめだという根拠はどこにあるのだということでもあるのですよね。
小西委員。
○小西委員 これも一定の別段の定めをつくって、結果として水準を上回ったらオーケーだとするということは、水準というものを最低ラインとして考えているということになると思うので、別段の定め自体も調整率の水準を上回るということにしておくほうが、労働者側にとっての予見可能性も高まるということからすると、そちらのほうが妥当かなという印象は持っております。
○岩村座長 ありがとうございます。
ほか、よろしいでしょうか。
多分、算定方法自体に係る別段の定めというのをやると、解消金の額を決定していくプロセスが結構ややこしい。ケース・バイ・ケースで事例ごとにやってみて、他方で、法令に基づいてやった場合はどのようになって、出てきた結果がお幾らでというのを比べた上で、下だからだめで法令に基づいてやりましょうとか、そういう例が出てくるとその都度やらなくてはいけないということになり、手続の簡素化というか、複雑なオペレーションをしないようにという観点からすると、それはやらないほうが適切だろうなという気はします。
垣内委員、どうぞ。
○垣内委員 実質的には、今、岩村座長が言われたことはそのとおりではないかと思います。
この制度を新たに創設する趣旨ということから考えたときに、この算定方法自体に係る別段の定めというのを具体的にどこまで想定するのかということもあるかと思いますけれども、例えば一律3万円ですとか、そういう定めもここの定めに含まれると考えたときに、それはこの制度で、地位の解消の対価として一定の金額、プラス、場合によってバックペイ等が払われたときに、初めて労働関係が終了するのだという制度を設けるという趣旨に全く整合しないということも考えられる。別段の定めを一般に認めるということになりますと、そこに歯どめをかけることができないということになりますから、それは問題ではないかと思われます。
ですので、この制度が前提とする考え方を共有した上で、調整率等について、当該使用者の個別的な事情を鑑みた調整をするといったことはあり得るのかもしれませんけれども、全く算定方法自体が異なるというものをこの制度の枠組みの中で位置づけるということは、理論的には非常に困難なのかなと思うところです。
ただ、法律上の効果はともかくとして、仮にそういう定めが実際にされているということがあったときに、解消金請求を労働者がしていく際に、法律上の算定基準に従ったほうが高そうだと思えば、当然、法律上の算定基準に従って請求し、使用者はそれを拒むことはできないだろうと思われるところですが、他方で、たまたま当該事案では当該別段の算定方法に従ったほうが高額になるというときに、労働者がそれを根拠として解消金請求の意思表示をし、金銭請求をしていったときに、使用者のほうが、それはこの制度に合致しないから払えないのだという主張をすることが本当にできるのかということは、本当にそういう事案が出てきた場合には、信義則等々の観点から難しい問題があるかなと感ずるところです。
いずれにしましても、制度をつくる際の考え方としては、基本的にはこの制度はどういう趣旨の制度で、そういう観点から一定の算定方法を定めたものであるので、それと異なるものは認めないという考え方のほうが整合的なのかなという感じはしております。
○岩村座長 ありがとうございます。
最後の点は、そういうケースが出てくると難しい問題になるかもしれないというのは、確かにおっしゃるとおりだと思います。
あと、論点⑦では、2つ目のくさびのところがあるのですが、仮に別段の定めを認めるということであれば、ここにある結論になるだろうと思いますけれども、それでよろしいでしょうか。そうでないと、そもそも認める意味がないので、そういうことになるだろうと思います。
残っているものとしては、論点⑧の帰責性に応じての減額の必要性と合理性というのが出ております。いかがでございましょうか。
小西委員、どうぞ。
○小西委員 6ページから7ページにわたってというところかと思うのですが、「下限については、解雇が無効であることに鑑みれば、少なくとも50%以下に減額されることはないものと考えられる」と書いてありまして、ここでこう書かれている根拠を確認したいと思っているのですが、この書き方だと、解雇が無効だという場合には、使用者側の帰責性のようなものが50%以上だから、少なくとも50%以下には減額されることはないと書かれていると思うのですけれども、果たしてそれがそうなのか。
そもそも解雇が有効な場合には労働契約解消金は発生しないけれども、解雇の不当性が少しでも高いとその半分は確保されるというのは、他の政策的な要請からそうすべきだ。労働者の保護や労働者の選択という観点から、そのほうが妥当だということであれば、理解可能なのですけれども、解雇の不当性というところから50%という下限が果たして出てくるのかというところは、私は少し疑問に思っているところではあります。
○岩村座長 事務局、もしあればお願いします。
○坂本労働関係法課課長補佐 今、御指摘いただいた点につきましては、何かエビデンスに基づいて、解雇が無効だと50%以下には減額されないのではないかという、そこまで確たるものは今のところはありませんで、まさに先生がおっしゃるとおり、解雇が無効だということで、少なくとも使用者の帰責割合のほうが一般的には高いのではないかということで、それであれば半分以下にはならないのではないかという趣旨でこちらは記載しておりますけれども、当然ながら、別の考え方に基づいて別の値を考え出すこともできるかと思いますので、その点につきましても御意見を伺えればと思っております。
○岩村座長 一般的に別に解雇が有効か、無効かというのは、使用者側が80%、労働者側が20%の有責性だから解雇は無効とか、そういう判断をするわけではないので、そういう意味では、あくまでもこの割合は理論的に決まるというよりは、政策判断的なものとして決めるということだろうと思います。
ただ、一般的には、解雇無効の判決といってもいろいろなものがあって、使用者が解雇理由として挙げているもの自体は、そういった事実も存在するし、それ自体として労働者のほうのマイナス点として勘案できるけれども、全体として合わせて見たときには、労働契約を切るほどの強いものがあるわけではないという判断は、御承知のように、幾らでもあるわけです。そうだとすると、そういったものを何らかの形で数値的にあらわすとすれば、労働者側の帰責性がそれほどないのに解雇が有効というケースは余りないだろうと考えると、50%というところで線を引いてというのがここでの考え方だと思うのですよね。
おっしゃるように、それを理論的にきちんと説明せよと言われると難しいことは確かで、やはり一種の政策的な判断ということだと思います。
では、小西委員、どうぞ。
○小西委員 また繰り返しになってしまうのですが、ここも少し論点になると思いますが、解雇が無効だということになると通常はバックペイが発生する、解雇が有効な場合はバックペイが発生しないということで、バックペイ、プラス、50%以上の労働契約解消金というものを、解消金については対価として支払うということになるのかどうかということと、あと、その政策的な根拠はどこに求めるのかというところは議論の余地があるのかなと思いました。
以上です。
○岩村座長 ありがとうございます。
少なくとも現状では、バックペイについては解雇が有効か無効かでオール・オア・ナッシングで決まるというもので、バックペイについて割合的に決めるということはないから、そこを変えるのだというのであれば別ですが、そういうものとして考えるのだろうということになります。
恐らく必要性・合理性ということを考えたときには、例えば、複数の労働者が同じような時期に同じような理由で解雇されたといったときに、労働者によって、職場における問題があった者となかった者とか、あるいは同じように解雇理由として問題になったものがいろいろあったとしても、それぞれの労働者によって程度が違うといったときに、同じ額の労働契約解消金でいいのかというのは当然問題になるということを考えると、ある程度の帰責性を見て解消金の額を調整するということは、やはり必要になるのではないかなと私は思います。それが解消金そのものの説得性ということと結びつくのだという気がするのです。
では、垣内委員、どうぞ。
○垣内委員 先ほどの小西委員の御指摘は、大変根本的な問題を突いているところがあるなと感じられるところで、一つの考え方としては、現実の事件というのはいろいろなものがあって、労働者の帰責性も、使用者の側の不当性もさまざまであるという中で、それを連続的に処理していこうとすれば、全てを割合的な形で連続的に解決していくということは、一つは考えられるのだと思います。
しかし、従来、法的な処理をするという局面でそうなってきたかといえば、それはそうではなくて、解雇は有効か無効かのいずれかであり、解雇が有効であれば直ちに労働関係は終了し、労働者の地位はゼロなわけですけれども、解雇が無効であれば地位は続くわけで、この制度ができたとしても、労働者が意思表示をしない限りは100%地位が続いていくという状況を前提としたときに、労働者の選択肢として、意思表示によって解消金が払われれば労働契約が終了するという場面での解消金の額という考えになりますので、それがゼロであったり、ゼロに限りなく近い金額であるということは、そもそもの出発点として解雇は無効であるということを前提とすれば、なかなか考えにくいという意味で、下限を設けるということは十分あり得るのだろうと私自身は理解しております。
ただ、50%がいいのかどうかというのは、いろいろ考慮の余地があるところで、ここでは、解雇が無効であるということは、労働者側の帰責性が50%以下であるという前提でこういう整理になっているかと思われますけれども、実際、どの程度労働者側に帰責性があれば解雇が有効になるのかというのが、50%なのか、それとも60%なのか、それとも40%なのか、これは事案によってもいろいろな評価はあり得るのかなと思われますので、そこは最終的には政策的な判断が入らざるを得ないのかなという印象を持っているところです。
私自身の考えは以上です。
○岩村座長 ありがとうございます。
よろしければ、次に、7ページに行きたいと思います。
論点⑨は、今、議論していただきましたので、「権利行使の期間」はもうコンセンサスはいただいていると思っています。
そうすると、「その他」が残っていまして、右側の点線以下のところのきょうの下線部はこのとおりかなということだと思います。
最後の点線から下の部分、特に辞職の扱いについてということであります。
先ほど御説明いただいたときに、論点⑩のところで、これともう一つ論点があるので、そこもあわせてとおっしゃったと思うのですが、それをもう一度繰り返していただけますか。
○坂本労働関係法課課長補佐 資料に記載しておりませんで申しわけありません。
論点⑩で記載しておりますのは、労働契約解消金の請求中に辞職したとしても、権利の帰趨に影響はないかということで、こちらは要件を満たした解消金の請求権が発生して、それを実際に請求して、具体的には裁判が進行中であるということを念頭に置いております。
もう一つ、先ほど私が口頭で申し上げたのは、無効な解雇があって、解消金の要件は満たしていて権利も発生しているのだけれども、実際に請求する前に辞職をすると。辞職を一旦されてから請求をするということも、実際のケースでは恐らくあり得るかと思いますので、そういった場合も請求中に辞職したときと同様に解することができるのか、それとも別の考え方があるのかというところを、少し御意見をいただければということでございます。
○岩村座長 ありがとうございます。
いかがでございましょうか。
では、法務省、お願いします。
○秋田局付 法務省でございます。
こちらの論点⑩の関連で少し頭を整理させていただければと思います。
このペーパーにある論点について申し上げますと、基本的には、辞職などがあったとしても、権利の帰趨に影響はないと考えてよいのではないかとお書きになっておられてます。これは、この金銭解決制度を使いますという形成権行使があって、金銭請求権が具体的に発生している以上、その後に辞職であるとか他の事情があっても、直ちに権利に影響はないはずだというお考えで書いておられるのかなと思うのですいま。けれども、他方で、これまで解消金は労働者としての地位を解消する対価であるという説明をしてきたこととの関係で、私が今までイメージしてきましたのは、労働者側が労働者としての地位を差し出すかわりに、使用者側は金銭を支払いますので、そこでつり合いがとれるといった制度設計でした。
そうしますと、途中で辞職があったり、労働契約がほかの事情で終了した場合について、労働者側は差し出すものがないということになりますので、そのつり合いが崩れるようにも思われまして、これは契約的な発想なのかもしれませんが、辞職ですとか、労働契約が別の事情で終了した場合に、解消金請求自体ができるのかという問題、また、解消金の額の算定においてその事情が考慮要素になるのかという問題があるように思います。そこら辺のり、影響があるという発想もあり得るのかなと思いまして、皆様のお考えを聞かせていただければと思います。
○岩村座長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
今の点は恐らく非常に素直な疑問として出てくるところで、どちらかというと、今、秋田さんがおっしゃったのは、一般の人にはむしろそのように理解されるのではないかという気はするのです。もうやめてしまっているにもかかわらず、労働契約解消の対価として解消金の支払いそのものは維持できる。しかし、本来、解消すべき契約自体はもう終了してしまっているということになる。
ただ、そうなると、実は撤回と同じようなことになってしまっていて、つまり、明示的に撤回しているわけではないけれども、本人自身の意思で辞職することによって、労働契約そのものが終了してしまっているということなので、1つは、撤回の場合とパラレルに考えていいのかどうかというのと、他方で、ある意味やや矛盾した状況の発生ということになるのをどう考えるかということのような気がするのですが、いかがでしょうか。
では、調査官、どうぞ。
○五百旗頭労働関係法課調査官 御検討の補足として申し上げますけれども、この論点が出ましたのが、2回前のヒアリングのときに、労働者側の弁護士のほうから、ダブルワークがなかなか認められない現状がある中で、解消金を請求しながら次の転職先との関係において辞職せざるを得ない場合に、辞職してしまうと請求自体ができなくなるとすると、この権利を行使する場面というのはなかなか現実的ではないのではないかという問題意識からの御提起であったと思います。
ですので、法律論的にどのように整理するかというのは、整理の仕方によるのだとは思いますけれども、今申し上げましたような実務の観点から考えたときに、この権利というものを、不当な解雇をされたことに対して労働者自身が納得するための代替的な措置として設けるということに鑑みると、どのような法的整理をすればよいのかというところからも御検討いただければと思います。
○岩村座長 ありがとうございます。
では、垣内委員、どうぞ。
○垣内委員 先ほど法務省の秋田さんから疑問の提起があった点については、労働契約上の地位の買取請求権みたいな形でこの制度を捉えると、まさにおっしゃったような疑問が出てくるのだろうと思うのですけれども、これは労働者の側が地位を買い取ってくれという制度ではなくて、そもそもの出発点として使用者が解雇の意思表示をしている、しかしながら、それは法的には効果を生じないので解雇の効果は生じないわけで、労働契約が継続しているという場合においても、一旦生じた解雇をめぐる紛争があって、地位確認や職場復帰を求めていくというのは現行法上あり得る選択肢であるわけです。それに加えて労働者の側に新たな選択肢を提供しようという構想から出てきているものでありますので、必ずしも平場で使用者と労働者がいて、労働者は地位を持っていて、それを金銭で買い取らせることができますよと、こういう制度として捉える必然性はないのではないか。それとは少し違う性質を持っている。無効な解雇を前提とした紛争の解決手段として位置づけられているというところを重視すると、別の考え方もあり得るのかなと思っております。
○岩村座長 ありがとうございます。
ほかはいかがでしょうか。
では、鹿野委員、どうぞ。
○鹿野委員 私も、買取請求権ということで売買が成立する場合というより、無効な解雇が使用者側でなされたときに、職場に戻るのとは別の選択肢として、職場には戻らないことを前提とした金銭的な請求で満足するという選択肢をここで創設しようということなのだろうと思います。
一応、今のネーミングでいうと「解消金請求権」ということなのですが、形成権を行使しますという意思表示自体は既にあるのです。ですから、本来、そこで効果が生じてもいいものかもしれないのですが、そこで全て労働関係が終了するということにも不都合がある。お金を払ってくれたら職場復帰は諦めますというのが労働者の通常の意思でしょうから、その支払いで解消という形にしているのだろうと思います。
先ほどの辞職の事例では、形成権行使の意思表示はあったわけです。ただ、途中で支払いがある前に、職場には戻らないこと、労働関係の解消については自ら受け入れて、しかし、金銭的な請求を撤回するわけではない、ということはあり得るのではないかと私は考えています。
○岩村座長 ありがとうございます。
垣内委員。
○垣内委員 先ほど言い残した点なのですが、
政策的な観点から申しますと、仮に自分で辞職した場合には解消金請求権が失われると考えますと、この制度を利用したとしても、金額が確定して支払いがあるまでは頑張って辞職しないようにしないといけないというインセンティブになるのだろうと思います。
ただ、この制度の趣旨自体は、そうではない選択肢を開くことによって、早い段階で新たなスタートを切ってもらうという方向も提供するということですので、それですと、本来の目的とかなり違った効果を持つことになってしまい、そのあたりを政策的にどう評価するのかということがもう一つあるのかなと思います。
○岩村座長 議論としてはよくわかるのですが、結局、途中で辞職した場合は、実際には労働契約を解消する効果を持たないお金を払うということになるので、そこがどうなのかなというのがちょっと気になるのです。
労働契約を解消する効果を持たないお金の支払いということになると、むしろ本当に補償に純化したものを払うということになるので、それはそういうものなのだとして制度設計をしてしまうという考え方になるということかなという気がします。それはそれであるのかもしれないけれどもというのもあるのですが、その辺の整理が必要なのかなという気はします。
神吉委員、どうぞ。
○神吉委員 おっしゃるとおりだと思います。そうやって詰めて考えていったときに、今の「解消金」という名前と、無効な解雇として確認された労働者としての地位を選択により解消する対価という定義だけだと、もしかすると、想定しているよりも狭いのではないでしょうか。
それで考えていけば、先ほど民事局から言われたような疑問が出てくるのはむしろ当然で、ここを広げたほうがいいのではないかと思っております。特に資料2のパターン3を今後とっていくことになったときに、やはりこの定義が狭いと思います。
小西先生からも先ほど出されたとおり、パターン3は解消金の定義を広げていて、その中に労働契約解消補償金というものを新たにつくっているわけなのですけれども、むしろこれは逆かなという気がします。将来に向けて解消していく対価という本来的な定義が左側の青い枠のほうになっていて、それをもう少し包含した形でバックペイもさらに入るわけなので、ここに補償という観点が入っているのは、語感では、こちらが広い感じがいたします。
もしコンペンセーションの要素が入っているのであれば、それがわかるような定義、たとえば解消金ではなくて、もう少し補償金のような形にして、しかも、補償「金」にしないで「補償」というように広げておくと、最初に出てきた垣内先生からの御指摘の、解消金請求権という形成権というところの語感の矛盾というか、わかりにくさというのも、解消できていくのではと考えていました。
○岩村座長 ありがとうございました。
先ほど追加された論点のほうはいかがでしょうか。
きょう、全部の議論は詰められないと思うのですが、仮に論点⑩のもともとあった1番目のくさびのほうがその理解でよいということになれば、恐らく追加された論点もそれでいいという方向に行くのかなという気はしますが、追加されたほうはまだ請求をしていない段階なので、そこでやめてしまったら、やはりだめかもしれないですね。
垣内委員、どうぞ。
○垣内委員 私は、請求後の辞職等については、影響しないという選択肢はあり得るのではないかということで先ほども発言いたしましたけれども、請求前に辞職する場合については、まだ具体的な金銭請求権も発生していませんし、請求するという意思表示はできるわけですので、それをしないで辞職したということですから、その場合にはこの制度によらない形という意思で辞職したということで、この制度はもう使えないということになってもやむを得ないのではないかと考えております。
ただ、今申しましたことは、労働者が合理的な判断ができることを前提にしております。このように言うことができるためには、この制度についての広報・周知等が十分になされることが大前提として重要なのではないかとも、あわせて考えるところです。
○岩村座長 ありがとうございます。
大体一通り御議論はいただいたように思いますけれども、その他、何かございますでしょうか。
よろしければ、きょうの議論はこの辺までということにさせていただきたいと思います。
次回の日程につきまして、事務局のほうからお願いしたいと思います。
○坂本労働関係法課課長補佐 次回の日程につきましては、新年度に入ってから、4月以降で現在調整中でございますので、確定次第、開催場所とあわせて御連絡をさせていただきます。
○坂口労働基準局長 では、こちらで事務局から一言お知らせと、御礼の御挨拶を申し上げさせていただきます。
岩村座長におかれましては、4月から兼職できない中央労働委員会の常勤委員になられるという御予定のため、今回をもってこの検討会の座長を御退任されることとなりました。
後任の委員につきましては、現在、事務局で調整中でございますけれども、岩村座長におかれましては、昨年6月のこの検討会の発足以来、議論の進行、あるいは議論の整理について大変御尽力いただきまして、まことにお世話になりました。厚く御礼を申し上げます。ありがとうございました。
○岩村座長 局長から御丁寧なお言葉をいただきまして、まことに恐縮でございます。ありがとうございます。
それでは、第6回「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」をこれで終了させていただきたいと思います。
きょうは、お忙しい中をお集まりいただき、議論いただきまして、まことにありがとうございました。
では、これで閉会といたします。
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(直通電話) 03(3502)6734