超高齢社会と人手不足で急増中 あなたと家族の職場での「ケガ」を防ぐ!

2022年6月、厚生労働省は「労働災害」防止の取り組みを進める活動体「SAFE(Safer Action for Employees)コンソーシアム」を設立しました。その背景には、図1、図2に示されているとおり、過去10年以上にわたる、職場での「転倒」や「腰痛」などを中心にした「労働災害」の増加があります。

本特集では、「SAFEコンソーシアム」の取り組みの全容と職場での「ケガ」を防ぐ企業・団体の取り組みを紹介します。


「職場でのケガ」を予防する「職場での体操」

Part3に登場する、労災防止コンサルティングを手がけるスポーツクラブチェーンの株式会社ルネサンスが、ANAホールディングス株式会社にカスタマイズして提供した同社独自の労災予防体操の様子。高齢者の就労率の向上などで、今、企業がこうした取り組みを進める必要性は高まっている



<Part1 SAFEコンソーシアムとは>
労働安全衛生を推し進める仕組みをつくる活動体
SAFEコンソーシアム始動


労働災害の撲滅をめざして厚生労働省が昨年6月に設立した活動体「SAFE(Safer Action for Employees)コンソーシアム」。その設立の背景・目的や取り組み内容、企業・団体の参加のメリットなどについて、厚生労働省の担当者に聞きました。

解説

澤田京樹
労働基準局安全衛生部安全課中央産業安全専門官


労働安全衛生の追求のシンボルマークである、緑と白の十字の「安全衛生旗」を持つ澤田中央産業安全専門官(右)と同安全課サービス産業・マネジメント班の松河係員


●社会全体の意識改革と行動変容を促す

過去10年、転倒・腰痛をはじめとする労働者の「作業行動」に起因する労働災害が増えている原因について、厚生労働省は図1のように分析しています。大きな原因は、労働者全体に占める高齢者比率の高まりです。高齢になれば一般に身体機能が衰えることで、職場での転倒などが増えます。




次に、「人手不足」と「働き方の多様化」が同時進行するなかで、パートタイムやアルバイトといった働き方が増え、採用後すぐに「明日からシフトに入ってください」といったケースも増えていることです。最低限習得すべき、職場環境下での身体の使い方もしっかり覚えないまま現場に入り、無理な動きをしてしまった結果、転んで骨折したり腰を痛めてしまったりというケースが増えています。

さらに、近年は労働者の大半が小売業など第三次産業に従事しています。たとえば、製造業では「人間にケガをさせかねない機械」が目の前で動いているため、安全性への意識はおのずと高くなります。一方、第三次産業の仕事現場では、そういった目に見えるリスク要因が比較的少なく、「作業行動」のリスクは見えにくいのです。転倒については2015年から、「STOP!転倒災害」を標語に啓発に取り組んできましたが、ほとんどの皆さんが、自分だけは転ぶはずがない、怪我をするはずがないと思っています。

このようなことが重なって、現場で転倒・腰痛などの防止に向けた有効な取り組みにつながっていない現状がありました。

どうしたら現場での取り組みが進むのか。現場が動くのか。深掘りしていくなかで、昨年、労働災害防止の専門家だけでなく、商工会議所や保健の専門家をはじめとした幅広い分野の有識者に、さまざまな助言をいただきました。そのなかで、この問題を単に企業と厚生労働省だけの問題と考えるのではなく、消費者やサービスの利用者も含めた、社会全体で注目し、解決を図るべきものとしていくためめの意識改革と行動変容を促していくことが必要ではないか、というご意見をいただき、それを実現しようとするのが、昨年6月に始まった「SAFEコンソーシアム」です。


●労働安全衛生へのコミットなど3つのコンセプト



図2は、そのためにSAFEコンソーシアムが果たすべき役割と考えているもので、まず一つ目(左下)は企業等が「労働安全衛生」にコミットしてもらう仕組みをつくるということです。SAFEコンソーシアムに参加していただくに当たっては、基本的に「従業員のための安全衛生活動に取り組む意思があること」のみを要件とさせていただいています。そのように宣言いただいた企業や団体にロゴマークを使っていただくというかたちになっており、これは一種のメンバーシップ制度ですが、これによって、1社でも多くの企業に労働災害防止を進めるスタートラインに立っていただきたいというものです。

次に、労働安全衛生の社会的価値を押し上げていくことです。労働安全衛生に取り組むことや、取り組んでいる企業は素晴らしい企業、カッコいい、クールな企業であると、消費者やサービス利用者を含む社会一般の方々から思われる環境をつくっていくということです。

三つ目は、労働安全衛生が「自走」する仕組みをつくること。これは少し新しいアプローチと考えていて、労働安全衛生に関するソリューションを持っている企業とそれを必要とする企業が、SAFEコンソーシアムに加盟することでお互いつながっていただき、取り組みを進めていただけたらと考えています。これは、特に労働者の作業行動に起因する災害については、防止のために行政が指導を行うという従来型のアプローチより、民間の取り組みによる現場のニーズにマッチした、かつ効果のある対策を後押ししていくというアプローチが有効なのではないかという考え方によるものです。

そのようなソリューション提供者としては、スポーツクラブチェーン「ルネサンス」さんのような例があると思います。昨年10月11日から宮城県仙台市を皮切りに計7カ所でシンポジウムを開催しましたが、これは、そうした企業等と労働災害防止に取り組もうとする企業をマッチングさせる機会となることも狙ったものでした。

図3は、SAFEコンソーシアムの体制や活動などの一覧で、このなかには、職場で実施されている労働災害防止や安全・健康増進の優秀な取り組みを紹介するアワードの開催もあります。3月7日に表彰式を行い、本特集のPart2でも各部門の受賞団体・企業を紹介しています。




コンソーシアムについて
SAFEコンソーシアムポータルサイト
https://safeconsortium.mhlw.go.jp/sc/consortium/ 
 

出  典 : 広報誌『厚生労働』2023年4月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省