未来(あした)のつぼみ

大きな制度改正でなくとも、日々の地道な積み重ねが厚労行政の可能性を広げています。ここでは、厚生労働省の若手職員たちの取り組みや気づきを紹介します。


今回の執筆者

栗原美奈
労働基準局総務課 過労死等防止対策推進室 主任
過労死等防止啓発月間のポスターと過労死等防止対策推進室メンバー(右下が執筆者


過労死ゼロの社会実現をめざして

皆さんは、「過労死」というと昔の話と思うでしょうか。それとも、働き方改革が進められている今でも、なおたくさん発生していることだと思うでしょうか。

業務における過重な負荷による脳・心臓疾患や、業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする死亡やこれらの疾患を「過労死等」と定めており、最近では過労死等の労災認定件数のうち、脳・心臓疾患は減少傾向にある一方で、精神障害は増加傾向にあります。海外でも、日本語をそのままローマ字で表記した「karoshi」が通じるなど、過労死は日本の重大な社会問題の一つです。

過労死等防止対策推進室では、白書の作成や、過労死等防止対策推進シンポジウムの開催、中学校や高校での労働条件に関する啓発授業の実施など、さまざまな事業を行っています。

そのなかでも私が特に携わっているのは、毎年11月の過労死等防止啓発月間に合わせて全国で掲出するポスターの作成です。たくさんの人の目に留まり、過労死について考えるきっかけになるポスターを作成したいと思い、遺族の方々や使用者団体、労働者団体など、さまざまな立場の方にデザインについてのご意見をお伺いし、委託事業者と協力して完成させました。

読者の皆さんのなかで、昨年の11月に「しごとより、いのち。」と書かれた青色のポスターを、駅などでご覧になった方はいらっしゃるでしょうか。このポスターの掲出が始まると、ポスターをご覧になった方がSNSで「当時の私は、これに気づくのにだいぶ時間がかかりました。」と投稿してくださったり、「心に刺さった」というお電話をいただいたりしました。多くの方に「しごとより、いのち。」という言葉が届いたことを実感することができ、とてもうれしかったです。

この業務に携わっていると、私と同年代の方々も長時間労働やパワハラによって命を落としていることがわかり、過労死は決して他人事ではない問題だと気づかされます。

「しごとより、いのち。」という言葉で、過労死等の防止について呼びかけていますが、本来「しごと」は辛く苦しいものではなく、自分の人生を豊かにするための大事な手段であるはずです。「過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会」を実現するため、一人ひとりが今一度、働くことについて考えるきっかけづくりができるように、これからも取り組んでいきたいと思います。



令和4年版過労死等防止対策白書とポスターデザイン検討資料

 
出  典 : 広報誌『厚生労働』2023年6月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省