世界が注目する新しい働き方「労働者協同組合」の可能性

昨年10月、「労働者協同組合法」が施行され、これまでと違う働き方を可能とする「労働者協同組合」が19都道府県に計39法人誕生しています(今年5月1日時点)。労働者協同組合は、①労働者が組合員として出資し、②各自の意見を適切に反映しながら、③組合の事業に従事する——という3つの基本原理によって運営され、A)自ら出資し(NPO法人の場合は出資を受け入れることが認められず、寄附金が重要な財源となっています)、B)働く人たち自身の意見が事業に反映されるから、やる気も起きやすい——という2つのメリットを持った新しい組織です。しかも設立は、行政の許認可が不要で、3人以上が集まって登記するだけで可能です。

本特集では、労働者協同組合の仕組みと運営方法、実例を紹介します。

あなたも、労働者協同組合の設立や事業への参加を通じて、新しい働き方を選択してみませんか。



<Part1 解説:「労働者協同組合」って何?>
新しい働き方を可能にする新たな法人格


Part1では、施行されて半年が経過した「労働者協同組合法」の特徴とポイントについて、既に活動している具体例を紹介しながら、厚生労働省の担当者が解説します。

解説

水野嘉郎
雇用環境・均等局 勤労者生活課 労働者協同組合業務室長

●何事もみんなで話し合って 一人ひとりの意見を反映

「労働者協同組合」を一言で表せば、「人口の減少に伴って地域でさまざまな課題が生じるなか、多様な働き方を実現しつつ、地域の課題に取り組むための選択肢の一つ」です。

図1に「労働者協同組合の主な特色」を挙げていますが、このなかで特に重要なのは②と④で、これらがほかの法人格と大きく違うポイントです。




既存の法人格には企業組合、株式会社、合同会社、NPO法人、一般社団法人などがありますが(表)、「出資ができない」「営利法人となる」など、一長一短があります。任意団体にいたっては法人格ではないため、コロナ禍でも持続化給付金が受けられずにメンバーにつらい思いをさせたという話もうかがっています。



まず、労働者協同組合では、出資額にかかわらず、平等に一人一個の議決権と選挙権を持ち、雇用形態や役職、加入年数の長短などにかかわらず、対等な立場で運営に参加します。

また、「何事もみんなで話し合って組合員一人ひとりの意見を適切に反映して運営」されますから、たとえば実際に活動している労働者協同組合では、「子育て中で、この時間帯の方が働きやすい」といった事情のある組合員がいたら、これを実現するためにみんなでの話し合いを行っているとうかがっています。そのため、多様な働き方を実現しながら、各地域特有の課題に取り組む仕事に適しているのです。

そうした利点から、昨年10月の法律施行から半年で、19都道府県に計39法人が誕生しています(図2)。


●労働安全衛生へのコミットなど3つのコンセプト



ただ、厚労省として予想外だったのは、業種が介護・福祉分野に偏らなかったことでした。特に、全国第1号がキャンプ場運営だったことには、正直驚きました。また、NPO法人や企業組合など既存の法人格からの組織変更が多くなると想定されていましたが、39法人中30法人が新規の設立だったのも予想外でした。

これらは、地域課題の解決に向けて、多様な働き方のニーズがあることの証拠だと感じています。


●他の法人格と組み合わせたハイブリッド型の運営も
第1号となった三重県四日市市の「CampingSpecialist労働者協同組合」さんは、「テント設営可のキャンプ場が市内にないのをなんとかしたい」というきっかけから、放置された荒廃山林を整備してキャンプ場を経営する法人から設立されています。空き家同様、放置された山林の問題は全国各地域共通の悩みです。この事例にならおうと、既に近隣の自治体から荒廃山林の整備の相談が寄せられているそうです。

また、この法人はスタート時点では当初NPO法人として活動していたのですが、その法人格を残したまま運営されている点が特徴です。具体的には、出資したメンバーと雇用契約を結んで一定の責任を持ちながら顔の見える関係のなかで皆が働くという、労働者協同組合の法人格を運営の核としつつ、キャンプ場運営に興味を持ち参加してくれるボランティアの方々の受け皿にNPO法人格を活用することで、一体的にキャンプ場を経営されています。いわばハイブリッド型の運営です。

厚労省としても、労働者協同組合を既存のNPO法人格とうまく組み合わせながら、地域の課題に取り組んでいく好事例だと思います。

●自治会弱体化を食い止め コミュニティを再形成
他方、沖縄県宮古島市の「労働者協同組合かりまた共働組合」さんは、地域の自治会が母体になったケースです。市の北端の狩俣地区は少子高齢化が進む過疎集落ですが、自治会メンバーが世代交代して地域おこしの機運が高まったのを機に設立されました。
最初は、地区の幼稚園に通う子どもたちのお弁当づくりを、自治会有志のお母さんたちで始めたのがきっかけでした。労働者協同組合設立後は、それを事業として請け負っています。まさに自治会有志の活動を事業化した例です。

また、伝統の追い込み漁で採れたが売り物にならず廃棄していた魚を惣菜に加工して販売するほか、生産調整のために廃棄処分していた養殖モズクを買い取って直売会も開いています。地元の利用者からの反応は良く、地域コミュニティの活性化につながっていると聞きます。

自治会の弱体化も全国共通の地域課題ですが、かりまた共働組合のように、労働者協同組合になることで事業性を確保し、コミュニティの再形成を図ることができます。

それぞれの地域特有の課題解決に取り組むための新しい働き方を可能にする「労働者協同組合」。ぜひ関心を寄せていただきたいと思います。
 

出  典 : 広報誌『厚生労働』2023年6月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省