未来(あした)のつぼみ

医薬品を社会に届けることの責任を感じながら

大きな制度改正に限らず、日々の地道な積み重ねが厚労行政の可能性を広げています。ここでは、厚生労働省の若手職員たちの取り組みや気づきを紹介します。

今回の執筆者

松下俊介
医薬局 医薬品審査管理課 審査調整官


医療に医薬品は不可欠です。日々、新しい医薬品が開発され、医療現場に提供されています。私は医薬局医薬品審査管理課で新薬の承認審査に携わっています。
薬学部の学生時代、新薬の登場により、予後不良だった疾患の5年生存率が大幅に改善したというデータを見て感動した記憶があります。「薬ってすごい! 薬を世の中に出す仕事に携わりたい!」って本心で思いました。

入省して最初の配属先は、医薬品の研究開発の支援を行っており、医薬品の“候補”を見つけ育てる仕事にやりがいを持って取り組みました。その後いくつかの部署を経験し、今度は、医薬品の“候補”を世の中に送り出すかどうか最終判断する仕事に携わることになりました。

医薬品を世の中に送り出すためには、治験などで収集された有効性や安全性の情報に基づき、科学的に中立な視点で厳正に審査が行われます。治験では、実臨床とは異なる条件下での限られた症例数の情報しか収集できないことから、有効性だけではなく安全性についても慎重に検討が重ねられます。場合によっては承認条件を付すこともあり、追加でのリスク管理をどのようにするべきか議論されます。

私自身、担当した品目の承認条件をどのようにするべきか、かなり悩んだことがあります。承認されたら本格的に世の中に送り出され、実臨床で患者さんに投与が開始されることから、薬事承認の最終判断はとても重要です。PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)や省内の関係者と何度も議論して結論を導き出したことは忘れられません。そして、このような議論や調整が、国民が安心して医薬品を使用できるようにするため必要だと考えるとき、この仕事に大きな責任を感じ、同時に身の引き締まる思いがします。

私たちの業務は、患者さんから直接感謝されることはありません。しかし、医薬品を社会に届けることで、直接には見えない何万・何十万人の患者さんの役に立っています。国民が安心して医療を受けることが可能な環境を提供することは極めて重要であり、このような仕事に携わることができて日々、充実しています。

医薬品により救える命がたくさんあることを忘れず、初心を振り返り、使命感を持って日々の業務に邁進します。




 

 

出典 : 広報誌『厚生労働』2023年11月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省