「学びの好循環」に向けて 学び・学び直しでキャリアアップ

リスキリングやリカレント教育などへの関心が世界的に高まっており、日本でも「人への投資」の重要性がうたわれています。そこで本特集では、労働者の自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直し促進の重要性や先進的な企業事例、人材開発に向けての公的職業訓練の種類や内容、生産性向上人材育成支援センターや人材開発支援助成金などについて紹介します。11月は「人材開発促進月間」であり、同月10日は「技能の日」です。この機会に、労働者も企業も学び・学び直しについて考えてみませんか。




<Part1>
国の支援を知ろう
人材開発促進の重要性


国は、人材開発を促進するため、さまざまな支援を実施しています。人材開発施策の全体像を踏まえたうえで、ここでは特に公的職業訓練の全容、訓練の種類や分野、その効果、今後の展望などについて、厚生労働省の人材開発統括官に聞きました。

解説者

高木俊介
人材開発統括官 訓練企画室 計画指導係長



●公共職業訓練と求職者支援訓練

「人生100年時代」と言われるなかで、日本では労働者の職業人生の長期化や、労働者を取り巻く環境の変化が大きくなっていくことが予想されています。そのため国は、「人材への投資=人材育成・開発」に力を入れています。





人材開発施策の全体像は、図表1で示しているとおりです。労働者となるあらゆる人材を対象に、さまざまな施策を講じています。なかでも今回紹介したいのは、公的職業訓練(ハロートレーニング)です。この訓練には、公共職業訓練と求職者支援訓練の2つがあります(図表2)。雇用保険を受給している人を主な対象としているものが公共職業訓練で、雇用保険を受給できない人を主な対象としているものが求職者支援訓練です。





公共職業訓練は離職者向けとイメージされやすいですが、在職者や学卒者を対象としたものもあります。離職者向けの実施機関は、国(ポリテクセンター)と都道府県(職業能力開発校)と民間の教育訓練機関などです。民間の場合は都道府県からの委託という形で行われ、地域のニーズに合った訓練内容を提供しています。訓練期間は概ね3カ月~2年になります。

在職者向け訓練は、現在企業に雇用されている人がスキルの獲得・向上を図るもので、訓練期間は概ね2~5日。たとえば、建築系の会社に勤めている人が、もっと建築に関連するスキルがほしいとなったときに利用する訓練です。伸ばしたいスキルに応じた訓練を受けることができます。

一方、求職者支援訓練は、民間の教育訓練機関などが実施します。訓練コースごとに厚生労働大臣が認定し、認定された訓練コースには国から奨励金という形で費用面のサポートをしています。訓練期間は2~6カ月になります。

これまで紹介した離職者向けの公的職業訓練の入り口はハローワークとなっており、再就職のために知識や技能の習得が必要な方に職業訓練の受講をご案内します。職業訓練は、申し込み期間や実施期間が決まっているので、受けたい分野の訓練について、いつ、どの施設がどのような訓練を行うのかといった情報を確認してください。なお、これらの情報は自宅で調べることも可能です(14、15ページ参照)が、申し込みはハローワークで行っていただく必要があります。また、職業訓練を実施している施設の見学会等も行っていますので、事前に行ってみるのもよいかもしれません。


●ITと介護・福祉の分野で高まる人材ニーズ





訓練分野では特にITと介護・福祉に力を入れています(図表3)。

IT分野については、デジタル田園都市国家構想基本方針を内閣官房で取りまとめており、デジタル人材を将来的に230万人育成していきたいという狙いが根底にあります。公的職業訓練も、この230万人育成方針に組み込まれています。デジタル社会の推進に最低限必要な人数は推計で330万人と設定されており、現在の情報処理・通信技術者の人数100万人との差の230万人をどうしていくかというところで、公的職業訓練による育成も重要視されています。

介護・福祉分野については、今まさに人材が不足している、つまり必要であることが重要視されている理由です。たとえば、実際に開講している訓練コースの一つとして介護実務者養成科というものがあり、就職するために必要な介護の知識や技術を身につけることを目的にしています。

もちろん、ITや介護・福祉以外にもさまざまな分野の訓練コースが多種多様に準備されているので、一度調べてみてはいかがでしょう。


●公共職業訓練の効果分析

先般の公共職業訓練の効果分析をもとに、訓練による再就職の効果の検証を行っており、公共職業訓練を受講することで、新職に就きやすくなる傾向が見られ、訓練の種別にかかわらず同様に再就職しやすい傾向があるといった結果が出ています。こうした結果を踏まえると、再就職に向けて個人でスキルアップに励むこともよいですが、職業訓練を受講することも有効な手段の一つとして活用を検討いただきたいと思います。


●地域のニーズを踏まえた職業訓練の実施





今年10月からは、地域職業能力開発促進協議会を各都道府県単位で設置しています。協議会には労使団体のほか、職業訓練実施機関や、リカレント教育を実施する大学、民間の職業紹介事業者などに参加してもらっています。

協議会では、地域の職業訓練の状況について議論し、人材ニーズの把握や訓練効果の検証を行うこととしています。たとえば、応募倍率も就職率も高い訓練コースの場合は、申し込み者数に応じた定員の拡充について検討すること、応募倍率は高いが就職率が低い訓練コースの場合は、求人ニーズに即した訓練内容であるか、あるいは就職支援策を強化する必要性について検討することが改善の方向性として考えられます。こうした議論を地域ごとに行っていただいて訓練内容などを改善し、地域のニーズや実情に即した職業訓練を実施することとしています。





コラム
テクノインストラクターの活躍


職業訓練を受ける人を増やしていくと同時に、教える側の人材も増やしていく必要があります。国(ポリテクセンター)と都道府県(職業能力開発校)には「テクノインストラクター」と呼ばれる指導者がいます。テクノインストラクターは、公共職業訓練の場で受講者にスキルアップや就職の支援を行う、職業能力開発促進法に基づく国家資格を有する「専門職」です。

テクノインストラクターの役割は大きく四つあります。

一つ目が「技術的指導」です。就職やスキルアップに必要な知識・技能・技術についての指導や、再就職支援を行います。二つ目が「キャリアコンサルティング」です。受講者一人ひとりのスキル・個性・職歴などを踏まえたキャリア指導を行います。三つ目が「人材育成・訓練コーディネート」です。人材ニーズや地域ニーズ、技術的動向などを把握し、企業などで必要とされる人材を育成するための訓練カリキュラム作成や訓練コーディネートを行います。そして四つ目が「訓練技法の開発」です。指導方法や訓練で使用する教科書・教材・実習装置の開発などを手がけます。
 

出  典 : 広報誌『厚生労働』2022年11月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省