実践Report

厚生労働省の職員たちが自身の担当する分野の実践の場にお邪魔し、
そこで学び、感じたことなどを紹介します。
※2020年12月時点の取材によるもの



FILE3:労働基準局総務課

「働き方改革推進支援センター」の活用で好循環を生み出す



労働基準局総務課総務第二係
日根悠介



働き方改革の取り組みを支援

 2019年4月から働き方改革関連法が順次施行されています。

 厚生労働省では、2018年度から全国47都道府県に「働き方改革推進支援センター」を設置し、中小企業・小規模事業者への支援として、就業規則の作成方法や賃金規定の見直し、労働関係助成金の活用など、働き方改革に関連した労務管理上の課題について、社会保険労務士などの専門家が無料で相談に応じています。また、専門家が直接企業を訪問し、その場で疑問点をお聞きしたうえで、複数回の支援(訪問支援)を実施しています。

 今回は、働き方改革推進支援センターの専門家による訪問支援を受けた、兵庫県姫路市にある株式会社丸五商会にお邪魔し、お話を伺いました。


企業が抱える課題に応じて
専門家が真摯に助言


 株式会社丸五商会は創業60年、業務用厨房・調理機材の販売・卸売りなどを営む従業員20名の企業です。営業先の都合に時間を合わせてしまう、日中に消化しきれない業務があるなどの理由により、労働時間が長くなる傾向にあったため、瀬尾直弥代表取締役は長年、「仕事を効率化することで長時間労働を減らせないか」と悩んでいました。そのようななか、兵庫県信用金庫協会などが実施している支援事業を通じて、働き方改革推進支援センターの存在を知り、訪問支援を申し込んだとのことです。

 依頼を受けた兵庫働き方改革推進支援センターの専門家である加藤幸弘社会保険労務士は、実情を確認したうえで、「営業職の労働時間管理を改善して、業務の効率化を図るところから始めたらどうか」と助言を行いました。

 そこで営業担当の従業員の行動予定情報を共有し勤務実態を「見える化」できるよう、各従業員が帰社予定時刻をあらかじめ自己申告することと、納品時の積み忘れ防止に向けた改善策をとるようにしたところ、仕事の進め方と時間管理を意識するようになり、時間外労働の減少につながりました。

 最近では、営業日報をもとに効率の良い配送ルートについて従業員同士で改善を行う、注文から配送までの事務作業の一体化に向けた取り組みも実施しているとのことです。

 専門家の支援を受けた瀬尾代表取締役からは、「多いときで一人あたり毎月20時間程度の時間外労働の削減ができました。従業員からは、早く帰れるので子どもと一緒にお風呂に入れるようになったと聞いています」とお聞きすることができました。


魅力ある職場づくりに向けて

 働き方改革は、長時間労働をなくし、働きたい人が働ける環境づくりや労働生産性の向上につながるものです。

 専門家の加藤社労士は、働き方改革の支援を行うにあたり、「企業が一番気にしていることは、どうすれば法令に準じた労務管理が行えるかということです。そのためには課題を洗い出し、明確化させたうえで、適切な支援策を活用していただくことが必要です。支援策は多数ありますので、事例を踏まえて紹介させていただきます」と話してくれました。

 今回取材をさせていただき、働き方改革に対する取り組みは、企業の意識次第で変わることを実感しました。企業にとっては、どうすれば法令に準じた労務管理が行えるか、ということが当然重要だと思います。その問題意識から、自社の課題を考え、疑問点は専門家に意見・支援を求め、解決していく。このような姿勢が、今回取材させていただいた瀬尾代表取締役から感じ取れました。

 その結果、長時間労働の削減、労働生産性の向上、職場の雰囲気の向上、働き方改革に対するさらなる取り組みへ、という好循環を生み出せたのだと思います。

 働き方改革関連法が順次施行されているなかで、何をどうすればいいのかわからないという企業の方はまだまだ数多いと思いますが、働き方改革推進支援センターでは、そのような方々に対する支援を無料で実施しています。

 ぜひ、ご活用ください。








FILE4:老健局認知症施策・地域介護推進課

奈良県生駒市における高齢者の健康づくり・生活支援拠点の整備
~住民、事業者、市の協働による複合型のコミュニティづくり~



老健局認知症施策・地域介護推進課地域づくり推進室室長補佐
田中明美



健康づくりと買い物支援、住民交流の拠点の整備

 高齢化の進行とともに、高齢者の生活ニーズも増加・多様化しています。こうしたなかで、住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けるためには、本人の力や住民相互の力も引き出しながら、介護予防や生活支援に取り組んでいくことが大切です。

 今回、高齢者の健康づくり体操やサロン活動の拠点のほか、高齢者も含めて住民同士が交流できる環境の整備を進めている奈良県生駒市にお邪魔しました。

 生駒市は奈良県の北西部に位置し、人口約12万人、高齢化率28.2%、要介護認定率14.2%(昨年4月現在)の都市です。高齢化が進んでいるなかで、これまでも積極的に介護予防・生活支援の取り組みを展開してきました。

 昨年12月からは、住民、事業者、市が協働して、集会所や公園など高齢者が日常的に歩いて行ける場所に、健康づくりや買い物支援、住民同士の交流ができる場(複合型コミュニティ)の整備を本格的に進めています。

 複合型コミュニティは、高齢者に限らず、農家やスーパーなどの関係者も集まるため、高齢者が身近に買い物ができることに加えて、地域の活性化にもつながっています。さらに、農家で余った食材を活用した子ども食堂や、衣服を持ち寄って開催するリユース市などを通じて、住民が世代を超えて相互に交流する場にもなっています。


自治会における取り組み事例

 今回取材した萩の台住宅地自治会では、自治会館を複合型コミュニティとして、高齢者の健康づくり体操や生活支援のほか、環境省の資源循環のモデル事業に参加した経験から小型家電や廃油の回収などにも取り組んでいます。

 また、住民から寄贈された図書を自由に借りられる「まちかど図書」もあり、子どもから高齢者まで皆が楽しめる本が並んでいます。本棚も住民が自発的に作製されたとの話を伺いました。このほか、地域のいろいろな情報を掲載できる「こみすてノート」も置いてあり、心温まるエピソードも紹介されていました。

 萩の台住宅地自治会では、誰もが孤立・孤独とならないよう、多世代かつ多様な交流を生み出しつつ、皆が顔の見える関係性を持った地域をめざしています。

 取材当日も、自治会館には子どもから高齢者まで多くの方が訪れるなど、いつでも立ち寄れる多世代の「居場所」として、地域の拠点となっていると感じました。

 山下自治会長は、「多世代交流の一つとしてインターネット環境も整備したので、スマホの活用方法を若い方が高齢者に伝える企画も進めていきたい。また、自治会が保有している車を有効活用して、移動支援にも取り組んでいきたい」と、さらなる抱負を語ってくれました。

 生駒市では、6カ所でスタートした複合型コミュニティについて、今後、市内の集会所等を拠点に計100カ所整備していく予定です。


みんなで取り組む地域づくり~「まち活サミット」の開催~

 生駒市では、地域の取り組みを展開していくため、市長をトップとした部課横断的な組織として「生駒市複合型コミュニティづくり推進会議」を設置しています。

 また、地域づくりの先進事例や手法を住民が学びつつ、自分なりの事業プランを考えていくワークショップ「まち活サミット」を開催しています。ワークショップでは、地域の課題を明らかにしていくとともに、地域の強みや具体的な協働先を検討していくなど、実現性が高くなるような取り組みが行われています。

 生駒市をはじめ、多くの自治体が試行錯誤しながら地域づくりに取り組んでいます。市町村によって地域の実情もさまざまであり、取り組み内容にも大きな差があると感じています。

 地域づくりは住民こそが主役ですが、行政も住民と一緒になって知恵を出し合い、地域の取り組みを後押ししていく重要な役割を担っていると感じました。

  






 
出  典 : 広報誌『厚生労働』2021年2月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省