第1回 解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会(議事録)

日時

平成30年6月12日(火)10:00~12:00

場所

中央合同庁舎第5号館 専用第22会議室(18階)
(東京都千代田区霞が関1-2-2)

出席者(五十音順)

 
(いわ)(むら)(まさ)(ひこ)   東京大学法学部教授
 
(かき)(うち)(しゅう)(すけ)   東京大学大学院法学政治学研究科教授
 
鹿()()()()()  慶應義塾大学大学院法務研究科教授
 
(かん)()()()()  立教大学法学部准教授
 
()西(にし)(やす)(ゆき)   明治大学法学部教授
 
中窪(なかくぼ)(ひろ)()   一橋大学大学院法学研究科教授
 

議題

解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点について(意見交換)

議事

  

○労働関係法課猪俣課長補佐
 それでは、定刻となりましたので、ただいまより第1回「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」を開催いたします。
 委員の皆様方におかれましては、御多忙のところお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
 本検討会の進行について、座長が選出されるまでの間、事務局にて議事進行を務めさせていただきます。労働基準局労働関係法課の課長補佐をしています猪俣と申します。よろしくお願いいたします。
 まず、本来であれば委員の皆様を参集した労働基準局長の山越の方から冒頭の御挨拶を申し上げるところであり、また、事務局として大臣官房審議官(労働条件政策担当)の土屋、総務課長の村山も出席すべきところなのですが、急遽、国会対応が発生してしまったため、山越、村山は本日欠席とさせていただきます。土屋は途中出席の予定でございます。
 本検討会の開催に当たりまして、山越にかわりまして労働関係法課長の大隈から御挨拶させていただきます。

○大隈労働関係法課長
 労働関係法課長の大隈でございます。局長挨拶を代読させていただきます。

 (代読)
 
 労働基準局長の山越でございます。
 委員の皆様方におかれましては、御多忙のところ御参集いただき、誠にありがとうございます。
 検討会の開催に当たり、一言御挨拶させていただきます。
 本検討会は、昨年12月27日に開催した労働条件分科会において、「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」の報告書を報告した際に、荒木尚志労働条件分科会長より、事務局に対して、「法技術的な論点についての専門的な検討について、さらに有識者による議論を行うべきではないか」と御指摘をいただいたことを受け、本検討会を設けることといたしました。
 解雇無効時の金銭救済制度の在り方については、本検討会において法技術的論点に関する専門的な検討を行った上で、労政審において多面的な議論を行う必要があると考えており、委員の皆様方におかれてはぜひ闊達に御議論いただきますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
 以上でございます。

○労働関係法課猪俣課長補佐
 続きまして、御出席いただいております委員の皆様を御紹介いたします。御参集者名簿順に、東京大学法学部教授の岩村正彦様。

○岩村委員
 岩村でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

○労働関係法課猪俣課長補佐
 東京大学大学院法学政治学研究科教授の垣内秀介様。

○垣内委員
 垣内と申します。よろしくお願いいたします。

○労働関係法課猪俣課長補佐
 慶應義塾大学大学院法務研究科教授の鹿野菜穗子様。

○鹿野委員
 鹿野でございます。よろしくお願いします。

○労働関係法課猪俣課長補佐
 立教大学法学部准教授の神吉知郁子様。

○神吉委員
 神吉です。よろしくお願いいたします。

○労働関係法課猪俣課長補佐
 明治大学法学部教授の小西康之様。

○小西委員
 小西です。よろしくお願いします。

○労働関係法課猪俣課長補佐
 一橋大学大学院法学研究科教授の中窪裕也様。

○中窪委員
 中窪です。よろしくお願いいたします。

○労働関係法課猪俣課長補佐
 以上の6名となります。
 また、オブザーバーとして法務省民事局参事官の内野様にも御参加いただいております。

○内野法務省民事局参事官
 内野でございます。よろしくお願いいたします。

○労働関係法課猪俣課長補佐
 続きまして、事務局を紹介いたします。
 先ほど山越の代読をさせていただきました労働関係法課長の大隈でございます。

○大隈労働関係法課長
 大隈です。よろしくお願いいたします。

○労働関係法課猪俣課長補佐
 労働関係法課調査官の大塚でございます。

○大塚労働関係法課調査官
 大塚です。よろしくお願いいたします。

○労働関係法課猪俣課長補佐
 どうぞよろしくお願いいたします。
 続きまして、お配りいたしました資料の御確認をお願いいたします。資料といたしまして、
 資料1 「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会 開催要綱」
 資料2 「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会 参集者名簿」
 資料3 「検討会の公開の取扱いについて(案)」
 資料4 「今後の進め方について(案)」
 資料5 「解雇無効時の金銭救済制度に係る主な法技術的論点について」
 資料6 「『透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会』報告書(平成29年5月)」
 参考資料「検討事項に係る参考資料」
 でございます。その他、座席表をお配りしております。
 不足などございましたら、事務局までお申しつけください。
 次にお配りした資料にございます本検討会の開催要綱について御説明いたします。資料1をご覧ください。
 資料1「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会 開催要綱」でございます。
 「1.趣旨・目的」でございますけれども、1パラグラフ目の真ん中あたりから御説明すると、透明かつ公正な労働紛争解決システム等の構築に向けた議論を行うために、平成27年10月に「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」を設置いたしまして、平成29年5月に報告書を取りまとめたところでございます。
 この報告書の中において、「金銭救済制度については、法技術的な論点や金銭の水準、金銭的・時間的予見可能性、現行の労働紛争解決システムに対する影響等を含め、労働政策審議会において、有識者による法技術的な論点についての専門的な検討を加え、更に検討を深めていくことが適当」とされたところでございます。
 また、昨年12月8日に閣議決定されたものでございますが、政府の成長戦略のようなものでございますけれども、「新しい経済政策パッケージ」の中においても、当該検討会の検討結果を踏まえまして、「可能な限り速やかに、労働政策審議会において法技術的な論点についての専門的な検討に着手」することにされました。
 これを受けまして、平成29年12月27日の労働政策審議会労働条件分科会において、昨年5月に決定した報告書を報告しまして、法技術的な論点についての専門的な検討を行う場を設けることとしたということでございます。
 このため、「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」を開催いたしまして、解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的な論点について議論して整理を行うということが本検討会の趣旨・目的となります。
 「2.検討事項」でございますが、解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的な論点についての整理ということになります。
 「3.運営」でございますが、記載のとおりでございますけれども、(4)において、座長については参集者の互選より選出して座長代理は座長が指名するということでございます。
 (5)庶務は、労働基準局労働関係法課において行わせていただきます。
 以上でございます。
 始めに、本検討会の座長についてお諮りいたします。ただいま説明いたしました開催要綱の「3.運営」の(4)において「本検討会の座長は参集者の互選により選出し、座長代理は座長が指名する」としておりまして、これに従い座長の選出を行いたいと思います。
 座長の選出については、事前に事務局より各委員に御相談させていただいたとおり、岩村委員にお願いしたいと考えておりますが、よろしいでしょうか。

 (「異議なし」と声あり)

○労働関係法課猪俣課長補佐
 ありがとうございます。御賛同いただきましたので、岩村委員に座長をお願い申し上げます。
これ以降の進行は岩村座長にお願いいたします。まず、御挨拶いただければと存じますのでよろしくお願いいたします。

○岩村座長
 ただいま、座長を仰せつかりました岩村でございます。皆さん方の御助力、御助言をいただきながら運営してまいりたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、開催要綱の3(4)に基づきまして、この検討会の座長代理を指名させていただきたいと思います。座長代理につきましては、中窪委員にお願いしたいと考えますので、よろしくお願いをいたします。
 早速、きょうの議題に入りたいと思います。
 お手元の議事次第をごらんいただければと思いますが、議題としては「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点について(意見交換)」ということになっております。
 きょうの進め方としましては、まず事務局から検討会の持ち方であるとか今後の進め方、さらに解雇無効の際の金銭救済制度に係る法技術的な論点に関する検討を進めていくにあたりまして、準備していただいている資料を御説明いただきたいと思います。その後、質疑応答も含め、議論を行うということでお願いをしたいと思います。
 それでは、資料3と資料4につきまして事務局から説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

○労働関係法課猪俣課長補佐
 資料3と資料4について御説明させていただきます。
 まず資料3でございますが、「検討会の公開の取扱いについて(案)」でございます。
 検討会については原則公開といたします。ただし、以下に該当する場合であって、座長が非公開が妥当であると判断した場合には非公開といたします。
 1 個人に関する情報を保護する必要がある。
 2 特定の個人等にかかわる専門的事項を審議するため、公開すると外部からの圧力や干渉等の影響を受けること等により、率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるとともに、委員の適切な選考が困難となるおそれがある。
 3 公開することにより、市場に影響を及ぼすなど、国民の誤解や憶測を招き、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがある。
 4 公開することにより、特定の者に不当な利益を与え又は不利益を及ぼすおそれがある。
 でございます。
 注でございますが、上記1~4は、厚生労働省が定める「審議会等会合の公開に関する指針」における審議会等会合の公開に関する考え方に準拠するものでございます。
 続きまして資料4でございますが、本検討会の今後の進め方に関する資料でございます。
 第1回は本日でございますが、「解雇無効時の金銭救済制度の検討に関する現状の整理と主な論点」とさせていただきました。第2回以降でございますが、1つ目は「関係団体等からのヒアリング」でございます。2つ目が「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点の整理に向けた議論」でございます。
 以上、資料3と4について説明いたしました。

○岩村座長
 ありがとうございました。
 ただいま説明をいただきました資料3と資料4につきまして、何か御質問等はありますでしょうか。よろしゅうございましょうか。
 それでは、これで今後検討会のほうは進めさせていただきたいと思います。
 次に事務局から資料5と資料6を用意していただいていますので、説明をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

○労働関係法課猪俣課長補佐
 続きまして資料5と資料6、適宜参考資料のほうを使いまして、少し長くなりますけれども、御説明させていただきます。
 まず、先ほど開催要綱にございました昨年5月に決定をいたしました「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」の報告書というものが資料6になります。これから御説明いたします資料5がメーンの資料なのですが、資料5については資料6の報告書の中にある解雇無効時の金銭救済制度に係る必要な論点というのを、抜き出してきたような形の資料になります。
 まず、資料5をお開きください。
 「本検討会の開催経緯」ということで2ページ目以降にその資料をつけさせていただきました。2ページ目でございますが、昨年5月に決定いたしました報告書の中で、解雇無効時における金銭救済制度の必要性というものを議論して、報告書の中で記載しておるのですが、そこについて どのように書かれているかを抜粋させていただきました。
 「2.解雇無効時における金銭救済制度について」というところの「(3)解雇無効時における金銭救済制度の必要性」の「コ」というところで、「解雇無効時の金銭救済制度の必要性については」と冒頭にありまして、中盤の下線部のところに行きまして、「解雇紛争についての労働者の多様な救済の選択肢の確保等の観点からは一定程度必要性が認められ得ると考えられ」るということで結論付けております。
 続きまして、「金銭救済制度については、法技術的な論点や金銭の水準、金銭的・時間的予見可能性、現行の労働紛争解決システムに対する影響等も含め、労働政策審議会において、有識者による法技術的な論点についての専門的な検討を加え、更に検討を深めていくことが適当と考える」というのが検討会報告書においての結論であったということでございます。
 続きまして、2ページ目の下でございますが、これを受けて昨年の12月8日に閣議決定された「新しい経済施策パッケージ」においても、「3 解雇無効時の金銭救済制度の検討」ということで、「解雇無効時の金銭救済制度について、『透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会』の検討結果を踏まえ、可能な限り速やかに、労働政策審議会において法技術的な論点についての専門的な検討に着手し、同審議会の最終的な結論を得て、所要の制度的措置を講じる」ということで、政府として閣議決定しているという状況でございます。
 続きまして、3ページ目をお開きください。昨年の労働政策審議会労働条件分科会のほうに、5月の紛争解決システム検討会の報告書を報告した際の経緯というか、どのように本検討会の設置に至ったかということの議事録をつけさせていただいております。上のほうは使用者側と労働者側からそれぞれいろいろな意見がありましたが、最終的に荒木労働条件分科会長のほうから、下のほうの下線部でございますけれども、「法技術的な論点についての専門的な検討について、さらに有識者による議論を行うべきではないかと考える次第であります。この点、事務局にこの対応をお願いしたいと考えておりますけれども、事務局としてはいかがでしょうか」ということで、山越労働基準局長のほうから、それ受けまして「有識者に検討いただく場を設ける方向で検討していきたい」ということで返しております。それに基づきまして、本検討会が設置されたという経緯でございます。
 続きまして、次のページ、「主な法技術的論点」ということで、本日の本題のところに入ります。5ページ目のお開きください。まず、「解雇無効時の金銭救済制度に係る検討の視点と基本的な枠組の全体像」ということで図をつけさせていただいております。
 解雇無効時の金銭救済制度につきましては、昨年5月に報告書を取りまとめました「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」において、1年半にわたって議論してきたわけでございます。その際、現行制度で利用可能な救済の仕組みは維持しつつということで、下の図に書いてあるとおり、労働審判とか労働局のあっせん、あるいは通常の民事訴訟における地位確認訴訟といったものは維持しつつ、労働者の選択肢を増やすことなどの観点から検討を行ってきたということで、最終的には労働者申立による制度の基本的な枠組みとして、以下の例1~例3の仕組みについて中心的に検討を行ったということでございます。
 下の枠に行きまして、例1~例3というのは何かというと、例1でございますが、解雇が無効であるとする判決を要件とする金銭救済の仕組みになります。例2でございますが、解雇を不法行為とする損害賠償請求の裁判例が出てきていることを踏まえた金銭救済の仕組みでございます。例3が、実体法に労働者が一定の要件を満たす場合に金銭の支払を請求できる権利を置いた場合の金銭救済の仕組みということで、この3つについて検討を行ってきたということでございます。
 以下の例1~例3について詳しく説明させていただきます。
 まず、6ページ目でございますけれども、例1について御説明いたします。例1は解雇が無効であるとする判決を要件とする金銭救済の仕組みでございます。(1)、(2)ということでありますが、(1)は2003年検討時と書いてありますが、参考資料のほうにも経緯はつけておりますけれども、平成15年に労働基準法の一部を改正する法律を厚生労働省は国会に提出しておりますが、その検討過程において、当時は金銭解決制度と申しておりましたが、解雇の金銭解決制度についてこのような仕組みで法制化ができないかということを労働政策審議会のほうで議論をしていたという案でございます。
 この案は、解雇が行われますと、その後に労働者はいわゆる解雇の無効を求める訴訟、地位確認請求訴訟を裁判所にする。その場合に、例えば解雇が無効であり地位が確認されるという判決が出て、その判決が確定した後に労働者がさらに金銭救済の申立を裁判所にし、一定額の金銭の支払を裁判所が命じて、使用者が金銭を支払うと労働契約が終了するという仕組みを考えておったようでございます。
 この仕組みは、最終的には労働基準法の一部を改正する法律には盛り込まれなかったわけでございますけれども、いろいろ難点は指摘されていたのですが、最大の難点として指摘されていたのは、裁判を最低でも2回やらなければいけない。一つは地位確認請求訴訟、もう一つは金銭救済の申立の訴訟という2つの訴訟を必ずやらなければいけないということで、かなり労働者にとっては負担が重いのではないかということで、なかなか難しいという結論になりました。
 後ほど説明をいたします解雇無効時の金銭救済制度については、当時から一回的解決を図るというのが至上命題になっておりまして、要は例えば裁判で争う場合についても、複数の裁判をやらなければならないというのはなかなか労働者にとっても負担が重いし、簡便性という観点からいっても問題はあるだろうということで、一回的解決というのが過去ずっと上がり続けていた検討課題であるということでございます。
 続きまして(2)でございますが、2005年検討時ということですけれども、労働契約法という法律をつくっていたプロセスの中において、労働契約法にこのような解雇の金銭解決制度について盛り込めないかということで検討されていた案でございます。これは2003年の検討時に、2回裁判をやらなければいけないということが課題であったことを克服するために考えられた案でございまして、解雇が行われた後に地位確認請求訴訟と金銭の請求訴訟、最後、裁判所の判断で労働契約を終了させる請求の訴訟という3つの請求の訴訟を一度に起こす。併合訴訟みたいな形ですけれども、一度に起こして一度に判決を得るということができないかという案でございます。もし、これが可能であれば、一回請求をして同時に判決が出るので一回的解決がなされるのではないかということで、この案が考えられたようでございます。
 7ページ以降でも説明いたしますけれども、点線囲いの右側の判決の欄にも書いてあるとおりなのですけれども、労働契約を終了させる判決を得るためには、一定額の金銭の支払いをしているということが条件になるということなのですが、これは同時に判決を出す話なので、労働契約の終了の判決を出す瞬間には一定額の金銭の支払はまだ行われていないということで、労働契約の終了の判決を出すということがなかなか難しいのではないかというような点がございまして、これをやるのは技術的に難しいのではないかということで、当時は難しいという結論になったという経緯でございます。
 7ページ目をお開きください。例1については、昨年の労働紛争解決システム検討会においてもかなり議論されたところでございまして、以下7ページ目のような内容で整理がされているということでございます。
 簡単に紹介させていただきますと、一番上のほうから、解雇が無効であるとする判決を要件とする金銭救済の仕組みで、一回的解決を可能とするためには、解雇を無効とする地位確認判決を得た上で、金銭の支払を命じる「給付判決」と金銭の支払によって労働契約の終了という法律関係の変動を宣言する「形成判決」を同時に得るような手法が考えられるが、この手法は過去に検討された際に、労働契約の解除という法律関係の変動についての要件は「使用者による金銭の支払」となるが、一回の裁判手続で給付の判決も同時に行うとなれば、判決時点ではいまだ金銭が支払われていない以上、形成原因が成立しておらず、したがって形成の判決がなし得ない。つまり、既存の訴えの類型にはうまく当てはまらないのではないか。
 下のポツですが、「労働契約は存在すること」、解雇の無効という意味ですが、それを要件とすると、労働契約上の地位が存在することは確認の判決の主文の内容にほかならず、地位の存在(=要件)が確定するまでに三審を要することもあり得る。このため、地位の存在を前提とした一定金額の支払や法律関係の変動を同一の裁判手続で判断することは困難であるといった問題が指摘されてきたということです。
 さらに昨年の検討会においても、金銭が支払われた後に判決で終了の効果を生じさせるとなると、一回の手続で全てを構成することなど手続的な観点を含め、制度の仕組み方等について非常に難しいところがある。一方、金銭の支払が無いまま判決がなされ、その時点で労働契約が終了することとなると、契約の終了に当たり金銭の支払いが確保されず、労働者の保護に欠ける可能性がある。
 例1の仕組みにおいても、金銭の支払によって労働契約を終了させるということであれば、実体法上の根拠が必要となるほか、この後に例3ということで説明させていただきますけれども、例3で検討されている労働契約の終了時期や金銭の性質に関する論点は、例1の考え方を採用する場合においても、基本的には同様に発生するものであり、例1の考え方を採用することは、例3の考え方において問題となる諸課題が解消されることを意味するものではないということです。
 その下ですが、形成判決という方式は、一般的な救済方法である給付判決や確認判決とは異なり、法が特に必要と認める場合に例外的に採用される方式であり、そうした解決方式を新たに導入することに当たっては、形成判決構成をとる必要性についての十分な論証が要求されるが、労働契約は、使用者と労働者との契約関係であり、基本的には私的自治の対象であることに照らせば、労働者の側でも金銭の支払を条件として労働契約の終了と希望している労働者申立について、裁判所による形成判決がなければ労働契約終了の効果を生じさせてはならないとする理由は、必ずしも判然としないということで、形成判決という構成がなかなか難しいのではないかという指摘だと思います。
 上記を踏まえれば、形成判決構成は、どちらかといえば使用者申立に親和的な構成であり、労働者申立のみを想定する制度には、必ずしも適合しないといったさまざまな意見がございまして、現行の訴訟制度の枠組み内で一回的解決が可能な手法を構築することには課題が多く、この手法によって金銭救済制度を創設することには依然として課題が多いということで例1については整理されたという結論でございます。
 続きまして8ページ目、例2ということで「解雇を不法行為とする損害賠償請求の裁判例が出てきていることを踏まえた金銭救済の仕組み」でございます。これは参考資料にも裁判例のほうを何点かつけさせていただいておりますけれども、適宜御参照いただければと思います。参考資料の29ページに裁判例を紹介させていただいております。
 近年、解雇自体を通常は地位確認請求訴訟ということで、解雇の有効性について争う裁判というのがメジャーな裁判としてあったわけなのですが、最近は解雇自体を民法第709条に基づいて不法行為だということで、損害賠償請求を使用者に対して求めるというような裁判例が幾つか出てきているということで、地裁レベルだと幾つか不法行為として認められている例が出てきているということです。それを参考にいたしまして、それと解雇の金銭救済制度というものを仕組めないかということで考えた仕組みでございます。
 この仕組みは、図ですけれども、解雇が行われた後に労働者のほうが使用者に対する損害賠償を請求するということで、仮に裁判になった場合には解雇を不法行為とする損害賠償請求の要件事実が認められるということであれば、裁判所のほうから一定額の損害賠償を使用者に対して命ずるということになるわけですが、使用者が損害賠償すると、その後の点線で、労働契約が終了するというような構成の法的な枠組みがつくれないかということで検討した案でございます。
 これについては下の注の「報告書に記載された例2の仕組みに関する整理」のところでございますが、一つ目のポツで解雇を不法行為とする損害賠償請求については裁判例が蓄積されつつあるものの、解雇に関する訴訟の中では未だ少数にすぎず、リーディングケースとなるような裁判例もない中で、このような仕組みを法定化することは現時点ではなかなか難しいのではないかという結論になっております。
 先ほど、参考資料の中で裁判例をつけさせていただきましたけれども、少なくとも最高裁まで行って判決が出ているというようなケースは見当たらなかったという意味で、リーディングケースとなるような裁判例はないというのはそのとおりかというところでございます。
 2つ目のポツですけれども、そもそも損害賠償請求と金銭を支払った場合に労働契約が終了する効果を結びつけることが論理的に困難だという意見がありまして、この手法によって金銭救済制度を創設することは困難であると考えられるということで結論付けられております。
 仮に損害が認められて、損害賠償請求が認められ、使用者が損害を回復させるべく損害賠償した場合に、損害を賠償するとなぜか労働契約まで終了してしまうというような法的構成がどういう説明でつくのかというのがなかなか難しいのではないかという意味でございます。
 続きまして9ページ目、例3ということで「実体法に労働者が一定の要件を満たす場合に金銭の支払を請求できる権利を置いた場合の金銭救済の仕組み」でございます。労働紛争解決システム検討会の中では、例3が中心に議論が行われたというものでございます。
 例3は、労働者に対して金銭救済請求権というような形の実体法上の権利を付与するということがメーンのアイデアになっております。どういう流れになるかというと、まず解雇が行われた後に、労働者がその権利に基づいて金銭救済を請求するということです。仮に裁判になった場合に、金銭救済請求権の要件を満たしているかどうかということが裁判の中で確認されるということで、判決の中で要件をどのように設定するかにもよりますけれども、要件としては労働契約法第16条に書いてある解雇権濫用法理と全く同じ要件だということが前提とした上で御説明させていただくと、解雇が客観的に合理的な理由を欠いて、社会通念上相当性を欠くものということがあるのであれば、金銭救済請求権という権利はしっかりと持っているということが判断されて、その権利に基づいて請求をしたわけなので、裁判所のほうは使用者に対して一定額の金銭の支払を命ずるということになります。
 使用者がその命令に基づいて金銭を支払うと、民事上の効果として労働契約が終了するというようなことを法律に書き込んでしまえばできるのではないかということで、給付の判決というか、給付請求訴訟一本で成り立っているような仕組みだということが言えるのではないかということで、この仕組みであれば、裁判はもちろん1回、三審までやるのであれば3回やることになりますけれども、1回の裁判で終わることになりますし、2005年に検討していたような複雑な仕組みではなくて、1つの裁判でシンプルに終わるというような形になるのではないかということでございます。
 下の注でございますが、「報告書に記載された例3の仕組みに関する整理」ということで書かせていただいております。これについては、実体法に労働者が一定の要件を満たす場合に金銭の支払を請求できる権利を置いた場合の金銭救済の仕組みについては、労働者の選択肢を拡大するという観点や、国民にとってのわかりやすさ等を考慮すれば、例1や例2に比べると相対的には難点が少なく選択肢として考え得るという意見がありました。一方、これは本検討会で新たに提示された選択肢であるため、個別の論点について具体的な検討を行ったところではありますが、権利の法的性格や権利の発生要件、権利を行使した場合の効果等、法技術的にもさらに検討していく課題が多いと考えられるということで結論付けております。
 10ページ以降でございますけれども、本検討会で中心となって御議論いただきたい法技術的論点というのが、例3にかかわるような法技術的論点ではないかと事務局としては考えておりまして、それについて報告書に記載をされている法技術的論点をそのまま抜き出してくるような形で、議論しやすいように整理をいたしまして提示させていただいたものが10ページ以降のものになります。
 10ページの目次をご覧いただくと、今回論点として考えられるものは以下の7つの論点になります。1つは「対象となる解雇」。2つ目は「労働者が金銭の支払を請求する権利」で、先ほど例3は金銭救済請求権という権利をつくるという案だと申しましたが、この権利の性質みたいなものが この論点でございます。3番目が「使用者による金銭の支払」で、3-1で「金銭の性質」、3-2で「バックペイの発生期間」というものになります。4番目で、「労働契約解消金請求訴訟と他の訴訟との関係」。5番目で「金銭的予見可能性を高める方策」、5-1で「金銭的予見可能性を高める方策の在り方」、5-2で「労使合意等の取扱い」。6番で「時間的予見可能性を高めるための方策」。最後、「その他」ということになります。以下、1番から7番まで御説明させていただきます。
 まず、11ページ目お開きいただければと思います。1つ目の論点でございますが、解雇無効時の金銭救済制度の対象となる解雇はどの範囲なのかという論点でございます。
 この対象となる解雇につきましては、労働契約法第16条の対象となってくるような解雇、いわゆる普通解雇とか懲戒解雇とか整理解雇といったような一般的に解雇と言われるようなものは当然対象になってくるわけなのですが、それに類するようなもので、例えば1つ目の有期労働契約に係る雇止めです。これについては労働契約法第19条で、解雇権濫用法理と同じような要件が課された上で、場合によっては雇止めが無効になるというような法律構成をとっておりますが、雇止めについて解雇無効時の金銭救済制度の対象にするかどうかというのが一つです。
 もう一つは禁止解雇でございます。労働基準法第19条における業務上の傷病による休業期間中の解雇あるいは産前産後休業期間中の解雇といったようなものについて例示として挙げておりますが、一般的にさまざまな労働法制ないし労働法制以外の法律にも書いてありますけれども、不利益取扱いをした場合には問答無用で無効とするというような、一般的には禁止解雇と言われるような規定が各法律に散らばっておるのですが、こういった禁止解雇についても、労働者からの申立であれば解雇無効時の金銭救済制度の対象にしてしまってもいいのではないかというような論点がございまして、ここに書いております。
 3つ目ですけれども、有期労働契約の期間途中の解雇。まさに「解雇」でございますけれども、労働契約法第17条第1項で、やむを得ない場合でなければ期間途中の解雇については無効にするというような規定はございますけれども、有期労働契約の期間中の解雇についても金銭救済制度の対象にするかどうかというのも一つの論点でございます。こういったものについて、労働者の選択肢を増やす観点などから対象となり得ると整理をされたということです。
 こういったシステム検討会の報告書を踏まえまして、今回対象となる解雇の範囲についてどのようになるのかというのが論点1でございます。
 この対象となる解雇については、システム検討会の中で以下のような意見がございました。11ペー目の下のほうにございますけれども、禁止解雇についてですが、禁止解雇についても一定程度対象となるような余地はあるけれども、例えば男女雇用機会均等法9条の規定により禁止されている解雇等の差別的な解雇については、雇用のみならず、思想信条の自由等を保護するものであり、労働者申立であっても本来は対象とするべきではなく、仮に対象とするとしても、差別的解雇を金銭によって解決することを法規範的にどう正当化するかについて非常に重要な問題であり、労働者の選択肢の拡大のみによって正当化できるかは疑問であるという御意見でした。
 その下ですけれども、これと類するようなところがありますが、労働組合法第7条で禁止されている労働組合の組合員であること等を理由とする解雇等については、憲法上保証されている労働者の団結権等に影響を与えるものであり、慎重に検討すべきであるという御意見でありました。
 その下、一定の禁止解雇を対象から除くことについては理念的には理解するが、労働者申立は労働者の意思によって利用されるものであり、それまでも法律によって禁止すべきかは疑問であるということで、対象にすべきではないかという御意見だったと思います。
 その下、差別的解雇等一定の解雇を金銭救済制度の対象外とすることについて、実務的には使用者は「普通解雇」として解雇しており、使用者が普通解雇だと主張する限りは、それらの解雇を金銭救済制度の対象から除くことは難しいのではないかという御意見でした。
 その下ですが、有期契約期間中の期間途中の解雇については、契約期間が1年とか3年という形で定まっており、現在でも残余期間の賃金の支払によって解決していることから、金銭救済の対象にする必要はないのではないかという御意見でした。
 労働協約に違反する解雇等を解雇権濫用法理の枠組みで捉えられるかどうかについては、更なる検討が必要だという御意見もございました。
以上が対象となる解雇の関係でございます。
 今のところに関連して、参考資料の17ページ目に先ほど申した禁止解雇を一覧表という形で掲載させていただいております。労働基準法にも書いてありますし、先ほど言った労働組合法の7条の関係とか、男女雇用機会均等法の関係とか、育介法の関係とか、厚労省の所管ではございませんが公益通報者保護法に違反する解雇といった関係で、一般的にこういうものは禁止解雇と言われているようなもので、こういったものについてを対象にするかどうかというのが今回の論点となっているというものでございます。
 資料5に戻っていただきまして、12ページ目をお開きいただければと思います。
 論点2でございますが、労働者が金銭の支払を請求する権利について、要件とか性質はどのようなものかというような論点でございます。
 2番の1つ目の○でございますが、今回、解雇無効時の金銭救済制度の金銭の名称は、システム検討会の報告書の中では、「労働契約解消金」という名称になっております。以後、労働契約解消金というのはそのような意味で使われているというふうに御理解いただければと思います。
 この労働契約解消金の支払を請求できる権利、金銭救済請求権の発生要件については、以下の3つが考えられると整理されました。1 解雇がなされていること。2 当該解雇が客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないこと。これは労働契約法第16条に記載されております解雇権濫用法理と全く同じ要件になります。3 労働者から使用者に対し、労働契約解消金の支払いを求めていること。この3つの要件でございます。
 2つ目の○ですが、金銭救済請求権の法的性質については以下の構成が考えられると整理されました。1つ目が労働契約解消金の支払請求後の取り下げができない仕組みと位置付けること。いわゆる形成権的構成と言われているものでございます。2つ目が取り下げができる仕組みと位置付けることということで、請求権的構成と位置付けることでございます。
 3つ目の○ですが、以上を踏まえましてどのような構成とすることが考えられるか。また、仮に形成権的構成とした場合の課題への対応については、権利行使を裁判上での請求や書面など一定の形式による請求に限ることから、権利行使についての周知広報によって対応することまで、さまざまな選択肢が考え得るが、労働者保護を図る観点からどのような対応が考えられるかということです。
 3つ目の記載について何を言っているのかというと、下の「報告書に記載された『請求権的構成』についての意見」のところを読むとわかりやすいのですけれども、仮に解雇を不当と考えた労働者が、地位確認等の選択肢を考えることなく使用者に対して金銭を請求した場合であっても、形成権的構成にすると取り下げができないまま、金銭が支払われたときに労働契約が終了することとなり、労働者保護に欠けることから、取り下げができる仕組みとするべきという意見がありました。これは請求権的構成にすべきという意見です。
 これに対して、そうした取り下げができる仕組みとすると、「現に継続して労働者が一定額の金銭の支払を求めていること」を要件とすると、金銭の支払を求めている間は権利があるけれども、その後求める意向がなくなっている期間があればその間は権利が喪失するというように、権利関係が非常に不安定になる。その下ですが、「金銭の支払を求めたこと」を要件とすると、取り下げを認めない仕組みとした場合と同様の課題が生じ得る。
 3つ目ですが、労働者が十分な情報を得て熟慮した上で金銭救済請求権を行使する必要があるなどの意見があったということで、権利関係の早期安定の観点からは、支払請求後の取り下げができない仕組みとすることが考えられるのではないかというような御意見があったということです。この点については、様々な選択肢について更に検討すべきという意見もあったということです。
 取り下げができるかできないかという仕組みを中心に考えておったわけなのですが、取り下げができない仕組みにしたほうが確かに安定性は高まってくるけれども、例えば労働者のほうがうっかり請求みたいな形で請求してしまって、使用者のほうがお金を払ってしまうと労働契約が終了してしまうことはかなり問題なのではないかということで、うっかり請求してしまうから取り下げができる仕組みにしたほうがいいのか、あるいは形成権的構成をベースにしたほうがよくて、うっかり請求がないように権利行使を裁判上での請求とか書面などとか、あるいは本人がうっかり請求しないようにこういう権利ですという周知広報をしっかりやったり、いろいろな選択肢が考えられるのではないかという論点でございます。
 13ページですが、これに関連して、形成権的構成についての意見ということで1つ目のポツですけれども、労働者による慎重な権利行使を求める観点から、裁判上でのみ権利行使できるものとして設計すべきであり、権利行使を裁判上に限れば労働審判制度への影響も少ない。
 2つ目のポツは、広く国民に利用してもらうという今回の制度趣旨に鑑みると、裁判上の請求に限ることは望ましくなく、また、裁判外の請求は当該解雇が客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないこととの要件があるためそもそも事実上それほど行使されない可能性があることを踏まえると、裁判上の請求に限る必要性も高くはない。
 3つ目が、労働審判は当事者間の権利関係を確認して行うものであり、この金銭請求の権利の行使を裁判上の請求に限ると、労働審判では行使できなくなることから、裁判上に限るのは適当でなく、書面により請求することに限るような方策を考えるべきということで、形成権的構成をしている場合においても、うっかり請求みたいなものを防止するための方策については様々な意見があって、私の印象でございますけれども、これがいいというような形で意見が収斂していたような感じではなかったかと思います。
 続きまして、14ページ目、論点の3でございまして、「使用者による金銭の支払」というもので、先ほど申した労働契約解消金の金銭の性質について考えていく論点でございます。労働契約解消金については以下の要素が考えられる。労働契約解消金については、基本的には1になりますけれども、2についてもどう考えるかというのがここでの最大の論点になるということです。
 まず、1職場復帰せず契約終了に代わり受け取る「解消対応部分」、プラス先ほど解雇を不法行為とする損害賠償請求訴訟の中でも、裁判例の中でも示されているようなものもありますけれども、慰謝料的な「損害賠償部分」というのが認められているパターンがあるわけなのですが、そういったものも含み得るようなものとしての解消対応部分というのが基本になってくるのではないか。これは今回、制度考える上で創設的につくり出されるものだということでございます。
 2が、現行でもあるものなのですが、いわゆるバックペイというものをどう考えるかという要素でございます。バックペイについては、参考資料の21ページ目にバックペイというものは何かということは記載されておるわけなのですが、先生方には釈迦に説法ではございますけれども、簡単に申すと、地位確認請求訴訟において仮に解雇無効の判決が出た場合に、解雇されてから解雇無効の判決が出るまでの間については労働契約上の地位がある、つまり働けるような期間だったけれども、使用者が解雇して働けなくしてしまったような使用者の責任があるので、その間の賃金相当額についてはしっかり払いなさいというものでございます。これがバックペイと言われております。
 その発生根拠としては、21ページに条文をつけておりますが、民法第536条第2項で、「債務者の責に帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない」という規定に基づいて、給付の命令が出されるものがバックペイでございます。
 このバックペイは、今回の解雇無効時の金銭救済制度についても、解雇権濫用法理と同じような要件を課すということであれば、バックペイも当然発生してくるのではないかと考えるのですが、仮にバックペイが発生すると考えた場合にバックペイの扱いをどうするのかというのがこの論点でございます。バックペイについてはA案とB案を提示させていただきました。
 A案は、バックペイは解雇無効時の金銭救済制度には関係なくて、バックペイはバックペイで民法第536条第2項に基づいて裁判上請求すれば、仮にそれが発生しているのであれば裁判所のほうから給付命令が出るわけでございますので、別途併合訴訟ないし別の機会に請求してもらえばいいのであって、今回は労働契約解消金の中心となる概念は解消金対応部分オンリーでやるべきだという案でございます。
 B案はそれとは逆で、バックペイ部分もしっかり全部払わないと労働契約が終了しないという構成にすべきではないかという案でございます。
 これについては、下の報告書のほうですが、いろいろな意見がございまして、正直言うと意見は割れていたと思います。
 1つ目のポツですが、簡素でわかりやすい仕組みとすることを考えると、B案は非常に複雑な設計となるため、A案のようにバックペイは従前どおりの扱いとする考え方もあるのではないかということです。
 2つ目のポツは、バックペイを含めない場合には、労働者がバックペイの支払を受けた後に労働契約解消金を請求するという行動を取り、紛争が長期化するといった懸念があるのではないか。
 3つ目ですが、バックペイを含めないこととした場合には、労働契約解消金請求訴訟とは別にバックペイ請求訴訟を提起することが可能であり、紛争の一回的解決の観点からは裁判所の審理上の工夫として弁論を併合するといったことが考えられる。
 4つ目ですけれども、現状では、解雇無効を争う場合には、一般的に和解でもバックペイを考慮した上で和解金の支払いというものがなされているのであって、例3の仕組みによる金銭救済制度でも労働契約解消金にバックペイを含めて考えるのは当然という意見でございます。
 5つ目ですが、バックペイは裁判が長引くほど積み上がっていく性質のものであり、金銭水準の予見可能性の観点から問題がある。
 最後ですが、バックペイを含めるとすると、労働者の再就職に対するインセンティブが阻害され、不適当であるということです。
 最後のポツはどういうことを言っているかというと、バックペイというのは、裁判が長引けば長引くほど性質上金額は膨れ上がっていくわけなのですが、再就職しないでずっと裁判を長引かせるほどバックペイの金額が積み上がっていくので、結局それを全部払わなければ労働契約が終了しないという構成にしてしまうと、再就職しないで、まずバックペイを積み上げられるだけ積み上げて、それをもらって労働契約を終了させた後に再就職をするというような、ある種、負のインセンティブを与えてしまうのではないかという御意見だと思います。
 続きまして、15ページ目でございますが、今の3-1の論点に関連した論点でございまして、バックペイの発生期間についてどう考えるかという論点でございます。今回、バックペイの発生期間というのは、労働契約解消金の中における労働契約の終了との関係やバックペイの位置付けによって定まるというようになっております。
 2つ目の○ですが、労働契約の終了については、労働者の保護を図るとともに、現職復帰に代えて使用者からの金銭の支払を求めるという金銭救済制度の趣旨に鑑みると、使用者から労働者に対して労働契約解消金が支払われた場合に、労働契約が終了することが考えられると整理はされております。
 他方、バックペイは、民法第536条第2項の規定に基づいて、使用者の責に帰すべき事由によって労働することができなかった期間の未払賃金債権であるため、バックペイが認められるためには、労働契約が終了していないだけではなく、労働者が就労の意思を有していることが必要であるというふうに整理をされたということであります。
 以上を踏まえまして、バックペイの発生期間について就労の意思がなくなったと認められる時点に応じて以下の2通りが考えられるが、どう考えるかということで、「ア」ということで就労の意思がなくなったのは金銭請求時とする場合、「イ」ということで就労の意思がなくなったのは金銭支払時とする場合という案でございます。
 これは何を言っているかというと、先ほどから使用者が金銭を支払ったら労働契約が終了するという前提で説明をしておったのですが、システム検討会の中ではいろいろ意見があって、お金を払わないで金銭救済請求をした時点で労働契約が終了するという形の構成だって考えられるのではないかとか、いろいろ議論はあったわけなのですが、基本的には労働契約解消金がきちんと支払われたら、民事上の効果として労働契約が終了するという構成が労働者保護の観点などを踏まえると望ましいのではないかということで、整理はされているということです。
 ただ、バックペイについては、民法第536条第2項との関係で、発生期間について今回は議論はあるというような論点でございます。先ほどご覧いただいたバックペイの欄で第536条第2項の規定を紹介させていただきましたけれども、労働契約に基づいて働く意思があったにもかかわらず、使用者の責によって働けなかった期間についてバックペイが発生するということなのですが、そもそも就労の意思がなかったら、使用者の責任にかかわらずバックペイは発生しないと解釈し得るということでございますので、今回の金銭救済の話において、就労の意思は一体どこでなくなっているのかというのがこの論点でございます。
 一つは、今回の金銭救済を請求した時点で、私はもうお金をもらって労働契約を終了したいという意思が明確なのであるから、この時点でバックペイはもう発生しなくなる、金銭救済の請求をする時点でバックペイはとまるという考え方と、それはあくまで留保つきで請求をしているだけであって、労働契約がちゃんとお金をもらって終了するまでは、労働者の就労の意思はなくなっていないと考えるほうが自然ではないかということで、これは「イ」の金銭が支払われるまでバックペイは発生し続けるという案でございます。
 15ページ目の下ですが、これについての意見としては、1つ目ですけれども、上の論点と関係ないのですが、労働契約の終了時点まで金銭の支払いをして労働契約が終了するという効果を発揮させるとしても、解雇時点まで遡って労働契約が終了するというような法的構成も考えられるのではないかという御意見がありまして、それについての意見が1つ目のポツでございまして、解雇時点まで労働契約の終了の時点が遡るとすれば、それはほとんど事前型と変わらないのではないかという御意見でした。
 2つ目のポツですが、労働者保護の観点からは、金銭が支払われた時点で労働契約が終了することが穏当だという意見です。
 3つ目は、労働者の救済の観点からは、金銭が支払われて初めて労働契約が終了し、労働者の就労の意思もなくなったとするべきであり、解雇 から金銭支払時までは未払いの賃金が認められるべきだということで「イ」の意見でございます。
 4つ目ですが、バックペイについては、「解雇から判決時」または「解雇から金銭支払時」まで認めるとなると、裁判が長引くほど解決金額が増大することが懸念されるが、迅速に解決する制度とすることが労使双方にとってメリットがあるため、バックペイの発生期間については「解雇から金銭請求時」までとすることが適当ということで、「ア」の意見ということになります。
 続きまして16ページ目でございますが、論点4「労働契約解消金請求訴訟と他の訴訟との関係」ということで、先ほど、例3の図にも書かせていただきましたが、労働契約解消金に係る請求訴訟とは別に、地位確認請求訴訟とか解雇を不法行為とする損害賠償請求訴訟について、特に制限は加えていなくて、別途ほかの訴訟も起こせるような形の構成にしております。この関係についてどう考えるかというのがこの論点でございます。
 この関係については、訴訟物が異なると整理できる場合には、二重起訴に該当しない、却下されることなく内容審理が行われると解されることとなって、併合して訴訟を提起することも可能になり得ると整理されたということでございます。この点、労働契約解消金の性質や構成によって考え方が変わるため、他の論点を踏まえた上でどのように整理することが考えられるかという論点でございます。
 これについての意見でございますが、下のほうで1つ目のポツ、労働契約解消金請求権と地位確認請求権の訴訟物が異なると整理した上で、訴訟が錯綜する制度になってしまう点をどのように考えたらいいのか。
 地位確認訴訟の途中で労働契約解消金請求権を行使することや、労働契約解消金請求権で裁判を提起したけれども、途中から地位確認訴訟を追加的に訴えることができるのかといった問題について、どのように考えるか。
 金銭支払の判決が出た後に使用者側が金銭を支払わないと、労働者は地位確認請求に乗り換えることも想定されるが、撤回が問題になるということは、一度労働契約解消金請求を行った場合、改めて地位確認請求はできないのではないかということで、裁判実務上の扱いでもあり、なかなか複雑になってしまうという観点もあって、これについてどう考えるかという論点になっております。
 続きまして論点の5でございますが、「金銭的予見可能性を高めるための方策」ということで、参考資料の中にも入れておりますが、解雇無効時の金銭救済制度については産業競争力会議の中で議論されていたときに、最大の論点としては金銭的予見可能性を高めるための方策についてどう考えるかというのが求められていたものでございまして、ここが一つコアな部分ではないかと思います。
 金銭的予見可能性を高める方策というのは、先ほど申した労働契約解消金について、事前に外部から見てどれだけ予見可能性があるものにできるかどうかというのがポイントでございまして、5-1ということで1つ目の○で、紛争の迅速な解決や金銭の算定の予見可能性の向上のため、解消対応部分については労働契約解消金の性質を踏まえて一定の考慮要素を含めて具体的な金銭水準の基準(上限、下限等)を設定することが適当ということで、システム検討会の報告書の中では整理されております。
 この結果を踏まえまして、解消金の一定の考慮要素について、年齢とか勤続年数、解雇の不当性の程度、精神的損害、再就職に要する期間等の具体的内容やその明示化についてどのように考えるか。さらに上限、下限を仮につくるということであったとしても、先ほど申した論点3のところでバックペイを入れるか入れないかという議論がありましたけれども、仮にバックペイを入れるという案にした場合に、バックペイに上限、下限みたいな予見可能性を高める方策をつけるかどうかというのも一つの論点になってくるというものでございます。
 17ページの下のほうでございますが、これについての意見で、1つ目のポツで、透明で公正な運営をしていくためにも上限、下限、ガイドラインなどの設定が必要であり、ガイドラインには、勤続年数、年功賃金の程度、退職金制度の状況なども考慮に入れる必要がある。
 2つ目が非常に低い金額で泣き寝入りしているような労働者を救うためには下限額が必要である。
 3つ目ですが、現状、労働審判においても解決金額に幅があり、労働部がある裁判ばかりでないことからすれば、上下限がなければ裁判所も判断ができないと考えられるので、混乱を回避するためにも考慮要素に加えて上下限を設定することが必要である。
 労働審判の解決金額に幅があるのは事案が多様であることを鑑みれば当然であり、裁判所の判断が難しいからこそ、労使の審判員がいるというような意見です。
 18ページに続きまして、金額の予見可能性という点では、類型的な考慮要素を定めておくことは権利の性質を明らかにするという意味においても必要だが、金額に上限及び下限を定める方策については、場合によっては、本来考慮すべき要素を切り捨てることにつながり得るものであり、「紛争の迅速な解決を図る」ことに資することは事実としても、それだけでそうした規律を正当化できるかについては、慎重な検討が必要だという意見でございます。
 その下ですが下限については、労働者保護の最低限度を示すという説明が可能であると思われるが、上限については本来認められるべき超過部分を切り捨てる機能を持ち得るのだとすれば、かかる権利の縮減を正当化するに足りる十分な合理的な説明が要求される。上限については、原則は一定の上限が課せられるものとした上で、例えば、「前項に定める金額を超えないものとすることが、当事者間の衡平を著しく害することとなる特別の事情があるときには、この限りでない」といった例外規定を設けることも一つの選択肢である。
 限度額を定めるとしても、上限を設けることは、金銭救済制度の利用を抑制するため不適切である。
 上限を定めると、使用者側としては解雇してもその程度の金額を支払えばよいのかというモチベーションが生じ、不当な解雇を誘発する可能性もある。
 解雇不当であることを認められた後に退職を希望した場合に、金銭で解決するということであれば、希望退職制度において支払われる、会社都合退職金プラスアルファというのが妥当であるため、希望退職制度類似の基準を設ければ足りるものであり、それに上限、下限をつけるというのは少しおかしい。
 金銭水準の算定根拠を明確にすることは賛同するが、解雇に至った背景、労使の責任の度合い、企業の支払能力など個々の事情もあり、企業横断的に一律に定めるのは難しいのではないか。
 バックペイに上限、下限を設けることについては、未払賃金が支払われるのは当然であり、そこに上限を設けることは適当ではない。
 バックペイに限度額を入れると、長期化によるリスクが減少し、使用者側が徹底的に争うため、審理が長期化するおそれが大きい。
 バックペイに限度額を設けない場合は、審理の長期化を招くことになり、金銭的予見可能性という点からも問題があり、弊害が大きいという意見がございまして、ここが一番議論になったところでございました。
 この論点に関連するところなのですが、まさに本検討会の法技術的論点としてどこまで対象にするかというところでございますけれども、事務局といたしましては、基本的には法技術的な論点ということでありますので、上限とか下限とか考慮要素とか、場合によっては計算式というような、後ほど諸外国の話を少し紹介いたしますけれども、そういったことまでは範囲に入ってくるかと思います。例えば上限を設定するとして、月給の何カ月分というような具体的な金額は、この検討会での議論の対象にはならないかと思っておりますので、まず上限とか下限とか考慮要素とかを設定することが適当かどうかとか、そういった観点で御検討いただければいいかと思っております。
 この論点に関連いたしまして、参考資料で例えば目次をご覧いただくと、現行の労働審判とか民事訴訟上の和解による解決金の水準とか、あるいは先ほど少し出てきましたが、退職給付制度とか早期退職制度で割増賃金率がどれぐらいかという現行のデータをここで紹介しておりますので、適宜御参考いただければいいかと思います。
 また、53ページ以降に「諸外国における仕組みについて」ということで、諸外国について紹介しております。おおむね欧州各国では解雇の金銭解決制度というのはございまして、基本的には上限とか下限とか何らかの計算式みたいなものが定められていると理解できると思います。
 代表的なものとして、イギリスとかフランス、ドイツ。最近フランスはかなり大きな改正がされまして、従前以上に明確な金銭水準になったわけなのですが、そういったものも御紹介しておりますので、適宜御参考いただければと思います。例えばフランスとか諸外国だと、論点の中に入っておりませんけれども、企業規模別で分けたり、中小企業と大企業の間で金銭水準について分けたりといった案もありますので、そういったことも含めて御検討いただければと思います。
 続きまして、資料5の19ページ目でございますけれども、5-2ということで「労使合意等の取扱い」ということで、先ほど5-1で論点を提示させていただきました、法律などで考慮要素を定めた場合でも、企業の実情等に応じた柔軟な対応を可能とするためには、これとは別に労使合意などによって別段の定めを置くことができるとすることも考えられるというふうにされました。
 これを踏まえまして、そもそも労使合意等によって別段の定めを置くことについてどう考えるか。また、労使合意の範囲をどう考えるか。法定水準との関係をどう考えるかというのがここでの論点でございます。事前に労使の間で労働協約などで、当社で解雇をされた場合の金銭水準については幾ら幾らとするというような形を事前に定めておいた場合に、法定の金銭水準ではなくそういったものを使うというような法律構成にするということをどう考えるかという論点でございます。
 19ページ目の下のほうでございますが、法定の金銭水準はデフォルトとして、労使が集団的に合意した場合に、それが裁判所を拘束するという考え方もある。
 一律の限度額を設けるとしても、労使合意により一定の金銭水準を定めることができる余地を残すことで、柔軟性を持たせることができるのではないか。なお、その場合であっても下限を下回る数値は設定できないこととするべき。
 労働組合がない場合に、労働者の代表が適切に選任されるのでなければ、そのような仕組みは難しい。
 労使協定または労働協約で労使があらかじめ労働契約解消金の水準を定めておくということは現実的ではない。
 労働契約解消金について労使合意により定めるイメージが湧かないのは、現時点でそのような制度がないから当然であり、仮に制度があれば、そのような労働契約解消金の水準に関する団体交渉が行われるのではないかというような御意見でございました。
 続きまして、最後に20ページ目でございますが、6番目で「時間的予見可能性を高める方策」ということで、金銭的予見可能性のほうは金銭水準が事前にどれぐらいわかるようにするかというような形のものでございますが、これは時間的予見可能性なので、どれぐらいで裁判が終わるとか、どれぐらいで解決するかという期間がある程度見えてくる仕組みを考えられるかどうかというような論点でございます。
 これについては、時間的予見可能性を高めつつ、権利関係を早期に安定化させ、紛争の迅速な解決を可能とするため、労働契約解消金の支払を請求することができる権利に関する消滅時効のあり方について検討をすることが適当であるというふうに整理されたということで、その権利については消滅時効に係るわけなのですが、今回それについての特則みたいな消滅時効を定めるかどうかというのも一つ論点として掲げられているということで、2つ目の○で、以上を踏まえまして消滅時効の期間の統一化等を内容とする民法改正の動向を踏まえつつ、労働者の権利保護を図りまして、迅速な紛争の解決に資する観点から、どのような期間を設定することが考えられるかという論点でございます。
 報告書においては、賃金債権の消滅時効の期間は現行2年でございますが、これに合わせることも考えられる。一般債権の原則である、「権利者が権利を行使することができることを知ったときから5年」より短くすることはあり得ないというような御意見とか、解雇の有効・無効の立証の観点からも、5年という期間設定は人的・物的な立証上の問題から困難である。解雇に関する重要な書類の保存期間も3年とされているというような御意見でございまして、民法改正を踏まえまして、知ったときから5年、権利を行使できるときから10年というような形で民法の消滅時効の改正が行われまして、それを踏まえた労働基準法第115条で、消滅時効が今2年と記載されていますが、それについて検討というのは、これもたまたま私が担当なのですが、別の検討会のほうで検討が並行して進んでいるような状況でございまして、労働基準法第115条は将来、現行の2年から改正される可能性もあるということは御承知おきいただければと思います。
 最後20ページ目の論点7ですが、その他、制度設計を考えるに当たって、検討するべき法技術的な論点についてどう考えるかということでございます。
 以上が資料5でございます。
 最後に資料6のほうで、使用者申立についてどのような扱いがされていたのかというのを御紹介させていただきます。検討会報告書の27ページ目をお開きいただければと思います。一々御紹介はいたしませんけれども、なかなか難しいのではないかという御意見が多くありまして、最終的には使用者申立制度についてはということで「ウ」に書いてありますが、現状では容易でない課題があって、今後の検討課題とすることが適当であると考えられるという形で、最後は整理をされているということでございます。
 済みません。かなり超過してしまいましたが、私からの説明は以上でございます。

○岩村座長
 ありがとうございました。
 それでは、今、説明をいただきました資料5と資料6につきまして、御意見、御質問等があればと思いますので、御自由にお願いいたします。
 中窪委員、どうぞ。

○中窪座長代理
 いま参考資料で配られた非常に分厚いものは、今回この検討会を開くに当たって新たにまとめていただいたということになるのでしょうか。あるいは、前回の報告書をつくるに当たっても同様のものが出されて、それをアップデートしたという感じなのでしょうか。

○労働関係法課猪俣課長補佐
 同様のものをお配りして、労働紛争解決システム検討会の中でも同じ資料で検討をしたものでございます。
 アップデートできるものはアップデートしておりますけれども、基本的にはそれほど変わってはおりませんで、新規でつけたと言えるのは、さっき言った労働基準法第115条の賃金等請求権の消滅時効のあり方については去年5月の検討会の後に議論が始まっているので、その関連の資料として67ページ以降につけているというのは、前回のシステム検討会の中ではなかった資料でございますけれども、その手前の金銭救済制度 に直接関係するような資料については、全て労働紛争解決システム検討会のほうで出させていただいた資料でございます。

○中窪座長代理
 ありがとうございました。

○岩村座長
 よろしいですか。
 今回、これからいろいろな法技術的論点を考えるに当たって、前の検討会で、解雇の金銭救済というものの解雇紛争全体の中で占めることになるであろうウエートというのがどういったものとして理解されていたのかということを、もし、わかれば聞きたいと思ったのです。それはきょう配っていただいた参考資料の18ページのところにあるのですが、解雇紛争があって解雇無効の判決が出た後に、そのまま何らかの形で退職してしまうというものと復職をするというのとの両方があって——―ちょっと残念なことにデータが非常に古くて労働審判が始まる前のデータになっているので、そこが気になっているのですが————復帰して勤務継続というのが、もともとのn数が少ないということもあるのですが、使側のほうだとそんなにない、労働側だと一定数いる、復帰しないというのと同じくらいのパーセンテージになっています。ですので、検討会の全体の議論の雰囲気として、金銭救済というのはどの程度機能させるものとして考えているというイメージとかはあったのかどうかというのを伺いたいと思うのですが、いかがでしょうか。
 事務局、お願いいたします。

○大塚労働関係法課調査官
 先のシステム検討会のときの雰囲気ですけれども、今、座長からお示しいただきました参考資料の18ページの資料、これも先のシステム検討会では御紹介していた資料でございます。ただ、座長御指摘のように、古いのとn数が少ないという難点がありまして、実際にこれがどの程度のウエートを占めているのかというのはいろいろ議論があったところです。
 冒頭に猪俣のほうから御説明した資料5の最初にもありましたように、基本的には新しく解雇紛争の中で労働者側の選択肢を増やすということで、地位確認訴訟ではなくて金銭の支払を求める道を模索しようということで始まった検討会だったのですけれども、委員の中にはさまざまな御意見がありまして、労側の委員を中心にそうしたニーズがないというような主張をされる方もいらっしゃいました。ニーズがないとする根拠として、現行でもあっせんとか労働審判などで金銭の支払による解決が図られているではないかといったような御意見もあったところでございます。
 他方で、そうした現に行われている金銭の解決というのは労使両当事者の合意を前提したものでしょうと。裁判における和解にしても、労働審判にしても、労働局におけるあっせんにしても、基本的には労使双方が歩み寄って合意して初めて金銭による解決が行われているものであって、当事者が合意しなかった場合に金銭で支払うというような制度的な道というのは、現状はないのではないかということで、これを議論する意義があると主張される委員もいたところであります。
 なので、全体のボリューム感というのは、今、お示しいただいたように、データが古くてn数も少ないという悩みもあるのですけれども、理論的にはそうした新しい労働者の選択の道を設ける制度上の意義はあるのではないかという意見も一定数見受けられたところでございます。

○岩村座長
 ありがとうございます。
 余り座長が質問ばかりしているといけないのですが、それに関連して、途中の資料5の御説明のところでも出てきましたけれども、もともとの狙いとしては労働者の解雇に対する救済の道を増やすという発想に立っているということで、そうすると従来型の解雇無効を前提とする地位確認 訴訟との併合というのも認められるということになるだろうと思います。
 ここから先は立法政策の問題で、どちらに誘導させるかということもあるのでしょうが、そのときにもし地位確認訴訟のほうが結果的に有利だという話になると、結局、金銭救済を求める労働者は出てこないということになってしまうように思うのですが、その点についての議論はどうだったのでしょうかというのが伺いたい1点目です。
 それから、先ほど損害賠償というお話もありましたけれども、地位確認訴訟とあわせて、例えば自分はこれだけひどいことをされたので慰謝料を請求するということも実際上は訴訟でもあるわけですけれども、慰謝料請求といったような損害賠償請求との併合もできるということなのでしょうか。もしかすると、新しく実体法上設けるとされている金銭請求権というものがどういう性格のものかということとも関係するのかもしれませんが、その辺についての議論は検討会ではあったのでしょうかというのがもう一つの伺いたい点です。
 ついでに、バックペイに関して言うと、これは解雇無効という結論が出れば、結果的にはバックペイの終期がどこになるのかという問題を横に置いておくと、いずれにしてもこれは未払賃金請求権にほかならないので、仮に上限を課すということになると、要するに私的財産に対する制限ということになって、当然のことながら憲法29条との関係というが出てくるはずなのですが、そこの議論は検討会でされたのでしょうかというところを教えていただければと思います。

○大塚労働関係法課調査官
 今、座長から3点御指摘があったかと思います。
 まず、地位確認訴訟のほかに新しいルートを設けた場合に、どちらの方に流れるのかということについてなのですけれども、様々な御意見が 先のシステム検討会にもあったところですが、一つの考え方として金銭水準の相場観次第なのではないかといったような雰囲気であったのだろうと考えております。
 もう一つ、損害賠償請求との併合ができるのかどうかという問題でありますけれども、これは労働契約解消金の性質に絡む議論でございまして、そこに損害賠償見合いの性質のものを入れるのかどうか、また、それが十分含まれているのかどうかによるものと思います。といいますのも、ほかの訴訟との関係のところでお示ししておりますように、訴訟物がかぶってくるのかどうかということとも関連してくると思いますので、労働 契約解消金の中に損害賠償見合いのものが必要十分に入っているということであれば、これは別途請求した場合に訴訟物がかぶって却下されるという効果が生じ得るものなのかとも思われます。
 バックペイの上限を設けた場合の考え方についても同様でございまして、民法第536条第2項によりまして未払い賃金の請求権はあるという前提に立ちますと、労働契約解消金の中に仮にバックペイを含め、かつ上限を設けるというようなBの2案のような考え方に立った場合には、はみ出る部分は当然生じてくるものでございますので、はみ出る部分について別途請求するということも可能になってくると思われます。
以上です。

○岩村座長
 ありがとうございました。
 ほかにはいかがでしょうか。
 小西委員どうぞ。

○小西委員
 今、解消金の法的性格のことについてお話があったのですが、それに関連してこれまでの議論がどうだったか少し教えていただきたいのです けれども、労働基準法20条の解雇予告手当との関係というのはこれまで議論されてきたのかどうかという点が一つです。
 もう一つが、解消金の中に損害賠償的部分とバックペイ部分双方を含むという場合に、例えば会社が倒産した場合の賃金請求権と損害賠償権の扱いは解消金として一体として取り扱うのかという点について議論があったのかどうか、教えていただければと思います。

○岩村座長
 事務局、お願いします。

○大塚労働関係法課調査官
 先のシステム検討会におきましては、1点目の解雇予告手当の関係でございますけれども、解消金の中に含めるかどうかという議論ではなくて、どちらかというと労基法第20条の解雇予告期間が現行の1カ月であることは妥当なのかどうか、延ばす必要があるのかどうかということで、その他の論点として議論されたという経緯がございます。これについては明確にこうすべきといったような結論が得られたわけではございません。
 もう一つ、倒産の場合の扱いなのですけれども、倒産したときに労働契約解消金の取扱いはどうなるのかといったように、明確にお題を設定して議論したという経緯はございません。
 以上です。

○岩村座長
 よろしいでしょうか。
 ほかにはいかがでしょうか。
 では、垣内委員どうぞ。

○垣内委員
 先の検討会に出席しておりましたので、先ほどの座長のお尋ねに関して私自身が感じたところについて若干補足させていただきます。
 この制度が果たすであろう機能についてはさまざまな御意見があったところですが、やはり解消金の水準がどの程度のものになるのかということによってかなり変わってくるのではないか。これが非常に大きな額であるということになれば、それを求める労働者も多いだろうし、それがそうでもないということになればそうでもないのではないかといったような認識はかなり共有されていて、しかし、その点が難しい問題だったのではないかという感想を持っております。
 その点、補足でした。

○岩村座長
 ありがとうございます。
 ほかはいかがでしょうか。
 では、中窪委員、どうぞ。

○中窪座長代理
 この例1から例3で、ここでは例3を中心に新しい制度を、解消金をどういう数字にするかも含めていろいろ議論していくということは理解しました。ただ、例2の損害賠償の請求の事案も現にあって、参考資料でも29ページと30ページに出ております。それとの関係というものを整理しておく必要があるのではないかと、話を聞いていて思いました。
 今は、損害賠償を求めるということは、逆に言うと地位そのものは求めないということを前提にしてやっていると思います。そのときに賠償として、慰謝料もありますけれども、メインは賃金について何カ月分というような形で計算をしているのが実態だと思うのですけれども、後でそれとは別に地位確認訴訟というのを起こせるのか、これは訴訟物が違うことになるのかどうかというのは、理論的にはなかなか難しい問題のような気がします。そのような中で、新しい制度ができたとすると、損害賠償の訴訟の中でも何か組み込んで、地位確認は求めないという確認をして一回的に解決するような仕組みが派生的に必要ではないかという感じがしたのですが、いかがでしょうか。
 それから、損害賠償の最高裁の事案として、小野リース事件がありました。地裁と高裁で認めたのがひっくり返されたもので、最高裁としては確かに賠償を認めたわけではないのですけれども、そのような事案が最高裁にも来たという意味では、損害賠償というのはある程度定着はしているのかということも思いましたので、1点指摘と1点御質問ということになります。

○岩村座長
 事務局のほうはいかがでしょうか。
 お願いいたします。

○大塚労働関係法課調査官
 例2方式につきましては、先のシステム検討会におきましては、さほど深い議論が行われたわけではないのですけれども、仮に仕組みを追求するとした場合には、労働契約の終了という効果についてどのような法律的な構成をとるのかということが一つ論点になると思います。
 例えば、労働契約の終了というのを、先ほど中窪先生がおっしゃったような、復帰するつもりがないという意思があるということを前提に、労使で労働契約を終了させる合意があったものとみなすといったような構成にしてということもあるのかとは思います。
 ただ、一般的に労働契約法の中において労使の合意を擬制しているといえば、就業規則法制の部分がありますけれども、あれは判例の実務に従って労働契約法第6条から第10条までが明文化されたわけでございますけれども、こういった新しい仕組みを設ける際に、そうした労使の合意が本当はないにもかかわらず、そういうことを擬制して仕組むというのはよりハードルが高い話なのかというふうには思っております。
 もちろん、この検討会の場では例3を中心に諸論点について先生方に御議論いただくという趣旨でございますけれども、例2についての議論を排除するわけでもございませんので、何か例2に従って制度化できるようなアイデア等ございましたら、御意見を賜れればと思っております。
 以上です。

○岩村座長
 中窪委員、どうぞ。

○中窪座長代理
 例2に従って何か新しい制度をというよりは、例3をやることによってそれが例2のところにも付随的に確認の手続なり、形成的な判決にするなり、そういうことも考えないといけないかもしれないと思ったところでございます。例3を中心に議論していくということは了解いたしました。

○岩村座長
 ほかにはいかがでございましょうか。
 神吉委員、どうぞ。

○神吉委員
 最初に今回の検討会のミッションの範囲を確認しておきたいのですけれども、タイトルからすると、解雇「無効」時に限るということ、かつ金銭「救済」制度ということなので、労働契約を金銭で解消できるニュートラルな制度ではなく、労働者側の救済に資する制度を構築しなければいけないということが前提なのでしょうか。それとも、もう少し広く視野をとって考えるべきなのかを確認させてください。

○岩村座長
 事務局の見解とほかの人の理解とが違うかもしれませんが、まず、事務局の前提となる御理解があればお願いします。

○大隈労働関係法課長
 昨年5月まで開催していた解雇無効時の金銭救済制度の検討会の結論を踏まえて、労働条件分科会を経てこちらにミッションがおりてきているので、もともとの出発点と同じように、基本的に解雇無効時の金銭救済制度の検討の中の法技術的な部分ということだと思うので、今までの流れからいって、労働者の選択肢を増やすとか労働者の保護に資するというような観点が中心になるかと思います。
 先ほど資料5の中で示させていただいた論点もそれに沿ったものなので、基本的にはあれに沿った形で御議論いただければとは思いますけれども、その中で「7 その他」とありましたように、それ以外の観点でこういうのもあるのではないかという御意見があれば、それはそれで議論の中には入ってくるとは思いますが、基本的な根っこの部分の流れとしては解雇無効時の金銭救済という範囲だと考えております。

○岩村座長
事務局、お願いします。

○労働関係法課猪俣課長補佐
 今の御質問と関連するような話で、解雇無効時の金銭救済というのは何なのか、どこまでの範囲なのかというのは、実は国会とかでも少し議論があるようなところでございまして、特に政府として、例えば参考資料につけておりますが、この解雇無効時の金銭救済制度の出発点となった「日本再興戦略2015」というものの中で、初めて解雇無効時の金銭救済制度という言葉が出てきたわけなのですが、それは何かということ自体は特に定義付けられてはおりませんで、そこから読み解ける範囲内で検討してくださいというものがもともとの閣議決定としてあって、それに基づいて一応こういうものだろうということで、労働紛争解決システム検討会の中ではその範囲内で検討してきたということになりますので、どこまでかと言われるとなかなか難しいのでございますけれども、字面からいうと、解雇の無効時と言えるようなもので、金銭救済だと言えそうなものというところが、何の答えにもなっていなくて恐縮なのですが、言えるものということです。
 確かに、例えばもともと労働紛争解決システム検討会の中では使用者申立についても検討対象になっていまして、なかなか容易ではない課題があって難しいという結論にはなっておりますけれども、検討はしておったわけなので、そこまでも射程には入っていたというところでもございますので、どこまで言えるかということも含めて御議論いただければいいかと思います。

○大塚労働関係法課調査官
 続けてよろしいでしょうか。

○岩村座長
 続いてお願いします。

○大塚労働関係法課調査官
 先のシステム検討会の場でも、解雇無効時をどう捉えるかというのは様々な御意見があったところです。これを最も厳格に捉えると、さっきの資料5の説明でありました例1のように、解雇の無効判決があったときの仕組みを前提にするというのもあり得るのかということで、労側委員の方々からは解雇無効判決なしに例3方式というのはおかしいのではないかというような御主張もあったところであります。
 今、猪俣のほうから申し上げたように、解雇無効時というのは厳格な定義がないまま検討会をやっていたということもあって、いわば例3方式というのは解雇無効判決を前提にしていないものですから、地位確認訴訟で争ったならば無効になるような解雇、すなわち労働契約法第16条の要件と同じような解雇というのを前提に、例3方式というのを検討したという経緯もございますので、そういった御理解に立っていただければと思います。

○岩村座長
 大隈課長、お願いします。

○大隈労働関係法課長
 もう一つだけ補足ですけれども、資料6の昨年5月までやっていた報告書の中で若干関連する記述がございまして、11ページの「ウ」の一番下に米印がついております。これが昨年までの検討会の検討事項について記述ですけれども、例えば裁判等において解雇が無効とされた際に労働者が職場に戻りたくないというときなどのいわゆる事後型に限定して検討を行うことを前提としたということで、前回の検討会はこの範囲で検討を行うという前提で検討したということなので、それは今回も前提にあるかと思います。

○岩村座長
 ありがとうございます。
 神吉委員、いかがでしょうか。

○神吉委員
 ありがとうございます。
若干気になっているのは、資料5「新しい経済政策パッケージ」の中では、解雇無効時の金銭救済制度の検討の位置付けは、「人材移動」とか「破壊的イノベーションによる」と読めます。結局、解雇の金銭解決として人材の流動化が念頭に置かれているのかと思いましたが、そうではなくて、今回の検討会では労働者の選択肢を増やす観点から検討すればいいのですねと確認しておきたかったのです。大体議論の前提はわかりましたので、ありがとうございます。

○岩村座長
 ありがとうございます。
 では、鹿野委員、どうぞ。

○鹿野委員
 私も先の検討会に参加させていただいたので、先ほどの中窪委員から出された御質問というか御指摘について、私が感じたことを一言申し上げたいと思います。
 私も民法をやっている関係で、下級審の裁判例とかで出てきている損害賠償請求権とこの労働契約解消金との関係はどうなるのだろうかということについては関心を持っていたところです。これは恐らく今後労働契約解消金についてどのような要素を盛り込むのかというところに係ってくるのだろうと思うのですけれども、先の検討会で私が感じた印象としては、この解消金は、違法な解雇があったことを理由に損害賠償を請求するというような損害賠償請求権を全部取り込むというイメージでは議論されてこなかったのではないかと思います。ただ、これについても厳密には、解消金がどういうものなのかということをここで検討して、それによって決まってくるのではないかと思います。

○岩村座長
 ありがとうございます。
 ほかにはいかがでございましょう。
 皆さんが考えていただいている間に私のほうでまた質問なのですが、これはむしろ垣内委員に聞いたほうがいいのかもしれないのですけれども、例3の考え方でいくと、解雇無効かどうかというのが要件の中に入っていて、解雇無効ということになると金銭の支払いということを条件として、最終的に労働契約の解消に至るというときに、判決の既判力というのはどの範囲で発生するのかというのが気になっています。きょうの例3についての資料を拝見すると、解雇が行われたということと解雇が権利濫用で無効であるということと、それから解消金の支払いを求めるということの3つが要件になっています。しかし、使用者に対して解消金の支払いを命ずるという主文になるのか、それとも支払われたら契約は終了するというような主文になるのか、イメージがいま一つ湧いていませんが、いずれにしても解雇無効であるという判断は、あくまでも判決理由中の判断にとどまって既判力の対象にはならないという理解でいいのかというのが第1点です。
 もう一つは、我々の検討課題ではないのですが、最終的な出口のイメージとして、条文としては労働契約法の中にこういう実体的請求権を置くというイメージでいいのか、場合によっては関連する裁判手続などの法令の改正も視野に入れたものであるのか、それによってもきょう示されている法技術的論点についての検討の幅というのが違う気がするので、そこのところを事務局のほうはどうお考えかをお聞かせいただければと思います。よろしくお願いいたします。

○大塚労働関係法課調査官
 まず、事務局といたしましては、資料5の9ページの例3方式でございますけれども、労働契約の終了の部分を法律に書き込むのかというふうに思っております。垣内先生からは別途専門的な御知見をいただくとして、基本的には例3方式は労働契約解消金の支払いを求める給付訴訟一本でということを考えてございます。
 いずれにしても、例3方式の場合には労働契約解消金という新たな請求の仕組みを何らかの実体法に設けるということですけれども、第1の有力候補としては労働契約法なのかと考えております。
 その他の裁判上の手続等に関してほかの法律にはねるかどうかは、仕組み方次第という面もございますので、先生方の議論を踏まえつつ、今後検討していくのかと考えております。

○岩村座長
 ありがとうございます。
 既判力の点は、垣内先生はいかがでしょう。

○垣内委員
 どういう権利を構想するかということにもよるかと思いますけれども、従来例3の構成を考えてきたときには、解消金の支払請求権という金銭請求権が一定の要件のもとで発生する。それが意思表示なしに解雇無効時に発生しているのか、それとも形成権的に労働者の側で行使する面の意思行使をすることが発生の原因になるのかというのは両説あるということですけれども、いずれにしても最終的に請求する段階では、金銭支払請求権ですので、一般の給付訴訟として訴えが提起され、したがってその判決の既判力は当該請求権が基準時において存在したかどうかというところに発生することになり、解雇の無効が認められる事案であったかどうかという点については、判決理由中の判断ということになりますので、特段の措置を講じなければ、これは既判力の対象にはならないというのが現在の一般的な考え方からの帰結になるかと思います。

○岩村座長
 ありがとうございます。
 なぜそこをお伺いしたかというと、解消金の支払請求を労働者の側がしていて、労働者が勝ったところ、使用者が金を払うのは嫌だといって、資 料の途中にもありましたが、雇用関係不存在確認の訴えを起こす可能性、つまり判決そのものが気に食わない、解雇無効という判断自体がそもそもおかしい、しかしそこに既判力が働いていないと、使用者側としては逆に今度は雇用関係不存在の訴えを起こせるということになりかねなくて、紛争の一回的解決という観点からすると問題があるという気がしたので、その辺ところは検討会の検討はどうだったのかというのをお伺いしたかったところです。
 では、垣内委員。

○垣内委員
 今、座長のおっしゃったような事例を特に想定しての議論というのは、私の記憶ではなかったように思います。ただ、解雇無効確認請求との関係については問題意識が前の検討会でもありまして、併合提起することも可能だということですし、もし使用者のほうで雇用関係が不存在という確認を求めるということであれば、これは反訴でやるということも排除されないということではないかと思います。
 したがって、労働者のほうで、後でそういった形でも紛争の蒸し返しがされるおそれがあるということであれば、無効確認請求についても併合提起するという対応策はあるということは前提にされていたのかなと思います。

○岩村座長
 行政訴訟なんかだと、申請に対する処分についての義務付け訴訟はその処分の取消訴訟と併合して提起しなければいけないという形で手続をつくっている例もあるので、もしかすると金銭の支払請求と地位の確認訴訟は併合してやれという選択肢もあるのかということも関係するのかとは思いました。
 では、神吉委員、どうぞ。

○神吉委員
 裁判上は併合しうることに加えて、実体法上の解消金の請求の要件を解雇が無効になる場合とほぼ同じにしておくことで、実際上、別訴を提起しても無効になるだろうという予測が前提となっていると思います。
 実体法上に解消金の請求権を置くやり方として、例えば労働契約法第16条の2などとして、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、これこれの解消金を請求する権利があるというふうな形で書くことがありえますが、そうすると、要件が満たされる状況は、事実上重なるということかと理解しています。
 ただ、仮に同じ要件を設定するとしても、解雇が無効かそうでないかという判断と、金銭請求を認めうるか否かの判断、つまり割合的に増額・減額で調整できる結論を導ける話とでは、実は前提となる要件の充足も違ってこないかという懸念があります。例えば普通解雇などだと労働者の寄与割合もあると思うのですが、例えば使用者側に非が6、労働者側に4あるような場合に、解雇が無効かどうかというオールオアナッシングの判断だと、無効とまでは言いづらいところを、金銭解決であれば、かなり減殺するような形で労働者側に金銭請求権を認めてもいいという判断となるなど、前提となる客観的合理的な理由や社会通念上の相当性の充足の判断も、実は変わってくる可能性があるのではないかと考えていました。

○岩村座長
 その点は、検討会では何か議論はありましたでしょうか。先ほどの話だと、実体法上の要件として、解雇が濫用で無効であるということを書くということになると、今のような神吉先生の考え方は出てこない可能性があると思ったのですが、その点は議論ではいかがだったのでしょうか。

○大塚労働関係法課調査官
 先の検討会の場では、解雇の要件として第16条と同じような規定ぶりというのを前提には議論したのですけれども、神吉先生御指摘のように地位確認を求める場合と一定の金銭の支払いを求める場合とで判断が変わってくるのかどうかといったような議論が行われた記憶は特にございませんので、今、御指摘のような場合が起きたときにどうなるのかというふうに思うのですけれども、先生方の専門的な御知見をいただければ幸いに存じます。

○岩村座長
 直感的には解雇のいろいろな事情も考慮してというところまで入れる可能性というのはあるけれども、それを入れると予見可能性は非常に下がってしまうことにはなる気はします。とりわけ金額についての予見可能性は下がる可能性はあるだろうという気はします。
 さっきの事務局への質問の確認ですけれども、金銭の支払請求権というのを書いて、条文上も金銭の支払いがあったときには労働契約が終了するという効果までそこで書いてしまうという発想ですね。

○大塚労働関係法課調査官
 そのとおりです。

○岩村座長
 ありがとうございました。
 中窪委員、どうぞ。

○中窪座長代理
 その実体法上の権利を書かないとなかなかうまく制度ができないというのは、確かにそうかなと思います。ただ、もう1つには、本日の資料5でいうと9ページの例3の概念図がありますけれども、これを裁判外で使用者が支払ったことによって終了という形でいくルートというのは、必ずないといけないものなのかなと思いました。使用者がこれの金を払ったつもりでやっても、労働者の側は違うものとして理解し、例えば損害賠償として払ったので解消金とは思わなかったとか、いろいろな紛争が出てきて、結局、トラブルになりやすい気がします。これについては裁判を通じてしか行使できないというふうに、付加金みたいな感じの制度をつくるということも考えられるし、そのほうがすっきりするような気もするのですけれども、そのあたりの議論はあったのでしょうか。

○岩村座長
 事務局、お願いします。

○大塚労働関係法課調査官
 今、中窪先生御指摘のような議論はございました。一般的に形成権的な構成にするにせよ、請求権的な構成にするにせよ、実体法に新たな権利を設けた場合には、これは普通、裁判上外問わず行使し得るものなのかとは思うのですけれども、他方で、中窪先生御指摘のような問題意識のもと、行使を裁判上の手続に限定すべきだといったような御意見も一定程度はございました。ただ、裁判上の仕組みに限定すべきというような結論にもなっておりませんので、そういった観点も含めて先生方の御議論をいただければと思っております。

○岩村座長
 ありがとうございます。よろしいでしょうか。
 ほかにはいかがでございましょう。きょうのところはこのあたりでよろしいでしょうか。
 ありがとうございます。それでは、きょうの議論はここまでということにさせていただきたいと思います。
 そうしますと、次回の日程ということになりますけれども、それにつきましては事務局のほうからお願いをいたします。

○労働関係法課猪俣課長補佐
 次回の日程につきましては、9月ごろを目途に調整中でございます。確定次第、開催場所とあわせまして追って御連絡させていただきます。

○岩村座長
 ありがとうございます。
 それでは、これをもちまして第1回「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」を終了させていただきたいと思います。
 本日は、お忙しい中を御参集いただきまして、まことにありがとうございました。


 

照会先

 

労働基準局労働関係法課

(代表電話) 03(5253)1111 (内線5370、5536)

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