在籍型出向を活用して従業員の雇用を守りませんか


新型コロナウイルス感染症の流行の影響で、一時的に「雇用過剰になっている企業」と「人手不足が生じている企業」があります。そうした企業の雇用を支える「在籍型出向支援」について取り上げます。※前編は5月号に掲載

(前号のおさらい)
「在籍型出向」は、労働者が出向元の企業との雇用関係を維持したまま外部企業に出向するというものです。出向元企業と出向先企業間の出向契約により、労働者は出向先企業と新たな雇用契約を結び、一定期間継続して勤務します。



マッチング支援・助成金・地域内連携で支援する



 政府においては、在籍型出向を活用して雇用を守る事業主を支援するため、令和2年度第三次補正予算および令和3年度当初予算において、約635億円を措置し、①「産業雇用安定センター」によるマッチング支援、②「産業雇用安定助成金」によるコスト負担軽減、③「在籍型出向等支援協議会」によるネットワークの構築、の3本柱で取り組みを進めています。

 このうち、「産業雇用安定センター」によるマッチングについては、先月号の前編で紹介していますので、今回は助成金と協議会について説明します。

 「産業雇用安定助成金」は、コロナの影響で事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が、在籍型出向を活用して労働者の雇用を守る場合に、その要した経費の一部を助成するもので、今年2月に創設されました。この助成金は、出向元だけでなく出向先事業主にも助成されること、出向期間中の賃金や教育訓練経費等に対して助成率が最大10分の9であること、出向の成立に要した初期経費に対して一人あたり最大15万円が助成されることなどがポイントで、出向にかかる事業主のコスト負担を大きく軽減することができます。

 また、在籍型出向を地域に浸透させるため、全国および47都道府県に、労使団体や自治体等をメンバーとする「在籍型出向等支援協議会」を設置・開催し、関係機関が連携して、在籍型出向のノウハウ・好事例の共有、送り出し企業や受け入れ企業の開拓等を推進していきます。

 在籍型出向は、働く方々の雇用をしっかりと支えつつ、人材の有効な活用を通じて生産性の維持・向上に資するものであり、この活用を促していくことの政策的重要性は極めて高いものと考えています。在籍型出向がより進むよう、しっかりと取り組んでまいります。






労使団体からも期待の声があがっています!

在籍型出向は、国と産業雇用安定センターだけでなく労使団体などの関係機関も一体となって支援を進めています。事業者や労働者の声を吸い上げる労使団体に、在籍型出向に寄せる期待についてお聞きしました。


◎企業の枠を超えて労働者の雇用を守る


日本労働組合総連合会
仁平 章さん(総合政策推進局 総合局長)


 新型コロナウイルス感染症が流行してからのこの1年、連合への労働者の相談は、解雇や雇止めなど雇用に関するものが圧倒的に増えました。

 コロナ以前にも出向はありました。しかし、これまでの出向は出向元の企業しか助成金などの支援を受けられない仕組みだったこともあり、多くの企業が実施しているわけではありませんでした。

 今回新たに出向元・出向先の両方が助成を受けられる産業雇用安定助成金ができ、在籍型出向を受け入れる企業側のハードルが下がったのは、とてもありがたいことです。

 労働者の生活基盤は地域のなかにあります。この1年、労働環境は日々変化しています。コロナ禍の今、出向で住み慣れた地を離れることが極力ないよう配慮しつつ、国や自治体、団体や企業が連携して、企業の枠を超えて労働者の「雇用=生活」を守っていかなければなりません。在籍型出向は、その大きな支えになると期待しています。



◎好事例の横展開やノウハウの提供など中小企業の支援を


日本商工会議所
杉崎友則さん(産業政策第二部 担当部長)


 コロナ禍の厳しい経済情勢が続いているなかで、企業にとっては「雇用の維持」と「事業の存続」が最優先課題となっています。在籍型出向を進めることは、従業員の雇用を維持することはもとより、コロナ禍で多忙となった一部企業においてはマンパワーの強化にもつながります。また、在籍型出向による他分野や他業種での業務経験が、いずれ本業に活きてくることも期待できます。

 当所が実施した調査では、「他社社員の出向での受入れを検討したい(検討している)」と回答した企業の割合は9.7%と一定数ありました。一方で、実際に在籍型出向を経験した企業は少ないのが実態です。こうした現状を踏まえ、行政、労使団体に加え金融機関や産業雇用安定センター等が参画している地域在籍型出向等支援協議会が中心となって、好事例の横展開やノウハウの提供、人材を受け入れたい企業と人材を送り出したい企業とのマッチングイベントの開催など、各地域で具体的な取り組みが行われていくことを期待しています。







 

出  典 : 広報誌『厚生労働』2021年6月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省