罪を犯した高齢者・障害者に寄り添う 生きづらさを解きほぐす福祉の力


受刑者のなかには高齢者や障害者が一定数含まれています。罪を犯した高齢者や障害者が矯正施設※を退所後、再犯をすることなく地域で安定した生活を送るためには、福祉の支えと地域の理解も必要です。本特集では、矯正施設入所中から退所後までの支援をしている「地域生活定着支援センター」の役割や取り組み、その具体的な事例にスポットを当てることを通して、地域のなかで一緒に生きていくにはどのような支援が求められるのかについて考えます。

※犯罪や非行をした人を収容する施設で、刑事施設(刑務所、少年刑務所、拘置所)、少年院などがあります。











<今年度からスタート 「入口支援」から見えるもの>

誰一人取り残さない
地域共生社会の実現をめざして



今年度から「被疑者等支援業務(入口支援)」がスタートしました。その狙いと取り組み内容について、厚生労働省の担当者が解説します。


厚生労働省社会・援護局総務課
矯正施設退所者地域支援対策官
伊豆丸剛史


早期介入が生活再建・再犯防止につながる

 12年前に設置された地域生活定着支援センターでは、これまで矯正施設から出所する帰住先のない高齢者や障害者の支援(出口支援)に取り組んできました。そこに今年度から新たに「被疑者等支援業務(入口支援)」が加わりました(図1)。




 
 被疑者等支援業務とは、逮捕されたり、裁判中であったりする刑事司法手続きの入り口段階にある高齢者や障害者の被疑者・被告人に対して、釈放後直ちに必要な福祉サービスなどを利用できるように支援するものです。従来よりも早い段階でかかわっていくことで、矯正施設を経て出所する人だけでなく、起訴猶予や執行猶予などの処分で釈放となった人への社会復帰支援も可能となります。

 法務省法務総合研究所の調査によると、同センターの支援(出口支援)を受けるかどうかで、刑務所など刑事施設から出所した高齢者や障害者(知的障害・知的障害以外の精神障害)の刑事施設への再入所の有無に大きな差が出ています(表1)。支援を受けた人は受けていない人に比べて、再入所率が高齢者で約7分の1、障害者で約4分の1に減っています。このような同センターの取り組みは、福祉的な支えなどがあれば、社会生活が長く維持できる人が多いということを示唆しており、生活再建が結果的に再犯防止にもつながるということを示しているといえるでしょう。






罪の背景にあった「生きづらさ」

 私自身、昨年までは同センターのソーシャルワーカーとして、現場に身を置く一人でした。そこで出会い、支援を行った人たちは800名を数えます。「犯罪者」として出会った彼らの生育歴を目にしたとき、生まれながらにして愛着関係や家庭環境が欠落している人、虐待やいじめ、搾取などといった被害的な経験を幾重にも折り重ねて生きてきた人たちがいかに多いかに、いつも驚かされていました。それは、罪の背景には「生きづらさ」が隠されている、というそれまで想像もしていなかった現実でもありました。

 誰一人取り残さない「地域共生社会」の実現を考えるとき、そもそもどこに「生きづらさ」が隠れていて、何が「生きづらさ」の障壁となっているのか、そういった現実が見えないままでは、効果的な取り組みにもつながりにくいことは明らかです。

 そういった意味では、罪を犯した高齢者や障害者の立ち直りに寄り添う同センターの取り組みは、その「生きづらさ」を明らかにしていく取り組みともいえるでしょう。また、その明らかとなった「生きづらさ」を解きほぐしていくことが福祉の力だとすれば、そのための支援の「扉」は、一つだけではなく(出口支援)、二つの扉があっても良いはずです(入口支援)。

 犯した罪の償いはもちろんですが、罪の背景にある「生きづらさ」も解きほぐしていくことこそが、誰にとってもやさしい「共生社会」の実現につながっていくのではないかと考えています。
 

 

 
出  典 : 広報誌『厚生労働』2021年12月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省