HPVワクチンについて知ってください   子宮頸がん予防の最前線


今年4月に約8年ぶりにHPVワクチン接種の積極的な勧奨が再開しました。本特集では子宮頸がんや、その予防のためのHPVワクチンに関する最新情報を伝えるとともに、ワクチン接種者の声やがん検診の現状なども紹介します。





●女性の多くは一生に一度HPVに感染する

 性的接触のある女性の50%以上が一生に一度はヒトパピローマウイルス(以下、HPV)に感染するといわれており、HPVの感染によって一部の人は子宮頸がんに罹患します。日本では年間に約1.1万人が子宮頸がんにかかり、約2,900人が亡くなっています。

  子宮頸がんは、子宮の頸部(子宮の出口に近い部分)にできるがんで、若い世代の女性に多く発症するのが特徴です。20歳代から罹患者数が増え始め、30歳代までに年間約1,000人の女性が治療で子宮を失い、妊娠ができなくなってしまいます。

一生のうちで子宮頸がんになる人は、1万人あたり132人で、これは1クラス=約35人の女子クラスとして換算した場合、2クラスに1人くらいは子宮頸がんになる計算です。そして、子宮頸がんで亡くなる人は1万人あたり34人で、10クラスに1人ほどはいるということになります。

 子宮頸がんにつながるHPVの感染は、HPVワクチン接種で防ぐことができ、それにより子宮頸がんの原因の50~70%を防げます。これは公費で受けることが可能です。世界保健機関(WHO)も接種を推奨しており、2020年11月時点で110カ国で公的な接種が行われ、カナダやイギリス、オーストラリアなどの接種率は約8割となっています。





 今年4月からのHPVワクチン接種の積極的な勧奨の再開を機に、ワクチンについて正しく知り、「接種する・しない」を自分自身で考え、選んでほしいです。






Part2
正しい知識で制度を活用する
——対象拡大と支援体制の構築



解説者
井本成昭
健康局健康課予防接種室 評価分析専門官




約8年ぶりにHPVワクチンの積極的な勧奨が再開します。ワクチンの接種対象や、再開までに対象期間を過ぎてしまった人へのキャッチアップ制度について、厚生労働省の担当者が解説します。


●安全性を評価する体制整備

 HPVワクチンは、2013年4月に定期接種化しました。公費で接種でき、その対象は小学校6年~高校1年相当の女子です。基本的に、中学校1年のときに自治体から予診票が届きます。対象年齢の間に決められた間隔をあけて、同じワクチンを3回接種します(図表1)。





 ところが、HPVワクチンは、定期接種化された2カ月後に積極的勧奨の差し控えになり、2019年ごろまでは接種率は1%未満でした。そこから子宮頸がんやワクチン接種についての認識や理解が広がっていき、2020、2021年度と、徐々に接種率が上がってきています。
HPVワクチン接種に限らず、予防接種を受けた人に重い健康被害が生じる場合が、まれにあります。そうした場合は、申請し認定されると、法律に基づく救済(医療費・障害年金等の給付)が受けられます(図表2)。





 今回の積極的勧奨の再開に際して、控えていた約8年の間に国は、ワクチンの科学的根拠に基づいた整理や、安全性を評価する体制の整備等に努めてきました。安全性を定期的にモニタリングするとともに、各都道府県に1つ以上の協力医療機関を設置したうえで、診療体制の維持を目的とした定期的な研修会や、受診した患者さんをフォローアップできるような研究を実施しています。


●控えていた8年間の対象者をフォロー
 
 今回の定期接種の積極的勧奨再開までの約8年間のうちに、対象外になってしまった人に対しては、改めて公費で接種を提供するキャッチアップ接種を行っています。

 対象者は1997~2005年度生まれの9学年で、接種期間は今年4月~2025年3月までとなります(図表3)。自治体から個別に予診票が送付されますので、接種について家族なども含めて、十分に検討・判断をしていただきたいです。





 HPVワクチンは16歳までに接種するのが最も効果が高いですが、それ以上の年齢で接種しても、一定の有効性があることが国内外の研究で示されています。
 
 HPVワクチン接種は、子宮頸がんの罹患を防ぎ、死亡率を下げる一助です。


Part4
子宮頸がん検診の重要性
——20歳からの検診で早期発見・早期治療へ


HPVワクチンでの感染予防とあわせて重要なのが、子宮頸がん検診。これは、子宮頸がんを早期発見・早期治療し、その死亡率を下げるために必要なものです。日本の子宮頸がん検診の現状について、厚生労働省の担当者に聞きました。


解説者
渭原 克仁
健康局 がん・疾病対策課 課長補佐



●検診受診率の向上のため年齢に合わせた周知を工夫

  現在、日本では「第3期がん対策推進基本計画」に則ってさまざまな取り組みを行っており、がん予防に関しては、がん検診全体の受診率が未だ50%に達していないことが課題となっています。胃がん、肺がん、大腸がん、子宮頸がん、乳がんのそれぞれの男女の検診受診率をみると、肺がん(男性)以外は50%を下回っているのが現状です。
 
 子宮頸がん検診の受診率は43.7%で、年齢別にみると20~24歳が15.1%と最も低く、30代後半から50代前半までは50%を超えています(図表1)。





 子宮頸がん検診は20歳以上の女性が対象です。がん検診のお知らせは対象年齢の女性に向けて自治体から送られてきますが、検診スタートの20歳は自身の健康への意識が高いとは言えず、自治体からの周知も十分に届いていないことがあります。

 そうした若い世代に対して、各自治体では検診の周知のやり方を工夫しています。たとえば、成人式で啓発をしたり、大学と連携したり、SNSで情報発信をしたりしています。


●早期発見・早期治療により子宮頸がん生存率を上げる

 日本の子宮頸がんでの死亡率は増加が続いており、その要因の一つとして検診の受診率が低いことが挙げられます。

 がん検診は、対象集団全体の死亡率を下げる対策型検診と、個別の死亡リスクを下げる任意型検診があり、子宮頸がん検診は自治体では前者として実施されています。これは予防対策として行われる公的なサービスであり、多くの自治体で費用補助や受診勧奨をしているので、対象年齢になったら定期的(2年に1回)に検診を受けてほしいです(図表2)。





 コロナ禍で検診の場に行くことを控える傾向もありましたが、子宮頸がん検診は不要不急ではなく「必要な外出」です。検診により早期発見・早期治療につなげることで、生存率のみならず、妊娠のために必要不可欠な子宮を温存できる可能性も上がります。自身の健康、生死、幸福にかかわる問題だということを認識していただき、自分は大丈夫だと思わずに、検診に行っていただきたいです。





 

出  典 : 広報誌『厚生労働』2022年5月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省