未来(あした)のつぼみ

大きな制度改正でなくとも、日々の地道な積み重ねが厚労行政の可能性を広げています。
ここでは、厚生労働省の若手職員たちの取り組みや気づきをご紹介します。




個々のニーズに寄り添える生活困窮者自立支援制度へ

 地域や企業のあり方が変容するなか、多くの人に当てはまる困難だけでは説明できない課題を抱える方が多く存在することがわかってきたことなどから、一人ひとりの課題に対応する、相談支援を基軸とした生活困窮者自立支援制度が2015年に立ち上げられました。私自身、入省前から「生活保護は受給していないが、ひとり親家庭であり資金繰りが厳しい」「障害者手帳は有していないが、就労面で困難を感じている」など、既存の制度に当てはまらない困りごとを持つ方にアプローチができる当制度に大きな魅力を感じてきました。一方で、相談窓口に来られる方の困りごとは多種多様であり、一つひとつのニーズにきめ細やかに応えていくうえで、支援ツールを整備しきれていない部分も存在するのではないかとの課題感を抱いていました。

 そのなかで今回、私がかかわらせていただいたのが、「携帯電話事業者リスト」の作成です。

 現代社会で生活するうえで、携帯電話はほぼ必需品となっています。事実、生活困窮者支援の現場からは、携帯電話を保有していないことにより、採用面接を受けられないなど就労につながらないケースがあるとの声が届いていました。そこで、地域福祉課では、過去の債務状況やクレジットカードの保有の可否などによらず携帯電話サービスを利用できる事業者をリスト化し、就労などの相談支援を行う窓口へ配布することとなりました。

 その後、事業者や関係団体にご相談をし、昨冬リスト配布を行いましたが、本当にリストは必要とされているのか? と不安も抱いていました。そのようななか、配布後ほどなくしてリストに掲載した事業者から「自治体の方から多くのお問い合わせを受けている」とのお話が。加えて、自治体から「他の相談支援の窓口にも配布してほしい」との声もいただき、今回の取り組みが困りごとを抱える方に届いていることを実感できました。

 大きな制度を一から築くことも厚生労働省における仕事の醍醐味かもしれませんが、多くの制度が構築されているなかでは、既存の制度をどうより利用しやすくしていくかを考えることが大切になってくるように思います。「リストの作成」と言うと一見地味な取り組みにも見えますが、生活困窮者自立支援制度がより一人ひとりの困りごとに寄り添える一歩になったのではないかと思います。当該リスト作成のチャンスをいただいたことに感謝しつつ、今後もよりいっそう利用しやすいリストの更新をしていきたいと思います。







 
出  典 : 広報誌『厚生労働』2021年2月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省