がん対策、その最前線を知る


日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなっています。がんとともに暮らしていくためには、予防と早期発見が大切です。本特集では、検診の重要性や予防方法、国の対策などについてお伝えします。





<Part3 国の対策>

予防・医療・研究の総合的な推進
国のがん対策

人口の高齢化の進展に伴い、がんの罹患者や死亡者が今後も増加することが見込まれています。国は、罹患率・死亡率の減少をめざして、予防・医療・研究・患者支援等の総合的ながん対策の推進に取り組んでいます。



健康局がん・疾病対策課がん対策推進官
岩佐景一郎

 

1 がん対策推進基本計画
患者を含めた国民みんなでがんを知り、がんの克服をめざす

 2006年に成立した「がん対策基本法」に基づき、その翌年に「がんによる死亡者の減少」と「すべてのがん患者とその家族の苦痛の軽減と療養生活の質の維持向上」を目標とした「がん対策推進基本計画」を策定しました。これは、都道府県のがん対策推進計画の基本となります。

 2018年には、第3期がん対策推進基本計画を策定しています。ここでは、「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんの克服をめざす」として、①科学的根拠に基づくがん予防・がん検診の充実、②患者本位のがん医療の実現、③尊厳を持って安心して暮らせる社会の構築、を全体の目標として掲げています。



2 がん診療連携拠点病院等
がん医療の充実を支える拠点病院とゲノム医療

 罹患数の多い大腸・胃・肺・乳房・前立腺・肝臓等のがんを中心に、全国に専門的ながん医療の提供等を行う「がん診療連携拠点病院」(405カ所)や、拠点病院のない二次医療圏における「地域がん診療病院」(46カ所)を指定して、がん患者の病態に応じた適切な治療・ケアを進めています。

 近年は、がんゲノム医療への期待も高まっています。これは、がんの組織を用いて多数の遺伝子を同時に調べ、遺伝子変異(※)を明らかにすることで、一人ひとりの体質や病状に合った治療等を行う医療です。全国でがんゲノム医療中核拠点病院等が指定されており、全国どこでもがんゲノム医療が受けられるように体制を整備しています。

(※)遺伝子の塩基配列には、変異が起こることがある。変異とは、塩基配列のどこかの塩基が本来とは違うものになったり、欠けたりすること

がん診療連携拠点病院等



 

3 緩和ケア
がんとの共生へ向け質の向上と提供体制の整備を図る

 第3期がん対策推進基本計画の施策の一つである「がんとの共生」のなかに位置づけられている緩和ケア。これは、本来終末期のみならず診断時から治療の途中にも提供されるもので、痛み等の症状、心理(精神)的・社会的問題を含む苦痛のケアを行うものです。

 緩和ケアの質向上のため、すべての医療従事者を対象に、eラーニングと集合研修で構成された緩和ケア研修会の開催や、その指導者の育成、緩和ケアに関する正しい知識やその必要性等の普及啓発に取り組んでいます。

 また、がん診療連携拠点病院等に「緩和ケアセンター」を設置し、外来や入院、在宅などでも緩和ケアが行えるように体制整備も進めています。



4 がん登録
がん対策の基礎となるデータを登録システムで把握

 がん対策を推進するためには、患者数や罹患率、生存率、治療効果等、正確ながんの基礎データの把握が必要です。その中心的な役割を果たすのが「全国がん登録」制度です。

 すべての病院と手上げをした診療所が都道府県にがんと診断された患者の情報を届け出て、その情報が国(国立がん研究センター)に提出されます。死亡情報は市町村からも提出され、これらを合わせて「全国がん登録データベース」に集約します。こうした情報に基づき、がん対策を科学的に実施することで、がん医療の質の向上や患者・家族への支援強化が図られています。登録された情報は適切に保護・管理されています。



5 両立支援
仕事と治療の両立へ向け企業・医療機関等の連携強化

 がん患者の約3人に1人は20~60代で罹患しており、仕事をしながら治療のために通院をしている人は44・8万人(2019年)います。3年前の調査(2016年)から8万人増加するなど、治療と仕事の両立支援の必要性が高まっています。両立支援には、当事者を中心に、企業・医療機関・支援機関が、病気の診断から治療・療養、復職後まで連携していくことが大切です。

 両立支援を行うための環境整備や具体的な進め方については「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」などで示しています。

ガイドライン



6 相談支援
患者や家族、地域住民のあらゆる不安や疑問に対応

 全国のがん診療連携拠点病院等には、相談窓口として「がん相談支援センター」が設置されています。ここには、「相談支援センター相談員研修・基礎研修」を修了した専従および専任の支援員を1名ずつ配置。院内をはじめ地域の医療従事者の協力を得て、がん患者や家族、住民等からの相談に対応しています。

 具体的には、がんの治療や予防・検診等に関する一般的な情報の提供、セカンドオピニオンが可能な医師・医療機関の紹介、療養生活や就労に関する相談等が主な業務です。また、主に15~30代までを指すAYA世代のがん患者に対する治療・療養や就学・就労支援、生殖医療等に関する相談にも応じています。



7 妊孕性温存療法研究
若いがん患者の妊娠・出産の可能性をつなぐ

 今年4月からがん等の患者に対する妊孕性(妊娠するために必要な能力)温存療法の研究を促進しつつ、その経済的支援を図る事業がスタートしました。

 妊娠するためには卵子と精子が必要です。若年者のがんの治療では、抗がん剤や放射線治療により、妊娠と関係のない臓器にがんができた場合でも卵巣や精巣等の生殖機能に影響を及ぼしてしまい、妊孕性が弱まったり、失われたりすることがあります。これは、妊娠・出産を希望する患者にとって大きな問題です。

 妊孕性温存療法は、胚(受精卵)、未受精卵子、卵巣組織、精子を採取し長期的に凍結保存するものですが、高額な自費診療のため、若年のがん患者にとっては経済的負担となってしまいます。一方で、妊娠に至る有効性などが十分にわかっていない点もあることから、国は治療費の助成を行いつつ研究を促進する事業を行うことにしたのです。

 費用負担の軽減を図ることで、若いがん患者が希望を持って病気と闘い、将来子どもを持つことの可能性をつなぐ取り組みとして、この事業を促進していきます。

 


 

 
出  典 : 広報誌『厚生労働』2021年6月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省