年金[年金制度の仕組みと考え方]
第2 公的年金制度の体系(被保険者、保険料)

1.年金制度の概要

 我が国の公的年金制度は、「国民皆年金」という特徴を持っており、①20歳以上の人が共通して加入する国民年金と、②会社員や公務員等が加入する厚生年金による、いわゆる「2階建て」と呼ばれる構造になっている。
 また、③公的年金と別に保険料を納め、公的年金に上乗せして給付を行う企業年金などは、いわば「3階部分」として、国民の自主的な努力によって高齢期の所得保障を充実させる役割を果たしている。
 自営業者など国民年金のみに加入している人は、毎月「定額」の保険料を自分で納め、会社員や公務員で厚生年金に加入している人は、毎月「定率」の保険料を会社などと折半で負担し、保険料は毎月の給料から支払われる。厚生年金の被扶養配偶者については、厚生年金制度全体で保険料を負担している。
 
 老後には、全ての人が老齢基礎年金を、厚生年金に加入していた人は、それに加えて、老齢厚生年金を受けることができる。また、老後だけでなく、障害を負ったときの障害年金や、家計の担い手が亡くなったときに残された家族に支給される遺族年金がある。
 
 
【公的年金の給付の種類】[1]
  基礎年金 厚生年金
老齢
 
老齢基礎年金
保険料を納めた期間などに応じた額
老齢厚生年金
加入期間や賃金に応じた額
障害 障害基礎年金
障害等級に応じた額
(子がいる場合には加算あり)
障害厚生年金
賃金や加入期間、障害等級に応じた額
 
遺族
 
遺族基礎年金
老齢基礎年金の満額に子の数に応じて加算した額
遺族厚生年金
亡くなった方の老齢厚生年金の3/4の額
 
図:年金制度の仕組み

図:公的年金制度とライフコース
[1] 公的年金の給付については、「第3 公的年金制度の体系(年金給付)」において詳述する。

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2.事業の管掌

 国民年金事業、厚生年金保険事業は、政府が管掌しており、事業に関する権限は、共済組合等が実施するものを除き、厚生労働大臣が有する。
 厚生労働大臣の権限に係る事務の多くは、日本年金機構に委託・委任されており、厚生労働大臣は年金機構の監督を行う。
 国民年金事業の事務の一部(第1号被保険者に係る申請の受理等)については、市町村長において実施している。
 また、厚生年金保険事業の事務は、被保険者の種別に応じて、厚生労働大臣(第1号厚生年金被保険者)、国家公務員共済組合・国家公務員共済組合連合会(第2号厚生年金被保険者)、地方公務員共済組合・全国市町村職員共済組合連合会・地方公務員共済組合連合会(第3号厚生年金被保険者)、日本私立学校振興・共済事業団(第4号厚生年金被保険者)が実施している。
 

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3.国民年金の被保険者

(1)第1号被保険者
 日本国内に住む20歳以上60歳未満の人は、全て国民年金の被保険者となる。
 このうち、自営業者、学生、厚生年金が適用されていない被用者、無職者など、後述の第2号被保険者や第3号被保険者とならない人は全て第1号被保険者として扱われる[2]
 
(2)第2号被保険者
 70歳未満の会社員、国・地方公共団体の公務員や私立学校の教職員は、厚生年金の被保険者となると同時に、国民年金の第2号被保険者として扱われる[3]
 
(3)第3号被保険者
 厚生年金の被保険者(第2号被保険者)に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者(夫又は妻)は、国民年金の第3号被保険者[4]となる。配偶者には事実上の婚姻関係にある人も含まれる。
 扶養の要件については、年収が130万円未満であり、かつ、配偶者の年収の2分の1未満であることとされている。
 
(4)任意加入被保険者
 上記(1)~(3)のいずれの種別にも属していない人のうち、
 ① 日本国内に住む60歳以上65歳未満の人
 ② 日本国籍を有し、日本国内に住所のない20歳以上65歳未満の人
等は、申出により、国民年金の任意加入被保険者となることができる。任意加入被保険者は、第1号被保険者と同じ保険料を支払うことで、年金を受け取るために必要な期間(受給資格期間(10年))を満たしたり、年金額を増やしたりすることができる。
 また、10年の受給資格期間を満たしていない場合には、更に70歳までの間、国民年金に任意加入することができる[5]
 
[2]  第1号被保険者の就業状況をみると、自営業主が16.5%、家族従業者が7.2%、常用雇用が8.9%、パート・アルバイト・臨時が31.4%、無職が34.2%となっている。また、第1号被保険者のうち学生の割合をみると、18.4%となっている。(2017 年国民年金被保険者実態調査)
[3]  ただし、65歳以上で老齢又は退職を支給事由とする年金給付の受給権を有する人は、厚生年金の被保険者になりうるが、国民年金の第2号被保険者にはならない。この他、「4.厚生年金の適用事業所、被保険者」を参照されたい。
[4]  第3号被保険者については、2020年4月より、①日本国内に住む人か、②日本国内に生活の基礎があると認められる人として一定の要件に該当する人に限定されている。
[5]  1965年4月1日以前に生まれた人など、一定の要件に該当することが必要となる。

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4.厚生年金の適用事業所、被保険者

(1)適用事業所
 厚生年金では、事業所単位で適用事業所となり、その事業所に使用される人は被保険者になる。適用事業所には、会社、工場、商店、船舶、官公庁などが含まれる。株式会社などの法人の事業所は、従業員が常時1名以上いれば適用事業所となる。また、従業員が常時5人以上いる個人の事業所も、法定業種[6]については適用事業所となる。
 上記以外の事業所においては、当然に適用事業所になるものではないが、労使合意により任意に適用事業所となることは可能である(任意包括適用)。
 
(2)厚生年金の被保険者
 適用事業所において使用されている人が厚生年金の被保険者となる。
 正社員や法人の代表者、役員等は被保険者になるほか、パートタイマー・アルバイト等でも、1週間の所定労働時間及び1か月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している正社員の4分の3以上である人は、被保険者になる。
 また、正社員の4分の3未満であっても、①週の所定労働時間が20時間以上であること、②月額賃金が8.8万円以上であること、③勤務期間が1年以上見込まれること、④学生ではないこと、⑤従業員数500人超の規模である企業に使用されていること、の5つの条件を満たす場合には、厚生年金に加入することになる。令和2(2020)年の制度改正により、③は2022年10月に撤廃、また、⑤は2022年10月に100人超規模、2024年10月に50人超規模に引き下げられることになっている[7]
 
[6]  法定業種とは、①物の製造、②土木・建設、③鉱物採掘、④電気、⑤運送、⑥貨物積卸、⑦焼却・清掃、⑧物の販売、⑨金融・保険、⑩保管・賃貸、⑪媒介周旋、⑫集金、⑬教育・研究、⑭医療、⑮通信・報道、⑯社会福祉の16業種をいう。なお、令和2年改正により、2022年10月から、弁護士・税理士・社会保険労務士等の法律・会計事務を取り扱う士業が適用業種に追加される。
[7]  詳しくは「第9 被用者保険の適用拡大」を参照。

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5.保険料

 国民年金・厚生年金の保険料額(率)は、平成16(2004)年の制度改正により、毎年段階的に引き上げられて既に上限に達している。具体的には、国民年金については月額17,000円(2004年度価格)、厚生年金は18.3%となっている[8]。なお、国民年金の実際の保険料額は、2004年度価格の額に、賦課される時点までの賃金上昇率(名目)を乗じて定められる。
 
(1)第1号被保険者
 自営業者、学生などの国民年金の第1号被保険者は、毎月一定額の保険料を自分で納める。
 被保険者である世帯主は、その世帯に属する被保険者の保険料について、また、配偶者の一方は被保険者である他方の配偶者の保険料について、それぞれ連帯して納付する義務がある。
 
(2)第2号被保険者(厚生年金の被保険者)
 会社員など国民年金の第2号被保険者(厚生年金の被保険者)は、給与[9]や賞与に、定められた厚生年金保険料率(18.3%)で計算した額を事業主と折半で負担する。厚生年金の保険料は、事業主側に納める義務があり、事業主は従業員に支払う給与などから、本人負担分の保険料を天引き(源泉徴収)し、事業主負担分と合わせて納める。
 厚生年金の保険料を計算する際には、実際の給与や賞与を基に定める標準報酬月額(1等級(88,000円)~32等級(650,000円))や標準賞与額(賞与等の支給額から1,000円未満の端数を切り捨てた額。1回につき150万円が上限)を用いる。標準報酬月額は、原則として、4~6月の3か月の平均給与を基に毎年9月に改定する。
 
(3)第3号被保険者
 専業主婦(夫)などの国民年金の第3号被保険者は、自ら保険料を納める必要はなく、その費用は第3号被保険者の配偶者が加入する厚生年金から拠出される。
 なお、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)第78条の13において、「被扶養配偶者を有する被保険者が負担した保険料について、当該被扶養配偶者が共同して負担したものである」という基本的認識が示されている。

 
  国民年金 厚生年金 保険料
(2022年4月時点)
自営業者、学生など
(20歳以上60歳未満で下記以外の人)
第1号被保険者 16,590円(月額)
適用事業所に使用される会社員など(70歳未満) 第2号被保険者 厚生年金被保険者 月収の18.3%
(労使折半。本人負担は9.15%)
国家公務員(70歳未満)
地方公務員(70歳未満)
私立学校教職員(70歳未満) 月収の15.681%
(労使折半。本人負担は7.8405%)
被用者配偶者 第3号被保険者 保険料負担はない
(配偶者が加入する厚生年金が負担)
  
[8]  国民年金保険料の上限は、平成16年改正では16,900円(2004年度価格)だったが、第1号被保険者の産前産後期間について保険料を免除する制度が2019年4月に施行されたことに伴い、同月から17,000円(2004年度価格)に引き上げられた。なお、私立学校教職員の厚生年金保険料率は、今後、2027年度までかけて上限(18.3%)に達する。
[9] 基本給のほか残業手当や通勤手当などを含めた税引き前の給与をいう。

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6.保険料の免除・猶予、出産・子育て中の特例措置

(1)保険料の免除
 国民年金の第1号被保険者の中には、失業して所得がない人など経済的な理由で一時的に保険料を納められない人もいる。そのため、国民年金制度では各種の保険料免除・猶予の仕組みを設けている。
 
① 保険料の申請免除
 本人・世帯主・配偶者の前年所得が一定額以下の場合には、市区町村へ申請することにより、保険料の全額又は一部(3/4・半額・1/4)の納付が免除される。
 免除を受けるためには、免除すべき月の属する年の前年の所得が、扶養親族等の有無及び数に応じて、一定の額以下であることが必要である。
 免除の対象となる所得の基準は、個人住民税非課税基準に準拠しつつ、本人・世帯主・配偶者の前年所得に応じて段階的に設定している。具体的な基準は以下のとおり。
 
【免除の対象となる所得の基準(2022年度)】
  前年の所得が以下の計算式で計算した金額の範囲内であること
全額免除 (扶養親族等の数+1)× 35万円 + 32万円
3/4免除 88万円 + 扶養親族等控除額 + 社会保険料控除額等
半額免除 128万円 + 扶養親族等控除額 + 社会保険料控除額等
1/4免除 168万円 + 扶養親族等控除額 + 社会保険料控除額等
 
② 保険料の法定免除
 次のような事由に該当する人は、保険料全額の納付が免除される。これらに該当する場合でも、申出により保険料を納付することができる。
 ア.障害基礎年金の受給権者
 イ.生活保護法による生活扶助を受けている人
 ウ.ハンセン病療養所などに入所している人
 
③ 保険料免除の効果、追納
 保険料が免除された期間は、老齢年金の受給資格期間(10年)や障害・遺族年金の受給要件の算定に当たってはカウントされる。ただし、一部免除については、一部免除承認後の保険料を納付していることが必要となる。
 また、保険料が免除された期間に対応する老齢年金の額については、国庫負担分(と一部免除の場合には国民年金保険料の納付割合)に応じた額になる[10]
 免除された保険料は、10年以内であれば追納することができ、追納した場合は納めた期間として計算される。
 
(2)保険料の納付特例・納付猶予
 学生や、若年者で就職が困難であったり、失業中であったりするなどの理由で所得が低い人について、国民年金保険料の納付を猶予する制度もある。
 国民年金保険料の納付が猶予された期間は、受給資格期間には反映されるが、年金額の計算には反映されない。なお、猶予された保険料は、10年以内であれば追納が可能である。
 
① 学生納付特例制度
 学生(大学・大学院、短期大学、高等学校、高等専門学校、専修学校などに在学する人)で、本人の所得が一定額以下の場合に、在学中の保険料の納付が猶予される。
 学生納付特例期間については、保険料を追納しない限り老齢基礎年金額には反映されないが、老齢・障害・遺族基礎年金の支給要件にはカウントされる。
●所得の基準(申請者本人のみ)[2022年度]
128万円 + 扶養親族等控除額 + 社会保険料控除額等
 
② 納付猶予制度(2030年6月まで)
 50歳未満の第1号被保険者について、同居している世帯主の所得にかかわらず、本人と配偶者の所得が一定額以下の場合に、保険料の納付が猶予される。
 年金支給における猶予期間の扱いは、学生納付特例期間と同様である。
●所得の基準(申請者本人と配偶者)[2022年度]
(扶養親族等の数+1)× 35万円 + 32万円
  
国民年金保険料の免除等制度

 
国民年金保険料の免除期間に応じた年金額と給付金

(3)出産・子育てをしている場合の特例措置
 出産・子育てをする人を支援するために、産休期間中の人や育児休業を取得した人に対して、国民年金、厚生年金の保険料に関する特例措置を設けている。
 
① 産休期間中、産前産後期間中の特例
ア.産前産後の休業期間中の保険料免除
 産前産後の休業[11]について、休業を開始した月から終了した月(終了日の翌日の月)の前月までの厚生年金保険料が免除される。この期間は、保険料を納めた期間とみなされ、休業前の給与水準に応じた老齢厚生年金の給付が保障される。
 また、国民年金の第1号被保険者の産前産後期間について、出産予定月の前月(多胎妊娠の場合は3か月前)からその翌々月までの国民年金保険料が免除されている。この期間は、保険料を納めた期間とみなされ、免除期間は満額の基礎年金を保障している。
 
イ.産前産後休業を終了した際の標準報酬月額の改定の特例
 産前産後休業を終了した人が、職場復帰した場合は、その後の3か月間の給与の平均額で 標準報酬月額を改定して、厚生年金保険料を計算することができる。職場復帰せず、そのまま育児休業などに入った場合には、育児休業などが終了してから同様の計算により改定することができる。
 
② 育休期間中の特例
ア.育児休業の期間中の保険料免除
 子どもが3歳になるまでの間の育児休業について、休業を開始した月から終了した月(終了日の翌日の月)の前月までの厚生年金保険料が免除される。この期間は、保険料を納めた期間とみなされ、休業前の給与水準に応じた老齢厚生年金の給付が保障される。
 
イ.育児休業を終了した際の標準報酬月額の改定の特例
 育児休業を終了した人が、3歳未満の子どもを養育しながら職場復帰した場合は、その後の3か月間の給与平均額で標準報酬月額を改定し、厚生年金保険料を計算することができる。
 
 
[10] この他、年金を含めても所得が低い人(前年の所得額が老齢基礎年金満額以下の人など)には、月額約5,000円を基準として年金生活者支援給付金が支給される。(全額免除期間に対しては、基礎年金満額の1/6相当が支給)
[11]  出産日の42日以前(多胎妊娠の場合は98日前)から出産日の56日後まで。

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7.社会保障協定の締結

 海外在留邦人等が日本と外国の年金制度等に加入し保険料を二重に負担することを防ぎ、また、両国での年金制度の加入期間を通算できるようにすることを目的として、外国との間で社会保障協定の締結を進めている。

【社会保障協定締結などの状況(2022年6月1日時点)】
社会保障協定締結などの状況(2022年6月1日時点)
 

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(参考)主要国の年金制度の国際比較

 主要外国の年金制度においては、年金制度は稼働収入のある者に適用されるのが一般的であり、我が国のように無収入の者も強制加入の被保険者として適用される制度設計(ただし、低所得世帯等は、申請等により納付義務が免除される)は例外的である。
 また、上記のようなことから、主要外国の年金制度においては、わずかでも賃金収入があれば、保険料納付義務が生じる制度設計となっていることが一般的である。

表:(参考)主要国の年金制度の国際比較

※1 2022年4月1日時点。
※2 ドイツは一般年金保険、フランスは一般制度、スウェーデンは所得に基づく年金についての保険料率、支給開始年齢等をそれぞれ記載している。
※3 スウェーデンの保証年金は、低・無年金者に対して税財源により支給される制度である。支給開始年齢は65歳(2023年に66歳に引き上げ予定)で、3年以上のEU諸国等(うち1年以上はスウェーデン)での居住が必要。
※4 英国の保険料は、失業給付等の年金以外の種類の給付にも充てるものとして徴収されている。また、保険料率は、所得等に応じ て異なる料率となる場合がある。
※5 フランスの保険料率は、所得に応じて異なる料率となる場合がある。
※6 スウェーデンの保険料率は、老齢年金に充てるものして徴収されている保険料の料率であり、遺族・障害年金の保険料については、別途課せられ、事業主のみが負担する。
※7 上記の表における支給開始年齢とは、給付算定式で得られた額を増減額なく受け取ることができる年齢をいい、国によっては生年月日や職種等によって例外が設けられている場合がある。
※8 満額拠出期間とは、年金額の満額受給に必要な保険料拠出期間をいう。1958~60年生まれの者は41.9年(167四半期)であるが、段階的に延長されており、1973年生まれの者以降は43年(172四半期)となる。
※9 所定の保険料納付に応じて、1年につき最大4単位分の保険料記録が付与されるところ、老齢年金の受給には、40単位分(10年相当)の保険料記録が必要となっている。
 

(資料)各国政府の発表資料 ほか

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