2018年12月3日 平成30年度第1回労働安全衛生法における特殊健康診断に関する検討会 議事録

日時

2018年12月3日(月) 13:30~15:00

場所

労働委員会館7階講堂

議題

(1)健康管理手帳の交付対象業務への追加について
   (オルトートルイジン、3,3'-ジクロロ4,4'-ジアミノジフェニルメタン)
(2)その他

議事

  

○大塚中央労働衛生専門官 本日は、大変お忙しい中、委員の先生方には御参集いただきまして誠にありがとうございます。
定刻になりましたので、ただ今より平成30年度第1回労働安全衛生法における特殊健康診断等に関する検討会を開催いたします。座長選出までの間、事務局にて議事進行を担当いたします。大塚と申します。よろしくお願いいたします。
はじめに、労働衛生課長より御挨拶申し上げます。
○神ノ田労働衛生課長 厚生労働省労働衛生課長の神ノ田でございます。本日は、大変お忙しい中、労働安全衛生法における特殊健康診断等に関する検討会に御参加いただきまして、誠にありがとうございます。また、委員の皆様方におかれましては、日頃から労働衛生行政の推進に格別の御理解、御協力をいただいているところであります。この場をお借りしまして厚く御礼申し上げます。
さて、本検討会におきましては、有害化学物質に関する特殊健診の項目や、健康管理手帳の交付対象業務等につきまして、専門家のお立場から御検討をいただいているところであります。最近の動きといたしましては、本検討会での御議論を踏まえまして、平成29年1月より、オルト-トルイジンを特化則の対象に加え、ばく露防止対策や特殊健診を実施することになりました。また、平成29年4月からはMOCAの特殊健診に膀胱がんに関する検査項目が追加されております。この、オルト-トルイジン、及びMOCAにつきましては、その後も膀胱がんの発症者が報告されておりまして、オルト-トルイジンにつきましては、労災補償の業務上疾病として位置付ける動きもございます。さらに、退職者の罹患割合が高いことから、退職後もしっかりフォローしていくことについて、その必要性が指摘されております。
本日の検討会におきましては、こうした状況を踏まえまして両物質を健康管理手帳の交付対象業務に追加することの是非につきまして、御検討いただきたいと考えております。
また、本日は委託事業として実施しております化学物質の健康診断に関する専門委員会の検討状況につきましても、後ほど御報告させていただきたいと考えております。今後の専門委員会での検討の方向性につきましても御審議をいただければと存じます。
大変限られた時間ではありますが、委員の皆様方には忌憚のない御意見をいただきますようお願いいたしまして、簡単ではございますけれども、会議開催に当たっての挨拶に代えさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
○大塚中央労働衛生専門官 それでは本日の出席者を御紹介いたします。
まず委員の先生方を御紹介いたします。資料1を御覧ください。50音順に紹介させていただきます。
最初に中央労働災害防止協会の圓藤先生でございます。
○圓藤委員 圓藤です。よろしくお願いいたします。
○大塚中央労働衛生専門官 続きまして、慶応義塾大学の大前先生でございます。
○大前委員 大前です。よろしくお願いいたします。
○大塚中央労働衛生専門官 同じく慶応義塾大学の櫻井先生でございます。
○櫻井委員 よろしくお願いいたします。
○大塚中央労働衛生専門官 産業医学振興財団の清水先生でございます。
○清水委員 清水です。よろしくお願いいたします。
○大塚中央労働衛生専門官 大阪大学大学院の祖父江先生でございます。
○祖父江委員 祖父江です。よろしくお願いいたします。
○大塚中央労働衛生専門官 東京女子医科大学の松岡先生でございます。
○松岡委員 松岡です。よろしくお願いいたします。
○大塚中央労働衛生専門官 東京慈恵会医科大学の柳澤先生でございます。
○柳澤委員 柳澤です。よろしくお願いいたします。
○大塚中央労働衛生専門官 なお、本日は土肥委員、堀江委員が所用で欠席されております。
次に、事務局を紹介いたします。
ただ今御挨拶を申し上げました、神ノ田労働衛生課長でございます。
○神ノ田労働衛生課長 よろしくお願いいたします。
○大塚中央労働衛生専門官 続きまして、塚本化学物質対策課長でございます。
○塚本化学物質対策課長 塚本です。よろしくお願いいたします。
○大塚中央労働衛生専門官 続きまして、小沼産業保健支援室長でございます。
○小沼産業保健支援室長 小沼でございます。よろしくお願いいたします。
○大塚中央労働衛生専門官 続きまして三浦産業保健支援室係長でございます。
○三浦産業保健係長 三浦です。よろしくお願いします。
○大塚中央労働衛生専門官 最後に私、労働衛生専門官をしております、大塚でございます。よろしくお願いいたします。
最初にお手元の資料の確認をさせていただきたいと思います。配布資料については、議事次第に資料の一覧がございます。資料が10種類、参考資料が3種類ございます。資料1は先ほどの「労働安全衛生法における特殊健康診断等に関する検討会参集者名簿」、資料2が「労働安全衛生法における特殊健康診断等に関する検討会開催要綱」、資料3が「健康管理手帳を交付する業務を選定する際の考え方について」、資料4-1が「我が国におけるオルト-トルイジンの製造・取扱状況等」、資料4-2が「オルト-トルイジンを取り扱う業務の健康管理手帳における健康診断項目(案)」、資料4-3が「オルト-トルイジンを取り扱う業務における健康障害の状況と健康管理手帳における取扱について」、資料5-1が「我が国における3,3’-ジクロロ4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MOCA)の製造・取扱状況等」、資料5-2が「3,3’-ジクロロ4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MOCA)を取り扱う業務の健康管理手帳における健康診断項目(案)」でございます。また、資料5-3が「3,3’-ジクロロ4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MOCA)を取り扱う業務における健康障害の状況と健康管理手帳における取扱について」、資料6が「化学物質の健康診断に関する専門委員会の検討方針(案)」でございます。
参考資料としまして、参考資料1が「健康管理手帳関係条文(労働安全衛生法関係法令)」、参考資料2が「労災補償関係条文(労働基準法関係法令)」、参考資料3が、「芳香族アミン取扱事業場で発生した膀胱がんの業務上外に関する検討会報告書」ということでございます。
資料の不足等はございませんでしょうか。
よろしいでしょうか。
本検討会は、昨年度は開催されておりません。2年ぶりの開催となりますので、まず開催要綱について簡単に説明させていただきます。
資料2を御覧いただきたいと思います。この検討会における有害物質に係る省令が昭和47年に4種類制定されまして、それ以降40年あまり経過しており、特殊健康診断制度も定着しております。その一方で科学技術の進歩等によりまして、検査項目のうちスクリーニング機能として低下したもの、あるいは医学の進歩により検査項目として必要なものも出てまいりました。また、化学物質の取扱量の変化も見られます。
こうした状況下、必要な検査項目は追加し、不要となった検査項目については変えるというようなことも必要になってきまして、また離職者の健康管理の必要性についても検討を行う必要があるわけでございます。
こうしたことから、労働安全衛生法に基づく特殊健康診断の項目等につきまして、最新の医学的知見を基に適切な項目の選定、見直しを行うとともに、離職者の健康管理の必要性についても検討を行うのがこの検討会でございます。具体的には「2 検討内容」のマル1~マル3の項目でございます。また、本検討会は原則として公開といたしまして、必要に応じ委員以外の有識者の出席を求めることもできます。
以上でございます。
本日は、議事次第にございますように、健康管理手帳の交付対象業務への追加業務についての御検討をお願いしたいと存じます。
まず、座長の選出を行いたいと存じます。
事務局といたしましては、引き続き櫻井先生に座長をお願いしたいと存じますがいかがでしょうか。
(「異議なし」と声あり)
それでは今後の議事進行につきましては、座長の櫻井先生にお願いいたします。
○櫻井座長 今まで務めてまいりました関係で、引き続き座長を務めさせていただきます。御協力のほど、よろしくお願いいたします。
それでは議事に入ります。
最初に議題「(1)健康管理手帳の交付対象業務への追加について」でございます。
事務局から説明をお願いいたします。
○大塚中央労働衛生専門官 まず、すでに先生方におかれましては御存知のこととは思いますが、改めましてある化学物質を取り扱う業務を健康管理手帳の対象として追加するための基準について御紹介いたします。資料3を御覧いただきたいと思います。
まず、健康管理手帳制度の概要でございますが、がんその他の重度の健康障害を生ずるおそれのある業務に従事していた者のうち、従事期間の長さなど一定の要件を満たす者について、離職の際あるいは離職の後に、国が健康管理手帳を交付し、この方には無償で健康診断を実施する制度でございます。現在対象業務が13業務ございまして、平成29年末における累積交付数の合計が約7万件となっております。
2番目に、健康管理手帳交付の考え方でございます。平成7年に当時の労働省でございますが、そこの検討会でとりまとめました「健康管理手帳交付対象業務等検討結果報告」におきまして、3つの要件が定められました。以後、これを踏襲しまして対象業務を追加しております。
その1番目の要件として、要件マル1「当該物質等について重度の健康障害を引き起こすおそれがあるとして安全衛生の立場から法令上の規制が加えられていること」と規定されております。具体的には3種類あり、「イ」のグループとして製造等が禁止されている物質、ベンジジンなどがあります。「ロ」のグループとしましては、製造の許可を得る必要がある物質、ベリリウムなどがあります。「ハ」がその他の規制物質等で、一般的には特化則などで規制されている物質です。現在、どのような物質があるかと申しますと、2ページの※1に記載されたような物質がございます。
次に要件マル2「当該物質等の取扱い等による疾病(がんその他の重度の健康障害)が業務に起因する疾病として認められていること」ですが、がんその他の重度の健康障害が業務に起因する疾病として認められていることです。具体的には、業務上疾病といわれるもの、いわゆる職業病でございまして、「イ」にありますように労働基準法施行規則別表第1の2第7号「がん原性物質若しくはがん原性因子又はがん原性工程における疾病」等に掲げられていることが要件となります。あるいは、そうでなければ「ロ」にありますように、これは今ではあまり機能しておりませんが、中央労働基準審議会、当時の労働省の審議会ですが、現労働政策審議会の議を経て労働大臣の指定する疾病として、告示により指定された疾病でございまして、労基則の別表第1の2第10号に基づいて規定されているものです。具体的には※2に記載がありますような物質、現在は、ジアニシジンが指定されております。
要件マル3「当該物質等の取扱い等による疾病(がんその他の重度の健康障害)の発生リスクが高く、今後も当該疾病の発生が予想されること」は、がんその他の重度の健康障害の発生リスクが高く、今後もこの疾病の発生が予想されること、という要件でございます。これにつきましては、主として近年の労災認定の事例数等を勘案して判断しております。
以上でございます。
続いて、今回具体的に検討する物質について御説明いたします。昨年1月から特定化学物質に指定され、特化則の規制の対象となっております、オルト-トルイジンを取り巻く状況について御説明いたします。資料4-1を御覧いただきたいと思います。
我が国におけるオルト-トルイジンの製造・取扱状況の詳細については、別添1を御参照いただきたいと思います。特徴的な臭気のある無色の液体で、アゾ系及び硫化系染料、有機合成、溶剤等に使用されているということです。また、IARC、WHOの専門機関である国際がん研究機関において、発がん性のレベルがグループ1と一番高いグループに属しており、「ヒトに対して発がん性がある」と評価されております。米国のゴム添加工場での1,749人を対象としたコホート調査等で膀胱がんを起こす十分な証拠があるとされております。動物実験においても十分な証拠があり、眼に対する重篤な損傷性、遺伝毒性も認められております。日本産業衛生学会でも、当初は一段レベルの低い第2群Aとしておりましたが、2016年には「ヒトに対して発がん性がある」として、第1群に引き上げております。生産量等につきましては、2014年に840トンとなっております。また、27の事業場について労働基準監督署が調査・把握している結果をとりまとめたところ、別添2のようになり、事業場におけるオルト-トルイジンの主な用途は、「他の製剤等の原料としての使用」が圧倒的に多いということでございました。また、年間の製造・取扱量は「1トン以上10トン未満」の事業場が最も多く44%を占めております。製造・取扱作業の従事者数別では「5人未満」が41%、「5人以上10人未満」が30%で、「10人未満」が7割を占めているという状況です。
また、オルト-トルイジンを取り扱う作業につきましては計量作業や配合、注入、投入又は小分けの作業だけで70%近くを占めて圧倒的に多いという状況です。また、ばく露防止対策としましては「局所排気装置」は14%でやや少なく、「密閉化施設」や「呼吸用保護具」や「保護衣等」がそれぞれ30%で多かったという状況です。
次に、オルト-トルイジンを取り扱う業務の従事者の状況でございます。特殊健康診断を実施したとして、全国の労基署に届出のあった労働者数は平成29年で1,008名を数えています。事業場の数では104事業場となっております。
次に、2ページの「3 独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所による福井県の化学工場における膀胱がん発症に係る調査結果の概要」でございますが、オルト-トルイジンを含有する有機溶剤でゴム手袋を洗浄して繰り返し使用していたというような状況もあり、また、ゴム手袋に付着していたオルト-トルイジンの量と就業前後の労働者の尿中のオルト-トルイジンの増加量に関連が見られたということ。これに対し、作業の再現実験において、作業環境測定や個人ばく露測定を実施したところ、十分許容濃度と比べて小さい濃度であったという結論でございます。
したがって、経気道ばく露、経皮ばく露の両方の可能性はありましたが、より経皮吸収によるばく露が大きかったのではないかと示唆されるとの結果です。以上が資料4-1でございます。
次に、資料4-2について御説明いたします。オルト-トルイジンを手帳の対象とした場合に、どのような検査項目を設定すべきであるかという点についてまとめた表です。一次健診、二次健診別に並べており、左側が現行の特殊健診における検査項目で、右側が手帳とした場合の項目(案)です。ここでは、対象がすでに退職した人であり、がんという遅発性の症状を対象としておりますので、常時オルト-トルイジンを取り扱うような業務に従事していることによって急性の症状が生じた、というようなことに関わる検査項目は除外してよいのではないかという考え方をしております。このため、下線を引いた部分が常時従事者の急性の症状に関わる検査項目ですので、これを除外しまして右側の項目を案として出しております。これがちょうど配置転換後の健康診断の検査項目と一致するものでございます。
次に資料4-3「オルト-トルイジンを取り扱う業務における健康障害の状況と健康管理手帳における取扱について」を御覧いただきたいと思います。まず、「1.現状」でございます。オルト-トルイジンは、一時健康管理手帳の交付対象にするような検討がなされたのですが、現状見送られております。一方、一連の膀胱がんへの集団発生が見られた平成27年12月以降、厚生労働省では取扱事業場への個別指導を実施しております。その結果、オルト-トルイジンに続きMOCAについても膀胱がんの原因の可能性のある物質だということが判明し、オルトートルイジンについては特定化学物質に位置付けたり、MOCAについては膀胱がんの検査項目を追加したりしてまいりました。その間、膀胱がんの発症者数も引き続き累積発生しており、特にその中には退職者の高齢者も多いというようなこともあります。退職者も含め、労災認定者が引き続き増加する状況下、特殊健康診断の対象である「オルト-トルイジン(これをその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物を含む。)を製造し、取り扱う業務」について、健康管理手帳の交付対象とするべきかどうかという点について検討する必要があろうと考えております。
先ほど、資料3で御紹介しました、3要件を満たしているかということでございますが、まず資料4-3「2.健康管理手帳3要件の検討」の要件マル1「安全衛生の立場から法令上の規制」が加えられていることにつきまして、まずオルト-トルイジンは、先ほど、資料4-1で御説明しましたようにIARCにおいてもグループ1と一番高い発がん性に分類されており、これを受けまして国内においても特定化学物質、特化則により、特定第2類物質、特別管理物質として指定されております。取扱事業場においては、発散抑制措置、作業主任者の選任、作業環境測定、特殊健康診断等が義務付けられておりますので、マル1の要件は満たしていると考えます。
次にマル2の要件「疾病(がんその他の重度の健康障害)が業務に起因する疾病として認められていること」は、業務起因性でございます。これにつきましては、今般労働基準法施行規則第35条専門検討会が開催されまして、オルト-トルイジンに係る業務に起因する膀胱がんが業務上疾病として検討会において認められ、今後労基則別表第1の2に掲げられる改正が行われる予定でございます。この施行日につきましては、こちらの改正が認められればそれと合わせて同時に施行したいと考えております。したがって、要件マル2の業務起因性もおそらくこれは認められるのではないかと考えております。
最後の要件マル3「当該物質等の取扱い等による疾病(がんその他の重度の健康障害)の発生リスクが高く、今後も当該疾病の発生が予想されること」ですが、平成27年度以降、現在平成30年10月時点におきまして、12件の労災請求がなされており、そのうちの11件が業務に起因する疾病として労災認定をされております。残りの1件は調査中であり、非常に高い確率で労災認定がなされております。しかも12件の労災請求のうち5件が退職者によるものとなっております。資料4-3、2ページの表にございますように、年度別にはこのような状況になっております。上の数字が認定数、下の数字が請求数。必ずしも請求した年度に決定されるわけではありませんので若干年度によって齟齬がございますが、このような状況になっており、引き続き労災請求、認定等がなされる可能性があるということから、要件マル3も満たしているのではないかと考えられます。
以上より、健康管理手帳の交付対象に係る3要件はどれもクリアしているのではないかと事務局では考える次第です。
次に「3.交付対象業務について」の交付対象の業務の範囲でございます。先ほど申しましたように特化則による特殊健康診断の範囲は「オルト-トルイジン(これをその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物を含む。)を製造し、又は取り扱う業務」と規定しております。この範囲のうち特に健康障害が発生するおそれの低い業務というのは、リスク評価検討会等においても特段の指摘はなされておりませんでした。したがいまして、特段の事情がなければ健康管理手帳の交付対象業務をこれに合わせることができるのではないかと考えております。
次に「4.交付要件について」でございます。交付要件は、労働者が実際に業務に従事し、ばく露した期間がどのくらい長い必要があるかということでございます。オルト-トルイジンへのばく露期間と膀胱がん発生との因果関係につきましては、参考資料3「芳香族アミン取扱事業場で発生した膀胱がんの業務上外に関する検討会」報告書によりますと、10年以上のばく露で有意差が認められたとなっております。ただし、5年以上10年未満のばく露では統計的に有意とまではいえないけれども、膀胱がんの発症に関与していることが示唆されたとしております。実際に5年未満のばく露での膀胱がんの症例も報告されているということでした。
潜伏期間、すなわちばく露開始から何年以上で発症したかという点については、これもだいたい10年以上経過した後、膀胱がんを発症するものと考えられるということであり、これらのことから、オルト-トルイジンのばく露業務に10年以上従事した労働者で、ばく露開始後10年以上経過してから発症した膀胱がんについては、「業務が相対的に有力な原因となって発症した蓋然性が高いと考えられる。」と結論付けております。また、オルト-トルイジンのばく露期間がこれより短い10年未満5年以上の場合、潜伏期間も10年に満たない場合は、「作業内容、ばく露状況、発症時の年齢、既往歴の有無などを総合的に勘案して業務と膀胱がんとの関連性を検討する必要がある。」と結論しております。
以上を前提に、実際に労災認定者のばく露期間を調べてみますと、資料4-3、3ページマル2労災認定者のばく露期間(参考)のところに分布がありまして、このような形になっています。11名の労災認定者について、最も長い期間で25年3カ月、最も短い期間で6年6カ月、平均で15.3年という状況でございました。
これらを基に考えますと、交付要件としましては、従事期間が労災認定事案で最短が6年6カ月、参考資料3では最短5年未満のものも実際にあったというようなこと、そして比較の対象として現在指定されておりますベンジジン等の他の膀胱がんや尿路系腫瘍の関係業務につきましては、3カ月以上という非常に短い従事期間が設定されており、それとの比較も考慮しなければなりません。実際に6年6カ月で労災認定されたケースもあり、5年未満で発症した例もあるということからも、あまり長い期間で10年以上ということでは充分に納得できないところもあります。また予防と早期治療の有効性を高めるためには、対象となるものは全部網にかけられるようにしなければならないということから、とりあえず交付要件となる従事期間を5年以上と設定したいと考えておりますが、いかがでしょうか。
以上でございます。
○櫻井座長 それでは委員の皆様、いかがでしょうか。ただ今の御説明の内容、資料4-1から4-3まで全て含んで、どの部分でも結構でございます。御質問、御意見ございましたらお願いいたします。
○圓藤委員 最後の資料4-3の2ページ「4.交付要件」のところで、下から4行目、「5年以上10年未満のばく露では、統計的に有意に至っていないが、膀胱がんの発症に関与していることが示唆された。5年未満のばく露での膀胱がん症例も報告されている」と書いてあります。それはどこにあるか見てみますと、参考資料3の10ページ、表4ではないかと思います。そこで「明らかにばく露した(中濃度/高濃度)労働者群におけるばく露期間」では、5年未満、5~10年未満と10年以上を3つに分けてます。この表では5年未満を対照群にしています。普通、対照群というのは、ばく露していない群をとるべきであると思います。ばく露していない群というのはその上にあります、おそらくばく露していないという「10534人・年」と比較するのが妥当ではないかと思います。そうしますと、そこでのSIRが0.59で、5年未満が1.98、5年から10年が4.52、10年以上が6.24となれば、SRRはばく露していないものを1にしたら5年未満は3.3くらいになるだろうと思います。そして5年から10年も2.56に3.3を掛けた程度、10年以上は4.50に3.3を掛けたような数値になるのではないかと思いますが、そうであれば95%CIも同じように3.3を掛けたような値になっていくのではないかと思います。
そうしますと、5年から10年というのは、明らかに有意差がある群になるのではないかと思います。計算してみないとわかりませんが、5年未満のところでも有意に出てくる可能性はあるように思います。
○櫻井座長 いかがでしょうか。今の表4の明らかにばく露したというところの5年未満のところで、人・年が13604で、観察症例数が10人未満と書いてありますが、5人未満と書いていないということは、これはおそらく5人から9人ということでしょうか。
○圓藤委員 明らかにばく露した観察症例数が27名で、10年以上ばく露した観察症例数が17人ですから、5年未満と5年から10年を合わせると10人になるということだと思います。そして下の方に5年未満として10人未満、その下の5年から10年のものが5人未満となっています。5年未満の観察症例数5人~10人と、5年から10年の観察症例数5人未満とを合わせて10人という計算だと思います。
○櫻井座長 そうなると思います。
○大塚中央労働衛生専門官 胆管がんのときも、実際にばく露期間の最短の方を基準に最終的には決めてございます。
1,2-ジクロロプロパンについて、最初は3年に定めたのですが、もっと短い2年の方が出たということで急遽改正して2年になったという経緯もございますので、現在のところ6年6カ月という年数でございますが、ほぼラインとしては5年ということでとりあえず設定させていただいて、今後の発症の状況を見るということにさせていただきたいと思っております。もしもっと短い方が出られた場合はまた改訂ということも考えるという、そういう考え方はいかがでございましょうか。
○圓藤委員 行政の施策としては、そういう考え方もあろうかと思いますけれども、この論文の読み方として私の読み方が合っているのか間違っているのか、もし合っているとしたらこの資料4-3の書き方は適切ではないと思います。
胆管がんのときに3年にしたとか2年にしたとかありますが、それは疫学調査を待たずに症例でもって最短ばく露期間を基準にして決めるというルールでしたので、それはそれなりの1つの根拠としてあろうかと思います。今回も今までのばく露期間の最短が6年6カ月であるので、それ未満の値にしたというのは1つの根拠であろうかと思います。
○大前委員 表4ですが、おそらくばく露していない人のSIRが0.59ということは、どこの国のデータかわかりませんけれども、その国の全体をベースとして0.59、0.6くらいということなので、少しhealthy worker effectが入っているのではないかと思います。
本来は「おそらくばく露していない」というのはSIRが1だとよいのですが、0.59ということはそういうことだと思います。
先ほど、圓藤先生がおっしゃったように、SRRの方が、もし0.59をベースとするのであれば、やはり明らかにばく露した2つ目の「5-<10 年」のところの数字は少しおかしいと思います。それは著者がどのように考えていたのか、著者は5年未満をなぜ主として計算したのか、論文がないのでわかりませんが、確かにこの表4だけを解釈すると、圓藤先生がおっしゃったこの文章は少し変える必要があると思います。5年で切る分に対しては特に異論はありませんが、文章のところは変える必要があると思います。
○櫻井座長 大前委員、比較的最近論文を拝見して7年くらいが日本では最短のばくろ期間というのがあったと思いますが……。
○大前委員 ばく露期間の最少6年6カ月というのは日本のデータですよね。したがって、交付要件となる従事期間を5年以上にすることについては、特に意見はないというかそれでよろしいと思いますけれども。
○櫻井座長 そうしますと書き方については今の論文の解釈に関わる部分として資料4-3の2ページの一番下の5行の部分ですね。
○大前委員 アンダーラインを引いてある部分は、少し表現を変えないと適切ではないということです。
○櫻井座長 10年以上のばく露で有意差が認められたというのは事実として間違いない。そのコントロールとしてとっているのが5年未満のばく露者を対照群としてとっているという、非常に珍しい分析をやっていますので、一応10年以上のばく露で有意差を認めたと。その次のところは5年以上10年未満のばく露については、統計的処理が十分ではないが、膀胱がんの発症に関与していることが示唆されたと。
○圓藤委員 ここの論文に、参考資料3、10ページのこの表がCarreónの論文そのものであるならば、この論文を生かして5年以上10年未満のばく露では、5年未満の群に比べて統計的に有意に至っていないといえば、書いてあるとおりですけれども、私はこのような解釈の仕方はしないので、どうしたものかという気がします。
○祖父江委員 SRRというのが対照群を5年未満にとった値なのでしょうか。おそらく、リファレンスを5年未満にして内部でpast regressionか何かしているのではないでしょうか。一方で、SIRというのを計算していますね。これは5年未満を対照群としたわけではなく、おそらくこの国の全国の標準的なSIRですから罹患率でしょうか、それを基に期待値を求めて実測値を期待値で割った値であるとは考えられないかということです。そのSIRが5年未満では有意ではなく、5年から10年でも有意ではなく、1.98とか4.52という値ですね。6.24という値だけは10年以上で有意でありましたと。ここのところを書いているとすれば、あながち間違いでもないような気もします。ですからSIRのことを書いているのであればこれでよいと思いますが、SRRだと正確ではないということになると思います。
○櫻井座長 むしろSRRの方がコックスハザードのモデル等を使って精度が高い可能性があると思います。したがって、これから読み取れるのは、5年から10年でも95%信頼区間では1を含んでいる、すなわち1をまたいでいる形になっていますね、いずれにしても。5年未満をコントロールにとれば。
○圓藤委員 祖父江先生がおっしゃっているのは、例えばSIRで見ると5年未満、5年から10年とも、95%CIが1を含んでいる、1をまたいでいる形になっているので必ずしも有意ではないのではないかという考え方ができるのではないかということでしょうか。
そうするとあながち資料4-3の書き方は間違いともいえない、そういうことになると思います。
○祖父江委員 SRRについていえばそうであると思います。ただ、4.52という値を有意でないから上がっていないという言い方も少し抵抗あります。
○櫻井座長 そうですね。要するにサンプルサイズが小さいのでこうなっているだけの話で、こういう職業性の疾病の場合、どうしてもサンプルサイズが小さいのでこだわり過ぎるとよくないですね。
○圓藤委員 では資料4-3の2ページの下から4行目のところ、「統計的に有意に至っていないが」という部分を消してしまったらどうですか。「5年以上10年未満のばく露では膀胱がんの発症に関与していることが示唆された」。それでよいような気もします。
○櫻井座長 それでよろしいでしょうか。柳澤先生、いかがでしょうか。
○柳澤委員 お話を聞いていて、論文を調べてみないと十分なコメントはできない状態です。
○櫻井座長 実は私、この論文は非常に気になっておりまして同じような疑問をもっておりましたので、この場では、今、圓藤委員に示唆していただいたように、「統計的有意に至っていないが」というフレーズだけ削除すれば問題ないと思いますが、そうさせていただいてよろしゅうございますか。
ありがとうございます。ではそのように変更させていただきます。
それから、健康管理手帳の項目の案につきましては、特段問題はないかと思いますが。手帳における健診項目の案、よろしゅうございますか。これは在職者の配置転換後の健康診断と同じ項目になっていると思いますけれども。急性の影響だけ取り除いてこういう項目をまとめたものと同じものがここに案として提示されております。
○大塚中央労働衛生専門官 1点、先ほどの参考資料3の16ページの「(2)まとめ、イばく露期間」の最後の3行で、ここで「5年未満のばく露期間で膀胱がんの発症リスクを増加させることを示唆する研究報告はなかった。」という記述があるということです。
○櫻井座長 場所を特定できなかったのですが、16ページの(2)のイの最後の3行、ここで「5年未満で膀胱がんを発症している事例(最短2 年)も報告されているが、5年未満のばく露期間で膀胱がんの発症リスクを増加させることを示唆する研究報告はなかった。」。これは5年未満で膀胱がんを発症している事例も報告されているが、5年未満のばく露期間で膀胱がんの発症リスクを増加させることを示唆する研究報告はなかった。最短2年の報告がされているけれども、統計学的にはそれが有意のリスクというデータにはなっていないということですよね。それはそのとおりだと思います。
○圓藤委員 確かに16ページにそういうふうに書いてありますが、先ほどの10ページに戻りますと、SIRが1.98でかなり大きな値を示している。ただし95%CIにすると0.80から4.08ですので、あまり強くいえるようなものではないというので、16ページの書き方は、個人的にはもう少し抑えた書き方にした方がよいと思いました。
○小沼産業保健支援室長 圓藤先生からの御意見のとおりでございます。私どももこれをどうしても5年にして、5年未満は関係ないというつもりはございません。平成28年に労災の方で検討会を行い、様々な論文を集めた中に一応このようなことが書いてありましたので、参考資料3に記載したということでございます。確かに個々の研究を見ますと先生がおっしゃるとおりでございますので、その辺については誤解のないように、先ほど先生に整理していただいたような形で修正していきたいと思っております。
○櫻井座長 その他、特に追加のコメントはありますか。
○圓藤委員 同じことがその下の、初回ばく露後の経過期間に関しても、確かに10年未満、10年から20年のところは有意に95%CIにはなっていないのにもかかわらず、SIRが1.74とか3.41になっています。10年未満だからオルト-トルイジンによるものではないといえるような強いものはないのではないかと思いますので、そのことは手帳の交付の要件とは直接関係ありませんが、注意していただければと思っております。
○櫻井座長 他にありましたらどうぞ。
○大前委員 先ほどの資料4-2、健康診断項目の件ですが、過去にベンジジン、β-ナフチルアミンを扱っていた工場での経験で言いますと、手帳を持っている方がいらして、尿中の潜血検査をする場合ですと、もし採尿してそれを検査機関に持っていきテストテープで潜血が出た場合に、それを見た医師が、再度来診を促すという形になるのではないかと思うのです。そうした場合、1回で済むのが2回来診し、検査しなければならなくなると、2回目は来なくなってしまうということがありますので、「医師が必要と認める場合に実施」するのではなく、その場で潜血をやって潜血が陽性だったら(4)尿沈渣検鏡の検査、(5)尿沈渣のパパニコラ法による細胞診の検査をやるという形にした方が現実的にはよりよい形ではないかと思います。2回呼び出された場合、次回から来なくなってしまう可能性があるものですから。
○櫻井座長 現行項目では、一次健康診断の中で医師が必要と認める場合に実施するということになっており、同時に実施することを考えているわけですね。ところが右のように書くと、一次健診で同時にやることを想定してはいるけれども、一次と二次と……というように誤解される可能性があるということでしょうか。
○大前委員 そうですね。どういうふうにやるかという問題だと思いますけれども、手帳を持っていらっしゃる方が、その会社の健康管理室かどこかにいらして、採尿だけして帰ってもらうパターンなのか、あるいは、そこで潜血をチェックして、陽性である場合、それで同じ尿で沈渣なりあるいはパパニコラなりを検査するというようなやり方をするのか、そのやり方によって1回で済むのかあるいは2回来なくてはならないのかということがあるので、そこら辺のやり方が結構クリティカルなのではないかという気がします。
○櫻井座長 おっしゃるとおりだと思います。
○大前委員 端的に言ってしまいますと、医師の認めがなくても潜血検査が陽性だったらやったらどうかという意見です。医師の判断は関係なく、潜血検査が陽性であれば医師の判断は要らないのではないかと思うのです。
○櫻井座長 手帳交付者であればということですね。
○大前委員 手帳を交付してある場合の話です。
○櫻井座長 リスクが高いと認めているわけですからね。
○大塚中央労働衛生専門官 潜血検査をやった場合は、尿沈渣検鏡の検査は必ずやるということですね。
○大前委員 陰性の場合はやる必要はないと思います。
○大塚中央労働衛生専門官 陽性の場合ですね。
○大前委員 そのような書きぶりにしておいた方が実際にやられる方はやりやすいのではないかと思います。沈渣のパパニコラは大体リンクしていることが多いので、沈渣で何か細胞が出ればパパニコラに進むということになります。順番でいうと潜血をやって沈渣をやって、それで陽性だったらパパニコラという順番になると思います。
○圓藤委員 同時にその場でやるということですか。
○大前委員 それが一番よいと思いますが、会社によってはなかなかそういうわけにいかない場合もあると思います。
○小沼産業保健支援室長 健康管理手帳の健診の場合には一応労働局の方で指定している機関でお願いしますので、そういうやり方ができるか否か検討してみたいと思います。
○櫻井座長 いずれにしても「医師が必要と認める場合に実施する検査」というのを削除するという御提案だと思いますが。
○大前委員 削除ではなくて、潜血検査が陽性の場合は必ず実施するという、そういう提案です。医師が必要と認めるか否かに関わらず、潜血検査が陽性だったら次に進むというように書き方を変えるということです。
○櫻井座長 書き方を変えるということですね。
○大前委員 はい。
○神ノ田労働衛生課長 御提案ですが、(3)の尿中の潜血検査だけで判断することでよいかどうかですね。(1)と(2)の検査で自覚症状の有無や検査もしていますので、そういったことを踏まえて(4)と(5)の検査をするかどうか、これはまさに医師に判断してもらうという、そういう立て付けではないかと思います。あいまいになっているところをもう少し厳格に運用できるようにした方がよいという、そういう御意見ではないかと思いますので、「医師が必要と認める場合」というのがどういうものなのか、その中には潜血が出たら必ず実施するという考え方を事務的に整理させていただいて提示するということでいかがでしょうか。
○櫻井座長 この場では結論を保留してということですか。
○神ノ田労働衛生課長 そうですね。ここの表現の仕方を、この場で潜血が出た場合には(4)(5)でよいのかどうか。そこの「必要と認める場合」というのはもう少し幅広くとらえた方がよいのではないかと思うので、その中でも潜血が出たら当然(4)(5)はやらなければだめだという等、そこら辺の考え方をしっかり整理させていただけたらと思います。
○櫻井座長 膀胱がんの診療のガイドライン等も参考にして今までも提案しているわけですが、そこのところをもう1度詳しく調べて、どういう書き方が最も適切か、ちょっと時間をいただいて案を作るということにしたいと思います。
○清水委員 尿中の潜血検査をする場合、医務室に来てその場ですぐにやればよいのですが、そうではなく健診機関のようなものが来て特殊健診としてやって、尿を持ち帰ってやることもあると思います。その場合は、例えば潜血が出たらどのように対処することになりますでしょうか。
○神ノ田労働衛生課長 医師がいないということですね。
○清水委員 そういう場合もあり得ます。全国労働衛生団体連合会などを見ていると、本当は、尿はその場で検査しなければならないと思います。ですが健診機関の場合には持ち帰ってやるということもありえます。そうなった場合には潜血が出たら必ず尿沈渣の検鏡とあるいはパパニコラもやるとか、そういうステップを入れておかないと、先ほど大前先生が心配されたように2回来なければならないということもあり得ると思います。
○圓藤委員 これは職場全体で特殊健康診断をやるのではなくて、健康管理手帳保有者のみの健診ですので該当者は少数です。少数の者が医療機関ないし健診機関へ出向いて、そこで検査を受けるという形になりますので、その場でやろうと思えば(1)から(5)まで全てやれるのではないかと思います。パパニコラに関してはそれを外注しなければならないという可能性はありますけれども、それはそれで対応できるのではないかと思います。清水先生がおっしゃっていたのは、例えば潜血した場合、テープで見る形にしますが、時間を置きますと溶血してしまって赤血球が見えなくなってしまい、実際に尿沈渣の検鏡をしたときには赤血球が見えないというようなことがあるので、そういう注意が必要だということだと思います。
○櫻井座長 潜血は非常に鋭敏な検査で他の要因もいろいろありますが、スクリーニングとしては感度は高いですね。だからこれも取り上げているわけで。
ではいろいろ議論して大体の方向は……。
○圓藤委員 別の件ですが、特殊健康診断のときに業務経歴の調査、作業条件の簡易な調査があると。それはもはや退職している人については、あえて聞く必要がないというのはそのとおりなのですが、そのデータは健康管理手帳の交付申請をするときにそのデータを出してもらう形になっているのでしょうか。といいますのは、そのデータは非常に重要なデータで、もし何年かたって当該事業所が、会社が解散してしまったというようなときに、業務経歴の調査を後でやろうと思ってもできないことになりますので、どこかに記録が残るような仕組みを作っていただいているのでしょうか。
○大塚中央労働衛生専門官 記録は残すようになっています。離職直前の状況ということで記録します。
○櫻井座長 それではこの部分をどう修正するかについては、事務局と私とで相談の上、案を出して、皆さんにはメール等で御意見を伺うという方向でよろしゅうございますか。
ではそのようにお願いいたします。(注)
それでは、ありがとうございました。
次にMOCAについて議論を進めたいと思います。事務局から説明をお願いいたします。
○大塚中央労働衛生専門官 資料5-1を御覧いただきたいと思います。MOCAに関してのこれまでの経緯はすでに御説明申し上げており、一連の膀胱がん発生の経緯を記載しているものですので省略させていただきます。ただ、現時点でMOCAについては17名の方が発症しており、そのうちの12名が退職者であるということから、健康管理手帳の対象とするか否かの検討が必要であるということでございます。
MOCAについての基本的な状況は別添2を御覧いただきたいと思いますが、用途としてはウレタン用の硬化剤、エポキシ樹脂用硬化剤など、製造業だけでなく建設業でも使用されており、有害性としてはやはり発がん性が高く、また経皮吸収も見られるところでございます。
まず発がん性の評価ですが、IARCでは当初、グループ2A、「ヒトに対しておそらく発がん性がある」という評価だったのですが、これが2010年にグループ1、「ヒトに対して発がん性がある」に引き上げられております。これに関する評価書のモノグラフを見てみますと、資料5-1、2ページの3にありますように、評価内容としましては、ヒトについてはMOCA取扱労働者の膀胱がんについて米国の症例報告2件、台湾の症例報告1件、イギリスのコホート研究1件がありますが、これのみでは証拠不十分であるとしています。ただ、動物実験でさまざまな動物でさまざまな部位にがんが発生していて十分な証拠があると。また、その発生メカニズムについて代謝メカニズム、発がんメカニズムが膀胱がん物質として知られています、他の芳香族アミンのものと非常に類似しており、メカニズム的に発がんの十分な証拠があると考えているということで、これらを総合して2Aから1に引き上げたということでございます。
また、特殊健康診断の実施状況ですが、平成29年において実施事業場数が333、受診労働者数が3,747、有所見率3.9%でした。ちなみに前年の平成28年におきましては実施事業場数が100以上低い209、受診労働者数が1,000以上低い2,625、有所見率は4.7%ということで、検査項目を加えてからいずれも増加が見られるところでございます。
次に資料5-2を御覧いただきたいと思います。これは先ほどの検査項目で、左側が現行の検査項目、右側が手帳交付対象とした場合の検査項目(案)です。これについても、オルト-トルイジン同様に、常時MOCAを取り扱う業務に従事していることにより生じる急性の症状に関わるものについては除外するという考え方で整理しております。結果として、配置転換後の健診の項目と一致しております。MOCAにつきましては、今後様々な追加情報等も踏まえて多面的に検討する必要もあると考えておりますが、本日は従前からの基本的な整理ということで項目案をお示ししております。
次に資料5-3でございます。「1.現状」につきましてはすでに御説明したことと重複しますので省略いたします。
「2.健康管理手帳の3要件の検討」では、健康管理手帳の対象となるための3要件がどうなっているかの確認をします。
1番の要件は、「安全衛生の立場から法令上の規制」がなされているかどうか。これにつきましては先ほど申しましたようにIARCでもグループ1、発がん性が一番高いところに引き上げられております。オルト-トルイジンの場合は、IARCの評価に連動して日本産業衛生学会でも発がん性の評価を引き上げたのですが、MOCAにつきましては日本産業衛生学会では引き上げておらず、第2群のAという第2ランクのままです。「ヒトに対しておそらく発がん性があるが証拠は十分でない」というランク付けであり、これは動物実験による発がん性の報告は十分であるが、ヒトにおける疫学証拠が乏しいので引き上げなかったということです。
こうしたことを受け、国内におけるMOCAの規制状況は、すでに特化則の対象となっており、オルト-トルイジンと同様「特定第二類物質」、「特別管理物質」として規制されております。したがって、作業主任者の選任、発散抑制措置、作業環境の測定、特殊健康診断、作業記録等の規制がなされており、作業記録や健診結果の保存期間は、通常5年ですが30年に延長されております。
こうしたことから、MOCAについては国内では法令上の規制がされていると思われ、1の要件は満たしているのではないかと考えます。
次に2番目の要件「疾病(がんその他の重度の健康障害)が業務に起因する疾病として認められていること」の業務起因性の問題です。オルト-トルイジンについては、先ほど申しましたように、因果関係が労基則の35条専門検討会の方で認められて、今後、労基則別表第1の2に掲げられ、業務上疾病とされる予定です。しかしながら、MOCAにつきましては、同様の動きがまだ見られておらず、現時点で業務上疾病と判断する根拠を見いだすのはなかなか難しいという状況です。今後の労災補償関係等の検討の推移を見守る必要があるのではないかと考えます。
3番目は、「当該物質等の取扱等による疾病(がんその他の重度の健康障害)の発生リスクが高く、今後も当該疾病の発生が予想される」という要件です。関連事業場での発症者が17名に至っており、このうち5名から労災請求がなされておりますが、現実には、労災認定者はまだおりません。従来、第3の要件につきましては、労災認定者の状況を重要なメルクマールとして判断してきておりますので、現時点ではなかなか判断が難しいのではないかと考えています。今後、どの程度発症者が出るか、あるいは、労災認定の状況も踏まえつつ検討する必要があるのではないかと考えております。
したがいまして、MOCAにつきまして、現時点では、以上3要件のうち第1の要件は満たされていると考えますが、第2、第3の要件につきましては、今後の推移を踏まえて引き続き検討していく必要があると考えます。
また、「3.交付対象業務及び交付要件について」ですが、特殊健診の適用対象業務の範囲がMOCAについて「3,3’-ジクロロ4,4’-ジアミノジフェニルメタン(これをその重量の1パーセントを超えて含有する製剤その他の物を含む。)を製造し、又は取り扱う業務」となっておりまして、特段の事情がなければこれに合わせるのがよいのではないかと考えております。また、交付要件となるばく露期間、従事期間でございますが、現状で労災認定者が出ていない以上、どの程度のばく露期間で発症しているのか、発症する可能性があるのか、判断が難しいところでございますので、今後の労災認定状況等を踏まえて検討していく必要があると考えております。
以上でございます。
○櫻井座長 いかがでしょうか。
○圓藤委員 資料5-1の2ページ目、「3.MOCAに関するIARCの発がん性評価」のところ、「MOCA取扱い労働者の膀胱がんについて、米国の症例報告2件、台湾の症例報告1件、イギリスのコホート研究1件があるが、不十分な証拠」ということですが、別添1では日本で17例というのが出ています。これはヒトにおけるデータですので、何らかの形で症例報告なり疫学などができれば疫学的証拠になってくるのではないかと思いますので、是非ともこれらのデータが公表されるようにまとめていただけるような方策をお考えいただきたいと思っています。
○櫻井座長 その他、何かございますでしょうか。1,2-ジクロロプロパンについても日本の症例で、どう考えても批判の余地のないデータになっておりますが、それに似たものである可能性があるということですね。
○圓藤委員 この17例がありますので、これらの実態を検討するような検討会を開いていただくとか、研究班を作っていただくとか、何らかの方策で前へ進めていただければと思っております。
○櫻井座長 当面、健康管理手帳項目(案)が出ております。これを決定する段階においては書き方をオルト-トルイジンに合わせるという方向になるだろうと思いますが、現段階ではこれについて直接は議論せず、認定状況の進行に応じて手帳についても考慮するという方針案になっていると思います。それでよろしいでしょうか。
ではそのようにさせていただきます。ありがとうございました。
○大前委員 非常にささいなことなのですが、別添2の下の段、日本産業衛生学会の許容濃度が、「0.005 ppm」となっていますが、同段の一番下に、「当面0.005 mg/m3」となっており、単位が違っていますので修正をお願いいたします。
○櫻井座長 ppmをmg/m3に、修正をお願いします。
今日の主な議題は終了いたしましたが、事務局からその他の事項について報告をお願いいたします。
○大塚中央労働衛生専門官 今後のスケジュール等の関係でございますが、オルト-トルイジンにつきましては、先ほど申しましたように労災補償の関連でもオルト-トルイジンによる膀胱がんを業務上疾病に位置付ける検討が行われております。すでに労基則35条専門検討会において了解が得られており、今後審議会等の議論を経て省令改正が行われる予定でございます。できればこちらの方もそれに施行日を合わせて検討を進めたいと考えております。大体3月下旬ぐらいを目途に考えております。
次に、MOCAの関係でございますが、労災補償の関係ではMOCAに関わる検討については具体的な動きはまだないわけでございますが、労基則35条専門検討会の下に、化学物質による疾病に関する分科会というのを設けるということになっております。分科会を設けて化学物質関係を集中的に議論することが予定されておりますので、その中でMOCAが扱われるかわかりませんが、そういった動きも踏まえつつ、こちらも検討を進めたいと考えております。
次に、資料6を御覧いただきたいと思います。これは、本検討会等の議論のために基礎資料を作っていただいている、化学物質の健康診断に関する専門委員会がございまして、有害物質の特殊健診のための健診項目の作成などが具体的な例でございますが、委託事業でそうした検討をしていただく専門委員会がございます。この専門委員会から平成29年度に提案がなされており、その提案の内容が資料6にあるとおりでございます。上の枠内にありますが、御存じのように、特化則は特殊健診が一次健診、二次健診という2段階の構造になっており、基本的には一次健診でスクリーニングして二次健診で精査するという形になっています。2段階ですと第2段階目が省略されるおそれもあり、また、2段階目を行うとしても、1段階目と2段階目の期間が開いてしまうような場合、十分な予防効果が得られないということがありますので、原則一括に、必要な検査はなるべく同時にやる、同時にできないものはなるべく速やかに間を開けずにやる、という考え方が望ましいのではないか、そのような提案がなされております。
それを前提に、今、特化則の対象になっている物質等で、健診項目が古くなったり、機能が落ちたりしているものは改正するという作業の中で、優先的な23物質について案として整理されております。ただそれは2段階構造を1つの構造にすることを前提として整理されているという状況でございます。
これに関する今後の検討としましては、23物質についてのみ2段階構造をなくすということはできませんので、他の物質の検査項目をどのように位置付けるかという作業が必要になってきます。この作業は、非常に大きな作業になってきますので、一次、二次構造はそのままにしておいて、優先的に項目を見直す必要がある物質については、一次、二次構造のままで何とか振り分けて見直し案を作っていただけないか、そういったことも検討していただきたいということも考えております。また、優先順位につきましても23物質だけでよいのか、23物質の中でどれが優先か、23物質以外でどのようなものが必要なのかということも全体的に整理していただきたいと考えており、そうしたものがまとまりましたら、またこの検討会にも挙げさせていただき、議論いただきたいと考えております。
以上でございます。
○櫻井座長 いかがでしょうか。それについてコメントなど。
○大前委員 この特化則等々の健診項目につきましては、随分古いものがずっと残っておりまして、櫻井先生を始めとする検討委員がもう何回か案を作って、それを見直すという段階に既に来ておりますので、今回、資料6の今後の検討事項が終わりましたらできるだけ早くそれを実施していただくような方向でしていただければと思っております。
○大塚中央労働衛生専門官 最新の項目を見直すということでは、やはりコストアップの関係で事業者に負担をかけるということもありますので、それとともに省略できる項目や簡素化が可能な項目等も同時に検討いただければと考えております。
○櫻井座長 今までも、尿のウロビリノーゲンは全部やめましょうという提案をしているのですね。これは9物質ぐらいございまして、尿のウロビリノーゲン以外に何も検査がないからそのためだけに尿をとってウロビリノーゲンを調べているのですが、これは要らないという提案をしております。それだけでもコストは大幅に削減できると思います。
それから尿の蛋白の問題ですが、有機溶剤は全部尿蛋白の定性を今まで義務付けておりましたが、それは必要ないという提案ですね。それは全部コストダウンの方向なのですが。コストアップのものはむしろ少なく非常に合理的に提案されてきておりますので、今後、早急にこの専門委員会でまとめ直すということが必要なのではないかと思っております。
そのような方法でよろしゅうございますか。
○圓藤委員 23物質ということで出されておりますが、23物質の全体という形でやることにこだわるよりも、例えば今、櫻井先生がおっしゃられたように、全体の中で尿中のウロビリノーゲンを一斉に外すというような方法があります。個々の23物質に限定していきますと、かえって複雑になっていくのではないかと思います。まとめて処理していただける方が早いのではないかと考えます。
○櫻井座長 ありがとうございます。
この23物質の内容は、膀胱がん11物質をまずまとめる。だから全部同じでよいのではないかという案ですね。今古いものと新しいものとに分かれているのでそれを同じにすべきではないかと、それで膀胱がん11物質をまずまとめるということになると思います。それから特別有機溶剤の9物質、それで計20物質になるわけです。あとの3物質というのは鉛、四アルキル鉛とカドミウムです。鉛もどちらかというと負担が減る方向ですね。大分前に鉛については血中鉛が20μg/dl未満であれば年2回ではなく、1回でよいという案を出したことがあるのですが、それだとコスト負担も軽減されて合理的です。そういうようなことですので、23物質の中で特に鉛と四アルキル鉛は鉛に合わせて負担減を図れば、負担増はカドミウムだけですね。しかし、ウロビリノーゲン等は、この23物質に限定するとそれに触れることができないので、やはり全体を見るべきだと思っております。
他に何かございますでしょうか。
○大前委員 これは意見ですが、今の健診項目は最新作業条件の調査があって進んでいるわけですが、作業環境が良好な、例えば第1管理区分がずっと続いている事業場で作業されている方に健診をやる必要があるのかどうか、というようなことも考える必要があると思うのです。第1管理区分が続いているのであれば、年1回の健診でよいとか、そういうような軽減策も要ると思います。ただその場合、大変困るのは、作業環境測定の結果の報告義務がないので、それがチェックできない。私のところもずっと管理区分1です、と会社にいわれてしまえば確認のしようがなく、そのような抜け穴はあります。そういった点も踏まえ、今話した軽減策の実効を図るためにも、作業環境測定の結果も報告するようなシステムを考慮していただきたいというのが私の意見です。
これは、本検討会の問題ではなく、労働衛生の問題ではないかもしれません。ただ、これからネットで報告するようなスタイルになると聞いていますので、その中に載せればよく、紙の書類を提出しなくても済むようになると思いますので、是非よろしくお願いしたいと思っております。
○櫻井座長 今回、ここで議論させていただきましてありがとうございます。フリーな議論をさせていただきましたが、これは化学物質の健康診断に関する専門委員会の方へ委ねて、また検討していただくことになろうかと思います。
その他何か追加の御意見等はございますか。
よろしいでしょうか。
○櫻井座長 それでは、ほぼ予定の時間になりましたので、以上で終了とさせていただきますが、事務局から連絡事項があればお願いいたします。
○大塚中央労働衛生専門官 1点、議事録については、先生方に内容を御確認いただいた上でホームページ上にアップを予定しておりますので、確認作業をよろしくお願いいたします。
○櫻井座長 それでは本日の検討会は以上で終了いたします。
ありがとうございました。

(了)

(注)オルトートルイジンの健康診断項目の選択に係る医師の判断について

オルト-トルイジンについて、1次健康診断における「尿沈渣検鏡の検査」、「尿沈渣のパパニコラ法による細胞診の検査」に係る医師の必要性の判断については、その前の「他覚症状又は自覚症状の既往歴の有無の検査」、「他覚症状又は自覚症状の有無の検査」及び「尿中の潜血検査」の結果を総合的に勘案して判断すること。特に「尿中の潜血検査」において有所見となった場合は必ず「尿沈渣検鏡の検査」を行うこと。さらに、「尿沈渣検鏡の検査」も有所見となった場合は必ず「パパニコラ法による細胞診の検査」も行うよう留意すること。以上の内容を通達に明記することで、事後、検討会の了承を得た。(資料4-2関係)