健康長寿に向けて必要な取り組みとは?100歳まで元気、そのカギを握るのはフレイル予防だ


いつまでも元気に活動し、家族や友人、地域の人たちとつながり、社会参加しながら毎日を送る――。そんな高齢期を過ごすには「フレイル(虚弱)」の予防・対策がカギとなります。本特集では、フレイルについての解説を含め、その予防方法や自治体の取り組みなどをお伝えします。




Part1:フレイル予防に取り組もう

フレイルの入り口を知る
フレイル・ドミノに陥らないように

健康な状態と要介護状態の中間を指す「フレイル」の定義やその原因を解説するとともに、食事や社会参加、運動など、フレイルを予防するヒントについて示します。


<解説者>
東京大学高齢社会総合研究機構 機構長
未来ビジョン研究センター 教授
飯島勝矢さん
 

身体的・心理的・社会的3つのフレイル

 フレイルとは、健康な状態と要介護状態の中間の段階を指します。

 年齢を重ねていくと、心身や社会性などの面でダメージを受けたときに回復できる力が低下し、これによって健康に過ごせていた状態から、生活を送るために支援を受けなければならない要介護状態に変化していきます。

 フレイルは大きく3つの種類に分かれます。一つ目が「身体的フレイル」です。運動器の障害で移動機能が低下したり(ロコモティブシンドローム)、筋肉が衰えたり(サルコペニア)するなどが代表的な例です。高齢期になると、筋力は自然と低下していきます。

 二つ目が「精神・心理的フレイル」です。高齢になり、定年退職や、パートナーを失ったりすることで引き起こされる、うつ状態や軽度の認知症の状態などを指します。

 三つ目が「社会的フレイル」です。加齢に伴って社会とのつながりが希薄化することで生じる、独居や経済的困窮の状態などをいいます。

 これら3つのフレイルが連鎖していくことで、老い(自立度の低下)は急速に進みます。この連鎖はどこが入り口になるかは、その人次第。老いとは、決して身体の問題だけではないのです。
 

予防により進行を緩め健康な状態に戻せる

 フレイルには「可逆性」という特性もあります。自分の状態と向き合い、予防に取り組むことでその進行を緩やかにし、健康に過ごせていた状態に戻すことができます。

 予防で掲げている柱は3つあります。一つは、たんぱく質をとり、バランスよく食事をし、水分も十分に摂取するなどの「栄養」です。次に、歩いたり、筋トレをしたりするなどの「身体活動(運動)」。さらに、就労や余暇活動、ボランティアなどに取り組む「社会参加」です。

 「歩かないと歩けなくなる」「たんぱく質を意識してとる」などは、もはや一般常識となりつつあります。それでも、予防に取り組まないのは、一人ひとりが「自分ごと」として捉えていないからではないでしょうか。フレイルに関しては、かかりつけ医次第ではなく、自分次第だということを知ってほしいです。

 私は、さまざまな場所でフレイルやその予防について話しており、高齢者の方々には科学的根拠を持って説明することで「良質な脅し」をすることを心がけています。

 歩行速度が落ちてきたり、食事でむせたりすることが増えていませんか。家族と住んでいるのに、一人で食事をしていませんか。そうした気づきから、行動は変えられます。

 予防は栄養・身体活動・社会参加の三位一体です。フレイルの入り口は人それぞれだからこそ、一つの入り口からドミノ倒しのようにならないように、それぞれの予防に努めることが重要です。

 どこでドミノの流れを止められるかは、予防への取り組み次第です。




Part2:外出自粛の影響とは……
新型コロナウイルス感染症と介護予防・フレイル対策

新型コロナウイルス感染症流行による外出自粛の長期化に伴い、国民は「生活不活発(動かないこと)」に陥りやすい状況になっています。こうした状況は、介護予防やフレイル対策にどのような影響を及ぼしたのでしょうか。厚生労働省の担当者が解説します。


老健局 老人保健課
介護予防栄養調整官
日名子まき
 

増え続けている「通いの場」

 国は2019年に「健康寿命延伸プラン」を策定し、2040年までに男女ともに健康寿命の3年以上延伸を掲げました。そのなかで具体的な取り組みの柱の一つとして「介護予防・フレイル対策、認知症予防」が位置づけられ、「通いの場」のさらなる拡充の数値目標も提示しました。

 住民主体の通いの場には、ボランティアや茶話会、趣味活動などの社会参加を目的とするものや、運動機能向上、低栄養予防、口腔機能向上、認知機能低下予防を図るためのものなどがあります。本年8月には、「だれが(運営)」「どこで(場所)」「なにを(活動)」の3つの視点で通いの場を類型化して事例を示し、農作業や生涯学習、多世代交流など多様な取り組みを推進しているところです。

 こうした通いの場の数と参加率は、2013年度に4万3,154カ所と2.7%だったのが、2019年度には12万8768カ所と6.7%と大幅に増えました。

 2019年度まで増え続けていた通いの場も、2020年4~5月の緊急事態宣言時には約9割が活動を自粛。しかし、6月以降は感染対策をして活動を実施するところも増えていき、11月には約8割が活動をしていたという報告もあります。

 また、2020年度(コロナ禍)と2019年度(コロナ前)の高齢者(75歳以上)の心身の状態について把握した調査では、外出の機会が減少した人が約18%増えたり、うつの項目に該当する人が約5%増えたなどの変化が見られました。


通いの場の事例を特設WEBサイトに掲載

 こうした状況も踏まえ、国では昨年9月、高齢者が居宅で健康に過ごすための情報や、新型コロナウイルス感染症に配慮した通いの場の取り組み事例などをまとめた特設WEBサイト「地域がいきいき 集まろう!通いの場」を開設しました。9月から今年3月までのWEBサイトのアクセス数は約33万8,000PV(閲覧数)で、高齢者をはじめ自治体や高齢者を支援する人などがアクセスしてくださっているようです。今後も、WEBサイトにはさまざまな取り組み事例や工夫に関する情報を集めて掲載していくので、ぜひ活用してみてください。

 外出自粛の長期化で、高齢者の閉じこもりや健康への影響が懸念されることから、コロナ禍でも、感染対策に配慮して、少人数にしたり、オンラインを活用したりしながら、活動を続けている通いの場もあります。

 コロナ前とコロナ禍とで状況が大きく変わり、高齢者や高齢者を支援する人たちも戸惑っているかと思います。そうした人たちに情報を届けることにより、コロナ禍であっても感染症対策に配慮した形で通いの場を開催するなど、介護予防・フレイル対策につながっていくことを願っています。


特設WEBサイト「地域がいきいき 集まろう!通いの場」

<主なコンテンツ>
・感染予防や居宅で健康に過ごすためのポイント
・通いの場再開の留意点
・通いの場からの便り(事例)
・ご当地体操マップ


 

 
出  典 : 広報誌『厚生労働』2021年11月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省