新型コロナウイルス最前線


第12回
新型コロナウイルス感染症の治療について

“まだ終息の見えない”新型コロナウイルス感染症。本連載では、その動向や対策などを紹介しており、今回は、新型コロナウイルス感染症の治療の現状を解説します。また、自宅療養に備えて揃えておいたほうがよいものや、パルスオキシメーター使用時の注意事項についてもQ&Aでお伝えします。


健康局 結核感染症課
新型インフルエンザ対策推進室長
新型コロナウイルス感染症対策本部 戦略班
竹下 望
 

軽症から中等症、重症まで治療は各段階で異なる


——新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の検査で陽性の場合、重症度によって、どのような薬が有効なのでしょうか。

 基本的にはコロナの陽性者であっても、症状が軽い人に関しては薬を飲まなくても治る人がほとんどです。症状によっては、咳止めや解熱剤などの対症療法の市販薬を使っていただくことも一つです。注意点としては、もともと治療している病気がある人は飲み合わせの問題があるので、市販薬であっても医師や薬剤師に相談をしてください。
 ただし、軽症者のなかにも次のような重症化リスクのある人たちもいます。
 高齢者╱持病がある(糖尿病など)╱免疫不全を引き起こす薬を服用している╱肥満╱妊婦——などです。こうしたリスクのある人たちには中和抗体薬が適用されます。中和抗体薬は、発症から時間が経っていない軽症例であればウイルスの減少や重症化を防ぐ効果が期待されています。


——中等症から重症と言われるのは、どの程度の症状がある人たちを指すのでしょうか。

 中等症以上のコロナの重症度は、中等症Ⅰ、中等症Ⅱ、重症に分類されます。
 中等症Ⅰは、呼吸困難、肺炎がある人で、酸素投与を行う程度までには至らない人などを指します。
 中等症Ⅱは、いわゆる肺炎でも酸素投与が必要な人です。もともと病気で酸素を吸っている人は、症状が出たり陽性になったらすぐに中等症Ⅱになるのではなく、通常使っている酸素の量よりもさらに必要になると中等症Ⅱになります。
 重症は、いわゆる人工呼吸器や集中治療室に入るような人を指します。



出典:新型コロナウィルス感染症COVID-19診療の手引き(第5.3版)P.35  図4-1改変
 

1年前との大きな違いは治療や治療薬があること


——どのような薬が、コロナの治療で使用されていますか。

 軽症から中等症Ⅰの人で、重症化リスクのある人は、7月に特例承認された中和抗体薬ロナプリーブの適応となります。この薬剤は1回の点滴投与を行う薬剤で、発症早期に使用することが望ましいとされています。中等症Ⅰであれば、昨年5月に特例承認された抗ウイルス薬レムデシビルも適応となります。レムデシビルは点滴で1日1回で5日から10日間投与します。
 中等症Ⅱや重症になると、中和抗体薬は適応からはずれます。レムデシビルは適応であり、さらに免疫を抑える薬であるデキサメタゾンといったステロイド薬や、関節リウマチで使用されているオルミエントも適応になります。デキサメタゾンは飲み薬も点滴もありますし、オルミエントは飲み薬になります。
 中等症Ⅱや重症では、酸素投与が必要な状態ですので、酸素投与や重症度によってはネーザルハイフローといった高流量酸素投与や人工呼吸器による管理を行うとともに、レムデシビルや免疫を抑制するステロイドやバリシチニブを併用することもあります。


——コロナが流行しているなかで、治療薬も徐々に増えてきていますが、安全性や有効性はいかがでしょうか。

 現在使用されているいずれの薬剤も、コロナが発生した当時は存在しなかった、または有効性がわからなかったもの。1年数カ月が経過するなかで、世界的に十分に治験が行われ、有効性が示されたものが出てきているというのは、非常に重要なことです。ワクチンもあり、治療という面での対応ができるようになってきているのは、1年前との大きな違いだと思います。
 最初は、既存のほかの病気のためにつくられた薬がコロナにも有効ではないかという視点で開発が進められていきました。同時に、コロナのための治療薬の開発も進められてきました。さらに、治験で統計的に優劣をつけたうえで薬事承認されています。
 これだけの治療薬が短い期間で有効性を示し承認されているのは、製薬会社や協力してくれている医療機関の方々、参加された患者さんの支援があったからこそです。
 現在、ほかにも治療薬の開発が進められています。有効性が治験で示され、いずれ承認されて使用できるようになれば、治療の選択肢もさらに増えていくことが期待されます。




<自宅療養のためのQ&A>
先月号で紹介した療養のための知識Q&Aに続き、自宅療養での備えや対応についてもQ&Aで紹介します。どんなものを準備しておけばよいのか? 市販薬の服用は? 健康観察の方法は? など、皆さんからのよくある質問に答えます。
 

Q1
自宅療養時に用意しておいたほうがよいものとは?

A1
自宅療養中は外出することができません。自治体で食料の配送を行っていることもありますが、療養開始後すぐに届かない可能性もあります。そのため、災害対策と同様に事前に用意をしておくと安心です。
次の食品を参考に、5~7日分準備しておきましょう。
・うどんやシリアルなどの主食
・レトルト食品(米を含む)やインスタント食品
・缶詰(果物など)・菓子類
・経口補水液・スポーツ飲料など
また、体温計は平時より電池残量などを確認し、補充しておきましょう。
 

Q2
市販の解熱剤は服用しても問題ないでしょうか。

A2
問題ありません。用法・用量をよく確認して使用してください。
ただし、下記のような場合には主治医や薬剤師に相談が必要です。
・ほかの薬を服用している場合や、妊娠中、授乳中、高齢、胃・十二指腸潰瘍や腎機能低下などの治療中の場合
・薬などによりアレルギー症状やぜんそくを起こしたことがある場合
・激しい痛みや高熱など症状が重い場合や、症状が長く続いている場合
 

Q3
薬が足りなくなったときは、どのように対応すればよいですか。

A3
対応は自治体ごとに異なり、オンライン診療で薬を配送している自治体もあります。受け取り方法は同居者がいる場合は同居者が、いなければ置き配という方法があります。
 

Q4
パルスオキシメーターの数値について、相談の目安および注意事項を教えてください。

A4
SpO2(血中酸素飽和度)が93%以下の場合は、すぐに保健所やかかりつけ医に連絡しましょう。
パルスオキシメーターを使用する際、冷房で指先が冷えていることもあるので、指先を温め、深呼吸をすることで数値が改善することもあります。正しく測定できない場合があるので、マニュキュアやジェルネイルは外して測定してください。
パルスオキシメーターは、メーカーによって測定値に多少の誤差が生じる可能性もあります。
 

Q5
熱が高くつらい場合は重症にあたりますか。

A5
医学的に「重症」と呼ばれるのは、ICU(集中治療室)への入室が求められたり、人工呼吸器が必要な、生命の危機に瀕している人を指します。熱が高く、しんどい場合でも呼吸状態に問題がなければ、軽症に分類されます。
ただし、SpO2の数値が顕著に下がっている場合は、適切な治療を受ける必要があるので、医師などの指示に従ってください。
 

Q6
咳がひどく、痰が絡んでつらいときへの対処方法はありますか。

A6
長時間仰向けで寝ていると、重力で痰がたまりやすくなります。肺をまんべんなく膨らませたり、肺の血流をよくするためにも、時折うつ伏せになるなど楽な体勢で過ごしましょう。
 

Q7
自宅療養時にMy HER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)で健康観察を行うように言われたのですが、どうしたらよいですか。

A7
自治体によって健康管理のツールが異なります。厚生労働省が提供する感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS※)内の健康観察機能(My HER-SYS)を利用する場合は、保健所等からショートメッセージで送られてくるURLにアクセスして、新規登録を完了させた後、自身のスマートフォンやパソコンから健康状況を入力してください。
※Health Center Real-time Information-sharing System on COVID-19

MyHER-SYS登録方法
 

Q8
療養解除について教えてください。

A8
【症状がある場合】発症日=症状が出現した日から、10日以上かつ症状軽快後72時間経過後(または症状軽快後24時間以上空けて2回PCR等の検査を行い、陰性だった場合)に療養解除となります。
【症状がない場合】検体採取日から10日経過後(または検体採取日から6日経過後に24時間以上間隔を空けて、2回のPCR等の検査結果でともに陰性が確認された場合)に療養解除となります。
【無症状者が途中症状が出た場合】当初無症状の人であっても、途中で症状が出現してしまったら、発症から10日間は感染性があるとされているため、発症日が起算日になります。療養解除については、保健所の指導に従ってください。
 

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出  典 : 広報誌『厚生労働』2021年10月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省