お産の施設、どう選ぶ? 分娩施設の情報提供Webサイト誕生! 「出産費用の見える化」が始まります

日本では少子化の進行が早まる一方で、2022年度の正常分娩の平均出産費用は2012年度に比べ6万5,566円上昇しています(図表1右から2列目・図表2)。出産における妊婦の経済的負担を軽減するため、昨年4月から、出産時に保険者から支給される「出産育児一時金」が8万円増額され50万円となりました。

さらに、今年5月からは、出産しようとする人が自分のニーズに合った分娩施設(医療機関・助産所)を選べるよう、出産費用・サービスの見える化を行うWebサイトを厚生労働省が開設します。これにより、全国に2,000以上ある分娩施設それぞれの平均出産費用やサービス内容を簡単に把握できるようになります(図表3)。

本特集では、これまでにない画期的なWebサイトが生まれた背景と経緯、その内容などを提示するとともに、日本の出産費用にまつわる情報・知識を紹介します。

<Part1>
出産にかかる「お金」の話と「出産費用の見える化」の意義

「分娩施設の情報提供Webサイト」が立ち上げられることになった背景や経緯を、
柴田直慧保険局保険課課長補佐が解説します。併せて、妊婦が知りたい情報についても図示します。


柴田直慧
保険局保険課課長補佐

妊婦の経済的負担軽減のため出産育児一時金を大幅増額

育児・教育に要する費用やキャリアとの両立など、こどもを持つかどうかの選択において重要な点は多くありますが、出産の際の経済的負担もその1つです。公的医療保険制度においては、この負担を軽減する目的で、「出産育児一時金」(特集パート3参照)が給付されています。

昨今の物価高による水道光熱費や物品費の高騰、人件費の増加などを背景として、出産費用は年々上昇しており、出産育児一時金の支給額が実態に即していないという指摘がありました。このため、昨年4月に支給額を42万円から50万円に大幅に引き上げる改正を行いました。室料差額などを除いた2022年度の全国の正常分娩費用は平均48.2万円でしたので、この引き上げにより、出産の平均的な標準費用は全て賄えるようになったと考えています。

一方で、出産費用には地域によってばらつきがあり、また、同じ地域でも分娩施設によって様々です。出産に関する医療サービスが、施設が自由に価格を設定できる自由診療の枠組みで提供される以上、本来、サービスを受ける妊婦さんには分娩施設を十分に検討・選択できる環境が担保されていなければいけません。

ところが、医療は専門的な世界で、提供側と受け手側の情報の非対称性が大きく、妊婦さんが自身に必要なサービスを適切に選択するのは容易ではありません。さらに、アンケート調査の結果からも読み解けるように、出産にかかる費用の情報は、これまで分娩施設によってわかりやすい形で提供されているとは言い難いところがありました。

各施設のサービス・費用の「見える化」サイトを開設

こうしたことから、それぞれの分娩施設でどのようなサービスが提供され、その対価としての費用がどうなっているかを、厚生労働省が集約して情報提供するWebサイトを構築することとしました。具体的には、分娩施設ごとに、ベッド数や年間の分娩件数、院内助産などの助産ケアの実施状況、立ち会い出産や無痛分娩などのサービス内容、そして、出産費用の平均額などを掲載する予定です。

妊婦さんやパートナーの方が、お住まいの地域や希望するサービス内容などから検索し、条件に合った分娩施設の情報を簡単に得られるサイトにすることをめざしています。現在、準備の最終段階を迎えており、もう間もなくサイトをオープンできると思います。

全国の分娩施設の方々がこの取組に理解を示してくださったおかげで、年間の分娩件数が21件以上の施設の96%の情報が掲載されることとなりました。より規模の小さい施設からも、掲載を希望する多くの声をいただいています。ここまで情報を網羅できたことについて、あらためて分娩施設の皆様のご協力に感謝を申し上げます。また、今後も丁寧な説明を通じて、さらに掲載施設数を増やしていきたいと思います。

「見える化」サイトを通じて目指す世の中の姿

はじめてのお子さんか2人目か、里帰り出産をするのかなど、妊婦さんの置かれた状況は様々です。人生の大切なイベントとして想い出に残るサービスを希望する方もいれば、自宅の近くで産みたいという方、なるべく費用を抑えたいという方など、ニーズも様々だと思います。

このサイトを通じて、分娩施設ごとのサービスと費用の情報を調べていただくことで、それぞれの妊婦さんとご家族のニーズに合った施設選びをしやすくなるのではないかと思います。今後もサイトの内容をブラッシュアップし、さらに使いやすく便利なものとしていきたいと思います。

このサイトが広く活用されるものとなることで、出産育児一時金の50万円への引き上げとあわせて、これからを担う若い世代が安心して出産できる世の中となることを願っています。

<Part2>
「今までにないWebサイト」づくりの担当者チーム座談会

今回の「出産費用・サービスの見える化Webサイト」づくりに取り組んだのは、保険局の6人のチームです。リーダーの柴田課長補佐の司会で、その舞台裏を語り合います。



▶民間からの出向2人を加えたチーム構成
柴田 最初に、今回のチームに参加した皆さんの主な担当を紹介していただけますか。
木下 私は産婦人科の医学的知識を持つ専門医として参加し、各分娩施設にお願いしたWebサイト上の掲載内容について、医学的な妥当性や表現の正確性の確認などを主に担当しました。
私は民間銀行からの出向で、昨年4月に実施した「出産育児一時金」増額の検討に比較的早い段階から参加していたことから、このサイトについても企画の中心を担うことになりました。
足立 私も民間のコンサルタント会社からの出向で、今回のサイトでは「診療報酬の審査支払機関からのデータを使う」ということで、その関連のやり取りとデータクレンジング(データの誤記・未入力・重複などの不備を修正し、正確性を高める作業)を担当しました。
曽我部 私はプロジェクトが佳境に入った際に応援として参加し、各分娩施設からサイト掲載の同意を得ることに注力しました。
市川 私は入省1年目ですが、サイト開設とその保守運用、広報などで必要な省内手続きの調整役を主に担当しました。

▶言葉の定義やわかりやすい情報の探し方などに注力
柴田 皆さん、特に力を入れた点は何でしたか。
木下 私は、最終的にサイトに掲載する言葉の定義を重視しながら仕事をしました。たとえば、病院の種類についても、その定義をどのようにするか。難しい表現を使わず、いかにかみ砕きつつも正確に記載するかを心がけ、かなり慎重に進めました。
私は企画全体を担当しながら、なかでも利用者が実際に閲覧する部分に力を入れました。サイトの主目的は施設検索ですが、それ以外の妊婦さんが欲しい情報もわかりやすく探せるようにしたかったのです。実際に妊婦さんなどのご意見をうかがいながらサイトのコンテンツを考えており、「重要情報はアイコン付きがいい」「サイトの創設趣旨も掲載しては?」といったコメントを踏まえて検討を進めました。
市川 確かに、地図一つとっても「見やすさ重視で」「情報量優先で」と、いろんなご意見がありましたよね。
柴田 まだまだ、さらに改良していく点はありますよね。足立さんは林さんと同じく出向で参加され、「審査支払機関のデータ整理」という専門的な部分を担当してもらいましたが、苦労された点はありましたか。
足立 異なる機関からのデータを整理・突合する部分で苦労しました。国保のデータ(国民健康保険中央会管轄)と健保のデータ(社会保険診療報酬支払基金管轄)でレイアウトが違っていたり、同じデータが違う言葉で扱われていたりしましたから。妊婦さんには正確な情報をお伝えしなければなりませんので、そのバックデータづくりには力が入りました。
曽我部 私は未回答の病院に電話をかけ、施策の狙いと意義を自分なりの言葉で説明することに力点を置きましたが、ご理解いただけて同意を得られたときはとてもうれしかったです。

▶「日本一たくさん分娩施設のサイトを見てつくった」
柴田 今回は「今までにないものをつくる」ということで、各自が専門性を活かして頑張ってくれました。このチームでなければできなかったプロジェクトだと感じています。皆さんには、この仕事を通じて新たな学びなどはありましたか。
木下 産婦人科の臨床医がこのようなサイトをつくることなど通常ありませんから、どんな情報がどう載っていたら良いか、仕事をしながら学んでいきました。民間の情報比較サイトはもちろん、いろんな分娩施設のサイトを見ました。日本一たくさん産婦人科系のサイトを見た自信があります(笑)。
柴田 本当に分娩施設のサイトはレイアウトがまちまち。それらが一つのフォーマットで情報が整理されただけでも、今回のサイトは妊婦さんにとって役に立つものになると思います。
ただ、最初に各分娩施設に掲載のお願いを出したときは反応が薄かったです。「まだ書類を見ていない」「忘れていた」とかで、そもそも回答がもらえなくて。でも、関係団体に1日おきに回収状況をお伝えして周知に協力していただき、自治体や関係省庁からもお願いしてもらうなどして、地道に回収率を積み上げていきました。ゼロから新しい仕事を立ち上げ、周りの理解を得ていくというプロセスは、大変でしたがやりがいがありました。
足立 回収率が上がるにつれ、分娩施設側に「これだけ参加するのなら」という機運が高まりましたし、我々もモチベーションが上がっていきましたよね。

▶新人ながら運営事業者とのやり取りを一手に
柴田 市川さんは入省して初のチーム業務にもかかわらず、実際にサイトを作成・運用する運営事業者との対応をほとんどやってくれましたが、どんな発見がありましたか。
市川 サイトの仕様書作成もイチからでしたし、そのための必要書類もそのつど違うなかで、省内で一つひとつ確認を取りながら作業を進め、民間企業さんとやり取りさせてもらった経験は、社会人1年目の私にはすごく大きな学びでした。
曽我部 「どんな文言ならサイトの仕様書から消していい」とか、「この文言は必須」とかの形式的な部分も、みんなで結構調べて検討しましたよね。
柴田 厚労省の1年生で、これだけ民間の方とやり取りした人はいないと思います(笑)。
市川 その自負はありますが(笑)、1人でできる仕事には限りがあること、いろんな方々の力でプロジェクトは進むものだということを実感しました。
足立 市川さんは同期のつながりも駆使していて。民間から来た私には、官僚組織はどうしても縦割りに見える部分がありますが、市川さんはいろんな局に友人がいて、同期のよしみで情報を引き出したり、いい意味で縦割りを解体したと思います。
木下 仕様書作成時には気づかなかった点も多くて、私と林さんが結構、「あれもこれも」って追加依頼しちゃいましたよね(笑)。
市川 サイトイメージに修正が加わるたびに、動いてくださる事業者の方とのやりとりが必要でしたが、認識に齟齬があると良いサイトにならないと思い、そこは我々の意図がきちんと先方に伝わるよう頑張りました。あと、僕は同期と仲がいいほうなので(笑)。
足立 私は自分の発見というより、各関係機関が相互理解を深める一助になれた達成感がありました。データまわりのやり取りを通じて、「国保中央会さんではそうなっているんですね」と支払基金さんがおっしゃったり、逆に国保中央会さんが「支払基金さんのやり方、いいですね」と感心されたりしていましたから。

▶「やらされている感」が全くなかったプロジェクト
柴田 出来上がったサイトに今後期待することは何ですか。
木下 とにかく便利なサイトですから、妊婦さんにどんどん知ってもらい、使ってもらいたいです。医療者側にとっても、里帰り出産を希望される妊婦さんは多いですから、自分が詳しくない他県の分娩施設まで妊婦さんと一緒に検討できるのは助かると思います。
病院へヒアリングに行ったときに妊婦さんが施設探しにご苦労されていて、「情報が1つのサイトで網羅されていたらいいのに」とおっしゃっていたのが印象に残っています。そうした方の助けになりたいと願って取り組んできたので、今回のサイトがたくさんの妊婦さんのお役に立つといいなと思います。
曽我部 今回のプロジェクトは“やらされている感”が全然なかったし、多くの皆さんが期待を寄せてくださっていると思うので、より良いサイトになるよう今後も更新して、妊婦さんのニーズに応えていきたいです。
市川 もし自分にこどもができたら、どの施設にお世話になるか、パートナーと一緒に費用もサービスも絶対調べたいと思う。そういう時に役立ててほしいです。
足立 一義的には妊婦さんのための情報提供サイトですが、今回我々が集めたデータや分娩施設の情報は今後、政府が少子化対策の政策立案を進める際にも、重要な参考情報になると思います。私たちの仕事が、これから国を挙げて少子化に打ち勝つための契機になればと考えています。
柴田 若い官僚にとって、自分たちと同世代に直接貢献していると実感できる仕事をする機会は多くありません。そんな中、今回の仕事は単なる業務の枠を超えて、特別なやりがいにあふれたものでしたし、あらためて厚生労働省の仕事のインパクトと責任を感じさせられる経験でした。
少しでも「こどもを産み育てやすい社会をつくることができた」と胸を張れるよう、引き続きチームで取り組んでいきましょう。


 

出典 : 広報誌『厚生労働』2024年5月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省