第4回 副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会(議事録)

労働基準局監督課

日時

平成30年12月27日(木)14:00~16:00

場所

厚生労働省 専用第22会議室
(東京都千代田区霞が関1-2-2 中央合同庁舎第5号館18階)

議題

・海外視察の結果報告について
・その他

議事

 
○守島座長
 それでは、定刻になりましたので、ただいまより、第4回「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」を開催いたしたいと思います。
 委員の皆様方におかれましては、年末のお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。
 本日は、小畑委員、島貫委員が御欠席でございます。それから、武林委員は最大10分程度遅れるという御連絡をいただいております。
 本日は、先日、荒木委員、小畑委員、水島委員、石﨑委員に行っていただきましたフランス、ドイツ、オランダへの海外視察の結果について御報告をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
 カメラ撮りはいないですね。では、ここまでとさせていただきたいと思います。
 それでは、本日の議題に入りたいと思います。資料について、事務局から御説明をお願いいたします。
 
○岸田監督課長補佐
 今回の検討会もペーパーレスで行わせていただきます。まず資料の御確認をお願いいたします。資料といたしまして、iPadをごらんいただければと思います。
 資料1 フランス、ドイツ、オランダへの視察結果(労働時間管理、健康管理関係)
 資料2 諸外国の制度を踏まえた検討事項(第4回検討会)
 参考資料1 諸外国の制度について(労働時間)
 参考資料2 第3回検討会における委員の主なご意見
 参考資料3 第3回検討会における労使団体の主なご意見
 その他、座席表を入れさせていただいております。
 うまく見られないなどのトラブルがございましたら、事務局までお申しつけいただければと思います。
 よろしいでしょうか。
 では続きまして、資料1について御説明させていただきたいと思います。
 先ほど座長のほうから御紹介ございましたように、検討会委員であります荒木委員、小畑委員、水島委員、石﨑委員に、11月の終わりからフランス、ドイツ、オランダへ視察に行っていただきました。本資料につきましては、視察に行っていただいた先生方と相談の上つくらせていただいております。事務局のほうでこの資料について読み上げをさせていただいた後、視察に行った先生方に補足等をいただければと思います。
 資料に特に記載がないところについては、基本的に行政機関から聞き取った内容でございます。そのほか、研究者等から聞き取った内容についてはそれがわかるように記載しております。また、訪問先は、資料1の一番後ろに「別添」がついてございまして、そこに訪問先の一覧についてございますので御参照いただければと思います。
 では、早速フランスについて御紹介いたします。1ページ目でございます。
 
I. フランス
1.制度の概要、運用の状況
○最長労働時間は、1日10時間、週48時間、12週平均週44時間。
(1)副業の可否
○副業を行うこと自体は可能だが、以下のとおり、いくつかの制約がある。
・職業活動の自由が保障されていることとの関係で、フルタイム労働者、パートタイム労働者共に副業は原則として認められるが、労働者は労働契約締結により当然に使用者に対して忠実義務を負うため、本業と競合するなど、本業の使用者の利益と反するような副業を行うことは忠実義務違反となることもある。
・使用者は労働契約の中に専業条項(自営型か雇用型か問わず、あらゆる副業を禁止する条項)を盛り込む場合があるが、その条項の効力が認められるためには、その条項が企業の正当な利益にとって必要不可欠でなければならない。
・マル1 忠実義務や競業禁止義務違反にならないか、マル2 複数就業の通算により労働時間規制に違反しないかを使用者がチェックする目的で、労働者が副業を行うときは使用者に対してその旨届出を行うことが必要となり得る。(様式などの定まった方法はない。)
・後述する最長労働時間規制や休息時間規制に違反する副業は許されない。
○研究者等によると、実態は以下のとおり。
・兼業禁止の契約条項は実務上ほとんど認められていない。競業に該当しない兼業を禁止する条項は、正当な理由がない限り効力が認められないため、こうした条項を設けること自体があまり意味のあることではないと考えられているようであった(使用者団体の説明)。また、兼業は雇用×雇用よりも雇用×自営、特にわずかな時間働くタイプの自営が多いが、こうした自営を使用者が禁止できるのは非常に稀である。
・複数就業時に通算される労働時間について、最長労働時間規制は概ね遵守されていると理解。使用者は最長労働時間を超過する副業を禁止することはできるが、そういう例は少なく、紛争になっているケースも少ない。
・兼業による負担や疲労の蓄積により、本業の労務が十分に遂行できなくなるため、使用者が兼業をやめるよう指示する例はあるが、そのようなケースでも必ずしも労働時間規制に違反しているわけではない。

(2)副業をしている者の実態
○本業が雇用の者で副業をしている者は、約5%(2014年)。
○パートタイムの副業をみると、短時間・低賃金の労働を掛け持ちしていて不安定な雇用を行っている者が多く、たとえ労働時間を通算してもフルタイムの労働時間には届かないケースがほとんどである。
○フランスでは、私生活の時間を更なる仕事のために使うという発想はあまり多くない。起業の準備という点については、そのための休暇制度が整備されている。(使用者団体の説明)

(3)労働時間通算について
マル1 基礎的事項
○法律による規定としては簡潔なものしかなく、上限となる労働時間を超えて働かせてはいけないという規制があるのみである。(1日10時間、週48時間、12週平均週44時間)
この規制について、研究・教育・芸術分野等での就労については、適用除外となる。
○監督署からの働きかけなどを契機として、副業による長時間労働の問題が発生していると疑われる場合には、使用者は、労働者に対して労働時間規制を遵守していることを証明する書類を提出するように求める。その場合、労働者は副業に関する情報を報告する義務がある。報告の内容は、マル1 使用者が誰かということ、マル2 副業先で何時間働いているかということである。
○情報提供により労働時間の超過が確認された場合には、労働者に、どちらの労働契約を打ち切るかを選ばせる。労働者が選択しない場合など、なお問題が残る場合には、労働者に帰責性があると判断して使用者がその労働者の解雇を行うことが可能となる。

マル2 副業先での労働時間の把握、労働時間の調整について
○労働者が労働時間を報告する結果として、副業先での労働時間を使用者が把握することはある。また、監督署が報告を求めた場合には、使用者は報告する義務がある。ただし、労働時間管理簿に副業先の労働時間まで記録するという法律上の義務はない。
○複数の使用者がいる場合の調整について、理論的には、両使用者に労働者から情報提供がなされているという前提で労働時間規制を遵守しないといけないが、調整を行うことは難しく、実務上できているかどうかは別問題である。

マル3 割増賃金について
○割増賃金の算定に当たっては、労働時間は通算しない。

マル4 休息について
○勤務間インターバルについては、ある日の最後に行う仕事から次の日の最初に行う仕事まで11時間の勤務間インターバルが確保できず、法違反が生じている可能性も理論的にはある。
○研究者によると、1企業がインターバルを遵守しているかは問題になりうるが、複数の企業が守っているかどうかは行政も問題としておらず、紛争として争われることもない。

マル5 監督状況について
○監督署が使用者に対して、労働時間通算に関する働きかけを行うケースは非常に稀である。通算による違反が生じていることが発覚する例としては、労災事故が発生して監督署にて処理を行う際に、被災者が実は兼業によって労働時間の上限を超過していたことが後々に発覚するという例がある。
○研究者によると、通算した労働時間の最長労働時間の遵守状況や、使用者の情報提供依頼・労働者の申告義務について、実務上は、労働監督官は点検できていない。

マル6 違反、罰則の状況について
○労働時間を通算して上限規制を超える場合の罰金は1500ユーロ、再犯の場合は3000ユーロが科されるが、これは理論上のもので、実際に適用されるケースは稀。特に労働者に対して罰金を科す例は、実務上ほとんどない。
○副業は監督署としても関心の低い分野であるが、その理由としては労働時間を通算しても上限規制にかかってくるケースがほとんどないためである。

(4)健康管理について
○一般的な健康診断は、採用後3カ月以内、その後の定期的な健康診断は最低5年に1回行われる(2年に1回だったものが緩和された)。深夜労働者やハイリスク業務に従事する者を対象とする健康診断はより短い間隔(前者は3年以内、後者は2年以内)で実施される。
○複数の使用者に雇用されている者か否かで使用者に課される実施義務に違いはない。

2.労使の受け止め方
(使用者団体)
○フランスでは高い失業率が続いており、副業・兼業の前にこちらの問題に対する関心が中心。副業・兼業に対しては極めて関心は低い。
フランスで兼業が広まっていない理由として考えられるのは、フランスの労働時間制度の多様化・柔軟化が進んでいるため、その働き方にあった兼業を探すことが難しくなっていると考えられる。また、フルタイム労働者は法定及び協約上の最低賃金により、十分な収入を得られ、兼業をする必要性が低い。
○実務上(現場の感覚では)、労働時間規制について使用者は11時間の休息時間を労働者に付与してさえすれば、大きな問題はないと考えている。兼業では労働時間が通算されるが、労働時間規制に対する労働監督官の対応は厳しいものではない。ただし、実際に事故が起きた時には使用者として義務違反を問われることになるため、使用者の関心がないわけではない。
○最長労働時間規制及びその通算については安全の保護という面からの規制であり、使用者としても重要だと考えている。一方で割増賃金については、報酬に関する規制という点で性質が異なるものであり、労働時間を通算して決定すべき性質のものではない。
 
フランスについては以上でございます。
○守島座長
 ありがとうございました。
 それでは、ただいまの説明について、実際に行っていただいた先生方から、何か補足のようなものがあればお聞きしたいと思います。
 では、荒木先生。
 
○荒木委員
 ありがとうございました。
 最初に、労働省のほうから、副業・兼業が疑われる場合に報告義務があるという紹介があったのですけれども、あくまで理論上のものでありまして、実際は行政で取り締まっているわけでもありませんし、それが副業・兼業の場合に、例えば10時間を超えるかどうかが客観的に明らかになるような仕組み、通算したら幾らになるかを書くような、そういう書式があるわけでもないということで、本人が言わない限りはなかなかわからないということで、特段問題とされていないというのが後ほど実態で紹介あったとおりだと思います。
 それがわかるのは、例えば過労で何か事故を起こしたということになると、何でこんな事故を起こしたのかということからさかのぼっていって、実は副業・兼業していたではないかと。これは通算すると労働時間規制違反ではないかと、そういう形で問題となることがあるということであって、事前に規制するという感じではないということがわかりました。
 休息時間について、11時間の休息時間の間に別の所で働いた場合には違反となるのではないかということも聞いたのですけれども、それはそのとおりだけれども、特段それが問題視されて取り締まっているということでもないということでした。
 どうぞ、ほかの点があれば補足してください。
 
○石﨑委員
 御報告いただいたとおりということになるのですけれども、監督状況ですとか、違反・罰則の適用に関しても非常に稀であるということでありまして、今回聞き取り調査させていただいた研究者の先生も、御経歴としては労働監督官としての経歴も長くお持ちの方であったのですけれども、その長い経歴の中でそういったケースに当たったことは実際にないということでしたし、労働省のほうも同様の回答でありました。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 
○荒木委員
 もう一点、割増賃金については、フランスでもということですけれども、全部使用者単位でした。労働時間を通算したところ、割増賃金率が上がる場合にどうするかと訊いたのですが、そういうことはしていない、割増賃金の計算については全て使用者単位であって、それを通算して割増賃金を考えるということは行っていないということが確認されました。
 
○守島座長
 どうぞ。
 
○石﨑委員
 その点に関しましてということですが、事務局からも御説明いただきましたとおり、フランスにおける労働時間通算に関する規定としましては、上限となる労働時間を超えて働かせてはいけないという規定があるのみでありまして、また、この規定は、労働時間に関する規定が置かれているところに条文があるのではなくて、違法労働という、また別のところにそういう規定が置かれていて、その違法労働の一類型として、最長労働規制を超える複数就業というものが挙げられているというところでありますので、条文の文言、あるいは構造からも、割増賃金の通算は行わないということになろうかと思われるところです。
 
○守島座長
 ありがとうございます。よろしいですかね。
 それでは、ほかの委員の方から質問とかございましたら。
 
○武林委員
 1点教えていただきたいのですけれども、今の御報告を伺っていますと、基本的には労働者側に副業を報告する義務があるということで、もし超過した場合には労働者側が選んでいくのであって、そこに問題があれば解雇もできるということだと思いますが、そうすると、基本的にはこの問題は、労働者側の義務といいますか、責任のもとに行うとされているということなのか、あるいは違反・罰則にいったときには労使ともにそれがかかるのかという、その責任の所在という観点ではどのような実情だったのか教えていただけますでしょうか。
 
○荒木委員
 労働者の義務といいますのは、主として想定されているのは、いわば競業避止義務に違反して働いているという場合の契約上の義務違反が生ずるということでありまして、報告義務があると書いてあると一般的な義務が課されているという印象を持つのですけれども、理論的に突き詰めていくと、そういうことはあり得るけれども、そういう認識で世の中動いているか、労働者が動いているかというとそうではないということだったという印象を持っております。
 それから、フランスは労働者の罰則はかかるのでしたっけ。
 
○石﨑委員
 労働者に対する罰則規定、刑事罰の規定はあるのですが、それもやはり適用例がそもそもないということなので、そこが問題となっていないということかと思います。労働者の責任ということが問題となり得るとすれば、先ほどお話あったような使用者の利益を害するようなことについて民事上何か責任が問われるといったケースであるということかと思います。
 
○荒木委員
 補足しますと、裁判例などで問題となっているのは、10時間を超えて違法な労働があったと、そういう問題ではなくて、例えば労働時間が10時間を超えるような状況があって、その違法状態を解消するために、どちらかの副業、兼業をやめなければいけないというときに、例えば2番目の使用者が勝手に解雇してしまったという場合に、どちらかの兼業をやめて10時間以内におさめればいいのであるところ、一方の使用者が勝手に解雇するのは拙速であって、本人自身に選ばせるべきだと言ってその解雇が違法とされた判例がある。そういう形で、行政上の10時間以上の労働が労働時間規制違反だというよりも、解雇になって初めて、そのときに選択肢を与えなかったことが違法かとか、そういう形で紛争が顕在化するというのが実情のようでした。
 
○武林委員
 済みません。1点だけ。
 インターバルのことも出てくるのですけれども、そうすると、インターバルが確保できなかった場合にも、基本的にはそれはどちらかを解消するように努力しなければいけないと考えられているのでしょうか。
 
○荒木委員
 理論上は双方の使用者が負うのですけれども、そもそも休息時間規制違反の場合は、労働者が言わない限りは誰も把握していないというのが実情ですので、労働者は副業をしたくてやっているわけですから、通常はそれも顕在化しないという状況です。11時間の休息時間規制の違反ではないのですかと訊いたところ、理論上違反だけれども、それが問題とはされていないというのが実情という回答でした。
 
○守島座長
 ほかに。
 では、松浦先生。
 
○松浦委員
 御報告ありがとうございました。2つお伺いしたいと思います。
 1つは、割増賃金を本業と副業で通算して支払わない、つまり使用者単位で割増賃金を支払うということについて、先ほどの御説明の中では、法律の構成の面からそういうつくりになっているというお話でした。一方で、日本の場合は割増賃金を通算して支払うという規制になっているわけですので、フランスで割増賃金を通算しないという考え方をとっているのと日本での考え方と、一体何が違うのか、おわかりになる範囲で教えていただければというのが1点目です。
 もう一つは、3ページのところで「違反・罰則の状況について」という記述がございます。「労働時間を通算して上限規制を超える場合の罰金は」というところで、これは企業に科されると思っていたのですが、その次の行に「特に労働者に対して罰金を科す例は」という記述があって混乱してしまいました。これは、労働者にも罰金が科されるということなのでしょうか。罰金の対象が誰なのかということが2つ目の質問です。よろしくお願いします。
 
○石﨑委員
 ありがとうございました。2点目のほうから回答させていただきますと、罰金の金額等が労働者に対する規制と使用者に対する規制で同じ金額だったかは改めて確認させていただいた上で回答させていただきたいのですけれども、いずれにしても、企業も労働者も、罰則、刑事罰の対象となるという点は確かかと思います。
 それから、1点目については、私も興味深いなと思うところではあるのですが、まず、形式的なお答えとしましては、日本の場合ですと、労働時間は通算するとあるので、労働時間に関する法規制において、労働時間通算するものとしていろんな条文が適用されるということになるのに対し、フランスのほうは明確に、最長労働時間規制を超える労働を禁止するという規定になりますので、そうすると、最長労働時間規制を複数就業によって超えるという場合にはそれが禁止されるということになりますけれども、割増賃金のほうで通算するということについて、そもそも根拠がないことになるというのが一応形式的なお答えになるかと思います。
 実質的な理由又は背景にある考えについては、ちょっと私の推測も含むところで答えさせていただくと、恐らく、割増賃金に関する規制というのはある種報酬にかかわる規制と考えられているのではないかと思うところでありまして、最長労働時間規制とはまた性質の異なるものとして考えられているのかなというように思うところであります。以上は私自身の感触に基づく回答ということでございます。
 
○松浦委員
 ありがとうございます。
 
○守島座長
 どうぞ。
 
○荒木委員
 私も石﨑先生と同じように考えておりまして、最長労働時間というのはまさに健康確保のための規制であるのに対して、割増賃金規制は、報酬といいますか、経済的な側面に関するものです。日本では、割増賃金規制は長時間労働を抑制するための一つの装置と説明しておりますので、両者は同じ目的の規制だと考えておりますが、ヨーロッパではこれは明確に区別されているという印象を持ちました。最長労働時間規制はまさに健康確保。
 EUでいうと、健康確保についてはEUが立法権を持っていたのでそれをやったということにもつながっていくわけですけれども、その最長労働時間規制の問題と割増賃金という報酬の問題は別の規制である。したがって、割増賃金規制については使用者単位で、実労働時間については通算して10時間を超えてはいけないと、そういう区別がなされているのだと理解しました。
 
○石﨑委員
 済みません。補足ですけれども、先ほど私の感触でと申し上げたのですが、ちょっと手元の記録等を確認しましたところ、使用者団体のほうからそういった回答をいただいていたところでした。つまり、最長労働時間規制については健康の保護といった観点からの規制であり、他方、割増賃金についてはやはり報酬に関する規制であるので、通算するという性質のものではないのではないかといったような回答をされておりました。
 
○松浦委員
 日本の場合は割増賃金が、まさに長時間労働を抑制するための装置として位置づけられているというのはお話のとおりだと思います。一方、フランスでは、割増賃金が報酬としての意味合いが強いということは理解したのですけれども、割増賃金を設ける意味を考えると、やはり労働時間を規制するという意味もあるのではないでしょうか。そこら辺が少し混乱してしまったのですが。
 
○石﨑委員
 確かにフランスにおきましても、法定労働時間を超えた部分に対して課されるというところはあるのですけれども、日本でも時間外労働の抑制という趣旨と、あともう一つ、過重な労働に対する保障という趣旨があると思うのですけれども、恐らく後者の側面が大きいのかなと理解したところであります。
 
○松浦委員
 ありがとうございました。
 
○守島座長
 ありがとうございました。
 では私からちょっと、これは完全に確認ですけれども、今の議論をしていた部分のすぐ下に、「通算しても上限規制にかかってくるケースはほとんどない」という文章があります。これは聞かれて答えられた方の印象という話なのか、それとも何かデータみたいなものが明確にあるのか、その辺のところはどういうことですか。
 
○荒木委員
 少なくとも最初の質問では、この労働時間、例えば10時間超という違反のずれは何件あるかと具体的に聞いたのですが、そもそもそんな答えられるデータはないというようなことだったと思います。そういうデータを持ってもいないし、何件といっても、ほとんどそんなものは聞いたことがないし、ずうっと何十年も労働基準監督官をされて、今、研究者をやっている方でしたが、自分はその違反というのは見たことがないということでした。
 件数で挙がっていないこととも関係しますが、実際に通算して10時間を超えるという場合が、基本的には少ないとも言っていました。フルタイムで働ければ、それは十分な報酬があるから、生活のために副業しなければいけないという状況は余り考えられない。特にフランスの場合は、御承知のとおり、最低賃金が相当高いレベルに設定されていて、かつ、フルタイムで働くことが原則です。非正規が規制されて少ない結果、高い失業率にもなってはいるのですけれども、フルタイムで働けば、それで副業しなければ食べていけないという状況はないということも背景にあるとは思います。しかし、そうはいっても、10時間超の違反のほかに休息時間規制の違反はそれでもあり得るのではないでしょうかと訊いたところ、言われてみたらそうかもしれないけれどもということで、余り認識、問題視していない状況ということでした。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 
○石﨑委員
 それから、使用者のほうは労働時間管理簿というのに労働時間を記録しておくことが想定されているわけですけれども、そこに副業先の労働時間を記録したりということはしていないようですので、そうしますと統計としても上がってきにくいのかなと理解しております。
 
○守島座長
 ありがとうございます。ほかに何か。
 よろしいでしょうか。
 それでは、一応フランスを終わりにさせていただいて、次にドイツにいきたいと思います。では、ドイツの御説明をお願いいたします。
 
○岸田監督課長補佐
 では、ドイツについて御紹介いたします。5ページになります。ごらんください。
 
II.ドイツ
1.制度の概要、運用の状況
○最長労働時間は、1日10時間、週48時間、6カ月平均1日8時間。
(1)副業の可否
○憲法により職業選択の自由が保障されていることから、原則として、副業は自由であり、雇用契約に基づく副業の禁止は、使用者の正当な利益を保護するために必要だという場合や法規制に抵触する場合にのみ可能。副業が制限できるケースとしては下記があげられる。
・本業への支障がある場合
・競業禁止に該当することになる場合
・休暇期間中に行われ、休養という休暇の趣旨が達成されない場合
・全ての使用者の下で働く労働時間の合計が労働時間法で定められた労働時間の上限を超えるケース(フルタイムかパートタイムかは問わないが、自営業は含まない)
○使用者は、禁止される副業について契約上規定したり、副業について、使用者の承認にかからしめ、報告させる申告義務を課すことがある。ただし、労働者が副業しようとする目的等を申告する場合、使用者は正当な利益を阻害しない限り承認を与えなければならない(労働者団体の説明)。労働者が副業の承認を使用者に申請する場合に、その申請は通常認められる。(使用者団体の説明)

(2)副業をしている者の実態
○雇用されている者のうち、雇用の副業をしている労働者の割合は約9%(2018年)。自営の副業主を算出することは統計上不可能。
○副業をしている多くの者は、時々又は季節的にではなく、定期的に副業を行っている。
○複数就業者の中で最も多いのは、社会保険加入義務のある就業と僅少就業(年収450ユーロ以下の就業)の副業が組み合わさった形態(約280万人:2018年)。

(3)労働時間通算について
マル1 基礎的事項
○副業先と結んだ労働契約は上限時間(1日10時間、週48時間、6カ月平均1日8時間)を超える部分については無効。ただし、労働者は既に働いた部分の対価としての賃金請求権を失わない。
○使用者は労働者に副業の有無を質問することを労働契約に設ける権利があり、労働契約を締結する際に副業の有無を聞くことができるが、その場合に労働者は真実を伝える義務を負う。副業を承認制にすることによって、労働者は副業の事実を伝えないといけないことになる。

マル2 副業先での労働時間の把握、労働時間の調整について
○労働契約において、使用者に、労働者に対して副業先の労働時間数を聞く権利が認められる場合、使用者から質問された労働者は正確に答える義務があるため、それによって労働時間を把握可能。
○副業から得た収入に対しては、本業から得た収入よりも高い社会保険料率が適用されることとの関係で、副業先の使用者は、仮に労働者が何も言わなかったとしても、他に本業を有していることを察知する場合がある。(使用者団体の説明)
○使用者は労働時間を記録する義務を負うが、実労働時間ではなく、8時間を超えた部分の時間について記録すれば足りるとされている。(労働者団体の説明)
○使用者に労働時間の調整を義務付ける明文の規定はないが、使用者は労働時間規制を守らなければならないことから、副業先の労働により労働時間法違反とならないよう調整する(例えば副業を承認しない)、あるいは調整される(超える部分の労働契約が無効となる)。

マル3 割増賃金について
○法律上の規制はなく、協約により設定される。当該使用者の下での時間外労働に対する割増手当として支払われるものなので、算定に当たっては、労働時間は通算しない。(労働者団体の説明)

マル4 休息について
○休息時間の規制は大きなトピックとなり、使用者側や一部の法学者から、休息時間中の短時間(15分程度)の就労は休息時間を中断させないなどの主張も出ている。(労働者団体の説明)
○理論的には、本業が終わった後で副業に従事することにより、休息時間規制に抵触する可能性があるが、実務上はあまり監督されていない。(労働者団体の説明)

マル5 監督状況について
○監督について、連邦ではなく州のレベルで行っている。
○労働時間法については、監督署の人材不足の影響もあり、必要とされているほど監督がされていない。
○原則として、労働者や組合等から申告がない限り、監督は実施されない。(労働者団体の説明)
○監督は使用者ごとに行われているので、労働者が他の使用者の下でどの程度働いているかについてや、通算した労働時間について、監督署がどこまで把握しているかは疑問。(使用者団体の説明)

マル6 違反、罰則の状況について
○労働時間法における履行確保については、監督署の人材不足のため、あまり実施されていない。(労働者団体の説明)
○行政上の過料については、使用者に故意または過失がある場合にのみ科されるので、使用者が副業の事実を知り得なかったような場合には、労働時間通算による最長労働時間規制違反の責任について免責されると考えられる。

(4)健康管理について
○労働者一般に対する健康診断実施義務は原則としてなく、深夜労働者やハイリスク業務に従事する者を対象とする健康診断の実施が使用者に義務付けられている。
○複数の使用者に雇用されている者か否かで使用者に課される実施義務に違いはない。

2.労使の受け止め方
(労働者団体)
○労働時間の通算については維持すべき。デジタル化によって労働者はいつでもどこでも働けるような状況になり、労働負荷の上昇からの保護という点からは、労働時間規制を緩和すべきではない。一番大切なのは、使用者が労働者の実労働時間を把握する義務を法律上設けることだと考える。(現在は、残業時間の記録及びその保存のみが法律上義務付けられている。)
○労働時間通算のために、使用者間で労働時間を通知する義務を課すことや、監督署に対して使用者が副業の有無等を通知する義務を課すことまでは必要ないと考える。

(使用者団体)
○労働時間は1日単位ではなく、1週単位で調整すべき。労働者がオフィスと家の双方で働く場合には、日単位の最長労働時間規制を超えることが多いが、1日10時間という日単位の最長労働時間規制を削除すれば、労働者はより自由に労働時間を調整することができ、ワークライフバランスを実現することもできる。もしこの規制を削除した場合には、コンセプトの変更を理由として、労働時間通算の規定も修正されることになるだろう。
○労働者は自分を守るために自分自身で労働時間を管理することが重要。
 
 ドイツにつきましては以上です。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 それでは、ドイツについて補足がございましたらどうぞ。
 
○水島委員
 ありがとうございます。
 私はドイツから参加させていただいたのですけれども、ドイツにおいては、副業における労働時間に関する問題は余り生じておらず、関心も薄いという印象を受けました。
 例えば休息について、休息時間の規制は大きなトピックとなっている、短時間の休息時間中の就労は休息時間を中断させないという説明もございましたけれども、これは例えば休息時間中に業務に関するメールや電話が来たときに、それで休息時間が中断したことになるのか、そのようなお話であり、副業云々ゆえに問題となっているわけではありません。
 それから、もう一つドイツで感じたことは、労働時間に対する意識が日本とはかなり異なるように思いました。使用者団体からのお話ではございますが、労働者が主体的に労働時間を管理する、このような意識がドイツでは当然のように受けとめられているというのが、私がドイツ調査から受けた印象です。
 
○守島座長
 ありがとうございます。ほかに。
 
○石﨑委員
 私のほうからも若干補足をさせていただければと思います。
 全体的な印象としましては水島先生と同じような印象を持っておりまして、あともう一点、ちょっと細かな点で最長労働時間に違反した場合の効果について補足をさせていただきますと、上限時間を超える部分については無効とあるのですが、これは連邦労働裁判所の判例によって認められている効果でして、超えたら直ちに無効ということを判例がいっているわけではなくて、著しく超える場合については無効といったような判断をしているということであります。
 また、その判断をしている判決の事案といいますのも、労働者側が有給休暇をとれなかったということで損害賠償請求を提起したところ、副業先の使用者のほうが、最長労働時間規制を超えている自身との労働契約は無効だから自分は払わなくていいはずだみたいな主張をしたというものであり、判決のほうでは、それは確かに無効かもしれないけれども、既に働いた部分の対価としての賃金請求権は失わないし、そういった損害賠償請求権についても払いなさいよというようなことを判断したというものであったかと思います。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 それでは、質問等がございましたら。
 
○松浦委員
 1つは質問で、もう1つは感想めいたものになるのですけれども、ドイツの7ページの「違反、罰則の状況について」で「行政上の過料」というものがあるのですが、これは使用者側のみに科されるということでしょうか。
 もう一つは、これは質問というより感想ですけれども、ドイツもフランスと同じように、割増賃金は通算されないということになっていて、そこについては当該使用者のもとでの時間外労働に対する割増手当として支払われるものなので、という記述があります。この記述から、先ほど御教示いただいたように、割増賃金を当該使用者がある意味過重な労働を命じて、労働してもらったことに対する補償だと考えると、別のところで働いた、つまり当該使用者が命じていない労働に対しての補償は支払わないと、そういう考え方なのだろうということに思い至りました。
 以上です。
 
○石﨑委員
 ありがとうございました。
 1点目についてですけれども、行政上の過料、そして刑事罰の規定につきまして、ドイツにおきましては、いずれも使用者のみを対象としているものであります。監督などの履行というのは州レベルで行っているということもありまして、実は連邦の労働省のほうからの聞き取りでは、具体的なその監督状況については伺うことができなかったわけですけれども、労働者団体、使用者団体それぞれの認識としては、この通算に関する監督というのはほとんどなされていないであろうということでありました。
 それから、割増賃金の点についても御指摘のとおりでありまして、特にドイツは法定の規制ではなくて、協約上、その割増賃金の支払い義務が課されているということなので、なおさらそういったことになるのかなと思っているところでございます。
 
○守島座長
 どうぞ。
 
○荒木委員
 ドイツは、1994年に現在の労働時間法に改正をしたのです。それまでは割増賃金の規定があったのですけれども、94年法で割増賃金の根拠条文を削除しております。この考え方は、時間外労働は全部労働解放時間で返すべきである。割増賃金で払うべきではないというのが一つの考え方。もう一つは、既に協約によって法定よりも高い割増賃金が設定されているので、法律で規制する必要はないと。そういう2つの理由があったと思いますけれども、少なくとも法律上割増賃金支払い義務が設定されていないということから、割増賃金については、通算ということも当然問題とならないということがありました。
 この6ページに書いてありますとおり、協約上は、150%とか、休日労働は200%といった割増賃金を設定しているのですけれども、そこで協約の所定時間を超えた割増賃金計算について通算はしないのですかと労働組合に聞いたところ、労働組合がそれはしないと、割増賃金は使用者単位であるときっぱりとおっしゃったのが大変印象的でした。
 
○守島座長
 ありがとうございます。ほかにどなたか。よろしいですか。
 それでは、続いてオランダにいきたいと思います。では、オランダの御説明をお願いします。
 
○岸田監督課長補佐
 では、オランダの御説明をさせていただきます。9ページになります。
 
III. オランダ
1.制度の概要、運用の状況
○最長労働時間は、1日12時間、週60時間、16週平均週48時間。
(1)副業の可否
○研究者によると以下のとおり。
・労働者には職業選択の自由が認められており、使用者がそれを限定することは難しくなっている。制限できるのは、労働者の健康阻害や競業を避ける場合や使用者の正当な利益を守るために必要な場合である。副業に対する制限や副業申告義務を課すことは、労働協約又は個別労働契約によりなされる。副業制限や申告義務に反する場合、使用者は解雇を行うことがある。
・複数就業の問題は、現時点ではオランダでは重要視されていない問題であるが、今後、フレキシブルな仕事が増えてくることにより重要な課題となることが想定される。

(2)副業をしている者の実態
○副業をしている者は、雇用されている者全体の約7%(2017年)。
○本業・副業の合計した労働時間は36.8時間(本業27時間、副業9.8時間)。
○収入を得るための副業は少ない。(例えば、一般家庭で男性が一人で働いている場合、最低賃金の収入であっても生活は十分できる。)
○オランダの文化では長時間労働しない傾向があり、副業に関して問題視されていない。

(3)労働時間通算について
マル1 基礎的事項
○研究者によると以下のとおり。
・法的枠組みとしては、1日12時間、週最長60時間の規制があるが、16週間の平均が週48時間となることが必要。一方、労働協約では伝統的に週40時間と定めているものが多い。労働協約の時間を超えて働くことが許容されているが、そのときに初めてこの法的枠組みが機能する。また、労働協約による法規制からの逸脱が柔軟に認められており、労使で合意できれば、上限を動かすことができる。
・労働人口の50%はパートタイム労働者であり、副業による最長労働時間の超過はそれほど問題視されていない。一方、例えば、清掃業、建設業だと恒常的な兼業を重ねていて、最長労働時間を超過していることは考えられるが、認識されていない可能性もある。
○最低賃金の3倍以上稼ぐ労働者、研究者、芸術家等については、労働時間規制は適用除外となる。

マル2 副業先での労働時間の把握、労働時間の調整について
○使用者は、1日単位の実労働時間の記録が必要だが、その方法については特段の定めはない。
○研究者によると以下のとおり。
・複数就業の場合に、労働時間を通算して規制が適用されることとなっており、そのため労働者は使用者に自分の労働時間を伝える義務が課されている。
・複数就業を知った使用者は、使用者間で調整するためにコンタクトを取らないといけないことになる。ただし、法律上はそれに関する問題・紛争を解決するための手続は用意されていない。しかし、理論的には、双方が調整せずに放置した場合は、双方の使用者が法違反に問われることとなる。

マル3 割増賃金について
○研究者によると、法律上の規制はなく、協約により設定される。また、割増賃金でなく、労働からの解放時間(代替休暇又は自由時間)の付与によって調整するケースが多い。

マル4 休息について
○休息時間規制違反は、それほど多くの労働者が兼業していないため、少ないと考えられる。
○研究者によると、休息時間違反は起こりうるが、行政は問題視していないし、労働者も問題を意識していないと考えられる。

マル5 監督状況について
○理論的には、従業員が複数の使用者の下で労務に従事する場合、監督官は他の使用者の管理簿を調査して、整合性をチェックするということにはなっている。ただし、実際は不明。
○監督は労働者からの申告で実施することは少なく、苦情自体も少ない。労働環境に問題がある場合、通常、労働者は組合に相談し、組合を通じて改善されることが多い。
○研究者によると、副業は個人の問題であり、労働者本人の意思によって行っているものなので、労働者が違法を申告しない限り、発見は困難であり、監督は事実上されていない状況。

マル6 違反、罰則の状況について
○研究者によると、以下のとおり。
・通算した労働時間について、最長労働時間を超える違反の事例自体が少ない。また、予期できず緊急性がある場合等は例外的に最長労働時間(1日12時間)以上働かせることも認められる。
・理論上は最長時間を超えた場合に使用者に1000-10000ユーロの制裁金が科され、不服がある場合には、地方裁判所や行政裁判所機能を持つ国策会議に持ち込まれることになるが、副業に関するケースは少ない。
・労働者が副業の報告義務に違反した場合、制裁金(行政罰)を科されることは理論的にはありうるが、労働監督官がその事実を知ることはないのが普通なので、実際には行われていないだろう。(ただし、社会保険料の負担等の関係から、労働者が複数就業を秘密にしておくことは難しいのではないか。)

(4)健康管理について
○全使用者はすべての労働者に対して定期的な健康診断の機会を提供しなければならない。労働者は健康診断を受けるかどうかを決める権利を有している。従って、労働者は健康診断を受診する義務はないが、使用者には労働者に健康診断の機会を提供する義務がある。
○複数の使用者に雇用されている者か否かで使用者に課される実施義務に違いはない。

2.労使の受け止め方
○オランダでは労使団体のヒアリングは実施せず。
 
 以上です。
 
○守島座長
 ありがとうございました。
 それでは、オランダについて、何か補足等はございますか。

○水島委員
 ありがとうございました。内容につきましては御報告いただいたとおりですけれども、オランダについて前提として押さえておかなければならない点が2点あると思いました。
 1つは、オランダでは非常に社会保障、生活保障が充実しているようでありまして、パートタイムを選択しても生活できる。つまり、収入、賃金だけで足りなければ国からの給付、社会保障給付の、詳細までは伺っていませんけれども、そのようなものがあるということでございました。ただいま報告いただいた中にもありますように、一般家庭で男性が1人で働いている場合であっても、最低賃金でも生活が十分できる。生活費を稼ぐために副業するという必要がないようです。それが1点目です。
 もう1つは、労働時間法違反になりにくい状態であるという点です。実態として長時間労働をする必要もないし、多くの人は働かない。それに加えて、法規制が日本よりも非常に緩やかで、逸脱、適用除外等も日本以上に緩やかであるように思いました。
 したがいまして、仮に副業しても法律違反になるケースが少なく、またそのような実態が、少なくとも顕在化しておらず、ドイツ同様、副業における労働時間についての関心が非常に薄いと理解しました。
 以上です。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 では、石﨑委員。
 
○石﨑委員
 今、御指摘いただいた点と重なるところもあるのですけれども、フランスもそうだと思いますが、つまり、複数就業によって長時間労働になりやすい職種というのがそもそも通算からの適用除外となっているということを指摘できるかと思います。
 あと、研究者の先生からいただいた資料で書かれていたところでは、実態としては恐らく監督というのは余り行われていないだろうという意味で、このオランダにおける通算規定というのはある種象徴的な性格を持つにすぎないかもしれないと。であるけれども、その規定があることによって、企業が副業とか複数就業に際して最長労働時間規制を超えないようにと自主的にしたがっているという面はあるかもしれないといったような指摘があったことも若干補足させていただければと思います。
 
○守島座長
 ありがとうございます。ほかに大丈夫ですかね。
 それでは、質問等をお願いします。
 
○松浦委員
 1点だけ確認です。オランダの割増賃金について、こちらも法律上の規制がなく、協約によって設定されるという記載になっていたかと思うのですけれども、これは協約によって通算されたりされなかったりするという意味でしょうか。それとも、現時点では協約によって全体として通算されないということになっているのか。通算の実態について、おわかりになる範囲で教えていただければと思います。
 
○荒木委員
 この割増賃金の説明は、通算の話しではなく、そもそも割増賃金の規定がないと。ドイツと同じようにですね。割増賃金はどうなっているかというと、協約で設定されている、ということです。その後、通算して、高い割増賃金を払ったりするのですかということまでは、たしか聞いてないですが、これもドイツ、フランスと同じ考え方だろうと推測しています。
 
○守島座長
 ありがとうございます。石﨑委員が先ほど、最長労働時間規制から除外される職種があるということをちょっとおっしゃったのですけれども、例えばどういう職種がどういう形で除外されることになるのでしょうか。
 
○石﨑委員
 オランダの場合ですと、資料の10ページですね。最低賃金の3倍以上稼ぐ、高収入の労働者ですとか、あと、研究者、それから芸術家等ということでございます。
 
○守島座長
 わかりました。ありがとうございます。ほかにどなたか御質問ございますか。もしくはコメントでも構いませんが。
 よろしいですかね。
 それでは、一応これで海外視察の報告は終わりにさせていただきたいと思います。どうも皆さん方、お忙しい中、御苦労さまでございました。
 それでは続きまして、資料2について、事務局から御説明をいただきたいと思います。よろしくお願いします。
 
○岸田監督課長補佐
 資料2について御説明させていただきます。資料2につきましては、今、先生方から御報告いただきました諸外国の制度を踏まえて少し御議論いただければと思っております。
 「諸外国の制度を踏まえた検討事項」といたしまして、まず(1)のところですけれども、「労働時間の把握、調整について」でございます。各国、形は違いますけれども、使用者が労働者の副業の事実や労働時間数を照会するというようなことになっておりましたけれども、これについてどう考えていくのか。
 続きまして、労働者が、先ほどの照会に対して正確に回答する義務が課せられていますけれども、それについてどう考えるか。
 また、オランダでは、使用者間で労働時間の調整を行う必要があるということになっておりますけれども、それについてどう考えていくのか。
 また、先ほども少し御議論になっておりましたけれども、(2)の「割増賃金について」ですが、各国では、割増賃金の算定に当たっては、労働時間は通算しないということになっておりますけれども、それについてどう考えていくのか。
 また、(3)「健康管理について」ですが、各国共通して、副業している者に対して特別の施策が行われているわけではないようでしたけれども、これについてどう考えていくのかという、これらの点について御議論いただければと思っております。よろしくお願いいたします。

○守島座長
 ありがとうございます。それでは皆さん方からコメント等ございましたらお伺いしたいと思います。
 どうぞ、石﨑委員。
 
○石﨑委員
 1点だけ確認ですけれども、このたび労基法のほうに労働時間の上限規制が入ったかと思うのですが、上限規制との関係では、通算するという理解でよろしいのですよね。
 
○岸田監督課長補佐
 はい。現行の制度ではそのようになっております。
 
○石﨑委員
 そうしますと、上限規制というものの趣旨、恐らく、諸外国同様、健康保護のためのものであると位置づけられるかと思うのですが、その規制を通算した上できちんと遵守しようとするのであれば、この1点目との関係ですけれども、使用者は副業先での労働時間というのを把握しなければならないという、帰結に一応はなるのかなと思いながら伺っておりました。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 水島委員、どうぞ。
 
○水島委員
 私も石﨑先生と同じことを思っておりまして、まず、労働時間の通算を前提とするのであれば、使用者は、ドイツや他国のように労働時間規制を守らなければいけないので、照会できる、照会しなければならないと考えます。その場合は恐らく、照会することについて就業規則や労働協約、労働契約で定めを置くのではないかと私は思いますが、そのような就業規則の規定は使用者が労働時間管理を行うためには必要ですので、合理的であり、使用者は当該就業規則等に基づいて照会権を行使する、と考えます。労働者は使用者からの正当な照会権の行使がありましたら、正確な回答をする義務があると考えます。
 ただ、これは労働時間の通算が行われるという前提で考えたもので、そもそも労働者の副業は使用者にとっては労働者の私生活にかかわる事柄でありまして、そのように考えたときに、労働時間の通算を行う、また現行の割増賃金を払うということをどこまで維持すべきか。つまり、そうでない場合ということも想定してお答えすると、前提が全て変わってきます。もし労働時間の通算を行わない、割増賃金も払わないということであれば、使用者は労働者の私生活に介入すべきではありませんので、当然、労働時間を照会する必要もないし、照会することはできないし、労働者も何も答える義務はないとなるかと思います。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 では、荒木委員。
 
○荒木委員
 今回訪問した3カ国とも、実労働時間の上限規制については通算をするという考え方がとられていたのですけれども、我々がこの情報を受け取るときに2点注意すべき点があるかと思いました。向こうでいう上限というのは、日本の1日8時間、週40時間とは違って、所定労働時間が仮に8時間であっても、1日の最長労働時間は10時間を超えてはいけないとか、平均して週48時間を超えてはいけないという、まさに時間外も含めた上限との関係で議論しているということが1つです。
 日本の8時間というのは、そういう意味では割増賃金が法律上発生する単位としての8時間ですけれども、そういう割増賃金の発生基準としての8時間というものは、今回訪問した3カ国ではそういう考え方はとっていない。あくまで、この通算する上限というのは、それ以上働いては健康を害するからだめだという基準との関係での通算を議論しているということがあります。他方で、割増賃金についてはどの国も通算せずに使用者単位でしか考えないという違いがあります。日本の場合は、それが8時間というのは上限規制でもありますし、同時に割増賃金の算定の基準でもあるということで、その点を我々としてどう受けとめるのかということもあわせて考える必要があると思いました。
 
○守島座長
 ほかに。
 では、松浦委員、お願いします。
 
○松浦委員
 (1)についての御議論で、本業の使用者が副業先の労働時間数を教えてくださいと労働者にお願いするまでは、手続的に可能だと思うのですが、問題になりそうなのが、労働者がそれを言わなかったという2つ目のケースですね。労働者が正確に回答していなかった、あるいは黙っていた結果として、労働時間の上限を超えてしまっていたという事実が発覚したときに、誰が責任を負うのかというところが、重要なポイントになってくると思いました。
 その点については、欧州の御紹介いただいた国々の中でも多少濃淡があって、使用者側だけに罰金が科されるケースと、労働者にも罰金が科されるケースと両方あるということを理解しました。
 
○守島座長
 ありがとうございます。ほかに。
 
○荒木委員
 外国の状況を受けとめるときにいろいろ難しい点があるのですけれども、フランスという国とか、一般的に言ってはいけないかもしれませんけれども、フランスは簡単に罰則をつけるのですよね。例えば解雇手続の違反について、日本で罰則をかけるなどということは想定されませんが、フランスでは罰則が科されております。たしかオランダも労働者側も罰則の対象になっていたような気がしますけれども、でも、それもあくまでシンボリックな意味でありまして、本当にそれで労働者を処罰するかというとそういうことは問題となっていないわけですね。
 健康確保のために重要な規制であるというシンボリックな意味で労働者にも罰則を科すという立法をする国もあれば、ドイツのように、あくまで使用者に対してしか罰則を設けない国もある。これは日本と似たような感じだと思いますけれども、そういうことで、罰則がついているということは、国によってかなり罰則に対する考え方の違いもあるというのも踏まえておいたほうがいいかなという気がいたしました。
 
○守島座長
 どうぞ。
 
○石﨑委員
 それからあと、今、御指摘いただいた、労働者が正確に回答しなかったときの使用者の責任という話ですけれども、ちょっと割増賃金の点を脇に置いて、刑事罰との関係のみで考えてみた場合には、労働者が正確に回答していなかったとすれば、使用者のほうが上限規制を超えることについての認識、つまり、故意がないわけですので、その限りでは恐らく日本法の解釈としても責任を免れるという帰結になるのではないかなと思いました。
 それから、先ほど私が申し上げた上限規制との関係で正確に答える義務があるのではないかといった議論というのは、やはり通算規定が改正しないまま存続していることを前提とした上での議論でございます。
 それから、難しいのがやはり(2)の割増賃金をどう考えるかというところかと思うのですけれども、日本の場合、時間外労働抑制の趣旨というのがあるということをどう考えるかというところが多分ネックになってくるのかなと思っておりまして、もう一方の過重な労働に対する補償の趣旨という部分については、場合によっては当該使用者のもとでの過重労働に対する補償の趣旨といったような理解をすることも一応はできる。そうすれば、通算というところから外していくという方向も実は考えられるのかなとは思うのですけれども、割増賃金規制によって時間外労働抑制ということをしているということや副業・兼業は労働者の希望によって行うということをどう考えるかということによってさまざま結論が出てくるのかなと思っているところです。
 
○守島座長
 どうぞ。
 
○松浦委員
 今のご議論から、考えてみれば、割増賃金規制が時間外労働の抑制装置になり得るのは、同じ使用者のもとで働いているという前提があるからこそではないかと。つまり、これ以上長く働いていただくと賃金が上がってしまうので、長く働いてもらうのはやめておこうと使用者が考える結果として、時間外労働の抑制が成り立つとすると、その使用者と別のところで働く場合に、本業と副業間での割増賃金通算が時間外労働の抑制装置足り得るのかどうか。この点はもう少し考えたほうがいいのかもしれないと、今の御議論で思いました。
 補足です。よろしくお願いします。
 
○守島座長
 どうぞ。
 
○荒木委員
 3番目の「健康管理について」、副業している者に対し、特別の施策は行われていないと。これは2カ所で働いている場合、一方で、例えば健康診断を受診していたら、他方の使用者は実施義務がないのかとか、そんなことも含めて聞いてきたのですけれども、回答としては、まず第一に我々が確認しておくべきは、日本だと実施義務があって、しかも、従業員のほうも受診義務が一応書いてあったりするわけですけれども、ヨーロッパでは、使用者が健康診断の機会を提供する義務はあるけれども、労働者に受診義務はないということでした。ですから、機会を提供する義務はあるわけですから、A使用者が提供して、B使用者が、Aで提供されたら、もうBは提供しなくてよいとか、そういう話も出てこない。提供されている機会を使うかどうかは、基本的には労働者自身の判断であるということだと思いました。
 しばしば言われるように、日本だと安全配慮義務が非常に強調される結果、使用者がたくさんの健康情報を収集して、安全配慮義務を尽くすべきだという議論になっていきますけれども、やはりヨーロッパでは健康情報というのは非常にプライバシーにかかわる情報ということで、受診義務ということでもなく、受診するかどうかは本人自身が選ぶと、使用者はその機会を提供する義務でしかないということが非常に印象深かった点です。
 
○守島座長
 どうぞ。
 
○石﨑委員
 それから、オランダについては健康診断の制度について詳細なところはよくわからなったのですが、フランスに関しては、全労働者に対して、つまり、有期であったりパート労働者についても健康診断実施の義務を使用者は負うわけですけれども、そもそも一般の労働者に対する健康診断の実施というのが、少なくとも5年に1回やればいいとなっているということと、ドイツのほうも、基本的には健康診断実施義務というのはハイリスク業務の従事者に限られているというところがあって、そこは日本とは大きく異なる点と聞いてまいりました。
 
○守島座長
 どうぞ。
 
○武林委員
 今のことを前提に、ここに書いてありますように、ヒアリングしていただいて、特別の施策は行われていないということですが、それは根本的には、もともと最長労働時間の範囲におさまっているということも加味してといいますか、その前提なので、そもそも健康上の問題として最長労働時間を定め、それがほぼ超えることがない状況の中で特段のことは、さらに義務を課すようなことはないと、そういう空気といいますか、流れといいますか、そういうことで実際には行われていないとこの文章を理解したらいいのでしょうか。あるいはもう少し違う考え方があって特別な施策が行われていないのかということについて、もう少し何か感じられたことがあれば教えていただきたいと思います。
 
○石﨑委員
 違反が少ないからというよりは、要するに義務はそれぞれが負っているということであると。それで、何か複数就業していることでその義務が変わるわけではないという、そういう趣旨と理解しております。
 
○守島座長
 どうぞ。
 
○水島委員
 今さらの確認で申しわけないのですが、(3)の特別の施策に健康診断が入るとは思うのですけれども、他にどのようなことが行われていない特別の施策としてペーパーを御用意されたか確認してよろしいでしょうか。
 
○岸田監督課長補佐
 メインとしてはやはり健康診断ということかと思います。お聞きいただいた範囲が健康診断の部分が中心だったかと思いますので。それ以外に、例えば何かあればということではあるのですけれども、メインは健康診断のことかと思います。
 
○水島委員
 とすると、副業では常時使用する労働者に当たらないことが多いために、健康診断がなされていないと、そういうことですか。
 
○岸田監督課長補佐
 例えば、日本で言えば、健康診断の実施義務については、個々の事業所で健康診断の義務がかかるかどうかというのは判断されます。複数で働いていれば、例えば労働時間が通算されて、実施義務が判断されるというわけではないということだと思うのですけれども、ヨーロッパでも、先ほど石﨑先生がおっしゃったように、個々の事業主に義務がかかっていて、それが複数の就業者であれば、何か特別、例えば通算される制度だったりとか、片方でやっていれば免除になるとか、そういった何かがあるわけではなかったと思いますので、そういった趣旨です。
 
○石﨑委員
 済みません。細かな話になるのですが、実はかつてフランスでは、複数就業の場合に、使用者間で健康診断の費用分担について合意をした場合に、採用時健診をどちらか1回でやればいいみたいな規定があったようですけれども、その規定が法改正によってどうなったかということについて、今確認中ということであります。そういった規定があるとすれば、複数就業に関する特別のルールがあるということになるかと思うのですけれども、少なくともそれ以外の国ではそういったルールは確認できていないということです。
 
○守島座長
 どうぞ。
 
○松浦委員
 (3)についてですが、今までのお話からすると、欧州の御紹介いただいた国々では、最長労働時間を超える事例が少なく、ましてやそれによって健康を害するということもほとんど想定されていないという中で、副業に絡む健康管理の対応がほとんどないということだと思うのですけれども、それなりに最長労働時間を超え得る人たちがいて、「過労死」も社会問題となっている日本において、健康管理という面で副業に何らかの規制を設けるべきかどうか、今後議論していく必要があると思います。その上で、欧州の聞き取りの中で、例えば5年に1回なり年1回なりの健康診断で健康が悪化している人に対して、副業の停止を要請するようなことができるのかどうか。そのあたりについて、御教示いただきたいと思いました。
 
○石﨑委員
 健康悪化によって本業に影響が出るような場合については、それこそ本業への影響ということを理由として副業をやめるように指示するということは、恐らく欧州におきましてもできると思いますし、それを労働者が今度拒否するということでありますと、やはり忠実義務違反であるとかそういったことになって、解雇の理由になってくるかとは思います。
 
○松浦委員
 ありがとうございます。たしか判例の中で、労働者に帰責性があるということで、最長労働時間を超えているのに労働者がどちらかを選ばなかった場合には、労働者の解雇が成り立ち得るといった記述があったかと思うのですけれども、それと同じ考え方で、健康確保についても、労働者にどちらかを選んでいただかなくてはならない、にもかかわらず選ばなかったという場合については、そのような解雇の対象にもなり得ると、同じ理屈だと理解してよろしいですか。
 
○石﨑委員
 今私が回答したのは、そのフランスのケースを念頭に置いて回答したところでありました。
 
○松浦委員
 ありがとうございます。
 
○水島委員
 今のケースですけれども、私はドイツのほうを念頭に置いて、解雇するという可能性もありますし、副業を制限するという方向にも、どちらもあり得るということです。
 
○石﨑委員
 それから、今いただいた御意見について、私も自分の思ったところということですが、確かに欧州と日本で大きく健康診断の仕組み等が異なるわけですけれども、そういった意味で、異なるわけですので、欧州では特別のそういった施策が行われていないが、日本ではやはり行うべきだという議論の方向性というのもあり得るのかなとは思っております。ただ、それが実際にどう履行を担保するかとかいうところはまた難しい問題になってくるのかもしれませんけれども。
 
○水島委員
 今お話があった、副業によって健康を害するような場合に、副業を制限するなり、あるいは解雇できるというヨーロッパの考え方を本当に日本に持ってこられるのかという問題だと思っています。ドイツで明確に言われたのですけれども、労働時間規制に違反するような、法に違反するような副業をした場合、それは当然に一部無効になるという。そのように使用者の側も労働者の健康を守るために支障がある場合には兼業を規制するという方法を日本で本当にとれるのか。副業はあくまで私生活上の事由であって、そこにどこまで立ち入ることができるのかという問題があるかと思います。
 そこのバランスを見ながら、一方的に労働者に不利益になる、あるいは一方的に使用者に過度な義務を課すようなものにならないように、そこは注意して見ていかなければいけないと思っております。
 雇用型の副業だけ我々取り上げているわけですけれども、雇用の副業であれ自営的な活動であれ、あるいはボランティアや趣味に近い活動であれ、本業の使用者からすれば変わらないはずであって、それなのになぜ、労働者の活動時間が雇用であれば使用者の健康管理なり労務管理なりに影響してくるのかというところが、その部分をはっきりさせないと、私としては次の意見を出しにくく、今のところは全て2パターンで考えていかなければいけないと思っているところです。

○守島座長
 ありがとうございます。ほかに。
 
○武林委員
 私も、どのように整理されていくのか、非常に複雑になってしまっているのでパターンがいろいろあると思うのですけれども、実際に健康管理の現場側の仕組みからいきますと、一番時間を通算し、そしてその時間があるレベルを超えたときに健康管理の仕組みを入れるということを実際に想定すると、今ある仕組みの中で、安衛法の中の仕組みで考えれば、さまざま、例えばストレスチェックという仕組みとか、それから、一定の長時間の労働者に対しての健診をして、基本的には、それに基づいて産業医側は事業者に何らかの勧告をする、あるいは配置転換を含めてということになっていると思います。そもそも安衛法上の前提では、事業者が産業医を選任して健康管理を行わせ、産業医がその事業者に勧告するという話になっていて、これは権限強化するという話なので、事業者をまたいだ何らかの勧告ということは、少なくとも今の現行の枠組みでは想定されていません。先ほどの議論に一歩戻ると、これは働く側の自由な権利であると考えるのであれば、働く本人にアドバイスをすることはできるでしょうけれども、それを超えて何かということは少なくとも想定されていませんので、いろんなことを想定した上で、最後に健康管理上の仕組みでということになりますので、ぜひ、今、水島先生からもあったように、もう少し前の段階で少し整理をしていただきたいと思います。健康管理における産業医の役割というのは、基本的には健康障害のリスクの高い人を何らかの形でスクリーニングして、面接をして、その上で働きかけるということになりますので、そこに大きく委ねられてしまうと、今の枠組みでは想定されていないというところですので、そのあたりは段階別に整理をしながら検討していく必要があるのかなと、きょうの議論を聞いていて感じた次第です。
 
○守島座長
 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。
 
○田中審議官
 先ほど荒木先生のおっしゃった、労働時間規制の種類が、法定労働時間の1日8時間と週40時間、それから時間外労働の上限として、月単位の80時間とか100時間、それから年単位の上限を念頭に置きながら、それが副業、兼業にわたる場合に、どの部分を通算して、どういう施策、例えば健康管理施策と結びつけていくのかということが、それぞれの労働時間の規制毎に少し性質が違ってくるところもあるような気がいたしました。
 それから、その文脈で今の武林先生の話を考えますと、今回、働き方改革で産業医機能の強化をしたわけですけれども、その趣旨は、健康リスクの高い方をいち早く見つけ出すためのスクリーニングをどのように効果的にやるかということでありますけれども、産業医の立場を、事業主の委託を受けている立場ではあるけれども、ある程度事業主からの独立性を確保していこうということ。
 それから、事業主との関係だけでなくて、直接労働者本人としっかりとコミュニケーションをとって健康指導をし、その結果、労働者の意向も踏まえて事業主に対して勧告していくというような流れも強化しております。
 その上で労働時間規制との関係ですけれども、これまで産業医の長時間の面接指導につきましては、1カ月単位の労働時間をメインに考えてきておりまして、これまでですと、1カ月労働時間で40時間を超える部分が100時間になりますと面接指導という義務を課しておりました。これを来年の4月から80時間という時間に短縮して新たに施行するわけですけれども、産業保健の仕組みの中で労働者の健康管理に一番重要な労働時間というのは月単位の労働時間となっておりまして、この月単位の労働時間につきましては、健康管理のためにできるだけ通算をして、長時間労働者、すなわち、先ほど申し上げました健康リスクが高いかどうかというところのスクリーニングの対象として考えていくという方向もあるのではないかと思っております。
 それから、その関係で、先生方にまた御示唆をいただければと思っておりますが、8時間、40時間といった法定労働時間、さらには、今後さらに管理が必要となる1年単位の360時間とか720時間といった時間外労働の上限時間との関係、こういったところについてもどう考えていくかということはよく検討しないといけないなと考えております。
 今回の法改正における産業医制度の強化が、この通算の問題とどうかかわっていくかという点について少し先生方から示唆をいただいたように思いましたので発言させていただきました。
 
○守島座長
 ありがとうございます。
 さっき、武林先生から、文化とか考え方みたいなものが違うのではないですか、だからなのではないですかみたいなお話があったのですけれども、もう一つ考えないといけないのは、ヨーロッパの場合は、何回も荒木先生もほかの先生もおっしゃいましたけれども、最低賃金である程度暮らしていけるという、その状況があって、我が国の場合は、そのセーフティネットがどこまで本当に社会として維持しているのかなという、その部分も多少考えなくてはいけないような気がして、余り規制を強めてしまうと、結果的に副業が社会の中からなくなってしまう、もしくはアンダーグラウンドなものになってしまう可能性も何かあるような気がするので、私も方向性が必ずしも見えているわけではないのですけれども、そこのところも多少考えていかないといけないのかなとは思いました。
 ですから、先ほど除外の話をちょっとお聞きしたのは、確かにハイクラスの人間は除外するというのは理論的によくわかるのですけれども、その他の人間を、その他のというか、日本でいうところのいわゆる非正規的な働き方をしているような労働者が除外されているケースなんかはそうでもないというお話だったので、そうなると、やはりそこのところは考えなくてはいけないのかなあという感じは私はいたしました。
 ありがとうございます。ほかにどなたか。
 それでは、少々まだ時間を残しておりますけれども、これで本日の検討会は終わりにさせていただきたいと思います。
 次回の日程について、事務局から御説明いただきたいと思います。
 
○岸田監督課長補佐
 次回の日程については、場所を含めまして、また先生方に御案内させていただければと思います。よろしくお願いします。
 
○守島座長
 それでは、きょうはこれで終わりにしたいと思います。
 どうも皆さん方、年末のお忙しい中、ありがとうございました。また来年もよろしくお願いいたします。