女性の未来の健康のため、今からできること ワクチンと検診で防ぐ子宮頸がん


日本では、25~40歳女性におけるがん死亡の第2位が「子宮頸がん」です。子宮頸がんにかからないためにはHPVの感染を防ぐことが重要であり、昨年4月からHPVワクチン接種の積極的な勧奨が再開され、今年4月からは新たに9価のHPVワクチンが公費で接種できるようになりました。本企画では、そうした子宮頸がんの現状とHPVワクチンに関する最新情報をお伝えします。



<Part1 若いときから考えたい女性の未来と健康づくり>

病気やケガの少ない若い女性たちにはどこか“他人事”のように捉えられがちです。20歳代で「健康には自信がある!」と話すタレント・みほとけちゃんが、子宮頸がんや子宮頸がん検診、HPVワクチンの最新事情について、医師である上田豊さんと厚生労働省の担当者・小畠啓史に聞きました。


20代からかかりやすい  子宮頸がん

みほとけちゃん(以下みほとけ)●私は今、28歳ですが、がんについては40代以降のものなのかと思っていました。それに関する心配もあまりせずにきたので、今日はいろいろ教えてください。
上田●がんの発生には生活習慣がかかわることが多く、一般に年齢が上がるほど罹患する人が増えます。たとえば、女性のがんで最も多い乳がんの場合は40~70代に多いのですが、若いときにかかるがんとしてはやはり子宮頸がんが代表です。
男性で20代のうちにがんになる人はほとんどいませんが、女性は20代でも決して少なくありません。女性には若いときから子宮頸がんに留意してもらい、予防を心がけてもらいたいと思っています。
みほとけ●子宮頸がんには、どうやって気づけばいいのでしょう。
上田●子宮頸がんは、子宮頸部といって子宮の一番手前側に発生し、通常は出血で見つかります。しかし、出血で見つかるときとい  うのは、すでにがんができ上がっている状態です。子宮頸がん検診では出血する前の段階で見つけることができるので、ぜひそこで見つけてもらいたいですし、さらにはそうならないように予防をしてもらいたいと思います。
みほとけ●なるほど。だけど正直、「検診や健康診断は面倒だな」「健康面で心配はないから受ける必要性を感じないな」と思ってしまいます。
上田●検診では、問診、内診、視診、細胞診を行います。細胞診は子宮の入り口の細胞を擦り取る検査で、問診以外の部分は数十秒で終わりますよ。
みほとけ●そうなんですか! 短時間でできるとなると、ハードルが下がりますね。
小畠●子宮頸がん検診は20歳以上の女性が対象で、国の定めている「がん予防重点教育及びがん検診実施のための指針」に位置づけられています。2年に1回の受診を推奨していて、対象年齢の女性には各自治体からお知らせが送られています。
みほとけ●20代女性の検診の受診率は高いのですか、それとも低いのですか。
小畠●年齢別にみると、30代後半から50代前半までは50%を超えていますが、20~24歳では15.1%と、最も低くなっています。若い世代だとまだ関心が薄いのかもしれません。
みほとけ●若い世代にも短時間で済む手軽さや、子宮頸がんの怖さを知ってもらうことが、検診の受診率を上げるポイントになりそうですね。
 

早期に見つかると  9割の人の命が助かる

みほとけ●子宮頸がんは治るものでしょうか。
上田●子宮頸がんも早期に発見できれば、比較的治療がしやすく予後が良いといわれていますし、ちゃんと治療をすれば治ります。どんな治療かというと、極早期の場合を除いて基本的に子宮をとります。あるいは、放射線治療といって放射線を当てて治療をすることもあります。そうすれば初期だったら十分治る、つまり、命は助かるのです。
ただし、子宮全摘や放射線治療をすると、妊孕性という妊娠する能力が失われてしまう。子宮がなかったら妊娠できませんよね。だから、命は助かるのですけど、妊娠する能力は失われるということには十分留意すべきだと思います。
みほとけ●特にまだ20代で、これから家族をつくっていきたいというときに子宮を失うというのは想像できないくらいショッキングなことだと感じます。それが防げるなら、検診を受けてみたいと思いました。
年間どれくらいの人が罹患して亡くなっているのですか。
小畠●年間約1・1万人が子宮頸がんになり、約2,900人が亡くなっています。子宮頸がんの治療で妊孕性を失う人は約1,000人います。
みほとけ●多いですね……。発症してからどれくらいで亡くなってしまうのでしょうか。
上田●子宮頸がんと診断されたときのステージにより大きく違うのです。ステージⅠ期で見つかると、9割以上の人の命が助かり5年後も元気にされていますが、ステージⅣ期くらいで見つかると、5年後には半分以上の人が命を落としています。
 

HPV感染を予防できれば  子宮頸がんは防げる

みほとけ●子宮頸がんは20代でかかるというリスクがあることもわかったのですが、予防策はあるのでしょうか。
上田●子宮頸がんには、扁平上皮という細胞ががん化する扁平上皮がんや、粘液を分泌する腺の成分ががん細胞になる腺がんなど幾種類もありますが、ほとんどはHPVというウイルスの感染が原因なのです。HPVと関係なく発生するのは子宮頸がんのごく一部です。だから、HPVの感染さえ予防できたら、子宮頸がんのほとんどが防げるということになります。
みほとけ●最近はコロナ禍でウイルスに敏感になっていますが、日常生活のなかで簡単にかかってしまうものなのですか。
上田●新型コロナウイルスのように、市中感染するということは通常はありません。ほとんどの感染経路は性交渉だと言われています。海外では、女性が一生のうちに性交渉を持てば、その5割から8割は感染するとされていますが、5割から8割ということは誰でも当てはまるということです。
性交渉を持った女性は、HPVに感染しているリスクが十分にあると思ったうえで対応や予防を考えることが大事だと思います。
みほとけ●最近、コロナ禍になったことで、目に見えないウイルスを予防しようという意識がやっと働くようになりましたが、気がつかないだけでHPVに感染しているかもしれないのですね。それを知ることができてよかったです。


ワクチンという予防法を  自分で理解し選択しよう

みほとけ●実は、当時は正直あまりよくわかっていないまま、私も高校1年生のときにHPVワクチンを接種しているのです。自治体から案内がきて、かかりつけ医に相談をした後に受けました。今更ですが、このHPVワクチンの効果がどれくらいあるのか知りたいです。
上田●予防の視点で考えると、感染をしないようにするのが最も効果的です。そして、その感染自体を防ぐのが、みほとけちゃんも接種したHPVワクチンです。HPVワクチンはとても優秀なワクチンで、90%以上の感染予防効果があります。
みほとけ●感染の予防というのは、感染しないということですか。
上田●たとえば、新型コロナワクチンだったら重症化予防と言われますけど、HPVワクチンは感染自体が起こらないようにできるのです。
みほとけ●このワクチンにそこまで力があるとは知らなかったです。ここまでの話を聞いて、「やはり打ってよかったな」という気持ちが高まりました。
ただ、ワクチンには副反応のリスクがあると聞いたのですが……。
上田●HPVワクチンも、インフルエンザなどのほかのワクチンとほぼ一緒で、痛みを感じたり、接種部位が少し腫れたり赤くなったりということはほとんどの人に見られると思ってもらったほうがいいです。少ない割合ながら四肢が痛くなったり筋肉痛がしたり、なかにはめまいを感じる人もあるかと思います。
みほとけ●私がHPVワクチン接種したときも、発熱はしなくて、筋肉痛のような症状が1日続いたかな、というおぼろげな印象があります。
私はよくわかっていないまま受けてしまいましたが、HPVワクチン接種の対象である小学校6年生から高校1年生の女の子たちには効果や副反応、将来のリスクを知ったうえで、接種をしてもらうのがよいなと思いました。
 

有効性や安全性を再確認し  接種の積極的勧奨を再開

みほとけ●HPVワクチンは公費で受けられるのも魅力ですね。一時期、接種のお知らせが控えられていたと聞いたのですが、なぜですか。
小畠●HPVワクチンの接種が始まって、接種後に疼痛や運動障害など多様な症状を訴える方の報告があがったため、厚生労働省の審議会で、適切な情報提供ができるまで接種の積極的な勧奨を差し控えるべきだという結論になったのです。国民の皆さんにワクチンに関する懸念が広まっている状況を踏まえての結論でした。そのため、その期間の接種率はかなり下がっています。
その後、有効性・安全性に関するデータを改めて整理し、最新の知見において、HPVワクチンの安全性について特段の懸念が認められないこと、接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回ることが確認されました。また、接種後に生じた症状に苦しんでいる方への支援体制を強化し、リーフレットなどを用いて適切な情報提供を行う体制ができてきたことから、積極的な勧奨を再開することとなりました。
みほとけ●控えていた期間に受けなかった人への救済措置はありますか。
小畠●積極的勧奨を再開すると同時に、積極的勧奨を差し控えていた期間に対象だった方への接種の機会をまた提供するという「キャッチアップ接種」というプログラムも準備してお知らせしています。
上田●かつて報道されたことなどを見聞きして不安に思われている方はおられるはずです。国で十分に審議され、有効で安全だということが再確認されて積極的勧奨が再開されているので、ぜひご安心いただけたらいいと思います。
また、接種する医療施設では、安心して接種できる体制が整っています。打たないことで被ってしまう損失はあまりにも大きいので、しっかりご判断いただけたらと思います。
小畠●若い世代で、ご自身の健康をあまり気にしない方たちが、突然人生を大きく変えられてしまうような病気が子宮頸がんだと思います。いろんな治療があるにせよ、それを防ぐすべとしてワクチンやがん検診があるということを読者の方に認識していただけるとうれしいです。
みほとけ●もし、私が接種対象の世代だったときに、今回のような話や、接種した人の声が聞けたら、理解をしたうえで安心して受けられたのかなと思いました。強制するものではありませんが、「受けたほうがいい!」と、いろんな人に伝えたいです。そして、私自身も今の健康状態に安心せずに、検診をしっかり受けるところから始めたいと思います。

 

出  典 : 広報誌『厚生労働』2023年5月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省