地域共生×○○


第3回 地域共生×カフェ

自然に出会い、交流できる
つながる場としてのカフェの可能性

お茶を飲んだり、会話を楽しんだり、読書をしたり、仕事をしたり。町に溶け込み、誰にでも開かれた憩いの場、カフェ。そんなカフェの特性を活かし、困りごとや課題解決という視点ではなく、「心地よい」「楽しい」「おいしい」を入り口として人々のつながりを生み出している2つのカフェの実践を紹介します。多様な人が自分らしく過ごせる空間から生まれる、地域共生の形が見えてきました。


(1)Bazaar café(バザールカフェ)

多様な背景を持つ人たちが
自分らしくいられることが大切


1988年に宣教師が住んでいた洋館に開設されたカフェで、名物は日替わりの多国籍料理。Bazaar Caféは「誰もがありのままの姿で受け入れられ、多様な価値観を互いに尊重すること」を理念に、就労が難しい在日外国人などの社会的マイノリティの就労機会の提供やさまざまな背景を持つ人の居場所や交流の場になっています。その取り組みについて、Bazaar Caféの松浦千恵さんにお聞きしました。



<聞き手>


レッテルを貼られない

——多くの西洋建築を手がけたウィリアム・メレル・ヴォーリズが残した洋館で、お茶を飲むもよし、友達と語り合うもよし、本当に雰囲気のいいカフェですね。同時に外国人や、病気・障害を抱えているなど社会的にマイノリティとされる方々の就労や交流の場にもなっています。多様な人の居場所としてのカフェの良さをどうとらえていますか。

松浦: 福祉施設や相談所だと、そこに行くことで何らかのレッテルを貼られると感じる方もいます。一方、カフェなら誰でも行きやすいし入りやすい。それがカフェの良さですね。
 そんなところに仲間がいて、悩みを聞いてくれたり、相談に乗ってくれたりする。そして、さまざまな背景を持つ人たちが来ているので、困り事の解決につながる出会いがあるかもしれない。これがバザールカフェの魅力だと思います。
 なお、ここでは、さまざまな団体がパーティーやセミナー、勉強会、ライブなどを開催していて、そうした縁もあってつながりが増えていっています。
 ここに来られる悩みを持つ人のほとんどは、口コミや誰かの紹介がきっかけです。行政から紹介されてくる人もいますよ。もちろん、いきなり自分の悩みをカミングアウトすることはほとんどありません。何度か足を運ぶうちに、さまざまな人が来ていろんな話が聞こえてきて、ここなら言ってもいいかな、聞いてもらえるかなという感じになってくるのだと思います。
 たとえばセクシャルマイノリティであることは、バザールカフェでは特別なことではなく、あくまでも一つの特徴として受け止めてもらえる。特定の人が集まっているんじゃなくて、多様な人がそれぞれ自分らしくいられることが大事なことだと思います。


“支える/支えられる”関係を超えて

——バザールカフェは、どのようにして始まったのですか。

松浦: もともとは宣教師館だった場所でのホームパーティー形式で、さまざまな背景を持つ人が集まったことがきっかけです。最初は、仕事に就くのが難しいHIV陽性者の働く場をつくろうとしていたそうです。ただ、その取り組み自体がレッテル貼りになってはいけないという思いからさらに門戸を広げ、さまざまな背景を持つ多様な人が働く場、思いを共有できる場としてスタートしました。現在は12~13人が働いていて、学生や高齢者、留学生などボランティアとして来てくれている人も同じくらいいます。
 私もそうですが、ここに来るボランティアのほとんどは最初、「人を支えることができるのではないか」と思って始めるのですが、続けるうちにさまざまな背景を持つ人たちと交わることを通して、自分の方が癒されたり、支えられたりしていることに気づきます。元気で働いていても、何かあって急に働けなくなることは誰にでもあり得ます。自分の居場所がここにあり、自分の生活・人生のなかにボランティアが必要だという感じがしています。だから長年多くのボランティアが集まるのだと思います。

——20年以上も継続してきた背景には“誰かのために”ではなく、自分のために必要だと感じられることがあるのですね。

松浦: 私は精神科病院でソーシャルワーカーをしています。病院でもバザールでも会う人がいて、病院ではソーシャルワーカーと患者として接しますが、ここでは一人の人間同士です。相手の話を聞くこともあれば、私が話を聞いてもらうこともあります。話を聞いてもらうことで、もう少し頑張ってみようか、という気持ちになれます。また、自分とは違う世界の人だと思っていた人、たとえば、薬物依存症で服役した経験のある方と、皿を洗いながら話すこともあります。そうすると、自分と同じような生きづらさを感じていたことがわかり、何も特別な人ではないと気づきます。視点が変わるというか、見えていなかったものが見えてくる、そんな出会いがあるのがバザールカフェです。
 なおバザールカフェは基督教会や社会事業を応援する財団など、多くの人たちの寄付に支えられています。こんな場所があったほうがいいと思う人たちがいて、お金を出せる人はお金を出し、ボランティアできる人はボランティアをする、それぞれができるやり方で応援して、この場が成り立っています。

Bazaar café
代表者:マーサ メンセンディーク
〒602-0032 京都府京都市上京区岡松町258
075-411-2379
kyoto.bazaarcafe@gmail.com



(2)喫茶ランドリー

ふらっと立ち寄りたくなる
地域住民のくつろぎの場


「どんな人にも自由なくつろぎ」というコンセプトを掲げ、2018年1月、東京都墨田区でオープンした「まちの家事室」を併設する喫茶店「喫茶ランドリー」。お年寄りが話していたり、学生が勉強していたり、育児中のお母さんが集まったり、そうした人たちがイベントをしたり――。ここでは地域の人たちが自分たちのしたいことを自由に楽しみながら、さまざまな交流も生まれています。オーナーの田中元子さんに話をお聞きしました。



<聞き手>



めざすのは私設公民館

——地域の人たちがくつろいだり、勉強したり、仕事をしたり、家事をしたり、イベントをしたり、それらを通じてつながったりできる。喫茶ランドリーは地域のコミュニティスペースとなっていますね。

田中: 私は「1階づくりはまちづくり」を掲げ、土地や建物、まちの価値を最大限に高めることを使命に起業しました。そのときに手袋卸屋さんの作業場だったビルの1階を活用する事業相談を受けたのが始まりです。もともと地域には「いろんな人が自由に使えるスペースが少ない」と感じていました。地域住民のなかには、公民館や図書館、公園など行政サービスに親しめずにいる人もいます。そこで誰もが気軽に立ち寄れて、自分のやりたいことが自由にできる、「私設公民館」のような場をつくりたいと考えたのです。

——なぜランドリーカフェという形態にしたのですか。

田中: コペンハーゲンで偶然ランドリーカフェを見かけた時、子どもからお年寄りまで多様な人たちが思いのままの時間を過ごす光景を目の当たりにして驚きました。一方、この辺りはマンションが増えて人口は増えているのに、ほとんどの人は日中家のなかで過ごして出てこない。ふらっと立ち寄れる、地元のたまり場が必要じゃないかと企画している時に、その光景が思い浮かびました。
 その狙いが当たり、周辺に知り合いのいない若い住民同士がつながったり、昔から住んでいる人たちと知り合いになったりという交流も生まれています。
 助成金等は受給していませんが、経営的には成立しています。欲張らず、身の丈の最小単位で始めたからです。当店のような店をつくりたいと各地から相談がありますが、地域のニーズを知ることが大切だと考えています。

——喫茶ランドリーでは、ミシン、アイロンなどを用意した「まちの家事室」など、立ち寄りたくなるさまざまな工夫が凝らされていますね。

田中: ミシンは頻繁に使わないのにスペースをとるため、「ここで使えるのはありがたい」と喜ばれています。他にも編み物、洗濯をしながら知らなかった人同士でのおしゃべりが始まることもよくあります。洗濯機などのある「まちの家事室」は個室にもなるので会議やパーティーに使われたり、喫茶スペースでは、忘年会やウクレレのライブ、さらには八百屋さんが店先に野菜を並べて販売したこともありました。騒音など近隣の迷惑にならないことなら、まずは何でもやってみています。


特別なものはないが心地よい

——知らない人同士がつながり、好きなことをできる場をつくるにはどんなことがポイントになりますか。

田中: すごいメニューがあるわけではないし、値段だけならチェーン店の方が安いし、おしゃれなカフェとしての完成度が高いわけでもありません。それでも多くの人が来て自然とつながりが生まれたりするのは、ここに来たらくつろげる、堅苦しくないと思える雰囲気によるものだと思います。
 外から奥まで見通せるオープンな設計にしたのも、入りやすくするためです。また、開店時には近隣の方にお手紙を書き、花輪のお裾分けをするなど親しみを持ってもらえるよう心配りをしました。
 「つながり」というとスタッフが積極的に声掛けをするように思われますが、それもありません。話したそうにしている人には声を掛けますが、あくまでも自然体で、マニュアルもありません。当店ではお客様にもスタッフにも自分らしく振る舞ってほしいから、主婦やお年寄りといった属性ではなく、ここのやり方を肯定的に見てくださる老若男女さまざまな方がいらしています。
 いろんなことをする人が現れるのは、誰かがやっているのを見て「自分も」と思えるからかもしれません。

——コロナ禍で変化したことはありますか。

田中: 自粛の影響で高齢のお客さんが減った一方で、在宅ワークのためノートパソコンを持った男性のおひとりさまが増えました。以前の常連さんがそこに戻ってきてくれると、まちの中のより多様な人々が居合わせ、まちにはいろんな人がいるのだというリアリティを感じられる空間になっていくはず。そこから何が起きるか楽しみですね。新たな近所づきあいを築くきっかけになれたらうれしいですね。

喫茶ランドリー
東京都墨田区千歳2-6-9 イマケンビル1階


 

 
出  典 : 広報誌『厚生労働』2021年11月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省