働く人のために奮闘する 労働Gメンたちの挑戦

「働き方改革」が叫ばれて久しい現在でも、「サービス残業」「賃金未払い」「長時間労働」など、さまざまな労働基準法違反の問題が職場で起きています。だからこそ、誰もが安心して安全に働ける職場をつくるために日夜戦っている「労働基準監督官」(通称「労働Gメン」)の存在は、今の日本に欠かせません。本特集では、労働基準監督官の実際の仕事や奮闘ぶり、日常を通して、その社会的重要性や仕事のやりがいなどを伝えていきます。


そもそも労働基準監督官って何?




<厚生労働省(本省)の仕事>
長時間労働対策の後方支援と改正告示案作成にタッチ


●労働局の活動を指揮・フォロー

「かとく」とは、厚生労働省(本省)労働基準局監督課に設置された「過重労働特別対策室」と東京労働局・大阪労働局に設置された「過重労働撲滅特別対策班」の通称です。

それぞれ、長時間労働対策を目的とした特別部署・チームで、社会的影響力が大きい大企業事案や過労死事案、深刻かつ悪質な長時間労働事案などについて、東京労働局・大阪労働局の対策班をはじめとする全国の労働局の活動を、本省が指揮・フォローするかたちになります。

「本省の指示に沿って労働局や労働基準監督署が使用者に対し適正に指導しているかを確認することと、新たな課題などが生じた場合にはそれに対応する必要な指示などを検討し労働局に降ろす業務をしています」

そう語るのは、第一係(かとく一係)所属の猪股茉以係員。最近の特徴的な事案は、新型コロナウイルス感染症対応の最前線の現場で生じている長時間労働だと言います。

指導すべきところは指導しつつ、一方で指導が感染症対応に悪影響を及ぼさないようにと試行錯誤して対応に当たっています。

●トラック、バス、タクシーの専門委員会の舞台づくり

他方、第二係(かとく二係)所属の前田優佳係員は、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)の改正に向けた業務に携わっています。

霞が関界隈で言うところの“ロジ”担当で、公労使の代表委員で構成される「自動車運転者労働時間等専門委員会」の会議の周辺業務(会場手配、物品や資料の準備、関係者への事務連絡、議事録の校正作業など)を担い、円滑に進ませることが主な仕事です。

「会議の準備は『すべて整っていて当たり前』なので、漏れがないようシミュレーションをしっかり行うようにしています。改善基準告示の改正の議論に当たっては、専門委員会の下にトラック、バス、タクシーの業態別作業部会も設置しており、これらの会議を昨年から計30回以上重ねてきました。この12月にいよいよ改正告示が公布、2024年に施行されますが、最後のとりまとめの会議が終わったときは感極まるものがありました」



猪股茉以
労働基準局監督課 過重労働特別対策室 過重労働特別監督第一係



ミクロな視点の労基署勤務 マクロな視点の本省勤務

分厚い過去の資料のなかには、本省ならではの仕事につながる情報が。「労基署時代は各地方の特性のなかでの仕事でしたが、本省では各地方にどんな特色や問題があるかが網羅的に見えます。それらをどう取りまとめて施策に結びつけていくかを考えるのは、すごくやりがいがあります」(猪股係員)



ピンポイントで「かとく」を希望し、そのとおりに

猪股係員は、北海道で監督官のキャリアを開始。札幌中央労基署→旭川労基署→群馬県・藤岡労基署→本省の順だ。かとくに配属されたのは、ピンポイントで「かとく一係」を希望したことのほかに、労基署時代に労災補償業務も経験していたことが理由ではないかという




前田優佳
労働基準局監督課 過重労働特別対策室 過重労働特別監督第二係



労基署とはまるで違う種類の仕事で「転職したみたい」

本省での仕事は労基署での仕事とはまるで違い、「転職したみたいだった」と語る前田係員。特に本省ではメールのやり取りがとにかく多い。「最初のころはメールをさばききれず、見ることも追いつかなくて、人生で初めて仕事中に胃が痛くなりました(笑)」



本省勤務4年目、全く想像していなかった「かとく」配属

前田係員は、岐阜県内の労基署で3年間現場経験を積み、4年目から本省に勤務。労働基準局安全衛生部を2年間経験した後、「かとく二係」に配属された。「監督課への希望は出していましたが、かとく二係で告示改正の業務に携わるとは全く想像していませんでした」とのこと



肝に銘じる「何事も上司に相談、一人で決めない」

猪股係員が肝に銘じている仕事上のルールは、「何事も一人で決めないこと」。以前、システム改修業務を上司に相談せずに進めたところ、すぐに終わるはずの仕事が数カ月もかかってしまったことがあったからだ。「相談しないと、後で大事故につながると痛感しました」



過労死等防止に向けた告示見直しの会議会場

今年9月に開かれた、「自動車運転者労働時間等専門委員会」の会場をセッティング中の前田係員(写真左奥右で作業中)。この会議で、労働時間と休憩時間を合わせた拘束時間の上限を、現在の年3,516時間から年3,300時間に短縮すること(トラックの場合)などが決められた


 

最近、女性の監督官の採用が増えた理由

女性の監督官の採用が近年増えた理由について、「セクハラ事案などは同性にしか相談しにくいし、実質的に女性監督官しか相談者の気持ちが推し量れない場合もある」と、猪股さんは語る。社会に生きるすべての労働者の安心・安全のため、監督官の採用の仕方も変わりつつある
 

出  典 : 広報誌『厚生労働』2022年12月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省