年金[年金制度の仕組みと考え方]
第6 平成16年改正年金財政フレームと財政検証
1.平成16年改正で導入された年金財政の枠組み
平成16(2004)年改正では、国民年金及び厚生年金の年金財政の枠組みにおいて、自動的に給付と負担のバランスを図る仕組みが導入された。具体的には、将来の現役世代の過重な負担を回避するという観点から、保険料水準の上限を固定した上で、積立金の活用を含め、その固定された財源の範囲内で長期的な給付と負担の均衡を図ることとし、将来に向けて給付水準を自動的に調整する仕組みとなっている。
この枠組みの下で、将来に向けてどの程度給付水準を調整する必要があるかは、
・高齢化や少子化がどの程度まで進行するか
・女性や高齢者の労働市場への参加により、年金制度の支え手がどの程度増加するか
・経済成長がどの程度達成され、賃金の伸びや積立金の運用収入がどの程度見込まれるか
等、現在及び将来の人口や経済の動向に左右される。このため、年金の財政状況を定期的に確認することを目的に、少なくとも5年ごとに、概ね100年という長期の財政収支の見通し、マクロ経済スライドの開始及び終了年度の見通し並びに給付水準の見通しを作成して、財政状況を検証する(財政検証)。
財政検証においては、将来の人口や経済について、その時々の最新のデータを用いて諸前提を設定し直した上で、現実の新たな出発点から概ね100年間の見通しを作成する。また、幅のある複数の前提を設定し、将来の人口や経済の姿に応じて年金の財政状況を検証し、将来の給付水準等がどのようになるかを示している。

(1)保険料(率)水準の固定
平成16(2004)年改正により、保険料(率)水準の引上げスケジュールと上限を法律で定め、その財源の範囲内で給付を行う制度となった。
これは、急速に進展する少子高齢化に対応するために負担の上昇が避けられない中、若年層を中心として、負担がどこまでも上昇してしまうのではないかとの不安が大きいことから、将来にわたっての保険料(率)水準を法律に明記し固定したものである。
(2)基礎年金国庫負担割合の引上げ
基礎年金国庫負担割合の2分の1への引上げについては、平成16(2004)年改正において道筋が法律上明記され、法律の本則上(国民年金法第85条)では基礎年金の国庫負担割合を2分の1とした。2012年に社会保障・税一体改革による消費税率の引上げを含む関連法案が成立したことにより、恒久財源が確保され、国庫負担割合の引上げが完成した。[1]
(3)積立金の在り方と年金財政の均衡期間
平成16(2004)年改正以前に行われていた財政再計算では、将来にわたる全ての期間を考慮に入れて財政の均衡を考える方式(永久均衡方式)を採っていた。この方式においては、予想が極めて困難な遠い将来までを考慮し、巨額の積立金を保有し続ける必要があった。
そこで、現在すでに生まれている世代が年金の受給を終えるまでの概ね100年間を財政均衡期間に設定した上で、当該期間において年金財政の均衡を図る方式(有限均衡方式)とし、積立金についても、当該期間においてその運用収益と元本を活用することとした。[2]
(4)給付と負担の均衡を図る仕組み ~マクロ経済スライドの導入
保険料水準を固定した上で、国庫負担割合や積立金の活用方法が決定したことにより、年金給付はこの固定した財源の範囲で行われることとなった。この前提で、若い世代やこれからの世代に将来にわたる給付を確保するためには、足下の給付水準を調整する必要がある。この仕組みが、年金の賃金スライドや物価スライドによる伸びの範囲内で年金額の伸びを抑えるマクロ経済スライドである。
給付水準調整の終了時期は、5年ごとに行われる財政検証において判断されることになるが、今後の社会経済状況の変動に応じて給付水準調整の終了時期を変動させることにより、自動的に年金財政の均衡が図られる仕組みが組み込まれたことになる。
(5)給付水準の下限
給付水準の自動調整の仕組みを取り入れたものの、公的年金の役割を考えた場合、給付水準が際限なく下がっていくことは問題である。そこで、一定の給付水準を確保するため、「モデル年金の所得代替率」を給付水準の尺度として用いて、給付水準の下限を所得代替率50%と定めた。
「モデル年金」とは、夫が平均賃金で40年間働いたサラリーマン、妻が40年間第3号被保険者である場合における世帯の年金を指し、「所得代替率」とは、年金受給開始時点(65歳)における、現役世代の平均手取り収入額(ボーナス込み)に対するモデル年金額の比率のことをいう。
2024年度時点における所得代替率は61.2%となっているが[3]、この水準はマクロ経済スライドによる自動調整により低下していく。後に見るように、令和6年財政検証においては、人口推計が中位推計で、1人当たり成⾧率をゼロと見込んだケースを除き、将来にわたって所得代替率50%の給付水準を確保し、概ね100年間における財政の均衡を確保できる見通しとなっている。
しかし、より一層少子化が進行するなど、社会・経済情勢が想定以上に悪化するような場合には、給付水準調整を行い続けると所得代替率が50%を下回る見込みとなることもあり得る。財政検証において所得代替率が今後5年間に50%を下回る見込みとなった場合には、平成16(2004)年改正法附則の規定に基づき、給付水準調整の終了について検討を行い、その結果に基づいて調整期間の終了その他の措置を講ずることとされている。また、その際には、給付と負担の在り方についての検討を行い、所要の措置を講ずることとされている。
この枠組みの下で、将来に向けてどの程度給付水準を調整する必要があるかは、
・高齢化や少子化がどの程度まで進行するか
・女性や高齢者の労働市場への参加により、年金制度の支え手がどの程度増加するか
・経済成長がどの程度達成され、賃金の伸びや積立金の運用収入がどの程度見込まれるか
等、現在及び将来の人口や経済の動向に左右される。このため、年金の財政状況を定期的に確認することを目的に、少なくとも5年ごとに、概ね100年という長期の財政収支の見通し、マクロ経済スライドの開始及び終了年度の見通し並びに給付水準の見通しを作成して、財政状況を検証する(財政検証)。
財政検証においては、将来の人口や経済について、その時々の最新のデータを用いて諸前提を設定し直した上で、現実の新たな出発点から概ね100年間の見通しを作成する。また、幅のある複数の前提を設定し、将来の人口や経済の姿に応じて年金の財政状況を検証し、将来の給付水準等がどのようになるかを示している。

(1)保険料(率)水準の固定
平成16(2004)年改正により、保険料(率)水準の引上げスケジュールと上限を法律で定め、その財源の範囲内で給付を行う制度となった。
これは、急速に進展する少子高齢化に対応するために負担の上昇が避けられない中、若年層を中心として、負担がどこまでも上昇してしまうのではないかとの不安が大きいことから、将来にわたっての保険料(率)水準を法律に明記し固定したものである。
(2)基礎年金国庫負担割合の引上げ
基礎年金国庫負担割合の2分の1への引上げについては、平成16(2004)年改正において道筋が法律上明記され、法律の本則上(国民年金法第85条)では基礎年金の国庫負担割合を2分の1とした。2012年に社会保障・税一体改革による消費税率の引上げを含む関連法案が成立したことにより、恒久財源が確保され、国庫負担割合の引上げが完成した。[1]
(3)積立金の在り方と年金財政の均衡期間
平成16(2004)年改正以前に行われていた財政再計算では、将来にわたる全ての期間を考慮に入れて財政の均衡を考える方式(永久均衡方式)を採っていた。この方式においては、予想が極めて困難な遠い将来までを考慮し、巨額の積立金を保有し続ける必要があった。
そこで、現在すでに生まれている世代が年金の受給を終えるまでの概ね100年間を財政均衡期間に設定した上で、当該期間において年金財政の均衡を図る方式(有限均衡方式)とし、積立金についても、当該期間においてその運用収益と元本を活用することとした。[2]
(4)給付と負担の均衡を図る仕組み ~マクロ経済スライドの導入
保険料水準を固定した上で、国庫負担割合や積立金の活用方法が決定したことにより、年金給付はこの固定した財源の範囲で行われることとなった。この前提で、若い世代やこれからの世代に将来にわたる給付を確保するためには、足下の給付水準を調整する必要がある。この仕組みが、年金の賃金スライドや物価スライドによる伸びの範囲内で年金額の伸びを抑えるマクロ経済スライドである。
給付水準調整の終了時期は、5年ごとに行われる財政検証において判断されることになるが、今後の社会経済状況の変動に応じて給付水準調整の終了時期を変動させることにより、自動的に年金財政の均衡が図られる仕組みが組み込まれたことになる。
(5)給付水準の下限
給付水準の自動調整の仕組みを取り入れたものの、公的年金の役割を考えた場合、給付水準が際限なく下がっていくことは問題である。そこで、一定の給付水準を確保するため、「モデル年金の所得代替率」を給付水準の尺度として用いて、給付水準の下限を所得代替率50%と定めた。
「モデル年金」とは、夫が平均賃金で40年間働いたサラリーマン、妻が40年間第3号被保険者である場合における世帯の年金を指し、「所得代替率」とは、年金受給開始時点(65歳)における、現役世代の平均手取り収入額(ボーナス込み)に対するモデル年金額の比率のことをいう。
2024年度時点における所得代替率は61.2%となっているが[3]、この水準はマクロ経済スライドによる自動調整により低下していく。後に見るように、令和6年財政検証においては、人口推計が中位推計で、1人当たり成⾧率をゼロと見込んだケースを除き、将来にわたって所得代替率50%の給付水準を確保し、概ね100年間における財政の均衡を確保できる見通しとなっている。
しかし、より一層少子化が進行するなど、社会・経済情勢が想定以上に悪化するような場合には、給付水準調整を行い続けると所得代替率が50%を下回る見込みとなることもあり得る。財政検証において所得代替率が今後5年間に50%を下回る見込みとなった場合には、平成16(2004)年改正法附則の規定に基づき、給付水準調整の終了について検討を行い、その結果に基づいて調整期間の終了その他の措置を講ずることとされている。また、その際には、給付と負担の在り方についての検討を行い、所要の措置を講ずることとされている。
2.マクロ経済スライドの仕組みと意義
(1)給付水準調整期間中のマクロ経済スライドの仕組み
マクロ経済スライドによる給付水準の調整は、財政の均衡が図られるまでの一定期間(給付水準調整期間)、毎年の年金の改定率を抑制することにより行う。
給付水準調整では、現役世代の減少と高齢者の年金受給期間の増加という2つの観点からスライド調整率を設定し、毎年の改定率を抑制する。[4]
給付水準調整期間中の年金の改定率は、新規裁定年金(67歳に達する日の属する年度までの年金。以下同じ。)の水準については、本来の賃金(可処分所得)による改定率からスライド調整率を減じたものになり、既裁定年金(68歳に達する日の属する年度以降の年金)は本来の物価による改定からスライド調整率を減じたものとなる。
(2)名目下限措置とキャリーオーバー
マクロ経済スライドによる給付水準調整は、賃金や物価が上昇し、それに応じて年金額が増額改定されるときに、その改定率を抑制することにより行う。
したがって、賃金水準や物価水準が低下した場合には、賃金や物価に応じた年金の減額改定は行うが、マクロ経済スライドによる給付水準調整は行わない。
また、賃金水準や物価水準が上昇した場合でも、機械的にスライド調整率をそのまま減ずると年金の改定率がマイナスとなる場合には、年金の名目額を引き下げてまでスライド調整率を減ずることはしない(名目額を維持するところまでのスライド調整率を減ずる)。
なお、2016年の制度改正により、マクロ経済スライドの仕組みは、名目下限措置を維持しつつ、賃金・物価上昇の範囲内で前年度までの未調整分を調整する仕組み(キャリーオーバー)に見直され、2018年4月から導入された。

(3)マクロ経済スライドの早期実施と将来世代の給付水準の確保
既に述べたとおり、マクロ経済スライドによる給付水準の調整は、財政の均衡が図られるまでの一定期間(給付水準調整期間)、毎年の年金の改定率を抑制することにより行うものである。マクロ経済スライドは、平成16(2004)年改正による導入以降、デフレの影響により、これまで発動が不十分であったため、こうした状況が続くと、足下の所得代替率の調整が進まず、財政均衡までに要する期間が長期化することにより、将来世代の年金水準が低下することになる。
上記(2)で述べたキャリーオーバーの仕組みも通じて、マクロ経済スライドの早期実施を図り、給付水準調整の措置を早期に終了させることが、将来世代の年金水準の確保のために求められる。
マクロ経済スライドによる給付水準の調整は、財政の均衡が図られるまでの一定期間(給付水準調整期間)、毎年の年金の改定率を抑制することにより行う。
給付水準調整では、現役世代の減少と高齢者の年金受給期間の増加という2つの観点からスライド調整率を設定し、毎年の改定率を抑制する。[4]
| スライド調整率 = 公的年金の全被保険者数の減少率の実績(2~4年度前の3年平均) +平均余命の伸び率を勘案して設定した一定率(0.3%) (注)全被保険者数が増大することによりスライド調整率がマイナスとなる場合は、スライド調整率を0%とする。マクロ経済スライドにより、物価・賃金の伸びよりさらに増額することはしない。 |
給付水準調整期間中の年金の改定率は、新規裁定年金(67歳に達する日の属する年度までの年金。以下同じ。)の水準については、本来の賃金(可処分所得)による改定率からスライド調整率を減じたものになり、既裁定年金(68歳に達する日の属する年度以降の年金)は本来の物価による改定からスライド調整率を減じたものとなる。
(2)名目下限措置とキャリーオーバー
マクロ経済スライドによる給付水準調整は、賃金や物価が上昇し、それに応じて年金額が増額改定されるときに、その改定率を抑制することにより行う。
したがって、賃金水準や物価水準が低下した場合には、賃金や物価に応じた年金の減額改定は行うが、マクロ経済スライドによる給付水準調整は行わない。
また、賃金水準や物価水準が上昇した場合でも、機械的にスライド調整率をそのまま減ずると年金の改定率がマイナスとなる場合には、年金の名目額を引き下げてまでスライド調整率を減ずることはしない(名目額を維持するところまでのスライド調整率を減ずる)。
なお、2016年の制度改正により、マクロ経済スライドの仕組みは、名目下限措置を維持しつつ、賃金・物価上昇の範囲内で前年度までの未調整分を調整する仕組み(キャリーオーバー)に見直され、2018年4月から導入された。

(3)マクロ経済スライドの早期実施と将来世代の給付水準の確保
既に述べたとおり、マクロ経済スライドによる給付水準の調整は、財政の均衡が図られるまでの一定期間(給付水準調整期間)、毎年の年金の改定率を抑制することにより行うものである。マクロ経済スライドは、平成16(2004)年改正による導入以降、デフレの影響により、これまで発動が不十分であったため、こうした状況が続くと、足下の所得代替率の調整が進まず、財政均衡までに要する期間が長期化することにより、将来世代の年金水準が低下することになる。
上記(2)で述べたキャリーオーバーの仕組みも通じて、マクロ経済スライドの早期実施を図り、給付水準調整の措置を早期に終了させることが、将来世代の年金水準の確保のために求められる。
3.令和6年財政検証の結果
2024年に実施・公表された財政検証においては、経済の前提について幅の広い4ケースを設定し、将来の経済の状況に応じて、将来の年金の姿がどのようになるかを試算した。

(1)財政検証の前提
財政検証は、概ね100年間にわたる長期の年金財政の状況を見通すものであり、将来の社会・経済状況について一定の前提を置く必要がある。
しかしながら、将来は不確実であることから、財政検証において特に重要な前提(人口、労働力、経済)については、専門家の議論も踏まえ、幅を持った複数ケースを設定している。
① 将来推計人口の前提
国立社会保障・人口問題研究所が2023年4月に公表した「日本の将来推計人口」を用い、前回の財政検証と同様に、合計特殊出生率及び死亡率について、中位・高位・低位の3通りを設定している。また、今回の財政検証においては、近年その水準が大きくなっている外国人の入国超過数についても幅を持って3通りのケースを設定している。
② 労働力率の前提
独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が2024年3月に公表した「労働力需給の推計」を用いている。この推計では、経済成長や労働参加について3つのシナリオが設定されている。
「成長実現・労働参加進展シナリオ」は、各種の経済・雇用政策を講ずることにより、成長分野の市場拡大が進み、経済成長と女性及び高齢者等の労働市場への参加が進展するシナリオである。内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(2024年1月)(以下「中長期試算」という。)の「成長実現ケース」を踏まえ、実質2%程度の経済成長を見込んでいる。女性や高齢者の労働参加が大きく進み、労働力率や就業率は、2040年に向けて、女性の20歳台~50歳台で90%前後、男性の60歳台で80%以上まで上昇する見通しとなっている。
「成長率ベースライン・労働参加漸進シナリオ」は、各種の経済・雇用政策をある程度講ずることにより、経済成長と女性及び高齢者等の労働市場への参加が一定程度進むシナリオである。中長期試算の「ベースラインケース」を踏まえ、今後10年間で実質経済成長率は0.4%程度まで緩やかに低下することを見込んでいる。各種の政策効果について、「成長実現・労働参加進展シナリオ」の半分程度の影響を見込むシナリオである。
「一人当たりゼロ成長・労働参加現状シナリオ」は、人口一人当たりの実質経済成長率がゼロ(国内経済全体ではマイナス)となる経済状況を想定し、労働参加が現状(2022年)から進まないシナリオである。
③ 経済前提
経済前提の設定にあたっては、設定プロセスの透明性を確保する観点から、年金部会の下に経済・金融の専門家で構成された「年金財政における経済前提に関する専門委員会」を設置し、議論が行われた。検討結果の報告(2024年4月12日)に基づき、幅広い4ケースの前提を設定している。
2033年度以前の経済前提は、中長期試算における「成長実現ケース」、「参考ケース」、「ベースラインケース」にそれぞれ準拠して設定している。
「成長実現ケース」は、全要素生産性(TFP)上昇率がデフレ状況に入る前の期間の平均(1.4%程度)まで高まるシナリオであり、実質経済成長率は中長期的に2%程度で推移する姿となっている。
「参考ケース」は、全要素生産性(TFP)上昇率を過去40年の平均(1.1%程度)とした場合のシナリオであり、実質経済成長率は2020年代後半に1%台半ば程度に到達する姿となっている。
「ベースラインケース」は、全要素生産性(TFP)上昇率が直近の景気循環の平均並み(0.5%程度)で将来にわたって推移するシナリオであり、実質経済成長率は中長期的に0%台半ばで推移する姿となっている。
2034年度以降の長期の経済前提は、専門委員会における検討結果の報告に基づき、幅の広い4ケースの前提が設定された。
このうち、高成長実現ケースは中長期試算における成長実現ケース、成長型経済移行・継続ケースは参考ケース、過去30年投影ケース及び1人当たりゼロ成長ケースはベースラインケースにそれぞれ接続するものとして設定されている。
これらのケースにおいての実質経済成長率は、2034年度以降30年間の平均で1.6%~▲0.7%と幅広いものとなっている。

(2)令和6年財政検証の結果の概要
① 所得代替率の見通し
財政検証において、人口が中位推計で推移した場合に、幅広く設定した経済前提に応じたマクロ経済スライドの終了年度及び終了後の所得代替率の見通しを算出した。
マクロ経済スライドによる給付水準調整終了後の所得代替率をみると、経済成長の高い方から2つのケースである高成長実現ケース、成長型経済移行・継続ケースについてはそれぞれ56.9%、57.6%となっており、50%を大きく上回っている。また、過去30年投影ケースにおいても50.4%と、将来にわたり50%を上回る水準となっている。
一方、1人当たりゼロ成長ケースでは、2059年度に国民年金の積立金がなくなり完全賦課方式に移行せざるを得なくなる見通しとなっている。その後、保険料と国庫負担だけで賄うことのできる水準は37%~33%程度である。
なお、平成16(2004)年改正法附則の規定では、「次の財政の現況及び見通しが作成されるまでの間に所得代替率が50%を下回ると見込まれる場合には、給付水準調整の終了その他の措置を講ずるとともに、給付及び費用負担の在り方について検討を行い、所要の措置を講ずること」とされているが、今回の財政検証においては、5年後の2029年度の所得代替率の見通しは60.3~59.4%となっており、50%を下回る見込みとはなっていないため、この規定に該当するものではない[5]。
また、どのケースでも報酬比例年金に比べて基礎年金の調整期間が長く、基礎年金の水準低下が大きい。例えば、成長型経済移行・継続ケースでは、報酬比例部分のマクロ経済スライドによる調整は2025年度以降不要となる一方、基礎年金は2037年度まで調整が続き、基礎年金のみの調整が13年間続く見通しとなっている。過去30年投影ケースにおいても、報酬比例部分のマクロ経済スライドによる調整は2026年度に終了する一方、基礎年金は2057年度まで調整が続き、基礎年金のみの調整が31年間続く見通しとなっている。
こうした基礎年金の調整期間の長期化は、前回の財政検証においても確認されていた結果であり、引き続き基礎年金の水準低下が課題となっている。

② 年金額の将来見通し
所得代替率は、現役世代の手取り賃金に対する年金の相対的な水準を示すものであるため、所得代替率が同じ場合でも、現役世代の手取り賃金の実質価値が上昇すると、それに伴い年金の実質価値も上昇し、年金による購買力は増加する。
そこで、新規裁定時の年金額について、購買力でみた実質額の将来見通しを示した。[6]
成長型経済移行・継続ケースでは、実質賃金上昇率が1.5%と高いため、実質賃金の上昇に伴い、年金の実質額も上昇している。内訳をみると、報酬比例部分はマクロ経済スライドによる給付水準調整が不要であるため、実質賃金の伸びと等しく伸びている。一方、基礎年金はマクロ経済スライドによる給付水準調整が2037年度まで続くため、この期間における伸びは実質賃金より抑えられるが、足下で13.4万円(夫婦2人分)である基礎年金の実質額は調整が終了する2037年度には13.6万円に増加する見通しである。
過去30年投影ケースでは、実質賃金上昇率が0.5%と低いため、給付水準調整期間中は、年金の実質額は低下する見通しとなっている。報酬比例部分は給付水準調整が2026年度に終了するため、その後、実質賃金の伸びと等しく上昇する見通しであるが、基礎年金は調整が終了する2057年度には、夫婦2人で10.7万円、1人当たり5.3万円まで低下する見通しとなっている。このケースでは、賃金に対する相対的な水準を示す所得代替率が低下するだけでなく、購買力を示す実質額でみても基礎年金は低下しており、実質年金額でみても基礎年金の水準低下が課題であることが確認されている。

(3)年金額の分布推計
今回の財政検証では、個人単位で年金額を推計する「年金額の分布推計」(以下「分布推計」という。)を初めて公表し、65歳の受給開始時点の年金額について、世代により平均や分布がどのように変化していくかを示した。
前回までの財政検証では、「モデル年金」をベースとして将来の年金の給付水準を試算してきたが、モデル年金では、厚生年金への加入期間がどの世代でも同じ(夫は40年、妻は0年)と仮定されているため、女性や高齢者の労働参加の進展による将来の年金水準への影響を十分に確認することは困難であった。
しかしながら、近年、女性や高齢者の労働参加は大きく進展しており、厚生年金の被保険者数は増加を続けている。これを踏まえた分布推計の結果、若い世代ほど厚生年金の加入期間が伸び、年金が充実する傾向にあることや、特に女性においてその傾向が大きいことが確認された。
これはモデル年金をベースとした試算では確認できなかった効果であり、分布推計はこの効果を具体的な数値で初めて確認したものと言える。


(4)制度改正案を反映した試算結果
令和7年年金制度改正法案提出後に、被用者保険の適用拡大、在職老齢年金制度の見直し、遺族年金の見直し、標準報酬月額の上限見直し等の制度改正案の内容を反映した試算を行った[7]。
将来の所得代替率は、令和6年財政検証の結果と比べて、成長型経済移行・継続ケースで1.3%程度、過去30年投影ケースで1.4%程度、上昇する見通しとなっている[8]。


(1)財政検証の前提
財政検証は、概ね100年間にわたる長期の年金財政の状況を見通すものであり、将来の社会・経済状況について一定の前提を置く必要がある。
しかしながら、将来は不確実であることから、財政検証において特に重要な前提(人口、労働力、経済)については、専門家の議論も踏まえ、幅を持った複数ケースを設定している。
① 将来推計人口の前提
国立社会保障・人口問題研究所が2023年4月に公表した「日本の将来推計人口」を用い、前回の財政検証と同様に、合計特殊出生率及び死亡率について、中位・高位・低位の3通りを設定している。また、今回の財政検証においては、近年その水準が大きくなっている外国人の入国超過数についても幅を持って3通りのケースを設定している。
② 労働力率の前提
独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が2024年3月に公表した「労働力需給の推計」を用いている。この推計では、経済成長や労働参加について3つのシナリオが設定されている。
「成長実現・労働参加進展シナリオ」は、各種の経済・雇用政策を講ずることにより、成長分野の市場拡大が進み、経済成長と女性及び高齢者等の労働市場への参加が進展するシナリオである。内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(2024年1月)(以下「中長期試算」という。)の「成長実現ケース」を踏まえ、実質2%程度の経済成長を見込んでいる。女性や高齢者の労働参加が大きく進み、労働力率や就業率は、2040年に向けて、女性の20歳台~50歳台で90%前後、男性の60歳台で80%以上まで上昇する見通しとなっている。
「成長率ベースライン・労働参加漸進シナリオ」は、各種の経済・雇用政策をある程度講ずることにより、経済成長と女性及び高齢者等の労働市場への参加が一定程度進むシナリオである。中長期試算の「ベースラインケース」を踏まえ、今後10年間で実質経済成長率は0.4%程度まで緩やかに低下することを見込んでいる。各種の政策効果について、「成長実現・労働参加進展シナリオ」の半分程度の影響を見込むシナリオである。
「一人当たりゼロ成長・労働参加現状シナリオ」は、人口一人当たりの実質経済成長率がゼロ(国内経済全体ではマイナス)となる経済状況を想定し、労働参加が現状(2022年)から進まないシナリオである。
③ 経済前提
経済前提の設定にあたっては、設定プロセスの透明性を確保する観点から、年金部会の下に経済・金融の専門家で構成された「年金財政における経済前提に関する専門委員会」を設置し、議論が行われた。検討結果の報告(2024年4月12日)に基づき、幅広い4ケースの前提を設定している。
2033年度以前の経済前提は、中長期試算における「成長実現ケース」、「参考ケース」、「ベースラインケース」にそれぞれ準拠して設定している。
「成長実現ケース」は、全要素生産性(TFP)上昇率がデフレ状況に入る前の期間の平均(1.4%程度)まで高まるシナリオであり、実質経済成長率は中長期的に2%程度で推移する姿となっている。
「参考ケース」は、全要素生産性(TFP)上昇率を過去40年の平均(1.1%程度)とした場合のシナリオであり、実質経済成長率は2020年代後半に1%台半ば程度に到達する姿となっている。
「ベースラインケース」は、全要素生産性(TFP)上昇率が直近の景気循環の平均並み(0.5%程度)で将来にわたって推移するシナリオであり、実質経済成長率は中長期的に0%台半ばで推移する姿となっている。
2034年度以降の長期の経済前提は、専門委員会における検討結果の報告に基づき、幅の広い4ケースの前提が設定された。
このうち、高成長実現ケースは中長期試算における成長実現ケース、成長型経済移行・継続ケースは参考ケース、過去30年投影ケース及び1人当たりゼロ成長ケースはベースラインケースにそれぞれ接続するものとして設定されている。
これらのケースにおいての実質経済成長率は、2034年度以降30年間の平均で1.6%~▲0.7%と幅広いものとなっている。

(2)令和6年財政検証の結果の概要
① 所得代替率の見通し
財政検証において、人口が中位推計で推移した場合に、幅広く設定した経済前提に応じたマクロ経済スライドの終了年度及び終了後の所得代替率の見通しを算出した。
マクロ経済スライドによる給付水準調整終了後の所得代替率をみると、経済成長の高い方から2つのケースである高成長実現ケース、成長型経済移行・継続ケースについてはそれぞれ56.9%、57.6%となっており、50%を大きく上回っている。また、過去30年投影ケースにおいても50.4%と、将来にわたり50%を上回る水準となっている。
一方、1人当たりゼロ成長ケースでは、2059年度に国民年金の積立金がなくなり完全賦課方式に移行せざるを得なくなる見通しとなっている。その後、保険料と国庫負担だけで賄うことのできる水準は37%~33%程度である。
なお、平成16(2004)年改正法附則の規定では、「次の財政の現況及び見通しが作成されるまでの間に所得代替率が50%を下回ると見込まれる場合には、給付水準調整の終了その他の措置を講ずるとともに、給付及び費用負担の在り方について検討を行い、所要の措置を講ずること」とされているが、今回の財政検証においては、5年後の2029年度の所得代替率の見通しは60.3~59.4%となっており、50%を下回る見込みとはなっていないため、この規定に該当するものではない[5]。
また、どのケースでも報酬比例年金に比べて基礎年金の調整期間が長く、基礎年金の水準低下が大きい。例えば、成長型経済移行・継続ケースでは、報酬比例部分のマクロ経済スライドによる調整は2025年度以降不要となる一方、基礎年金は2037年度まで調整が続き、基礎年金のみの調整が13年間続く見通しとなっている。過去30年投影ケースにおいても、報酬比例部分のマクロ経済スライドによる調整は2026年度に終了する一方、基礎年金は2057年度まで調整が続き、基礎年金のみの調整が31年間続く見通しとなっている。
こうした基礎年金の調整期間の長期化は、前回の財政検証においても確認されていた結果であり、引き続き基礎年金の水準低下が課題となっている。

② 年金額の将来見通し
所得代替率は、現役世代の手取り賃金に対する年金の相対的な水準を示すものであるため、所得代替率が同じ場合でも、現役世代の手取り賃金の実質価値が上昇すると、それに伴い年金の実質価値も上昇し、年金による購買力は増加する。
そこで、新規裁定時の年金額について、購買力でみた実質額の将来見通しを示した。[6]
成長型経済移行・継続ケースでは、実質賃金上昇率が1.5%と高いため、実質賃金の上昇に伴い、年金の実質額も上昇している。内訳をみると、報酬比例部分はマクロ経済スライドによる給付水準調整が不要であるため、実質賃金の伸びと等しく伸びている。一方、基礎年金はマクロ経済スライドによる給付水準調整が2037年度まで続くため、この期間における伸びは実質賃金より抑えられるが、足下で13.4万円(夫婦2人分)である基礎年金の実質額は調整が終了する2037年度には13.6万円に増加する見通しである。
過去30年投影ケースでは、実質賃金上昇率が0.5%と低いため、給付水準調整期間中は、年金の実質額は低下する見通しとなっている。報酬比例部分は給付水準調整が2026年度に終了するため、その後、実質賃金の伸びと等しく上昇する見通しであるが、基礎年金は調整が終了する2057年度には、夫婦2人で10.7万円、1人当たり5.3万円まで低下する見通しとなっている。このケースでは、賃金に対する相対的な水準を示す所得代替率が低下するだけでなく、購買力を示す実質額でみても基礎年金は低下しており、実質年金額でみても基礎年金の水準低下が課題であることが確認されている。

(3)年金額の分布推計
今回の財政検証では、個人単位で年金額を推計する「年金額の分布推計」(以下「分布推計」という。)を初めて公表し、65歳の受給開始時点の年金額について、世代により平均や分布がどのように変化していくかを示した。
前回までの財政検証では、「モデル年金」をベースとして将来の年金の給付水準を試算してきたが、モデル年金では、厚生年金への加入期間がどの世代でも同じ(夫は40年、妻は0年)と仮定されているため、女性や高齢者の労働参加の進展による将来の年金水準への影響を十分に確認することは困難であった。
しかしながら、近年、女性や高齢者の労働参加は大きく進展しており、厚生年金の被保険者数は増加を続けている。これを踏まえた分布推計の結果、若い世代ほど厚生年金の加入期間が伸び、年金が充実する傾向にあることや、特に女性においてその傾向が大きいことが確認された。
これはモデル年金をベースとした試算では確認できなかった効果であり、分布推計はこの効果を具体的な数値で初めて確認したものと言える。


(4)制度改正案を反映した試算結果
令和7年年金制度改正法案提出後に、被用者保険の適用拡大、在職老齢年金制度の見直し、遺族年金の見直し、標準報酬月額の上限見直し等の制度改正案の内容を反映した試算を行った[7]。
将来の所得代替率は、令和6年財政検証の結果と比べて、成長型経済移行・継続ケースで1.3%程度、過去30年投影ケースで1.4%程度、上昇する見通しとなっている[8]。

【参考文献等】
・「令和6(2024)年財政検証結果レポート」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaiseikensyo/R6suuri_report.html
・「制度改正案を反映した試算結果」
https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/001550193.pdf
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaiseikensyo/R6suuri_report.html
・「制度改正案を反映した試算結果」
https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/001550193.pdf


