『令和3年版 労働経済の分析』を紐解く  新型コロナウイルス感染症の雇用や働き方への影響


2019年と2020年の2年間を対象とした『令和3年版  労働経済の分析(以下、労働経済白書)』。同白書では雇用、労働時間などの現状や課題について、統計データなどを活用して分析しています。本特集は同白書をもとに、雇用・労働分野における最新動向を伝え、感染症が流行するなかで経済活動を続けていくための取り組みなどについて解説します。


 

Part1:2019~2020年を振り返る コロナが及ぼした影響とは

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う経済活動の抑制は、雇用や労働にどのような影響を及ぼしたのでしょうか。『労働経済白書』では2019~2020年の雇用・労働分野の動向を概括します。

【新型コロナウイルス感染症が雇用・労働に及ぼした影響】
●「宿泊業、飲食サービス業」など、対人サービスを中心とした産業の雇用者数が減少
●「医療、福祉」などの産業で女性の正規雇用労働者が増加。一方で、「宿泊業、飲食サービス業」などで女性の非正規雇用労働者を中心に減少
●子育て世帯の女性や学生の非労働力人口が増加
●政策の下支え効果もあり、リーマンショック期と比べ、総雇用者所得の減少は小幅
●働き方改革の進展もあり、月間総実労働時間や長時間労働者の減少、年次有給休暇の取得率の上昇(2019年)。また、パートタイム労働者の特別給与が増加(2020年)


就業者数などが昨年4月に前月比約100万人と大きく減少

 日本経済は2019年半ばまでは堅調に推移し、女性や高齢者などを中心に労働参加が進み、正規雇用労働者、非正規雇用労働者ともに継続的な増加傾向にありました。

 しかし2020年に入ると、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の感染が拡大し、雇用情勢は大きく変化することになります。

 最初の緊急事態宣言が発出された2020年4月には、感染拡大防止のために経済活動が抑制され、就業者数、雇用者数がともに前月比約100万人減と大きく減少。一方で、非労働力人口(15歳以上の人口から労働力人口を差し引いた数)は4月に前月比約100万人増と大幅に増加した後、緩やかに減少し、12月時点で前年並みの水準に戻っています(図表1)。

 労働力人口(15歳以上の働く意欲のある人)のうち完全失業者(職がなく、求職活動をしている人)が占める割合である完全失業率は、緩やかに上昇し、10月には3.1%になりました(図表2)。

 なお、休業者数は2020年4月に、前年同月から420万人増と大きく増えましたが、5月以降減少し、その後、横ばいになっています(図表3)。


働き方改革の進展に伴い労働時間が減少

 コロナの感染拡大による影響とは別に、2018年に公布された「働き方改革関連法」の進展を背景とする変化もあります。

 労働時間については、時間外労働の上限規制の導入、年5日の年次有給休暇の確実な取得などによって2019年、2020年と比較的大きく減少しました(図表4)。

 週労働時間60時間以上の雇用者の割合も男性を中心に減少傾向となり、年次有給休暇の取得率も2019年にすべての企業規模において大きく上昇しています(図表5)。

 賃金については、働き方改革関連法の同一労働同一賃金(雇用形態間の不合理な待遇差の解消)に関する規定の大企業での施行などもあり、感染拡大の影響にもかかわらず、2020年にはパートタイム労働者の特別給与が増加しています(図表6)。


雇用調整助成金などで完全失業率が抑制されたと見込まれる

 感染拡大下における雇用維持・継続に向けた支援として、政府は2020年4月1日からの緊急対応期間に、雇用調整助成金(事業主が労働者に休業手当を支払う場合に、その一部を助成する制度)の助成額の日額上限や助成率の引き上げなどの特例措置(コロナの影響を受ける全業種の事業主を対象に、助成額や助成率の引き上げを行った)を講じました。このような下支えのほか、感染拡大前からの人手不足を背景とした企業の雇用維持の努力もあって、2020年の完全失業者数や完全失業率は、リーマンショック(国際的な金融危機)の影響を大きく受けた2009年より緩やかな動きにとどまりました。

 産業別に雇用者数の動向をみると、2020年4月以降、「宿泊業,飲食サービス業」、「卸売業,小売業」、「生活関連サービス業,娯楽業」を中心に減少幅が拡大。特に、女性の非正規雇用労働者が大きく減少し(図表7)、一方「医療,福祉」や「情報通信業」では正規雇用労働者を中心に女性の雇用者数が増えています。

 また、男女別・世帯主との続柄別にみると、男女ともに「未婚の子」で完全失業者数や非労働力人口の増加、「単身世帯」で完全失業者数の増加が目立っています。男性では「世帯主」の完全失業者数が、女性では「世帯主の配偶者」、「世帯主」で非労働力人口や完全失業者数が比較的大きな増加を示しています(図表8)。



Part4:白書の活用の仕方

回答数の多さと分析結果から見えた
雇用・労働環境の切実な実態

2年間を対象に分析を行った本白書のポイントと、そこに込めたメッセージ、活用方法について、厚生労働省の担当者に聞きました。


「コロナの影響」を主なテーマにリーマンショック期とも比較

 今回公表した労働経済白書は、例年と異なり2年分の分析をまとめています。過去2年間の労働経済の動向について分析するうえで、まず、我が国の経済・社会に大きく影響を及ぼしている新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の感染拡大を中心的なテーマに据えました。また、厚生労働省として重要な政策課題である働き方改革の動向についても分析を行っています。

 第Ⅰ部では、主にマクロ的な視点からコロナが雇用・労働に及ぼした影響について、直近で雇用・労働に大きな影響を及ぼした2008年のリーマンショック期との比較を通じて分析しています。

 雇用の面からリーマンショック期に大きく影響を受けたのは製造業であり、また男性への影響が大きかったのに対して、今回の感染拡大では宿泊業・飲食サービス業などで働く非正規雇用労働者の女性が最も大きく影響を受けています。また、リーマンショック期では解雇など人員削減を行う企業も比較的多かったのに対して、今回は政府からの雇用調整助成金などもあり多くが休業に留まり、完全失業率も2.6%ポイント程度抑制されたと見込まれます。

 第Ⅱ部では、⑴感染拡大下で業務の継続を求められた労働者と、⑵テレワークを活用した労働者の実態について分析しています。

 ⑴では、いわゆる「エッセンシャルワーカー」とよばれる労働者の方々を念頭に、医療、介護・福祉、小売業を中心に、労働者の心身の負担の状況を分析しました。

 ⑵では、コロナの流行前からテレワークを導入している企業と、流行に伴って導入した企業を比較して、テレワークの継続状況や労働者の生産性や満足度を上げるための具体策などについて分析しました。いずれも、労使双方へのアンケート調査を行って分析しました。
 

満足度が高く働けるヒントを提示

 アンケートについては、コロナの影響があったにもかかわらず、労使ともに例年と比較しても十分な回答が得られ、実態を知ってほしい、改善したいという、働く現場の方々の切実な思いを感じました。

 特に感染拡大下で業務の継続を求められた方々の心身の健康への影響などは想像していたよりも大きいものでした。こうした実態を伝えるとともに、労働者ができるだけ満足度が高い状態で働くことができるよう、示唆となる分析を掲載しています。テレワークの活用についても同様に、労働者のテレワークでの仕事における満足度等を高めるための取り組みについて、環境整備や仕事の進め方、マネジメントなどの観点から分析しています。

 現在も、労使の方々におかれては日々試行錯誤しながらコロナへの対応に当たっておられると思います。今回の白書では、働く方々が意欲を持って、満足度が高い状態で働けるヒントを、実証的に分析・提示しており、要約版や動画なども作成しているので、経営者の方々にも労働者の方々にもぜひ活用していただきたいです。




 
出  典 : 広報誌『厚生労働』2021年11月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省