新型コロナウイルス最前線


新型コロナウイルス最前線 第19回

講演会レポート
コロナ対応における自治体職員の過重労働・メンタルヘルス対策
~大阪市・埼玉県・群馬県の事例に学ぶ~

厚生労働省では、今年3月24日に「新型コロナウイルス感染症等対応における自治体職員の過重労働・メンタルヘルス対策に関する取組事例の共有について」(※今年3月22日新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡を自治体向けに発出)の説明会を実施しました。本取り組みの目的と事例について担当者に聞きました。


●自治体の取り組みの好事例を共有・発信

――説明会開催の目的を教えてください。

 新型コロナウイルス感染症への対応については、感染力の強い変異株の流行など、これまでの想定を上回る規模・スピードで感染が拡大したことを受け、自治体において業務の重点化など、さらなる体制強化に取り組んでいただいてきたところです。そのなかで、これらの対応を行う職員の過重労働・メンタルヘルスに関するさまざまな課題も明らかになってきており、既に組織的な業務改善やストレスケアの仕組みづくりについて取り組まれている自治体もあることも承知していました。

 今回、厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)「災害発生時の分野横断的かつ長期的なマネジメント体制構築に資する研究」(研究代表者=尾島俊之・浜松医科大学健康社会医学教授)において、「新型コロナウイルス感染症対応を含めた健康危機管理における職員等の過重労働・メンタルヘルス対策」について検討し、過重労働・メンタルヘルス対策のポイントを【業務マネジメント】【メンタルヘルスケア】の柱でまとめました。これらの自治体の取り組みの好事例を広く共有し、発信することが必要と考え、説明会を開催いたしました。

●業務マネジメントとメンタルヘルスケアの重要性

尾島俊之氏/浜松医科大学健康社会医学 教授
相馬幸恵氏/新潟県三条地域振興局健康福祉環境部地域保健課

 柱ごとにみると、【業務マネジメント】の具体例としては、「全庁体制による業務の分担化・効率化」、「職員間の情報共有」、「積極的な情報発信・広報」、「労務管理」が挙げられました。また、【メンタルヘルスケア】としては、共感ミーティングなど意識的なコミュニケーションの定例化といった「相互支援」が挙げられました。そして、【その他】としては、「職員の家族への支援」を検討している自治体もありました。



――各自治体の取り組みの事例にはどのようなものがありますか。

事例1
西本伊津美氏/大阪市総務局人事部

・長時間勤務職員への健康被害防止対策として、産業保健スタッフが面接対象者の把握・モニタリング、出張対応を行うほか、労務管理部門と連携し、応援職員については勤務状況を派遣元が情報収集し勤務先と共有することで、従事している場所で面接ができるよう対応しています。

・面接対象者が急増した際は、面接がタイムリーに実施しづらいこともありましたが、過去の健康管理情報(健診結果・既往歴等)を参考に優先順位をつけて対応し、衛生管理者の業務を産業保健スタッフが支援、ICT等も活用して効率化を図っています。

・メンタルヘルス・相談窓口の情報発信は、庁内ポータルの活用、管理監督者への周知、対面交流が減っており相談相手を得にくい新規採用職員・新任係長へは直接メール発信を行うなど、相談事業等の利用促進に積極的に取り組んでいます。また、管理監督者自身も過重労働となる傾向にあるため、ラインケア・セルフケアの重要性を発信しています。

・体系的なメンタルヘルス研修はオンライン化しつつも、対面が望ましい職場環境改善研修は、実際に職場に出張して実施しています。


 

事例2
斉藤富美代氏/埼玉県狭山保健所

・「業務の可視化」と「一人二役」を導入して、過重労働対策を進めてきました。「業務の可視化」では、ホワイトボードを活用した進捗管理などにより、誰でもリモートでも業務内容・進捗状況がわかるようになりました。「一人二役」では、担当を超えた業務フォロー体制の明確化などにより、複数名で業務をカバーして、時間外勤務縮減、職員の肉体的・精神的な負担軽減を実現しました。

・統括保健師が、保健師以外でも従事可能な業務を判断し役割分担をすることで、全所体制をとっています。特に、若い世代への初回連絡、一部調査、マスコミ対応などは本庁が対応することで、現場が業務に集中できる体制をつくっています。また、応援職員へのオリエンテーションは動画視聴とし、交代要員との引き継ぎは応援職員間で行っています。

・夜間対応が増加した時期は深夜対応の翌日をフレックスタイム制とする、夜勤体制をとる、休日出勤の代休は連続休暇とするなどに取り組んでいます。
・電話連絡等に使用するヘッドセットの導入や、医療機関へHER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム)の利用を個別にお願いすることで、業務の効率化・負担の軽減につながります。

・自宅療養支援においては、診断を受けた医療機関で患者の健康観察を担ってもらうことで、保健所業務の負担軽減だけでなく、患者の安心にもつながります。

・新人職員の育成は職員の負担軽減につながると考え、所をあげて最優先課題として取り組んでいます。

・ただし、第6波は感染者数の激増に伴い業務量は膨大となり、戦力不足は否めず、現場の工夫で乗り切るには限界を超えていると感じます。
 

事例3
武智浩之氏/群馬県利根沼田保健福祉事務所 吾妻保健福祉事務所

・全所体制を構築するため、すべての職員向けの陽性者対応マニュアルを作成することに加えて、随時更新し、感染症担当以外の職員でも電話対応などが可能な体制をとっています。

・土日祝日体制の見える化・均等化、会計年度職員の採用、本庁および地域機関の他部局からの応援により、休暇が取得できる職場環境を整備し、モチベーション維持につなげています。




 

●保健所職員の負担軽減へ

――今後予定している取り組みなどがあれば教えてください。

 組織的な業務改善やストレスケアの仕組みづくりに取り組んでいる保健所もあると承知しており、4月に実施している保健所体制の確保状況調査において、過重労働・メンタルヘルス対策の好事例を収集しているところです。好事例を集約して横展開するなど、引き続き保健所職員などの負担軽減につながる支援を行っていきたいと考えています。

・研究班のHPはこちら
http://dheat.umin.jp/
・講演会動画はこちら
https://youtu.be/XrQCE84g0cI


広報誌『厚生労働』2022年5月号
発行・発売:(株)日本医療企画