"女性の健康週間に考えたい"ワタシのカラダを愛しむということ

<解 説>
HPVワクチン正しい知識で判断を

 子宮頸がんの発生にはヒトパピローマウイルス(以下、HPV)がかかわっています。その予防法としては、HPVワクチン接種によるHPVの感染予防が挙げられます。ただ、副反応を心配する声があるのも事実です。そこで厚生労働省の正林督章健康局長に、HPVワクチンの有用性や安全性、副反応などについてお聞きしました。



しょうばやし・とくあき●1991年、旧厚生省に医系技官として入省。健康課長時代には健康増進法の法案策定に取り組む。2009年の新型インフルエンザ感染症の対策を担い、新型コロナウイルス感染症の対応については、昨年2月、横浜港に停泊していたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での対応を行った。8月に健康局長に就任し、引き続き新型コロナウイルス感染症対策において中心的な役割を果たしている。


●HPVワクチンの有効性

――子宮頸がんの予防にはHPVワクチンの接種が有効と聞きます。どんな効果が期待できるのですか。

 HPVワクチンは、子宮頸がん全体の50~70%の原因とされる2種類のHPV(16型と18型)への持続感染等の予防効果を持つワクチンです。つまり、HPVワクチンを接種すれば子宮頸がんの原因の50~70%を防ぐことができるというわけです。

 また、HPVワクチン接種の有効性としては感染防止のほか、正常な細胞からがんになる手前の「前がん病変」の予防、さらに子宮頸がんの罹患率を低下させるという研究成果も報告されています。


――HPVワクチンは何度打たないといけないのですか。
 わが国では現在、サーバリックスⓇとガーダシルⓇという2種類のワクチンが販売されており、いずれも間隔をあけて同じワクチンを3回接種します。サーバリックスⓇは1回目の1カ月後に2回目、6カ月後に3回目を、ガーダシルⓇは1回目の2カ月後に2回目、6カ月後に3回目の接種を行います。


●HPVワクチンの副反応

――HPVワクチンには副反応があると聞きます。どのような症状がでるのですか。

 副反応はHPVに限ったものではありません。ワクチンとは病原性を除去したり、弱めたりしたウイルスや細菌などを体内に入れて、病気に対する免疫をつけたり、免疫を強くしたりするものです。体内に異物を注射するため、ワクチンを接種すると、ほとんどの方に副反応が起こります。つまり、ワクチン接種における副反応は避けて通れないものなのです。

 HPVワクチンの場合、疼痛をはじめ関節痛や掻痒、発熱、頭痛、注射部位の知覚異常、感覚鈍麻、四肢痛、疲労、倦怠感などが副反応の疑いとして報告されています(図表)。「疑い」というのはワクチンと症状の因果関係がはっきりとしていないからです。

 HPVワクチンに関しては接種後に広い範囲に広がる痛みや、手足の動かしにくさ、不随意運動などを中心に多様な症状が起きたとの報告もあります。マスコミ等で大々的に報道されたため、覚えている人も多いと思いますが、専門家からは「HPVワクチン接種後の局所の疼痛や不安等が機能性身体症状を惹起したきっかけとなったことは否定できないが、接種後1カ月以上経過してから発症している症例は、接種との因果関係を疑う根拠に乏しい」と評価されています。

 このような「多様な症状」の報告を受け、さまざまな調査研究が行われていますが、「ワクチン接種との因果関係がある」という証明はされていません。


――予防接種後に体調が悪くなり医療機関を受診した場合、何か補償はありますか。

 ワクチン接種によって医療機関での治療が必要になったり、生活に支障がでるような障害が残るなどの健康被害が生じた場合、予防接種法に基づいた救済(医療費・障害年金等の給付)が受けられます。詳しくは診察した医師や保健所、市区町村の予防接種担当課へご相談ください。




●ワクチン接種の判断基準

――HPVワクチンを接種するか否か。どのように検討すればよいですか。

 HPVの感染予防とがん化の防止というワクチンの有用性と、HPVワクチン接種に伴う副反応、いずれを重視するかになると思います。ただ、最適解を導き出すためには、「子宮頸がんの重篤性」「ワクチンの有用性と安全性」「副反応」の3つを正しく認識しておく必要があります。

 子宮頸がんとは女性の子宮けい部にできるがんで、▽その発生にはHPVがかかわっていること、▽1万人あたり132人が罹患すること、▽1万人当たり30人が亡くなること、▽HPVは性行為で感染すること、▽副反応というリスクがあること――など、十分な情報をもとに検討することが大切です。

 子宮頸がんとHPVワクチンの有効性・安全性等についての理解を助けるため、昨年10月、子宮頸がんに関するリーフレットを作成し、都道府県を通じてHPVワクチン接種対象者(小学校6年~高校1年相当)に周知してもらうように通達を出しています。対象者と保護者の方々にはこのリーフレットを使って理解を深めたうえで、検討・判断いただければと思います。


――最後に読者にメッセージをいただけますか。

 医学の進歩によってさまざまな感染症を克服してきましたが、その要因の1つにはワクチン接種があります。イメージするのが難しいかもしれませんが、ワクチンを打っていたから感染症に罹患せずに済んでいたのです。

 しかし副反応が起きると、ベネフィットではなくリスクばかりがクローズアップされるため、「危険なものではないか」となってしまいがちです。

 私たちとしては可能な限り判断材料となるベネフィットとリスクに関する情報を提供しておりますので、それらの情報をもとに「打つ」「打たない」を判断していただければと思います。


<ワクチンのリスクについて>
 HPVワクチンを受けた場合、接種部分の痛みや腫れ、赤みなどの副反応が起こることがあります。また、まれに広範囲の痛み、手足の動かしにくさ、不随意運動※など重い症状が起こることもあります。

※動かそうと思っていないのに体の一部が勝手に動いてしまうこと





 
出  典 : 広報誌『厚生労働』2021年3月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省