第5回 副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会(議事録)

労働基準局監督課

日時

平成31年2月12日(火)10:00~12:00

場所

厚生労働省 専用第15会議室
(東京都千代田区霞が関1-2-2 中央合同庁舎第5号館12階)

議題

・現行制度の課題の整理
・その他

議事

 

○守島座長
 それでは、定刻となりましたので、ただいまより、第5回「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」を開催いたしたいと思います。
 委員の皆様方におかれましては、御多忙のところをお集まりいただき、まことにありがとうございます。
 本日は、島貫委員が御欠席でございます。
 本日は、これまでの議論をもとに現行制度の課題を整理していきたいと思います。よろしくお願いいたします。
 それでは、本日の議題に入りたいと思います。資料について、まず事務局より御説明をお願いしたいと思います。
 
○岸田監督課長補佐
 今回の検討会もペーパーレスで行わせていただきたいと思います。まず、資料の御確認をタブレットでお願いいたします。
 資料といたしましては、タブレットの資料1にございます「現行制度の課題の整理」という資料と、参考資料1として「第4回検討会における委員の主なご意見」の2つが入っているかと思います。
 その他、座席表と議事次第が入っているかと思います。
 また、前回までの資料もこちらのタブレットに入れさせていただいておりますので、必要に応じて御参照いただければと思います。うまく見られないなどございましたら、事務局までお申しつけください。
 続きまして、資料1について御説明させていただきます。資料1をごらんください。
 昨年末までで企業のヒアリングですとか労使の団体のヒアリング、また、海外の調査の結果の御報告などをさせていただきまして、今回、これまでの経過を踏まえまして、現行制度の課題について先生方に御議論いただければと思っております。
 まず、課題といたしまして大きく3つ挙げておりますけれども、(1)のところからごらんください。まず1つ目の課題といたしまして、副業・兼業先の労働時間の把握方法についてでございます。
 現行制度としましては「副業・兼業の促進に関するガイドライン」で、労働者からの自己申告により副業・兼業先での労働時間を把握することが考えられるとされているところでございます。
 課題としまして、その下に書いてございますが、以下のような課題についてどう考えるかということで、御議論いただければと思っております。
 まずマル1として、ガイドラインどおり労働者からの自己申告で労働時間を把握する場合でございます。まず1つ目として、副業・兼業を行う者がふえると事務量が膨大となり、対応が困難となることがございます。そして、2つ目として、企業としては自己申告が正しいかどうかわからず、両面あるとございますけれども、まず1つ目の面が、労働者が副業・兼業先での労働時間を少なく申告して健康確保が困難となる可能性、もう一方の側面としてマル2ですけれども、労働者が副業・兼業先での労働時間数を多く申告して、必要以上に割増賃金を支払わなければならなくなる可能性の両面がございます。
 もう一つのポツのところですけれども、労働者が副業・兼業の事実を使用者に知られたくないなど、自己申告を望まないことがあり、企業が副業・兼業先の労働時間数を把握することが困難な場合があることという課題が挙げられるかと思います。
 次にマル2として、使用者間で労働者の労働時間数などの情報のやりとりをする場合があるかと思います。こういった場合の課題としまして、1つ目として、副業・兼業を行う者が多くなると事務量が膨大となること。2つ目として、副業・兼業先の労働時間数も通算した労働時間管理を適切に行おうとしても、他社の適切な対応がなければ困難となることといったことが挙げられるかと思います。
 続きまして、マル3として、上記マル1、マル2、いずれの方法を選択した場合でも生じ得る課題として、労働者の働き方が制度創設時、工場法の時代も労働基準法制定時もありますけれども、それと異なっておりまして、例えば以下のような理由により、副業・兼業先の労働時間の把握が困難となっていることについてどう考えるかでございます。
 1つ目として、フレックスタイム制など自分で始終業時刻を決められる者がいること、また、短い時間を複数組み合わせて働く者がいることといったことで、労働時間の把握が困難となっている事例があるかと思います。
 次のページに行っていただきまして、(2)割増賃金についてです。アのところで、割増賃金の趣旨についてとございますけれども、まず、労働時間の通算の結果、法定労働時間を超えた労働時間について、割増賃金の支払い義務が生じるというのが現行の制度になっております。
 課題でございますけれども、以下のような課題についてどう考えるかとして、1つ目の○ですが、割増賃金については次の両面があるが、どう考えるか。まず1つ目のマル1の側面ですけれども、通算して法定労働時間を超えた場合に割増賃金がもらえるため、収入を得たい労働者にとってメリットになることといった面がある一方、マル2として、使用者としては、通算して法定労働時間を超える者は雇わないということとなり、副業・兼業をして収入を得たい労働者の雇用をかえって阻害するというデメリットになることという両面があるかと考えられます。
 次の○ですが、別の使用者のもとで働く場合に、労働時間を通算して割増賃金の支払い義務があるということが時間外労働の抑制装置たり得るのかということについてどう考えるかという課題があるかと思います。
 また、次のところですが、経済的負荷を課すことによって、法定労働時間制の維持を図ることを目的とする割増賃金規制の趣旨から考えると、副業・兼業を行うこととの調整が難しい場合があることについてどう考えるかという課題があるかと思います。
 続きまして、イの割増賃金の算定方法でございます。現行制度では、労働時間の通算に当たっては、労働契約の先後で判断するということになっています。また、適切に割増賃金の算定を行うためには、日々、副業・兼業先の労働時間数の把握が必要となります。
 こういった場合の課題ですけれども、以下のような課題についてどう考えるかとして、1つ目の○ですが、労働契約の先後での判断について、例えば実際の労働時間と合っていないということがございますけれども、これについてどう考えるか。具体的には、例えば朝「後から契約した企業」で割増賃金がかかるような状態で働いた後、昼以降に「先に契約した企業」で割増賃金がかからない状態で働くという状態があるかと思います。
 また、もう一つとして、日々、副業・兼業先の労働時間の把握を行う必要があることについて、実務的に可能なのかということも含めてどう考えるのかが課題かと思います。
 次のページでございます。(3)健康管理についてです。現行制度では、労働安全衛生法では、定期健康診断や、1カ月の労働時間に基づいて把握した長時間労働者の医師の面接指導等を義務づけておりまして、労働者の健康状態に応じ、必要な就業上の措置を行うこととなっております。ただし、それらの実施対象者の選定に当たりまして、労働時間の通算はしていないという現状でございます。
 課題として、以下のような課題についてどう考えるかとして、1つ目ですけれども、現行の制度では副業・兼業をしている者に対する特別の健康確保対策はとられていませんが、これについてどう考えるかということ。また、次の○ですが、副業・兼業している者に対する健康確保対策について、企業ヒアリングを昨年行わせていただきましたけれども、その際にわかったこととして、企業の自主的な取り組みとして副業・兼業先の月単位での労働時間の把握がされている例が幾つか見受けられたかと思います。これについてどう考えていくのかが課題として挙げられるかと思います。
 資料の説明は以上でございます。
 
○守島座長
 ありがとうございました。
 それでは、本日の検討事項についてですが、幾つか論点がございますので、まずは資料1ページ目の(1)について議論し、その後に(2)(3)の議論に移っていきたいと思います。
 それでは、副業・兼業先の労働時間の把握方法について、まず議論したいと思いますけれども、何か御意見のある方はどうぞ御自由におっしゃっていただきたいと思います。
 小畑委員、お願いします。
 
○小畑委員
 課題マル1の部分でございますが、一番最初のポツのところで、副業・兼業を行う者がふえると事務量が膨大となり対応が困難となるという部分と、それよりも下の部分とで、下の部分というのは労働者がどのような申告を行うのかに大きくかかわっておりますが、一番先のポツの部分は、例えばエクセルファイルがあって、副業・兼業している人がきょう何時間、副業・兼業をしましたということを単に入力するだけということであると、それは個人が自分のことについて入力するだけですので、そういった面では事務量は個人が一人だけで数字を入れるだけにとどまる。しかしながら、それをその先どうするかで事務量が膨大となるというところが非常に重要になってくるのかと捉えております。すなわち、単に自己申告、これがかぎ括弧つきと申しますか、自己申告がどのような自己申告かによるのですが、ただ一人一人が自分の時間の数字を入れるだけということは可能なのかなと。そのようなことには留意すべきかと存じます。
 以上でございます。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 ほかにどなたかございますか。水島委員、お願いします。
 
○水島委員
 (1)の把握方法についてですが、この問題は副業・兼業先の労働時間の把握について、誰が主体になるのかという問題と関係しているように思います。つまり、労働者からの自己申告で把握すべき問題なのか、使用者側が積極的に把握すべき問題なのか、あるいは第3の方法があるのかということです。
 兼業というものは使用者が命じて兼業させるのではなくて、労働者が選択して行うものと思います。となりますと、主体となるのは労働者であって、労働者からの自己申告で労働時間を把握することを第一に考えるべきと思います。その際に、お示しいただきましたようなさまざまな懸念が考えられますが、労働者からの自己申告で労働時間を把握する方法をとるのであれば、労働者が正しく申告できる、あるいは申告してもらうためにも、法律による義務づけが必要ではないかと考えております。私の意見でありますが、労働安全衛生法の66条5項の健康診断のような書きぶり、つまり、法律上の義務づけではありますが、法律上の罰則がないようなものではないかと考えております。
 そうではなくて使用者に把握すべき義務を課すという考えもあろうかと思いますけれども、仮に労働者の主体的な申告を前提としない使用者の把握義務ということになると、それは労働者の私的領域の介入になるのではないかとの懸念があります。使用者がまず把握すべきというのは、私としては少し考えにくいところです。
 先ほど第3と申し上げましたけれども、諸外国ではむしろその方法ではないかと思うのですが、行政あるいは社会保険の側で人々の労働をトータルに把握する、管理する。そのような体制がもしあるとすれば、そうした管理、把握のもとに使用者が積極的に把握する、義務づけるということはあろうと思います。別件で、先日、オーストリアに行ってほんの少し話を伺ったところ、オーストリアでは社会保険が確実に把握している。その大前提があった上で、労働者の申告、使用者の把握が可能になっているということでした。
 長くなりましたけれども、以上です。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 ほかにいかがでしょうか。石﨑さん、お願いします。
 
○石﨑委員
 今の水島先生の御発言とも関連しますが、労働時間の把握方法についての問題意識としましては、客観的な把握ができるのかということにあろうかと思います。
 この点に関しまして、技術的には労働者が仕事で使う電子機器などにアプリを組み込んだり、それによって起動時間であるとか作業内容等を把握することも一部では可能になっているようです。そういった対応をとっていくことによって客観的な把握ができないこともないかと思いますが、そういった形でかなりしっかりとモニタリングして労働時間を把握していくことになっていきますと、実はそれに伴い生じるストレスの問題であるとか、まさに先ほど御指摘いただいたような私的領域への介入といった課題も出てくるのかなと思うところでして、個人的にはその方向が望ましいのかという点について疑問に思っているところであります。
 また、現行制度を前提とした場合に、兼業・副業ではない場合の通常の労働時間の把握という点について考えてみましても、裁量労働などの場合については自己申告によらざるを得ないということが現状も前提になっているかと思います。そうしますと、この副業・兼業の場合の労働時間の把握というのも、基本的には自己申告ということで考えていくべきなのではないかと思っているところです。
 その際の課題として、資料に挙げていただいているように、労働時間数を少なく申告する、過少申告のおそれという問題はあろうかと思うのです。これはまた健康確保について、どう考えるか、ということともかかわってくるかもしれません。健康確保は基本的には労働者自身の責任として求められると考えますと、労働時間を少なく申告することで健康管理の対象から外れる可能性については、それを労働者自身の判断でそうしているということであれば、それほど大きな問題として捉えなくてもいいのかなと思っているところです。
 他方、労働者としてはきちんと申告したいのに、使用者側からの圧力などによって労働時間を少なく申告せざるを得ない状況になっている場合にはやはり問題がありますので、そういった状況が起きない形で法整備をしていく必要があるのだろうと思っております。
 割増賃金との関係での過剰申告については、より使用者側が懸念されるところかと思いますが、こちらについては割増賃金の議論ともかかわると思いますので、そちらでまた意見を述べさせていただければと思っております。
 もう一点、水島先生にお伺いしたいところとしまして、オーストリアで社会保険が把握しているということだったのですけれども、それは収入だけではなくて労働時間数も把握されているということになるのでしょうか。
 
○水島委員
 時間の把握ではないです。
 
○石﨑委員
 では、複数就業の事実についてということですね。ありがとうございました。
 
○守島座長
 ありがとうございました。
 ほかにどなたかございますか。松浦委員、お願いします。
 
○松浦委員
 御説明ありがとうございました。
 労働時間の把握について、社員側よりも企業側の負担のほうが大きいという御意見は、恐らくそのとおりではないかと思います。具体的に考えたときに、非常にアナログなやり方で労働時間管理をしている企業もあるかもしれませんが、大企業では労働時間管理を大体システム化しており、別の企業で働いている時間数を入力すること自体がシステムの中で想定されていないので、そこの部分だけをアナログでやらなくてはいけないことになるのは、社員にとっても企業にとっても負担ではないかと思います。一方で、副業を前提としてシステムを開発し直すのかというのも膨大なコストになるでしょう。
 さらに、今の労働時間の通算の考え方が非常に複雑であること。つまり月当たりざっくり労働時間が把握すれば良いわけでなく、一日一日の労働時間を把握しないと甲事業場、乙事業場のどちらが割増賃金を負担するかを判断できない今の仕組みを前提として一日一日の判断をしながら割増賃金を通算していくのは現実的にかなり難しいのではないでしょうか。これは企業の皆さんにヒアリングしていただいたほうがより具体的に論点が出てくるかと思うのですけれども、少なくとも私の知る限りでは、相当な負担になるのではないかと思います。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 ほかにどなたかございますか。荒木委員、お願いします。
 
○荒木委員
 ここに明示的に書いていない問題として、副業・兼業先の労働時間の把握の問題なのですけれども、それが労働時間かどうかは雇用であることが前提になっております。雇用なのかどうか、これを自己申告にするにしても、副業先が判断するにしても、そこをどこまで客観的に貫徹するかという問題が全体にあると思います。自己申告をする場合には、もし完全な客観的把握ということになりますと、とにかく副業したいという労働者は、それであったら自分は非雇用という形で働きたいという方向に流れると思いますし、本人は非雇用だと思って働いているといても、雇用かどうかを客観的に判断をするということになりますと、これは裁判所に行ってもなかなか難しい事例がたくさんあるところでありますので、その問題をどう処理するのか。
 何人かの方がおっしゃいましたとおり、神様の目から見た客観的な把握をどこまで貫徹するか、本当に貫徹しようと思うと、相当私的な領域について法が介入するということと裏腹の問題になってくる。そこも考えながら検討すべきではないかと思いました。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 ほかにいかがでしょうか。
 今の荒木先生がおっしゃったことで1つだけお伺いしたいのですけれども、ということは、把握をすること自体が難しい問題を含んでいるのだという理解をすればよろしいのですか。
 
○荒木委員
 自己申告という制度をとる場合、それでどこまで処理するのかという問題もあるのですけれども、ほかの方法をとるというときに、それが非常に過剰な規制となることもあり得る。そういう中でどういう選択をするかという問題だろうということです。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 ほかにどなたかございますか。松浦委員、お願いします。
 
○松浦委員
 今のお話に関連して、私の専門領域外ですが、水島委員から先ほど例えば労働者に自己申告を罰則なしで義務づけるような一つのお考えが提示されたと思うのですけれども、労働者に自己申告を義務づけることについて、私的生活への介入という観点からはどうお考えになるのでしょうか。
 
○水島委員
 私的生活への介入の観点からは余り考えていませんでした。お答えにならないのですが、自己申告を前提にするのであれば、それは労使間の就業規則などだけでは貫徹できない、法による仕組みが必要ではないかと思って申し上げました。仮に自己申告で把握する方法をとるのであれば、問題はたくさんあることはわかっているのですけれども、問題があるからこそできるだけ客観的に正確に把握できるような制度をつくるべきであって、法による仕組みをとることによって、それをベースに就業規則等で規定を置いて、正しく申告しなかった場合には、場合によっては懲戒処分も可能であるとか、そのような方向があるのではと思って申し上げました。
 そのように考えていきますと、おっしゃるように、本来自由なはずの私的な時間に対して、法あるいは使用者が介入するという危険はあると思います。ありがとうございます。
 
○松浦委員
 こちらこそありがとうございます。
 もう一つ気になったのは、副業・兼業ということではなく、自己の労働時間を過少申告した、あるいは余りないと思うのですけれども過大申告した、といったケースで法が介入することは、現状においてはないという理解でよろしいですか。
 つまり、例えば長時間労働を抑制しようとしている企業で、労働時間を正しく申告するということになっているにもかかわらず、家で働いている時間あるいはいわゆるサービス残業の時間を労働者が申告しなかったということをもって、労働者が罰せられることはないではないですか。それとのバランスから考えても、少し厳しいような気がいたしました。これは私の意見です。
 
○守島座長
 荒木さん、お願いします。
 
○荒木委員
 健康診断も労働者に受診義務があるということになっているのですけれども、罰則がない。これはまさに労働者の健康にかかわることではありますけれども、しかし、罰則をつけて受診を義務づけるというのは、必ずしも妥当ではないという判断があると思います。諸外国でも、一般健康診断はそもそも義務づけていない国が多くて、特殊健康診断、その業務を行う上で危険があるような業務についてのみ義務づけるという国が少なくないわけですね。このように、健康問題にかかわってもどの程度法が強制するかというのはレベルがあってよい問題だと思います。
 副業・兼業の場合も似たような考慮が必要ではないかということで、もし副業・兼業の場合に全部客観的に把握することを強硬に要求しますと、一つの弊害は、雇用だと窮屈過ぎるということで、働く側も働かせる側も非雇用という形での就業を促進する方向になりかねません。そうすると、そのときに例えば労災が起こったり、あるいはその他の就業上のトラブルが起こったときに、労働ではないという枠組みに押し込めることが、かえって就業者の保護に資しないということがあり得ますので、労働であれば労働というのでそのまま受けとめつつ、申告義務については先ほどの一般健康診断と同じようなアプローチもあり得るとするのが、一つの考え方としてはあるのかなと思ったところです。
 
○守島座長
 お答えになりますか。大丈夫ですか。わかりました。
 松浦さん、よろしいですか。
 
○松浦委員
 ありがとうございます。
 
○守島座長
 ほかにどなたかございますか。石﨑さん、お願いします。
 
○石﨑委員
 今の点に若干関連して、申告義務を課すというときに公法上そういう義務を規定するということと、また、申告義務違反の場合に、私法上、つまり、使用者との関係で懲戒などの対象になるかというのは、恐らくまた別の問題として位置づけられると思っております。確かに公法上申告義務を課すことも、ある面においては私生活について把握を要請するという点で、ある程度の介入となり得るのかなとは思いますけれども、技術的な形で客観的に把握するケースと比べると、その介入の程度は低いものとして位置づけられると私自身は理解しているところです。
 
○守島座長
 ありがとうございました。ほかにどなたかございますか。
 では、また戻ってくることもあるかと思いますけれども、労働時間の把握についての議論はこれで終わりにさせていただきたいと思います。
 次に、割増賃金についての御議論に入りたいと思います。これについても御意見のある方はぜひお願いしたいと思います。
 石﨑委員、お願いします。
 
○石﨑委員
 続けて失礼いたします。
 前回、割増賃金の趣旨との関係で曖昧な意見を述べてしまったところなのですが、今回改めて考えてみますと、果たして割増賃金の通算が時間外労働の抑制装置たり得るのかという点について、実のところ、現行の通達の解釈を前提としましても、契約の先後で基本的に決まるところなどもあって、必ずしも時間外労働の抑制装置とはなっていない面もあるのではないかとまずは思っているところであります。
 また、こうした形でこういう場合には割増賃金請求ができるといった行政解釈が示されている中でなかなか申し上げにくいところではあるのですが、この行政解釈を度外視した形で条文を改めて読んでみますと、時間に関する労基法の規定におきましては、時間を超えて労働させてはならないとあり、また、割増賃金についても、労働時間を延長し、または休日に労働をさせた場合について割増賃金があるという規定ぶりからすると、果たしてほかの使用者のところで働いた結果として超過した場合について、割増賃金請求権が生じるとの解釈についても、若干疑問に思い始めているところです。以上が、現時点での私の意見です。
 ただ、私見とは異なるのですが、仮に複数就業に伴う時間外労働による負担に対する補償を使用者の連帯で行っていこうという考え方をするのであれば、例えば日々時間を計算して、一定時間を超えたから割増賃金を請求するという形ですと実際はなかなか把握もできないし請求もできないことになろうかと思いますので、例えば既にフルタイムの仕事をしている労働者との間で新たに労働契約を結ぶ場合、必ず時間外労働をさせることが前提となるような場合についてのみ月単位で割増賃金を請求できるような立法をするとか、そういった方向は考えられるのかもしれません。ただ、恐らくその場合についても、そういう規制があれば使用者はあらかじめ固定残業代のような形で、予め割増分を賃金に組み込むことで対応するかと思います。また、こうした規制は副業・兼業の推進とは逆の方向に働く規制となろうかとは思いますが、仮に割増賃金請求を実効的にさせるとすれば、そういった規制が考えられるのではないか考えているところです。
 
○守島座長
 ありがとうございました。
 ほかにどなたかいかがでしょうか。水島さん、お願いします。
 
○水島委員
 ありがとうございます。
 私も石﨑先生と重なるところが多いので続けて発言させていただきます。まず、割増賃金が時間外労働の抑制になるのかという点については、私もなっていないように思います。お示しいただいておりますように、収入を得たい労働者にとってメリットとなっている実態がある。ただ、この点は労働基準法の趣旨とは違うものだと思いますので、事実上のメリットを尊重すべきなのか、あるいは法の趣旨に立ち戻るべきなのかは検討の余地があると思います。
 もう一点は、私も労働基準法36条及びそれに関連する規定を読み、副業・兼業、すなわち使用者が異なる場合に労働時間を通算して割増賃金を支払うことが想定されていないのではないかと思われるような規定、書きぶりが見受けられました。石﨑先生がおっしゃるように、解釈として割増賃金が発生するのかは考えていなかったのですけれども、各規定を読んで、使用者が異なる場合の割増賃金支払いに必ずしもなじむものではないと思いました。
 以上です。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 ほかにどなたかございますか。松浦委員、お願いします。
 
○松浦委員
 割増賃金が長時間労働の抑制措置になり得ているのかどうかという議論は、前回から出ていたと記憶しております。私も改めてもう一度考えてみたのですが、恐らく同じ企業の中でこれからさらに働いていただくと割増賃金が発生するという状況で、初めて割増賃金が長時間労働の抑制措置になり得るのではないでしょうか。また、ほかの企業で働いた時間を後で申告されて割増賃金を払えと言われても、働いてもらっていない企業からすると納得感がないでしょうし、働いてもらった企業にしてもその企業単独で残業をしてもらったわけではないということであれば、なかなか納得感が得られないのではないかと思っております。
 ただ、この問題は、副業を促進させたいか、あるいは現状維持でいくか、という政策判断とつながるところであって、副業を政策的に促進させたいという前提に立つのであれば、先ほどの労働時間の把握の問題も含めて、割増賃金を存置しながら促進するのは恐らく難しいのではないかと思っております。もし割増賃金を堅持するのであれば、それはそれで副業の促進にはこだわらないという政策判断になるでしょう。つまり、割増賃金をどうするかという問題は、副業を促進させるかどうかということとつながってくるのかなと考えております。

○守島座長
 ありがとうございました。
 ほかにどなたかございますか。松浦委員、お願いします。
 
○松浦委員
 補足ですが、先ほどの月当たりの固定残業代で対応してはどうかというお話がありました。それも割増賃金を存置させながら何とか今よりも負担を軽減するという次善の策として御提示いただいたのだと思うのですけれども、懸念されるのは、2つ目の企業で契約をするときに固定残業代を見込んで労働条件が設定される、要は低目の労働条件設定になることです。
 
○石﨑委員
 まさにおっしゃっていただいたとおり、恐らくフルタイムをしている人を新たに雇うという企業で割増賃金を必ず払わなければいけないということになれば、割増賃金の前提となる通常の賃金部分を低く抑えて恐らく企業は対応するであろうと思うところでありまして、そうすると、結局規制を存置させたとしても、時間外労働抑制の趣旨という点でどこまで実効的に機能することになるのかは、まさに疑問に思っているところであります。
 私も1点だけ補足させていただきますと、そういった割増賃金との関係での複数就業の場合の労働時間通算というのは意味がないのではないかということを申し上げたのですが、割増賃金規制の趣旨との関係で言いますと、例えば同じ使用者との間で複数の異なる労働契約を締結する場合ですとか、まさに同一の使用者の複数の事業場で働く場合については労働時間通算ということをしていかないと法の潜脱になってしまいますので、その場合には当然通算は必要になってくるのではないかと思います。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 ほかにどなたかございますか。荒木委員、お願いします。
 
○荒木委員
 既に指摘をいただいていることで、かつ課題ということで、行政解釈では労働時間の先後での判断となっているようなのですけれども、実際は後からの契約で先に働いて、その後もとからある契約で働くといった場合にどうするのかもともと割増賃金の一つの趣旨として、その日に8時間以上働いた重い労働の負担に対する対価、報酬ということで考えていたところ、契約をどちらが先に締結したかということとその日に8時間を超えた重い労働を負ったことが符合しないというのが、ここに書いてある課題なのですね。その点でも契約の後先で考えるということを貫徹すると、割増賃金制度からすると不合理な結果が生じることもあろうかと考えています。
 
○守島座長
 ありがとうございました。
 ほかにいかがですか。小畑委員、お願いします。
 
○小畑委員
 先生方の御意見、全く同感なのですが、海外調査におきましても、そもそも割増賃金と関係なく通算ということを考えていたと。そして、そもそも労働者が働き過ぎないということ、そして、健康で文化的な生活を送るためにも労働というものが一体何時間であるべきなのかという観点からの規制がヨーロッパで行われていたことを踏まえて考えましても、その割増賃金がどのような趣旨であるか。さんざんいろいろな議論があったわけですけれども、それをヨーロッパの調査に鑑みて判断するに、割増賃金をこのまま堅持することが唯一の解ではないことは明らかかなと考えております。
 以上でございます。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 ほかにどなたかございますか。石﨑委員、お願いします。
 
○石﨑委員
 先ほどから述べているような理由で、私自身の考えとしては割増賃金規制との関係では通算は必要ないのではないかと思っております。また、そのことを前提とすると、先ほどの労働時間の把握についても日々細かくやる必要もないのではないかという考えになるのですけれども、ただ、労働時間との関係では罰則つきの上限規制もありますので、そちらの規制との関係をどう考えるのかはまたさらに問題になってくるかと思っているのですが、この点はまた今後議題として検討していくということでよろしいのでしょうか。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 その点、事務局からお願いします。
 
○石垣監督課長
 その点については、今後もまた御議論いただく機会はあるとは思いますけれども、本日、もしその関連でも、きょうのテーマについてこういう関連があるのではないかとか、この観点で見れば結論としてこうなのではないかというのがあれば、御自由にお伺いできればありがたいと思います。
 
○石﨑委員
 上限規制との関係で労働時間の通算をするかというのも大問題で、まだ考えが固まっているわけではないのですが、仮に通算することを前提に考えた場合には、上限規制に違反したときの罰則の適用との関係も問題なのですが、規制を超える時間外労働命令というのが、そもそも私法上も違法、無効となるはずですので、使用者が違法な時間外命令をしないようにということで考えていくと、自己申告が前提になるとはいえ、結局、労働時間の把握はかなりしっかりやらなければならないということになってくるように思います。きょうのところは余り私自身のまとまった考えをお伝えすることはできないのですけれども、いずれにしましても、上限規制との関係で通算するのであれば、労働時間把握というのはそれなりにしっかりやっていく必要が出てくることになるかと思いまして、質問させていただきました。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 ほかにどなたかございますか。水島委員、お願いします。
 
○水島委員
 ありがとうございます。
 私の先ほどの発言は、あくまで労働時間の通算を行うことを前提に自己申告が必要ではないか、法律上の義務づけが必要ではないかということを申し上げたものです。労働時間の通算を行うのであれば把握が必要であり、そうであるならば、現行の規制を前提に割増賃金を支払うべきであるという考えが一方にあり、他方で、そもそも労働時間の通算規定が今の働き方になじまず、労働時間の通算を行わず、割増賃金を支払わないという考えもあるのではないかと思います。
 ただ、労働時間の通算を行わず、割増賃金を支払わないとしても、労働者の健康管理、それから、先ほど石﨑先生がおっしゃったような問題が出てくるわけで、そうなりますと、労働時間の通算を行わなくても、労働時間の把握、管理といったものが必要であるとは思います。そのときに労働時間が法定労働時間内あるいは法定労働時間を少し超えたような労働者についてまで全て把握する必要があるのかどうか。つまり、上限規制を超えるような場合にのみ、あるいは上限規制を超えることが疑われるような場合のみ把握するという方法もあるのではないかということを漠然と考えているところです。
 これはもしかすると(3)に入り込んでいるのかもしれませんが、私の意見は以上です。
 
○守島座長
 小畑委員、お願いします。
 
○小畑委員
 今、水島先生がおっしゃったことと関連するかと思うのですが、ヨーロッパで調査をしておりまして、ある一定時間以上働くことは許されないという考え方が貫徹されていると。それはどういう場合を例にとると納得できるかと申しますと、本業のほうの使用者が副業についてもこれぐらい働いているということを知っているケースで、非常に忙しいのでたくさんの労働時間をさせていると。副業との合算でいくと上限を超えてしまうところをさらに働けといった場合に、副業部分は私が命令したわけではないから関係ないから働けとは、それは言えないだろうと。そういう趣旨は貫徹されているのだろうと調査の結果としては受けとめております。そういうところを水島先生は先ほどの御意見の中でおっしゃったのかなと解釈いたしました。
 以上でございます。
 
○守島座長
 ありがとうございました。
 ほかにどなたかございますか。荒木委員、お願いします。
 
○荒木委員
 御指摘があったように、ヨーロッパでは割増賃金については通算しないのですけれども、労働時間の長さについては基本的な考え方としては通算するという法制度になっております。では、それをどの程度現実に取り締まっているのかというと、取り締まりは事実上、なされていない。ですから、実際上は把握がされた場合には通算の考え方が妥当するということですから、それを少しこちら側で翻訳をいたしますと、労働者が副業していますと申告している場合には通算はあり得て、その場合に法定時間を超える労働が何ら規制の対象とならないことにはならないということだと考えております。
 実労働時間の上限については、そういう形で労働者が申告している場合には通算があり得るということかと思いますけれども、今回調査したヨーロッパ諸国では割増賃金については使用者単位であって、使用者が異なる場合に通算して割増賃金を払うという考え方はとられていないということであります。きょう御指摘があったように、そもそも労働基準法32条も40時間、8時間を超えて働かせてはならないということでありまして、これは自分のコントロールできる中での法定時間を超える労働をさせてはいけないという規制であり、割増賃金のところも「労働時間を延長する」ということでありますから、みずからが法定時間を超えて延長するという前提での36条、37条の規制だということも考えますと、その点についてはヨーロッパと同じような考え方を日本でも採用する合理性は相当あるのではないかと考えております。
 したがって、水島先生がおっしゃったように、労働時間と割増賃金をいずれも通算するという考え方が一方にあり、いずれも通算しないという考え方もあり得るという中で、恐らくはその中間といいましょうか、実労働時間の把握と割増賃金の規制をヨーロッパと同じように区別して考え、そして、それをどう把握するかという中では、ヨーロッパで事実上行われている自己申告を基本とした考え方も参考となるのではないかと考えた次第です。
 
○守島座長
 ありがとうございました。
 もう健康管理の議論に入ってきていると思いますので、それに関連して御意見があったらお伺いしたいと思います。
 武林委員、お願いします。
 
○武林委員
 今、先生方の御意見を伺っていて、そもそも通算するのかしないのかという議論もまだ残っているということだと思うのですが、この紙にもまとめていただいているように、そもそも現行では労働時間の通算はしないという前提の健康管理になっています。課題の1つ目のところも、特別の健康確保対策はとられていないといいますか、そもそも企業を超えて健康管理あるいは安全性のサービスをすることが想定されていないということですので、通算をしないということを考えると、この今の安衛法の枠組みと非常に一致して、シンプルに考えれば健康管理も特に通算するのではなく、それぞれ今の法の枠組みで提供するというのが一番基本的な考え方なのかなと思います。そこに健康管理の部分だけ時間を通算することがどういう位置づけになるのか、私の専門ではありませんので、そこだけ急に通算が出てくることに整合性があるのかどうかはぜひ教えていただきたいと思っております。
 一方で、もし通算するとなった場合ですが、恐らく通算するとなると健康管理もそれに合わせた時間で見ながら長時間の健康の問題などが出てくるのだと思いますが、一つは、その場合に、どちらがどれだけ影響しているか判断がつく場合もあると思いますけれども、つかないことがかなり想定をされます。先ほど荒木先生が割賃のところでも先か後かがどうなのかということをおっしゃいましたけれども、この場合も足したとしても一体どちらがどうかかわっているのか判断がつかなかったときに、通算は自己申告なりどんな方法でできたとしても、実際に健康管理、その方を守るために事業者なり御本人にフィードバックをするときにどういう判断をするのかは非常に困難になるだろうということが予測されます。そこをどう整理するのかを、特に何らかの法の枠組みの中でやっていこうとすると考えなければいけないかと感じました。
 それから、思いついたことを先に述べさせていただきますが、今の話は雇用の枠組みの中で議論しているのだと思いますが、非雇用でいろいろと積極的にということも一つ大きなポジティブな方向として想定されているのではないかと思います。その場合での時間の管理も含めて、全体の枠組みの中で整理していただいた上で健康管理を考えていかなければいけないのかなと思いました。
 以上です。
 
○守島座長
 ありがとうございました。
 ほかにどなたかございますか。松浦委員、お願いします。
 
○松浦委員
 まだまとまっていないところもあるのですが、割増賃金の通算については、ヨーロッパの潮流もあり、また抑制装置としての機能不全の問題もあり、さらに負担が非常に大きいということもあって、副業を進めることと割増賃金を通算し続けることは、二者択一にならざるを得ないのではないかと考えております。
 ただ、健康管理について気にかかるのは、ヨーロッパは個人が過労死するまで働く状況が基本的にはない国々であって、そういう前提の違いに考慮すると、健康管理の問題は日本独自の状況をある程度加味する必要があるのではないか。これは個人的な意見ですが、そう考えております。
 労働時間の上限規制も健康確保の観点から設けられている規制だと思うのですが、労働時間の把握について、現実的に自己申告に頼らざるを得ない場合、その自己申告の正確性がどれぐらい担保できるのかという面もあるので、労働時間の上限規制だけではなく、健康管理という面で何らかの規制を設けておかないと心配な面もあるのではないかと思っております。
 そのときに、先ほど上限規制のための労働時間の把握について、水島委員が幾つか段階があるのではないかといったお話をされていたと思うのですけれども、健康管理についても恐らく段階があって、例えば短時間であれば副業で健康を害したり上限規制に抵触することも少ないだろうということで、健康管理の規制の対象をフルタイムだけにすることも考えられます。その際、フルタイムの中で雇用・雇用の場合と雇用・請負の場合を違える必要があるのかなど、いろいろな論点も出てくるとは思うのですが。いずれにしてもヨーロッパと日本の働き方の相違を踏まえると、副業者の健康管理について何らかの規制を設けることについて、検討の余地があるのではないかと考えています。

○守島座長
 ありがとうございました。
 ほかにいかがでしょうか。石﨑委員、お願いします。
 
○石﨑委員
 それぞれ御意見が出たかと思いますけれども、私もこの問題に関しては両方の方向性が考えられると思っておりまして、一つは今、御意見が出たように、日本は諸外国とは状況が違うことを前提に、健康管理との関係で新たに労働時間を通算するような仕組みを設けていく方向性が考えられると思います。
 特に問題になるのは、長時間労働者への面接指導の実施などにおいて時間を通算するかどうかという点になるかと思いますけれども、ただ、この制度との関係で、この制度が長時間の労働自体が健康に対する一定のリスクがあることを前提としているものなのだとすると、必ずしも雇用と非雇用を分ける必要はないことになるのかなという気がします。そうすると、雇用・非雇用を含めた労働時間を自己申告等によって把握して、一定時間を超える場合には指導を行う仕組みとすることが考えられるところです。
 ただ、問題は、指導するとしても、結局自分のところについてはいろいろ言えても、副業先の使用者に対して、仕事を軽くしろなど、コントロールを及ぼす権限はないということになりますので、そうすると、労働者に対して、疲労が蓄積しているのだからあちらの仕事をやめませんかとか、そういったアドバイスをする程度にとどまることにはなるのかなと思います。ただ、制度としてはそういう制度も考えられることは考えられるかなと思うところです。
 また、あとは健康管理を誰の責任と考えるのかに結局は帰着すると思うのですけれども、このような制度はある意味労働時間以外の時間の使い方についても、医師ではありますが、ある種使用者側の者が助言することになりますので、制度のつくりとしてはパターナリスティックな制度になるわけですけれども、しかし、それが必要ということであればそういう制度設計の方向があるのかなと思うところです。
 他方、単純に長時間労働に従事していることが問題なのではなくて、例えば一つの使用者のもとで長時間拘束されて、ほかの好きに使える時間がないということなども含めて、それがいろいろなストレスの原因になっているとかということを前提に、必ずしも時間の問題ではないと捉えるのであれば、そこは時間をそもそも通算する必要はないということで、あくまで各使用者が各使用者のところで働いている労働時間のリスクについてのみ把握し、それに応じていろいろな対応措置を実施すればいいのだということになるかと思います。
 また、現在ストレスチェック制度などもあるところですので、そういった労働時間以外の部分のリスク、例えば、睡眠がとれているかとか、そういったことについてはストレスチェック制度のほうで把握することにして、健康管理との関係でも通算はしないということで割り切ってしまう方向性もあり得るかなと思っているところです。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 ほかにどなたかございますか。松浦委員、お願いします。
 
○松浦委員
 ありがとうございます。
 私は先ほど、副業をしている場合に健康管理についての何らかの規制を設けることについて検討の余地があるのではないかと申し上げたのですけれども、それは労働時間の通算とは別に、単に副業をしていると自己申告した人に対しては、何らかの健康確保措置を設ける余地があるのではないかというつもりで申し上げています。
 労働時間の通算が自己申告になる場合、その自己申告がどこまで厳密になされるのか不安もあり、副業をしているかどうかぐらいまでであればかなり自己申告の精度も上がるだろうということを考えると、副業をしていることをもって、健康管理の規制のレベルを多少上げる余地があるのではないかということです。
 もう一つは、例えばフルタイムであってなおかつ副業している人に限って何らかの健康確保措置、例えば医師の面接指導等を行うというその人に対して何らかの措置をオンするやり方と、今のガイドラインにも入っていると思うのですけれども、本業に支障があれば副業は認めないというようなやり方と、規制としては両方考えられます。後者についてはつまり、本業に支障があれば副業を禁止するという中に健康を害しているということが含まれるのであれば、副業で一定の健康レベルの低下が見られた場合には、本業の会社が副業をやめてくださいと言うことができるようにするというのも、一つの規制のあり方かもしれません。オンするやり方と、それをもうやめてくださいというやり方と、両方あるのではないかと思います。

○守島座長
 ありがとうございます。
 ほかにどなたかございますか。
 前の議題と大分交差していますので、全体的に言っていただいて構わないと思います。
 小畑委員、お願いします。
 
○小畑委員
 安全衛生、健康管理の問題は、どのようにして労働災害を防ぐかということなので、例えば極端な話、ある有害なものに暴露する時間の管理とかからすると、何であろうが健康を害するという問題については通算せざるを得ない。その人の命や健康を守るために必要になってしまうので、例えば炭鉱労働とか、そういういろいろな問題があるということ。
 先ほど石﨑先生も御指摘になりましたストレスチェックのようなものであるとか、そもそも健康診断であるとか、ストレスチェックであるとか、兼業していてもしていなくてもデータがとれるものもあるということを前提に、今、議論が集中してくるのはどうしても長時間労働で過労死とかそういうことなのですが、過労自殺、精神疾患の問題から言うと、副業していることでむしろリフレッシュになってよくなることも可能性としては考えられる。そういうことからすると、少し問題を分けて考えないと、健康管理の問題は一足飛びには行かないものではないかと考えております。
 以上でございます。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 ほかにどなたかございますか。荒木委員、お願いします。
 
○荒木委員
 事務局から説明していただいたほうがいいと思いますけれども、今、月の時間外労働が80時間超といった場合に医師の面接指導があるのですが、一般にはこれは本人が申し出た場合ということで、高プロは本人が申し出なくてもということだったと思いますけれども、その現状はどうなっているのか少し説明いただければと思いますが、いかがでしょうか。
 
○神ノ田労働衛生課長
 うろ覚えであれですけれども、そもそも80時間超えになっているのがそんなにパーセントはなかったと思っています。その中で、御指摘のとおり申し出のあった労働者に対して面接指導を行うという形で運用されていますけれども、具体的なデータは今、手元にないので、確認をさせていただければと思います。
 
○荒木委員
 要は、通算をして医師の面接指導が義務づけられるといっても、それも基本的には本人が申し出た場合で、申し出がなくてもやるのは高プロとか一定の者に限定されているということは踏まえつつ議論したほうがいいと思ったところでした。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 ほかにどなたかございますか。武林先生、お願いします。
 
○武林委員
 今の荒木先生の論点は、健康管理をどう考えるかということは非常に大事だと思いまして、今のところストレスチェックも含めていろいろな情報をとれるようになっていますけれども、その部分は基本的ないわゆる適正配置のための定期健康診断と違う位置づけになっている。ご本人がそれをどう使われるか、個人情報ということだと思います。
 先ほどから議論していただいている中でも、恐らく比較的やりやすいのは、医師の面接指導を例えば副業を自己申告したら実施するということは今の制度と趣旨も非常に合っていますし、基本的には自己申告ベースの中でできるだけ御本人が自分の健康を守るために積極的に使っていただく仕組みとして何らかを用意することは、比較的今の枠組みの中でもいけるのだろうということだと思います。
 一方で、ややパターナリスティックというお話もありましたけれども、それを使って会社が何を判断するのかとなりますと、先ほど申し上げたように、非常に判断が難しいところの中で本当に副業・兼業を止めるとか、そこまでどう整理して行っていくのか。基本的にあくまでも本業が主であって副業が足されたものだという想定に立てばそれもあり得るのでしょうけれども。基本的にはストレスチェックも本人にお返しするのであって、もちろん今、産業医の権限の強化ということもありますから、一定の問題があれば表に出てくると思いますが、それと現実的に兼業・副業をやりたいと思っていらっしゃるご本人に対して産業医という立場でどこまで強く物が言えるのかは、現場の観点でそこのところを十分整理していただいた上で決めていかないと、理想はつくったとしても非常に動きにくい制度になるのではないかという気はいたします。
 まとまりがない話で済みません。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 ほかにどなたかございますか。小畑委員、お願いします。
 
○小畑委員
 働き方改革の関係の法改正で産業医の方々の負担がまたすごくふえて、本当に改革が実施されて以降うまくワークするのかは非常に大きな課題と伺っております。そんな中で、そこを見ながらこれの議論もしないと、制度はつくったけれども動かないということや、既存のものすら守れないということになってもまた困りますし、そこを同時に考慮し、変えていくならば変えていくということで、結構重要な判断になるかなと思っております。
 以上でございます。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 ほかにどなたかございますか。よろしいですか。
 事務局に1つだけお伺いしたいのですけれども、自己申告の妥当性というか、使っていくことに対する議論はあったのですが「事務量が膨大となり」という表現があるのですけれども、これはどういうイメージですか。膨大になってしまって企業がハンドルできないというイメージなのか、それとも単にふえますというイメージなのか、例えばその辺はいかがですか。
 
○岸田監督課長補佐
 やり方にもよるのでしょうけれども、最初に小畑先生からお話があったように、例えば自己申告を入力してもらうという場合、そこまでだったら大したことはないというお話がありましたけれども、そこも大したことがない企業もあれば、そういう仕組みがなかなかできない企業もあるかもしれませんので、そこは企業によっても差があるのかもしれません。また、自己申告を受けたときに、その後にどうしていくのか。通算して割賃を払うのだったらより細かなもの、上限規制だったらどうなのか、健康管理のためだったらもう少し違ったやり方なのかというお話もありましたけれども、その後のやり方によっても少し差が出てくるのかと思います。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 田中審議官、お願いします。
 
○田中審議官
 自己申告に関しては、例えば先ほど産業保健のところであったように、月80時間を超えた場合の面接指導について自己申告を要件として行うということになっていますけれども、なかなかこの自己申告では手を挙げづらいのではないかとか、そういう議論がその後頻繁に行われるようになり、また、例えば裁量労働者とか管理監督者については80時間を超えたかどうかも含めて自己申告的な扱いをしていたということで、そういった方々の健康管理の問題、それから、本当に自己申告という制度が機能しているのかという課題も指摘されていました。今回の働き方改革では一部の高プロなどの例外を除いて自己申告制度は維持したのですけれども、それが適切に促されるような仕組みをつくるという要素を今回入れ、客観的に労働時間の状況を管理監督者、裁量労働者を含めて把握することとするとともに、そういった客観的に把握された労働時間が80時間を超えた労働者には、使用者から時間数を伝え、また、産業医からも労働者からの申出を促す仕組みを入れたところでございます。
 したがいまして、純粋に自己申告制度という形で運用すると、事業主の負担が減る部分は当初あったとしても、それがどのように機能していくかという、状況によってはまた違う要素、事業主の負担とかさまざまな事務負担、さらにはもっと議論が進めば先ほどありましたような行政的な介入といったものも、議論の流れとしてはあり得るのかなと考えております。
 また、自己申告を仮に導入する場合、自己申告をできるだけ客観化することも必要だとは思います。例えば先ほど健康診断の話がありました。労働安全衛生法では、定期健康診断を義務づけることにしております。労働者にも義務がかかっております。ただ、労働者にとっても事業主が指定する医師の健康診断を受けることを必ずしも是としない方もいらっしゃいますので、別の手段を用意しております。具体的に申しますと、労働者が自分の選ぶ医師の健康診断を受けて、その健康診断の結果を事業主に提出することによって、事業主の行う定期健康診断を受けなくてもよいという制度になっております。完全に健康状態を自己申告させるところまでは行っていないのですけれども、一定の自己の裁量を認めている。これももともとそういう制度はなかったのですけれども、労働者のプライバシーでありますとか自己の選択を尊重する観点から導入された制度であります。
 このように、自己申告をめぐっては主体性を尊重する方向とそれを客観化する方向がせめぎ合いながら制度が進展している状況があることを申し添えさせていただきたいと思います。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 お願いします。
 
○神ノ田労働衛生課長
 先ほどの面接指導の関係ですけれども、申し出についてですが、100時間超の労働者がいた事業場、これを分母に持ってきて、そのうち申し出があったのが19.7%です。80時間超の労働者がいて、そのうち申し出があった事業場が15.2%という数字になっています。これはあくまでも事業場ベースの数字ですので、労働者ベースではないというところは留意する必要がある数字です。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 ほかにどなたかございますか。
 多分、この通算の議論をしていく中で自己申告をどこまで妥当なものと考えるのかというのは一つの判断の大きな分かれ目、それ以降のこととも関連していきますから、そこのところはまたどこかの機会で議論できればと思います。
ほかに皆さん方の中でどなたかおありになるでしょうか。
 石垣さん、お願いします。
 
○石垣監督課長
 先生方にきょういろいろと御意見をお出しいただいたのですけれども、座長からもお話がありましたように、自己申告のところが中心のような話になったのですが、私どもが設定している中では(1)のマル2で、例えば労働者から多少話が出たら、それぞれの事業主は管理しているわけなので、労働者からここで働いているよぐらいのことを言われたら事業主同士で情報をやりとりするというのも選択肢としてはあり得るとは思うのですけれども、その辺について何かお考えをお持ちの方がいらっしゃいましたら、御意見をいただければありがたいと思います。
 
○守島座長
 ありがとうございました。
 どなたかございますでしょうか。
 私は個人的には、これこそ事務量というか、仕事量を膨大にさせてしまうと思います。結果として、するなという話になるのではないかと個人的には思います。特に1つ副業をやっているだけならばいいのですけれども、複数やっている場合も非正規系ではあると思いますので、そうなると、本当にそんなことまでやっていられないよというのが企業の実情ではないかと。そんな感じが私は個人的にはいたします。勝手なことを言いました。
 どなたかほかにございますか。
 松浦さん、お願いします。
 
○松浦委員
 私も守島座長と同じ意見です。10人ぐらいの企業で1人が副業をやっていますというのだったらまだ何とかなるのかもしれませんけれども、それこそ数万人、数千人の大企業で、どこの部署で誰が副業をやっているかを把握するだけでも大変なのに、それぞれにひもづいた相手先企業と、一々毎日の労働時間管理を連携するのは、想像を絶する事務量だと思います。
 
○守島座長
 水島先生、お願いします。
 
○水島委員
 私も労働者の副業の事実を知っているだけで使用者間で情報のやりとりをするというのは、まずその情報が何かが問題ですし、今、松浦先生がおっしゃったように、日々の労働時間をやりとりすることはほぼ考えにくいです。労働者と使用者、他の使用者で考え方が違うでしょうから、場合によっては不必要な情報のやりとりがなされるのではないかという懸念もあります。
 契約締結時のみやりとりをするということであれば、まだ可能かなとも思います。しかし、労働者の副業の事実を知ったからといって、それをもって情報のやりとりを求めるのは難しいのではないかと思います。
 
○守島座長
 石﨑さん、お願いします。
 
○石﨑委員
 同じ趣旨ですけれども、加えて既に議論に出ていましたように、使用者としても、相手が労働法上の使用者なのか、単に委託先なのかも判断に迫られるというところで、そういった意味でもこのやりとりはかなり難しいかなと思っているところです。
 
○守島座長
 ありがとうございました。
 ほかにどなたかございますか。
 水島先生が言われた契約時にというのはあり得ると私も思います。というのは、多くの企業は自分の社員が副業をしているかどうかを知らせる義務みたいなものは就業規則に入れる可能性は大きいと思いますので、その時点でどのぐらいの契約、何時間ぐらい働いているのというのは聞くと思うのですけれども、先ほど申し上げたようにデイリーにどうというのはかなり難しいことだろうと思います。ありがとうございます。
 ほかに何かございますでしょうか。よろしいですか。
 それでは、30分ぐらいまだ定刻よりも早いところではございますけれども、本日の議論はこれまでにさせていただきたいと思います。皆さん方、どうもありがとうございました。
 次回の日程について、事務局からお願いいたします。
 
○岸田監督課長補佐
 次回の日程につきましては、場所も含めましてまた先生方に御連絡させていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 
○守島座長
 ありがとうございました。
 これにて第5回「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」を終了いたしたいと思います。
 本日はお忙しい中、皆さん方にお集まりいただき、どうもありがとうございました。