厚生行政を最前線で支える  地方厚生(支)局探検隊

第3回:東海北陸厚生局 医事課・企画調整課

厚生行政の政策実施機関として、全国8(支)局で「健康・福祉」「医療」「年金」「麻薬取締」の業務をこなす「地方厚生(支)局」の仕事と、そこで働く人を紹介するコーナー。
第3回は、東海北陸厚生局医事課・企画調整課にスポットを当てます。

「南海トラフ地震対策」「医療安全ワークショップ」に特色

PICKUP 医事課・企画調整課

事務官と医療職の免許を持つ技官、国立病院機構、民間からの出向者と、多彩なメンバーで構成される医事課の職員(右)と「南海トラフ地震対策」を担う企画調整課の職員(左)

●2日間にわたる医療安全ワークショップ

東海北陸厚生局は富山、石川、岐阜、静岡、愛知、三重の6県を管轄し、同局医事課では9人、企画調整課では4人と、あわせて13人の職員が活躍しています。

医事課の業務の所掌範囲は広く、「医療安全」「再生医療」「臨床研究」「地域医療構想」「看護師特定行為研修」「災害医療」など14項目に上ります。また、企画調整課は「南海トラフ地震対策」に取り組んでおり、両課の業務の特色は「医療安全」「看護師特定行為研修」「災害医療」の3つに集約されます。

まず、「医療安全」業務では、医療安全普及啓発のためのワークショップの企画・開催にかかわる仕事がメインとなります。
「医療安全推進週間にあわせて例年10月から12月に医療安全に関するワークショップを開催するのは他局と同じですが、当局は2日間かけて実施しています。

1日目は朝から夕方まで丸一日講演プログラムを、2日目は少人数でのグループワークを行います(P23に12月4・5日に開催予定の同ワークショップについて掲載しています)。この規模でワークショップを開催している局はほかにはないかと思います」と、医事課長の大塚良子さんは話します。

開催自体は2日間ですが、講師の依頼や打ち合わせのアポイントも含めると、こなさなければならない工程は100以上になるため、半年から1年かけて準備を進めます。そのため、医事課の全員が協力して取り組んでいます。

●「看護師特定行為研修」の研修環境をバックアップ

2つ目の特色である「看護師特定行為研修」とは、「医師の判断を待たずに、手順書により一定の診療の補助を行う看護師を養成する」ための看護師の研修制度のこと。
看護師にとってはスキルアップにつながり、「医師の働き方改革」にも資すると期待されている、近年注目の制度です。

「当課では、看護師特定行為研修の指定申請を考えている医療機関や医療関連団体などに対する事前審査を担っています。最終的には厚生労働本省の医道審議会の看護師特定行為・研修部会に諮問され、指定の可否が判断されますが、事前に当課のほうで研修環境が整っているか、指導に当たる医師や看護師が適切に配置されているかなどを書類上で審査したり、指定申請前の相談にも対応しています」と大塚さん。
同研修制度開始は2015年。その後、2017年以降の管内の指定研修機関数の伸びが著しく、これからも指定研修機関は増えていく見込みです。

「特定行為研修に関しての研修会も一昨年度、昨年度と行い、特に昨年度は、研修を終えた後の現場での看護師特定行為の役割や立ち位置の変化などの話を修了者から聞く内容も取り入れました。本来、地方厚生(支)局は『指定研修機関としての研修環境が整っているか』という点でのかかわりになりますが、医政局看護課にも相談して、研修会の内容を構成しました」

同課の船橋祐子看護指導官も、特定行為研修について「看護の質向上とチーム医療の観点から見たとき、意義は非常に大きいと考えています」と語ります。

制度開始から8年が経ち、医療現場では早期に研修を終えた修了者と研修直後の修了者との間で経験値の差が顕在化しつつあるなど、新たな課題も現れつつありますが、今後の医療ニーズの変化に対応し、医療体制の構築をバックアップするため、引き続き厚生局医事課のかかわりが期待されます。

●南海トラフ地震を見据えた「災害医療部会」事務局

3つ目の「災害医療」業務では、東海地域が南海トラフ地震最大の被害地域のひとつに想定されていることから、企画調整課が「南海トラフ地震対策中部圏戦略会議災害医療部会」の事務局を担っています。

この部会では管内の自治体や官公庁、DMAT(災害医療派遣チーム)、陸上自衛隊や海上保安本部、民間からは船舶や電力会社などインフラ関連企業が参画し、災害医療に係るBCP(事業継続計画)について意見交換と情報共有を図るとともに、東海北陸厚生局長を中心として関連機関のBCP作成支援などにも当たっています。

「東海地域の場合、我が国最大の海抜0メートル地帯である濃尾平野を抱えており、『津波でも洪水でも浸水および湛水(浸水した水が長期間引かない状態)が最も憂慮すべき被害』と専門家から指摘されています。これらの地域では、発災時に多くの医療機関などが浸水・冠水する可能性があることから、医療機関などには避難確保計画を含めた実行性のあるBCPの作成が求められています」と、企画調整課長の西尾剛さんは話します。
この地域ならでは災害に対する備えは、東海北陸厚生局の重要な業務といえます。

<若手係員が語る「東海北陸厚生局医事課の職場環境」>
一人で抱え込まずに業務を進めることができる環境

鷲見彩乃
昨年4月に採用となり、医療観察指導係として、医療観察法の処遇となった方(心神喪失の状態で重大な他害行為を行った者)に関する調整業務や診療報酬・届出の審査を行っています。

入省した当初は戸惑いもありました。医療観察法は特殊な法律であり、細かな取り決めも多いため、法律を理解し関係機関に指導・説明ができるようになるまではかなり苦労しましたが、一人で抱え込まずに業務を進めることができる環境であると感じています。上司の方に相談をしたときには丁寧にご指導くださり、定期的に声をかけていただいています。入省して半年で私が主担当として進める業務も増えましたが、必要なときには相談しながら、1つずつ自分で処理することができるようになりました。

医療観察の業務は、医療機関の専門職の方、裁判所や法務省保護観察所ともやりとりをします。複数のケースを並行して業務を進めるため、マルチタスクとなることもありますが、それらをきちんと処理できたときにはやりがいを感じています。

<看護指導官が語る「この仕事の役割とやりがい」>
制度と研修機関をつなぐ調整役を通して、看護職としての視野も拡大

船橋祐子
国立病院機構の看護師として病院勤務、看護教育に携わっていましたが、今年4 月
の人事異動で東海北陸厚生局配属となり、「看護指導官」として、看護師特定行為研
修を実施する研修機関の審査・指導に携わっています。

特定行為研修を行う指定研修機関の審査業務では、一緒に審査を行う事務官に、看護師だからこそわかる「実際の医療現場の状況」を伝えたり、研修機関としての申請を考えている施設に、制度内容をお伝えしつつ、「自施設が地域から期待される役割を果たすために、どのような研修計画を立案すればいいか」といった相談も受けたりしています。

昨年までの仕事は、「目の前の患者さん」と向き合い、私やチームが直接患者さんに働きかけることで貢献できる範囲のものでしたが、今は対象が研修機関単位となり、研修の体制を整えるところから関わりますので、自らの働きかけが影響する範囲が格段に広がり、視野がひろがりました。この研修制度が現場で価値あるものとして浸透していくために、看護職のひとりとして考えながらお手伝いできるところにやりがいを感じます。

<令和5年度 医療安全に関するワークショップ>
今年12月4日、5日開催予定の「令和5年度 医療安全ワークショップ」のプログラムは、例年どおり、1日目は丸一日の講演(オンライン配信)、2日目はグループワーク(集合研修)という形式。コアとなるテーマは、名古屋大学医学部附属病院の先生方のご協力をいただき、「全職種で取り組む患者安全と質向上」を掲げ講演プログラムを構成しています。

大塚良子
健康福祉部医事課長

医療安全ワークショップは、本省から開催方針が示され、ある程度決まっている内容もありますが、プログラムの構成は各厚生局に任せていただいています。医療安全を考えるうえでコアとなる普遍的な内容に加えて、そのときのトピックスを盛り込むよう工夫しています。今年も興味深く聞いていただけるプログラムとなりそうですので、医療安全はちょっと難しそうだな、と思っている方にもぜひ聴講いただきたいです。


お申し込みは東海北陸厚生局のホームページからお願いします。

東海北陸厚生局健康福祉部医事課
Tel:052-971-8836(平日8:30~17:15)
メール:tk-anzen@mhlw.go.jp

<東海北陸厚生局の概要>
富山、石川、岐阜、静岡、愛知、三重の6県における厚生行政を管轄する地方機関。
管内人口は約1,700万人で、日本の全人口約1.2億人の約13.5%に相当する。
愛知県名古屋市にある本局のほか、富山(富山市)、石川(金沢市)、岐阜(岐阜市)、静岡(静岡市)、三重(津市)の5県に各県内の保険医療機関・保険薬局などに対する指導監督や施設基準等届出の審査業務などを行う地方事務所を1カ所ずつ設置している。
職員は非常勤を含めて約270人。このうち女性職員は40%程度。事務職のほか、医師や歯科医師、看護師、薬剤師など多くの職種の職員がいる。

 

出典 : 広報誌『厚生労働』2023年10月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省