Approaching the essence─広報室長がめぐる厚生労働と“ひと”─ 厚生労働省改革


<国民に信頼してもらえる厚労省をめざして>


「厚生労働省改革」。そのねらいは、厚生労働省の職員が、想像力と創造力を豊かに、国民一人ひとりの暮らしの安定という使命にまい進するためのものです。若手職員と広報室長の座談会などを通じて紹介します。



若手発の改革が全省的取り組みへ

 働く職員の誰もが、厚生労働行政分野に問題意識と期待を持って入省してきます。しかし、多忙な日々が続くと、初心を忘れてしまうことがあります。そして、職員の士気が下がり閉塞感がまん延すると、組織のガバナンスの低下や離職者の増加といった悪影響が出てきます。

 実際にこうした問題が明らかとなり、厚生労働省では2019年4月に、20・30代の職員を中心とした若手38名で「厚生労働省改革若手チーム」を立ち上げました。若手チームでは、主体的に自由な発想で徹底的に議論。さらに、職員へのアンケートはもちろん、他省庁や企業、若くして退職した人へのヒアリングを通じて、改革すべき点を洗い出し、同年8月、緊急提言を取りまとめました。

 緊急提言の内容は、厚生労働事務次官を長とする「厚生労働省改革実行チーム」が受け止める形で、同年12月に105の改革項目から成る「改革工程表」としてまとめられ、現在、定期的に進捗状況の検証と見直しが行われています。




 働く環境の改善に関する項目のなかで、広報改革に関する意欲的な項目も多く盛り込まれています。国民生活に密接にかかわる厚生労働省の改革では、国民の皆さんからの信頼を欠くことができません。そのため、国民一人ひとりとのコミュニケーションである広報において、情報をより丁寧にわかりやすく伝えるだけでなく、厚生労働省への共感を得るための取り組みが重要です。

 広報改革では、「ひと、くらし、みらいのために」という厚生労働省のスローガンを軸に、「顔の見える広報」として、職員の思いにのせた政策の発信を強化しています。その一環として、本誌でも政策の紹介・解説、現場訪問や職員勉強会の様子、若手職員の奮闘をお伝えするなかで、職員の思いや熱意にもスポットを当てています。

 そして、これまでの取り組みの基盤の上に、新しい改革が動き出しつつあります。







<座談会 一人ひとりを大切にする組織へ>




若手チームによる徹底した議論

野﨑●今日は、厚生労働省改革にかかわってきた若手メンバーに集まってもらいました。これまでの改革の振り返りとこれからの方向性など、率直な意見交換をしたいと思います。
 岩田さんは、2年前の若手チーム発足のときのメンバーだったんですよね。発足当時やチームでの議論の様子を教えてもらえませんか。

岩田●今回の改革の前にも、厚生労働省では以前から長時間労働や業務の非効率さなど、さまざまな問題を抱えていて、ずっと改革が叫ばれてきました。改革のための提言も何度か出されていましたが、継続的な取り組みにつながらず、厚生労働省の組織はなかなか変わりませんでした。
 そんななか、厚生労働省の組織のガバナンスの欠如を表す不祥事が発覚しました。その対応にさらに人も時間もとられ、疲弊して辞めていく職員が相次ぎました。
 この状況を打破するために、厚生労働省の組織と業務を再検討しようと、一人の職員の声かけで約40名のメンバーが集まりました。メンバーは20代・30代を中心に、省内に18もある人事グループのすべてから若手職員が輩出され、今もそれは変わっていません。

野﨑●当時のチームでの議論は、どんな雰囲気だったんですか? 強いリーダーのトップダウンだったのですか?

岩田●いえ、むしろ、みんなフラットに意見を言い合うために、職種や入省年次かかわらず、敬語を使わないよう徹底していたほどです。毎週1~2回、お昼休みを使って会議をしていたのですが、それは義務感ではなく、「厚生労働省を変えていくにはどうすればいいか」という思いで、皆、自発的に集まっていました。
 また、メンバーだけでの議論に終わらせず、省内の幹部やほかの職員が何を考えているかを確認しながら、チームの議論を進めました。過去の改革は、実施段階において理解が得られず終わってしまっていたからです。約4,000人の職員に対するアンケート調査を2回実施したほか、事務次官から係員まで、さまざまな立場の職員約250人に対するヒアリングも行いました。
 こうしたプロセスを経て議論を重ねた末にまとめたものが、2019年8月に大臣に手交した緊急提言(以下「提言」)です。


「不動」の厚生労働省が動いた

野﨑●これを受けて、具体的な改革工程表を策定され、厚生労働省として提言を受け止め具体的に変えていくフェーズに移っていますね。中野さんは、改革工程表の進捗管理の総括ですが、今、何に重点を置いて取り組んでいるんですか。

中野●改革工程表は大きく、人事制度、業務改革、職場改善、広報改革の4つの柱で、項目にすると現在108項目もあります。全部をフォローアップして、改革が止まらないように組織として取り組んでいるのですが、項目が多数なのと、コロナ対策にマンパワーを最大限投入しているなかなので、職場アンケートの結果をもとに重点的に取り組む22項目を決めています。
 アンケート結果で職員のニーズが最も高かったのは冷暖房の改善※1 で、国会質問の二日前通告※2 やテレワーク、さらにはマネジメントの強化などが入っています。職場環境、業務改善と、人事改革へのニーズが高かったですね。

野﨑●中野さんと三宅さんは、昨夏の人事異動で、厚生労働省改革にかかわるようになりましたが、率直に言って、提言をどう受け止めましたか。

中野●いろんなレベルのものが混ざっているなというのが率直な感想でした。たとえば、冷暖房やテレワークは仕事の効率性という観点から当然整備しないといけないものである一方、提言のなかには、その項目の実施が本当に改革効果を生むのか疑問に思うようなものもありました。あの提言のベースがなくなってはいけませんが、果たしてすべての項目をメリハリつけずにやっていくことが、組織として正しいのかという点は考える必要があると思います。

岩田●若手チームの提言は、とにかくみんなが「嫌だ」と思うものを洗い出していきました。そのため、冷暖房や残業など、職員一人ひとりの仕事に直結する問題に寄っている傾向があります。今となってはそれほど大きな問題ではないというものもあるでしょうから、検証を続けて、必要に応じて整理し直すのは当然のことだと思います。

三宅●ただ、人事課としては、あの提言があったからこそ、推進しやすくなったという取り組みも少なくありません。一例をあげると、採用活動の強化です。特に、インターン生が参加できるイベントや若手交流会の開催、省共通のプログラムの実施など、インターンの受け入れは大幅に改善できました。

野﨑●提言の根底にあったのは、若手の「怒り」だったわけで、それが組織を変える起爆剤になっているのは事実でしょうね。

三宅●でも一方で、エンゲージメント(職員満足度)分析ツールの導入による職場満足度の調査とそれをもとにした職場ケア(離職防止)や、上司が部下の働き方やキャリアパスの相談に乗る取り組み(1on1)などについてはまだまだ課題が残っています。いずれも、若手の提言を受け止められる範囲で実施している側面があり、提言の趣旨に則って十分に実践されているとはいえません。形だけに終わらせないようにするのが課題です。

中野●あと、広報のように、組織としての観点では改革が必要と思われるものであっても、職員個人向けの調査だとそのニーズや必要性が十分に見えてこないという課題もあります。

※1:厚生労働省の冷暖房は、かつては原則全館一律で管理され、夜8時には停止されていた。これが超過勤務をする職員の負担となっていたが、温度調整や稼働時間を改善した
※2:委員会開催スケジュールの事前合意・共有と質問通告2日前ルールを徹底すること




「マイナスを減らす」からもう一歩先へ

三宅●職員採用を担当しているのですが、特に厚生労働省の職場環境への学生の不安を感じます。もちろん、学生のなかには、提言をきっかけに着実に変わりつつある組織、若手が提言を出せる風通しの良い組織と考えてくれる学生もいますが……。

野﨑●職場環境の改善はもちろん重要だし、将来の職員の採用の観点からも加速していかなければいけません。でも、同時に、部屋を涼しくする、廊下を明るくする、労働時間を減らすことができたとして、その先に一体何があるのかという点も考えていないといけないように思います。私は、職場環境の改善とあわせて、職員のモチベーションが内発的に高まっていくような取り組みも必要ではないかと思っています。
 現在、「とびラボ」という、職員が入省した理由となったような本人の興味や関心に沿った企画提案を、公式の職員研修・広報企画として位置づけて組織として応援する取り組みも開始しましたが、これもこのような考えを具体化しようとしたものです。

中野●確かに入省したきっかけや原点を具現化できるように、外に出ていくことを支援するのも組織の重要な役割だと思います。
 これと同時に、職員個人が自分で考え成長していく過程を組織として応援していくことも同じように重要だと思います。「上司に鍛えられる」という風土がありますが、職員の成長が上司次第というのでは組織として弱いと言わざるを得ません。上司と面談し、「自分はどんな行政官になりたいのか」とキャリアパスや必要なスキルについて考える機会を持ち、成長していける。1on1などをそのような仕組みにしていく必要があると考えています。

岩田●それには上司のコーチングスキルの開発も必要になります。研修用の資材の準備だけでなく、仕組みが必要だと思います。

三宅●本当は、令和3年度入省の職員から1on1世代を生んでいくために、公式の研修に入れたかったんです。もし、省内全体での実施が急には難しくても、小さくてもモデルとなるような課室をいくつかつくって、きちんとした取り組みを広げていきたいです。

野﨑●「とびラボ」もそうだし、1on1もそうですが、「マイナスをゼロに戻す」職場環境の改善を超えて、一人ひとりのやる気やモチベーションをどう高めていくか、そのための改革がこれからの鍵ですね。

中野●実際、若手の提言にも、NPOやソーシャルベンチャーでの研修や出向を実施するといった項目などが入っています。でも、これまでの職場環境が良くなかったこともあり、マイナスをゼロに戻す取り組みに焦点が当たりがちだったのは否めません。

野﨑●世の中の注目もどうしてもわかりやすい方に集中した面もあったんだろうと思います。
 しかし、一人ひとりの国民の暮らしの安心を守るためにも、若手も幹部も改革への意欲がある人たちが、厚生労働省を、「職員一人ひとりの思いを大切にする組織に変えていくんだ」と声を挙げ続けていかなければいけません。




<とびだす“R”ラボ(とびラボ):厚生労働省職員の意欲あるチャレンジを応援>

◎とびラボ提案者から

今の担当に縛られず新しい出会いや学びを



吉田慎(大臣官房人事課 企画官)

 本誌でも紹介しているように、厚生労働省では、「社会のリアルに学ぶ勉強会」を開催しています。主催者で毎回テーマを決めていますが、多くの参加者から「○○について学びたい」という声が寄せられています。
 誰かがアレンジした場への参加だけではなく、一人ひとりが今の担当に縛られず、自分自身の関心で新しい出会いや学びを求めていってほしい。そのチャレンジを組織として応援しよう。その思いで、広報室と人事課、厚労省改革若手チームで、「とびだす“R”ラボ(とびラボ)」の創設を実現しました。そして、支援者や当事者との出会いや学びの場、創意工夫あふれるイベントなど、職員からの幅広い提案を応援するため、若手職員を公募して企画委員会が発足しました。
 「とびラボ」の名前には、厚生労働省の建物、職種、現場との壁を超えて飛び出そう、それを企画するラボを始めようという思いが込められています。“R”の一文字は、Real、Reform、Rhythmなど、エネルギーを感じる言葉から取りました。とびラボ発で、職員の学びが深まり、モチベーションが上がり、次々と政策が生まれていくことを期待しています!


◎企画委員会から

頑張る職員からの企画を形に



竹内春輝(労働基準局労災保険業務課)

 労働基準監督官や厚生労働事務官として働くなかで、話を聞きたい有識者、見学したい現場は幾つもありましたが、個人では困難なこともありました。
 とびラボは職員の興味・関心・意欲を糧に、問題意識を持つ仲間を見つけ、研修という形にする場所です。頑張る職員からの企画を形にし、その様子を広報することに魅力を感じ、企画委員に応募しました。職員から寄せられた企画を一緒に育て、厚生労働行政の多様化に貢献したいと思います。



「やってみたい」を実現したい



酒井昭弘(年金局国際年金課)

 入省前と入省後では、厚生労働省でしたいことや興味・関心は変わっていくものと思っています。入省したときの採用区分などに関係なく、今、職員一人ひとりが思い描く「やってみたい」を実現したいと考え、とびラボの企画委員になりました。
 とびラボの魅力は、完璧な企画でなくても、少しでも興味を持った企画を提案していただければ、委員と職員で一緒に磨き上げ企画を実現できることです。私も、さまざまなサポートができるよう頑張ります!



 
出  典 : 広報誌『厚生労働』2021年8月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省